【実施例】
【0020】
本発明を実施するための具体的な態様の例を以下に記述する。これらは例示であって、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
黒酢
坂元醸造株式会社から市販されている「坂元のくろず」(商品名)を実施例における黒酢として使用した。
【0022】
〔試験例1〕
(1)本試験用黒酢10倍濃縮液の調製
黒酢には、約4%の酢酸が含まれており、この酢酸にはいくつかの生理作用が報告されている。本試験では、黒酢成分のうち酢酸以外の成分、すなわち黒酢特有の成分の作用を検討するため、以下の操作により黒酢から酢酸を除去して用いた。
黒酢(坂元醸造(株))1000mlを、真空凍結乾燥器(東京理化器械(株) FD-81D)を用いて真空状態にして凍結乾燥した。すなわち、[1]なす型フラスコ内に試料200mlを凍結し、凍結乾燥器の所定の位置にこれを取り付けて、容器内を減圧にする。(×5本)[2]減圧状態を保ったまま一昼夜凍結乾燥する。[3]試料に水気がなくなった、若しくは、容器に水滴がつかなくなる、容器を触って冷たくなくなったら終わりとする。[4]容器内の乾燥物に超純水200mlを加え、これを溶解する。この操作を5回繰り返し、最終の乾燥物全量を超純水で100mlとし、酢酸をほぼ完全に除去したものをサンプルとして用いた。なお、酢酸の除去は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)において酢酸に相当するピークが0.01%未満であることを確認した。
【0023】
(2)飼料の調製
飼料は日本クレア株式会社が製造しているQuick Fat を使用した。Quick Fat はマウス・ラット生育用の標準飼料であるCE-2の脂肪含有量、ショ糖添加量を増加させた高カロリー飼料である。各飼料の栄養成分およびエネルギー量を以下に示す。
(2-1)通常食飼料(CE-2)の栄養成分およびエネルギー量
水分 9.1%
粗蛋白 25.0%
粗脂質 4.8%
粗繊維 4.2%
粗灰分 6.7%
可溶性無窒素物 50.1%
エネルギー量 3.442 kcal/g
(2-2)高脂肪食飼料(Quick Fat)の組成
水分 7.1%
粗蛋白 24.1%
粗脂質 13.9%
粗繊維 2.9%
粗灰分 5.2%
可溶性無窒素物 46.8%
エネルギー量 4.087 kcal/g
(2-3) 本試験用飼料の組成
前記(1)で作成した試験用黒酢を、Quick Fat 1kgに対して6ml添加したものを本試験用飼料とした。本試験用飼料は、0.6%(V/W)の本試験用黒酢を含む高脂肪食飼料ということになる。マウスの1日摂食量が2.5gの場合、10濃縮黒酢を0.015 ml摂取することになる。体表面積あたりの投与量で換算すると黒酢原液を20 ml/m
2摂取することになり、身長170 cm、65 kgの大人の場合(体表面積:1.75 m
2、DuBois式で計算)、摂取量は1日当たり35 mlになる。これはヒトにおける黒酢1日摂取量の目安である30mlに相当する。(非特許文献5)
(2-4) 対照試験用飼料の組成
Quick Fat 1kgに対してレスベラトロール0.4g添加(0.04% w/w)したものを対照試験用飼料とした。(非特許文献6)
【0024】
(3)試験動物及び方法
(3−1)試験動物
10週令のC57BL6J雄性マウス(株式会社ホクドー)を用いた。各群15〜16匹を飼育し、それぞれの飼料は自由摂食させ、110週間飼育した。飼育室は、12時間明暗サイクル・温度23℃±2℃に維持した。以下、Quick Fat投与群をHC(High Calorie)群、本試験用飼料投与群をBV(Black Vinegar)群、レスベラトロール投与群をRes(Resveratrol)群、CE-2投与群をSD(Standard Diet)群として示す。本実験は、「北海道大学における動物実験に関する規則」による審査を受け、動物実験にかかる倫理基準を順守して実施された。
(3−2)試験方法
