特許第6183060号(P6183060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183060
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/06 20100101AFI20170814BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20170814BHJP
【FI】
   H01L33/06
   H01L33/32
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-174035(P2013-174035)
(22)【出願日】2013年8月24日
(65)【公開番号】特開2015-43352(P2015-43352A)
(43)【公開日】2015年3月5日
【審査請求日】2016年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104949
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100074354
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康弘
(72)【発明者】
【氏名】林 斉一
【審査官】 高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−119560(JP,A)
【文献】 特開2007−067418(JP,A)
【文献】 特開2003−234545(JP,A)
【文献】 特表2012−522390(JP,A)
【文献】 特開2008−288397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
井戸層および障壁層を有する活性層を備える半導体発光素子であって、
前記井戸層が、Inを含む窒化ガリウム系半導体で構成されており、
前記井戸層の厚さ方向におけるInの濃度変化を示す勾配が、前記井戸層に印加されるピエゾ電界の、負極側から正極側に向かって、
Inの濃度を略一定に維持させ又は低下させた第一領域と、
前記第一領域に連接され、該第一領域よりも急峻にInの濃度を低下させる第二領域と
を設けており、
前記第二領域の終端縁が障壁層と接しており、
前記第二領域における障壁層側の端縁に含まれるInの濃度が、前記第一領域における障壁層側の端縁に含まれるInの濃度の、40%〜60%であることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
n型半導体層と、
井戸層および障壁層を有する活性層と、
p型半導体層と
を順に備える半導体発光素子であって、
前記井戸層が、Inを含む窒化ガリウム系半導体で構成されており、
前記障壁層が、前記井戸層よりもIn混晶比の小さいInxGa1-xN(0≦x<1)で構成されており、
前記井戸層の厚さ方向におけるInの濃度変化を示す勾配が、前記n型半導体層側から前記p型半導体層側に向かって、
In濃度を略一定に維持させ又は低下させた第一領域と、
前記第一領域に連接され、該第一領域よりも急峻にInの濃度を低下させる第二領域と
を設けており、
前記第二領域の終端縁が障壁層と接しており、
前記第二領域における障壁層側の端縁に含まれるInの濃度が、前記第一領域における障壁層側の端縁に含まれるInの濃度の、40%〜60%であることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体発光素子であって、
前記第一領域では、Inの濃度が略一定値であることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一に記載の半導体発光素子であって、
前記第二領域の厚さが、前記第一領域の厚さと同じか、又はこれよりも薄く形成されてなることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一に記載の半導体発光素子であって、
前記第二領域における障壁層側の端縁にInを含むことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一に記載の半導体発光素子であって、
前記第二領域の終端縁が、井戸層と障壁層の界面において、垂直領域を形成してなることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一に記載の半導体発光素子であって、
