(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項4または5に記載の方法により製造された金型の凹凸面の形状を透明樹脂フィルムに転写した後、金型の凹凸面の形状が転写された透明樹脂フィルムを金型から剥がすことを含む防眩フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の防眩フィルムは、透明支持体と、該透明支持体上に形成された防眩層とを含み、全ヘイズが1%以下である。ここで、防眩フィルムの全ヘイズは、次のようにして測定される。防眩層を透明支持体上に形成した後、透明支持体の防眩層が形成されていない側が接合面となるように、該防眩フィルムとガラス基板とを、透明粘着剤を用いて貼合し、ガラス基板側から光を入射してJIS K 7136に準拠してヘイズを測定する。このようにして測定されるヘイズは、防眩フィルムの全ヘイズに相当する。
【0025】
本発明の防眩層は、透明支持体と反対側に微細な凹凸を有する微細凹凸表面を備え、
微細凹凸表面の標高の一次元パワースペクトルH
2(f)の常用対数の空間周波数fに関する二次導関数d
2logH
2(f)/df
2が、空間周波数0.01μm
−1において0未満であり、空間周波数0.02μm
−1において0より大きいことを特徴とする。
【0026】
(微細凹凸表面の標高のパワースペクトル)
以下、防眩フィルムの微細凹凸表面の標高のパワースペクトルについて説明する。
図1は、本発明の防眩フィルムの表面を模式的に示す断面図である。
図1に示されるように、本発明の防眩フィルム1は、透明支持体101とその上に形成された防眩層102とを有し、防眩層102は、透明支持体101と反対側に微細な凹凸2を有する微細凹凸表面を備える。
【0027】
ここで、本発明でいう「微細凹凸表面の標高」とは、フィルム1表面の任意の点Pと、微細凹凸表面の平均高さにおいて当該高さを有する仮想的な平面103(標高は基準として0μm)とのフィルムの主法線方向5(上記仮想的な平面103における法線方向)における直線距離を意味する。
【0028】
実際には防眩フィルムは
図2に模式的に示したように、二次元平面上に微細な凹凸が形成された防眩層を有する。よって、微細凹凸表面の標高は
図2に示すように、フィルム面内の直交座標を(x,y)で表示した際には、微細凹凸表面の標高は座標(x,y)の二次元関数h(x,y)と表すことができる。
【0029】
微細凹凸表面の標高は、共焦点顕微鏡、干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)などの装置により測定される表面形状の三次元情報から求めることができる。測定機に要求される水平分解能は、少なくとも5μm以下、好ましくは2μm以下であり、また垂直分解能は、少なくとも0.1μm以下、好ましくは0.01μm以下である。この測定に好適な非接触三次元表面形状・粗さ測定機としては、New View 5000シリーズ(Zygo Corporation社製、日本ではザイゴ(株)から入手可能)、三次元顕微鏡PLμ2300(Sensofar社製)などを挙げることができる。測定面積は、標高のパワースペクトルの分解能が0.005μm
−1以下である必要があるため、少なくとも200μm×200μm以上とするのが好ましく、より好ましくは、500μm×500μm以上である。
【0030】
次に、二次元関数h(x,y)より標高のパワースペクトルを求める方法について説明する。まず、二次元関数h(x,y)より、式(1)で定義される二次元フーリエ変換によって二次元関数H(f
x,f
y)を求める。
【0032】
ここでf
xおよびf
yはそれぞれx方向およびy方向の周波数であり、長さの逆数の次元を持つ。また、式(1)中のπは円周率、iは虚数単位である。得られた二次元関数H(f
x,f
y)を二乗することによって、二次元パワースペクトルH
2(f
x,f
y)を求めることができる。この二次元パワースペクトルH
2(f
x,f
y)は防眩フィルムの微細凹凸表面の空間周波数分布を表している。
【0033】
以下、防眩フィルムの微細凹凸表面の標高の二次元パワースペクトルを求める方法をさらに具体的に説明する。上記の共焦点顕微鏡、干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡などによって実際に測定される表面形状の三次元情報は一般的に離散的な値、すなわち、多数の測定点に対応する標高として得られる。
図3は、標高を表す関数h(x,y)が離散的に得られる状態を示す模式図である。
図3のとおり、フィルム面内の直交座標を(x,y)で表示し、フィルム投影面3上にx軸方向にΔx毎に分割した線およびy軸方向にΔy毎に分割した線を破線で示すと、実際の測定では微細凹凸表面の標高はフィルム投影面3上の各破線の交点毎の離散的な標高値として得られる。
【0034】
得られる標高値の数は測定範囲とΔxおよびΔyによって決まり、
図3に示すようにx軸方向の測定範囲をX=(M−1)Δxとし、y軸方向の測定範囲をY=(N−1)Δyとすると、得られる標高値の数はM×N個である。
【0035】
図3に示すようにフィルム投影面3上の着目点Aの座標を(jΔx,kΔy)(ここでjは0以上M−1以下であり、kは0以上N−1以下である。)とすると、着目点Aに対応するフィルム面上の点Pの標高はh(jΔx,kΔy)と表すことができる。
【0036】
ここで、測定間隔ΔxおよびΔyは測定機器の水平分解能に依存し、精度良く微細凹凸表面を評価するためには、上述したとおりΔxおよびΔyともに5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。また、測定範囲XおよびYは上述したとおり、ともに200μm以上が好ましく、ともに500μm以上がより好ましい。
【0037】
このように実際の測定では、微細凹凸表面の標高を表す関数は、M×N個の値を持つ離散関数h(x,y)として得られる。測定によって得られた離散関数h(x,y)と式(2)で定義される離散フーリエ変換によって離散関数H(f
x,f
y)が求まり、離散関数H(f
x,f
y)を二乗することによって二次元パワースペクトルの離散関数H
2(f
x,f
y)が求められる。式(2)中のlは−M/2以上M/2以下の整数であり、mは−N/2以上N/2以下の整数である。また、Δf
xおよびΔf
yはそれぞれx方向およびy方向の周波数間隔であり、式(3)および式(4)で定義される。
【0041】
ここで、
図4に示したように、本発明の防眩フィルムの微細凹凸表面は凹凸がランダムに形成されているため、周波数空間(空間周波数領域)における二次元パワースペクトルH
2(f
x,f
y)は原点(f
x=0,f
y=0)を中心に対称となる。よって、二次元関数H
2(f
x,f
y)は、周波数空間における原点からの距離f(単位:μm
−1)を変数とする一次元関数H
2(f)に変換することができる。本発明の防眩フィルムは、この一次元関数H
2(f)で表される一次元パワースペクトルが一定の特徴を有するものである。
【0042】
具体的には、まず、
図5に示すように周波数空間において、原点O(f
x=0,f
y=0)から(n−1/2)Δf以上(n+1/2)Δf未満の距離に位置する全ての点(
図5中の黒丸の点)の個数Nnを計算する。
図5に示した例ではNn=16個である。次に、原点Oから(n−1/2)Δf以上(n+1/2)Δf未満の距離に位置する全ての点のH
2(f
x,f
y)の合計値H
2n(
図5中の黒丸の点におけるH
2(f
x,f
y)の合計値)を計算し、式(5)に示すように、その合計値H
2nを点の個数Nnで割ったものをH
2(f)の値とした。
【0044】
ここで、M≧Nの場合、nは0以上N/2以下の整数であり、M<Nの場合、nは0以上M/2以下の整数である。なお、MおよびNは、
図3に示されるように、それぞれx軸方向の測定点の数およびy軸方向の測定点の数を意味する。また、Δfは(Δf
