特許第6181903号(P6181903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許6181903高光電変換効率太陽電池及び高光電変換効率太陽電池の製造方法
<>
  • 特許6181903-高光電変換効率太陽電池及び高光電変換効率太陽電池の製造方法 図000002
  • 特許6181903-高光電変換効率太陽電池及び高光電変換効率太陽電池の製造方法 図000003
  • 特許6181903-高光電変換効率太陽電池及び高光電変換効率太陽電池の製造方法 図000004
  • 特許6181903-高光電変換効率太陽電池及び高光電変換効率太陽電池の製造方法 図000005
  • 特許6181903-高光電変換効率太陽電池及び高光電変換効率太陽電池の製造方法 図000006
  • 特許6181903-高光電変換効率太陽電池及び高光電変換効率太陽電池の製造方法 図000007
  • 特許6181903-高光電変換効率太陽電池及び高光電変換効率太陽電池の製造方法 図000008
  • 特許6181903-高光電変換効率太陽電池及び高光電変換効率太陽電池の製造方法 図000009
  • 特許6181903-高光電変換効率太陽電池及び高光電変換効率太陽電池の製造方法 図000010
  • 特許6181903-高光電変換効率太陽電池及び高光電変換効率太陽電池の製造方法 図000011
  • 特許6181903-高光電変換効率太陽電池及び高光電変換効率太陽電池の製造方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6181903
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】高光電変換効率太陽電池及び高光電変換効率太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/068 20120101AFI20170807BHJP
   H01L 31/0224 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   H01L31/06 300
   H01L31/04 262
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-519719(P2017-519719)
(86)(22)【出願日】2016年10月25日
(86)【国際出願番号】JP2016004691
【審査請求日】2017年5月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】渡部 武紀
(72)【発明者】
【氏名】三田 怜
(72)【発明者】
【氏名】橋上 洋
(72)【発明者】
【氏名】大塚 寛之
【審査官】 濱田 聖司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−183004(JP,A)
【文献】 特開2015−118979(JP,A)
【文献】 特開2013−232067(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/137283(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00−31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一導電型を有する半導体基板の第一主表面に、前記第一導電型を有するベース層、及び、前記ベース層に隣接し、前記第一導電型と反対の導電型である第二導電型を有するエミッタ層を有し、少なくとも前記ベース層上にベース集電電極を有する太陽電池であって、
前記ベース集電電極の一部が、該ベース集電電極が配置された前記ベース層に隣接する前記エミッタ層上にも前記エミッタ層と接触するように配置されたものであることを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
前記エミッタ層上に配置されたベース集電電極の膜厚は、0.1〜10μmであることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
前記エミッタ層上に配置されたベース集電電極の幅は、0.1〜10μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記ベース層は、前記第一主表面において、前記エミッタ層よりも凹んだ位置に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の太陽電池。
