【文献】
森口悠他,ウサギ胚性幹細胞より誘導された間葉系幹細胞由来スキャフォールドフリー三次元人工組織の形成とその軟骨分化誘導,日本整形外科学会雑誌,2011年,Vol.85,No.8,p.S1267,2-6-29
【文献】
BUCKLEY C.T. et al.,Expansion in the presence of FGF-2 enhances the functional development of cartilaginous tissues engineered using infrapatellar fat pad derived MSCs,Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials,2012年,Vol.11,p.102-111
【文献】
AZOUNA Nesrine Ben et al.,Phenotypical and functional characteristics of mesenchymal stem cells from bone marrow:comparison of culture using different media supplemented with human platelet lysate or fetal bovine serum,Stem Cell Research & Therapy,2012年,Vol.3, Issue 1,6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
実質的に、多能性幹細胞から誘導された間葉系幹細胞、および該細胞に由来する細胞外マトリクスから構成される移植可能な人工組織であって、該人工組織は、αMEMに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を加えた条件またはDMEMの条件下で自己収縮を行うことによって生産される、人工組織。
骨軟骨欠損に関連する疾患、障害または状態を治療または予防するための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の人工組織と人工骨とを含む複合組織であって、該人工骨は、該骨軟骨欠損における骨部の欠損の深さよりも小さなサイズである、複合組織。
前記人工骨は、前記骨軟骨欠損における骨部の欠損の深さよりも約2mm以上〜約4mm小さく、および/または軟骨の厚みの2倍以下小さいサイズである、請求項9〜11のいずれか1項に記載の複合組織。
前記疾患、障害または状態は、変形性関節症、骨軟骨損傷、骨軟骨病変、骨壊死、関節リウマチ、骨腫瘍およびその類似疾患からなる群より選択される、請求項9〜13のいずれか1項に記載の複合組織。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞等の修飾辞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0039】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0040】
(再生医療)
本明細書において使用される「再生」(regeneration)とは,個体の組織の一部が失われた際に残った組織が増殖して復元される現象をいう。動物種間または同一個体における組織種に応じて、再生のその程度および様式は変動する。ヒト組織の多くはその再生能が限られており、大きく失われると完全再生は望めない。大きな傷害では、失われた組織とは異なる増殖力の強い組織が増殖し,不完全に組織が再生され機能が回復できない状態で終わる不完全再生が起こり得る。この場合には,生体内吸収性材料からなる構造物を用いて、組織欠損部への増殖力の強い組織の侵入を阻止することで本来の組織が増殖できる空間を確保し,さらに細胞増殖因子を補充することで本来の組織の再生能力を高める再生医療が行われている。この例として、軟骨、骨、心臓および末梢神経の再生医療がある。軟骨、神経細胞および心筋は再生能力がないかまたは著しく低いとこれまでは考えられてきた。これらの組織へ分化し得る能力および自己増殖能を併せ持った組織幹細胞(体性幹細胞)の存在が報告され、一部は実用化されつつあり、組織幹細胞を用いる再生医療への期待が高まっている。胚性幹細胞(ES細胞)はすべての組織に分化する能力をもった細胞である。誘導多能性幹(iPS)細胞は、胚または胎児を介しないで生産することができる幹細胞であって、すべての組織に分化する能力をもった細胞である。体性幹細胞は、ES細胞およびiPS細胞等の全能性の細胞から作製することもできる(文献として、de Peppo et al., TISSUE ENGINEERING: Part A, 2010; 16; 3413-3426; Toh et al., Stem Cell Rev.and Rep., 2011; 7: 544-559; Varga et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2011; doi:10.1016/j.bbrc.2011.09.089; Barbet et al., Stem Cells International, 2011, doi:10.4061/2011/368192; Sanchez et al., STEM CELLS, 2011; 29: 251-262; Simpson et al., Biotechnol. Bioeng., 2011; doi:10.1002/bit. 23301; Jung et al., STEM CELLS,2011;doi:10.1002/stem.727を参照のこと)。
【0041】
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己複製能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本発明の方法においては、どのような細胞でも対象とされ得る。本発明で使用される「細胞」の数は、光学顕微鏡を通じて計数することができる。光学顕微鏡を通じて計数する場合は、核の数を数えることにより計数を行う。例えば、当該組織を組織切片スライスとし、ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色を行うことにより細胞外マトリクス(例えば、エラスチンまたはコラーゲン)および細胞に由来する核を色素によって染め分ける。この組織切片を光学顕微鏡にて検鏡し、特定の面積(例えば、200μm×200μm)あたりの核の数を細胞数と見積って計数することができる。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、多能性幹細胞(例えば、ES細胞、iPS細胞等)から誘導した細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。細胞としては、例えば、初代培養の細胞が用いられ得るが、継代培養した細胞もまた使用され得る。本明細書において、細胞密度は、単位面積(例えば、cm
2)あたりの細胞数で表すことができる。
【0042】
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、複数方向への分化能=多分化能(「pluripotency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書では幹細胞は、ES細胞、iPS細胞等の多能性幹細胞(詳細に言及するときは全能性幹細胞(totipotent)ともいうが、本明細書においては交換可能に使用される。または間葉系幹細胞等の組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞もまた、幹細胞であり得る。ES細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞または全能性幹細胞をいう。ES細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒトES細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。iPS細胞は、最近注目されている。皮膚細胞等からいわゆる山中因子等を用いて(初期化)誘導することにより作製することができる(Takahashi K, Yamanaka S. (2006). “Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors”. Cell 126: 663-676、Okita K, Ichisaka T, Yamanaka S. (2007). “Generation of germline-competent induced pluripotent stem cells”. Nature 448: 313-317、Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, Tomoda K, Yamanaka S. (2007). “Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors”. Cell 131: 861-872。組織幹細胞は、ES細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞から、間葉様系幹細胞とも称される間葉系幹細胞への誘導は、当該分野において公知の技術を用いて行うことができる。例えば、iPS細胞から、間葉様系幹細胞とも称される間葉系幹細胞への誘導は、Jung et al,STEM CELLS,2011;doi:10.1002/stem.727を参照して実施することができる。また、ES細胞から、間葉様系幹細胞とも称される間葉系幹細胞への誘導は、例えば、de Peppo et al., TISSUE ENGINEERING: Part A, 2010; 16; 3413-3426; Toh et al., Stem Cell Rev. and Rep., 2011; 7:544-559; Varga et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2011; doi:10.1016/j.bbrc.2011.09.089; Barbet et al., Stem Cells International, 2011, doi:10.4061/2011/368192; Sanchez et al., STEM CELLS, 2011; 29:251-262; Simpson et al., Biotechnol. Bioeng., 2011; doi:10.1002/bit.23301を参照することができる。あるいは、これらの改良法として、Teramura etal.,Cell transplant 2012で報告された低酸素法等を用いてもよい。
【0043】
歴史的には、由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来、骨髄由来)などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。これらの組織幹細胞はES細胞およびiPS細胞等から分化させることによって生産することができるようになったことから、このような由来による分類は、最近では、その幹細胞が持つ分化能を指標に再定義されており、それぞれが持つ分化能を指標に、由来がES細胞およびiPS細胞等であっても、特定の組織幹細胞(例えば、間葉系幹細胞)と同様の分化能を有するのであれば、その特定の組織幹細胞が達成すべき目的を達成することができると理解されている。しかしながら、このようななか、本発明では、ES細胞およびiPS細胞等の多能性幹細胞から誘導させた間葉系幹細胞を使用した場合、より顕著な効果を奏することが見出された。
【0044】
本明細書において「体細胞」とは、卵子、精子などの生殖細胞以外の細胞であり、そのDNAを次世代に直接引き渡さない全ての細胞をいう。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。本明細書において使用される体細胞は、天然に存在するものであってもよく、遺伝子改変されたものであってもよい。本明細書において、体細胞に由来する場合「体性」と称する。
【0045】
細胞は、由来により、外胚葉、中胚葉および内胚葉に由来する幹細胞に分類され得る。外胚葉由来の細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞などが含まれる。中胚葉由来の細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞、造血幹細胞および間葉系幹細胞などが含まれる。内胚葉由来の細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵幹細胞などが含まれる。本明細書で用いられる場合、「間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell;MSC)」は、間葉系に属する細胞への分化能をもつ体性幹細胞またはそのように誘導された幹細胞をいい、その分化能には、骨、軟骨、血管、心筋等の間葉系の組織への分化が含まれ、これらの組織の再構築などの再生医療に応用されうる。代表的には、間葉に由来する体性幹細胞(例えば、骨髄間質細胞に含まれる骨髄間葉系幹細胞、滑膜細胞に含まれる間葉系幹細胞)またはそのように誘導された幹細胞が含まれる。
【0046】
間葉系幹細胞(MSCは、間葉に見出されうる。ここで、間葉とは、多細胞動物の発生各期に認められる、上皮組織間の間隙をうめる星状または不規則な突起をもつ遊離細胞の集団と,それに伴う細胞間質によって形成される組織をいう。間葉系幹細胞は、増殖能と、骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、ストローマ細胞、腱細胞、脂肪細胞への分化能を有する。間葉系幹細胞は、患者から採取した骨髄細胞等を培養または増殖、軟骨細胞あるいは骨芽細胞に分化させるために使用され、または歯槽骨、関節症等の骨、軟骨、関節などの再建材料として使用されており、その需要は大きい。従って、本発明の間葉系幹細胞または分化した間葉系幹細胞を含む複合組織は、これらの用途において構造体が必要である場合に特に有用である。
【0047】
間葉系幹細胞(MSC)であるかどうかは、自己複製能、分化能(骨形成性(osteogenic)、軟骨形成性(chondrogenic)、脂肪形成性(adipogenic))、細胞マーカー(例えば、PDGFレセプターα+、ビメンチン+、CD105+、およびCD271+)の1または複数を指標等とすることによって確認することができる。間葉系幹細胞(MSC)であるかどうかの確認は、本明細書において実施例に例示される方法で行うことができる。
【0048】
本明細書において、「自己複製能」は、自己と同様な幹細胞を生む(複製する)能力として定義される。自己複製能の確認は、本明細書において実施例に例示される方法で行うことができる。
【0049】
本明細書において、「骨形成性(osteogenic)」は、骨前駆細胞により石灰化を伴う骨組織を新生する能力として定義される。このような形成能は、本明細書で説明されるような骨分化の条件に試験対象を付することによって確認することができる。また、骨形成性の確認は、本明細書において実施例に例示される方法で行うことができる。
【0050】
本明細書において、「軟骨形成性(chondrogenic)」は、軟骨前駆細胞により軟骨特異的な細胞外マトリックス(II型コラーゲン、アグリカン等を含む)を新生する能力としてで定義される。このような形成能は、本明細書で説明されるような軟骨分化の条件に試験対象を付することによって確認することができる。また、軟骨形成性の確認は、本明細書において実施例に例示される方法で行うことができる。
【0051】
本明細書において、「脂肪形成性(adipogenic)」は、脂肪前駆細胞により脂肪組織を新生する能力としてで定義される。このような形成能は、本明細書で説明されるような脂肪分化の条件に試験対象を付することによって確認することができる。また、脂肪形成性の確認は、本明細書において実施例に例示される方法で行うことができる。
【0052】
本明細書において「単離された」とは、通常の環境において天然に付随する物質が少なくとも低減されていること、好ましくは実質的に含まないことをいう。従って、単離された細胞、組織などとは、天然の環境において付随する他の物質(たとえば、他の細胞、タンパク質など)を実質的に含まない細胞をいう。組織についていう場合、単離された組織とは、その組織以外の物質(例えば、人工組織または複合体の場合は、その人工組織を作製するに際して使用された物質、スキャフォールド、シート、コーティングなど)が実質的に含まれていない状態の組織をいう。本明細書において、単離されたとは、好ましくは、スキャフォールドが含まれていないこと(すなわち、スキャフォールドフリー)をいう。従って、単離された状態では、培地など本発明の人工組織あるいはその人工組織を含む医療デバイス(例えば、複合体)を生産する際に使用される成分は入っていてもよいことが理解される。
【0053】
本明細書において「スキャフォールドフリー(スキャフォールドフリー、基盤材料なし;scaffold−free)」とは、人工組織を生産するときに従来使用されている材料(基盤材料=スキャフォールド)を実質的に含まないことをいう。そのようなスキャフォールドの材料としては、例えば、化学高分子化合物、セラミック、あるいは多糖類、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸などの生物製剤などを挙げることができるがそれらに限定されない。スキャフォールドとは、実質的に固形であり、細胞または組織を支持することができる強度を含む材料をいう。
【0054】
本明細書において、「樹立された」または「確立された」細胞とは、特定の性質(例えば、多分化能)を維持し、かつ、細胞が培養条件下で安定に増殖し続けるようになった状態をいう。したがって、樹立された幹細胞は、多分化能を維持する。例えば、本発明で用いるMSCは、樹立された誘導型MSCであってもよく、樹立されたES細胞またはiPS細胞から誘導されたMSCであってもよい。
【0055】
本明細書において、「非胚性」とは、初期胚に直接由来しないことをいう。従って、初期胚以外の身体部分に由来する細胞がこれに該当するが、胚性幹細胞に改変(例えば、遺伝的改変、融合など)を加えて得られる細胞、iPS細胞もまた、非胚性細胞の範囲内にある。
【0056】
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
【0057】
本明細書において「組織」(tissue)とは、細胞生物において、同一の機能・形態をもつ細胞集団をいう。多細胞生物では、通常それを構成する細胞が分化し、機能が専能化し、分業化がおこる。従って細胞の単なる集合体であり得ず,ある機能と構造を備えた有機的細胞集団,社会的細胞集団としての組織が構成されることになる。組織としては、外皮組織、結合組織、筋組織、神経組織などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明の組織は、生物のどの臓器または器官由来の組織でもよい。本発明の好ましい実施形態では、本発明が対象とする組織としては、骨、軟骨、腱、靭帯、半月、椎間板、骨膜、硬膜などの組織が挙げられるがそれらに限定されない。
【0058】
本明細書において「細胞シート」とは、単層の細胞から構成される構造体をいう。このような細胞シートは、少なくとも二次元の方向に生物学的結合を有する。生物学的結合を有するシートは、製造された後、単独で扱われる場合でも、細胞相互の結合が実質的に破壊されないことが特徴である。そのような生物学的結合には、細胞外マトリクスを介した細胞間の結合が含まれる。このような細胞シートは、部分的に2、3層構造を含むものであってもよい。
【0059】
本明細書において「人工組織」とは、天然の状態とは異なる組織をいう。本明細書において、代表的には、人工組織は、細胞培養によって調製される。生物の中に存在する形態の組織をそのまま取り出してきたものは本明細書では人工組織とはいわない。従って、人工組織は、生体に由来する物質および生体に由来しない物質を含み得る。本発明の人工組織は、通常細胞および/または生体物質で構成されるが、それ以外の物質を含んでいてもよい。より好ましくは、本発明の人工組織は、実質的に細胞および/または生体物質のみで構成される。このような生体物質は、好ましくはその組織を構成する細胞に由来する物質(例えば、細胞外マトリクスなど)であることが好ましい。
【0060】
本明細書において「移植可能な人工組織」とは、人工組織のうちで、実際の臨床において移植することができ、移植後も少なくとも一定期間移植された部位において組織としての役割を果たすことができる人工組織をいう。移植可能な人工組織は通常、十分な生体適合性、十分な生体定着性などを有する。
【0061】
移植可能な人工組織において十分な強度は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その強度を設定することができる。この強度は、自己支持性に十分な強度があり、移植される環境に応じて設定することができる。そのような強度は、応力、歪み特性を測定したり、クリープ特性インデンテーション試験を行うことによって測定され得る。強度はまた、最大荷重を観察することによって評価され得る。
【0062】
移植可能な人工組織において十分な大きさは、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その大きさを設定することができる。この大きさは、移植される環境に応じて設定することができる。しかし、移植される場合は少なくとも一定の大きさを有することが好ましく、そのような大きさは、通常、面積について少なくとも1cm
2であり、好ましくは少なくとも2cm
2であり、より好ましくは少なくとも3cm
2である。さらに好ましくは少なくとも4cm
2であり、少なくとも5cm
2であり、少なくとも6cm
2であり、少なくとも7cm
2であり、少なくとも8cm
2であり、少なくとも9cm
2であり、少なくとも10cm
2であり、少なくとも15cm
2であり、あるいは少なくとも20cm
2であり得るが、それらに限定されず、面積は、用途に応じて1cm
2以下または20cm
2以上であり得る。本発明の本質は、どのような大きさ(面積、容積)のものでも作製することができる点にあり、サイズに限定されないことが理解される。
【0063】
容積で表す場合は、上記大きさは、少なくとも2mm
3であり得、少なくとも40mm
3であり得るがそれに限定されず、2mm
3以下であっても、40mm
3以上であってもよいことが理解される。
【0064】
移植可能な人工組織において十分な厚みは、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その厚みを設定することができる。この厚みは、移植される環境に応じて設定することができる。5mmを超えてもよい。例えば、骨、軟骨、靭帯、腱などに適用される場合、通常、少なくとも約1mmであり得、例えば、少なくとも約2mm、より好ましくは少なくとも約3mm、少なくとも約4mm、さらに好ましくは約5mmおよびそれ以上でも、約1mm未満であってもよい。本発明の本質は、どのような厚さの組織または複合体でも作製することができる点にあり、サイズに限定されないことが理解される。
【0065】
移植可能な人工組織において十分な生体適合性は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その生体適合性の程度を設定することができる。通常、所望される生体適合性としては、例えば、炎症などを起こさず、免疫反応を起こさずに、周囲組織と生物学的結合を行うことなどが挙げられるが、それらに限定されない。生体適合性のパラメータとしては、例えば、細胞外マトリクスの存否、免疫反応の存否、炎症の程度などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような生体適合性は、移植後における移植部位での適合性を見ること(例えば、移植された人工組織が破壊されていないことを確認する)によって判定することができる(ヒト移植臓器拒絶反応の病理組織診断基準鑑別診断と生検標本の取扱い(図譜)腎臓移植、肝臓移植、膵臓移植、心臓移植、および肺移植、日本移植学会・日本病理学会編、金原出版株式会社(1998)を参照)。
【0066】
移植可能な人工組織において十分な生体定着性は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その生体定着性の程度を設定することができ る。生体適合性のパラメータとしては、例えば、移植された人工組織と移植された部位との生物学的結合性などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような生体定着性は、移植後における移植部位での生物学的結合の存在によって判定することができる。本明細書において好ましい生体定着性とは、移植された人工組織が移植された部位と同じ機能を発揮するように配置されていることが挙げられる。
【0067】
本明細書において「自己支持性」とは、組織(例えば、人工組織)の少なくとも1点が空間上に固定されるときに、その人工組織が実質的に破壊されない特性をいう。本明細書において、自己支持性は、0.5〜3.0mmの太さの先端を有するピンセットで組織(例えば、人工組織)をつまみあげた(好ましくは、1〜2mmの太さの先端を有するピンセット、1mmの太さの先端を有するピンセットで組織をつまむ;ここで、ピンセットは、先曲がりであることが好ましい)ときに、実質的に破壊されないことによって観察される。そのようなピンセットは、市販されており、例えば、夏目製作所などから入手可能である。ここで採用される、つまみ上げる力は、通常、医療従事者が組織をハンドリングする際に掛ける力に匹敵する。従って、自己支持性は、手でつまみあげたときに破壊されないという特長によっても表現することが可能である。そのようなピンセットとしては、例えば、先曲がり先細無鈎ピンセット(例えば、夏目製作所から販売される番号A−11(先端は1.0mmの太さ)、A−12−2(先端は0.5mmの太さ)などを挙げることができるがそれらに限定されない。先曲がりのほうが人工組織を摘み上げやすいが、先曲がりであることに限定されない。
【0068】
例えば、関節における処置を行う場合、置換が主に行われるが、そのような場合に使用される本発明の人工組織は、強度として、上記最低限の自己支持性を有するだけで十分であり、その後は、含まれる細胞が罹患部の細胞に置換され、マトリックスを形成することにより力学的強度を増し、治癒が進む。また、1つの実施形態では、本発明は、人工関節とともに使用され得ることが理解される。
【0069】
本発明では、自己支持性は、実際に人工組織を作製したときの支持性を評価することも重要である。本発明の人工組織を作製する際、容器中に細胞のシートが作製され、そのシートを容器より剥離する際に、シートが破壊されずに、すなわち、剥離の前の単層のシートの状態において、容器から分離する時点ですでに十分耐え得る強度、すなわち、自己支持性を有することから、本発明の人工組織は、実質的に任意の局面に応用可能であることが理解される。ここで、単層とは、部分的に2〜3層構造を有し得る層を含むことをいうことが理解される。また、通常、人工組織の作製および剥離後は、その人工組織の強度および自己支持性は、上昇することが本発明において観察されたことから、本発明においては、自己支持性は、作製時における評価が一つの重要な局面であり得ることが理解される。本発明では、当然、移植局面での強度も重要であることから、作製後ある程度時間が経過した後の自己支持性を評価することも重要であり得る。従って、このような関係式をもとに、当業者は、使用される時期を見越して逆算して、出荷の時の強度、タイミングを設定することができることが理解される。
【0070】
本明細書において「臓器」と「器官」(organ)とは、互換的に用いられ、生物個体のある機能が個体内の特定の部分に局在して営まれ,かつその部分が形態的に独立性をもっている構造体をいう。一般に多細胞生物(例えば、動物、植物)では器官は特定の空間的配置をもついくつかの組織からなり、組織は多数の細胞からなる。そのような臓器または器官としては、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、関節、骨、軟骨、四肢末梢、網膜などが挙げられるがそれらに限定されない。このような臓器または器官はまた、表皮系、膵実質系、膵管系、肝系、血液系、心筋系、骨格筋系、骨芽系、骨格筋芽系、神経系、血管内皮系、色素系、平滑筋系、脂肪系、骨系、軟骨系などの器官または臓器が挙げられるがそれらに限定されない。
【0071】
1つの実施形態では、本発明が対象とする器官は、椎間板、軟骨、関節、骨、半月、滑膜、靭帯、腱などが挙げられるがそれらに限定されない。別の好ましい実施形態では、本発明が対象とする器官は、骨軟骨などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0072】
本明細書において、ある部分(例えば損傷部位)の周囲に複合組織などを、「巻く」とは、本発明の人工組織などを、その部分を被覆するように(すなわち、損傷などがかくれるように)配置することをいい、その部分を「被覆するように配置」すると交換可能に用いられる。ある部分を被覆するように配置したかどうかは、その部分と配置された人工組織またはそれを含む複合組織などとの間の空間的配置を確認することによって判定することができる。好ましい実施形態では、巻く工程によって、ある部位にはその人工組織などが一回転するように巻き付けられることができる。
【0073】
本明細書において「置換する」とは、病変部(生体の部位)を置換する、病変部にもともとある細胞などが、本発明の人工組織または複合体によって供給される細胞などによって置き換えられることをいう。置換が適切な疾患としては、例えば、断裂している箇所などが挙げられるがそれらに限定されない。置換するとは、別の表現では、「充填」するともいえる。
【0074】
本明細書において、「人工組織」とある「部分」とが「生物学的に結合するに十分な時間」は、その部分と人工組織との組み合わせによって変動するが、当業者であれば、その組み合わせに応じて適宜容易に決定することができる。このような時間としては、例えば、術後1週間、2週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、1年などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明では、人工組織は、好ましくは実質的に細胞およびそれに由来する物質のみを含むことから、特に術後に摘出する物質が必要であるというわけではないので、この十分な時間の下限は特に重要ではない。そして、本発明では、このような生物学的な結合は、体性MSCを用いた場合に比べて、顕著に短縮されることが見出された。
【0075】
本明細書において「免疫反応」とは、移植片と宿主との間の免疫寛容の失調による反応をいい、例えば、超急性拒絶反応(移植後数分以内)(β−Galなどの抗体による免疫反応)、急性拒絶反応(移植後約7〜21日の細胞性免疫による反応)、慢性拒絶反応(3カ月以降の細胞性免疫による拒絶反応)などが挙げられる。本明細書において免疫反応を惹起するかどうかは、HE染色などを含む染色、免疫染色、組織切片の検鏡によって、移植組織中への細胞(免疫系)浸潤について、その種、数などの病理組織学的検討を行うことにより判定することができる。
【0076】
本明細書において「石灰化」とは、生物体で石灰質が沈着することをいう。本明細書において生体内で「石灰化する」かどうかは、アリザリンレッド染色、カルシウム濃度を測定することによって判定することができ、移植組織を取り出し、酸処理などにより組織切片を溶解させ、その溶液を原子吸光度などの微量元素定量装置により測定し、定量することができる。
【0077】
本明細書において「生体内」または「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする組織または器官が配置されるべき位置をいう。
【0078】
本明細書において「インビトロ」(in vitro)とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
【0079】
本明細書において「エキソビボ」(ex vivo)とは、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子を導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。
【0080】
本明細書において「細胞に由来する物質」とは、細胞を起源とする物質すべてをいい、細胞を構成する物質の他、細胞が分泌する物質。代謝した物質などが含まれるがそれらに限定されない。代表的な細胞に由来する物質としては、細胞外マトリクス、ホルモン、サイトカインなどが挙げられるがそれらに限定されない。細胞に由来する物質は、通常、その細胞およびその細胞の宿主に対して有害な影響をもたらさないことから、そのような物質は三次元人工組織などに含まれていても通常悪影響を有しない。
【0081】
本明細書において「細胞外マトリクス」(ECM)とは「細胞外基質」とも呼ばれ、上皮細胞、非上皮細胞を問わず体細胞(somatic cell)の間に存在する物質をいう。細胞外マトリクスは、通常細胞が産生し、従って生体物質の一つである。細胞外マトリクスは、組織の支持だけでなく、すべての体細胞の生存に必要な内部環境の構成に関与する。細胞外マトリクスは一般に、結合組織細胞から産生されるが、一部は上皮細胞や内皮細胞のような基底膜を保有する細胞自身からも分泌される。線維成分とその間を満たす基質とに大別され、線維成分としては膠原線維および弾性線維がある。基質の基本構成成分はグリコサミノグリカン(酸性ムコ多糖)であり、その大部分は非コラーゲン性タンパクと結合してプロテオグリカン(酸性ムコ多糖−タンパク複合体)の高分子を形成する。このほかに、基底膜のラミニン、弾性線維周囲のミクロフィブリル(microfibril)、線維、細胞表面のフィブロネクチンなどの糖タンパクも基質に含まれる。特殊に分化した組織でも基本構造は同一で、例えば硝子軟骨では軟骨芽細胞によって特徴的に大量のプロテオグリカンを含む軟骨基質が産生され、骨では骨芽細胞によって石灰沈着が起こる骨基質が産生される。ここで、代表的な細胞外マトリクスとしては、例えば、コラーゲンI、コラーゲンIII、コラーゲンV、エラスチン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、トロンボスポンディン、プロテオグリカン類(例えば、デコリン、バイグリカン、フィブロモジュリン、ルミカン、ヒアルロン酸、アグリカンなど)などを挙げることができるがそれらに限定されず、細胞接着を担う細胞外マトリクスであれば、種々のものが本発明において利用され得る。
【0082】
本発明の1つの実施形態では、本発明の複合組織に含まれる三次元人工組織などが含む細胞外マトリクス(たとえば、エラスチン、コラーゲン(例えば、I型、III型、IV型など)、ラミニンなど)は、移植が企図される器官の部位における細胞外マトリクスの組成に類似することが有利であり得る。本発明において、細胞外マトリクスは、細胞接着分子を包含する。本明細書において「細胞接着分子」(Cell adhesion molecule)または「接着分子」とは、互換可能に使用され、2つ以上の細胞の互いの接近(細胞接着)または基質と細胞との間の接着を媒介する分子をいう。一般には、細胞と細胞の接着(細胞間接着)に関する分子(cell−cell adhesion molecule)と,細胞と細胞外マトリックスとの接着(細胞−基質接着)に関与する分子(cell−substrate adhesion molecule)に分けられる。本発明の三次元人工組織は、通常、このような細胞接着分子を含む。従って、本明細書において細胞接着分子は、細胞−基質接着の際の基質側のタンパク質を包含するが、本明細書では、細胞側のタンパク質(例えば、インテグリンなど)も包含され、タンパク質以外の分子であっても、細胞接着を媒介する限り、本明細書における細胞接着分子または細胞接着分子の概念に入る。
【0083】
本発明において1つの特徴としては、本発明の複合組織に含まれる人工組織が、細胞およびその細胞自体が精製する(自己由来の)細胞外マトリクスを含むことである。従って、コラーゲンI、コラーゲンIII、コラーゲンV、エラスチン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、トロンボスポンディン、プロテオグリカン類(例えば、デコリン、バイグリカン、フィブロモジュリン、ルミカン、ヒアルロン酸、アグリカンなど)などが配合された複雑な組成を有することが特徴である。このような細胞由来成分が配合された人工組織は従来提供されていない。このような配合を有する人工組織は、人工材料を使用した場合は実質的に不可能に近く、このような配合をしていること(特に、コラーゲンI、コラーゲンIIIなど)の配合自体がネイティブな配合であるといえる。
【0084】
