(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣の変化により、家庭で調理を行わず、弁当や総菜等の調理済食品を購入して家庭で食することが増えている。調理済食品は、一般に、工場や店内の厨房で大量に製造され、その後配送又は店頭に陳列されるので、製造から家庭で食されるまでの間に長時間が経過している場合がある。そのため、こうした大量製造されて店頭で販売される調理済食品には、食品の品質を長期間維持するための工夫が施されているのが通常である。
【0003】
調理済食品を長期保存するとき問題となるのが、微生物の繁殖による食品の腐敗や変質である。特に、バチルス属やクロストリジウム属のような芽胞菌は、耐熱性が高く通常の調理の加熱で殺菌されにくいため問題となる。芽胞菌以外の菌でも、ミクロバクテリウムのような耐熱性の強い菌群は、通常の調理過程では殺菌されにくいため、制御が困難な菌である。
【0004】
従来、調理済食品における微生物の繁殖を抑えてその品質を保持するための手段として、保存料や日持ち向上剤の添加が一般に行われている。保存料としては、例えば、ソルビン酸、安息香酸、プロタミン、ポリリジン等の塩基性ペプチド等、日持ち向上剤としては、酢酸、フマル酸、アジピン酸等の有機酸又はその塩、グリシン、アラニン等のアミノ酸、低級脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ビタミンB1エステル、含水エタノール、重合リン酸等、多くの物質が知られている。
【0005】
従来の食品保存手段としてはまた、冷凍保存や加圧加熱殺菌(レトルト)が知られているが、これらの手段は、高価な設備や煩雑な温度管理が必要な上、食品の食味や食感、風味を損ねる場合がある。
【0006】
また、無酸素下や不活性ガス存在下で食品を保存することにより、食品における微生物の繁殖を抑えることができることが知られている。例えば特許文献1には、調理食品の腐敗防止方法として、加熱調理済を容器内に密封し、且つ該容器内の二酸化炭素濃度を5%以上、酸素濃度を5%以下にすることが記載されている。特許文献1には、容器内を静菌状態に保って腐敗を防止得ると共に食品の香り、味、風味等を保持するためには、容器内の酸素濃度を1%以下にすることが好ましい旨も記載されており、実施例では、加熱調理済食品を容器内に密封した際の、該容器内の残存酸素量を0.4%に設定し、該実施例のバチルス属の耐熱性菌に対する有効性が示されている。
【0007】
また特許文献2には、保存性の良好なチルド流通密封食品の製造法として、加熱されていない非加熱食品に有機酸塩を所定量添加してpHを6〜7に保持し、該非加熱食品を、品温が100℃以下となるような条件で加熱処理した後、二酸化炭素濃度が5%以上の容器内に密封する方法が記載されている。特許文献2には、容器内を静菌状態に保って腐敗を防止
し得ると共に食品の香り、味、風味等を保持するためには、容器内の酸素濃度を1%以下にすることが好ましい旨も記載されており、特許文献2記載の方法が特にバチルス属の芽胞菌に対して有効である旨も記載されている。
【0008】
また特許文献3には、青果物等の非加熱の生鮮食品の保存方法として、有機系の脱酸素剤及び鉄系の脱酸素剤と共に、食品を密閉可能な容器内に収容し、且つ該容器内の気体の組成を、酸素7%以下、二酸化炭素10〜0.5%、窒素99〜82%とする方法が記載されており、この密閉容器内の食品を、10℃以下で且つ該食品が全く又は殆ど凍結しない温度以上で冷却することも記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の調理済食品封入体について、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の第1実施形態の調理済食品封入体は、密封された包装容器と該包装容器内の収容空間に封入されている加熱調理済食品とを含んで構成される調理済食品封入体であって、前記収容空間に酸素(O
2)、二酸化炭素(CO
2)及び窒素(N
