特許第6182584号(P6182584)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6182584プリント配線板用表面処理銅箔、プリント配線板用銅張積層板及びプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182584
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】プリント配線板用表面処理銅箔、プリント配線板用銅張積層板及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20170807BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20170807BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20170807BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20170807BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20170807BHJP
   C25D 5/16 20060101ALN20170807BHJP
【FI】
   C23C26/00 A
   B32B15/04 A
   C25D7/06 A
   H05K3/38 B
   H05K1/09 C
   !C25D5/16
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-240006(P2015-240006)
(22)【出願日】2015年12月9日
(65)【公開番号】特開2017-106068(P2017-106068A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2016年5月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貴広
(72)【発明者】
【氏名】繪面 健
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/090175(WO,A1)
【文献】 特公昭62−056677(JP,B1)
【文献】 特開2011−162860(JP,A)
【文献】 野呂 純二他,「比表面積,細孔分布,粒度分布測定」,ぶんせき,2009年 7月,2009年7月号,349−355頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00−30/00
C25D 5/00−7/12
H05K 1/09
H05K 3/10−3/26
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗化粒子が形成された表面にシランカップリング剤層を有するプリント配線板用表面処理銅箔であって、
前記シランカップリング剤層表面において、粗化粒子の平均高さが0.05μm以上0.5μm未満であり、
前記シランカップリング剤層表面のBET表面積比が1.2以上であるプリント配線板用表面処理銅箔。
【請求項2】
前記シランカップリング剤層表面において、粗化粒子の平均高さが0.05μm以上0.3μm未満である、請求項1に記載のプリント配線板用表面処理銅箔。
【請求項3】
前記シランカップリング剤層表面において、微細表面係数Cmsが0.6以上2.0未満である、請求項1又は2に記載のプリント配線板用表面処理銅箔。
【請求項4】
前記粗化粒子が形成された表面が、ニッケルを含む金属処理層を有し、前記金属処理層に含有されるニッケル元素量が0.1mg/dm以上0.3mg/dm未満である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプリント配線板用表面処理銅箔。
【請求項5】
前記シランカップリング剤層に含有されるSi元素量が0.5μg/dm以上15μg/dm未満である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプリント配線板用表面処理銅箔。
【請求項6】
前記シランカップリング剤が、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、ウレイド基、イソシアヌレート基、メルカプト基、スルフィド基、及びイソシアネート基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプリント配線板用表面処理銅箔。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のプリント配線板用表面処理銅箔の、前記シランカップリング剤層表面に、樹脂層が積層されてなるプリント配線板用銅張積層板。
【請求項8】
請求項7に記載のプリント配線板用銅張積層板を用いたプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板用表面処理銅箔に関する。また本発明は、当該プリント配線板用表面処理銅箔を用いたプリント配線板用銅張積層板及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューターや情報通信機器の高性能・高機能化や、ネットワーク化の進展に伴い、大容量の情報をより高速に伝達処理する必要が生じている。そのため、伝達される信号はますます高周波化する傾向にあり、高周波信号の伝送損失を抑えたプリント配線板が求められている。プリント配線板の作製には、通常、銅箔と絶縁性基材(樹脂基材)とを積層し、これを加熱、加圧して接着した銅張積層板を製作し、この銅張積層板を用いて導体回路が形成される。この導体回路に高周波信号を伝送(高周波伝送)した際の伝送損失には、導体損失、誘電損失、輻射損失の3つの因子が関係している。
【0003】
