【実施例】
【0056】
以下に、本発明について行った試験結果および評価結果を示す。なお、本発明は、以下の試験に係る実施態様に限定されるものではない。
【0057】
第1の実施形態について説明する。第1の実施形態において、端子の金属基材として、古河電気工業製の銅合金板材FAS−680(厚さ0.25mm、H材)を用いた。FAS−680の合金組成は、ニッケル(Ni)を2.0〜2.8質量%、シリコン(Si)を0.45〜0.6質量%、亜鉛(Zn)を0.4〜0.55質量%、すず(Sn)を0.1〜0.25質量%、およびマグネシウム(Mg)を0.05〜0.2質量%含有し、残部が銅(Cu)および不可避不純物である。FAS−680のビッカース硬さは約200Hvである。なお、少なくとも、溶接部が形成される金属基材の部分には、めっき部としてすずめっきが施された金属部材を用いた。
【0058】
アルミニウム電線の芯線は、古河電気工業製のアルミ合金MSAl(線、線径0.43mm)を用いた。MSAlの合金組成は、鉄(Fe)を約0.2%、銅(Cu)を約0.2%、マグネシウム(Mg)を約0.1%、シリコン(Si)を約0.04%、残部がアルミニウム(Al)および不可避不純物である。MSAlを用い2.5sq、19本撚りの電線にした。
【0059】
C字形状に形成された圧着部の未溶接部をレーザ溶接で溶接することで、筒状圧着部を成形した。また、この溶接により、筒状圧着部の金属基材中に焼きなまし部も得た。また、各種条件を変化させることで、電線係止部の本数や、焼きなまし部の硬さを変化させた。なお、電線係止溝(セレーション)を設けたものについては、予めレーザ溶接前の筒状圧着部の内部をファイバレーザにて部分融解させることで溝を設けた。この場合は、筒状圧着部の長手方向の断面でみると、半円型の溝となりやすい(
図5、34bの形状)。
【0060】
なお、金属部材の未溶接部の端部同士を突き合わせ、その突き合せた部分を溶接するものを「突き合せ溶接」と呼ぶ。金属部材の未溶接部の端部同士を重ね合わせ、その重ね合わせた部分を溶接するものを「ラップ溶接」と呼ぶ。また、端子長手方向に対して斜めに金属部材の未溶接部を設け、これに沿って溶接したものを「斜め溶接」と呼ぶ。筒状圧着部の溶接はこれらのいずれの方法であってもよいし、これら以外の適当の方法であってもよい。
【0061】
実験条件は下記の通りである。
・使用レーザ光源:古河電気工業製 500W CWファイバレーザ ASF1J233(波長1084nmシングルモード発振レーザ光)
・ガルバノスキャナ(非テレセントリック)を用いた掃引照射
・レーザ光出力:300、400、500W
・掃引速度:90、135、180mm/sec.
・掃引距離:9mm
・全条件ジャストフォーカスでレーザ光照射(スポットサイズ:0.02mm)
【0062】
上述した条件で製造した端子の筒状圧着部について、銅合金板材FAS−680のビッカース硬さの70〜90%である焼なまし部が、筒状圧着部の長手方向に垂直な断面において、どの程度の面積率を占めているか確認した。面積率を算定するために筒状圧着部を長手方向に垂直に切断し、そのO字型断面について一定間隔で1周、ビッカース硬さを測定した。なお、測定は最低でも10点以上行う。本実施例では可能ならば20点以上を採取した。また、基材の厚みのおよそ中心位置で測定した。ビッカース硬さの測定はJIS Z 2244に準拠した。そして、「ビッカース硬さが金属基材の硬さの70〜90%となる点の数」を「測定した点の数」で割ることで面積率を求めた。
【0063】
得られたサンプルに対し、環境試験を施し、その後に
図4に示すような電線の終端接続構造体を作製し、圧着部のアルミニウム線の腐食量を光学顕微鏡等による断面観察により腐食性を評価した。その評価結果はアルミニウム線が腐食することなく残っている:◎印、アルミニウム線の外周に所々虫食い(斑点状の腐食や孔食)が見られる:○印、アルミニウム線が面積比で50%以上残っている:△印、アルミニウムが面積比で50%以上無くなっている:×印、で表した。
【0064】
加工性は、圧着後の割れ外観にて評価した。評価は、筒状圧着部の表面や断面をSEM(Scanning Electron Microscope)等の電子顕微鏡で確認し、シワなどが全く観察されないものを◎印で示し、シワは観察されるが割れは生じていないものを○、割れは生じているが表層で留まっているものを△で示し、基材を貫通する割れが生じているものを×印で示した。
