(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182315
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】表面平滑性に優れた樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/08 20060101AFI20170807BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20170807BHJP
C08L 23/12 20060101ALN20170807BHJP
【FI】
C08L23/08
H01B3/44 F
H01B3/44 G
H01B3/44 J
!C08L23/12
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-2615(P2013-2615)
(22)【出願日】2013年1月10日
(65)【公開番号】特開2014-133819(P2014-133819A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2014年5月9日
【審判番号】不服2015-22905(P2015-22905/J1)
【審判請求日】2015年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110559
【弁理士】
【氏名又は名称】友野 英三
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃一
(72)【発明者】
【氏名】千葉 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】白井 友之
【合議体】
【審判長】
小野寺 務
【審判官】
佐久 敬
【審判官】
橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−111668(JP,A)
【文献】
特開2011−198601(JP,A)
【文献】
特開平2−22350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L23/06
C08L23/12
H01B3/44
H01B7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタロセン系触媒を用いて合成された直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)70〜95重量部に、メルトフローインデックス(MI)が8以上であるポリプロピレン(PP)系樹脂5〜30重量部を含有してなることを特徴とする電線被覆用樹脂組成物。
【請求項2】
前記LLDPEが、エチレンと炭素数が4〜8であるα-オレフィンとの共重合体であって、メルトフローインデックス(MI)が10以下であることを特徴とする請求項1に記載の電線被覆用樹脂組成物。
【請求項3】
前記PP系樹脂が、PPホモポリマーであることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の電線被覆用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の電線被覆用樹脂組成物を用いて作製された被覆電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形で製造する被覆電線用樹脂組成物に関し、表面平滑性及び生産性に優れるばかりか、従来のポリエチレン被覆材料よりも、電気的、熱的、力学的、化学的にも優れた特性を有する、安価な電線被覆用樹脂組成物及びそれを用いた被覆電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電線・ケーブルは、主として、電力輸送と情報伝達の二つの役割を担っており、社会のあらゆるところで使用されている。その電線被覆材料は、電気絶縁性、電線の保護・腐食防止、電線やケーブルの取り扱い易さ、美観、更に、被覆の効率性が求められる。近年では、特に、環境適合性、難燃性、及び、安全性等も求められている。
【0003】
電力輸送では、発電所で作られた電気を消費地の変電所まで送る送電線、変電所で所定の電圧に下げられた電気を工場・ビル・家庭などに配る配電線、更に工場内・ビル内・家庭内で使用される配線、そして船舶・航空機・自動車等に使われる特殊機器用電線に分けられる。一方、情報伝達では、電話局間の幹線に使われる光ケーブル、局内で使われる光及びメタルコード・ケーブル、電柱間を配線されるメタル及び光ケーブル、宅内に引き込む為のケーブル、オフィスや家庭の電子機器間の接続用電線・ケーブル、テレビ等のAV機器間をつなげるコード等、更には、近年、エレクトロニクス化された自動車における電線・ケーブルをあげられる。
【0004】
本願発明にも関係する電線被覆材料は、電力輸送における数百V以下の配電線、並びに、情報伝達において幹線に用いられる光ケーブル、市内を配線されるメタル・及び光ケーブル、オフィスや家庭の電子機器間の接続用コード・ケーブルの領域を対象としており、現状では、特性及びコストの観点から、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリエチレン樹脂(PE)、架橋PEの3種類が主に使用されている。従って、上記用途においては、電気絶縁性、電線の保護・腐食防止、電線やケーブルの取り扱い易さという電線被覆材料の本質的目的もあるが、美観、原材料コスト、被覆の効率性(生産コスト)が極めて重要な要因である。また、環境適合性ということも強く求められている。
【0005】
このような観点から、PEの優れた特性、例えば、電気絶縁性、防水・防湿性、柔軟性、耐薬品性等を有し、更には、有害物発生要因であるハロゲンを含まない素材としても、PVCに匹敵するコストを実現する電線被覆材料を開発する意義がある。
