(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184069
(24)【登録日】2017年8月4日
    
      
        (45)【発行日】2017年8月23日
      
    (54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C  70/06        20060101AFI20170814BHJP        
   B29C  65/02        20060101ALI20170814BHJP        
   B29K  23/00        20060101ALN20170814BHJP        
   B29K  77/00        20060101ALN20170814BHJP        
   B29K 105/08        20060101ALN20170814BHJP        
   B29K 105/12        20060101ALN20170814BHJP        
【FI】
   B29C70/06
   B29C65/02
   B29K23:00
   B29K77:00
   B29K105:08
   B29K105:12
【請求項の数】6
【全頁数】9
      (21)【出願番号】特願2012-201651(P2012-201651)
(22)【出願日】2012年9月13日
    
      (65)【公開番号】特開2014-54798(P2014-54798A)
(43)【公開日】2014年3月27日
    【審査請求日】2015年8月11日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構  サステナブルハイパーコンポジット技術の開発における委託研究による発明で産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願である。
      
        
          (73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
          (73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
          (74)【代理人】
【識別番号】100091948
【弁理士】
【氏名又は名称】野口  武男
          (74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林  均
        
      
      
        (72)【発明者】
          【氏名】佐々木  章亘
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】林  崇寛
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】北村  仁志
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】園田  秀利
              
            
        
      
    
      【審査官】
        鏡  宣宏
      
    (56)【参考文献】
      
        【文献】
          特開平4−259515(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2011−241338(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2007−138320(JP,A)      
        
        【文献】
          特開平11−350904(JP,A)      
        
        【文献】
          特開平9−277387(JP,A)      
        
        【文献】
          特開平9−234751(JP,A)      
        
        【文献】
          国際公開第2012/105389(WO,A1)    
        
        【文献】
          国際公開第2009/142291(WO,A1)    
        
      
    (58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C  70/00−70/88
B29C  65/00−65/82        
B29B  11/16,15/08−15/04
C08J    5/04−  5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
  不連続繊維及び熱可塑性樹脂組成物を含む不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品と、連続強化繊維及び熱可塑性樹脂組成物からなるテープ状物とを備え、前記不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品を傾斜した立ち上がり部を有する複雑な形状に成形した後に、前記不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品と前記テープ状物の少なくとも一方を加熱溶融しながら両者を溶融接合して一体化させる繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
  前記テープ状物の厚みが30〜300μm、幅が5〜75mm、前記連続強化繊維の体積含有率が20〜70%である、請求項1記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
  前記不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品が、
  前記連続強化繊維及び前記熱可塑性樹脂組成物からなる前記テープ状物を平均長さ5〜100mmに切断し、擬似等方的に分散した構成を有してなる、請求項1又は2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
  前記不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品及び前記テープ状物の少なくとも一方が炭素繊維を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
  前記不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に含まれる熱可塑性樹脂組成物が、前記テープ状物に含まれる熱可塑性樹脂組成物と相溶性を有する熱可塑性樹脂組成物である、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
  前記不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に含まれる熱可塑性樹脂組成物と、前記テープ状物に含まれる熱可塑性樹脂組成物とが、共にポリプロピレン系樹脂組成物又はポリアミド系樹脂組成物である、請求項5に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、不連続繊維と熱可塑性樹脂組成物とからなる不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品を補強する繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法に関する。
 
