特許第6183830号(P6183830)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6183830非水電解液用添加剤、難燃性非水電解液、非水電解液二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183830
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】非水電解液用添加剤、難燃性非水電解液、非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20170814BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170814BHJP
   C07F 9/40 20060101ALN20170814BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/052
   !C07F9/40 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-83984(P2013-83984)
(22)【出願日】2013年4月12日
(65)【公開番号】特開2014-205637(P2014-205637A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2016年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】韓 立彪
(72)【発明者】
【氏名】松本 一
(72)【発明者】
【氏名】吉永 充代
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩
【審査官】 阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−221085(JP,A)
【文献】 特開平11−233141(JP,A)
【文献】 特開2013−55031(JP,A)
【文献】 特開2010−92706(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0047695(US,A1)
【文献】 Vysokomolekulyarnye Soedineniya, Seria B,1973年,Vol.15,p.33-36
【文献】 J. Chem. Soc. Perkin Transactions 1,1995年,No.16,p.2045-2048
【文献】 Tetrahedron Lett.,1998年,Vol.39,p.6263-6266
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/052
C07F 9/40
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(i)で表される部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物からなる添加剤を3〜12wt%含む非水電解液を備え、45℃以上となる環境下で使用される非水電解液二次電池。
(CF3CH2O)2P(O)CH=CH2 ・・・・・(i)
【請求項2】
正極活物質がLiCoO2である請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
負極活物質がLi金属又はLi合金である請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記非水電解液を構成する有機溶媒が30〜70vol%のエチレンカーボネートと、70〜30vol%のジメチルカーボネートからなる請求項1〜のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液の添加剤として有用な新規な部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物、該化合物からなる非水電解液用添加剤、該添加剤を含む非水電解液、及び、該非水電解液を備える非水電解液二次電池に関する。
本発明の非水系電解液は優れた難燃性(自己消火性)を有し、かつ該非水系電解液を備える非水電解液二次電池は、室温より高い温度、特に、45℃以上の高い温度において優れた充放電特性を示す。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池はそのエネルギー密度が高い点で非常に有用であり、各社にて盛んに検討が行われているが、充放電を繰り返すことにより、電解液中に溶け出したリチウムが負極表面に均一に析出せずに局所的に析出し、そこを成長核としてリチウムが樹枝(デンドライト)状に成長して、やがて正極と短絡し、ショートを引き起こし、場合によっては発火するという問題がある。
【0003】
