(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ケイ素系活物質が、前記負極活物質の総量に対する前記ケイ素系活物質の比が6質量%以上のものであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極。
前記カルボキシメチルセルロース又はその金属塩の質量Cと、前記ポリアクリル酸又はその金属塩の質量Pとの質量比C/Pは下記式(1)を満たすものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
5≧C/P≧0.25…(1)
前記炭素系活物質は天然黒鉛を含み、前記炭素系活物質の総重量に占める前記天然黒鉛の比率が30質量%以上80質量%以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
前記炭素系活物質として、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンのうち少なくとも2種以上を含むものであることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
前記炭素系活物質のメジアン径Xと前記ケイ素系活物質のメジアン径YがX/Y≧1の関係を満たすものであることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
前記ケイ素系活物質は、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は1.2°以上であるとともに、その結晶面に起因する結晶子サイズは7.5nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、さらなる小型化、軽量化及び長寿命化が強く求められている。このような市場要求に対し、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。
この二次電池は、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器、家屋などに代表される電力貯蔵システムへの適用も検討されている。
【0003】
その中でも、リチウムイオン二次電池は小型かつ高容量化が行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0004】
上記のリチウムイオン二次電池は、正極および負極、セパレータと共に電解液を備えており、負極は充放電反応に関わる負極活物質を含んでいる。
【0005】
この負極活物質としては、炭素材料が広く使用されている一方で、最近の市場要求から電池容量のさらなる向上が求められている。
電池容量向上のために、負極活物質材としてケイ素を用いることが検討されている。なぜならば、ケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも10倍以上大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。
負極活物質材としてのケイ素材の開発はケイ素単体だけではなく、合金、酸化物に代表される化合物などについても検討されている。
また、活物質形状は、炭素材では標準的な塗布型から、集電体に直接堆積する一体型まで検討されている。
【0006】
しかしながら、負極活物質としてケイ素を主原料として用いると、充放電時に負極活物質が膨張収縮するため、主に負極活物質表層近傍で割れやすくなる。また、活物質内部にイオン性物質が生成し、負極活物質が割れやすい物質となる。
負極活物質表層が割れると、それによって新表面が生じ、活物質の反応面積が増加する。この時、新表面において電解液の分解反応が生じるとともに、新表面に電解液の分解物である被膜が形成されるため電解液が消費される。このためサイクル特性が低下しやすくなる。
【0007】
これまでに、電池初期効率やサイクル特性を向上させるために、ケイ素材を主材としたリチウムイオン二次電池用負極材料、電極構成についてさまざまな検討がなされている。
【0008】
具体的には、良好なサイクル特性や高い安全性を得る目的で、気相法を用いケイ素及びアモルファス二酸化ケイ素を同時に堆積させている(例えば特許文献1参照)。
また、高い電池容量や安全性を得るために、ケイ素酸化物粒子の表層に炭素材(電子伝導材)を設けている(例えば特許文献2参照)。
さらに、サイクル特性を改善するとともに高入出力特性を得るために、ケイ素及び酸素を含有する活物質を作製し、かつ、集電体近傍での酸素比率が高い活物質層を形成している(例えば特許文献3参照)。
また、サイクル特性を向上させるために、ケイ素活物質中に酸素を含有させ、平均酸素含有量が40at%以下であり、かつ集電体に近い場所で酸素含有量が多くなるように形成している(例えば特許文献4参照)。
【0009】
また、初回充放電効率を改善するためにSi相、SiO
2、M
yO金属酸化物を含有するナノ複合体を用いている(例えば特許文献5参照)。
また、サイクル特性改善のため、SiO
x(0.8≦x≦1.5、粒径範囲=1μm〜50μm)と炭素材を混合して高温焼成している(例えば特許文献6参照)。
また、サイクル特性改善のために、負極活物質中におけるケイ素に対する酸素のモル比を0.1〜1.2とし、活物質、集電体界面近傍におけるモル比の最大値、最小値との差が0.4以下となる範囲で活物質の制御を行っている(例えば特許文献7参照)。
また、電池負荷特性を向上させるため、リチウムを含有した金属酸化物を用いている(例えば特許文献8参照)。
また、サイクル特性を改善させるために、ケイ素材表層にシラン化合物などの疎水層を形成している(例えば特許文献9参照)。
また、サイクル特性改善のため、酸化ケイ素を用い、その表層に黒鉛被膜を形成することで導電性を付与している(例えば特許文献10参照)。特許文献10において、黒鉛被膜に関するRAMANスペクトルから得られるシフト値に関して、1330cm
−1及び1580cm
−1にブロードなピークが現れるとともに、それらの強度比I
1330/I
1580が1.5<I
1330/I
1580<3となっている。
また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、二酸化ケイ素中に分散されたケイ素微結晶相を有する粒子を用いている(例えば、特許文献11参照)。
また、過充電、過放電特性を向上させるために、ケイ素と酸素の原子数比を1:y(0<y<2)に制御したケイ素酸化物を用いている(例えば特許文献12参照)。
また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、ケイ素と炭素の混合電極を作成しケイ素比率を5wt%以上13wt%以下で設計している(例えば、特許文献13参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、近年、電子機器に代表される小型のモバイル機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源であるリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。
この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなるリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。
また、ケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれている。
しかしながら、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等のサイクル安定性を示す負極電極を提案するには至っていなかった。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、電池容量の増加、サイクル特性及び初期充放電特性を向上させることが可能な負極電極、及びこの負極電極を有する非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明によれば、複数の負極活物質及びバインダーから成る負極活物質層を含む非水電解質二次電池用負極であって、前記負極活物質として表層が炭酸リチウムによって少なくとも一部が被覆されたSiO
