(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184360
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】光ファイバ用ガラス母材の焼結装置
(51)【国際特許分類】
C03B 37/014 20060101AFI20170814BHJP
【FI】
C03B37/014 Z
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-63460(P2014-63460)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-182946(P2015-182946A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】内田 一也
【審査官】
増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−314184(JP,A)
【文献】
特開2002−047014(JP,A)
【文献】
特開2013−147379(JP,A)
【文献】
実開昭61−137631(JP,U)
【文献】
特開2000−044269(JP,A)
【文献】
特開2010−272720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00 − 37/16
C03B 8/00 − 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ用多孔質ガラス母材を高温で加熱処理する焼結装置であって、ガラス母材昇降機構、該昇降機構によってガラス母材を挿入する開口部を上方に備えた石英ガラス製の炉心管、該炉心管の外周に配置した加熱炉、該炉心管の前記開口部を塞ぐための上蓋、該上蓋を前記開口部に載せるために設けられたフランジ、及び該フランジと上蓋との間を密閉するシール部材を備え、前記炉心管の前記開口部よりも下部に放熱機構を備え、該放熱機構が前記炉心管の外表面を荒らして不透明化されてなることを特徴とする光ファイバ用ガラス母材の焼結装置。
【請求項2】
前記フランジが不透明石英製である請求項1に記載の焼結装置。
【請求項3】
前記上蓋に樹脂製Oリングが装着されている請求項1に記載の焼結装置。
【請求項4】
前記シール部材の表面色が白色である請求項1に記載の焼結装置。
【請求項5】
前記シール部材が炉心管内壁の上方延長面を横切らないように設置されている請求項1に記載の焼結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ用多孔質ガラス母材の焼結に係り、炉芯管内ガスの室内への漏洩を防止するとともに、炉芯管内への大気の侵入を防止する光ファイバ用ガラス母材の
焼結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ用ガラス母材の製造方法として、VAD法やOVD法と呼ばれる方法がある。これらの方法では、まず火炎中でガラス原料を燃焼させてガラス微粒子を生成し、これを回転するターゲット棒の軸方向もしくは径方向に付着させて多孔質ガラス母材を製造する。このようにして製造された多孔質ガラス母材は、焼結炉と呼ばれる装置において1400〜1600℃に加熱され、透明なガラス母材とされる。透明ガラス化に先立ち、1000〜1250℃で脱水処理が行われる場合もある。
【0003】
多孔質ガラス母材の加熱は、炉芯管と呼ばれる石英ガラス製の容器内で行われ、炉芯管中央部の周囲には加熱炉が配置され加熱ゾーンを形成している。炉芯管の上端部には、多孔質ガラス母材を炉心管に挿入するための開口部と該開口部を塞ぐための上蓋が設置され、上蓋には多孔質ガラス母材を吊り下げるシャフトが貫通している。炉心管と上蓋の間を密閉するために、炉心管側の開口部フランジと上蓋との間にシール部材が挟み込まれている。
【0004】
多孔質ガラス母材を加熱し透明ガラス化する焼結工程では、雰囲気中にヘリウムを主成分とし、ガラス中のOH基を低減するための塩素等の脱水ガスやガラス中の結合欠陥を低減するための酸素が必要に応じて添加されており、1400〜1600℃に加熱される。なお、ヘリウムを用いる理由は、熱伝導率が高く、しかもガラスへの溶解度が高いためガラス中に気泡が残留しにくいためである。
【0005】
多孔質ガラス母材は、回転しつつ上昇または下降しつつ加熱ゾーンを通過することにより、その端部より順次加熱処理され、光ファイバ母材となる。
加熱処理後の光ファイバ母材は、炉心管の上部開口部からガラス母材昇降機構によって取り出されるが、光ファイバ母材が開口部フランジ近傍を通過する際、光ファイバ母材の熱放射により、炉心管、炉心管フランジが300℃以上に加熱される。このとき、上蓋と炉心管との間に挿入されたOリングなどのシール部材は円環形状しているため、炉心管開口部から待避させることができず、フランジ上に載置された状態のままなので、シール部材もまた母材取り出し時に高温に晒されることとなる。
【0006】
