特許第6183497号(P6183497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183497
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20170814BHJP
   C08C 19/25 20060101ALI20170814BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20170814BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20170814BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C08L7/00
   C08C19/25
   C08L15/00
   C08K5/548
   B60C1/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-102385(P2016-102385)
(22)【出願日】2016年5月23日
(65)【公開番号】特開2017-8301(P2017-8301A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2016年11月17日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣神 宗直
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−059599(JP,A)
【文献】 米国特許第03759869(US,A)
【文献】 特開2013−060376(JP,A)
【文献】 特開2012−121852(JP,A)
【文献】 特開2000−095785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表され、数平均分子量が10,500〜40,000の有機ケイ素化合物、スルフィド基含有有機ケイ素化合物、および少なくとも1種の粉体を含んでなるゴム用配合剤を含むゴム組成物であって、
前記粉体の含有量(B)に対する前記有機ケイ素化合物と前記スルフィド基含有有機ケイ素化合物との合計量(A)の質量比が、(A)/(B)=70/30〜5/95を満たし、
前記ゴムが、天然ゴムまたは天然ゴムおよびスチレン−ブタジエン共重合体ゴムの組み合わせであるゴム組成物
【化1】
(式中、R1は、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、R2は、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、fは、0以上の数を表し、e、gおよびhは、互いに独立して、0より大きい数を表し、mは、1〜3の整数を表す。ただし、各繰り返し単位の順序は任意である。)
【請求項2】
請求項1記載のゴム組成物を成形してなるタイヤ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素化合物、並びにそれを用いたゴム用配合剤およびゴム組成物に関し、さらに詳述すると、ポリブタジエン骨格、ポリスチレン骨格を有する有機ケイ素化合物およびその製造方法、当該有機ケイ素化合物を用いたゴム用配合剤およびゴム組成物、並びにこのゴム組成物から得られるタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
含硫黄有機ケイ素化合物は、シリカ充填ゴム組成物からなるタイヤを製造する際の必須成分として有用である。シリカ充填タイヤは、自動車用途で優れた性能を有し、特に、耐磨耗性、転がり抵抗およびウェットグリップ性に優れている。これらの性能向上は、タイヤの低燃費性向上と密接に関連しているため、昨今盛んに研究されている。
【0003】
低燃費性向上には、ゴム組成物のシリカ充填率を上げることが必須であるが、シリカ充填ゴム組成物は、タイヤの転がり抵抗を低減し、ウェットグリップ性を向上させるものの、未加硫粘度が高く、多段練り等を要し、作業性に問題がある。
そのため、シリカ等の無機質充填剤を単に配合したゴム組成物においては、充填剤の分散が不足し、破壊強度および耐磨耗性が大幅に低下するといった問題が生じる。そこで、無機質充填剤のゴム中への分散性を向上させるとともに、充填剤とゴムマトリックスとを化学結合させるため、含硫黄有機ケイ素化合物が必須であった(特許文献1参照)。
【0004】
含硫黄有機ケイ素化合物としては、アルコキシシリル基とポリスルフィドシリル基を分子内に含む化合物、例えば、ビス−トリエトキシシリルプロピルテトラスルフィドやビス−トリエトキシシリルプロピルジスルフィド等が有効であることが知られている(特許文献2〜5参照)。
また、上記ポリスルフィド基を有する有機ケイ素化合物の他に、シリカの分散性に有利なチオエステル型の封鎖メルカプト基含有有機ケイ素化合物や、水素結合によるシリカとの親和性に有利な、加水分解性シリル基部分にアミノアルコール化合物をエステル交換したタイプの含硫黄有機ケイ素化合物の応用も知られている(特許文献6〜10参照)。
【0005】
さらに、特許文献11,12には、シラン変性ブタジエン重合体が開示されているが、このシラン変性ブタジエン重合体はポリスチレン骨格を有していない。