導体損失は、導体回路の表皮抵抗に起因するものである。銅張積層板を用いて形成した導体回路に高周波信号を伝送すると表皮効果現象が生じる。すなわち、導体回路に交流を流すと磁束が変化して導体回路の中心部に逆起電力が生じ、結果、電流が導体中心部を流れにくくなり、逆に導体表面部分(表皮部分)の電流密度が高まる現象が生じる。この表皮効果現象は、導体の有効断面積を減少させるために、いわゆる表皮抵抗が発生する。電流が流れる表皮部分の厚さ(表皮深さ)は、周波数の平方根に反比例する。
【0004】
近年では20GHzを超えるような高周波対応機器が開発されてきている。周波数がGHz帯の高周波信号を導体回路に伝送すると、表皮深さは2μm程度あるいはそれ以下となり、電流は導体のごく表層しか流れない。それ故、かかる高周波対応機器に用いる銅張積層板において銅箔の表面粗さが大きいと、この銅箔により形成される導体の伝送経路(すなわち表皮部分の伝送経路)が長くなり、伝送損失が増加する。したがって、高周波対応機器に用いる銅張積層板の銅箔は、その表面粗さを小さくすることが望まれている。
一方、プリント配線板に使用される銅箔は一般に、電気めっきやエッチングなどの手法を用いてその表面に粗化処理層(粗化粒子を形成させた層)を形成し、物理的な効果(アンカー効果)により樹脂基材との接着力を高めている。しかし、樹脂基材との接着力を効果的に高めるべく銅箔表面に形成する粗化粒子を大きくすると、上述の通り伝送損失が増加してしまう。
【0005】
誘電損失は、樹脂基材の誘電率や誘電正接に起因するものである。パルス信号を導体回路に流すと導体回路のまわりの電界に変化が起こる。この電界の変化する周期(周波数)が樹脂基材の分極の緩和時間(分極を生じる荷電体の移動時間)に近づくと(すなわち高周波化すると)電界変化に遅れが生じる。かかる状態においては樹脂内部に分子摩擦が生じて熱が発生し、伝送損失となる。この誘電損失を抑えるには、銅張積層板の樹脂基材として極性の大きな置換基の量が少ない樹脂、あるいは極性の大きな置換基を有しない樹脂を採用し、電界変化に伴う樹脂基材の分極を生じにくくする必要がある。
一方、プリント配線板に使用される銅箔は、前記粗化処理層の形成に加え、銅箔表面をシランカップリング剤で処理することにより、樹脂基材との化学的な接着力を高めることも行われる。シランカップリング剤と樹脂基材との化学的接着性を高めるには、樹脂基材がある程度極性の大きな置換基を有することを要する。しかし、誘電損失を抑えるべく樹脂基材中の極性の大きな置換基の量を減少させた低誘電性基材を用いたとき、化学的接着力が低下し、銅箔と樹脂基材との十分な接着性が担保しにくくなる。
【0006】
このように、銅張積層板において、伝送損失の抑制と、銅箔と樹脂基材との密着性(接着性)の向上(耐久性の向上)とは、互いにトレードオフの関係にある。
【0007】
近年、高周波対応プリント配線板は、より信頼性が要求される分野に展開されるようになってきている。例えば、車載用途など、移動体通信のプリント配線基板としての使用には、高温環境等の過酷な環境下での使用にも耐える高度な信頼性が要求される。この要求に応える銅張積層板には、銅箔と樹脂基材との密着性を高度に高める必要があり、例えば、150℃で1000時間の過酷試験にも耐える密着性が要求されるようになってきている。
かかる要求を満たすべく技術開発が進められている。例えば特許文献1には、銅箔に粗化粒子を付着させ、表面粗さRzが1.5〜4.0μm、明度値が30以下の粗化面を形成し、当該粗化粒子が特定の密度で略均等に分布し、当該粗化粒子から形成された突起物が特定の高さ及び幅を有する表面処理銅箔が記載され、この表面処理銅箔を用いることで、液晶ポリマーをはじめとする高周波回路基板用の樹脂基材との密着性が高められたことが記載されている。
【0008】
スマートフォンやタブレットPCといった小型電子機器には、配線の容易性や軽量性からフレキシブルプリント配線板(以下、FPC)が採用されている。近年、これらの小型電子機器の高機能化に伴い信号伝送速度の高速化が進み、FPCのインピーダンス整合(出力抵抗と入力抵抗のマッチング)が重要となっている。信号伝送速度の高速化に対するインピーダンス整合の実現のために、FPCのベースとなる樹脂基材(代表的にはポリイミド)を厚層化することが行われている。
【0009】
また、FPCに関し特許文献2には、絶縁層に接着される接着面にニッケル−亜鉛合金による防錆処理層を備え、該接着面の表面粗度(Rz)が0.05〜1.5μmで、入射角60°における鏡面光沢度が250以上である電解銅箔を有するチップオンフィルム(COF)タイプに好適なFPCが記載されている。特許文献2によれば、このFPCは優れた光透過率を示し、且つ銅箔と樹脂基材との密着性も良好であるという。
【0010】
また、特許文献3には、粗化処理により粗化粒子を形成し、粗化処理面の平均粗さRzを0.5〜1.3μm、光沢度を4.8〜68とし、粗化粒子の表面積Aと、粗化粒子を前記銅箔表面側から平面視したときに得られる面積Bとの比A/Bを2.00〜2.45とした表面処理銅箔が記載されている。特許文献3には、この表面処理銅箔と樹脂基板とを積層して形成した銅張積層板が、銅箔をエッチング除去した後の樹脂透明性が良好で、かつ、銅箔と樹脂との密着性が良好であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4833556号公報
【特許文献2】特許第4090467号公報
【特許文献3】特許第5497808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1記載の表面処理銅箔は、高周波対応樹脂基材との密着性には優れる。しかし、この表面処理銅箔を用いた銅張積層板はGHz帯の高周波帯域において伝送損失が高く、高周波対応プリント配線板に対する高度な要求を十分に満たすには至っていない。
【0013】
また、上記特許文献2記載のFPCに用いられている電解銅箔は、粗化処理が施されておらず、COF以外のプリント配線板に要求される樹脂基材との高度な密着性を実現するには至っていない。
【0014】
また、上記特許文献3記載の表面処理銅箔は、高温下での樹脂基材との密着性が十分でない。そのため、この表面処理銅箔を用いたプリント配線板は、例えば150℃で1000時間といった過酷条件下での高度な信頼性の要求を満足するに至っていない。
【0015】
