特許第6183061号(P6183061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6183061半導体封止用エポキシ樹脂組成物及びそれを用いた樹脂封止型半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183061
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】半導体封止用エポキシ樹脂組成物及びそれを用いた樹脂封止型半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20170814BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20170814BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20170814BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C08L63/00 C
   C08K3/26
   H01L23/30 R
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-175397(P2013-175397)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-44898(P2015-44898A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】姜 東哲
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 由則
(72)【発明者】
【氏名】阿部 秀則
【審査官】 藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/097892(WO,A1)
【文献】 特開2002−294032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
C08L 63/00
C08K 3/26
H01L 23/29
H01L 23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化促進剤、(D)下記一般式(1)で表されるハイドロタルサイト様化合物及び(E)無機充填材を必須成分として含有し、(D)成分のハイドロタルサイト様化合物が、2.4≦Mg/Al(2.4≦a/b)で、焼成を施していない未焼成であり、
(D)成分のハイドロタルサイト様化合物が、(A)エポキシ樹脂100質量部に対し、10〜15質量部配合された半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【化1】
【請求項2】
(E)無機充填材を75〜97質量%含有することを特徴とする請求項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止してなる樹脂封止型半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気特性、耐湿性、耐マイグレーション性、信頼性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物及びそれを用いた樹脂封止型半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体パッケージには、Auワイヤを使用するものが主流であった。しかし、金価格の高騰などにより、近年では、Cuワイヤを使用する傾向にある。封止材中の原材料の一つであるエポキシ樹脂は、エピクロロヒドリンを使用して作製されるものがほとんどのため、封止材中には、その塩基残さが、ワイヤ腐食性不純物として残留してしまう。CuはAuと比較して、化学的反応性に富んでいるため、塩素による腐食が激しく、信頼性に問題があった。不純物イオンをトラップするため、無機充填剤の一つである、ハイドロタルサイト様化合物が用いられることが多い。Cuワイヤの信頼性を満足させるため、様々なイオントラップ剤が検討されており、抽出水塩素イオンの低減を目的とした、半焼成ハイドロタルサイトや、焼成ハイドロタルサイトなどが検討されてきた(例えば、特許文献1、2参照)。これらは、抽出水塩素イオンの低減、耐湿信頼性の問題を解決する手段として、有効な結果を示したが、バイアス印加耐湿信頼性を、必ずしもクリアーするものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−1902号公報
【特許文献2】特開2009−29919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、バイアス印加を加えた、高温高湿化での、リーク不良、ワイヤ間ショート不良、ワイヤオープン不良が発生せず、信頼性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物及び、それを用いた樹脂封止型半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、[1] (A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化促進剤、(D)下記一般式(1)で表されるハイドロタルサイト様化合物及び(E)無機充填材を必須成分として含有し、(D)成分のハイドロタルサイト様化合物が、2.4≦Mg/Al(2.4≦a/b)で、焼成を施していない未焼成であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物に関する。
