(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6183503
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】位相補償装置、位相補償方法及び通信装置
(51)【国際特許分類】
H04L 27/01 20060101AFI20170814BHJP
H04L 27/38 20060101ALI20170814BHJP
H04B 10/61 20130101ALI20170814BHJP
【FI】
H04L27/01
H04L27/38
H04B10/61
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-120841(P2016-120841)
(22)【出願日】2016年6月17日
【審査請求日】2016年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】591230295
【氏名又は名称】NTTエレクトロニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148057
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 淑己
(72)【発明者】
【氏名】山崎 悦史
(72)【発明者】
【氏名】野内 裕之
(72)【発明者】
【氏名】大沼 靖治
(72)【発明者】
【氏名】高椋 智大
(72)【発明者】
【氏名】大山 勝一
(72)【発明者】
【氏名】武井 和人
(72)【発明者】
【氏名】富沢 将人
(72)【発明者】
【氏名】木坂 由明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光輝
(72)【発明者】
【氏名】中村 政則
【審査官】
後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/126132(WO,A1)
【文献】
特表2012−520614(JP,A)
【文献】
特開2006−140682(JP,A)
【文献】
特開2014−183552(JP,A)
【文献】
Maurizio Magarini 他,Pilot-Symbols-Aided Carrier-Phase Recovery for 100-G PM-QPSK Digital Coherent Receivers,IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS,2012年,Vol.24, No.9,p.739-741
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B10/00−10/90
H04J14/00−14/08
H04L 27/01
H04L 27/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号から抽出した既知パターンとその真値との位相差である第1の位相差を算出し前記第1の位相差に基づいて前記受信信号に対する位相補償を行うシンボル位相差補償部と、
前記シンボル位相差補償部の出力信号を仮判定して位相の推定値を求める仮判定部と、
前記出力信号の位相と前記仮判定部が求めた前記位相の推定値との位相差である第2の位相差を取得する第1の位相差取得部と、
前記第2の位相差に基づいて前記出力信号に対する位相補償を行う第1の位相差補償部とを備えることを特徴とする位相補償装置。
【請求項2】
前記シンボル位相差補償部は、
前記受信信号に挿入されている前記既知パターンを抽出する既知パターン抽出部と、
前記既知パターンの真値が参照信号として記憶されている参照信号記憶部と、
前記既知パターン抽出部が抽出した前記既知パターンと前記参照信号との位相差である前記第1の位相差を取得する第2の位相差取得部と、
前記第1の位相差に基づいて前記受信信号に対する位相補償を行う第2の位相差補償部とを有することを特徴とする請求項1に記載の位相補償装置。
【請求項3】
前記シンボル位相差補償部の前記出力信号について、コンスタレーション上の第1から第4象限の何れか1つの象限へ、他の象限にある信号を回転させて折りたたむ回転折りたたみ部を更に備え、
前記仮判定部及び第1の位相差取得部は、前記回転折りたたみ部により折りたたまれた前記出力信号に対して処理を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の位相補償装置。
【請求項4】
前記仮判定部は、コンスタレーション上の複数の閾値領域についてそれぞれ位相の推定値を設定し、前記出力信号が含まれる閾値領域に対応する位相の推定値を求め、
前記複数の閾値領域は、第1の閾値領域と、前記第1の閾値領域が対応する信号よりも振幅が大きい信号に対応する第2の閾値領域とを有し、
