【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような目的を達成するための本発明の船形構造物の建造方法は、船首部構造体と中央部構造体と船尾部構造体とを
接合して船形構造物を建造する建造方法であって、前記船首部構造体と前記船尾部構造体を独立させると共に、前記船尾部構造体を上部構造物を有して構成し、前記船首部構造体と前記船尾部構造体をマザーヤードで建造した後、前記中央部構造体を介さずに
接合して、前記船尾部構造体に航行用の動力源と推進器と、これらの操作装置と、操船用の船橋を有する前記上部構造物とを備える自航可能な移動構造体にして、前記マザーヤードからサブヤードへ洋上を移動した後、前記移動構造体を前記船首部構造体と前記船尾部構造体に分離して、前記中央部構造体に前記船首部構造体と前記船尾部構造体を
接合して船形構造物を建造して完成することを特徴とする方法である。
【0010】
この場合、船首部構造体と船尾部構造体は、中央部構造体を建造する建造ヤードでなければ、別の建造ヤードで建造しても、同じ建造ヤードで建造してもよい。別の建造ヤードで建造する場合には、移動構造体とする場所は、どちらかの建造ヤードでもよいが、中央部構造体を建造する建造ヤードでなければ、さらに、別の建造ヤードや洋上接続であってもよい。なお、ここでいう「別の建造ヤード」は、新造船用の建造ヤードであっても、修繕船用の修繕ヤードであってもよい。
【0011】
なお、ここでいう「航行可能」とは、独立して自力航行(航海)できる場合だけでなく、他船に曳航されて航行できる場合も含む。また、船首部構造体と船尾部構造体を接続して航行可能な移動構造体を構成するので、船首部構造体の接続側の断面と船尾部構造体の接続側の断面とを同じ断面形状とすることが好ましい。同じ断面とならない場合には、接続部分に段差が無くなるように覆いを設けるか、新たな接続構造体を挿入することが航行時の推進抵抗を減少する意味から好ましい。
【0012】
また、必要に応じて、船首部構造体と船尾部構造体との間に燃料タンクを備えた航行用構造体を介装してもよい。この航行用構造体を船首部構造体の接続側の断面と船尾部構造体の接続側の断面とが同じ断面形状にならない場合の接続構造体とすることもでき、移動構造体を作るときの船首部構造体又は船尾部構造体の追加構成の一部としてもよい。
【0013】
この方法によれば、船舶や船形海洋構造物の船形構造物において、比較的高い技術を要する船首部構造体と船尾部構造体を建造する建造ヤードと、比較的低い技術で済む中央部構造体を建造する建造ヤードとを分離することで、船形構造物が完成する建造場所や建造ヤードや技術者を選ばずに、高度な技術の詰まった高性能の船形構造物を、迅速、且つ、低コストで建造できる。
【0014】
また、マザーヤードでは船首尾構造体の建造、サブヤードでは中央部構造体の建造に特化してもよい。この場合、異種のブロックが混在しないことで各ヤード全体を効率的に運営することができ、高性能な船形構造物を更に低コストで建造できるようになることが期待できる。
【0015】
つまり、従来技術では、船形構造物を建造する際に、同一の建造ヤードで、比較的高い技術を要する船首部と船尾部も建造するため、比較的低い技術しかない建造ヤードでは高性能の船形構造物を建造することが難しかったが、比較的低い技術で建造可能な中央部構造体を建造する能力があれば、別の建造ヤードで建造し、移送してきた移動構造体を、この建造ヤードで船首部構造体と船尾部構造体に分離して、この建造ヤードで建造した中央部構造体の前後に、分離した船首部構造体と船尾部構造体をそれぞれ接合して船形構造物を建造するだけで、高度な技術が詰まった高性能の船形構造物を建造できる。
【0016】
言い換えれば、比較的高い技術を持っている建造ヤード(マザーヤード)では、船型開発などの設計技術やぎょう鉄(造船業特有の厚鋼板の曲げ加工)や3次元加工のような高度な建造技術が必要であり、高付加価値が付与される船首部構造体のみ、又は、船尾部構造体のみ、又は、これらの両方のみを建造して、輸出することができるので、これらの建造に特化することにより、低価格競争に巻き込まれることなく、高度な技術を持つ建造ヤードを維持できる。
【0017】
また、その一方で、船首部構造体と船尾部構造体を輸入する比較的低い技術しかない建造ヤード(サブヤード)でも、中央部構造体は平行部が多く、建造が容易で、比較的技術が低くても、ある程度の工場設備があれば効率的に建造できる。この建造ヤードでは、比較的単純で低コストで中央部構造体を建造して、移動してきた船首部構造体と建造した中央部構造体と移動してきた船尾部構造体を接合して、高度な技術が詰まった高性能の船形構造物を建造し、販売できるので、低価格競争に打ち勝つことができる。