【0065】
スプリングバックは、圧着直後の端子の筒状圧着部の電線挿入口から10cm離れた電線の芯線の抵抗値と、室内環境で一週間放置した後の同位置での抵抗値を比べることで評価した。スプリングバックが起こると、電線と金属部材の接続部の接圧が低下することから、電線の抵抗値が上昇することが知られている。従って、スプリングバックの評価として、電線の抵抗値の増加量を評価した。抵抗値は、Hioki 3560 AC Milliohm HiTesterを用いて測定した。
【0066】
環境試験は以下の手順で実施した。サンプルの端子をキャビティに挿入し、電線側が天井、端子側が地面向きになるようにして、キャビティが中空に浮くように各試験装置にセットする。なお、(1)から(2)の間は洗浄せずに間を置くことなく実施する。
(1)塩水噴霧試験:5質量%塩水、35℃、96時間放置
(2)湿熱放置試験:温度が80℃、湿度(RH)が95%の環境下に96時間放置
(3)水洗い(イオン交換水)
(4)乾燥
【0067】
上記各種試験結果および評価結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態において、端子の基材として、一般の黄銅材C2600(条、厚さ0.25mm、H材)を用いた。C2600の化学組成は、Cu:68.5〜71.5質量%、Pb:0.05質量%以下、Fe:0.05質量%以下、残部がZn、および不可避不純物である。H材におけるビッカース硬さは約150Hvである。なお、少なくとも、溶接部が形成される金属基材の部分には、めっき部としてすずめっきが施された金属部材を用いた。その他は第1の実施形態と同様の形状の端子を構成し、第1の実施形態と同様の評価を行い、その評価結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
さらに、第3の実施形態について説明する。第1の実施形態において、端子の基材として、古河電気工業製のアルミ合金MSAl(条、厚さ0.25mm)を用いた。MSAlの合金組成は、鉄(Fe)を約0.2%、銅(Cu)を約0.2%、マグネシウム(Mg)を約0.1%、シリコン(Si)を約0.04%、残部がアルミニウム(Al)および不可避不純物である。なお、少なくとも、溶接部が形成される金属基材の部分には、めっき部としてすずめっきが施された金属部材を用いた。その他は第1の実施形態と同様の形状の端子を構成し、第1の実施形態と同様の評価を行い、その評価結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
表1から明らかなように、銅合金基材の硬さ(ビッカース硬さ)の72〜84%の硬さとなる焼きなまし部が筒状圧着部の面積率の10〜60%を有する場合には、加工性評価である圧着後のヒビ割れは、◎印、○印および△印の評価を得た。またラップ溶接、斜め溶接であっても、加工性評価である圧着後のヒビ割れは、○印であり、良好な結果が得られた。さらに耐腐食性評価として環境試験後の腐食量は、突き合わせ溶接の場合には、アルミニウム芯線が腐食することなく残っている(◎印)か、またはアルミニウム芯線の外周に所々虫食い(斑点状の腐食や孔食)が見られる(○印)程度であり、良好な腐食性能を有していた。またラップ溶接、斜め溶接であっても、アルミニウム芯線の外周に所々虫食いが見られる(○印)程度またはアルミニウム芯線が面積比で50%以上残っていた(△印)。
【0074】
また、表2から明らかなように、銅合金基材の硬さ(ビッカース硬さ)の82〜90%の硬さである焼きなまし部が筒状圧着部の面積率の5〜50%を有する場合には、加工性評価である圧着後のヒビ割れは、◎印、○印および△印の評価を得た。またラップ溶接、斜め溶接であっても、加工性評価である圧着後のヒビ割れは○印であり、良好な結果が得られた。さらに耐腐食性評価として環境試験後の腐食量は、突き合わせ溶接の場合には、アルミニウム芯線が腐食することなく残っている(◎印)か、またはアルミニウム芯線の外周に所々虫食いが見られる(○印)程度であり、良好な腐食性能を有していた。またラップ溶接、斜め溶接であっても、アルミニウム芯線の外周に所々虫食いが見られる(○印)程度またはアルミニウム芯線が面積比で50%以上残っていた(△印)。
【0075】
一方、筒状圧着部に焼きなまし部がない比較例では、圧着後のヒビ割れは○印評価を得たが、環境試験後の腐食量は、アルミニウムが面積比で50%以上無くなっている(×印)という評価であった。