【背景技術】
【0002】
  繊維強化熱可塑性樹脂成形品はマトッリクス樹脂に熱可塑性樹脂が使われると、マトリックス樹脂として熱硬化系樹脂を使った複合材料と比較して、短時間で成形できる利点があることが知られている。一方、不連続繊維からなる繊維強化熱可塑性樹脂は複雑な形状の成形ができるなど、その賦形性に優れていることが特徴であるが、連続繊維からなる複合材料と比較して機械的強度が低く、成形品の性能が低くなる傾向にある。このため不連続繊維材料で複雑な形状の成形品を成形した後、高い強度が必要な部分に、後から連続繊維材料により部分補強を行う簡便な方法が望まれていた。
【0003】
  例えば、特開平7−9589号公報(特許文献1)には、補強用の連続繊維と熱可塑性樹脂とからなる補強材の少なくとも表面を加熱溶融するとともに、前記補強材に使われる熱可塑性樹脂と相溶性のある熱可塑性樹脂と強化繊維とからなる被補強材となる組成物を加熱溶融し、被補強材を加熱溶融している補強材に供給して、両者を一体化する方法が開示されている。この方法では、被補強材も加熱する必要があり、熱可塑性樹脂と補強繊維とからなる補強材を押出機などによって加熱溶融させるとともに、さらにプレス成形する必要があり、操作が煩雑となる問題があった。
  かかる状況のもとで、より簡便な不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法や補強方法が望まれていた。
 
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−9589号公報
 
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
  本発明が解決しようとする課題は、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品を補強材によってより簡便に補強される繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法を提供することである。
 
【課題を解決するための手段】
【0006】
  本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法は、不連続繊維及び熱可塑性樹脂組成物を含む不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品と、連続強化繊維及び熱可塑性樹脂組成物からなるテープ状物とを備え、前記不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品を
傾斜した立ち上がり部を有する複雑な形状に成形した後に、前記不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品と前記テープ状物の少なくとも一方を加熱溶融しながら両者を溶融接合して一体化させることを特徴としている。
【0007】
  ここで、本発明にあって留意すべき点は、繊維強化熱可塑性樹脂成形品の母材が熱硬化性樹脂をマトリックスとする繊維強化樹脂成形品の母材と比較すると、生来、賦形性に優れるものの物性的に劣る不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品である。この不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の優位性となる高賦形性を利用して複雑な形状の繊維強化樹脂成形品を得ることが重要である。本発明は、この複雑な形状に成形された不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に強化繊維との複合製品として、本来的に要求される物性を確保すべく、連続繊維と熱可塑性組成物とからなるテープ状物を補強材として不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に溶融一体化するところにある。
【0008】
  本発明の好適な態様によれば、前記テープ状物の厚みが30〜300μm、幅が5〜75mm、前記連続強化繊維の体積含有率が20〜70%である。また、好ましくは前記不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品が、前記連続強化繊維及び熱可塑性樹脂組成物からなる前記テープ状物を平均長さ5〜100mmに切断し、擬似等方的に分散した構成を有している。さらに好ましくは、前記不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品及び前記テープ状物の少なくとも一方が炭素繊維を含んでいる。
【0009】
  前記不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に含まれる熱可塑性樹脂組成物が、前記テープ状物に含まれる熱可塑性樹脂組成物と相溶性を有する熱可塑性樹脂組成物であることが好ましく、特に前記不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に含まれる熱可塑性樹脂組成物と、前記テープ状物に含まれる熱可塑性樹脂組成物とが、共にポリプロピレン系樹脂組成物又はポリアミド系樹脂組成物であることがさらに好ましい。
 
【発明の効果】
【0010】
  本発明によれば、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品をプレス成形等の方法で成形する際に、不連続繊維強化熱可塑性樹脂の流動性が保持され、不連続繊維が全体に均等に分散された高品位の不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品が得られる。こうして得られる不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品と、補強材となる予め連続強化繊維及び熱可塑性樹脂組成物を含む補強材からなるテープ状物を、上述のように、溶融一体化するとき、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品及びテープ状物の少なくとも一方を加熱溶融させるだけの簡便な操作により、強化繊維に由来する物性に近い物性を備えた複雑な形状の繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得ることが可能となる。
 
