特許第6182144号(P6182144)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6182144-発光素子用のスピロビフルオレン化合物 図000030
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182144
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】発光素子用のスピロビフルオレン化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 265/38 20060101AFI20170807BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20170807BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C07D265/38CSP
   C09K11/06 690
   H05B33/14 B
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-532339(P2014-532339)
(86)(22)【出願日】2012年9月24日
(65)【公表番号】特表2015-500793(P2015-500793A)
(43)【公表日】2015年1月8日
(86)【国際出願番号】EP2012068807
(87)【国際公開番号】WO2013045410
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2015年8月10日
(31)【優先権主張番号】11007868.0
(32)【優先日】2011年9月28日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】12005988.6
(32)【優先日】2012年8月22日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【弁理士】
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク・バスクール
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン・モヌーリ
(72)【発明者】
【氏名】エンリコ・オルセリ
【審査官】 阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−534950(JP,A)
【文献】 特開2003−77674(JP,A)
【文献】 特開2002−231453(JP,A)
【文献】 特開2010−150518(JP,A)
【文献】 特開2010−272618(JP,A)
【文献】 特表2011−521894(JP,A)
【文献】 特表2009−538841(JP,A)
【文献】 特開2010−27681(JP,A)
【文献】 特開2005−85599(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0082049(KR,A)
【文献】 国際公開第2010/050781(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 265/38
C09K 11/06
H01L 51/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、n、m及びoは0であり
フェニル環の各々は、L以外のリガンドを担持しておらず
、式A:
【化2】

を有し、
式中、Yは、O、S、C=O、N−R、S=O、S(=O)、PR及びP(=O)Rからなる群から選択され、
〜Rは、同じでも異なっていてもよく、水素又は、1〜20個の炭素原子を含む脂肪族、炭素環式、芳香族若しくは複素環式基を表し、Ar及びArは、同じでも異なっていてもよく、4〜20個の環原子を含む、任意選択で置換された芳香族若しくはヘテロ芳香環系を表す)
の化合物。
【請求項2】
が、式A−1:
【化3】

(式中、Yは、請求項1に定義した通りの意味を有する)