【0006】
【化1】
【0007】
また、本発明は、[2] (D)成分のハイドロタルサイト様化合物が、(A)エポキシ樹脂100質量部に対し、1〜15質量部を配合する上記[1]に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物に関する。
また、本発明は、[3] (D)成分のハイドロタルサイト様化合物が、(A)エポキシ樹脂100質量部に対し、10〜15質量部を配合する上記[2]に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物に関する。
また、本発明は、[4] (E)無機充填材を75〜97質量%含有することを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物に関する。
また、本発明は、[5] 上記[1]〜[4]のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止してなる樹脂封止型半導体装置に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いることにより、Cuワイヤを使用してもCuワイヤが腐食し抵抗が上昇するのを抑制することができ、バイアス印加した、高温高湿化での、リーク不良、ワイヤ間ショート不良、ワイヤオープン不良が発生せず、信頼性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物及び、それを用いた樹脂封止型半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化促進剤、(D)上記一般式(1)で表されるハイドロタルサイト様化合物及び(E)無機充填材を必須成分として含有し、(D)成分のハイドロタルサイト様化合物が、2.4≦Mg/Al(2.4≦a/b)で、焼成を施していない未焼成(X線回折において、層方向ピークである001面、002面ピークが共に観察されるもの)であることを特徴とする。
以下に、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物について説明する。
【0010】
(A)エポキシ樹脂
本発明の(A)エポキシ樹脂は、特に限定されるものではなく、封止用エポキシ樹脂成形材料で一般に使用されているエポキシ樹脂を使用することができる。
それを例示すれば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールF、ビスフェノールS、アルキル置換または非置換のビフェノール等のジグリシジルエーテル、フェノール・アラルキル樹脂をエポキシ化したもの、フェノール類とジシクロペンタジエンやテルペン類との付加物または重付加物をエポキシ化したもの、フタル酸、ダイマー酸などの多塩基酸とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、及び脂環族エポキシ樹脂などが挙げられ、これらを適宜何種類でも併用することができる。
【0011】
これら(A)成分のエポキシ樹脂の純度、特に加水分解性塩素量は、ICなど素子上のアルミ配線、銅配線腐食に係わるため少ない方がよく、耐湿性の優れた半導体封止用エポキシ樹脂成形材料(半導体封止用エポキシ樹脂組成物)を得るためには500ppm以下であることが好ましい。ここで、加水分解性塩素量とは試料のエポキシ樹脂1gをジオキサン30mlに溶解し、1N−KOHメタノール溶液5mlを添加して30分間リフラックス後、電位差滴定により求めた値を尺度としたものである。
【0012】
(B)硬化剤
硬化剤は特に限定はないが、たとえば、半導体封止用エポキシ樹脂成形材料で一般に使用されているもので、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド等のアルデヒド類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂、フェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂等があり、単独又は併用して用いることができる。中でも、耐リフロー性向上の観点から好適なものとして、フェノール・アラルキル樹脂が挙げられる。硬化剤は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して、エポキシ基との反応基、例えば、上記ノボラック樹脂のフェノール性水酸基、が0.5〜1.5当量になるように配合されることが好ましく、特に、0.7〜1.2当量配合することが好ましい。
【0013】
(C)硬化促進剤