【0076】
さらに、表3から明らかなように、アルミニウム合金基材の硬さ(ビッカース硬さ)の70〜87%の硬さである焼きなまし部が筒状圧着部の面積率の5〜40%を有する場合には、加工性評価である圧着後のヒビ割れは、◎印、○印および△印の評価を得た。またラップ溶接、斜め溶接であっても、加工性評価である圧着後のヒビ割れは◎印であり、良好な結果が得られた。さらに耐腐食性評価として環境試験後の腐食量は、突き合わせ溶接の場合には、アルミニウム芯線が腐食することなく残っている(◎印)か、またはアルミニウム芯線の外周に所々虫食いが見られる(○印)程度であり、良好な腐食性能を有していた。またラップ溶接、斜め溶接であっても、アルミニウム芯線の外周に所々虫食いが見られる(○印)程度またはアルミニウム芯線が面積比で50%以上残っていた(△印)。
【0077】
このように、筒状圧着部に金属基材の硬さよりも軟らかい焼なまし部を有することを特徴とする端子であれば、圧着後のヒビ割れを低減し、環境試験後の腐食量を抑制してスプリングバックを防止できることが明らかとなった。また、筒状圧着部の長手方向に垂直な断面視において、端子を構成する基材の硬さの70〜90%の硬さとなる焼きなまし部が、筒状圧着部の5〜60%の面積率を有することが、圧着後のヒビ割れを低減し、環境試験後の腐食量を抑制してスプリングバックを防止できることが明らかとなった。
【0078】
次に、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態においては、端子1の基材として、古河電気工業製の銅合金FAS−680(厚さ0.25mm、)を用いた。FAS−680の合金組成は、ニッケル(Ni)を2.0〜2.8質量%、シリコン(Si)を0.45〜0.6質量%、亜鉛(Zn)を0.4〜0.55質量%、すず(Sn)を0.1〜0.25質量%、およびマグネシウム(Mg)を0.05〜0.2質量%含有し、残部が銅(Cu)および不可避不純物である。なお、少なくとも、溶接部が形成される金属基材の部分には、めっき部としてすずめっきが施された金属部材を用いた。
【0079】
アルミニウム電線の芯線は、線径0.43mmのものを用いた。芯線の合金組成は、鉄(Fe)を約0.2%、銅(Cu)を約0.2%、マグネシウム(Mg)を約0.1%、シリコン(Si)を約0.04%、残部がアルミニウム(Al)および不可避不純物である。この芯線を2.5sq(mm
2)で、19本撚りの電線とした。
【0080】
端子1の筒状圧着部30の形成は、前述のように、圧着部をレーザ溶接することにより行った。このようにして形成された筒状圧着部30について、筒状圧着部30の長手方向に垂直な断面でみた場合、溶接部70が、非溶接部100(通常部90及び焼きなまし部80、およびこれらの金属基材の表面に任意に設けられためっき部)に対してどの程度の面積率を有しているか確認した。上述のとおり、面積率の算定のため、筒状圧着部を長手方向に垂直に切断し、その断面をSEM(Scanning Electron Microscope)で観察し、溶接部70及び非溶接部100(通常部90及び焼きなまし部80、およびこれらの金属基材の表面に任意に設けられためっき部)を特定した。なお、面積率の測定値として、それぞれ同一条件で作られたサンプルについて10回測定し、これらの平均値について小数点一桁まで四捨五入したものを用いた。また、このようにして得られた数値について、測定上±0.2%を誤差の範囲とし、0.5%単位で表示した。例えば、面積率の測定値が、2.8〜3.2の範囲となる場合には、3.0として評価した。
【0081】
加工性の評価は、圧着後の割れ外観にて行った。その評価は、具体的には、筒状圧着部の表面や断面をSEM(Scanning Electron Microscope)等の電子顕微鏡で確認し、シワなどが観察されないものを◎印、シワは観察されるが割れは生じていないものを○、割れは生じているが表層で留まっているものを△、基材を貫通する割れが生じているものを×印で分類することにより実施した。
【0082】
実験条件は下記の通りである。
・使用レーザ光源:古河電気工業製 500W CWファイバレーザ ASF1J233(波長1084nmシングルモード発振レーザ光)
・レーザ光出力:300、400、500W
・掃引速度:90、135、180mm/sec.