x+Δf
y)/2とした。
【0045】
一般的に前記した方法によって求められる一次元パワースペクトルは測定の際の雑音を含んでいる。ここで一次元パワースペクトルを求めるのに際して、この雑音の影響を除くためには、防眩フィルム上の複数箇所の微細凹凸表面の標高を測定し、それぞれの微細凹凸表面の標高から求められる一次元パワースペクトルの平均値を一次元パワースペクトルH
2(f)として用いることが好ましい。防眩フィルム上の微細凹凸表面の標高を測定する箇所の数は3箇所以上が好ましく、より好ましくは5箇所以上である。
【0046】
図6に、このようにして得られた微細凹凸表面の標高の一次元パワースペクトルの常用対数logH
2(f)を示す。
図6の一次元パワースペクトルの常用対数logH
2(f)は防眩フィルム上の5箇所の異なる箇所の微細凹凸表面の標高から求められた一次元パワースペクトルを平均したものである。
【0047】
微細凹凸表面の標高の一次元パワースペクトルの対数logH
2(f)の空間周波数fに関する二次導関数d
2logH
2(f)/df
2は、一次元パワースペクトルの常用対数logH
2(f)から計算することができる。具体的には、式(6)の差分法によって二次導関数を計算することができる。
【0049】
図6に示した標高の一次元パワースペクトルの常用対数logH
2(f)の空間周波数fに関する二次導関数d
2logH
2(f)/df
2は空間周波数0.01μm
−1において−11878であり、空間周波数0.02μm−1において8081であった。よって、
図6から明らかなように標高の一次元パワースペクトルの常用対数logH
2(f)を空間周波数に対する強度として表したときのグラフは空間周波数0.01μm
−1において上に凸の形状を有し、空間周波数0.02μm
−1において下に凸の形状を有している。
【0050】
本発明の防眩フィルムは、微細凹凸表面の標高から計算される一次元パワースペクトルの常用対数logH
2(f)の空間周波数fに関する二次導関数d
2logH
2(f)/df
2が、空間周波数0.01μm
−1において0未満であり、空間周波数0.02μm
−1において0より大きいことを特徴とする。この結果、微細凹凸表面の標高から計算される一次元パワースペクトルの常用対数logH
2(f)を空間周波数fの関数として表したときのグラフが空間周波数0.01μm
−1において上に凸の形状を有し、空間周波数0.02μm
−1において下に凸の形状を有することとなり、防眩フィルムの表面凹凸形状は、低ヘイズ化した際に防眩効果に寄与する100μm程度(空間周波数で0.01μm
−1に相当)の周期のうねりを効果的に有しつつ、50μm付近(空間周波数で0.02μm
−1に相当)の周期のうねりを効果的に減少させたものとなる。
【0051】
(微細凹凸表面の傾斜角度)
また、本発明者らは、防眩フィルムにおいて、微細凹凸表面を構成する各微小面が特定の傾斜角度分布を示すようにすれば、優れた防眩性能を示しつつ、白ちゃけを効果的に防止するうえで一層有効であることを見出した。すなわち、本発明の防眩フィルムは、微細凹凸表面のうち、傾斜角度が5°以上である微小面の割合が1%未満であることが好ましい。微細凹凸表面のうち、傾斜角度が5°以上である微小面の割合が1%を上回ったりすると、凹凸表面の傾斜角度が急峻な微小面が多くなって、周囲からの光を集光し、表示面が全体的に白くなる白ちゃけが発生しやすくなる。このような集光効果を抑制し、白ちゃけを防止するためには、微細凹凸表面のうち、傾斜角度が5°以上である微小面の割合が小さければ小さいほどよく、0.5%未満であることが好ましく、0.1%未満であることがより好ましい。
【0052】
ここで、本発明でいう「微細凹凸表面の微小面の傾斜角度」とは、
図2に示す防眩フィルム1表面の任意の点Pにおいて、後述するような点Pを含む微小面の凹凸を加味した局所的な法線6とフィルムの主法線方向5とのなす角度θを意味する。微細凹凸表面の傾斜角度についても標高と同様に、共焦点顕微鏡、干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)などの装置により測定される表面形状の三次元情報から求めることができる。
【0053】
図7は、微細凹凸表面の微小面の傾斜角度の測定方法を説明するための模式図である。具体的な傾斜角度の決定方法を説明すると、
図7に示すように、点線で示される仮想的な平面FGHI上の着目点Aを決定し、そこを通るx軸上の着目点Aの近傍に、点Aに対してほぼ対称に点BおよびDを、また点Aを通るy軸上の着目点Aの近傍に、点Aに対してほぼ対称に点CおよびEをとり、これらの点B,C,D,Eに対応するフィルム面上の点Q,R,S,Tを決定する。なお
図7では、フィルム面内の直交座標を(x,y)で表示し、フィルム厚み方向の座標をzで表示している。平面FGHIは、y軸上の点Cを通るx軸に平行な直線、および同じくy軸上の点Eを通るx軸に平行な直線と、x軸上の点Bを通るy軸に平行な直線、および同じくx軸上の点Dを通るy軸に平行な直線とのそれぞれの交点F,G,H,Iによって形成される面である。また
図7では、平面FGHIに対して、実際のフィルム面の位置が上方にくるように描かれているが、着目点Aのとる位置によって当然ながら、実際のフィルム面の位置が平面FGHIの上方にくることもあるし、下方にくることもある。
【0054】
そして、得られる表面形状データの傾斜角度は、着目点Aに対応する実際のフィルム面上の点Pと、その近傍にとられた4点B,C,D,Eに対応する実際のフィルム面上の点Q,R,S,Tの合計5点により張られるポリゴン4平面、すなわち、四つの三角形PQR,PRS,PST,PTQの各法線ベクトル6a,6b,6c,6dを平均して得られる局所的な法線(ベクトル)6の極角(
図2において、フィルムの主法線方向5とのなす角度θ)を求めることにより、得ることができる。各測定点(微小面)について傾斜角度を求めた後、ヒストグラムが計算される。
【0055】
図8は、防眩フィルムの微細凹凸表面の微小面の傾斜角度分布のヒストグラムの一例を示すグラフである。
図8に示すグラフにおいて、横軸は傾斜角度であって、0.5°刻みで分割してある。例えば、一番左の縦棒は、傾斜角度が0〜0.5°の範囲にある集合の分布を示し、以下、右へ行くにつれて角度が0.5°ずつ大きくなっている。図では、横軸の2目盛毎に値の上限値を表示しており、例えば、横軸で「1」とある部分は、傾斜角度が0.5〜1°の範囲にある微小面の集合の分布を示す。また、縦軸はその集合の全体に対する割合を表し、合計すれば1になる値である。この例では、傾斜角度が5°以上である微小面の割合は略0である。
【0056】
(微細凹凸表面の表面粗さパラメータ)
本発明の防眩フィルムの微細表面凹凸形状はJIS B 0601の規定に準拠した算術平均粗さRaが0.04μm以上0.1μm以下であることが好ましい。また、JIS B 0601の規定に準拠した最大断面高さRtが0.3μm以上0.6μm以下であることが好ましい。また、JIS B 0601の規定に準拠した平均長さRSmが50μm以上130μm以下であることが好ましい。
【0057】
算術平均粗さRaが0.04μmを下回る場合には、その凹凸形状を透明フィルムに転写して得られる防眩フィルムの防眩性が不十分となる可能性がある。一方、算術平均粗さRaが0.1μmを上回る場合には、その凹凸形状を透明フィルムに転写して得られる防眩フィルムに白ちゃけが発生する虞がある。
【0058】
最大断面高さRtが0.3μmを下回る場合には、その凹凸形状を透明フィルムに転写して得られる防眩フィルムの防眩性が不十分となる可能性がある。一方、最大断面高さRtが0.6μmを上回る場合には、その凹凸形状を透明フィルムに転写して得られる防眩フィルムに白ちゃけが発生する虞があるし、表面凹凸形状の均一性が低下してギラツキが発生する可能性がある。
【0059】