また、特許文献13には、シラン変性ブタジエン重合体を含有するゴム組成物が開示されているが、両末端ウレタン変性ブタジエン重合体で、分子内に極性基を有しており、所望の低燃費性を実現するタイヤ用ゴム組成物を得るには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭51−20208号公報
【特許文献2】特表2004−525230号公報
【特許文献3】特開2004−18511号公報
【特許文献4】特開2002−145890号公報
【特許文献5】米国特許第6229036号明細書
【特許文献6】特開2005−8639号公報
【特許文献7】特開2008−150546号公報
【特許文献8】特開2010−132604号公報
【特許文献9】特許第4571125号公報
【特許文献10】米国特許第6414061号明細書
【特許文献11】特開昭62−265301号公報
【特許文献12】特開2001−131464号公報
【特許文献13】特開2005−350603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ゴム組成物に添加した場合にその硬化物のヒステリシスロスを大幅に低下させることが可能であるとともに、所望のウェットグリップ特性を有する低燃費タイヤを実現し得るゴム組成物を与える有機ケイ素化合物を提供することを目的とする。
また、この有機ケイ素化合物を含むゴム用配合剤、このゴム用配合剤を配合してなるゴム組成物、およびこのゴム組成物から形成されたタイヤを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリブタジエン骨格およびポリスチレン骨格を有する所定の有機ケイ素化合物が、ゴム組成物に添加した場合にその硬化物のヒステリシスロスを大幅に低下させ得ることからゴム用配合剤として好適であることを見出すとともに、当該ゴム用配合剤を含むゴム組成物から得られたタイヤが所望のウェットリップ特性および低燃費性を実現し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. 式(1)で表され、数平均分子量が10,500〜40,000の有機ケイ素化合物、スルフィド基含有有機ケイ素化合物、および少なくとも1種の粉体を含んでなるゴム用配合剤を含むゴム組成物であって、
前記粉体の含有量(B)に対する前記有機ケイ素化合物と前記スルフィド基含有有機ケイ素化合物との合計量(A)の質量比が、(A)/(B)=70/30〜5/95を満たし、
前記ゴムが、天然ゴムまたは天然ゴムおよびスチレン−ブタジエン共重合体ゴムの組み合わせであるゴム組成物
【化1】
(式中、R1は、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、R2は、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、fは、0以上の数を表し、e、gおよびhは、互いに独立して、0より大きい数を表し、mは、1〜3の整数を表す。ただし、各繰り返し単位の順序は任意である。)
2. 1のゴム組成物を成形してなるタイヤ
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機ケイ素化合物は、ポリブタジエン骨格とポリスチレン骨格と加水分解性シリル基とを有しており、この有機ケイ素化合物を含有するゴム用配合剤を使用したゴム組成物を用いて形成されたタイヤは、所望のウェットグリップ特性および低燃費タイヤ特性を満足することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る有機ケイ素化合物は、式(1)で表される。なお、式(1)において、各繰り返し単位の順序は任意である。
【0012】
【化4】
【0013】
ここで、R1は、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、R2は、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、fは、0以上の数を表し、e、gおよびhは、互いに独立して、0より大きい数を表し、mは、1〜3の整数を表す。
炭素数1〜10のアルキル基としては、直鎖状、環状、分枝状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル基等が挙げられる。
炭素数6〜10のアリール基の具体例としては、フェニル、α−ナフチル、β−ナフチル基等が挙げられる。
【0014】
これらの中でも、R1としては、直鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
また、R2としては、直鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0015】
式(1)で表される有機ケイ素化合物は、下記スキームに示されるように、式(2)で表されるブタジエン−スチレンコポリマーと式(3)で表される有機ケイ素化合物とを白金化合物含有触媒の存在下、好ましくは白金化合物含有触媒および助触媒の存在下でヒドロシリル化することで得ることができる。
【0016】
【化5】
(式中、R1、R2、e、f、g、h、およびmは、上記と同じ意味を表す。)
【0017】