前記井戸層の厚さは、2nm〜10nmであることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一に記載の半導体発光素子であって、
前記障壁層の厚さは、1nm〜15nmであることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一に記載の半導体発光素子であって、
前記障壁層がGaNであることを特徴とする半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子に関し、特に量子井戸活性層を有する半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)やレーザダイオード(Laser Diode:LD)等の半導体発光素子は、バックライト等に用いる各種光源、照明、信号機、大型ディスプレイ等に幅広く利用されている。特に窒化ガリウム系(GaN系)化合物半導体を利用した発光素子は、短波長用の発光素子として用いられている。
【0003】
このような半導体発光素子は、基板上にn型半導体層とp型半導体層とが積層され、n型半導体層とp型半導体層との間に活性層が配置される。活性層には、発光効率を高めるために量子井戸構造が採用されており、井戸層と障壁層とが交互に複数積層されて形成される。例えば井戸層としてInGaN、障壁層としてGaNを使用する場合には、井戸層と障壁層との界面において、格子定数差による圧電分極が生じる。この圧電分極によってピエゾ電界が発生し、バンドギャップに歪みが生じることが知られている。
【0004】
図8に、InGaNの井戸層20とGaNの障壁層22との積層方向に対して、In濃度を一定としたIn組成プロファイルを示す。またこのようなIn組成プロファイルを採用した活性層の、ピエゾ電界による歪みが生じていない状態のバンドプロファイルを図9に示し、ピエゾ電界によって歪みが生じたバンドプロファイルを図10に示す。この場合には、各井戸層20の基板側とは反対側に正の分極電荷が生成され、各井戸層20の基板側に負の分極電荷が生成される。この分極電荷によって、各井戸層20の伝導帯及び価電子帯のエネルギーは、基板側で高くなり、基板の反対側で低くなる。電子は各井戸層20の基板側とは反対側に存在し、正孔は井戸層20の基板側に存在する。このように電子と正孔とが分離すると、電子波動関数と正孔波動関数とが井戸層の両側に離れるため、電子と正孔との再結合の確率が低下する。
【0005】
このような問題について、井戸層のIn組成を積層厚さ方向に変化させることが考えられる。特許文献2,3には、基板側から基板の反対側に向かってIn濃度を直線状に低下させることが記載されている。図11は、このときのIn組成プロファイル(下)とバンドプロファイル(上)とを示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−026812号公報
【特許文献2】特開2003−60232号公報
【特許文献3】特開2005−56973号公報
【特許文献4】特開2008−288397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この場合に、電子は、井戸層20の厚み方向に沿った直線状の伝導帯23に均一に存在しているが、正孔は価電子帯の基板側の頂24に偏在しているので、オージェ過程による非発光再結合の確率が高くなると共に、電子と正孔との再結合の確率が低くなる。さらに、正孔は、各井戸層20の価電子帯の頂24に偏在しているので、隣接する井戸層20との間で正孔がトンネル効果によって移動しなければならない移動距離Dが長くなり、キャリア移動度が低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、従来のこのような問題点を解決するためになされたものである。本発明の主な目的は、発光効率を高めた半導体発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の一の側面に係る半導体発光素子によれば、井戸層と障壁層を交互に繰り返した量子井戸構造を有する活性層を備える半導体発光素子であって、前記井戸層が、Inを含む窒化ガリウム系半導体で構成されており、前記井戸層の厚さ方向におけるInの濃度変化を示す勾配が、前記井戸層に印加されるピエゾ電界の、負極側から正極側に向かって、Inの濃度を略一定に維持させ又は低下させた第一領域と、前記第一領域に連接され、該第一領域よりも急峻にInの濃度を低下させる第二領域とを設けることができる。