【0006】
そこで、現在、主として電線被覆材料として用いられている、高圧法で製造した低密度PE(LDPE)に変わり、フィルムとして大量に使用されている安価な低圧法で製造した直鎖状LDPE(LLDPE)を電線被覆材料に適用できないかどうかを検討した。
【0007】
さて、PEは、主として、高密度PE(HDPE)、LDPE、LLDPE、メタロセンLLDPE(メタロセン触媒で重合したPE)に分類される。1957年、PEが改良チーグラー・ナッタ触媒で工業化されたときも、その特性及び成形加工性によって、生活用品が一変したが、1977年、米国で気相重合法によって工業化されたLLDPEも、プラスチック加工業界に大きな変革をもたらした。チーグラー・ナッタ触媒を介して、エチレンとα−オレフィンの共重合で製造されるLLDPEは、LDPEに比べ、機械的強度、耐熱性、熱間シール性に優れ、シール強度、耐衝撃性、ホットタック性等が、サーリン(登録商標:PEアイオノマー)を凌ぐものであったからである。そのため、従来のLDPEの用途は、包装材料を中心にして、LLDPEに置き換わった。
【0008】
更に、1980年にKaminsky教授らによって開発されたメタロセン触媒を介して、エチレンとα−オレフィンの共重合で製造されるLLDPEは、上記LLDPEよりも分子量分布が狭く、より低温シール性や強度に優れていることから、1990年代に工業化されると、2000年に入り包装材用原料として欠かせぬ存在となった(非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0009】
すなわち、このようなPEの技術開発に伴って大量に生産されるようになったLLDPEを電線被覆材に適用することによって、従来のLDPEよりも、電気的、機械的、及び熱的特性に優れ、ハロゲンを含まない、しかも、低コストの電線被覆材料が得られるものと考えた。
【0010】
しかし、このようなLLDPEを電線被覆材料に用いるには、LLDPEの分子構造に起因する大きな問題がある。それは、加工適性である。例えば、市販されているLLDPEとして、モアテック0138N(プライムポリマー社:登録商標)、エボリューSP2320(メタロセンLLDPE)(プライムポリマー社:登録商標)を用い、一般的な押出成形で電線被覆を施したところ、表1に示すように、表面に激しい凹凸が発生し、上述した美観という要求性能を満足することができないことが分かった。
【0011】
【表1】
【0012】
従来電線被覆材料として用いられてきた高圧法LDPEは、主鎖に対し長鎖分岐を有する分子構造をしており、溶融弾性が大きく、昇温降温に対する粘度変化の応答速度が遅いという特性を有している。このことが、上述したように、LDPEの熱間シール性が悪い大きな要因であるが、逆に、加工・成形は容易になる。一方、LLDPEは、主鎖に対する分岐が小さくて少ない直鎖状の分子構造であるため、溶融弾性が小さく、昇温降温に対する粘度変化の応答速度が速い。そのため、熱間シール性、その他、電気的、機械的、熱的特性に優れるが、逆に、加工・成形は困難になる。
【0013】
この問題を、例えば、押出成形機のノズルを例に考える。押出成形機内で溶融していたPEが、ノズルから外界に出る際、粘弾性体特有の法線応力効果が働き、大きく盛り上がった形状になる。ここで、PEの温度は降下し、溶融体から固体になるが、その速度が、LDPEよりもLLDPEの方が速いため、LDPEではレベリングして平滑な表面となるが、LLDPEでは、レベリングする前に固体となり、法線応力効果で盛り上がった形状が残されてしまうのである。特に、押出成形に於ける電線被覆加工のように、細孔押出しの場合に見られる特異な膨らみ現象をベイラス(Baras)効果というが(非特許文献3参照)、生産性を上げるための高速押出成形では、その効果がより顕著になってくる。
【0014】
このような課題に対し、特開昭55−128441号公報(特許文献1)には、LDPEの押出成形の外観を改良する方法として、ポリプロピレン(PP)、プロピレンーエチレン共重合体等のプロピレン系重合体を混合する方法が開示されているが、LDPEであり、当時はまだ、LLDPE、ましてや、メタロセンLLDPEが存在していない頃であり、この技術を活用することはできない。事実、特許文献1の8〜12頁に開示されている実施例のLDPEのMIは20でありLLDPEと比較して非常に大きい値である。
【0015】
また、特開平9−306241号公報(特許文献2)では、LLDPEに、重合性不飽和基を有するモノマーをグラフト重合によって長鎖分岐を導入し、LLDPEの粘弾性挙動を改質することによって、平滑な表面の被覆電線を得ているが、プロセスが煩雑であり、LLDPEの特性を損ねるものである。
【0016】
更に、特開平10−120797号公報(特許文献3)には、エチレン−α-オレフィン共重合体とPPのブレンド物が開示されているが、エチレン−α-オレフィン共重合体の分子構造、溶融性に関する記載が全くなく、LLDPEかどうかさえ分からない。また、架橋反応に伴うスコーチに基づく表面粗化を問題としており、上記粘弾性挙動に基づくものではない。
【0017】
その他高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(LDPE)を混合する方法なども含めて検討されているが、充分な改良効果を得られてはいない。
【0018】
以上、LLDPEを用いて、表面平滑性及び生産性に優れた被覆電線を製造する技術は見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開昭55−128441号公報
【特許文献2】特開平09−306241号公報
【特許文献3】特開平10−120797号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】2006年日本プラスチック産業の展望「ポリエチレン」,プラスチックス編集部,プラスチックス,57(1) ,27,2006.