【請求項5】
前記エミッタ層は、前記第一主表面において、前記ベース層よりも凹んだ位置に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の太陽電池。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の太陽電池が内蔵されていることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項7】
請求項6に記載の太陽電池モジュールを有することを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項8】
第一導電型を有する半導体基板の第一主表面に、前記第一導電型を有するベース層、及び、前記ベース層に隣接し、前記第一導電型と反対の導電型である第二導電型を有するエミッタ層を形成する工程と、
前記ベース層上にベース集電電極を形成する工程と
を有する太陽電池の製造方法であって、
前記ベース層上にベース集電電極を形成する工程において、前記ベース集電電極の一部を、前記ベース層に隣接するエミッタ層上にも前記エミッタ層と接触するように形成することを特徴とする太陽電池の製造方法。
【請求項9】
前記エミッタ層上のベース集電電極の膜厚を、0.1〜10μmとすることを特徴とする請求項8に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項10】
前記エミッタ層上のベース集電電極の幅を、0.1〜10μmとすることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項11】
前記ベース集電電極を、スクリーン印刷法を用いて形成することを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の太陽電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高光電変換効率太陽電池及び高光電変換効率太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶や多結晶半導体基板を用いた比較的高い光電変換効率を有する太陽電池構造の一つとして、正負の電極をすべて非受光面(裏面)に設けた裏面電極型太陽電池がある。裏面電極型太陽電池の裏面の概観を図1に示す。エミッタ層102およびベース層101が交互に配列され、それぞれの層に沿って層上に電極(103、104)が設けられている。エミッタ層幅は数mm〜数百μm、ベース層幅は数百μm〜数十μmである。また、電極幅は数百〜数十μm程度が一般的であり、その電極はフィンガー電極と呼ばれることが多い。
【0003】
裏面電極型太陽電池の断面構造の模式図を図2に示す。基板202の裏面の最表層近傍にエミッタ層102およびベース層101が形成されている。各層厚は高々1μm程度である。各層上にはフィンガー電極(205、206)が設けられ、非電極領域の表面は窒化シリコン膜や酸化シリコン膜等の裏面保護膜207で覆われる。受光面側には反射損失を低減する目的で、反射防止膜201が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−332273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
裏面電極型の太陽電池の製法上の問題点の一つに、ベース層とベース電極のずれがある。電極を印刷法で形成する場合には版の伸びが経時や製版ごとに変化するため、上記のように幅数百μm〜数十μmのベース層に沿って幅数百〜数十μmの電極を安定して形成するのは極めて困難であった。このずれを緩和するにはベース層幅を広くするのが製法上は最も簡単であるが、ベース層幅を広くすると変換効率が低下してしまうことは、例えば特許文献1で公知となっている。製造コストを勘案すれば印刷法が最も有効であり、ベース層幅は維持したまま印刷法で歩留りよく電極形成する方法を確立する必要があった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、光電変換効率が高くかつ安価な太陽電池を提供することを目的とする。また、本発明は、電極のずれの許容幅を大きくでき、生産性が高く、高い歩留りの高光電変換効率太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、第一導電型を有する半導体基板の第一主表面に、前記第一導電型を有するベース層、及び、前記ベース層に隣接し、前記第一導電型と反対の導電型である第二導電型を有するエミッタ層を有し、少なくとも前記ベース層上にベース集電電極を有する太陽電池であって、