本発明は、GHz帯の高周波信号を伝送した際にも伝送損失が高度に抑えられ、且つ、高温下においても銅箔と樹脂基材との密着性が高く過酷条件下での耐久性にも優れ、さらに短絡し難いプリント配線板を得ることができるプリント配線板用表面処理銅箔を提供することを課題とする。また、本発明は、当該プリント配線板用表面処理銅箔を用いたプリント配線板用銅張積層板及びプリント配線板(回路基板)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の上記課題は下記手段により解決される。
〔1〕
粗化粒子が形成された表面にシランカップリング剤層を有するプリント配線板用表面処理銅箔であって、
前記シランカップリング剤層表面において、粗化粒子の平均高さが0.05μm以上0.5μm未満であり、
前記シランカップリング剤層表面のBET表面積比が1.2以上であるプリント配線板用表面処理銅箔。
〔2〕
前記シランカップリング剤層表面において、粗化粒子の平均高さが0.05μm以上0.3μm未満である、〔1〕に記載のプリント配線板用表面処理銅箔。
〔3〕
前記シランカップリング剤層表面において、微細表面係数Cmsが0.6以上2.0未満である、〔1〕又は〔2〕に記載のプリント配線板用表面処理銅箔。
〔4〕
前記の粗化粒子が形成された表面が、ニッケルを含む金属処理層を有し、前記金属処理層に含有されるニッケル元素量が0.1mg/dm以上0.3mg/dm未満である、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載のプリント配線板用表面処理銅箔。
〔5〕
前記シランカップリング剤層に含有されるSi元素量が0.5μg/dm以上15μg/dm未満である、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載のプリント配線板用表面処理銅箔。
〔6〕
前記シランカップリング剤が、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、ウレイド基、イソシアヌレート基、メルカプト基、スルフィド基、及びイソシアネート基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載のプリント配線板用表面処理銅箔。
〔7〕
〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載のプリント配線板用表面処理銅箔の、前記シランカップリング剤層表面に、樹脂層が積層されてなるプリント配線板用銅張積層板。
〔8〕
〔7〕に記載のプリント配線板用銅張積層板を用いたプリント配線板。
【発明の効果】
【0017】
本発明のプリント配線板用表面処理銅箔は、これをプリント配線板の導体回路に用いることにより、GHz帯の高周波信号を伝送した際の伝送損失が高度に抑えられ、且つ、高温下においても銅箔と樹脂基材(樹脂層)との密着性が高く過酷条件における耐久性にも優れ、さらに絶縁信頼性にも優れたプリント配線板を得ることができる。
本発明のプリント配線板用銅張積層板は、これをプリント配線板の基板として用いることにより、GHz帯の高周波信号を伝送した際の伝送損失が高度に抑えられ、且つ、高温下においても銅箔と樹脂基材との密着性が高く過酷条件における耐久性にも優れ、さらに絶縁信頼性にも優れたプリント配線板を得ることができる。
本発明のプリント基板は、GHz帯の高周波信号を伝送した際の伝送損失が高度に抑えられ、且つ、高温下においても銅箔と樹脂基材との密着性が高く過酷条件下における耐久性にも優れ、さらに短絡も生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】粗化粒子の高さの測定方法の一例を示す説明図である。
図2】粗化粒子の高さの測定方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のプリント配線板用表面処理銅箔の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0020】
[プリント配線板用表面処理銅箔]
本発明のプリント配線板用表面処理銅箔(以下、「本発明の表面処理銅箔」という。)は、粗化粒子が形成された表面(必要によりさらに防腐金属を付着させた面)がシランカップリング剤で処理されてなり(すなわち、粗化粒子が形成された表面にシランカップリング剤層を有してなり)、このシランカップリング剤層表面(表面処理銅箔最表面)において、粗化粒子の平均高さが0.05μm以上0.5μm未満であり、このシランカップリング剤層表面のBET表面積比が1.2以上である。本発明の表面処理銅箔は、その両面がシランカップリング剤で処理され、当該処理後の表面が平均高さ0.05μm以上0.5μm未満の粗化粒子を有する場合、少なくとも一方の面のBET表面積比が1.2以上であればよく、両面のBET表面積比が1.2以上であってもよい。
本発明の表面処理銅箔において、シランカップリング剤層表面であって、当該表面において測定される粗化粒子の平均高さが0.05μm以上0.5μm未満であり、且つ当該表面のBET表面積比が1.2以上である表面を、単に「粗化処理面」という。粗化処理面はその全体がシランカップリング剤で覆われていることが好ましいが、本発明の効果を奏する限りにおいて、粗化処理面の一部がシランカップリング剤で覆われていなくてもよい(すなわち、本発明の効果を奏する限り、粗化処理面のシランカップリング剤層の一部に膜欠陥が生じていてもよく、かかる形態も本発明における「シランカップリング剤層を有する」形態に包含される)。
本発明の表面処理銅箔は、少なくとも片面が粗化処理面であればよく、両面が粗化処理面であってもよい。本発明の表面処理銅箔は、通常は、片面のみが粗化処理面である形態である。
【0021】
本発明の表面処理銅箔において、粗化処理面は、粗化粒子の平均高さが0.5μm未満と低いにもかかわらず、BET表面積比が1.2以上と大きい。それ故、当該粗化処理面を介して表面処理銅箔と樹脂層とを積層し、銅張積層板を作製した際には、粗化粒子のアンカー効果と大きな表面積とが相俟って、銅箔と樹脂層との密着性が高度に高められ、耐熱性に優れた銅張積層板を得ることができる。また、当該粗化処理面は、粗化粒子の平均高さが0.5μm未満と低く、伝送経路の長さへの粗化粒子の存在の影響を小さく出来る。それ故、当該銅張積層板を用いた導体回路にGHz帯の高周波信号を伝送した際にも伝送損失を効果的に抑えることができる。