2)が含まれ、且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下であり、前記加熱調理済食品は静菌剤を含み、前記収容空間の容積に占める前記加熱調理済食品の体積の割合が20〜80%である。第1実施形態の調理済食品封入体は、クロストリジウム属の微生物(ボツリヌス菌)の他、バチルス属及びミクロバクテリウム属の微生物に対しても、優れた増殖抑制効果を示す。
【0019】
第1実施形態の調理済食品封入体は、加熱調理済食品をガス置換包装により包装容器内に密封したものである。加熱調理済食品は、1種又は2種以上の各種食材(肉類、野菜類、魚類等)を加熱調理して得られる食品であり、その種類や調理法は特に制限されず、例えば食材(食品)の加熱回数は1回のみならず2回以上であっても良い。加熱調理済食品としては各種惣菜が挙げられ、具体的には例えば、煮物類、焼き物類、茹で物類、蒸し物類、炒め物類、揚げ物類、汁物類、麺類、飯類、パン類、菓子類等が挙げられる。
【0020】
加熱調理済食品の一例として、中心温度が75〜90℃となるような条件で1分間以上加熱された食品が挙げられる。ここで「中心温度」とは、加熱調理される食品において、該食品全体を均一に加熱して該食品の品温を昇温させた場合に、最も昇温に時間がかかる部分の温度のことであり、例えば、記憶式温度計データトレース(西華産業)によって測定することができる。加熱調理済食品がこのような条件(加熱温度、加熱時間)で調理されたものであると、本発明で静菌対象とするバチルス属やクロストリジウム属のような芽胞菌やミクロバクテリウムのような耐熱性の強い菌群以外の非耐熱性の菌類を殺菌できる。
【0021】
第1実施形態の調理済食品封入体は、加熱調理済食品の1種又は2種以上を含む。第1実施形態の調理済食品封入体が2種以上の加熱調理済食品を含む場合、その2種以上の組み合わせとしては、複数種の異なる惣菜の組み合わせ、惣菜と飯との組み合わせ等、所望に応じて任意に設定することができる。
【0022】
加熱調理済食品は静菌剤(制菌剤)を含む。加熱調理済食品に静菌剤を含有させることで、チルド状態の加熱調理済食品における耐熱性微生物の増殖、特にバチルス属及びミクロバクテリウム属の微生物の増殖を効果的に抑制することができる。加熱調理済食品に含有可能な静菌剤としては有機酸塩が挙げられる。有機酸塩(静菌剤)としては、例えば、酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸等の有機酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの有機酸塩(静菌剤)の中でも特に、酢酸ナトリウムが好ましい。
【0023】
加熱調理済食品における有機酸塩(静菌剤)の含有量は、加熱調理済食品の全質量に対して、好ましくは0.1〜1.0質量%、更に好ましくは0.1〜0.35質量%、より好ましくは0.1〜0.25質量%である。加熱調理済食品における有機酸塩(静菌剤)の含有量が少なすぎると、有機酸塩を添加する意義(耐熱性微生物の増殖抑制)に乏しく、該含有量が多すぎると、加熱調理済食品の酸味が増して該食品本来の食味、風味が失われるおそれがある。
【0024】
第1実施形態の調理済食品封入体を構成する包装容器としては、食品のガス置換包装に通常使用される材料、例えばガスバリア性又は酸素バリア性の樹脂類や金属等から製造された包装容器を用いることができる。このような包装容器材料の例としては、アルミニウム等の金属類、ポリビニルアルコール(PVA)、ナイロン(NY)類、エチレン/ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アルミラミネート(AL)、アルミ蒸着フィルム(VM)、シリカ蒸着フィルム、PET/NY/ポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)、PET/NY/AL/PP又はPE、PP/EVOH/PE、PP/PVA/PE等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