式(2)で表されるブタジエン−スチレンコポリマーは、ブタジエンとスチレンを原料モノマーとし、乳化重合や溶液重合等の公知の手法で合成することができるが、市販品として入手することもでき、例えば、Ricon100、Ricon181、Ricon184(以上、Cray Vally社製)が上市されている。
【0018】
一方、式(3)で表される有機ケイ素化合物としては、トリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン等が挙げられる。
【0019】
上記ヒドロシリル化反応に用いられる白金化合物含有触媒としては、特に限定されるものではなく、その具体例としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエンまたはキシレン溶液、テトラキストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビスアセトニトリル白金、ジクロロビスベンゾニトリル白金、ジクロロシクロオクタジエン白金等や、白金−炭素、白金−アルミナ、白金−シリカ等の担持触媒などが挙げられる。
ヒドロシリル化の際の選択性の面から、0価の白金錯体が好ましく、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエンまたはキシレン溶液がより好ましい。
白金化合物含有触媒の使用量は特に限定されるものではないが、反応性や、生産性等の点から、式(3)で示される有機ケイ素化合物1molに対し、含有される白金原子が1×10-7〜1×10-2molとなる量が好ましく、1×10-7〜1×10-3molとなる量がより好ましい。
【0020】
上記反応における助触媒としては、無機酸のアンモニム塩、酸アミド化合物およびカルボン酸から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
無機酸のアンモニウム塩の具体例としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、アミド硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸二水素一アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ジ亜リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫化アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、ホウフッ化アンモニウム等が挙げられるが、中でも、pKaが2以上の無機酸のアンモニウム塩が好ましく、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムがより好ましい。
【0021】
酸アミド化合物の具体例としては、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、プロピオンアミド、アクリルアミド、マロンアミド、スクシンアミド、マレアミド、フマルアミド、ベンズアミド、フタルアミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0022】
カルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、メトキシ酢酸、ペンタン酸、カプロン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、乳酸、グリコール酸等が挙げられ、これらの中でも、ギ酸、酢酸、乳酸が好ましく、酢酸がより好ましい。
【0023】
助触媒の使用量は特に限定されるものではないが、反応性、選択性、コスト等の観点から式(3)で示される有機ケイ素化合物1molに対して1×10-5〜1×10-1molが好ましく、1×10-4〜5×10-1molがより好ましい。
【0024】
なお、上記反応は無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。
使用可能な溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒などが挙げられ、これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
上記ヒドロシリル化反応における反応温度は特に限定されるものではなく、0℃から加熱下で行うことができるが、0〜200℃が好ましい。
適度な反応速度を得るためには加熱下で反応させることが好ましく、このような観点から、反応温度は40〜110℃がより好ましく、40〜90℃がより一層好ましい。
また、反応時間も特に限定されるものではなく、通常、1〜60時間程度であるが、1〜30時間が好ましく、1〜20時間がより好ましい。
【0026】
本発明のゴム用配合剤は、上述した式(1)で表される有機ケイ素化合物を含むものである。
この場合、粘度や取り扱い性等を考慮すると、ゴム用配合剤に用いる上記有機ケイ素化合物の数平均分子量は40,000以下であることが好ましい。
なお、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値である。
【0027】
本発明において、ゴム用配合剤に用いる有機ケイ素化合物は、得られるゴム組成物の特性を向上させることなどを考慮すると、加水分解性シリル基を有する単位が全単位当たり2%以上含有していることが好ましいことから、式(1)において、0.02≦g/(e+f+g+h)<1.0を満たすことが好ましい。
