【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明の制震補強架構柱の軸力導入装置は、柱・梁からなるフレームを有する主構造体の構面外にその構面に平行に配列し、互いに間隔を隔てて立設される支柱と、構面内水平方向に隣接する支柱間に架設されるつなぎ梁と、構面内水平方向に隣接する支柱間に架設される、ブレース本体にダンパーを組み込んだダンパー一体型ブレースを備え、前記支柱が鉛直方向に複数本の支柱材に分離し、上下に分離した支柱材間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置が介在した、前記主構造体を制震補強するための制震補強架構が前記主構造体の前記フレームから距離を置いた位置に配置され、前記主構造体に接合された制震補強架構付き構造物において、
平面上、前記支柱を挟んだ位置、または包囲した位置に前記支柱に平行に立設される補助柱と、前記支柱の最上部の前記支柱材上に設置され、前記補助柱に接合される反力受け材と、この反力受け材に前記支柱の軸方向に平行な方向の引張力を付与する軸力導入材とを備え、
前記軸力導入材は前記反力受け材に前記引張力を付与するときに、その引張力の反力としての圧縮力を前記最上部の前記支柱材に軸方向に導入することを構成要件とする。
【0011】
制震補強架構1の複数本の支柱2は
図11に示すように主構造体6の構面に平行に、構面内水平方向に互いに間隔を隔てて配列し、各支柱2は鉛直方向に複数本の支柱材21〜23に分離する。上下に分離した支柱材21、22(22、23)間には両者間の相対水平移動を許容しながら、相対水平移動後に原位置に復帰させる絶縁装置5が介在する。同一レベルで水平方向に隣接する支柱材21、21(22、22(23、23))間には両支柱材21、21を互いにつなぎ、相対水平移動時にも両支柱材21、21の軸線が鉛直方向を向くように両支柱材21、21を保持するつなぎ梁3が架設される。
【0012】
レベルを異にして隣接する支柱材21、22(22、23)間にはその隣接する支柱材21、22(22、23)間の相対水平移動時に、支柱材21、22(22、23)間の距離の変化に応じて伸縮し、その相対移動量、または相対速度に応じた減衰力を発生するダンパー42を内蔵したダンパー一体型ブレース(以下、ブレース)4が架設される。「構面内水平方向」は主構造体6の桁行方向を指し、主構造体6のスパン方向は構面外方向になる。
【0013】
制震補強架構1は少なくともいずれかの支柱2において主構造体6の柱61に接合されるが、主構造体6の層間変形時の主構造体6からの水平せん断力を制震補強架構1に伝達させるために、制震補強架構1は
図1、
図12に示すようにつなぎ梁3においても主構造体6の梁やスラブ、壁62等の構造部材に接続スラブ31を介して接合される。接続スラブ31は主構造体6の構造部材とつなぎ梁3との間に構築され、双方に少なくとも水平せん断力の伝達が可能な状態に接合される。
【0014】
請求項1における「制震補強架構柱」の「柱」は支柱2を指す。支柱2は主に鉄骨造、または鉄筋コンクリート造(鉄骨鉄筋コンクリート造を含む)である。また請求項1における「制震補強架構1が主構造体6のフレームから距離を置いた位置に配置される」の「フレーム」は主構造体6の制震補強架構1寄りの、構面内方向に平行な構面をなす、柱・梁等からなるフレームを指す。
【0015】
請求項1における「平面上、」とは平面で見たときの状況を言い、「平面上、支柱2を挟んだ位置、または包囲した位置に支柱2に平行に立設される補助柱」とは、補助柱8が平面上、支柱2の周囲に均等に分散して配置されることを言う。1本の支柱2の周囲に配置される補助柱8の本数は2本に限られず、3本以上のこともある。補助柱8は最上部の支柱材23上に直接、もしくは後述の中間部材13等を挟んで間接的に、軸方向を鉛直方向に向けて設置される。反力受け材9は補助柱8に直接的に、またはつなぎ材15等の中間部材を挟んで間接的に接合される。
【0016】