【0010】
また、本発明の他の側面に係る半導体発光素子によれば、n型半導体層と、井戸層と障壁層を交互に繰り返した量子井戸構造を有する活性層と、p型半導体層とを順に備える半導体発光素子であって、前記井戸層が、Inを含む窒化ガリウム系半導体で構成されており、前記井戸層の厚さ方向におけるInの濃度変化を示す勾配が、前記n型半導体層側から前記p型半導体層側に向かって、In濃度を略一定に維持させ又は低下させた第一領域と、前記第一領域に連接され、該第一領域よりも急峻にInの濃度を低下させる第二領域とを設けることができる。
【発明の効果】
【0011】
上記構成によれば、電子波動関数と正孔波動関数とが井戸層の両側に離れて位置して、電子と正孔とが空間的に分離することを防止して、電子と正孔との再結合確率を上げることができる。また、価電子帯の正孔が頂に偏在してオージェ過程による非発光再結合の確率が増加することを防止することができる。さらに、井戸層の厚さ方向におけるInの濃度変化を示す勾配が、第一領域と第一領域よりも急峻な第二領域とを備えているので、井戸層間に位置する価電子帯側の障壁層の厚みが薄くなり、正孔がトンネル効果によって移動しなければならない移動距離Dが短くなる結果、キャリア移動度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る半導体発光素子の積層構造を示す模式図である。
図2】活性層のIn組成プロファイルとバンドプロファイルとを示す図である。
図3図2のバンドプロファイルの要部拡大図である。
図4】変形例に係る井戸層のIn組成プロファイルの拡大図である。
図5】他の変形例に係る井戸層のIn組成プロファイルの拡大図である。
図6】さらに他の変形例に係る井戸層のIn組成プロファイルの拡大図である。
図7】各実施例、比較例に係る半導体発光素子を80mAで駆動させた場合の発光強度を測定した結果を示すグラフである。
図8】従来の半導体発光素子(比較例1)の活性層のIn組成プロファイルを示す図である。
図9】ピエゾ電界による歪みが生じていない状態のバンドプロファイルを示す図である。
図10】ピエゾ電界によって歪みが生じた状態のバンドプロファイルを示す図である。
図11】従来の半導体発光素子(比較例2)の活性層のIn組成プロファイルとバンドプロファイルとを示す。
図12】比較例3に係る半導体発光素子の井戸層のバンドプロファイルを示す図である。
図13】各実施例、比較例に係る半導体発光素子を120mAで駆動させた場合の発光強度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態及び実施例を、図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態及び実施例は、本発明の技術思想を具体化するための、半導体発光素子及び発光装置を例示するものであって、本発明は、半導体発光素子及び発光装置を以下のものに特定しない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。さらに、本明細書において、層上等でいう「上」とは、必ずしも上面に接触して形成される場合に限られず、離間して上方に形成される場合も含んでおり、層と層の間に介在層が存在する場合も包含する意味で使用する。
(実施の形態1)
【0014】
本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子100の積層構造の模式図を図1に示す。この半導体発光素子100は、サファイアからなる基板1の上に、AlGaNバッファ層2、n型GaNコンタクト層5、格子緩和層6、n型GaNクラッド層4、活性層7、p型AlGaNクラッド層8、p型GaNコンタクト層9が順次積層されている。p型GaNコンタクト層9には、p側電極10Aが形成されており、一方n型GaNコンタクト層5には、n側電極10Bが形成されている。さらにp側電極10aとp型コンタクト層9との間であって、p型コンタクト層9の上面全体に、透光性導電膜9B(例えば、ITO、ZnO等)を備えることもできる。なお、本実施形態において、n型GaNクラッド層4及びn型GaNコンタクト層5が第一導電型半導体層(n型半導体層)であり、p型GaNクラッド層8及びp型GaNコンタクト層9が第二導電型半導体層(p型半導体層)である。
(格子緩和層6)
【0015】