前記第2の閾値領域は前記第1の閾値領域に比べて位相回転方向に伸びていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の位相補償装置。
【請求項5】
前記第1の位相差取得部は、前記出力信号の複素共役を計算し、前記複素共役と前記仮判定部が出力した信号を乗算することで電界情報信号を計算し、前記電界情報信号から前記第2の位相差を取得することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の位相補償装置。
【請求項6】
前記第1の位相差取得部は、前記出力信号の複素共役を計算し、前記複素共役と前記仮判定部が出力した信号を乗算することで電界情報信号を計算し、前記電界情報信号から回転角度を計算し、前記回転角度から前記第2の位相差を取得することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の位相補償装置。
【請求項7】
位相補償装置が行う位相補償方法であって、
受信信号から抽出した既知パターンとその真値との第1の位相差を算出し前記第1の位相差に基づいて前記受信信号に対する位相補償を行って出力信号を得るステップと、
前記出力信号を仮判定して位相の推定値を求めるステップと、
前記出力信号の位相と前記位相の推定値との第2の位相差を取得するステップと、
前記第2の位相差に基づいて前記出力信号に対する位相補償を行うステップとを備えることを特徴とする位相補償方法。
【請求項8】
光信号をアナログ電気信号に変換する光電変換部と、
前記アナログ電気信号をデジタル電気信号である前記受信信号に変換するAD変換部と、
前記受信信号に対する位相補償を行う請求項1〜6の何れか1項に記載の位相補償装置とを備えることを特徴とする通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ通信において位相変動を補償する位相補償装置、位相補償方法及び通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コヒーレント光通信においては、受信信号の周波数と局部発振光源の周波数との間に周波数差である周波数オフセット(周波数誤差)が生じる。また、非線形光学効果や光ファイバの振動等によって受信信号に位相雑音などの位相変動が生じる。
【0003】
これに対して、入力信号をN乗して位相項(変調による位相変化)を除去した上で周波数誤差を検出して入力側にフィードバックして周波数オフセットを補償する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、周波数オフセットはある程度補償できるが、位相雑音は多く残る。
【0004】
また、振幅に応じて設定した閾値で受信信号を仮判定し、本来の位相と受信信号の位相との差を補償する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。ただし、仮判定のみでは位相雑音補償の精度が低いため、周波数誤差や計算途中で出される位相誤差をフィードバックして仮判定前の位相変動を低減することで精度を高めている。
【0005】
また、送信側で挿入した既知パターンを受信信号から抽出し、本来の位相と受信信号の位相との差を検出して位相雑音を補償する技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−76727号公報
【特許文献2】特開2014−175991号公報
【特許文献3】特開2014−155194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来技術により位相雑音補償を行っても位相変動が取りきれず残るという問題があった。また、フィードバック構成は、高速な周波数・位相制御の性能が必要であるため、実現が難しい。
【0008】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的はフィードバック構成を用いることなく、位相変動補償の精度を向上することができる位相補償装置、位相補償方法及び通信装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る位相補償装置は、受信信号から抽出した既知パターンとその真値との位相差である第1の位相差を算出し前記第1の位相差に基づいて前記受信信号に対する位相補償を行うシンボル位相差補償部と、前記シンボル位相差補償部の出力信号を仮判定して位相の推定値を求める仮判定部と、前記出力信号の位相と前記仮判定部が求めた前記位相の推定値との位相差である第2の位相差を取得する第1の位相差取得部と、前記第2の位相差に基づいて前記出力信号に対する位相補償を行う第1の位相差補償部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、フィードバック構成を用いることなく、位相変動補償の精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る通信装置を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る位相補償装置を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態2に係る位相補償装置を示す図である。