【非特許文献2】世利卓也,メタロセンポリエチレンの最新動向,コンバーテック,32(10),76,2004.
【非特許文献3】大柳康,エンジニアリングプラスチック−その特性と加工−,p.74,1985.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は上述した従来からの問題点を解決することを企図したものであり、LLDPEを用い、押出成形によって得られる被覆電線の表面粗化を改善するばかりか、高速押出成形も可能とし、表面平滑性及び生産性に優れた被覆電線を製造することができる樹脂組成物及びそれを用いた被覆電線を提供するものである。また、従来のLDPEよりも、電気的、熱的、力学的、化学的に優れた特性の被覆電線を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題は、メルトフローインデックス(MI)が10以下であるLLDPE50〜97重量部にポリプロピレン(PP)系樹脂3〜50重量部を含有させることによって、押出成形に適切な粘弾性挙動となり、LLDPEの物理化学的特性を損なうことなく、表面平滑性に優れた被覆電線を製造することができるLLDPE−PP樹脂組成物となることを見出し、解決することができた。更に、上記被覆電線に放射線架橋を施すことによって、力学的、熱的、及び、化学的特性をより向上させることができる。
【0023】
すなわち、本発明は、MIが10以下のLLDPEとPP系樹脂を含む電線被覆用樹脂組成物、及び、その樹脂組成物を用いて製造された被覆電線を提供することによって上記課題を解決できることを見出したものである。
【発明の効果】
【0024】
現在、LLDPEは、包装材を中心として大量に使用され、安価な汎用樹脂として、また、電線被覆に主として用いられてきたLDPEよりも力学的、熱的、及び、化学的特性に優れた樹脂として、プラスチック加工製品には欠かせぬ存在となっているが、電線被覆用樹脂としては、押出成形時に発生する凹凸のため、LLDPEを用いることができなかった。
【0025】
しかし、本発明により、押出成形時に発生する凹凸を解消し、外観に優れている上、安価で、生産性に優れ、LLDPE本来の力学的、熱的、及び、化学的特性を有する電線被覆用樹脂組成物、及び、それを用いた被覆電線が得られる。また、本発明により、安価なPVCが絶縁材料として用いられてきた被覆電線の領域にも、PVCより優れた力学的、熱的、及び、化学的特性を有するPE被覆電線を適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0027】
本発明は、MIが10以下であるLLDPE50〜97重量部にPP系樹脂3〜500重量部を含有することを特徴とする電線被覆用樹脂組成物であり、それを用いて電線被覆用押出成形機で製造された被覆電線である。
【0028】
MIが10以下であるLLDPE50〜97重量部にPP系樹脂3〜50重量部を含有させることによって、押出成形に適切な粘弾性挙動となり、LLDPEの物理化学的特性を損なうことなく、表面平滑性に優れた被覆電線を製造することができるが、好ましくは、LLDPE70〜97重量部にPP系樹脂3〜30重量部を含有させることである。更に好ましくは、LLDPE85〜95重量部にPP系樹脂5〜15重量部である。
【0029】
PP系樹脂が3重量部よりも少ないと、押出成形時に発生する凹凸により、外観上問題のない表面平滑性に優れた被覆電線を製造することができない。一方、PP系樹脂が50重量部以上含有すると、LLDPE本来が有する、従来電線被覆材料として採用されてきたLDPEより優れた、電気的、力学的、熱的、及び、化学的特性を損なうことになる。
【0030】
ところで、本発明の樹脂組成物が、押出成形で製造された被覆電線の表面平滑性を高める作用の理由は定かではないが、本発明者としては、次のように考えている。
【0031】
LLDPEのPEにおける位置づけは、直鎖状で分岐のない、結晶性(密度)が高いHDPEと、主鎖に対して長鎖分岐を有する、結晶性(密度)が低いLDPEの中間に存在するもので、化学的には、主鎖に対して短鎖分岐を有する分子構造をとり、物理的には、結晶性(密度)が両者の間にあるものである。このような分子構造だけで物性がすべて決定されるわけではないが、この構造に基づいて、従来包装材として使用されていたLDPEの熱間シール性、低温シール性が大きく改善された。また、メタロセン触媒の発明によって製造可能となったPEは、従来のチーグラー・ナッタ触媒で製造されたPEよりも分子量分布が狭く、更に、上記シール性が向上した。このようなシール性の向上は、上記分子構造に基づく結晶性(密度が高い)、単分子性(分子量分布が狭い)という観点から、高分子特有の粘弾性挙動に起因するものである。