前記ベース集電電極の一部が、該ベース集電電極が配置された前記ベース層に隣接する前記エミッタ層上にも配置されたものであることを特徴とする太陽電池を提供する。
【0008】
このように、ベース集電電極の一部がエミッタ層上にも配置されたものとすることにより、電極の位置ずれを防ぐためにベース層の幅を広げる必要がなく、光電変換効率が高い太陽電池とすることができる。また、製造が容易であり製造歩留りが高まるので安価な太陽電池とすることができる。
【0009】
このとき、前記エミッタ層上に配置されたベース集電電極の膜厚は、0.1〜10μmであることが好ましい。
【0010】
このように、ベース集電電極の膜厚が0.1〜10μmであれば、ベース集電電極とエミッタ層のコンタクト抵抗は高いままであり、太陽電池の特性低下を生じることがなく、特性の良い太陽電池とすることができる。
【0011】
また、前記エミッタ層上に配置されたベース集電電極の幅は、0.1〜10μmであることが好ましい。
【0012】
このように、ベース集電電極の幅が0.1〜10μmであれば、ベース集電電極とエミッタ層のコンタクト抵抗は高いままであり、太陽電池の特性低下を生じることがなく、特性の良い太陽電池とすることができる。
【0013】
また、前記ベース層は、前記第一主表面において、前記エミッタ層よりも凹んだ位置に配置されていることが好ましい。
【0014】
このように、ベース層が凹んだ位置に配置されることによって、エミッタ層上のベース集電電極の膜厚及び幅を小さくすることができ、特性の良い太陽電池とすることができる。
【0015】
また、前記エミッタ層は、前記第一主表面において、前記ベース層よりも凹んだ位置に配置されていることが好ましい。
【0016】
このように、エミッタ層が凹んだ位置に配置されることによって、エミッタ層上のベース集電電極の膜厚及び幅を小さくすることができ、特性の良い太陽電池とすることができる。
【0017】
また、本発明は、上記の太陽電池が内蔵されていることを特徴とする太陽電池モジュールを提供する。
【0018】
このように、本発明の太陽電池は太陽電池モジュールに内蔵することができる。
【0019】
また、本発明は上記の太陽電池モジュールを有することを特徴とする太陽光発電システムを提供する。
【0020】
このように、本発明の太陽電池を内蔵した太陽電池モジュールは、太陽光発電システムに用いることができる。
【0021】
上記目的を達成するために、本発明は、第一導電型を有する半導体基板の第一主表面に、前記第一導電型を有するベース層、及び、前記ベース層に隣接し、前記第一導電型と反対の導電型である第二導電型を有するエミッタ層を形成する工程と、
前記ベース層上にベース集電電極を形成する工程と
を有する太陽電池の製造方法であって、
前記ベース層上にベース集電電極を形成する工程において、前記ベース集電電極の一部を、前記ベース層に隣接するエミッタ層上にも形成することを特徴とする太陽電池の製造方法を提供する。
【0022】
このように、ベース集電電極の一部をエミッタ層上にも形成しても、ベース集電電極とエミッタ層のコンタクト抵抗は高く維持することができるので、ベース集電電極の位置合わせの許容幅を大きくすることができる。それにより、電極の位置ずれを防ぐためにベース層の幅を広げる必要がなく、光電変換効率の高い太陽電池を製造することができる。また、電極の位置合わせに要する時間が短縮され、生産性を高めることができる。
【0023】
このとき、前記エミッタ層上のベース集電電極の膜厚を、0.1〜10μmとすることが好ましい。
【0024】
このように、ベース集電電極の膜厚を0.1〜10μmとすれば、ベース集電電極とエミッタ層のコンタクト抵抗は高いままであり、太陽電池の特性低下を生じることがなく、特性の良い太陽電池を製造することができる。
【0025】
また、前記エミッタ層上のベース集電電極の幅を、0.1〜10μmとすることが好ましい。
【0026】
このように、ベース集電電極の膜厚を0.1〜10μmとすれば、ベース集電電極とエミッタ層のコンタクト抵抗は高いままであり、太陽電池の特性低下を生じることがなく、特性の良い太陽電池を製造することができる。
【0027】
また、前記ベース集電電極を、スクリーン印刷法を用いて形成することが好ましい。
【0028】