を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Yが、O、S、C=O、N−R及びS=Oからなる群から選択され、ここで、R〜Rは、請求項1に定義した通りの意味を有する、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
Yが、O、S及びN−Rからなる群から選択され、ここで、Rは、請求項1に定義した通りの意味を有する、請求項に記載の化合物。
【請求項5】
Yが、O又はSである、請求項に記載の化合物。
【請求項6】
Yが、Oである、請求項に記載の化合物。
【請求項7】
有機発光素子における、請求項1〜のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項8】
前記有機発光素子が、有機発光ダイオードである、請求項に記載の使用。
【請求項9】
発光層におけるホストとしての、請求項1〜のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項10】
発光層(EML)を含む有機発光素子(OLED)であって、前記発光層が、発光材料とともに、請求項1〜のいずれか1項に記載の化合物を含む有機発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピロビフルオレンを基材とする化合物、及び前記化合物を含む発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な有機発光素子、特に、小有機材料からのエレクトロルミネセンス(EL)に基づくものが、活発に研究及び開発されてきた。このような有機素子の場合、形態学的に安定な非晶質フィルムを形成する能力が有機発光ダイオード(OLED)用の小材料の開発には重要な要件である。これは、有機発光層に小有機発光化合物を用いる場合に、化合物の分子が小さすぎて、その構造が対称でありすぎると、通常、結晶化が起こるためである。従って、有機発光層に適用する場合、小分子化合物は、結晶化のような形態学的変化を被りやすく、いったん結晶が形成されると、発光の性質及びOLEDの耐用年数にマイナスの影響がもたらされる。
【0003】
素子作動中の熱応力によって、非晶状態から熱力学的に安定な多結晶状態への相転移が起こりうるが、これは、素子の著しい劣化を招く。その結果、非晶状態を安定化するために、高いガラス転位温度(Tg>150℃)を特徴とする材料を設計することが重要である。作動寿命を延長する目的で素子の安定性を改善するために、数種のホスト材料が報告されている。特に、スピロ結合を有する材料を設計することが、電子工学的機能性を維持しながら、形態学的安定性が向上したOLED材料を取得するための非常に有効な戦略であった。
【0004】
(特許文献1)は、少なくとも2つの成分の混合物を含有する固体有機材料を含む発光層を開示している。第1ホスト成分は、電荷を輸送することができる有機化合物であり、これはまた凝集体も形成する。上記混合物の第2成分は、電荷を輸送することができる有機化合物であり、第1ホスト成分と混合すると、連続的で、しかも実質的にピンホールのない層を形成することができる。上記参照文献では、第2成分として、置換されたフルオレン誘導体、及びスピロビフルオレン誘導体などの様々な化合物が用いられている。
【0005】
本明細書で用いるスピロビフルオレンとは、式(S1)の構造要素を指し、以後、SBFと呼ぶが、Open(開放型または開環型)SBFは、以下の式(S2)の系を指す。
【化1】
【0006】
置換されたスピロビフルオレン化合物は、従来の技術において広範に記載されており、特に、ヘテロ原子による「パラ位」(すなわち、SBFの2、7、2’又は7’位)でのSBF環系の置換を有するものがある。
【0007】
また、スピロビフルオレン単位に結合したヘテロ原子が環系の一部である上記タイプの置換されたスピロビフルオレンも記載されている。
【0008】
(非特許文献1)は、有機オプトエレクトロニクスにおいて有用なスピロ化合物の優れた概観を提供している。従って、(非特許文献1)における化合物(16)及び(17)は、以下の通りである。
【化2】
【0009】
これらの化合物は、400nm未満の最大吸収、並びにそれぞれ491及び511nmの最大発光を有することが報告されている。効率についてのデータは記載されていない。
【0010】