特に、加水分解性シリル基を有する単位は、全単位当たり、3%以上含有していることが好ましい。
【0028】
さらに、本発明のゴム用配合剤は、スルフィド基含有有機ケイ素化合物を含有することが好ましい。
スルフィド基含有有機ケイ素化合物は、特に限定されるものではなく、その具体例としては、ビス(トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド等が挙げられる。
【0029】
ゴム用配合剤中における上記有機ケイ素化合物とスルフィド基含有有機ケイ素化合物の配合比は、質量比で、有機ケイ素化合物:スルフィドシラン=5:95〜80:20が好ましく、10:90〜50:50がより好ましい。
【0030】
また、本発明の有機ケイ素化合物とスルフィド基含有有機ケイ素化合物を少なくとも1種の粉体と混合したものをゴム用配合剤として使用することできる。
粉体の具体例としては、カーボンブラック、タルク、炭酸カルシウム、ステアリン酸、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
これらの中でも、補強性の観点からシリカおよび水酸化アルミニウムが好ましく、シリカがより好ましい。
【0031】
粉体の配合量は、ゴム用配合剤の取り扱い性や、輸送費等を考慮すると、粉体合計量(B)と、有機ケイ素化合物とスルフィド基含有有機ケイ素化合物の合計量(A)との質量比((A)/(B))で、70/30〜5/95が好ましく、60/40〜10/90がより好ましい。
【0032】
なお、本発明のゴム用配合剤は、脂肪酸、脂肪酸塩、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオキシアルキレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体等の有機ポリマーやゴムと混合されたものでもよく、加硫剤、架橋剤、加硫促進剤、架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、充填剤、可塑剤などのタイヤ用、その他一般ゴム用に一般的に配合されている各種添加剤が配合されたものでもよい。
また、その形態として液体状でも固体状でもよく、さらに有機溶剤に希釈したものでもよく、またエマルジョン化したものでもよい。
【0033】
本発明のゴム用配合剤は、フィラー含有ゴム組成物の配合剤として好適に用いられる。
フィラーとしては、シリカ、タルク、クレー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン等が挙げられる。これらの中でも、本発明のゴム用配合剤は、シリカ含有ゴム組成物の配合剤として用いることがより好ましい。
この場合、ゴム用配合剤の添加量は、得られるゴムの物性や、発揮される効果の程度と経済性とのバランス等を考慮すると、ゴム組成物に含まれるフィラー100質量部に対し、上記有機ケイ素化合物とスルフィドシランの総量で0.2〜30質量部が好ましく、1〜20質量部がより好ましい。
なお、ゴム組成物中におけるフィラーの含有量は本発明の目的に反しない限り従来の一般的な配合量とすることができる。
【0034】
また、本発明において、上記ゴム用配合剤が添加されるゴム組成物の主成分であるゴムとしては、従来、各種ゴム組成物に一般的に用いられている任意のゴムを用いることができ、その具体例としては、天然ゴム(NR);イソプレンゴム(IR)、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等のジエン系ゴム;ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン共重合体ゴム(EPR,EPDM)等の非ジエン系ゴムなどが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
なお、ゴム組成物中におけるゴムの配合量は、特に限定されるものではなく、従来の一般的な範囲である、20〜80質量%とすることができる。
【0035】
本発明のゴム組成物には、前述した各成分に加えて、カーボンブラック、加硫剤、架橋剤、加硫促進剤、架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤等のタイヤ用、その他一般ゴム用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができる。これら添加剤の配合量も本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0036】
本発明のゴム用配合剤を配合してなるゴム組成物は、一般的な方法で混練して組成物とし、これを加硫または架橋するゴム製品、例えば、タイヤ等のゴム製品の製造に使用することができる。特に、タイヤを製造するにあたっては、本発明のゴム組成物がトレッドに用いられていることが好ましい。
本発明のゴム組成物を用いて得られるタイヤは、転がり抵抗が大幅に低減されていることに加え、ウェットグリップ特性および耐磨耗性も大幅に向上していることから、所望の低燃費性を実現できる。