また、平均長さRSmが50μmを下回る場合には、その凹凸形状を透明フィルムに転写して得られる防眩フィルムの防眩性が不十分となる可能性がある。一方、平均長さRsmが130μmを上回る場合には、その凹凸形状を透明フィルムに転写して得られる防眩フィルムにギラツキが発生する虞がある。
【0060】
<防眩フィルムの製造方法>
本発明の防眩フィルムは、所定のパターンに基づいた表面形状を金型基材の表面に形成する工程を含む方法で、防眩フィルム製造用金型を製造し、製造された金型の凹凸面の形状を透明樹脂フィルムに転写した後、金型の凹凸面の形状が転写された透明樹脂フィルムを金型から剥がすことを含む製造方法により、作製することができる。
【0061】
上述のような特徴を有する防眩フィルムの微細凹凸表面を精度よく形成するために、上記所定のパターンの一次元パワースペクトルを空間周波数に対する強度として表したときのグラフが、空間周波数0.007μm
−1以上0.015μm
−1以下において1つの極大値を有し、かつ、空間周波数0.05μm
−1以上0.1μm
−1以下において1つの極大値を有することが好ましい。ここで、「パターン」とは、本発明の防眩フィルムの微細凹凸表面を形成するための画像データや透光部と遮光部を有するマスクなどを意味する。
【0062】
また、本発明の防眩フィルム製造用金型の製造方法に用いるパターンの空間周波数0.007μm
−1以上0.015μm
−1以下の第一の極大値の強度は、空間周波数0.05μm
−1以上0.1μm
−1以下の第二の極大値における強度より小さいことが好ましい。第一の極大値の強度が第二の極大値より大きい場合にはギラツキが強くなる傾向があるため好ましくない。
【0063】
パターンの二次元パワースペクトルは、たとえばパターンが画像データである場合、画像データを2階調の二値化画像データに変換した後、画像データの階調を二次元関数g(x,y)で表し、得られた二次元関数g(x,y)をフーリエ変換して二次元関数G(f
x,f
y)を計算し、得られた二次元関数G(f
x,f
y)を二乗することによって求められる。ここで、xおよびyは画像データ面内の直交座標を表し、f
xおよびf
yはx方向の周波数およびy方向の周波数を表している。
【0064】
防眩層の微細凹凸表面の標高の二次元パワースペクトルを求める場合と同様に、パターンの二次元パワースペクトルを求める場合についても、階調の二次元関数g(x,y)は離散関数として得られる場合が一般的である。その場合は、微細凹凸表面の標高の二次元パワースペクトルを求める場合と同様に、離散フーリエ変換によって、二次元パワースペクトルを計算すれば良い。パターンの一次元パワースペクトルは、パターンの二次元パワースペクトルから、微細凹凸表面の標高の一次元パワースペクトルと同様にして求められる。
【0065】
図9は、本発明の防眩フィルムを作製するために用いたパターンである画像データの一部を表わした図である。
図9に示したパターンである画像データは33mm×33mmの大きさで、12800dpiで作成した。
【0066】
図10は、
図9に示した階調の二次元離散関数g(x,y)を離散フーリエ変換して得られた二次元パワースペクトルG
2(f
x,f
y)を微細凹凸表面の標高の一次元パワースペクトルと同様に原点からの距離fの関数として表した図である。これより
図9に示したパターンは空間周波数0.007μm
−1以上0.015μm
−1以下に第一の極大値を有し、空間周波数0.05μm
−1以上0.1μm
−1以下に第二の極大値を有することが分かる。
【0067】
防眩フィルム(防眩層)を作製するためのパターンの一次元パワースペクトルが空間周波数0.007μm
−1以上0.015μm
−1以下に第一の極大値を有し、空間周波数0.05μm
−1以上0.1μm
−1以下に第二の極大値を有することによって、微細凹凸表面の標高の一次元パワースペクトルの常用対数を空間周波数に対する強度として表した時のグラフが空間周波数0.01μm
−1において上に凸の形状を有し、空間周波数0.02μm
−1において下に凸の形状を有する防眩フィルムが得られる。
【0068】
一次元パワースペクトルが空間周波数0.007μm
−1以上0.015μm
−1以下に第一の極大値を有し、空間周波数0.05μm
−1以上0.1μm
−1以下に第二の極大値を有するパターンを作成するためには、ドットをランダムに配置して作成したパターンや乱数もしくは計算機によって生成された疑似乱数により濃淡を決定したランダムな明度分布を有するパターンから、特定の空間周波数範囲の成分を除去するバンドパスフィルターを通過させればよい。
【0069】
本発明の防眩フィルムにおいては、上述したように防眩層の微細凹凸表面の空間周波数分布を適切に形成することが好ましい。そこで、本発明の防眩フィルムは、上述したパターンを用いて微細凹凸表面を有する金型を製造し、製造された金型の凹凸面を透明支持体上の光硬化性樹脂層等に転写し、次いで凹凸面が転写された防眩層と透明支持体とを金型から剥がすエンボス法によって製造されることが好ましい。
【0070】
ここで、エンボス法としては、光硬化性樹脂を用いるUVエンボス法、熱可塑性樹脂を用いるホットエンボス法が例示され、中でも、生産性の観点から、UVエンボス法が好ましい。
【0071】
UVエンボス法は、透明支持体の表面に光硬化性樹脂層を形成し、その光硬化性樹脂層を金型の凹凸面に押し付けながら硬化させることで、金型の凹凸面が光硬化性樹脂層に転写される方法である。具体的には、透明支持体上に紫外線硬化型樹脂を塗工し、塗工した紫外線硬化型樹脂を金型の凹凸面に密着させた状態で透明支持体側から紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させ、その後金型から、硬化後の紫外線硬化型樹脂層が形成された透明支持体を剥離することにより、金型の形状を紫外線硬化型樹脂に転写する。
【0072】
UVエンボス法を用いる場合、透明支持体は、実質的に光学的に透明なフィルムであればよく、たとえばトリアセチルセルロースフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどの樹脂フィルムが挙げられる。
【0073】
また、UVエンボス法を用いる場合における紫外線硬化型樹脂の種類は特に限定されないが、市販の適宜のものを用いることができる。また、紫外線硬化型樹脂に適宜選択された光開始剤を組み合わせて、紫外線より波長の長い可視光でも硬化が可能な樹脂を用いることも可能である。具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの多官能アクリレートをそれぞれ単独で、あるいはそれら2種以上を混合して用い、それと、イルガキュアー907、イルガキュアー184、ルシリンTPO(以上、いずれもBASF社製)などの光重合開始剤とを混合したものを好適に用いることができる。
【0074】
一方、ホットエンボス法は、熱可塑性樹脂で形成された透明支持体を加熱状態で金型に押し付け、金型の表面形状を透明支持体に転写する方法である。ホットエンボス法に用いる透明支持体としては、実質的に透明なものであればいかなるものであってもよく、たとえば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどを用いることができる。これらの透明樹脂フィルムはまた、上で説明したUVエンボス法における紫外線硬化型樹脂を塗工するための透明支持体としても好適に用いることができる。
【0075】
<防眩フィルム製造用の金型の製造方法>
以下では、本発明の防眩フィルムの製造に用いる金型を製造する方法について説明する。本発明の防眩フィルムの製造に用いる金型の製造方法については、上述したパターンを用いた所定の表面形状が得られる方法であれば、特に制限されないが、微細凹凸表面を精度よく、かつ、再現性よく製造するために、〔1〕第1めっき工程と、〔2〕研磨工程と、〔3〕感光性樹脂膜形成工程と、〔4〕露光工程と、〔5〕現像工程と、〔6〕第1エッチング工程と、〔7〕感光性樹脂膜剥離工程と、〔8〕第2エッチング工程と、〔9〕第2めっき工程とを基本的に含むことが好ましい。