請求項1における「軸力導入材が反力受け材に軸方向に平行な方向の引張力を付与するときに、引張力の反力としての圧縮力を最上部の支柱材に軸方向に導入する」とは、軸力導入材10が反力受け材9に軸方向の引張力を付与するときの反力が最上部の支柱材23に圧縮力として伝達され、支柱2に軸方向圧縮力が導入されることを言う。
【0017】
軸力導入材10は反力受け材9に軸方向の引張力を導入するときに利用する反力を最上部の支柱材23に、引張力と逆向きに付与する機能を持てばよく、例えばPC鋼材に張力(緊張力)を導入するセンターホールジャッキその他のジャッキも軸力導入材10としては使用可能である。但し、ジャッキは反力受け材9への引張力の付与時に設置され、引張力の付与後には撤去(回収)されることから、図面では単純な構造で、撤去を必要としない雄ねじを軸力導入材10として使用している。
【0018】
図示しないが、軸力導入材10としてジャッキを使用する場合、ジャッキは支柱材23上に載置される等、支柱材23に軸方向下向きに反力を付与可能に、下方へ係止した状態で、軸方向を鉛直方向に向けて設置される。ジャッキは反力受け材9を把持し、支柱材23に反力を取りながら、支柱材23の軸方向に伸長等することにより反力受け材9に軸方向引張力を導入しながら、支柱材23に軸方向圧縮力を付与することになる。ジャッキの伸長による反力受け材9への引張力導入の結果、反力受け材9に接合された補助柱8に引張力が付与される。
【0019】
軸力導入材10が図示するような雄ねじの場合、反力受け材9には雄ねじが螺入する雌ねじ9aを有する筒形に形成される。詳しくは棒状の軸力導入材10の軸方向の少なくとも一部の区間の外周面に雄ねじ10aが形成され、反力受け材9の軸方向の少なくとも一部の区間に軸力導入材10の雄ねじ10aが螺入する雌ねじ9aが形成される(請求項2)。雌ねじ9aが形成される反力受け材9の一部の区間は筒形に形成された区間であり、この筒形区間の内周面に雌ねじ9aが形成される。
【0020】
但し、最上部の支柱材23には反力受け材9に螺入する軸力導入材10から軸方向圧縮力が導入されることから、軸力導入材10の下端部(突出部10b)は反力受け材9を貫通し、反力受け材9の下端面から突出することになる。この関係で、反力受け材9の中空の内周面は軸方向に連続し、その少なくとも一部の区間に軸力導入材10の雄ねじ10aが螺入する雌ねじ9aが形成される。
【0021】
軸力導入材10の反力受け材9への螺入は例えば
図8等に示すように軸力導入材10の上端部に形成された、
図4に示す多角形状の頭部10cにレンチ等の回転用工具17を軸力導入材10の軸方向に嵌合させ、軸力導入材10の軸の回りに回転させることにより行われる。頭部10cの多角形状は軸力導入材10の軸に直交する方向に見たときの形状を言う。
【0022】
反力受け材9は支柱2の最上部の支柱材23上に、軸方向を鉛直方向に向けて設置され、軸力導入材10の反力受け材9への螺入に伴う反力としての引張力を補助柱8に伝達するために、反力受け材9は補助柱8に(剛に)接合される(請求項1)。軸力導入材10は反力受け材9への螺入に伴い、支柱材23側へ移動し、反力受け材9に反力を取りながら、支柱材23を鉛直方向下方側へ押し下げ、支柱2に軸方向圧縮力を付与する。反力受け材9は支柱材23上に配置されるため、平面上、支柱2の周囲に配置される補助柱8とは、上記のように例えば補助柱8と反力受け材9間に架設されるつなぎ材15を介して補助柱8に接合される。
【0023】
軸力導入材10は棒状であるから、軸力導入材10の軸方向の先端(突出部10bの下面)が直接、支柱材23を鉛直方向下方側へ押す場合、軸力導入材10からの圧縮力が支柱材23の平面上の中央部に集中的に作用し得る状態になり、支柱材23の断面の広範囲に、均等に分散させて作用させることができない可能性がある。
【0024】
そこで、軸力導入材10からの圧縮力を最上部の支柱材23の断面の広範囲に分散させて作用させる上では、軸力導入材10の下端部に、軸力導入材10の材軸に直交する断面積より大きい断面積を持つ軸力伝達材11を接続し、軸力導入材11と最上部の支柱材23との間に介在させることが合理的である(請求項3)。「接続」とは、基本的に軸力伝達材11が軸力導入材10に接合(固定)される場合と、軸力伝達材11が軸力導入材10に対し、軸回りに相対回転可能に連結される場合を含み、反力受け材9への螺入に伴う軸力導入材10の軸方向圧縮力が軸力伝達材11に伝達されるように接続されることを言う。