【0032】
すなわち、LLDPE単独で押出成形した場合、ノズルからLLDPE溶融体が吐出されたところで、粘弾性体特有の法線応力効果により膨らみができ、吐出されると同時に空気冷却により凝固するが、結晶性が高いため、その冷却に伴う凝固速度が大きく、表面に凹凸が形成されるものと考えられる。しかし、PP系樹脂を添加することによってLLDPEの結晶化が阻害され、上記成形加工時のLLDPEの表面が平滑になるまで凝固せず、表面平滑性に優れた被覆電線が得られるようになったものと推測される。
【0033】
LLDPE−PP系樹脂組成物において、特に、このような作用が効果的に発現する理由は、第一に、LLDPE−PP系樹脂組成物が相分離系を形成していること、第二に、PP系樹脂の密度が低いことにあると考えられる。結晶性を有する異種のポリマーで相溶性が認められている例はなく、このLLDPE−PP系樹脂組成物も例外ではない。このようなブレンドポリマーにおいては、分子間相互作用が極めて弱く、LLDPEの結晶化をPP系樹脂が阻害し、冷却時の結晶化速度を著しく低下させるものと考えられる。従って、非常に流動性の高いPEを加えても効果が得られない。つまり、同種のポリマーは相溶し、分子間相互作用を弱めることができず、共晶化してしまうため、冷却時の結晶化速度が低下しないのである。
【0034】
しかも、LLDPEは、短鎖分岐を有しているとはいえ、その密度は0.91〜0.94g/cm
3であるのに対し、PPホモポリマーの密度は、0.90〜0.92であり、共重合体ではそれ以下にある。これは、メチル基の存在に起因しており、自由体積が大きいことにある。このような自由体積にLLDPE分子が入り込むことによって、一層LLDPEの結晶化が阻害され、結晶化速度が低下するものと考えられる。
【0035】
本発明において、LLDPEは、MIが10以下のLLDPEであり、更に好ましくは5以下のものである。このようなLLDPEは、正確には、エチレン−α-オレフィン共重合体であって、炭素数4〜8のα-オレフィンを共重合体成分として含むものであり、従来のチーグラー・ナッタ触媒を用いて合成されたものでも、メタロセン触媒を用いて合成されたものでもよく、特に制限はないが、フィルム用途に用いられているLLDPEがより好ましい。
【0036】
例えば、主なLLDPEの市場流通品としては、商品名エボリューSP2320(プライムポリマー社:登録商標)、モアテック0138N(プライムポリマー社:登録商標)、HONAM UF315(HONAM社:登録商標)、HONAM UF927(HONAM社:登録商標)などがある。その他、サンテック(旭化成ケミカルズ株式会社:登録商標)、ユメリット(宇部丸善ポリエチレン株式会社:登録商標)、スミカセン(住友化学株式会社:登録商標)、ニポロン(東ソー株式会社:登録商標)、ノバテック(日本ポリエチレン株式会社:登録商標)、L−LDPE(ダウ・ケミカル日本株式会社)などの製品がある。
【0037】
本発明において用いられる各種MIのPP系樹脂は、様々な成形加工に用いられている。ホモポリマー、ランダムコポリマー、及び、ブロックポリマー、いずれも使用することができ、特に制限がない。ただし、PP系樹脂のMIは大きい程好ましく、MIが8以上であることが好ましい。更に好ましくは15以上、より好ましくは25以上である。
【0038】
また、一般的には、PP系樹脂の共重合成分はエチレンであるが、1-ブテンとの共重合体、エチレン及び1-ブテンとの3元共重合体も用いることができる。
【0039】
このようなPP系樹脂の市場流通品として、BC3A(日本ポリプロピレン株式会社)、BC8A(日本ポリプロピレン株式会社)、PB222A(サンアロマー社)、VS200A(サンアロマー社)、PM900A(サンアロマー社)などがある。その他、住友ノーブレン(住友化学株式会社:登録商標)、プライムポリプロ(プライムポリマー社:登録商標)などの製品がある。
【0040】
