特許第6184030号(P6184030)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6184030アルミニウム化合物、薄膜形成用原料及び薄膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184030
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】アルミニウム化合物、薄膜形成用原料及び薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/06 20060101AFI20170814BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C07F5/06 ECSP
   C23C16/40
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-554256(P2014-554256)
(86)(22)【出願日】2013年11月26日
(86)【国際出願番号】JP2013081711
(87)【国際公開番号】WO2014103588
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2016年9月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-281457(P2012-281457)
(32)【優先日】2012年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100143856
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 廣己
(74)【代理人】
【識別番号】100161698
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 知子
(74)【代理人】
【識別番号】100171217
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 望
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100155206
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 源一
(72)【発明者】
【氏名】吉野 智晴
(72)【発明者】
【氏名】桜井 淳
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 翼
(72)【発明者】
【氏名】畑▲瀬▼ 雅子
(72)【発明者】
【氏名】内生蔵 広幸
(72)【発明者】
【氏名】西田 章浩
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−173587(JP,A)
【文献】 特開2012−7192(JP,A)
【文献】 特開2007−320831(JP,A)
【文献】 Materials Research Society symposia proceedings,2000年,Vol.606,p.83-89
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/00−5/06
C23C 16/00−16/56
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるアルミニウム化合物。
【化1】
(式中、R1及びR2は各々独立に炭素数2〜の直鎖又は分岐状のアルキル基を表し、R3はメチル基を表す。)
【請求項2】
上記一般式(I)において、R1及びR2がエチル基である請求項1に記載のアルミニウム化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアルミニウム化合物を含有してなる薄膜形成用原料。
【請求項4】
請求項に記載の薄膜形成用原料を気化させて得た、上記アルミニウム化合物を含有する蒸気を、基体が設置された成膜チャンバー内に導入し、該アルミニウム化合物を分解及び/又は化学反応させて該基体の表面にアルミニウムを含有する薄膜を形成する薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有する新規なアルミニウム化合物、該化合物を含有してなる薄膜形成用原料及び該原料を用いたアルミニウムを含有する薄膜を形成する薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム元素を含む薄膜材料は、特異的な電気特性及び光学特性を示し、種々の用途に応用されている。例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金薄膜は、高い導電性、エレクトロマイグレーション耐性からLSIの配線材料として使用されており、酸化アルミニウム系薄膜は、機械部品や工具等のハードコーティング膜;半導体メモリの絶縁膜、ゲート絶縁膜、誘電体膜;ハードディスク用MRヘッド等の電子部品;光通信用回路等の光学ガラスとして使用されている。
【0003】
上記の薄膜の製造法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、化学気相成長法等が挙げられるが、組成制御性、段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能である等多くの長所を有しているので、ALD(Atomic Layer Deposition)法を含む化学気相成長(以下、単にCVDと記載することもある)法が最適な製造プロセスである。
【0004】
CVD法用原料として用いられるアルミニウム化合物は、従来、様々なアルミニウム化合物が知られている。例えば、特許文献1には薄膜形成用原料としてトリメチルアルミニウムやジメチルアルミニウムアルコキシド化合物に代表されるアルコキシアランが開示されているが、本発明のアルミニウム化合物についての記載はない。アルコキシアランの中で最も好ましい薄膜形成用原料としてAlMe2(OiPr)が報告されている。しかし、AlMe2(OiPr)は熱安定性が低く、化学気相成長用原料として十分に満足し得る化合物ではない。また、トリメチルアルミニウムは自然発火性があることから、化学気相成長用原料として十分に満足し得る化合物ではない。非特許文献1には、アルミニウムアミド化合物として(Me2NCH2CH2NMe)Al(NMe22が開示されているが、本発明のアルミニウム化合物についての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US2009/203222A1
