特許第6182437号(P6182437)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6182437発核装置及びその製造方法並びに発核装置を備えた蓄熱装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182437
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】発核装置及びその製造方法並びに発核装置を備えた蓄熱装置
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/00 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
   F28D20/00 G
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-243739(P2013-243739)
(22)【出願日】2013年11月26日
(65)【公開番号】特開2015-102288(P2015-102288A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】都築 秀和
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】岩野 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】池田 匡視
【審査官】 石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第6283116(US,B1)
【文献】 特開昭53−23186(JP,A)
【文献】 特開2010−196508(JP,A)
【文献】 特開昭57−147580(JP,A)
【文献】 特開平2−109558(JP,A)
【文献】 特開昭56−137099(JP,A)
【文献】 特開昭57−74590(JP,A)
【文献】 特開昭60−13877(JP,A)
【文献】 特開2013−257080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 17/00−21/00
F28F 21/00−27/02
F24J 1/00
F24J 3/00− 3/08
C09K 5/00− 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過冷却状態の蓄熱材を結晶化させるために可撓性を有する板部材の変形動作を利用する発核装置であって、前記可撓性を有する板部材には溝が設けられ、前記溝には、前記蓄熱材の主成分である水和物塩の無水物が内部に存在することを特徴とする発核装置。
【請求項2】
前記発核装置は、前記溝を板部材の片面もしくは両面に有し、
前記発核装置が、2つの形状の間を変位可能であることを特徴とする請求項1に記載の発核装置。
【請求項3】
前記溝の先端に亀裂を有し、
前記亀裂が、前記発核装置の両面に対向するように形成された前記溝の間を連結することを特徴とする請求項2に記載の発核装置。
【請求項4】
前記可撓性を有する板部材は、弾性を有する金属であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発核装置。
【請求項5】
前記蓄熱材は酢酸ナトリウム三水和物を主成分とし、
前記溝の内部に酢酸ナトリウム無水物が存在することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発核装置。
【請求項6】
前記可撓性を有する板部材の変形動作は、二種類の形状の間でのスナップ変位を伴った変形であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の発核装置。
【請求項7】
可撓性を有する板部材の少なくとも片面に溝を形成する工程と、
前記溝内に蓄熱材の水和物塩の無水物を配置する工程を具備することを特徴とする発核装置の製造方法。
【請求項8】
前記溝内に蓄熱材の水和物塩の無水物を配置する工程は、前記無水物を前記板部材の前記溝内に擦り込む工程を具備することを特徴とする請求項7に記載の発核装置の製造方法。
【請求項9】
前記溝内に蓄熱材の水和物塩の無水物を配置する工程は、
前記溝内に前記水和物塩を配置する工程と、
前記板部材を加熱し、前記溝中の前記水和物塩を前記無水物にする工程
を具備することを特徴とする請求項7に記載の発核装置の製造方法。