x(0.5≦x≦1.6を満たす)からなるケイ素系活物質と炭素系活物質とを含み、前記バインダーとして、カルボキシメチルセルロース又はその金属塩と、ポリアクリル酸又はその金属塩と、スチレンブタジエンゴム又はポリフッ化ビニリデンとを含むことを特徴とする非水電解質二次電池用負極を提供する。
【0014】
このような非水電解質二次電池用負極は、炭素系活物質が、より低電位で放電が可能であるため、ケイ素系活物質と炭素系活物質を混合することで電池の体積エネルギー密度を向上させることができる。更に、ケイ素系活物質表層に被覆される炭酸リチウム(Li
2CO
3)は充電時に発生する不可逆成分を低減することが可能であるため、電池特性を向上させることができる。しかしながら、炭酸リチウムは水に対して一部可溶であるため、スラリーがアルカリ側へシフトする。スラリーがアルカリ化すると電極剥離強度が低下してしまう。そこで、負極活物質のより良い使用方法として、ポリアクリル酸やその金属塩をカルボキシメチルセルロースやその金属塩と共にスチレンブタジエンゴムやポリフッ化ビニリデンといった主バインダーへ添加することで電極剥離強度の低下を大幅に抑制でき、良好な電池特性を得ることができる。
【0015】
このとき、前記ケイ素系活物質が、前記負極活物質の総量に対する前記ケイ素系活物質の比が6質量%以上のものであることが好ましい。
このようなものであれば、電池容量を顕著に増加させることができるものとなる。
【0016】
またこのとき、前記ケイ素活物質は、その内部にLi
2SiO
3及びLi
4SiO
4のうち少なくとも1種以上を含むものであることが好ましい。
このようなものであれば、ケイ素系活物質は、リチウムの挿入、脱離時に不安定化するSiO
2成分部が予め別のLi化合物に改質させたものであるので、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。その結果、高い充放電効率を得られると共に、バルク安定性が向上させることができる。またこのようなものは、例えば電気化学手法でケイ素系活物質を改質することで得ることができる。
【0017】
このとき、前記ケイ素系活物質の内部に含まれるLi
2SiO
3は、X線回折により38.2680°付近でみられる回折ピークの半値幅(2θ)が0.75°以上であることが好ましい。
このようにケイ素系活物質の内部に含まれるLi
2SiO
3の結晶性が低ければ、電池特性の悪化を低減できる。
【0018】
またこのとき、前記ケイ素系活物質の内部に含まれるLi
4SiO
4は、X線回折により23.9661°付近でみられる回折ピークの半値幅(2θ)が0.2°以上であることが好ましい。
このようにケイ素系活物質の内部に含まれるLi
4SiO
4の結晶性が低ければ、電池特性の悪化を低減できる。
【0019】
このとき、前記ケイ素系活物質の内部に含まれるLi
2SiO
3及びLi
4SiO
4は非晶質であることが好ましい。
これらのリチウム化合物が非晶質であれば、電池特性の悪化をより確実に低減できる。
できる。
【0020】
またこのとき、前記カルボキシメチルセルロース又はその金属塩の質量Cと、前記ポリアクリル酸又はその金属塩の質量Pとの質量比C/Pは下記式(1)を満たすものであることが好ましい。
5≧C/P≧0.25…(1)
【0021】
このようなものであれば、ポリアクリル酸の添加量が多くなり過ぎないため厚塗りがし易く、またポリアクリル酸の添加量が少なくなり過ぎないため結着性が低下することがない。このとき、カルボキシメチルセルロース及びポリアクリル酸はその一部に金属塩を有していても良い。
【0022】
このとき、前記非水電解質二次電池用負極は、片面における単位面積あたりの前記負極活物質層の堆積量が8.5mg/cm
2以下のものであることが好ましい。
このような、密度の堆積量であれば、ポリアクリル酸やその金属塩といった固い材質のバインダーを含む負極活物質の厚塗りを行う場合であっても負極活物質層が剥離し難いものとなる。
【0023】
またこのとき、前記非水電解質二次電池用負極が、カーボンナノチューブを含むものであることが好ましい。
カーボンナノチューブ(CNT)は膨張率及び収縮率が高いケイ素系活物質と炭素系活物質の電気コンタクトを得ることに適しており、負極に良好な導電性を付与することができる。
【0024】
またこのとき、前記炭素系活物質は天然黒鉛を含み、前記炭素系活物質の総重量に占める前記天然黒鉛の比率が30質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
天然黒鉛は、ケイ素系活物質の膨張及び収縮に伴う応力緩和に適しており、これにより負極活物質の破壊を抑制でき、良好なサイクル特性を得ることができる。
【0025】
このとき、前記炭素系活物質として、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンのうち少なくとも2種以上を含むものであることが好ましい。
これらのようなもののうち少なくとも2種が含まれていれば、良好な電池特性を得ることができる。
【0026】
またこのとき、前記炭素系活物質のメジアン径Xと前記ケイ素系活物質のメジアン径YがX/Y≧1の関係を満たすものであることが好ましい。
膨張収縮するケイ素系活物質が炭素系活物質に対して同等以下の大きさである場合、合材層の破壊を防止することができる。更に、炭素系活物質がケイ素系活物質に対して大きくなると、充電時の負極体積密度、初期効率が向上し、電池エネルギー密度が向上する。
【0027】
このとき、前記ケイ素系活物質の
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク値強度値Aと−100〜−150ppmで与えられるSiO
2領域のピーク値強度値BがA/B≧0.8の関係を満たすことが好ましい。
ケイ素系活物質として、上記のピーク値強度値比を有するものを用いることで、さらに良好な初期充放電特性が得られる。
【0028】
またこのとき、前記ケイ素系活物質は、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は1.2°以上であるとともに、その結晶面に起因する結晶子サイズは7.5nm以下であることが好ましい。
このようなものであれば、Si結晶核が減少するため、良好な電池サイクル特性が得られる。
【0029】
また、本発明によれば、上記の非水電解質二次電池用負極を用いたものであることを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。
このような非水電解質二次電池であれば、高容量であるとともに良好なサイクル特性及び初期充放電特性が得られる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の非水電解質二次電池用負極におけるケイ素系活物質は、リチウムの挿入、脱離時に不安定化するSiO
2成分部が予め別の化合物に改質させたものであるため、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。
また、ケイ素系活物質を炭素系活物質に混合することで電池容量を増加させることができる。更にリチウム挿入脱離時に材料表層部に炭酸リチウムを生成する事で、電池組み込み時に発生する不可逆成分を低減する事ができる。
上記材料を安定的に使用するには、バインダーとしては、カルボキシメチルセルロース又はその金属塩と共にポリアクリル酸又はポリアクリル酸の金属塩を、主結着剤であるスチレンブタジエンゴム又はフッ化ビニリデンに添加使用して、計3種の物質を用いると良い。
【0031】
本発明の非水電解質二次電池用負極及びこの負極を用いた非水電解質二次電池は、電池容量、サイクル特性、及び初回充放電特性を向上させることができる。また、本発明の二次電池を用いた電子機器、電動工具、電気自動車及び電力貯蔵システム等でも同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