より好ましくは、細胞外マトリクスは、コラーゲン(I型、III型など)、ビトロネクチンおよびフィブロネクチンをすべて含む。特に、ビトロネクチンおよび/またはフィブロネクチンが配合された人工組織はこれまで提供されておらず、従って、その点でもすでに、本発明の人工組織または複合体は新規なものであることが理解される。
【0085】
本発明では、体性MSCと誘導型MSCとでは、異なる細胞マーカーがありうることが理解され、そのような異なる細胞マーカー(本明細書では識別マーカーともいう)は、従来のMSCと本発明で用いるMSCとを識別するために用いられることが理解される。そのような識別マーカーとしては、例えば、BMPレセプター(例えば、BMPR1(BMPR1A、BMPR1B),BMPR2等等を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0086】
本明細書において、細胞外マトリクスが「配置される」とは、本発明の人工組織に関して言及するとき、その人工組織中に細胞外マトリクスが存在することをいう。そのような配置は、目的とする細胞外マトリクスを免疫染色などによって染色して、可視化することによって観察することができることが理解される。
【0087】
本明細書において、細胞外マトリクスが「分散して」「配置される」とは、局在化しないで存在することをいう。そのような細胞外マトリクスの分散は、任意の2つの1cm
2のセクションにおける分布密度を比較したときに、通常約1:10〜10:1、代表的には約1:3〜3:1の範囲内の比率に収まる分散をいい、好ましくは、任意の2つの1cm
2のセクションにおける分布密度を比較したときに、約1:2〜2:1の範囲内の比率に収まる分散をいう。より好ましくは、どのセクションにおいてもほぼ同等の比率に収まることが有利であるがそれに限定されない。局所化されず、分散して細胞外マトリクスが表面に存在することによって、本発明の人工組織は、周囲に対して満遍なく生物学的結合能を有し、従って、移植後の経過に優れるという効果を奏する。
【0088】
細胞間接着に関しては、カドヘリン、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する多くの分子(NCAM、L1、ICAM、ファシクリンII、IIIなど)、セレクチンなどが知られており、それぞれ独特な分子反応により細胞膜を結合させることも知られている。従って、1つの実施形態では、本発明の三次元人工組織などは、このようなカドヘリン、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する分子などの組成もまた、移植が意図される部位と同程度の組成であることが好ましい。
【0089】
このように多種多様な分子が細胞接着に関与しており、それぞれの機能は異なっていることから、当業者は、目的に応じて、適宜本発明のにおいて使用される三次元人工組織に含まれるべき分子を選択することができる。細胞接着に関する技術は、上述のもののほかの知見も周知であり、例えば、細胞外マトリックス−臨床への応用―メディカルレビュー社に記載されている。
【0090】
ある分子が細胞接着分子であるかどうかは、生化学的定量(SDS−PAG法、標識コラーゲン法)、免疫学的定量(酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫組織学的検討)、PCR法、ハイブリダイゼイション法などのようなアッセイにおいて陽性となることを決定することにより判定することができる。このような細胞接着分子としては、コラーゲン、インテグリン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、フィブリノゲン、免疫グロブリンスーパーファミリー(例えば、CD2、CD4、CD8、ICM1、ICAM2、VCAM1)、セレクチン、カドヘリンなどが挙げられるがそれに限定されない。このような細胞接着分子の多くは、細胞への接着と同時に細胞間相互作用による細胞活性化の補助シグナルを細胞内に伝達する。従って、本発明の組織片において用いられる接着因子としては、そのような細胞活性化の補助シグナルを細胞内に伝達するものが好ましい。細胞活性化により、組織片としてある組織または臓器における損傷部位に適用された後に、そこに集合した細胞および/または組織もしくは臓器にある細胞の増殖を促すことができるからである。そのような補助シグナルを細胞内に伝達することができるかどうかは、生化学的定量(SDS−PAG法、標識コラーゲン法)、免疫学的定量(酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫組織学的検討)、PCR法、ハイブリダイゼイション法というアッセイにおいて陽性となることを決定することにより判定することができる。
【0091】
細胞接着分子としては、例えば、組織固着性の細胞系に広く知られる細胞接着分子としてカドヘリンがあり、カドヘリンは、本発明の好ましい実施形態において使用することができる。
【0092】
細胞接着分子は、非固着性の細胞が特定の組織で働くためにはその組織への接着が必要となる。その場合,恒常的に発現するセレクチン分子などによる一次接着、それに続いて活性化されるインテグリン分子などの二次接着によって細胞間の接着は段階的に強くなると考えられている。従って、本発明において用いられる細胞接着分子としては、そのような一次接着を媒介する因子、二次接着を媒介する因子、またはその両方が一緒に使用され得る。
【0093】
本明細書において「アクチン調節物質」とは、細胞内のアクチンに対して直接的または間接的に相互作用して、アクチンの形態または状態を変化させる機能を有する物質をいう。アクチンへの作用に応じて、アクチン脱重合促進因子とアクチン重合促進因子とに分類されることが理解される。そのような物質としては、例えば、アクチン脱重合促進因子として、Slingshot、コフィリン、CAP(シクラーゼ関連タンパク質)、AIP1(actin−interacting−protein 1)、ADF(actin depolymerizing factor)、デストリン、デパクチン、アクトフォリン、サイトカラシンおよびNGF(nerve growth factor)を挙げることができ、例えば、アクチン重合促進因子として、RhoA、mDi、プロフィリン、Rac1、IRSp53、WAVE2、ROCK、LIMキナーゼ、コフィリン、cdc42、N−WASP、Arp2/3、Drf3、Mena,LPA(lysophosphatidic acid)、インスリン、PDGFa、PDGFb、ケモカインおよびTGF−βなどを挙げることができるがそれらに限定されないことが理解される。そのようなアクチン調節物質には、以下のようなアッセイによって同定される物質が含まれる。本明細書において、アクチンへの相互作用の評価は、アクチン染色試薬(Molecular Probes,Texas Red−X phalloidin)などによりアクチンを可視化した後、顕鏡し、アクチン凝集や細胞伸展を観察することによってアクチンの凝集、再構成および/または細胞伸展速度の向上という現象が確認されることによって判定される。これらの判定は、定量的または定性的に行われ得る。このようなアクチン調節物質は、人工組織の分離を促進または重層化の促進をさせるために本発明において利用される。本発明において用いられるアクチン調節物質が生体に由来する場合、その由来は何でもよく、例えば、ヒト、マウス、ウシなどの哺乳動物種があげられる。上記のようなアクチン重合に関与する因子は、例えば、Rho関連でアクチンの重合制御であり、以下が挙げられる(例えば、「細胞骨格・運動がわかる」(編集/三木裕明)羊土社を参照のこと)。
【0094】
アクチン重合(Takenaka T et al. J.Cell Sci., 114:1801-1809, 2001を参照のこと)
RhoA→mDi→プロフィリン⇒アクチン重合
RhoA→ROCK/Rho→LIMキナーゼ→コフィリンをリン酸化(抑制)⇒アクチン重合
Rac1→IRSp53→WAVE2→プロフィリン、Arp2/3⇒アクチン重合
cdc42→N−WASP→プロフィリン、Arp2/3⇒アクチン重合
cdc42→Drf3→IRSp53→Mena⇒アクチン重合
(以上において、→はリン酸化などのシグナル伝達経路を示す。)
本発明では、このような経路に関与する任意の因子を使用することができる。
【0095】
アクチン脱重合
Slingshot→コフィリンの脱リン酸化(活性化)⇒アクチン脱重合
コフィリンのLIMキナーゼ活性によるリン酸化とSlingshotによる脱リン酸化のバランスでアクチンの脱重合を制御している。コフィリンを活性化させる他の因子としては、CAP(cyclase−associatedprotein)およびAIPI(actin−interacting−protein1)が同定されており、これらは、任意のものを使用することができることが理解される。
【0096】
LPA(リゾフォスファチジン酸)は、どのような鎖長のものでも使用することができる。
【0097】
ケモカインとしては、任意のものを使用することができるが、好ましくは、インターロイキン8、MIP−1、SDF−1などを挙げることができる。
【0098】
TGF−βとしては、任意のものを使用することができるが、好ましくは、TGF−β1およびTGF−β3を使用することができる。TGF−β1およびTGF−β3は、細胞外マトリクス産生促進作用も有することから、本発明においては、留意して使用することができる。
【0099】
本明細書において「組織強度」とは、組織または器官の機能を示すパラメータをいい、その組織または器官の物理的強度である。組織強度は一般に、引っ張り強さ(例えば、破断強度、剛性率、ヤング率など)を測定することによって判定することができる。そのような一般的な引っ張り試験は周知である。一般的な引っ張り試験によって得られたデータの解析により、破断強度、剛性率、ヤング率などの種々のデータを得ることができ、そのような値もまた、本明細書において組織強度の指標として用いることができる。本明細書では、通常、臨床適用することができる程度の組織強度を有することが必要とされる。
【0100】
本明細書において、本発明において使用される三次元人工組織などが有する引っ張り強さは、応力・歪み特性を測定することによって測定することができる。手短に述べると、試料に荷重を加え、例えば、1chは歪み、2chは荷重の各々のAD変換器(例えば、ELK−5000)に入力して、応力および歪みの特性を測定することによって引っ張り強さを決定することができる。引っ張り強さはまた、クリープ特性を試験することによっても達成することができる。クリープ特性インデンテーション試験とは、一定の荷重を加えた状態で時間とともにどのように伸びていくかを調べる試験である。微小な素材、薄い素材などのインデンテーション試験は、先端の半径0.1〜1μm程度の、例えば、三角錐の圧子を用いて実験を行う。まず、試験片に対して圧子を押し込み、付加を与える。そして、試験片に数十nmから数μm程度押し込んだところで、圧子を戻し除荷する。この曲線から得られた負荷荷重と押し込み深さの挙動とによって硬さ、ヤング率などを求めることができる。本発明の人工組織は、引っ張り強度は弱くてもいい。引っ張り強度は、細胞・細胞外マトリクス比率におけるマトリクス比率を上げる強くなり、細胞比率を上げると弱くなる。本発明は、必要に応じて強度も自由に調整できることが特徴の一つである。移植される組織に対して相対的に近似して強くも弱くもできることが特徴である。従って、そのような任意の場所に応じて目的と設定することができることが理解される。
【0101】
本明細書において「生理活性物質」(physiologically active substance)とは、細胞または組織に作用する物質をいう。生理活性物質には、サイトカインおよび増殖因子が含まれる。生理活性物質は、天然に存在するものであっても、合成されたものでもよい。好ましくは、生理活性物質は、細胞が産生するものまたはそれと同様の作用を有するものである。本明細書では、生理活性物質はタンパク質形態または核酸形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。本発明において、生理活性物質は、本発明の人工組織の移植の際に、定着を促進するためなどに使用され得る。
【0102】
本明細書において使用される「サイトカイン」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、細胞から産生され同じまたは異なる細胞に作用する生理活性物質をいう。サイトカインは、一般にタンパク質またはポリペプチドであり、免疫応答の制禦作用、内分泌系の調節、神経系の調節、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用、細胞増殖の調節作用、細胞分化の調節作用などを有する。本明細書では、サイトカインはタンパク質形態または核酸形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。
【0103】
本明細書において用いられる「増殖因子」または「細胞増殖因子」とは、本明細書では互換的に用いられ、細胞の増殖を促進または制御する物質をいう。増殖因子は、成長因子または発育因子ともいわれる。増殖因子は、細胞培養または組織培養において、培地に添加されて血清高分子物質の作用を代替し得る。多くの増殖因子は、細胞の増殖以外に、分化状態の制御因子としても機能することが判明している。
【0104】
サイトカインには、代表的には、インターロイキン類、ケモカイン類、コロニー刺激因子のような造血因子、腫瘍壊死因子、インターフェロン類が含まれる。増殖因子としては、代表的には、血小板由来増殖因子(PDGFa、PDGFb)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)のような増殖活性を有するものが挙げられる。
【0105】
サイトカインおよび増殖因子などの生理活性物質は一般に、機能重複現象(redundancy)があることから、他の名称および機能で知られるサイトカインまたは増殖因子であっても、本発明に使用される生理活性物質の活性を有する限り、本発明において使用され得る。また、サイトカインまたは増殖因子は、本明細書における好ましい活性を有してさえいれば、本発明の治療法または医薬の好ましい実施形態において使用することができる。
【0106】
従って、1つの実施形態において、本発明は、このようなサイトカインまたは増殖因子(例えば、BMP−2など)を、移植部位(例えば、軟骨損傷部位)に本発明の人工組織または三次元構造体と同時に投与することによって、人工組織または三次元構造体の定着および移植部位の機能向上が見られることが明らかにされ、そのような併用療法を提供する。
【0107】
本明細書において「分化」とは、細胞、組織または器官のような生物の部分の状態の発達過程であって、特徴のある組織または器官を形成する過程をいう。「分化」は、主に発生学(embryology)、発生生物学(developmental biology)などにおいて使用されている。1個の細胞からなる受精卵が分裂を行い成体になるまで、生物は種々の組織および器官を形成する。分裂前または分裂が十分でない場合のような生物の発生初期は、一つ一つの細胞や細胞群が何ら形態的または機能的特徴を示さず区別することが困難である。このような状態を「未分化」であるという。「分化」は、器官のレベルでも生じ、器官を構成する細胞がいろいろの違った特徴的な細胞または細胞群へと発達する。これも器官形成における器官内での分化という。従って、本発明において使用される三次元人工組織は、分化した状態の細胞を含む組織を用いてもよい。1つの実施形態において、本発明の三次元人工組織またはそれを含む複合組織を作製する場合、分化が必要な場合は、組織化を始める前に分化させてもよく、組織化の後に分化させても良い。
【0108】
本明細書において「分化因子」とは、「分化促進因子」ともいい、分化細胞への分化を促進することが知られている因子(例えば、化学物質、温度など)であれば、どのような因子であってもよい。そのような因子としては、例えば、種々の環境要因を挙げることができ、そのような因子としては、例えば、温度、湿度、pH、塩濃度、栄養、金属、ガス、有機溶媒、圧力、化学物質(例えば、ステロイド、抗生物質など)などまたはそれらの任意の組み合わせが挙げられるがそれらに限定されない。代表的な分化因子としては、細胞生理活性物質が挙げられるがそれらに限定されない。そのような因子のうち代表的なものとしては、DNA脱メチル化剤(5−アザシチジンなど)、ヒストン脱アセチル化剤(トリコスタチンなど)、核内レセプターリガンド(例えば、レチノイン酸(ATRA)、ビタミンD
3、T3など)、細胞増殖因子(アクチビン、IGF−1、FGF,PDGFa、PDGFb、TGF−β、BMP2/4など)、サイトカイン(LIF、IL−2、IL−6など)、ヘキサメチレンビスアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジブチルcAMP、ジメチオルスルホキシド、ヨードデオキシウリジン、ヒドロキシル尿素、シトシンアラビノシド、マイトマイシンC、酪酸ナトリウム、アフィディコリン、フルオロデオキシウリジン、ポリブレン、セレンなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0109】
具体的な分化因子としては、以下が挙げられる。これらの分化因子は、単独でまたは組み合わせて用いられ得る:1)滑膜細胞:FGF、TGF−β(特にTGF−β1、TGF−β3);2)骨芽細胞:BMP(特に、BMP−2、BMP−4、BMP−7)、FGF;3)軟骨芽細胞:FGF、TGF−β(特にTGF−β1、TGF−β3)、BMP(特に、BMP−2、BMP−4、BMP−7)、TNF−α、IGF;4)脂肪細胞:インスリン、IGF、LIF;5)筋肉細胞:LIF、TNF−α、FGF。
【0110】
これらの因子は、分化能を調べる際にも用いることができる。
【0111】
本明細書において「骨分化」とは、任意の細胞を骨に分化させることをいう。そのような骨分化は、デキサメタゾン、βグリセロホスフェートおよびアスコルビン酸2リン酸の存在下で促進されることが知られる。骨形成因子(BMP、(特に、BMP−2、BMP−4、BMP−7))、を付加してもよい。骨形成が促進されるからである。
【0112】
本明細書において「軟骨分化」とは、任意の細胞を軟骨に分化させることをいう。そのような軟骨分化は、ピルビン酸、デキサメタゾン、アスコルビン酸2リン酸、インスリ
ン、トランスフェリンおよび亜セレン酸の存在下で促進されることが知られる。骨形成因子(BMP(特に、BMP−2、BMP−4、BMP−7))、TGF−β(特にTGF−β1、TGF−β3)、FGF、TNF−αなどを付加してもよい。軟骨形成が促進されるからである。
【0113】
本明細書において「脂肪分化」とは、任意の細胞を脂肪に分化させることをいう。そのような脂肪分化は、インスリン、IGF、LIFおよびアスコルビン酸2リン酸の存在下で促進されることが知られる。
【0114】
本明細書において「移植片」、「グラフト」および「組織グラフト」は、交換可能に用いられ、身体の特定部位に挿入されるべき同種または異種の組織または細胞群であって、身体への挿入後その一部となるものをいう。従って、本発明において使用される三次元人工組織は、移植片として用いることができる。移植片としては、例えば、臓器または臓器の一部、硬膜、関節膜、骨片、軟骨片、角膜骨片、歯などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、移植片には、ある部分の欠損部に差し込んで欠損を補うために用いられるものすべてが包含される。移植片としては、そのドナー(donor)の種類によって、自己(自家)移植片(autograft)、同種移植片(同種異系移植片)(allograft)、異種移植片が挙げられるがそれらに限定されない。
【0115】
本明細書において自己移植片(組織、細胞、臓器など)または自家移植片(組織、細胞、臓器など)とは、ある個体についていうとき、その個体に由来する移植片(組織、細胞、臓器など)をいう。本明細書において「自己移植片(組織、細胞、臓器など)」というときは、広義には遺伝的に同じ他個体(例えば一卵性双生児)からの移植片(組織、細胞、臓器など)をも含み得る。本明細書では、このような自己との表現は、被験体に由来すると交換可能に使用される。従って、本明細書では、ある被験体に由来しないとの表現は、自己ではない(すなわち、非自己)と同一の意味を有する。
【0116】
本明細書において「同種移植片(同種異系移植片)(組織、細胞、臓器など)」とは、同種であっても遺伝的には異なる他個体から移植される移植片(組織、細胞、臓器など)をいう。遺伝的に異なることから、同種異系移植片(組織、細胞、臓器など)は、移植された個体(レシピエント)において免疫反応を惹起し得る。そのような移植片(組織、細胞、臓器など)の例としては、親由来の移植片(組織、細胞、臓器など)などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明の人工組織は、同種異系移植片でも使用可能であり、良好な治療成績が立証されているという意味で注目されるべきである。
【0117】
本明細書において「異種移植片(組織、細胞、臓器など)」とは、異種個体から移植される移植片(組織、細胞、臓器など)をいう。従って、例えば、ヒトがレシピエントである場合、ブタからの移植片(組織、細胞、臓器など)は異種移植片(組織、細胞、臓器など)という。
【0118】
本明細書において「レシピエント」(受容者)とは、移植片(組織、細胞、臓器など)または移植体(組織、細胞、臓器など)を受け取る個体といい、「宿主」とも呼ばれる。これに対し、移植片(組織、細胞、臓器など)または移植体(組織、細胞、臓器など)を提供する個体は、「ドナー」(供与者)という。
【0119】
本発明の複合組織の作製では、どのような細胞に由来する人工組織でも使用することができる。なぜなら、本発明の方法により形成された複合組織において使用される人工組織(例えば、膜状組織、器官など)は、治療目的に損傷のない程度の組織損傷率を保持しつつ(すなわち、低く保ちながら)、目的の機能を発揮することができるからである。従って、従来そのままの組織または臓器自体を移植物として使用するしかなかった状況にあった。このような状況において、細胞から三次元的に結合した組織を形成することができたことによって、そのような三次元的な人工組織を用いることが可能になり、従来よりも治療成績が顕著の上昇したことは、従来技術では達成することができなかった本発明の格別の効果の一つといえる。
【0120】
本明細書において「被験体」とは、本発明の処置が適用される生物をいい、「患者」ともいわれる。患者または被験体は好ましくは、ヒトであり得る。
【0121】
本発明の複合組織に含まれる細胞は、同系由来(自己(自家)由来)でも、同種異系由来(他個体(他家)由来)でも、異種由来でもよい。拒絶反応が考えられることから、自己由来の細胞が好ましいが、拒絶反応が問題でない場合同種異系由来であってもよい。また、拒絶反応を起こすものも必要に応じて拒絶反応を解消する処置を行うことにより利用することができる。拒絶反応を回避する手順は当該分野において公知であり、例えば、新外科学体系、第12巻、臓器移植(心臓移植・肺移植技術的,倫理的整備から実施に向けて)(改訂第3版)、中山書店に記載されている。そのような方法としては、例えば、免疫抑制剤、ステロイド剤の使用などの方法が挙げられる。拒絶反応を予防する免疫抑制剤は、現在、「シクロスポリン」(サンディミュン/ネオーラル)、「タクロリムス」(プログラフ)、「アザチオプリン」(イムラン)、「ステロイドホルモン」(プレドニン、メチルプレドニン)、「T細胞抗体」(OKT3、ATGなど)があり、予防的免疫抑制療法として世界の多くの施設で行われている方法は、「シクロスポリン、アザチオプリン、ステロイドホルモン」の3剤併用である。免疫抑制剤は、本発明の医薬と同時期に投与されることが望ましいが、必ずしも必要ではない。従って、免疫抑制効果が達成される限り免疫抑制剤は本発明の再生・治療方法の前または後にも投与され得る。
【0122】
本発明が対象とする状態としては、例えば、脳外科手術時の硬膜移植、関節損傷または変性、軟骨損傷または変性、骨壊死、半月損傷または変性、椎間板変性、靭帯損傷または変性、骨折、骨欠損を有する患者への関節、軟骨、骨の移植などが挙げられるがそられに限定されない。
【0123】
本発明が対象とする臓器または器官は、生物の間葉系の臓器または器官であればどの臓器または器官でもよく、特に脂肪組織、骨組織および/または軟骨組織を含む臓器または器官であればよい。また、本発明が対象とする組織、臓器または器官は、どのような種類の動物由来であってもよい。本発明が対象とする生物としては、脊椎動物が挙げられる。好ましくは、本発明が対象とする生物は、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)である。例示的な被験体としては、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなどの動物が挙げられるがそれらに限定されない。より好ましくは、本発明が対象とする生物は、霊長類である。最も好ましくは、本発明はヒトを対象とする。移植治療において限界があり治療が所望されるからである。また、本明細書で実施例で実証された結果から、ヒトにおいても適用可能であることが当業者に理解されるからである。
【0124】
本明細書において「可撓性」の人工組織とは、外的環境からの物理的刺激(例えば、圧力)などに対して、抵抗性を有することをいう。可撓性を有する人工組織は、移植される部位が、自律的にまたは他からの影響で運動したり変形したりする場合に好ましい。
【0125】
本明細書において「伸縮性」を有する人工組織とは、外的環境からの伸縮性の刺激(例えば、拍動)に対して抵抗性を有する性質をいう。伸縮性を有する人工組織は、移植される部位が伸縮性の刺激を伴う場合好ましい。そのような伸縮性の刺激を伴う部位としては、例えば、筋肉、関節、軟骨、腱などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0126】
本明細書中で使用される場合、用語「部分」とは、任意の身体中の部分、組織、細胞、器官を指す。そのような部分、組織、細胞、器官としては、骨格筋芽細胞、線維芽細胞、滑膜細胞、幹細胞によって治療され得る部分が挙げられるが、それらに限定されない。特異的なマーカーであれば、核酸分子(mRNAの発現)、タンパク質、細胞外マトリクス、特定の表現型、細胞の形状などどのようなパラメータでも使用することができる。従って、本明細書において具体的に記載されていないマーカーであっても、その部分由来と同等であることを示すことができるマーカーであれば、どのようなマーカーを利用して、本発明の人工組織を判定してもよい。このような部分の代表例としては、例えば、体性のまたは誘導性の間葉系幹細胞またはそれに由来する細胞を含む部分、組織、器官、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞)、線維芽細胞、滑膜細胞などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0127】
軟骨組織などを見る場合、以下のようなマーカーを指標にすることができる。
【0128】
Sox9とは、(ヒト:アクセッション番号 NM_000346)であり、軟骨細胞に特異的なマーカ−である。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる(Kulyk WM, Franklin JL, Hoffman LM. Sox9 expression during chondrogenesis in micromass cultures of embryonic limb mesenchyme. Exp Cell Res. 2000 Mar15;255(2):327-32.)。
【0129】
Col1A1とは、(ヒト:アクセッション番号 NC_000017)であり、骨細胞に特異的なマーカ−であり、軟骨では減少する。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる(Swartz MF, et al. J Am Coll Cardiol, 2012 Oct 30. PMID23040566.)。
【0130】
Col2A1とは、(ヒト:アクセッション番号 NM_001844)であり、軟骨細胞に特異的なマーカ−である。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる(Kulyk WM, Franklin JL, Hoffman LM. Sox9 expression during chondrogenesis in micromass cultures of embryonic limb mesenchyme. Exp Cell Res. 2000 Mar15;255(2):327-32.)。
【0131】
アグリカン(Aggrecan)とは、(ヒト:アクセッション番号 NM_001135)であり、軟骨細胞に特異的なマーカ−である。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる(Kulyk WM, Franklin JL, Hoffman LM. Sox9 expression during chondrogenesis in micromass cultures of embryonic limb mesenchyme. Exp Cell Res. 2000 Mar 15;255(2):327-32.)。
【0132】
骨シアロタンパク質(Bone sialoprotein)とは、(ヒト:アクセッション番号NM_004967)であり、骨芽細胞に特異的なマーカ−である。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる(Haase HR, Ivanovski S, Waters MJ, Bartold PM. Growth hormone regulates osteogenic marker mRNA expression in human periodontal fibroblasts and alveolar bone-derived cells. J Periodontal Res. 2003 Aug;38(4):366-74.)。
【0133】
オステオカルシン(Osteocalcin)とは、(ヒト:アクセッション番号 NM199173)であり、骨芽細胞に特異的なマーカ−である。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる(Haase HR, Ivanovski S, Waters MJ, Bartold PM. Growth hormone regulates osteogenic marker mRNA expression in human periodontal fibroblasts and alveolar bone-derived cells. J Periodontal Res. 2003 Aug; 38(4):366-74.)。
【0134】
GDF5とは、(ヒト:アクセッション番号 NM_000557)であり、靱帯細胞に特異的なマーカ−である。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる(Wolfman NM, Hattersley G, Cox K, Celeste AJ, Nelson R, Yamaji N, Dube JL, DiBlasio-Smith E, Nove J, Song JJ, Wozney JM, Rosen V. Ectopic induction of tendon and ligament in rats by growth and differentiation factors5, 6, and 7, members of the TGF-beta gene family. J Clin Invest. 1997 Jul15; 100(2):321-30.)。
【0135】
Six1とは、(ヒト:アクセッション番号 NM_005982)であり、靱帯細胞に特異的なマーカ−である(Dreyer SD, Naruse T, Morello R, Zabel B, Winterpacht A, Johnson RL, Lee B, Oberg KC.Lmx1b expression during joint and tendon formation: localization and evaluation of potential downstream targets. Gene Expr Patterns. 2004 Jul;4(4):397-405.)。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる。
【0136】
スクレラキシス(Scleraxis)とは、(ヒト:アクセッション番号BK000280)であり、靱帯細胞に特異的なマーカ−である(Brent AE, Schweitzer R, Tabin CJ. A somitic compartment of tendon progenitors. Cell.2003 Apr 18;113(2):235-48.)。このマーカーは主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる。
【0137】
CD56とは、(ヒト:アクセッション番号U63041)であり、筋芽細胞に特異的なマーカーである。このマーカーは、主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる。
【0138】
MyoDとは、(ヒト:アクセッション番号X56677)であり、筋芽細胞に特異的なマーカーである。このマーカーは、主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる。
【0139】
Myf5とは、(ヒト:アクセッション番号NM_005593)であり、筋芽細胞に特異的なマーカーである。このマーカーは、主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる。
【0140】
myogenin(ヒト:アクセッション番号BT007233)とは、であり、筋芽細胞に特異的なマーカーである。このマーカーは、主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる。
【0141】
他の実施形態では、他の組織に特異的な別のマーカーを利用することができる。そのようなマーカーとしては、例えば、胚性幹細胞についてはOct−3/4、SSEA−1、Rex−1、Otx2などが挙げられ;内皮細胞についてはVE−カドヘリン、Flk−1、Tie−1、PECAM1、vWF、c−kit、CD34、Thy1、Sca−1などが挙げられ;骨格筋について上述のもののほか骨格筋αアクチンなどが挙げられ;神経細胞についてNestin、Gluレセプター、NMDAレセプター、GFAP、ニューレグリン−1などが挙げられ;造血細胞系についてc−kit、CD34、Thy1、Sca−1、GATA−1、GATA−2、FOGなどが挙げられる。
【0142】
本発明の誘導型三次元人工組織(MSC−TEC)に特徴的なマーカーとしては例えば、BMP受容体マーカー(例えば、BMPR1A、BMPR2等)を挙げることができる。
【0143】
BMPR1Aとは、タイプ1Aの骨形成タンパク質受容体であり、ヒト:OMIM:601299、アクセッション番号:BC028383で示されるマーカーである。このマーカーは、主にmRNAまたはタンパク質の存在を見ることによって確認することができる。
【0144】
BMPR2とは、タイプ2の骨形成タンパク質受容体であり、ヒト:OMIM:600799、アクセッション番号:Z48923で示されるマーカーである。このマーカーは、細胞外で骨形成を誘導するタンパク質の受容体として知られる。タイプII受容体は、タイプI受容体が存在しない場合にリガンドに結合する。主にmRNAまたはタンパク質の存在を見ることによって確認することができる。
【0145】
本明細書中で使用される場合、用語「由来する」とは、ある種の細胞が、その細胞が元々存在していた細胞塊、組織、器官などから分離、単離、または抽出されたこと、あるいはその細胞を、幹細胞から誘導されたことを意味する。
【0146】
本明細書中で使用される場合、用語「三次元(化)人工組織」とは、本発明の複合組織において含まれる人工組織であって、実質的に、細胞および該細胞に由来する細胞外マトリクスから構成されるものをいう。この三次元人工組織は、通常、三次元構造体を構成する。本明細書において「三次元(化)構造体」とは、マトリクスが三次元配向され細胞が三次元に配列しており、細胞間の結合および配向を保持している細胞を含む、三次元方向に広がる物体を指す。該細胞外マトリクスは、フィブロネクチン、コラーゲンI、コラーゲンIIIおよびビトロネクチンを含み、該細胞外マトリクスが該組織中に分散して配置されたものであり、該細胞外マトリクスと該細胞とは、一緒になって三次元構造を形成するように一体化(生物学的に結合または癒合)しており、移植したときに周囲と一体化(生物学的に結合または癒合)する能力を有し、自己支持力を提供するのに十分な強度を有するものである。
【0147】