【0076】
図11は、本発明の防眩フィルムの製造に用いる金型の製造方法の前半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。
図11には各工程での金型の断面を模式的に示している。以下、
図11を参照しながら、本発明の防眩フィルムの製造に用いる金型の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0077】
〔1〕第1めっき工程
本発明の防眩フィルムの製造に用いる金型の製造方法では、まず、金型に用いる基材の表面に、銅めっきを施す。このように、金型用基材の表面に銅めっきを施すことにより、後の第2めっき工程におけるクロムめっきの密着性や光沢性を向上させることができる。これは、銅めっきは、被覆性が高く、また平滑化作用が強いことから、金型用基材の微小な凹凸や鬆などを埋めて平坦で光沢のある表面を形成するためである。これらの銅めっきの特性によって、後述する第2めっき工程においてクロムめっきを施したとしても、基材に存在していた微小な凹凸や鬆に起因すると思われるクロムめっき表面の荒れが解消され、また、銅めっきの被覆性の高さから、細かいクラックの発生が低減される。
【0078】
第1めっき工程において用いられる銅は、銅の純金属であることができるほか、銅を主体とする合金であってもよく、したがって、本明細書でいう「銅」は、銅および銅合金を含む意味である。銅めっきは、電解めっきで行っても無電解めっきで行ってもよいが、通常は電解めっきが採用される。
【0079】
銅めっきを施す際には、めっき層が余り薄いと、下地表面の影響が排除しきれないことから、その厚みは50μm以上であるのが好ましい。めっき層厚みの上限は臨界的でないが、コストなどとのからみから、一般的には500μm程度までで十分である。
【0080】
なお、本発明の金型の製造方法において、基材の形成に好適に用いられる金属材料としては、コストの観点からアルミニウム、鉄などが挙げられる。さらに取扱いの利便性から、軽量なアルミニウムがより好ましい。ここでいうアルミニウムや鉄も、それぞれ純金属であることができるほか、アルミニウムまたは鉄を主体とする合金であってもよい。
【0081】
また、基材の形状は、当分野において従来より採用されている適宜の形状であれば特に制限されず、平板状であってもよいし、円柱状または円筒状のロールであってもよい。ロール状の基材を用いて金型を作製すれば、防眩フィルムを連続的なロール状で製造することができるという利点がある。
【0082】
〔2〕研磨工程
続く研磨工程では、上述した第1めっき工程にて銅めっきが施された基材表面を研磨する。本発明の金型の製造方法では、当該工程を経て、基材表面を、鏡面に近い状態に研磨することが好ましい。これは、基材となる金属板や金属ロールは、所望の精度にするために、切削や研削などの機械加工が施されていることが多く、それにより基材表面に加工目が残っており、銅めっきが施された状態でも、それらの加工目が残ることがあるし、また、めっきした状態で、表面が完全に平滑になるとは限らないためである。すなわち、このような深い加工目などが残った表面に後述する工程を施したとしても、各工程を施した後に形成される凹凸よりも加工目などの凹凸の方が深いことがあり、加工目などの影響が残る可能性があり、そのような金型を用いて防眩フィルムを製造した場合には、光学特性に予期できない影響を及ぼすことがある。
図11(a)には、平板状の金型用基材7が、第1めっき工程において銅めっきをその表面に施され(当該工程で形成した銅めっきの層については図示せず)、さらに研磨工程によって鏡面研磨された表面8を有するようにされた状態を模式的に示している。
【0083】
銅めっきが施された基材表面を研磨する方法については特に制限されるものではなく、機械研磨法、電解研磨法、化学研磨法のいずれも使用できる。機械研磨法としては、超仕上げ法、ラッピング、流体研磨法、バフ研磨法などが例示される。また、研磨工程においては、切削工具を用いて鏡面切削することにより、金型用基材7の表面8を鏡面としてもよい。その際の切削工具の材質や形状などは特に制限されるものではなく、超硬バイト、CBNバイト、セラミックバイト、ダイヤモンドバイトなどを使用することができるが、加工精度の観点からダイヤモンドバイトを用いることが好ましい。研磨後の表面粗度は、JIS B 0601の規定に準拠した中心線平均粗さRaが0.1μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましい。研磨後の中心線平均粗さRaが0.1μmより大きいと、最終的な金型表面の凹凸形状に研磨後の表面粗度の影響が残る可能性があるので好ましくない。また、中心線平均粗さRaの下限については特に制限されず、加工時間や加工コストの観点から、おのずと限界があるので、特に指定する必要性はない。
【0084】
〔3〕感光性樹脂膜形成工程
続く感光性樹脂膜形成工程では、上述した研磨工程によって鏡面研磨を施した基材7の表面8に、感光性樹脂を溶媒に溶解した溶液として塗布し、加熱・乾燥することにより、感光性樹脂膜を形成する。
図11(b)には、基材7の表面8に感光性樹脂膜9が形成された状態を模式的に示している。
【0085】
感光性樹脂としては従来公知の感光性樹脂を用いることができる。たとえば、感光部分が硬化する性質をもったネガ型の感光性樹脂としては分子中にアクリル基またはメタアクリル基を有するアクリル酸エステルの単量体やプレポリマー、ビスアジドとジエンゴムとの混合物、ポリビニルシンナマート系化合物などを用いることができる。また、現像により感光部分が溶出し、未感光部分だけが残る性質をもったポジ型の感光性樹脂としてはフェノール樹脂系やノボラック樹脂系などを用いることができる。また、感光性樹脂には、必要に応じて、増感剤、現像促進剤、密着性改質剤、塗布性改良剤などの各種添加剤を配合してもよい。
【0086】
これらの感光性樹脂を基材7の表面8に塗布する際には、良好な塗膜を形成するために、適当な溶媒に希釈して塗布することが好ましく、セロソルブ系溶媒、プロピレングリコール系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、高極性溶媒などを使用することができる。
【0087】
感光性樹脂溶液を塗布する方法としては、メニスカスコート、ファウンティンコート、ディップコート、回転塗布、ロール塗布、ワイヤーバー塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、カーテン塗布、リングコートなどの公知の方法を用いることができる。塗布膜の厚さは乾燥後で1〜10μmの範囲とすることが好ましい。
【0088】
〔4〕露光工程
続く露光工程では、上記した一次元パワースペクトルを空間周波数に対する強度として表したときのグラフが、空間周波数0.007μm
−1以上0.015μm
−1以下において1つの極大値を有し、かつ、空間周波数0.05μm
−1以上0.1μm
−1以下において1つの極大値を有するパターンを、上述した感光性樹脂膜形成工程で形成された感光性樹脂膜9上に露光する。露光工程に用いる光源は塗布された感光性樹脂の感光波長や感度等に合わせて適宜選択すればよく、たとえば、高圧水銀灯のg線(波長:436nm)、高圧水銀灯のh線(波長:405nm)、高圧水銀灯のi線(波長:365nm)、半導体レーザ(波長:830nm、532nm、488nm、405nmなど)、YAGレーザ(波長:1064nm)、KrFエキシマーレーザ(波長:248nm)、ArFエキシマーレーザ(波長:193nm)、F
2エキシマーレーザ(波長:157nm)等を用いることができる。
【0089】