また、非水電解質二次電池に電解液として使用されている非水系の化合物としては、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどのカーボネート系化合物、ならびにγ−ブチロラクトン、ジメトキシエタンなどの有機溶媒が挙げられるが、これらは非常に燃えやすい化合物であるため、ショートや過充電時の暴走過熱などにより火災の原因となる恐れがある。
【0004】
このような問題を解決するために、各種のP(O)基を含有する五価リン化合物乃至リン酸エステルを非水系電解液に添加することにより電解液を難燃化する技術が数多く提案されている(特許文献1〜11参照)。例えば、特許文献10には、有機電解液リチウム電池において、難燃化の問題点を解決するとともに、初期充電及び充放電時における電池のスウェリングを効果的に抑制させて信頼性を向上させることを課題として、有機電解液に所定の化学式で示されるホスホネート化合物を含有させる旨の構成要件を採用することにより、還元分解安定性を向上させてサイクル初期の非可逆容量を減少させるだけでなく、電池の充放電効率及び寿命特性を向上させることができる、室温での組立て及び標準充電後の電池の厚さが一定の範囲を超えないので、電池の信頼性を向上させ得る等の効果が得られることが記載されている。
【0005】
しかしながら、これらの従来技術に従って電解液にリン酸エステルを添加すると、リン酸エステルと負極材料との反応によって放電容量が低下する結果、充分な放電容量が得られなかったり、サイクル特性が低下してしまったりして、二次電池として使用可能なサイクル数が低下してしまうという問題があった(非特許文献1参照)。
【0006】
また、非水電解液二次電池は、そのエネルギー密度が高いため、各種用途において使用が拡大しており、車載用大型電池のように室温より高い環境温度条件で使用されるケースも多くなってきている。
そのため、室温より高い環境温度条件で使用される際にもサイクル特性の低下が少ない非水電解液二次電池に対する要望が益々高まってきている。
【0007】
一方、上記のような電池に関する技術とは別に、本発明者らは、これまで、特定の触媒を用いて難燃性リン化合物等の機能性リン化合物の製造法を開発してきた(例えば、特許文献12〜22参照)。この開発により、これまで知られていなかった新規又は合成困難な様々な機能性リン化合物を効率よく製造できるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−184870号公報
【特許文献2】特開平10−50342号公報
【特許文献3】特開平11−233141号公報
【特許文献4】特開2003−229173号公報
【特許文献5】特開2002−280061号公報
【特許文献6】特開2007−250191号公報
【特許文献7】特開2009−32454号公報
【特許文献8】特開2009−224258号公報
【特許文献9】特開2010−92706号公報
【特許文献10】US2004/0142246 A1
【特許文献11】US2004/0142246 A1
【特許文献12】特許第2775426号公報
【特許文献13】特許第2777985号公報
【特許文献14】特許第2849712号公報
【特許文献15】特許第3041396号公報
【特許文献16】特許第3051928号公報
【特許文献17】特許第3390399号公報
【特許文献18】特許第3572352号公報
【特許文献19】特許第3836459号公報
【特許文献20】特許第3836460号公報
【特許文献21】特許第3951024号公報
【特許文献22】特許第6111127号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】GS Yuasa Technical Report 2005年第2巻第1号、26−31ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、非水電解液二次電池の非水電解液用添加剤として使用したときに、該非水電解液に優れた難燃性を付与するとともに、室温だけでなく45℃以上等の高温となる環境下で非水電解液二次電池が使用される際にも、該非水電解液二次電池に優れたサイクル特性を発揮させ得る新規な部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物を提供することを第1の課題とする。
本発明は、非水電解液の難燃性を向上するとともに、45℃以上等の高温となる環境下で使用される非水電解液二次電池の非水電解液に適用したときにおいて、該非水電解液二次電池に優れたサイクル特性を発揮させ得る非水電解液用添加剤を提供することを第2の課題とする。
本発明は、優れた難燃性を示すとともに、45℃以上等の高温となる環境下で使用される非水電解液二次電池に用いたときにおいても、該非水電解液二次電池に優れたサイクル特性を発揮させ得る非水電解液を提供することを第3の課題とする。
本発明は、45℃以上等の高温となる環境下で使用される際においても良好なサイクル特性を示す非水電解液二次電池を提供することを第4の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、上述のように開発してきた各種機能性リン化合物を非水電解液の難燃剤、難燃性添加剤等として使用することを検討した。その研究過程で、前記特許文献10に記載されているホスホネート化合物(ビニルリン酸エステル化合物)などについても検討した。
