【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、各種材料変更、設定調整等を適宜行うことができる。
【0029】
(実施例1)<部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物(CF
3CH
2O)
2P(O)CH=CH
2の合成>
窒素雰囲気下、室温で50mLの反応容器に、(CF
3CH
2O)
2P(O)H(1mmol)をトルエン(5mL)に加えた。続いて、アセチレンガスをバブリングで加え、反応容器をアセチレンガス雰囲気に置換した。ニッケル触媒Ni(PMe
3)
4(反応基質に対して5mol%)を加え、アセチレンガスをバブリングしながら5時間反応させた後、減圧下溶媒を除去し、残留物をカラムクロマトグラフィー(SiO
2、ヘキサン/イソプロピルアルコール=20/1)で精製した(収率86%)。
精製されたものの分析結果は、次のとおりであった。
HRMS:理論値272.0037、測定値:272.0036.
1H NMR(400MHz,CDCl
3):δ 6.04-6.48(m,3H),4.33-4.41(m,4H).
31P NMR(162MHz,CDCl
3):δ 20.03.
これらの分析結果から、(CF
3CH
2O)
2P(O)CH=CH
2で表される部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物と同定された。この化合物は、CASなどに登録されていない新規な化合物である。
【0030】
(実施例2、比較例)<所定環境温度下での電池サイクル特性試験I>
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)(EC:DMC=1:1(体積比))の混合溶媒に1mol/LのLiPF
6を溶解したもの〔キシダ化学、リチウム電池グレード(LBG)〕をベース電解液とした。
比較例の添加剤(a)として、(CH
3O)
2P(O)CH=CH
2(以下、「Me」という。)を、比較例の添加剤(b)として、CH
3O(C
2H
5O)P(O)CH=CH
2(以下、「MeEt」という。)を準備するとともに、実施例の添加剤(c)として、上記実施例1で合成した部分フッ素化ビニルリン酸エステル化合物(CF
3CH
2O)
2P(O)CH=CH
2(以下、「Et2」という。)を用いた。
ベース電解液にそれぞれ、Me、MeEt、Et2を5wt%混合し、比較例(a)、(b)の2種類の電解液と、実施例(c)の電解液を調製した。
これら3種類の非水電解液を使用し、正極活物質としてのLiCoO
2を86wt%、導電助剤としてのアセチレンブラックを7wt%、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを7wt%用いた正極と、負極活物質としてLi金属を用いた負極とを共通して備え、電解液のみが異なる3種類の非水電解液電池を、水蒸気と酸素が1ppm未満のアルゴンガス置換グローブボックス内で組み立てた。
【0031】
これら3種類の非水電解液電池について、1.0Cの条件で、環境温度を25℃から順次、45℃、55℃に変更し、充放電サイクル特性試験を行った。
図1(a)、(b)、(c)に、各電池について、サイクル数増加に伴う正極活物質単位重量当たりの放電容量の変化を示す。
室温25℃では、実施例の添加剤Et2を含有する非水電解液電池(c)は、比較例の添加剤MeEt含有電池(b)よりもサイクル数増加に伴う容量減少が少ないものの、比較例の添加剤Me含有電池(a)とそれほど大きな差異はなかった。しかしながら、環境温度を45℃や55℃に変更した後については、実施例の添加剤Et2を含有する非水電解液電池(c)は、比較例の電池(a)、(b)に比べ、サイクル増加に伴う容量減少が顕著に小さくなっており、室温よりも高い45℃以上の環境温度下での容量維持率が顕著に優れていることが分かる。
【0032】
(実施例3、比較例)<所定環境温度下での電池サイクル特性試験II>
比較例の添加剤として、(C
2H
5O)
2P(O)CH=CH
2(DEVP、以下、「Et」という。)と、実施例の添加剤Et2を準備した。
前記ベース電解液そのままで、添加剤を含まないもの(a)と、ベース電解液に比較例添加剤のEtを5wt%混合したもの(b)と、ベース電解液に実施例添加剤のEt2を5wt%混合したもの(c)、の3種類の非水電解液を調製した。
これら3種類の非水電解液(a)、(b)、(c)を使用し、電解液以外は上記実施例2と同様にして、電解液のみが異なる3種類の非水電解液電池を組み立てた。
これら3種類の非水電解液電池について、1.0Cの条件で、環境温度を25℃から順次、45℃、55℃、65℃、75℃、65℃に変更し、充放電サイクル特性試験を行った(ただし、(b)については、75℃の段階で放電容量が低下してしまったため、その後の65℃への変更は行わなかった。)。その際、各電池について、(a)環境温度が25℃での30サイクル後の時点、(b)45℃での30サイクル後の時点、(c)55℃での40サイクル後の時点、(d)65℃での50サイクル後の時点において1.0C充電時の交流インピーダンスを測定した。
