(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より製菓、製パン等の分野においては、卵白の起泡性を利用して種々の食品が製造されている。この場合、これらの食品の膨化度、きめ、食感等には卵白の起泡性が大きく関与する。そこで、卵白としては起泡性の高いものが求められている。
【0003】
卵白の起泡性は、添加剤、pH、熱処理等の種々の影響を受けるが、特に、卵黄が混入すると起泡性が大きく低下することが知られている。一方、工業的規模で機械的に殻付き卵を割卵し、卵黄と卵白とを分離する場合、得られる卵白には、通常、不可避的に若干量(0.01〜0.5%)程度の卵黄が混入する。そこで、工業的には、卵黄が0.01〜0.5%程度混入している卵白の起泡性を、卵黄が混入していない卵白と同程度に向上させることが求められている。
【0004】
これに対して、卵白にサイクロデキストリン及び蛋白質分解物を含有させること(特許第3072640号)が提案されている。
【0005】
これらの添加剤を用いる方法はいくつか提案されているが、添加剤を用いることなく起泡性が向上している卵白が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、格別に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0014】
<本発明の特徴>
本発明は、卵黄が特定量混入した液卵白に微細気泡処理を施すことにより、卵黄混入量が低減された液卵白を提供することに特徴を有する。
【0015】
1.微細気泡処理を施す気泡処理工程
<気泡処理工程>
本発明での気泡処理工程は、卵黄が特定量混入した液卵白中に、平均気泡径が50μm以下である微細気泡処理を施し、微細気泡を発生させることを言う。
発生した微細気泡はその表面が疎水性であるため、当該微細気泡に卵黄が吸着し、当該微細気泡が徐々に液面に浮上する。
【0016】
<微細気泡>
本発明で用いる微細気泡とは、その発生時において、平均気泡径が50μm以下であるものをいう。
【0017】
<気体の種類>
前記気泡処理工程において、発生させる微細気泡は、空気、酸素ガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス等の各種ガスを用いることができる。本発明においては、より卵黄混入量を低減させることができる、二酸化炭素ガスを用いるのがよい。
【0018】
<微細気泡の発生方法>
本発明での微細気泡の発生方法は、一般的に市販されている微細気泡発生装置である、マイクロバブル発生装置、ファインバブル発生装置等により発生させる方法が挙げられる。
特に、マイクロバブル発生装置は、発生原理により以下の5種類に大別される。旋回液流式、スタティックミキサー式、ベンチュリ式、エゼクター式、加圧式の5種類である。
本発明では、微細気泡の発生量が多く、安定して50μm以下の微細気泡が得られ易いことから、旋回液流式及び加圧溶解式のマイクロバブル発生装置を用いると良く、特に加圧溶解式マイクロバブル発生装置を用いるのが良い。
また、マイクロバブル発生システムは液ポンプで連続的に液を吸引し、マイクロバブルを添加して排出し、再び液を吸引する操作を連続的に行う液循環式と、最初にマイクロバブルを液に導入したのちはマイクロバブルが離脱するまではマイクロバブルを追加しないバッチ式とがある。液ポンプ駆動式のマイクロバブル発生装置を用いると、流路に隣接するモーターの熱により流通する液卵白が徐々に加熱される危険があるため、モーターの発熱が伝わらない工夫がされたマイクロバブル発生装置、あるいはバッチ式の加圧溶解式マイクロバブル発生器を用いるのが良い。
【0019】
<微細気泡の発生量>
本発明での微細気泡の発生量は、一般的に市販されている微細気泡発生装置を用いて、適宜、タンクの大きさや形状、液卵白量に応じて調整することができる。
例えば、加圧溶解式マイクロバブル発生装置を用いる場合は、0.2MPa以上、0.5MPa以下に加圧して微細気泡を発生させるのが良い。
【0020】
2.分離工程
本発明の液卵白の製造方法では、前記気泡処理工程の後、卵黄が吸着し液面に浮上した気泡と卵黄混入量が低減された液卵白とを分離する分離工程を行う。
具体的な分離方法としては、浮上した気泡を液面から掬い取る方法、気泡処理工程後、タンクの底部又は下部から卵黄混入量が低減された液卵白を取出す方法、タンク中の卵黄混入量が低減された液卵白にチューブを入れ、当該液卵白を吸取る方法などが挙げられる。
