(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明の繊維を形成するのに用いる変性エチレン−ビニルアコール共重合体(以下、変性EVOHと略することがある)について説明する。
該変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、下記式(I)で表され
る各単量体がランダム共重合した共重合体であって、全単量体単位に対するa、b及びcの含有率(モル%)が下記式(1)〜(3)を満足し、かつ下記式(4)で定義されるケン化度(DS)が90モル%以上である変性エチレン−ビニルアルコール共重合体である。この変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン単位及びビニルアルコール単位に加えて、共重合体の主鎖に1,3−ジオール構造を有する単量体単位を有することによって染色性が一層向上し、反応染料により染色することが可能になる。
【0018】
[式(I)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、該アルキル基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。X、Y及びZは、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2〜10のアルカノイル基を表す。]
【0019】
式(I)において、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。R
1、R
2、R
3及びR
4は同じ基であってもよいし、異なっていてもよい。該アルキル基の構造は特に限定されず、一部に分岐構造や環状構造を有していてもよい。また、該アルキル基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。R
1、R
2、R
3及びR
4は、好ましくは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、染色性の点から水素原子がより好ましい。当該アルキル基の好適な例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖又は分岐を有するアルキル基が挙げられる。
【0020】
式(I)において、X、Y及びZは、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2〜10のアルカノイル基を表す。X、Y又はZが水素原子である場合には、式(I)が水酸基を有し、X、Y又はZがホルミル基又はアルカノイル基である場合には、式(I)がエステル基を有する。当該アルカノイル基としては、炭素数が2〜5のアルカノイル基であることが好ましく、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基などが好適なものとして例示される。これらの中でも、吸湿性の点からアセチル基がより好適である。さらに、吸湿性及び染色性の点から、X、Y及びZは、いずれも、水素原子、又は水素原子を含む混合物であることが特に好ましい。
【0021】
Xを含む単量体単位は、通常、ビニルエステルをケン化することによって得られる。したがって、Xが、水素原子とホルミル基又は炭素数2〜10のアルカノイル基との混合物であることが好ましい。単量体(酢酸ビニル)の入手のし易さや製造コストを考慮すれば、Xが、水素原子とアセチル基との混合物であることが特に好ましい。
【0022】
一方、Y及びZを含む単量体単位は、1,3−ジエステル構造を有する不飽和単量体単位を共重合してからケン化することによっても製造できるし、1,3−ジオール構造を有する不飽和単量体単位をそのまま共重合することによっても製造できる。したがって、Y及びZは、いずれも水素原子のみであってもよいし、水素原子とホルミル基又は炭素数2〜10のアルカノイル基との混合物、より好適には、水素原子とアセチル基との混合物であってもよい。Y及びZがいずれも水素原子のみである場合、特に良好な染色性(発色性)を有する繊維が得られる。
【0023】
本発明の繊維を形成するのに用いる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、全単量体単位に対するa、b及びcの含有率(モル%)が下記式(1)〜(3)を満足する。
18≦a≦55 (1)
0.01≦c≦20 (2)
[100−(a+c)]×0.9≦b≦[100−(a+c)] (3)
【0024】
aは、全単量体単位に対するエチレン単位の含有率(モル%)を示したものであり、18〜55モル%である。エチレン含有量が18モル%未満では、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の溶融成形性が悪化する。紡糸性、延伸性及び強度に優れた繊維を得る観点からは、aは、好適には22モル%以上であり、特に好適には25モル%以上であり、さらに好適には31モル%以上である。一方、吸湿性及び着心地に優れた繊維を得る観点からは、aは、好適には50モル%以下であり、さらに好適には45モル%以下である。エチレン含有量が55モル%を超えると、EVOH繊維としての風合いを損なうおそれがある。以上のことから、含まれるエチレン含有量が上記式(1)の範囲内にあることで、紡糸性、延伸性、染色性及び吸湿性に優れた繊維を得ることができる。
【0025】
cは、全単量体単位に対する、式(I)中で右端に示されたY及びZを含む単量体単位の含有率(モル%)を示したものであり、0.01〜20モル%である。cが0.01モル%未満では、変性エチレンビニルアルコール共重合体の染色性及び吸湿性が不十分となる。cは、好適には0.1モル%以上であり、より好適には0.5モル%以上である。一方、cが20モル%を超えると、結晶性が極度に低下することによって紡糸性、延伸性が不足する。cは、好適には10モル%以下であり、より好適には5モル%以下である。
