特許第6183844号(P6183844)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6183844配位高分子化を利用するランタノイドイオンの分別沈殿法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183844
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】配位高分子化を利用するランタノイドイオンの分別沈殿法
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20170814BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20170814BHJP
   C01F 17/00 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C22B59/00
   C22B7/00 A
   C01F17/00 G
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-214843(P2013-214843)
(22)【出願日】2013年10月15日
(65)【公開番号】特開2015-78396(P2015-78396A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】半田 友衣子
(72)【発明者】
【氏名】成田 弘一
(72)【発明者】
【氏名】大井 健太
(72)【発明者】
【氏名】田中 幹也
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 昭弘
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−166129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 59/00
C01F 17/00
C22B 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオジムイオン及びジスプロシウムイオンを含有する溶液からジスプロシウムイオンを分別沈殿する方法であって、
ジ−2−エチルへキシルリン酸エステルを配位高分子形成剤として用い、水と水溶性有機溶媒との混合液中でジスプロシウムイオンを選択的に配位高分子化して分別沈殿させることを特徴とする分別沈殿法。
【請求項2】
前記混合液に、さらに酸を混合して、該混合液の水素イオン濃度を高めることを特徴とする請求項1に記載の分別沈殿法。
【請求項3】
前記水溶性有機溶媒が、エタノール、メタノール、及びアセトンから選ばれることを特徴とする請求項1又は2に記載の分別沈殿法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配位高分子化を利用するランタノイドイオンの分別沈殿法に関し、特に、ネオジムイオンとジスプロシウムイオンの分別沈殿法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ランタノイドの供給構造の脆弱化が明らかとなり、安定な供給確保の対策として、使用済み製品などからのランタノイドのリサイクルの重要性が唱えられている。リサイクルプロセスの中でも特に重要なのは分離である。ランタノイドを分離対象とする場合、2種類の分離がある。1つは鉄などベースメタルからのランタノイドの分離、もう一つはランタノイドの相互分離である。ランタノイドはその性質が互いに非常に類似しているため、後者の分離が特に困難である。
【0003】
例えば、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)、ホウ素(B)を主成分とするネオジム磁石は、永久磁石の中では最も強力とされ、ハイブリッド自動車の駆動用モータ、エアコン用コンプレッサーモータなどに利用されており、少量のジスプロシウム(Dy)を添加すると保磁力が向上することが知られている。
このような磁石からのランタノイドのリサイクルでは、まず、大量の鉄を取り除くことが必要であり、例えば、Naganawaらは鉄の除去に有効な抽出試薬を開発している(非特許文献1,2)。また、Shirayamaらは乾式法により、鉄とランタノイドの分離を検討している(非特許文献3)
【0004】
次いで、ランタノイドの相互分離である、ネオジムとジスプロシウムの分離が行われる。
従来、ネオジム(Nd)とジスプロシウム(Dy)の分離法としては、溶媒抽出法が検討されている(非特許文献4)。
この溶媒抽出法は、水溶液中に溶解した分離対象イオンを有機溶媒中に選択的に抽出して、その後再び水溶液相に逆抽出する方法である。この手法は多くの金属イオン分離系に適用されており、工業的に利用されている抽出試薬も多種類ある。