硬化促進剤としては、特に制限はなく、例えば、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、1,5−ジアザ−ビシクロ(4,3,0)ノネン、5,6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン類及びこれらの誘導体、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類及びこれらの誘導体、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン類及びこれらのホスフィン類に無水マレイン酸、ベンゾキノン、ジアゾフェニルメタン等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有するリン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾールテトラフェニルボレート、N−メチルモテトラフェニルホスホニウム−テトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンとベンゾキノンの付加物、トリパラトリルフォスフィンとベンゾキノンの付加物、1,8−ジアザービシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7,2−フェニル−4メチル−イミダゾール、トリフェニルホスホニウム−トリフェニルボラン等があり、単独又は併用して用いることができる。硬化促進剤は、エポキシ樹脂と硬化剤の合計量に対して、0.1〜8質量%使用することが好ましい。
【0014】
(D)一般式(1)で表されるハイドロタルサイト様化合物
本発明で用いるハイドロタルサイト様化合物は、上記一般式(1)で表されるものである。その構造は層状の結晶構造を有し、ひとつひとつの結晶片は葉片状あるいは鱗状を呈している。構造の主骨格[MgAl(OH)16]はシート状の金属水酸化物であり、ハイドロタルサイトは、構造式[M2+1−x3+(OH)][An−x/n・mHO]で表される様々な化合物のうちのひとつである。M2+とM3+は、2価および3価の金属イオンを、An−x/nは層間陰イオンを表し、[M2+1−x3+(OH)]が水酸化物シートで、金属イオンを6つのOHが取り囲んで形成する八面体が互いに稜を共有することによって作られている。水酸化物シートが何枚も重なってハイドロタルサイト様化合物の層状構造を形成し、シートとシートの間(層間)には陰イオンと水分子が入っている。ハイドロタルサイト様化合物の水酸化物シートは2価金属の一部を3価金属が置き換えているので全体として正に荷電する。静電的なバランスは、層間に陰イオンが取り込まれることによって保たれるとされている。この特徴を利用してイオントラップ剤として用いることが可能となる。近年、ハイドロタルサイト様化合物を焼成することで比表面積を増大させ、化合物表面でのトラップを可能にしたイオントラップ剤が作製されているが、これはハイドロタルサイト様化合物の特徴である層構造を破壊してしまうため、本発明で用いるハイドロタルサイト様化合物とは未焼成ハイドロタルサイトのことを示す。
【0015】
本発明で用いるハイドロタルサイト様化合物は、2.4≦Mg/Al(2.4≦a/b)となるようにMg塩とAl塩のモル比を調整し作製する。得られたハイドロタルサイト様化合物は、焼成を施していないもので、X線回折において、層方向ピークである001面、002面ピークが共に5°〜45°付近におよそ等間隔で観察される。
ハイドロタルサイト様化合物の二次粒子径は、250μm以上であることが好ましく、また、BET比表面積が10〜100m/gが好ましい。粒度測定には、ふるい分析装置に比べ再現性に優れ短時間で測定可能な、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いるのが好ましい。比表面積は、正確に単分子吸着量が測定可能なBET法を用いるのが好ましい。
(D)成分のハイドロタルサイト様化合物は、(A)成分のエポキシ樹脂100質量部に対し、1〜15質量部を配合することが好ましい。1質量部未満では、添加効果に乏しく、15質量部を超えると効果が飽和してくる。
【0016】
(E)無機充填材
本発明で用いる無機充填材としては、吸湿性低減及び強度向上の観点から無機充填材を用いることが必要である。(E)成分の無機充填材は、(C)成分のハイドロタルサイト様化合物を除いたものであり、無機充填材としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、ジルコン、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭化珪素、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア等の粉体、又はこれらを球形化したビーズ、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ等の単結晶繊維、ガラス繊維等を1種類以上配合することができる。さらに、難燃効果のある無機充填材としては水酸化アルミニウム、硼酸亜鉛等が挙げられ、これらを単独または併用することができる。無機充填材の配合量としては、吸湿性、線膨張係数の低減、強度向上及び半田耐熱性の観点から、本発明おける半導体封止用エポキシ樹脂組成物全体に対して75〜97質量%の範囲内であることが好ましく、特に、80〜95質量%の範囲内であることが好ましい。上記の無機充填材の中で、線膨張係数低減の観点からは溶融シリカが、高熱伝導性の観点からはアルミナが好ましく、充填材形状は成形時の流動性及び金型摩耗性の点から球形が好ましい。
