【実施例】
【0040】
以下に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下は本発明の一例であり、本発明の実施にあたっては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態を採用することができる。
【0041】
[銅箔の製造]
粗化処理を施すための基材となる銅箔として、電解銅箔又は圧延銅箔を使用した。
実施例2〜4、6〜16、比較例1〜4、6、7及び参考例1では、下記条件により製造した、厚さ12μmの電解銅箔を用いた。
<電解銅箔の製造条件>
CuSO
4 :280g/L
H
2SO
4 :70g/L
塩素濃度 :25mg/L
浴温 :55℃
電流密度 :45A/dm
2
(添加剤)
・3−メルカプト1−プロパンスルホン酸ナトリウム :2mg/L
・ヒドロキシエチルセルロース :10mg/L
・低分子量膠(分子量3000) :50mg/L
【0042】
実施例1、5、及び比較例5では、市販の12μmのタフピッチ銅圧延箔(株式会社UACJ製)に対し、下記条件で脱脂処理を行ったものを用いた。
<脱脂処理条件>
脱脂溶液 :クリーナー160S(メルテックス株式会社製)の水溶液
脱脂溶液濃度 :60g/L水溶液
浴温 :60℃
電流密度 :3A/dm
2
通電時間 :10秒
【0043】
[粗化処理面の形成]
電気めっき処理により、上記銅箔の片面に粗化めっき処理を施した。この粗化めっき処理面は、下記の粗化めっき液基本浴組成を用いて、モリブデン濃度を下記表1記載の通りとし、且つ、極間流速、電流密度、処理時間を下記表1記載の通りとして形成した。モリブデン濃度は、モリブデン酸ナトリウムを純水に溶解した水溶液を基本浴に加えることで調整した。
<粗化めっき液基本浴組成>
Cu :25g/L
H
2SO
4 :180g/L
浴温 :25℃
【0044】
【表1】
【0045】
<金属処理層の形成>
続いて、実施例1〜6、8〜16及び比較例1〜3、5〜7については、上記で形成した粗化めっき処理面に、さらに表2記載のめっき条件で、Ni、Zn、Crの順に金属めっきを施して金属処理層を形成した。
<Niめっき>
Ni :40g/L
H
3BO
3 :5g/L
浴温 :20℃
pH :3.6
<Znめっき>
Zn :2.5g/L
NaOH :40g/L
浴温 :20℃
<Crめっき>
Cr :5g/L
浴温 :30℃
pH :2.2
【0046】
<シランカップリング剤の塗布(粗化処理面の形成)>
実施例1〜16及び比較例1〜7については、粗化めっき処理面(金属処理層を形成した場合は金属処理層表面)全体に、表2記載の市販のシランカップリング剤の溶液(30℃)を塗布し、スキージーで余分な液切りを行った後、120℃大気下で30秒間乾燥させ、粗化処理面を形成した。各シランカップリング剤の溶液の調製方法は以下の通りである。
【0047】
3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM−402):純水で0.3wt%溶液を調製。
3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM−903):純水で0.25wt%溶液を調製。
ビニルトリメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM−1003):純水に硫酸を添加してpH3に調整した溶液で0.2wt%溶液を調製。
3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM−502):純水に硫酸を添加してpH3に調整した溶液で0.25wt%溶液を調製。