これまで、銅箔表面に平均高さが0.5μm未満という小さな粗化粒子を形成しながらも、BET表面積比を1.2以上にまで高める方法は知られていない。本発明者らはかかる状況下、後述する特定の粗化めっき処理条件を採用することにより、平均高さ0.05μm以上0.5μm未満の粗化粒子を有し、且つBET表面積比が1.2以上の銅箔表面を作り出すことに成功し、本発明を完成させるに至った。
樹脂基材との高度な密着性を維持しながら伝送損失をより効果的に低減する観点から、上記粗化処理面における上記粗化粒子の平均高さは0.05μm以上0.5μm未満が好ましく、0.05μm以上0.3μm未満がより好ましい。粗化処理面における粗化粒子の平均高さは、後述する実施例に記載の方法により測定される。
本発明において、粗化粒子は粗化処理面全体に一様に(均質に)形成されていることが好ましい。粗化粒子の平均高さは、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0022】
上記BET表面積比とは、BET法による表面積の測定方法に基づき算出されるものである。すなわち、上記BET表面積比は、試料表面に吸着占有面積が既知である気体分子を吸着させ、その吸着量に基づき試料の表面積(BET測定表面積)を求め、このBET測定表面積から試料表面に凹凸が無いと仮定した場合の表面積(試料切り出し面積)を差し引いた値の、当該試料切り出し面積に対する比であり、後述する実施例に記載の方法により測定される。
本発明の表面処理銅箔において、粗化処理面のBET表面積比は、その値が大きい程、表面積が大きいことを意味する。したがって、粗化処理面の上記BET表面積比が大きい程、樹脂との相互作用性が高まり、粗化粒子のアンカー効果と相俟って、樹脂層を積層した際の銅箔と樹脂層との密着性が向上する。本発明の表面処理銅箔において、粗化処理面のBET表面積比は1.2以上10以下が好ましく、1.2以上4以下がより好ましい。
【0023】
銅箔の表面積測定において一般的に用いられるレーザー顕微鏡による表面積測定では、粗化粒子の形状によりレーザー光が届かない「陰」となる部分の測定は原理的に不可能であり、また極微細な凹凸部分の表面積を高感度に検出することも困難である。例えば、高さと直径は同じ粗化粒子であっても、根元が括れている粗化粒子とそうでない粗化粒子を比較すると、樹脂と密着する面積が多いのは前者であるのに、レーザー顕微鏡による表面積測定では、ほぼ同一の値となってしまう。
これに対しBET法による表面積の測定では、気体分子の吸着により表面積を測定するので、微細な凹凸に対する感度が高く、レーザー光では「陰」となってしまう部分の測定も可能となる。したがって、粗化粒子を形成させた試料の表面積を、レーザー顕微鏡を用いた場合よりも、通常、高い精度で測定することができる。
本発明者らは、後述する特定の粗化めっき処理を施すことにより、レーザー顕微鏡では測定できない「陰」の部分や微細な凹凸部分の表面積の割合をより増大させることに成功した。これにより、粗化粒子の平均高さを抑えて、高周波信号を伝送した際の伝送損失を効果的に抑えながらも、樹脂基材との密着性を大きく高めることができることを見い出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0024】
微細表面積係数(Cms)は、レーザー顕微鏡で測定した表面積比に対する、BET法で測定した表面積比の比であり、レーザー顕微鏡では測定不可能な「陰」の部分や微細な凹凸部分の表面積の割合を数値化したものである。Cmsの算出方法の詳細は後述する実施例に記載される通りである。本発明の表面処理銅箔において、粗化処理面のCmsは、0.6以上2.0未満であることが好ましい。粗化処理面のCmsを0.6以上2.0未満とすることにより、当該表面と樹脂基材との密着性をより高めることができ、高温下における信頼性に優れた銅張積層板を得ることが可能となる。
本発明の表面処理銅箔において、粗化処理面のCmsが大きすぎると高温下における密着性はやや低下する傾向がある。この理由は定かではないが、レーザー顕微鏡では測定不可能な微細な凹凸部分の表面積の割合が大きすぎると、樹脂が充填されない凹凸部が空隙として残りやすくなり、その空隙部分を起点として加熱時に樹脂界面の銅の酸化が進行して密着性が低下することが一因と考えられる。
また、本発明の表面処理銅箔において、粗化処理面のCmsは0.6未満であっても構わないが、Cmsが小さすぎても高温下における密着性が低下する傾向がある。この詳細なメカニズムは定かではないが、Cmsが小さいということは、レーザー顕微鏡では測定不可能な「陰」の部分や微細な凹凸部分の割合が少ないことを意味し、機械的な密着効果(一般的にアンカー効果と言われる)が低下し、高温下において樹脂界面の銅の酸化が進行しやすくなることが一因と考えられる。粗化処理面のCmsは0.6以上2.0未満が好ましく、0.8以上1.8未満がより好ましい。
尚、レーザー顕微鏡により測定される表面積とBET法により測定される表面積とでは、表面積の測定原理が異なり、粗化処理面の形状によってはCmsが1未満となることも有り得る。
【0025】
本発明の表面処理銅箔において、シランカップリング剤処理前の、粗化粒子が形成された表面は、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、及びスズ(Sn)から選ばれる少なくとも1種の金属を有する金属処理層を有するか、又は、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、及びスズから選ばれる2種以上の金属からなる合金を有する金属処理層を有することが好ましい。この金属処理層は、ニッケル、亜鉛、及びクロムから選ばれる少なくとも1種の金属を有する金属処理層を有するか、又は、ニッケル、亜鉛、及びクロムから選ばれる2種以上の金属からなる合金を有する金属処理層を有することがより好ましい。
本発明の表面処理銅箔が用いられる銅張積層板やプリント配線板は、その作製工程において、樹脂と銅箔との接着工程や、はんだ工程など、しばしば熱が加えられる。この熱により、銅が樹脂側に拡散して、銅と樹脂との密着性を低下させることがあるが、上記金属処理層を設けることで銅の拡散を防ぎ、樹脂基材との高度な密着性をより安定的に維持することができる。また、金属処理層を構成する金属は、銅の錆を防ぐ防錆金属としても機能する。