【
図4】シンボル位相差補償部の出力信号をコンスタレーション上にプロットした図である。
【
図5】本発明の実施の形態2に係る仮判定部が設定した複数の閾値領域を示す図である。
【
図6】比較例に係る仮判定部が設定した複数の閾値領域を示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態3に係る位相補償装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係る位相補償装置、位相補償方法及び通信装置について図面を参照して説明する。同じ又は対応する構成要素には同じ符号を付し、説明の繰り返しを省略する場合がある。
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る通信装置を示す図である。この通信装置は、送信側から送信された光信号を受信するデジタルコヒーレント光受信器である。
【0014】
局部発振光源1(Local Oscillator)は、光信号と同じ周波数のレーザ光を発振する光源である。しかし、局部発振光源1の個体差などにより、光信号の周波数と局部発振光源1の出力光の周波数との間には周波数差が存在する。
【0015】
光位相ハイブリッド2は、光信号と局部発振光源1から出力された局発光とを混合して、互いに直交する1組の光信号を生成する。1組の光信号のうち一方は、光信号と局発光とを合成することにより得られ、I(In-phase、同相)成分の光信号と呼ぶ。1組の光信号のうち他方は、光信号と局発光の位相を90度回転したレーザ光とを合成することにより得られ、Q(Quadrature-phase、直交)成分の光信号と呼ぶ。
【0016】
光電変換部3は、1組の光信号を1組のアナログ電気信号に変換する。即ち、光電変換部3は、I成分の光信号及びQ成分の光信号をそれぞれI成分の電気信号及びQ成分の電気信号に変換する。
【0017】
AD(Analog to Digital)変換部4は、1組のアナログ電気信号を所定のサンプリング周波数で標本化することで1組のデジタル電気信号に変換する。即ち、AD変換部4は、I成分のアナログ電気信号及びQ成分のアナログ電気信号をそれぞれI成分のデジタル電気信号及びQ成分のデジタル電気信号に変換する。
【0018】
デジタル信号処理部5は、AD変換部4から出力されたデジタル電気信号に対して、デジタル信号処理を行うことで、送信データを復元(復調)する。デジタル信号処理部5は、以下に説明する位相補償装置を有する。
【0019】
図2は、本発明の実施の形態1に係る位相補償装置を示す図である。光信号には、送信側でデータ信号に対して一定間隔で既知パターンが挿入されている。これは1シンボル又は複数シンボルが比較的短周期に挿入される特徴がある。ただし、同時に送信する複数のデータ列(物理レーン)に対して同一時刻に同時に挿入される。例えば、数十シンボルに対して1シンボルずつ挿入される。今後はこれを「短周期・短既知パターン」と称する。従って、光信号に対応するデジタル電気信号である受信信号にも短周期・短既知パターンが挿入されている。シンボル位相差補償部6は、受信信号から抽出した短周期・短既知パターンとその真値との位相差である第1の位相差を算出し、第1の位相差に基づいて受信信号に対する位相補償を行う。
【0020】
シンボル位相差補償部6において、既知パターン抽出部7は、受信信号に挿入されている短周期・短既知パターンを抽出する。参照信号記憶部8には、送信側でデータ信号に挿入した短周期・短既知パターンの真値が参照信号として予め記憶されている。参照信号は、短周期・短既知パターンが本来取りうる位相を有する。位相差取得部9は、既知パターン抽出部7が抽出した短周期・短既知パターンと参照信号との位相差である第1の位相差を取得する。位相差補償部10は、第1の位相差に基づいて受信信号に対する位相補償を行う。例えば、第1の位相差分だけ受信信号に対して位相回転を行う。これに限らず、電界情報の演算を行い電界ベクトルの乗算で第1の位相差を補償してもよい。
【0021】