【0018】
つまり、ビジネスモデル的には、マザーヤードは、船首部構造体と船尾部構造体の標準的な組み合わせを2〜3種類保持し、顧客の要望に応じて、適切な組み合わせを選択して建造して、移動構造体を構成し、この移動構造体をサブヤードに提供したり、中央部構造体の要目・形状・接続方法を指示するビジネスや、主機・発電機・プロペラ等の高度な技術を要する主要機器類もパッケージ化して販売するビジネスを展開したりすることができ、また、サブヤードは、これらの組み合わせに対応する船体中央部を建造して、船首部構造体と中央部構造体と船尾部構造体を接合して、船形構造物を建造する。なお、完成形を提供するサブヤードは1つでも複数でも良い。あるいはサブヤードをフランチャイズ方式で展開することも考えられる。また、場合によっては、移動構造体は比較的高度な技術を持つサブヤードにて建造し、それをマザーヤードや別のサブヤードに移動させ、中央部構造体と結合し、高性能の船形構造物を建造し、販売するというビジネスモデルも考えられる。
【0019】
そして、複数の建造ヤードで船形構造物を分割建造することにより、高性能の船舶や船形海洋構造物を、低価格で、中央部構造体を効率的に建造できるサブヤードで建造できるようになる。特に平行部を長く持つ肥大船などにおいては、どこでも、誰でも、安く、早く建造できるようになる。
【0020】
上記の船形構造物の建造方法において、前記船形構造物が、自航可能若しくは曳航可能な船舶、又は、自航可能若しくは曳航可能な船形海洋構造物である場合には、より適切な建造方法となる。この自航可能な船舶や船形海洋構造物は、船尾部構造体に航行用の動力源と推進器を有する船舶や、船形構造物用とは別に、移動構造体を移動させるためだけに推進器を装備する船形構造物であってもよい。
【0021】
特に、自航可能な船舶や船形海洋構造物の場合においては、船首尾形状は船種によって影響を受け難いので、船首部構造体と船尾部構造体を独立させることにより、異なる船種の間でも、有効に使用できる。また、自航可能な場合には、自航用の多くの機器、装置、設備を設けるために、比較的高度な技術を必要とするので、分割建造の効果が大きい。
【0022】
また、バルクキャリアとタンカー等の比較的低速の船舶等では、標準化した船首尾形状であっても推進性能に優れた船首尾形状であれば、中央部構造体が異なっていても、抵抗性能は船首形状、自航要素は船尾形状にほぼ依存するので、標準化した船首部構造体と船尾部構造体を使用できる。また、抵抗推進に関する要求が殆んど無い海洋構造物に関しては、特に有効となる。
【0023】
上記の船形構造物の建造方法において、前記移動構造体が自航可能であるとすることにより、マザーヤードからサブヤードまでの洋上移動が、マザーヤードで建造した船首部構造体と船尾部構造体の接続体である移動構造体で自力航行できるので、曳船が不要になり、建造コストを抑制することができる。
【0024】
上記の船形構造物の建造方法において、複数の前記船形構造物の建造に際して、これらの前記船形構造物の間で、前記船首部構造体と前記船尾部構造体を標準化し、この標準化した前記船首部構造体と前記船尾部構造体の間に、標準化又は個別化した前記中央部構造体を挿入して、これらの前記船形構造物を建造することにより、次の効果を奏することができる。
【0025】
標準化した中央部構造体を用いる場合は、従来技術で同型船シリーズと呼ばれる船幅と長さが同じ船舶を、標準化した船首部構造体と船尾部構造体の間に標準化した中央部構造体を挿入することにより効率的に建造できる。
【0026】
また、標準化した中央部構造体を延長して挿入してもよい。特に貨物倉長さの整数倍であると効率がよい。つまり、基本となる長さのベース船から、貨物倉(ホールド又はタンク)の長さの整数倍で中央部構造体の長さを延ばすと、船体平行部に貨物倉を差し込むだけの単純な構成となるので更に効率がよい。
【0027】
つまり、船首部、船尾部、及び、可変長さの平行部を持つ船形建造物において、船首部構造体、船尾部構造体は全く同じ構成で、平行部を有する中央部構造体のみの長さを変えることで、顧客のニーズに合った船型を迅速に、低価格で提供できる。
【0028】
