(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)について詳細に説明する。
【0016】
(金属部材)
本発明の端子は金属部材からなる。ただし、端子のコネクタ部と管状圧着部を別々に形成した後にトランジション部において両者を接合しても良いので、本発明では、少なくとも管状圧着部が金属部材で形成されていることを必須事項とする。本発明における金属部材は、基材とこの基材上に任意で設けられる下地層と、基材あるいは下地層上に設けられる被覆層とを有するものである。
【0017】
(基材)
基材は、銅(タフピッチ銅や無酸素銅など)または銅合金であり、好ましくは銅合金である。端子に用いられる銅合金の例としては、例えば、黄銅(例えば、CDA(Copper Development Association)のC2600、C2680)、りん青銅(例えば、CDAのC5210)、コルソン系銅合金(Cu−Ni−Si−(Sn,Zn,Mg,Cr)系銅合金)等が挙げられる。この内、強度と導電率、コストなどの総合的な観点からコルソン系銅合金が好ましい。コルソン系銅合金の例としては、これらに限定されるものではないが、例えば、古河電気工業株式会社製の銅合金FAS−680やFAS−820(いずれも商品名)、三菱伸銅製の銅合金MAX−375、MAX251(いずれも商品名)などを用いることができる。また、CDAのC7025等を用いることもできる。
【0018】
また、他の銅合金組成の例としては、例えば、Cu−Sn−Cr系銅合金、Cu−Sn−Zn−Cr系銅合金、Cu−Sn−P系銅合金、Cu−Sn−P−Ni系銅合金、Cu−Fe−Sn−P系銅合金、Cu−Mg−P系銅合金、Cu−Fe−Zn−P系銅合金などを挙げることができる。ここで、以上に記載した必須元素以外に不可避不純物を含んでいても良いことは当然である。
【0019】
基材は、一定の強度が必要である一方、打ち抜きやプレス加工性も必要である。従って、基材の厚さは、0.20〜1.40mmである。小型部品用としては薄い方が望ましく、0.20〜0.70mmがより好ましい。
【0020】
(下地層)
下地層は、基材の表面上の一部または全部に、任意で設けられる層である。つまり、基材と後述する被覆層との間に任意で設けられるものである。主として、基材と被覆層の密着性向上と、両者の成分の拡散防止にのために設ける。下地層の厚さは0.8μm以下である。下地層の厚さが0.8μmを超えると上記の効果が飽和する上、加工時の加工性が悪くなりやすい。下地層の厚さは0.2μm以上であると、拡散防止の観点からも好ましい。下地層は、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金のいずれかの金属からなる。ここでニッケル合金とは、ニッケルを主成分(質量比で50%以上)とする合金を指す。コバルト合金とは、コバルトを主成分(質量比で50%以上)とする合金を指す。
【0021】
(被覆層)
被覆層は、下地層上および/または基材上に設けられる層である。被覆層が下地層および基材上に設けられる場合とは、例えば下地層が基材上の一部にしか設けられていないが、被覆層が下地層と基材とを被覆している場合が挙げられる。被覆層も、下地層上および/または基材上の一部または全部に設けられていればよい。被覆層は、スズまたはスズ合金からなる。スズ合金とは、スズを主成分(質量比で50%以上)となるものを指す。なお、本発明の被覆層は、ニッケル、ニッケル合金、銀または銀合金からなっても良い。
【0022】
被覆層の厚さは0.2〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmがより好ましい。被覆層の厚さは蛍光X線膜厚計によって測定される。被覆層の厚さを所定の範囲内とすることによって、被覆層を構成する金属成分が溶接部へ溶け込む量を調整することができる。すなわち、適正な溶接部とすることができる。また、後述する管状圧着部における被覆層の厚さの平均値をd1(μm)、基材の厚さの平均値をd2(μm)としたとき、d1/d2は0.001〜0.005であることが好ましい。両者の比を所定の範囲内とすることによって、被覆層の成分が溶接部へ溶け込む量を調整することができる。すなわち、溶接部内における被服層の成分からなる相(スズ、スズ合金、ニッケル、ニッケル合金、銀または銀合金の相)が適切に形成されることで、溶接部の割れの防止と溶接性の向上に寄与する。