Salbeckはさらに、前記化合物などにおけるジフェニルアミノ置換基のカルバゾールリガンドによる置換によって、吸収及び発光の明瞭な染色シフトが起こることを報告している。一例として、置換基がN−カルバゾールによって置換される化合物は、350nm未満の吸収極大波長及び372nmの発光極大波長を示す。
【0011】
SBF単位のパラ位にジフェニルアミノ置換基を有するスピロビフルオレン化合物は、(非特許文献1)においても開示されており、例えば、その化合物42〜48を参照されたい。
【0012】
(特許文献2)は、4及び4,4’−ジフェニルアミノ置換SBF化合物(SBF単位のフェニル環を連結する直接結合に対して、オルト−置換化合物と呼ばれることもある)を開示している。
【0013】
(特許文献3)は、材料の溶解度に関する特定の数式を満たす少なくとも2つの異なる材料を含む有機エレクトロルミネセンス素子のための組成物を開示している。共通の構造的特徴として、置換されたジフェニルアミノ基を有する好適な材料の広範なリストの中でも、3,6−ビス−N,N’−ジ(4−tert−ブチルフェニル)アミノ−スピロビフルオレン、並びにそれぞれのOpen SBFが挙げられる。
【0014】
また、(特許文献4)は、表1に、中央のSBF単位が、2位及び7位に2つの置換基を担持する化合物H−151及びH−152を開示しており、ここで、置換基は、芳香環の一部を形成しない窒素原子を介して、SBFに結合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0141287号明細書
【特許文献2】国際公開第2011/06574号パンフレット
【特許文献3】欧州特許出願第2312667号明細書
【特許文献4】米国特許第6,893,743号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Salbeck et al.,Chem.Rev.2007,107,1011−1065
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
前記文献に開示された材料のうち、OLED適用に必要な要件(特に、高いりん光効率(高度の三重項エネルギー)、高度の形態学的安定性)を全て満たすと同時に、素子の作動条件下で、他の電子−光学的、並びに処理特性、例えば、発光色、寸法安定性などを十分に満足できる様式で維持するものはない。従って、前述した要件を全て満たすことができる新規のホスト材料を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
驚くことに、請求項1に記載のスピロビフルオレン化合物が、それらを有機エレクトロルミネセント素子での使用に特に好適にする特性スペクトル(またはスペクトル特性)を有することが見いだされた。
【0019】
本発明の好ましい化合物は、従属請求項及び以下の明細事項に記載する。
【0020】
本発明の化合物は、以下の式1〜10:
【化3】
を特徴とし、
式中、n、m及びoは、同じでも異なっていてもよく、0〜3の整数を表し、
フェニル環の各々は、L以外のリガンドを担持しなくてもよいし、又はL以外のリガンドで置換されていてもよく、
は、各位置において同じでも異なっていてもよく、式A:
【化4】
を有し、
式中、Yは、O、S、C=O、−CR、N−R、S=O、S(=O)、PR及びP(=O)Rからなる群から選択され、R〜Rは、各位置において同じでも異なっていてもよく、水素又は、1〜20個の炭素原子を含む脂肪族、炭素環式、芳香族若しくは複素環式基を表し、Ar〜Arは、4〜20個の環原子(式Iに示す複素環の2つの環原子は、環原子を数に入れるために、芳香環系若しくはヘテロ芳香環系の一部である)を含む、任意選択で置換された芳香環系若しくはヘテロ芳香環系を表す。
【0021】
本発明の目的のために、「脂肪族」という用語は、環の一部ではない炭素原子又はヘテロ原子を介して結合されるあらゆる基を指すものとし、また、「芳香族」という用語は、アリール環若しくはヘテロアリール環の一部を形成する炭素原子又はヘテロ原子を介して結合されるアリール基及びヘテロアリール基を指すものとする。
【0022】
第1の好ましい実施形態によれば、R及びRは、同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、炭素環基、アリール基又はヘテロアリール基を表し、これらの基は、置換されているか、又は置換されていない。
【0023】