n型半導体層と活性領域との間には、インジウムを含む格子緩和層6を設けることができる。格子緩和層6は、例えばSiドープしたIn0.05Ga0.95Nよりなる第一層と、GaNよりなる第二層とを30回繰り返して積層した多層膜(例えば、超格子構造)とする。このとき、第一層InGaNのIn混晶比としては、0.02以上0.3以下の範囲であれば、十分にバッファ層として機能させることができる。このように、結晶性の良好なn型半導体層と活性領域の間に、緩衝層の働きを持ったインジウムを含む格子緩和層6を設けることで、活性層への応力を緩和でき、不要な応力の印加を回避できる。なお、このような格子緩和層6としては、温度を1000℃でインジウムを含むノンドープ単層としても、十分にバッファ層として機能させることができる。加えて、格子緩和層6にn型不純物をドープしてもよい。これによりキャリアの注入効率やキャリア量を増加させることができ、この結果、発光効率が向上すると共にVfを低減できる効果を得られる。この場合は、さらにSiドープすれば抵抗率を下げることができるため、低抵抗なバッファ層とすることができる。
(活性層7)
【0016】
活性層7として、少なくともInを含む窒化物半導体、好ましくはInxGa1-xN(0≦x<1)を含む井戸層11と、障壁層12とを有する多重量子井戸構造又は単一量子井戸構造が用いられる。井戸層11と障壁層12とはInの組成が異なり、井戸層11のバンドギャップは障壁層12のバンドギャップよりも狭い。井戸層11と障壁層12とは格子定数が異なることから、井戸層11と障壁層12との界面において格子定数差によるピエゾ電界が発生する。ピエゾ電界によって、電子が存在する位置と正孔が存在する位置とが分離して、発光再結合確率が低下することを防止するために、井戸層11に印加されるピエゾ電界の負極側から正極側に向かって、例えば本実施形態では井戸層11のIn濃度を積層方向に変化させている。
【0017】
このIn組成プロファイルとバンドプロファイルとを図2に、その拡大図を図3に、それぞれ示す。基板1側から略1/2の厚みの範囲においては、第一領域14が示すようにIn濃度は一定とされ、基板1側とは反対側の略1/2の厚みの範囲において、第二領域15が示すようにIn濃度は基板1の反対側に向かって減少している。
【0018】
井戸層11の価電子帯のバンドプロファイルは、基板1側から緩やかに減少する第一プロファイル16と、井戸層11の略1/2の厚みの位置から急激に減少する第二プロファイル17とを備えている。井戸層11の価電子帯の正孔は、井戸層11の深いところの頂18に集中して偏在することなく存在している。
【0019】
なお、井戸層11の伝導帯には、中央にV字状の浅い谷部が形成されており、電子はこの谷部を形成する2辺に沿って存在している。
【0020】
井戸層の厚さは、2nm〜10nmとするのが好ましく、さらに好ましくは2.5〜5nmとする。
【0021】
障壁層は、好ましくはGaNとする。また障壁層の厚さは、1nm〜15nmとするのが好ましい。
【0022】
さらに第二領域の端縁である井戸層と障壁層の界面におけるInの濃度が、第一領域の端縁である障壁層と井戸層の界面におけるInの濃度の、40%〜60%とすることが好ましい。
【0023】
価電子帯の正孔は、図2に示すように、第一領域14におけるInの濃度を略一定値とすることによって、基板1側から緩やかに減少する第一プロファイル16を得ることができるため、井戸層11のある程度の厚さの範囲に存在することになる。これにより、電子波動関数と正孔波動関数とが離れて位置して、電子とホールとが空間的に分離することを防止することができ、電子とホールとの再結合確率を上げることができる。さらに、価電子帯の正孔が頂18に偏在しないので、オージェ過程による非発光再結合の確率が増加することを防止することができる。正孔は、井戸層11のある程度の厚さの範囲に存在するので、隣接する井戸層11との間で正孔がトンネル効果によって移動しなければならない移動距離D’は、正孔が頂18に偏在している場合に比べて短くなり、キャリア移動度の低下を抑制することができる。これによって発光効率を高めることができる。
【0024】
