(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
表面を処理されたガラス繊維フィルムの製造方法であって、加水分解性シラン化合物とその部分加水分解縮合物との混合物からなる処理液を調製する工程、前記処理液を、処理後のガラス繊維フィルムの100質量%に対して、前記混合物の付着量が2質量%以上90質量%以下となるようにガラス繊維フィルムに塗工し、乾燥させる工程、前記塗工されたガラス繊維フィルムを加熱処理する工程を含み、
前記表面処理ガラス繊維フィルムとして、JIS C 6481記載の方法で測定したガラス転移温度を250℃以下の範囲に有さないものを製造することを特徴とする表面処理ガラス繊維フィルムの製造方法。
前記塗工乾燥工程において、前記ガラス繊維フィルムを構成するガラス繊維の束の全部または一部を前記混合物により結束させることを特徴とする請求項1に記載の表面処理ガラス繊維フィルムの製造方法。
前記表面処理ガラス繊維フィルムとして、JIS R 3420記載の方法で測定した前記表面処理ガラス繊維フィルムの慣用曲げ剛性の値が、未処理のガラス繊維フィルムの慣用曲げ剛性の値に対して3倍から100倍であるものを製造することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面処理ガラス繊維フィルムの製造方法。
前記表面処理ガラス繊維フィルムとして、X−Y方向の線膨張係数が20ppm/℃以下であるものを製造することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の表面処理ガラス繊維フィルムの製造方法。
前記加水分解性シラン化合物として、ハロゲン化シラン系化合物、アルコキシシラン系化合物、ヒドロキシシラン系化合物、シラザン系化合物から選ばれる1種以上の化合物を用いることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の表面処理ガラス繊維フィルムの製造方法。
【背景技術】
【0002】
デジタル技術の目覚しい発展に伴い、パソコン、携帯電話に代表される電子機器の軽薄短小化、高機能化が進められ、例えば代表部品であるプリント基板に対して高密度実装、軽薄短小化が必要とされている。これに対応するために、プリント基板の必須部品であるガラス繊維フィルムに対する特性向上の強い要求がある。また、コンピュータ、モバイル、通信インフラ等の高速・高周波化が進み、それに伴い、プリント配線基板に用いられるガラス繊維フィルムに対しての要求として、伝送損失を改善する低誘電材料が挙げられており、低熱膨張特性や高引張剛性特性を持つものの要求もある。さらに、軽薄短小化の要求から、より薄いガラス繊維フィルムを開発することへの要請の声も高い。
【0003】
近年のモバイル用途半導体パッケージに代表されるように、半導体パッケージの高密度実装、軽薄短小化及び高機能化に伴い、プリント配線基板への要求が高まっている。例えば、実装後のパッケージの反りを防止するために、より低線膨張の基板材料が求められており、これを実現するために、無機系充填剤を高充填した有機樹脂組成物をガラス繊維に含浸した積層基板が採用されている。しかし樹脂組成物が高粘度のためガラス繊維の目開きや縒れを引き起こし、その結果基板の均一性が損なわれるとともに、内在する応力によってパッケージの反りを引き起こすといった問題があった。
なお、ガラス繊維フィルムに関する従来技術としては、例えば、下記の特許文献に記載されているものが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、官能基を持たないアルコキシシランまたはその加水分解縮合物あるいはそれらの両方と、官能基を有するアルコキシシランまたはその加水分解縮合物あるいはそれらの両方との混合物からなり、溶剤としてアルコールを用いたガラス繊維の処理液が紹介されている。前記処理液を用いたガラス繊維は、製膜性、耐候性、耐水性といった特性についての向上が見受けられた。
【0005】
また、特許文献2には、アクリロキシ系カップリング剤で表面処理されたガラス繊維を用い、その表面処理ガラス繊維の基材に透明樹脂組成物としてエポキシ樹脂を含浸、硬化して形成される透明フィルムが紹介されている。前記透明フィルムは透明性及び耐熱性に優れ、リタデーションが低いものとなった。
【0006】
また、特許文献3には、ガラス繊維の集束剤としてフィルム形成成分とシランカップリング剤を含み、該フィルム形成成分が水溶性ウレタンまたは水溶性エポキシ樹脂あるいはそれらの両方であり、前記集束剤の付着率が0.05%〜0.4%の範囲とするプリント配線基板用ガラス繊維フィルムが紹介されている。前記集束剤で処理したガラス繊維フィルムについては、耐電食性についての向上が見受けられた。
【0007】
また、特許文献4には、アセチレングリコール系界面活性剤、被膜形成剤、シランカップリング剤からなるガラス繊維の集束剤が紹介されている。被膜形成剤としてはウレタン樹脂や、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂が例示されている。前記集束剤で処理したガラス繊維は、耐湿潤性及び前記ガラス繊維の集束性についての向上が見受けられた。
【0008】
このように、上述のようなものは、ガラス繊維に対して耐熱性や耐候性などの特性については向上したが、フィルムとした際の強度や、柔軟性、表面均一性、寸法安定性については不安が残るものであった。
【0009】
また、特許文献5には、電気絶縁性を向上させるため、シランカップリング剤の付着量を0.8〜2.0×10
