(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記保持段階は、前記テーパ部における前記直胴部と反対側において前記ガラス母材の端部にダミー棒を溶着する段階と、前記一対のチャックの少なくとも一方が前記ダミー棒を介して前記ガラス母材を保持する段階とを含み、
前記ダミー棒は、前記延伸段階における延伸後の目標外径と同じかより小さな外径を有し、
前記テーパ部における前記ガラス母材の外径は、前記直胴部から前記ダミー棒に向かって連続的に変化する
請求項1に記載のガラス母材の延伸方法。
前記延伸段階は、前記加熱源を前記ガラス母材の長手方向に相対移動させて、前記ガラス母材を全長にわたって延伸する段階を含む請求項1から5までのいずれか一項に記載のガラス母材の延伸方法。
前記加熱段階は、前記一対のチャックに保持された前記ガラス母材を、前記ガラス母材の長手方向に延在する回転軸の回りに回転させながら加熱する段階を含む請求項1から6までのいずれか一項に記載のガラス母材の延伸方法。
前記加熱段階に先立って、前記ガラス母材の長手方向に沿った前記ガラス母材の外径分布を測定する測定段階を更に備える請求項1から8までのいずれか一項に記載のガラス母材の延伸方法。
前記加熱源による加熱量、前記ガラス母材および前記加熱源の相対移動速度、および、前記一対のチャックの少なくとも一方の移動速度を含む前記ガラス母材の延伸条件を、前記測定段階において取得した前記ガラス母材の前記外径分布に基づいて、前記延伸段階に先立って設定する請求項9に記載のガラス母材の延伸方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0008】
図1は、ガラス旋盤100の概略図である。ガラス旋盤100は、ガラス母材210を延伸する場合に延伸装置として使用できる。ガラス旋盤100は、ガラス母材210およびダミー棒222、224を含むガラス母材組立体200を保持した状態で示される。
【0009】
ガラス旋盤100は、定盤110と、一対のチャック122、124および移動台130を備える。定盤110は、水平に固定された平坦な天面112を有する。
【0010】
一対のチャック122、124は、定盤110の天面112上に配され、天面112と平行なガラス母材組立体200の両端を保持する。また、一対のチャック122、124の各々は、回転駆動部126、128により駆動されて、保持したガラス母材組立体200を、ガラス母材210の長手方向に延在する回転軸の回りに回転させることができる。
【0011】
また、一対のチャック122、124の少なくとも一方は、保持したガラス母材組立体200の長手方向に移動する。これにより、一対のチャック122、124相互の間隔を変化させることができる。
【0012】
移動台130は、定盤110の天面112上に配され、加熱源140および外径測定器150を搭載する。また、移動台130は、天面112上において、搭載した加熱源140および外径測定器150と一体的に、一対のチャック122、124が保持したガラス母材組立体200の長手方向に移動する。
【0013】
加熱源140としては、例えば、酸水素火炎バーナを使用でき、一対のチャック122、124が保持したガラス母材組立体200を周面から加熱する。外径測定器150としては、レーザ外径測定器を使用できる。
【0014】
上記のようなガラス旋盤において、チャック122、124にガラス母材210を保持させた状態で、加熱源140によりガラス母材210を加熱することにより、ガラス母材210の長手方向の一部を加熱して溶融軟化させることができる。ここで、回転駆動部126、128によりガラス母材210を回転させながら加熱することにより、ガラス母材210の長手方向の一部を、周方向について均一に加熱できる。
【0015】
また、ガラス母材210の一部が溶融軟化した状態で、少なくとも一方のチャック122を図中の矢印Aの方向に移動させて一対のチャック122、124の間隔を拡げることにより、ガラス母材210を延伸させることができる。また、ガラス母材210において延伸された部分は、縮径されて外径が減少する。
【0016】