前述のように、リチウムイオン二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いることが検討されている。
このケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれているが、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等のサイクル安定性を示す負極電極を提案するには至っていなかった。
【0034】
そこで、本発明者らは、リチウムイオン二次電池の負極として、良好なサイクル特性が得られる負極活物質について鋭意検討を重ね、本発明に至った。
本発明の非水電解質二次電池用負極は、負極活物質として表層が炭酸リチウムによって少なくとも一部が被覆されたSiO
x(0.5≦x≦1.6を満たす)からなるケイ素系活物質と炭素系活物質とを含み、上記負極活物質を支持するための第1のバインダーとして、カルボキシメチルセルロース又はその金属塩、第2のバインダーとしてポリアクリル酸又はその金属塩、第3のバインダーとしてスチレンブタジエンゴム又はポリフッ化ビニリデンとを含むことを特徴とするものである。
【0035】
このような本発明の非水電解質二次電池用負極について説明する。
図1は、本発明の一実施形態における非水電解質二次電池用負極(以下、単に「負極」と称することがある。)の断面構成を表している。
【0036】
[負極の構成]
図1に示すように、負極10は、負極集電体11の上に負極活物質層12を有する構成になっている。この負極活物質層12は負極集電体11の両面、又は、片面だけに設けられていても良い。さらに、本発明の非水電解質二次電池用負極においては、負極集電体11はなくてもよい。
【0037】
[負極集電体]
負極集電体11は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。負極集電体11に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)があげられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0038】
負極集電体11は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。負極集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、100ppm以下であることが好ましい。より高い変形抑制効果が得られるからである。
【0039】
負極集電体11の表面は、粗化されていても、粗化されていなくても良い。粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は化学エッチングされた金属箔などである。粗化されていない負極集電体は例えば、圧延金属箔などである。
【0040】
[負極活物質層]
負極活物質層12は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な複数の粒子状の負極活物質(以下、負極活物質粒子とも称する)とバインダー(負極結着剤)を含んでおり、電池設計上、さらに導電助剤等の他の材料を含んでいても良い。
【0041】
本発明の負極に用いられる負極活物質は、ケイ素系活物質及び炭素系活物質を含む。そして、ケイ素系活物質はリチウムイオンを吸蔵、放出可能なケイ素化合物の部分(表面又は内部)にLi化合物を含有しており、さらにその表面に炭酸リチウム(Li
2CO
3)から成る被膜層を有する。
またケイ素系活物質に導電性を有する炭素被膜層を設け、更にその表層に炭酸リチウムから成る被膜層を有する構造として良い。
【0042】
このように、ケイ素系活物質粒子は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能なコア部を有し、その表層に導電性が得られる炭素被覆部、また電解液の分解反応抑制効果がある炭酸リチウム部を有するものにできる。この場合、炭素被覆部の少なくとも一部でリチウムイオンの吸蔵放出が行われても良い。また、炭素被覆部、炭酸リチウム部は島状、膜状のどちらでも効果が得られる。
【0043】
また、本発明の負極に用いられるケイ素系活物質は酸化ケイ素材(SiO
x:0.5≦x≦1.6)であり、その組成としてはxが1に近い方が好ましい。これは、高いサイクル特性が得られるからである。本発明におけるケイ素材組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいても良い。
【0044】
更に、本発明の負極は、ケイ素系活物質として、その粒子内部にLi
2SiO
3及びLi
4SiO
4のうち少なくとも一種を含むものであることが好ましい。
このようなものであれば、より安定した電池特性を得ることをできる。
このとき、上記のように、ケイ素系活物質の表層は炭素及び炭酸リチウムにて被覆されていれば、より一層安定した電池特性を得ることをできる。
【0045】
このようなケイ素系活物質粒子は、内部に生成するSiO
2成分の一部をLi化合物へ選択的に変更することにより得ることができる。なかでもLi
4SiO
4、Li
2SiO
3、は特に良い特性を示す。これはリチウム対極に対する電位規制や電流規制などを行い、条件を変更することで選択的化合物の作製が可能となる。
Li化合物はNMR(核磁気共鳴)とXPS(X線光電子分光)で定量可能である。XPSとNMRの測定は、例えば、以下の条件により行うことができる。
XPS
・装置: X線光電子分光装置、
・X線源: 単色化Al Kα線、
・X線スポット径: 100μm、
・Arイオン銃スパッタ条件: 0.5kV 2mm×2mm。
29Si MAS NMR(マジック角回転核磁気共鳴)
・装置: Bruker社製700NMR分光器、
・プローブ: 4mmHR−MASローター 50μL、
・試料回転速度: 10kHz、
・測定環境温度: 25℃。
【0046】
選択的化合物の作製方法、すなわち、ケイ素系活物質の改質は、電気化学的手法により行うことが好ましい。
【0047】
このような改質(バルク内改質)方法を用いて負極活物質粒子を製造することで、Si領域のLi化合物化を低減、又は避けることが可能であり、大気中、又は水系スラリー中、溶剤スラリー中で安定した物質となる。また、電気化学的手法により改質を行うことにより、ランダムに化合物化する熱改質(熱ドープ法)に対し、より安定した物質を作ることが可能である。
【0048】
ケイ素系活物質のバルク内部に生成したLi
4SiO
4、Li
2SiO
3は少なくとも1種以上存在することで特性向上となるが、より特性向上となるのはこれら2種の共存状態である。
【0049】
また、本発明のようにケイ素系活物質の最表層にLi
2CO
3を生成することで、粉末の保存特性が飛躍的に向上する。手法は特に限定しないが、電気化学法が最も好ましい。
【0050】
特に、ケイ素系活物質の内部に含まれるLi
2SiO
3は、X線回折により38.2680°付近でみられる回折ピークの半値幅(2θ)が0.75°以上であることが好ましい。同様にケイ素系活物質の内部に含まれるLi
4SiO
4は、X線回折により23.9661°付近でみられる回折ピークの半値幅(2θ)が0.2°以上であることが好ましい。より望ましくは、Li
2SiO
3及びLi
4SiO
4は非晶質であることが好ましい。
【0051】
ケイ素系活物質の内部に含まれるこれらのLi化合物の、結晶性が低いほど、負極活物質中の抵抗が下がり、電池特性の悪化を低減でき、実質的に非晶質であればより確実に電池特性の悪化を低減できる。
【0052】
また、本発明の非水電解質二次電池用負極における負極活物質はケイ素系活物質と炭素系活物質を混合したものである。より低電位放電が可能な炭素材は電池の体積エネルギー密度向上へ繋がる。
【0053】
負極に含まれる炭素系活物質は、天然黒鉛ベースが良い。具体的には、天然黒鉛が、炭素系活物質の総重量に占める天然黒鉛の比率が30質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