・掃引距離:9mm
・全条件ジャストフォーカスでレーザ光照射(スポットサイズ:0.02mm)
【0083】
上記各種試験結果および評価結果を表4に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
表4から明らかなように、筒状圧着部をその長手方向に垂直な断面で観察すると、溶接部70の、非溶接部100に対する面積率が、2〜5%の場合には、加工性評価に用いた圧着後のヒビ割れは、◎印、○印および△印の評価となった。なお、前述のとおり、加工性評価は、圧着後のヒビ割れを断面観察し、シワなどが観察されないものを◎印で示し、シワは観察されるが割れは生じていないものを○、割れは生じているが表層で留まっているものを△で示し、基材を貫通する割れが生じているものを×印でそれぞれ分類して行った。
【0086】
表4をみると、最も高い◎印の評価を受けたのは、レーザ出力400(W)で、掃印速度135(mm/sec)の場合であった。また、次に高い○印の評価を受けたのは、レーザ出力300(W)で、掃印速度135(mm/sec)の場合、レーザ出力400(W)で、掃印速度90、180(mm/sec)の場合及びレーザ出力500(W)で、掃印速度135(mm/sec)の場合であった。△印の評価を受けたのは、レーザ出力300(W)で、掃印速度90、180(mm/sec)の場合及びレーザ出力500(W)で、掃印速度90、180(mm/sec)の場合であった。
【0087】
これらを筒状圧着部30の長手方向に垂直な断面でみた溶接部70の、非溶接部100に対する面積率との関係でみると、下記のようになった。最も高い◎印の評価を受けた、レーザ出力400(W)で、掃印速度135(mm/sec)の場合において、当該面積率は、ほぼ3となった。また、次に高い○印の評価を受けた、レーザ出力300(W)で、掃印速度135(mm/sec)の場合、レーザ出力400(W)で、掃印速度90、180(mm/sec)の場合及びレーザ出力500(W)で、掃印速度135(mm/sec)の場合においては、当該面積率は2.5又は3.5となった。さらに、△印の評価を受けた、レーザ出力300(W)で、掃印速度90、180(mm/sec)の場合及びレーザ出力500(W)で、掃印速度90、180(mm/sec)の場合においては、当該面積率は3.0、2.0又は5.0となった。
【0088】
上記試験結果から、筒状圧着部30の長手方向に垂直な断面でみた場合、溶接部70の領域が、非溶接部100(通常部90及び焼きなまし部80、およびこれらの金属基材の表面に任意に設けられためっき部)の領域の2〜5%の面積率を有するようにレーザ溶接した場合、割れは生じているが表層に留まっているという評価以上のものとなり、筒状圧着部30の圧着時の加工割れ(基材を貫通する割れ)を防止できるということが分かった。
【0089】
以上のとおり、レーザ溶接による筒状圧着部30の形成の際、非溶接部100(通常部90及び焼きなまし部80、およびこれらの金属基材の表面に任意に設けられためっき部)に対する溶接部70の面積率を上述のようにすることで、本発明による筒状圧着部30は、その圧着時に加工割れを防止することが可能となることが分かった。本発明は、なまされているために曲げやすいが、強度が低い溶接部と、溶接部に比して曲げにくいが強度が高い溶接部のそれぞれの性質を考慮し、「加工性」と「強度」という相反する要求に対して、溶接部と非溶接部の面積率に好適な割合を見出したことを特徴とするものである。なお、前述のとおり、第4の実施形態は、第1の実施形態に加えて、又は、第1の実施形態とは別個に実施可能である。
【0090】
次に、第5の実施形態について説明する。第5の実施形態においては、端子1の基材として、古河電気工業製のアルミ合金MSAl(条、厚さ0.25mm)を用いた。MSAlの合金組成は、鉄(Fe)を約0.2%、銅(Cu)を約0.2%、マグネシウム(Mg)を約0.1%、シリコン(Si)を約0.04%、残部がアルミニウム(Al)および不可避不純物である。なお、少なくとも、溶接部が形成される金属基材の部分には、めっき部としてすずめっきが施された金属部材を用いた。
【0091】