更に、加熱源140による加熱とチャック122、124による延伸を継続しつつ、移動台130により加熱源140をガラス母材210の長手方向に、図中に矢印Bで示す方向に移動させる。これにより、ガラス母材210を略全長にわたって延伸できる。このように、ガラス母材210の一端側に位置する延伸開始位置から延伸を開始して、ガラス母材210の他端側に位置する延伸終了位置まで継続することにより、ガラス母材210の略全長を延伸できる。
【0017】
なお、延伸するガラス母材210は、例えば、外付け気相成長法(OVD法)により製造できる。OVD法においては、酸水素火炎バーナに酸素ガスおよび水素ガスと共にガラス原料としての四塩化ケイ素等を供給して、酸水素火炎を発生させる。酸水素火炎中で加水分解反応により生成されたガラス微粒子を、コア母材の表面に堆積させる。これにより、コア母材の表面に、多孔質ガラス層が形成される。
【0018】
更に、多孔質ガラス層を脱水、焼結することにより透明ガラス化して透明なガラス母材210が形成される。こうして得られたガラス母材210の少なくとも一部が、長手方向について外径が略一定な直胴部212を形成する。ガラス母材210は、光ファイバに線引きする線引き工程で使用する設備に応じて、外径および長さを調整される。なお、ガラス母材210の製造は、OVD法に限られるわけではなく、気相軸付け法(VAD法)、内付け化学気相成長法(MCVD法)等の他の製造方法でもよい。
【0019】
ガラス母材210は、長手方向の両端または一端に、溶着等によりダミー棒222、224を溶着してガラス母材組立体200を形成した状態でガラス旋盤100に保持させてもよい。ダミー棒222、224を含むガラス母材組立体200は、ダミー棒222、224の端部をチャック122、124に把持させることにより、ガラス旋盤100において保持される。
【0020】
これにより、ガラス母材210が、チャック122、124等により傷つけられることを未然に防止できる。換言すれば、ガラス母材210の端部に既に泡・傷等の欠陥が生じている場合は、ダミー棒222、224を用いることなく、ガラス母材210をチャック122、124に直接に把持させてもよい。
【0021】
ガラス母材210の一方の端にダミー棒222を溶着する場合、当該一方の端は、例えば、ガラス母材210を延伸する場合に、延伸を開始する側の端部であってよい。この場合、ガラス母材210の両端にダミー棒222、224を配する場合に追加されるダミー棒224は、ガラス母材210の延伸終了側の一端に配される。
【0022】
更に、ガラス母材210は、少なくとも延伸を開始する側の端部に隣接して、ガラス母材210の長手方向について、ガラス母材210の端部に近づくほど外径が漸減するテーパ部214を設けてもよい。テーパ部214は、例えば、ガラス母材210を研削加工することにより形成できる。これにより、ガラス母材210は、長手方向について外径が略一定な直胴部212と、外径が連続的に変化するテーパ部214とを有するものとなる。
【0023】
なお、ガラス母材210にテーパ部214を設けた場合、テーパ部214が配されたガラス母材210の端部に溶着するダミー棒222の外径は、テーパ部214の端部の外径と等しくてもよい。これにより、ダミー棒222を含むガラス母材組立体200においては、直胴部212、テーパ部214およびダミー棒222を通じて、外径が連続的に変化する。また、ダミー棒222、224は、ガラス母材210の組成と同じか類似した組成を有する材料で形成できる。
【0024】
上記のようにガラス母材組立体200としたガラス母材210を延伸加工する場合は、まず、ダミー棒222、224を介してチャック122、124により把持させることにより、ガラス母材210をガラス旋盤100に保持させる。次に、外径測定器150を用いて、ガラス母材210の延伸前の外径を測定する。
【0025】
図2は、ガラス旋盤100における外径測定器150の概略図である。外径測定器150は、ガラス母材210の長手方向について、加熱源140の直近に配され、ガラス母材組立体200の外径を測定する。
【0026】
