【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
製造例1:ペリジニンの単離
渦鞭毛藻であるSymbiodinium sp.OTCL2A株を、ヒメシャコガイTridacna croceaから単離した。当該OTCL2A株を、ES培地中、25℃で40日間培養した。132Lの培養液から得られたOTCL2A株細胞82.0gを凍結させ、70v/v%エタノール水(150mL)中、ホモジナイザー(Janke&Kunkel GmbH&Co.KGIKA−Labortechnik,Germany,「ULTRATURRAX T25」)を使ってホモジナイズし、4℃で3日間静置した後、遠心分離した。上清と沈殿を分離し、上記と同条件により70v/v%エタノール水(150mLずつ)で沈殿から再度2回抽出した。各抽出液を合わせ、減圧濃縮した。残渣を水(100mL)に懸濁し、酢酸エチル(200mLずつ)で3回抽出した。抽出液を合わせて減圧濃縮し、酢酸エチル可溶性フラクション(903mg)を得た。当該フラクションの一部(676mg)を、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(シリカゲル:ナカライテスク社製「Silica Gel 60」,60mL,溶離液:ジクロロメタン/メタノール=99/1→98/2→96/4→92/8,各120mL)に付した。ジクロロメタン/メタノール=96/4および92/8で溶出したフラクション(264.8mg)のうち一部(199.2mg)を、ODSカラム(ナカライテスク社製,「Cosmosil 75C18−OPN」,19mL)にチャージし、80v/v%メタノール水(40mL)と85v/v%メタノール水(80mL)で溶出した。85v/v%メタノール水で溶出されたフラクション(98.8mg)から、下記条件のHPLCによりペリジニンを精製した(24.7mg)。
HPLC条件
カラム: ナカライテスク社製「Cosmosil 5C18−AR−II」,20mmφ×250mm
溶離液: 85%アセトニトリル水
流速: 6.0mL/min
【0041】
比較製造例1:フコキサンチンの単離
褐藻であるPetalonia fascia(54.52g)を凍結させ、メタノール(500mLずつ)で4回抽出した。得られた抽出液を合わせ、減圧濃縮した。残渣を90v/v%メタノール水(100mL)に溶解した後、ヘキサン(100mLずつ)で2回、不純物を抽出した。残った90v/v%メタノール水層を濃縮した。残渣を水(100mL)に加えた後、酢酸エチル(100mLずつ)で2回抽出した。酢酸エチル可溶性フラクション(602.1mg)をシリカゲルカラム(ナカライテスク社製,「Silica Gel 60」,12mL)にチャージし、ヘキサン/酢酸エチル=1/1(170mL)で溶出した。5番目のフラクション(32.4mg)を、ODSカラム(ナカライテスク社製,「Cosmosil 75C18−OPN」,10mL)にチャージし、85v/v%メタノール水(40mL)と90v/v%メタノール水(30mL)で溶出した。90v/v%メタノール水で溶出された3番目のフラクションに、フコキサンチン(12.8mg)が含まれていた。
【0042】
試験例1:遅延性アレルギーに対する効果
BALB/c雌性マウスを日本クレア株式会社より購入し、8〜10週齢のものを実験に供した。先ず、免疫抑制細胞の増殖を防ぐために、シクロホスファミド水溶液を150mg/kg皮下注射した。2週間後、腹部を剃毛し、2,4,6−トリニトロクロロベンゼン(塩化ピクリル,以下、「PCl」と略記する)をエタノール/アセトン=3/1の混合液に溶解した7質量%溶液(0.05mL)を、剃毛部に塗布することにより免疫感作を行った。感作から2週間後、本発明に係るペリジニン、比較例であるフコキサンチン、または副腎皮質ホルモンであるコルチゾールを10μg耳部に塗布するか、或いは、ペリジニンまたはフコキサンチン50μgを腹腔内投与した。上記の塗布または投与から3時間後、PClをアセトン/オリーブオイル=1/4の混合液に溶解した1質量%溶液(0.02mL)を耳朶に塗布し、抗原曝露を行った。抗原曝露から0時間後、4時間後、24時間後および48時間後に耳部の厚さをダイアルゲージ(尾崎製作所社製)で測定した。また、比較のために、薬剤を投与しない例と、感作のみで抗原曝露を行わない例でも同様に実験した。各実験は10例ずつ行って、平均値を算出した。また、得られた結果を分散分析し、Turkey−Kramer’s事後検定した。結果を