アルミニウム電線の芯線、端子1の筒状圧着部30の形成は、前述の銅合金の場合と同様である。また、筒状圧着部30の長手方向に垂直な断面でみた場合、溶接部70が、非溶接部100(通常部90及び焼きなまし部80、およびこれらの金属基材の表面に任意に設けられためっき部)に対してどの程度の面積率を有しているかを、上述の銅合金の場合と同様に特定した。
【0092】
前述と同様、加工性の評価は、圧着後の割れ外観にて行った。その評価は、具体的には、筒状圧着部の表面や断面をSEM(Scanning Electron Microscope)等の電子顕微鏡で確認し、シワなどが観察されないものを◎印、シワは観察されるが割れは生じていないものを○、割れは生じているが表層で留まっているものを△、基材を貫通する割れが生じているものを×印で分類することにより実施した。
【0093】
実験条件は下記の通りである。
・使用レーザ光源:古河電気工業製 500W CWファイバレーザ ASF1J233(波長1084nmシングルモード発振レーザ光)
・レーザ光出力:200、300、400W
・掃引速度:100、150、200mm/sec.
・掃引距離:9mm
・全条件ジャストフォーカスでレーザ光照射(スポットサイズ:0.02mm)
【0094】
上記各種試験結果および評価結果を表5に示す。
【0095】
【表5】
【0096】
表5から明らかなように、筒状圧着部をその長手方向に垂直な断面で観察すると、溶接部70の、非溶接部100に対する面積率が、2〜5%の場合には、加工性評価に用いた圧着後のヒビ割れは、◎印、○印および△印の評価となった。なお、前述のとおり、加工性評価は、圧着後のヒビ割れを断面観察し、シワなどが観察されないものを◎印で示し、シワは観察されるが割れは生じていないものを○、割れは生じているが表層で留まっているものを△で示し、基材を貫通する割れが生じているものを×印でそれぞれ分類して行った。
【0097】
表5をみると、最も高い◎印の評価を受けたのは、レーザ出力300(W)で、掃印速度150(mm/sec)の場合であった。また、次に高い○印の評価を受けたのは、レーザ出力200(W)で、掃印速度150(mm/sec)の場合、レーザ出力300(W)で、掃印速度100、200(mm/sec)の場合及びレーザ出力400(W)で、掃印速度150(mm/sec)の場合であった。△印の評価を受けたのは、レーザ出力200(W)で、掃印速度100、200(mm/sec)の場合及びレーザ出力400(W)で、掃印速度100、200(mm/sec)の場合であった。
【0098】
これらを筒状圧着部30の長手方向に垂直な断面でみた溶接部70の、非溶接部100に対する面積率との関係でみると、下記のようになった。最も高い◎印の評価を受けた、レーザ出力300(W)で、掃印速度150(mm/sec)の場合において、当該面積率は、ほぼ3となった。また、次に高い○印の評価を受けた、レーザ出力200(W)で、掃印速度150(mm/sec)の場合、レーザ出力300(W)で、掃印速度100、200(mm/sec)の場合及びレーザ出力400(W)で、掃印速度150(mm/sec)の場合においては、当該面積率は2.5又は3.5となった。さらに、△印の評価を受けた、レーザ出力200(W)で、掃印速度100、200(mm/sec)の場合及びレーザ出力400(W)で、掃印速度100、200(mm/sec)の場合においては、当該面積率は3.0、2.0又は5.0となった。
【0099】
上記試験結果から、銅合金の場合と同様に、筒状圧着部30の長手方向に垂直な断面でみた場合、溶接部70の領域が、非溶接部100(通常部90及び焼きなまし部80、およびこれらの金属基材の表面に任意に設けられためっき部)の領域の2〜5%の面積率を有するようにレーザ溶接した場合、割れは生じているが表層に留まっているという評価以上のものとなり、筒状圧着部30の圧着時の加工割れ(基材を貫通する割れ)を防止できるということが分かった。
【0100】