外径測定器150は、移動台130が移動する場合に、加熱源140と共に移動する。よって、移動台130の移動方向について、加熱源140よりも前に外径測定器150が配置された場合、外径測定器150は、延伸直前のガラス母材組立体200の外径を測定する。また、移動台130の移動方向について、加熱源140よりも後に外径測定器150が配置された場合、外径測定器150は、延伸直後のガラス母材組立体200の外径を測定する。
【0027】
ガラス旋盤100を用いてガラス母材210を延伸する場合、延伸するガラス母材210を測定して得られた延伸前の外径の値と、目標となる延伸後の外径である目標外径の値とに基づいて、加熱源140による加熱量の他に、加熱源140(移動台130)の移動速度V
b[mm/分]と、チャック122、124の移動によるガラス母材210の引取り速度Vt(z)[mm/分]とを含む延伸条件が設定される。
【0028】
なお、ガラス母材210の加熱および延伸と、外径の測定および延伸条件の算出とを同時に実行することもできる。しかしながら、外径測定器150がガラス母材210の外径を測定する位置と、加熱溶融されたガラス母材210が延伸される位置とのずれが、外径制御の精度に影響する場合がある。
【0029】
そこで、ガラス母材210を加熱および延伸する前に、加熱源140を点火することなく、外径測定器150を用いて、ガラス母材210の外径を、ガラス母材210の長手方向全長にわたって予め測定する。これにより、延伸するガラス母材210の長手方向に関する外径分布を予め取得し、取得した外径分布に基づいて、延伸するガラス母材210の平均外径を算出して延伸条件を精度よく設定できる。
【0030】
延伸前に外径D
1[mm]を有するガラス母材210を、目標外径D
2[mm]まで延伸する場合、加熱源140の移動速度V
b[mm/分]と、引取り速度Vt(z)[mm/分]とは、下記の式1により算出できる。ここで、変数zは、ガラス母材210における長手方向の位置z[mm]を意味し、D
2(z)は、位置zにおけるガラス母材210の外径を意味する。
【数1】
【0031】
上記のようにして加熱条件を設定したガラス母材210を延伸する場合は、まず、加熱源140およびガラス母材210の相対移動を停止させた状態で、加熱源140によりガラス母材210を加熱する。次いで、ガラス母材210の加熱された部分が溶融軟化する温度に達した後に、予め算出した速度V
b[mm/分]で加熱源140を移動させる。
【0032】
また、ガラス母材210の溶融軟化した部分の長手方向位置z[mm]に対応する引取り速度V
t(z)[mm/分]でチャック122、124の間隔を拡げることによりガラス母材210を延伸する。こうしたガラス母材210の延伸加工は、溶融軟化して延伸される箇所が延伸終了位置に到達するまで継続される。
【0033】
図3は、ガラス母材210を延伸加工する場合に、加熱源140がガラス母材210を加熱する加熱位置142の概念を示す概略図である。加熱源140は、例えば酸水素火炎によりガラス母材210を加熱するので、ガラス母材210においては、長手方向について有限の幅を有する加熱領域230が加熱する。そこで、ガラス母材210の長手方向について、加熱源140による加熱領域230の中心を、加熱源140の加熱位置142とする。
【0034】
ガラス母材210を延伸する場合は、加熱位置142においてガラス母材210が溶融軟化した状態でチャック122、124の少なくとも一方を移動させる。これにより、ガラス母材210において溶融軟化した部分が延伸される。
【0035】
なお、ガラス母材210において延伸加工を開始する場合は、延伸を開始する延伸開始位置に対応する加熱位置142よりも、ガラス母材210に対する加熱源140の移動方向について手前側の加熱位置142からガラス母材210を加熱する予熱段階を設けてもよい。これにより、延伸開始位置におけるガラス母材210の加熱条件が、延伸加工を継続中のガラス母材210の加熱条件と同じになり、延伸後のガラス母材210の外径を、延伸開始位置において安定化させることができる。
【0036】