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sean T. Barry, Roy G. Gordon and Valerie A. Wagner "Monomeric Chelated Amides of Aluminum and Gallium: Volatile, Miscible Liquid Precursors for CVD" Mat. Res. Soc. Symp.Proc.Vol.606 (2000) P.83-89
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CVD法等の化合物を気化させて薄膜を形成する原料に適する化合物(プレカーサ)に求められる性質は、融点が低く液体の状態で輸送が可能であること、液体の粘度が低いこと、蒸気圧が大きく気化させやすいこと、熱安定性が高いことである。特にALD法においては、加熱によって気相となったプレカーサが熱分解することなく基体へ輸送され、高温に温められた基体に熱分解することなく吸着し、その後導入される反応性ガスと反応することで薄膜を形成する工程を実施する為に、プレカーサの熱安定性の高さが重要となる。従来のアルミニウム化合物について、これらの点で充分に満足し得る化合物はなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、検討を重ねた結果、特定の構造を有するアルミニウム化合物が上記課題を解決し得ることを知見し、本発明に到達した。
【0009】
本発明は、下記一般式(I)で表されるアルミニウム化合物を提供するものである。
【0010】
【化1】
(式中、R1及びR2は各々独立に炭素数2〜5の直鎖又は分岐状のアルキル基を表し、R3はメチル基又はエチル基を表す。)
【0011】
また本発明は、上記一般式(I)で表されるアルミニウム化合物を含有してなる薄膜形成用原料を提供するものである。
また本発明は、上記薄膜形成用原料を気化させて得た、上記アルミニウム化合物を含有する蒸気を、基体が設置された成膜チャンバー内に導入し、該アルミニウム化合物を分解及び/又は化学反応させて該基体の表面にアルミニウムを含有する薄膜を形成する薄膜の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低融点であり、充分な揮発性を示し且つ高い熱安定性を有するアルミニウム化合物を提供することができる。また、該化合物はCVD法による薄膜形成用原料として適している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係るアルミニウムを含有する薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の一例を示す概要図である。
図2図2は、本発明に係るアルミニウムを含有する薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の別の例を示す概要図である。
図3図3は、本発明に係るアルミニウムを含有する薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の別の例を示す概要図である。
図4図4は、本発明に係るアルミニウムを含有する薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の別の例を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明のアルミニウム化合物は、上記一般式(I)で表されるものであり、CVD法等の気化工程を有する薄膜製造方法のプレカーサとして好適なものである。また、該化合物は、熱安定性が高いことから特にALD法に用いられるプレカーサとして好適なものである。
【0015】
本発明の上記一般式(I)において、R1及びR2で表される炭素数2〜5の直鎖又は分岐状のアルキル基としては、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、ペンチル、第二ペンチル、第三ペンチル、イソペンチル、ネオペンチルが挙げられる。また、R3はメチル基又はエチル基を表す。
【0016】
上記一般式(I)において、R1、R2及びR3は、化合物を気化させる工程を有する薄膜の製造方法に用いる場合は、常温常圧下において液体状態であり、蒸気圧が大きいものが好ましい。液体状態の粘度が低い場合は、輸送が容易であることから特に好ましい。具体的には、R1、R2がエチル基又はイソプロピル基である場合、常温で液体状態であり、熱安定性が高いことから好ましく、なかでも、R1、R2がエチル基であるもの、とりわけR1、R2がエチル基でありR3がメチル基であるものは特に液体状態の粘度が低いことから好ましい。また、気化工程を伴わないMOD法による薄膜の製造方法の場合は、R1、R2及びR3は、使用される溶媒に対する溶解性、薄膜形成反応等によって、任意に選択することができる。
【0017】
本発明のアルミニウム化合物の好ましい具体例としては、例えば、下記化合物No.1〜No.8が挙げられる。本発明のアルミニウム化合物は、これらの具体例に限定されない。
【0018】
【化2】
【0019】
【化3】
【0020】
本発明のアルミニウム化合物は、その製造方法により特に制限されることはなく、周知の反応を応用して製造される。製造方法としては、例えばアルミニウムハイドライドに、製造しようとする化合物と対応する構造のジアルキルアミン及び対応する構造のジアミン化合物を反応させることや、塩化アルミニウムに、対応する構造のジアルキルアミン及び対応する構造のジアミン化合物を反応させることで得ることができる。
【0021】