【0021】
3.卵黄混入量が低減された液卵白の製造方法
本発明の液卵白の製造方法は、上述の通り、微細気泡処理を施す気泡処理工程と、前記処理後、液面に浮上した気泡と卵黄混入量が低減された液卵白とを分離する分離工程を有するものである。
また、前記気泡処理工程の前及び前記分離工程の後には、適宜脱糖処理、脱リゾチーム処理、加熱殺菌処理、凍結処理、濃縮処理、乾燥処理等を行うことができる。
【0022】
本発明の液卵白の製造方法として、バッチ式の加圧溶解式マイクロバブル発生装置を用いた例の製造方法について、下記に詳述する。なお、本発明はこの方法に限定されるものではない。
バルブと、エアーコンプレッサーとが上部に取付けられた耐圧タンクに、液卵白を適量投入し、0.2MPa以上、0.5MPa以下に加圧し、バルブを閉める。ここで、空気以外の二酸化炭素ガス、窒素ガス、酸素ガス等の各種ガスによる微細気泡を発生させる場合は、エアーコンプレッサーを各種ガスコンプレッサーに変更させる。
次いで、加圧時に注入したエアーが液卵白全体に行渡るように、タンクを回転又は振動させた後、タンクの大きさ、液卵白の容量に応じて5分以上、1時間以下静置させる。
次いで、バルブを開き常圧まで減圧して、微細気泡を発生させ、微細気泡処理を施し、卵黄と吸着した微細気泡が液面に十分浮上するまで静置した後、タンクの底部又は下部に接続されたバルブを開き、卵黄混入量が低減された液卵白を底部又は下部から取出すことで、液面に浮上した気泡と卵黄が低減された液卵白とを分離する。
次いで、得られた卵黄混入量が低減された液卵白の卵黄混入量に応じて、適宜上記工程を繰り返す。
【0023】
<微細気泡の平均気泡径の測定方法>
微細気泡処理を施すことにより発生する微細気泡の平均気泡径は、以下の写真撮影法により測定する。
各種ガスコンプレッサーにより加圧後減圧して微細気泡を発生させる際、容器背面からライトで照明し、ズームレンズを備えたデジタル一眼レフカメラで撮影する。撮影した画像を粒子解析ソフト(粒子解析ソフト ver.3、住友金属テクノロジー)を用いて、常法により画像解析を行い、気泡径を測定する。200個の円相当径を測定し、平均気泡径を算出する。
【0024】
4.各成分
<卵黄混入した液卵白>
本発明において、微細気泡処理を施す際に用いる、卵黄混入した液卵白は、鶏卵を割卵し、卵黄を分離して得られる液状の卵白、これを凍結処理、濃縮処理、もしくは乾燥処理した卵白を通常の液状の卵白に戻したもの等を用いることができる。また、加熱殺菌処理、脱糖処理、脱リゾチーム処理等の種々の処理を施した液卵白を使用することができる。更に、このような液卵白を得る際の割卵方法は、手割り又は機械割りのいずれでもよい。
【0025】
<卵黄混入量>
液卵白の卵黄混入量は、0.01%以上、1%以下である。更に、一般的な工業的割卵により混入する0.01%以上、0.5%以下の卵黄混入量とすることができる。
【0026】
<品温>
前記気泡処理工程の前に、卵黄混入した液卵白の品温を0℃以上、30℃以下、更に0℃以上10℃以下に調整する品温調整工程を含んでもよい。これは、液卵白は軽く攪拌するだけで泡立つ性質があるため、気泡処理の際に卵白自身が発泡をしてしまい、歩留まりが悪くなる可能性がある。そのため、できるだけ卵白自身の発泡を防ぎ歩留りを向上させるために、0℃以上、10℃以下で気泡処理を行うのが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に本発明の卵黄混入量が低減された液卵白の製造方法を実施例及び試験例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0028】
[実施例1]
バッチ式の加圧溶解式マイクロバブル発生装置を用いて、卵黄混入量が低減された液卵白を得た。
つまり、卵黄が0.25%混入した液卵白50g(品温25℃)を500ml容耐圧樹脂容器に入れた。次いで、耐圧樹脂容器上部にPET用カーボネーターを接続し、SUS管に接続した。
図1に示したようにボールバルブ、エアーコンプレッサーを接続した。
次いで、エアーコンプレッサーを用いて0.4MPaまで加圧した後、容器上部のバルブ(2−1)を閉め、バルブ(2−1)の上の継手を外し、耐圧樹脂容器を3分間振とうし、10分間静置した。
次いで、