−5mol/m
2に低下させた表面処理ガラス繊維フィルムが紹介されている。前記表面処理ガラス繊維フィルムは、電気絶縁性についての向上が見受けられた。
【0010】
また、特許文献6は、シリコーンオリゴマーによるプリプレグの製造に関するものであり、アルコキシシランの部分加水分解縮合物を活用している。前記シリコーンオリゴマーは、プリプレグの処理に用いられており、得られたプリプレグはドリル加工性及び電気絶縁性についての向上は見受けられた。
【0011】
しかし、特許文献5の表面処理ガラス繊維フィルムは、シランカップリング剤の付着量が少ないため、耐熱性や寸法安定性といった特性については不安が残るものであった。
また、特許文献6のプリプレグでは、加熱により膨張する恐れがあり、寸法安定性に不安があった。また、柔軟性にも難があり、フレキシブル基板として用いるには困難であった。
このように、上述の従来技術には、シランカップリング剤を用いてガラス繊維フィルムを表面処理し、高強度で、柔軟性や表面均一性、寸法安定性に優れた表面処理ガラス繊維フィルムを環境への影響が少ない方法で製造できる製造方法は現状現れていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記事情を鑑みなされたもので、高強度で耐熱性、柔軟性、電気絶縁性、寸法安定性に優れ、平均線膨張係数が低く、また、高温時の貯蔵剛性率が高く、且つ、表面均一性に優れる表面処理ガラス繊維フィルムを環境への影響が少ない方法で製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を達成するために、本発明では、
表面を処理されたガラス繊維フィルムの製造方法であって、加水分解性シラン化合物とその部分加水分解縮合物との混合物からなる処理液を調製する工程、前記処理液を、処理後のガラス繊維フィルムの100質量%に対して、前記混合物の付着量が2質量%以上90質量%以下となるようにガラス繊維フィルムに塗工し、乾燥させる工程、前記塗工されたガラス繊維フィルムを加熱処理する工程を含む表面処理ガラス繊維フィルムの製造方法を提供する。
【0015】
このような製造方法であれば、高強度で耐熱性、柔軟性、耐変色性、電気絶縁性、寸法安定性に優れ、平均線膨張係数が低く、また、高温時の貯蔵剛性率が高く、且つ、表面均一性に優れる表面処理ガラス繊維フィルムを製造できる。このとき、本発明の製造方法では、アルコール系溶剤やトルエンなどの芳香族系溶剤を使わなくてもよいため、前記表面処理ガラス繊維フィルムを環境への影響が少ない方法で製造できる。
【0016】
またこのとき、前記塗工乾燥工程において、前記ガラス繊維フィルムを構成するガラス繊維の束の全部または一部を前記混合物により結束させる製造方法であることが好ましい。
【0017】
このような製造方法であれば、よじれや目開きを生じることもないことから均一性に優れ、高温時の応力集中がないことから高温下でも寸法安定性に優れた表面処理ガラス繊維フィルムを製造できる。
【0018】
またこのとき、前記表面処理ガラス繊維フィルムとして、JIS R 3420記載の方法で測定した前記表面処理ガラス繊維フィルムの慣用曲げ剛性の値が、未処理のガラス繊維フィルムの慣用曲げ剛性の値に対して3倍から100倍であるものを製造する製造方法であることが好ましい。
【0019】
このような製造方法であれば、より寸法安定性、電気絶縁性、耐熱性、耐候性、柔軟性に優れた表面処理ガラス繊維フィルムを製造できる。
【0020】
またこのとき、前記表面処理ガラス繊維フィルムとして、X−Y方向の線膨張係数が20ppm/℃以下であるものを製造する製造方法であることが好ましい。
【0021】
このような製造方法であれば、高密度実装や軽薄短小化が求められるプリント基板に好適に用いることができる表面処理ガラス繊維フィルムを製造できる。
【0022】
またこのとき、前記表面処理ガラス繊維フィルムとして、JIS C 6481記載の方法で測定したガラス転移温度を250℃以下の範囲に有さないものを製造する製造方法であることが好ましい。
【0023】
このような製造方法であれば、より高度な高密度実装や軽薄短小化が求められるプリント基板に好適に用いることができる、耐熱性や電気絶縁性がさらに良好な表面処理ガラス繊維フィルムを製造できる。
【0024】
またこのとき、前記加水分解性シラン化合物として、ハロゲン化シラン系化合物、アルコキシシラン系化合物、ヒドロキシシラン系化合物、シラザン系化合物から選ばれる1種以上の化合物を用いる製造方法であることが好ましい。
【0025】
このような化合物を用いる製造方法であれば、より環境への影響が少ない製造方法となる。
【0026】
さらに本発明では、上記の製造方法で製造された表面処理ガラス繊維フィルムを用いたフレキシブル繊維基板を提供する。
【0027】
このようなフレキシブル繊維基板であれば、よじれや目開きを生じることもなく、したがって得られる基板の均一性に優れ、高温時の応力集中がないため、高温下でも寸法安定性に優れた基板となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の製造方法は、加水分解性シラン化合物とその部分加水分解縮合物との混合物からなる処理液を使用しているため、高強度で、電気絶縁性、耐熱性、寸法安定性、耐変色性、耐候性、柔軟性などに優れ、平均線膨張係数が低く、高温時の貯蔵剛性率が高く、かつ、酸素バリア性、水蒸気バリア性、表面均一性に優れる表面処理ガラス繊維フィルムを製造できる。このとき、本発明の製造方法では、アルコール系溶剤や芳香族系溶剤を使わなくてもよいため、前記表面処理ガラス繊維フィルムを環境への影響が少ない方法で製造できる。