図1に示す。
図1中、「*」は、p<0.01で薬剤を投与しない例に対して有意差がある場合を示す。
【0043】
図1に示す結果のとおり、フコキサンチンは塗布投与でも腹腔内投与でも遅延性アレルギーを抑制することはできなかった。それに対して副腎皮質ホルモンであるコルチゾールは遅延性アレルギーを強力に抑制し、抗原曝露から24時間後および48時間後における抑制率はそれぞれ22.4%および18.2%であった。また、本発明に係るぺリジニンは、ステロイドホルモンではないが遅延性アレルギーを有意に抑制することができ、抗原曝露から24時間後および48時間後における抑制率は、耳に塗布した場合でそれぞれ8.9%および9.2%であり、腹腔内投与した場合でそれぞれ12.7%および11.7%であった。
【0044】
試験例2:炎症部位における好酸球の抑制効果
好酸球は、遅延性アレルギーの炎症部で増加することが知られている。そこで、本発明に係るペリジニンの遅延性アレルギーに対する効果の指標として、好酸球を用いた。
【0045】
具体的には、上記試験例1と同様にして、PClによる感作、ペリジニン、フコキサンチンまたはコルチゾールの塗布投与または腹腔内注射投与、および抗原曝露を行った。抗原曝露から48時間後、耳朶から組織を採取し、試料をヘマトキシリン/ギムザ溶液により染色した後、断面を400倍に拡大し、200μm×200μmの皮膚組織に浸潤している好酸球の数を計数した。計数は少なくとも10ヶ所で行い、上記試験例1と同様に平均値を算出し、また、Turkey−Kramer’s有意差検定を行った。結果を
図2に示す。
図2中、「*」は、p<0.01で薬剤を投与しない例に対して有意差がある場合を示す。
【0046】
図2に示す結果のとおり、フコキサンチンでは塗布投与でも腹腔内投与でも炎症部位における好酸球の増加を抑制することはできなかった。それに対して副腎皮質ホルモンであるコルチゾールを塗布した場合、薬剤を投与しなかった場合に比べ、好酸球の数を68.5%抑制した。また、本発明に係るぺリジニンは、耳に塗布した場合で79.9%、腹腔内投与した場合で60.3%、炎症部位における好酸球数を抑制した。
【0047】
試験例3:末梢血における好酸球の抑制効果
上記試験例1と同様にして、PClによる感作、ペリジニン、フコキサンチンまたはコルチゾールの塗布投与または腹腔内注射投与、および抗原曝露を行った。抗原曝露から48時間後、後眼窩叢から血液を採取し、スライドガラス上に塗布し、ギムザ溶液で染色した。得られた試料において、少なくとも200以上の白血球中に占める好酸球の割合を求めた。測定は10以上の試料について行い、上記試験例1と同様に平均値を算出し、また、Turkey−Kramer’s有意差検定を行った。結果を
図3に示す。
図3中、「*」は、p<0.01で薬剤を投与しない例に対して有意差がある場合を示す。
【0048】
図3に示す結果のとおり、フコキサンチンでは塗布投与でも腹腔内投与でも、末梢血においても好酸球の増加を抑制することはできなかった。それに対して副腎皮質ホルモンであるコルチゾールを塗布した場合、薬剤を投与しなかった場合に比べ、末梢血における好酸球の数を83.1%抑制した。また、本発明に係るぺリジニンは、耳に塗布した場合で82.2%、腹腔内投与した場合で78.4%、末梢血における好酸球数を抑制した。
【0049】
なお、別途、ペリジニンで処理したマウスの末梢血の血清におけるIL−5の濃度を測定したが、その生成は抑制されていなかった。IL−5は好酸球の増殖を選択的に誘導するものであることから、ペリジニンにより好酸球の生成が抑制されるのは、炎症部位において好酸球の遊走を強力に誘導するエオタキシンが抑制されていることが考えられる。
【0050】
試験例4:エオタキシンの抑制効果
上記試験例1と同様にして、PClによる感作、ペリジニン、フコキサンチンまたはコルチゾールの塗布投与または腹腔内注射投与、および抗原曝露を行った。抗原曝露から48時間後、各マウスから耳部を採取し、界面活性剤(Tween 20)を0.1v/v%含むPBSを耳部試料10mg当たり100μL加え、さらに直径5mmのジルコニアビーズを加え、ミキサーミル(Retsch社製,「MM300」)を使って30Hzで2分間ホモジェナイズした。得られたホモジネートを12,000rpmで10分間遠心分離した。エオタキシンの測定まで、上清を−80℃で保存した。当該上清中におけるエオタキシンの濃度を、測定キット(Ray Biotech社製,「Mouse eotaxin ELISA kit」)で測定した。また、得られた結果を分散分析し、Turkey−Kramer’s事後検定した。なお、上記条件におけるエオタキシンの検出限界は、組織1mg当たり0.01pgである。結果を