さらに、第6の実施形態について説明する。第6の実施形態において、端子1の金属基材として、古河電気工業製の銅合金FAS−680(厚さ0.25mm)を用いた。FAS−820の合金組成は、ニッケル(Ni)を約2.3質量%、シリコン(Si)を約0.65質量%、亜鉛(Zn)を約0.5質量%、すず(Sn)を約0.15質量%、クロム(Cr)を約0.15質量%、およびマグネシウム(Mg)を約0.1質量%含有し、残部が銅(Cu)および不可避不純物である。なお、少なくとも、溶接部が形成される金属基材の部分には、めっき部としてすずめっきが施された金属部材を用いた。
【0101】
アルミニウム電線の芯線は、線径0.3mmのものを用いた。芯線の合金組成は、鉄(Fe)を約0.2%、銅(Cu)を約0.2%、マグネシウム(Mg)を約0.1%、シリコン(Si)を約0.04%、残部がアルミニウム(Al)および不可避不純物である。この芯線を0.75sq(mm
2)の、11本円形圧縮撚りの電線とした。
【0102】
端子1の筒状圧着部30の形成は、前述のように、圧着部をレーザ溶接することにより行った。このようにして形成された筒状圧着部30について、筒状圧着部30の所定の長手方向に垂直な断面において、溶接部70、通常部90の硬さをそれぞれ測定し、その後溶接部70の硬さに対する通常部90の硬さの比を確認した。硬さの測定は、ビッカース試験によってビッカース硬さ(Hv)を測定した。なお、溶接部のビッカース硬さ(Hv)の測定は、筒状圧着部30の所定の長手方向に垂直な断面における該溶接部の中心位置で行い、当該通常部のビッカース硬さ(Hv)の測定は、筒状圧着部30の所定の長手方向に垂直な断面において、当該通常部の、当該溶接部の中心位置から周方向に約180°のの位置で行った(
図4参照)。また、ビッカース硬さ(Hv)の測定値として、それぞれ同一条件で作られたサンプルについて10回測定し、これらの平均値について一桁まで四捨五入したものを用いた。
【0103】
加工性の評価は、圧着後の割れ外観にて行った。その評価は、具体的には、筒状圧着部の表面や断面をSEM(Scanning Electron Microscope)等の電子顕微鏡で確認し、シワなどが観察されないものを◎印、シワは観察されるが割れは生じていないものを○、割れは生じているが表層で留まっているものを△、基材を貫通する割れが生じているものを×印で分類することにより実施した。
【0104】
実験条件は下記の通りである。
・使用レーザ光源:古河電気工業製 500W CWファイバレーザ ASF1J233(波長1084nmシングルモード発振レーザ光)
・レーザ光出力:300、400、500W
・掃引速度:90、135、180mm/sec.
・掃引距離:9mm
・全条件ジャストフォーカスでレーザ光照射(スポットサイズ:0.02mm)
【0105】
上記各種試験結果および評価結果を表6に示す。
【0106】
【表6】
【0107】
表6は、種々のレーザ溶接の条件において、通常部90(端子基材)と溶接部70のビッカース硬さ(Hv)を測定すると共に、圧着後のヒビ割れを確認した結果を示している。なお、ビッカース硬さ(Hv)の測定は、JIS Z 2244に準拠した。溶接部70と通常部90のビッカース硬さ(Hv)が、それぞれ106(Hv)、210(Hv)の場合及び77(Hv)、217(Hv)の場合、基材を貫通する割れが生じる結果となり、それ以外の場合においては、圧着後のヒビ割れは、◎印、○印又は△印の評価となった。なお、前述のとおり、加工性評価は、圧着後のヒビ割れを断面観察し、シワなどが観察されないものを◎印で示し、シワは観察されるが割れは生じていないものを○、割れは生じているが表層で留まっているものを△で示し、基材を貫通する割れが生じているものを×印でそれぞれ分類して行った。
【0108】
表6をみると、最も高い◎印の評価となったのは、レーザ出力400(W)で、掃印速度135(mm/sec)の場合であった。また、次に高い○印の評価を受けたのは、レーザ出力300(W)で、掃印速度135(mm/sec)の場合、レーザ出力400(W)で、掃印速度90、180(mm/sec)の場合及びレーザ出力500(W)で、掃印速度135(mm/sec)の場合であった。△印の評価を受けたのは、レーザ出力300(W)で、掃印速度90、180(mm/sec)の場合及びレーザ出力500(W)で、掃印速度90、180(mm/sec)の場合であった。