【0023】
なお、被覆層の表面の算術平均粗さRaは0.5μm以上が好ましく、0.6〜1.2μmであることがより好ましい。表面の算術平均粗さRaを調整すると、レーザ溶接時にレーザ光の吸収性が優れる。これにより、レーザ溶接性が向上し、良好な溶接を行いやすくなる。結果、溶接後にブローホールの発生を抑制しかつHAZ(熱影響部)の幅を小さくすることができる。
【0024】
この被覆層の形成方法としては、特に制限はなく、例えば、スズやニッケル、銀の電気めっき処理の他、無電解めっき法、溶融めっき法、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、化学的気相成長法、等の種々の皮膜形成技術を用いることができる。この内、操作性やコストなどの観点から、めっき処理を施して被覆層を設けることが好ましい。
【0025】
基材に被覆層を設けると、スズやニッケル、銀などの白色系金属はレーザ光の波長領域に対するレーザ光吸収率が銅または銅合金に比べて高い(レーザ光反射率が低い)ため、レーザ溶接性が向上する。その作用としては、スズを例にして次のように考えられる。まず被覆層を構成するスズがレーザ光のエネルギーによって溶融する。ついで、溶融したスズから熱エネルギーが伝播してその直下の下地層を構成する金属および基材を構成する銅または銅合金が溶融する。レーザ光照射後には前記溶融した銅等がスズとともに凝固し、接合が完了する。被覆層を構成するスズは、レーザ照射によるレーザ溶接後には溶融され、溶接部(後述の
図1などの符号50)において基材を構成する銅または銅合金の中に取り込まれている。これは、溶接前に被覆層として存在していたスズが、溶接により、凝固組織内に取り込まれ、基材の銅母相内に固溶した状態であるか、および/または、銅−スズ金属間化合物として銅母相内/外に晶出した状態である。なお、溶接部の外側までスズが付着していても良く、この場合は、スズの一部は基材中に取り込まれずに溶接後にも基材の表面に残留する。
【0026】
被覆層の電気めっきによる形成について説明する。表面に被覆層を形成するためには、表面を粗化させるために、めっき条件の設定において、電流密度をやけめっきにならない範囲で高電流密度にすることが好ましい。電流密度は、めっき浴条件などにもよるが、例えば、本実施例記載のSnめっき浴の場合、5〜10A/dm
2であり、Niめっき浴の場合20〜30A/dm
2である。また、活量を上げることでさらに高電流密度にできる。例としては、めっき浴の攪拌速度を上げる方法などが挙げられる。実験室での実験においては、手段の関係上、電流密度と攪拌条件を同時に調整することが好適である。
【0027】
(端子)
図1は本発明の端子の一例を示している。端子10は、雌型端子のコネクタ部20と、電線が挿入された後、圧着によって電線と端子10とを接続する管状圧着部30を有し、これらのコネクタ部20と管状圧着部30とを連結するトランジション部40を有する。さらに、端子10は管状圧着部30に溶接部50、50’(図中、破線で示した領域)を有する。この端子10は、金属部材の平面板材から作製されている。
【0028】
コネクタ部20は、例えば雄型端子等の挿入タブの挿入を許容するボックス部である。本発明において、このコネクタ部20の細部の形状は特に限定されない。すなわち、本発明の端子の他の実施形態ではボックス部でなくてもよく、例えば、前記ボックス部に替えて雄型端子の挿入タブであっても良い。また他の形態に係る端子の端部であっても良い。本明細書では、本発明の端子を説明するために便宜的に雌型端子の例を示している。どのような接続端部を有する端子であっても、トランジション部40を介し管状圧着部30を有していれば良い。
【0029】
