特許第6184162号(P6184162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184162
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】切削方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20170814BHJP
【FI】
   H01L21/78 F
   H01L21/78 L
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-99953(P2013-99953)
(22)【出願日】2013年5月10日
(65)【公開番号】特開2014-220445(P2014-220445A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(72)【発明者】
【氏名】紀 祐司
【審査官】 宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−269164(JP,A)
【文献】 特開平07−241841(JP,A)
【文献】 特開平06−169013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被切削物を保持する保持手段と、回転駆動されるスピンドルと該スピンドルの先端に装着され該保持手段に保持された被切削物を切削する切削ブレードとを有する切削手段と、該保持手段を該切削手段に対して相対的に切削送りする切削送り手段と、該保持手段に保持された被切削物を該切削手段で切削した際の切削状態を検出する切削状態検出手段と、最適切削条件を選定する最適切削条件選定部及び該被切削物を切削する切削条件として該最適切削条件を設定する切削条件設定部を含む制御手段と、を備えた切削装置を用いて被切削物を切削する切削方法であって、
被切削物を該保持手段で保持する保持ステップと、
該保持手段に保持された被切削物の外周余剰領域複数の可変パラメータを含む切削条件の各パラメータを変えて複数の互いに異なる切削条件で切削して切削溝を形成する予備切削ステップと、
該予備切削ステップで切削した際の切削状態をそれぞれ検出し、検出された切削状態を該制御手段に記憶させる切削状態検出ステップと、
該切削状態検出ステップで検出され該制御手段に記憶された切削状態に基づいて該最適切削条件選定部で最適な切削条件を選定する最適切削条件選定ステップと、
該最適切削条件選定ステップで選定された該最適な切削条件を該切削条件設定部で被切削物を切削する切削条件として設定する切削条件設定ステップと、
該切削条件設定ステップで設定された切削条件で被切削物を切削する本切削ステップと、
を備えたことを特徴とする切削方法。
【請求項2】
前記複数の予備切削条件は、互いに前記スピンドルの回転数又は前記切削送り手段の切削送り速度が異なる請求項1記載の切削方法。
【請求項3】
前記切削状態検出切削手段は撮像手段を含み、
前記切削状態検出ステップでは、被切削物の上面を該撮像手段で撮像し前記予備切削ステップで形成された前記切削溝に形成されるチッピングのサイズを切削状態として検出する請求項1又は2記載の切削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエーハ等の板状被切削物の切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体デバイスの製造プロセスでは、表面に形成された格子状の分割予定ラインで区画された各領域にLSI等のデバイスが形成された半導体ウエーハは、研削装置によって裏面が研削されて所定の厚みへ薄化される。
【0003】
その後、薄化された半導体ウエーハは、切削装置によって分割予定ラインが切削されて個々のデバイスチップへと分割され、分割されたデバイスチップは携帯電話、パソコン等の各種電子機器に広く利用されている。
【0004】
切削装置としては、ダイアモンドやCBN(Cubic Boron Nitride)等の超砥粒を樹脂や金属等で固めた切削ブレードを含む切削手段を備えたダイサーと称されるダイシング装置が広く使用されている。切削装置では、切削ブレードが例えば30000rpmの高速で回転しつつ分割予定ラインに沿って被加工物へ切り込むことで切削が遂行される。
【0005】
ところで、切削装置の切削対象となる被切削物は、半導体ウエーハ等のウエーハのみでなく、電子部品に使用される各種セラミック基板、樹脂基板、ガラス基板等の板状被切削物も切削装置で個々のチップに分割される。