しかしながら、目的物質が高濃度の場合に有効であるが、低濃度の系には不向きである。また、選択性を担うのは有機溶媒中の抽出試薬であるので、目的物に合わせて抽出試薬を選択することができるが、ランタノイドの相互分離など、金属イオンの性質が類似する場合は、プロセスが多段になり、その場合、大型設備、大量の有機溶媒とエネルギーが必要である。
【0005】
また、金属イオンの分離法の1つに、「イオン交換法」がある。
この方法は、多孔性ポリマーに金属イオンを吸着させた後、選択的に脱着することによって目的物質を分離する手法である。通常のイオン交換樹脂などでは、交換体そのものとランタノイドイオンの相互作用に大差がなく、脱着プロセスにおいてランタノイドイオンに選択性のある錯化剤を用いることで分離を行う。また、特定の金属イオンに高選択的なキレート剤を結合させたキレート樹脂では、分離プロセスは簡単になるが、キレート樹脂の合成に有機溶媒が必要でありかつ合成プロセスが煩雑であるという問題がある。
【0006】
また、他の分離法として、「含浸樹脂法」も挙げられる。
この方法では、溶媒抽出試薬を多孔性ポリマーに浸み込ませて用いる。金属イオンの分離メカニズムは、前述の溶媒抽出法と同じであるが、有機溶媒を用いない点が優れている。ただし、液体を浸み込ませているだけなので、液体がポリマーから溶けだしてしまうことによる劣化が問題点である。
【0007】
さらに、他の分離法として、「沈殿分離法」が挙げられる。
アイシン精機は、カツオだしなどに含まれるイノシン酸を活用して、中古の磁石からネオジムやジスプロシウムなどを抽出する技術を発表しており(非特許文献5、6)、従来法より低コストで安全なのが特徴であるといえる。この方法で、1リットルあたり90グラムのイシン酸に1リットルあたり40グラムの塩化ネオジム溶液を混合すると95%以上のネオジムを沈殿物として回収でき、ジスプロシウムなどの安定調達に一定の目途がたつと記載されている。
しかしながら、ネオジムとジスプロシウムの相互分離に関するデータは示されていない。
【0008】
また、非特許文献7では、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、及びエルビウム(Er)は、62%のdi(2-ethylhexyl)phosphoric acid(HA)と37%のmono-(2-etylhexyl)phosphoric acid(H2A’)の混合物と、アセトン溶液中で混合すると、HAとのみ沈殿物を生じ、一方で、ランタン(La)は、H2A’とのみ錯形成により沈殿することを見出している。そして、これを利用して、ランタン(La)とネオジム(Nd)の混合溶液からのこれらの分離を試みた結果、例えばランタンとネオジムを1:1で混合した系では、ネオジム19.8%、ランタンは0.7%沈殿するとしている。プラセオジム(Pr)とエルビウム(Er)の分離の結果は記載がないが、ネオジム−ランタン系より悪いと報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】H. Naganawa, S. Nishihama, K. Yoshizuka, Sov. Extr. Res. Dev. Jpn, 2007, 14, 151.
【非特許文献2】K. Shimojo, H. Naganawa, J. Noro, F. Kubot, M. Goto, Anal.Sci., 2007, 23, 1427.
【非特許文献3】S. Shirayama, T.H. Okabe, Proceeding of Annual Meeting of MMIJ, 2008, Mar.27-29, 69-70.
【非特許文献4】M. Tanaka, Y. Sato, Y. Huang, H. Narita, K. Koyama, Proceedings of the 10th International Symposium on East Asian Resources Recycling Technology, Nov.2-6, 2009, 200-203.
【非特許文献5】経産業新聞 7月8日
【非特許文献6】資源・素材学会2013(春季大会)発表要旨第81ページ
【非特許文献7】M. Milanova, D. Todorovsky, M. Arnaudov, N. Minkova, Separation Science and Technology, 1995, 30(5)5, 821-8320.
【非特許文献8】Yuiko Tasaki-Handa, Hiroaki Sato, Masaki Torimura, Mikiya Tanaka, Akihiro Wakisaka, Solvent Extraction Research and Development Japan, accepted.