【0017】
(カップリング剤)
本発明における半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、カップリング剤を添加することができる。カップリング剤については、特に制限はなく、シランカップリング剤以外に従来公知のカップリング剤を併用してもよい。たとえば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−[ビス(β−ヒドロキシエチル)]アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(β−アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N−(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のシラン系カップリング剤、あるいはイソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等のチタネート系カップリング剤を1種以上併用することができる。カップリング剤は、本発明おける半導体封止用エポキシ樹脂組成物全体に対して3質量%以下で使用することが好ましく、その効果を発揮させるためには0.1質量%以上使用することが好ましい。
【0018】
(離型剤)
また、本発明における半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、離型剤を添加することができる。離型剤についても、特に制限はないが、高級脂肪酸、例えばカルナバワックス等とポリエチレン系ワックスを単独又は併用して用いることができる。離型剤は、エポキシ樹脂と硬化剤の合計量に対して、10質量%以下で使用することが好ましく、その効果を発揮させるためには、0.5質量%以上が好ましい。
【0019】
(着色剤、改質剤)
本発明における半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、着色剤(カーボンブラック等)、改質材(シリコーン、シリコーンゴム等)を用いることができる。着色剤としてカーボンブラック等の導電性粒子を併用する場合は、本発明の目的を達成するために、粒径10μm以上の粒子が1質量%以下のものを用いることが好ましく、その添加量としては(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤の合計量に対し3質量%以下が好ましい。
【0020】
以上のような原材料を用いて成形材料を作製する一般的な方法としては、所定の配合量の原材料混合物をミキサー等によって充分混合した後、熱ロール、押出機等によって混練し、冷却、粉砕、することによって成形材料(半導体封止用エポキシ樹脂組成物粉)を得ることができる。本発明で得られる半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて電子部品(半導体素子)を封止する方法としては、低圧トランスファー成形法が最も一般的であるが、インジェクション成形、圧縮成形、注型等の方法によっても可能である。上記した手段を用いて製造したエポキシ樹脂組成物は、バイアス印加耐湿信頼性試験において、リーク不良、ワイヤ間ショート不良、ワイヤオープン不良が発生せず、信頼性に優れており、IC、LSI等の封止に好適に用いることができる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
(実施例1〜4及び比較例1〜4)
表1中に示す各種の素材を予備混合(ドライブレンド)した後、二軸ロール(ロール表面約80℃)で約15分間混練し、冷却粉砕して半導体封止用エポキシ樹脂組成物粉を製造した。
【0023】
【表1】
【0024】
E1:YSLV−80XY(3,3´,5,5´−テトラメチル−4,4´−ジヒドロキシジフェニルメタンのエポキシ化合物)、新日鐵化学(株)商品名
E2:YX−4000(ビフェニル型エポキシ樹脂)、油化シェルエポキシ(株)商品名
E3:HP−5000(ナフタレン変性クレゾールノボラックエポキシ樹脂)、DIC(株)商品名
E4:CER−3000L(ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂とビフェニル型エポキシ樹脂の混合物)、日本化薬(株)商品名
E5:YSLV−120TE(ジメチルジヒドロキシ・ジターシャリーブチルジフェニルスルフィド型エポキシ樹脂)、新日鐵化学(株)商品名
E6:NC−3000(ビフェニル・アラルキル型エポキシ樹脂)、日本化薬(株)商品名
H1:HE910(多官能型フェノール樹脂)、エア・ウォータ(株)商品名
H2:HE200C(ビフェニル・アラルキル型フェノール樹脂)、エア・ウォータ(株)商品名
H3:MEH−7800(フェノール・アラルキル樹脂)、明和化成(株)商品名
HA−1:TBP2(トリブチルホスフィンとベンゾキノンの付加物)、黒金化成(株)商品名
HA−2:P−2(トリフェニルホスフィンとベンゾキノンの付加物)、北興化学工業(株)商品名
HT−1:ハイドロタルサイト、Mg/Al≒3.0、未焼成タイプ
HT−2:ハイドロタルサイト、Mg/Al≒2.5、焼成タイプ