【請求項10】
蓄熱容器内に、過冷却状態を利用する蓄熱材と、前記蓄熱材に含まれる塩の無水物を内部に有する溝を少なくとも片面に形成した可撓性を有する板部材の変形動作を利用する発核装置を有することを特徴とする蓄熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過冷却状態の潜熱蓄熱材を結晶化させる過冷却解除手段である発核装置とその製造方法、並びにこれを備えた蓄熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車などのエンジンやモーターの排熱、或いは太陽熱を蓄熱して必要な時に熱源として利用する蓄熱装置が知られている。この種の蓄熱装置では、蓄熱材として、固相から液相への相変化(融解)による潜熱を利用して蓄熱を行う潜熱蓄熱材が用いられている。潜熱蓄熱材の中でも過冷却状態を利用する蓄熱材は、融点以下でも液相の過冷却状態を保持し、外部刺激により液相から固相へ相変化(結晶化)して潜熱を放出する材料である。
このため、過冷却状態を利用する蓄熱装置には、任意のタイミングで潜熱蓄熱材に刺激を与えて結晶化を誘発する過冷却解除手段である発核装置が設けられている。
【0003】
このような発核装置を備えた蓄熱装置として、特許文献1に記載の熱エネルギー貯蔵伝達装置がある(特許文献1を参照)。特許文献1に記載の熱エネルギー貯蔵伝達装置においては、過冷却状態の液体の潜熱蓄熱材に対して種結晶の接触により結晶化を開始させている。潜熱蓄熱材を加熱する際に種結晶が溶解しないように、種結晶は断熱容器内に収め、過冷却液体と種結晶との接触は、断熱容器の開閉により制御されている。
【0004】
また、他の過冷却解除手段として、機械的な衝撃を過冷却液体に加えて結晶化を開始させる発核装置がある。例えば特許文献2では、薄い金属製のストリップに力をかけてストリップの形状を変形させ、ストリップの孔内の過冷却液体に衝撃を加える発核装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−105219号公報
【特許文献2】特開昭60−251189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の熱エネルギー貯蔵伝達装置は、発核機構が複雑で装置が大型になる問題があった。また、特許文献2に記載の発核装置は、繰り返し使用での発核の確実性に問題があった。
本発明の目的は、簡便な機構で、過冷却状態の潜熱蓄熱材を確実に繰り返し結晶化させる発核装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、過冷却液体の結晶化を開始させる発核装置において、弾性変形可能な板部材に設けた溝内に蓄熱材の主成分である水和物塩の無水物を埋めこめば、簡便な機構で過冷却状態の潜熱蓄熱材を繰り返し結晶化が可能な発核装置を実現できることを見出した。
【0008】
前述した目的を達成するために、以下の発明を提供する。
(1)過冷却状態の蓄熱材を結晶化させるために可撓性を有する板部材の変形動作を利用する発核装置であって、前記可撓性を有する板部材には溝が設けられ、前記溝には、前記蓄熱材の主成分である水和物塩の無水物が内部に存在することを特徴とする発核装置。
(2)前記発核装置は、前記溝を板部材の片面もしくは両面に有し、前記発核装置が、2つの形状の間を変位可能であることを特徴とする(1)に記載の発核装置。
(3)前記溝の先端に亀裂を有し、前記亀裂が、前記発核装置の両面に対向するように形成された前記溝の間を連結することを特徴とする(2)に記載の発核装置。
(4)前記可撓性を有する板部材は、弾性を有する金属であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の発核装置。
(5)前記蓄熱材は酢酸ナトリウム三水和物を主成分とし、前記溝の内部に酢酸ナトリウム無水物が存在することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の発核装置。
(6)前記可撓性を有する板部材の変形動作は、二種類の形状の間でのスナップ変位を伴った変形であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の発核装置。
(7)可撓性を有する板部材の少なくとも片面に溝を形成する工程と、前記溝内に蓄熱材の水和物塩の無水物を配置する工程を具備することを特徴とする発核装置の製造方法。