【0006】
このように切削装置の切削対象となる板状の被切削物は、多くの種類があるため、作業者は切削を始める前に最適な切削条件を設定する必要がある。この切削条件の設定には、従来はウエーハであればデバイスが形成されていない外周余剰領域をスピンドル回転数、送り速度等の切削条件を変えて複数回切削し、顕微鏡で切削溝のチッピングサイズを観察し、チッピングサイズが最も小さい切削条件を選定するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−298000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、切削条件にはスピンドル回転数、送り速度等の複数の可変パラメータがあるため、全条件を逐一作業者が試してみて最適な切削条件を見つけるのは非常に手間が掛かるという問題があった。
【0009】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、最適な切削条件を見出す際に作業者の負担を軽減可能な切削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によると、被切削物を保持する保持手段と、回転駆動されるスピンドルと該スピンドルの先端に装着され該保持手段に保持された被切削物を切削する切削ブレードとを有する切削手段と、該保持手段を該切削手段に対して相対的に切削送りする切削送り手段と、該保持手段に保持された被切削物を該切削手段で切削した際の切削状態を検出する切削状態検出手段と、最適切削条件を選定する最適切削条件選定部及び該被切削物を切削する切削条件として該最適切削条件を設定する切削条件設定部を含む制御手段と、を備えた切削装置を用いて被切削物を切削する切削方法であって、被切削物を該保持手段で保持する保持ステップと、該保持手段に保持された被切削物の外周余剰領域複数の可変パラメータを含む切削条件の各パラメータを変えて複数の互いに異なる切削条件で切削して切削溝を形成する予備切削ステップと、該予備切削ステップで切削した際の切削状態をそれぞれ検出し、検出された切削状態を該制御手段に記憶させる切削状態検出ステップと、該切削状態検出ステップで検出され該制御手段に記憶された切削状態に基づいて該最適切削条件選定部で最適な切削条件を選定する最適切削条件選定ステップと、該最適切削条件選定ステップで選定された該最適な切削条件を該切削条件設定部で被切削物を切削する切削条件として設定する切削条件設定ステップと、該切削条件設定ステップで設定された切削条件で被切削物を切削する本切削ステップと、を備えたことを特徴とする切削方法が提供される。
【0011】
好ましくは、複数の予備切削条件は、互いにスピンドルの回転数又は切削送り手段の切削送り速度が異なる切削条件である。好ましくは、切削状態検出切削手段は撮像手段を含み、切削状態検出ステップでは、被切削物の上面を撮像手段で撮像し予備切削ステップで形成された切削溝に形成されるチッピングのサイズを切削状態として検出する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の切削方法は、予備切削ステップで切削した際の切削状態をそれぞれ検出する切削状態検出ステップと、切削状態検出ステップで検出された切削状態に基づいて最適な切削条件を選定する最適切削条件選定ステップを含んでおり、選定された最適切削条件を被切削物を切削する切削条件として設定するため、作業者の負担を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】切削装置の斜視図である。
図2】予備切削ステップ及び切削状態検出ステップを説明する模式図である。
図3】本切削ステップを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1を参照すると、本発明の切削方法を実施するのに適した切削装置2の斜視図が示されている。切削装置2は、静止基台4上に搭載されたX軸方向に伸長する一対のガイドレール6を含んでいる。
【0015】
X軸移動ブロック8は、ボール螺子10及びパルスモータ12とから構成される切削送り機構(切削送り手段)14によりガイドレール16に案内されて加工送り方向、即ちX軸方向に移動される。X軸移動ブロック8上には円筒状支持部材22を介してチャックテーブル20が搭載されている。
【0016】
チャックテーブル20は多孔性セラミックス等から形成された吸着部(吸着チャック)24を有している。チャックテーブル20には図3に示す環状フレームFをクランプする複数(本実施形態では4個)のクランプ26が配設されている。