予熱段階における加熱開始位置は、延伸開始の時点における加熱位置142から、延伸前のガラス母材210の平均外径の50%と同じか、それよりも離れた範囲としてもよい。予熱段階の加熱開始位置が上記範囲よりも延伸開始位置に近くなると、加熱されていない領域から延伸開始位置までに充分な移動距離が得られない。このため、加熱によりガラス母材210に形成される熱勾配が急峻になり、ガラス母材210が溶融軟化した部分に局所的な高温部が発生する。よって、ガラス母材210において溶融軟化した部分が集中的に延伸および縮径され、ガラス母材210の外径の安定性が低下する。
【0037】
予熱段階における加熱開始位置は、上記の範囲よりも遠い分には、延伸開始直後の外径の安定性という観点からは制限がない。しかしながら、予熱の開始位置が延伸開始位置から離れすぎていると、予熱段階における加熱源140の移動距離が長くなり、予熱に要する時間が増加する。また、予熱に費やされる燃料の消費量も増加する。
【0038】
よって、予熱段階における加熱源140による加熱開始位置は、延伸開始の時点における加熱位置から、延伸前のガラス母材210の平均外径の300%以下とすることが好ましい。更に、上記の延伸前のガラス母材210の平均外径の50%以上という条件と、300%以下という条件の双方に対してマージンをとり、100%に等しいかより大きく、200%に等しいかより小さくすることがより好ましい。
【0039】
上記の予熱段階に続いて、移動台130は、加熱源140を移動させる。これにより、加熱源140によるガラス母材210の加熱位置142は、延伸が開始される時点でガラス母材210が溶融軟化された部分に向かって移動する。なお、延伸中のガラス母材210に形成される溶融軟化された部分は、ガラス母材210の長手方向について、母材外径に近い幅としてもよい。
【0040】
図4は、ガラス母材210における溶融軟化部216を示す概略図である。図示のように、加熱源140により加熱されたガラス母材210においては、加熱位置142を中心として、ガラス母材210の長手方向両側に拡がる加熱領域230が加熱される。加熱領域230の温度が上昇すると、ガラス母材210には、ガラス母材210の長手方向に幅を有する溶融軟化部216が形成される。
【0041】
加熱領域230がガラス母材210の長手方向に幅を有するので、加熱位置142がガラス母材210のテーパ部214に位置する場合は、溶融軟化部216にも、加熱位置142よりもガラス母材210の外径が小さい部分と、加熱位置142よりもガラス母材210の外径が大きい部分とが含まれる。このため、溶融軟化部216内においても、延伸後のガラス母材210において、加熱位置142の前後で延伸後の外径に相違が生じる。
【0042】
ここで、一例として、延伸前の平均外径が100mmのガラス母材210を、目標外径を60mmとして延伸する場合について考察する。ガラス母材210のテーパ部214において外径が70mmとなる位置を、加熱源140による加熱位置142として、ガラス母材210を加熱する。次いで、ガラス母材210における溶融軟化部216が軟化した状態で、ガラス旋盤100のチャック122、124を移動させることにより間隔を拡げて、ガラス母材210を延伸する。
【0043】
ここで、チャック122、124の移動速度(引き取り速度)を、外径70mmのガラス母材を目標外径の60mmまで延伸させる条件で算出する。しかしながら、ガラス母材210の外径は、テーパ部214においては、ガラス母材210の長手方向について連続的に変化する。このため、溶融軟化部216においては、外径が70mmよりも大きい部分も、70mmよりも小さい部分も、併せて、外径が70mmの場合の条件で延伸される。このため、加熱位置を固定して考えた場合には、ひとつの溶融軟化部216内に、延伸条件が異なる部分が含まれることになる。
【0044】
図5は、延伸されたガラス母材210の概略図である。上記のようにガラス母材210を加熱して溶融軟化部216が形成された状態で、チャック122、124の間隔を拡げることにより、溶融軟化部216においてガラス母材210を延伸させることができる。しかしながら、延伸を開始した時点では、溶融軟化部216が過剰に延伸され、延伸後のガラス母材210の外径が、目標外径よりも小さくなる場合がある。
【0045】