【0026】
bは、全単量体単位に対するビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の含有率(モル%)を示したものである。これが下記式(3)を満足する。
[100−(a+c)]×0.9≦b≦[100−(a+c)] (3)
すなわち、本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体においては、エチレン単位(a)と式(I)中で右端に示されたY及びZを含む単量体単位(c)以外の単量体単位のうちの90%以上がビニルアルコール単位又はビニルエステル単位(b)であるということである。より好適には下記式(3’)を満足し、さらに好適には下記式(3”)を満足する。
[100−(a+c)]×0.95≦b≦[100−(a+c)] (3’)
[100−(a+c)]×0.98≦b≦[100−(a+c)] (3”)
なお、これらa、b、cは、詳細は後述するが、
図1に示すような変性EVAcの
1H−NMRスペクトルから算出される。
【0027】
本発明の繊維を形成するのに用いる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、下記式(4)で定義されるケン化度(DS)が90モル%以上である。
DS=[(X、Y及びZのうち水素原子であるものの合計モル数)/(X、Y及びZの合計モル数)]×100 (4)
ここで、「X、Y及びZのうち水素原子であるものの合計モル数」は、水酸基のモル数を示し、「X、Y及びZの合計モル数」は、水酸基とエステル基の合計モル数を示す。ケン化度(DS)が90モル%未満になると、熱安定性が不十分となり、紡糸時にゲルやブツが発生しやすくなる。ケン化度(DS)は、好適には95モル%以上であり、より好適には98モル%以上であり、さらに好適には99モル%以上である。
【0028】
ケン化度(DS)は、核磁気共鳴(NMR)法によって得ることができる。上記a、b及びcで示される単量体単位の含有率も、NMR法によって得ることができる。また、本発明で用いる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、通常ランダム共重合体である。ランダム共重合体であることは、NMRや融点の測定結果から確認できる。
【0029】
本発明の繊維を形成するのに用いる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜30g/10分であり、より好適には0.3〜25g/10分、更に好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0030】
ここで、該変性エチレン−ビニルアルコール共重合体が、異なる2種類以上の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の混合物からなる場合、a、b、cで示される単量体単位の含有率、ケン化度、MFRは、配合重量比から算出される平均値を用いる。
【0031】
本発明の繊維を形成するのに用いる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法は特に限定されない。例えば、エチレン、下記式(II)で示されるビニルエステル、及び下記式(III)で示される不飽和単量体をラジカル重合させて下記式(IV)で示される変性エチレン−ビニルエステル共重合体を得た後に、それをケン化する方法が挙げられる。
【0033】
式(II)中、R
5は、水素原子又は炭素数1〜9のアルキル基を表す。当該アルキル基の炭素数は、好適には1〜4である。式(II)で示されるビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニルなどが例示される。経済的観点からは酢酸ビニルが特に好ましい。
【0035】
式(III)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は式(I)に同じである。R
6及びR
7は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜9のアルキル基を表す。当該アルキル基の炭素数は、好適には1〜4である。式(III)で示される不飽和単量体としては、2−メチレン−1,3−プロパンジオールジアセテート、2−メチレン−1,3−プロパンジオールジプロピオネート、2−メチレン−1,3−プロパンジオールジブチレートなどが挙げられる。中でも、2−メチレン−1,3−プロパンジオールジアセテートが、製造が容易な点から好ましく用いられる。2−メチレン−1,3−プロパンジオールジアセテートの場合、R
1、R
2、R
3及びR
4が水素原子であり、R
6及びR
7がメチル基である。
【0037】
式(IV)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、a、b及びcは、式(I)〜(III)に同じである。こうして得られた変性エチレン−ビニルエステル共重合体は、新規ポリマーであり、その後ケン化処理される。
【0038】
また、上記式(III)で示される不飽和単量体の代わりに、下記式(V)で示される不飽和単量体を共重合してもよく、この場合はケン化処理によって、上記式(II)で示される不飽和単量体由来の単位のみがケン化されることになる。
【0040】
式(V)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、式(I)と同じである。式(V)で示される不飽和単量体としては、2−メチレン−1,3−プロパンジオールが挙げられる。
【0041】