また、本発明の製造方法で製造された表面処理ガラス繊維フィルムは、ガラス繊維の束の一部または全部が結束されているため、基板用の材料として用いた場合、よじれや目開きを生じることもなく、したがって得られる基板の均一性に優れ、高温時の応力集中がないため、高温下でも寸法安定性に優れた基板を提供できる。さらに、従来のフレキシブル基板では問題となっていた、機械的強度が弱いため、重い部品を載置するには別に支えが必要になることや、熱特性が悪いことなどの欠点を解消した表面処理ガラス繊維フィルムを製造できる。即ち、本発明の製造方法で製造された表面処理ガラス繊維フィルムから優れたフレキシブル繊維基板が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
上述のように、高密度実装や軽薄短小化が求められるプリント基板に用いるため、線膨張係数が低く、表面均一性に優れる基板材料を環境への負荷が少ない方法で製造できる製造方法が求められていた。
【0030】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、加水分解性シラン化合物とその部分加水分解縮合物との混合物からなる処理液を調製し、前記処理液をガラス繊維フィルムに塗工する工程を製造方法に含めることにより、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0031】
即ち、本発明は、
表面を処理されたガラス繊維フィルムの製造方法であって、加水分解性シラン化合物とその部分加水分解縮合物との混合物からなる処理液を調製する工程、前記処理液を、処理後のガラス繊維フィルムの100質量%に対して、前記混合物の付着量が2質量%以上90質量%以下となるようにガラス繊維フィルムに塗工し、乾燥させる工程、前記塗工されたガラス繊維フィルムを加熱処理する工程を含む表面処理ガラス繊維フィルムの製造方法である。
【0032】
本発明の製造方法において、ガラス繊維フィルムを処理する処理液に用いる加水分解性シラン化合物としては、ハロゲン化シラン系化合物、アルコキシシラン系化合物、ヒドロキシシラン系化合物、シラザン系化合物などが挙げられる。中でも、アルコキシシラン系化合物、ヒドロキシシラン系化合物が好ましく、取扱い性、保存安定性などの点で特に好ましくはアルコキシシラン系化合物である。これら加水分解性シラン化合物は、1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0033】
アルコキシシラン系化合物の一例として下記式で示されるものが例示できる。
R
1nSi(OR
2)
4−n
(式中、R
1は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、アミノ基含有1価炭化水素基、(メタ)アクリル基含有1価炭化水素基、エポキシ基含有1価炭化水素基から選ばれる基であり、R
2は炭素数1〜6のアルキル基、nは0〜3の整数)
【0034】
具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサンなどのアルキルアルコキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシランなどのアリールアルコキシシラン、ヒドロキシトリメトキシシラン、ヒドロキシトリエトキシシランなどのヒドロキシアルコキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのアルケニルアルコキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの(メタ)アクリル基含有アルコキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アリルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−(N−ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N−(N−ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン及びその塩酸塩などのアミノ基含有アルコキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリス−(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートなどのイソシアネートアルコキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリスエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のアルコキシシラン化合物が挙げられ、これらのアルコキシシランは1種あるいは2種以上混合して使用しても良い。また、これらに限定するものではない。
【0035】
好ましいアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシランやフェニルトリメトキシシラン、一般にシランカップリング剤と称される官能基を有するアルコキシシランから選択される。例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤が例示される。
【0036】
本発明の表面処理ガラス繊維フィルムを得るために、ガラス繊維フィルムを処理する処理液は、加水分解性シラン化合物とその部分加水分解縮合物との混合物からなる、均一で透明な水溶液を用いることが好ましい。