本発明の化合物は、SBF又はOpen SBF単位が、窒素原子によって置換され、この窒素原子は、2つの芳香環又はヘテロ芳香環を含む環系の一部であるという、共通の特徴を有する。
【0024】
SBF系における置換は、SBF単位中のフェニル環を連結する結合に対して、パラ、メタ若しくはオルトであってもよいし、又はOpen SBF単位の同様の位置であってもよい。
【0025】
特定の目的のために、メタ位で少なくとも1個の置換基Lを有する化合物は、有機電子素子に用いると、効率に関して有利となりうることがわかっている。
【0026】
化合物の第1の好ましい基は、Lが、式A−1:
【化5】
(式中、Yは、上に定義した通りである)
を有するものである。
【0027】
Yは、好ましくは、O、S、C=O、−CR、N−R及びS=Oからなる群から選択され、特に、O、S及びN−Rから選択するのが好ましく、より好ましくはO又はSから選択され、最も好ましくは、YはOであり、ここで、R1〜Rは、上に定義した通りの意味を有する。
【0028】
〜Rがアルキル基を表す場合には、これらは、1〜20個、特に、1〜8個の炭素原子を有するのが好ましく、直鎖又は分枝状のいずれであってもよい。特に、メチル、エチル、i−又はn−プロピル及びi−、n−及びt−ブチルなどのC〜Cアルキルが好ましい。アルキル基はそれ自体、置換又は非置換のいずれであってもよい。
【0029】
〜Rについて好ましい炭素環基は、5〜7員炭素環系であり、飽和又は不飽和のいずれであってもよく、例を3つだけ挙げると、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン又はシクロヘキセンがある。アルキル基に関しては、炭素環式基は、置換又は非置換のいずれであってもよい。
【0030】
〜Rについて好ましいアリール基は、フェニル、ナフチル、アントラセニル、ビフェニル又はテルフェニルであり、これらは、置換されていなくてもよいし、又は、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アミノ、シアノ、アルケニル、アルキニル、アリールアルキル、アリール及びヘテロアリール基からなる群から選択される置換基で置換されていてもよいし、あるいは、アリール基は、アニールされた環系の一部であってもよい。
【0031】
特に好ましいアリール置換基は、以下の置換又は非置換アリール系:
【化6】
から誘導され、そのうち、フェニル及びビフェニルが特に好ましい。
【0032】
〜Rについて特に好ましいヘテロアリール基は、以下の通りである。
【化7】
【0033】
これらの環系全てにおいて、窒素原子の1つ以上を、以下に示すように例を2つだけ挙げると、O又はSのような別のヘテロ原子で置換してもよい。
【化8】
【0034】
ヘテロアリール置換基のさらに別の好ましい基は、以下に示す6員環系を含む。
【化9】
【0035】
アリール基と同様に、前述したヘテロアリール基は、好ましくは、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アミノ、シアノ、アルケニル、アルキニル、アリールアルキル、アリール及びヘテロアリール基から選択される置換基で置換されていてもよいし、又はヘテロアリール基は、アニールした環系の一部であってもよい。
【0036】
当業者には、立体化学的理由から、本発明の化合物においてR及びRの特定の組合せが排除されるか、又は困難となることは明らかであるため、これに関してさらに詳しい説明は本明細書では必要ない。
【0037】
Ar及びArは、同じでも異なっていてもよく、置換基R〜Rについて前述した芳香環系又はヘテロ芳香環系から選択することができ、従って、この点についてはそれらを参照されたい。好ましくは、Ar及び又はArは、同じでも異なっていてもよく、上に定義した通りのアリール環系であり、好ましくは、フェニル又はナフチルであり、これらは置換又は非置換のいずれであってもよい。
【0038】
本発明の好ましい化合物の別の基は、n、m又はoの少なくとも1つが、1〜3の整数を表すものである。
【0039】
また、n、m及びoが全て0である化合物も好ましい。
【0040】
さらに、このような化合物(n、m及びoが0である)のうち、以下の一般式:
【化10】
(Lは、上に定義した意味のいずれかを有しうる)
の化合物も好ましい。
【0041】