このように、スクリーン印刷法であれば、電極形成方法としては製造コストが最も安価であり、安価な太陽電池を製造することができる。また、スクリーン印刷法を本発明の太陽電池の製造方法に適用した場合に特に効果が大きい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の太陽電池であれば、安価かつ光電変換効率が高い太陽電池とすることができる。また、本発明の太陽電池の製造方法によれば、ベース集電電極の位置合わせの許容幅を大きくすることができ、生産性及び製造歩留りを高めつつ、光電変換効率の高い太陽電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明を適用することができる、一般的な裏面電極型太陽電池を裏面側から見た概観図である。
図2】本発明を適用することができる、一般的な裏面電極型太陽電池の断面模式図である。
図3】本発明に係る裏面電極型太陽電池の断面模式図である。
図4】本発明に係る、裏面電極型太陽電池のベース領域とベース電極の位置関係の一例を示す上面模式図である。
図5】本発明に係る裏面電極型太陽電池の製造方法の一例を示す工程フロー図である。
図6】本発明に係る裏面電極型太陽電池の断面の電子顕微鏡写真である。
図7】本発明に係る、裏面電極型太陽電池のエミッタ領域上のベース電極幅平均値と光電変換効率の関係を示す図である。
図8】本発明に係る太陽電池モジュールの概観図である。
図9】本発明に係る太陽電池モジュールの裏面内部模式図である。
図10】本発明に係る太陽電池モジュールの断面模式図である。
図11】本発明に係る太陽光発電システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
上記のように、近年、太陽電池のベース層とベース集電電極の位置ずれが問題となっていた。本発明者らは、このような位置ずれの許容幅を大きくする対策について鋭意検討して、本発明を完成させた。
【0032】
以下、本発明について、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
以下に、本発明の太陽電池の実施態様をN型基板の場合を例にとり図3を用いて具体的に説明する。図3は本発明の太陽電池(裏面電極型太陽電池)の断面構造の一例を示す模式図である。図3に示した太陽電池100は、第一導電型(本実施態様ではN型)を有する半導体基板202の第一主表面(本実施態様では裏面)に、第一導電型を有するベース層101、及び、ベース層101に隣接し、第一導電型と反対の導電型である第二導電型(本実施態様ではP型)を有するエミッタ層102を有し、少なくともベース層101上にベース集電電極313を有する太陽電池であり、ベース集電電極313の一部が、ベース集電電極313が配置されたベース層101に隣接するエミッタ層102上にも配置されたものである。
【0034】
本発明の太陽電池100の特徴はベース電極313の一部が隣接するエミッタ層102と接触していることである。一般にベース電極がエミッタ層と接触すれば正極と負極を短絡することに相当するので、太陽電池の特性は大きく低下するはずである。しかしながら、本発明者らが鋭意研究した結果、ベース電極313とエミッタ層102とのコンタクト抵抗は、エミッタ層102上のベース電極313の膜厚に依存していることが判明した。すなわち、エミッタ層102上のベース電極313の膜厚が小さければコンタクト抵抗は大きくなり、太陽電池の特性に影響を及ぼさない。より具体的には、エミッタ層102上のベース電極313の膜厚は0.1〜10μm(0.1μm以上10μm以下)であることが好ましい。エミッタ層102上のベース電極313の膜厚が10μm以下であれば、ベース電極313とエミッタ層102のコンタクト抵抗は高いままであり、太陽電池としての特性低下を生じない。図3において、ベース電極313とエミッタ層102の接触部は308で示される。
【0035】
また、エミッタ層102上のベース電極313の幅は0.1〜10μm(0.1μm以上10μm以下)であることが好ましい。エミッタ層102上のベース電極313の幅が10μm以下であればベース電極313とエミッタ層102のコンタクト抵抗は高いままであり、太陽電池としての特性低下を生じない。
【0036】
ここで、エミッタ層102上のベース電極313の膜厚は、基板断面を顕微鏡や電子顕微鏡等で観察することで測定できる。また、エミッタ層102上のベース電極313の幅は、太陽電池の断面を顕微鏡や電子顕微鏡等を用いて観察することで測定可能である。より簡便な方法としては、ベース層101の幅を予め測定しておき、基板上面からベース電極313を観察して演算により算出してもよい。なお、電極形成後はベース領域の境界が電極に覆われて見えなくなるため、基板上面からの観察によりエミッタ層102上のベース電極313の幅を直接測定することはできない。
【0037】