本発明の薄膜形成用原料とは、上記説明の本発明のアルミニウム化合物を薄膜のプレカーサとしたものであり、その形態は、該薄膜形成用原料が適用される製造プロセスによって異なる。例えば、金属としてアルミニウムのみを含む薄膜を製造する場合、本発明の薄膜形成用原料は、本発明のアルミニウム化合物以外の金属化合物及び半金属化合物を非含有である。一方、アルミニウム、並びにアルミニウム以外の金属及び/又は半金属を含む薄膜を製造する場合、本発明の薄膜形成用原料は、本発明のアルミニウム化合物に加えて、アルミニウム以外の金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物(以下、他のプレカーサともいう)を含有する。本発明の薄膜形成用原料が、他のプレカーサを含有する場合、他のプレカーサの含有量は、本発明のアルミニウム化合物1モルに対して、好ましくは0.01モル〜10モルであり、より好ましくは0.1〜5モルである。本発明の薄膜形成用原料は、後述するように、更に、有機溶剤及び/又は求核性試薬を含有してもよい。
本発明の薄膜形成用原料は、上記説明のとおり、プレカーサであるアルミニウム化合物の物性がCVD法、ALD法に好適であるので、特に化学気相成長用原料(以下、CVD用原料ということもある)として有用である。
【0022】
本発明の薄膜形成用原料が化学気相成長用原料である場合、その形態は使用されるCVD法の輸送供給方法等の手法により適宜選択されるものである。
【0023】
上記の輸送供給方法としては、CVD用原料を、原料容器中で加熱及び/又は減圧することにより気化させ、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に、該基体が設置された成膜チャンバー内(以下、堆積反応部と記載することもある)へと導入する気体輸送法、CVD用原料を、液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて、成膜チャンバー内へと導入する液体輸送法がある。気体輸送法の場合は、上記一般式(I)で表されるアルミニウム化合物そのものがCVD原料となり、液体輸送法の場合は、上記一般式(I)で表されるアルミニウム化合物そのもの又は該化合物を有機溶剤に溶かした溶液がCVD用原料となる。
【0024】
また、多成分系のCVD法においては、CVD用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、シングルソース法と記載することもある)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、カクテルソース法と記載することもある)がある。カクテルソース法の場合、本発明のアルミニウム化合物のみによる混合物若しくは混合溶液、又は本発明のアルミニウム化合物と他のプレカーサとの混合物若しくは混合溶液がCVD用原料である。
【0025】
上記の有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることが出来る。該有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジン等が挙げられ、これらは、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独又は二種類以上の混合溶媒として用いられる。これらの有機溶剤を使用する場合、該有機溶剤中における本発明のアルミニウム化合物及び他のプレカーサの合計量が0.01〜2.0モル/リットル、特に0.05〜1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。
【0026】
また、多成分系のCVD法の場合において、本発明のアルミニウム化合物と共に用いられる他のプレカーサとしては、特に制限を受けず、CVD用原料に用いられている周知一般のプレカーサを用いることができる。
【0027】
上記の他のプレカーサとしては、アルコール化合物、グリコール化合物、β−ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物、有機アミン化合物等の有機配位子として用いられる化合物からなる群から選択される一種類又は二種類以上と珪素や金属(但しアルミニウムを除く)との化合物が挙げられる。また、プレカーサの金属種としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムが挙げられる。
【0028】
上記の他のプレカーサの有機配位子として用いられるアルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、第2ブチルアルコール、イソブチルアルコール、第3ブチルアルコール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、第3ペンチルアルコール等のアルキルアルコール類;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−メトキシ−1−メチルエタノール、2−メトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−エトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−イソプロポキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−ブトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)−1,1−ジメチルエタノール、2−プロポキシ−1,1−ジエチルエタノール、2−s−ブトキシ−1,1−ジエチルエタノール、3−メトキシ−1,1−ジメチルプロパノール等のエーテルアルコール類等が挙げられる。
【0029】
上記グリコール化合物としては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,4−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−ブタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0030】
また、上記β−ジケトン化合物としては、アセチルアセトン、ヘキサン−2,4−ジオン、5−メチルヘキサン−2,4−ジオン、ヘプタン−2,4−ジオン、2−メチルヘプタン−3,5−ジオン、2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン等のアルキル置換β−ジケトン類;1,1,1−トリフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,1,1−トリフルオロ−5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,3−ジパーフルオロヘキシルプロパン−1,3−ジオン等のフッ素置換アルキルβ−ジケトン類;1,1,5,5−テトラメチル−1−メトキシヘキサン−2,4−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−メトキシヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−(2−メトキシエトキシ)ヘプタン−3,5−ジオン等のエーテル置換β−ジケトン類等が挙げられる。