前記特許文献10に記載された発明は、上述のとおり、初期充電及び充放電時における電池のスウェリングを効果的に抑制させて信頼性を向上させることを課題とするもので、同文献には、所定の化学式で示されるホスホネート化合物としてジエチルビニルホスホネート(DEVP)を実施例で用いた旨や、該化学式中のアルキル基のうち一つ以上の水素原子を、ハロゲン原子や低級アルキル基等を初めとする数多く例示された置換基で置換され得る旨も記載されている。しかしながら、同文献には、室温よりも高い温度でのサイクル特性を改善することや、そのような高温度でのサイクル特性を改善し得る非水電解液や該非水電解液用の添加剤については全く検討されていないし、また、数多く例示された置換基で置換されたホスホネート化合物を用いた実施例は実際上全く記載されていない。
本発明者らは、前記DEVP等のビニルリン酸エステル化合物や、(CH3O)2P(O)C2H5、(CH3O)3PO等のビニル基を有しないリン酸エステルについても試験研究を行ったが、その研究過程で、DEVP等のビニルリン酸エステル化合物を含有する非水電解液電池では、前述のようなビニル基を有しないリン酸エステル含有非水電解液電池よりも室温ではサイクル特性が良好である旨の知見を得たものの、ビニルリン酸エステル化合物であってもDEVP等では、室温よりも高い温度でのサイクル特性が大きく低下することが明らかとなった。
【0012】
本発明者らは、さらに各種リン化合物を合成し、鋭意検討を行った結果、特定の部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物を非水電解液二次電池の非水電解液用の添加剤として使用したときに、該非水電解液に優れた難燃性を付与するとともに、室温だけでなく45℃以上等の高温となる環境下で非水電解液二次電池が使用される際にも、該非水電解液二次電池に優れたサイクル特性を発揮させ得る新規な部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明によれば、非水電解液二次電池の非水電解液用の添加剤として使用したときに有用な以下の式(i)で示される部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物、この化合物からなる非水電解液用添加剤、該添加剤を含む非水電解液、及び、該非水電解液を備える非水電解液二次電池が提供される。
(CF3CH2O)2P(O)CH=CH2 ・・・・・(i)
【0014】
すなわち、本件により提供される発明は、次のとおりである。
(1)次の式(i)で表される部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物。
(CF3CH2O)2P(O)CH=CH2 ・・・・・(i)
(2)前記(1)に記載の部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物からなる非水電解液用添加剤。
(3)45℃以上となる環境下で使用される非水電解液二次電池に用いられるものである前記(2)に記載の非水電解液用添加剤。
(4)前記(2)又は(3)に記載の添加剤を含む非水電解液。
(5)前記(4)に記載の非水電解液を備える非水電解液二次電池。
(6)正極活物質がLiCoO2である前記(5)に記載の非水電解液二次電池。
【0015】
本発明の非水電解液は、次のような態様を含むことができる。
(7)添加剤の添加量が1〜20wt%である前記(4)に記載の非水電解液。
(8)添加剤の添加量が3〜12 wt%である前記(4)又は(7)に記載の非水電解液。
(9)非水電解液を構成する有機溶媒の主要成分が環状カーボネートと鎖状カーボネートである前記(4)、(7)、(8)のいずれか1項に記載の非水電解液。
(10)前記有機溶媒が30〜70vol%のエチレンカーボネートと、70〜30vol%のジメチルカーボネートからなる前記(4)、(7)〜(9)のいずれか1項に記載の非水電解液。
(11)含有する電解質塩がヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)である(4)、(7)〜(10)のいずれか1項に記載の非水電解液。
【0016】
本発明の非水電解液二次電池は、次のような態様を含むことができる。
(12)前記(7)〜(11)のいずれか1項に記載の非水電解液を備える非水電解液二次電池。
(13)負極活物質がLi金属又はLi合金である前記(5)、(6)、(12)のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【発明の効果】
【0017】
本発明の部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物は、非水電解液二次電池の非水電解液用の添加剤として使用したときに、該非水電解液に優れた難燃性(自己消火性)を付与するとともに、室温だけでなく室温を超える高い温度(例えば、45℃以上、特に55℃以上)となる環境で非水電解液二次電池が使用される際にも、該非水電解液二次電池に優れたサイクル特性(充放電特性)を発揮させる。