【0033】
<<サイクル増加と環境温度変化に伴う放電容量、クーロン効率の変化>>
図2(a)、(b)、(c)に、各電池について、サイクル数増加と環境温度変化に伴う正極活物質単位重量当たりの放電容量の変化を示す。比較例添加剤Et含有の電池(b)は、添加剤を含まない比較例の電池(a)に比べても、環境温度が45℃以上において、サイクル増加に伴う容量減少が大きくなっている。これに対し、実施例添加剤Et2を含有する電池(c)は、環境温度を45℃、55℃、65℃、75℃に変更した後については、添加剤を含まない比較例の電池(a)や、比較例添加剤Et含有の電池(b)に比べ、サイクル増加に伴う容量減少が顕著に小さくなっており、室温よりも高い45℃以上の環境温度下での容量維持率が顕著に優れていることが分かる。
図3(a)、(b)、(c)に、各電池について、サイクル増加と環境温度変化に伴うクーロン効率(=放電容量/充電容量)の変化を示す。クーロン効率は、1に近いほど望ましく、1より小さい場合、電池反応以外の分解反応などが充電時に起こっていることを意味している。添加剤を含まない比較例の電池(a)や、比較例添加剤Et含有の電池(b)では、45℃の環境温度でもクーロン効率が大きく減少した。これに対し、実施例添加剤Et2を含有する電池(c)は、45℃や55℃の環境温度ではクーロン効率の減少幅が顕著に小さいし、また、65℃では一旦大きく減少するものの、速やかに回復するのが見られた。
これら
図2,3の結果から、実施例添加剤Et2を含有する電池(c)は、45℃以上の環境温度下でクーロン効率が高く、容量維持率も高いので、室温よりも高い温度下で使用するのに望ましい電池であると言える。
【0034】
<<各環境温度下におけるサイクル増加に伴う放電容量維持率とクーロン効率の変化>>
図4〜7は、添加剤を含まない比較例の電池(○)、比較例添加剤Et含有の電池(□)、及び、実施例添加剤Et2含有の電池(◇)について、環境温度が25℃(
図4)、45℃(
図5)、55℃(
図6)、65℃(
図7)における(a)サイクル増加に伴う放電容量維持率〔=各サイクルの放電容量/所定環境温度における第1番目のサイクルにおける放電容量〕の変化と、(b)サイクル増加に伴うクーロン効率(=放電容量/充電容量)の変化を示したものである(なお、横軸のサイクルの数字は、所定環境温度変更後からカウントしたサイクル数を意味する。)。
図2,3と同様、
図4〜7から見ても、実施例添加剤Et2含有の電池(◇)は、45℃以上の高い温度において、放電容量維持率、クーロン効率とも良好であることが分かる。
【0035】
<<各環境温度下における充電時の交流インピーダンス(EIS)>>
図8(a)〜(d)に、前記3種類の各電池について、(a)環境温度が25℃での30サイクル後の時点、(b)45℃での30サイクル後の時点、(c)55℃での40サイクル後の時点、(d)65℃での50サイクル後の時点において1.0C充電時の交流インピーダンス(電気化学インピーダンス、EIS)を測定した結果を示す。実施例添加剤Et2含有の電池(◇)は、25℃の環境温度では、添加剤を含まない比較例の電池(○)や、比較例添加剤Et含有の電池(□)よりも交流インピーダンスがやや大きいことから、25℃(室温)環境下でのサイクル特性は、比較例の電池(○、□)よりも必ずしも良好であるとは言えない。しかしながら、実施例添加剤Et2含有の電池(◇)の充電時交流インピーダンスは、45℃以上で比較例の電池(○、□)よりも小さくなり、特に、55℃や65℃では、比較例の電池(○、□)よりも大幅に小さくなっており、45℃程度を境として比較例よりも劇的に良好となっていることが明らかである。上記実施例1や実施例2の結果を併せ考慮すると、実施例の添加剤Et2は、環境温度上昇の際の活物質の電解液界面における界面電荷移動抵抗の増加等の劣化因子を取り除く効果を奏していると考えることができる。
【0036】
(実施例4)<非水電解液の難燃性評価実験>
前記ベース電解液に、添加剤を添加しないもの、実施例の添加剤Et2を5wt%添加したもの、及び、実施例の添加剤Et2を10wt%添加したもの、の3種類の非水電解液0.5mLを調製した。
市販されているグラスフィルター繊維を幅15mm、長さ40mmの短冊状に切断し、シャーレに入れた各電解液に1分間浸漬させた。その後、液中から取り出し過剰な電解液を除くため別のシャーレに移し1分間大気中に置いた。このようにして電解液を含浸させたガラスフィルターを長さ方向が水平となるように、一端を自由端とし他端を固定した。その一端よりライターで3秒間着火し、火元を取り除いた状態から消炎するまでの時間と燃焼率〔(一端から火が到達した位置までの長さ/フィルターの長さ)×100〕で難燃性を評価した。結果を表1に示す。
なお、実施例の添加剤Et2自体に対するライターによる着火実験も行ったが、実施例添加剤Et2自体は着火しなかった。
上記の実験から明らかなように、本発明の添加剤Et2は非水電解液に対して優れた消炎効果乃至難燃性効果があることが分かった。
【0037】
【表1】