【非特許文献9】Yuiko Tasaki-Handa, Kenta Ooi, Mikiya Tanaka, Akihiro Wakisaka, Analytical Sciences, 2013, 29(7), 685-687.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のとおり、非特許文献6には、ランタノイドイオンの分離法については記載がなく、また、非特許文献7には、ランタノイド系元素の有効な抽出試薬であるdi(2-ethylhexyl)phosphoric acid(液体)を用いたランタノイドイオンの分離法が記載されているが、ネオジム(Nd)イオンとジスプロシウム(Dy)イオンについては記載がない。
【0011】
本発明は、こうした現状を鑑みてなされたものであって、分離が非常に困難であるランタノイドイオン、中でも特に、ネオジムイオンとジスプロシウムイオンを、選択的かつ低コストに分離する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ランタノイドイオン(Ln3+)に選択性が高い溶媒抽出試薬として知られているジ-2-エチルへキシルリン酸エステル(di(2-ethylhexyl)phosphoric acid、以下、「Hdehp」と記載することもある。)(液体)(1のA)が、金属イオンと配位高分子(固体)を形成すること図1のC参照)を利用して、上記の目的を達成しうることを見出した。すなわち、通常溶媒抽出系ではHdehpは1:6の錯体を形成しているものであるが、アルコール/水混合溶媒中ではランタノイドイオン(Ln3+)と反応して配位高分子を形成すること、及びこの反応率は、イオンの種類及び混合溶媒組成比に依存して変化するという知見を得た。
【0013】
本発明は、該知見に基づいて完成に至ったものであり、以下の発明が提供される。
[1]ネオジムイオン及びジスプロシウムイオンを含有する溶液からジスプロシウムイオンを分別沈殿する方法であって、
ジ−2−エチルへキシルリン酸エステルを配位高分子形成剤として用い、水と水溶性有機溶媒との混合液中でジスプロシウムイオンを選択的に配位高分子化して分別沈殿させることを特徴とする分別沈殿法。
[2]前記混合液に、さらに酸を混合して、該混合液の水素イオン濃度を高めることを特徴とする[1]に記載の分別沈殿法。
[3]前記水溶性有機溶媒が、エタノール、メタノール、及びアセトンから選ばれることを特徴とする[1]又は[2]に記載の分別沈殿法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶媒抽出のように有機溶媒を用いる多段プロセスを必要とすることなく、ネオジムイオンとジスプロシウムイオンを分離することができる。また、本発明の方法は、従来利用されている抽出試薬そのものを固体化するものであり、液体抽出試薬を担持させる含浸樹脂とは異なり、調製に必要な溶媒は、水のみまたは水とアルコールなど親水性有機溶媒のみであり、調製法は非常に低コストで簡便である。また、分離が非常に困難であるランタノイドイオンに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】Hdehpの配位高分子化の説明図
図2】NdとDyの単一成分溶液からの沈殿率のエタノール/水組成依存性を示す図
図3-1】Dy:Nd:Nadehp=1:1:3での沈殿率を示す図
図3-2】Dy:Nd:Nadehp=1:1:3混合溶液での配位高分子中Dy/Nd比を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、ランタノイドイオンの分離に有効な抽出試薬であるジ−2−エチルへキシルリン酸エステル(液体)が、金属イオンと配位高分子(固体)を形成することを利用した分別沈殿法であって、ジ−2−エチルへキシルリン酸エステルを配位高分子形成剤として用い、ネオジムイオン及びジスプロシウムイオンを含有する水と水溶性有機溶媒との混合液中で、ジスプロシウムイオンを選択的に配位高分子化して分別沈殿させることを特徴とするものである。
【0017】
最初に、図1を用いて、Hdehpの配位高分子化について記載する。