本発明の金型の製造方法において表面凹凸形状を精度良く形成するためには、露光工程において、上述したパターンを感光性樹脂膜上に精密に制御された状態で露光することが好ましい。本発明の金型の製造方法においては、上述したパターンを感光性樹脂膜上に精度良く露光するために、コンピュータ上でパターンを画像データとして作成し、その画像データに基づいたパターンを、コンピュータ制御されたレーザヘッドから発するレーザ光によって描画することが好ましい。レーザ描画を行うに際しては印刷版作成用のレーザ描画装置を使用することができる。このようなレーザ描画装置としては、たとえばLaser Stream FX((株)シンク・ラボラトリー製)などが挙げられる。
【0090】
図11(c)には、感光性樹脂膜9にパターンが露光された状態を模式的に示している。感光性樹脂膜をネガ型の感光性樹脂で形成した場合には、露光された領域10は露光によって樹脂の架橋反応が進行し、後述する現像液に対する溶解性が低下する。そのため、現像工程において露光されていない領域11が現像液によって溶解され、露光された領域10のみ基材表面上に残りマスクとなる。一方、感光性樹脂膜をポジ型の感光性樹脂で形成した場合には、露光された領域10は露光によって樹脂の結合が切断され、後述する現像液に対する溶解性が増加する。そのため、現像工程において露光された領域10が現像液によって溶解され、露光されていない領域11のみ基材表面上に残りマスクとなる。
【0091】
〔5〕現像工程
続く現像工程においては、感光性樹脂膜9にネガ型の感光性樹脂を用いた場合には、露光されていない領域11は現像液によって溶解され、露光された領域10のみ金型用基材上に残存し、続く第1エッチング工程においてマスクとして作用する。一方、感光性樹脂膜9にポジ型の感光性樹脂を用いた場合には、露光された領域10のみ現像液によって溶解され、露光されていない領域11が金型用基材上に残存して、続く第1エッチング工程におけるマスクとして作用する。
【0092】
現像工程に用いる現像液については従来公知のものを使用することができる。たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア水などの無機アルカリ類、エチルアミン、n−プロピルアミンなどの第一アミン類、ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミンなどの第二アミン類、トリエチルアミン、メチルジエチルアミンなどの第三アミン類、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルコールアミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシドなどの第四級アンモニウム塩、ピロール、ピヘリジンなどの環状アミン類などのアルカリ性水溶液、キシレン、トルエンなどの有機溶剤などを挙げることができる。
【0093】
現像工程における現像方法については特に制限されず、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像などの方法を用いることができる。
【0094】
図11(d)には、感光性樹脂膜9にネガ型の感光性樹脂を用いて、現像処理を行った状態を模式的に示している。
図11(c)において、露光されていない領域11が現像液によって溶解され、露光された領域10のみ基材表面上に残りマスク12となる。
図11(e)には、感光性樹脂膜9にポジ型の感光性樹脂を用いて、現像処理を行った状態を模式的に示している。
図11(c)において、露光された領域10が現像液によって溶解され、露光されていない領域11のみ基材表面上に残りマスク12となる。
【0095】
〔6〕第1エッチング工程
続く第1エッチング工程では、上述した現像工程後に金型用基材表面上に残存した感光性樹脂膜をマスクとして用いて、主にマスクの無い箇所の金型用基材のめっきが施された表面をエッチングする。
【0096】
図12は、本発明の金型の製造方法の後半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。
図12(a)には第1エッチング工程によって、主にマスクの無い領域13の金型用基材7がエッチングされる状態を模式的に示している。マスク12の下部の金型用基材7は金型用基材表面からはエッチングされないが、エッチングの進行とともにマスクの無い領域13からのエッチングが進行する。よって、マスク12とマスクの無い領域13の境界付近では、マスク12の下部の金型用基材7もエッチングされる。このようなマスク12とマスクの無い領域13の境界付近において、マスク12の下部の金型用基材7もエッチングされることを、以下ではサイドエッチングと呼ぶ。
【0097】
第1エッチング工程におけるエッチング処理は、通常、塩化第二鉄(FeCl
3)液、塩化第二銅(CuCl
2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH
3)
4Cl
2)などを用いて、金属表面を腐食させることによって行われるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した際の金型用基材に形成される凹形状は、下地金属の種類、感光性樹脂膜の種類およびエッチング手法などによって異なるため、一概にはいえないが、エッチング量が10μm以下である場合には、エッチング液に触れている金属表面から略等方的にエッチングされる。ここでいうエッチング量とは、エッチングにより削られる基材の厚みである。
【0098】
第1エッチング工程におけるエッチング量は好ましくは1〜50μmであり、より好ましくは2〜10μmである。エッチング量が1μm未満である場合には、金属表面に凹凸形状がほとんど形成されずに、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。また、エッチング量が50μmを超える場合には、金属表面に形成される凹凸形状の高低差が大きくなり、得られた金型を使用して作製した防眩フィルムが白ちゃけることとなるため好ましくない。第1エッチング工程におけるエッチング処理は1回のエッチング処理によって行ってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行ってもよい。ここでエッチング処理を2回以上に分けて行う場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が1〜50μmであることが好ましい。
【0099】
〔7〕感光性樹脂膜剥離工程
続く感光性樹脂膜剥離工程では、第1エッチング工程でマスクとして使用した残存する感光性樹脂膜を完全に溶解し除去する。感光性樹脂膜剥離工程では剥離液を用いて感光性樹脂膜を溶解する。剥離液としては、上述した現像液と同様のものを用いることができて、pH、温度、濃度および浸漬時間などを変化させることによって、ネガ型の感光性樹脂膜を用いた場合には露光部の、ポジ型の感光性樹脂膜を用いた場合には非露光部の感光性樹脂膜を完全に溶解して除去する。感光性樹脂膜剥離工程における剥離方法についても特に制限されず、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像などの方法を用いることができる。
【0100】
図12(b)は、感光性樹脂膜剥離工程によって、第1エッチング工程でマスクとして使用した感光性樹脂膜を完全に溶解し除去した状態を模式的に示している。感光性樹脂膜によるマスク12とエッチングによって、第1の表面凹凸形状15が金型用基材表面に形成される。
【0101】
〔8〕第2エッチング工程
第2エッチング工程では、感光性樹脂膜をマスクとして用いた第1エッチング工程によって形成された第1の表面凹凸形状15を、エッチング処理によって鈍らせる。この第2エッチング処理によって、第1エッチング処理で形成された第1の表面凹凸形状15における表面傾斜が急峻な部分がなくなり、得られた金型を用いて製造される防眩フィルムの光学特性が好ましい方向へと変化する。