更に、加熱源140とチャック122、124とを移動させてガラス母材210の延伸を継続する場合、過剰な延伸で目標外径よりも細くなった区間が発生すると、当該区間に隣接する区間では、延伸による縮径効果が不足して、延伸後の外径が目標外径よりも大きくなる。このように、延伸されたガラス母材210においては、延伸による縮径が過剰な区間には縮径が不足した区間が続き、縮径が不足した区間には縮径が過剰な区間が続く。このため、延伸後のガラス母材210において外径が目標外径に対して一旦偏差が生じた場合、延伸後のガラス母材210において外径の変動が繰り返される外径変動が生じる。
【0046】
このような外径変動は、延伸開始位置から延伸終了位置に向かって交互に繰り返されるが、ガラス母材210の延伸が進むにつれて収束する。よって、延伸後のガラス母材210の外径が、延伸の変動が収束した後の外径となる位置を選択して、延伸を開始することにより、延伸を開始した直後から、延伸後の外径の変動を抑制できる。
【0047】
図6は、延伸中のガラス母材210における、延伸の前後での外径の変化を示すグラフである。図示のグラフの横軸においては、ガラス母材210とダミー棒222との溶接部の位置を「0」として、当該溶接部からの距離zによりガラス母材210の長手方向の位置を表す。
【0048】
図示のグラフは、目標外径を63.00mmとした延伸条件で延伸している、直胴部212の平均外径が95.45mmのガラス母材210において、加熱源140による加熱位置142の前後のガラス母材210の外径の変化を示す。このガラス母材210においては、延伸後の外径の変動は既に収束しており、図中右側に示される延伸後の外径は安定している。
【0049】
図中においてガラス母材210の外径が延伸により減少し始めている領域に着目すると、加熱源140による加熱位置142が、ガラス母材210の外径が延伸により直胴部212の外径よりも小さくなり始めた後の位置にあることが判る。より具体的には、加熱源140の加熱位置142は、延伸前の母材平均外径の97.8%にあたる外径93.35mmの位置にある。
【0050】
そこで、加熱源140による加熱位置142を、延伸開始の当初から、延伸が安定している場合の加熱位置142に合わせることにより延伸初期の外径変動を抑制できる。上記の例では、ガラス母材210の延伸を開始する場合に、直胴部212の平均外径の97.8%の外径を有する位置で延伸を開始することにより、延伸を開始した直後の外径変動を迅速に収束させることができる。
【0051】
更に、他のガラス母材210を延伸して、延伸後の外径の変動が収まった状態で、加熱源140の加熱位置142を測定した。測定結果を表1に示す。表1に示すように、外径変動が収まった状態においては、延伸前のガラス母材210の外径の95%以上、98%以下の外径を有する位置に、加熱源140の加熱位置142が位置しているす。
【表1】
【0052】
次に、長さ1000mmの直胴部212を有する光ファイバ用のガラス母材210を4本用意して、目標外径を63.00mmとして延伸して作製例1〜4を作製した。まず、ガラス母材210の各々の両端に、外径60mmのダミー棒222、224を溶接して、ガラス母材組立体200とした。
【0053】
次いで、1本のガラス母材組立体200の両端を、チャック122、124に把持させて、ガラス母材組立体200をガラス旋盤100に保持させた。更に、ガラス旋盤100の外径測定器150により、ガラス母材210の長手方向について、延伸前のガラス母材210の外径分布を測定した。外径測定器150としては、レーザ外径測定器を用いた。
【0054】
図7は、上記のガラス母材210の延伸前の外径分布を示すグラフである。図示のグラフの横軸においては、ガラス母材210とダミー棒222との溶接部の位置を「0」として、当該溶接部からの距離zによりガラス母材210の長手方向における測定位置を表す。
【0055】
図示のように、ガラス母材210は、直胴部212からダミー棒222に向かって、ガラス母材210の長さ方向に沿って連続的に変化する外径分布を有する。なお、ガラス母材210の直胴部212の平均外径は95.45mmであった。
【0056】
次に、加熱源140として酸水素火炎バーナを用い、上記のガラス母材210の一本を延伸した。まず、テーパ部214の外径が92.45mmになる位置を、延伸開始位置に設定した。延伸開始位置における外径92.45mmは、直胴部212の平均外径95.45mmの96.9%に相当する。また、設定された延伸開始位置は、