【0025】
上記で得られた半導体封止用エポキシ樹脂組成物粉を用い、トランスファー成形機により、金型温度175〜180℃、成形圧力17kgf/cm(1.67MPa)、硬化時間90秒の条件で半導体を封止し下記の評価に用いる試験片を作製した。
【0026】
性能評価;
<HAST(Highly Accelerated temperature and humidity Stress Test、超加速寿命試験)特性>
電極には、Al/Si/Cu=98.9%/0.8%/0.3%、幅60μmのパッドを使用し、ワイヤには純銅ワイヤ(直径20μm)を用いた。この評価基板を130℃、湿度85%雰囲気の高温高湿槽に入れ、電圧5Vを印加し、累計24時間、48時間、96時間、168時間、336時間、槽内HAST試験を行った。上記時間経過時、電気特性評価を行い、ワイヤオープンしたパッケージ(抵抗値上昇100%)を「NG」、抵抗上昇値100%未満のパッケージを「OK」と評価した。
【0027】
表1で使用したハイドロタルサイト種は、HT−1(Mg/Al≒3.0かつ未焼成タイプ)、HT−2(Mg/Al≒2.5かつ焼成タイプ)を用いた。実施例1、比較例1はともに同種の樹脂系を選択し、ハイドロタルサイト様化合物種のみ変更してある。HASTの評価結果を表2に示した。Mg/Al比率が高く、未焼成タイプのハイドロタルサイト様化合物を使用した実施例1が、比較例1に比べ、HAST試験結果が良好となった。同様に、樹脂系を変えて実施例2から実施例4まで、HASTの評価試験を行ったところ、全ての系で、比較例より良好な結果となった。
【0028】
【表2】
【0029】
(実施例5、6及び比較例5−1〜5−3)
上記実施例と同様に表3に示した配合で半導体封止用エポキシ樹脂組成物粉を作製し、試験片を作製した。
【0030】
【表3】
E1:YSLV-80XY、新日鐵化学(株)商品名
E2:YX-4000、油化シェルエポキシ(株)商品名
H1:HE910、エア・ウォータ(株)商品名
H2:HE200C、エア・ウォータ(株)商品名
HA−1:TBP2、黒金化成(株)商品名
HT−1:ハイドロタルサイト、Mg/Al≒3.0、未焼成タイプ
HT−3:ハイドロタルサイト、Mg/Al≒0.6、未焼成タイプ
HT−4:ハイドロタルサイト、Mg/Al≒1.8、未焼成タイプ
HT−5:ハイドロタルサイト、Mg/Al≒2.1、未焼成タイプ
HT−6:ハイドロタルサイト、Mg/Al≒2.7、未焼成タイプ
【0031】
表3で使用したハイドロタルサイト種は、全て未焼成タイプである。また、HT−1のMg/Al比率はおよそ3.0、HT−6はMg/Al≒2.7であり、HT−3はMg/Al≒0.6、HT−4はMg/Al≒1.8、HT−5はMg/Al≒2.1と徐々にMg比率を上げたものを比較例としてある。HASTの評価結果を表4に示した。結果として、Mg比率が高いほどHAST試験で良好な結果を得られることがわかった。
【0032】
【表4】
【0033】
(実施例7〜8及び比較例6〜9)
上記実施例と同様に表5に示した配合で半導体封止用エポキシ樹脂組成物粉を作製し、試験片を作製した。
【0034】
【表5】

E1:YSLV-80XY、新日鐵化学(株)商品名
E2:YX-4000、油化シェルエポキシ(株)商品名
H1:HE910、エア・ウォータ(株)商品名
H2:HE200C、エア・ウォータ(株)商品名
HA−1:TBP2、黒金化成(株)商品名
HT−1:ハイドロタルサイト、Mg/Al≒3.0、未焼成タイプ
HT−3:ハイドロタルサイト、Mg/Al≒0.6、未焼成タイプ
HT−6:ハイドロタルサイト、Mg/Al≒2.7、未焼成タイプ
HT−7:ハイドロタルサイト、Mg/Al≒3.0、焼成タイプ
HT−8:ハイドロタルサイト、Mg/Al≒0.6、焼成タイプ
HT−9:ハイドロタルサイト、Mg/Al≒2.7、焼成タイプ
【0035】
表5では、未焼成タイプ、焼成タイプの効力の違いを検証した。実施例7ではHT−1を使用した系、比較例6はHT−1の焼成タイプであるHT−7を使用した系を検証した。同様に、Mg/Al比率を変更して同様の検証を行った。比較例7は、HT−3を使用した系、比較例8はHT−3の焼成タイプであるHT−8を使用した系を検証した。実施例8は、HT−6を使用した系、比較例9は、HT−6の焼成タイプであるHT−9を使用した系を検証した。それぞれのHAST検証結果を表6に示した。結果としては、ハイドロタルサイト様化合物のMg/Al比率が変わっても、焼成タイプより、未焼成タイプを使用した系が、バイアス印加HAST試験では良好な結果が得られることがわかった。
【0036】
【表6】
【0037】
従来から、不純物抽出液測定では、焼成タイプのハイドロタルサイト様化合物を使用した方が良好な結果が得られるため、HAST試験には有効だとされてきた(例えば、特許文献1、2参照)。
それは、層間でイオンをトラップする未焼成タイプのハイドロタルサイト様化合物と比較して、焼成タイプは、焼成することにより表面部分にポーラスが多く発生し、表面積が非常に高くなり、表面トラップ能が高くなるためである。しかし、バイアスを印加するHAST試験では、トラップしたイオンの保持能力が高くなければならないため、表面トラップ能では不十分である。そのため、層間に不純物イオンをトラップできる未焼成タイプが、バイアス印加HAST試験には有効と言える。