【0037】
ここで「均一な水溶液」とは、静置した際に相分離しない処理液を意味する。具体的には、室温(15〜30℃)下で処理液を入れた容器を1時間振とうし、室温で静置後30分以内、好ましくは1時間以内、更に好ましくは2時間以内に水層と有機層に分離することがない処理液のことを言う。
【0038】
また、ここで「透明な水溶液」というのは、処理液が濁っていないことを指し、無色透明の容器に入れた場合、散乱光が少ない状態を言う。具体的には、JIS K 0101「工業用水試験方法」に記載のホルマジン標準液を用いた濁度の値が200度(ホルマジン)以下、好ましくは100度(ホルマジン)以下、更に好ましくは50度(ホルマジン)以下であるような処理液であれば、透明な処理液であると言える。
【0039】
均一で透明な水溶液を得るためには、加水分解性シラン化合物とその部分加水分解縮合物を混合した状態で用いる必要がある。反応初期の加水分解性シラン化合物のみが存在する状態では水に溶解しないため相分離してしまう。また、加水分解反応が全て進行し、加水分解性シラン化合物の縮合物のみになると、前記縮合物は水に溶解しづらいため、処理液に濁りを生じたり、相分離してしまったりする。
【0040】
本発明の処理液における上記混合物と水との混合比(質量%)は、原料として使用する加水分解性シラン化合物の種類により異なるが、加水分解性シラン化合物とその部分加水分解縮合物との混合物:水=2〜80:20〜98、好ましくは5〜60:40〜95(質量%)である。
【0041】
本発明の処理液は、アルコール溶剤は含有しないものであることが好ましい。また、この処理液に、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、などの有機酸やアンモニア水などのpH調整剤を添加してもよい。
特に、酢酸の添加は加水分解性シラン化合物特にアルコキシシラン類の加水分解を促進し、シラノール基の安定化に寄与することから、各種アルコキシシランの溶解性を向上させ、処理液に酢酸を添加した系は加水分解性シラン化合物とその部分加水分解縮合物との混合物の添加量が水溶液中に少量であってもガラス繊維フィルムへの付着量が多いので、製造効率の面で好ましい。また、酢酸を入れる場合の添加量は、処理液100質量%に対して、0.02質量%〜1.0質量%、好ましくは0.05質量%〜0.5質量%の範囲である。pH調整剤を添加することでアルコキシシラン及びその部分加水分解縮合物の付着量が増加することから、添加することが好ましい。
【0042】
本発明の処理液に縮合触媒を添加してもよい。例えば有機スズ化合物、有機チタン化合物、有機ビスマス化合物のような有機金属化合物系、アミン系化合物などが挙げられる。
【0043】
有機金属化合物系の縮合触媒としては、ジブチルスズジメトキサイド、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズビス(アセチルアセトナート)、ジブチルスズビス(ベンジルマレート)、ジメチルスズジメトキサイド、ジメチルスズジアセテート、ジオクチルスズジオクテート、ジオクチルスズジラウレート、スズジオクテート、及びスズジラウレート等の有機スズ化合物、並びに、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラターシャリーブチルチタネート、テトラノルマルプロピルチタネート、テトラ−2−エチルヘキシルチタネート、ジイソプロピルジターシャリーブチルチタネート、ジメトキシチタンビスアセチルアセトナート、ジイソプロポキシチタンビスエチルアセトアセテート、ジターシャーリーブトキシチタンビスエチルアセトアセテート、及びジターシャリーブトキシチタンビスメチルアセトアセテート等の有機チタン化合物、ビスマストリス(2−エチルヘキサノエート)又はビスマストリス(ネオデカノエート)等の有機ビスマス化合物などの金属ルイス酸等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
アミン系化合物の例としては、ヘキシルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、ジ−n−ヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジ−n−オクチルアミン、ヘキサメトキシメチルメラミン等が挙げられる。
これら縮合触媒の中では、有機チタン化合物が特に好ましい。
【0045】
また、上記処理液に充填材としてコロイダルシリカを添加することで、フィルムの慣用曲げ剛性向上、耐熱性向上、スリップ防止特性付与などの効果が期待できる。そのようなコロイダルシリカ(シリカゾル)として、SILFIX(信越化学工業製スリップ防止剤)やスノーテックス(日産化学工業(株)社製シリカゾル)やライトスター(日産化学工業(株)社製シリカゾル)、アデライトATシリーズ((株)ADEKA社製)などが使用できる。その添加量は加水分解性シラン化合物とその部分加水分解縮合物との混合物と蒸留水からなる処理液100質量%に対し0質量%〜100質量%、好ましくは5質量%〜80質量%、更に好ましくは10質量%〜60質量%である。コロイダルシリカが100質量%以下であれば、処理液内での微粉末シリカの分散性は安定し、作業性、塗布加工性、製品均一性などに問題は発生しない。また出来たフィルムからのシリカの脱落も認められない。
【0046】