図12(c)には、第2エッチング処理によって金型用基材7の第1の表面凹凸形状15が鈍化し、表面傾斜が急峻な部分が鈍らされ、緩やかな表面傾斜を有する第2の表面凹凸形状16が形成された状態が示されている。
【0102】
第2エッチング工程のエッチング処理も、第1エッチング工程と同様に、通常、塩化第二鉄(FeCl
3)液、塩化第二銅(CuCl
2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH
3)
4Cl
2)などを用い、表面を腐食させることによって行われるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した後の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、エッチング手法、および第1エッチング工程により得られた凹凸のサイズと深さなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御する上で最も大きな因子は、エッチング量である。ここでいうエッチング量も、第1エッチング工程と同様に、エッチングにより削られる基材の厚みである。エッチング量が小さいと、第1エッチング工程により得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を透明フィルムに転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、エッチング量が大きすぎると、凹凸形状がほとんどなくなってしまい、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。そこで、エッチング量は1〜50μmの範囲内であることが好ましく、4〜20μmの範囲内であることがより好ましい。第2エッチング工程におけるエッチング処理についても、第1エッチング工程と同様に、1回のエッチング処理によって行ってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行ってもよい。ここでエッチング処理を2回以上に分けて行う場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が1〜50μmであることが好ましい。
【0103】
〔9〕第2めっき工程
続いて、クロムめっきを施すことによって、第2の表面凹凸形状16を鈍らせるとともに、金型表面を保護する。
図12(d)には、上述したように第2エッチング工程のエッチング処理によって形成された第2の表面凹凸形状16にクロムめっき層17を形成し、クロムめっき層の表面18を鈍らせた状態が示されている。
【0104】
本発明では、平板やロールなどの表面に、光沢があって、硬度が高く、摩擦係数が小さく、良好な離型性を与え得るクロムめっきを採用する。クロムめっきの種類は特に制限されないが、いわゆる光沢クロムめっきや装飾用クロムめっきなどと呼ばれる、良好な光沢を発現するクロムめっきを用いることが好ましい。クロムめっきは通常、電解によって行われ、そのめっき浴としては、無水クロム酸(CrO
3)と少量の硫酸を含む水溶液が用いられる。電流密度と電解時間を調節することにより、クロムめっきの厚みを制御することができる。
【0105】
なお、第2めっき工程において、クロムめっき以外のめっきを施すことは好ましくない。何故なら、クロム以外のめっきでは、硬度や耐摩耗性が低くなるため、金型としての耐久性が低下し、使用中に凹凸が磨り減ったり、金型が損傷したりする。そのような金型から得られた防眩フィルムでは、十分な防眩機能が得られにくい可能性が高く、また、フィルム上に欠陥が発生する可能性も高くなる。クロムめっきで作製された金型から得られる防眩フィルムには、点状の凹凸に加え、線状の凸部または凹部が形成されることがある。点状の凹凸と線状の凸部または凹部が混在することで、微細な散乱が発生し、一層の防眩性の向上が期待される。このような線状の凸部または凹部が存在する場合でも、その割合は、全表面に対する面積比で20%以下となるようにすることが好ましい。
【0106】
また、めっき後の表面を研磨することも、やはり本発明では好ましくない。研磨することにより、最表面に平坦な部分が生じるため、光学特性の悪化を招く可能性があること、また、形状の制御因子が増えるため、再現性のよい形状制御が困難になることなどの理由による。
【0107】
このように本発明では、クロムめっきを施した後、表面を研磨せず、そのままクロムめっき面を金型の凹凸面として用いることが好ましい。微細表面凹凸形状が形成された表面にクロムめっきを施すことにより、凹凸形状が鈍らせられるとともに、その表面硬度が高められた金型が得られるためである。この際の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、第1エッチング工程より得られた凹凸のサイズと深さ、まためっきの種類や厚みなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御するうえで最も大きな因子は、やはりめっき厚みである。クロムめっきの厚みが薄いと、クロムめっき加工前に得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を透明フィルムに転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、めっき厚みが厚すぎると、生産性が悪くなるうえに、ノジュールと呼ばれる突起状のめっき欠陥が発生してしまうため好ましくない。そこで、クロムめっきの厚みは1〜10μmの範囲内であるのが好ましく、3〜6μmの範囲内であるのがより好ましい。
【0108】
当該第2めっき工程で形成されるクロムめっき層は、ビッカース硬度が800以上となるように形成されていることが好ましく、1000以上となるように形成されていることがより好ましい。クロムめっき層のビッカース硬度が800未満である場合には、金型使用時の耐久性が低下するうえに、クロムめっきで硬度が低下することはめっき処理時にめっき浴組成、電解条件などに異常が発生している可能性が高く、欠陥の発生状況についても好ましくない影響を与える可能性が高いためである。
【実施例】
【0109】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%および部は、特記ない限り重量基準である。また、以下の例における金型または防眩フィルムの評価方法は、次のとおりである。
【0110】
〔1〕防眩フィルムの表面形状の測定
(表面の標高の測定)
三次元顕微鏡PLμ2300(Sensofar社製)を用いて、防眩フィルムの表面の標高を測定した。サンプルの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて凹凸面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。測定の際、対物レンズの倍率は10倍として測定を行った。水平分解能ΔxおよびΔyはともに1.66μmであり、測定面積は1270μm×950μmであった。
【0111】
(微細表面凹凸の標高のパワースペクトル)
上で得られた測定データの中央部から512個×512個(測定面積で850μm×850μm)のデータをサンプリングし、防眩フィルムの微細凹凸表面の標高を二次元関数h(x,y)として求めた。二次元関数h(x,y)を離散フーリエ変換して二次元関数H(f
x,f
y)を求めた。二次元関数H(f
x,f
y)を二乗して二次元パワースペクトルの二次元関数H
2(f
x,f
y)を計算し、原点からの距離fの関数である一次元パワースペクトルの一次元関数H
2(f)を計算した。各サンプルにつき5箇所の表面の標高を測定し、それらのデータから計算される一次元パワースペクトルの一次元関数H
2(f)の平均値を各サンプルの一次元パワースペクトルの一次元関数H
2(f)とした。
【0112】
(微細凹凸表面の傾斜角度)