トランジション部40は、コネクタ部10と管状圧着部30の橋渡しとなる部分である。立体的に形成されていても、平面的に形成されていても良い。端子長方向の折り曲げに対する械的強度の観点からは、長手方向の断面2次モーメントが大きくなるように設計すると良い。
【0030】
管状圧着部30は、端子10と電線(図示せず)とを圧着接合する部位である。管状圧着部30の一端は、電線を挿入することができる挿入口部31であり、他端はトランジション部40に接続されている。管状圧着部30は、トランジション部40側が封止部36によって封止されていることで、閉塞管状体となっている。つまり、管状圧着部30は、挿入口部31以外が閉塞された管状体となっている。この封止部36によって、トランジション部40側から水分等が浸入するのを防止する。管状圧着部30の管の内径は、挿入口部31から封止部36に向けて、連続状あるいは階段状に縮径している。管状圧着部30は管状体であればよいので、必ずしも長手方向に垂直な断面が円形である必要はなく、場合によっては楕円形や矩形、その他の形状であっても良い。
【0031】
管状圧着部30では、管状圧着部を構成する金属部材と電線とが電気的・機械的に圧着接合される。特に、電気的な接合は、金属部材および電線導体部が強加工される(かしめられる)ことで接合が行われる。また、管状圧着部30は、電線の絶縁被覆部の一部も同時にかしめられることで、電線の絶縁被覆部とも密着する。特に挿入口部31において、管状圧着部30の金属部材と電線被覆部との間から水分等が浸入しないように、隙間なく密着するのが好ましい。
【0032】
管状圧着部30の管の内側には、電線係止溝(図示せず)を有していても良い。電線の導体にアルミニウムまたはアルミニウム合金を用いる場合、その表面は酸化被膜に覆われている。そこで、このような溝を設けることで、溝の山によって接圧を大きくすることができ、機械的・電気的接続の信頼性が向上する。
【0033】
管状圧着部30は、金属部材の平面板材を加工することで形成される。より具体的には、金属部材の板材を端子の展開図状に打ち抜き、立体的にプレス加工することで、断面が略C字型となる管状体が形成される。そして、この管状体の開放部分(突き合わせ部)が溶接される。溶接は管状体の長手方向に行われるので、その長手方向と略同一の方向に溶接部50が形成されながら管状圧着部が形成される。また、管状圧着部を形成する溶接の後、トランジション部側の管状圧着部の端部も幅方向に溶接を行い、溶接部50’の形成によって封止部36を設ける。なお、この封止部36は、管状圧着部30の対向する2つの管壁(通常は上下の管壁)を潰して重ね合わせた上で、重ね合わせた上から溶接をすることで封止するものである。
【0034】
ここで、溶接部50および50’は、本発明の端子において、被覆層が設けられた部分を溶接することで形成されている。溶接後は、溶接レーザ光が照射されて溶解した領域に存在していた被覆層は表面から消失している。一方で、レーザ光が照射されて溶解していない領域に存在していた被覆層は残留する。消失した被覆層を構成していた例えばスズやニッケル、銀等はレーザ溶接部50に溶融されて取り込まれ、また熱影響部に取り込まれるか分散していることもある。スズやニッケルの分散状態は、レーザ溶接の条件等によって一概に言えないが、例えば、凝固組織内に取り込まれて銅の母相内に固溶した状態及び/又は銅とスズの金属間化合物や銅とニッケルの金属間化合物として晶出した状態などが考えられる。
【0035】
なお、後述するが、溶接部50は金属部材の端面同士を突き合わせて溶接を行った溶接部であり、溶接部50’は金属部材を重ね合わせて溶接をおこなった溶接部である。本発明の端子では、溶接部50の任意の横断面に0.01μm
2(0.1μm×0.1μm)のサイズより大きなスズ、スズ合金、ニッケル、またはニッケル合金の相が観察される。このような端子であれば、管状圧着部30に電線を挿入してかしめ加工を行ったとき、溶接部50に割れが発生しにくい。また、スズ、スズ合金、ニッケル、ニッケル合金、銀または銀合金の相があることにより、溶接時に溶解した金属が凝固して収縮する際、溶接欠陥(ブローホールや引け巣)ができにくく、良好な溶接が可能となる。