銅箔のエッチング性をより高める観点からは、シランカップリング剤処理前の、粗化粒子が形成された表面における防錆金属としてのニッケル量の制御も重要である。すなわち、ニッケル付着量が多い場合、銅の錆が生じにくく高温下での樹脂との密着性は向上する傾向があるが、エッチング後にニッケルが残留しやすく、十分な絶縁信頼性が得られにくい。本発明の表面処理銅箔が金属処理層を有する場合、高温下における密着性とエッチング性を両立する観点から、金属処理層に含有されるニッケル元素量を0.1mg/dm以上0.3mg/dm未満となるようにすることが好ましい。
【0026】
[プリント配線板用表面処理銅箔の製造]
<銅箔>
本発明の表面処理銅箔の製造に用いる銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等、用途その他の目的に応じて選択することができる。
本発明の表面処理銅箔に用いる銅箔の箔厚に特に制限は無く、目的に応じて適宜に選択すればよい。上記箔厚は、通常は4〜120μmであり、5〜50μmが好ましく、6〜18μmがより好ましい。
【0027】
<粗化めっき処理>
本発明の表面処理銅箔の製造において、上記粗化処理面は、銅箔表面に特定条件で粗化めっき処理を施すことで形成することが可能になる。すなわち本発明は、本発明者らが、モリブデン濃度の特定の範囲内とし、且つ、後述する特定の条件下で電気めっき処理を施すことにより、上記粗化処理面を形成することが可能となることを見い出したことに基づく発明である。
【0028】
(粗化めっき処理条件)
上記粗化処理面の形成を可能とするためには、粗化めっき処理(電気めっき処理)において、モリブデン濃度を50mg/L以上600mg/L以下に制御することが必要である。モリブデン濃度を50mg/L未満とすると、粉落ち等の問題が生じやすい。また600mg/Lを超えると、他の特性を満足しつつ、シランカップリング剤処理後の表面(すなわち粗化処理面)のBET表面積比を1.2以上に高めることが難しくなる。
【0029】
上記粗化処理面の形成を可能とするためには、粗化めっき処理において、極間流速を0.15m/秒以上0.4m/秒以下とすることが必要である。極間流速を0.15m/秒未満とすると、銅箔上に発生した水素ガスの脱離が進まず、モリブデンの効果が得られにくくなって粉落ち等の問題が生じやすい。また極間流速が0.4m/秒を超えると微細な凹部への銅イオン供給が過剰に進み、凹部がめっきで埋まってしまい、シランカップリング剤処理後の表面のBET表面積比を1.2以上に高めることが難しくなる。
【0030】
上記粗化処理面の形成を可能とするためには、粗化めっき処理において、電流密度に処理時間を乗じた値を20(A/dm)・秒以上250(A/dm)・秒以下とすることが必要である。この値が20(A/dm)・秒未満であると、シランカップリング剤処理後において、粗化処理面の粗化粒子の高さを0.05μm以上にすることが難しくなるので積層する樹脂との十分な密着性を確保することが難しくなる。また250(A/dm)・秒を超えると、シランカップリング剤処理後において、粗化処理面の粗化粒子の高さを0.5μm未満とすることが難しくなるので伝送損失が悪化しやすくなる。上記の電流密度に処理時間を乗じた値は、20(A/dm)・秒以上160(A/dm)・秒未満とすることが好ましい。
【0031】
上記粗化処理面の形成を可能とするためには、粗化めっき処理において、電流密度に処理時間を乗じた値をMo濃度で割った値を0.2{(A/dm)・秒}/(mg/L)以上とする必要がある。この値が0.2{(A/dm)・秒}/(mg/L)未満であると他の特性を満足しつつ、シランカップリング剤処理後の表面のBET表面積比を1.2以上に高めることが難しくなる。またこの値が3.0{(A/dm)・秒}/(mg/L)を超えていても、上記粗化処理面を形成することは可能であるが、他の特性を満足しつつ粗化処理面のCmsを2.0未満とするのは難しくなる傾向がある。上記の電流密度に処理時間を乗じた値をMo濃度で割った値は、0.2{(A/dm)・秒}/(mg/L)以上3.0{(A/dm)・秒}/(mg/L)以下とすることが好ましく、0.2{(A/dm)・秒}/(mg/L)以上1.0{(A/dm)・秒}/(mg/L)未満とすることがより好ましい。
【0032】
上記粗化処理面の形成を可能とするための好ましい粗化めっき処理条件を以下に示す。
−粗化めっき処理条件−
Cu :10〜30g/L
SO :100〜200g/L
浴温 :20〜30℃
Mo濃度 :50〜600mg/L
極間流速 :0.15〜0.4m/秒
電流密度 :15〜70A/dm
処理時間 :0.1〜10秒
電流密度×処理時間 :20〜250(A/dm)・秒
電流密度×処理時間÷Mo濃度 :0.2〜3.0{(A/dm)・秒}/(mg/L)
【0033】
なお、めっき液へのモリブデンの添加は、モリブデンがイオンとして溶解する形態であり、かつ、硫酸銅めっき液のpHを変化させたり、銅めっき皮膜に取り込まれるような金属不純物を含んだりしていなければ特に制限されるものではない。例えば、モリブデン酸塩(例えばモリブデン酸ナトリウムやモリブデン酸カリウム)の水溶液を硫酸銅めっき液に添加することができる。
【0034】
<金属処理層>
本発明の表面処理銅箔が金属処理層を有する場合、金属処理層の形成方法に特に制限はなく、常法により形成することができる。例えば、ニッケル、亜鉛及びクロムを有する金属処理層を形成する場合を例にとると、下記条件で、ニッケルめっき、亜鉛めっき、クロムめっきを、例えばこの順に施すことで、金属処理層を形成することができる。
【0035】
(Niめっき)
Ni :10〜100g/L
BO :1〜50g/L
PO :0〜10g/L
浴温 :10〜70℃
電流密度 :1〜50A/dm
処理時間 :1秒〜2分
pH :2.0〜4.0
(Znめっき)
Zn :1〜30g/L
NaOH :10〜300g/L
浴温 :5〜60℃
電流密度 :0.1〜10A/dm
処理時間 :1秒〜2分
(Crめっき)