なお、タイヤの構造は、従来公知の構造とすることができ、その製法も、従来公知の製法を採用すればよい。また、気体入りのタイヤの場合、タイヤ内に充填する気体として通常空気や、酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、下記において、「部」は質量部を意味する。分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)測定により求めたポリスチレン換算の数平均分子量である。粘度は、回転粘度計を用いて測定した25℃における値である。
【0038】
[1]有機シラン化合物の製造
[実施例1−1]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、Ricon181(Cray Vally社製、数平均分子量7,100、上記式(2)におけるe=52、(f+g)=22、h=29)100g、トルエン200g、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金原子として3.1×10-3モル)、および炭酸水素アンモニウム0.2g(3.1×10-3モル)を納めた。この中に、トリエトキシシラン51g(0.31モル)を内温75〜85℃で2時間かけて滴下した後、80℃で1時間撹拌した。ガスクロマトグラフィーで分析したトリエトキシシランの反応率の結果を表1に示した。
撹拌終了後、減圧濃縮および濾過し、粘度8,000mPa・s、数平均分子量10,500の褐色透明液体を得た。生成物の分子量および1H−NMRスペクトルから求めた平均構造は、上記式(1)においてe=52、f=0、g=22、h=29で表される有機ケイ素化合物であった。
【0039】
[実施例1−2]
炭酸水素アンモニウムを酢酸0.2g(1.5×10-3モル)に変更した以外は、実施例1−1と同様に反応および後処理を行い、粘度8,000mPa・s、数平均分子量10,500の褐色透明液体を得た。生成物の分子量および1H−NMRスペクトルから求めた平均構造は、上記式(1)においてe=52、f=0、g=22、h=29で表される有機ケイ素化合物であった。
なお、ガスクロマトグラフィーで分析したトリエトキシシランの反応率の結果を表1に示した。
【0040】
[実施例1−3]
炭酸水素アンモニウムをアセトアミド0.2g(1.5×10-3モル)に変更した以外は、実施例1−1と同様に反応および後処理を行い、粘度8,000mPa・s、数平均分子量10,500の褐色透明液体を得た。生成物の分子量および1H−NMRスペクトルから求めた平均構造は、上記式(1)においてe=52、f=0、g=22、h=29で表される有機ケイ素化合物であった。
なお、ガスクロマトグラフィーで分析したトリエトキシシランの反応率の結果を表1に示した。
【0041】
[実施例1−4]
炭酸水素アンモニウムを除いた以外は、実施例1−1と同様に反応および後処理を行い、粘度14,000mPa・s、数平均分子量7,100の褐色透明液体を得た。生成物の分子量および1H−NMRスペクトルから求めた平均構造は、上記式(1)においてe=52、f=21.8、g=0.2、h=29で表される有機ケイ素化合物であった。
なお、ガスクロマトグラフィーで分析したトリエトキシシランの反応率の結果を表1に示した。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示されるように、無機酸のアンモニウム塩、カルボン酸、酸アミド化合物を助触媒として用いることで、より効率的に反応が進行していることがわかる。
【0044】
[実施例1−5]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、Ricon181(Cray Vally社製、数平均分子量7,100、上記式(2)におけるe=52、(f+g)=22、h=29)100g、トルエン200g、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金原子として1.5×10-3モル)、および酢酸0.1g(1.5×10-3モル)を納めた。この中に、トリエトキシシラン25g(0.15モル)を内温75〜85℃で2時間かけて滴下した後、80℃で1時間撹拌した。
撹拌終了後、減圧濃縮および濾過し、粘度10,500mPa・s、数平均分子量8,800の褐色透明液体を得た。生成物の分子量および1H−NMRスペクトルから求めた平均構造は、上記式(1)においてe=52、f=11、g=11、h=29で表される有機ケイ素化合物であった。
【0045】
[実施例1−6]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、Ricon181(Cray Vally社製、数平均分子量7,100、上記式(2)におけるe=52、(f+g)=22、h=29)100g、トルエン200g、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金原子として1.0×10-3モル)、および酢酸0.07g(1.0×10-3モル)を納めた。この中に、トリエトキシシラン17g(0.10モル)を内温75〜85℃で2時間かけて滴下した後、80℃で1時間撹拌した。
撹拌終了後、減圧濃縮および濾過し、粘度11,500mPa・s、数平均分子量8,200の褐色透明液体を得た。生成物の分子量および1H−NMRスペクトルから求めた平均構造は、上記式(1)においてe=52、f=15、g=7、h=29で表される有機ケイ素化合物であった。
