【実施例】
【0026】
[実施例1]
金属片を凸型と凹型に曲げる弾性変形を利用した発核装置を作製した。金属片は、SUS304製の長方形状の薄片であり、片面に溝を設けた。
蓄熱材は酢酸ナトリウム三水和物を主成分とし、金属片に設けた溝中には酢酸ナトリウムを保持した。
酢酸ナトリウムの溝への配置は、金属片を、酢酸ナトリウム三水和物を主成分とする蓄熱材の固液共存状態にまで加熱した液中に漬けて溝内に酢酸ナトリウム水和物を浸透させ、その後70℃以上への加熱により酢酸ナトリウム水和物を酢酸ナトリウムに脱水化して実現した。
その後、金属片を別に準備した蓄熱容器の中に入れ、金属片を発核装置として機能させるために、平板状の金属片を外力により溝が凹側になるように曲げて、曲げた状態を維持するように固定した。
発核動作においては、凹側の亀裂面が凸になる方向に変形させた後、完全に結晶化する前に、再度変形させ元の形状に戻して保持する。
金属片が発核装置として機能するように設置した後、液体まで加熱した蓄熱材とともに蓄熱容器の熱圧着により封入した。
−20℃まで冷却して1日以上保持し、過冷却状態の安定な維持を確認した。
その後、20℃での1回の発核動作で蓄熱材は結晶化し、発核装置の動作を確認した。
【0027】
[比較例1]
実施例1における、溝内に蓄熱材の水和物塩の無水物を配置する作業を行わずに、金属片を液体まで加熱した蓄熱材と一緒に、蓄熱容器の中に入れ蓄熱容器の熱圧着により封入した。その後、室温で金属片を変形させる発核動作を行ったが、蓄熱材は結晶化せず、過冷却状態を維持したままであった。
【0028】
[実施例2]
凸型の金属円板は、外力が加えられると撓み凹型に反転し、外力が取り除かれてもその形状を維持する。反対方向からの外力で、金属円板が撓み反転し、元の凸型の形状に戻る。以上のスナップ変位を行っても、形状が維持できる材質としてSUS304で金属円板を作製した。その後、金属円板の撓み反転可能な箇所の片面に溝を設けた。
蓄熱装置の容器の材質は硬質プラスチックとアルミ箔より構成するラミネートフィルムで、可撓性があり外部の応力により変形するので、金属円板が変形できる。
発核動作において、溝が凸になる方向に変形させた後、完全に結晶化する前に、再度変形させ元の形状に戻して保持する。
【0029】
蓄熱材は酢酸ナトリウム三水和物を主成分とし、金属円板に設けた溝中には酢酸ナトリウムを保持する。
酢酸ナトリウムの溝への配置は、金属円板を、酢酸ナトリウム三水和物を主成分とする蓄熱材の固液共存状態にまで加熱した液中に漬けて、金属円板の溝内に酢酸ナトリウム水和物を浸透させ、その後70℃以上への加熱により酢酸ナトリウム水和物を酢酸ナトリウムに脱水化して実現した。
その後、金属円板を別に準備した蓄熱容器の中に、液体まで加熱した蓄熱材とともに蓄熱容器の熱圧着により封入した。
−20℃まで冷却して1日以上保持し、過冷却状態の安定な維持を確認した。
その後、任意温度で金属円板を反転させる発核動作を行ったが、1回の動作で蓄熱材は結晶化し、発核装置の動作を確認した。
【0030】
[比較例2]
実施例1における、溝内に蓄熱材の水和物塩の無水物を配置する作業を行わずに、金属円板を液体まで加熱した蓄熱材と一緒に、蓄熱容器の中に入れ蓄熱容器の熱圧着により封入し、室温で金属円板を反転させる発核動作を行ったが、蓄熱材は結晶化せず、過冷却状態を維持したままであった。
【0031】
[実施例3]
実施例2の場合よりも高い衝撃力により、金属円板の両面に溝を形成し、溝の形成と同時に亀裂が金属円板を貫通する加工を行った。酢酸ナトリウムの溝への配置は、金属円板を半溶融状態の蓄熱材の中に入れて蓄熱材を溝内に擦り込んだ後、80℃まで加熱する脱水処理により行った。蓄熱パック内に金属板を入れる場合には、加工を加えて亀裂を開けた面を凹になるようにした。
【0032】
[比較例3]
実施例3と同様に、金属円板の両面に溝を形成し、溝と亀裂が金属円板を貫通する加工を行った後、蓄熱材の擦り込みを行わずに溝中に酢酸ナトリウムを配置していない発核装置を作製した。酢酸ナトリウム三水和物を用いた蓄熱パック内に発核装置を用いて蓄熱装置を作製した。
【0033】
[実施例4]
酢酸ナトリウム無水物の溝への配置を、酢酸ナトリウム三水和物の配置と加熱によらず、酢酸ナトリウム無水物の粉末を金属片の溝内に擦り込むことによって実現した以外は、実施例1と同様にして、発核装置を作製し、発核装置の動作を確認した。
【0034】
(信頼性の評価)
実施例1〜4、比較例3に係る蓄熱装置を10個作製し、発核装置の動作を確認した(熱サイクル前)。その後、各蓄熱装置を90℃まで加熱し蓄熱材を溶融後に、20℃まで冷却し、発核装置を作動させ、蓄熱材の結晶化が発生するかを確認した(1熱サイクル後)。また、加熱と冷却、発核装置作動を1サイクルとして、10回繰り返し、発核装置の動作信頼性を確認した。
動作信頼性は、一回の発核装置の作動で発核するかで評価したが、発核しなかった場合、5回まで発核装置を繰り返し動作させて、発核するか確認した。
なお、表中の発核成功数は、10個の蓄熱装置のうち、10個全てで1回の発核装置の作動で結晶化が確認されたことを意味し、()の中が一回の発核装置の作動で発核しなかった場合に5回までの発核動作で発核した個数である。
【0035】
【表1】
【0036】
以上のように、蓄熱材無水物の配置処理を行った実施例1〜4は、複数回の発核装置の作動で、すべて発核が確認できた。中でも溝を両面に形成し、溝が亀裂により連結している発核装置を用いる実施例3では、一回の作動で確実に蓄熱材を結晶化できた。
【0037】
一方で、蓄熱材無水物の配置処理を行わなかった比較例3では、結晶化が発生しない場合が多かった。