Cr :0.5〜40g/L
浴温 :20〜70℃
電流密度 :0.1〜10A/dm
処理時間 :1秒〜2分
pH :3.0以下
【0036】
本発明の表面処理銅箔は、粗化処理面に存在するSi元素量(すなわち、シランカップリング剤層に含有されるSi元素量)が0.5μg/dm以上15μg/dm未満であることが好ましい。このSi元素量を0.5μg/dm以上15μg/dm未満とすることにより、シランカップリング剤の使用量を抑えながら、樹脂との密着性を効果的に高めることができる。シランカップリング剤層に含有されるSi元素量は、2μg/dm以上8μg/dm未満であることがより好ましい。
上記シランカップリング剤は、本発明の表面処理銅箔と積層される樹脂層を構成する樹脂の分子構造(官能基の種類等)に応じて適宜に選択されるものである。なかでも上記シランカップリング剤は、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、ウレイド基、イソシアヌレート基、メルカプト基、スルフィド基、及びイソシアネート基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。「(メタ)アクリロイル基」は、「アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基」の意味である。
【0037】
粗化粒子を形成した銅箔表面のシランカップリング剤による処理は常法により行うことができる。例えば、シランカップリング剤の溶液(塗布液)を調製し、この塗布液を、粗化粒子を形成した銅箔表面に塗布し、乾燥させることで、粗化粒子を形成した銅箔表面にシランカップリング剤を吸着ないし結合させることができる。上記塗布液としては、例えば純水を用いてシランカップリング剤を0.05wt%〜1wt%の濃度で含有する溶液を用いることができる。
上記塗布液の塗布方法に特に制限はなく、例えば、銅箔を斜めにした状態で、粗化粒子を形成した表面に塗布液を均一に流し、ロールを用いて液切りをした後に加熱乾燥させたり、ロール間に、粗化粒子を形成した表面を下向きにして張られた銅箔に、塗布液を噴霧して、ロールで液切り後に加熱乾燥したりすることにより、塗布することができる。塗布温度に特に制限はなく、通常は10〜40℃で実施する。
【0038】
[プリント配線板用銅張積層板]
本発明のプリント配線板用銅張積層板(以下、「本発明の銅張積層板」という。)は、本発明の表面処理銅箔の粗化処理面に、樹脂層(樹脂基材)を積層した構造を有する。当該樹脂層に特に制限はなく、プリント配線板を作製するための銅張積層板に通常用いられる樹脂層を採用することができる。一例を挙げれば、リジット基板に使用されるガラスエポキシ系のハロゲンフリー低誘電樹脂基材や、フレキシブル基板に汎用されるポリイミド系の低誘電樹脂基材を用いることができる。
表面処理銅箔と、樹脂基材との積層方法に特に制限はなく、例えば、熱プレス加工機を用いた熱加圧成形法等により、銅箔と樹脂基材とを接着させることができる。上記熱加圧成形法におけるプレス温度は150〜400℃程度とすることが好ましい。また、プレス面圧は1〜50MPa程度とすることが好ましい。
銅張積層板の厚さは、10〜1000μmが好ましい。
【0039】
[プリント配線板]
本発明のプリント配線板は、本発明の銅張積層板を用いて作製される。すなわち、本発明の銅張積層板をエッチング等の処理を施し、導体回路パターンを形成し、更に、必要に応じてその他の構成を常法により形成ないし搭載して得ることができる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下は本発明の一例であり、本発明の実施にあたっては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態を採用することができる。
【0041】
[銅箔の製造]
粗化処理を施すための基材となる銅箔として、電解銅箔又は圧延銅箔を使用した。
実施例2〜4、6〜16、比較例1〜4、6、7及び参考例1では、下記条件により製造した、厚さ12μmの電解銅箔を用いた。
<電解銅箔の製造条件>
CuSO :280g/L
SO :70g/L
塩素濃度 :25mg/L
浴温 :55℃
電流密度 :45A/dm
(添加剤)
・3−メルカプト1−プロパンスルホン酸ナトリウム :2mg/L
・ヒドロキシエチルセルロース :10mg/L
・低分子量膠(分子量3000) :50mg/L
【0042】
実施例1、5、及び比較例5では、市販の12μmのタフピッチ銅圧延箔(株式会社UACJ製)に対し、下記条件で脱脂処理を行ったものを用いた。
<脱脂処理条件>
脱脂溶液 :クリーナー160S(メルテックス株式会社製)の水溶液
脱脂溶液濃度 :60g/L水溶液
浴温 :60℃
電流密度 :3A/dm
通電時間 :10秒
【0043】
[粗化処理面の形成]
電気めっき処理により、上記銅箔の片面に粗化めっき処理を施した。この粗化めっき処理面は、下記の粗化めっき液基本浴組成を用いて、モリブデン濃度を下記表1記載の通りとし、且つ、極間流速、電流密度、処理時間を下記表1記載の通りとして形成した。モリブデン濃度は、モリブデン酸ナトリウムを純水に溶解した水溶液を基本浴に加えることで調整した。
<粗化めっき液基本浴組成>
Cu :25g/L
SO :180g/L
浴温 :25℃
【0044】
【表1】
【0045】
<金属処理層の形成>
続いて、実施例1〜6、8〜16及び比較例1〜3、5〜7については、上記で形成した粗化めっき処理面に、さらに表2記載のめっき条件で、Ni、Zn、Crの順に金属めっきを施して金属処理層を形成した。
<Niめっき>
Ni :40g/L
BO :5g/L
浴温 :20℃
pH :3.6
<Znめっき>
Zn :2.5g/L
NaOH :40g/L
浴温 :20℃
<Crめっき>
Cr :5g/L
浴温 :30℃
pH :2.2
【0046】
<シランカップリング剤の塗布(粗化処理面の形成)>
実施例1〜16及び比較例1〜7については、粗化めっき処理面(金属処理層を形成した場合は金属処理層表面)全体に、表2記載の市販のシランカップリング剤の溶液(30℃)を塗布し、スキージーで余分な液切りを行った後、120℃大気下で30秒間乾燥させ、粗化処理面を形成した。各シランカップリング剤の溶液の調製方法は以下の通りである。