ジ−2−エチルへキシルリン酸エステル(Hdehp、図1のAは、Peppardら(D.F.Peppard,G.W.Mason,J.L.Maier,and W.J.Driscoll,J.Inorg.Nucl.Chem.1957,4,334-343.)によって、ランタノイドイオンに選択性が高い溶媒抽出試薬として提案された。無極性溶媒中では二量体を形成すると言われている。通常の溶媒抽出系では、3価の金属イオンと二量体3つで1:6錯体を形成する(図1のB)。また、金属イオンとHdehpの濃度が高い場合には、金属イオン(M=LnまたはFeまたはAlなど)とHdehpが有機相中にゲルを生成することが知られている。ゲルの組成はM:Hdehp=1:3であり、Hdehp 1分子が2つの金属イオンを架橋して高分子型になった錯体と考えられている(T. Harada and M. Smuts, J. Inorg. Nucl. Chem., 1970, 32, 649-662.)(以下、M(dehp)3と記載することもある。)
【0018】
有機配位子が金属イオンを架橋して形成する高分子型錯体は、近年、配位高分子またはMetal Organic Framework(MOF)と呼ばれ、着目されている材料群である。
発明者らは、MとHdehpが、エタノールまたはエタノール−水混合溶媒で配位高分子化して[M(dehp)3]を形成し、沈殿することを見出している(上記非特許文献8、9)。
【0019】
本発明は、金属イオンとHdehpの配位高分子化を利用した分別沈殿法であって、ネオジムイオン及びジスプロシウムイオンを含有する、水と水溶性有機溶媒との混合液中で、Hdehpがジスプロシウムイオンと選択的に配位高分子化し、該配位高分子を沈殿させることにより、ネオジムイオンとジスプロシウムイオンを分離できることを見出したことによるものである。
【0020】
本発明において、水と混合して用いる溶媒は、水と混合する水溶性有機溶媒であればよく、特に限定されないが、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール等の低級アルコール、或いは、アセトンなどを用いることができる。
また、混合溶液中の水溶性有機溶媒の濃度は、特に限定されないが、好ましくは70〜90容量%である。
また、水及び水溶性有機溶媒の混合溶液中のジ−2−エチルへキシルリン酸エステル(Hdehp)の濃度は50〜500mMが好ましい。
【0021】
また、ネオジムイオン及びジスプロシウムイオンを含有する混合液において、Hdehpの濃度は、分別沈殿させるジスプロシウムイオンの濃度に対して、3倍となるように混合されることが望ましい。
【0022】
本発明において、水と水溶性有機溶媒との混合液中で、ジスプロシウムイオンを選択的に配位高分子化する方法としては、ネオジムイオンとジスプロシウムイオンが存在する混合液中に、配位高分子化剤であるHdehpが含有されていればよく、その混合方法は特に限定されない。
すなわち、例えば、ネオジムイオン及びジスプロシウムイオンを含有する溶液として、ネオジム及びジスプロシウムを溶解させた水溶液、又は水溶性有機溶媒にネオジム及びジスプロシウムを溶解させた溶液、或いは水と水溶性有機溶媒の混合液にネオジム及びジスプロシウムを溶解させた溶液等が用いられる。そして、これらのネオジムイオン及びジスプロシウムイオンを含有するいずれかの溶液に、Hdehpを混合するか、或いは、前記のいずれかの溶液に、水と水溶性有機溶媒との混合液にHdehpを溶解させた溶液を混合し、さらに、必要に応じて、水及び/又は水溶性有機溶媒を混合する。
こうして得られた混合液を、例えば、室温で一晩放置するなどして配位高分子を生成させ、その後、混合液中に沈殿した配位高分子を、洗浄・濾過して、分離する。
【0023】
さらに、本発明においては、混合液に酸を混合して、該混合液の水素イオン濃度を高めることにより、分離効率を高めることができる。
好ましい水素イオン濃度は、0.3Mである。