従って、前記式の化合物の特に好ましい基は、式A−1の置換基、特に、YがO又はSである置換基A−1を担持する。
【0042】
SBF又は開放型(または開環型)SBF環系は、置換基L以外に追加の置換基を含んでも、含まなくてもよい。存在する場合、このような追加置換基は、それらが発生する各位置で同じでも異なっていてもよく、一般に、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アミノ、シアノ、アルケニル、アルキニル、アリールアルキル、アリール及びヘテロアリール基から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】OLEDの多層構造を示す。
図2】素子構造の概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の化合物は、あらゆる公知の、かつ好適な方法によって合成することができる。当業者であれば、好適な製造方法を熟知していよう。
【0045】
一般に、メタ−置換基を含む本発明の化合物は、1又は2個のリガンドLを担持する化合物についての例示的方法を示す、以下の一般的反応スキーム:
【化11】
(式中、Xは、このような反応のための公知の脱離基、例えば、ハロゲン、OH、OR、SR、OCN、SCN又はCN、特に、ハロゲン、とりわけ塩素及び臭素からなる群から選択される脱離基である)
に従って調製することができる。
【0046】
当業者であれば、具体的合成の個別の需要に基づき好適な反応体及び反応条件を選択されよう。
【0047】
SBF又はOpen SBF環系のメタ位に少なくとも1個の脱離基を有する合成のための出発材料は、当業者が、具体的需要に応じて選択するであろう様々な方法経路に従って合成してよい。一般に、このような化合物は、SBF又はOpen SBFコアへの置換基の直接的導入によって容易に接触可能ではない。というのは、これらの経路では、好ましくはその高い反応性のために、パラ−置換産物が得られるためである。従って、置換基Xは、好適な前駆物質、例えば、3つだけ例を挙げると、フルオレン誘導体、ベンゾフェノン誘導体又はビフェニル誘導体を介して導入しなければならず、これらは、その後反応して、SBF又はOpen SBF構造をもたらす。
【0048】
従って、それぞれの化合物は、例えば、好適なビフェニル化合物と、式:
【化12】
の置換フルオレノン誘導体から取得することもできる。
【0049】
別の可能性は、一般的反応スキーム:
【化13】
に従う、好適な置換ビフェニル化合物と、フルオレノンの反応であり、これは、X=OHの場合について、日本国特許第2006/089585号明細書に、より詳細に記載されており、このスキームは、他の置換基Xについて採用してもよい。
【0050】
本発明の別の実施形態は、有機発光素子、特に有機発光ダイオード(OLED)における本発明の化合物の使用に関する。
【0051】
本発明の化合物は、有利には、有機発光素子の発光層に、発光材料と一緒に用いてよい。
【0052】
さらに、化合物は、有機発光素子の他の層、特に、有機電子ダイオードの他の層にも好適である。
【0053】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、発光層(EML)を含む有機発光素子(OLED)にも関し、前記発光層は、ホスト材料として本発明の化合物を含み、ホスト材料は、OLEDの発光層(EML)に特に好適である。
【0054】
OLEDは、一般に、以下のものを含む:
基板、例えば(限定するものではないが)ガラス、プラスチック、金属;
アノード、一般に透明アノード、例えば、インジウム−酸化スズ(ITO)アノード;
正孔注入層(HIL)、例えば(限定するものではないが)PEDOT/PSS;
正孔輸送層(HTL);
発光層(EML);
電子輸送層(ETL);
電子注入層(EIL)、例えば、LiF、CsCO
カソード、一般に、金属カソード、例えば、Al層。
【0055】
正孔導電発光層の場合には、発光層と電子輸送層との間の励起子阻止層としても作用することができる正孔阻止層(HBL)を備えてもよい。電子伝導発光層の場合には、電子阻止層(EBL)を備えてもよく、これは、発光層と正孔輸送層との間の励起子阻止層としても作用することができる。発光層は、正孔輸送層(この場合、励起子阻止層は、アノード付近、又はアノードに位置する)又は電子輸送層(この場合、励起子阻止層は、カソード付近、又はカソードに位置する)と同等であってもよい。