一般に、高温箇所に用いられるシール部材には、金属製のガスケットが用いられることが多いが、塩素等の脱水ガスを炉心管内に流した際の腐食の恐れや、石英ガラス製の炉心管のフランジを傷める恐れがあることから、繰り返し使用が困難である。そこで、シール部材には、バイトンやPTFEなどの耐熱樹脂が使われるが、その耐熱温度は高々300℃程度であり、母材取り出し時に受ける高温暴露を伴う繰り返し使用によってシール部材は硬化、収縮変形を起こし、密閉性が低下する。
【0007】
他方、母材の加熱処理中の加熱炉の温度は、前述のように1600℃まで上昇する。石英製の炉心管はその屈折率が約1.5程度であり、加熱炉付近の熱放射によって発生した熱線(赤外線等)に対して光導波路の役割をする。このため、母材の加熱処理中においても加熱炉の放射熱が上部開口部のフランジに向かって伝搬する。母材の大型化に伴い、ヒータの必要発熱量が増大し、またゾーン加熱による加熱処理時間も増大している。これにより、母材の加熱処理中、上部開口部のフランジ付近は常に高温に晒されることとなり、長時間の加熱処理を繰り返すことによって樹脂シール部材が熱変形して気密性が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、焼結装置の炉心管フランジ部をシールするシール部材の劣化を防止し、外気の吸い込みや、焼結雰囲気ガスの外部への漏れを防止することのできる光ファイバ用ガラス母材の
焼結装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(削除)
【0010】
(削除)
【0011】
本発明は、上記課題を解決してなり、請求項1に記載の発明は、光ファイバ用多孔質ガラス母材を高温で加熱処理する焼結装置であって、ガラス母材昇降機構、該昇降機構によってガラス母材を挿入する開口部を上方に備えた石英ガラス製の炉心管、該炉心管の外周に配置した加熱炉、該炉心管の前記開口部を塞ぐための上蓋、該上蓋を前記開口部に載せるために設けられたフランジ、及び該フランジと上蓋との間を密閉するシール部材を備え、前記炉心管の前記開口部よりも下部に放熱機構を備え
、該放熱機構が前記炉心管の外表面を荒らして不透明化されてなることを特徴とする光ファイバ用ガラス母材の焼結装置である。
また、前記フランジは不透明石英製とするのが好ましい。上蓋にはOリングが装着されている。また、シール部材の表面色は白色とし、シール部材が炉心管内壁の上方延長面を横切らないように設置するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光ファイバ用ガラス母材の
焼結装置を用いることで、炉芯管内部への外気の吸込み、及び焼結雰囲気ガスの外部への漏れが防止され、光ファイバ母材の特性の劣化を抑えることができる等の優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の焼結装置における、炉心管の開口部と上蓋との間のシール状態を示す概略部分断面図である。
【
図2】炉心管フランジに不透明石英を使用した例を示す概略部分断面図である。
【
図3】炉心管外周部を黒く塗装した焼結装置を示す概略部分断面図である。
【
図4】炉心管外周部の表面を粗し不透明化した焼結装置を示す概略部分断面図である。
【
図5】白色のシール部材を使用した例を示す概略部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の焼結装置は、上蓋と炉心管の開口部との間をシールするために、上蓋にシール部材を保持するシール部材保持機構を備えており、この保持機構には、例えば、上蓋に刻まれたアリ溝が挙げられる。このように上蓋側にシール部材を取り付けることで、焼結工程終了後、上蓋を上げ光ファイバ母材を取り出す際、高温状態にある光ファイバ母材とシール部材とを一定の距離離すことができ、シール部材は高温に曝されず、熱による劣化を抑えることができる。
【0015】
加熱炉ヒータからの放射熱は、炉心管を上方に伝搬してシール部材に到達し、シール部材を加熱し、変質、劣化させるが、炉心管のフランジを不透明石英製とすることで、放射熱はフランジ部分で散乱され外部に放射されるため、シール部材の変質、劣化を抑えることができる。また、シール部材を白色とすることで、シール部材の熱線に対する反射率が増し、熱吸収を抑えることができる。なお、シール部材は、樹脂製Oリングとし、材質にはシリコーンゴム、フッ化物ゴム、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0016】
また、炉心管の開口部よりも下部に放熱機構を設けて、炉心管を上方に伝搬してくる熱線を減衰させ、上部フランジ部に到達する熱線を減じることで、シール部材の温度上昇を抑えることができる。放熱機構として、炉心管の上部フランジと加熱炉による加熱ゾーンの途中の外壁を黒色塗料等で塗装することで、放射熱は、炉心管の石英ガラス部材を伝搬する間に徐々に塗装で吸収され、塗装部から外部に放射され、上方への放射熱を減じることができる。さらに、炉心管外壁表面を荒らして不透明とすることでも、上蓋側への放射熱を減じることができる。
【0017】