【0046】
[実施例1−7]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、Ricon181(Cray Vally社製、数平均分子量7,100、上記式(2)におけるe=52、(f+g)=22、h=29)100g、トルエン200g、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金原子として0.5×10-3モル)、および酢酸0.04g(0.5×10-3モル)を納めた。この中に、トリエトキシシラン8g(0.05モル)を内温75〜85℃で2時間かけて滴下した後、80℃で1時間撹拌した。
撹拌終了後、減圧濃縮および濾過し、粘度12,500mPa・s、数平均分子量7,500の褐色透明液体を得た。生成物の分子量および1H−NMRスペクトルから求めた平均構造は、上記式(1)においてe=52、f=19、g=3、h=29で表される有機ケイ素化合物であった。
【0047】
[実施例1−8]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、Ricon184(Cray Vally社製、数平均分子量17,000、上記式(2)におけるe=126、(f+g)=54、h=70)100g、トルエン200g、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金原子として3.1×10-3モル)、および酢酸0.2g(3.1×10-3モル)を納めた。この中に、トリエトキシシラン51g(0.31モル)を内温75〜85℃で2時間かけて滴下した後、80℃で1時間撹拌した。
撹拌終了後、減圧濃縮および濾過し、粘度38,000mPa・s、数平均分子量25,000の褐色透明液体を得た。生成物の分子量および1H−NMRスペクトルから求めた平均構造は、上記式(1)においてe=126、f=0、g=54、h=70で表される有機ケイ素化合物であった。
【0048】
[実施例1−9]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、Ricon184(Cray Vally社製、数平均分子量17,000、上記式(2)におけるe=126、(f+g)=54、h=70)100g、トルエン200g、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金原子として1.5×10-3モル)、および酢酸0.1g(1.5×10-3モル)を納めた。この中に、トリエトキシシラン25g(0.15モル)を内温75〜85℃で2時間かけて滴下した後、80℃で1時間撹拌した。
撹拌終了後、減圧濃縮および濾過し、粘度45,000mPa・s、数平均分子量21,000の褐色透明液体を得た。生成物の分子量および1H−NMRスペクトルから求めた平均構造は、上記式(1)においてe=126、f=27、g=27、h=70で表される有機ケイ素化合物であった。
【0049】
[比較例1−1]
特開2005−250603号公報を参考に、以下の手法により有機ケイ素化合物を合成した。
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、R−45H(出光興産(株)製、数平均分子量2,800)100gとKBE−9007(信越化学工業(株)製、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン)18g、およびジオクチルスズオキサイド触媒(東京化成工業製)0.5gを納め、内温60℃で2時間撹拌した。
撹拌終了後、減圧濃縮および濾過し、粘度8,000mPa・s、数平均分子量3,300の褐色透明液体を得た。
【0050】
[比較例1−2]
特開昭62−265301号公報を参考に、以下の手法により有機ケイ素化合物を合成した。
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、B−1000(日本曹達(株)製)100g、トルエン200gおよび3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン129g(0.8モル)を納め、内温100℃で4時間撹拌した。
撹拌終了後、減圧濃縮および濾過し、粘度5,000mPa・s、数平均分子量2,000の褐色透明液体を得た。
【0051】
[比較例1−3]
特開昭62−265301号公報を参考に、以下の手法により有機ケイ素化合物を合成した。
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、B−1000(日本曹達(株)製)100g、トルエン200gおよび3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン23g(0.1モル)を納め、内温100℃で4時間撹拌した。
撹拌終了後、減圧濃縮および濾過し、粘度900mPa・s、数平均分子量1,600の褐色透明液体を得た。
【0052】
[2]ゴム組成物の調製
[実施例2−1〜2−3]