図7の横軸において、z=−100mmの位置に相当する。
【0057】
次いで、加熱源140の加熱位置142を、延伸開始位置からダミー棒222側に60mm離れたz=−40mmの位置に固定した。延伸開始位置と加熱位置142との距離60mmは、直胴部212の平均外径の62.9%に相当する。
【0058】
この状態で、加熱源140を形成する酸水素火炎バーナを点火し、ガラス母材210を加熱した。酸水素バーナには、100L/分の酸素と200L/分の水素とを供給した。数分後に、加熱位置142においてガラス母材210が白く輝き、溶融軟化部216が形成され始めたことを確認した。そこで、ガラス母材210の長手方向に沿って、直胴部212に近づく方向に−15mm/分の速度で加熱源140を移動させた。
【0059】
約4分後に、加熱位置142が、延伸開始位置であるz=−100mmの位置に到達した。よって、延伸開始位置側でガラス母材210を把持する一方のチャック122を、他方のチャック124から遠ざかる方向に移動させて、一対のチャック122、124の間隔を拡げることにより、ガラス母材210の延伸を開始した。換言すれば、この状態で延伸を開始するまでは予熱段階にあったので、この時点まではチャック122、124が固定され、ガラス母材210は延伸されない。
【0060】
なお、ガラス母材210において温度が最も高い最高温位置は、移動する加熱源140の加熱位置142に追従するので、両者の間にはタイムラグがある。このため、ガラス母材210の延伸に与かるチャック122の引取り速度は、加熱源140の中心位置よりも20mm右側にオフセットした位置において予め測定しておいた外径分布に基づいて計算してもよい。
【0061】
より具体的には、延伸開始時のバーナ中心位置z=−100mmに対して20mmオフセットしたz=−80mmにおける外径は89mmなので、延伸開始時のチャックの引取り速度は+7.5mm/分である。以後、同様にバーナの中心位置に20mmのオフセットを加えた位置における予め測定したガラス母材の外径に基づき計算された引取り速度でチャック間隔を広げていき、延伸終了位置まで延伸を行った。
【0062】
図8は、距離zにより表す加熱源140の加熱位置142と、チャック122による引取り速度Vt(z)との関係を、延伸開始の前後について示すグラフである。図中には、
図7に示したガラス母材210の外径分布を点線で併せて示す。また、図示のグラフの横軸においては、ガラス母材210とダミー棒222との溶接部の位置を「0」として、当該溶接部からの距離zによりガラス母材210の長手方向における加熱位置142を表す。
【0063】
図示のように、加熱位置142が、延伸開始位置であるz=−100の位置に到達するまで、チャック122は固定されている。また、加熱位置142が、延伸開始位置であるz=−100の位置に到達すると、チャック122は、移動を開始し、延伸終了位置に到達するまで、略等速で移動を継続する。こうして、作製例1に係るガラス母材210が延伸された。
【0064】
図9は、作製例1に係る延伸したガラス母材210の外径分布を示すグラフである。図示のグラフの横軸においては、ガラス母材210とダミー棒222との溶接部の位置を「0」として、当該溶接部からの距離zによりガラス母材210の長手方向の位置を表す。
【0065】
図中には、延伸開始側の端部近傍におけるガラス母材210の外径分布が示される。ガラス母材210の外径分布は、延伸前の外径分布と同様に、ガラス旋盤100に設けた外径測定器150を使用して測定した。
【0066】
延伸後のガラス母材210において、直胴部212の平均外径は63.00mmであった。また、延伸後のガラス母材210において、延伸初期に延伸された部分の最大外径は64.01mmであった。ここで、平均外径と最大外径との差分W
1を、延伸されたガラス母材の外径変動の大きさを示す指標とすると、作製例1のガラス母材210の外径変動は1.01mmと算出できる。
【0067】
更に、残る3本のガラス母材210を延伸して、作製例2〜4を作製した。作製例2〜4に係るガラス母材210の各々は、それぞれ固有の外径分布を有する。また、延伸の目標外径も、ガラス母材210毎に変更して、作製例2〜4に係るガラス母材を延伸した。