また、包装容器は、加熱調理済食品を直接的又は間接的に収容可能な収容空間を内部に有し且つ密閉可能なものであれば良く、その形状、寸法は特に制限されない。包装容器の形状としては、例えばトレー、カップ、袋、箱、缶等から任意に選択することができる。ここで「食品を直接的に収容可能」とは、食品を包装せずにそのまま収容し得ることを意味し、「食品を間接的に収容可能」とは、包装容器とは別の容器に収容された食品を該別の容器ごと収容し得ることを意味する。第1実施形態の調理済食品封入体には、前者(食品を包装容器に直接収容する形態)のみならず、後者(食品を包装容器に間接的に収容する形態)も含まれる。包装容器に収容される前記別の容器の材質、形状、寸法は特に制限されず、包装容器と同様に構成することができるが、該別の容器が、一部に設けられた開口を通じて外部と連通している開放型容器であると、ガス置換しやすいという効果が奏される。
【0026】
包装容器内の収容空間は、仕切り部材の無い単一の空間であっても良く、仕切り部材によって複数の小空間に区分けされていても良い。包装容器内の収容空間が複数の小空間に区分けされている場合、1種又は2種以上の加熱調理済食品を各小空間に配することが可能となり、それによって、例えば、1種類の加熱調理済食品を複数人数分小分けして包装する形態、あるいは2種類以上の加熱調理済食品をその種類ごとに分けて包装する形態等、種々の包装形態に調理済食品封入体を適用させることが可能となる。包装容器内の収容空間における複数の小空間が互いに連通していると、ガス置換しやすいという効果が奏される。尚、包装容器内の収容空間に収容される前記別の容器も、包装容器と同様に複数の小空間に区分けされていても良い。
【0027】
包装容器の収容空間の容積(複数の小空間に区分けされている場合はそれらの容積の合計)に占める、加熱調理済食品の体積(2種以上の加熱調理済食品が収容されている場合はそれらの体積の合計)の割合(食品の収容空間占有率)は、好ましくは20〜80%、更に好ましくは20〜70%である。斯かる割合が小さすぎると、a)加熱調理済食品に対して包装容器が大きすぎてバランスが悪く、食品が型崩れしやすくなる、b)収容空間に存する特定組成のガス量が多くなることに起因して、食品の酸素との接触機会が高くなり、食品の酸化の進行度合が強くなる、c)食品の二酸化炭素との接触機会が高くなり、炭酸味が増してしまう、等の不都合が生じるおそれがあり、逆に斯かる割合が大きすぎると、収容空間に存する特定組成のガス量が少なくなることに起因して、加熱調理済食品における耐熱性微生物(特にバチルス属及びミクロバクテリウム属の微生物)の増殖抑制効果が低下するおそれがある。
【0028】
第1実施形態の調理済食品封入体は、前述したように、1)加熱調理済食品は静菌剤を含む、及び2)前記食品の収容空間占有率が20〜80%である、という2つの構成要件を具備していると共に、更に、3)包装容器の収容空間の二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下、及び4)該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下、という構成要件も具備している。前記1)〜4)を全て満たすことで初めて、加熱調理済食品本来の食味や風味を維持しつつ、チルド状態の加熱調理済食品における複数種の耐熱性微生物(バチルス属、ミクロバクテリウム属、クロストリジウム属等)の増殖又は毒素産生を効果的に抑制することが可能になる。特に、前記1)〜3)は、バチルス属及びミクロバクテリウム属の微生物の増殖抑制に有効であり、前記4)は、クロストリジウム属の微生物(ボツリヌス菌)の毒素産生抑制に有効である。
【0029】
包装容器の収容空間の酸素濃度が1容量%未満では、特にボツリヌス菌の毒素産生抑制効果に乏しく、逆に該酸素濃度が10容量%を超えると、加熱調理済食品の酸化、特に油脂成分の酸化に伴う臭気、異味や緑黄色野菜の退色等が生じやすくなり、該食品本来の食味、風味が失われるおそれがある他、ボツリヌス菌(クロストリジウム属の芽胞菌)以外の他の耐熱性微生物(例えばバチルス属の芽胞菌)が増殖するおそれもある。酸素は、ボツリヌス菌等の一部の耐熱性微生物の増殖又は毒素産生抑制には有効であるが、バチルス属の芽胞菌等にとってはむしろ有用なものであるから、包装容器の収容空間の酸素濃度が高すぎることは、加熱調理済食品の食味や風味の観点のみならず、加熱調理済食品の保存性の観点からも好ましくない。包装容器内の収容空間の酸素濃度は、好ましくは1〜5容量%、更に好ましくは1〜3容量%である。