なお、活性層7において、第二領域15の厚さは、第一領域14の厚さと同じか、あるいは第一領域14の厚さよりも薄く形成することができる。図2においては、井戸層11のIn濃度は、基板1側から略1/2の厚みの範囲(第一領域14)において一定とされ、基板1側とは反対側の略1/2の厚みの範囲(第二領域15)においては、基板1の反対側に向かって直線状に減少しているが、井戸層11のIn濃度が一定とされる範囲(第一領域14)は基板1側から略1/2の厚みに限定されない。In濃度が一定とされる範囲は(第一領域14)、図4に示す変形例のように、たとえば基板1側から1/3程度の範囲とすることができる。あるいは、図5に示す変形例のように、基板1側から井戸層11の厚みの5%程度の範囲に止めることもできる。さらに、図示しないが基板1側から1/2以上の厚みの広い範囲とすることができる。In濃度が一定とされる範囲(第一領域14)を広くすると、正孔がトンネル効果によって移動しなければならない移動距離が短くなり、正孔は井戸層間をさらに容易に移動することができるので、キャリア移動度の低下を抑制することができる。
【0025】
第一領域及び第二領域を含む井戸層におけるInの濃度のプロファイルは、図2に示すように、第二領域の終端縁である井戸層と障壁層の界面において、垂直領域VAを形成する(第二領域における障壁層側の端縁にInを含む)ことが好ましい。この垂直領域VAが長くなると、第二プロファイル17の傾斜が第一プロファイル16からなだらかとなって、正孔が溜まる領域が拡大されるので、価電子帯の正孔が導電帯の電子と重なる領域が増える結果、再結合が増えて発光効率が改善される効果が得られる。具体的には、Inが最も含有された第二領域の左端に対して、第二領域の右端の垂直領域VAを40〜60%程度とする(第二領域における障壁層側の端縁に含まれるInの濃度が、第一領域における障壁層側の端縁に含まれるInの濃度の、40%〜60%程度とする)ことが好ましく、これによって正孔と電子が重なる領域が増え、オージェ過程による非発光再結合の確率の増加を防止して出力の低下を回避できる。
【0026】
また以上の例では、各井戸層11の基板1側のある範囲についてIn濃度が一定とされているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第二領域15が第一領域14よりも急峻となるようにIn組成比を減少させるものであれば、図6の変形例に示すように、第一領域14が基板1の反対側に向かってIn濃度を減少させるものでも良い。In組成プロファイルの第一領域14の傾斜角度を調整することによって、バンドプロファイルの第一プロファイル16を任意の傾斜角度とすることができる。
【0027】
ここで、各実施例及び比較例に係る半導体発光素子を80mAで駆動させた場合の発光強度を測定した結果を図7に、また120mAで駆動させた場合の発光強度を図13に、それぞれ示す。図2に記載のIn組成比のプロファイルを有する半導体発光素子100を作成し、この半導体発光素子100を実施例1とした。ここでは、AIGaNバッファ層2の膜厚を約15nm、n型GaNコンタクト層5を約9000nm、格子緩和層6の総膜厚を約60nm(約2nm厚のGaN/約1nm厚のInGaNを計20ペア)、n型GaNクラッド層4を約5nm、活性層7の総膜厚を約63nm(約4nm厚のGaN/In濃度を約15%から8%まで傾斜させた約3nm厚のInGaNを計9ペア)、p型AlGaNクラッド層8を約15m、p型GaNコンタクト層9を約70nmとした。一方、井戸層20と障壁層22との積層方向に対してIn濃度を一定としたIn組成プロファイルを有する半導体発光素子(図8を参照のこと。)を比較例1とし、基板側から基板の反対側に向かってIn濃度を直線状に低下させたIn組成プロファイルを有する半導体発光素子(図11を参照のこと。)を比較例2とした。さらに、図12に示すようにIn組成比のプロファイルを第一領域から中間まで平坦としつつ、中間で傾斜させて障壁層との界面においてIn濃度をゼロに近づけた例を比較例3とした。
【0028】
比較例1に係る半導体発光素子では、各井戸層20の基板側に負の分極電荷が生成され、各井戸層20の基板の反対側に正の分極電荷が生成される。この分極電荷によって、井戸層20の基板側の伝導体及び価電子帯のエネルギーが高くなり、基板の反対側の伝導帯及び価電子帯のエネルギーが低くなる(図10を参照のこと。)。価電子帯の正孔は価電子帯の頂に偏在しており、オージェ過程による非発光再結合の確率が高くなる。特に電子が井戸層20の基板側とは反対側に存在し、正孔が井戸層20の基板側に存在して、電子と正孔とが分離しているので、電子と正孔との再結合の確率が低くなる。さらに、正孔は、価電子帯の頂に偏在しており、隣接する井戸層20との間で正孔がトンネル効果によって移動しなければならない移動距離が長くなり、キャリア移動度が低下する。
【0029】