3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学株式会社製 KBE−9007):純水に硫酸を添加してpH3に調整した溶液で0.2wt%溶液を調製。
3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン(信越化学株式会社製 KBE−585):エタノールと純水を1:1で混合した溶液で0.3wt%溶液を調製。
【0048】
【表2】
【0049】
[粗化粒子の平均高さの測定]
粗化処理面における粗化粒子の平均高さは、イオンミリング処理することで得られた銅箔の厚み方向と平行な断面をSEM観察することで求めた。詳細を以下に説明する。
図1は、実施例5で製造した表面処理銅箔の粗化処理面(シランカップリング剤処理後の表面)の厚み方向に平行な断面のSEM像である。同様に、各表面処理銅箔の断面において、視野内に粗化粒子の頭頂部と底部が確認でき、かつ、粗化粒子が10個前後含まれるような倍率で、無作為に異なる5視野についてSEM観察した。一つの表面処理銅箔の5つの視野毎に、高さの最も高い粗化粒子の当該高さを測定し、得られた5つの測定値(最大値)の平均を、その表面処理銅箔の粗化処理面における粗化粒子の平均高さとした。
粗化粒子の高さの測定方法を、図面を用いて詳細に説明する。
図1に示されるように、測定対象とする粗化粒子について、左右の最底部を結んだ直線(a点とb点を結んだ直線)との最短距離が最も長い、当該粗化粒子の頭頂部(c点)と、a点とb点を結んだ直線との最短距離を、粗化粒子の高さHとした。
図2は、実施例6で製造した表面処理銅箔の粗化処理面(シランカップリング剤処理後の表面)の厚み方向に平行な断面のSEM像である。このように粗化粒子が枝分かれして形成されている場合には、枝分かれ構造を含めた全体を、1つの粗化粒子とみなす。すなわち、樹枝状に形成した粗化粒子の左右の最底部を結んだ直線(d点とe点を結んだ直線)との最短距離が最も長い、当該粗化粒子の頭頂部(f点)と、d点とe点を結んだ直線との最短距離を、粗化粒子の高さHとした。
結果を下記表3に示す。
【0050】
[BET表面積比Aの測定]
BET表面積比Aは、BET法により測定される粗化処理面の表面積(BET測定表面積)を、平面視面積となる試料切り出し面積で除することで算出される。
BET測定表面積は、マイクロメリティクス社製ガス吸着細孔分布測定装置ASAP2020型を使用して、クリプトンガス吸着BET多点法により測定した。測定前に、前処理として150℃で6時間の減圧乾燥を行った。
測定に使用する試料(銅箔)は、およそ3gとなる3dm
2を切り出して、5mm角に切り分けた後、測定装置内に導入した。
BET法による表面積測定では装置内に導入した試料全面の表面積を測定するため、片面を粗化処理した上記の表面処理銅箔における当該粗化処理面のみの表面積を測定することはできない。そこで、BET表面積比Aは、実際には下記の通り算出した。
【0051】
<BET表面積比Aの算出>
粗化処理が施されていない面(上記粗化処理面と反対側の面)の表面積比を1、つまり試料切り出し面積と同一であるとみなし、下記式によりBET表面積比Aを算出した。
(BET表面積比A)=[(BET測定表面積)−(試料切り出し面積)]/(試料切り出し面積)
【0052】
尚、BET法の表面積測定では粗化処理面及び粗化処理が施されていない面以外の面(側面)の表面積も測定されるが、本発明の想定している最も厚い箔厚である120μmであってもその割合は全平面視面積の5%未満であるので、事実上無視できる。
【0053】
参考例1のように、表面が粗化処理されていないものでは、BET法の測定原理に起因し、BET測定表面積が切り出し面積よりも小さくなることがある(つまり、BET表面積比Aが1未満となることがある)。一方、粗化処理により微細な凹凸を有する表面を形成した場合には、BET法を適用することにより、微細な凹凸等を高感度に検出することが可能となり、結果、BET表面積比Aは1を超えるようになる。