【0031】
また、上記シクロペンタジエン化合物としては、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、ブチルシクロペンタジエン、第2ブチルシクロペンタジエン、イソブチルシクロペンタジエン、第3ブチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン等が挙げられ、上記有機アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、第2ブチルアミン、第3ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン等が挙げられる。
【0032】
上記の他のプレカーサは、シングルソース法の場合は、本発明のアルミニウム化合物と、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似している化合物が好ましく、カクテルソース法の場合は、本発明のアルミニウム化合物と、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似していることに加え、混合時に化学反応による変質を起こさないものが好ましい。
【0033】
上記の他のプレカーサのうち、チタニウム、ジルコニウム又はハフニウムを含むプレカーサとしては、下記一般式(II−1)〜(II−5)で表される化合物が挙げられる。
【0034】
【化4】
(式中、M1は、チタニウム、ジルコニウム又はハフニウムを表し、Ra及びRbは、各々独立に、ハロゲン原子で置換されてもよく、鎖中に酸素原子を含んでもよい炭素数1〜20のアルキル基を表し、Rcは炭素数1〜8のアルキル基を表し、Rdは炭素数2〜18の分岐してもよいアルキレン基を表し、Re及びRfは、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、Rg、Rh、Rk及びRjは、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、pは0〜4の整数を表し、qは0又は2を表し、rは0〜3の整数を表し、sは0〜4の整数を表し、tは1〜4の整数を表す。)
【0035】
上記一般式(II−1)〜(II−5)において、Ra及びRbで表される、ハロゲン原子で置換されてもよく、鎖中に酸素原子を含んでもよい炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第2ブチル、第3ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第2アミル、第3アミル、ヘキシル、シクロヘキシル、1−メチルシクロヘキシル、ヘプチル、3−ヘプチル、イソヘプチル、第3ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、第3オクチル、2−エチルヘキシル、トリフルオロメチル、パーフルオロヘキシル、2−メトキシエチル、2−エトキシエチル、2−ブトキシエチル、2−(2−メトキシエトキシ)エチル、1−メトキシ−1,1−ジメチルメチル、2−メトキシ−1,1−ジメチルエチル、2−エトキシ−1,1−ジメチルエチル、2−イソプロポキシ−1,1−ジメチルエチル、2−ブトキシ−1,1−ジメチルエチル、2−(2−メトキシエトキシ)−1,1−ジメチルエチル等が挙げられる。また、Rcで表される炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第2ブチル、第3ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第2アミル、第3アミル、ヘキシル、1−エチルペンチル、シクロヘキシル、1−メチルシクロヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、第3ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、第3オクチル、2−エチルヘキシル等が挙げられる。また、Rdで表される炭素数2〜18の分岐してもよいアルキレン基とは、グリコールにより与えられる基であり、該グリコールとしては、例えば、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−ブタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1−メチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。また、Re及びRfで表される炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、2−プロピルが挙げられ、Rg、Rh、Rj及びRkで表される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第2ブチル、第3ブチル、イソブチルが挙げられる。
【0036】