【0036】
溶接部50内のスズ、スズ合金、ニッケル、ニッケル合金、銀または銀合金の相は、溶接によって被覆層を構成する金属が溶接部へ溶け込むことによって形成されるものである。例えば、被覆層にスズを用いた銅合金基材を突合せ溶接する場合、まずレーザ照射によってスズが溶解し、続いて基材を構成する銅合金が溶解する。そして、両者の金属は混ざり合って液体の合金となり、その後急速に冷却する。このとき、スズの一部は銅合金の母相中に固溶して取り込まれるものの、過飽和となった場合や冷却速度が速い場合などに、スズ相(スズ合金相)として残存する。溶接条件によってこのスズ相の様相はまちまちであるが、本発明の端子においては、溶接部50の任意の横断面に0.01μm
2(0.1μm×0.1μm)のサイズより大きな相が存在することで、所望の効果を奏する端子となる。
【0037】
(端子の製造方法)
図2(a)〜(d)は、
図1の端子の製造方法の一例を説明する平面図である。なお、
図2は金属部材の板材70から端子が製造される様子を板材70のZ方向(板面に対して垂直な方向)から見た図である。
【0038】
先ず、銅合金からなる基材を有する金属部材1の板材70を用意する。例えば板厚0.25mmのコルソン系銅合金(Cu−Ni−Si系合金)を基材として、この基材上の全面に所定の白色系金属層としてスズ層をめっきで設ける。さらに、この白色系金属層上の全面に所定の油膜を設けて金属部材の板材70とする。
【0039】
この板材70を、プレス加工(1次プレス)にて、複数の端子が平面展開した状態となるように、繰り返し形状で打ち抜く。本プレス加工では、各被処理体を片端で支持するいわゆる片持ち型の被処理体が作製され、送り穴71bが等間隔で形成されたキャリア部71aに、コネクタ部用板状体72と、トランジション部用板状体73と、管状圧着部用板状体74が一体で形成されている(
図2(b))。このとき、それぞれの端子の原板は、X方向に関して所定ピッチで配列されており、後に形成される管状圧着部の長手方向がY方向となるように打ち抜かれる。
【0040】
次に、それぞれの端子の原板に曲げ加工を施して(2次プレス)、コネクタ部75と、トランジション部76と、管状圧着部とするための圧着部用管状体77とを形成する。このとき、圧着部用管状体77の長手方向に垂直な断面は、隙間がごく微小な略C字型となっている。この隙間を介した金属部材の端面同士を突き合わせ部78と呼ぶ(
図2(c))。この突き合わせ部78は、Y方向に伸びている。また、圧着部用管状体77のトランジション部側の端部は、管状体の内壁がZ方向で接するようにして、重ね合わせ部(図示せず)を設ける。
【0041】
その後、圧着部用管状体77の上方から例えばレーザ光を照射して、突き合わせ部78に沿って図中の矢印A方向に掃引することで、当該部分にレーザ溶接を施す(
図2(d))。これにより突き合わせ部78が溶接される。さらに、重ね合わせ部を図中の矢印B方向に掃引することで、圧着部用管状体77のトランジション76部側の端部を溶接して封止する。これらの溶接により、電線の挿入口以外が閉塞した閉塞管状体の管状圧着部79が形成される。なお、いずれの溶接でも溶接痕として溶接部(帯状の溶接部であり、溶接ビードともいう)が形成される。図中の一点鎖線は、突き合わせ部78を溶接した溶接部であり、破線は、重ね合わせ部を溶接した溶接部である。溶接は、後述するようにファイバレーザを用いて実行されるのが好ましい。レーザ溶接機は、溶接中の焦点位置を立体的に調整可能なものを用いることで、管状体の縮径部などを立体的に溶接することができる。
【0042】
図3は、
図2(d)におけるレーザ溶接工程を説明する斜視図である。