【0017】
図2に示すように、切削装置2の切削対象である半導体ウエーハ11の表面11aにおいては、格子状に形成された複数の分割予定ライン(ストリート)13によって区画された各領域にIC、LSI等のデバイス15が形成されており、ウエーハ11は複数のデバイス15が形成されたデバイス領域17と、デバイス領域17を囲繞する外周余剰領域19とその表面11aに有している。
【0018】
ウエーハ11の切削を実施するのにあたり、図3に示すように、ウエーハ11は粘着テープであるダイシングテープTに貼着され、ダイシングテープTの外周部は環状フレームFに貼着されてウエーハユニット21が形成される。
【0019】
これにより、ウエーハ11はダイシングテープTを介して環状フレームFに支持された状態となり、図1に示すクランプ26により環状フレームFをクランプすることにより、ウエーハユニット21はチャックテーブル20上に支持固定される。
【0020】
切削送り機構14は、ガイドレール6に沿って静止基台4上に配設されたスケール16と、スケール16のX座標値を読みとるX軸移動ブロック8の下面に配設された読み取りヘッド18とを含んでいる。読み取りヘッド18は切削装置2のコントローラ56に接続されている。
【0021】
静止基台4上には更に、Y軸方向に伸長する一対のガイドレール28が固定されている。Y軸移動ブロック30は、ボール螺子32及びパルスモータ34とから構成されるY軸送り機構(割り出し送り機構)36によりガイドレール28に案内されてY軸方向に移動される。
【0022】
Y軸移動ブロック30にはZ軸方向に伸長する一対の(一本のみ図示)ガイドレール38が形成されている。Z軸移動ブロック40は、図示しないボール螺子とパルスモータ42から構成されるZ軸送り機構44によりガイドレール38に案内されてZ軸方向に移動される。
【0023】
46は切削ユニット(切削手段)であり、切削ユニット46のスピンドルハウジング48がZ軸移動ブロック40中に挿入されて支持されている。スピンドルハウジング48中にはスピンドル49(図3参照)が収容されて、エアベアリングにより回転可能に支持されている。スピンドル49はスピンドルハウジング48中に収容された図示しないモータにより回転駆動され、スピンドル49の先端部には切削ブレード50が着脱可能に装着されている。
【0024】
スピンドルハウジング48にはアライメントユニット(アライメント手段)52が搭載されている。アライメントユニット52はチャックテーブル20に保持されたウエーハ11を撮像する撮像ユニット(撮像手段)54を有している。切削ブレード50と撮像ユニット54はX軸方向に整列して配置されている。撮像ユニット59は顕微鏡及びCCDカメラ等のカメラを有しており、切削状態検出手段として用いられる。
【0025】
コントローラ(制御手段)56は、複数の予備切削条件にてウエーハ11に予備切削を施した際に撮像ユニット54で検出された切削状態に基づいて最適切削条件を選定する最適切削条件選定部58と、最適切削条件選定部58で選定された最適切削条件をウエーハ11を切削する切削条件として設定する切削条件設定部60とを含んでいる。
【0026】
本発明の切削方法では、まず、チャックテーブル20に保持されたウエーハ11を複数の互いに異なる予備切削条件で切削する予備切削ステップを実施する。本実施形態では、この予備切削条件として一次予備切削条件と二次予備切削条件を含んでいる。
【0027】
好ましくは、予備切削(テストカット)は、図2に示すようにウエーハ11の外周余剰領域19で実施する。まず、一次予備切削条件として切削送り速度を一定(例えば50mm/s)に保ち、スピンドル回転数を20000rpm〜40000rpmの範囲内で切削装置2のコントローラ56が2000rpm毎に自動的に増加して、ウエーハ11の外周余剰領域19に複数の予備切削溝23を形成する。
【0028】
本実施形態では、一次予備切削条件を表1に示すように設定し、スピンドル負荷電流値が許容値2Aを越えない範囲で最もチッピングサイズが小さい切削条件を、最適切削条件選定部58で一次予備切削時の最適切削条件として選定する。
【0029】
【表1】
【0030】
一次予備切削条件を変えて複数の予備切削溝23を形成し、撮像ユニット54で複数の予備切削溝23を撮像する。次いで、撮像画像から平均チッピングサイズを検出しこれをコントローラ56のメモリに記憶する。
【0031】