【0030】
また、前記1)及び2)を具備していても、包装容器の収容空間の二酸化炭素濃度が20容量%未満では、特にバチルス属及びミクロバクテリウム属の微生物(ボツリヌス菌以外の耐熱性微生物)の増殖又は毒素産生抑制効果に乏しく、逆に該二酸化炭素濃度が50容量%を超えると、加熱調理済食品の酸味が増して該食品本来の食味、風味が失われるおそれがある。包装容器内の収容空間の二酸化炭素濃度は、好ましくは20〜40容量%、更に好ましくは25〜35容量%である。
【0031】
第1実施形態の調理済食品封入体において、包装容器の収容空間にはガス成分として、酸素及び二酸化炭素以外に窒素が含まれる。例えば、包装容器の収容空間に存するガス成分が酸素、二酸化炭素及び窒素の3成分のみである場合、酸素及び二酸化炭素の濃度をそれぞれ前記範囲とした場合の残りが、該収容空間の窒素濃度である。
【0032】
第1実施形態の調理済食品封入体において、包装容器の収容空間には、酸素、二酸化炭素及び窒素以外の他のガス成分、例えば、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)等の不活性ガスが存していても良い。尚、調理済食品封入体における包装容器の収容空間のガス組成は、市販のガス分析計(例えば、商品名「CheckMate」、PBI Dansensor社製)によって測定することができる。
【0033】
包装容器の収容空間のガス組成を前記特定範囲に調整する方法は特に制限されないが、一般的な方法としては、該収容空間に元々存するガスを特定組成のガスに置換するガス置換法が挙げられる。ガス置換法の具体例としては例えば、i)加熱調理済食品が収容された包装容器内の収容空間に、特定組成のガスをフラッシュして容器内のガスを置換する方法、ii)加熱調理済食品が収容された包装容器内の収容空間を真空脱気した後に、特定組成のガスを充填する方法、等が挙げられる。ガス置換法において、包装容器の収容空間のガス置換率は、通常95%以上である。前記i)及びii)において、包装容器の収容空間に充填する特定組成のガスとしては、密封された該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下となるようなガスであれば良く、酸素、二酸化炭素及び窒素に加えて更に、前記不活性ガスを含んでいても良い。
【0034】
第1実施形態の調理済食品封入体は、チルド状態で長期保存が可能である。ここで「チルド状態」とは、基本的に、調理済食品封入体の保存環境の平均温度が0℃〜10℃の範囲内にある状態をいうが、該平均温度は、必ずしも斯かる特定範囲に限定されるものではなく、チルド状態を作り出すための冷蔵装置の稼働状況、あるいは調理済食品封入体の移送時、搬入・搬出時等の作業に起因して、意図せずに斯かる特定範囲から逸脱する場合があり得、その温度の逸脱程度は、調理済食品封入体自体の温度(品温)にして、通常±2℃程度である。従って、この意図しない温度の変動域を考慮すると、チルド状態とは、調理済食品封入体の品温が−2℃〜+12℃に維持される状態と言い換えることができる。
【0035】
第1実施形態の調理済食品封入体は、前記チルド状態の中でも高温域である8℃〜10℃の温度帯においても長期保存が可能であり、より低温域で取り扱うための手間やコストを軽減することができるので、きわめて有用性が高い。ここで「長期保存」とは、調理済食品封入体の種類等にもよるが、通常、7日間以上、好ましくは10日間以上、更に好ましくは14日間以上、より好ましくは21日間以上の期間の保存をいう。
【0036】
第1実施形態の調理済食品封入体に封入された食品(加熱調理済食品)においては、微生物の増殖が長期間に亘って抑えられており、前記「長期保存」後の該食品1gあたりの微生物数は、1×10