図3に示すように、例えば赤外線の波長1084nm±5nmのレーザ光を発振するファイバレーザ溶接装置FLが使用され、レーザ出力100〜2000W、掃引速度90〜250mm/sec、スポット径約20μmにて、圧着部用管状体77の突き合わせ部78が溶接される。レーザLが突き合わせ部78に沿って照射されることで、突き合わせ部78と略同一位置に溶接部51が形成される。より具体的には、ファイバレーザ溶接装置FLから発せられたレーザ光Lが照射され、レーザ光のエネルギーが熱に変換されることによって、まず突き合わせ部78上の油膜の一部が燃焼しながら熱を伝え白色系金属層が溶融し、次いで、溶融熱エネルギーを伝播して突き合わせ部78を構成している基材自体を溶融する。その後、急速に冷却することで、溶接部51が設けられる。ただし、突き合わせ部78の端面同士の隙間の間隔と、溶接部51の幅は必ずしも一致するものではない。
【0043】
通常、銅合金は発振波長が近赤外線領域のレーザ光の吸収効率が悪いため、溶接幅を細くできなかったり、熱影響部(HAZ)の幅を狭くできなかったりする場合がある。また、銅合金はレーザ溶接により溶接部とその近傍の機械特性が低下することがある。そこで、基材の溶接する部分上に対して所定の白色系金属層および油膜を形成すること、及びファイバレーザ光のようなエネルギー密度が高いレーザ光を用いることで、上記課題が克服される。
【0044】
被覆層の表面(スズやニッケル、銀またはこれら合金の表面)は、近赤外線レーザ光の反射が銅合金表面よりも少ないため、近赤外線レーザ光の吸収性が良い。分光光度測定法による近赤外光の反射率測定では、例えば、所定の粗い算術平均粗さを有するスズの表面は反射率が60〜80%程度であり、反射率が90%以上である銅合金表面よりも低くなっている。このように近赤外レーザ光の吸収性が高い被覆層を形成した領域に近赤外レーザ光が照射されると、融点の低い例えばスズなどの被覆層が速やかに溶融して溶融池を形成し、これによりレーザ光の吸収がさらに高まる。この溶融池領域がレーザ光を吸収して突き合わせ部78を溶融していくことで当該突き合わせ部の溶接が進行する。
【0045】
なお、ファイバレーザ光Lのエネルギーがあまりに高いと、又はエネルギー密度が低いと、熱影響部(HAZ)が必要以上に広範囲で形成されてしまい、極端な場合には管状圧着部30の基材全体が軟化してしまう。したがって、ファイバレーザ光Lは100〜2000Wの出力で溶接するのが好ましい。また、掃引速度を調整することによって、溶接部50を適切な範囲に設ける。
【0046】
また、管状圧着部を形成した溶接の後、管状圧着部のトランジション部76側の端部(電線挿入口と反対側の端部)の重ね合わせ部を溶接によって封止する。この封止は端子長手方向に対して垂直な方向に行われる。この溶接は、金属部材が折り重なった部分を、折り重なった部分の上から溶接するものである。この封止によって、管状圧着部のトランジション部側の端部は閉塞される。
【0047】
以上のように、本発明の端子の製造方法は、金属部材の板材を端子の展開図形状に打ち抜く工程と、プレス加工を行い管状体を有する端子を形成する工程と、管状体の突き合わせ部を溶接する工程と、管状体の挿入口部と反対の端部の重ね合わせ部を溶接して閉塞管状体の管状圧着部を形成する工程とを有する。
【0048】
(電線接続構造体)
図4に本発明の電線接続構造体100を示す。電線接続構造体100は、本発明の端子10と、電線60とが圧着接合された構造を有している。電線接続構造体100は、管状圧着部30内に電線60(電線導体部の一部および絶縁被覆部の一部)を挿入し、管状圧着部30をかしめることで、電線60が管状圧着部30内に圧着接続されている。なお、電線60は、絶縁被覆部61と図示しない導体部とからなる。導体部は、銅、銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金などからなっている。近年は、軽量化の観点からアルミニウム合金からなる導体部が用いられつつあるのは、既に述べたとおりである。絶縁被覆部は、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィンを主成分としたものや、ポリ塩化ビニル(PVC)を主成分としたもの等を用いることができる。
【0049】