【0025】
但し、軸力伝達材11が軸力導入材10に接合されていれば、軸力導入材10の軸回りの回転時に軸力伝達材11と最上部の支柱材23の接触面(周面)に摩擦力による発熱の可能性があるため、この摩擦力の発生を回避する上では、軸力伝達材11は軸力導入材10に対し、軸回りの相対的な回転が自由なように、すなわち軸力導入材10の回転時に軸力伝達材11が回転しない状態に保たれるよう、両者の接触面に低摩擦材が介在させられることが望ましい。
【0026】
この場合、軸力導入材10の断面積より大きい断面積の軸力伝達材11が軸力導入材10の下端部に接続されることで、軸力導入材10からの軸方向圧縮力が軸力伝達材11の断面積分に分散して支柱材23に伝達されるため、圧縮力を支柱材23の断面上の一部に集中させることがなくなり、支柱材23の全断面にほぼ均等に圧縮力を加えることが可能になる。圧縮力を均等に加えることは、軸力伝達材11の断面積に支柱材23の断面積と同等の大きさを持たせることで可能になる。
【0027】
軸力伝達材11の断面積は軸力導入材10の断面積より大きければ、少なくとも軸力導入材10が直接、支柱材23を押圧する場合より圧力を分散させることができる。従って軸力伝達材11の断面積が支柱材23の断面積に近付く程、より均等に圧縮力を支柱材23に付与することが可能である。
【0028】
以上のように軸力導入材10が反力受け材9に反力を取りながら、制震補強架構1の支柱2に軸方向圧縮力を導入することで、支柱2が日照を受けることによる熱に起因して伸長を生じにくくなるため、支柱2が熱伸縮を生じにくくなる。この結果、支柱2の熱伸縮が、隣接する支柱2の上層側と下層側間に架設されるブレース4のダンパー42の効きに影響を与えことがなくなり、ダンパー42の効きを低下させる事態を回避することが可能になる。
【0029】
軸力導入材10が支柱2に軸方向圧縮力を導入する一方、反力受け材9に軸方向引張力を付与することで、反力受け材9を通じて補助柱8に軸方向引張力が導入される。補助柱8に軸方向引張力が導入されることで、支柱2への圧縮力の付与後にも、補助柱8からの反力が常に支柱2に圧縮力として作用し続ける状態が得られる。この結果、回転用工具17を常時、軸力導入材10の頭部10cに装着しておく必要から解放され、平常時には回転用工具17を軸力導入材10から外した状態にしておくことが可能になる。
【0030】
制震補強架構1の支柱2が配列する(構面内)方向の水平力が発生したときには、前記のように絶縁装置5を挟んで分離した上下の支柱材21、22(22、23)が変形前と軸の方向を変えずに相対移動する(特許文献1の
図3)。支柱2の周囲に配置される補助柱8は、支柱材21、21間の相対移動による支柱2の変形に追従して曲げ変形することになるため、補助柱8は支柱2の変形を阻害しないよう、少なくとも支柱2が変形しようとする方向の曲げ剛性は他の方向の曲げ剛性より低下させられる。
【0031】
ここで、最上部の支柱材23の上に設置される反力受け材9は補助柱8には、補助柱8との間に架設されるつなぎ材15等を介して接合されることから、最上部の支柱材23より上の区間では補助柱8と反力受け材9が支柱2全体との対比では変形しにくい、剛な架構を形成し易く、最上部の支柱材23より上の区間において補助柱8の曲げ剛性を支柱2より低下させることの利点が生かされなくなる可能性がある。
【0032】
そこで、最上部の支柱材23と反力受け材9との間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置12を介在させることで(請求項4)、補助柱8に接合された反力受け材9が補助柱8と共に、最上部の支柱材23に対して水平方向に相対移動し易い状態にすることができる。この結果、反力受け材9が補助柱8に接合されること自体が支柱2全体の変形を阻害することがなくなり、隣接する支柱2、2間に架設されるブレース4に内蔵されたダンパー42の効きをよくし、ダンパー42によるエネルギ吸収能力を向上させることが可能になる。