本明細書において「人工骨」とは、骨の欠損部分を補う人工的な素材で構成された医療デバイスをいい、通常人体との親和性が高い材料で構成され、好ましくは、実際の骨の成分が使用される。そのような材料としては、代表的には、ヒドロキシアパタイトおよびα−リン酸三カルシウムあるいはβ−リン酸三カルシウムなどのセラミックス、バイオガラス(ケイ素)、カーボン・アルミナ・ジルコニアなどのバイオセラミック、チタンやタングステンなどの金属、サンゴ素材など人体との親和性が高い材料からなる群より選択される材料で構成される。
【0148】
本明細書において「複合組織」とは、三次元人工組織と、人工骨等の他の人工組織との複合体化した組織をいう。本明細書では、「ハイブリッド移植片」と称することがあるが、これは「複合組織」と同じ意味で使用される。従って、そのような複合組織は、複数の組織(骨軟骨等)治療に用いることが可能である。たとえば、そのような複合組織は、軟骨および骨の両方の治療に使用することが可能である。本発明の複合組織は、好ましくは、移植可能な(三次元)人工組織と、他の人工組織と、生物学的に結合される。このような結合は、2つの組織を接触させて必要に応じて培養することによって作製することができる。このような生物学的結合は、細胞外マトリクスを介する。三次元人工組織は。マトリクスが三次元配向され細胞が三次元に配列しており、細胞間の結合および配向を保持している細胞を含む、三次元方向に広がる物体を指す。
【0149】
本明細書において「生物学的癒合」または「生物学的結合」(biological integration)とは、生物学的存在(biological entity)相互の関係に言及する場合、2つの生物学的存在の間に生物学的になんらかの相互作用があることをいう(なお、英文ではintegrationおよびunionは交換可能に使用されることが理解される。)。骨、軟骨等の身体組織については、生物学的癒合または生物学的結合は、癒合または結合後の状態から「一体化」と称することがあるが、これも本明細書では同じ意味で用いられる。そのような相互作用としては、例えば、生体分子(例えば、細胞外マトリクス)を介した相互作用、情報伝達を介した相互作用、電気的相互作用(電気信号の同期などの電気的結合)が挙げられるがそれらに限定されない。生物学的結合には、人工組織内部の生物学的結合と、ある人工組織が、周囲(たとえば、移植後の周囲組織、周囲細胞など)と有する生物学的結合とがある。相互作用を確認する場合は、その相互作用の特性によって適切なアッセイ方法を用いる。例えば、生体分子を介した物理的相互作用を確認する場合は、三次元人工組織などの強度(例えば、引っ張り試験)を確認する。情報伝達を介した場合は、シグナル伝達がなされるかどうかを、遺伝子発現などを介して確認する。あるいは、電気的な相互作用の場合は、三次元人工組織などにおける電位の状況を測定し、一定の波をもって電位が伝播しているかどうかを見ることによって確認することができる。本発明において、通常生物学的結合は、三次元すべての方向に生物学的結合を有する。好ましくは、三次元すべての方向にほぼ均等に生物学的結合を有することが有利であることがあるが、別の実施形態では、二次元方向にほぼ均等に生物学的結合を有するが、第三の方向にはすこし弱い生物学的結合を有する三次元人工組織なども使用され得る。あるいは、細胞外マトリクスを介した生物学的結合の場合は、細胞外マトリクスを染色してその染色度を観察することもできる。インビボで生物学的結合を観察する方法としては、軟骨を用いた結合実験がある。この実験では、軟骨の表面を切除しコンドロイチナーゼABC(HunzikerEBetal.,J Bone Joint Surg Am.1996 May;78(5): 721−33)で消化して、目的とする組織をその切除された表面に移植して7日程度培養して、その後の結合を組織学的に観察する。このような軟骨を用いた実験によって、周囲の細胞および/または細胞外マトリクスとの接着能を測定することができることが理解される。
【0150】
本発明の三次元人工組織またはそれを含む複合組織などは、医薬品として提供され得るが、あるいは、医療機器、動物薬、医薬部外品、水産薬および化粧品等として、公知の調製法により提供され得る。
【0151】
本発明が医薬として使用される場合、本発明の医薬は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
【0152】
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバントが挙げられるがそれらに限定されない。
【0153】
本発明の処置方法において使用される医薬(人工組織、複合組織、併用される医薬化合物など)の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、組織の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被験体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、1回の治療で治癒することも多いことから1回でありうる。もちろん、経過を見ながら2回以上の治療を施すことも考慮されうる。
【0154】
本明細書中、「投与する」(administer)とは、本発明の複合組織などまたはそれを含む医薬を、単独で、または他の治療剤と組み合わせて投与することを意味する。本発明の人工組織、複合組織等は、以下のような治療部位(例えば、骨軟骨欠損など)への導入方法,導入形態および導入量が使用され得る。すなわち、本発明の人工組織、複合組織等の投与方法としては、例えば変形性関節症の障害部位への直接挿入等の方法があげられる。組み合わせは、例えば、混合物として同時に、別々であるが同時にもしくは並行して;または逐次的にかのいずれかで投与され得る。これは、組み合わされた薬剤が、治療混合物としてともに投与される提示を含み、そして組み合わせた薬剤が、別々であるが同時に(例えば、人工組織、複合組織等が直接手術によって提供され、他の薬剤が静脈注射によって与えられる場合)投与される手順もまた含む。「組み合わせ」投与は、第1に与えられ、続いて第2に与えられる化合物または薬剤のうちの1つを別々に投与することをさらに含む。
【0155】
本明細書において「補強」とは、意図される生体の部分の機能を改善させることをいう。
【0156】
本明細書において「指示書」は、人工組織、複合組織、試薬等の取り扱い、使用方法、調合方法、人工組織の作成方法、収縮方法など、本発明の医薬などを投与する方法または診断する方法などを医師、患者など投与を行う人、診断する人(患者本人であり得る)に対して記載したものである。この指示書は、本発明の診断薬、医薬などを投与する手順を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ(ウェブサイト)、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0157】
本明細書において「細胞外マトリクス産生促進因子」とは、細胞の細胞外マトリクスの産生を促進する任意の因子をいう。本発明において、細胞外マトリクス産生促進因子を細胞シートに添加すると、その細胞シートを培養容器からの剥離が促進される環境を提供し、そのようなシートが三次元方向に生物学的結合する。ここで、生物学的結合は、組織中の細胞と細胞外マトリクスとの結合および細胞外マトリクス同士の結合を含む。ここで、自己収縮によりさらに三次元化が促進される。そのような因子としては、代表的には、細胞外マトリクスの分泌を促進するような因子(例えば、TGF−β1、TGF−β3など)が挙げられる。本発明において、代表的な細胞外マトリクス産生促進因子としては、TGF−β1、TGF−β3、アスコルビン酸、アスコルビン酸2リン酸またはその誘導体あるいはその塩が挙げられる。好ましくは、このような細胞外マトリクス産生促進因子は、適用が意図される部分の細胞外マトリクスの組成成分および/またはその量に類似するように細胞外マトリクスの分泌を促す成分(単数または複数)であることが好ましい。そのような細胞外マトリクス産生促進因子が複数の成分を含む場合は、そのような複数成分は、適用が意図される部分の細胞外マトリクスの組成成分および/またはその量に類似するように組成され得る。
【0158】
本明細書において「アスコルビン酸またはその誘導体」には、アスコルビン酸およびその類似体(例えば、アスコルビン酸2リン酸など)、およびその塩(例えば、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩など)が含まれる。アスコルビン酸は、L体であることが好ましいがそれに限定されない。
【0159】
(発明を実施するための好ましい形態)
以下に本発明の好ましい形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0160】
(誘導型三次元人工組織)
1つの局面において、本発明は、誘導型三次元人工組織を提供する。この誘導型三次元人工組織は、骨軟骨欠損に関連する疾患、障害または状態を治療または予防するために使用されうる。本発明の誘導型三次元人工組織は、実質的に、多能性幹細胞から誘導された間葉系幹細胞またはその等価細胞、および該細胞に由来する細胞外マトリクスから構成される移植可能な人工組織として表現される。
【0161】
1つの実施形態において、本発明の人工組織中の細胞は、骨形成タンパク質レセプター1A(BMPR1A)および骨形成タンパク質レセプター2(BMPR2)からなる群より選択される少なくとも1つを、身体内から取得された体性間葉系幹細胞より多く発現するものである。本発明の誘導型三次元人工組織は、予想外にもこのようなマーカーを多く発現することが見出された。理論に束縛されることを望まないが、本発明の誘導型三次元人工組織は、これらのマーカーの高発現に代表されるように、軟骨分化能が亢進されていることが特徴であり、このような誘導型三次元人工組織は、従来の体性細胞から生成された三次元人工組織では得られなかった特徴である。
【0162】
別の実施形態では、前記人工組織は、身体内から取得された体性間葉系幹細胞に比べて亢進された軟骨分化能を有する。軟骨分化能は、軟骨分化刺激を与えたときの軟骨特有マーカーの発現またはその増加、グリコサミノグリカン、アグリカン等の発現増加によって確認することができる。本発明の誘導型三次元人工組織は、これらのマーカーの高発現に代表されるように、軟骨分化能が亢進されていることが特徴であり、このような誘導型三次元人工組織は、従来の体性細胞から生成された三次元人工組織では得られなかった特徴である。
【0163】
好ましい実施形態では、本発明の人工組織は、硝子軟骨様の軟骨分化能を有する。硝子軟骨は、関節面を覆う関節軟骨、気管を潰れないように囲っている気管軟骨、甲状軟骨などを包含するものであって、最も一般的に見られる軟骨である。均質無構造であり、半透明である。また、軟骨性骨化においては、硝子軟骨が骨の大まかな形をつくり、これが骨に置換されることから、骨軟骨欠損においては、治癒において重要な役割を果たすと考えられる。したがって、理論に束縛されることを望まないが、本発明の人工組織は、硝子軟骨様の軟骨分化能を発揮することによって、改善された治療効果を示すことができると考えられる。
【0164】
1つの実施形態では、本発明において用いられる三次元人工組織は、通常、実質的に、誘導型間葉系幹細胞または等価細胞および該細胞に由来する細胞外マトリクスから構成される。ここで、「等価細胞」とは、誘導型間葉系幹細胞と同じ表現型および/または分化能を有し、実質的に本発明の三次元人工組織において使用されうる細胞をいう。したがって、このような等価細胞は、別の製造方法で製造したものであって、誘導型間葉系幹細胞と同様の特性(例えば、細胞マーカー)を有するものが使用されうる。したがって、多能性幹細胞ではない別の細胞から誘導させて間葉系幹細胞としたものでも、本発明の誘導型間葉系幹細胞と同じ性質を有する限り等価細胞の範囲に入ることが理解される。好ましくは、本発明において用いられる三次元人工組織は、実質的に誘導型間葉系幹細胞または該細胞に由来する物質から構成される。実質的に誘導型間葉系幹細胞および細胞に由来する物質(例えば、細胞外マトリクス)のみから構成されることによって、生体適合性および生体定着性を上げることができる。ここで、「実質的に・・・構成される」とは、細胞とその細胞に由来する物質とを含み、他に有害な影響(ここでは、主に、移植への悪影響)を与えない限り、他の物質を含んでいてもいいと定義され、本明細書においてはそのように理解されるべきである。そのような有害な影響を与えない物質は、当業者に公知であるか、または簡単な試験を行うことによって確認することができる。代表的には、厚生労働省(またはPMDA)、FDAなどにおいて認可されている任意の添加成分、細胞培養に伴う成分などを挙げることができるがそれらに限定されない。ここで、細胞に由来する物質は、代表的に細胞外マトリクスを含む。特に、本発明において用いられる三次元人工組織では、細胞と細胞外マトリクスが適切な割合で含まれていることが好ましい。そのような適切な割合とは、例えば、細胞と細胞外マトリクスとの比が1:3〜20:1の範囲、細胞と細胞外マトリクスの比率によって組織の強度が調節されるので、細胞移植の用途および移植先での力学環境に応じて細胞と細胞外マトリクスとの比を調節して使用することができる。好ましい比率は、目的とする処置によって変動するが、そのような変動は、当業者には自明であり、目的とする臓器における細胞および細胞外マトリクスの比率を調査することによって、推定することができる。
【0165】
好ましい実施形態では、本発明において使用される三次元人工組織に含まれるこの細胞外マトリクスは、フィブロネクチン、コラーゲンI、コラーゲンIIIおよびビトロネクチンを含む。好ましくは、このような種々の細胞外マトリクスは、列挙したものすべて含まれていることが好ましい。それらは一体化して混合されていることが有利である。別の好ましい実施形態では該細胞外マトリクスが該組織中に分散して配置されたものである。あるいは、これらは、全体にわたって細胞外マトリクスが散在していることが好ましい。このような分布は移植された場合に環境との適合性および親和性を向上させるという点で格別な効果を奏する。好ましい実施形態において、本発明において用いられる三次元人工組織に分散して配置される細胞外マトリクスは、任意の2つの1cm
2のセクションにおける分布密度を比較したときに、約1:3〜3:1の範囲内の比率に収まることが好ましい。分布密度の測定は、当該分野において公知の任意の手法を用いることができ、例えば、免疫染色などを挙げることができる。好ましい実施形態において、本発明において用いられる三次元人工組織において使用される細胞外マトリクスは、任意の2つの1cm
2のセクションにおける分布密度を比較したときに、約1:2〜2:1、さらに好ましくは約1.5:1〜1.5:1の範囲内の比率に収まる。細胞外マトリクスの配置の分散は、均等に分散されていることが有利である。従って、好ましくは、ほぼ均一に分散されていてもよいが、それに限定されない。本発明において用いられる三次元人工組織では、特に、コラーゲン(I、III型)をはじめ、ビトロネクチン、フィブロネクチンなどが含まれていることにより、基質への細胞接着、細胞伸展、および細胞走化性を促進する、細胞間マトリクスの接着も促進されるという特徴を有することで知られている。1つの実施形態において、本発明において用いられる三次元人工組織において配置される細胞外マトリクスは、コラーゲンI、コラーゲンIII、ビトロネクチン、フィブロネクチンなどを含み得る。しかし、コラーゲン(I、III型)、ビトロネクチン、フィブロネクチンなどが一体化されて含まれているような人工組織はこれまで提供されていなかった。理論に束縛されることを希望しないが、コラーゲン(I、III型)、ビトロネクチン、フィブロネクチンなどは、周囲との生物学的結合能(integration capability)を発揮するのに役割を果たしていると考えられる。従って、好ましい実施形態では、本発明において用いられる三次元人工組織においてビトロネクチンが分散して表面に配置されていることが有利である。移植後の接着、定着、安定性が格段に異なると考えられるからである。したがって、本発明のひとつの実施形態では、本発明に含まれる細胞外マトリクスは、コラーゲンIおよび/またはコラーゲンIIIを含み、該コラーゲンIおよび/またはコラーゲンIIIは、コラーゲンIIよりも多い。
【0166】
好ましい実施形態では、本発明で用いられる三次元人工組織は、周囲との生物学的結合能を有する。ここで、周囲とは、代表的には、移植される環境をいい、例えば、組織、細胞などを挙げることができる。周囲の組織、細胞などの生物学的結合能は、例えば、顕微鏡写真、物理的試験、生物学的マーカーの染色などによって確認することができる。従来の人工組織は、移植された環境にある組織などの親和性は少なく、生物学的結合能が発揮できるなどとは想定すらされていなかった。むしろ、従来の人工組織は、生体の持つ再生能力に依拠し、自己細胞などが集積し、再生するまでの橋渡しの役割を果たしており、従って、恒久的な使用は意図されていなかった。従って、本発明の複合組織は、真の意味で移植治療を構成することができると解釈されるべきである。従って、本発明において言及される生物学的結合能は、周囲の細胞および/または細胞外マトリクスとの接着能を含むことが好ましい。そのような接着能は、組織片(例えば、軟骨片)とのインビトロ培養アッセイによって測定することができる。そして、本発明の複合組織を用いることによって、生物学的結合能が十分に発揮され、治療効果も従来達成できなかったレベルで良好な癒合状態を達成したことも実証されている。好ましい実施形態において、本発明の人工組織または複合体は、三次元方向すべてに生物学的結合がある。従来の方法で調製された人工組織は、二次元方向には生物学的結合がある程度見られるものがあったが、三次元方向にあった組織は調製されていない。従って、本発明で用いられる三次元人工組織は、このように三次元方向すべての生物学的結合を有することによって、どのような用途においても実質的に移植可能という性質がもたらされる。本発明において指標となる生物学的結合としては、細胞外マトリクスの相互結合、電気的結合、細胞間情報伝達の存在が挙げられるがそれらに限定されない。細胞外マトリクスの相互作用は細胞間の接着を顕微鏡で適宜染色して観察することができる。電気的結合は、電位を測定することによって観察することができる。
【0167】
フィブロネクチンもまた、本発明において用いられる三次元人工組織において配置されることが好ましい。フィブロネクチンは、細胞接着,細胞の形の制御,細胞移動を調節する役割を有することが知られている。しかし、フィブロネクチンが発現しているような人工組織はこれまで提供されていなかった。理論に束縛されることを希望しないが、フィブロネクチンもまた周囲との生物学的結合能を発揮するのに役割を果たしていると考えられる。従って、好ましい実施形態では、本発明において用いられる三次元人工組織においてフィブロネクチンもまた分散して表面に配置されていることが有利である。移植後の接着、定着、安定性が格段に異なると考えられるからである。
【0168】
本発明において用いられる三次元人工組織は、コラーゲン(I、IIIなど)、ビトロネクチン、フィブロネクチンなど細胞外マトリクスなどの接着因子を豊富に含むために、周囲の組織に生着する。それにより、移植細胞を移植部位に安定して生着させることができる。これまでの細胞移植では、スキャフォールドなしでの細胞移植はもちろんのこと、追加の安定化処置(例えば、パッチの縫い付け、スキャフォールドの使用など)を用いた細胞移植においても、細胞の安定した移植先での生着は、従来困難であったが、本発明を用いれば、安定化させることが容易になった。細胞のみの場合は、他の組織による補強、スキャフォールド自身の固定などが必要であったが、本発明の三次元人工組織またはこれを含む複合組織を用いれば、そのような必要なしに、三次元人工組織の中に含まれている多分化能を有し得る細胞を別途の固定なしに安定して移植部にとどめさせることができる。
【0169】
別の好ましい実施形態では、該細胞外マトリクスと該誘導型間葉系幹細胞とは、一緒になって三次元構造を形成するように一体化している。別の好ましい実施形態では、移植したときに周囲と一体化する能力を有し、自己支持力を提供するのに十分な強度を有する。好ましくは、使用されうる三次元人工組織は、実質的に、誘導型間葉系幹細胞および該細胞に由来する細胞外マトリクスから構成され、該細胞外マトリクスは、コラーゲンIおよび/またはコラーゲンIIIを含み、該コラーゲンIおよび/またはコラーゲンIIIは、コラーゲンIIよりも多く、該細胞外マトリクスが該組織中に分散して配置されたものである。このような三次元人工組織は、移植可能であり、臨床適用することができる組織強度を有するものであり、スキャフォールドフリーであることも特徴の一つである。本発明において間葉系幹細胞が使用される場合、使用されうる間葉系幹細胞は、実際の組織から取得した体性型ではなく誘導型間葉系幹細胞が使用されるが、このような誘導型のものは、より未分化の幹細胞、例えば、ES細胞、iPS細胞から分化させたものであればどのようなものでもよく、その誘導方法も問わないが、1つの好ましい実施形態では低酸素条件で行うことが好ましくありうる。
【0170】
別の実施形態において、本発明において用いられる三次元人工組織は、異種細胞、同種異系細胞、同系細胞または自家細胞を用いることができる。本発明では、同種異系細胞であっても、特に、間葉系細胞を用いた場合、免疫拒絶などの有害な副反応がほとんど生じないことが分かった。従って、本発明は、エキソビボのような治療の他、免疫拒絶抑制剤などを使用せずに、他人の誘導型間葉系幹細胞を用いて人工組織を生産して利用するという治療法に途を啓くことになる。
【0171】
1つの好ましい実施形態において、本発明において用いられる三次元人工組織が含む細胞は、1種類の誘導型間葉系幹細胞であっても複数種類の誘導型間葉系幹細胞であってもよい。本発明において用いられる三次元人工組織が含む細胞は、誘導型間葉系細胞(たとえば、間葉系の特徴を有する他の系由来の細胞または未分化(ES細胞またはiPS細胞)に由来するもの)であるが、これが好ましいのは、理論に束縛されないが、間葉系細胞自体が骨など臓器と適合性が優れているところ、誘導型のものは、さらに軟骨分化能等が優れているからであり、種々の組織または臓器などへ分化する能力を有し得るからである。その結果、治療成績が好ましく、さらに、治療速度も改善したことが見出されたからである。
【0172】
好ましい実施形態において、本発明において用いられる三次元人工組織において使用される細胞は、本発明が適用される被験体に由来する細胞であることが有利である。このような場合、本明細書において使用される細胞は自己細胞ともいわれるが、自己細胞を用いることによって、免疫拒絶反応を防ぐかまたは低減することができる。あるいは、別の実施形態では、本発明において用いられる三次元人工組織において使用される細胞は、本発明が適用される被験体に由来しない細胞であってもよい。この場合であっても、誘導型間葉系幹細胞を用いるため、免疫拒絶反応を防ぐ手段は通常講じる必要はないが必要に応じて、免疫拒絶反応を防ぐ手段が講じられてもよい。
【0173】
好ましい実施形態において、本発明において用いられる三次元人工組織は、臨床適用することができる組織強度を有する。臨床適用することができる組織強度は、適用が意図される部位に応じて変動する。そのような強度は、当業者が本明細書の開示を参照して、当該分野における周知技術を参酌することによって決定することができる。本発明において用いられる三次元人工組織は、引っ張り強度は弱くてもいい。そのような引っ張り強度は、細胞・細胞外マトリクス比率におけるマトリクス濃度をあげると強くなり、細胞比率を上げると弱くなる。本発明は、必要に応じて強度も自由に調整できることが特徴の一つである。移植される組織に対して相対的に近似して強くも弱くもできることが特徴である。従って、そのような任意の場所に応じて目的と設定することができることが理解される。
【0174】
別の実施形態において、本発明において用いられる三次元人工組織の強度は、自己支持性を有するに十分であることが好ましい。従来の人工組織は、作製後、自己支持性を有していなかった。従って、本発明の技術以外の人工組織を移動させると、少なくとも一部が損傷していた。しかし、本発明の技術を用いた場合、自己支持性を有する人工組織が提供された。そのような自己支持性は、0.5〜3mmの先端(好ましくは、1〜2mmの太さの先端、さらに好ましくは1mmの太さの先端)を有するピンセットで組織をつまみあげたときに、実質的に破壊されないことが好ましい。ここで、実質的に破壊されないとは、目視によって確認することができるが、上記条件にてつまみ上げた後に、例えば、水漏れ試験を行ったときに、水が漏れないことなどによって確認することができる。あるいは、上述のような自己支持性は、ピンセットではなく、手でつまみあげたときに破壊されないことによっても確認することができる。特定の実施形態において、臨床適用が意図される部分としては、骨、関節、軟骨、半月、腱、靭帯などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明の人工組織に含まれる細胞の由来は、臨床適用される用途に影響されないことが特徴である。また、欠損部分が軟骨部分の場合、人工組織が該関節内組織の欠損部に移植された後人工的に固定することなく(例えば、2、3分後)、該人工組織が残存していることによって、接着性を検定することができる。
【0175】
本発明で用いられる三次元人工組織は、移植可能な人工組織である。これまでも細胞培養によって人工組織を作製することが試みられているが、いずれも、大きさ、強度、培養容器からの剥離のときの物理的損傷などによって移植に適した人工組織とはなっていなかった。本発明は、本明細書において別の箇所において詳述するように細胞外マトリクス産生促進因子の存在下で細胞を培養することによって、大きさ、強度などの点で問題が無く、剥離させるときに特に困難を伴わない組織培養方法を利用する。本発明で用いられる三次元人工組織では、本明細書において別の箇所において詳述するような組織培養法を利用することによって、移植可能な人工組織として提供される。本発明で用いられる三次元人工組織は、細胞と、該細胞に由来する成分とを含む複合体を提供する。ここで、好ましくは、この複合体は、実質的に細胞と該細胞に由来する成分からなることが理解される。ここで、本発明の複合体は、生体の部分を補強、修復または再生するために提供される。本明細書において、「複合体」とは、細胞と、他の成分とが何らかの相互作用によって、複合体化したものを指す。従って、本発明の複合体は、人工組織様の外観を呈することが多く、その意味で、人工組織と指すものが重複することが理解される。なお、この「複合体」はそれ自体が人工組織であり、「複合組織」とは異なることに留意すべきである。「複合体」は本発明の「複合組織」の一成分でありうる。
【0176】
別の実施形態において、本発明において用いられる三次元人工組織は、単離されていることが好ましい。単離とは、この場合、培養に用いたスキャフォールド、支持体、培養液などから分離されていることを意味し、複合組織に用いられる人工骨以外のものからの分離を意味することに留意すべきである。スキャフォールドなどの物質が実質的に存在しないことによって、本発明において用いられる三次元人工組織は、移植後の免疫拒絶反応、炎症反応などの有害反応を抑えることができる。本発明の複合組織、したがって含まれる三次元人工組織の底面積は、例えば、約1cm
2〜約20cm
2であり得るが、それに限定されず、約1cm
2以下でもよく、約20cm
2以上でもいい。本発明の本質は、どのような大きさ(面積、容積)のものでも作製することができる点にあり、サイズに限定されないことが理解される。
【0177】
好ましい実施形態において、本発明において用いられる三次元人工組織は、肉厚である。肉厚とは、通常移植対象の部位を充填するのに十分な強度を有する程度の厚みをいう。そのような厚みは、例えば、少なくとも約50μm以上であり、より好ましくは、少なくとも約100μm以上であり、少なくとも約200μm以上であり、少なくとも約300μm以上であり、さらに好ましくは少なくとも約400μm以上であり、あるいは少なくとも約500μmまたは約1mmであることがさらに好ましい。場合によっては、約3mm以上および約5mm以上の厚さのものも作製できることが理解される。あるいは、このような厚さは、約1mm未満であってもよい。本発明の本質は、どのような厚さの組織または複合体でも作製することができる点にあり、サイズに限定されないことが理解される。
【0178】
本発明で用いられる三次元人工組織では、スキャフォールドフリーの人工組織を提供することによって、移植後の経過に優れた治療法および治療剤が提供される。本発明はまた、本発明で用いられる三次元人工組織においてスキャフォールドフリーの人工組織を利用するという点により、生物製剤における長期にわたる規制の問題の一つである、スキャフォールド自体の混入に起因する問題を一挙に解決する。また、スキャフォールドがないにもかかわらず、治療効果は従来のものに比べても遜色ないどころか、より良好である。このほか、スキャフォールドを用いた場合に、スキャフォールド内の移植細胞の配向性、細胞間接着性の問題、スキャフォールド自体の生体における変化(炎症惹起)およびスキャフォールドのレシピエント組織への生着性などの問題を解決することができる。特に、本発明において、人工骨としては、好ましくは実際の骨の成分が使用され、生物製剤や合成ポリマーを使用しないという点で、すでに骨再生インプラントとして有用性、安全性が証明されている人工骨が証明されている複合組織を用いる場合でも、軟骨再生における人工組織の使用の有用性はそのまま引き継がれるといえ、これも従来の人工組織、複合組織等に比べて有利な点といえる。本発明で用いられる三次元人工組織はまた、自己組織化しており、内部において生物学的結合が行われているという点で、従来の細胞治療を利用した方法とも一線を画すことができる。本発明で用いられる三次元人工組織はまた、三次元形態を容易に形成することができ、所望の形態に容易に設計することができることから、その汎用性に留意されるべきである。また、従来人工物での移植処置が考えられなかった部位の処置が可能になった。本発明の人工組織は、組織内および環境との間で生物学的結合を有しており、実際に移植治療において機能する。本発明の複合組織は、移植後の周囲の組織、細胞などと生物学的に結合する能力を有し(好ましくは細胞外マトリクスによる)、従って、術後の経過に優れる。したがって、本発明の複合組織により、疾患部分を充填し、置換させること、および/または疾患部位を被覆することによって治療効果をもたらす医療処置が可能である。
【0179】
本発明で用いられる三次元人工組織は、周囲の組織、細胞などの移植後環境との生物学的結合を有することから、術後の定着がよい、細胞が良好に供給されるなどの優れた効果が奏される。本発明の効果としては、このような生物学的結合性の良好さから、他の人工組織などと複合組織を形成することによって複雑な治療を行うことができる点にもある。本発明で用いられる三次元人工組織に伴う別の効果は、三次元人工組織として提供した後、分化誘導をかけることができるという点にある。あるいは、三次元人工組織として提供する前に、分化誘導をかけて、そのような三次元人工組織を形成することができる点にもある。本発明で用いられる三次元人工組織に伴う他の効果は、細胞移植という観点から、従来の細胞のみの移植、シートを用いた移植などと比べて、置換性がよい、被覆することによる総合的な細胞供給などの効果が奏される点にある。本発明で用いられる三次元人工組織により、本発明の複合組織では、生物学的結合能を有し、移植可能な人工組織が提供される。このような組織は、上記特徴および効果を有することによって、従来人工物での移植処置が考えられなかった部位の処置が可能になった。本発明で用いられる三次元人工組織は、組織内および他の組織との間での生物学的結合を有しており、実際に移植治療において機能する。このような人工組織は、従来技術では提供されるものではなく、初めて提供されるものである。本発明で用いられる三次元人工組織は、移植後の周囲の組織、細胞などと生物学的に結合する能力を有し(好ましくは細胞外マトリクスによる)、従って、術後の経過に優れる。このような生物学的結合能を有する人工組織は、本発明で用いる方法以外に存在しておらず、従って、本発明は、この方法以外の方法では人工組織では達成できなかった治療効果を奏することになる。本発明の複合組織により、疾患部分を充填し、置換させること、および/または疾患部位を被覆することによって治療効果をもたらす医療処置が可能である。
【0180】
好ましい実施形態では、本発明で使用される三次元人工組織は、三次元方向に生物学的に結合されており、人工骨との結合においては接着状態にあり、事実上密着しているといえる。ここで、生物学的結合は、本明細書において他の場所において説明されており、例えば、細胞外マトリクスによる物理的結合、電気的結合などが挙げられるがそれらに限定されない。特に、組織内の細胞外マトリクスが生物学的に結合されていることが重要である。そのような生物学的に結合された状態の人工組織は、本発明が利用する方法以外のほうほうでは提供されていない。さらに、周囲との生物学的結合能を有する好ましい実施形態では、移植後も生体の一部を構成することができる人工組織を含む複合組織を提供するという点で、顕著な効果を奏する人工組織であるといえる。本発明は、一旦凍らせて、細胞を死滅させたような真の意味での細胞が含まれていない人工組織を含む複合組織を提供することができる。このような場合でも、周囲との接着性を有するという点は依然としてユニークである。
【0181】
本発明で用いられる三次元人工組織は、組織全体にフィブロネクチン、ビトロネクチンなどの細胞外マトリクスまたは細胞接着因子が分布し、一方細胞シート工学では培養細胞のシャーレへの接着面に細胞接着因子は局在している。そして最たる違いは細胞シート工学ではシートの主体は細胞であり、シートは接着因子のノリを底面に付けた細胞の塊といえるが、本発明者らの人工組織は文字通り細胞外マトリックスが細胞を包んだ「組織」であるという点が従来のものとは顕著に異なるといえる。本発明は、人工骨等の他の人工組織の定着の向上を達成する。
【0182】
1つの実施形態において、本発明において用いられる三次元人工組織は、通常の人工組織とは、細胞を含むという点で異なるということができる。特に、細胞密度が、例えば、最大5×10
6/cm
2までも含めることができるという点でその高密度性が留意されるべきである。組織として移植するというよりは、細胞を移植するのに適しているという点で注目されるべきである。
【0183】
1つの実施形態では、本発明で使用される間葉系幹細胞またはその等価細胞は低酸素条件で作製されたものである。より好ましくは、本発明の間葉系幹細胞またはその等価細胞は、前記多能性幹細胞(例えば、ES細胞またはiPS細胞)を浮遊培養して胚様体を形成させ、これを1%酸素条件で培養して得られるものである。そのような低酸素条件の一例としては、非特許文献5に記載される方法が列挙される。あるいは、本明細書において実施例において例示される任意の方法が使用されることが理解される。
【0184】
(誘導型三次元人工組織と人工骨との複合組織)
1つの局面において、本発明は、骨軟骨欠損に関連する疾患、障害または状態を治療または予防するための、誘導型三次元人工組織と人工骨とを含む複合組織を提供する。本発明の複合組織は、骨軟骨欠損に関連する疾患、障害または状態を従来の技術では不可能であったレベルで治癒させることに成功した。したがって、本発明は治療成績の飛躍的向上という点で顕著な効果を奏する。本発明の複合組織において使用される誘導型三次元人工組織としては、(誘導型三次元人工組織)において記載される任意の実施形態が使用されうることが理解される。
【0185】
本発明の複合組織は、ウサギの外科手術から1ヶ月で相当程度の修復が見られていることから、従来の治療法では達成できなかった早期で、かつより完全な治癒が達成できている。すなわち、その特徴的効果としては、「癒合」(integration)、および治癒の速さ(1ヶ月でのデータ)が従来よりも優れている。なお、ウサギモデルでは、6ヶ月ほど経つと自然治癒も見られるが、6ヶ月のレベルでも治癒レベルおよび癒合等の治癒の質でも顕著な相違があったことから、従来の治療法では達成できなかった早期で、かつより完全な治癒が達成できているといえる。なお、ウサギで実証されていることから、当該ウサギがヒト等の他の動物についての確立したモデルであり、ヒトについては、骨軟骨欠損治療における確立されたモデルであるウサギでの実証例であるので、「哺乳動物」一般においても同様の効果があると当業者は理解することができる。このような動物モデルについては以下の文献を参考とすることができ、当該分野における技術常識を構成している:
<動物モデルの慣用技術文献例>
・F. Berenbaum, The OARSI histopathology initiative - the tasks and limitations, Osteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S1
・Trattnig S, Winalski CS, Marlovits S, Jurvelin JS, Welsch GH, Potter HG. Magnetic resonance imaging of cartilage repair: a review. Cartilage. 2011;2:5-26.