本発明で用いられる式(III)及び式(V)で示される不飽和単量体は、ビニルエステル単量体との共重合反応性が高いため、共重合反応が進行しやすい。したがって、得られる変性エチレン−ビニルエステル共重合体の変性量や重合度を高くすることが容易である。また、低重合率で重合反応を停止させても重合終了時に残留する未反応の当該不飽和単量体の量が少ないので、環境面及びコスト面においても優れている。式(III)及び式(V)で示される不飽和単量体は、この点において、アリルグリシジルエーテルや3,4−ジアセトキシ−1−ブテンなど、アリル位に官能基を有する炭素原子が1個だけである他の単量体よりも優れている。ここで、式(III)で示される不飽和単量体は、式(V)で示される不飽和単量体よりも反応性が高い。
【0042】
エチレンと、上記式(II)で示されるビニルエステルと、上記式(III)あるいは(V)で示される不飽和単量体とを共重合して、上記式(IV)で示される変性エチレン−ビニルエステル共重合体を製造する際の重合方式は、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。また、重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法を採用できる。無溶媒又はアルコールなどの溶媒中で重合を進行させる塊状重合法又は溶液重合法が、通常採用される。高重合度の変性エチレン−ビニルエステル共重合体を得る場合には、乳化重合法の採用が選択肢の一つとなる。
【0043】
溶液重合法において用いられる溶媒は特に限定されないが、アルコールが好適に用いられ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールがより好適に用いられる。重合反応液における溶媒の使用量は、目的とする変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の粘度平均重合度や、溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、反応液に含まれる溶媒と全単量体との重量比(溶媒/全単量体)は、0.01〜10の範囲、好ましくは0.05〜3の範囲から選択される。
【0044】
エチレンと、上記式(II)で示されるビニルエステルと、上記式(III)あるいは(V)で示される不飽和単量体とを共重合する際に使用される重合開始剤は、公知の重合開始剤、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤から重合方法に応じて選択される。アゾ系開始剤としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。過酸化物系開始剤としては、例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート系化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、過酸化アセチルなどのパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテートなどが挙げられる。過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを上記開始剤に組み合わせて使用してもよい。レドックス系開始剤は、例えば上記の過酸化物系開始剤と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせた重合開始剤である。重合開始剤の使用量は、重合触媒により異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて調整される。重合開始剤の使用量は、ビニルエステル単量体に対して0.01〜0.2モル%が好ましく、0.02〜0.15モル%がより好ましい。重合温度は特に限定されないが、室温〜150℃程度が適当であり、好ましくは40℃以上かつ使用する溶媒の沸点以下である。
【0045】
エチレンと、上記式(II)で示されるビニルエステルと、上記式(III)あるいは(V)で示される不飽和単量体とを共重合する際には、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、連鎖移動剤の存在下で共重合してもよい。連鎖移動剤としては、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;2−ヒドロキシエタンチオールなどのメルカプタン類;ホスフィン酸ナトリウム一水和物などのホスフィン酸塩類などが挙げられる。なかでも、アルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。重合反応液への連鎖移動剤の添加量は、連鎖移動剤の連鎖移動係数及び目的とする変性エチレン−ビニルエステル共重合体の重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル単量体100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましい。
【0046】
こうして得られた変性エチレン−ビニルエステル共重合体をケン化して、本発明の繊維を形成するのに用いる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を得ることができる。このとき、共重合体中のビニルエステル単位はビニルアルコール単位に変換される。また、式(III)で示される不飽和単量体に由来するエステル結合も同時に加水分解され、1,3−ジオール構造に変換される。このように、一度のケン化反応によって種類の異なるエステル基を同時に加水分解することができる。
【0047】