電気絶縁性、耐熱性、寸法安定性、柔軟性といった特性について、より良好なものを得るために、ガラス繊維処理フィルムへの前記混合物の付着量は、処理後のガラス繊維フィルムの100質量%に対して、2質量%以上90質量%以下、好ましくは5質量%以上70質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上60質量%以下である。
【0047】
2質量%未満の付着量では、電気絶縁性、耐熱性、寸法安定性、自立性などの特性が劣るものとなる。また、90質量%を超えた付着量では、耐熱性が低下したり、柔軟性が損なわれたりしたものとなり、また、電気絶縁性、寸法安定性などが劣るものとなる。
【0048】
ガラス繊維フィルムに集束剤が塗布されている場合、処理液による処理が阻害される場合があるので、予め除去しておくことが望ましい。
【0049】
上記のような処理液を用いた製造方法であれば、高強度で耐熱性、柔軟性、電気絶縁性、寸法安定性に優れ、平均線膨張係数が低く、また、高温時の貯蔵剛性率が高く、且つ、表面均一性に優れる表面処理ガラス繊維フィルムを環境への影響が少ない方法で製造できる製造方法となる。
【0050】
本発明で用いるガラス繊維フィルムは、フィラメント状のガラス繊維からなるものが好ましく、柱状流或いは高周波振動法による水流で開繊加工することも可能である。さらに、本発明に適用するガラス繊維は、Eガラス、Aガラス、Dガラス、Sガラス等のいずれのガラス繊維でも使用できる。コスト及び入手のしやすさから一般用のEガラスが好ましいが、より高度な特性を要求される場合(例えば、低誘電率、高耐熱性、低不純物など)には石英ガラスが好ましい。
【0051】
また、上記ガラス繊維フィルムとしては、繊維の織り密度は10〜200本/25mmが好ましく、より好ましくは15〜100本/25mmであり、質量は5〜400g/m
2が好ましく、より好ましくは10〜300g/m
2である。この範囲であれば、本発明の表面処理ガラス繊維フィルムとした時に上述の作用効果を容易に得ることができる。
【0052】
織りかたは特に制限なく平織り、朱子織り、綾織り、ななこ織り等を使用できる。また、双方または一方がテクスチャード加工を施されたガラス繊維で製織されたガラス繊維フィルムであっても良い。更に三軸組布されたガラス繊維フィルムはより強度が強く、信頼性の高い表面処理ガラス繊維フィルムとなる。
また、不織布や長繊維を一定方向に配列させた織物も使用可能である。
【0053】
本発明では、要求される特性に応じて、上記ガラス繊維に、炭素繊維、セラミック系などの無機繊維、ホウ素繊維、スチールファイバー、タングステン繊維などの金属繊維、アラミド、フェノール系などの新耐熱繊維などの繊維を混合した織布などをガラス繊維フィルムとして用いることができる。
【0054】
本発明で使用される処理液の塗布方法は、一般的なガラス繊維の塗布方法が適用される。代表的なコーティング方式としては、ダイレクトグラビアコーター、チャンバードクターコーター、オフセットグラビアコーター、一本ロールキスコーター、リバースキスコーター、バーコーター、リバースロールコーター、スロッタダイ、エアードクターコーター、正回転ロールコーター、ブレードコーター、ナイフコーター、含浸コーター、MBコーター、MBリバースコーターなどがある。中でもダイレクトグラビアコーター、オフセットコーター、含浸コーター塗布方式が本発明の表面処理ガラス繊維フィルムの製造には好ましい。
【0055】
上記コーティング方式によりガラス繊維表面に処理液を処理した後、乾燥及び硬化させる目的で前記ガラス繊維は多段層を持つオーブンに導入されるが、乾燥効率を上げるために、またオーブンでの効率を上げるために、コーティング直後に遠赤外線ヒーターでその表面を加熱乾燥することが好ましい。
【0056】
使用する処理液により条件は異なるが、塗工し、乾燥させた後、硬化目的で室温から300℃で1分から24時間加熱する。生産性やコスト、作業性を考慮して好ましくは100℃から250℃で3分から4時間、より好ましくは150℃から230℃で5分から1時間の加熱処理で本発明の表面処理ガラス繊維フィルムを製造する。この場合、乾燥工程における加熱と、表面のべたつき感を消失させる程度の加熱は同時に行ってもよい。
【0057】
電気絶縁性、耐熱性、対候性、寸法安定性、柔軟性といった特性について、より良好なものを得るために、JIS R 3420記載の方法で測定した前記表面処理ガラス繊維フィルムの慣用曲げ剛性の値が、未処理のガラス繊維フィルムの慣用曲げ剛性の値に対して、3倍から100倍の範囲内にあるものであることが好ましい。
【0058】
この慣用曲げ剛性の値は、JIS R 3420記載の方法で測定した値であり、この倍数は、ガラス繊維フィルムを表面処理することによって、いわゆる「織布」状態から「フィルム」状態に変化する程度を示す指標として用いるものである。本発明の表面処理ガラス繊維フィルムでは、この慣用曲げ剛性の値の倍数が、未処理のガラス繊維フィルムの測定値に対して、3倍から100倍であることが好ましく、より好ましくは5倍から60倍であり、更に好ましくは10倍から50倍である。
【0059】
3倍以上であれば、本発明が目的とする寸法安定性やガラス繊維の固定化すなわちよじれ防止や目開き防止効果が得られ、またシロキサン特性に起因する電気絶縁性、耐熱性、酸素バリア性や水蒸気バリア性といった特性に起因する耐候性などが十分なものとなる。また100倍以下であれば、曲げ剛性は固くなりすぎないため、クラックは発生せず、フレキシブル基板としての柔軟性が得られる。
【0060】