【0018】
本発明の非水電解液用添加剤は、非水電解液の難燃性を向上するとともに、室温だけでなく室温を超える高い温度(例えば、45℃以上、特に55℃以上)となる環境で使用される非水電解液二次電池の非水電解液に適用したときにおいて、該非水電解液二次電池に優れたサイクル特性を発揮させる。
【0019】
本発明の非水電解液は、優れた難燃性を示すとともに、室温だけでなく室温を超える高い温度(例えば、45℃以上、特に55℃以上)となる環境で使用される非水電解液二次電池に用いたときにおいても、該非水電解液二次電池に優れたサイクル特性を発揮させる。
【0020】
本発明の非水電解液二次電池は、45℃以上等の高温となる環境下で使用される際においても良好なサイクル特性を示す。公知の通常の電解液系では45℃を超えると、劣化が促進することが知られており、車載用等の大型電池では、 空冷等によって冷却する必要があるとされているが、本発明の非水電解液二次電池では、そのような冷却を不必要化、簡素化、又は低コスト化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ベース電解液にそれぞれ、(a)比較例の添加剤Me、(b)比較例の添加剤MeEt、(c)実施例の添加剤Et2を5wt%混合した3種類の非水電解液電池(正極活物質:LiCoO2、負極活物質:Li金属)について、1.0C条件でのサイクル特性試験の途中で環境温度を25℃から順次、45℃、55℃に変更した場合の、サイクル増加に伴う正極活物質単位重量当たりの放電容量の変化を示す図面。
図2】(a)ベース電解液そのままで添加剤を含まないもの、(b)ベース電解液に比較例添加剤Etを5wt%混合したもの、及び、(c)ベース電解液に実施例添加剤Et2を5wt%混合したもの、の3種類の非水電解液電池(正極活物質:LiCoO2、負極活物質:Li金属)について、1.0Cの条件でのサイクル特性試験の途中で環境温度を25℃から順次、45℃、55℃、65℃、75℃、65℃に変更した場合の、サイクル増加に伴う正極活物質単位重量当たりの放電容量の変化を示す図面。
図3図2と同じ3種類の電池(a)、(b)、(c)について、図2と同じサイクル特性試験の際のサイクル増加に伴うクーロン効率の変化を示す図面。
図4図2と同じ3種類の電池〔ベース電解液そのままで添加剤を含まないもの(○)、ベース電解液に比較例添加剤Etを5wt%混合したもの(□)、ベース電解液に実施例添加剤Et2を5wt%混合したもの(◇)〕について、環境温度25℃における(a)サイクル増加に伴う放電容量維持率の変化と、(b)サイクル増加に伴うクーロン効率の変化を示す図面。
図5図4と同じ3種類の電池について、環境温度45℃における(a)サイクル増加に伴う放電容量維持率の変化と、(b)サイクル増加に伴うクーロン効率の変化を示す図面。
図6図4と同じ3種類の電池について、環境温度55℃における(a)サイクル増加に伴う放電容量維持率の変化と、(b)サイクル増加に伴うクーロン効率の変化を示す図面。
図7図4と同じ3種類の電池について、環境温度65℃における(a)サイクル増加に伴う放電容量維持率の変化と、(b)サイクル増加に伴うクーロン効率の変化を示す図面。
図8図4と同じ3種類の非水電解液電池について、(a)環境温度が25℃での30サイクル後の時点、(b)45℃での30サイクル後の時点、(c)55℃での40サイクル後の時点、(d)65℃での50サイクル後の時点における1.0C充電時の交流インピーダンスを示す図面。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の新規な部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物は、次の式(i)で表されるものである。
(CF3CH2O)2P(O)CH=CH2 ・・・・・(i)
該部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物は、どのような製造方法により製造されたものでも良いが、後述の実施例1に記載したように、触媒Ni(PMe3)4の存在下、(CF3CH2O)2P(O)Hの溶液にアセチレンガスを吹き込むことにより好適に製造することができる。
【0023】
本発明の部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物は、非水電解液に添加した場合に、優れた難燃性を付与するとともに、該非水電解液を具備する非水電解液二次電池に対し室温よりも高い環境温度下での良好なサイクル特性を発揮せしめることができる。
ここで、室温よりも高い環境温度とは、25℃を超える温度であり、45℃以上、50℃以上、55℃以上などを意味する。良好なサイクル特性が発揮される温度の上限は、特に限定するものではないが、通常、80℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下である。