具体的にはチタニウムを含むプレカーサとして、テトラキス(エトキシ)チタニウム、テトラキス(2−プロポキシ)チタニウム、テトラキス(ブトキシ)チタニウム、テトラキス(第2ブトキシ)チタニウム、テトラキス(イソブトキシ)チタニウム、テトラキス(第3ブトキシ)チタニウム、テトラキス(第3アミル)チタニウム、テトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)チタニウム等のテトラキスアルコキシチタニウム類;テトラキス(ペンタン−2,4−ジオナト)チタニウム、(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム等のテトラキスβ−ジケトナトチタニウム類;ビス(メトキシ)ビス(ペンタン−2,4−ジオナト)チタニウム、ビス(エトキシ)ビス(ペンタン−2,4−ジオナト)チタニウム、ビス(第3ブトキシ)ビス(ペンタン−2,4−ジオナト)チタニウム、ビス(メトキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(エトキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(2−プロポキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(第3ブトキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(第3アミロキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(メトキシ)ビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(エトキシ)ビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(2−プロポキシ)ビス(2,6,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(第3ブトキシ)ビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(第3アミロキシ)ビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム等のビス(アルコキシ)ビス(βジケトナト)チタニウム類;(2−メチルペンタンジオキシ)ビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、(2−メチルペンタンジオキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム等のグリコキシビス(βジケトナト)チタニウム類;(メチルシクロペンタジエニル)トリス(ジメチルアミノ)チタニウム、(エチルシクロペンタジエニル)トリス(ジメチルアミノ)チタニウム、(シクロペンタジエニル)トリス(ジメチルアミノ)チタニウム、(メチルシクロペンタジエニル)トリス(エチルメチルアミノ)チタニウム、(エチルシクロペンタジエニル)トリス(エチルメチルアミノ)チタニウム、(シクロペンタジエニル)トリス(エチルメチルアミノ)チタニウム、(メチルシクロペンタジエニル)トリス(ジエチルアミノ)チタニウム、(エチルシクロペンタジエニル)トリス(ジエチルアミノ)チタニウム、(シクロペンタジエニル)トリス(ジエチルアミノ)チタニウム等の(シクロペンタジエニル)トリス(ジアルキルアミノ)チタニウム類;(シクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム、(メチルシクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム、(エチルシクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム、(プロチルシクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム、(イソプロピルシクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム、(ブチルシクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム、(イソブチルシクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム、第3ブチルシクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム等の(シクロペンタジエニル)トリス(アルコキシ)チタニウム類等が挙げられ、ジルコニウムを含むプレカーサ又はハフニウムを含むプレカーサとしては、上記チタニウムを含むプレカーサとして例示した化合物におけるチタニウムを、ジルコニウム又はハフニウムに置き換えた化合物が挙げられる。
【0037】
希土類元素を含むプレカーサとしては、下記一般式(III−1)〜(III〜3)で表される化合物が挙げられる。
【0038】
【化5】
(式中、M2は、希土類原子を表し、Ra及びRbは、各々独立に、ハロゲン原子で置換されてもよく、鎖中に酸素原子を含んでもよい炭素数1〜20のアルキル基を表し、Rcは炭素数1〜8のアルキル基を表し、Re及びRfは、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、Rg及びRjは、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表し、p’は0〜3の整数を表し、r’は0〜2の整数を表す。)
【0039】
上記一般式(III−1)〜(III−3)において、M2で表される希土類原子としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムが挙げられ、Ra、Rb、Rc、Re、Rf、Rg及びRjで表される基としては、前記のチタニウムを含むプレカーサで例示した基が挙げられる。
【0040】
また、本発明の薄膜形成用原料には、必要に応じて、本発明のアルミニウム化合物及び他のプレカーサの安定性を付与するため、求核性試薬を含有してもよい。該求核性試薬としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、ジベンゾ−24−クラウン−8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル等のβ−ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、3,5−ヘプタンジオン等のβ−ジケトン類が挙げられ、これら求核性試薬の使用量は、プレカーサ1モルに対して通常0.1モル〜10モルの範囲で使用され、好ましくは1〜4モルで使用される。
【0041】