変性エチレン−ビニルエステル共重合体のケン化方法としては、公知の方法を採用できる。ケン化反応は、通常、アルコール又は含水アルコールの溶液中で行われる。このとき好適に使用されるアルコールは、メタノール、エタノールなどの低級アルコールであり、特に好ましくはメタノールである。ケン化反応に使用されるアルコール又は含水アルコールは、その重量の40重量%以下であれば、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ベンゼンなどの他の溶媒を含んでもよい。ケン化に使用される触媒は、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物や、ナトリウムメチラートなどのアルカリ触媒、鉱酸などの酸触媒である。ケン化を行う温度は限定されないが、20〜120℃の範囲が好適である。ケン化の進行に従ってゲル状の生成物が析出してくる場合には、生成物を粉砕した後、洗浄、乾燥して、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を得ることができる。
【0048】
本発明に用いられる変性エチレン−ビニルエステル共重合体のケン化度は好ましくは90%以上である。変性エチレン−ビニルエステル共重合体のケン化度は、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは98%以上であり、最適には99%以上である。ケン化度が90%未満では、熱安定性が不十分となり、ゲル・ブツが発生しやすくなって工程通過性が悪化するおそれがある。
【0049】
本発明の繊維を形成するのに用いる変性EVOHは、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、エチレン、上記式(II)で示されるビニルエステル、及び上記式(III)あるいは(V)で示される不飽和単量体と共重合可能な、他のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含んでもよい。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン類;アクリル酸及びその塩;アクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパンなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸及びその塩又はエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。
【0050】
こうして得られた本発明の繊維を形成するのに用いる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体に、他の成分を配合して樹脂組成物とすることができる。例えば、他の熱可塑性樹脂、可塑剤、滑剤、安定剤、界面活性剤、色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、乾燥剤、架橋剤、金属塩、充填剤、各種繊維などの補強剤などを配合した樹脂組成物とすることもできる。
【0051】
なかでも、本発明の繊維を形成するのに用いる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体がアルカリ金属塩を含有することが好ましい。アルカリ金属塩のカチオン種は特に限定されないが、ナトリウム塩又は及びカリウム塩が好適である。アルカリ金属塩のアニオン種も特に限定されない。カルボン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、ホウ酸塩、水酸化物等として添加することができる。アルカリ金属塩の含有量は、アルカリ金属元素換算で10〜500ppmであることが好ましい。アルカリ金属塩の含有量が10ppm未満の場合には層間接着性が不十分になる場合があり、より好適には50ppm以上である。一方、アルカリ金属塩の含有量が500ppmを超える場合には溶融安定性が不十分になる場合があり、より好適には300ppm以下である。
【0052】
本発明の繊維を形成するのに用いる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体がリン酸化合物を含有することも好ましい。このようにリン酸化合物を含有する樹脂組成物とすることによって、溶融成形時の着色を防止することができる。本発明に用いられるリン酸化合物は特に限定されず、リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いることができる。リン酸塩としては第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形で含まれていてもよいが、第1リン酸塩が好ましい。そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩であることが好ましい。これらの中でもリン酸2水素ナトリウム及びリン酸2水素カリウムが好ましい。リン酸化合物の含有量は、好適にはリン酸根換算で5〜200ppmであることが好ましい。リン酸化合物の含有量が5ppm未満の場合には、溶融成形時の耐着色性が不十分になる場合がある。一方、リン酸化合物の含有量が200ppmを超える場合には溶融安定性が不十分になる場合があり、より好適には160ppm以下である。
【0053】