 
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の一番目の例を示す斜視図である。
【
図2】連続強化繊維と熱可塑性樹脂とからなるテープ状物により補強された不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の一番目の例を示す斜視図である。
【
図3】不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の二番目の例を示す斜視図である。
【
図4】連続強化繊維と熱可塑性樹脂とからなるテープ状物により補強された不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の二番目の例を示す斜視図である。
【
図5】不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の三番目の例を示す斜視図である。
【
図6】連続強化繊維と熱可塑性樹脂とからなるテープ状物により補強された不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の三番目の例を示す斜視図である。
【
図7】連続強化繊維と熱可塑性樹脂とからなるテープ状物により補強された不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の第四番目の例を示す斜視図である。
 
【発明を実施するための形態】
【0012】
  図1は、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の一例を示している。不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品とは、不連続の強化繊維を含む熱可塑性樹脂成形品である。不連続強化繊維とは、当該成形品において、強化繊維が途切れている繊維を意味する。不連続強化繊維を含む熱可塑性樹脂材料は、連続強化繊維を含む熱可塑性樹脂材料よりも物性は劣るが、プレス成形等の成形時における流動性、賦形性に優れる。
 
【0013】
  不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品における強化繊維の体積含有率(JIS  K  7052、或いはJIS  K  7075に準じて測定。)は20〜70%が好ましい。強化繊維の体積含有率が20%以上であると、強化繊維に由来する物性を不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に発揮させることができる。強化繊維の体積含有率が70%以下であると、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品をプレス成形等の方法で成形する際に、不連続繊維強化熱可塑性樹脂の流動性が保持され、複雑な形状の成形品を得ることができる。
 
【0014】
  不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品において、含まれる強化繊維は、一本ずつ開繊した短いフィラメントの状態で分散していてもよいし、多数本の強化繊維フィラメントからなる束状で分散していてもよい。開繊したフィラメントや束状の繊維は、熱可塑性樹脂組成物の中に擬似等方的にランダムに分散していることが好ましい。ここでランダムな分散とは、多数本の強化繊維フィラメントからなる束として、強化繊維が特定の方向性を持たずに分散している状態や、個々の強化繊維フィラメントとして、特定の方向性を持たずに分散している状態のいずれをも含む。強化繊維の長さは5〜100mmが好ましい。強化繊維の長さが5mm以上であると不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の物性に優れ、強化繊維の長さが100mm以下であると、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品のプレス成形時における流動性に優れる。
 
【0015】
  不連続強化繊維を含む熱可塑性樹脂組成物の具体的な形態の例としては、連続した強化繊維を一方向に引き揃えて熱可塑性樹脂組成物を含浸した厚み30〜300μm、幅5〜75mmのテープ状材料を長さ5〜100mmにカットしてチョップドテープとし、該チョップドテープを型内にランダムに分散させ、その状態で型内を加熱、加圧、冷却する加熱プレス成形により成形されたものを挙げることができる。不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に含まれる熱可塑性樹脂組成物としては、特に制限はなく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル、ポリアミド6等のポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルフォン、ポリサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどを使用できる。また、これら各樹脂の変性体を用いてもよいし、複数種の樹脂をブレンドして用いてもよい。また、熱可塑性樹脂組成物は、各種添加剤、フィラー、着色剤等を含んでいてもよい。
  不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に含まれる強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などが挙げられる。
 
【0016】
  不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品を補強するために、連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物とからなるテープ状物を使用する。連続繊維とは、前記連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物からなるテープ状物の中で途切れのないものを言う。連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物からなるテープ状物は、このような連続繊維を含むため、物性が非常に優れている。連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物とからなるテープ状物の具体的な構造としては、連続した強化繊維を一方向に引き揃えて熱可塑性樹脂組成物を含浸した組成物がある。
 
【0017】
  連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物とからなるテープ状物における強化繊維の体積含有率は、20〜70%であることが好ましい。強化繊維の体積含有率が20%以上であると、強化繊維に由来する物性を連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物からなるテープ状物に発揮させることができる。強化繊維の体積含有率が70%以下であると、連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物からなるテープ状物を、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に一体化させやすくなり、補強の作業が容易になる。
 