本発明の薄膜形成用原料には、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、不純物塩素等の不純物ハロゲン分、及び不純物有機分が極力含まれないようにする。不純物金属元素分は、元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましく、総量では、1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。特に、LSIのゲート絶縁膜、ゲート膜、バリア層として用いる場合は、得られる薄膜の電気的特性に影響のあるアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、及び同属元素の含有量を少なくすることが必要である。不純物ハロゲン分は、100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下が更に好ましい。不純物有機分は、総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下が更に好ましい。また、水分は、化学気相成長用原料中でのパーティクル発生や、薄膜形成中におけるパーティクル発生の原因となるので、プレカーサ、有機溶剤、及び、求核性試薬については、それぞれの水分の低減のために、使用の際にあらかじめできる限り水分を取り除いた方がよい。プレカーサ、有機溶剤及び求核性試薬それぞれの水分量は、10ppm以下が好ましく、1ppm以下が更に好ましい。
【0042】
また、本発明の薄膜形成用原料は、形成される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、パーティクルが極力含まれないようにするのが好ましい。具体的には、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に1000個以下であることがより好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが更に好ましい。
【0043】
本発明の薄膜形成用原料を用いて薄膜を製造する本発明の薄膜の製造方法としては、本発明のアルミニウム化合物及び必要に応じて用いられる他のプレカーサを気化させた蒸気、並びに必要に応じて用いられる反応性ガスを、基体が設置された成膜チャンバー内に導入し、次いで、プレカーサを基体上で分解及び/又は化学反応させて薄膜を基体表面に成長、堆積させるCVD法によるものである。原料の輸送供給方法、堆積方法、製造条件、製造装置等については、特に制限を受けるものではなく、周知一般の条件、方法を用いることができる。
【0044】
上記の必要に応じて用いられる反応性ガスとしては、例えば、酸化性のものとしては酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等が挙げられ、還元性のものとしては水素が挙げられ、また、窒化物を製造するものとしては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア等が挙げられ、これらは1種類又は2種類以上使用することができる。
【0045】
また、上記の輸送供給方法としては、前記に記載の気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
【0046】
また、上記の堆積方法としては、原料ガス又は原料ガスと反応性ガスを熱のみにより反応させ薄膜を堆積させる熱CVD,熱とプラズマを使用するプラズマCVD、熱と光を使用する光CVD、熱、光及びプラズマを使用する光プラズマCVD、CVDの堆積反応を素過程に分け、分子レベルで段階的に堆積を行うALDが挙げられる。
【0047】
上記基体の材質としては、例えばシリコン;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化タンタル、酸化チタン、窒化チタン、酸化ルテニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン等のセラミックス;ガラス;金属ルテニウム等の金属が挙げられる。基体の形状としては、板状、球状、繊維状、鱗片状が挙げられ、基体表面は、平面であってもよく、トレンチ構造等の三次元構造となっていてもよい。
【0048】
また、上記の製造条件としては、反応温度(基体温度)、反応圧力、堆積速度等が挙げられる。反応温度については、本発明のアルミニウム化合物等が充分に反応する温度である100℃以上が好ましく150℃〜400℃がより好ましい。また、反応圧力は、熱CVD、光CVDの場合、大気圧〜10Paが好ましく、プラズマを使用する場合は、2000Pa〜10Paが好ましい。
また、堆積速度は、原料の供給条件(気化温度、気化圧力)、反応温度、反応圧力によりコントロールすることが出来る。堆積速度は、大きいと得られる薄膜の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.01〜100nm/分が好ましく、1〜50nm/分がより好ましい。また、ALD法の場合は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。
【0049】
例えば、酸化アルミニウム薄膜をALD法により形成する場合は、まず、上記の輸送供給方法により、薄膜形成用原料を気化させて蒸気となし、該蒸気を成膜チャンバー内へ導入する原料導入工程を行う。次に、堆積反応部に導入したアルミニウム化合物により、基体表面に前駆体薄膜を成膜させる(前駆体薄膜成膜工程)。このときに、基体を加熱するか、堆積反応部を加熱して、熱を加えてもよい。この工程で成膜される前駆体薄膜は、酸化アルミニウム薄膜、又は、アルミニウム化合物の一部が分解及び/又は反応して生成した薄膜であり、目的の酸化アルミニウム薄膜とは異なる組成を有する。本工程が行われる際の基体温度は、室温〜500℃が好ましい。
【0050】
次に、堆積反応部から、未反応のアルミニウム化合物ガスや副生したガスを排気する(排気工程)。未反応のアルミニウム化合物ガスや副生したガスは、堆積反応部から完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気される必要はない。排気方法としては、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスにより系内をパージする方法、系内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。減圧する場合の減圧度は、0.01〜300Paが好ましく、0.01〜100Paがより好ましい。
【0051】
次に、堆積反応部に酸化性ガスを導入し、該酸化性ガス又は酸化性ガス及び熱の作用により、先の前駆体薄膜成膜工程で得た前駆体薄膜から酸化アルミニウム薄膜を形成する(酸化アルミニウム薄膜形成工程)。本工程において熱を作用させる場合の温度は、室温〜500℃が好ましく、150〜500℃がより好ましい。本発明のアルミニウム化合物は、酸化性ガスとの反応性が良好であり、酸化アルミニウム薄膜を得ることができる。