(8)前記溝内に蓄熱材の水和物塩の無水物を配置する工程は、前記無水物を前記板部材の前記溝内に擦り込む工程を具備することを特徴とする(7)に記載の発核装置の製造方法。
(9)前記溝内に蓄熱材の水和物塩の無水物を配置する工程は、前記溝内に前記水和物塩を配置する工程と、前記板部材を加熱し、前記溝中の前記水和物塩を前記無水物にする工程を具備することを特徴とする(7)に記載の発核装置の製造方法。
(10)蓄熱容器内に、過冷却状態を利用する蓄熱材と、前記蓄熱材に含まれる塩の無水物を内部に有する溝を少なくとも片面に形成した可撓性を有する板部材の変形動作を利用する発核装置を有することを特徴とする蓄熱装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、簡便な機構で、過冷却状態の潜熱蓄熱材に確実に結晶化を引き起こすことが可能な発核装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る蓄熱装置11の断面図。
図2】本発明の実施形態に係る発核装置1の平面図及び溝部の断面拡大図。
図3】本発明の実施形態の他の例に係る発核装置1aの溝部の断面拡大図。
図4】本発明の実施形態の他の例に係る発核装置1bの溝部の断面拡大図。
図5】本発明の実施形態の他の例に係る発核装置1cの平面図。
図6図5中のC−C断面での発核装置1cの変形を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(発核装置1を用いた蓄熱装置11)
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明の実施形態に係る蓄熱装置11について説明する。図1は、蓄熱装置11の断面の模式図である。可撓性のある容器13には、過冷却状態を利用する潜熱蓄熱材15と発核装置1が封入されている。
【0012】
容器13は、可撓性のあるラミネートフィルムからなる外装材で囲まれた蓄熱パックであり、外部応力により容器が変形し、内部の発核装置1に応力を容易に伝達できる構造である。発核装置1は外部応力により板部材が変形して形状が反転して発核を引き起こす構造である。潜熱蓄熱材15が過冷却状態の時に、発核装置1を作動させると、蓄熱装置11内の潜熱蓄熱材15が結晶化し、潜熱を放出して発熱する。
蓄熱容器を変形させずに、発核装置に応力を伝達しても良く、例えばモーターの駆動による応力で板部材を変形する方法があり、変形機構は電気的、物理的応力など限定されない。
【0013】
潜熱蓄熱材15は、水和物塩を主成分とし、過冷却状態が安定している材料であり、例えば酢酸ナトリウム三水和物が挙げられる。また、潜熱蓄熱材15は、潜熱蓄熱材15に含まれる水和物塩を無水化した無水物が、過冷却液体の発核を引き起こす種結晶として機能する材料である。
【0014】
発核装置1に用いる板部材の形状は長方形状の板形状や円板形状など限定されない。板部材の変形動作は、外力により起こされる繰り返し曲げやスナップ変位の飛び移り座屈を利用する。
【0015】
(発核装置の構成)
図2(a)は、本発明の実施形態に係る発核装置1の平面図である。発核装置1は、溝3を有する可撓性の板部材である。溝3の内部には、潜熱蓄熱材15の主成分を構成する水和物塩の無水物が存在する。
蓄熱材15の主成分が酢酸ナトリウム三水和物の場合、溝中の無水物は酢酸ナトリウムに相当する。酢酸ナトリウム三水和物の融点は約58℃で、無水物である酢酸ナトリウムの融点は約320℃である。酢酸ナトリウム三水和物を加熱により溶融させても、溝3中に酢酸ナトリウムが溶融せずに残り、繰り返し発核機能が維持できる。
【0016】
図2(b)は、発核装置1の図2(a)でのA−A断面での溝3の拡大図である。発核装置1は、板状の金属である。板部材の長手方向端部を保持し、図2(b)の矢印Bの方向に力を加え、板部材を湾曲するように変形させて発核動作とする。板部材は、弾性のある金属、例えばSUSが適しているが、適度な弾性があれば、プラスチック、ゴムなど材質を問わない。形状は長方形や円など限定しない。板形状では、外力による繰り返し曲げや飛び移り座屈により発核動作させるが、円板形状では、特にスナップ変位の飛び移り座屈を利用する。
【0017】
円板形状の発核装置1cを図5に示す。発核装置1cは、円板状の金属であり、皿状の中央部5と、中央部5を取り囲むほぼ平坦な外側部7を有する。円板形状では、図6(a)、(b)に示すように、凸形状のくぼみ6aと凹形状のくぼみ6bの二種類の形状の間を変位する飛び移り座屈を利用する。飛び移り座屈は、ある釣り合った形状の間を往復するので、加える力の変動に対して中間の形状の変化が鈍感なため、安定した発核動作が実現できる。