天然黒鉛はケイ素材の膨張及び収縮に伴う応力緩和に適しており、上記のような比率であればサイクル特性に優れた負極となる。
更に、より優れたサイクル特性を得るには人造黒鉛を含むことが望ましい。ただし、天然黒鉛に対して硬い人造黒鉛はケイ素材の膨張及び収縮に伴う応力緩和には不向きであるため、天然黒鉛に対して10%以上120%以下の添加量とすることが望ましい。
【0054】
また、負極に含まれる炭素系活物質は天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンのうち少なくとも2種を含むことが好ましい。
これらの炭素系活物質の中の2種類以上を含むことで応力緩和力を有するとともに電池容量に優れた負極活物質となる。
【0055】
そして、本発明においてケイ素系活物質は、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比率を6質量%以上とする。
上記比率以上であれば、電池の体積エネルギー密度を上昇させることが可能である。
【0056】
本発明の負極材に含まれるケイ素系活物質の結晶性は低いほどよい。具体的には、ケイ素系活物質のX線回折により得られる(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であるとともに、その結晶面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下であることが望ましい。
このように、特に結晶性が低くSi結晶の存在量が少ないことにより、電池特性を向上させるだけでなく、安定的なLi化合物の生成をすることができる。
【0057】
ケイ素系活物質のメジアン径は特に限定されないが、中でも0.5μm〜20μmであることが好ましい。この範囲であれば、充放電時においてリチウムイオンの吸蔵放出がされやすくなるとともに、粒子が割れにくくなるからである。このメジアン径が0.5μm以上であれば表面積が大きすぎないため、電池不可逆容量を低減することができる。一方、メジアン径が20μm以下であれば、粒子が割れにくく新生面が出にくいため好ましい。
【0058】
また、ケイ素系活物質のメジアン径は、炭素系活物質のメジアン径をX、ケイ素系活物質のメジアン径をYとしたときに、X/Y≧1の関係を満たすものであることが好ましい。
このように、負極活物質層中の炭素系活物質は、ケイ素系活物質に対し同等以上の大きさであることが望ましい。膨張収縮するケイ素系活物質が炭素系活物質に対して同等以下の大きさである場合、合材層の破壊を防止することができる。更に、炭素系活物質がケイ素系活物質に対して大きくなると、充電時の負極体積密度、初期効率が向上し、電池エネルギー密度が向上する。
【0059】
ここで、負極活物質のケイ素系材料は、
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られるケミカルシフト値として、−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク強度値Aと−100〜−150ppmに与えられるSiO
2領域のピーク強度値Bが、A/B≧0.8というピーク強度比の関係を満たすことが好ましい。
このようなものであれば、安定した電池特性を得ることができる。
【0060】
ケイ素系活物質の表層に炭素を被覆する場合、炭素被覆部の平均厚さは、特に限定されないが1nm〜5000nm以下であることが望ましい。
このような厚さであれば電気伝導性を向上させることが可能である。炭素被覆部の平均厚さが5000nmを超えても電池特性を悪化させる事はないが、電池容量が低下するため、5000nm以下とすることが好ましい。
【0061】
この炭素被覆部の平均厚さは以下の手順により算出される。まず、TEM(透過型電子顕微鏡)により任意の倍率で負極活物質を観察する。この倍率は厚さを測定するため目視で確認できる倍率が好ましい。続いて、任意の15点において、炭素材被覆部の厚さを測定する。このとき、できるだけ特定の場所に測定位置を集中させず、広くランダムに測定位置を設定することが好ましい。最後に測定結果から厚さの平均値を算出する。
【0062】
また、ケイ素系活物質の表層における炭素の被覆率は特に限定されないが、できるだけ高い方が望ましい。中でも被覆率が30%以上あれば、十分な電気伝導性が得られる。
これらの炭素材被覆手法は特に限定されないが、糖炭化法、炭化水素ガスの熱分解法が好ましい。これらの方法であれば、炭素材の被覆率を向上させることができるからである。
【0063】
また、本発明の非水電解質二次電池用負極は、バインダー(負極結着剤)として、カルボキシメチルセルロース又はその金属塩と、ポリアクリル酸又はその金属塩と、スチレンブタジエン系ゴム又はポリフッ化ビニリデンとを含む。例えば、カルボキシメチルセルロースは、その一部がナトリウム塩となっているものでも良い。ポリアクリル酸の金属塩の好適な例としては、例えばポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0064】
このとき、カルボキシメチルセルロース又はその金属塩の質量Cと、ポリアクリル酸又はその金属塩の質量Pとの質量比C/Pは下記式(1)を満たすものであることが好ましい。
5≧C/P≧0.25…(1)
【0065】
このようなものであれば、ポリアクリル酸の添加量が多くなり過ぎないため厚塗りがし易く、またポリアクリル酸の添加量が少なくなり過ぎないため結着性が低下することがない。このとき、カルボキシメチルセルロース及びポリアクリル酸はその一部に金属塩を有していても良いが、特にポリアクリル酸は効果が十分に得られる。
【0066】
負極導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のいずれか1種以上があげられる。
特にカーボンナノチューブは膨張収縮率が高いケイ素材と炭素材の電気コンタクトを得ることに向いている。
【0067】
負極活物質層は、例えば塗布法で形成される。塗布法とは負極活物質粒子と上記した結着剤など、また必要に応じて導電助剤、炭素材料を混合したのち、有機溶剤や水などに分散させ塗布する方法である。
【0068】
このとき、非水電解質二次電池用負極は、片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量が8.5mg/cm
2以下のものであることが好ましい。
このような、密度の堆積量であれば、ポリアクリル酸やその金属塩といった固い材質のバインダーを含む負極活物質の厚塗りを行う場合であっても負極活物質層が剥離し難い。
【0069】
[負極の製造方法]
最初に本発明の非水電解質二次電池用負極材に含まれる負極活物質粒子の製造方法を説明する。まず、SiO
x(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素系活物質を作製する。次に、ケイ素系活物質にLiを挿入することにより、該ケイ素系活物質の表面にLi化合物を生成させて該ケイ素系活物質を改質する。このとき、同時にケイ素系活物質の内部にLi化合物を生成させることができる。
【0070】
より具体的には、負極活物質粒子は、例えば、以下の手順により製造される。
【0071】
まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下もしくは減圧下900℃〜1600℃の温度範囲で加熱し、酸化ケイ素ガスを発生させる。この場合、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末との混合であり、金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。粒子中のSi結晶子は仕込み範囲や気化温度の変更、また生成後の熱処理で制御される。発生したガスは吸着板に堆積される。反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕、粉末化を行う。
【0072】
次に、得られた粉末材料の表層に炭素層を生成することができるが、この工程は必須ではない。しかしながらより電池特性を向上させるには効果的である.