・Mithoefer K, Saris DBF, Farr J, Kon E, Zaslav K, Cole B, Ranstam J, Yao J, Shive MS, Brittberg M. Guidelines for the design and conduct of clinical studies in knee articular cartilage repair: International Cartilage Repair Society recommendations based on current scientific evidence and standards of clinical care. Cartilage. 2011;2: 100-121.
・Roos EM, Engelhart L, Ranstam J, Anderson AF, Irrgang JJ, Marx R, Tegner Y, Davis AM. Patient-reported outcome instruments for use in patients with articular cartilage defects. Cartilage. 2011;2:122-136.
・Hurtig M, Buschmann MD, Fortier L, Hoemann CD, Hunziker EB, Jurvelin JS, Mainil-Varlet P, McIlwraith W, Sah RL, Whiteside RA. Preclinical studies for cartilage repair: recommendations from the International Cartilage Repair Society. Cartilage. 2011;2:137-153.
・Hoemann CD, Kandel R, Roberts S, Saris D, Creemers L, Manil-Varlet P, Methot S, Hollander A, Buschmann MD. Recommended guidelines for histological endpoints for cartilage repair studies in animal models and clinical trials. Cartilage. 2011;2:154-173.
・C. Wayne McIlwraith and David D. Frisbie, Microfracture : Basic Science Studies in the Horse, Cartilage 2010 1: 87-95
・F. Berenbaum, The OARSI histopathology initiative - the tasks and limitations Osteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S1
・T. Aigner, J.L. Cook, N. Gerwin, S.S. Glasson, S. Laverty, C.B. Little, W. McIlwraith, V.B. Kraus, Histopathology atlas of animal model systems e overview of guiding principles Osteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S2-S6
・K.P.H. Pritzker, T. Aigner, Terminology of osteoarthritis cartilage and bone histopathology - a proposal for a consensus Osteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S7-S9
・R. Poole, S. Blake, M. Buschmann, S. Goldring, S. Laverty S. Lockwood, J. Matyas, J. McDougall, K. Pritzker, K. Rudolphi, W. van den Berg, T. Yaksh, Recommendations for the use of preclinical models in the study and treatment of osteoarthritis, Osteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S10-S16
・S.S. Glasson, M.G. Chambers, W.B. Van Den Berg, C.B. Little, The OARSI histopathology initiative e recommendations for histological assessments of osteoarthritis in the mouse, Osteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S17-S23
・N. Gerwin, A.M. Bendele, S. Glasson, C.S. Carlson, The OARSI histopathology initiative - recommendations for histological assessments of osteoarthritis in the rat, Osteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S24-S34
・V.B. Kraus, J.L. Huebner, J. DeGroot, A. Bendele, The OARSI histopathology initiative - recommendations for histological assessments of osteoarthritis in the guinea pig, Osteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S35-S52
・S. Laverty, C.A. Girard, J.M. Williams, E.B. Hunziker, K.P.H. Pritzker, The OARSI histopathology initiative - recommendations for histological assessments of osteoarthritis in the rabbit, Osteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S53-S65
・J.L. Cook, K. Kuroki, D. Visco, J.-P. Pelletier, L. Schulz, F.P.J.G Lafeber, The OARSI histopathology initiative - recommendations for histological assessments of osteoarthritis in the dog, Osteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S66-S79
・C.B. Little, M.M. Smith, M.A. Cake, R.A. Read, M.J. Murphy, F.P. Barry, The OARSI histopathology initiative - recommendations for histological assessments of osteoarthritis in sheep and goats, Osteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S80-S92
・C.W. McIlwraith, D.D. Frisbie, C.E. Kawcak, C.J. Fuller, M. Hurtig, A. Cruz, The OARSI histopathology initiative - recommendations for histological assessments of osteoarthritis in the horse, Osteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S93-S105
・P.C Pastoureau, E.B Hunziker, J.-P. Pelletier, Cartilage, bone and synovial histomorphometry in animal models of osteoarthritis, Osteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S106-S112
・N. Schmitz, S. Laverty, V.B. Kraus, T. Aigner, Basic methods in histopathology of joint tissues, Osteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S113-S116
・G.L. Pearce, D.D. Frisbie, Statistical evaluation of biomedical studies, Osteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S117-S122。
【0186】
好ましい実施形態では、本発明の複合組織に含まれる人工骨は、骨軟骨欠損における骨部の欠損の深さよりも小さなサイズであることが好ましい。理論に束縛されることを望まないが、このサイズによって欠損部分に軟骨が形成される余地が生じ、骨軟骨の生物学的結合ないし生物学的癒合がスムーズに行われることが見いだされたことから、治療成績の向上にはこのような欠損の深さとの関係でサイズを特定することが好ましくあり得ると考えられる。代表的な例でいうと、ウサギ等の小形動物において骨軟骨欠損が約6mmであった場合は、軟骨部分がおよそ約300μ〜約400μm程度であることから、人工骨を約4mmほどの深さにし三次元人工組織(TEC)を約0.5〜約2mm程度にすれば、この条件が満たされることになる。軟骨の厚さは動物によって異なり、ヒトでは、部位に応じて変動し1mm〜約5mm程度といわれていることから、軟骨部分が約3mmの場合、骨軟骨欠損部の深さ(mm)から約3mmより深く、例えば、4mm程度の三次元人工組織(TEC)を、欠損部の深さから約4mm減じた長さを持つ人工骨に加えることによって複合組織を生産することができる。あるいは、別の実施形態としては、軟骨の厚みに拠らず、一定の深さで移植することもできる。1つの実施形態では、前記人工骨は、前記骨軟骨欠損における骨部の欠損の深さよりも約1mm以上小さいサイズである。別の実施形態では、前記人工骨は、前記骨軟骨欠損における骨部の欠損の深さよりも軟骨の厚みの2倍以下小さいサイズである。さらに別の実施形態では、前記人工骨は、前記骨軟骨欠損における骨部の欠損の深さよりも約1mm以上小かつ軟骨の厚みの2倍以下小さいサイズである。したがって、たとえば、ヒトではTEC/人工骨複合体の境界面は移植した際にnativeの骨軟骨境界からさらに約1〜約6mmの深い位置とするのが好ましい。好ましくは、前記人工骨は、前記骨軟骨欠損における骨部の欠損の深さよりも約2mm〜約4mm小さいものが有利である。約2mm程度と浅いと軟骨下骨の修復が早いが軟骨修復が乏しい。約4mm程度と深いと軟骨修復は良好であるが軟骨下骨の修復が遷延する。したがって、症例にもよるが、1つの実施形態では、軟骨表層より約3mm程度が好ましいということができる。例えば、軟骨部分はヒトの場合約1〜5mm、代表的には約3mmであることから、この代表的な場合、人工骨が骨軟骨境界部からの深さでいうと、最小限としては約1mm程度が好ましいことから、下限として約1mm、上限としては軟骨部分の2倍である約6mmの深さを用いることが好ましい。この場合、骨部分の欠損を約10mmと想定した場合、人工骨の部分は、約9mm〜約4mmのものを使用することになる。したがって、この実施形態では、動物によって隣接する軟骨の厚みがほぼ一定であることから、対象となる動物に応じて、骨部の深さから複合組織を適切にサイジングすることができる。軟骨の厚みは、例えば、ヒトでは、関節軟骨の厚さは約1mm位から、最大の膝蓋軟骨で約5mmにもなり、部位によって変動することが知られており、部位に応じて決定することができる。ヒト、ウサギ以外についても当該分野において公知であり、<動物モデルの慣用技術文献例>に記載された文献および他の周知文献等を参考にして軟骨厚みを決定することができ、その厚みに応じて本発明の複合組織を構成することができる。
【0187】
さらに好ましい実施形態では、前記人工骨と前記三次元人工組織との深さの合計は、前記骨軟骨欠損の深さと略同じであることが好ましく、この合計の深さ(長さ)は、誤差が許容され得、例えば、約1mm程度の誤差がでも略同じとみなすことができるが、骨軟骨欠損の深さより長くない(例えば、人工骨と三次元人工組織との深さの合計が骨軟骨欠損の深さと同じ〜約1mm短い)ことが好ましい。理論に束縛されることを望まないが、このサイズによって欠損部分に軟骨が形成される余地が生じ、骨軟骨の生物学的結合または生物学的癒合がスムーズに行われることが見いだされたことから、治療成績の向上にはこのような欠損の深さとの関係でサイズを特定することが好ましくあり得ると考えられる。あるいは、より好ましくは、前記人工骨は、前記骨軟骨欠損における骨部の欠損の深さよりも小さなサイズであり、かつ、前記人工骨と前記三次元人工組織との深さの合計は、前記骨軟骨欠損の深さと略同じであることが好ましい。この両方の特徴が組み合わされることによって、双方の利点が活かされるからである。
【0188】
好ましい実施形態では、本発明の複合組織では三次元人工組織と人工骨とは二相(biphasic)で存在する。すなわち、これらの2つの成分は、好ましい実施形態では本発明の複合組織において、混合されず、実質的に別々の構成要素として存在することが好ましい。したがって、本明細書では、「二相」(biphasic)との用語は、2成分以上の成分が混合されず、実質的に別々の構成要素として存在することをいう。理論に束縛されることを望まないが、これにより、三次元人工組織においては軟骨下骨の形成が促されることが実証されているからである。
【0189】
1つの実施形態では、前記三次元人工組織と前記人工骨とは互いに接着した状態にある。本発明で用いられる三次元人工組織は、人工骨(たとえば、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイトベース等のものを含む)等の他の人工組織と接着または密着することができ、複合組織として一体化した形態で提供されうる。このようにして、本発明の複合組織は、移植後の治療成績の向上に役立つ特徴を備えていることが理解される。
【0190】
本発明の複合組織は、骨軟骨欠損は、骨軟骨を組織内に有する任意の動物において使用されうることが理解される。1つの実施形態では、そのような動物は、哺乳動物が例示される。特に、ヒトを含む霊長類等の骨軟骨欠損は完治が困難であったことから、本発明は、完治またはそれに近い状態を達成するという点において顕著な効果を奏するということができる点が注目されるべきである。
【0191】
本発明において使用される人工骨は、骨の代替物として知られるものであれば、どのようなものを用いてもよく、例えば、身体の骨と親和性がよい材料、例えば、人工骨としては、ヒドロキシアパタイト、β−リン酸三カルシウム、ケイ素、カーボン、アルミナ、ジルコニアなどのバイオセラミック、チタン、タングステンなどの金属,サンゴ素材等の材料で構成されるものが使用される。そのようなものの代表例としては、多孔質β−リン酸三カルシウム(β−TCP)(オリンパス等)、ハイドロキシアパタイト人工骨補填材であるNEOBONE(登録商標)(MMT株式会社)、アパセラム、スーパーポア、セルヤード、バイオペックス−R、ボーンタイト、ボーンフィル(いずれもHOYA・ペンタックス)等を挙げることができるがそれに限定されない。
【0192】
1つの実施形態では、本発明の複合組織において使用されうる人工骨は、ヒドロキシアパタイトおよびβ−リン酸三カルシウムからなる群より選択される材料で構成されうる。
【0193】
本発明の治療または予防が対象とする疾患、障害または状態は、骨軟骨の障害に関連するもののであればどれでも対象とされうることが理解される。そのような疾患、障害または状態としては、特に、骨軟骨の変性、壊死、損傷などを伴う任意の疾患を挙げることができ、変形性関節症、骨軟骨損傷、骨壊死、骨軟骨損傷、難治性骨折、骨腫瘍およびその類似疾患(骨嚢腫など)、骨軟骨病変、骨壊死、関節リウマチ、軟骨損傷(軟骨全層損傷、軟骨部分損傷、骨軟骨損傷等)、半月損傷、靭帯損傷、靭帯修復(陳旧性、変性断裂、再建手術の際の生物学的補強など)が必要な状態、腱損傷、腱(アキレス腱を含む)修復(陳旧性、変性断裂、再建手術の際の生物学的補強など)が必要な状態、腱(アキレス腱を含む)修復(陳旧性、変性断裂、再建手術の際の生物学的補強など)が必要な状態、軟骨変性、半月変性、椎間板変性、靭帯変性または腱変性、骨折遷延治癒;偽関節;骨格筋修復・再生など、およびこのほか組織に傷害がある任意の疾患を挙げることができ、あるいは、人骨関節などの体内挿入物と骨との癒合不全部等を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0194】
本明細書において「予防」(prophylaxisまたはprevention)とは、ある疾患または障害について、そのような状態が引き起こされる前に、そのような状態が起こらないようにするか、そのような状態を低減した状態で生じさせるかまたはその状態が起こることを遅延させるように処置することをいう。
【0195】
本明細書において「治療」とは、ある疾患または障害について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消長させることをいう。本明細書では「根治的治療」とは、病的過程の根源または原因の根絶を伴う治療をいう。従って、根治的治療がなされる場合は、原則として、その疾患の再発はなくなる。
【0196】
本明細書において「予後」とは、予後の処置ともいい、ある疾患または障害について、治療後の状態を診断または処置することをいう。
【0197】
本発明の複合組織は、医薬として提供されていてもよい。あるいは、本発明の複合組織は、医師などが医療現場で調製してもよく、または、医師が細胞を調製した後、その細胞を第三者が培養して三次元人工組織として調製し、さらに人工骨と接着させてから手術に用いてもよい。この場合、細胞の培養は、医師でなくても、細胞培養の当業者であれば実施することができる。従って、当業者であれば、本明細書における開示を読めば、細胞の種類および目的とする移植部位に応じて、培養条件を決定することができる。
【0198】
別の観点では本発明は、スキャフォールドフリーの三次元人工組織を含む複合組織を提供する。このようなスキャフォールドフリーの人工組織を含む複合組織を提供することによって、移植後の経過に優れた治療法および治療剤が提供される。
【0199】
別の観点では本発明はまた、スキャフォールドフリーの人工組織を含む複合組織という点により、生物製剤における長期にわたる規制の問題の一つである、スキャフォールド自体の混入に起因する問題を一挙に解決する。また、スキャフォールドがないにもかかわらず、治療効果は従来のものに比べても遜色ないどころか、より良好である。スキャフォールドを用いた場合に、スキャフォールド内の移植細胞の配向性、細胞間接着性の問題、スキャフォールド自体の生体における変化(炎症惹起)およびスキャフォールドのレシピエント組織への生着性などの問題を解決することができる。本発明で使用される三次元人工組織はまた、自己組織化しており、内部において生物学的結合が行われているという点で、従来の細胞治療とも一線を画すことができる。本発明で使用される三次元人工組織はまた、三次元形態を容易に形成することができ、所望の形態に容易に設計することができることから、その汎用性に留意されるべきである。本発明で使用される三次元人工組織は、周囲の組織、細胞などの移植後環境との生物学的結合を有することから、術後の定着がよい、細胞が確実に供給されるなどの優れた効果が奏される。本発明を用いれば、このような生物学的結合性の良好さから、人工骨等の他の人工組織などと複合組織を形成する際に接着性が極めて良好であり、本発明の複合組織を用いれば複雑な治療を行うことも可能である。本発明の複合組織の別の効果は、本発明の複合組織として提供した後、分化誘導をかけることができるという点にある。あるいは、本発明の複合組織として提供する前に、分化誘導をかけて、そのような本発明の複合組織を形成することができる。本発明では、細胞移植という観点から、従来の細胞のみの移植、シートを用いた移植などと比べて、置換性がよい、被覆することによる総合的な細胞供給などの効果が奏される。
【0200】
本発明において用いられる三次元人工組織は、培養時にディスパーゼ、トリプシン等で代表されるタンパク質分解酵素による損傷を受けていない。この三次元人工組織は、細胞−細胞間、細胞−細胞外マトリクス間、および細胞外マトリクス−細胞外マトリクス間のタンパク質による結合が保持された強度ある細胞塊として回収することができ、三次元構造体としての細胞−細胞外マトリックス複合体としての機能を何ら損なうことなく保有している。トリプシン等の通常のタンパク質分解酵素を使用した場合、細胞−細胞間のおよび細胞−細胞外マトリックス間の結合は殆ど保持されておらず、従って細胞は個々に分かれた状態となって剥離される。その中でタンパク質分解酵素であるディスパーゼに関しては、細胞、基材間の基底膜様タンパク質を殆ど破壊してしまい、得られる人工組織は強度の弱いものである。
【0201】
本発明の複合組織では、軟骨修復に関する組織学的スコアおよび軟骨下骨に関する組織学的スコア(例えば、「骨層再建に関するO’Driscollスコア」、「表面」、「マトリクス」、「軟骨下骨の露出」、「軟骨下骨の整列」、「骨の生物学的癒合」(「一体化」ともいう、「欠損領域内への骨の浸入」、「軟骨の鉱化」および「細胞の形態」(細胞の分布、細胞集団の生存率))が従来達成できなかったレベルで達成されている(いずれも、O’Driscoll SW,Keeley FW,Salter RB.,J Bone Joint Surg Am 1988;70:595−606;Mrosek EH,Schagemann JC,Chung HW,Fitzsimmons JS,Yaszemski MJ,Mardones RM,et al.,J Orthop Res 2010;28:141−148;Olivos−Meza A,Fitzsimmons JS,Casper ME,Chen Q,An KN,Ruesink TJ,et al.,Osteoarthritis Cartilage 2010;18:1183−1191、実施例等を参照)。検討することができる項目は、以下のとおりでありうる。これらの項目について、従来の技術と比べて改善するかどうかを確認することができる。
【0202】
軟骨層に関するO’Driscollスコア:細胞形態;マトリックス;組織の染色性;表層の連続性;組織の連続性;修復組織の厚さ;宿主組織との癒合;細胞密度、生存率;軟骨細胞クラスタリングの割合;宿主組織の変成。
【0203】
骨層再建に関するO’Driscollスコア:表面;マトリクス;軟骨下骨の露出;軟骨下骨の整列;骨の生物学的癒合(一体化);欠損領域内への骨の浸入;軟骨の石灰化(タイドマークの形成);細胞の形態;細胞の分布;細胞集団の生存率;軟骨下骨の露出。
【0204】
<治療用途複合組織の製造方法>
1つの局面において、本発明は、本発明の複合組織を生産するための方法であって、前記三次元人工組織と前記人工骨とを、該三次元人工組織と該人工骨とが接触する状態に配置する工程を包含する、方法を提供する。本発明の方法では、人工組織は人工骨の上に置くと即座に接着して離れなくなるという点で、従来の複合組織のような面倒な工程が不要であるという点でも有利である。三次元人工組織および人工骨としては、本明細書において(誘導型三次元人工組織)、(誘導型三次元人工組織と人工骨との複合組織)および下記(三次元人工組織の生産)、(治療用途複合組織の製造キット)等に記載されている任意の形態を用いることができることが理解される。骨軟骨欠損に関連する疾患、障害または状態および治療または予防についても、(誘導型三次元人工組織と人工骨との複合組織)に記載されている任意の形態を用いることができることが理解される。
【0205】
(三次元人工組織の生産)
1つの局面において、本発明は、本発明の誘導型三次元人工組織を生産する方法であって、該方法はA)筋芽細胞、間葉系幹細胞、脂肪細胞、滑膜細胞、および骨髄細胞からなる群より選択される細胞、好ましくは多能性幹細胞から誘導された間葉系幹細胞またはその等価細胞を提供する工程;B)該細胞を、アスコルビン酸、アスコルビン酸2リン酸またはその誘導体あるいはその塩から選択される因子を含む細胞培養液を収容する、所望の人工組織のサイズを収容するに十分な底面積を有する容器に配置する工程;C)該容器中の該細胞を、該因子を含む細胞培養液とともに、該所望の大きさのサイズを有する人工組織を形成するに十分な時間培養して、細胞を人工組織とする工程;D)該人工組織を該容器から剥離して、該人工組織を自己収縮させる工程であって、該自己収縮は、αMEMに対して(a)糖、ビタミン類およびアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1つの成分、および/または(b)塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)が富化された条件下でなされる、工程、ならびにE)物理的刺激または化学的刺激により、該人工組織の厚さを調節して所望の厚さにする工程、を包含する、方法を提供する。ここで、本発明で利用される生産法において使用される細胞培養液は、目的とする細胞が増殖する限りどのような培地であってもよいが、例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB104、199、MCDB153、L15、SkBM、Basal培地などを適宜グルコース、FBS(ウシ胎仔血清)またはヒト血清、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシンなど)を加えたものが使用され得る。しかしながら、D)工程は、αMEMにbFGFを加えた条件またはDMEMの条件であることが好ましいがこれに限定されない。この方法において採用されうる実施形態としては、本明細書において(誘導型三次元人工組織)に記載される任意の形態を採用することができることが理解される。理論に束縛されることを望まないが、実施例において例示するように、DMEMとαMEM の組成の差としては、前者は後者の4.5倍量のグルコース、約4倍量のビタミン類、約2倍量のアミノ酸類が含有している。一方で後者には前者に含まれない核酸類が含有されている。TECの作成には細胞による細胞外基質蛋白の合成が極めて重要あり、栄養的に有意なDMEMで作成したES−TECは生体移植後、早期軟骨の形成示した。対照的に、ES−MSCに最適化された増殖培地であるαMEMではin vitroで形成されたTECはin vivoで軟骨形成を示さなかった。αMEMにbFGFを添加すれば、in vivo非常に強い軟骨形成能を示すTECの作成が可能であったことが実証されていることからも、特定の成分が増強されることによって軟骨分化能を増強しうることが理解される。
【0206】
本発明において用いられる三次元人工組織を製造する場合、必要に応じて、本発明の複合組織の使用目的に合わせて培養時間を設定すればよい。培養した三次元人工組織を支持体材料から剥離回収するには、培養された細胞シートまたは三次元人工組織を単独で、若しくは高分子膜に密着させて剥離することができる。なお、三次元人工組織を剥離することは細胞を培養していた培養液において行うことも、その他の等張液において行うことも可能であり、目的に合わせて選択することができる。また、単層の細胞シートを作製する場合は、必要に応じ細胞シートまたは三次元人工組織を密着させる際に使用する高分子膜としては、例えば、親水化処理が施されたポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロースおよびその誘導体、キチン、キトサン、コラーゲン、和紙等の紙類、ウレタン、スパンデックス等のネット状・スリキネット状高分子材料を挙げることができる。ここで、ネット状、ストッキネット状高分子材料であれば本発明の複合組織は自由度が増し、収縮弛緩機能を更に増大させることができる。本発明における三次元構造体の製法は特に限定されるものではないが、例えば、上記した高分子膜に密着した培養細胞シートを利用することで製造することができる。実質的に細胞および該細胞に由来する細胞外マトリクスから構成される人工組織は、他の方法では製造することができず、この点でも、本発明は、顕著な特徴を有する複合組織を提供するといえる。
【0207】
好ましい実施形態では、本発明において用いられる三次元人工組織において使用される細胞外マトリクスを本発明において用いられる三次元人工組織に配置することは、本発明で利用される具体的な生産方法によって、容易に達成されることが理解されるが、作製方法としてはそれに限定されないことが理解される。
【0208】
本発明において用いられる三次元人工組織を製造する場合、三次元人工組織を高収率で剥離、回収する目的で、細胞培養支持体を軽くたたいたり、ゆらしたりする方法、さらにはピペットを用いて培地を撹拌する方法等を単独で、あるいは併用して用いてもよい。加えて、必要に応じて三次元人工組織は、培養容器の底面の変形、等張液等で洗浄して剥離回収してもよい。基材から剥離された三次元人工組織は、特定方向に引き伸ばすことで、さらに配向された三次元人工組織となる。その引き伸ばす方法は、何ら制約されるものではないが、テンシロンなどの引っ張り装置を用いる方法、あるいは、単純にピンセットで引っ張る方法等が挙げられる。配向させることで、三次元人工組織自身の動きに方向性を持たせることができ、このことは、例えば、特定の臓器の動きに合わせて、三次元人工組織を重ね合わせることを可能とするため、三次元人工組織を臓器に適用する場合に効率が良い。
【0209】