二種類の形状に対して弾性変形以上の塑性変形を加えると、永久歪みが蓄積されて形状が維持できず、信頼性の高い発核動作を保証できないので、弾性変形内での繰り返し変形が望ましい。
【0018】
図3に示すように、発核装置の溝は板部材の両面に設けてもよい。発核装置1の片面のみに溝3がある場合、1回変位させた後に元の形状に戻して、次回の変位に備える必要がある。一方、発核装置1の両面に溝3があれば、1回変形させた後、元の形状に戻すことなくそのまま使用できる。
【0019】
また、発核装置1の片面だけではなく、両面に溝3を設けると、潜熱蓄熱材の結晶化を引き起こす確率、すなわち信頼性を高くできる。さらに、図4に示すように、溝3が発核装置1の両面に形成され、対向する溝3の間が亀裂によって貫通していると、さらに信頼性を高くできる。このような亀裂は、例えば、板部材に刃を押し当てて溝を形成する際に、同時に形成できる。
【0020】
(発核装置1の作用)
発核装置1は、潜熱蓄熱材15中に置かれる。潜熱蓄熱材15を凝固点以下に冷却すると、過冷却状態となる。その後、板部材を湾曲させて発核装置1を作動させると、板部材の変位の際の衝撃と、溝内の無水物への接触により、過冷却状態の潜熱蓄熱材15の結晶化が開始する。一度結晶化が引き起こされると、結晶化が連鎖的に進行し、潜熱蓄熱材15は全体が結晶化する。過冷却状態の潜熱蓄熱材15は、結晶化過程で潜熱を放出し発熱する。結晶化した蓄熱材15は融点以上の加熱により溶融し、液体に戻る。この際、無水物の融点は高いので、溝内の無水物は溶融しない。
【0021】
この後、再度冷却し、過冷却状態にした潜熱蓄熱材15に対して、発核装置1の板部材を変形させて発核装置1を作動させると、上記同様に発核が起き、発熱が見られる。
【0022】
(発核装置1の効果)
本発明の実施形態に係る発核装置1は、板部材の変形という簡便な動作で、種結晶である無水物と過冷却状態の潜熱蓄熱材15を接触させる機構なので、物理的衝撃のみの発核機構に比べて、確実に過冷却状態の潜熱蓄熱材15を結晶にできる。
【0023】
本発明の実施形態に係る発核装置1は、無水物を利用するので、蓄熱材の主成分の水和物より融点が高く、水和物の結晶が溶融する温度で無水物は溶融せず、繰り返し発核の種結晶として利用できる。また、無水物は、溝3の内部に保持されているので、液体の潜熱蓄熱材15への溶けこみを抑制できる。
【0024】
(発核装置1の製造方法)
板部材である発核装置1に溝3を形成する。溝3の形成方法は、板部材の材質に合わせて、適宜選択できる。例えば、板部材に刃を押し当てて溝を形成することができる。また、溝3の先端に亀裂を形成するためには、例えば、硬い受台の上に板部材を置き、刃を押し当てる際の刃の先端の力が十分に板部材に付加されるようにする。その後、水和物塩を溝3に擦り込むなどの方法で溝内に水和物塩を保持させた後、加熱により溝中の水和物塩を脱水して、無水物の結晶を溝3内に析出させる。
なお、無水物の溝内への配置工程では、無水物を板部材の溝内に擦り込んでもよい。
【0025】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0026】
[実施例1]
金属片を凸型と凹型に曲げる弾性変形を利用した発核装置を作製した。金属片は、SUS304製の長方形状の薄片であり、片面に溝を設けた。
蓄熱材は酢酸ナトリウム三水和物を主成分とし、金属片に設けた溝中には酢酸ナトリウムを保持した。
酢酸ナトリウムの溝への配置は、金属片を、酢酸ナトリウム三水和物を主成分とする蓄熱材の固液共存状態にまで加熱した液中に漬けて溝内に酢酸ナトリウム水和物を浸透させ、その後70℃以上への加熱により酢酸ナトリウム水和物を酢酸ナトリウムに脱水化して実現した。
その後、金属片を別に準備した蓄熱容器の中に入れ、金属片を発核装置として機能させるために、平板状の金属片を外力により溝が凹側になるように曲げて、曲げた状態を維持するように固定した。
発核動作においては、凹側の亀裂面が凸になる方向に変形させた後、完全に結晶化する前に、再度変形させ元の形状に戻して保持する。
金属片が発核装置として機能するように設置した後、液体まで加熱した蓄熱材とともに蓄熱容器の熱圧着により封入した。
−20℃まで冷却して1日以上保持し、過冷却状態の安定な維持を確認した。
その後、20℃での1回の発核動作で蓄熱材は結晶化し、発核装置の動作を確認した。
【0027】
[比較例1]