図4(a)及び(b)は本発明の太陽電池(裏面電極型太陽電池)のベース領域とベース電極の位置関係の一例を示す上面模式図である。図4(a)では、直線状のベース領域101に対し、ベース電極313が上側にずれ、エミッタ領域102と接触している。図4(a)のA−A’断面の模式図が図3に相当する。本発明はこのような直線状のベース領域形状に限らず、図4(b)に示すようなドット状のベース領域形状に対しても適用できる。すなわち、図4(b)ではドット状のベース領域401に対し、ベース電極403が右下側にずれ、エミッタ領域402と接触している。図4(b)のB−B’断面模式図が図3に相当する。この場合、ベース領域401とベース電極403のずれ量(エミッタ領域402上に配置されたベース電極403の幅)は、ベース領域401とベース電極403のずれ部の最大幅となる。尚、エミッタ領域402上にはエミッタ電極404が形成されている。
【0038】
図3及び図4を用いて説明したように、ベース電極の一部がエミッタ領域上にも配置された構成とすることにより、基板と導通する実質のベース電極幅は実際に形成されている電極幅よりも小さくなる。それにより、例えば印刷ズレのようなベース電極の位置ずれの許容幅を大きくすることができる。
【0039】
また、ベース領域は、第一主表面において、エミッタ領域よりも凹んだ位置に配置されていることが好ましい。ベース領域がエミッタ領域よりも凹んだ位置に配置されると、エミッタ領域上のベース電極の膜厚はベース領域上にあるベース電極の膜厚より小さくなりやすく(後述する図6参照)、エミッタ領域上のベース電極の幅も小さくなりやすい。そのため、特性の良い太陽電池とすることができる。
【0040】
また、太陽電池の製造過程においてN型不純物とP型不純物の拡散順序を入れ替えるなどすると、第一主表面において、エミッタ領域がベース領域よりも凹んだ位置に配置された太陽電池とすることができる。このような構造のベース領域に電極ペーストを印刷すると、電極ペーストは表面張力により段差部である程度留まることができる。そのため、印刷直後のにじみや広がりを抑制しやすくなり、結果的にエミッタ領域上ベース電極の幅及び膜厚が小さいものを形成しやすくすることができる。そのため、特性の良い太陽電池とすることができる。
【0041】
次に、本発明の太陽電池の製造方法について説明する。本発明の太陽電池の製造方法は、第一導電型を有する半導体基板の第一主表面に、第一導電型を有するベース層、及び、ベース層に隣接し、第一導電型と反対の導電型である第二導電型を有するエミッタ層を形成する工程と、ベース層上にベース集電電極を形成する工程とを有する太陽電池の製造方法であり、ベース層上にベース集電電極を形成する工程において、ベース集電電極の一部を、ベース層に隣接するエミッタ層上にも形成する方法である。以下では、半導体基板としてN型基板を用いた場合を例に取り、本発明の太陽電池の製造方法を図5を用いて説明する。
【0042】
まず、半導体基板を準備する。例えば、以下のようにして半導体基板の準備をすることができる。高純度シリコンにリンあるいはヒ素、アンチモンのようなV価元素をドープし、比抵抗0.1〜5Ω・cmとしたアズカット単結晶{100}N型シリコン基板202を用意し(工程(a))、表面のスライスダメージを、濃度5〜60%の水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような高濃度のアルカリ、もしくは、ふっ酸と硝酸の混酸などを用いてエッチングする。単結晶シリコン基板は、CZ(Czochralski)法、FZ(Floating zone)法のいずれの方法によって作製されたものでもよい。基板202は必ずしも単結晶シリコン基板である必要はなく、多結晶シリコン基板でもよい。
【0043】
続いて、基板202の表面にテクスチャと呼ばれる微小な凹凸形成を行う。テクスチャは太陽電池の反射率を低下させるための有効な方法である。テクスチャは、加熱した水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ溶液(濃度1〜10%、温度60〜100℃)中に、基板202を10分から30分程度浸漬することで作製される。上記溶液中に、所定量の2−プロパノールを溶解させ、反応を促進させてもよい。
【0044】
テクスチャ形成後、塩酸、硫酸、硝酸、ふっ酸等、もしくはこれらの混合液の酸性水溶液中で洗浄する。過酸化水素を混合し清浄度を向上させてもよい。
【0045】