本発明の電線被覆用樹脂組成物及びそれを用いて製造された被覆電線は、少なくとも、LLDPEとPP系樹脂を含むものであるが、必要に応じて、着色剤(顔料)、酸化防止剤、滑剤、分散剤、銅害防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤(カーボンブラック、赤燐、錫化合物、金属水和物)等の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で加えることができる。
【0041】
特に、着色剤、酸化防止剤、滑剤についての配合量は、PP系樹脂の配合の中に含めて決定され、PP系樹脂100重量部に対して着色剤は10〜100重量部、酸化防止剤は0〜20重量部、滑剤は0〜20重量部が好ましい。その他の添加剤の配合量も用途により適量が選択されるが、その配合量はPP系樹脂量の内数とし、PP系樹脂とLLDPEとの混合配合量の割合を変ずるものではない。
【0042】
着色剤としては、カーボンブラックを含み、一般的な各種有機顔料を単独または複数配合して用いることができる。また、酸化防止剤としては、フェノール系、イオウ系、リン系、及びそれらの複合系から選択される。更に、滑剤は、炭化水素系、脂肪酸系、エステル系、アルコール系、シリコン系などがあげられるが、炭化水素系、シリコン系が好ましい。
【0043】
上記樹脂組成物を用いた押出成形による被覆電線の製造は、まず、PP系樹脂に、着色剤、酸化防止剤、及び、滑剤等の添加剤を加え、バンバリミキサーや押出機で溶融混合してPP系樹脂ペレットを作製する。次いで、このペレットを押出成形機直上でLLDPEペレットと混合して、溶融混合しながら電線形状に押し出す。あるいは、上記添加剤を含むPP系樹脂ペレットとLLDPEペレットをバンバリミキサーや押出機等で溶融混合して、あらかじめ電線被覆用樹脂組成物のペレットを作製しておいてもよい。また、ナチュラルまたは着色されたLLDPEにPPのみを押出機直上で混合して押出被覆してもよい。
【0044】
一方、本発明の被覆電線に用いられる押出成形機は、特別なものではなく、汎用されている電線製造用押出成形機が用いられる。押出成形機の温度は、シリンダー内で約160〜200℃、クロスヘッド部で約180〜220℃程度にすることが好ましい。
【0045】
更に、本発明は、力学的、熱的、及び、化学的特性をより向上させるために、上記被覆電線に放射線架橋を施しても良い。放射線源としてはγ-線及び/又は電子線を用いることができるが、従来の一般的な装置及び方法を用いることができ、架橋密度は、用途に応じて設定する必要がある。
【0046】
以上、本願発明の電線被覆材料は、特性及びコストの観点から、PVC、PE、架橋PEの3種類が主に使用されている、電力輸送における数百V以下の配電線、並びに、情報伝達における局間を結ぶ通信ケーブル・オフィスや家庭の電子機器間の接続用電線の領域を対象としているが、電線被覆層として導体の外周に被覆されたものすべてを包含し、特にその構造を制限するものではない。被覆層の厚さ、導体の太さ、導体の数などは従来のものと特に異ならない。これらは電線の種類・用途によって適宜設定することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明に係る実施例及び比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。表2、表3、表4、表5を参照して詳しく説明する。表2に実施例1
及び2並びに比較例1〜10、表3に実施例
3〜6及び比較例11〜13、表4に
比較例14〜23、表5に
比較例24〜28として、主材料であるフィルムグレードのLLDPEそしてPP系樹脂の各混合配合比率と押出成形後の線状被覆絶縁体の表面平滑性の評価結果を示す。
【0048】
<実験方法>
表2、表3、表4、表5に示すように、フィルムグレードのLLDPEとPP系樹脂を各配合割合で室温にてドライブレンドし、電線製造用押出成形機を使用し、上記樹脂組成物を導体径0.8mmの軟銅線上に厚み0.8mmで押出成形被覆し、被覆電線を製造した。高速押出成形速度は5m/分であった。
【0049】
<評価方法>
できあがった電線の表面性は、表面粗さ測定機(MITUTOYO製サーフテストSJ-301)を用いて算術平均粗さを測定することで比較した。
【0050】