管状圧着部30では、導体が露出した電線端部を挿入口部31に挿入した状態で管状圧着部30を加締めることで、被覆圧着部32、縮径部33および導体圧着部34が塑性変形して電線60の絶縁被覆部の一部および導体部の一部と圧着され、これにより、管状圧着部30と電線60の導体部とが電気的に接続される。導体圧着部34の一部には、強加工によって、凹部35が形成されてもよい。このように一部が大変形するような強加工によって、電線60の導体部はもとの素線の形状を保っていなくても良い。
【0050】
このような電線接続構造体100を一本または複数本用意し、電線接続構造体100のコネクタ部をハウジングケース内に並べて設置することでワイヤハーネス(組電線)とすることができる。
【0051】
例えば、
図4では端子10が電線60と圧着された状態を示しているが、
図5に示すように、電線と圧着される前の状態で、端子80が管状圧着部に段差形状を有していてもよい。具体的には、管状圧着部81は、トランジション部40側が閉塞された筒部材であって、不図示の電線の絶縁被覆と圧着される被覆圧着部83と、挿入口部82側からトランジション部20側に向かって縮径する縮径部84と、電線3の導体と圧着される導体圧着部85と、挿入口部82側からトランジション部40側に向かって更に縮径し、その端部が溶接により閉塞される縮径部86とを有していてもよい。
【0052】
このように管状圧着部81が段差形状を有することで、電線端部の被覆を除去して当該端部を管状圧着部81に挿入したとき、電線の絶縁被覆が縮径部84で係止され、これにより被覆圧着部83の直下に絶縁被覆が位置し、導体圧着部85の直下に電線が位置する。したがって、電線端部の位置決めを容易に行うことができ、被覆圧着部83と絶縁被覆との圧着、および導体圧着部85と導体の圧着を確実に行うことが可能となり、良好な止水性および電気的接続を両立して、優れた密着性を実現することができる。
【0053】
また、
図1の端子では、コネクタ部20がボックス型の雌型端子であるが、これに限らず、コネクタ部が雄型端子であってもよい。具体的には、
図6で示すような端子90であって、不図示の電線と圧着される管状圧着部91と、該管状圧着部とトランジション部92を介して一体的に設けられ、不図示の外部端子と電気的に接続されるコネクタ部93とを備えていてもよい。このコネクタ部93は、長尺状の接続部93aを有しており、当該接続部が外部端子である不図示の雌型端子に長手方向に沿って挿入されることで、雌型端子と電気的に接続される。
【実施例】
【0054】
(実施例1〜40)
実施例1〜40においては、厚さ0.2〜0.4mmの四角い形状の表1に示した銅合金を基材に用い、基材にスズの被覆層を設けるためのめっきを行った。なお、下地層を設けた実施例については、めっきを行ってニッケルの下地層を設けた後に被覆層を設けるためのめっきを行った。続いて、金属部材を突合せて表1に示した溶接時間で1cmにわたりファイバレーザで貫通溶接して試験片とし、断面観察、溶接性評価を行った。次いで、この試験を曲げ加工して溶接部の割れ測定を行った。
【0055】
<銅合金基材>
基材には、古河電気工業(株)製の銅合金FAS−680、FAS−820、三菱伸銅(株)製の銅合金MAX375、MAX251を用いた。いずれの銅合金もNi、Si、Sn等を副添加物として含んだ材料である。
【0056】
被覆層および下地層のめっきは下記の条件で行った。
<被覆層めっき条件>
めっき液:SnSO
4 80g/l、H
2SO
4 80g/l
めっき条件:電流密度 5〜10A/dm
2、温度 30℃
処理時間:電流密度を設定した後、望みの被覆層の厚さになるように調整した。
<下地層めっき条件>
めっき液:Ni(SO
3NH
2)
2・4H
2O 500g/l、NiCl
2 30g/l、H
3BO
3 30g/l
めっき条件:電流密度 20〜30A/dm
2、温度 50℃
処理時間:電流密度を設定した後、望みの下地層の厚さになるように調整した。
【0057】
以上の条件の範囲内で、所望の厚さ±10%以内になっているサンプルを各厚さ水準で10個ずつ作成した。なお、めっき層の厚さは、蛍光X線膜厚計によって、端部上の当該層の平均の厚さを測定した。
【0058】
<ファイバレーザ溶接条件>
レーザ溶接装置(1):古河電気工業(株)製ファイバレーザ装置、最大出力500W、CWファイバレーザ