本発明の非水電解液二次電池は、その作動の全期間において高温環境温度下にあっても良いし、一部の作動期間だけ高温環境下にあっても有効である。
【0024】
本発明の非水電解液は、有機溶媒、該有機溶媒に溶解される電解質塩、及び、前記部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物からなる添加剤を含んでいる。該添加剤は、非水電解液用難燃性添加剤、非水電解液用難燃剤などとも言うことができる。
非水電解液における前記添加剤の添加量は、非水電解液に対する難燃性の付与効果と、非水電解液二次電池に対する高温環境下でのサイクル特性向上効果を考慮して設定される。少なすぎると前記効果を得るのが困難であるし、一方、多くしすぎると前記効果が飽和し逆に悪影響を及ぼす可能性がある。非水電解液における前記添加剤の添加量は、通常1〜20wt%、好ましくは2〜15wt%、より好ましくは3〜12wt%、さらに好ましくは4〜10wt%である。
【0025】
非水電解液に含有される電解質塩としては、限定するものではないが、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロ硼酸リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、トリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)等のリチウム塩を用いることができる。好適にはヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を用いることができる。
非水電解液における電解質塩の添加量は、非水電解液の導電率が充分に高くて内部抵抗を低く保つことができ、低温で塩が析出して不具合を生じることがないように設定される。通常は、0.3〜3.0mol/L、より好ましくは、0.5〜2.0mol/Lである。
【0026】
非水電解液を構成する有機溶媒としては、非水電解液二次電池用の公知のものをいずれも使用することができる。そのような有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類などを挙げることができ、これらの一種又は二種以上を混合して使用する。なかでも環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合物を主要成分とするものが好ましい。環状カーボネートと鎖状カーボネートとの好適な混合溶媒としては、主要成分がエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)であるものが挙げられる。例えば、前記有機溶媒を30〜70vol%(好ましくは40〜60vol%)のECと、70〜30vol%(好ましくは60〜40vol%)のDMCから構成することができる。
【0027】
本発明の非水電解液二次電池は、前記非水電解液の外、正極、負極などを具備する。
電池の形状としては、円筒形、角形、コイン型、ボタン型、ペーパー型などを含め何ら限定されず、様々な形状を採用することができる。
正極に用いる活物質としては、限定するものではないが、好ましくはLiCoO2である。負極に用いる活物質としては、限定するものではないが、好ましくはLi金属又はLi合金である。これらの好ましい正極活物質LiCoO2と負極活物質Li金属又はLi合金を用いた場合、他の正極活物質(LiFePO4、LiMn2O4等)を用いた場合よりも、室温より高い温度でのサイクル特性がより良好であった。このことから、本発明の添加剤は、LiCoO2正極やLi金属又はLi合金負極に対して高い環境温度下でのより優れた劣化抑制効果を奏していると言える。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、各種材料変更、設定調整等を適宜行うことができる。
【0029】
(実施例1)<部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物(CF3CH2O)2P(O)CH=CH2の合成>
窒素雰囲気下、室温で50mLの反応容器に、(CF3CH2O)2P(O)H(1mmol)をトルエン(5mL)に加えた。続いて、アセチレンガスをバブリングで加え、反応容器をアセチレンガス雰囲気に置換した。ニッケル触媒Ni(PMe3)4(反応基質に対して5mol%)を加え、アセチレンガスをバブリングしながら5時間反応させた後、減圧下溶媒を除去し、残留物をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン/イソプロピルアルコール=20/1)で精製した(収率86%)。
精製されたものの分析結果は、次のとおりであった。
HRMS:理論値272.0037、測定値:272.0036.
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ 6.04-6.48(m,3H),4.33-4.41(m,4H).
31P NMR(162MHz,CDCl3):δ 20.03.