【0056】
本発明の化合物は、好ましくは、発光層におけるホスト材料として用いてもよい。
【0057】
任意選択で、発光層は、分極分子も含有してよいが、これは、前記ホスト材料中にドーパントとして存在し、一般に放射光の波長に影響を与える双極子モーメントを有する。
【0058】
電子輸送材料から形成される層を用いて、発光材料及び(任意選択の)ホスト材料を含む発光層に電子を輸送するのが有利である。電子輸送材料は、金属キノキソラート(例えば、Alq、Liq)、オキサジアゾール、トリアゾール及びケトン(例えば、スピロビフルオレンケトンSBFK)の群から選択される電子輸送マトリックスであってもよい。電子輸送材料の例として、式[「Alq3」]のトリス−(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム及びスピロビフルオレンケトンSBFKがある。
【化14】
【0059】
正孔輸送材料から形成される層を用いて、前述の発光材料及び(任意選択の)ホスト材料を含む発光層に正孔を輸送するのが有利である。正孔輸送材料の一例として、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル[「α−NPD」]がある。
【化15】
【0060】
励起子をルミネセント層(「ルミネセントゾーン」)内に閉じ込めるための励起子阻止層(「バリア層」)の使用が極めて好ましい。正孔輸送ホストの場合、阻止層は、発光層と電子輸送層との間に配置してもよい。このようなバリア層用の材料の一例として、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(バトクプロイン又は「BCP」とも呼ばれる)があり、これは、式:
【化16】
BCP
を有する。
【0061】
OLEDは、好ましくは、図1に示すように、多層構造を有し、ここで、1はガラス基板、2はITO層、3はPEDOT/PSSを含むHIL層、4はα−NPDを含むHTL層、5はホスト材料としてのmCBPと、ドーパントとして上に定義した発光材料、又はこれらの材料の混合物を、ホスト及びドーパントの総重量に対し約15重量%の量で含むEMLであり、6はBCPを含むHBLであり、7はAlqを含むETLであり、8はLiFを含むEILであり、9はAl層カソードである。
【0062】
本発明の一例を以下に記載するが、その目的はあくまで例示に過ぎず、本発明自体の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0063】
実施例1
3−ブロモ−SBFの合成
ステップ1:3−ブロモフルオレノンの合成
【化17】
三口フラスコに、60mlの水を8.9mlの塩酸(HCl、37%w/w、2.1モル当量)に添加し、媒質を0℃に冷却した。50mlの水に溶解させたNaNO(1.5モル当量)を0℃で滴下しながら添加した。添加の終了時に、アセトン/水(400/230ml)の混合中に溶解させた4−アミノ−2−ブロモベンゾフェノン(1当量、15.0g、51.6mモル)を注意深く添加した。室温で30分後、混合物を温め、60℃で3時間維持した。
【0064】
塩化メチレンで抽出し、有機相を蒸発させた後、茶色の固体を回収し(17.4g)、フラッシュクロマトグラフィーを実施した。ヘキサンによる結晶化後、純粋な化合物を回収した(4.2g、32%収率)。
【0065】
ステップ2:3−ブロモ−SBF
【化18】
この化合物は、ステップ1の3−ブロモフルオレノンから2段階で製造した。最初に、2−ブロモビフェニル(1.05当量、4.0g、16.5mモル)を102mlの無水ジエチルエーテルに溶解させる。この溶液を−60℃に冷却し、n−BuLi(1.16当量)を滴下しながら添加する。この温度で10分後、白色の沈殿物が現れたが、これは、媒質を室温まで温めて、再溶解させた。次に、3−ブロモフルオレノンを添加し、反応混合物を45℃で一晩維持した。
【0066】
NHCl(5%水溶液、260ml)を添加し、ジエチルエーテルで抽出した後、7.0gのアルコールを取得した。この固体を141mlの酢酸に溶解させた後、78mlのHCl/ジオキサン(10%モル、20当量)の添加により加水分解した。溶媒の蒸発後、固体を順相フラッシュクロマトグラフィーに付すことによって、5.86gの目標化合物を得た(94%収率)。