【0073】
得られた粉末材料の表層に炭素層を生成する手法としては、熱分解CVDが望ましい。熱分解CVDは炉内にセットした酸化ケイ素粉末と炉内に炭化水素ガスを充満させ炉内温度を昇温させる。分解温度は特に限定しないが特に1200℃以下が望ましい。より望ましいのは950℃以下であり、活物質粒子の不均化を抑制することが可能である。炭化水素ガスは特に限定することはないが、CnHm組成のうち3≧nが望ましい。低製造コスト及び分解生成物の物性が良いからである。
【0074】
バルク内改質は電気化学的にLiを挿入・脱離し得ることが望ましい。特に装置構造を限定することはないが、例えば
図2に示すバルク内改質装置20を用いて、バルク内改質を行うことができる。バルク内改質装置20は、有機溶媒23で満たされた浴槽27と、浴槽27内に配置され、電源26の一方に接続された陽電極(リチウム源、改質源)21と、浴槽27内に配置され、電源26の他方に接続された粉末格納容器25と、陽電極21と粉末格納容器25との間に設けられたセパレータ24とを有している。粉末格納容器25には、酸化ケイ素の粉末22が格納される。
【0075】
尚、改質した酸化ケイ素の粉末22は、同時にLi
2CO
3による被膜層を作製することができる。
【0076】
上記のように、得られた改質粒子は、炭素層を含んでいなくても良い。ただし、バルク内改質処理において、より均一な制御を求める場合、電位分布の低減などが必要であり、炭素層が存在することが望ましい。
【0077】
浴槽27内の有機溶媒23として、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどを用いることができる。また、有機溶媒23に含まれる電解質塩として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)などを用いることができる。
【0078】
陽電極21はLi箔を用いてもよく、また、Li含有化合物を用いてもよい。Li含有化合物として、炭酸リチウム、酸化リチウム、コバルト酸リチウム、オリビン鉄リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸バナジウムリチウムなどがあげられる。
【0079】
続いて、上記ケイ素系活物質と炭素系活物質を混合するとともに、これらの負極活物質粒子とバインダー(負極結着剤)、導電助剤など他の材料とを混合し負極合剤としたのち、有機溶剤又は水などを加えてスラリーとする。
【0080】
このとき、本発明ではバインダーとしてカルボキシメチルセルロース又はその金属塩と、ポリアクリル酸又はその金属塩を、スチレンブタジエンゴム又はポリフッ化ビニリデンに添加した計3種の物質から成るバインダーを使用する。
【0081】
従来では、ケイ素系活物質表層に炭酸リチウムが存在すると、炭酸リチウムは水に対して一部可溶であるため、負極合剤のスラリーがアルカリ側へシフトしてしまう。そしてその結果、負極の電極剥離強度が低下してしまうという問題があった。
【0082】
そこで、本発明では、上記のようにポリアクリル酸又はその金属塩をカルボキシメチルセルロース又はその金属塩と共にスチレンブタジエンゴム又はポリフッ化ビニリデンに添加してバインダーとして使用する。このようなものとすることで、スラリーのアルカリ化による負極の電極剥離強度の低下を大幅に抑制でき、良好な電池特性を得ることができる。
【0083】
次に、負極集電体11の表面に、この負極合剤のスラリーを塗布し、乾燥させて
図1に示す負極活物質層12を形成する。この時、必要に応じて加熱プレスなどを行っても良い。
【0084】
以上のようにして、本発明の負極を製造することができる。
このような負極であれば、上記のようにケイ素系活物質の表面保護層としての炭酸リチウムが原因となる負極合剤のスラリーのアルカリ化による負極の極剥離強度の低下を大幅に抑制でき、良好な電池特性を得ることができるものとなる。
【0085】
<2.リチウムイオン二次電池>
次に、上記した本発明の負極を用いた非水電解質二次電池の具体例として、リチウムイオン二次電池について説明する。
【0086】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
図3に示すラミネートフィルム型二次電池30は、主にシート状の外装部材35の内部に巻回電極体31が収納されたものである。この巻回電極体31は正極、負極間にセパレータを有し、巻回されたものである。また正極、負極間にセパレータを有し積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード32が取り付けられ、負極に負極リード33が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0087】
正負極リード32、33は、例えば、外装部材35の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード32は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード33は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0088】
外装部材35は、例えば、融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が電極体31と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は、接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0089】
外装部材35と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム34が挿入されている。この材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0090】
[正極]
正極は、例えば、
図1の負極10と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0091】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0092】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて正極結着剤、正極導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、正極結着剤、正極導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0093】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これら記述される正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、Li
xM
1O
2あるいはLi
yM
2PO
4で表される。式中、M
1、M
2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0094】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(Li
xNiO
2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物などが挙げられる。リチウムニッケルコバルト複合酸化物としては、例えばリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)などが挙げられる。
リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO
4)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe
1−uMn
uPO
4(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量を得ることができるとともに、優れたサイクル特性も得ることができる。
【0095】
[負極]