本発明において用いられる三次元人工組織を製造する方法は、特許第4522994号に開示された方法を適宜参酌することができる。以下に詳述するが、本発明においては、下記技術以外の技術も利用可能であり、また、特許第4522994号に記載された事項は必要に応じてその全体が本明細書において参考として援用されることが理解される。
【0210】
本発明で使用される(三次元)人工組織は、以下のようにして生産することができる。この生産法は、概して、A)細胞を提供する工程;B)該細胞を、細胞外マトリクス産生促進因子を含む細胞培養液を収容する、所望の人工組織のサイズを収容するに十分な底面積を有する容器に配置する工程;およびC)該容器中の該細胞を、該所望の大きさのサイズを有する人工組織を形成するに十分な時間培養する工程、を包含する。
【0211】
ここで用いられる細胞は、どのような細胞であってもよい。細胞を提供する方法は、当該分野において周知であり、例えば、組織を摘出してその組織から細胞を分離する方法、あるいは、血液細胞などを含む体液から細胞を分離する方法、あるいは、細胞株を人工培養によって調製する方法などが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において使用される細胞は任意の幹細胞または分化細胞であり得るが、特に、筋芽細胞、間葉系幹細胞、脂肪細胞、滑膜細胞、骨髄細胞などを用いることができる。本明細書において使用される間葉系幹細胞としては、例えば、脂肪組織由来の幹細胞、骨髄由来の幹細胞、ES細胞から分化させた細胞、iPSから分化させた細胞等などを用いることができる。
【0212】
本発明で利用される三次元人工組織の生産法では、細胞外マトリクス産生促進因子を含む細胞培養液が使用される。このような細胞外マトリクス産生促進因子としては、例えば、アスコルビン酸またはその誘導体などが挙げられ、例えば、アスコルビン酸2リン酸、L−アスコルビン酸などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0213】
本発明で利用される生産法においてにおいて使用される容器は、所望の人工組織のサイズを収容するに十分な底面積を有する限り、当該分野において通常使用されるような容器を用いることができ、例えば、シャーレ、フラスコ、型容器など、好ましくは底面積が広い(例えば、1cm
2以上)容器が使用され得る。その容器の材質もまた、どのような材料を利用してもよく、ガラス、プラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリカーボネートなど)、シリコーンなどが用いられ得るがそれらに限定されない。
【0214】
好ましい実施形態では、本発明で利用される生産法では、さらに、生産された(三次元)人工組織を分離する工程を包含し得る。本明細書において「分離する」とは、本発明の人工組織が容器中で形成された後、その容器からその人工組織を分離することをいう。分離は、例えば、物理的手段(例えば、培地のピペッティングなど)、化学的手段(物質の添加)などによって達成することができる。本発明では、タンパク質分解酵素処理などの積極的に人工組織に対して侵襲を与えずに、人工組織の周囲に物理的手段または化学的手段によって刺激を与えることによって人工組織を分離することができるという点でそうではない方法では達成できなかった簡便さおよびそれによってもたらされる人工組織の傷のなさなどの移植片としての性能の高さという効果を奏することに留意すべきである。
【0215】
好ましい実施形態では、本発明で利用される生産法は、人工組織化された細胞を分離する工程、をさらに包含する。ここで、より好ましい実施形態では、この分離する工程は、人工組織を収縮させる刺激を加えることができる。物理的な刺激(例えば、ピペッティング)を含む。このような物理的刺激は、作製された人工組織に直接作用しないことが本発明において好ましい特徴である。このように人工組織に直接作用させないことによって、人工組織の損傷を抑えることができるからである。あるいは、分離する工程は、アクチン調節物質の添加のような化学的手段を含む。このようなアクチン調節物質は、アクチン脱重合促進因子およびアクチン重合促進因 子からなる群より選択される化学物質を含む。例えば、アクチン脱重合促進因子は、Slingshot、コフィリン、CAP(シクラーゼ関連タンパク質)、 AIP1(actin−interacting−protein 1)、ADF(actin depolymerizing factor)、デストリン、デパクチン、アクトフォリン、サイトカラシンおよびNGF(nerve growth factor)などを挙げることができる。他方、アクチン重合促進因子は、RhoA、mDi、プロフィリン、Rac1、IRSp53、WAVE2、 ROCK、LIMキナーゼ、コフィリン、cdc42、N−WASP、Arp2/3、Drf3、Mena,LPA(lysophosphatidic acid)、インスリン、PDGFa、PDGFb、ケモカインおよびTGF−βなどを挙げることができる。理論に束縛されることを望まないが、これらのアクチン調節物質は、アクト−ミオシン系の細胞骨格の収縮または弛緩を引き起こし、それにより、細胞自体の収縮または伸縮を調節することになり、結果として、容器の底面から、三次元人工組織自体が分離することを促進または遅延する作用になると考えられる。
【0216】
別の実施形態において、本発明で利用される生産法では、単層培養された細胞から作製されることが特徴の一つである。単層培養するにもかかわらず、結果として、種々の厚みを持つ人工組織を構築することができるようになったということは、従来の例えば、温度応答性シートなどを用いた場合に複数のシートを重ね合わせないと厚い組織が構成できなかったということに対して顕著な効果であるといえる。フィーダー細胞が不要で、十層以上の細胞の重層化が可能な三次元化の方法は、これ以外の方法では実現できない。スキャフォールドを用いない細胞移植方法としては、非特許文献27による温度感受性培養皿を利用した細胞シート工学技術が代表的であり、独創的技術として国際的評価を得ている。しかし、この細胞シート技術を使用する場合、単独のシートでは脆弱であることが多く、移植等の外科的操作に耐えうる強度を得るためにはシートを重ね合わせる操作等の工夫が必要であった。
【0217】
本発明の複合組織で使用される三次元人工組織は細胞・マトリックス複合体といえ、細胞シート技術とは異なり、温度感受性培養皿を必要とせず、また細胞・マトリックスを重層化させることが容易であることが特徴である。げっ歯類のストローマ細胞などのいわゆるフィーダー細胞の使用無しに10層以上に重層した複合体を3週間程度で作成できる技術はこの方法以外には見当たらない。また、滑膜細胞等の材料細胞のマトリックス産生条件を調節させることにより、特殊な器具を必要とすることなく複合体の把持、移動といった外科的操作が可能となる強度を保持する複合体の作成も可能であり、本法は、細胞移植を確実にかつ安全に行うための独創的で画期的な手法であり得る。
【0218】
好ましい実施形態では、本発明で利用される生産法に用いられる細胞外マトリクス産生促進因子は、アスコルビン酸2リン酸を含む(Hata R, Senoo H.J Cell Physiol. 1989; 138(1):8−16参照)。本発明では、アスコルビン酸2リン酸を一定量以上加えることによって、細胞外マトリクスの生産が促進され、その結果、得られる三次元人工組織が硬化され、剥離しやすくなる。この後、剥離の刺激を与えることによって自己収縮が行われる。このようなアスコルビン酸を加えて培養した後、組織が硬化し、剥離しやすくなる性質を獲得することは、Hataらの報告には記載されていない。理論に束縛されないが、一つの顕著な相違点と して、Hataらは、使用した細胞密度が顕著に異なるという点にある。また、Hataらは、硬化効果を示唆すらしておらず、このような硬化および収縮効 果、および剥離しやすくなるという効果は、この方法以外にはなく、本発明の複合組織で用いられる人工組織は、従来製造されてきたものとは硬化、収縮、剥離 などの手順を経て生産されている点で、少なくとも全く異なるものであるということができる。培養物を剥がしたときに収縮し、三次元化、重層化などが促進されたということは驚くべき効果である。そして、軟骨分化能の増強が、収縮時の条件を調節することによって達成されることは本発明において見出されたことである。
【0219】
好ましい実施形態では、本発明で利用される生産法において使用されるアスコルビン酸2リン酸は、通常少なくとも約0.01mMで存在し、好ましくは少なくとも約0.05mMで存在し、さらに好ましくは少なくとも約0.1mMで存在する。より好ましくは少なくとも約0.2mMの濃度で存在することが好ましい。さらに好ましくは、約0.5mMの濃度、さらにより好ましくは1.0mMの濃度で存在することが好ましい。ここでは、約0.1mM以上であればどのような濃度でも用いることができるが、好ましくは、約10mM以下であることが所望され得る局面も存在し得る。ある好ましい実施形態では、本発明で利用される生産法において使用される細胞外マトリクス産生促進因子は、アスコルビン酸2リン酸またはその塩およびL−アスコルビンまたはその塩を含む。
【0220】
好ましい実施形態では、本発明で利用される生産法では、培養した工程に続き、D)人工組織を剥離させ自己収縮させる工程、をさらに含む。剥離は、物理的な刺激(例えば、容器の角に棒などで物理的刺激(ずり応力印加、ピペッティング、容器の変形など)を与えるなど)を行うことによって促進することができる。自己収縮は、このような剥離の後、物理的刺激が与えられる場合、自然に起こる。化学的刺激の場合は、自己収縮および剥離が並行して生じる。自己収縮により、特に第三次元方向(シート上の組織に関する場合、二次元方向と鉛直な方向)の生物学的結合が促進される。このようにして製造されることから、本発明の人工組織は、三次元構造体という形態をとるといえる。本発明で利用される生産法では、十分な時間とは、目的とする人工組織の用途によって変動するが、好ましくは少なくとも3日間を意味する(例示的な期間としては、3〜7日間を挙げることができる)。
【0221】
別の実施形態において、本発明で利用される生産法は、人工組織を分化させる工程、をさらに含み得る。分化させることによって、所望の組織により近い形態を採らせることができるからである。そのような分化としては、例えば、軟骨分化、骨分化を挙げることができるがそれらに限定されない。好ましい実施形態では、骨分化は、デキサメタゾン、βグリセロホスフェートおよびアスコルビン酸2リン酸を含む培地中で行われ得る。より好ましくは、骨形成タンパク質(BMP類)を加える。このようなBMP2、BMP−4、BMP−7は、骨の形成をより促進するからである。
【0222】
別の実施形態において、本発明で利用される生産法は、人工組織を分化させる工程であって、分化としては、例えば、軟骨分化を行う形態が挙げられる。好ましい実施形態では、軟骨分化は、ピルビン酸、デキサメタゾン、アスコルビン酸2リン酸、インスリン、トランスフェリンおよび亜セレン酸を含む培地中で行われ得る。より好ましくは、骨形成タンパク質(BMP−2、BMP−4、BMP−7、TGF−β1、TGF−β3)を加える。このようなBMPは、軟骨の形成をより促進するからである。
【0223】
本発明で利用される生産法において留意されるべき点として、骨および軟骨などの種々の分化細胞への分化能を有する組織を製造できることがある。軟骨組織への分化は、これまで他のスキャフォールドフリーの人工組織では困難であった。ある程度の大きさが必要な場合は、この方法以外の方法では、スキャフォールドと共培養し、三次元化させて、軟骨分化培地を入れることが必要であった。従来では、スキャフォールドフリーで軟骨分化させることは困難であった。本発明においては、人工組織中の軟骨分化も可能である。これは本発明で利用する方法以外の方法では実証されていない結果であって、本発明の特徴的な効果の一つである。組織再生を目指す細胞治療においてスキャフォールドなしに有効かつ安全に、十分な大きさの組織を用いて治療を行う方法は困難であった。本発明は、この意味では、顕著な効果を達成するといえる。特に、軟骨など、従来では不可能であった、分化細胞でも自在に操れるようになったという点でその意義は深い。本発明の方法以外の方法では、例えば、ペレット状に細胞を集めて、その細胞塊を分化させて2mm
3程度のものを作ることはできていたが、このような大きさを超える場合は、スキャフォールドを使用せざるを得ない。
【0224】
本発明で利用される生産法に含まれる分化工程は、前記細胞の提供の前または後に行われ得る。
【0225】
本発明で利用される生産法において使用される細胞は、初代培養のものを使用することができるが、それに限定されず、継代した細胞(例えば、3代以上)を用いることもできる。好ましくは、継代した細胞を用いる場合、細胞は、4継代以上の細胞を用いることが好ましく、より好ましくは、5継代以上の細胞を用い、さらに好ましくは、6継代以上の細胞を用いることが有利である。細胞密度の上限が、継代数を一定程度上げるに従って上がっていくことから、より密な人工組織を作製することができると考えられるからであるが、それに限定されず、むしろ、一定範囲の継代数(例えば、3代〜8代)が適切であるようである。
【0226】
本発明で利用される生産法では、細胞は、好ましくは、5.0×10
4/cm
2以上の細胞密度で提供されるがそれに限定されない。細胞密度を十分上げることによって、より強度の高い人工組織を提供することができるからである。ただし、下限は、これよりも低くあり得ることが理解される。当業者は、本明細書の記載に基づき、そのような下限を規定することができることが理解される。
【0227】
1つの実施形態において、本発明で利用される生産法において使用され得る細胞としては、例えば、筋芽細胞、滑膜細胞、脂肪細胞、間葉系幹細胞(例えば、脂肪組織または骨髄由来、あるいはES細胞由来またはiPS細胞由来、好ましくは多能性幹細胞から誘導された間葉系幹細胞またはその等価細胞)を用いることができるが、それらに限定されない。好ましくは、例えば、ES細胞由来またはiPS細胞由来の誘導型間葉系幹細胞が有利に使用される。このような細胞は、例えば、骨、軟骨、腱、靭帯、関節、半月などに適用可能である。
【0228】
別の局面において、本発明で利用される三次元人工組織の生産では、所望の厚さを有する三次元人工組織を生産するための方法を利用することができる。この方法は、A)細胞を提供する工程;B)該細胞を、細胞外マトリクス産生促進因子(例えば、アスコルビン酸類、TGF−β1、TGF−β3など)を含む細胞培養液を収容する、所望の三次元人工組織のサイズを収容するに十分な底面積を有する容器に配置する工程;C)該容器中の該細胞を、細胞外マトリクス産生促進因子を含む細胞培養液とともに、該所望の大きさのサイズを有する三次元人工組織を形成するに十分な時間培養して、細胞を三次元人工組織とする工程;およびD)物理的刺激または化学的刺激により、該三次元人工組織の厚さを調節して所望の厚さにする工程であって、該刺激は、αMEMに対して(a)糖、ビタミン類およびアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1つの成分、および/または(b)塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)が富化された条件下で付与される、工程、を包含する。ここで、細胞の提供、細胞の配置、刺激および人工組織または複合体とする工程は、(誘導型三次元人工組織と人工骨との複合組織)または本節等の本明細書において詳細に説明されており、任意の実施形態を採ることができることが理解される。
【0229】
次に、使用される物理的または化学的な刺激としては、例えば、ピペッティング、アクチン調節物質の使用などを挙げることができるがそれらに限定されない。好ましくは、ピペッティングであり得る。ピペッティングは、操作が容易であり、有害物質を使用しないからである。あるいは、使用される化学的刺激としては、アクチン脱重合促進因子およびアクチン重合促進因子などを挙げることができる。そのようなアクチン脱重合促進因子は、ADF(actin depolymerizing factor)、デストリン、デパクチン、アクトフォリン、サイトカラシンおよびNGF(nerve growth factor)などを挙げることができる。あるいは、アクチン重合促進因子としては、LPA(lysophosphatidic acid)、インスリン、PDGFa、PDGFb、ケモカインおよびTGFβなどを挙げることができる。そのようなアクチンの重合または脱重合は、アクチンへの作用を見ることによって、観察することができ、任意の物質について、そのような作用を検定することが可能である。本発明の人工組織を生産する際に、所望の厚さを達成するために、そのように検定されて同定された物質を用いてもよいことが理解される。例えば、本発明において、所望の厚さの調整は、アクチン脱重合促進因子とアクチン重合促進因子との比率を調節することによって達成される。
【0230】
(治療用途複合組織の製造キット)
1つの局面において、本発明は、骨軟骨欠損に関連する疾患、障害または状態を治療または予防するためのキットであって、本発明の誘導型三次元人工組織と人工骨とを備えるキットを提供する。誘導型三次元人工組織および人工骨としては、(誘導型三次元人工組織)、(誘導型三次元人工組織と人工骨との複合組織)(三次元人工組織の生産)に記載されている任意の形態を用いることができることが理解される。骨軟骨欠損に関連する疾患、障害または状態および治療または予防についても、(誘導型三次元人工組織と人工骨との複合組織)に記載されている任意の形態を用いることができることが理解される。
【0231】
別の局面では、本発明のキットは、誘導型三次元人工組織自体の代わりに、多能性幹細胞等から誘導型三次元人工組織を生産するための細胞培養組成物を含んでいてもよい。すなわち、本発明は、骨軟骨欠損に関連する疾患、障害または状態を治療または予防するためのキットであって、誘導型三次元人工組織の生産のための細胞培養組成物と人工骨とを備えるキット。細胞培養組成物を用いて三次元人工組織を作製し、これに人工骨を接着させることが本発明のキットにより実施することができるからである。この細胞培養組成物は、細胞を維持または増殖させるための成分(例えば、市販される培地など);および細胞外マトリクス産生促進因子を含む。このような細胞外マトリクス産生促進因子に関する説明は、上述の生産法において詳述した。従って、この細胞外マトリクス産生促進因子は、アスコルビン酸またはその誘導体(例えば、TGF−β1、TGF−β3、アスコルビン酸1リン酸またはその塩、アスコルビン酸2リン酸またはその塩、L−アスコルビン酸またはその塩など)を含む。ここで、本発明の培養組成物において含まれるアスコルビン酸2リン酸またはその塩は、少なくとも0.1mMで存在するか、あるいは濃縮培養組成物の場合は、調製時に少なくとも0.1mMとなるように含まれている。あるいは、アスコルビン酸類は、0.1mM以上であれば、ほとんど効果は変わらないようである。0.1mMであれば十分であるといえる。TGF−β1、TGF−β3であれば、1ng/ml以上、代表的には、10ng/mlの量が十分であり得る。本発明は、このような細胞外マトリクス産生促進因子を備える、誘導型三次元人工組織生産のための組成物を提供し得る。そして、このような組成物に加えて、低酸素条件で培養することができる装置を提供してもよい。
【0232】
本発明で使用される細胞培養組成物に用いられる細胞外マトリクス産生促進因子は、アスコルビン酸2リン酸を含む(Hata R, Senoo H.J Cell Physiol. 1989; 138(1):8−16参照)。本発明では、アスコルビン酸2リン酸を一定量以上加えることによって、細胞外マトリクスの生産が促進され、その結果、得られる人工組織または複合体が硬化され、剥離しやすくなる。この後、剥離の刺激を与えることによって自己収縮が行われる。しかも、このようなアスコルビン酸を加えて培養した後、組織が硬化し、剥離しやすくなる性質を獲得することは、Hataらの報告には記載されていない。理論に束縛されないが、一つの顕著な相違点として、Hataらは、使用した細胞密度が顕著に異なるという点にある。また、Hataらは、硬化効果を示唆すらしておらず、このような硬化および収縮効果、および剥離しやすくなるという効果に関していうと、本発明のキットによって生産される人工組織は、従来製造されてきたものとは硬化、収縮、剥離などの手順を経て生産されている点で、少なくとも全く異なるものであるということができる。
【0233】
好ましい実施形態では、本発明のキットにおいて使用されるアスコルビン酸2リン酸は、通常少なくとも0.01mM約1mmで存在し、好ましくは少なくとも0.05mMで存在し、さらに好ましくは少なくとも0.1mMで存在する。より好ましくは少なくとも0.2mMの濃度で、さらに好ましくは少なくとも0.5mMの濃度で存在することが好ましい。さらに好ましくは最低限度の濃度は、1.0mMであり得る。
【0234】
細胞密度については、特に限定されないが、1つの実施形態において、細胞は、1cm
2あたり、5×10
4細胞〜5×10
6細胞で配置される。この条件は、例えば、筋芽細胞に適用され得る。この場合、細胞外マトリクス産生促進因子は、アスコルビン酸類として、少なくとも0.1mM提供されることが好ましい。厚い人工組織が作成可能であるからである。この場合、濃度を増やすと、細胞外マトリクスで密な人工組織が形成される。少ない場合は、細胞外マトリクス量が減少するが、自己支持性は保たれる。
【0235】
(軟骨・骨軟骨等再生用途)
別の局面において、本発明は、誘導型三次元人工組織と人工骨とを含む、軟骨を再生するための複合組織を提供する。誘導型三次元人工組織および人工骨としては、(誘導型三次元人工組織)、(誘導型三次元人工組織と人工骨との複合組織)(三次元人工組織の生産)に記載されている任意の形態を用いることができることが理解される。軟骨の再生についても、必要に応じて、(誘導型三次元人工組織と人工骨との複合組織)に記載されている任意の形態を用いることができることが理解される。
【0236】
軟骨の再生については、人工組織単独で有効に治療可能という点が、従来の治療法では達成できなかった格別の効果であるといえる。
【0237】
別の局面において、本発明は、誘導型三次元人工組織と人工骨とを含む、骨軟骨系を再生するための複合組織を提供する。誘導型三次元人工組織および人工骨としては、(誘導型三次元人工組織)、(誘導型三次元人工組織と人工骨との複合組織)(三次元人工組織の生産)に記載されている任意の形態を用いることができることが理解される。骨軟骨系の再生についても、必要に応じて、(誘導型三次元人工組織と人工骨との複合組織)に記載されている任意の形態を用いることができることが理解される。
【0238】
骨軟骨系の再生については、複合体の移植が人工組織単独に比して優れることが顕著な点としてあげることができる。また、骨軟骨の境界面より少し下がったところまでに人工骨をとどめることが好ましい。理論に束縛されることを望まないが、なぜなら、このようなサイズのものを用いることによって、人工骨表面と骨軟骨の境界面の間の空間に軟骨下骨の再生が促進され、軟骨部分の生物学的癒合において顕著な治療成績をあげることができることが見出されたからである。
【0239】
別の局面において、本発明は、誘導型三次元人工組織と人工骨とを含む、軟骨下骨を再生するための複合組織を提供する。三次元人工組織および人工骨としては、(誘導型三次元人工組織と人工骨との複合組織)(三次元人工組織の生産)に記載されている任意の形態を用いることができることが理解される。軟骨下骨の再生についても、必要に応じて、(誘導型三次元人工組織と人工骨との複合組織)に記載されている任意の形態を用いることができることが理解される。
【0240】
好ましくは、本発明の軟骨または骨軟骨系の再生において、前記軟骨は、再生後に既存の軟骨と癒合することが特徴である。従来の人工骨のみの治療では、再生後に軟骨との癒合は生じておらず、実質的には異なる組織片(骨片または軟骨片)の集合という形態で再生していたことから、本発明は、欠損前の状態に実質的に回復可能な再生を行なうことができるという点で顕著である。そして、骨化を抑制することができ、再生が早期になされたという点も顕著な効果である。
【0241】
軟骨下骨の再生について関していうと、人工骨移植により、その直上で軟骨下骨が効率よく形成され、それに引き続き人工組織内の未分化な細胞の軟骨分化が促進されることにも留意されるべきである。理論に束縛されることを望まないが、軟骨化骨の形成と人工組織内の軟骨組織形成の程度は有意に相関することが知られることから、この点は重要な点の一つである。
【0242】
(複合組織を用いた治療法)
別の局面において、本発明は、骨軟骨欠損に関連する疾患、障害または状態に関して治療または予防するための方法を提供する。この方法は、A)本発明の複合組織を、該欠損を置換するようにおよび/または被覆するように配置する工程;およびB)該人工組織または複合体と該部分とが生物学的に結合するに十分な時間保持する工程、を包含する。本発明で用いられる「複合組織」は、本明細書における(誘導型三次元人工組織と人工骨との複合組織)(三次元人工組織の生産)等において記載される任意の形態を利用することができることが理解される。また、骨軟骨欠損に関連する疾患、障害または状態についても、本明細書における(誘導型三次元人工組織と人工骨との複合組織)等において記載される任意の形態を利用することができることが理解される。ここで、ある部分を置換するように配置するとは、代表的には、罹患部を必要に応じて掻爬(debridement、curetage)し、罹患部に本発明の複合組織を配置して、置換が促進されるように静置することをいう。このような置換は、細胞の充填を目的としており、当該分野において公知の技術を組み合わせて用いることができる。ここで、ある部分を被覆するように配置することは、当該分野において周知技術を用いて行うことができる。ここで、十分な時間は、その部分と人工組織との組み合わせによって変動するが、当業者であれば、その組み合わせに応じて適宜容易に決定することができる。このような時間としては、例えば、術後1週間、2週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、1年などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明では、人工組織は、好ましくは実質的に細胞およびそれに由来する物質のみを含むことから、特に術後に摘出する物質が必要であるというわけではないので、この十分な時間の下限は特に重要ではない。従って、この場合、長ければ長いほど好ましいといえるが、実質的には極端に長い場合は、実質的に補強が完了したといえ、特に限定する必要はない。本発明の人工組織はまた、自己支持性を有することから、ハンドリングが楽で、実際の処置時に破壊されず、手術も容易であるという特徴も有する。
【0243】
あるいは、上記部分は、骨または軟骨を含み得る。そのような例としては、半月、靭帯、腱などを挙げることができるがそれに限定されない。本発明の方法は、骨、軟骨、靭帯、腱または半月の疾患、障害または状態を処置、予防または強化するために利用され得る。
【0244】
別の好ましい実施形態では、本発明の補強方法では、本発明の複合組織において言及される生物学的結合(例えば、細胞外マトリクスの相互結合、電気的結合、細胞間の情報伝達など)を含む。この生物学的結合は、三次元方向すべてにおいて有されていることが好ましい。
【0245】
別の好ましい実施形態において、本発明の方法は、細胞外マトリクス産生促進因子の存在下で細胞を培養して本発明の複合組織を形成する工程をさらに包含する。このような細胞外マトリクス産生促進因子の存在下での培養を包含する方法の移植・再生技術は、従来提供されていなかった方法であり、このような方法によって、従来治療が不可能とされていた疾患(例えば、軟骨損傷、難治性骨折など)を治療することができるようになった。
【0246】
好ましい実施形態において、本発明の方法において、本発明の複合組織において使用される細胞は、移植が意図される動物に由来する細胞(すなわち、自己細胞)である。特に本発明の誘導型三次元人工組織では、自己細胞を十分に使用することができることから、免疫拒絶反応などの有害な副作用を回避することができる。
【0247】
本発明の治療方法が対象とするものは、例えば、軟骨全層損傷;軟骨部分損傷;骨軟骨損傷;骨壊死;変形性関節症;半月損傷;靭帯修復(陳旧性、変性断裂、再建手術の際の生物学的補強など)腱(アキレス腱を含む)修復(陳旧性、変性断裂、再建手術の際の生物学的補強など);腱板修復(特に、陳旧性、変性断裂など);骨折遷延治癒;偽関節;人工関節等生体内移植物と骨との癒合不全、骨格筋修復・再生などを行うことができる。
【0248】
一部の臓器について、特定の疾患、障害および状態は、骨軟骨欠損に起因する疾患等について、その治療について根本的な治療が困難といわれるものがある。しかし、本発明の上述のような効果によって、従来では不可能とされていた処置が可能となり、根本的な治療にも応用することができることが明らかとなった。したがって、本発明は、従来の医薬で達成不可能であった有用性を有するといえる。
【0249】
本発明の方法による状態の改善は、処置されるべき部分の機能に応じて判定することができる。例えば、骨の場合、その強度を測定したり、MRIにより骨髄および/または骨質の評価を行うことによって状態の改善を判定することができる。軟骨・半月であれば、関節鏡検査により関節表面を観察することができる。さらに、関節鏡視下にて生体力学検査を行うことによって状態の改善を判定することができる。また、MRIによって修復状態を確認することによって状態の改善を判定することも可能である。靭帯に関しては、関節制動性検査により動揺性が存在するかどうかを確認することによって判定することができる。また、MRIによって組織の連続性を確認することによって状態の改善を判定することができる。いずれの組織の場合も、組織生検を行い組織学的評価を行うことによって状態が改善したかどうかを確認することができる。
【0250】
好ましい実施形態において、この処置は、骨、軟骨、靭帯、腱または半月の疾患、障害または状態を処置、予防または強化するものである。好ましくは、この複合組織は、自己支持性を有する。これらの複合組織としては、当業者は、本明細書において、上述した任意の形態およびその改変体を用いることができる。
【0251】
(併用療法)
別の局面において、本発明は、BMP(例えば、BMP−2、BMP−4、BMP−7など)、TGF−β1、TGF−β3、HGF、FGF、IGFなどのようなサイトカインと本発明の複合組織とを併用することによる再生療法を提供する。使用される複合組織等は本明細書中(誘導型三次元人工組織と人工骨との複合組織)の節等に記載される任意の形態を利用することができることが理解される。
【0252】