この基板202の第一主表面に、エミッタ層102を形成する(工程(b))。エミッタ層102は基板202と逆の導電型(この場合P型)で厚みが0.05〜1μm程度である。エミッタ層102はBBr等を用いた気相拡散によって形成できる。具体的には、基板202を2枚一組として重ね合わせた状態で熱処理炉に戴置し、BBrと酸素の混合ガスを導入して950〜1050℃で熱処理する。キャリアガスとしては窒素やアルゴンが好適である。また、ホウ素源を含有させた塗布剤を第一主表面全面に塗布し、950〜1050℃で熱処理する方法でもエミッタ層102の形成が可能である。塗布剤としては、例えば、ホウ素源としてホウ酸1〜4%、増粘剤としてポリビニルアルコール0.1〜4%を含有させた水溶液が使用できる。
【0046】
エミッタ層102を形成したら、次工程であるベース層形成のためのマスク303を基板202の両主表面上に形成する(工程(c))。マスク303としては誘電体膜である酸化シリコン膜もしくは窒化シリコン膜等を用いることができる。CVD法を用いれば、導入するガス種を適宜選択することにより、いずれの膜も形成可能である。酸化シリコン膜の場合は、基板202を熱酸化して形成することもできる。その場合、基板202を酸素雰囲気中950〜1100℃、30分〜4時間熱処理することで、100nm程度のシリコン熱酸化膜が形成される。この熱処理は上記のエミッタ層102の形成のための熱処理に引き続いて同一バッチ内で実施してもよい。
【0047】
次いで、ベース層101の領域となる部分のマスクを部分的に除去(開口)して、開口部304を形成する(工程(d))。具体的には、開口部304の開口幅が50μm以上250μm、開口部304の間の間隔が0.6mm以上2.0mm以下程度で平行線状に開口することができる。マスク303の開口にはフォトリソグラフィー法やエッチングペーストで化学的にエッチングする方法を用いることができる。また、レーザーやダイサー等で物理的に開口する方法を用いてもよい。
【0048】
マスク303に開口部304を形成した後、50〜90℃に加熱したKOH、NaOH等のアルカリ水溶液中に基板202を浸漬し、開口部304の不要なエミッタ層102を除去(エッチング)する(工程(e))。これにより、エミッタ層が除去された開口部305が形成される。
【0049】
続いてベース層101を形成する(工程(f))。ベース層101の形成にはオキシ塩化リンを用いた気相拡散法が使用できる。830〜950℃、オキシ塩化リンと窒素及び酸素混合ガス雰囲気下で基板202を熱処理することで、ベース層101となるリン拡散層(N層)が形成される。気相拡散法の他、リンを含有する材料をスピン塗布したり、印刷したりしてから熱処理する方法でもベース層101を形成可能である。ベース層101の形成後、マスク303及び表面に形成されたガラスをふっ酸等で除去する。
【0050】
次いで、第一主表面と反対の主表面である第二主表面に反射防止膜307の形成を行う(工程(g))。反射防止膜307としては、窒化シリコン膜や酸化シリコン膜等が利用できる。窒化シリコン膜の場合はプラズマCVD装置を用いて、約100nmの膜厚で製膜する。反応ガスとして、モノシラン(SiH)及びアンモニア(NH)を混合して用いることが多いが、NHの代わりに窒素を用いることも可能である。また、プロセス圧力の調整、反応ガスの希釈、さらには、基板に多結晶シリコンを用いた場合に基板のバルクパッシベーション効果を促進するため、反応ガスに水素を混合することもある。一方、酸化シリコン膜の場合は、CVD法でも形成できるが、熱酸化法により得られる膜の方が高い特性が得られる。
【0051】
第一主表面においても、裏面保護膜207として窒化シリコン膜や酸化シリコン膜が利用できる。裏面保護膜207の膜厚は50〜250nmとするのが好適である。第二主表面(受光面)側と同様に窒化シリコン膜の場合はCVD法で、酸化シリコン膜の場合は熱酸化法やCVD法で裏面保護膜207の形成が可能である。また、表面の保護効果を高めるため、あらかじめ基板表面に酸化アルミニウム膜を形成してから、窒化シリコン膜や酸化シリコン膜等を形成してもよい。
【0052】
次いで、ベース層101に沿って電極を形成する。この電極形成は以下のようにして行うことができる。ベース電極313を、例えばスクリーン印刷法で形成する(工程(h))。例えば、開口幅が30μm以上100μm以下、0.6〜2.0mm間隔の平行線パターンを有する製版を用意しておき、Ag粉末とガラスフリットを有機物バインダと混合したAgペーストをベース層101に沿って印刷することができる。
【0053】