シンボル位相差補償部6の出力信号が仮判定位相補償部11に入力される。仮判定位相補償部11において、仮判定部12は、シンボル位相差補償部6の出力信号を仮判定して位相の推定値(本来取るべき位相)を求める。位相差取得部13は、シンボル位相差補償部6の出力信号の位相と仮判定部12が求めた位相の推定値との位相差である第2の位相差を取得する。位相差補償部14は、第2の位相差に基づいてシンボル位相差補償部6の出力信号に対する位相補償を行う。
【0022】
以上説明したように、本実施の形態では、シンボル位相差補償部6の後段に仮判定位相補償部11が配置されているため、シンボル位相差補償部6で補償しきれなかった位相雑音を仮判定位相補償部11により除去することができる。そして、シンボル位相差補償部6及び仮判定位相補償部11は共に簡易なフィードフォワード構成である。さらに、シンボル位相差補償部6により位相雑音の大部分が除去されるため、仮判定の前に位相誤差をフィードバックする必要もない。よって、複雑なフィードバック構成を用いることなく、位相変動補償の精度を向上することができる。
【0023】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2に係る位相補償装置を示す図である。
図4は、シンボル位相差補償部の出力信号をコンスタレーション上にプロットした図である。なお、コンスタレーションは、信号空間ダイヤグラムとも呼ばれ、デジタル変調信号を複素平面上に表現した図である。
【0024】
回転折りたたみ部15は、シンボル位相差補償部6の出力信号について、全ての象限の信号を第1象限へ折りたたむ。即ち、第1象限にある信号はそのまま、第2象限にある信号は−π/2回転させ第1象限へ折りたたみ、第3象限にある信号は−π回転させ第1象限へ折りたたみ、第4象限にある信号は+π/2(=−3π/2)回転させ第1象限へ折りたたむ。そして、仮判定部12及び位相差取得部13は、回転折りたたみ部15により折りたたまれた出力信号に対して処理を行う。これにより、回路規模を低減することができる。なお、本例では第1象限への折りたたみについて示したが、これに限らず、第1から第4象限の何れか1つの象限へ、他の象限にある信号を回転させて折りたたむことで同様の効果を得ることができる。
【0025】
仮判定部12は、コンスタレーション上の複数の閾値領域についてそれぞれ位相の推定値を設定し、シンボル位相差補償部6の出力信号が含まれる閾値領域に対応する位相の推定値を求める。
【0026】
図5は、本発明の実施の形態2に係る仮判定部が設定した複数の閾値領域を示す図である。
図6は、比較例に係る仮判定部が設定した複数の閾値領域を示す図である。比較例では、複数の閾値領域が全て同じ四角形状であり、碁盤の目状に配置されている。これに対して、本実施の形態では、複数の閾値領域は、第1の閾値領域16と、第1の閾値領域16が対応する信号よりも振幅が大きい信号に対応する第2の閾値領域17とを有する。第1の閾値領域16は、比較例と同様に、全て同じ四角形状であり、碁盤の目状に配置されている。一方、第2の閾値領域17は第1の閾値領域16に比べて位相回転方向に伸びている。シンボル位相差補償部6の出力信号は振幅が大きくなるほど位相回転方向に広がって分布するため、本実施の形態のように閾値領域を設定することで誤判定を低減することができる。従って、間違った位相補償が行われ難くなり、位相補償誤差を低減できる。
【0027】
位相差取得部13において、複素共役部18は、第1象限へ折りたたまれた信号の複素共役を計算する。乗算部19がこの複素共役と仮判定部12が出力した信号を乗算することで、それらの信号の位相差を持った電界情報の複素信号が計算される。そして、平均化部20が数シンボル分の平均を取った後、振幅規格化部21が振幅を1に規格化する。位相差補償部14でシンボル位相差補償部6の出力信号の振幅に影響を与えないようにするためである。
【0028】
位相差補償部14は、規格化した複素信号をシンボル位相差補償部6の出力信号に乗算する。これにより、位相雑音の残留分が乗る出力信号に対して位相変動を補償できる。
【0029】
なお、平均化部20による平均化として、数シンボルごとに移動平均を取る手法や、ブロックごとに平均化を取るブロック平均化の手法を使用できる。また、ブロックの半分毎に移動平均を取るようなブロック平均化と補間機能を組み合わせた手法も使用できる。
【0030】
回転折りたたみにて第1象限に折りたたむことで、閾値判定の条件数を1/4に削減できるため、回路規模を削減できるメリットがある。ただし、回転折りたたみ部15を省略することも可能である。この場合、全象限にて仮判定閾値を設定し、仮判定を行うことで、位相推定値を得る。仮判定閾値を象限ごとに個別に設定することで、IQ平面上で特定の歪がある場合に各象限ごとに仮判定閾値を最適化することが可能となり、性能を向上できる場合がある。変調方式多値度、白色雑音量、位相雑音量などによって、最適な仮判定閾値が変化する。このため、仮判定閾値を設定可変な回路構成とすることで、最適な仮判定閾値を選択することが可能となり、位相推定誤差を低減でき、性能を向上できる。また、仮判定閾値を設定して可変な回路構成とし、さらに、仮判定部から出力する送信側の理想IQマッピング位置も設定可変な回路構成とすることで、同一の回路構成にて異なる変調方式の搬送波位相推定が可能となる。閾値判定においては、閾値をI、Q軸上の閾値線で表すことによって判定できる。