【0047】
3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM−402):純水で0.3wt%溶液を調製。
3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM−903):純水で0.25wt%溶液を調製。
ビニルトリメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM−1003):純水に硫酸を添加してpH3に調整した溶液で0.2wt%溶液を調製。
3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM−502):純水に硫酸を添加してpH3に調整した溶液で0.25wt%溶液を調製。
3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学株式会社製 KBE−9007):純水に硫酸を添加してpH3に調整した溶液で0.2wt%溶液を調製。
3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン(信越化学株式会社製 KBE−585):エタノールと純水を1:1で混合した溶液で0.3wt%溶液を調製。
【0048】
【表2】
【0049】
[粗化粒子の平均高さの測定]
粗化処理面における粗化粒子の平均高さは、イオンミリング処理することで得られた銅箔の厚み方向と平行な断面をSEM観察することで求めた。詳細を以下に説明する。
図1は、実施例5で製造した表面処理銅箔の粗化処理面(シランカップリング剤処理後の表面)の厚み方向に平行な断面のSEM像である。同様に、各表面処理銅箔の断面において、視野内に粗化粒子の頭頂部と底部が確認でき、かつ、粗化粒子が10個前後含まれるような倍率で、無作為に異なる5視野についてSEM観察した。一つの表面処理銅箔の5つの視野毎に、高さの最も高い粗化粒子の当該高さを測定し、得られた5つの測定値(最大値)の平均を、その表面処理銅箔の粗化処理面における粗化粒子の平均高さとした。
粗化粒子の高さの測定方法を、図面を用いて詳細に説明する。図1に示されるように、測定対象とする粗化粒子について、左右の最底部を結んだ直線(a点とb点を結んだ直線)との最短距離が最も長い、当該粗化粒子の頭頂部(c点)と、a点とb点を結んだ直線との最短距離を、粗化粒子の高さHとした。
図2は、実施例6で製造した表面処理銅箔の粗化処理面(シランカップリング剤処理後の表面)の厚み方向に平行な断面のSEM像である。このように粗化粒子が枝分かれして形成されている場合には、枝分かれ構造を含めた全体を、1つの粗化粒子とみなす。すなわち、樹枝状に形成した粗化粒子の左右の最底部を結んだ直線(d点とe点を結んだ直線)との最短距離が最も長い、当該粗化粒子の頭頂部(f点)と、d点とe点を結んだ直線との最短距離を、粗化粒子の高さHとした。
結果を下記表3に示す。
【0050】
[BET表面積比Aの測定]
BET表面積比Aは、BET法により測定される粗化処理面の表面積(BET測定表面積)を、平面視面積となる試料切り出し面積で除することで算出される。
BET測定表面積は、マイクロメリティクス社製ガス吸着細孔分布測定装置ASAP2020型を使用して、クリプトンガス吸着BET多点法により測定した。測定前に、前処理として150℃で6時間の減圧乾燥を行った。
測定に使用する試料(銅箔)は、およそ3gとなる3dmを切り出して、5mm角に切り分けた後、測定装置内に導入した。
BET法による表面積測定では装置内に導入した試料全面の表面積を測定するため、片面を粗化処理した上記の表面処理銅箔における当該粗化処理面のみの表面積を測定することはできない。そこで、BET表面積比Aは、実際には下記の通り算出した。
【0051】
<BET表面積比Aの算出>
粗化処理が施されていない面(上記粗化処理面と反対側の面)の表面積比を1、つまり試料切り出し面積と同一であるとみなし、下記式によりBET表面積比Aを算出した。
(BET表面積比A)=[(BET測定表面積)−(試料切り出し面積)]/(試料切り出し面積)
【0052】
尚、BET法の表面積測定では粗化処理面及び粗化処理が施されていない面以外の面(側面)の表面積も測定されるが、本発明の想定している最も厚い箔厚である120μmであってもその割合は全平面視面積の5%未満であるので、事実上無視できる。
【0053】
参考例1のように、表面が粗化処理されていないものでは、BET法の測定原理に起因し、BET測定表面積が切り出し面積よりも小さくなることがある(つまり、BET表面積比Aが1未満となることがある)。一方、粗化処理により微細な凹凸を有する表面を形成した場合には、BET法を適用することにより、微細な凹凸等を高感度に検出することが可能となり、結果、BET表面積比Aは1を超えるようになる。
【0054】
[レーザー表面積比Bの測定]
レーザー表面積比Bは、レーザーマイクロスコープVK8500(キーエンス社製)を用いた表面積測定値に基づき算出した。より詳細には、試料(銅箔)の粗化処理面を、倍率1000倍で観察し、平面視面積6550μm部分の三次元表面積を測定して、当該三次元表面積を6550μmで除することにより、レーザー表面積比Bを求めた。測定ピッチは0.01μmとした。結果を表3に示す。
【0055】
[微細表面係数Cmsの計算]
微細表面係数Cmsは、上記BET表面積比Aと上記レーザー表面積比Bを用いて下記式に基づき算出した。結果を下記表3に示す。

微細表面係数Cms=BET表面積比A/レーザー表面積比B
【0056】
[Niの測定]
Ni元素量(mg/dm)は、試料の粗化めっき処理を行っていない面を塗料でマスキングした後10cm角に切り出し、80℃に加温した混合酸(硝酸2:塩酸1:純水5(体積比))で表面部のみを溶解した後、得られた溶液中のNi質量を日立ハイテクサイエンス社製の原子吸光光度計(型式:Z−2300)を用いて原子吸光分析法により定量分析を行って求めた。結果を下記表3にNi元素量として示す。なお、上記で測定されるNi元素量は、すなわち金属処理層に含有されるNi元素量である。
【0057】
[Siの測定]