表2に示されるように、油展エマルジョン重合SBR(JSR(株)製#1712)110部、NR(RSS#3グレード)20部、カーボンブラック(N234グレード)20部、シリカ(日本シリカ工業(株)製ニプシルAQ)50部、実施例1−2で得られた有機ケイ素化合物6.5部、またはこの有機ケイ素化合物とKBE−846(信越化学工業社製、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)との合計6.5部、ステアリン酸1部、並びに老化防止剤6C(大内新興化学工業(株)製ノクラック6C)1部を配合してマスターバッチを調製した。
これに亜鉛華3部、加硫促進剤DM(ジベンゾチアジルジスルフィド)0.5部、加硫促進剤NS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)1部および硫黄1.5部を加えて混練し、ゴム組成物を得た。
【0053】
[実施例2−4〜2−8]
表2に示されるように、実施例1−2で得られた有機ケイ素化合物を、実施例1−5〜1−9で得られた有機ケイ素化合物にそれぞれ変更した以外は、実施例2−3と同様にしてゴム組成物を得た。
【0054】
[比較例2−1〜2−3]
表3に示されるように、実施例1−2で得られた有機ケイ素化合物を、比較例1−1〜1−3で得られた有機ケイ素化合物にそれぞれ変更した以外は、実施例2−3と同様にしてゴム組成物を得た。
【0055】
[比較例2−4]
表3に示されるように、実施例1−2で得られた有機ケイ素化合物を、KBE−846に変更した以外は、実施例2−1と同様にしてゴム組成物を得た。
【0056】
上記実施例2−1〜2−8および比較例2−1〜2−4で得られたゴム組成物について、未加硫および加硫物性を下記の方法で測定した。結果を表2,3に併せて示す。
〔未加硫物性〕
(1)ムーニー粘度
JIS K 6300に準拠し、温度130℃、余熱1分、測定4分にて測定し、比較例2−4を100として指数で表した。指数の値が小さいほど、ムーニー粘度が低く、加工性に優れている。
〔加硫物性〕
(2)動的粘弾性
粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を使用し、引張の動歪5%、周波数15Hz、0℃、60℃の条件にて測定した。なお、試験片は厚さ0.2cm、幅0.5cmのシートを用い、使用挟み間距離2cmとして初期荷重を160gとした。tanδの値は比較例2−4を100として指数で表した。0℃の指数値が大きいほどウェットグリップ性能が優れるものとして評価でき、60℃の指数値が小さいほどヒステリシスロスが小さく低発熱性である。
(3)耐磨耗性
JIS K 6264−2:2005に準拠し、ランボーン型磨耗試験機を用いて室温、スリップ率25%の条件で試験を行い、比較例2−4を100として指数表示した。指数値が大きいほど、磨耗量が少なく耐磨耗性に優れることを示す。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
表2および3に示されるように、実施例2−1〜2−8のゴム組成物は、比較例2−2〜2−4のゴム組成物に比べ、ムーニー粘度が低く、加工性に優れていることがわかる。
また、実施例2−1〜2−8のゴム組成物の加硫物は、比較例2−1〜2−4のゴム組成物の加硫物に比べ、ウェットグリップ性能が優れ、さらに低発熱性であり、また、耐摩耗性に優れていることがわかる。
【0060】
[実施例2−9〜2−11]
表4に示されるように、NR(RSS#3グレード)100部、プロセスオイル38部、カーボンブラック(N234グレード)5部、シリカ(日本シリカ工業(株)製ニプシルAQ)105部、実施例1−2で得られた有機ケイ素化合物8.4部、またはこの有機ケイ素化合物とKBE−846(信越化学工業社製、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)との合計8.4部、ステアリン酸2部、老化防止剤6C(大内新興化学工業(株)製ノクラック6C)2部を配合してマスターバッチを調製した。
これに酸化亜鉛2部、加硫促進剤CZ(大内新興化学工業(株)製ノクセラーCZ、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)3部および硫黄2部を加えて混練し、ゴム組成物を得た。
【0061】
[実施例2−12〜2−16]
表4に示されるように、実施例1−2で得られた有機ケイ素化合物を、実施例1−5〜1−9で得られた有機ケイ素化合物にそれぞれ変更した以外は、実施例2−11と同様にしてゴム組成物を得た。
【0062】
[比較例2−5〜2−7]
表5に示されるように、実施例1−2で得られた有機ケイ素化合物を、比較例1−1〜1−3で得られた有機ケイ素化合物にそれぞれ変更した以外は、実施例2−11と同様にしてゴム組成物を得た。
【0063】
[比較例2−8]
表5に示されるように、実施例1−2で得られた有機ケイ素化合物を、KBE−846に変更した以外は、実施例2−9と同様にしてゴム組成物を得た。
【0064】
次に、ゴム組成物の未加硫物性(ムーニー粘度)および加硫物性(動的粘弾性、耐磨耗性)を上記と同様の方法で測定した。比較例2−8を100として指数で表した結果を表4,5に併せて示す。
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
表4および表5に示されるように、実施例2−9〜2−16のゴム組成物の加硫物は、比較例2−5〜2−8のゴム組成物の加硫物に比べ、動的粘弾性が低く、すなわち、ヒステリシスロスが小さく低発熱性であり、また、耐摩耗性に優れていることがわかる。