これらの分析結果から、(CF3CH2O)2P(O)CH=CH2で表される部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物と同定された。この化合物は、CASなどに登録されていない新規な化合物である。
【0030】
(実施例2、比較例)<所定環境温度下での電池サイクル特性試験I>
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)(EC:DMC=1:1(体積比))の混合溶媒に1mol/LのLiPF6を溶解したもの〔キシダ化学、リチウム電池グレード(LBG)〕をベース電解液とした。
比較例の添加剤(a)として、(CH3O)2P(O)CH=CH2(以下、「Me」という。)を、比較例の添加剤(b)として、CH3O(C2H5O)P(O)CH=CH2(以下、「MeEt」という。)を準備するとともに、実施例の添加剤(c)として、上記実施例1で合成した部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物(CF3CH2O)2P(O)CH=CH2(以下、「Et2」という。)を用いた。
ベース電解液にそれぞれ、Me、MeEt、Et2を5wt%混合し、比較例(a)、(b)の2種類の電解液と、実施例(c)の電解液を調製した。
これら3種類の非水電解液を使用し、正極活物質としてのLiCoO2を86wt%、導電助剤としてのアセチレンブラックを7wt%、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを7wt%用いた正極と、負極活物質としてLi金属を用いた負極とを共通して備え、電解液のみが異なる3種類の非水電解液電池を、水蒸気と酸素が1ppm未満のアルゴンガス置換グローブボックス内で組み立てた。
【0031】
これら3種類の非水電解液電池について、1.0Cの条件で、環境温度を25℃から順次、45℃、55℃に変更し、充放電サイクル特性試験を行った。
図1(a)、(b)、(c)に、各電池について、サイクル数増加に伴う正極活物質単位重量当たりの放電容量の変化を示す。
室温25℃では、実施例の添加剤Et2を含有する非水電解液電池(c)は、比較例の添加剤MeEt含有電池(b)よりもサイクル数増加に伴う容量減少が少ないものの、比較例の添加剤Me含有電池(a)とそれほど大きな差異はなかった。しかしながら、環境温度を45℃や55℃に変更した後については、実施例の添加剤Et2を含有する非水電解液電池(c)は、比較例の電池(a)、(b)に比べ、サイクル増加に伴う容量減少が顕著に小さくなっており、室温よりも高い45℃以上の環境温度下での容量維持率が顕著に優れていることが分かる。
【0032】
(実施例3、比較例)<所定環境温度下での電池サイクル特性試験II>
比較例の添加剤として、(C2H5O)2P(O)CH=CH2(DEVP、以下、「Et」という。)と、実施例の添加剤Et2を準備した。
前記ベース電解液そのままで、添加剤を含まないもの(a)と、ベース電解液に比較例添加剤のEtを5wt%混合したもの(b)と、ベース電解液に実施例添加剤のEt2を5wt%混合したもの(c)、の3種類の非水電解液を調製した。
これら3種類の非水電解液(a)、(b)、(c)を使用し、電解液以外は上記実施例2と同様にして、電解液のみが異なる3種類の非水電解液電池を組み立てた。
これら3種類の非水電解液電池について、1.0Cの条件で、環境温度を25℃から順次、45℃、55℃、65℃、75℃、65℃に変更し、充放電サイクル特性試験を行った(ただし、(b)については、75℃の段階で放電容量が低下してしまったため、その後の65℃への変更は行わなかった。)。その際、各電池について、(a)環境温度が25℃での30サイクル後の時点、(b)45℃での30サイクル後の時点、(c)55℃での40サイクル後の時点、(d)65℃での50サイクル後の時点において1.0C充電時の交流インピーダンスを測定した。
【0033】
<<サイクル増加と環境温度変化に伴う放電容量、クーロン効率の変化>>
図2(a)、(b)、(c)に、各電池について、サイクル数増加と環境温度変化に伴う正極活物質単位重量当たりの放電容量の変化を示す。比較例添加剤Et含有の電池(b)は、添加剤を含まない比較例の電池(a)に比べても、環境温度が45℃以上において、サイクル増加に伴う容量減少が大きくなっている。これに対し、実施例添加剤Et2を含有する電池(c)は、環境温度を45℃、55℃、65℃、75℃に変更した後については、添加剤を含まない比較例の電池(a)や、比較例添加剤Et含有の電池(b)に比べ、サイクル増加に伴う容量減少が顕著に小さくなっており、室温よりも高い45℃以上の環境温度下での容量維持率が顕著に優れていることが分かる。