負極は、上記した
図1のリチウムイオン二次電池用負極10と同様の構成を有し、例えば、集電体の両面に負極活物質層を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池としての充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。これにより、負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
【0096】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、同様に負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0097】
上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため、負極活物質層の状態が形成直後のまま維持され、これによって負極活物質の組成など、充放電の有無に依存せずに再現性良く組成などを正確に調べることができる。
【0098】
[セパレータ]
セパレータは正極、負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0099】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又は、セパレータには、液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0100】
溶媒は、例えば、非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2−ジメトキシエタン、又はテトラヒドロフランなどが挙げられる。この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせることにより、より優位な特性を得ることができる。これは、電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0101】
合金系負極を用いる場合、特に溶媒としてハロゲン化鎖状炭酸エステル又はハロゲン化環状炭酸エステルのうち少なくとも1種を含んでいることが望ましい。これにより、充放電時、特に充電時において負極活物質表面に安定な被膜が形成されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。ハロゲン化環状炭酸エステルは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0102】
ハロゲンの種類は特に限定されないが、フッ素がより好ましい。他のハロゲンよりも良質な被膜を形成するからである。また、ハロゲン数は、多いほど望ましい。得られる被膜がより安定的であり、電解液の分解反応が低減されるからである。
【0103】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどがあげられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。
【0104】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
【0105】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0106】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0107】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)などが挙げられる。
【0108】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。これは、高いイオン伝導性が得られるからである。
【0109】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
【0110】
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて正極結着剤、正極導電助剤などを混合し正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロール又はダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱しても良く、また圧縮を複数回繰り返しても良い。
【0111】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極10の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。
【0112】
正極及び負極を作製する際に、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成する。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていても良い(
図1を参照)。
【0113】
続いて、電解液を調整する。続いて、超音波溶接などにより、正極集電体に正極リード32を取り付けると共に、負極集電体に負極リード33を取り付ける。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、又は巻回させて巻回電極体31を作製し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材35の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ解放状態にて、巻回電極体を封入する。続いて、正極リード、及び負極リードと外装部材の間に密着フィルムを挿入する。続いて、解放部から上記調整した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、解放部を真空熱融着法により接着させる。
以上のようにして、ラミネートフィルム型二次電池30を製造することができる。
【0114】
上記作製したラミネートフィルム型二次電池30等の本発明の非水電解質二次電池において、充放電時の負極利用率が93%以上99%以下であることが好ましい。
負極利用率を93%以上の範囲とすれば、初回充電効率が低下せず、電池容量の向上を大きくできる。また、負極利用率を99%以下の範囲とすれば、Liが析出してしまうことがなく安全性を確保できる。
【実施例】
【0115】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0116】
(実施例1−1)
以下の手順により、
図3に示したラミネートフィルム型の二次電池30を作製した。
【0117】
最初に正極を作製した。正極活物質はコバルト酸リチウム(LiCoO
2)を95質量部と、正極導電助剤2.5質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン、PVDF)2.5質量部とを混合し正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン、NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。この時正極集電体は厚み15μmのものを用いた。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0118】
次に負極を作製した。ケイ素系活物質は以下のように作製した。
まず、金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉へ設置し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。粒径を調整した後、必要に応じて熱分解CVDを行うことで炭素層を被覆した。作製した粉末はエチレンカーボネート及びジメチルカーボネートの体積比が3:7の混合溶媒(電解質塩を1.3mol/kgの濃度で含んでいる。)中で電気化学法を用いバルク改質を行った。