【0068】
延伸するガラス母材210に溶着したダミー棒222、224は、作製例1の場合と同じ仕様のものを用いた。また、外径測定器150による延伸前の外径分布測定手順、予熱および延伸する段階の加熱源140の移動速度等は、作製例1の場合と同等の値とした。一方、チャック122の引取り速度Vt(z)は、それぞれのガラス母材210について計測した外径分布に基づいて決定した。
【0069】
作製例1〜4における延伸前の直胴部212の平均外径、延伸の目標外径,延伸を開始する時点での加熱位置142および延伸初期の外径変動を、作製例1の場合の値と併せて表2に示す。表2に示す通り、延伸を開始する時点での加熱位置142が、直胴部212における平均外径の95%から97%程度になる位置にある場合は、延伸初期に延伸された部分の外径変動が、1mm前後に収まっている。
【表2】
【0070】
作製例1〜4の場合と同様に、延伸前の直胴部212の平均外径および目標外径が異なるガラス母材210を4本用意して延伸し、比較例1〜4を作製した。作製例1を延伸した場合と異なる点は、延伸を開始した時点における加熱源140によるガラス母材210の加熱位置142にある。即ち、比較例1〜4の延伸においては、延伸を開始する時点での加熱位置142を、より大きな範囲で変化させた。
【0071】
作製例1〜4の場合と同様に、4本のガラス母材210を個別に延伸して、比較例1〜4を作製した。比較例1〜4に係るガラス母材210の各々は、それぞれ固有の外径分布を有する。また、延伸の目標外径も、ガラス母材210毎に変更して、比較例1〜4に係るガラス母材210を延伸した。
【0072】
延伸するガラス母材210の各々に溶着したダミー棒222、224は、作製例1の場合と同じ仕様のものを用いた。また、外径測定器150による延伸前の外径分布測定手順、予熱および延伸する段階の加熱源140の移動速度等は、作製例1の場合と同等の値とした。一方、チャック122の引取り速度Vt(z)は、それぞれのガラス母材210について計測した外径分布に基づいて決定した。
【0073】
図10は、比較例1に係るガラス母材210における、延伸した後の外径分布を示すグラフである。図示のグラフの横軸においては、ガラス母材210とダミー棒222との溶接部の位置を「0」として、当該溶接部からの距離zによりガラス母材210の長手方向の位置を表す。
【0074】
図中には、延伸開始側の端部近傍におけるガラス母材210の外径分布が示される。ガラス母材210の外径分布は、延伸前の外径分布と同様に、ガラス旋盤100に設けた外径測定器150を使用して測定した。
【0075】
比較例1に係るガラス母材210において、延伸後の直胴部212の平均外径は62.89mmであった。また、同ガラス母材210において、延伸初期に延伸された部分の最大外径は67.46mmであった。ここで、平均外径と最大外径との差分W
2が、延伸されたガラス母材の外径変動の大きさを示す指標となるので、比較例1のガラス母材210の外径変動は4.57mmと算出できる。同様に、比較例2〜4に係るガラス母材210についても、延伸と測定を実行した。
【0076】
比較例1〜4における延伸前の直胴部212の平均外径、延伸の目標外径,延伸を開始する時点での加熱位置142および延伸初期の外径変動を、表3に併せて示す。表3に示す通り、延伸を開始する時点での加熱位置142が、直胴部212における平均外径が85%よりも小さい位置にある場合、延伸初期に延伸された部分の外径変動が4mmを超えている。
【0077】
また、延伸を開始する時点での加熱位置142が、直胴部212における平均外径が99%よりも大きい位置にある場合、延伸初期に延伸された部分の外径変動が4mmを超えている。外径変動がこれほど大きくなると、延伸されたガラス母材210を更に線引きして光ファイバ等を製造する場合に、無視し得ない歩留りの低下が生じる。
【0079】