粗化処理面のSi元素量(μg/dm)は(すなわち、シランカップリング剤層に含有されるSi元素量は)、Ni元素量と同様にして、原子吸光分析法により定量分析を行って求めた。結果を下記表3にSi元素量として示す。
【0058】
【表3】
【0059】
[高周波特性の評価]
高周波特性の評価として高周波帯域での伝送損失を測定した。上記各実施例及び比較例で製造した、粗化処理面を有する表面処理銅箔の当該粗化処理面(シランカップリング剤で処理した面)を、株式会社カネカ製のラミネート用ポリイミドであるPIXEO(FRS−522 厚さ12.5μm)に張り合わせ、温度350℃、面圧5MPaで20分間プレスすることで銅張積層板とし、次いで、幅100μm、長さ40mmのマイクロストリップラインの伝送路を形成した。この伝送路に、ネットワークアナライザを用いて100GHzまでの高周波信号を伝送し、伝送損失を測定した。特性インピーダンスは50Ωとした。
伝送損失の測定値は、絶対値が小さいほど伝送損失が少なく、高周波特性が良好であることを意味する。表4には20GHzと70GHzにおける伝送損失の評価結果を記載する。その評価基準は下記の通りである。
<20GHzの伝送損失評価基準>
◎:伝送損失が−6.2dB以上
○:伝送損失が−6.2dB未満から−6.5dB以上
×:伝送損失が−6.5dB未満
<70GHzの伝送損失評価基準>
◎:伝送損失が−20.6dB以上
○:伝送損失が−20.6dB未満から−24.0dB以上
×:−24.0dB未満
【0060】
さらに、上記伝送損失の評価結果に基づき、下記評価基準に基づき高周波特性を総合評価した。結果を下記表4に示す。
<高周波特性総合評価基準>
◎(優良):20GHzの伝送損失と70GHzの伝送損失の評価結果がいずれも◎である。
○(良):20GHzの伝送損失の評価結果が◎で、70GHzの伝送損失の評価結果が○である。
△(合格):70GHzの伝送損失の評価結果が×であるが、20GHzの伝送損失が◎又は○である。
×(不合格):20GHzの伝送損失と70GHzの伝送損失の評価結果がいずれも×である。
【0061】
[耐熱密着性の評価]
上記[高周波特性の評価]で作製した銅張積層板と同様にして銅張積層板を作製し、得られた銅張積層板の銅箔部を10mm巾テープでマスキングした。この銅張積層板に対して塩化銅エッチングを行った後テープを除去し、10mm巾の回路配線板を作製した。この回路配線板を150℃の加熱オーブンにて1000時間加熱した後、常温下において東洋精機製作所社製のテンシロンテスターを用いて、回路配線板の10mm巾の回路配線部分(銅箔部分)を90度方向に50mm/分の速度でポリイミド樹脂基材から剥離した際の剥離強度を測定した。得られた測定値を指標にして、下記評価基準に基づき耐熱密着性を評価した。結果を下記表4に示す。
<耐熱密着性の評価基準>
◎:剥離強度が0.7kN/m以上
○:剥離強度が0.6kN/m以上0.7kN/m未満
△:剥離強度が0.5kN/m以上0.6kN/m未満
×:剥離強度が0.5kN/m未満
【0062】
[エッチング性の評価]
銅箔表面への金属の付着量が多いと、回路形成のためのエッチングの際に、金属残渣が樹脂基材表面に残留しやすくなる。金属残渣が樹脂基材表面に残留すると、絶縁抵抗が低下する不具合が生じる。特に、ニッケルは銅よりもエッチング速度が小さいため、付着量が大きいと、絶縁性が低下して短絡が生じやすくなる。
そこで、上記[高周波特性の評価]で作製した銅張積層板と同様にして作製した銅張積層板を用いて、IPC試験規格TM−650の2.5.17に基づいて絶縁抵抗値を測定した。より詳細には、上記銅張積層板を10cm×10cmサイズに切り出し、銅箔パターンをエッチングにより形成した。試験規格に基づき、表面抵抗の測定を3回実施し、3回の測定値の平均値を求めた。得られた表面抵抗値の平均値を指標にして下記評価基準に基づきエッチング性を評価した。結果を下記表3に示す。
<エッチング性の評価基準>
◎:表面抵抗値の平均値が1014Ω以上
○:表面抵抗値の平均値が1013Ω以上1014Ω未満
×:表面抵抗値の平均値が1013Ω未満
【0063】
[総合評価]
上記の高周波特性、耐熱密着性及びエッチング性のすべてを総合し、下記評価基準に基づき総合評価した。
<総合評価の評価基準>
AA(優良):高周波特性の総合評価、耐熱密着性及びエッチング性の評価結果がいずれも◎である。
A(良):高周波特性の総合評価、耐熱密着性及びエッチング性のうち○評価が1つで、残り2つの評価が◎である。
B(合格):上記AA及びAのいずれにも該当しないが、×評価がない。
C(不合格):高周波特性の総合評価、耐熱密着性及びエッチング性のうち少なくとも1つの評価が×である。
【0064】
【表4】
【0065】
上記各表に示された結果について考察する。
比較例1は、表面処理銅箔の粗化処理面に存在する粗化粒子の平均高さが本発明で規定するよりも小さい例である。比較例1の表面処理銅箔を用いて銅張積層板を作製した場合には、銅箔と樹脂基材との耐熱密着性に劣る結果となった。
比較例2、3、6及び7は、表面処理銅箔の粗化処理面のBET表面積比が本発明で規定するよりも小さい例である。比較例2、3、6及び7の表面処理銅箔を用いて銅張積層板を作製した場合には、銅箔と樹脂基材との耐熱密着性に劣る結果となった。
比較例4及び5は、表面処理銅箔の粗化処理面に存在する粗化粒子の平均高さが本発明で規定するよりも大きい例である。比較例4及び5の表面処理銅箔を用いて銅張積層板を作製し、導体回路を形成した場合には、高周波特性に大きく劣る結果となった。
また、参考例1は、銅箔に粗化処理を施していない例である。参考例1の銅箔を用いて銅張積層板を作製した場合には、銅箔と樹脂基材との耐熱密着性に大きく劣る結果となった。
【0066】
これに対し、表面処理銅箔の粗化処理面に形成された粗化粒子の平均高さが本発明で規定する範囲内にあり、且つ、当該粗化処理面のBET表面積比も本発明で規定を満たす実施例1〜16の表面処理銅箔は、これを用いて銅張積層板を作製した際には、銅箔と樹脂基材との耐熱密着性に優れていた。さらに、実施例1〜16の表面処理銅箔を用いた銅張積層板から形成した導体回路は高周波信号を伝送しても伝送損失が効果的に抑えられ、さらに絶縁信頼性にも優れていた。
図1
図2