上で得られた測定データをもとに、前述のアルゴリズムに基づいて計算し、凹凸面の傾斜角度のヒストグラムを作成し、そこから傾斜角度毎の分布を求め、傾斜角度が5°以上である面の割合を計算した。
【0113】
(微細凹凸表面の表面粗さパラメータ)
JIS B 0601に準拠した(株)ミツトヨ製の表面粗さ測定機サーフテストSJ−301を用いて、防眩フィルムの表面粗さパラメータを測定した。サンプルの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて凹凸面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。
【0114】
〔2〕防眩フィルムの光学特性の測定
(ヘイズ)
防眩フィルムの全ヘイズは、防眩フィルムを光学的に透明な粘着剤を用いて防眩層形成面とは反対側の面でガラス基板に貼合し、該ガラス基板に貼合された防眩フィルムについて、ガラス基板側から光を入射させ、JIS K 7136に準拠した(株)村上色彩技術研究所製のヘイズメーター「HM−150」型を用いて測定した。
【0115】
(透過鮮明度)
JIS K 7105に準拠したスガ試験機(株)製の写像性測定器「ICM−1DP」を用いて、防眩フィルムの透過鮮明度を測定した。この場合も、サンプルの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて防眩層の微細な凹凸形状面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。この状態でガラス側から光を入射させ、測定を行なった。ここでの測定値は、暗部と明部との幅がそれぞれ0.125mm、0.5mm、1.0mmおよび2.0mmである4種類の光学くしを用いて測定された値の合計値である。この場合の透過鮮明度の最大値は400%となる。
【0116】
(反射鮮明度)
JIS K 7105に準拠したスガ試験機(株)製の写像性測定器「ICM−1DP」を用いて、防眩フィルムの反射鮮明度を測定した。この場合も、サンプルの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて防眩層の微細な凹凸形状面が表面となるように黒色アクリル基板に貼合してから、測定に供した。この状態で凹凸形状面側から光を45°で入射させ、測定を行なった。ここでの測定値は、暗部と明部との幅がそれぞれ0.5mm、1.0mmおよび2.0mmである3種類の光学くしを用いて測定された値の合計値である。この場合の反射鮮明度の最大値は300%となる。
【0117】
〔3〕防眩フィルムの機械特性の測定
(鉛筆硬度)
防眩フィルムの鉛筆硬度は、JIS K5600−5−4に規定される方法で測定した。具体的には、この規格に準拠した電動鉛筆引っかき硬度試験機((株)安田精機製作所製)を用いて荷重500gで測定した。
【0118】
〔4〕防眩フィルムの防眩性能の評価
(映り込み、白ちゃけの目視評価)
防眩フィルムの裏面からの反射を防止するために、凹凸面が表面となるように黒色アクリル樹脂板に防眩フィルムを貼合し、蛍光灯のついた明るい室内で凹凸面側から目視で観察し、蛍光灯の映り込みの有無、白ちゃけの程度を目視で評価した。映り込みおよび白ちゃけは、それぞれ1から3の3段階で次の基準により評価した。
【0119】
映り込み
1:映り込みが観察されない。
2:映り込みが少し観察される。
3:映り込みが明瞭に観察される。
【0120】
白ちゃけ
1:白ちゃけが観察されない。
2:白ちゃけが少し観察される。
3:白ちゃけが明瞭に観察される。
【0121】
(ギラツキの評価)
ギラツキは、次の手順で評価した。すなわち、まず
図13に平面図で示すようなユニットセルのパターンを有するフォトマスクを用意した。この図において、ユニットセル40は、透明な基板上に、線幅10μmでカギ形のクロム遮光パターン41が形成され、そのクロム遮光パターン41の形成されていない部分が開口部42となっている。ここでは、ユニットセルの寸法が211μm×70μm(図の縦×横)、したがって開口部の寸法が201μm×60μm(図の縦×横)のものを用いた。図示するユニットセルが縦横に多数並んで、フォトマスクを形成する。
【0122】
そして、
図14に模式的な断面図で示すように、フォトマスク43のクロム遮光パターン41を上にしてライトボックス45に置き、ガラス板47に粘着剤で防眩フィルム1をその凹凸面が表面となるように貼合したサンプルをフォトマスク43上に置く。ライトボックス45の中には、光源46が配置されている。この状態で、サンプルから約30cm離れた位置49で目視観察することにより、ギラツキの程度を7段階で官能評価した。レベル1はギラツキが全く認められない状態、レベル7はひどくギラツキが観察される状態に該当し、レベル4はごくわずかにギラツキが観察される状態である。
【0123】
〔5〕防眩フィルム製造用のパターンの評価
作成したパターンデータを2階調の二値化画像データとし、階調を二次元の離散関数g(x,y)で表した。離散関数g(x,y)の水平分解能ΔxおよびΔyはともに2μmとした。得られた二次元関数g(x,y)を離散フーリエ変換して、二次元関数G(f
x,f
y)を求めた。二次元関数G(f
x,f
y)を二乗して二次元パワースペクトルの二次元関数G
2(f
x,f
y)を計算し、原点からの距離fの関数である一次元パワースペクトルの一次元関数G
2(f)を計算した。
【0124】
<実施例1>
(防眩フィルム製造用の金型の作製)
直径200mmのアルミロール(JISによるA5056)の表面に銅バラードめっきが施されたものを用意した。銅バラードめっきは、銅めっき層/薄い銀めっき層/表面銅めっき層からなるものであり、めっき層全体の厚みは、約200μmとなるように設定した。その銅めっき表面を鏡面研磨し、研磨された銅めっき表面に感光性樹脂を塗布、乾燥して感光性樹脂膜を形成した。ついで、
図9に示すパターン(ランダムな明度分布を有するパターンから、特定の空間周波数範囲の成分を除去するバンドパスフィルターを通過させて作成した)を繰り返し並べたパターンを感光性樹脂膜上にレーザ光によって露光し、現像した。レーザ光による露光、および現像はLaser Stream FX((株)シンク・ラボラトリー製)を用いて行った。感光性樹脂膜にはポジ型の感光性樹脂を使用した。
【0125】
その後、塩化第二銅液で第1のエッチング処理を行った。その際のエッチング量は4μmとなるように設定した。第1のエッチング処理後のロールから感光性樹脂膜を除去し、再度、塩化第二銅液で第2のエッチング処理を行った。その際のエッチング量は11μmとなるように設定した。その後、クロムめっき加工を行い、金型Aを作製した。このとき、クロムめっき厚みが4μmとなるように設定した。
【0126】
(防眩フィルムの形成)
以下の各成分が酢酸エチルに固形分濃度60%で溶解されており、硬化後に1.53の屈折率を示す紫外線硬化性樹脂組成物Aを入手した。
【0127】
ペンタエリスリトールトリアクリレート 60部
多官能ウレタン化アクリレート 40部
(ヘキサメチレンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートの反応生成物)
ジフェニル(2,4,6−トリメトキシベンゾイル)ホスフィンオキシド 5部。
【0128】
この紫外線硬化性樹脂組成物Aを厚み60μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に、乾燥後の塗布厚みが7μmとなるように塗布し、60℃に設定した乾燥機中で3分間乾燥させた。乾燥後のフィルムを、先に得られた金型Aの凹凸面に、光硬化性樹脂組成物層が金型側となるようにゴムロールで押し付けて密着させた。この状態でTACフィルム側より、強度20mW/cm
2の高圧水銀灯からの光をh線換算光量で200mJ/cm