本発明の繊維を形成するのに用いる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体がホウ素化合物を含有してもよい。このようにホウ素化合物を含有する樹脂組成物とすることによって、加熱溶融時のトルク変動を抑制することができる。本発明に用いられるホウ素化合物としては特に限定されず、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの化合物のうちでもオルトホウ酸(以下、単にホウ酸と表示する場合がある)が好ましい。ホウ素化合物の含有量は、好適にはホウ素元素換算で20〜2000ppm以下であることが好ましい。ホウ素化合物の含有量が20ppm未満の場合には、加熱溶融時のトルク変動の抑制が不十分になる場合があり、より好適には50ppm以上である。一方、ホウ素化合物の含有量が2000ppmを超える場合にはゲル化しやすく、成形性が悪化する場合があり、より好適には1000ppm以下である。
【0054】
また、本発明の効果が阻害されない範囲あれば、溶融安定性等を改善するために、ハイドロタルサイト化合物、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系熱安定剤、高級脂肪族カルボン酸の金属塩(例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等)の一種以上を、本発明の繊維を形成するのに用いる変性EVOHに0.001〜1重量%含有させても構わない。その他の成分の具体的な例としては次のようなものが挙げられる。
【0055】
酸化防止剤:2,5−ジ−t−ブチル−ハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)等。
【0056】
紫外線吸収剤:エチレン−2−シアノ−3’,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)5−クロロベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等。
【0057】
可塑剤:フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等。
【0058】
帯電防止剤:ペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、カーボワックス等。
【0059】
滑剤:エチレンビスステアロアミド、ブチルステアレート等。
【0060】
着色剤:カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、ベンガラ等。
【0061】
充填剤:酸化チタン、酸化ケイ素、バラストナイト、ケイ酸カルシウム等。
【0062】
本発明の繊維は、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のみからなる繊維であり、従来公知の紡糸装置、延伸装置を使用し、通常の溶融紡糸法により紡糸を行うことができ、例えば、低速、中速で溶融紡糸した後に延伸する方法、高速による直接紡糸延伸法、紡糸後に延伸と仮撚を同時に又は続いて行なう方法の任意の製造方法で、長繊維、短繊維を製造することができる。
【0063】
具体的に説明すれば、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を、溶融押出し機で溶融し、溶融ポリマー流を紡糸頭に導きギヤポンプで計量し、所望の形状の紡糸ノズルから吐出させ、必要に応じて延伸処理などを行い、ついで巻き取ることにより、本発明の繊維を製造することができる。紡糸時の溶融温度は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の融点等により適宜調製されるが、通常150〜300℃程度が好ましい。紡糸ノズルから吐出された糸条は延伸せずにそのまま高速で巻き取るか必要に応じて延伸される。延伸操作は、通常、ガラス転移点以上の温度において、破断伸度(HDmax)の0.55〜0.9倍の延伸倍率で行われる。延伸倍率が破断伸度の0.55倍未満では十分な強度を有する繊維が安定して得られにくく、破断伸度の0.9倍を超えると断糸しやすくなる。
【0064】
延伸は紡糸ノズルから吐出された後に一旦巻き取ってから延伸する場合と、延伸に引き続いて施される場合があるが、本発明においてはいずれでもよい。延伸操作は、通常熱延伸によって行われ、熱風、熱板、熱ローラー、水浴等のいずれを用いて行ってもよい。また、引取り速度は、一旦巻き取ってから延伸処理を行う場合、紡糸直結延伸の一工程で紡糸延伸して巻き取る場合、延伸を行わずに高速でそのまま巻き取る場合で異なるが、大凡500m/分〜6000m/の範囲で引き取る。500m/未満では、生産性が劣るし、6000m/分を超えるような超高速では、繊維の断糸が起こりやすい。また、本発明の繊維断面形状は特に限定されず、通常の溶融紡糸の手法を用いてノズルの形状により真円状にも中空にも異型断面にもできる。繊維化や製織化での工程通過性の点からは真円が好ましい。
【0065】
本発明の繊維の断面形状はどのようなものであってもよく、円形、異形、中空など目的に合った形状とすることができる。異形断面の場合は、例えば偏平形、楕円形、三角形〜八角形等の角形、C字形、T字形、H字形、3〜8葉形等の多葉形、多枝形等の任意の形状とすることができる。さらに、繊維の太さがその長さ方向に沿って変化するシックアンドシンの形態をなすことも可能である。更に、本発明の繊維は、繊維形成性重合体において通常使用されている蛍光増白剤、安定剤、難燃剤、着色剤等の任意の添加剤を必要に応じて含有することができる。また、本発明の繊維は、モノフィラメント等の長繊維、ステープル等の短繊維、マルチフィラメント糸、紡績糸等に適宜使用でき、さらに本発明の繊維と天然繊維、半合成繊維、他の合成繊維との混繊糸や混紡糸、合撚糸等として応用が可能である。また、本発明の繊維は、仮撚捲縮加工、交絡処理等の任意の処理を施してあってもよい。
【0066】
こうして得られる本発明の繊維は、前記変性EVOHの融点が低いことから、熱融着繊維として好適に使用される。また、前記変性EVOHの結晶性が低いことから、収縮繊維としても好適に使用される。また、必要に応じて染色されるが、本発明の前記変性EVOHからなる繊維は未変性のEVOHに比べて染色性が良好である。