実施例1における、溝内に蓄熱材の水和物塩の無水物を配置する作業を行わずに、金属片を液体まで加熱した蓄熱材と一緒に、蓄熱容器の中に入れ蓄熱容器の熱圧着により封入した。その後、室温で金属片を変形させる発核動作を行ったが、蓄熱材は結晶化せず、過冷却状態を維持したままであった。
【0028】
[実施例2]
凸型の金属円板は、外力が加えられると撓み凹型に反転し、外力が取り除かれてもその形状を維持する。反対方向からの外力で、金属円板が撓み反転し、元の凸型の形状に戻る。以上のスナップ変位を行っても、形状が維持できる材質としてSUS304で金属円板を作製した。その後、金属円板の撓み反転可能な箇所の片面に溝を設けた。
蓄熱装置の容器の材質は硬質プラスチックとアルミ箔より構成するラミネートフィルムで、可撓性があり外部の応力により変形するので、金属円板が変形できる。
発核動作において、溝が凸になる方向に変形させた後、完全に結晶化する前に、再度変形させ元の形状に戻して保持する。
【0029】
蓄熱材は酢酸ナトリウム三水和物を主成分とし、金属円板に設けた溝中には酢酸ナトリウムを保持する。
酢酸ナトリウムの溝への配置は、金属円板を、酢酸ナトリウム三水和物を主成分とする蓄熱材の固液共存状態にまで加熱した液中に漬けて、金属円板の溝内に酢酸ナトリウム水和物を浸透させ、その後70℃以上への加熱により酢酸ナトリウム水和物を酢酸ナトリウムに脱水化して実現した。
その後、金属円板を別に準備した蓄熱容器の中に、液体まで加熱した蓄熱材とともに蓄熱容器の熱圧着により封入した。
−20℃まで冷却して1日以上保持し、過冷却状態の安定な維持を確認した。
その後、任意温度で金属円板を反転させる発核動作を行ったが、1回の動作で蓄熱材は結晶化し、発核装置の動作を確認した。
【0030】
[比較例2]
実施例1における、溝内に蓄熱材の水和物塩の無水物を配置する作業を行わずに、金属円板を液体まで加熱した蓄熱材と一緒に、蓄熱容器の中に入れ蓄熱容器の熱圧着により封入し、室温で金属円板を反転させる発核動作を行ったが、蓄熱材は結晶化せず、過冷却状態を維持したままであった。
【0031】
[実施例3]
実施例2の場合よりも高い衝撃力により、金属円板の両面に溝を形成し、溝の形成と同時に亀裂が金属円板を貫通する加工を行った。酢酸ナトリウムの溝への配置は、金属円板を半溶融状態の蓄熱材の中に入れて蓄熱材を溝内に擦り込んだ後、80℃まで加熱する脱水処理により行った。蓄熱パック内に金属板を入れる場合には、加工を加えて亀裂を開けた面を凹になるようにした。
【0032】
[比較例3]
実施例3と同様に、金属円板の両面に溝を形成し、溝と亀裂が金属円板を貫通する加工を行った後、蓄熱材の擦り込みを行わずに溝中に酢酸ナトリウムを配置していない発核装置を作製した。酢酸ナトリウム三水和物を用いた蓄熱パック内に発核装置を用いて蓄熱装置を作製した。
【0033】
[実施例4]
酢酸ナトリウム無水物の溝への配置を、酢酸ナトリウム三水和物の配置と加熱によらず、酢酸ナトリウム無水物の粉末を金属片の溝内に擦り込むことによって実現した以外は、実施例1と同様にして、発核装置を作製し、発核装置の動作を確認した。
【0034】
(信頼性の評価)
実施例1〜4、比較例3に係る蓄熱装置を10個作製し、発核装置の動作を確認した(熱サイクル前)。その後、各蓄熱装置を90℃まで加熱し蓄熱材を溶融後に、20℃まで冷却し、発核装置を作動させ、蓄熱材の結晶化が発生するかを確認した(1熱サイクル後)。また、加熱と冷却、発核装置作動を1サイクルとして、10回繰り返し、発核装置の動作信頼性を確認した。
動作信頼性は、一回の発核装置の作動で発核するかで評価したが、発核しなかった場合、5回まで発核装置を繰り返し動作させて、発核するか確認した。
なお、表中の発核成功数は、10個の蓄熱装置のうち、10個全てで1回の発核装置の作動で結晶化が確認されたことを意味し、()の中が一回の発核装置の作動で発核しなかった場合に5回までの発核動作で発核した個数である。
【0035】
【表1】
【0036】
以上のように、蓄熱材無水物の配置処理を行った実施例1〜4は、複数回の発核装置の作動で、すべて発核が確認できた。中でも溝を両面に形成し、溝が亀裂により連結している発核装置を用いる実施例3では、一回の作動で確実に蓄熱材を結晶化できた。
【0037】
一方で、蓄熱材無水物の配置処理を行わなかった比較例3では、結晶化が発生しない場合が多かった。
【符号の説明】
【0038】
1、1a〜c………発核装置
3………溝
5………中央部
6a、6b………くぼみ
7………外側部
9………亀裂
11………蓄熱装置
13………容器
15………潜熱蓄熱材
図1
図2
図3
図4
図5
図6