作製例1〜4の場合と同様に、延伸前の直胴部212の平均外径および目標外径が異なるガラス母材210を4本用意して延伸し、作製例5〜8を作製した。作製例1の場合と同様に、ガラス母材210の両端に外径60mmのダミー棒222、224を溶接し、ダミー棒222、224をガラス旋盤100のチャック122、124で把持することによってガラス旋盤に取り付けた。加熱源140として酸水素火炎バーナを用い、加熱源140の近傍に配した外径測定器150によりガラス母材210の長手方向の外径分布を計測した。
【0080】
作製例5〜8の延伸において、作製例1を延伸した場合と異なる点は、延伸を開始する前に、予熱段階を実行したことにある。作製例5の場合、予め計測したガラス母材210の外径分布の測定結果に基づいて、延伸を開始する時点での加熱源140の加熱位置142を、延伸前のガラス母材210の直胴部212の平均外径の96.0%に相当する外径をガラス母材210が有する位置とした。また、延伸を開始する前に、ガラス母材210に対する予熱を開始する位置を、延伸を開始する位置に対して延伸前の平均外径の100%と等しいか大きく、且つ、200%と等しいからより小さい範囲の位置に設定した。延伸前の平均外径の200%近くまで予熱開始位置が離れた場合、予熱段階は、ダミー棒222に対する加熱から開始された。
【0081】
ガラス母材210の各々に溶着したダミー棒222、224は、作製例1の場合と同じ仕様のものを用いた。また、外径測定器150による延伸前の外径分布測定手順、予熱および延伸する段階の加熱源140の移動速度等は、作製例1の場合と同等の値とした。一方、チャック122の引取り速度Vt(z)は、それぞれのガラス母材210について計測した外径分布に基づいて決定した。
【0082】
作製例5〜8における延伸前の直胴部212の平均外径、延伸の目標外径,予熱の開始位置および延伸初期の外径変動を、表4に併せて示す。表4に示す通り、予熱の開始位置が、延伸前のガラス母材の外径の100%から200%までに相当する位置から予熱を開始して、ガラス母材210を延伸した場合、延伸初期に延伸された部分の外径変動は1mm前後に収まっている。
【表4】
【0083】
予熱の開始位置を、延伸前のガラス母材210における直胴部212の平均外径の25%または10.5%としたこと以外は、作製例5〜8と同じ手順および同じ延伸条件で、比較例5および比較例6に係るガラス母材210を延伸した。
【0084】
比較例5、6における延伸前の直胴部212の平均外径、延伸の目標外径,延伸を開始する時点での加熱位置142および延伸初期の外径変動を、表5に併せて示す。表5に示す通り、延伸開始位置から予熱を開始する位置までの距離が、延伸前の平均外径の50%よりも短い場合は、延伸初期に延伸された部分の外径変動が5mmを超えている。このため、延伸されたガラス母材210を更に線引きして光ファイバ等を製造する場合に、無視し得ない歩留りの低下が生じる。
【表5】
【0085】
上記のように、ガラス母材210のテーパ部214の外径が、直胴部212の平均外径の95と等しいかより大きく、98%と等しいかより小さい範囲となる位置において、ガラス母材210の延伸を開始することにより、延伸開始初期の外径変動を抑制できる。
【0086】
ガラス母材210において、延伸前の直胴部212の平均外径の95%未満の位置で延伸を開始した場合、延伸開始直後に、延伸が過剰になる区間がガラス母材210に発生して、延伸後の外径が変動しやすくなる。また、外径が、直胴部212の平均外径の98%よりも大きな位置で延伸を開始した場合は、延伸開始直後に、延伸が不足した区間がガラス母材210に発生して、延伸後の外径が変動しやすくなる。
【0087】
なお、ガラス母材210におけるテーパ部214の断面形状を、
図7に示したように、安定的に延伸が進行しているガラス母材210の断面形状を模した形状とすることにより、延伸開始後に、ガラス母材210が安定的に延伸される状態を早期に形成できる。これにより、延伸開始直後のガラス母材210の外径を、一層安定させることができる。よって、延伸後のガラス母材210の外径変動を抑制し、ガラス母材210を線引きして光ファイバ等を製造する場合の歩留りを向上させることができる。
【0088】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0089】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。