続いて、作製したケイ素系活物質と、炭素系活物質として天然黒鉛(必要に応じて人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンを一部配合)を10:90の重量比で配合し、負極活物質を作製した。
【0119】
次に、作製した負極活物質、導電助剤1(カーボンナノチューブ、CNT)、導電助剤2、スチレンブタジエンゴム(スチレンブタジエンコポリマー、以下、SBRと称する)、カルボメチルセルロース(以下、CMCと称する)、ポリアクリル酸(以下、PAAと称する)を90.5〜92.5:1:1:2.5:0.5〜5:0〜5の乾燥重量比で混合した後、純水で希釈し負極合剤スラリーとした。尚、上記のSBR、CMC、及びPAAは負極バインダー(負極結着剤)である。
【0120】
また、負極集電体としては、電解銅箔(厚さ15μm)を用いた。最後に、負極合剤のスラリーを負極集電体に塗布し真空雰囲気中で100℃×1時間の乾燥を行った。乾燥後の、負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度とも称する、下記の各表中では面密と略記)は5mg/cm
2であった。
本実験で用いるポリアクリル酸は特に限定する事は無いが、25万〜125万の分子量範囲が望ましく、より望ましいのは100万である(例えば、和光純薬工業株式会社製品を使用できる)。
【0121】
次に、溶媒(4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC))、エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC))を混合したのち、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF
6)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を堆積比でFEC:EC:DMC=10:20:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1.2mol/kgとした。
【0122】
次に、以下のようにして二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その捲き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムに挟まれた積層フィルム12μmを用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調整した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し封止した。
【0123】
(実施例1−2、実施例1−3、比較例1−1、比較例1−2)
負極材を製造する際のケイ素系活物質のバルク内酸素量を調整したことを除き、実施例1−1と同様に、二次電池を作製した。この場合、気化出発材の比率や温度を変化させ堆積される酸素量を調整した。実施例1−1〜1−3、比較例1−1、1−2における、SiO
xで表されるケイ素系活物質のxの値を表1に示した。
【0124】
またこのとき、実施例1−1〜実施例1−3、比較例1−1、比較例1−2におけるケイ素系活物質はいずれも以下の物性を有していた。ケイ素系活物質のメジアン径Yは4μmであった。X線回折により得られる(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は2.593°であり、その結晶面(111)に起因する結晶子サイズは3.29nmであった。表層には含有物として炭酸リチウム(Li
2CO
3)、炭素層(C層)が形成されており、ケイ素系活物質内には含有物としてLi
2SiO
3、Li
4SiO
4が形成されていた。更に、Li
2SiO
3、Li
4SiO
4は非晶質であった。
このとき、ケイ素系活物質の
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク値強度値Aと−100〜−150ppmで与えられるSiO
2領域のピーク値強度値Bの比A/B=2であった。
【0125】
また、炭素系活物質はいずれも以下の物性を有していた。炭素系活物質のメジアン径Xは20μmであった。従って、炭素系活物質のメジアン径Xとケイ素系活物質のメジアン径Yの比X/Y=5であった。
【0126】
また、カルボキシメチルセルロース(CMC)の質量Cと、ポリアクリル酸(PAA)の質量Pとの質量比C/P=3であった。
また、負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度)は、5mg/cm
2であった。
【0127】
実施例1−1〜実施例1−3、比較例1−1、比較例1−2の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
尚、サイクル特性については、以下のようにして調べた。
最初に、電池安定化のため25℃の雰囲気下、2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。
続いて、総サイクル数が100サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。
最後に、100サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り、容量維持率(以下、単に維持率ともいう)を算出した。
【0128】
また、初回充放電特性については、初期効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100を算出した。
【0129】
【表1】
【0130】
表1からわかるように、酸素が十分にない場合(比較例1−1、x=0.3)、初期効率は向上するものの容量維持率が著しく悪化する。また、酸素量が多すぎる場合(比較例1−2、x=1.8)、導電性の低下が生じSiO材の容量が設計通り発現しなかった。このとき、炭素材(Gr)のみ充放電を行ったが炭素材は理論容量が小さいため容量増加が得られず評価を中断している。
【0131】
(実施例2−1〜実施例2−4、比較例2−1、比較例2−2)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、バインダー(負極結着剤)として、実施例2−1では、ポリフッ化ビニリデン(Pvdf)、CMC、PAAを、実施例2−2ではSBR、CMCのナトリウム塩(CMC−Na)、PAAを、実施例2−3ではSBR、CMC、PAAのナトリウム塩(PAA−Na)を、実施例2−4ではSBR、CMC、PAAのリチウム塩(PAA−Li)を使用した。また、バインダーとして比較例2−1ではSBR、CMCを、比較例2−2ではPvdf、CMCを使用した。尚、ポリフッ化ビニリデン(Pvdf)をバインダーとして用いる場合には、負極活物質作製後に、真空雰囲気中で195℃×12時間の乾燥を行った。
【0132】
実施例2−1〜実施例2−4、比較例2−1、比較例2−2の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
【0133】
【表2】
【0134】
比較例2−1、比較例2−2では、バインダーとして2種類の物質しか使用しておらず、特にポリアクリル酸又はポリアクリル酸の金属塩が存在しないので、実施例に比べ電極の剥離強度が大幅に低減し、サイクル特性が悪化してしまった。尚、電極剥離は塗膜状態、またはサイクル後の電池解体で確認している。
【0135】
(比較例3−1、実施例3−1、実施例3−2)
比較例3−1、実施例3−1、実施例3−2は、基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、比較例3−1ではケイ素系活物質の表層に炭酸リチウムを担持させなかった。また、実施例3−1では導電助剤としてカーボンナノチューブ(CNT)を加えなかった。また、実施例3−2ではケイ素系活物質内部にLi
2SiO
3、Li
4SiO
4のいずれも含有させなかった。尚、比較例3−1において、ケイ素系活物質の表層の炭酸リチウムは、純水で洗い流すことで除去した。また、実施例3−2においては、ケイ素系活物質のバルク内改質後に炭素雰囲気下で熱焼成を行うことでLi