一般にベース層とベース電極の位置合わせは容易ではない。その理由は、ベース領域加工時の位置ずれ、電極印刷時の位置ずれ、版の伸び等のずれ要因が複合されて電極が形成されるためである。しかしながら、本発明の太陽電池の製造方法により、エミッタ層102上にベース電極313の一部を形成しても、太陽電池の特性に影響を及ぼさない。特に、エミッタ層102上のベース電極313の膜厚が小さければコンタクト抵抗は大きいままであり、太陽電池の特性に影響はない。具体的には、エミッタ層102上のベース電極の膜厚は0.1〜10μmであることが好ましい。また、エミッタ層102上のベース電極の幅は0.1〜10μmであることが好ましい。以上の構造をとることにより、基板と導通する実質のベース電極の幅は実際に形成されているベース電極313の幅よりも小さくなることになり、印刷ズレの許容幅を大きくすることができる。また、スクリーン印刷法は、製版の伸び量に面内分布があり、半導体基板の面内でベース集電電極とベース層の位置関係にばらつきが生じやすいので、本発明の太陽電池の製造方法に適用した場合に特に効果が大きい。
【0054】
さらに、上述した方法によれば、マスク303を開口した後にエッチングしているため、ベース領域101はエミッタ領域102よりも凹んだ位置に形成される。そのため、エミッタ領域102上のベース電極の膜厚はベース領域101上におけるベース電極の膜厚より必然的に小さくなる。その一例を図6に示す。図6は上記の工程を経て形成したベース電極近傍の断面の電子顕微鏡写真である。ベース領域上の膜厚tよりもエミッタ領域上の膜厚tの方が小さくなっているのがわかる。
【0055】
また、上述した方法に対して、リン拡散とボロン拡散の順序を入れ替えるなどした方法でベース層及びエミッタ層を形成すると、エミッタ領域はベース領域より凹んだ位置に形成される。この構造のベース領域に電極ペーストを印刷すると、電極ペーストは表面張力により段差部である程度留まることができる。そのため、印刷直後のにじみ及び広がりを抑制しやすくなり、結果的にエミッタ領域上のベース電極の幅及び膜厚が小さい太陽電池を形成することができる。
【0056】
ベース電極313の形成に続き、エミッタ電極104としてAgペーストを印刷する。ベース電極313用Agペーストとエミッタ電極104用Agペーストは同じでもよいし、違うものを使用してもよい。以上の電極印刷の後、熱処理により窒化シリコン膜等にAg粉末を貫通させ(ファイアースルー)、電極とその下にあるシリコンを導通させる。なお、ベース電極313及びエミッタ電極104の焼成は別々に行うことも可能である。焼成は、通常700〜850℃以下の温度で1〜5分間処理することで行われる。
【0057】
以上では、N型基板の場合を例に述べたが、P型基板の場合はエミッタ層形成にリン、ヒ素、アンチモン等を拡散させ、ベース層形成にはホウ素、Al等を拡散させればよく、P型基板を本発明の太陽電池の製造方法及び太陽電池に適用可能であることは自明である。
【0058】
上述した本発明の太陽電池は、太陽電池モジュールに内蔵することができる。本発明の太陽電池が内蔵された太陽電池モジュールの一例の概観を図8に示す。図8には、裏面電極型の太陽電池を内蔵した太陽電池モジュールの例を示しているが、これに限定されず、本発明の他の型の太陽電池を内蔵した太陽電池モジュールとすることもできる。上述した本発明の太陽電池800は、太陽電池モジュール860内ではタイル状に敷き詰められた構造をなす。
【0059】
太陽電池モジュール860内では、隣接する太陽電池800同士が数枚〜数10枚電気的に直列に接続され、ストリングと呼ばれる直列回路を構成している。ストリングの概観を図9に示す。図9は、通常人目に触れることのないモジュール内部裏面側の模式図に相当する。また、フィンガー電極やバスバーは図示されていない。直列接続にするため、図9に示したように、隣接する太陽電池800のPバスバー(基板のP型層に接合したフィンガー電極に接続されているバスバー電極)とNバスバー(基板のN型層に接合したフィンガー電極に接続されているバスバー電極)同士がタブリード線861などで接続されている。
【0060】
太陽電池モジュール860の断面模式図を図10に示す。上述のようにストリングは、複数の太陽電池800を、バスバー電極822にリード線861を接続することで構成される。該ストリングは、通常EVA(エチレンビニルアセテート)などの透光性の充填剤872で封止され、非受光面側はPET(ポリエチレンテレフタラート)などの耐候性樹脂フィルム873、受光面はソーダライムガラスなどの透光性で機械的強度が強い受光面保護材料871で覆われている。充填剤872としては、上記EVAの他、ポリオレフィン、シリコーンなどが使用できる。
【0061】