【0018】
  連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物とからなるテープ状物の厚みは、30〜300μmであることが好ましい。テープ状物の厚みが30μm以上であるとテープに強度や剛性を与えることができ、そのテープ状物を不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に積層一体化させる作業が実施しやすくなる。テープ状物の厚みが300μm以下であるとテープ自体をボビン等に巻くことができ、そのテープ状物を不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に積層する作業が実施しやすくなる。
 
【0019】
  連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物からなるテープ状物の幅は、5〜75mmであるこ
とが好ましい。テープ状物の幅が5mm以上であると、テープ状物を不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に短時間で積層しやすくなる。テープ状物の幅が75mm以下であると、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の細かい部分にも積層することが可能となる。
 
【0020】
  連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物とからなるテープ状物に含まれる熱可塑性樹脂組成物及び強化繊維は、例えば上述の不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品について例示したものの中から選択して使用できる。連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物とからなるテープ状物と不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品との間で、含まれる熱可塑性樹脂組成物及び強化繊維は、同じであっても、異なっていてもよい。
 
【0021】
  不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品を、連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物とからなるテープ状物で補強する方法として、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品における補強したい部分に、前記テープ状物を配置させる。そして、アイロンや加熱型などを用いて、テープ状物を加熱しながら押し付ける。この際に、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に含まれる熱可塑性樹脂組成物、及び/又は連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物とからなるテープ状物に含まれる熱可塑性樹脂組成物を溶融させる。その後、別に用意したアイロンなど加熱手段を用いて加熱したのち冷却して、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品と連続強化繊維及び熱可塑性樹脂からなるテープ状物とを一体化させる。
 
【0022】
  不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品を連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物とからなるテープ状物で補強する場合には、熱可塑性樹脂組成物の融点或はガラス転移温度以上に加熱されたアイロンなどを用いて、押し付けながら一体化させることが好ましい。その後、その部分が熱可塑性樹脂組成物の融点或はガラス転移温度以下に下がるまで待つことが好ましい。また、冷却の途中には、別に容易された加熱されていないアイロンを用意して、これを押し付けてもよい。
 
【0023】
  不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品と連続強化繊維及び熱可塑性樹脂組成物からなるテープ状物を一体化した場合の補強効果に鑑みると、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に含まれる熱可塑性樹脂組成物と、連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物からなるテープ状物に含まれる熱可塑性樹脂組成物とは相溶性があるものが好ましい。
 
【0024】
  不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品に連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物とからなるテープ状物を配置する際には、テープ角度は任意の角度から選ぶことができる。また、テープ同士の間に隙間を空けてもよいし、重ね合わせてもよい。連続強化繊維と熱可塑性樹脂からなるテープ状物は、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の全体を覆ってもよいし、部分的に覆ってもよい。
 
【0025】
  このように連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物からなるテープ状物で補強された不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品は、補強される以前よりも、強度や弾性率などの機械的物性が著しく向上する。
  以下、本発明を実施例を挙げて、より具体的に説明する。
 