5未満に保たれ得る。第1実施形態において増殖又は毒素産生が抑制される微生物の例については前述した通りであり、第1実施形態の調理済食品封入体は、クロストリジウム属(ボツリヌス菌)、バチルス属、ミクロバクテリウム属等の微生物に対して優れた増殖又は毒素産生抑制効果を示す。特許文献1及び2に記載の如き、包装容器内の酸素濃度を1%以下にする保存方法では、チルド状態の加熱調理済食品におけるバチルス属の芽胞菌の増殖又は毒素産生を抑制することはできても、該食品におけるボツリヌス菌の毒素産生を抑制することはできない。尚、食品における微生物数の測定は、平板塗沫法等の公知の方法に従って行うことができる。
【0037】
次に、本発明の第2実施形態の調理済食品封入体について説明するが、第2実施形態については、前述した第1実施形態と異なる構成部分を主として説明し、第1実施形態と同様の構成部分は説明を省略する。第2実施形態における特に説明しない構成部分は、第1実施形態についての説明が適宜適用される。第2実施形態の調理済食品封入体は、密封された包装容器と該包装容器内の収容空間に封入されている加熱調理済食品とを含んで構成される調理済食品封入体であって、前記収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ、且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下である。
【0038】
第2実施形態は、第1実施形態の必須構成要件である前記1)〜4)のうち、前記4)「包装容器の収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下」のみを必須とし、他の要件は必須ではない点で、第1実施形態と異なる。第2実施形態の調理済食品封入体は、クロストリジウム属の微生物、特にボツリヌス菌の微生物に対して優れた毒素産生抑制効果を示す。また、第2実施形態の調理済食品封入体に封入された食品(加熱調理済食品)の具体例としては、マカロニグラタン、ひじき煮、ハンバーグ、ビーフシチュー、鶏の照焼等の加熱済み惣菜類が挙げられる。
【0039】
前述した第1及び第2実施形態を含む、本発明の調理済食品封入体の製造方法(調理済食品の保存方法)は、例えば、下記工程1及び2を含むものでも良い。下記工程2の「チルド状態」については、前述した通りである。
・工程1:密封可能な包装容器の収容空間に加熱調理済食品を封入し、該収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下となるように、該収容空間のガスを置換する(ガス置換工程)。
・工程2:前記工程2(ガス置換工程)後に、前記包装容器に封入された前記加熱調理済食品を該包装容器ごとチルド状態で保存する工程。
【0040】
前記工程1の実施前の準備として、加熱調理済食品を用意する。加熱調理済食品については前述した通りである。加熱調理済食品に有機酸塩等の静菌剤を含有させる場合、静菌剤を食品(食材)に添加する時期は特に制限されず、加熱調理済食品の原料である各種食材に添加(各種食材の加熱調理前に添加)しても良く、あるいは加熱調理済食品の製造過程(各種食材の加熱調理の過程)で添加しても良く、加熱調理済食品に添加(各種食材の加熱調理後に添加)しても良い。また、前記工程1に供される加熱調理済食品は、製造直後(加熱調理直後)のものであっても良く、あるいは製造後、無菌下又は減菌下で冷却若しくは保温された状態で一定時間保管した後のものであっても良い。
【0041】
必要に応じ、前記工程1に供される加熱調理済食品のpHを調整しても良い。一般に、食品のpHが微生物の増殖に好ましいpHの範囲から逸脱するとその保存性が向上する反面、食品の風味に悪影響が出るおそれがある。加熱調理済食品の前記工程1に供される前(ガス置換包装前)の状態でのpHは、微生物安全性の観点からは、好ましくは7.5以下、更に好ましくは7.2以下、より好ましくは6.5以下、より好ましくは6.0以下であり、風味の観点からは、好ましくは4.0以上、更に好ましくは4.5以上、より好ましくは5.0以上、より好ましくは5.5以上、より好ましくは6.0以上である。加熱調理済食品のpHは、該食品の種類に応じて、風味が損なわれない範囲で調整されることが望ましい。