レーザビーム出力:400W
掃引距離:9mm(突き合わせ部約7mm)
レーザ走査速度:120〜200mm/秒
全条件ジャストフォーカス
レーザ溶接装置(2):古河電気工業(株)製ファイバレーザ装置、最大出力2kW、CWファイバレーザ
レーザビーム出力:800W
掃引距離:9mm(突き合わせ部約7mm)
レーザ走査速度:250mm/秒
全条件ジャストフォーカス
【0059】
<断面観察におけるX相の有無>
溶接部を含む部分について、樹脂埋め後研磨して横断面出しを行い、SEM-EDXで元素マッピングを行なって、溶接部において、0.1μm×0.1μm(0.01μm
2)のサイズより大きなスズ、スズ合金、ニッケル、ニッケル合金、銀、または銀合金の相(X相とよぶ)の有無を観察し、以下の基準で評価した。
○:X相あり
×:X相なし
【0060】
<溶接性評価>
溶接性は、ブローホールを溶接欠陥として、透過X線で写真を取り、溶接部のブローホールの数をカウントし、以下の基準で評価した。
○:10個以下
△:10個超〜30個以下
×:30個超であるか又は溶接不可
【0061】
<溶接部耐割れ性評価>
溶接部に曲げ加工を施して評価した。基材の厚さをtとし、曲げ半径をRとしたとき、R/t=1.2となる条件で曲げ試験を行い、以下の基準で評価した。
○:割れなし
×:割れ有り
【0062】
(比較例1)
銅合金基材にFAS−680を用い溶接を行った。溶接におけるレーザ走査速度を変更した以外は、実施例14と同様である。
(比較例2)
YAGレーザ溶接によって溶接を行い、溶接における出力およびレーザ走査速度を変更した以外は、実施例14と同様である。
(比較例3)
基材の厚さと、溶接におけるレーザ走査速度を変更した以外は、実施例14と同様である。
(比較例4)
下地層の厚さを変更した以外は、実施例14と同様である。
(比較例5)
被覆層の厚さを変更した以外は、実施例14と同様である。
(比較例6)
基材の厚さと、溶接における出力およびレーザ走査速度を変更した以外は、実施例14と同様である。
【0063】
<YAGレーザ溶接条件>
溶接装置:ミヤチテクノス(株)製YAGレーザ溶接装置、最大出力600W、パルス波
レーザビーム出力:550W
掃引距離:9mm(突き合わせ部約7mm)
レーザ走査速度:30mm/秒
【0064】
【表1】
【0065】
表1に評価結果を示す。表1より、実施例1〜40はいずれも、耐割れ性および溶接性に優れていることが分かった。一方、比較例1、2は、断面観察において0.01μm
2より大きなサイズのX相が無く、耐割れ性に劣る結果となった。比較例3は、基材の厚さが1.50mmであり、貫通溶接ができず、評価を行うことができないという結果となった。比較例4は、下地層の厚さが1.5μmであり、耐割れ性に劣る結果となった。比較例5は、被覆層の厚さが4.0μmであり、耐割れ性および溶接性に劣る結果となった。比較例6は、基材の厚さが1.50mmであり、耐割れ性および溶接性に劣る結果となった。以上より、管状圧着部が、厚さ0.20〜1.40mmの基材上に、厚さ0.0〜0.8μmの下地層を有し、基材上および/または下地層上に厚さ0.2〜3.0μmの被覆層が形成された金属部材からなり、金属部材を突合せ溶接して形成した溶接部を有し、溶接部に0.01μm
2より大きなX相が存在することにより、本発明の端子は、耐割れ性および溶接性に優れる。
【0066】
なお、この実施例は被覆層としてスズを用いた例を示したものであるが、被覆層として、ニッケルや銀を用いても同様の結果が得られ、耐割れ性および溶接性に優れた端子を得ることができる。
【0067】
また、これらの端子は先端が封止された管状圧着部を有しているので、電線との圧着後、端子と電線の導体部との接点に水分が付着しにくい。よって接点における腐食が進行しにくく、防食性に優れた電線接続構造体となる。これは、電線の導体部にアルミニウム合金を用いた場合に顕著である。
【0068】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。