(3−2−1)血液および臓器の採取
110週間飼育したマウスを、ぺントバルビタールの腹腔内投与による麻酔後、心臓からの採血と同時に失血死させた。肝臓を採取時に脂肪肝発生および腹部内臓器の腫瘤形成について観察し、転移巣は組織学的分析に用いた。組織採取時に得られた臓器は10%中性緩衝ホルマリン液に固定し、冷蔵保存した組織から切片を採取し、ヘマトキシリン・エオジン染色して組織学的分析に使用した。
(3−2−2)老化関連ホルモンの測定
臓器採取時に得た血液から血清を分離し、凍結保存した。得られた血清はMouse Dehydroepiandrosterone sulfate,DHEA-S ELISA Kit(TSZ Scientific, MA, USA)、Mouse/Rat IGF-1 Quantikine ELISA(R & D System, Inc. MN, USA)、Rat/Mouse Growth Hormone ELISA KIT(Millipore, MA, USA)によりそれぞれ硫酸デヒドロエピアンドロステロン(DHEA-S)、インスリン様成長因子1(IGF-1)および成長ホルモン(GH)を測定した。
【0025】
(5)結果
(5−1)脂肪肝の発生率抑制効果
110週飼育後の脂肪肝および肝臓癌発生率を表1に示す。臓器採取時に目視にて確認し、脂肪肝発生数を調べた。脂肪肝および肝細胞癌については認められた組織の切片を作成し、組織学的に脂肪肝、肝細胞癌の発生について評価した。採取した肝臓の代表的な組織像を
図1および
図2に示す。
【0026】
【表1】
脂肪肝発生率の検定: C-BV: p= 0.0170; HC-SD: p= 0.0029, SD-BV: p=1.0; BV-Res: p=0.54; HC-Res: p=0.11; がん発生率の検定: HC-BV: p= 0.600; HC-SD: p= 0.3137
(5−2) 老化関連ホルモン
110週飼育後の血清中老化関連ホルモンの値を表2に示す。本試験用飼料摂取マウスおよびレスベラトロール投与群においてDHEA-Sの有意な上昇が認められた。
【0027】
【表2】
(5−3) 体重変化
飼育期間中における毎週ごとの体重の推移を
図3に示す。
飼育11週から47週目まで、高脂肪食飼料摂取マウス(HC)と比較して、本試験用飼料摂取マウス(BV)の体重の増加抑制傾向が見られ、飼育11週目から23週目まで、25週から37週目では、有意な増加抑制が確認された(
図3)。生存期間を延長する陽性コントロールとして知られている(非特許文献6)レスベラトロール投与群においても同様な体重増加抑制効果が認められた(Tukey法)。
飼育76週から96週目までの高齢期に相当する期間では、高脂肪食飼料摂取マウス(Hc)と比較して、本試験用飼料摂取マウス(BV)の体重の有意な低下抑制効果が認められた。このような体重低下抑制効果はレスベラトロール投与群(Res)では認められなかった。
飼育91週から96週までの摂食量を調べたが有意な差は認められなかった(HD群:2.47 ± 0.24, BV群:2.50 ± 0.07, Res群:2.55 ± 0.19, SD群:3.26 ± 0.11, 1匹あたりの1日摂取量(g)、平均値±標準偏差を示す)。生存率は各群とも有意差は認められなかった。(Log-Rank test)
【0028】
(6)考察
以上の結果より、黒酢のうち酢酸以外の成分、すなわち、黒酢特有成分は高脂肪食に伴う脂肪肝の発生を抑制し、老化の指標の1つであるDHEA-Sの低下を抑制することがわかった。さらに、体重に関し高齢期は体重減少による脂肪リスクの上昇が知られているところ(非特許文献7,8)、黒酢特有成分には、体重低下を抑制する作用があることが明らかとなった。
これまで黒酢が脂質代謝の改善作用、サーチュイン遺伝子発現亢進作用があることなどを発明者らは報告してきたが、これらの効果とともに、長期投与における効果として、高脂肪食に伴う脂肪肝発生率を低下させ、かつ加齢に伴い理想的な体重のコントロール効果があると考えられた。