なお、上蓋にはOリングを装着し、シール部材は、炉心管内壁の上方延長面を横切らないように設置するとよい。これにより、炉心管を上方に伝搬してくる放射熱は、直接シール部材を照射することなく、透明な上蓋を通過し、上蓋上方に放射される。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
実施例1;
図1は、本発明の炉心管の開口部と上蓋との間のシール状態を示す概略図であり、符号1は炉心管上部開口部のフランジ、符号2は上蓋、符号3はシール部材である。なお、シール部材3は上蓋2に刻まれた溝に収められている。
炉心管は、内径380mm、外径390mmの透明石英ガラス製で、開口部には厚さ10mm、幅25mmの透明石英ガラス製のフランジ1が設けられている。上蓋2は、直径430mm、厚さ15mmの透明石英ガラスからなり、その中央には母材を吊り下げるシャフトが貫通しており、該シャフトは母材昇降装置に接続されている。
【0019】
シール部材3は、内径400mm、線径8mmのフッ化物ゴム製の黒色のOリングであり、上蓋2の直径405mmの円周上に刻まれた溝に収められている。溝は、深さ5mm、開口部6mm、底辺10mmのアリ溝であり、シール部材3を上蓋2に保持している。シール部材3は、フランジ1の平坦面に接触することで炉心管を密閉することができる。なお、シール部材3は、炉心管(内径380mm/外径390mm)の内壁の上方延長面を横切らない外側(内径400mm)に配置されている。
【0020】
上記した炉心管、上蓋、シール部材を備えた焼結装置を用いて、直胴部直径360mm、直胴部長さ2000mmの多孔質ガラス母材を焼結した。
具体的には、シャフトに吊り下げられた多孔質ガラス母材を炉心管の上部開口部から挿入して炉心管内に収容し、上蓋を閉じて密閉した。炉心管内に塩素を15vol%含有するアルゴンガスで満たした状態で、加熱炉の温度を1200℃に設定して、多孔質ガラス母材を5mm/minの速度で加熱ゾーンを通過させながら脱水処理を行った。次いで、炉心管内の雰囲気ガスをヘリウムガスとして加熱炉の温度を1550℃に設定し、多孔質ガラス母材を3mm/minの速度で加熱ゾーンを通過させながら透明ガラス化処理を行った。
【0021】
加熱処理中、上蓋の温度は130℃以下に保たれ、シール部材の温度も200℃以下に保たれていた。処理後のガラス母材は直胴部直径170mm、長さ約2000mmの透明ガラス母材となった。該ガラス母材を炉心管内で約1000℃まで徐冷後、上蓋を開放して炉心管上部開口部から取り出した。取り出しは、ガラス母材を母材昇降装置により30mm/secの速度で上昇させて行い、開口部付近を約1分間かけて通過させた。このとき、開口部フランジの表面温度は400℃まで上昇したが、上蓋およびシール部材の温度はそれぞれ130℃以下、200℃以下のままであり、シール部材に変形はなかった。
【0022】
実施例2;
図2の焼結装置を用いて、実施例1と同様の条件で多孔質ガラス母材を焼結した。
図2に示す焼結装置は、本発明の焼結装置において、炉心管フランジ部を不透明石英にした例であり、これにより、加熱炉から発せられ炉心管を上方に伝搬してくる熱線は、フランジ部分で散乱され外部に放射されるため、上蓋およびシール部材の温度の上昇を効果的に低減することができ、上蓋およびシール部材の温度を110℃以下に保つことができた。
【0023】
実施例3;
図3の焼結装置を用いて、実施例1と同様の条件で多孔質ガラス母材を焼結した。
図3に示す焼結装置は、炉心管の開口部よりも下部に放熱機構を備えており、放熱機構として、炉心管の上部フランジと加熱炉による加熱ゾーンの途中の外壁を黒く塗装したものである。加熱炉から発せられ炉心管を上方に伝搬してくる熱線は、炉心管の石英ガラス部材を伝搬する間に徐々に塗装で吸収され、吸収された熱はそこから外部に放射される。こうして、上部フランジ部に到達する熱線を減じることができ、上蓋およびシール部材の温度を110℃以下に保つことができた。
【0024】
実施例4;
図4の焼結装置を用いて、実施例1と同様の条件で多孔質ガラス母材を焼結した。
図4に示す焼結装置は、炉心管の開口部よりも下部に放熱機構を備えており、放熱機構として、炉心管の上部フランジと加熱炉による加熱ゾーンの途中の外壁を磨りガラス状に不透明化したものである。加熱炉から発せられ炉心管を上方に伝搬してくる熱線は、炉心管の石英ガラス部材を伝搬する間に徐々に外壁の不透明部分で散乱され、そこから外部に放射される。こうして、上部フランジ部に到達する熱線を減じることができ、上蓋およびシール部材の温度を120℃以下に保つことができた。
【0025】
実施例5;
図5の焼結装置を用いて、実施例1と同様の条件で多孔質ガラス母材を焼結した。
図5に示す焼結装置は、シール部材を白色にしたものであり、これによりシール部材の熱線に対する反射率が増し、熱吸収を抑えることができ、シール部材の温度を150℃以下に保つことができた。
【符号の説明】
【0026】
1 フランジ、
2 上蓋、
3 シール部材、
4 不透明石英製フランジ、
5 加熱ヒータ、
6 黒色塗装部、
7 表面荒らし部、
8 白色シール部材。