【0054】
[レーザー表面積比Bの測定]
レーザー表面積比Bは、レーザーマイクロスコープVK8500(キーエンス社製)を用いた表面積測定値に基づき算出した。より詳細には、試料(銅箔)の粗化処理面を、倍率1000倍で観察し、平面視面積6550μm
2部分の三次元表面積を測定して、当該三次元表面積を6550μm
2で除することにより、レーザー表面積比Bを求めた。測定ピッチは0.01μmとした。結果を表3に示す。
【0055】
[微細表面係数Cmsの計算]
微細表面係数Cmsは、上記BET表面積比Aと上記レーザー表面積比Bを用いて下記式に基づき算出した。結果を下記表3に示す。
微細表面係数Cms=BET表面積比A/レーザー表面積比B
【0056】
[Niの測定]
Ni元素量(mg/dm
2)は、試料の粗化めっき処理を行っていない面を塗料でマスキングした後10cm角に切り出し、80℃に加温した混合酸(硝酸2:塩酸1:純水5(体積比))で表面部のみを溶解した後、得られた溶液中のNi質量を日立ハイテクサイエンス社製の原子吸光光度計(型式:Z−2300)を用いて原子吸光分析法により定量分析を行って求めた。結果を下記表3にNi元素量として示す。なお、上記で測定されるNi元素量は、すなわち金属処理層に含有されるNi元素量である。
【0057】
[Siの測定]
粗化処理面のSi元素量(μg/dm
2)は(すなわち、シランカップリング剤層に含有されるSi元素量は)、Ni元素量と同様にして、原子吸光分析法により定量分析を行って求めた。結果を下記表3にSi元素量として示す。
【0058】
【表3】
【0059】
[高周波特性の評価]
高周波特性の評価として高周波帯域での伝送損失を測定した。上記各実施例及び比較例で製造した、粗化処理面を有する表面処理銅箔の当該粗化処理面(シランカップリング剤で処理した面)を、株式会社カネカ製のラミネート用ポリイミドであるPIXEO(FRS−522 厚さ12.5μm)に張り合わせ、温度350℃、面圧5MPaで20分間プレスすることで銅張積層板とし、次いで、幅100μm、長さ40mmのマイクロストリップラインの伝送路を形成した。この伝送路に、ネットワークアナライザを用いて100GHzまでの高周波信号を伝送し、伝送損失を測定した。特性インピーダンスは50Ωとした。
伝送損失の測定値は、絶対値が小さいほど伝送損失が少なく、高周波特性が良好であることを意味する。表4には20GHzと70GHzにおける伝送損失の評価結果を記載する。その評価基準は下記の通りである。
<20GHzの伝送損失評価基準>
◎:伝送損失が−6.2dB以上
○:伝送損失が−6.2dB未満から−6.5dB以上
×:伝送損失が−6.5dB未満
<70GHzの伝送損失評価基準>
◎:伝送損失が−20.6dB以上
○:伝送損失が−20.6dB未満から−24.0dB以上
×:−24.0dB未満
【0060】
さらに、上記伝送損失の評価結果に基づき、下記評価基準に基づき高周波特性を総合評価した。結果を下記表4に示す。
<高周波特性総合評価基準>
◎(優良):20GHzの伝送損失と70GHzの伝送損失の評価結果がいずれも◎である。
○(良):20GHzの伝送損失の評価結果が◎で、70GHzの伝送損失の評価結果が○である。
△(合格):70GHzの伝送損失の評価結果が×であるが、20GHzの伝送損失が◎又は○である。
×(不合格):20GHzの伝送損失と70GHzの伝送損失の評価結果がいずれも×である。
【0061】
[耐熱密着性の評価]