図2に示した飛散防止膜付のノズルをバルブ(2−1)に接続し、バルブ(2−1)を一気に開き常圧まで減圧した。同時に、
図3に示したアクリル製円筒(内径19mm、外径25mm、高さ348mm)に耐圧樹脂容器内の卵黄混入した卵白を放出し、液卵白中で微細気泡を発泡させ、微細気泡処理を施した。
次いで、10分間静置した後、ゴムチューブを接続したシリンジを用いて、アクリル円筒内の気泡以外の液卵白部を吸取ることにより、液面に浮上した気泡と卵黄混入量が低減された液卵白とを分離し、卵黄混入量が低減された液卵白を得た。
【0029】
気泡処理により発生した微細気泡の平均気泡径は、36μmであった。
また、上記得られた卵黄混入量が低減された液卵白の卵黄混入量を測定し、初期の卵黄混入量からの卵黄除去率を求めたところ、20%以上であった。よって、本発明の製造方法で得られた液卵白は、卵黄混入量が低減されていることが理解できる。
また、
【0030】
[試験例1] 加圧圧力の違いによる、本発明の効果への影響を調べた。
つまり、加圧圧力をそれぞれ0.2MPa、0.3MPa、加圧なしの0.1MPaに置き換えた以外は、実施例1に準じて、液卵白を製した。
なお、加圧なしの0.1MPa以外は、減圧後、平均気泡径が50μm以下の微細気泡が発生した。結果は表1に示す。
【0031】
【表1】
C
0:初期の液卵白に混入する卵黄の混入量
【0032】
表1の結果より、加圧溶解式マイクロバブル発生装置を用いて、0.2MPa以上、0.5MPa以下に加圧して微細気泡を発生させる微細気泡処理を施すことにより、卵黄混入量が低減された液卵白が得られることが理解できる。また、加圧圧力を高めて微細気泡の発生量が増加すると、卵黄除去率が高まることが理解できる。
また、圧力が0.1MPa、つまり微細気泡が発生していない場合であっても、卵黄混入量が低減している。これは、振とう工程によって発生した泡末と卵黄とが吸着したか、耐圧容器壁面に卵黄が付着したためと考えられる。
【0033】
[試験例2]
微細気泡のガスの種類による、本発明の効果への影響を調べた。
つまり、卵黄が0.22%混入した液卵白50gを500ml容耐圧樹脂容器に入れ、卵黄混入した液卵白を準備し、当該液卵白と、エアーコンプレッサーおよび各種高圧ガスボンベ(窒素、酸素、二酸化炭素)を用いて加圧させた以外は、実施例1の製造方法に準じて、液卵白を製した。
なお、減圧後、平均気泡径が50μm以下の微細気泡が発生した。結果は表2に示す。
【0034】
【表2】
C
0:初期の液卵白に混入する卵黄の混入量
【0035】
表2の結果より、いずれのガス種であっても、微細気泡処理を施すことにより、卵黄混入量が低減された液卵白を得られることがわかる。
また、本発明では、二酸化炭素ガスによる微細気泡処理が最も卵黄混入量を低減させることができることが理解できる。
【0036】
[試験例3]
初期の卵黄混入量の違い及び爆気回数の違いによる、本発明の効果への影響を調べた。
つまり、初期の卵黄混入量が下記表3に示す混入量である液卵白を準備し、二酸化炭素ガスコンプレッサーを用いて0.4MPaまで加圧させた以外は、実施例1の製造方法に準じて液卵白を製した。
なお、減圧後、平均気泡径が50μm以下の微細気泡が発生した。結果は表4に示す。
【0037】
【表3】
C
0:初期の液卵白に混入する卵黄の混入量
【0038】
【表4】
【0039】
表4の結果から、バッチ式の微細気泡処理ではバッチ回数すなわち曝気回数を増やすほど、卵黄の除去率が高まることが理解できる。特に、2回以上曝気することにより、卵黄が90%以上除去され、卵黄混入量をより低減した液卵白を製することができる。
また、1回の曝気であれば、初期の卵黄混入量が低いほど卵黄除去率は高いが、2回以上の曝気の場合、初期の卵黄混入量によらず90%以上卵黄が除去され、卵黄混入量をより低減した液卵白を製することができると理解できる。
【0040】
[実施例2]
初期の卵黄混入量が0.084%である液卵白を用いた以外は、実施例1に準じて液卵白を製した。
【0041】
微細気泡処理を施す気泡処理工程、及び前記処理後、液面に浮上した気泡と卵黄が低減された液卵白とを分離する分離工程により、得られた液卵白は、卵黄混入量が10%以上低減された液卵白であり、本発明の効果を奏するものであった。
【0042】
気泡処理工程の前に、卵黄混入した液卵白の品温を5℃にした以外は、実施例1に準じて卵黄混入量を低減した液卵白を製した。得られた液卵白は十分に卵黄混入量が低減されていた。