【0031】
図7は、閾値線による判定を説明する図である。各判定領域は、送信側のマッピングに対応した64点のコンステレーションに対応する。この図は第1象限における判定領域を示しており、I=1/8、3/8、5/8、7/8、Q=1/8、3/8、5/8、7/8の座標のコンステレーションの判定領域を示している。例えば、受信信号として(I、Q)=(0.8、0.9)を受信した場合について考える。この場合、まず、受信信号がコンステレーション(5/8、7/8)の判定領域に入るかを調べる。この場合の閾値線は0=An*I+Bn*Q+Cn(n=1〜4)で示される。この式は、変形するとQ=−An/Bn*I−Cn/Bnとなり、IQ平面上で直線を表す。特に、Bn=0とした場合はQ軸に平行な直線、An=0とした場合はI軸に平行な直線を表すことができる。上記の式に受信したI値を入力しそれで得られたQ値と、実際に受信したQ値とを比較することで、閾値線のどちらに存在するかを容易に判定できる。なお、閾値線の変数An、Bn、Cnは、通過点や傾きを設定することで容易に求めることができる。例えば、n=1の閾値線は、A1=1、B1=1、C1=−15/8が設定でき、A1*0.8+B1*0.9+C1=−0.175<0となり、受信信号はこの閾値線より下方にあることが示される。n=2の閾値線では、A2=5/12、B2=7/12、C2=−5/12(3/8+5/8)/2−7/12(7/8+7/8)/2が設定され、A2*0.8+B2*0.9+C2=0.139583>0となり、受信信号はこの閾値線より上方にあることが示される。ここで、上記の閾値線における係数C2は、通過点として(3/8、7/8)と(5/8、7/8)の中間点になるように設定されている。更に、n=3の閾値線ではA3=−1、B3=1、C3=0が設定され、A3*0.8+B3*0.9+C3=0.1>0となり、受信信号はこの閾値線より上方にあることが示される。n=4の閾値線ではA4=1、B4=0、C4=0が設定され、I=0.8>0となり、受信信号はこの閾値線より正側にあることが示される。
【0032】
以上より、受信信号(0.8、0.9)は、コンステレーション(5/8、7/8)の判定領域にあり、(5/8、7/8)に対応するデータであると判定できる。上記では、閾値線が直線の場合を示したが、2次曲線で表すことも可能であることは言うまでもない。なお、上記の変数A及びBは可変とすることも可能で、更に外部から設定できるようにすれば、受信状況に応じて閾値を変更することも可能である。
【0033】
実施の形態3.
図8は、本発明の実施の形態3に係る位相補償装置を示す図である。乗算部19が複素信号を計算するまでの構成は実施の形態2と同様である。回転角度計算部22が、複素信号から第2の位相差△Φに対応する回転角度を計算する。そして、平均化部20が数シンボル分の平均を取った後、指数関数表現部23が指数関数表現EXPj(△Φ)で示す。
【0034】
位相差補償部14は、指数関数表現で示された回転角度をシンボル位相差補償部6の出力信号に乗算する。これにより、位相雑音の残留分が乗る出力信号に対して位相変動を補償できる。
【0035】
なお、実施の形態1〜3の位相補償装置の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステム又はプログラマブルロジックデバイスに読み込ませ、実行することにより位相補償を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。更に、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
6 シンボル位相差補償部、7 既知パターン抽出部、8 参照信号記憶部、9,13 位相差取得部、10,14 位相差補償部、12 仮判定部、15 回転折りたたみ部
【要約】
【課題】フィードバック構成を用いることなく、位相変動補償の精度を向上することができる位相補償装置、位相補償方法及び通信装置を得る。
【解決手段】シンボル位相差補償部6は、受信信号から抽出した既知パターンとその真値との位相差である第1の位相差を算出し第1の位相差に基づいて受信信号に対する位相補償を行う。仮判定部12は、シンボル位相差補償部6の出力信号を仮判定して位相の推定値を求める。位相差取得部13は、出力信号の位相と仮判定部12が求めた位相の推定値との位相差である第2の位相差を取得する。位相差補償部14は、第2の位相差に基づいて出力信号に対する位相補償を行う。
【選択図】
図2