また、個別化した中央部構造体を用いる場合は、従来技術では、船幅が同じで長さが異なる船舶に関しても、それぞれ別々な船首尾形状を持つのが通例であったが、船幅が同じで長さが異なる場合は、船首部と船尾部を、標準化した船首部構造体と船尾部構造体で構成し、長さの異なる個別の中央部構造体を挿入することにより、顧客の要望に答えることができる船形構造物を建造できる。
【0029】
上記の船形構造物の建造方法において、前記中央部構造体を船体平行部構造体で形成することにより、中央部構造体は、複雑な曲がり形状が無く、比較的低い技術で建造可能で、しかも、大量生産に向いている船体平行部となるので、サブヤードにて、分離、中央部構造体の挿入、接合(組立)の工事を効率よく行って建造できるようになる。
【0030】
上記の船形構造物の建造方法において、前記中央部構造体を、前部接合部構造体と船体平行部構造体とで形成、又は、船体平行部構造体と後部接合部構造体とで形成、又は、前部接合部構造体と船体平行部構造体と後部接合部構造体とで形成するとすることにより、より多くの形状の船形建造物に対応することができる。
【0031】
船形建造物において、船首部構造体と船尾部構造体の接合部の第1断面が、船体平行部構造体の第2断面より大きい又は小さい場合には、幅方向及び深さ方向及び乾舷に関しては、前部接合部構造体と後部接合部構造体の一端側を第1断面で、他端側を第2断面で形成し、この間において、幅、深さ、乾舷等を円滑に変化させて構成することで、船首部構造体と船尾部構造体の組み合わせと、中央部構造体の組み合わせを多様なものとすることができ、数多くの船形建造物に対応できるようになる。
【0032】
例えば、幅方向に関しては、船首部構造体と船尾部構造体の組み合わせを標準化して2〜3種類用意しておくことで、幅が狭い船首部構造体と船尾部構造体、及び、幅が広い船体平行部構造体と、船体平行部構造体の端部に接続配置される、平面視で見て台形形状の前部接合部構造体と後部接合部構造体の一方又は両方を組み合せることによって、数多くの幅寸法に対応可能となる。
【0033】
また、第1断面と第2断面が同じで、船の長さを増加させるような場合には、同じ断面の前部接合部構造体、後部接合部構造体の一方又は両方を建造して、船首部構造体と船尾部構造体と、中央部構造体の間に、前部接合部構造体、後部接合部構造体の一方又は両方を挿入することで容易に対応可能となる。
【0034】
上記の船形構造物の建造方法において、複数の前記船形構造物の建造に際して、前記船体平行部構造体を標準化することにより、船体平行部構造体の大量生産が可能となり、効率よく建造できるようになる。
【0035】
そして、
本発明の参考となる船形構造物の設計方法は、上記の船形構造物の建造方法で使用する、船首部構造体、若しくは、中央部構造体、若しくは、船尾部構造体、又は、上記の船形構造物の建造方法で使用する、前部接合部構造体、若しくは、船体平行部構造体、若しくは、後部接合部構造体である分割構造体の一部又は幾つかの組み合わせ、又は、全体を設計することを特徴とする方法である。
【0036】
この方法によれば、上記の船形構造物の建造方法のために特化した、船首部構造体、中央部構造体、船尾部構造体、前部接合部構造体、船体平行部構造体、後部接合部構造体などの分割構造体を設計するので、上記の船形構造物の建造方法を効率的に実施できるようになる。
【0037】
また、
本発明の参考となる分割構造体は、船首部構造体と中央部構造体と直接接合している状態では船形構造物となっているように構成されている船尾部構造体である分割構造体であって、上部構造物を備えていると共に、直接前記船首部構造体と接合している状態で、航行用の動力源と推進器と、これらの操作装置と、操船用の船橋を有する前記上部構造物とを備えて自航可能となっているように構成されていることを特徴とする分割構造体である。
【0038】
これらの分割構造体を個々に建造及び販売することより、それぞれの技術レベルと地勢的な差を考慮して、個々の建造ヤードをそれぞれの分割構造体の建造に特化した建造ヤードとすることができ、個々の独立した建造ヤードではなく、連合した建造ヤード全体として効率的に船形構造物を建造することができるようになる。
【0039】
また、
本発明の参考となる移動構造体は、上記の分割構造体と、前記船首部構造体とを直接接合している状態であり、かつ、航行可能となっていることを特徴とする移動構造体である。
【0040】
この移動構造体は、自航可能な船舶の場合には、船尾部構造体には、推進器や舵やこれらの動力源やこれらの操作装置や、乗組員が居住する居住区や操船用の船橋を有する上部構造物があるので、容易に自航可能とすることができる。