本発明の表面処理ガラス繊維フィルムのX−Y方向の線膨張係数は、20ppm/℃以下が好ましく、より好ましくは15ppm/℃以下である。X−Y方向の線膨張係数の測定方法としては、幅3mm、長さ25mm、厚み50〜300mmにサンプルを切り出し、熱機械的分析(TMA)装置にて100mNの荷重を加えながら5℃/minの昇温速度で−60℃から200℃の温度範囲で引張試験による測定方法を例示できる。線膨張係数が20ppm/℃以下、即ち、低線膨張係数であることにより、プリント基板に対する高密度実装、軽薄短小化への要求に対応可能となる。また、過酷な条件で使用される宇宙用途や輸送機分野向けの電気絶縁性、耐熱性フィルムとして使用可能である。
一般的な高耐熱エンプラフィルムであるポリエーテルイミドフィルムの線膨張係数は、50ppm/℃程度である。これに対して、本発明の表面処理ガラス繊維フィルムが上述の線膨張係数であれば、優れた耐熱性とともに、低線膨張係数を兼ね備えたフィルムを提供することができる。
【0061】
本発明による表面処理ガラス繊維フィルムは、JIS C 6481記載の方法で測定したガラス転移温度を250℃以下の範囲に有さないものであることが好ましく、300℃以下の範囲に有さないものであることが特に好ましい。250℃以下にガラス転移温度を有さないものであれば、耐熱性に優れ、熱時の反りが抑制された基板が得られるため、プリント基板に対する高密度実装、軽薄短小化への要求に対応可能となり、さらに耐熱性、電気絶縁性に優れたガラス繊維フィルムが提供できる。
【0062】
本発明の製造方法であれば、高強度で耐熱性、柔軟性、電気絶縁性、寸法安定性に優れ、平均線膨張係数が低く、また、高温時の貯蔵剛性率が高く、且つ、表面均一性に優れる表面処理ガラス繊維フィルムを環境への影響が少ない方法で製造できる製造方法となる。
【0063】
本発明の製造方法で得られた処理液で処理されたガラス繊維フィルムは、フレキシブル繊維基板の材料として好適に用いることができる。
【0064】
このように製造された表面処理ガラス繊維フィルムは、加水分解性シラン化合物とその部分加水分解縮合物で表面処理されており、耐熱性、電気絶縁性、寸法安定性、変色性、耐光性、耐候性などに優れている。また、未処理のガラス繊維にない自立性があり、繊維が固定化されていることから樹脂充填時におけるガラス繊維のよれや目開きなどの問題が発生しない均一、均質なガラス繊維フィルムが得られる。このガラス繊維フィルムは1枚で使用することが可能であり、積層させて使用することも可能である。さらに、樹脂板として単独での使用が可能であり、プリプレグの補強基板としての使用が期待できる。また、その表面に銅張りあるいは銅メッキといった金属を張ることで金属張基板となり、LED実装基板への使用が期待できる。
【0065】
本発明の表面処理ガラス繊維フィルムは、ガラス繊維に上記のように優れた剛性率、耐候性、高強度を付与したものであるため、テニスラケットやゴルフシャフト、野球のバット、釣竿などのスポーツ、レジャー用品への素材としての応用なども考えられる。また、航空機や宇宙向けロケットなど補強材料として、自動車、自転車、船舶などの輸送分野の軽量高剛性高強度材料として、軽量高強度不燃性から防弾チョッキなどに、高強度・高耐久・耐候性を生かした橋脚の補強などインフラの改修工事向けとして土木分野などに、本発明の製造方法で製造される表面処理ガラス繊維フィルムは多種多様な分野での使用が期待できる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0067】
(実施例1)
加水分解性シラン化合物として、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−903、信越化学工業製)を用い、3−アミノプロピルトリメトキシシラン50質量%と蒸留水50質量%を混合し、振とう器を用い25℃で1時間攪拌させた。調製した無色透明な処理液を用いて、ガラス繊維フィルム(使用糸:E250、密度:タテ糸59本/25mm、ヨコ糸57本/25mm、厚さ:87μm、質量:95g/m
2)に含浸させ、120℃×10分で水分を乾燥させた。その後100℃×1時間及び200℃×1時間加熱処理してガラス繊維フィルムを作製した。加水分解性シラン化合物とその部分加水分解縮合物との混合物の付着量を表1に示す。また、得られた表面処理ガラス繊維フィルムに対し、以下の測定を行なった。
【0068】
・機械的特性
得られた表面処理ガラス繊維フィルムについて以下の機械的特性を測定した。
【0069】
1.慣用曲げ剛性
JIS R 3420(ガラス繊維一般試験方法)に記載の方法で測定を行い、縦糸方向での測定値を用いた。結果を表1に示す。
【0070】
2.線膨張係数
得られた表面処理ガラス繊維フィルムについて、幅3mm、長さ25mm、厚み50〜300mmにサンプルを切り出し、熱機械的分析(TMA)装置(装置名:TMA/SS6000、(株)セイコーインスツルメンツ)にて100mNの荷重を加えながら5℃/minの昇温速度で−60℃から200℃の温度範囲で引張試験を行った。温度に対する表面処理ガラス繊維フィルムの伸び量から熱膨張係数を測定した。
【0071】
3.ガラス転移温度
得られた表面処理ガラス繊維フィルムについて、幅4〜6mm、長さ30〜40mm、厚み50〜300mmにサンプルを切り出し、JIS C 6481記載の方法に従って、動的粘弾性測定装置(装置名:Q800、TA Instruments社製)により、−100℃〜300℃の範囲にわたって、前記表面処理ガラス繊維フィルムに対して平行な方向(X−Y軸方向)のガラス転移温度を測定した。前記測定範囲にガラス転移温度が発現する場合はその値を表1に示し、前記温度範囲にガラス転移温度が発現しない場合は「検出されず」と表1に示した。