本発明で使用されるサイトカインは、いくつかすでに市販されているが(例えば、BMP(アステラス製薬)、bFGF2(科研製薬)、TGF−β1(研究用としてR&D)、IGF(アステラス薬品)、HGF−101(東洋紡(株))等)、医薬として使用できる程度に精製されたものであれば、種々の方法で調製されたものを用いることができる。あるサイトカインを産生する初代培養細胞や株化細胞を培養し、培養上清等から分離、精製して該あるサイトカインを得ることもできる。或いは、遺伝子工学的手法によりそのサイトカインをコードする遺伝子を適切なベクターに組み込み、これを適当な宿主に挿入して挿入して形質転換し、こ の形質転換体の培養上清から目的とする組み換えサイトカインを得ることができる(例えば、Nature、342、440(1989)、特開平5−111383号公報、Biochem−Biophys.Res.Commun.、,163;967(1989)等を参照)。上記の宿主細胞は特に限定されず、従来から遺伝子工学的手法で用いられている各種の宿主細胞、例えば大腸菌、酵母または動物細胞などを用いることができる。このようにして得られたサイトカインは、天然型サイトカインと実質的に同じ作用を有する限り、そのアミノ酸配列中の1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失および/または付加されていてもよい。患者への導入方法としては、例えば、本発明においてサイトカインの導入方法として、安全かつ効率の良い遺伝子導入法であるセンダイ・ウイルス(HVJ)リポソーム法(Molecular Medicine、30、1440−1448(1993)、実験医学、12、1822一1826(1994))、電気的遺伝子導入法、ショットガン方式遺伝子導入法、超音波を用いる遺伝子導入法等があげられる。別の好ましい実施形態では、上記サイトカインは、タンパク質形態として投与されることができる。
【0253】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、実施例のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0254】
本実施例において、本研究における全ての手順は、ヘルシンキ宣言に従った。また、適用される場合、動物の取り扱いは、大阪大学において規定される基準を遵守して実験を行った。
【0255】
(製造例1:滑膜細胞を用いた三次元人工組織の作製)
本例では、対照例として使用した種々の滑膜細胞を用いて三次元人工組織を作製した。以下に説明する。
【0256】
<細胞の準備>
ブタ(LWD三元交配種、細胞採取時には2〜3月齢のものを使用)膝関節より滑膜細胞を採取し、コラゲナーゼ処理後、10%ウシ胎児血清+High Glucose−DMEM培地(ウシ胎児血清はHyCloneから入手可能、DMEMはGIBCOから入手したものを使用)にて培養および継代を行った。継代数について、滑膜細胞においては10継代にても多分化能を有するという報告もあることから、本製造例においては最大10継代まで使用したが、用途に応じてそれ以上の継代細胞も用いることが理解される。実際に人体に移植する場合には自家移植であるが、十分な細胞数の確保しつつ、感染等の危険性を軽減するために培養期間の短縮する必要がある。
【0257】
これらを考慮して、種々の継代細胞を用いた。実際に行った細胞は、初代培養細胞、1継代、2継代、3継代、4継代、5継代、6継代、8継代、10継代のものを実験した。これらを用いて、人工組織を用いた。
【0258】
<人工組織の作製>
35mm皿、60mm皿、100mm皿、150mm皿、500mm皿、6穴培養皿、12穴培養皿、24穴培養皿(BD Biosciences、セルカルチャー皿・マルチウェルセルカルチャープレートの上に4.0x10
5個/mm
2の滑膜細胞を0.1〜0.2ml/cm
2の10%FBS−DMEM培地にまきこんで培養した。その際にアスコルビン酸を添加した。皿、アスコルビン酸および細胞の濃度は、以下のとおりである。・皿:BD Biosciences、細胞培養皿・マルチウェル細胞培養プレート・アスコルビン酸2リン酸:0mM、0.1mM、0.5mM、1mM、2mM、および5mM・細胞数:5×10
4細胞/cm
2、1×10
5細胞/cm
2、2.5×10
5細胞/cm
2、4.0×10
5細胞/cm
2、5×10
5細胞/cm
2、7.5×10
5細胞/cm
2、1×10
6細胞/cm
2、5×10
6細胞/cm
2、および1×10
7細胞/cm
2。
【0259】
予定培養期間まで、2回/週で培地交換を行った。培養期間に達したら、皿周囲を全周性に100μlのピペットマンでピペッティングを行いながら、細胞シートと皿を分離した。分離できたら皿を軽く揺することにより細胞シートを可能な限り平坦にした。その後培地を1ml追加し、細胞シートを完全に浮遊させ、2時間放置することにより細胞シートが収縮をおこし、3次元化することにより人工組織を作製した。
【0260】
(ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色)
細胞における支持体の定着・消長を観察するために、HE染色を行った。その手順は以下のとおりである。必要に応じて脱パラフィン(例えば、純エタノールにて)、水洗を行い、オムニのヘマトキシリンでサンプルを10分浸した。その後流水水洗し、アンモニア水で色出しを30秒間行った。その後、流水水洗を5分行い、塩酸エオジン10倍希釈液で2分間染色し、脱水し、透徹し、封入する。
【0261】
(各種細胞外マトリクス)
1)凍結ストックから、5μm厚の切片を作製する。
2)−20℃で5−10分間にわたり、アセトン中でこの切片を固定する(パラフィンブロックは、パラフィン除去し再水和する必要がある)。
3)内因性ペルオキシド活性は、メタノール中0.3%H
2O
2中で20分間室温でブロックする(1ml 30%H
2O
2+99mlメタノール)。
4)PBSで洗浄する(3×5分)。
5)モノクローナル一次抗体(各種細胞外マトリクスに対するマウスまたはウサギ抗体)(1μl抗体+200μlPBS/スライド)と4℃で湿式チャンバー内で一晩インキュベートする。
6)翌日PBSで洗浄する(3×5分)。
7)抗マウスおよび抗ウサギのno.1ビオチン化結合を、30分−1時間室温で適用する(3滴を直接スライドにたらす)。
8)PBSで洗浄する(3×5分)。
9)ストレプトアビジンHRP no.2を、LSABについてたらし1015分間浸す。
10)PBSで洗浄する(3×5分)。
11)DABをたらす(5ml DAB+5μl H2O2)。
12)茶っぽい色を顕微鏡で観察する。
13)水中に5分ほど浸す。
14)HEを30秒−1分間浸す。
15)数回洗浄する。
16)イオン交換水で1回洗浄する。
17)80%エタノールで1分洗浄する。
18)90%エタノールで1分洗浄する。
19)100%エタノールで1分洗浄する(3回)。
20)キシレンで3回×1分間洗浄する。その後カバースリップをかける。
21)発色を見る。
【0262】
その結果、細胞外マトリックス産生促進因子としてアスコルビン酸2リン酸を添加した場合、細胞の重層化はわずかに認められるのみである。他方、シート状のこの細胞を培養底面より剥離させ自己収縮させることにより、左に示されるように、重層化が進展し三次元化が促進されることが観察された。滑膜細胞を用いた場合でも、孔のない大きな組織が作製された。この組織は、厚みがあり、細胞外マトリクスに富む組織であった。また、アスコルビン酸2リン酸が0mM、0.1mM、1mMおよび5mMの場合の人工組織を観察すると、0.1mM以上添加した場合、細胞外マトリックスの形成が促進したことが分かる。培養日数が、3日、7日、14日および21日の人工組織を観察するち、培養3日ですでに、剥離が可能になる程度に組織が強固になることが分かる。培養日数が増すと、細胞外マトリクス密度は変動し、増加していく。
【0263】
これらが、培養皿底面より剥離し自己収縮をさせた人工組織であった。人工組織はシート状で作製され、皿から剥離した後に放置すると、自己収縮を起こし、三次元化が進む。組織所見により、細胞が幾層にもわたり点在して重層化しているのがわかる。
【0264】
次に細胞外マトリクスを含む種々のマーカーを染色した。
【0265】
細胞外マトリクス染色の結果をみると、種々の細胞外マトリクス(コラーゲンI型、II型、III型、IV型、フィブロネクチン、ビトロネクチンなど)が存在したことがわかる。免疫染色で、コラーゲンIおよびIIIは強く染色されたが、コラーゲンIIの染色は一部に限局していた。強拡でみると、コラーゲンは、核から少し離れた部位で染色されており、細胞外マトリックスであることが確認できる。一方、細胞接着因子として重要とされているフィブロネクチン、ビトロネクチンは、強拡でみると、コラーゲンとは異なり、核に密接する領域にも染色されており、細胞周囲にも存在することが確認できる。
【0266】
また、人工組織の作製には、3〜8継代が好ましいようであるが、どのような継代でも使用可能なようである。
【0267】
対比例として、正常組織およびコラーゲンスポンジ(CMI,Amgen、USA)での染色例を示す。正常組織(正常滑膜組織、腱組織、軟骨組織、皮膚および半月組織)および対比例として用いた市販のコラーゲンスポンジの染色例を比較すると、従来の人工組織は、フィブロネクチンおよびビトロネクチンでは染色されない。このことから、この人工組織は、コラーゲンスポンジの人工組織とは異なり、また、既存のコラーゲンスキャフォールドでは、フィブロネクチンおよびビトロネクチンの接着因子は含まれておらず、その意味でも、本発明の組織の独創性が明らかになる。どの細胞外マトリクスでも染色されない。正常組織と本製造例の人工組織とを比べると、人工組織の癒合の様子が自然に近いことが確認される。
【0268】
なお、この人工組織は、水分除去のための濾紙に接触させたところ、濾紙に接着し、手で剥離することが困難であった。
【0269】
さらに、コラーゲンの濃度を見るために、コラーゲン含有量測定を行った。その結果、ヒドロキシプロリンの量から、0.1mM以上のアスコルビン酸2リン酸を加えたときに、コラーゲンの生産が有意に促進されることが明らかになった。産生量は、培養期間にほぼ比例していた。
【0270】
(製造例2:脂肪由来組織の細胞を用いて三次元人工組織の作製)
次に、脂肪組織由来の細胞を用いて人工組織を作製した。
【0271】
A)細胞は、以下のようにして採取した。
1)膝関節の脂肪パッド(fatーpad)より検体を採取した。
2)この検体をPBSを用いて洗浄した。
3)この検体をできるだけ細かく鋏で切り刻んだ。
4)コラゲナーゼ(0.1%)10mlを加え、37℃水浴にて1時間振盪した。
【0272】
5)DMEM(10%FBS補充)を同量加えて、70μlのフィルター(Milliporeなどから入手可能)に通した。
【0273】
6)フィルターを通った細胞およびフィルターに残った残渣を10% FBSを補充したDMEM5mlに入れて25cm
2フラスコ(Falconなどから入手可能)において培養した。
【0274】
7)フラスコの底面に張り付いた細胞(間葉系幹細胞を含む)を取り出して以下の人工組織作製に供した。
【0275】
B)人工組織の作製法
次に、この脂肪由来の細胞を用いて人工組織を作製した。アスコルビン酸2リン酸は、0mM(なし)、0.1mM、0.5mM、1.0mM、5.0mMの条件を用いた。作製は、上記滑膜細胞を作製した方法(製造例1に記載される)に準じて行った。初期の播種条件としては、5×10
4細胞/cm
2を用いた。培養日数は14日間を採用した。脂肪組織由来の細胞からも人工組織は作成され、滑膜細胞由来人工組織と同様にフィブロネクチンおよびビトロネクチンが豊富に存在していた。またコラーゲンI,IIIについても同様豊富に発現していた。
【0276】
アスコルビン酸2リン酸 0mM:接線係数(ヤング率)0.28
アスコルビン酸2リン酸 1.0mM:接線係数(ヤング率)1.33。
【0277】
C)移植実験
次に、この人工組織を用いて以下の実施例に記載される複合組織を生産することができる。その結果、脂肪細胞が、滑膜細胞由来の三次元人工組織でできた複合組織と同様に、修復機能を有することがわかる。
【0278】
D)脂肪からの人工組織の骨軟骨への分化誘導
本実施例で作製した骨または軟骨の人工組織を、軟骨または骨に分化誘導させたることができる。人工組織は骨分化誘導培地にてアルザリンレッド陽性反応を呈することを確認することによって、骨分化が確認された。軟骨分化誘導実験で人工組織は軟骨分化誘導培地+BMP-2の刺激によりアルシアンブルー陽性の軟骨様組織へと分化することが確認された。脂肪由来人工組織も滑膜細胞由来人工組織と同様に骨・軟骨への分化能を保持していることは確認されている(特許4522994号参照)。
【0279】
(製造例3:ヒト滑膜細胞での製造例)
次に、半月板損傷患者からの滑膜細胞採取、さらに人工組織の作製が可能であるかどうかを実証する。
【0280】
(滑膜細胞の採取)
ヒト患者であって、画像により軟骨損傷または半月板損傷と診断された患者の精査として、腰椎麻酔または全身麻酔下において、関節鏡検査を施行する。その際に、数十mg滑膜を採取する。採取した滑膜を50mlの遠心管(Falcon社製)に移し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて洗浄し、その後、10cm径の培養皿(Falcon社製)に移し、滅菌した鋏刀を用いて細かく切断する。切断物を、さらに、0.1%コラゲナーゼ(Sigma社製)10mlを加えて、37℃恒温槽中で1時間30分振盪する。溶解液に予め採取しておいた自己血清またはウシ血清(FBS)を含む培地(DMEM、Gibco社製)を10ml加えて、コラゲナーゼを不活化し、1500rpmで5分間遠心分離し、細胞を沈降させる。その後、血清入り培地5mlを再度加え、70μlフィルター(Falcon社製)に通し、25cm
2フラスコ(Falcon社製)に移して37℃に保温したCO
2インキュベータ内において培養する。
【0281】
(滑膜細胞の継代培養)
初期培養において、1週間に2回培地交換を行い、コンフルエントの状態になれば、細胞継代を行う。初期継代として、培地を吸引した後、PBSを用いて洗浄し、トリプシン−EDTA(0.25% Trypsin−EDTA(1X),カタログ番号:25200−056 100 mL(1本)あるいは25200−114 20x100 mL、Gibco社製)を加えて、5分間放置する。その後、血清入り培地を加え、溶解物を50ml遠心分離管(Falcon社製)に移し、1500rpm×5分間遠心分離後、沈澱に血清入り培地15mlを加え、150cm
2培養皿(Falcon社製)に細胞を播く。以後の継代は、1:3の細胞比となるよう継代を施行し、4〜5継代となるまで同様の操作を行う。
【0282】
(人工組織の作製)
4〜5継代の滑膜細胞をトリプシン・EDTAによって処理し、滑膜細胞4.0×10
6個を0.2mMアスコルビン酸2リン酸含有血清入り培地2mlに溶解し、35ml培養皿(Falcon社製)にて37℃に保温したCO
2インキュベータにて7日間培養する。これにより、培養細胞−細胞外マトリクス複合体が形成される。この複合体は、移植手術予定の2時間以上前に周囲をピペッティングすることによって機械的に培養皿から剥離させる。剥離後は、培養細胞−細胞外マトリクス複合体は拘縮し、直径約15mm、厚さ約0.1mmの三次元組織となる。
【0283】
(製造例4:ヒト脂肪細胞からの人工組織の作製)
局所麻酔により、ヒト患者の採取予定部(例えば、膝関節周囲)に小切開を加え、脂肪細胞数十mgを採取する。採取した脂肪細胞は、上記製造例、たとえば滑膜細胞と同様の処理を行うことによって、三次元の人工組織を作製することができる。
【0284】
(製造例5:滑膜MSCでの三次元人工組織(TEC)の作製)
(滑膜組織の採取と細胞の単離)
全ての動物実験は、大阪大学医学部動物実験施設による承認を得た。ウサギの滑膜を、死後12時間以内に骨格が成熟した(24週齢)ウサギの膝関節から無菌的に採取した。細胞単離のプロトコールは、ヒト滑膜由来のMSCの単離について以前に報告したものと本質的に同じである[Ando W,Tateishi K,Katakai D,Hart DA,Higuchi C,Nakata K,et al.,Tissue Eng Part A 2008;14:2041−2049]。簡単に述べると、滑膜標本をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)でリンスし、細かく切り刻み、そして、37℃にて2時間、0.4%コラゲナーゼXI(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO,USA)で処理した。10%胎仔ウシ血清(FBS;HyClone,Logan,UT,USA)と1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco BRL,Life Technologies Inc.,Carlsbad,CA,USA)を添加した高グルコースダルベッコ改変イーグル培地(HG−DMEM;Wako,Osaka,Japan)を含有する増殖培地でコラゲナーゼを中和した後、遠心分離により細胞を回収し、PBSで洗浄し、増殖培地中に再懸濁し、そして、培養皿にプレートした。ウサギ間葉系幹細胞の特性は、形態、増殖特性および(骨系統、軟骨系統および脂肪系統への)多能性分化能の点で、ヒト滑膜由来MSCと同様であった[Ando W, Tateishi K, Katakai D, Hart DA, Higuchi C, Nakata K, et al., Tissue Eng Part A 2008; 14:2041-2049; Tateishi K, Higuchi C, Ando W, Nakata K, Hashimoto J, Hart DA, et al., Osteoarthritis Cartilage 2007;15:709-718]。細胞増殖のために、これらの細胞を、5% CO
2の加湿雰囲気下、37℃にて、増殖培地中で増殖させた。培地は、週に1回交換した。初代培養の7〜10日後、細胞がコンフルエンスに達すると、これらを、PBSで2回洗浄し、トリプシン−EDTA(0.25%トリプシンおよび1mM EDTA:Gibco BRL,Life Technologies Inc.,Carlsbad,CA,USA)を用いた処理によって回収し、そして、細胞濃度が1:3となるよう希釈して再度プレーティングした。培養細胞がほぼコンフルエンスに達すると、同様に1:3希釈して、細胞の継代を継続した。本願では継代3〜7回の細胞を使用した。
【0285】
(体性三次元人工組織(TEC)の作製)
滑膜MSCを、以前の研究からの最適濃度である、0.2mMのアスコルベート−2−リン酸(Asc−2P)を含有する増殖培地中4.0×10
5細胞/cm
2の密度にて、6ウェルプレート(9.6cm
2)上にプレートした[Ando W, Tateishi K, Katakai D, Hart DA, Higuchi C, Nakata K, et al., Tissue Eng Part A 2008;14:2041-2049;Ando W, Tateishi K, Hart DA, Katakai D, Tanaka Y, Nakata K,et al., Biomaterials 2007;28:5462-5470; Shimomura K, Ando W, Tateishi K, Nansai R, Fujie H,Hart DA, et al., Biomaterials 2010;31:8004-8011]。1日以内に細胞はコンフルエントになった。さらに7〜14日間培養を継続した後、培養細胞とこれらの細胞によって合成されたECMとの複合体を、軽いピペッティングを用いてせん断応力を加えることによって、下層から剥離させた。この剥離した単層の複合体を懸濁液中に維持させ、自己組織収縮によって三次元構造を形成させた。この組織を、スキャフォールド非依存性(スキャフォールドフリーとも呼ぶ)体性(天然型ともいう)三次元人工組織(TEC)と呼んだ。
【0286】
(製造例6:体性三次元人工組織および人工骨から成る複合組織(ハイブリッド移植片)の作製
相互連結した多孔構造をもつ合成HA[直径5mm、高さ4mm(NEOBONE(登録商標);MMT Co.Ltd.,Osaka,Japan)]を人工骨として使用した。TECを、移植手術の直前に培養皿から剥離し、そして、接着剤を用いることなく、人工骨に結合させて、骨軟骨ハイブリッド(複合組織)を作製した。TECは一度人工骨に結合すると、この結合は、強固に結合するため分離するのが困難となる。
【0287】
(移植実施例:骨軟骨欠損へのハイブリッド移植片(複合組織)の移植)
移植は以下のように行った。
【0288】
骨格が成熟したニュージーランド白ウサギ(24週齢以上)を、ケージ内に維持し、自由に食餌および水を与えた。ウサギに、1mlのペントバルビタール[50mg/ml(ネンブタール(登録商標);Dainippon Pharmaceutical Co.Ltd.,Osaka,Japan)]の静脈内注射および1mlのキシラジン塩酸塩[25mg/ml(Seractal(登録商標);Bayer,Germany)]により麻酔をかけた。剃毛、消毒を行い、滅菌した布で覆った後、右膝に、真っ直ぐな3cm長の内側傍膝蓋骨切開を作製し、膝蓋骨を外方に動かし、そして、大腿骨窩部を露出させた。右遠位大腿の大腿骨窩部に直径5mm、深さ6mmの全厚関節骨軟骨欠損を機械的に作製した。TECおよび人工骨のハイブリッド形成は、移植の直前に行い、そして、二相性の移植片を、ウサギの右膝の欠損内に移植した(TEC群)。対照群では、ウサギの右膝の欠損に人工骨のみを移植した。動物は全て7日間右下肢をギプス固定した。その後、外科手術から1ヶ月後、2ヶ月後および6ヶ月後あるいは別の適切な期間後に麻酔下で安楽死させた。移植部位を固定して、後のパラフィン切片作製および組織学的解析のために使用した。他の移植部位を、生体力学的試験に供した。本発明者らはまた、生体力学的試験のために未処置の正常対照として未処置のウサギの左膝を準備した。
【0289】
(修復された組織の組織学的評価)
組織学的評価のために、組織を10%中性緩衝化ホルマリンで固定し、K−CX(Falma,Tokyo,Japan)で脱灰し、パラフィン中に包埋して、4mmの切片を作製した。切片をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)およびトルイジンブルーで染色した。
【0290】
1ヶ月、2ヶ月および6ヶ月あるいは別の期間後の時点で、軟骨および軟骨下骨部分についての修復後組織の組織学を、改良型「O’Driscollスコア」によって評価した[O’Driscoll SW, Keeley FW, Salter RB.、J Bone Joint Surg Am 1988;70:595-606; Mrosek EH, Schagemann JC, Chung HW, Fitzsimmons JS, Yaszemski MJ, Mardones RM, et al., J Orthop Res 2010;28:141-148;Olivos-Meza A, Fitzsimmons JS, Casper ME, Chen Q, An KN, Ruesink TJ, et al., Osteoarthritis Cartilage 2010;18:1183-1191]。改良型では、基準分類「トルイジンブルー染色」を「サフラニンO染色」に変更した。さらに、軟骨下骨の修復については、新たな基準分類「細胞の形態」および「軟骨下骨の露出」を設けた。「細胞の形態」について、正常な軟骨下修復はスコア2、軟骨様組織が混じって修復された組織はスコア1、そして、線維性組織が混じって修復された組織はスコア0である。「軟骨下骨の露出」については、軟骨下骨の露出なしがスコア2、修復された組織と隣接する軟骨との間の境界の片側における軟骨下骨の露出がスコア1、そして、両側における軟骨下骨の露出がスコア0である。修復組織を2mm幅ごとに3つの部分に分割した。これらは、中央領域および両境界領域とした。これらの各々の領域を、改良型O’Driscollスコアで評価した。これらの3つのスコアを平均したものを「総合評価」とした。さらに、中央領域のスコアを「中央領域」として評価し、両境界領域の平均スコアを「境界領域」として評価した。基準分類「隣接軟骨への結合」「隣接軟骨の変性からの事由」,「軟骨下骨の露出」については、「総合評価」のみで評価した。
【0291】
軟骨下骨および軟骨の修復の程度を定量するために、1ヶ月、2ヶ月および6ヶ月の時点で、修復された組織の骨および軟骨形成率を計算した。骨の形成率に関して、修復された骨組織の長さを、人工骨の長さで割り、結果はパーセンテージとして表した。軟骨の形成率も同じ方法で計算した。さらに、骨形成率と軟骨形成率の間の相関を計算した。
【0292】
(生化学試験)
直径4mm、深さ5mmの円柱形状の標本を、TEC群および対照群の移植部位から摘出した。同様に、未処置の正常膝の大腿骨顆間中央部からも円柱形状の標本を摘出した。AFM(Nanoscope IIIa,Veeco Instruments,Santa Barbara,CA,USA)およびシリコンプローブ(ばね定数:0.06N/m,DNP−S,Veeco Instruments,Santa Barbara,CA,USA)を用いた。各標本をAFMのサンプルステージにマウントし、室温にて生理食塩水溶液中に浸し、これらの標本に対して微小圧縮試験を実施した。さらに30μm×30μmのスキャン領域において接触モードで標本の表面像を取得した後、5.12μm/秒の押込速度にて、標本に対して0.3Hzのスキャン速度の微小圧縮試験をおこなった。
【0293】
(統計的解析)
統計的解析は、分散分析(ANOVA)で行い、その後、組織学スコア総合の術後変化および生体工学試験について、事後比較検定を行った)。参照群とTEC群との間の他の実験パラメータの比較は、Mann−Whitney U検定により分析した。骨および軟骨の形成の相関は、Spearman順位相関係数により計算した。結果は、平均±SD(標準偏差)で表す。データは、JMP9(SAS Institute, Cary, NC, USA)で分析した。統計学的有意はp<0.05で設定して判断した。
【0294】
(結果)
(体性TECの人工骨との複合組織(ハイブリッド)形成)
体性TECは人工骨ブロック上に直ちに結合して、外科的移植に十分な強度を持つ複合体を生じた。
【0295】
(実施例1:胚性幹細胞(ES細胞)からES細胞由来MSCsへの誘導)
ES細胞のコロニーをCTKcolony−dissociation solution (0.25%トリプシン、0.1%コラゲナーゼIV,20%KSR,および1mMCaCl
2、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS))で回収し、ES細胞培養培地(例えば、以下のウサギESC培地)で洗浄し、10%FBS入りDMEM(Invitrogen)で、100コロニー/mlの比率で浮遊培養を4日間行った。その後、形成された胚様体(EB)をゼラチンコーティングされた培養皿に付着させ、基礎培地(基礎培地は粉末状αMEM(Invitrogen, GIBCO Cat#11900−024, lot#755272)を 5g、炭酸水素ナトリウム1.1gを蒸留水500mlで溶解した後、1%Antibiotic−Antimycotic,100x(Invitrogen,15240) と10%FBS(lot #FTM33793,Hyclone,Thermo Scientific)をそれぞれ添加する。)で極低酸素分圧(1%O2, 5%CO2)条件の下、6日間培養した。窒素で調節し培養条件は大気圧とした。これら培養はマルチガスインキュベーター(MCO−5M, SANYO Electric Co. Ltd., Osaka, Japan)内で行った。付着した細胞(EB由来細胞)をトリプシン(Invitrogen)処理し洗浄し、基礎培地で再懸濁し、さらに3日間、極低酸素分圧(1%O
2,5%CO
2)条件で培養した。増殖した細胞を再度トリプシン処理し、限外希釈ののち、同条件で10日程度培養した。ガラスピペットを用いて単一コロニーを回収し、ES−MSCsクローンとした。
【0296】
以下にその詳細を示す。
【0297】
動物の使用および飼育
動物の使用は、大阪大学(または他の大学)に規定される倫理規定に準じた。各ウサギを個別の檻に収容し、食餌および水を自由に与えた。動物を、人工的に管理された14時間:10時間の明暗周期に曝した。温度は、換気された室内で20〜25℃に維持した。全ての処置は、45mg/kgのペントバルビタールナトリウムの静脈内注射と、エピネフリンを伴った2%キシロカインの局所注射により誘導した麻酔下で実施した。
【0298】
ウサギ胚性幹細胞の分化および培養
ダッチベルテッド種の雌ウサギ(北山ラベス株式会社、長野)に、妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG;大日本住友製薬、大阪)とヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG;大日本住友製薬)を腹腔内注射することによって過排卵させ、次いで、ダッチベルテッド種の雄と交配させた。交配から2日後、受精した4細胞〜8細胞期の胚を卵管から流し出して回収し、次いで、拡大した胚盤胞期までインビトロで培養した。
【0299】
ESCの分化のために、胚盤胞をマイトマイシン−C処理した(培地中10μg/mlで90分間;Invitrogen Corporation,Carlsbad CA,USA)マウス胚性線維芽細胞(MEF)フィーダー細胞上に移して、20% ノックアウト血清代替物(KSR;Invitrogen)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)/F12(Invitrogen)、2mM L−グルタミン(和光純薬工業株式会社(Wako)、東京)、1% 非必須アミノ酸(Invitrogen)、0.1mM β−メルカプトエタノール(Invitrogen)および8ng/ml ヒト組換え塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;Wako)を含むウサギESC培地(rESM)中で10日間培養した。これらのrESCを、以前に報告されたとおりに(Suemori,H.ら、Biochem.Biophys.Res.Commun.,2006,345:926-932)、CTKコロニー解離溶液(PBS中0.25% トリプシン、0.1% コラゲナーゼIV、20% KSRおよび1mM CaCl