図4に示す。
図4中、「*」は、p<0.01で薬剤を投与しない例に対して有意差がある場合を示し、「**」はp<0.05で有意差がある場合を示す。
【0051】
図4に示す結果のとおり、PClによる抗原曝露により、好酸球のケモカイン受容体のリガンドであるエオタキシンの産生が促進された。かかるエオタキシン産生は、フコキサンチンの塗布投与では抑制されなかったが、腹腔内投与では抑制率19.4%と少し抑制された。一方、本発明に係るペリジニンでは、腹腔内投与では抑制効果は無かったが、塗布投与では30.6%という阻害率で阻害が見られた。かかる阻害率は、コルチゾールの42.1%という阻害率に匹敵するものであった。
【0052】
以上の結果より、ペリジニンとフコキサンチンとでは、エオタキシンに対する産生抑制メカニズムが異なっており、ひいては活性化される内皮細胞、上皮細胞およびマクロファージなどによるエオタキシン産生の抑制メカニズムが異なっているといえる。また、ペリジニンとフコキサンチンとでは、皮膚浸透性も異なると考えられる。
【0053】
試験例5:エオタキシンによる好酸球の走化性の抑制効果
Tominaga,A.ら,J.Exp.Med.,173,pp.429-437(1991)に従って、IL−5トランスジェニックマウス(C3H/HeN−TgN(IL−5)−Imeg)を作製し、特定病原体未感染(SPF)状態で維持した。8〜15週齢のIL−5トランスジェニックマウスから、Watanabe,Y.ら,DNA Cell Biol.,20,pp.189-202(2001)に記載のパーコール比重勾配遠心法の変法により、好酸球が富化された組成物を得た。Krebs Ringer PBS(154mM塩化ナトリウム、6mM塩化カリウムおよび1mM塩化マグネシウムを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)。以下、「KRP」と略記する)の10×溶液を使って等張パーコール液を調製し、KRPで60v/v%、70v/v%および80v/v%に希釈した。15mLのコニカルポリプロピレンチューブに、20〜50×10
6個の細胞を含むKRP懸濁液2mLを入れた後、上記各パーコール液を濃度の低いものから2.5mLずつ慎重に積層した。当該チューブを室温、1000×gで20分間遠心分離した。70〜80v/v%パーコール画分中のBリンパ球とTリンパ球を抗B220および抗Thy1.2結合ビーズ(DYNAL A.S.社製,「Dynabeads」)に結合させ、永久磁石を使って当該ビーズを除去することによって、好酸球の純度を高めたフラクションを得た。当該フラクションから一部を分離し、上記J.Exp.Med.(1991)記載の方法に従って好酸球をペルオキシダーゼ染色し、その割合を測定したところ、全細胞のうち93%が好酸球であった。
【0054】
上記で得た好酸球細胞4×10
5個を、BSAを0.1質量%含むRPMI1640培地300μLに懸濁し、5μmの孔径を有する24ウェル走化性チャンバー(クラボウ社製)の上部ウェルに添加した。下部チャンバーにはBSA0.1%とマウス由来エオタキシン20ng/mLを含むRPMI1640培地800μLを加えた。次いで、1μgまたは3μgのペリジニンまたはフコキサンチンを各トランスウェルに添加した。アッセイプレートを、5%CO
2雰囲気下、37℃で1時間インキュベートした。インキュベート後、フィルターを透過して下部チャンバーに移動した細胞の数を計数した。比較のために、薬剤を添加しない場合とエオタキシンを添加しない場合でも同様に実験した。。また、得られた結果を分散分析し、Turkey−Kramer’s事後検定した。結果を
図5に示す。
図5の結果は、660μm×840μmの範囲における細胞数で表している。各群の実験は6ウェルで行い、各ウェルにおいて3例の上記範囲における好酸球数を計数した。即ち、
図5の結果は、18例の平均である。
図5中、「*」はp<0.01で有意差がある場合を示す。
【0055】
図5に示す結果のとおり、好酸球のエオタキシンへの走化性は、1μgまたは3μgのフコキサンチンにより、それぞれ24.2%および61.7%抑制されたが、さらに、1μgまたは3μgのペリジニンにより、それぞれ57.4%および72.8%抑制された。このように、ペリジニンは、好酸球のエオタキシンへの走化性を、フコキサンチンよりも有効に抑制できることが証明された。