【0072】
(実施例2)
加水分解性シラン化合物として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−403、信越化学工業製)を用い、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン5質量%を蒸留水95質量%に加え、次いで酢酸0.5質量%を加えて25℃で1時間振とう器で振とうさせて無色透明な処理液を調製して用いたほかは、実施例1と同様の方法でガラス繊維フィルムを作製した。実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に記載した。
【0073】
(実施例3)
実施例2の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−403、信越化学工業製)を3−アミノプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−903、信越化学工業製)に変えた以外は、実施例2と同様な方法でガラス繊維フィルムを作製した。処理液は無色透明であった。実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に記載した。
【0074】
(実施例4)
実施例3で調製した処理液100質量%に、コロイダルシリカとしてスノーテックスST−O(日産化学工業社製)20質量%を添加して処理液を調製した。処理液は無色透明であった。それを実施例1と同様な条件でガラス繊維フィルム(日東紡製 厚さ87μmヒートクロス)に含浸、加熱硬化処理した。その結果を表1に示す。
【0075】
(実施例5)
実施例1で調製した処理液を実施例1と同様な条件で厚みの異なるガラス繊維フィルム(日東紡製 厚さ42μmヒートクロス)に含浸、加熱硬化処理した。その結果を表1に示す。
【0076】
(実施例6)
実施例2で調製した処理液を実施例1と同様な条件で厚みの異なるガラス繊維フィルム(日東紡製 厚さ42μmヒートクロス)に含浸、加熱硬化処理した。その結果を表1に示す。
【0077】
(比較例1)
3‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−403、信越化学工業製)5質量%をトルエン95質量%に加えて25℃で1時間振とう器で振とうさせて処理液を調製した。その無色透明の処理液を用いて実施例1と同様な条件でガラス繊維フィルムを作製した。実施例1と同様な評価を行い、その結果を表1に記載した。
【0078】
(比較例2)
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−403、信越化学工業製)を0.5質量部、界面活性剤として、HLBが13.6であるポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル0.02質量部、酢酸0.05質量部を水100質量部に加え、25℃で1時間振とう器で振とうさせて無色透明の処理液を調製した。その処理液を用いて実施例1と同様の方法でガラス繊維フィルムを作製した。実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に記載した。
【0079】
(比較例3)
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのかわりに3−アミノプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−903、信越化学工業製)0.5質量%を用いたほかは比較例2と同様の方法でガラス繊維フィルムを作製した。その後、作製したガラス繊維フィルムについて実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0080】
(比較例4)
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−403、信越化学工業製)を200mm×240mm×3mmのテフロン(登録商標)加工された型枠内に入れ、その中にガラス繊維フィルム(使用糸:E250、密度:タテ糸59本/25mm、ヨコ糸57本/25mm、厚さ:87μm、質量:95g/m
2)を入れ、100℃10分で加熱乾燥させた。前記混合物の付着量は92質量%であったが、表面処理ガラス繊維フィルムに大きなクラックが発生し、以後の測定ができなかった。
【0081】
【表1】
*1:慣用曲げ剛性倍率(倍)=表面処理ガラス繊維フィルムの慣用曲げ剛性
/未処理ガラス繊維フィルムの慣用曲げ剛性
【0082】
表1の結果から、実施例1〜6の表面処理ガラス繊維フィルムは、いずれも前記処理液の処理後のガラス繊維フィルムの100質量%に対して、前記混合物の付着量が2質量%以上90質量%以下であった。しかも、処理液を調製する際、アルコール系溶剤や芳香族系溶剤を使用しなくてもよいため、環境にもやさしい。一方、比較例1〜4の表面処理ガラス繊維フィルムにおいては、いずれも前記混合物の付着量が2質量%以上90質量%以下ではなかった。
【0083】
4.形状変化試験
実施例1から実施例6、及び比較例1から比較例4で作製した表面処理ガラス繊維フィルム及び、比較例5として未処理のガラス繊維フィルム(使用糸:E250、密度:タテ糸59本/25mm、ヨコ糸57本/25mm、厚さ:87μm、質量:95g/m
2)で作製した表面処理ガラス繊維フィルムを用いて下記の比較評価試験を行った。