一方、比較例2に係る半導体発光素子は、井戸層30のIn組成を基板側から基板の反対側に向かって直線状に低下させている。この場合には、電子は、井戸層30の厚み方向に沿ってプロファイルが直線状となる伝導帯に均一に存在しているが、正孔は価電子帯の基板側の頂に偏在している(図11を参照のこと。)ので、オージェ過程による非発光再結合の確率が高くなると共に、電子とホールとの再結合の確率が低くなる。さらに、正孔は、価電子帯の頂に偏在しており、隣接する井戸層との間で正孔がトンネル効果によって移動しなければならない移動距離Dが長くなり、正孔の移動度が低下する。
【0030】
さらに比較例3では、80mAの駆動電流では図7に示すように比較例1、2よりもさらに発光強度が低く、駆動電流120mAでは図13に示すように、比較例1よりは若干高いものの、比較例2と比べると相当低い。この原因は、比較例3では図12に示すように、Inの濃度を第二領域で急峻に低下させて、井戸層と障壁層の界面近傍でゼロに近付けている構成のため、価電子帯の正孔が井戸層の基板側(図12において左側)に偏在し易くなり、一方導電帯の電子は井戸層の中心に偏在するため、上述の通り正孔と電子が重ならずに再結合の確率が低く、オージェ過程による非発光再結合の確率が高くなったためと考えられる。加えて、正孔が隣接する井戸層との間で移動しなければならない移動距離Dが長くなり、正孔の移動度も低下していると思われる。
【0031】
図7に示すように、In組成比の傾斜がなくIn濃度が一定である比較例1に比べて、組成を傾斜させた比較例2と実施例1とは、発光強度が高かった。井戸層30の厚さ方向の全体において組成比を直線状に傾斜させた比較例2と、井戸層11の厚さ方向の中間で組成比を大きく変化させた実施例1とを比べると、比較例1よりも実施例1の方が発光強度高かった。これは、図3に示すように、井戸層11の価電子帯の正孔は、井戸層11の深いところの一点に集中して偏在することなく存在するので、電子とホールとの再結合確率が上がり、オージェ過程による非発光再結合を防止することができ、さらに、正孔がトンネル効果によって移動しなければならない移動距離D’を短くすることができるためと推察される。
【0032】
一方、比較例2のように井戸層30全体の組成を直線状に傾斜させると、正孔にとっては障壁層32が厚くなったのと同様の状態となり、隣接する井戸層30との間で正孔がトンネル効果によって移動しなければならない移動距離が長くなり、キャリア移動度が低下するものと考えられる。さらに、井戸層30の深い部位に正孔が偏在して、オージェ過程による非発光再結合確率の増加を招き、発光強度が増加していないものと考えられる。
【0033】
このように、In組成の濃度プロファイルに勾配を与えることで発光強度が変化することが判る。特に、井戸層の厚さ方向の全域に亘って傾斜させるよりも、井戸層の厚さの一部(例えば半分)だけ傾斜させた方が、発光強度は強くなる傾向が見られた。このことから、組成の傾斜によってキャリアの分布が重なり、発光再結合確率が高くなったものと推測される。また、井戸層の厚さ方向の全域で組成を傾斜させると、正孔にとっては障壁層が厚くなるため、井戸の深いところに局在してオージェ過程による非発光再結合確率が増加し、各井戸層への移動が阻害され、発光強度が低下したものと思われる。このことから、井戸層の厚さ方向において、In組成の傾斜のない領域を設けることで、このような弊害を回避して発光強度を向上できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の半導体発光素子は、バックライト光源、照明用光源、ヘッドライト、発光素子を光源としてドットマトリックス状に配置したディスプレイ、信号機、照明式スイッチ、イメージスキャナ等の各種センサ及び各種インジケータ等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0035】
100…半導体発光素子
1…基板
2…AIGaNバッファ層
4…n型GaNクラッド層
5…n型GaNコンタクト層
6…格子緩和層
7…活性層
8…p型AlGaNクラッド層
9…p型コンタクト層;9B…透光性導電膜
10A…p側電極;10B…n側電極
11,20,30…井戸層
12,22,32…障壁層
14…第一領域
15…第二領域
16…第一プロファイル
17…第二プロファイル
18,24…頂
23…伝導帯
VA…垂直領域
図1
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