【0052】
本発明の薄膜の製造方法において、上記のようにALD法を採用した場合、上記の原料導入工程、前駆体薄膜成膜工程、排気工程、及び酸化アルミニウム薄膜形成工程からなる一連の操作による薄膜堆積を1サイクルとし、このサイクルを必要な膜厚の薄膜が得られるまで複数回繰り返してもよい。この場合、1サイクル行った後、上記排気工程と同様にして、堆積反応部から未反応のアルミニウム化合物ガス及び酸化性ガス、更に副成したガスを排気した後、次の1サイクルを行うことが好ましい。
【0053】
また、酸化アルミニウム薄膜のALD法による形成においては、プラズマ、光、電圧等のエネルギーを印加してもよい。これらのエネルギーを印加する時期は、特には限定されず、例えば、原料導入工程におけるアルミニウム化合物ガス導入時、前駆体薄膜成膜工程又は酸化アルミニウム薄膜形成工程における加温時、排気工程における系内の排気時、酸化アルミニウム薄膜形成工程における酸化性ガス導入時でもよく、上記の各工程の間でもよい。
【0054】
また、本発明の薄膜の製造方法においては、薄膜堆積の後に、より良好な電気特性を得るために不活性雰囲気下、酸化性雰囲気下又は還元性雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、通常200〜1000℃であり、250〜500℃が好ましい。
【0055】
本発明の薄膜形成用原料を用いて薄膜を製造する装置としては、周知な化学気相成長法用装置を用いることができる。具体的な装置の例としては図1のようなプレカーサをバブリング供給で行うことのできる装置や、図2のように気化室を有する装置や、図3又は図4のように反応性ガスに対してプラズマ処理を行うことのできる装置等が挙げられる。また、図1図2図3及び図4のような枚葉式装置に限らず、バッチ炉を用いた多数枚同時処理可能な装置を用いることもできる。
【0056】
本発明の薄膜形成用原料を用いて製造される薄膜は、他のプレカーサ、反応性ガス及び製造条件を適宜選択することにより、メタル、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、ガラス等の所望の種類の薄膜とすることができる。製造される薄膜の組成としては、例えば、アルミニウム薄膜、アルミニウム窒化物薄膜、アルミニウム酸化物薄膜、アルミニウム含有複合酸化物薄膜等が挙げられる。アルミニウム含有複合酸化物薄膜としては、例えば、AlSixy、ZrAlxSiOy,TiAlxSiOy、HfAlxSiOyで表される複合酸化物薄膜が挙げられる。x及びyの値は、特に制限を受けず、所望の値を選択できるものであり、例えば、AlSi0.81.23.13.9、ZrAl2SiO7,TiAl2SiO7,HfAl2SiO7である。これらの薄膜は、LSIの配線材料、機械部品や工具等のハードコーティング膜、半導体メモリの絶縁膜、ゲート絶縁膜、誘電体膜、ハードディスク用MRヘッド等の電子部品、光通信用回路等の光学ガラス、触媒等の製造に広く用いられている。
【実施例】
【0057】
以下、実施例並びに評価例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
【0058】
[実施例1]化合物No.1の製造
アルゴンガス雰囲気下で、反応フラスコに塩化アルミニウム(III)15.2gと、脱水処理したヘキサン38.6gとを仕込み水冷バスにて攪拌した。そこに、エチルメチルアミン25.3gを滴下し、2時間攪拌した。その後、氷冷バスにて15℃まで冷却させ、n−ブチルリチウムヘキサン溶液(濃度:1.6mol/L)150.2gを滴下した。滴下終了後、室温に戻して約16時間撹拌させた。続いて、N,N,N'−トリメチルエチレンジアミン11.9gを滴下し、約20時間攪拌させ、ろ過を行った。得られたろ液からヘキサンを除去し、液体残渣を得た。その液体残渣を、40Paの減圧下、バス105℃で蒸留し、塔頂温度65℃にて留出した化合物を得た。この精製による回収率は57%であった。得られた化合物は淡黄色の液体であった。元素分析及び1H−NMR分析の結果、得られた化合物は、化合物No.1と同定された。これらの分析結果を以下に示す。以下には、TG−DTAの結果も併せて示す。
【0059】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
アルミニウム:11.1質量%(理論値;11.04質量%)、C:50.17質量%、H:11.45質量% 、N:22.61質量%(理論値;C:54.07質量%、H:11.96質量%、N:22.93質量%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(1.239ppm:t:6)、(1.778ppm:s:6)、(2.161ppm:t:2)、(2.704ppm:t:2)、(2.796ppm:s:6)、(2.832ppm:s:3)、(3.029ppm:m:2)、(3.182ppm:m:2)
(3)TG−DTA
TG−DTA(Ar 100ml/min、 10℃/min昇温、サンプル量 9.543mg)
50質量%減少温度 170℃
【0060】
[実施例2]化合物No.2の製造
アルゴンガス雰囲気下で、反応フラスコに塩化アルミニウム(III)を5.3g、脱水処理したヘキサン10.1gと、テトラヒドロフラン14.2gとを仕込み水冷バスにて攪拌した。そこに、イソプロピルメチルアミン12.2g滴下し、1時間攪拌した。その後、氷冷バスにて5℃まで冷却させ、n−ブチルリチウムヘキサン溶液(濃度:1.6mol/L)52.5gを滴下した。滴下終了後、室温に戻して約2時間撹拌させた。続いて、N,N,N'−トリメチルエチレンジアミン4.2gを滴下し、約13時間攪拌させ、ろ過を行った。得られたろ液からヘキサンおよびテトラヒドロフランを除去し、液体残渣を得た。その液体残渣を、40Paの減圧下、バス115℃で蒸留し、塔頂温度75℃にて留出した化合物を得た。この精製による回収率は45%であった。得られた化合物は淡黄色の液体であった。元素分析及び1H−NMR分析の結果、得られた化合物は、化合物No.2と同定された。これらの分析結果を以下に示す。以下には、TG−DTAの結果も併せて示す。
【0061】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