上記[高周波特性の評価]で作製した銅張積層板と同様にして銅張積層板を作製し、得られた銅張積層板の銅箔部を10mm巾テープでマスキングした。この銅張積層板に対して塩化銅エッチングを行った後テープを除去し、10mm巾の回路配線板を作製した。この回路配線板を150℃の加熱オーブンにて1000時間加熱した後、常温下において東洋精機製作所社製のテンシロンテスターを用いて、回路配線板の10mm巾の回路配線部分(銅箔部分)を90度方向に50mm/分の速度でポリイミド樹脂基材から剥離した際の剥離強度を測定した。得られた測定値を指標にして、下記評価基準に基づき耐熱密着性を評価した。結果を下記表4に示す。
<耐熱密着性の評価基準>
◎:剥離強度が0.7kN/m以上
○:剥離強度が0.6kN/m以上0.7kN/m未満
△:剥離強度が0.5kN/m以上0.6kN/m未満
×:剥離強度が0.5kN/m未満
【0062】
[エッチング性の評価]
銅箔表面への金属の付着量が多いと、回路形成のためのエッチングの際に、金属残渣が樹脂基材表面に残留しやすくなる。金属残渣が樹脂基材表面に残留すると、絶縁抵抗が低下する不具合が生じる。特に、ニッケルは銅よりもエッチング速度が小さいため、付着量が大きいと、絶縁性が低下して短絡が生じやすくなる。
そこで、上記[高周波特性の評価]で作製した銅張積層板と同様にして作製した銅張積層板を用いて、IPC試験規格TM−650の2.5.17に基づいて絶縁抵抗値を測定した。より詳細には、上記銅張積層板を10cm×10cmサイズに切り出し、銅箔パターンをエッチングにより形成した。試験規格に基づき、表面抵抗の測定を3回実施し、3回の測定値の平均値を求めた。得られた表面抵抗値の平均値を指標にして下記評価基準に基づきエッチング性を評価した。結果を下記表3に示す。
<エッチング性の評価基準>
◎:表面抵抗値の平均値が1014Ω以上
○:表面抵抗値の平均値が1013Ω以上1014Ω未満
×:表面抵抗値の平均値が1013Ω未満
【0063】
[総合評価]
上記の高周波特性、耐熱密着性及びエッチング性のすべてを総合し、下記評価基準に基づき総合評価した。
<総合評価の評価基準>
AA(優良):高周波特性の総合評価、耐熱密着性及びエッチング性の評価結果がいずれも◎である。
A(良):高周波特性の総合評価、耐熱密着性及びエッチング性のうち○評価が1つで、残り2つの評価が◎である。
B(合格):上記AA及びAのいずれにも該当しないが、×評価がない。
C(不合格):高周波特性の総合評価、耐熱密着性及びエッチング性のうち少なくとも1つの評価が×である。
【0064】
【表4】
【0065】
上記各表に示された結果について考察する。
比較例1は、表面処理銅箔の粗化処理面に存在する粗化粒子の平均高さが本発明で規定するよりも小さい例である。比較例1の表面処理銅箔を用いて銅張積層板を作製した場合には、銅箔と樹脂基材との耐熱密着性に劣る結果となった。
比較例2、3、6及び7は、表面処理銅箔の粗化処理面のBET表面積比が本発明で規定するよりも小さい例である。比較例2、3、6及び7の表面処理銅箔を用いて銅張積層板を作製した場合には、銅箔と樹脂基材との耐熱密着性に劣る結果となった。
比較例4及び5は、表面処理銅箔の粗化処理面に存在する粗化粒子の平均高さが本発明で規定するよりも大きい例である。比較例4及び5の表面処理銅箔を用いて銅張積層板を作製し、導体回路を形成した場合には、高周波特性に大きく劣る結果となった。
また、参考例1は、銅箔に粗化処理を施していない例である。参考例1の銅箔を用いて銅張積層板を作製した場合には、銅箔と樹脂基材との耐熱密着性に大きく劣る結果となった。
【0066】
これに対し、表面処理銅箔の粗化処理面に形成された粗化粒子の平均高さが本発明で規定する範囲内にあり、且つ、当該粗化処理面のBET表面積比も本発明で規定を満たす実施例1〜16の表面処理銅箔は、これを用いて銅張積層板を作製した際には、銅箔と樹脂基材との耐熱密着性に優れていた。さらに、実施例1〜16の表面処理銅箔を用いた銅張積層板から形成した導体回路は高周波信号を伝送しても伝送損失が効果的に抑えられ、さらに絶縁信頼性にも優れていた。