混合する酸は、水に溶解するものであれば、特に限定されないが、例えば、硝酸又は塩酸などが好ましく用いられる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の、Hdehpが金属イオンと配位高分子(固体)([M(dehp)3])を形成することを利用した沈殿分離法について、実施例を用いて説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
[0.30M Nadehp 80/20vol%エタノール/水溶液の調製]
反応前後でpHが変化しないように、NaOH水溶液を用いて、HdehpをNa型に変えた。
Hdehp 9.66gと14.5M NaOH水溶液2.0mLと水18mLを、エタノールに溶解して100mLとし、0.30M Nadehp 80/20vol%エタノール/水溶液を調製した。
【0026】
[0.20 M LnCl3 エタノール溶液の調製]
ランタノイド(Ln)のエタノール溶液を、以下のようにして調製した。
NdCl3 6水和物、DyCl3 6水和物、及びFeCl3 6水和物のそれぞれを、エタノールに溶解して0.20 M溶液を調製した。FeCl3の場合のみ、沈殿物を生じる可能性があるため、2 M HNO3水溶液を体積比として500分の1添加した。
【0027】
(実施例1)
本実施例では、調製した前記のLnエタノール溶液のモル濃度を測定した。
得られたNdCl3エタノール溶液、DyCl3エタノール溶液、及びFeCl3エタノール溶液からそれぞれ0.025mLを採取して重量を秤量後、エタノールを蒸発させてから100mLにメスアップしてそれぞれの溶液モル濃度をICP-発光分光分析(ICP-OES)で決定した。
結果を表1にまとめる。
【0028】
【表1】
【0029】
(実施例2)
本実施例では、NdとDyの単一成分溶液を用いて、配位高分子化のエタノール/水組成の依存性について検討した。
最初に、表2−1に示す4種類の溶液を混合して、各重量を記録した。
なお、LnとNadehpは、配位高分子化の当量比(1:3)で混合し、最終的なエタノール濃度が96%(1-1と1-4)、81%(1-2と1-5)、及び66%(1-3と1-6)となるようにした。
【0030】
【表2-1】
【0031】
その後、溶液を一晩放置し、沈殿した配位高分子を洗浄・濾過して重量を測定した。
実施例1で決定したモル濃度と混合した溶液重量、沈殿物の重量から、NdおよびDyの沈殿率を求めた。
結果を表2−2と図2にまとめる。
【0032】
【表2-2】
【0033】
ほとんど全てのDyおよびNdが配位高分子化して沈殿したことがわかる。
なお、沈殿率が100%を超えている場合が多く、濾過時の洗浄が不十分で高分子化していないNadehpが残っている可能性等が考えられる。
【0034】
(実施例3)
本実施例では、Dy:Nd:Nadehp =1:1:3混合溶液での配位高分子化における酸濃度依存性を検討した。
最初に、表3−1のとおり、4種類の溶液を混合し、各重量を記録した。
なお、エタノール濃度は全て81%とし、水又はHNO3水溶液を用いて、混合する水溶液の酸濃度を変化させた。また、LnとNadehpの混合比は、Dy:Nd:Nadehp=1:1:3とした。
【0035】
【表3-1】
【0036】
その後、溶液を一晩放置した後、沈殿した配位高分子を洗浄・濾過して重量を測定した。
得られた配位高分子約15mgを、60% HNO3に入れて160℃のホットプレートで5日間加熱して分解した。分解溶液中のDy,Nd,PをICP-OESで定量した。配位高分子1gあたりのDy,Nd,Pのモル量とP/(Dy+Nd)を表3−2にまとめる。
【0037】
【表3-2】
【0038】
P/(Dy+Nd)はいずれもおよそ3.0であり、配位高分子として沈殿していることが確認できた。
【0039】
実施例1で決定したモル濃度と混合した溶液重量、沈殿した配位高分子の重量、表3−2に示す配位高分子中のモル濃度からDyおよびNdのそれぞれの沈殿率を求めた。
結果を表3−3と図3−1にまとめる。
【0040】
【表3-3】
【0041】
表から、DyとNdの混合溶液では、酸濃度によらず、Dyが選択的に配位高分子化することが分かる。
また、図3−2からは、溶液中の酸濃度が高いほど、DyとNdの分離効率が良いことが分かる。
【0042】