2となるように照射して、光硬化性樹脂組成物層を硬化させた。この後、TACフィルムを硬化樹脂ごと金型から剥離して、表面に凹凸を有する硬化樹脂とTACフィルムとの積層体からなる、透明な防眩フィルムAを作製した。
【0129】
<実施例2>
図15に示すパターン(ランダムな明度分布を有するパターンから、特定の空間周波数範囲の成分を除去するバンドパスフィルターを通過させて作成した)を繰り返し並べたパターンを感光性樹脂膜上にレーザ光によって露光したこと以外は実施例1と同様にして金型Bを作製し、金型Bを使用したこと以外は実施例1と同様にして防眩フィルムBを作製した。
【0130】
<実施例3>
第2のエッチング処理のエッチング量を10μmとなるように設定したこと以外は実施例2と同様にして金型Cを作製し、金型Cを使用したこと以外は実施例2と同様にして防眩フィルムCを作製した。
【0131】
<実施例4>
第2のエッチング処理のエッチング量を12μmとなるように設定したこと以外は実施例2と同様にして金型Dを作製し、金型Dを使用したこと以外は実施例2と同様にして防眩フィルムDを作製した。
【0132】
<実施例5>
図16に示すパターン(ランダムな明度分布を有するパターンから、特定の空間周波数範囲の成分を除去するバンドパスフィルターを通過させて作成した)を繰り返し並べたパターンを感光性樹脂膜上にレーザ光によって露光し、第1のエッチング処理のエッチング量を3μmとなるように設定し、第2のエッチング処理のエッチング量を10μmとなるように設定したこと以外は実施例1と同様にして金型Eを作製し、金型Eを使用したこと以外は実施例1と同様にして防眩フィルムEを作製した。
【0133】
<比較例1>
図17に示すパターン(ランダムな明度分布を有するパターンから、特定の空間周波数範囲の成分を除去するバンドパスフィルターを通過させて作成した)を繰り返し並べたパターンを感光性樹脂膜上にレーザ光によって露光したこと以外は実施例1と同様にして金型Fを作製し、金型Fを使用したこと以外は実施例1と同様にして防眩フィルムFを作製した。
【0134】
<比較例2>
図18に示すパターン(ランダムな明度分布を有するパターンから、特定の空間周波数範囲の成分を除去するバンドパスフィルターを通過させて作成した)を繰り返し並べたパターンを感光性樹脂膜上にレーザ光によって露光したこと以外は実施例5と同様にして金型Gを作製し、金型Gを使用したこと以外は実施例1と同様にして防眩フィルムGを作製した。
【0135】
<比較例3>
直径300mmのアルミロール(JISによるA5056)の表面を鏡面研磨し、研磨されたアルミ面に、ブラスト装置((株)不二製作所製)を用いて、ジルコニアビーズTZ−SX−17(東ソー(株)製、平均粒径:20μm)を、ブラスト圧力0.1MPa(ゲージ圧、以下同じ)、ビーズ使用量8g/cm
2(ロールの表面積1cm
2あたりの使用量、以下同じ)でブラストし、表面に凹凸をつけた。得られた凹凸つきアルミロールに対し、無電解ニッケルめっき加工を行い、金型Hを作製した。このとき、無電解ニッケルめっき厚みが15μmとなるように設定した。得られた金型Hを用いたこと以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムHを作製した。
【0136】
[各金型の製造に用いたパターンの一次元パワースペクトル]
上記
図10は、防眩フィルムA(実施例1)の作製に使用した
図9に示すパターンを離散フーリエ変換して得られたパワースペクトルG
2(f)を示す図に相当する。また、
図19は、防眩フィルムB〜G(実施例2〜4、5および比較例1、2)の作製に使用したパターンの一次元パワースペクトルG
2(f)を示す図である。
【0137】
図10および
図19より、防眩フィルムA〜E(実施例1〜5)の作製に使用したパターンの一次元パワースペクトルを空間周波数に対する強度として表したときのグラフは、空間周波数0.007μm
−1以上0.015μm
−1以下に第一の極大値を有し、空間周波数0.05μm
−1以上0.1μm
−1以下に第二の極大値を有することが分かる。一方、防眩フィルムFおよびG(比較例1および2)の作製に使用したパターンの一次元パワースペクトルを空間周波数に対する強度として表したときのグラフは、空間周波数0.007μm
−1以上0.015μm
−1以下に極大値を有さないことが分かる。
【0138】
[評価結果]
上記実施例および比較例について、上述の防眩フィルムの評価を行った結果を表1に示す。
【0139】
また、
図20には、防眩フィルムB〜D(実施例2〜4)について、標高より計算された一次元パワースペクトルの常用対数logH
2(f)のグラフを示し、
図21には、防眩フィルムE(実施例5)および防眩フィルムF(比較例1)についてのlogH
2(f)のグラフを示し、
図22には、防眩フィルムG(比較例2)および防眩フィルムH(比較例3)についてのlogH
2(f)のグラフを示した。なお、上記
図6は、防眩フィルムAについて、標高より計算された一次元パワースペクトルの常用対数logH
2(f)を示す図に相当する。
【0140】
【表1】
【0141】
表1に示したように、防眩フィルムA〜E(実施例1〜5)について、標高のパワースペクトルの常用対数の空間周波数に関する二次導関数d
2logH
2(f)/df
2は、空間周波数0.01μm
−1において0未満であり、空間周波数0.02μm
−1において0より大きかった。
【0142】
表1に示す二次導関数d
2logH
2(f)/df
2の値に対応して、
図6、
図20および
図21に示す、防眩フィルムA〜Eについて標高のパワースペクトルの常用対数を空間周波数に対する強度として表したグラフは、空間周波数0.01μm
−1において上に凸の形状を有し、空間周波数0.02μm
−1において下に凸の形状を有していた。
【0143】
一方、防眩フィルムF(比較例1)について、表1に示す標高のパワースペクトルの常用対数の空間周波数に関する二次導関数d
2logH
2(f)/df
2は、空間周波数0.01μm
−1および空間周波数0.02μm
−1において0より大きかった。これに対応して、防眩フィルムF(比較例1)について、標高のパワースペクトルの常用対数を空間周波数に対する強度として表したグラフ(
図21)は、空間周波数0.01μm
−1および空間周波数0.02μm
−1において下に凸の形状を有していた。
【0144】
また、防眩フィルムGおよびH(比較例2および3)について、標高のパワースペクトルの常用対数の空間周波数に関する二次導関数d
2logH
2(f)/df
2は、空間周波数0.01μm
−1において0より大きく、空間周波数0.02μm
−1において0未満であった。これに対応して、防眩フィルムGおよびH(比較例2および3)について、標高のパワースペクトルの常用対数を空間周波数に対する強度として表したグラフ(
図22)は、空間周波数0.01μm
−1において下に凸の形状を有し、空間周波数0.02μm
−1において上に凸の形状を有していた。
【0145】
本発明の要件を満たす防眩フィルムA〜E(実施例1〜5)は低ヘイズであるにも関わらず、必要十分な防眩性と優れたギラツキ抑制効果を発現した。一方、防眩フィルムF(比較例1)は標高のパワースペクトルの常用対数を空間周波数に対する強度として表したグラフが、空間周波数0.01μm
−1および空間周波数0.02μm
−1において下に凸の形状を有していたため、優れたギラツキ抑制効果は示したが、防眩性が不十分であった。また、標高のパワースペクトルの常用対数を空間周波数に対する強度として表したグラフが、空間周波数0.02μm
−1において上に凸の形状を有していた防眩フィルムGおよびH(比較例2および3)はギラツキが強く観察された。
【0146】
なお、実施例1〜5および比較例1〜2で得られた防眩フィルムは、その光硬化性樹脂組成物の硬化物からなる凹凸面を光学顕微鏡で観察したところ、点状の凹凸に加え、線状の凸部が観察された。一方、比較例3で得られた防眩フィルムについては、点状凹凸のみで、線状の凸または凹は観察されなかった。