2)を用いて継代した。これらの細胞の多重分化能を、インビトロおよびインビボの両方で検討した。インビトロ分化については、rESCコロニーを、CTK溶液で回収し、新しいrESMで1回洗浄し、次いで、10%胎仔ウシ血清(FCS)を補充したDMEM(Invitrogen)中に移して、懸濁培養を行った。懸濁培養開始から6日後に、rESCから形成した胚様体(EB)を回収し、これを再度、ゼラチンコーティングした培養皿にプレートした。EB由来の細胞を、6日間の培養後に、特異的な抗体を用いた免疫蛍光染色によって評価した。
【0300】
rESCの分化能のインビボでの評価については、テラトーマ形成アッセイにより行った。5×10
6個のrESCを含む細胞懸濁物を、重症複合免疫不全(SCID)マウスの大腿部に皮下注射した。細胞注射の時点から8週間後にテラトーマを回収し、ヘマトキシリン・エオシンで染色して、組織学的観察を行った。
【0301】
rESCの多能性に対する阻害剤の効果を観察するために、ESCをマトリゲル(BD Falcon,Bedford,MA,USA)上で継代して、MEF馴化rESM中で培養した。マトリゲル培養開始から24時間後に、8ng/ml bFGF、1,000U/ml 白血病抑制因子(LIF;Millipore Billerica,MA,USA)、1μM Janusキナーゼ(JAK)阻害剤I(Merck,Darmstadt,Germany)、1μM 特異的マイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼ(MEK)/細胞外シグナル調節キナーゼ(Erk)阻害剤PD0325901(Stemgent,Cambridge,MA,USA)または0.5μM 特異的アクチビン様受容体4/5/7(ALK4/5/7)阻害剤A83−01(Stemgent)を培養培地に添加した。48時間後に、培養物を回収し、定量的RT−PCR(qRT−PCR)を用いて、多能性マーカー遺伝子NanogおよびPOU5f1(下垂体特異的オクタマー結合転写因子[OCT] Unc−86ドメインファミリークラス5ホメオボックス1)について分析した。
【0302】
これらの細胞が刺激を受けて生じた多能性を呈したことをさらに実証するために、本発明者らは、rESCを0.25% トリプシン(Invitrogen)および0.04% EDTA(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO,USA)(トリプシン−EDTA)で処理し、解離したrESCをゼラチンコーティングした組織培養皿上に蒔き、10μMのRho結合型コイルドコイル形成キナーゼ(ROCK)阻害剤Y−27632(和光純薬工業)と共に、あるいは、Y−27632無しで、rESM中で24時間培養することによって、単細胞消化アッセイを実施した。次いで、死細胞マーカーであるヨウ化プロピジウム(PI;BD Pharmingen,San Diego,CA,USA)を用いたフローサイトメトリー(蛍光活性化セルソーティング;FACS)によって、そして、アポトーシスを媒介する重要なタンパク質であるカスパーゼ−3についてのウェスタンブロット分析によって細胞死を調べた。qRT−PCRおよびFACS分析では、3回の独立した実験を行った。
【0303】
ウサギ骨髄間葉系幹細胞(rBMMSC)の樹立および培養
コントロールのMSC系統を、ウサギの骨髄組織から樹立した。幹細胞系統の樹立は、以前に公開されたプロトコール(Sekiya,I.ら、Stem Cells2002,20:530-541;Wang,G.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2005,102:186-191)にわずかな改良を加えたものに従って行った。簡単に述べると、骨髄細胞を、大腿骨髄腔および脛骨髄腔をリン酸緩衝化生理食塩水で洗い流し、この流し出した物質を10% FCS−α改変型最小必須培地(αMEM)中10cm皿上にプレーティングすることによって、日本白色種(JW)の雄ウサギ(体重3.0kg)から単離した。プレーティングから3日後、非接着細胞をPBS中に洗い流し、接着細胞をさらに増殖させた。コンフルエントになると、これらの細胞を、トリプシン−EDTAで解離させ、洗浄し、200細胞/35mm皿に希釈し、そして培養した。これらの細胞は、さらなる実験を行う前に、ウェスタンブロット分析によってMSCマーカーであるVimentin、CD29およびCD105について陽性と決定した。樹立したrBMMSCの分化能は、脂肪細胞、骨細胞および軟骨細胞への誘導性分化によって確立された場合、標準的なMSCと匹敵していた(データ示さず)。
【0304】
未分化rESCの低酸素処理
ウサギESCを、正常酸素圧(20% O
2+5% CO
2)の培養条件下で24時間、MEF馴化rESM培地中のマトリゲル(BD Falcon)上で培養し、次いでこれを、20% O
2+5% CO
2、5% O
2+5% CO
2または1% O
2+5% CO
2のいずれかに移して24時間置いた。低酸素雰囲気は窒素によってバランスを保った。全ての条件は、マルチガスインキュベーターMCO−5M(三洋電機株式会社、大阪)によって制御した。実際のO
2濃度は、培養期間の全体にわたって、ペーパレスレコーダDXAdvanced DX1000(横河電機株式会社、東京)によって監視した(データ示さず)。
【0305】
定量的RT−PCR(qRT−PCR)分析
TRIzol試薬(Invitrogen)を用いて総RNAを抽出し、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)を用いて逆転写を行った。総cDNAを用いたqRT−PCRは、Thermal Cycler Dice(登録商標)Real Time System(タカラバイオ株式会社、滋賀)にて、95℃で10秒間、次いで、95℃で5秒間、60℃で30秒間の40サイクルで、ウサギ特異的プライマー(表1)と共に、Perfect real−time SYBR green II(タカラバイオ株式会社)を用いて実施した。推定性決定領域Yボックス2(Sox2)、クルッペル様因子4(Klf4)および血小板由来成長因子受容体α(PDGFRα)についてのプライマーを、TA−クローニングおよびBigDyeターミネーター配列決定によって最初に得た配列(データ示さず)において設計した。簡単に述べると、ウサギ推定Sox2、Klf4およびPDGFRαの部分配列を、rESCまたはウサギ骨髄組織由来のマウスおよびヒトの総cDNAにおいて保存された配列について設計されたユニバーサルプライマーと、Platinum Taq PCRx DNAポリメラーゼ(Invitrogen)とを用いて増幅した。次いで、アンプリコンを、pGEM−T easyベクター(Promega Corporation,Madison,WI,USA)内にライゲーションして、E.coli JM109に形質転換し、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN,Valencia,CA,USA)により精製し、そして、Big Dye Terminator v3.1 cycle sequencing ready reaction kit(Applied Biosystems)およびABI3730キャピラリーシーケンサー(Applied Biosystems)を用いて配列決定した。各遺伝子の相対的な発現を定量化するために、Ct(閾値サイクル)値を、内部標準に対して標準化し(ΔCt=Ct
標的−Ct
内部標準)、そして、「ΔΔCt法(ΔΔCt=ΔCt
サンプル−ΔCt
標準物質)」(Dussault,A.A.ら、Biol.Proced.2006,Online8:1-10)を用いて標準物質(コントロール)と比較した。内部標準遺伝子に関して、本発明者らは、低酸素実験中の多能性または間葉系遺伝子発現の評価には28s rRNAを用い、そして、インビトロおよびインビボでの軟骨細胞特異的遺伝子の発現の観察にはグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を用いた。
【0306】
【表1】
【0307】
培養細胞の免疫蛍光
培養物を、Mildform 10N(和光純薬工業)を用いて室温で1時間固定した。固定した細胞をPBSで洗浄し、Block Ace(ブロックエース;大日本住友製薬、大阪)で1時間ブロッキングし、2回以上洗浄し、各一次抗体と共に4℃にて一晩インキュベートした。サンプルを2回洗浄し、次いで、二次抗体(フルオロセイン−イソチオシアネート[FITC]またはテキサスレッドで標識したウサギ、ヤギ、ロバまたはウシのポリクローナル抗体;全て、Santa Cruz Biotechnologyから購入)(表2)と共にインキュベートした。次いで、サンプルをDAPI(PBS中1μg/ml)で対染色し、その後、直接観察した。ネガティブコントロールとして、一次抗体を除いたものを準備した(データ示さず)。
【0308】
【表2】
【0309】
ウェスタンブロット分析
細胞を擦り取って回収し、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)バッファー(30% グリセロール中4% SDS、125mM トリス−グリシン、10% 2−メルカプトエタノール、2% ブロモフェノールブルー)中でホモジナイズし、次いで、SDSの存在下でのポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)(SDS−PAGE)に供し、その後、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)メンブレン(Hybond−P;Amersham Pharmacia Biotech,Buckinghamshire,UK)上に電気転写(electrotransfer)させた。ブロットしたメンブレンを、Block Ace(ブロックエース;大日本住友製薬、大阪)で一晩ブロッキングし、各一次抗体(表2および表3)で4℃にて一晩処理した。検出は、ECL plusウェスタンブロッティング検出システム(Amersham Pharmacia Biotech,Buckinghamshire,UK)と、各一次抗体に対応するホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識化二次抗体(全て、Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA,USAから購入)によって増強した化学発光によって具体化させた。光標識したメンブレンを、CCDベースの化学発光分析装置LAS 4000(富士フイルム株式会社、東京)によって分析した。
【0310】
【表3】
【0311】
細胞周期分析
rESC細胞周期に対する低酸素培養の影響を観察するために、rESC−1細胞系統を、20% O
2+5% CO
2、5% O
2+5% CO
2または1% O
2+5% CO
2の条件下で48時間、MEF馴化rESM中のマトリゲル上で培養した。次いで、トリプシン−EDTAを用いて細胞を単細胞へと解離させ、2% FCSを含有するPBSで2回洗浄し、99.5% 冷エタノール(最終濃度70%)を用いて−20℃にて一晩固定した。固定後、細胞をPBSで1回洗浄し、2% FCSを含有するPBS中に再懸濁し、そして、50U DNaseフリーRNase A(Calbiochem,San Diego,CA,USA)と共に37℃にて30分間インキュベートした。インキュベーションの後、細胞を室温にて15分間PIで染色した。FACS Calibur(BD Biosciences,San Diego,CA,USA)を用いてフローサイトメトリー分析を実施し、また、CELLQUESTソフトウェアを用いて細胞周期分析を実施した。1μg/ml コルセミド(Invitrogen)または1μg/ml ノコダゾール(Sigma)と共に6時間培養したrESCをコントロールサンプルとして用いた。
【0312】
胚様体(EB)形成、接着および分化細胞の低酸素処理
胚様体の懸濁培養は、10% FCS−DMEM中、1mlあたり100コロニーを再懸濁させることによって開始した。15ml遠心管内にEBを沈殿させ、古い培地を吸引して、新しい培地中に再懸濁させることにより、EBを、2日毎に培地交換を行いつつ、懸濁液中に4日間維持した。次いで、EBを、ゼラチンコーティングした皿の上に移し、10% FCS−αMEM中で6日間培養した。接着培養の間、酸素濃度を、20% O
2、5% O
2または1% O
2のいずれかに変えた(ステップ1)。6日間の酸素制御培養の後、EB由来の細胞をトリプシン−EDTAで処理し、1回洗浄し、10% FCS−αMEM中に再懸濁させ、そして、各O
2濃度にてさらに3日間培養した(ステップ2)。トリプシン解離を行い、処理した細胞を200細胞/35mm皿に希釈した後、14日間にわたって、ステップ1またはステップ2においてEB派生物を培養することによって、コロニー形成アッセイを実施した。ヒト型ESCの単細胞消化に関連した細胞死を防止するために、懸濁培地に10μMのY−27632を補充した。14日後、培養物を氷冷エタノールで固定し、PBSで2回洗浄し、そして、アルカリホスファターゼ(ALP)活性の分析またはクリスタルバイオレット染色後のコロニーカウントのために使用した。3回の独立した実験によって再現性を確認した。
【0313】
誘導性MSCのクローニングおよび再増殖
線維芽細胞コロニーを、ガラス毛細管を用いてその基材から擦り取り、96穴のマルチウェルプレート内のTrypLE Express(Invitrogen)中に移して解離させ、これを、10ng/ml bFGFを補充した10% FCS−αMEM中のゼラチンコーティングプレート上にプレーティングした。細胞が付着した後、そしてその後は2日毎に培地を交換した。細胞を、トリプシン−EDTA(Invitrogen)を用いて3〜4日毎に継代し、さらなる実験のために10ng/ml bFGFを補充した10% FCS−αMEM中に維持した。
【0314】
rESC由来のMSCのインビトロ分化アッセイ
2×10
5細胞/35mm皿または1×10
4細胞/96穴マルチウェルプレート皿のいずれかの密度で細胞をプレーティングし、コンフルエントになるまで培養した。脂質生成を促進するために、培地を、10
−7M デキサメタゾン(Sigma)、0.5mM イソブチルメチルキサンチン(Sigma)および100μM インドメタシン(Sigma)を補充した10% FCS−αMEMから成る脂肪細胞分化培地に切り替えた。10日後、脂質を生成する培養物を10%中性ホルマリンで固定し、オイルレッドO溶液(和光純薬工業?)で染色した。骨芽細胞の分化を促進するために、培地を、10
−8M デキサメタゾン(Sigma)、10mM 2−グリセロリン酸(Sigma)および50μg/ml アスコルビン酸(Sigma)を補充した10% FCS−αMEMから成る骨芽細胞分化培地に14日間切り替えた。分化後、皿を10%中性ホルマリンで固定し、0.5% アリザリンレッドS(Sigma)溶液で染色した。軟骨生成を促進するために、2.5×10
5個の細胞を15mlポリプロピレンチューブ(BD Falcon)中でペレットとして培養するか、または、1×10
5個の細胞を96ウェルプレートにプレーティングして、軟骨細胞分化培地(Invitrogen)中で21日間培養した。軟骨細胞の分化後、細胞をTRIzol溶液(Invitrogen)で処理し、RNAを精製してさらなる研究に使用した。
【0315】
緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するrESMSCの調製
上記でも使用したrESC中に、pCAG−GFP−IRES−Puroベクターを導入することによって、GFPを発現するrESCを作成した。pCAG−GFP−IRES−Puroベクターを作製するために、pCAG−GFPベクター(Addgene,#11150,Dr.Connie Cepkoより分与されたもの)から得たGFP配列を、pCAG−IRES−Puroプラスミド(末盛博文先生より頂戴したもの)のNotI/EcoRI部位にクローニングした。このpCAG−GFP−IRES−PuroベクターをSspIによって直鎖状にし、Gene Pulser II(BioRad laboratories,Hercules,CA,USA)を250V、950μFにて使用して3×10
6個のrESCへのエレクトロポレーションを行った。rESC培養物を、10μM Y−27632および7ng/ml ピューロマイシンを補充したrESM中で4日間の選択を行った。ピューロマイシン選択を行った細胞を、トリプシンで処理し、セルストレイナー(BD Biosciences,San Diego,CA,USA)を通過させ、rESMで1回洗浄し、そして、10μM Y−27632を補充したrESM中に再懸濁させた。GFPを発現する細胞を、FACSVantage(BD Biosciences)によってさらに精製した。選別した細胞を、マイトマイシン−C処理したMEFフィーダー細胞上に蒔き、Y−27632を補充したrESM中で24時間培養した。培地は、コロニーが認められるまで、2日毎に新しいrESMと交換した。MSCの誘導は、本明細書に記載した手順により実施した。GFPを発現するrESC系統由来の誘導性MSC(rgESMSC−1)を、クローニング後の移植研究、骨芽細胞および脂肪細胞への分化の決定、ならびに、MSCマーカーの発現の確認に使用した。
【0316】
ウサギ関節軟骨欠損を用いた移植アッセイ
細胞をシートとして移植した(Kaneshiro,N.ら、Eur.Cell.Mater.,2007,13:87-92)。細胞シートは、安定的かつ再現性を持って、非常に短い時間の経過後に欠損部位に付着するので、細胞シートとしての移植は迅速かつ簡便である。細胞系統rESMSC−1を、1枚につき2×10
6細胞の密度で温度応答性細胞培養皿(直径35mm、株式会社セルシード、東京)に直接蒔いた。細胞がコンフルエントに達して細胞シートを形成するまで、細胞を、10ng/ml bFGFを補充した10% FCS−αMEM中に維持した。移植の当日に、以前に記載されたプロトコールに従って、培養物の温度を30分間、室温(約24℃)まで下げることによって、生存細胞のシートを回収した。細胞移植には、平均体重3.0kgの骨格的に成熟したJW種の雄ウサギを使用した。これらのウサギに麻酔をかけ、右膝関節に内側傍膝蓋切開(medial parapatellarincision)からアプローチし、膝蓋骨を横に移動させた。以前に報告されたとおりに(Koga,H.ら、StemCells,2007,25:689-696)、大腿骨の滑車神経溝に全厚の骨軟骨欠損(直径5mm、深さ3mm)を設け、次いで、この欠損を、細胞シートで満たした。手術後、全てのウサギをケージに戻し、自由に動かせた。手術から2週間後および4週間後に、過量のペントバルビタールナトリウムを用いて動物を安楽死させ、関節組織を組織学的染色、免疫蛍光法またはFACSによって調べた。移植実験のために、組織学的分析用に3匹、FACS分析用に3匹の動物をそれぞれ準備した(合計6匹)。
【0317】
組織学および蛍光顕微鏡検査
再生部位を含む膝関節を、Mildform 10N(4%パラホルムアルデヒド、(4%パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液 組織固定用)和光純薬工業、または、4%パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液 組織固定用(163-20145,和光純薬工業株式会社))中で固定し、85% ギ酸および20% クエン酸ナトリウム水溶液を用いて石灰質を除去した。組織学的観察のために、サンプルを脱水し、パラフィン中に包埋した。次いで、切片をサフラニン−Oで染色するか、または、アルシアンブルーおよびアリザリンレッドで二重染色した。再生した軟骨におけるGFP発現細胞の蛍光観察のために、脱パラフィン処理し、再水和させたパラフィン切片をBlock Ace(1%ウシ血清アルブミン(BSA)、ブロックエース;大日本住友製薬、大阪)で1時間ブロッキングし、PBSで2回洗浄し、1/200希釈した抗GFPウサギポリクローナル抗体(Santacruz biotechnology,sc−8334)と共に4℃にて一晩インキュベートした。次いで、標本を10%のBlock Aceを含有するPBSで2回洗浄し、1/1,000希釈したFITC標識化抗ウサギIgGウシ二次抗体と共にインキュベートした。2回の洗浄後、FITC標識した標本を1/1,000希釈したDAPIで染色し、蛍光顕微鏡(BZ−9000,株式会社キーエンス、大阪)を用いて観察した。
【0318】
レシピエントの軟骨組織からのGFP陽性移植細胞のFACSソーティング
再生した部位をメスを用いて回収し、PBSで2回洗浄し、0.3% ウシ血清アルブミン(Sigma)を補充したDMEM/F12中300U/mg コラゲナーゼ(和光純薬工業)の中で3時間、酵素により解離させた。解離した細胞を回収し、40μmセルストレイナー(BD Falcon)を通過させ、PBSで2回洗浄し、FACSVantageによってソーティングした。偽陽性細胞の混入を避けるために、本発明者らは、2つのバンドパスフィルター(FITC/GFPについては530nm、フィコエリスリン[PE]については585nm)を用いてサンプルを検討し、データは、以前に示唆されたように(Lengner,C.J.ら、Cell Cycle,2008,7:725−728)、FL−1(GFP)対FL−2(PE)の密度プロットとして表示させた。FL−1の細胞を選択し、GFPを発現する移植細胞をさらに分析した。
【0319】
データの統計解析
有意差は、Tukey−KramerのHSD検定またはStudentのt検定によって検出した。0.05未満のp値を有意とみなした。
【0320】
(結果)
図1において、上記製造例で製造したウサギの滑膜からとったMSC(左)および本実施例でES細胞から誘導したMSC(ESC−MSC;右)の比較を示す。ESC−MSCは、自己複製能を有しており、細胞表面抗原もMSC特徴的であり(例えば、PDFGRα
+、CD105
+およびCD271
+であった。)、骨原性、軟骨原性、および脂肪原性を有していた。データは示さないが、この結果は、非特許文献5(特に、Figures 3、5、6、7)において記載されるのと同様である。これらの結果は必要に応じて参照することができる。
【0321】
(実施例2:ES−MSCsから胚性幹細胞由来TEC(ES−TEC)の作成)
ES−MSCs各クローンをフィーダーを用いない平面培養で増殖させて細胞数を確保する。培地は増殖培地として前述の基礎培地に10ng/ml塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加したものを使用する。bFGFはWako: recombinant human bFGF:Cat.No.060−04543: 100μgを使用し、CHAPS(SIGMA)を0.1%、BSA(ウシ血清アルブミンAlbumin, from bovine serum、A2153−100G、SIGMA)を0.5%添加したPBSに溶かし、分注して−20℃で保存した。
【0322】
TECの作成は、製造例5に記載されるような体性(滑膜の)幹細胞と同様の方法で行った。4×10
5細胞/cm
2で細胞を播種し、5−14 日間の平面培養の後、細胞と培養皿の境界にピペッティングによりずり応力を作用し、細胞−マトリックス複合体を浮遊培養化させTEC の作成した。培養液としては1)従来TEC作成用培養液[DMEM(043−30085, lot#TLG7036, Wako)、10%FBS(172012−500ML, SIGMA)、1%Antibiotic−Antimycotic,100x (Invitrogen, 15240)]、2)前述基礎培地および3)前述増殖培地とした。全ての培養液(1−3)にL−アスコルビン酸−2リン酸(SIGMA, Cat#49752−10G, lot#BCBC4071V)0.2mM添加した。
【0323】
培養期間は2)では14日間培養が可能であり14日とした。1)および3)では14日まで細胞骨格の収縮による組織が自然にたたみこまれ14日間の継続が困難であり、培養期間を5〜12日と設定した。
【0324】
結果を一部
図2に示す。
図2は、細胞シート(左)および本発明の例であるES細胞から誘導したTECとの比較を示す。示されるように、本発明の誘導型TECは、三次元形成能が高いことが示された。細胞シートは、上記実施例においてTECの形成過程でずり応力を作用させて底面よりはがす前の組織を使用した。したがって、細胞シートとしては、TEC形成メディウムでの5−12日間の平面培養により作製されたものを使用した。
【0325】
また、
図3に示すように、アスコルビン酸2リン酸の有無での組織断片および組織概観を観察し、アスコルビン酸2リン酸の有無での容積(左カラム)および重量(右カラム)ならびにヒドロキシプロリン量の相違を評価した。以下にそのプロトコールを示す。
【0326】
この相違の評価は、ハイドロキシプロリン測定キット(例えば、BioVision等から入手可能)を用いて行った。プレシスモメーター等を用いて炎症を評価した。
【0327】
12ウェルプレートの各ウェルにES−MSCsをTEC作成濃度(1.52x10
5cells/well)で播種してTECを作成した。メディウムは従来のTEC作成用の10%FBS入りDMEMに0.2mMアスコルビン酸添加群(n=6)と非添加群(n=6)に分けて作成し、それぞれの3個を重量/体積を測定に、残りの3個をハイドロキシプロリン測定に使用した。ハイドロキシプロリンは以下のキットを使用し(Hydroxyproline Assay Kit Cat# K555−100; Lot#60855, BioVision)、添付プロトコールに従って測定した。
【0328】
12日間にわたり培養し、はがし、そして自己収縮させた6ウェルプレート中の0.125×10
6個、0.25×10
6個、0.5×10
6個、1×10
6個、2×10
6個、4×10
6個、8×10
6個、16×10
6個の細胞/ウェルから作製したTECの容積を体積はプレシスモメーター(plethysmometer、model TK-101CMP; UNICOM,Chiba,Japan).で測定、重量ははかりで測定した(Ando W,Tateishi K,Katakai D,Hart DA,Higuchi C,Nakata K,et al.,Tissue Eng Part A 2008;14:2041−2049)。各々の細胞密度において4サンプルを評価した。手短には、プレシスモメーターは微小制御容積測定装置であり、正確な測定のために特殊設計されたものである。これは、水が充填されたPerspexセルからなる。トランスデューサが、容積変位によって生じる水レベルの小さな違いを記録する。デジタル読み取りによって正確な容積を示すものである。重量は研究室に備わる一般的なはかり(METTLER TOLEDO AG204、メトラー・トレド株式会社、Max210gd=0.1mg、METTLER TOLEDO AG204(メトラー・トレド株式会社))で測定した。Lot#60855,BioVision)、添付プロトコールに従って測定した。
【0329】
図3は、アスコルビン酸2リン酸添加による細胞外マトリックス(コラーゲン)の産生亢進を示す。左上は、アスコルビン酸2リン酸の有無での組織断片の相違を示し、右上は、アスコルビン酸2リン酸の有無での組織概観の相違を示す(上段は、アスコルビン酸2リン酸添加なし、下段はアスコルビン酸2リン酸添加あり)。左下欄は、アスコルビン酸2リン酸の有無での容積(左カラム)および重量(右カラム)の相違を示す。グラフ左側二本はアスコルビン酸2リン酸添加なしであり、右側二本はアスコルビン酸2リン酸添加ありである。y軸は、容量(左、μl)または重量(右、mg)を示す。右下は、ヒドロキシプロリン量(μg)についてアスコルビン酸2リン酸の有無での比較である。このようにアスコルビン酸添加により、容積、重量、ヒドロキシプロリン生成量が有意に増加したことが示される。アスコルビン酸の添加により旺盛な細胞外基質の形成を認め、体性TEC同様に組織化が可能であるとの効果が示される。
【0330】
また、
図4に示すように、ES細胞で生成した単層培養および(軟骨分化前の)本発明の代表例である三次元人工組織(TEC)の比較を評価した。ここでは、H&E染色、コラーゲン1、コラーゲン2、フィブロネクチンのFITC免疫蛍光分析を行った。H&E染色は定法に準じて行った。鉄ヘマトキシリンは、I液:ヘマトキシリン1g、95%エタノール 100ml、II液:塩化第二鉄 2g、蒸留水95ml、濃塩酸1mlで構成される。使用時にI液およびII液を混合して染色した。
【0331】
使用した手法は体性TECにおけるH&E染色および免疫染色と同様である。TECの作成は同様に12ウェルプレートで行った。使用した培地は従来10%FBS入りDMEMに0.2mMアスコルビン酸含の培地です。組織様のサンプルは、以下で登場する実験(in vitroでのTEC実験や動物サンプルを問わず)も含めて4% パラホルムアルデヒド(PFA)で24時間固定後に、4時間流水(水道水)洗浄の後、脱脂工程として、70%エタノール(12時間)、100%エタノール(3日)、70%エタノール(12時間)の順に漬けておいた。次に流水洗浄(4時間)の後、EDTA(特級 エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(2水和物)(試薬)、000-29135、キシダ化学株式会社;あるいは、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム(2水和物)、000-29295、キシダ化学株式会社、276gを3LのD.W.に溶解、オートクレーブする)に2−4週間漬けた。メスでカットして柔らかくなっていれば、脱灰完了とした(そのため期間に幅がある)。包埋機械(LEICAASP200S、ライカマイクロシステムズ)に入れてブロックを作成し、3−4μmの切片を作って完成させた。
【0332】
免疫染色については以下のとおりである。脱パラフィン処理し、再水和させたパラフィン切片にProtinaseK Ready−to−use(Dako,S3020)を添加し、室温にて5分間静置して抗原を賦活化させた。PBSで3回洗浄し、次いで、標本を1%BSA(Albumin,from bovine serum,A2153−100G,SIGMA Life Scienceを1%となるようにPBSに溶解させて調製した)で1時間ブロッキングし、PBSで3回洗浄し、1/400希釈したMouseMonoclonal[COLI]to Collagen(ab90395,アブカム株式会社,England)または1/100希釈した抗ヒトコラーゲンII型抗体(F−57,CloneNo.II−4C11,第一ファインケミカル株式会社,大阪)または1/希釈したFibronectin抗体と共に4℃にて一晩インキュベートした。3回の洗浄後、1/1,000希釈したAlexaFlour(登録商標)488標識化抗マウスIgG(H+L)ヤギ抗体(Alexa Flour(登録商標)488goat anti−mouseIgG(H+L),A21202,Molecular Probes)と共にインキュベートした。3回の洗浄後、1/1,000希釈したDAPI(SlowFade(登録商標)Gold antifade reagent with DAPI,S36939,Molecular Probes(登録商標))で染色し、蛍光顕微鏡(BZ−9000,株式会社キーエンス、大阪)を用いて観察した。