加えたHNO3の濃度をH+濃度として、配位高分子中のDy/Ndを、図3−2にプロットする。
酸濃度が高いほどDy/Nd比が高く、分離が良いことがわかる。
【0043】
さらに、沈殿重量とモル量から、溶液中に残っているDyおよびNd濃度を算出し、以下に定義する選択係数Kcを求めた。Kcは2つの化学種(DyとNd)の分離の指標であり、値が大きいほど分離能が高いことを示す。
【0044】
【数1】
【0045】
比較のために、溶媒抽出系における抽出係数Kex
【0046】
【数2】
【0047】
【数3】
結果を表3−4にまとめる。
【0048】
【表3-4】
【0049】
表に示すとおり、配位高分子化を利用するDyとNdの分離では、酸濃度10-5Mの場合は溶媒抽出系と同程度の選択係数となり、酸濃度が高いと溶媒抽出よりも選択係数が高くなる。
【0050】
(実施例4)
本実施例では、Dy:Nd:Nadehp=1:5:3混合溶液での配位高分子化について検討した。
Dy:Nd:Nadehp=1:5:3(Ndが過剰)となるように、表4−1のとおり4種類の溶液を混合して、各重量を記録した。
【0051】
【表4-1】
【0052】
一晩放置した後、沈殿物を洗浄・濾過して重量を測定した。
実施例3と同じ手順で配位高分子をHNO3で分解して配位高分子1gあたりのDy,Nd,Pのモル量とP/(Dy+Nd)、配位高分子中Dy/Nd、選択係数を求めた。結果を表4−2にまとめる。
【0053】
【表4-2】
【0054】
表に示すとおり、Ndが過剰に存在しても、Dyが選択的に配位高分子化することが分かる。
【0055】
(実施例5)
本実施例では、Dy:Nd:Nadehp=1:5:6のNd+Dyの混合溶液での配位高分子化について検討した。
実施例4よりもNadhepが過剰となるように、表5−1とおり4種類の溶液を混合。各重量を記録した。
【0056】
【表5-1】
【0057】
一晩放置した後、沈殿物を洗浄・濾過して重量を測定した。
実施例3と同じ手順で配位高分子をHNO3で分解して配位高分子1gあたりのDy,Nd,Pのモル量とP/(Nd+Dy)、配位高分子中Dy/Ndを求めた。結果を表5−2にまとめる。
測定の結果、沈殿率が100%以上となってしまい、選択係数は算出できなかった。
【0058】
【表5-2】
【0059】
この結果、NadehpとNdが過剰に存在しても、Dyが選択的に配位高分子化することが分かった。
【0060】
(実施例6)
本実施例では、Nd+Dy溶液を水溶液に、硝酸を塩酸に変えたものである。
表6−1のとおり5種類の溶液を混合した。最終的なエタノール濃度は、81%である。
【0061】
【表6-1】
【0062】
実施例3と同様の手順で配位高分子中のNdとDyの沈殿率を求めた。結果を以下の表に示す。
【0063】
【表6-2】
【0064】
(実施例7)
本実施例では、上記実施例において、エタノールのかわりにメタノールまたはアセトンを用いてNdとDyの分離を行ったものである。
前記[0025]に記載の[0.30M Nadehp 80/20vol%エタノール/水溶液の調製]において、エタノールをメタノールまたはアセトンに置き換えて、Nadehp溶液を調製し、表7−1のとおり5種類の溶液を混合した。最終的なメタノールまたはアセトン濃度は、81%である。
【0065】
【表7-1】
【0066】
実施例3と同様の手順で配位高分子中のNdとDyの沈殿率を求めた。結果を下表に示す。
【0067】
【表7-2】
【0068】
(実施例8)
本実施例では、DyとFeの混合溶液での配位高分子化について検討した。
表8−1のとおり4種類の溶液を混合して各重量を記録した。各系のDy:Fe:Nadehpを表中に示す。
【0069】
【表8-1】
【0070】
一晩放置した後、沈殿物を洗浄・濾過して重量を測定した。
実施例3と同じ手順で配位高分子をHNO3で分解して配位高分子1gあたりのDy,Fe,Pのモル量とP/(Dy+Fe)、配位高分子中Dy/Fe、選択係数を求めた。
結果を表8−2にまとめる。
【0071】
【表8-2】
【0072】
表からわかるように、DyとFeはどちらも同程度に配位高分子化しやすく、両者の分離はよくない。
図1
図2
図3-1】
図3-2】