予め、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:EPICRON N−695、(株)DIC製)10質量部、フェノールノボラック樹脂(商品名:PHENOLITE TD−2090、(株)DIC製)5質量部、イミダゾール系触媒(商品名:1B2PZ、(株)四国化成製)0.1質量部、球状シリカ(商品名:SC−2050−SE、(株)アドマテックス製)85質量部及びMEK溶剤50質量部からなる高フィラー含有エポキシ樹脂組成物のスラリーを調製した。
各表面処理ガラス繊維フィルムあるいは未処理のガラス繊維フィルムを上記高フィラー含有エポキシ樹脂組成物スラリーに含浸したのち、100℃で10分乾燥後、金型にセットし、温度:200℃、圧力:2MPa、加圧時間:70分でプレスして、フィルムの目開き、捩れなど形状変化を目視で観察した。また、表面処理ガラス繊維フィルム及び未処理のガラス繊維フィルム(比較例5)に対し、IRリフロー装置(装置名:TNR15−225LH、(株)田村製作所製)により260℃、60秒間のIRリフロー処理を行った後、表面の色の変化を目視で観察した。
その結果を表2に示す。
【0084】
【表2】
*2 形状変化
○:良好、目開きなし ×:目開きあり、縒れあり
【0085】
表2の結果から、実施例1〜6の表面処理ガラス繊維フィルムでは、プレス時の形状変化が少ないことから寸法安定性に優れ、表面の色の変化がないことから耐熱変色性に優れるものであることが分かった。一方、比較例1〜4の表面処理ガラス繊維フィルム、及び比較例5の未処理のガラス繊維フィルムは寸法安定性に劣るものであり、比較例4の表面処理ガラス繊維フィルムは耐熱変色性に劣るものであることが分かった。
【0086】
(実施例7)
実施例1で得られた表面処理ガラス繊維フィルム2枚を付加型シリコーン樹脂接着剤(製品名:KE−109、信越化学工業(株)製)によって貼りあわせ、熱プレス機にて圧力2MPa、150℃で30分間加圧成型し、更にこれを150℃で1時間2次硬化させて積層板を得た。得られた積層板について下記評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0087】
5.外観
得られた積層板の表面を目視で観察し、フィルムの目開き、捩れの有無を確認した。
【0088】
6.耐熱変色性
得られた積層板に対して、IRリフロー装置(装置名:TNR15−225LH、(株)田村製作所製)により260℃、60秒間のIRリフロー処理を行った後、表面の色の変化を目視で観察した。
【0089】
(実施例8)
実施例3で得られた表面処理ガラス繊維フィルムを用いて、実施例7と同様の方法で積層板を得た。得られた積層板を用いて、実施例7と同様にして、外観、耐熱変色性を評価した。結果を表3に記載した。
【0090】
(実施例9)
実施例6で得られた表面処理ガラス繊維フィルムを用いて、実施例7と同様の方法で積層板を得た。得られた積層板を用いて、実施例7と同様にして、外観、耐熱変色性を評価した。結果を表3に記載した。
【0091】
(実施例10)
実施例1で得られた表面処理ガラス繊維フィルムを用いて、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(製品名:EPICRON N−695、(株)DIC製)10質量部、フェノールノボラック樹脂(製品名:PHENOLITE TD−2090、(株)DIC製)5質量部、イミダゾール系触媒(製品名:2E4MZ、(株)四国化成製)0.1質量部、球状シリカ(製品名:SC−2050−SE、(株)アドマテックス製)85質量部及びMEK溶剤50質量部からなるエポキシ樹脂組成物のスラリー溶液に含浸し、100℃×10分間乾燥し、未硬化状態のエポキシ樹脂含浸ガラス繊維フィルムを得た。得られた未硬化状態のエポキシ樹脂含浸ガラス繊維フィルムを4枚用い、熱プレス機にて圧力2MPa、150℃で30分間加圧成型し、更にこれを150℃で1時間二次硬化させて積層板を得た。得られた積層板を用いて、実施例7と同様にして、外観、耐熱変色性を評価した。結果を表3に記載した。
【0092】
(比較例6)
未処理のガラス繊維フィルム(使用糸:E250、密度:タテ糸59本/25mm、ヨコ糸57本/25mm、厚み:87μm、質量:95g/m
2)を用いたほかは、実施例10と同様の方法で積層板を得た。得られた積層板を用いて、実施例7と同様にして、外観、耐熱変色性を評価した。結果を表3に記載した。
【0093】
【表3】
*3 形状変化
○:良好、目開きなし ×:目開きまたは縒れ、もしくは両方の発生
【0094】
表3の結果から、実施例7〜9の積層板では、本発明の製造方法で製造された表面処理ガラス繊維フィルムを用いているため、プレス時の形状変化が少ないことから寸法安定性に優れ、表面の色の変化がないことから耐熱変色性に優れた基板を提供できる。また、エポキシ樹脂などを含まずに積層板を製造しているため、従来のガラスエポキシ基板の欠点である基材の変色を抑えた積層板を得ることも可能になる。また、実施例10の積層板では、プレス時の形状変化が少ないことから寸法安定性には優れていたが、エポキシ樹脂を含浸させたため、表面の色の変化があることから耐熱変色性は他の実施例より劣ることが分かった。
一方、比較例6の本発明の処理液で表面処理をしていないガラス繊維フィルムを用いた積層板においては、プレス時の形状変化があり、表面の色の変化があることから、寸法安定性、耐熱変色性に劣るものであったため、上記のように基板に用いるのは不適当であると考えられる。
【0095】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。