実験結果は、外観不良の原因となっている表面粗さ、すなわち無数の微小突起物の高さを数値測定し、かつ外観上および手触り感触を客観的及び感覚的両面から判断し、◎○△×の記号で評価した。高速押出成形での線速は一定であったが、その押出速度による成形性の良否は経験上評価しやすい線速の設定している。記号評価は次のように規定した。◎は、表面平滑で非常になめらか。○は、表面平滑でなめらか。△は、表面に荒さが発生しており良否の閾値。×は、表面が著しく粗く不採用。
【0051】
<実験結果>
表2は、LLDPEとしてエボリューSP2320(プライムポリマー社:商標)とモアテック0138N(プライムポリマー社:商標)の2種類から、PP系樹脂としてBC3A、BC8A(日本ポリプロピレン株式会社)PB222A、VS200A、PM900A(サンアロマー社)の5種類から選択し、後者の0重量部配合と10重量部配合についてそれぞれ電線被覆用樹脂組成物を試験製造し、その押出成形被覆して得られた被覆電線の表面荒さを比較評価した結果である。
【0052】
【表2】
【0053】
フィルムグレードのLLDPEにPP系樹脂を配合させることにより表面粗さは改善され、平滑な表面形状が得られることがわかる。
【0054】
PP系樹脂は、PM900A(サンアロマー社)を用いることによって、表面平滑性が著しく向上した。このように、PP系樹脂としては、MIが8.5であるBC3Aや、MIが30であるPM900Aに代表されるように、MIの高いグレードがよい効果をもたらす傾向にあった。
【0055】
表3は、LLDPEとしてエボリューSP2320(プライムポリマー社)を、PP系樹脂としてPM900A(サンアロマー社)を選択して、配合量を0重量部から50重量部まで変化させた電線被覆用樹脂組成物を試験製造し、その押出成形被覆して得られた被覆電線の表面荒さを比較評価した結果である。
【0056】
【表3】
【0057】
PP系樹脂の配合量が5重量部を越えたところから表面平滑性が急に良化し、15〜50重量部の配合比率では、コンスタントに表面が平滑な被覆電線が得られている。しかし、PP系樹脂が50重量部を超えると、LLDPE本来の特性が損なわれた。
【0058】
表4は、フィルムグレードのLLDPEとして、UF315(HONAM社)とUF927(HONAM社)の2種類を選択し、PP系樹脂としてはPM900A(サンアロマー社)を用い、配合量を0重量部から10重量部まで配合割合を変化させて電線被覆用樹脂組成物を試験製造し、その押出成形被覆して得られた被覆電線の表面荒さを比較評価した結果である。
【0059】
【表4】
【0060】
表から明らかなように、PP系樹脂の配合量は3重量部を超えたところから表面を平滑にする効果が認められた。特に、LLDPEとPP系樹脂として、UF315(HONAM社)とPM900A(サンアロマー社)とを組合せた場合が、最も良好な結果を示した。LLDPEとPP系樹脂との組合せが重要であるが、少なくとも3重量部あればよいことが分かる。
【0061】
このようなPP系樹脂の効果を明確にするため、LLDPEとしては、UF315(HONAM社)とUF927(HONAM社)の2種類から選択するが、PP系樹脂の代わりに射出成形用グレードであるHDPEのサンテックJ311(旭化成株式会社:登録商標)とLLDPEのユメリット613A(宇部丸善ポリエチレン株式会社:登録商標)の2種類を用いて検討した。表5は、前記PP代替え材料の配合量を5重量部または10重量部で電線被覆用樹脂組成物を試験製造し、その押出成形被覆して得られた被覆電線の表面荒さを比較評価した結果である。
【0062】
【表5】
【0063】
この結果から明らかなように、射出成形用グレードであるHDPEやLLDPEは、MIが26以上と高いにもかかわらず、LLDPE系被覆電線の表面の凹凸を改善することはできなかった。すなわち、本発明の解決手段が効果的であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明である電線被覆用樹脂組成物及びそれを用いて製造した被覆電線は、特性及びコストの観点から、PVC、PE、架橋PEの3種類が主に使用されている、電力輸送における数百V以下の配電線、並びに、情報伝達におけるオフィスや家庭の電子機器間の接続用電線の領域に幅広く利用できる。
【0065】
また、本発明は、電力輸送並びに情報伝達だけでなく、あらゆる電気・電子機器産業において、電線被覆用樹脂組成物及びそれを用いた被覆電線として、生産性・市場性・機能性などの優位性を充分発揮することが期待でき、産業上の利用価値は大きい。