【0042】
前記工程1(ガス置換工程)において、ガス置換は前記i)及びii)の何れかの方法によって行うことができる。前記工程1におけるガス置換法の一例として、第1実施形態の調理済食品封入体を製造する場合に、酸素、二酸化炭素及び窒素を含み且つこれら3成分の含有体積比が酸素:二酸化炭素:窒素=1〜10:20〜50:40〜79の範囲にある、混合ガスを用意し、該混合ガスを、加熱調理済食品が収容された包装容器内の収容空間に、該収容空間のガス置換率95%以上となるように充填する方法が挙げられる。
【0043】
前記工程1(ガス置換工程)において、包装容器の収容空間への加熱調理済食品の封入は常法に従って行うことができ、例えば、所定の包装容器の収容空間に、加熱調理済食品及び特定組成のガスを充填し、ヒートシール等の公知のシール方法を用いて該容器を密封すれば良い。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は斯かる実施例にのみ限定されるものではない。
尚、実施例1及び5は参考例である。
【0045】
〔実施例1〜13、比較例1〜5及び参考例1〜4〕
加熱調理済食品として、マカロニグラタン及び麻婆豆腐(何れも惣菜)をそれぞれ下記方法により製造した。製造した惣菜のうちの1種を包装容器(PP製、収容容量340mL)の収容空間に充填した後、酸素、二酸化炭素及び窒素のうちの少なくとも2種以上を含む混合ガス(当該実施例、比較例又は参考例における、包装容器の収容空間のガスの組成の目標値と同じ組成の混合ガス)を用いて、卓上型真空包装器V−380G(東静電気株式会社)により、該収容空間のガスを該混合ガスで置換し且つ該包装容器を密封して、目的とする調理済食品封入体を製造した。
こうして得られた調理済食品封入体の包装パウチ表面にゴムシールを貼り、該シールを介して注射針を刺し、食品の表面にボツリヌス菌(Clostridium botulinum type E)の芽胞液を接種し、菌接種済且つ調理済食品封入体を製造した。
一方、バチルス属及びミクロバクテリウム属の菌については、製造した惣菜のうちの1種を包装容器(PP製、収容容量340mL)の収容空間に充填した後、各菌液を惣菜全体に接種し、しかる後、酸素、二酸化炭素及び窒素のうちの少なくとも2種以上を含む混合ガスを用いて、菌接種済且つ調理済食品封入体を製造した。
こうして得られた菌接種済且つ調理済食品封入体は、製造後速やかに平均温度10℃の環境下にてチルド状態で保存した。
【0046】
マカロニグラタンの製造は、調理レシピ(決定版・小林カツ代の基本のおかず、p.176、主婦の友社発行)に従って行い、食材は該調理レシピに従って準備した。
麻婆豆腐の製造は、調理レシピ(やっぱりおいしい基本の中華料理、p.62、成美堂出版発行)に従って行い、食材は該調理レシピに従って準備した。
また、静菌剤を用いる場合、惣菜の種類を問わず、静菌剤として酢酸ナトリウムを用い、且つ食材に酢酸ナトリウムを所定量添加した後、該食材の中心温度が85℃で2.5分間維持されるように、該食材を加熱調理した。
【0047】
〔評価試験〕
各実施例及び比較例の菌接種済且つ調理済食品封入体について、製造直後における包装容器の収容空間のガスの組成を、前記ガス分析計(商品名「CheckMate」、PBI Dansensor社製)を用いたサンプリング検査により測定した。
また、各実施例及び比較例の菌接種済且つ調理済食品封入体について、ボツリヌス菌の毒素産生抑制効果とバチルス属及びミクロバクテリウム属の菌の増殖抑制効果とを評価した。
具体的には、ボツリヌス菌の毒素産生抑制効果評価については、チルド状態(10℃)で14日保存後、検体の内容物全量を無菌的にストマッカー用滅菌ポリエチレン袋(栄研化学製、フィルトレイトバッグHG−S)にとり、4倍量の滅菌脱イオン水を加えてストマッカーで十分に混和し、5倍乳剤とした。この5倍乳剤1.5mLを等量の2%トリプシン液を混合し、37℃1時間加熱処理した。この液0.4mLずつをマウス(ddY、クリーンマウス、4週齢、オス)2匹の腹腔内に注射した。注射後72時間以内に2匹ともへい死したものを毒素陽性、2匹とも生残したものを毒素陰性とした。