【0067】
ステップ3:3−フェノキサジル−SBF
【化19】
500mlフラスコ中で、320mlのトルエンを2時間にわたりガス抜きした。3−ブロモSBF(9.9g、0.025モル)、ナトリウムtert−ブチレート(tBuONa、4.92g、0.05モル)及びフェノキサジン(4.6g、0.025モル)を添加し、30分後、事前に調製したビス−ジベンジリデンアセトンパラジウム(Pd(dba))及びトリス−tert−ブチルホスフィン(P(tBu))の混合物をゆっくりと添加した。
【0068】
溶液を110℃まで1時間かけて温めた後、セライトパッドで濾過した。溶媒の蒸発後、回収した固体をエタノール中で再結晶化することにより、9.4gの白色の固体を得た(77%収率)。
【0069】
実施例2
3−クロロ−SBFの合成
ステップ1:1−ブロモ−7−クロロ−ビフェニルの合成
【化20】
窒素雰囲気下の50ml丸底フラスコに、Pd(OAc)(1.07g、0.0047モル)、PPh(5.0g、0.0032モル)及びジオキサン(35ml)を順次充填した。この混合物を、ジオキサン(150ml)中の1−クロロ−3−ヨードベンゼン(13.6g、0.056モル)、2N水性炭酸ナトリウム(180ml)及び2−ブロモフェニルボロン酸(12.3g、0.059モル)をすでに充填した500ml丸底フラスコに添加した。この混合物をN下の還流で1.5時間加熱し、室温まで冷却した。反応媒質を水と酢酸エチルの間に分配した。一緒にした有機層をブラインで洗浄し、MgSOで乾燥させた後、濃縮した。残留物をカラムクロマトグラフィー(CHCl/ヘキサン)によって精製することにより、76.6%の収率で所望の生成物を得た。
【0070】
ステップ2:3−クロロ−SBF
【化21】
−78℃に冷却した無水THF(100ml)中の1−ブロモ−7−クロロ−ビフェニル(10g、0.037モル)の溶液に、ヘキサン(0.037モル、23.2ml)中の1.6M n−BuLiの溶液を滴下しながら添加した。反応混合物を−78℃で1時間撹拌した後、無水THF(25ml)中のフルオレノン(0.031モル、5.58g)の溶液を滴下しながら添加した。添加後、混合物を室温まで温めて、2時間撹拌した。混合物を飽和NHCl(200ml)でクエンチングした後、酢酸エチルで抽出した(3125ml)。一緒にした有機層をブラインで洗浄し、NaSO4(又はMgSO)で乾燥させた後、濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィーによって精製することにより、約20%の収率で目標化合物を得た。
【0071】
ステップ3:9,9−ジメチル−9,10−ジヒドロアクリジンの調製
2−(フェニルアミノ)安息香酸(50g、0.23モル)をメタノール(1L)に溶解させ、氷浴中に配置し、10分間撹拌した。そこに0℃でSOCl(60mL、0.58モル)をゆっくり添加した後、混合物を90℃、還流下で12時間撹拌した。反応の完了後、反応混合物を蒸留水で洗浄した後、酢酸エチルで抽出した。硫酸マグネシウムで有機層を乾燥させ、回転式蒸発器により溶媒を蒸発させた後、展開溶媒として酢酸エチルを用いたカラムクロマトグラフィーによる精製によって、2−(フェニルアミノ)安息香酸メチル(47g、92%)を取得した。
【0072】
90gの2−(フェニルアミノ)安息香酸メチル(90g、0.3モル)をTHF(1.5L)に添加し、臭化メチルマグネシウム(462mL、1.38モル)をゆっくりと混合物に添加した後、これを室温で12時間撹拌した。反応の完了後、反応混合物を蒸留水で中和してから、酢酸エチルで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、回転式蒸発器により溶媒を蒸発させた後、展開溶媒として酢酸エチルを用いたカラムクロマトグラフィーによる精製によって、80g(90%)の
【化22】
を得た。
【0073】
前ステップで取得した化合物80g(0.35モル)を1.7Lのリン酸に添加し、混合物を室温で12時間撹拌した。反応の完了後、反応混合物を蒸留水で中和してから、生成された固体を水で洗浄しながら、濾過した。固体をジクロロメタンに溶解させ、抽出した後、水酸化ナトリウムで中和した。硫酸マグネシウムで有機層を乾燥させ、回転式蒸発器により溶媒を蒸発させた後、ヘキサン中の再結晶化によって64gの9,9−ジメチル−9,10−ジヒドロアクリジン(87%)を得た。