さらにこのモジュールを用いて太陽光発電システムを製造すること、及び構成することもできる。図11は本発明のモジュールを連結した太陽光発電システムの基本構成を示したものである。複数の太陽電池モジュール16が配線15で直列に連結され、インバータ17を経由して外部負荷回路18に発電電力を供給する。図11には示していないが、当該システムは発電した電力を蓄電する2次電池をさらに備えていて良い。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
(実施例)
本発明の太陽電池の製造方法を用い太陽電池の作製を行った。まず、厚さ200μm、比抵抗1Ω・cmの、リンドープ{100}N型アズカットシリコン基板を多数用意した。次に、熱濃水酸化カリウム水溶液により該シリコン基板のダメージ層を除去した。その後、72℃の水酸化カリウム/2−プロパノール水溶液中に浸漬しテクスチャ形成を行い、引き続き75℃に加熱した塩酸/過酸化水素混合溶液中で洗浄を行った。
【0064】
次いで、基板にP型拡散層(エミッタ層)を形成した。基板を2枚一組として重ね合わせた状態で熱処理炉に戴置し、BBrと酸素とアルゴンの混合ガスを導入して1000℃で10分熱処理を行った。基板に形成したP型拡散層を四探針法で測定した結果、シート抵抗は50Ωとなった。
【0065】
この基板を1000℃、3時間酸素雰囲気中で熱酸化して基板表面にマスクを形成した。基板の裏面のマスクをレーザーで開口した。レーザー源はNd:YVOの第二次高調波を用いた。開口パターンは、間隔が1.2mmの平行線状とした。開口部が形成された基板を、80℃のKOH水溶液に浸漬してその開口部のエミッタ層を除去した。
【0066】
次に、オキシ塩化リン雰囲気下で、870℃で基板の受光面同士を重ね合わせた状態で40分間熱処理し、開口部にリン拡散層(ベース層)を形成した。この後、その基板を濃度12%のふっ酸に浸漬することでマスク及び表面ガラスを除去した。
【0067】
以上の処理の後、プラズマCVD装置を用いて窒化シリコン膜を基板の両面に形成した。窒化シリコン膜の膜厚は表裏面とも100nmとした。この時点で、基板を上から顕微鏡で観察し、ベース層の幅を測定した。複数の基板を測定したところ、ベース層の幅はいずれも概ね190μmであった。
【0068】
次に、Agペーストをベース層上に印刷して乾燥した。この際、印刷の基準位置を少しずつ変化させ、ベース領域からベース電極を意図的にずらして印刷した。また、同時に膜厚の影響を確認するため、(1)製版のメッシュ325、乳剤厚30μm、(2)製版のメッシュ325、乳剤厚15μm、(3)製版のメッシュ500、乳剤厚5μmの3種類の製版を用意して、それぞれで印刷した。
【0069】
最後に、エミッタ層上にAgペーストを印刷して乾燥し、これを780℃の空気雰囲気下で焼成した。
【0070】
以上のようにして得られた太陽電池のサンプルについて、山下電装株式会社製ソーラーシミュレータを用いてAM1.5スペクトル、照射強度100mW/cm、25℃の条件下で、電流電圧特性を測定し光電変換効率を求めた。また、基板を上から顕微鏡で観察し、先に測定しておいたベース層幅190μmを用いてエミッタ層上のベース電極幅を算出した。観察は基板1枚あたり9点とし、その平均値を基板の代表値とした。膜厚は、基板断面を電子顕微鏡で観察し測定した。
【0071】
以上の方法で得られたデータの、エミッタ層上のベース電極幅平均値と光電変換効率の関係を図7に示す。作製した全ての太陽電池において、20.4%以上の光電変換効率が得られた。さらに、エミッタ層上のベース電極の膜厚が4μmと小さい場合、エミッタ層上のベース電極の幅が15μmまでは光電変換効率は低下しなかった。また、エミッタ層上のベース電極の膜厚が9.8μmの場合、エミッタ層上のベース電極の幅が10μm付近までは光電変換効率はほとんど低下しなかった。さらに、エミッタ層上のベース電極の膜厚が13.4μmの場合、比較的小さなずれでも光電変換効率の低下が見られた。エミッタ層上のベース電極の膜厚が10μm程度であれば、エミッタ領域上のベース電極幅が10μm程度以下において、光電変換効率の低下はほとんどなかった。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【要約】
本発明は、第一導電型を有する半導体基板の第一主表面に、第一導電型を有するベース層、及び、ベース層に隣接し、第一導電型と反対の導電型である第二導電型を有するエミッタ層を有し、少なくともベース層上にベース集電電極を有する太陽電池であって、ベース集電電極の一部が、ベース集電電極が配置されたベース層に隣接するエミッタ層上にも配置された太陽電池である。これにより、安価かつ光電変換効率が高い太陽電池が提供される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11