【実施例】
【0026】
  不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品Aとしては、次の方法で得たものを用いた。
  まず、強化繊維が直径7μmの炭素繊維であって、その連続した炭素繊維にポリプロピレンを含浸させた厚み150μm、幅15mm、炭素繊維の体積含有率が45%であるテープ状物を得た。これを長さ30mmに切断して擬似等方的に分散した幅55mm、長さ380mm、厚み8mmの板状物を得た。この板状物を270℃に加熱した赤外線ヒーターで6分間予備加熱して、さらに130℃に加熱された金型に載せて、圧力20MPaで1分間保持することにより成形品を得た。
【0027】
  連続強化繊維と熱可塑性樹脂組成物とからなるテープ状物Bとして、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品Aの製造の際に使用したテープ状物と同じ厚み150μm、幅15mm、連続炭素繊維の体積含有率45%であるテープ状物を使用した。
【0028】
(実施例1)
  不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品Aとして、
図1に示す形状の成形品を使用した。すなわち、断面が、幅方向の中央部に左右を傾斜させて立ち上がり、その各頂点を直線により水平に連結する成形品本体1と、この成形品本体1の左右下端から直線的に水平に延在する左右下端縁部2とからなる、全体が奥行き方向に細長い形状を有している。このとき、本実施例にあっては、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品Aの全体の幅Wを100mm、天面部3の横幅S1を45mm、奥行き長さLを405mmとした。この不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品Aの天面部3に、
図2に示すように、長さ405mm、幅15mmの連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bを、テープ間の隙間が無いようにして、3本並べて載置した。210℃に加熱した図示せぬアイロンで、連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bを加熱しながら、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品Aに押し付けた。その後、別に用意しておいた加熱されていない図示せぬアイロンを用いて、連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bに押し付けながら冷却し、連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bで補強された不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品Aを主体とする繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得た。
【0029】
(実施例2)
  不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品Aとして、
図3に示すような、
図1に示す形状を引っ繰り返した形状の成形品を用いた。この不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品Aにおける横幅S2が15mmの左右上端縁部4の各上面に、
図4に示すとおり、幅15mm、長さ405mmの連続繊維強化熱可塑性樹脂からなるテープ状物Bを1本ずつ載置した。この状態で、210℃に加熱した図示せぬアイロンで、連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bを加熱しながら、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品Aに押し付けた。その後、別に用意していた加熱されていない図示せぬアイロンを用いて、連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bを押し付けながら冷却した。この操作を5回繰り返し、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品Aの縁の部分に、連続強化繊維と熱可塑性樹脂からなるテープ状物Bを5層積層した。
【0030】
(実施例3)
  実施例1で使用した不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品Aを2個、振動溶着機を用いて左右上下端縁部4,2を突き合わせて溶着し、
図5に示すようなパイプ形状の不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品A’を得た。このパイプ形状の不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品A’に、
図6に示すように、上半分の左右下端縁部2の上面に幅45mm、長さ405mmの連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bを1本載置し、210℃に加熱した図示せぬアイロンで、連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bを加熱しながら、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品A’に押し付けた。その後、別に用意していた加熱されていない図示せぬアイロンを用いて、連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bを押し付けながら冷却した。同様に、上半分の左右立上り部5の表面部分に連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bを各2本ずつ、天面部3の上面に3本を配して連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bを一体化させた。この操作をパイプ形状物の下半分にも実施した。
【0031】
  次で、
図7に示すように、パイプ形状の不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品A’の上半分前端部の上面に沿わせて、前記連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bと直交して、連続強化繊維と熱可塑性樹脂からなる長さ135mmの連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bを屈曲させながら1本載置し、210℃に加熱した図示せぬアイロンで、連続繊維強
化熱可塑性樹脂テープ状物Bを加熱しながら、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品Aに押し付けた。その後、別に用意していた加熱されていない図示せぬアイロンを用いて、連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bを押し付けながら冷却した。次に別の一本の連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bを前の連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物Bに2mm重なるようにして、同様に一体化させた。この操作を繰り返し、合計31本のテープを積層した。パイプ状物の下半分にも同様な操作を実施した。
【0032】
  これらの実施例1〜3の製造方法によれば、いずれも不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品及びテープ状物の少なくとも一方を加熱溶融させるだけの簡便な操作によるにも関わらず、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品と連続強化繊維及び熱可塑性樹脂からなるテープ状物とが溶融一体化されるとき、連続繊維強化熱可塑性樹脂の流動性が利用されるため、たとえ複雑な形状であっても、強化繊維に由来する物性に近い物性を備え、かつ所望の強度をもった繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得ることができた。
 
 
【符号の説明】
【0033】
1                  成形品本体
2                  左右下端縁部
3                  天面部
4                  左右上端縁部
5                  左右立上り部
A,A’            不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品
B                  連続繊維強化熱可塑性樹脂テープ状物(テープ状物)
L                  不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の奥行き長さ
W                  不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の幅
S1                不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の天面部の横幅
S2                不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形品の左右及び上下端縁部の横幅