【0109】
これらを、筒状圧着部30の所定の長手方向に垂直な断面において、溶接部70のビッカース硬さ(Hv)に対する通常部90のビッカース硬さ(Hv)の比との関係でみると、下記のようになった。最も高い◎印の評価を受けた、レーザ出力400(W)で、掃印速度135(mm/sec)の場合において、当該ビッカース硬さ(Hv)の比は、2.36となった。また、次に高い○印の評価を受けた、レーザ出力300(W)で、掃印速度135(mm/sec)の場合、レーザ出力400(W)で、掃印速度90、180(mm/sec)の場合及びレーザ出力500(W)で、掃印速度135(mm/sec)の場合においては、当該ビッカース硬さ(Hv)比は、2.29、2.42、2.20又は2.50となった。さらに、△印の評価を受けた、レーザ出力300(W)で、掃印速度90、180(mm/sec)の場合及びレーザ出力500(W)で、掃印速度90、180(mm/sec)の場合においては、当該ビッカース硬さ(Hv)の比は、2.28、2.11、2.68又は2.34となった。
【0110】
これらの試験結果から、溶接部70の領域の硬さに対する通常部90の領域の硬さの比が、2.1〜2.7となるようにレーザ溶接した場合、割れは生じているが表層に留まっているという評価以上のものとなり、筒状圧着部30の圧着時の加工割れ(基材を貫通する割れ)を防止できるということが分かった。また、溶接部70の領域の硬さに対する通常部90の領域の硬さの比が、2.2〜2.5となるようにレーザ溶接した場合、シワや割れなどが観察されないか、シワは観察されるが割れ自体が生じていないという評価となり、筒状圧着部30の圧着時の加工割れ(基材を貫通する割れ)だけでなく、筒状圧着部30の圧着時の表層の割れをも防止できるということが分かった。さらには、溶接部70の領域の硬さに対する通常部90の領域の硬さの比が、2.3〜2.4となるようにレーザ溶接した場合、筒状圧着部30の圧着時の割れ自体が観察されず、また、シワなども観察されないという良好な結果が得られた。
【0111】
以上のとおり、レーザ溶接による筒状圧着部30の形成の際、溶接部70の硬さに対する非溶接部100の通常部90の硬さの比が上述となるように溶接を行うことで、本発明による筒状圧着部30を有する端子1は、その圧着時に加工割れを防止することが可能となることが分かった。なお、前述のとおり、第6の実施形態は、第1の実施形態に加えて、又は、第1の実施形態とは別個に実施可能である。
【0112】
次に、第7の実施形態について説明する。第7の実施形態においては、端子1の金属基材として、古河電気工業製のアルミ合金MSAl(条、厚さ0.25mm)を用いた。MSAlの合金組成は、鉄(Fe)を約0.2%、銅(Cu)を約0.2%、マグネシウム(Mg)を約0.1%、シリコン(Si)を約0.04%、残部がアルミニウム(Al)および不可避不純物である。なお、少なくとも、溶接部が形成される金属基材の部分には、めっき部としてすずめっきが施された金属部材を用いた。
【0113】
アルミニウム電線の芯線、端子1の筒状圧着部30の形成は、前述の銅合金の場合と同様である。また、筒状圧着部30の長手方向に垂直な断面でみた場合、溶接部70が、非溶接部100(通常部90及び焼きなまし部80、およびこれらの金属基材の表面に任意に設けられためっき部)に対してどの程度の面積率を有しているかを、上述の銅合金の場合と同様に特定した。
【0114】
前述と同様、加工性の評価は、圧着後の割れ外観にて行った。その評価は、具体的には、筒状圧着部の表面や断面をSEM(Scanning Electron Microscope)等の電子顕微鏡で確認し、シワなどが観察されないものを◎印、シワは観察されるが割れは生じていないものを○、割れは生じているが表層で留まっているものを△、基材を貫通する割れが生じているものを×印で分類することにより実施した。
【0115】
実験条件は下記の通りである。
・使用レーザ光源:古河電気工業製 500W CWファイバレーザ ASF1J233(波長1084nmシングルモード発振レーザ光)
・レーザ光出力:200、300、400W
・掃引速度:100、150、200mm/sec.