予備切削溝23の幅は略一様であるため、切削溝23のエッジから突出した長さをチッピングサイズとして検出した。表1から、スピンドル負荷電流値の許容値2Aを越えない範囲で最も平均チッピングサイズが小さかった条件11を、最適切削条件選定部で一時予備切削時の最適切削条件として選定した。
【0032】
次いで、スピンドル回転数を40000rpmに設定し、切削送り速度50mm/s〜90mm/sの範囲内で10mm/s毎に変更し、二次予備切削を実施した。この二次予備切削は、例えば図2に示すウエーハ11を90度回転し、一時予備切削が実施されていない外周余剰領域19を切削するのが好ましい。
【0033】
【表2】
【0034】
二次予備切削での選定条件は、平均チッピングサイズの許容値を40μmとして設定して、送り速度10mm/秒毎に変更して平均チッピングサイズとスピンドル負荷電流値を検出した。
【0035】
表2を観察すると明らかなように、平均チッピングサイズの平均値が40を超えずしかもスピンドル負荷電流値が2A以下である条件3を二次予備切削時の最適切削条件であると最適切削条件選定部58で選定した。
【0036】
本実施形態では、一次予備切削及び二次予備切削を実施して、それぞれの最適予備切削条件を最適切削条件選定部58で最適切削条件として選定し、この最適切削条件を切削条件設定部60でウエーハ11を切削する切削条件として設定する。
【0037】
このように本実施形態の切削方法では、2000rpm単位でスピンドルの回転数を切削装置2が自動で振り、その際のスピンドル負荷電流値及びカーフチェック結果の平均チッピングサイズ等のデータをコントローラ56が取得し、最適なスピンドル回転数を算出する。次にその最適なスピンドルの回転数で切削送り速度を10mm/秒単位で変化させて、切削送り速度の最適化を行っている。
【0038】
切削状態検出手段が検出する切削状態としては、上述した実施形態ではスピンドル49の負荷電流値及び撮像ユニット54でのカーフチェックで実施しているが、予備切削ステップでの切削状態の検出として、AEセンサーでの切削中の切削音を切削状態として検出すること、或いはNCSで切削ブレード摩耗量を切削状態として検出するようにしてもよい。
【0039】
切削条件設定後、設定された切削条件でウエーハ11を切削する本切削ステップを実施する。この本切削ステップでは、図3に示すように、切削装置のチャックテーブル20でダイシングテープTを介して半導体ウエーハ11を吸引保持し、切削ブレード50を矢印A方向に40000rpmで回転させながらダイシングテープTまで切り込ませつつ、チャックテーブル20を矢印X1方向に70mm/sの切削送り速度で切削送りしながら、分割予定ライン13に沿ってウエーハ11を切削して切削溝25を形成する。
【0040】
切削ユニット46を分割予定ライン13のピッチずつ割り出し送りしながら、第1の方向に伸長する分割予定ライン13を上述した条件で全て切削する。次いで、チャックテーブル20を90度回転してから、第1の方向と直交する第2の方向に伸長する分割予定ライン13を全て切削して、ウエーハ11を個々のデバイスチップ15に分割する。
【0041】
上述した実施形態では、予備切削条件として一次予備切削条件及び二次予備切削条件を設定しているが、予備切削は一次及び二次の予備切削を必ずしも実施する必要はなく、予め最適な切削送り速度が判明している場合には、最適なスピンドル回転数を求める一次予備切削だけを実施するようにしてもよい。或いは、予めスピンドルの最適回転数が判明している場合には、最適な切削送り速度を求める二次予備切削だけを実施するようにしてもよい。
【0042】
上述した実施形態では、本発明の切削方法を半導体ウエーハ11に適用した例について説明したが、本発明の切削方法の被加工物は半導体ウエーハ11に限定されるものではなく、光デバイスウエーハ等の他のウエーハ、セラミックス基板、ガラス基板等の他の板状被加工物の切削にも同様に適用することができる。
【0043】
また、上述した実施形態では、同一の半導体ウエーハに予備切削ステップと本切削ステップとを施しているが、予備切削ステップと本切削ステップとを異なる半導体ウエーハで行ってもよく、その場合、予備切削ステップは本切削ステップを施すウエーハと同材質、同一サイズ、同一厚みのウエーハで行うようにすればよい。
【符号の説明】
【0044】
11 半導体ウエーハ
13 分割予定ライン
15 デバイス
17 デバイス領域
19 外周余剰領域
20 チャックテーブル
21 デバイスユニット
23 予備切削溝
25 切削溝
46 切削ユニット
50 切削ブレード
56 コントローラ
58 最適切削条件選定部
60 切削条件設定部
図1
図2
図3