アルミニウム:9.98質量%(理論値;9.90質量%)、C:54.82質量%、H:11.59質量% 、N:20.24質量%(理論値;C:57.32質量%、H:12.21質量%、N:20.57質量%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(1.299ppm:d:6)、(1.306ppm:d:6)、(1.817ppm:s:6)、(2.200ppm:t:2)(2.658ppm:s:6)、(2.698ppm:t:2)、(2.817ppm:s:3)、(3.478ppm:m:2)
(3)TG−DTA
TG−DTA(Ar 100ml/min、 10℃/min昇温、サンプル量 9.903mg)
50質量%減少温度 180℃
【0062】
[評価例1]アルミニウム化合物の発火性評価
本発明のアルミニウム化合物No.1及びNo.2並びに以下に示す比較化合物1〜3について、大気中に放置することで自然発火性の有無を確認した。具体的には、これらの化合物を大気中に放置してから、1時間経過後までに発火したものを自然発火性あり、1時間経過しても発火しなかったものを自然発火性なしと評価した。結果を表1に示す。
【0063】
【化6】
【0064】
【表1】
【0065】
表1の結果より、比較化合物1は大気中で発火性を示すことがわかった。発火性を示す化合物は安全性の点から、化学気相成長用原料として扱いにくい。本発明のアルミニウム化合物No.1及び2並びに比較化合物2及び3は発火性を示さず、大気中でも安全に用いることができるということがわかった。
【0066】
[評価例2]アルミニウム化合物の熱安定性評価
本発明のアルミニウム化合物No.1及び2並びに比較化合物2及び3について、DSC測定装置を用いて熱分解が発生する温度を測定することで、各化合物の熱安定性を確認した。結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表2の結果より、本発明のアルミニウム化合物No.1及びNo.2は、比較化合物2よりも30℃程度高い熱安定性を示すことがわかった。また、本発明のアルミニウム化合物No.1及びNo.2は、比較化合物3よりも140℃程度高い熱安定性を示すことがわかった。熱安定性の高い化合物は、化学気相成長用原料として用いる場合、成膜を高温下で行うことができ、良質な薄膜を得ることができることから優位である。
【0069】
[評価例3]アルミニウム化合物の物性評価
本発明のアルミニウム化合物No.1及び2並びに比較化合物2について、目視によって常圧10℃における化合物の状態を観察した。また、AMVn自動マイクロ粘度計(Anton Paar社製)を用いて常圧25℃での各化合物の粘度を測定した。結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
表3の結果より、比較化合物2が10℃の条件下で固体化合物であることに対して、本発明のアルミニウム化合物No.1及びNo.2は10℃の条件下で液体である低融点の化合物であることがわかった。なかでも、本発明のアルミニウム化合物No.1は比較化合物2と比べて25℃における粘度が低いということもわかった。融点が低い化合物は、化学気相成長用原料として用いる場合に液体の状態で安定的に輸送を行うことができることから優位であり、なかでも粘度が低い化合物は特に輸送が容易であることから優れている。
【0072】
[実施例3]ALD法による酸化アルミニウム薄膜の製造
化合物No.1を化学気相成長用原料とし、図1に示す装置を用いて以下の条件のALD法により、基体であるシリコンウエハ上に酸化アルミニウム薄膜を製造した。得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定、X線回折法及びX線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、膜厚は4.1nmであり、膜組成は酸化アルミニウム(Al23)であり、炭素含有量は検出下限である0.1atom%よりも少なかった。1サイクル当たりに得られる膜厚は、0.08〜0.09nmであった。
(条件)
反応温度(基体温度):260〜420℃、反応性ガス:オゾンガス
(工程)
下記(i)〜(iv)からなる一連の工程を1サイクルとして、50サイクル繰り返した。
(i)原料容器温度:室温(23℃)、原料容器内圧力80Paの条件で気化させた化学気相成長用原料の蒸気を成膜チャンバー内に導入し、系圧 80Paで10秒間、基体表面に堆積させる。
(ii)15秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を成膜チャンバー内から除去する。
(iii)反応性ガスを成膜チャンバー内に導入し、系圧力80Paで10秒間、(i)の堆積物と反応させる。
(iv)5秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を成膜チャンバー内から除去する。
【0073】
[実施例4]ALD法による酸化アルミニウム薄膜の製造
化合物No.2を化学気相成長用原料とし、図1に示す装置を用いて以下の条件のALD法により、基体であるシリコンウエハ上に酸化アルミニウム薄膜を製造した。得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定、X線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、膜厚は3.1nmであり、膜組成は酸化アルミニウム(Al23)であり、炭素含有量は0.2atom%であった。また1サイクル当たりに得られる膜厚は、0.06nmであった。
(条件)
反応温度(基体温度):260〜420℃、反応性ガス:オゾンガス
(工程)
下記(1)〜(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、50サイクル繰り返した。(1)原料容器温度:45℃、原料容器内圧力80Paの条件で気化させた化学気相成長用原料の蒸気を成膜チャンバー内に導入し、系圧80Paで10秒間、基体表面に堆積させる。
(2)15秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を成膜チャンバー内から除去する。
(3)反応性ガスを成膜チャンバー内に導入し、系圧力80Paで10秒間、(1)の堆積物と反応させる。
(4)15秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を成膜チャンバー内から除去する。
図1
図2
図3
図4