図3(a)、(b)、(c)に、各電池について、サイクル増加と環境温度変化に伴うクーロン効率(=放電容量/充電容量)の変化を示す。クーロン効率は、1に近いほど望ましく、1より小さい場合、電池反応以外の分解反応などが充電時に起こっていることを意味している。添加剤を含まない比較例の電池(a)や、比較例添加剤Et含有の電池(b)では、45℃の環境温度でもクーロン効率が大きく減少した。これに対し、実施例添加剤Et2を含有する電池(c)は、45℃や55℃の環境温度ではクーロン効率の減少幅が顕著に小さいし、また、65℃では一旦大きく減少するものの、速やかに回復するのが見られた。
これら図2,3の結果から、実施例添加剤Et2を含有する電池(c)は、45℃以上の環境温度下でクーロン効率が高く、容量維持率も高いので、室温よりも高い温度下で使用するのに望ましい電池であると言える。
【0034】
<<各環境温度下におけるサイクル増加に伴う放電容量維持率とクーロン効率の変化>>
図4〜7は、添加剤を含まない比較例の電池(○)、比較例添加剤Et含有の電池(□)、及び、実施例添加剤Et2含有の電池(◇)について、環境温度が25℃(図4)、45℃(図5)、55℃(図6)、65℃(図7)における(a)サイクル増加に伴う放電容量維持率〔=各サイクルの放電容量/所定環境温度における第1番目のサイクルにおける放電容量〕の変化と、(b)サイクル増加に伴うクーロン効率(=放電容量/充電容量)の変化を示したものである(なお、横軸のサイクルの数字は、所定環境温度変更後からカウントしたサイクル数を意味する。)。図2,3と同様、図4〜7から見ても、実施例添加剤Et2含有の電池(◇)は、45℃以上の高い温度において、放電容量維持率、クーロン効率とも良好であることが分かる。
【0035】
<<各環境温度下における充電時の交流インピーダンス(EIS)>>
図8(a)〜(d)に、前記3種類の各電池について、(a)環境温度が25℃での30サイクル後の時点、(b)45℃での30サイクル後の時点、(c)55℃での40サイクル後の時点、(d)65℃での50サイクル後の時点において1.0C充電時の交流インピーダンス(電気化学インピーダンス、EIS)を測定した結果を示す。実施例添加剤Et2含有の電池(◇)は、25℃の環境温度では、添加剤を含まない比較例の電池(○)や、比較例添加剤Et含有の電池(□)よりも交流インピーダンスがやや大きいことから、25℃(室温)環境下でのサイクル特性は、比較例の電池(○、□)よりも必ずしも良好であるとは言えない。しかしながら、実施例添加剤Et2含有の電池(◇)の充電時交流インピーダンスは、45℃以上で比較例の電池(○、□)よりも小さくなり、特に、55℃や65℃では、比較例の電池(○、□)よりも大幅に小さくなっており、45℃程度を境として比較例よりも劇的に良好となっていることが明らかである。上記実施例1や実施例2の結果を併せ考慮すると、実施例の添加剤Et2は、環境温度上昇の際の活物質の電解液界面における界面電荷移動抵抗の増加等の劣化因子を取り除く効果を奏していると考えることができる。
【0036】
(実施例4)<非水電解液の難燃性評価実験>
前記ベース電解液に、添加剤を添加しないもの、実施例の添加剤Et2を5wt%添加したもの、及び、実施例の添加剤Et2を10wt%添加したもの、の3種類の非水電解液0.5mLを調製した。
市販されているグラスフィルター繊維を幅15mm、長さ40mmの短冊状に切断し、シャーレに入れた各電解液に1分間浸漬させた。その後、液中から取り出し過剰な電解液を除くため別のシャーレに移し1分間大気中に置いた。このようにして電解液を含浸させたガラスフィルターを長さ方向が水平となるように、一端を自由端とし他端を固定した。その一端よりライターで3秒間着火し、火元を取り除いた状態から消炎するまでの時間と燃焼率〔(一端から火が到達した位置までの長さ/フィルターの長さ)×100〕で難燃性を評価した。結果を表1に示す。
なお、実施例の添加剤Et2自体に対するライターによる着火実験も行ったが、実施例添加剤Et2自体は着火しなかった。
上記の実験から明らかなように、本発明の添加剤Et2は非水電解液に対して優れた消炎効果乃至難燃性効果があることが分かった。
【0037】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8