バチルス属及びミクロバクテリウム属の増殖抑制効果評価については、菌接種済且つ調理済食品封入体について、製造直後及びチルド状態(10℃)で14日間保存後それぞれにおけるその惣菜中の微生物(添加した菌)の数を下記方法により測定し、製造直後の惣菜中の微生物数を「初期微生物数」とした場合に、チルド状態で14日間保存後の微生物数の初期微生物数からの増加数が11og以下の場合を○、該増加数が11ogを超える場合を×とした。
また、実施例11〜13並びに参考例3及び4については、チルド状態(10℃)で14日間保存後の菌未接種の調理済食品封入体に封入されている食品の品質を下記方法により評価した。以上の結果を下記表1〜表3に示す。
【0048】
<微生物数の測定方法>
封入体中の培地中の微生物数を、包装直後、及びチルド状態(10℃)で14日間保存後にそれぞれ測定した。微生物数は表面塗抹平板法により計測した。具体的には次の通りに行った。
試料液は希釈液にて10倍に希釈し、よく混合することで調製した。その後、各種寒天培地をあらかじめ平板として固めた培地表面に、試料液0.1mLあるいは100倍、10000倍に希釈した試料液0.1mLを滴下し、コンラージ棒で均等に塗抹し、培養した。培地及び培養条件としては、バチルス属、ミクロバクテリウム属の菌数測定には、標準寒天培地(栄研化学)を用いた35℃、48時間の好気培養を採用した。
微生物数は、培地で生育したコロニー数に希釈倍数を乗じて培地1gあたりの微生物数(cfu/g)として計測した。例えば、試料液を希釈せずに0.1mLの試料液を接種した培地において、培養後に30個のコロニーが観察された場合、3.0×10
3cfu/gとした。各菌についての培地の中で最大の微生物数となった培地の値を、微生物数測定結果とした。
【0049】
<食品の品質の評価方法>
菌未接種の調理済食品封入体に封入されている食品を10名のパネラーが喫食し、下記評価基準(5点満点)により評価した。それら評価点の平均点を算出して品質評価とした。
(食品の品質の評価基準)
5点:14日間のチルド状態での保存前と同等の非常に良好な風味。
4点:14日間のチルド状態での保存前よりやや劣るが良好な風味。
3点:14日間のチルド状態での保存前と比べて風味が劣る。
2点:14日間のチルド状態での保存前と比べて風味が著しく劣る。
1点:風味が悪く、商品として提供できない。
【0050】
【表1】
【0051】
表1は、主として、微生物(ボツリヌス菌)の毒素産生抑制効果に対する包装容器の収容空間の酸素濃度の影響をまとめたものであり、前記第2実施形態の有効性の評価に関するものである。表1に示す通り、包装容器の収容空間の酸素濃度が0容量%であると、食品の種類によってはボツリヌス菌の増殖を抑制できない場合がある(比較例2)。これに対し、各実施例のように、包装容器の収容空間の酸素濃度を1容量%以上とすることで、ボツリヌス菌の毒素産生を効果的に抑制することができる。
【0052】
【表2】
【0053】
表2は、主として、前記第1実施形態の有効性の評価に関するものである。表2では、各例をI〜IIIの3つのグループに分けているところ、グループIは、包装容器の収容空間の二酸化炭素濃度を適宜変化させた例であり、グループIIは、加熱調理済食品中の静菌剤の含有量を適宜変化させた例であり、グループIIIは、食品の収容空間占有率を適宜変化させた例である。表2に示す通り、バチルス属及びミクロバクテリウム属の微生物の増殖を抑制するためには、包装容器の収容空間の二酸化炭素濃度を20〜40容量%、且つ加熱調理済食品中の静菌剤の含有量を0.1〜0.25質量%、且つ食品の収容空間占有率を30〜70質量%とすることが有効であることがわかる。一方、ボツリヌス菌に対しては、包装容器の収容空間の酸素濃度が7容量%であれば、二酸化炭素濃度、静菌剤、食品の収容空間占有率の如何を問わず、その毒素産生を抑制できることがわかる。