【0333】
図4は、ES細胞で生成した単層培養および(軟骨分化前の)本発明の代表例である三次元人工組織(TEC)の比較を示す。上段が単層培養、下段がTECの結果を示す。左からH&E染色、コラーゲン1、コラーゲン2、フィブロネクチンのFITC免疫蛍光分析の結果を示す。この図は非分化誘導時ES−TECの状態を示すものであり、従来と同様に1型コラーゲンなど線維性コラーゲンが中心で硝子軟骨の2型コラーゲンは発現していないことが理解される。またフィブロネクチンなど接着性の蛋白も発現しており、縫合を要しない移植が可能であることと関連するものである。さらに単層から3次元化すると有意に厚みが増して、底面から剥がすだけ自己収縮を起こした組織が3次元化していることが確認される。
【0334】
また、
図5に示すように、軟骨分化により硝子軟骨様組織ができることを示すために、アルシアンブルー染色およびサフラニンO染色を行った。これらは、上記組織学および蛍光顕微鏡検査に一部記載される方法に基づき定法に基づき行った。12ウェルプレート上で作製したES−TECを21日間、従来の軟骨分化培地で培養した後、組織サンプルを作成し、染色した。アルシアンブルー染色は、pH1.0アルシアン青を以下のように調製した:1.0.1N塩酸水溶液(HCl8.4mlに蒸留水を加え1000mlにする。2.pH1.0アルシアン青染色液:アルシアン青8GX(または8GS)1gを0.1N塩酸水溶液に溶かしスターラーで攪拌後ろ過して使用する。3.ケルンエヒテローロ染色液は以下のように調製する:ケルネヒテロート(ヌクレアファースト赤;C
14H
8NO
4SNa)0.1g、硫酸アルミニウム(Al
2(SO
4)5g)、蒸留水100ml、蒸留水100mlに硫酸アルミニウム5gを溶解し、ケルンエヒテロート0.1gを加え、5分間煮沸し、室温で冷却後ろ過して使用液とした。
【0335】
染色は以下のとおりであった(pH1.0アルシアン青染色)。1.脱パラフィン、流水水洗2−3分を行い、蒸留水5−10秒で洗浄する。2.0.1N塩酸水で3−5分浸す。3.pH1.0アルシアン青染色液30−120分浸す。4.0.1N塩酸水(2槽)で各々の2−3分浸す。5.水洗せずに直接アルコールにいれ脱水する。6.透徹し、封入する。
【0336】
サフラニンO染色は、以下のとおりである。脱パラフィンのため、キシレンで4回各5分洗浄し、100%アルコール1−2、各5分洗浄を行い、95%、80%、70%の各アルコールで、各2分なじむまで行い、流水水洗を5分間行った。その後、核染色のため鉄ヘマトキシリンで5分間染色し、色出のため流水染色を5−10分間行い、0.02%FastGreenで5分間染色した。分別のため、1%酢酸で数秒洗い、0.1%サフラニンOで7分染色した。その後95%アルコール(2槽)で洗浄した。脱水を100%アルコールで1回目は1分間、2回目5分間行った。最後透徹をキシレンで3回各5分間行った。
【0337】
図5は、本発明の代表例であるES細胞から誘導したMSCで生産した三次元人工組織(TEC)の軟骨分化により硝子軟骨様組織ができることを示す。上段は、アルシアンブルー染色であり、下欄はサフラニンO染色を示す。サフラニンOで組織全体が一様に真っ赤に染まり、極めて強い軟骨分化を示す。体性TECは確認できないレベルであった。
【0338】
硝子軟骨は大雑把には、まず形態として硝子様(線維性でない)細胞外基質にラクナ(小腔)を伴う軟骨細胞を認めることである。さらに細胞外器質の中心はグリコサミノグリカン(サフランニンOで赤、アルシアンブルーやトルイジンブルーで青)とコラーゲン2型が中心である。従来の体性TECおよびMSCそのものによる治療ではコラーゲン2型も上がっているが、コラーゲン1型も強く発現したままである。ESではコラーゲン1型がほぼ消失している。これは本発明で作製した組織が硝子軟骨のコラーゲン組成に極めて近いといえる証拠である。なお従来型(体性)TECの6ヶ月で一部硝子軟骨様に見えるところはあるが、1ヶ月では有りえなかったことから、本発明は顕著な効果を示すといえる。
【0339】
図6に示すように、グリコサミノグリカン(GAG)の生成を定量した。以下にそのプロトコールを示す。グリコサミノグリカンの定量は硫酸化グリコサミノグリカン定量キット(生化学バイオビジネス株式会社)を用いて行った。三次元人工組織TECはキット添付のプロテアーゼを用いて55℃、2時間処理した後、10分間煮沸し、室温に戻した。各サンプルをマイクロプレート(キット添付)のそれぞれのウェルに50μLずつ添加し、反応緩衝液II(キット添付)50μLを各ウェルに50μLずつ添加した。次に各ウェルにDMMB色素液(キット添付)150μLずつ添加し、室温で5分間静置を遮光して行った後、immuno mini NT−2300(コスモバイオ株式会社)を用いて各ウェルの530nmの波長を測定した。キット添付の硫酸化GAG標準溶液(80,40,20,10,5,2,5,0μg/mL)もサンプルと同様の処理を行い、標準曲線を作製しサンプルの硫酸化グリコサミノグリカン濃度を算出した。
【0340】
図6は、軟骨分化において、本発明の代表例であるES細胞から誘導したMSCで生産した三次元人工組織(TEC)は、従来の体性三次元人工組織より顕著に多いグリコサミノグリカン(GAG)を生成することを示す。左側は、滑膜由来の三次元人工組織を示し、右側は本発明の代表例であるES細胞から誘導したMSCで生産した三次元人工組織を示す。各々において、左側が軟骨分化誘導なしであり、右側が軟骨分化誘導ありである。
【0341】
図7に示すように、コラーゲン1a1およびコラーゲン2a1について、FITC免疫蛍光分析および左はアルシアンブルー染色を行った。これらは、上述の手法に準じて行った。
【0342】
図7は、本発明の代表例であるES細胞から誘導したMSCで生産した三次元人工組織(TEC)を軟骨分化したところ硝子軟骨様の表現型を有することを示すFITC免疫蛍光分析を示す。左はアルシアンブルー染色を示し、左から2番目はコラーゲン1a1、右から2番目はコラーゲン2a1を示し、一番左はネガティブコントロールを示す。この結果、ES細胞から誘導したMSCで生産した三次元人工組織(TEC)は、硝子軟骨様の分化能を有することが示される。
【0343】
また、
図8に示すように、本発明の代表例であるES細胞から誘導したMSCで生産した三次元人工組織(TEC)の軟骨分化誘導前後での遺伝子発現のパターンを調べた。定量RT−PCRを行って、軟骨特異的遺伝子(コラーゲンIIおよびアグリカン)、軟骨脱分化マーカー(コラーゲンI)およびハウスキーピング遺伝子(GAPDH)の発現を決定した。RNA抽出には、ペレットを緩衝液RLTに60秒間ホモジナイズした。次いで溶解液を遠心分離し、上清を取り出した。トータルRNAをTRIzol試薬(Invitrogen)を用いて抽出した。RNA濃度を各サンプルについて測定下の地、相補DNA(cDNA)を、トータルRNAを逆転写酵素(Promega, San Luis Obispo, CA, USA)を用いてランダムプライマーを用いてRTにより得た。サンプルを、qRT−PCRのために、SYBR Premix Ex Taq(TaKaRa,JP)およびカスタムデザインのブタプライマーを用いて行った。ついで、qRT−PCRをABI PRISM 7900HT(Applied Biosystems, Foster City, CA94404, USA)を用いて行った。ペレットを、10%FBSを補充したHGDMEM(軟骨形成性補助成分を入れずに)中で培養して、分化したペレット(0、2または10%のウシ胎児血清FBS)のmRNAレベルの比較のための参照(較正用)とした。細胞からのトータルRNA抽出にはRNeasy fibrous tissue mini kit(QUIAGEN)を用いて行った。キット付属のプロトコールに従ってトータルRNAを抽出した後、各サンプルのRNA濃度を測定した。各サンプルにおける相補的DNA (cDNA)はSuperscript III first strand synthesis system (Invitrogen)を用いて逆転写反応を行い、プライマーにはキット添付のOligo d(T)プライマーを使用した。次にqRT−PCRをSYBR Premix Ex Taq (TaKaRa)とカスタムデザインのウサギプライマー、およびABI PRISM 7900HT (Applied Biosystems, Foster City, CA 94404, USA)を用いて行った。ウサギES細胞由来間葉系幹細胞の発現比較には、キャリブレーションサンプルとして培養したウサギ滑膜由来間葉系幹細胞を用いた。遺伝子発現は、各サンプルの内部標準遺伝子であるGAPDHの発現レベルに対して式1を用いて正規化した。次に、正規化した遺伝子発現を式2、3を用いてキャリブレーションサンプルとの相対値を算出した(GAPDHのレベル=コントロール)。
式1 ΔCt=(標的遺伝子Ct値)―(GAPDHCt値)
式2 ΔΔCt=(標的サンプルΔCt値)−(キャリブレーションサンプルΔCt値)
式3 相対値=2
−ΔΔCt
プライマーは、特定の遺伝子アクセッション番号に対応する配列についてGenBankデータベースの配列に基づいて、プライマー3ソフトウェア(オープンソースソフトウェア)で設計した。以下の配列を用いた。
pig-GAPDH(forward):CTGCCCCTTCTGCTGATGC(配列番号1),
pig-GAPDH(reverse):CATCACGCCACAGTTTCCCA(配列番号2),
pig-aggrecan(forward):ATTGTAGGACCCAAAGGACCTC(配列番号3),
pig-aggrecan(reverse):GGTCCCAGGTTCTCCATCTC(配列番号4),
pig-collagen1a2(forward):ATTGTAGGACCCAAAGGACCTC(配列番号5),
pig-collagen1a2(reverse):GGTCCCAGGTTCTCCATCTC(配列番号6),
pig-collagen2a1(forward):ATTGTAGGACCCAAAGGACCTC,(配列番号7)
pig-collagen2a1(reverse):GGTCCCAGGTTCTCCATCTC(配列番号8)。.
図8は、本発明の代表例であるES細胞から誘導したMSCで生産した三次元人工組織(TEC)の軟骨分化誘導前後での遺伝子発現のパターンを示し、体性TECの10−20倍の軟骨関連遺伝子の発現が見られることを示す。Sy−TECは滑膜MSC由来のTECを示す。ES−TECは、ES細胞誘導MSC由来のTECを示す。Hyaline Cartilageは硝子軟骨様を示す。No Introductionは誘導なしを示す。Chondrogenisisは、軟骨分化刺激をした後を示す。p<0.05は統計学的有意を示す。y軸は、相対発現強度を示す。また、本発明の誘導型TECを用いた複合組織の1ヶ月での治療効果をみた。ここでは、移植実施例の記載に準じて、体性TECの人工骨との複合組織の代わりに誘導型TECを用いた複合組織を移植した。結果を
図9および10に示す。
【0344】
図9は、本発明の代表例であるES細胞から誘導したMSCで生産した三次元人工組織(TEC)をβTCPと複合化させた複合組織を用いて骨欠損を治療した結果を示す。示されるように、わずか1ヶ月での硝子軟骨様組織での修復が見られる。上段一番左は、骨欠損部位を示す。上段左から2番目は本発明の代表例であるES細胞から誘導したMSCで生産したTECをβTCPと複合化させた複合組織の例を示す。上段右から2番目はTEC+βTCPの模式図を示す。
図10は、本発明の代表例であるES細胞から誘導したMSCで生産した三次元人工組織(TEC)をβTCPと複合化させた複合組織を用いて骨欠損を治療した結果を体性(滑膜由来)TECと比較したヘマトキシリン・エオジン染色の結果を示す。左に滑膜由来TEC複合組織での結果を示し、右にはES細胞から誘導したMSCで生産したTECをβTCPと複合化させた複合組織を用いた結果を示す。
【0345】
また、
図11に示すように、2ヶ月後における骨化シグナルの抑制および軟骨分化の維持について体性(滑膜由来)TECと比較するためのトルイジンブルー染色試験を行った。移植実験は、移植実施例の記載に準じた。トルイジンブルー染色は定法に基づいて行った。簡便には、脱パラフィン、水洗を行い、0.05%トルイジン青染色液で10〜30分染色し、純エタノールで2回洗浄し、脱水,透徹,封入を行った。
【0346】
図11は、本発明の代表例であるES細胞から誘導したMSCで生産した三次元人工組織(TEC)をβTCPと複合化させた複合組織を用いて骨欠損を治療した結果を、2ヶ月後における骨化シグナルの抑制および軟骨分化の維持について体性(滑膜由来)TECと比較した結果である。左には滑膜由来TEC複合組織での結果を示し、右にはES細胞から誘導したMSCで生産したTECをβTCPと複合化させた複合組織を用いた結果を示す。上段は全体写真であり、下段はその拡大図である。示されるように、本発明の誘導型MSCで作製したTECでは、骨化シグナルの抑制および軟骨分化の維持されており、従来の技術では達成されなかった効果が奏されることが理解される。
【0347】
(実施例3:多能性幹細胞(P細胞)からP細胞由来MSCsへの誘導)
実施例1の変法として、多能性幹細胞(P細胞)を超低接着培養皿(Corning, Corning, NY)で培養し胚様体を形成する。培養液(1)はDMEM、15%FBS、1mM NEAA、0.1mM 2−mercaptoethanol、1mM L−glutamine、50 U/ml P/Sとし、胚様体を3日間浮遊培養を行う。その後、0.5mMレチノイン酸 で処理した後、さらに2日間培養する。
【0348】
胚様体を0.1%ゲラチンコーティングプレートに移し前述培養液(1)に10ng/ml TGFβ1を加えて2日間培養する。DMEM、10%FBS、アスコルビン酸を加えた培養液(2)でさらに培養を続ける。細胞がほぼコンフルエントになった後、トリプシンで細胞を剥がして回収し、これを0.1%ゼラチンコーティング培養皿に播種して、前述培養液(2)で培養を行った。2継代以降で細胞を使用する。(参考文献:Derivation of murine induced pluripotent stem cells (iPS) and assessment of their differentiation toward osteogenic lineage. LiF, Bronson S, Niyibizi C. J Cell Biochem. 2010 Mar1; 109(4): 643-52.doi:10.1002/jcb.22440.) この手法を用いて生成されたMSCを用いて実施例2のようにTECとして製造例を適宜参照して複合組織を製造することができる。
【0349】
(実施例4:多能性幹細胞(P細胞)からP細胞由来MSCsへの誘導の別法)
実施例1のさらなる変法として、多能性幹細胞(P細胞)を無血清培地mTeSR1(StemCell Technologies)を用い、マトリゲルコート培養皿(Matrigel (BD Bioscience, San Diego) を100ug/ml の濃度で DMEM/−Ham’s F12 mediumに溶解し、培養皿にいれ室温で1時間静置した後に培養液を除去して作製する。)で培養する。細胞がほぼコンフルエントになった状態で、20% KOSR(invitrogen),1mM L−glutamine(invitrogen),10mM non−essential amino acids (invitrogen)を含むDMEM/−Ham’s F12 培地に換え、DMSOに溶解したSB431542(最終濃度 10μM)を添加した。毎日培地交換を行いながら、10日間培養した後、トリプルセレクト(TrypleSelect, Invitrogen)で細胞を剥がして回収し、MSC培養液(DMEM培地(高グルコース,10%FBS,2mM L−グルタミン添加))を用い、通常の培養皿で培養を行った。2継代以降で細胞を使用する(参考文献:Small molecule mesengenic induction of human induced pluripotent stem cells to generate mesenchymal stem/stromal cells. Chen YS, Pelekanos RA, Ellis RL, Horne R, Wolvetang EJ, Fisk NM. Stem Cells Transl Med. 2012 Feb;1(2):83-95.)。
【0350】
この手法を用いて生成されたMSCを用いて実施例2のようにTECとして製造例を適宜参照して複合組織を製造することができる。
【0351】
(実施例5:iPS細胞から誘導した間葉様系幹細胞の別の例での実験)
本実施例では、iPS細胞から間葉様系幹細胞とも呼ばれる間葉系幹細胞を誘導し、これを用いて三次元人工組織を作製した後、実施例1と同様の方法で複合組織を生産し、上記実施例または製造例と同様の方法で骨軟骨損傷の効率的かつ安全な修復の実験を行なうことができることを確認した。具体的には以下のとおりである。
【0352】
(iPS細胞由来MSCの樹立法)
理化学研究所から得たiPS細胞(253G1)を得た。このiPS細胞を酸素分圧1%で培養すると紡錘形の細胞がコロニー周囲に見られた。それらをフローサイトメーターでCD44/CD73/CD105陽性細胞をソーティングすると、軟骨・骨・脂肪へ分化するiPS−MSCとなった。これらの実験は、実施例1に記載されている手順に基づいて行った。その結果を
図15に示す。
図15に示すように、iPS細胞を用いても、ES細胞と同様に軟骨・骨・脂肪へ分化するMSC(iPS−MSC)が生産することができたことが理解される。
【0353】
(iPS−TECの作製方法)
次に、iPS−MSCをアスコルビン酸を添加した高密度平面培養により細胞シートを作製し、体性MSC、ES−MSCと同様にTECを作製した。これらの生産方法は、基本的には実施例2に記載されている手順に基づいて行った。その結果を
図16に示す。
図15に示すように、iPS細胞を用いても、ES細胞と同様に軟骨・骨・脂肪へ分化する三次元組織(TEC)(iPS−TEC)が生産することができたことが理解される。なお、iPS細胞から間葉様系幹細胞への誘導は、Jung et al,STEM CELLS,2011;doi:10.1002/stem.727を参照して実施することができる。
【0354】
(iPS−TECの性状)
このように作製したiPS−TECを用いて、実施例2に示すようにその機能等を確認した。
【0355】
iPS−TECを用いてもES細胞を用いて作製したES−TECと同様の機能を有することが確認されている。
【0356】
例えば、
図17に示されるように、iPS−TECについて(軟骨分化前の)状態を評価した。ここでは、H&E染色、コラーゲン1、コラーゲン2、フィブロネクチンのFITC免疫蛍光分析を行った。H&E染色は定法に準じて行った。鉄ヘマトキシリンは、I液:ヘマトキシリン1g、95%エタノール 100ml、II液:塩化第二鉄 2g、蒸留水95ml、濃塩酸1mlで構成される。使用時にI液およびII液を混合して染色した。結果を
図17の各写真に示す。非分化誘導時iPS−TECの状態では、従来と同様に1型コラーゲンなど線維性コラーゲンが中心で硝子軟骨の2型コラーゲンは発現していないことが理解される。またフィブロネクチンなど接着性の蛋白も発現しており、縫合を要しない移植が可能であり、さらに単層から3次元化すると有意に厚みが増して、底面から剥がすだけ自己収縮を起こした組織が3次元化していることが確認される。
【0357】
また、アルシアンブルー染色およびサフラニンO染色を行うことにより、iPS−TECでも、ES−TECと同様、その軟骨分化により硝子軟骨様組織ができることが確認される。軟骨分化については体性TECよりも有意に改善していることが確認される。また、iPS−TECでもES−TECと同様にコラーゲン2型の発現が上昇し、コラーゲン1型は消失していることが確認される。
【0358】
また、硫酸化グリコサミノグリカンの濃度をみると、iPS−TECでもES−TECと同様、従来の体性三次元人工組織より顕著に多いグリコサミノグリカン(GAG)を生成することが確認される。
【0359】
次に、コラーゲン1a1およびコラーゲン2a1について、FITC免疫蛍光分析および左はアルシアンブルー染色を行うと、iPS−TECでもES−TECと同様、硝子軟骨様の分化能を有することが確認される。
【0360】
さらに、遺伝子発現のパターンを観察すると、iPS−TECでもES−TECと同様、軟骨関連遺伝子の発現が増強していることが観察される。また、移植実施例を行うと、その効果が体性TECよりも改善されていることが確認される。
【0361】
(実施例6:ES細胞での変法)
本実施例では、ウサギES細胞から間葉様系幹細胞とも呼ばれる間葉系幹細胞を誘導し、これを用いて三次元人工組織を作製した後、上記実施例または製造例と同様の方法で複合組織を生産し、実施例1と同様の方法で骨軟骨損傷の効率的かつ安全な修復の実験を行なうことができることを確認した。実施に当たっては、大阪大学動物実験施設の承認、遺伝子組み換え実験の承認を得てから実験を行う。
【0362】
ES細胞から、間葉様系幹細胞とも称される間葉系幹細胞への誘導は、例えば、これまでに述べた方法のほか、de Peppo et al., TISSUE ENGINEERING: Part A, 2010;16; 3413-3426; Toh et al., Stem Cell Rev. and Rep.,2011;7:544-559;Varga et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2011; doi:10.1016/j.bbrc.2011.09.089; Barbet et al., Stem Cells International, 2011,doi:10.4061/2011/368192; Sanchez et al., STEM CELLS, 2011;29:251-262; Simpson et al., Biotechnol. Bioeng., 2011;doi:10.1002/bit.23301を参照することができる。
【0363】
(胚性幹細胞(ESCs)より誘導した間葉系幹細胞(MSCs)の分化誘導)
内部細胞塊を採取してフィーダー細胞(MEF)上で培養してESCsを誘導した。次に胚様体(EB)を作成した後、酸素分圧制御下の平面培養でMSCs(ES−MSCs)へ分化誘導した。
【0364】
(TECおよびTEC・人工骨ハイブリッドインプラントの作成)
4×10
5個/cm
2で播種したES−MSCsをアスコルビン酸2リン酸入りの培養液(HG−DMEM)で2週間培養した。ずり応力で底面より剥離して3次元化してTECを作製した。さらに任意の形状の人工骨上にTECを載せてその粘着性により一体化させ、TEC・人工骨ハイブリッドインプラントを作製した。
【0365】
(ウサギ骨軟骨欠損部の軟骨修復)
ウサギ膝関節にφ5mm×高さ6mmの骨軟骨欠損にES−MSCsで作製したTECとφ5mm×高さ4mm人工骨を一体化したインプラントを移植した。術後1ヶ月で欠損のみの膝に比してTEC・人工骨ハイブリッドインプラントの治療により明らかな軟骨修復を認めた。
【0366】
(実施例7:BMP受容体の発現)
本実施例では、本発明の代表例であるES細胞から誘導したMSCで生産した三次元人工組織(TEC)において、BMP受容体の発現が、体性(滑膜由来)TECおよび滑膜MSCよりも有意に高いことを実証する。
【0367】
ここでは、滑膜由来MSCsはウサギ膝関節より滑膜を採取した後、従来通りの方法(Shimomura et al. Biomaterials 31 2010)でMSCsを採取した。通常の平面培養時にSyn−MSCsのRNAサンプルを採取した。次にTEC作成培地[DMEM(043−30085, lot#TLG7036, Wako)、10%FBS(172012−500ML, SIGMA)、1% Antibiotic−Antimycotic,100x (Invitrogen, 15240)、 0.2mM L−アスコルビン酸−2リン酸(SIGMA, Cat#49752−10G, lot#BCBC4071V)]での10日間の培養により、Syn−TECおよびES−TECを作成し、RNAサンプルを採取した。RNA採取にはRNeasy Fibrous Tissue Kit (Qiagen,Valencia, CA, USA)、 cDNA合成にはReverse Transcription System (Promega, San Luis Obispo, CA, USA)、定量PCRにはSYBR Premix Ex Taq (TaKaRa, JP)を用いてBMP2受容体等(例えば、BMPR1A、BMPR2)の遺伝子発現を測定した。
【0368】
結果を
図12に示す。
図12に示すように、本発明の代表例であるES細胞から誘導したMSCで生産した三次元人工組織(TEC)において、BMP受容体の発現が、体性(滑膜由来)TECおよび滑膜MSCよりも有意に高いことが実証される。Syn−MSCsは滑膜由来MSC自体を示し、Syn−TECは、滑膜由来のTECを示し、ES−MSCは、本発明の代表例であるES細胞から誘導したMSCで生産したTECを示す。左側はBMP受容体のひとつであるBMPR1Aを示し、右側は別のBMP受容体であるBMPR2を示す。y軸は、分化誘導前に対する各マーカーの発現上昇比率を示す。本発明の誘導型MSCで製造したTECは、従来の体性TECでは見られなかった、BMPR1AおよびBMPR2等のBMP受容体が発現しており、軟骨分化能が更新していることがこのことからも示される。
【0369】
(実施例8:DMEMとαMEMの違いの確認)
DMEM(043-30085, lot#TLG7036, Wako)とαMEM(Invitrogen, GIBCO Cat#11900-024, lot#755272)の組成の差としては、前者は後者の4.5倍量のグルコース、約4倍量のビタミン類、約2倍量のアミノ酸類が含有している。一方で後者には前者に含まれない核酸類が含有されている。TECの作成には細胞による細胞外基質蛋白の合成が極めて重要あり、栄養的に有意なDMEMで作成したES-TECは生体移植後、早期軟骨の形成示した。対照的に、ES-MSCに最適化された増殖培地であるαMEMではin vitroで形成されたTECはin vivoで軟骨形成を示さなかった。αMEMにbFGFを添加すれば、in vivoで非常に強い軟骨形成能を示すTECの作成が可能であった。
【0370】
インビトロでの分化誘導後のGAG(グリコサミノグリカン)の上昇比率を調べた。この実験では、各種培養液で10日間の培養を行い、Syn-TECおよび種々ES-TECを作成した後、それぞれを軟骨分化誘導培地で21日間培養した後、硫酸化グリコサミノグリカン定量キット(Cat#280560,SEIKAGAKU BIOBUSINESS, JAPAN)を用いてグリコサミノグリカン(GAG)を測定した。軟骨分化誘導培地はDMEM(043-30085,lot#TLG7036,Wako)、50mg/ml ITSPremix(BD Biosciences; 6.25mg/mlインスリン,6.25mg/mlトランスフェリン,6.25ng/ml亜セレン酸,1.25mg/ml BSA, および5.35mg/mlリノール酸)、0.2mMAsc-2p(SIGMA,Cat#49752-10G, lot#BCBC4071V)、200ng/ml組換えヒトBMP-2(OSTEOPHARMA, Japan)であった。結果を
図13に示す。
【0371】
図13に示すように、インビトロでの分化誘導後のGAG(グリコサミノグリカン)の上昇比率における本発明の顕著性が示される。左から、滑膜由来三次元人工組織(Syn−TEC)、ES細胞から調製したMSCをαMEMで三次元人工組織化させたもの(ES−aMEM)、ES細胞から調製したMSCをDMEMで三次元人工組織化させたもの(ES−DMEM)、ES細胞から調製したMSCをαMEM+bFGFで三次元人工組織化させたもの(ES−aMEM+bFGF)を示す。y軸は、分化誘導前に対するGAGの上昇比率を示す。ES-aMEMよりもES−DMEMおよびES−aMEM+bFGFにおいて早期の軟骨形成を示す傾向(GAGの上昇)のより顕著な傾向を認めた。このことからも、本発明の誘導型MSCで製造したTECは軟骨分化能が更新していることがこのことからも示される。
【0372】
また、32週齢ウサギの大腿膝蓋関節面の大腿骨にφ5mm深さ6mmの骨軟骨欠損を作成した。それぞれ作成したES-TECおよびSyn-TECを。Φ5mm高さ4mmのβTCP人工骨と結合させてハイブリッドTEC-人工骨を作成し、移植した。4週での軟骨形成をアルシアンブルーで確認した結果である。結果を
図14に示す。
【0373】
図14に示されるように、移植4週後の、インビボでの軟骨形成能が実証される。左から、滑膜由来三次元人工組織(Syn−TEC)、ES細胞から調製したMSCをαMEMで三次元人工組織化させたもの(ES−aMEM)、ES細胞から調製したMSCをDMEMで三次元人工組織化させたもの(ES−DMEM)、ES細胞から調製したMSCをαMEM+bFGFで三次元人工組織化させたもの(ES−aMEM+bFGF)を示す。ES−aMEMよりもES−DMEMおよびES−aMEM+bFGFにおいて早期の軟骨形成のより顕著な傾向を認めた。本発明の誘導型MSCで製造したTECは、従来MSCに適切と考えられていた培地(例えば、αMEM)に代えて、より富栄養化させた培地(DMEM、またはαMEMに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)等を加えたもの)の中で自己収縮反応をさせることによって、顕著に、軟骨形成能が亢進することが見出された。したがって、本発明は、従来法に比べて、骨軟骨治療により適した三次元人工組織(TEC)を製造するための改善された人工組織生産法を提供することができることが実証される。
【0374】
以上のように、本発明の好ましい実施形態および実施例を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。