2SiO
3をなくし、分解したLi
4SiO
4は水に可溶であるため純水で洗い流すことで除去した。
【0136】
比較例3−1、実施例3−1、実施例3−2の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、それぞれ表3−1、表3−2、表3−3に示した結果が得られた
【0137】
【表3-1】
【0138】
表3−1に示すように、比較例3−1は、ケイ素系活物質表層部に炭酸リチウムが堆積していないため充電容量増加に伴う初期効率が低下し、更に表層部に安定した被膜が無いため容量維持率は低下した。
【0139】
【表3-2】
【0140】
表3−2に示すように、CNTを添加した方が容量維持率、初期効率が共により向上することが確認された。このように、負極中にCNTを添加すれば、ケイ素系活物質(SiO材)及び炭素系活物質間の電子コンタクトを得られるため、電池特性が向上することが分かった。
【0141】
【表3-3】
【0142】
表3−3に示すように、ケイ素系活物質内部にLi
2SiO
3、Li
4SiO
4を含有させると容量維持率、初期効率が共により向上することが確認された。
【0143】
(実施例4−1〜実施例4−6)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、カルボキシメチルセルロースの質量Cと、ポリアクリル酸の質量Pとの質量比C/Pを表4のように変化させた。
【0144】
【表4】
【0145】
表4に示すように、5≧C/P≧0.25(式(1))の範囲であれば、CMCに対してPAAが多くなり過ぎることがなく電極が剛直になり難いため、負極活物質層の剥離が起こり難くなる。その結果、容量維持率と初期効率がより向上することが分かった(実施例1−2、実施例4−2〜実施例4−5)。このように、CMCとPAAとを混合するには、最適な混合比(質量比)の範囲が存在する事がわかった。
【0146】
(実施例5−1〜実施例5−3)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、水電解質二次電池用負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度)を表5のように変化させた。
【0147】
【表5】
【0148】
表5に示すように、水電解質二次電池用負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量を8.5mg/cm
2以下とすれば、容量維持率と初期効率がより向上することが分かった(実施例1−2、実施例5−1、実施例5−2)。このように、ポリアクリル酸等の固い材質の物質をバインダーとして使用しても、電極剥離が生じにくく、電池特性を向上させることができることが確認された。
【0149】
(実施例6−1〜実施例6−4)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、負極活物質中の炭素系活物質を表6のように変更した。
【0150】
【表6】
【0151】
表6に示すように、天然黒鉛に人造黒鉛やハードカーボンを加えると、より電池特性が向上する事がわかった。
また放電カーブなどセル設計を考慮して設計した場合、どの炭素材と合わせても問題無く良好な電池特性を維持ことがわかった。
【0152】
(実施例7−1〜実施例7−5)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、炭素系活物質のメジアン径Xとケイ素系活物質のメジアン径Yの比X/Yを表7のように変更した。
【0153】
【表7】
【0154】
表7からわかるように、負極活物質層中の炭素系活物質は、ケイ素系活物質に対し同等以上の大きさであることが望ましい。膨張収縮するケイ素系活物質が炭素系活物質に対して同等以下の大きさである場合、合材層の破壊を防止することができる。炭素系活物質がケイ素系活物質に対して大きくなると、充電時の負極体積密度、初期効率が向上し、電池エネルギー密度が向上する。
【0155】
(実施例8−1〜実施例8−5)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、バルク内に生成するSi/SiO
2成分を変化させることで、SiO単体の初期効率を増減させ、
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク値強度値Aと−100〜−150ppmで与えられるSiO
2領域のピーク値強度値Bの比A/Bを表8に示すように変化させた。これは、SiO
2領域を電気化学的なLiドープ法を用いて、電位規制を行うことで制御できる。
【0156】
【表8】
【0157】
表8に示すように、
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られるケミカルシフトのSiO
2領域のピーク値強度値Bが小さくなり、A/Bが0.8以上となる場合に高い電池特性が得られた。このように、Li反応サイトであるSiO
2部を予め減らすことで電池の初期効率が向上すると共に、安定したLi化合物がバルク内に存在する事で充放電に伴う電池劣化の抑制が可能となることが分かった。
【0158】
(実施例9−1〜実施例9−6)
ケイ素系活物質のバルク内に生成されるLiシリケート化合物(Li
2SiO
3及びLi
4SiO
4)の結晶性を変化させた他は、実施例1−2と同様に二次電池の製造を行った。結晶化度の調整はLiの挿入・脱離後に、非大気雰囲気下で熱処理を加えることで可能である。
【0159】
【表9】
【0160】
Liシリケート化合物の結晶化度が低いほど容量維持率の向上が見られた。これは、結晶化度が低い場合、活物質中の抵抗を減少させられるためと考えらえる。
【0161】
(実施例10−1〜実施例10−9)
ケイ素系活物質の結晶性を変化させた他は、実施例1−2と同様に二次電池の製造を行った。結晶性の変化はLiの挿入、脱離後の非大気雰囲気下の熱処理で制御可能である。実施例10−1〜実施例10−9のケイ素系活物質のX線回折により得られる(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅2θ(°)を表10中に示した。実施例10−9では半値幅を20°以上と算出しているが、解析ソフトを用いフィッティングした結果であり、実質的にピークは得られていない。よって実施例10−9のケイ素系活物質は、実質的に非晶質であると言える。
【0162】
【表10】
【0163】
特に半値幅(2θ)が1.2°以上で、尚且つSi(111)面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下の低結晶性材料で高い容量維持率、初期効率が得られた。特に、非結晶領域(実施例10−9)では最も良い電池特性が得られた。
【0164】
(実施例11、比較例11)
基本的に実施例1−2と同様にして二次電池を作製したが、実施例11では負極活物質材の総量に対するケイ素系活物質の比を0質量%〜20質量%の範囲で変化させて、そのときの電池容量の増加率を調べた。また、比較例11では、バルク内改質を実施しておらず、表層に炭酸リチウム層を有していないケイ素系活物質を炭素系活物質と混合して負極活物質として使用して、実施例11と同様に負極活物質材の総量に対するケイ素系活物質の比を0質量%〜20質量%の範囲で変化させて、そのときの電池容量の増加率を調べた。
【0165】
その結果を、
図4に示す。
図4に示すように、実施例11の曲線はケイ素系活物質の比率が6wt%以上となる範囲で、比較例11の曲線よりも電池容量の増加率が特に大きくなり、ケイ素系活物質の比率が高くなるにつれて、その差は広がっていく。この結果より、本発明において、負極活物質中でのケイ素系活物質の比率が6wt%以上となると電池容量の増加率は従来に比べて大きくなり、大幅に電池容量を増加させられることが分かった。
【0166】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。