・掃引距離:9mm
・全条件ジャストフォーカスでレーザ光照射(スポットサイズ:0.02mm)
【0116】
上記各種試験結果および評価結果を表7に示す。
【0117】
【表7】
【0118】
表7は、種々のレーザ溶接の条件において、通常部90(端子基材)と溶接部70のビッカース硬さ(Hv)を測定すると共に、圧着後のヒビ割れを確認した結果を示している。なお、ビッカース硬さ(Hv)の測定は、JIS Z 2244に準拠した。溶接部70と通常部90のビッカース硬さ(Hv)が、それぞれ43(Hv)、83(Hv)の場合及び28(Hv)、81(Hv)の場合、基材を貫通する割れが生じる結果となり、それ以外の場合においては、圧着後のヒビ割れは、◎印、○印又は△印の評価となった。なお、前述のとおり、加工性評価は、圧着後のヒビ割れを断面観察し、シワなどが観察されないものを◎印で示し、シワは観察されるが割れは生じていないものを○、割れは生じているが表層で留まっているものを△で示し、基材を貫通する割れが生じているものを×印でそれぞれ分類して行った。
【0119】
表7をみると、最も高い◎印の評価となったのは、レーザ出力300(W)で、掃印速度150(mm/sec)の場合であった。また、次に高い○印の評価を受けたのは、レーザ出力200(W)で、掃印速度150(mm/sec)の場合、レーザ出力300(W)で、掃印速度100、200(mm/sec)の場合及びレーザ出力400(W)で、掃印速度150(mm/sec)の場合であった。△印の評価を受けたのは、レーザ出力200(W)で、掃印速度100、200(mm/sec)の場合及びレーザ出力400(W)で、掃印速度100、200(mm/sec)の場合であった。
【0120】
これらを、筒状圧着部30の所定の長手方向に垂直な断面において、溶接部70のビッカース硬さ(Hv)に対する通常部90のビッカース硬さ(Hv)の比との関係でみると、下記のようになった。最も高い◎印の評価を受けた、レーザ出力300(W)で、掃印速度150(mm/sec)の場合において、当該ビッカース硬さ(Hv)の比は、2.32となった。また、次に高い○印の評価を受けた、レーザ出力200(W)で、掃印速度150(mm/sec)の場合、レーザ出力300(W)で、掃印速度100、200(mm/sec)の場合及びレーザ出力400(W)で、掃印速度150(mm/sec)の場合においては、当該ビッカース硬さ(Hv)比は、2.24、2.45、2.20又は2.50となった。さらに、△印の評価を受けた、レーザ出力200(W)で、掃印速度100、200(mm/sec)の場合及びレーザ出力400(W)で、掃印速度100、200(mm/sec)の場合においては、当該ビッカース硬さ(Hv)の比は、2.28、2.13、2.67又は2.32となった。
【0121】
これらの試験結果から、銅合金の場合と同様に、溶接部70の領域の硬さに対する通常部90の領域の硬さの比が、2.1〜2.7となるようにレーザ溶接した場合、割れは生じているが表層に留まっているという評価以上のものとなり、筒状圧着部30の圧着時の加工割れ(基材を貫通する割れ)を防止できるということが分かった。また、溶接部70の領域の硬さに対する通常部90の領域の硬さの比が、2.2〜2.5となるようにレーザ溶接した場合、シワや割れなどが観察されないか、シワは観察されるが割れ自体が生じていないという評価となり、筒状圧着部30の圧着時の加工割れ(基材を貫通する割れ)だけでなく、筒状圧着部30の圧着時の表層の割れをも防止できるということが分かった。さらには、溶接部70の領域の硬さに対する通常部90の領域の硬さの比が、2.3〜2.4となるようにレーザ溶接した場合、筒状圧着部30の圧着時の割れ自体が観察されず、また、シワなども観察されないという良好な結果が得られた。
【0122】
以上のとおり、レーザ溶接による筒状圧着部30の形成の際、溶接部70の硬さに対する非溶接部100の通常部90の硬さの比が上述となるように溶接を行うことで、本発明による筒状圧着部30を有する端子1は、その圧着時に加工割れを防止することが可能となることが分かった。なお、第7の実施形態は、第3の実施形態に加えて、又は、第3の実施形態とは別個に実施可能である。