【0074】
:3−(9,9−ジメチル−9,10−ジヒドロアクリジン)−SBF
【化23】
触媒Pd(dba)(5%モル、490mg)及びホスフィンP(tBu)(4%モル、トルエン中0.675mLの1M P(tBu))を室温で二口フラスコ中のトルエン(10mL、無水かつ、十分にガス抜きしたもの)に導入した。窒素下で15分後、別の試薬3Cl−SBF(1当量、5.98g、16.9mモル)、9,9−ジメチル−9,10−ジヒドロアクリジン(1当量、3.53g、16.9mモル)及びtBuONa(3当量、5.0g、60.6mモル)を導入し、反応媒質を3時間にわたり90℃に温めた。反応の終了時に、媒質を珪藻土(セライト)で濾過し、溶媒を真空下で蒸発させた。固体をシリカゲル上に吸収させ、乾燥フラッシュクロマトグラフィーを実施した(塩化メチレン/ヘキサン)。溶媒の蒸発後、固体をヘキサン中で再結晶化させた(m=7.66g、収率=87%)。
【0075】
HOMOレベルを−5.29eV、LUMOレベルを−1.49eV、三重項エネルギーを−2.88eVと決定した。
【0076】
HOMOレベル(EHOMO)は、最初の酸化(E1OX1/2)から得られる半波電位から、以下の等式:
HOMO−(−4.8)=−[E1OX1/2−EOX1/2(Fc/Fc)]
(式中、EHOMO(フェロセン)は、真空レベルを下回る4.8eVに等しいとみなされている)
を用いて算出されている。
【0077】
E LUMO(CV)は、第1還元電位から算出されている。
【0078】
三重項エネルギーは、77Kの2−MetTHFにおける最も高いエネルギーりん光ピークから算出されている。
【0079】
素子実施例
素子実施例はすべて、スピンコート技術によって付着させた正孔注入層以外は、高度真空蒸着法によって作製した。アノード電極は、120nmのインジウム酸化スズ(ITO)である。素子はすべて、作製直後、窒素グローブボックス(<1ppmのHO及びO)内で、エポキシ樹脂で封止したガラスリッドでカプセル化し、パッケージ内に水分ゲッターを導入した。HAMAMATSU製のC9920−12 External Quantum Efficiency Measurement Systemを用いて、素子を光学的及び電気的に特性決定した。EQEとは、%で表される外部量子効率を指し、室温にて直流で素子を駆動することによって、操作安定性試験を行った。LT50は、寿命の尺度であり、素子を定電流で駆動しているとき、光出力が初期値の50%まで低減するのにかかる時間に相当する。
【0080】
OLEDスタックは、順に、ITO表面、スピンコートで付着させて、20分間200℃の加熱板上で乾燥させた30nmのPlexcore OC(Plextronics Inc.から供給される自己ドーピングポリマー:ポリ(チオフェン−3−[2−[(2−メトキシエトキシ)エトキシ]−2,5−ジル))から構成された。HILの上に、正孔輸送層(HTL)として15nmのNPBを真空蒸着法により付着させた。
【0081】
次に、様々な量のドーパント化合物Cでドーピングした化合物Bの30nm層を発光層(EML)として真空蒸着法により付着させた。化合物Aの5nm層を真空蒸着法により正孔阻止層(HBL)として付着させた。続いて、Alq3の40nm層を電子輸送層(ETL)として真空蒸着法により付着させた。カソードは、1nmのLiFと、これに続く100nmのアルミニウムから構成された。
【0082】
本明細書で用いるα−NPD、化合物A、化合物B、化合物C及びAlq3は以下の構造を有する。
【化24】
【0083】
素子構造の概略を図2に示し、表1には、作製した素子についての測定結果を示す。化合物Bは、ホストとして用い、化合物Cは、ドーパントとして用いた。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例から認めることができるように、電力効率は、ドーパント濃度が増加するにつれ上昇する。素子の寿命は、ホストの量に対して、15〜20重量%のドーパント濃度範囲で最大を示す。色座標は、ほぼ一定のままであるが、EQEは、10重量%ドーパントの場合、より高い濃度と比較して低い。
【0086】
以上の実施例から、本発明の化合物は、有機発光ダイオードのホスト材料として好適であることが明らかである。
図1
図2