【0067】
本発明の繊維は、長繊維としても使用可能であるし、適宜切断して短繊維としても使用可能である。そして、織地、編地、不織布などの布帛を製造することができ、各種繊維製品に好適に使用される。特に、本発明の繊維が含まれる繊維製品は、吸湿性に優れて着用感が良好であるので、衣料用途に有用である。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。
【0069】
[変性EVOHの製造]
合成例1
(1)変性EVAcの合成
ジャケット、攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口及び開始剤添加口を備えた50L加圧反応槽に、酢酸ビニル(式(II)において、R
5がメチル基:以下、VAcと称する)を21kg、メタノール(以下、MeOHと称する)を2.1kg、2−メチレン−1,3−プロパンジオールジアセテート(式(III)において、R
1、R
2、R
3及びR
4が水素原子で、R
6及びR
7がメチル基:以下、MPDAcと称する)を1.1kg仕込み、60℃に昇温した後、30分間窒素バブリングして反応槽内を窒素置換した。次いで反応槽圧力(エチレン圧力)が4.2MPaとなるようにエチレンを導入した。反応槽内の温度を60℃に調整した後、開始剤として16.8gの2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製「V−65」)をMeOH溶液として添加し、重合を開始した。重合中はエチレン圧力を4.2MPaに、重合温度を60℃に維持した。4.5時間後にVAcの重合率が34%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下で未反応のVAcを除去した後、MPDAc由来の構造単位が共重合により導入された変性エチレン−酢酸ビニル共重合体(本明細書中、変性EVAcと称することがある)にMeOHを添加して20質量%MeOH溶液とした。
【0070】
(2)変性EVAcのケン化
ジャケット、撹拌機、窒素導入口、還流冷却器及び溶液添加口を備えた10L反応槽に(1)で得た変性EVAcの20質量%MeOH溶液5658gを仕込んだ。この溶液に窒素を吹き込みながら60℃に昇温し、水酸化ナトリウムの濃度が2規定のMeOH溶液を14.7mL/分の速度で2時間添加した。水酸化ナトリウムMeOH溶液の添加終了後、系内温度を60℃に保ちながら2時間撹拌してケン化反応を進行させた。その後酢酸を254g添加してケン化反応を停止した。その後、80℃で加熱攪拌しながら、イオン交換水3Lを添加し、反応槽外にMeOHを流出させ、変性エチレンービニルアルコール共重合体を析出させた。デカンテーションにより析出した変性EVOHを収集し、ミキサーで粉砕した。得られた変性EVOH粉末を1g/Lの酢酸水溶液(浴比20:粉末1kgに対して水溶液20Lの割合)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して攪拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して精製を行った。次いで、酢酸0.5g/L及び酢酸ナトリウム0.1g/Lを含有する水溶液10Lに4時間攪拌浸漬してから脱液し、これを60℃で16時間乾燥させることで変性EVOHの粗乾燥物を503g得た。
【0071】
(3)変性EVOH含水ペレットの製造
ジャケット、撹拌機及び還流冷却器を備えた3L撹拌槽に、(2)を2回繰返して得た変性EVOHの粗乾燥物758g、水398g及びMeOH739gを仕込み、85℃に昇温して溶解させた。この溶解液を径4mmのガラス管を通して5℃に冷却した水/MeOH=90/10の混合液中に押し出してストランド状に析出させ、このストランドをストランドカッターでペレット状にカットすることで変性EVOHの含水ペレットを得た。得られた変性EVOHの含水ペレットの含水率をメトラー社製ハロゲン水分計「HR73」で測定したところ、55質量%であった。
【0072】
(4)変性EVOH組成物ペレットの製造
上記(3)で得た変性EVOHの含水ペレット1577gを1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌洗浄した。脱液後、酢酸水溶液を更新し同様の操作を行った。酢酸水溶液で洗浄してから脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して撹拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して精製を行い、ケン化反応時の触媒残渣が除去された、変性EVOHの含水ペレットを得た。当該含水ペレットを酢酸ナトリウム濃度0.525g/L、酢酸濃度0.8g/L、リン酸濃度0.007g/Lの水溶液(浴比20)に投入し、定期的に撹拌しながら4時間浸漬させた。これを脱液し、80℃で3時間、及び105℃で16時間乾燥させることによって、酢酸、ナトリウム塩及びリン酸化合物を含有した変性EVOH組成物ペレットを得た。
【0073】
(5)変性EVAc中の各構造単位の含有量
変性EVAc中の、エチレン単位含有率(式(IV)におけるaモル%)、酢酸ビニル由来の構造単位の含有量(式(IV)におけるbモル%)及びMPDAc由来の構造単位の含有量(式(IV)におけるcモル%)は、ケン化前の変性EVAcを
1H−NMR測定して以下のように算出した。
【0074】
まず、(1)において得られた変性EVAcのMeOH溶液を少量サンプリングし、イオン交換水中で変性EVAcを析出させた。析出物を収集し、真空下、60℃で乾燥させることで変性EVAcの乾燥品を得た。次に、得られた変性EVAcの乾燥品を内部標準物質としてテトラメチルシランを含むジメチルスルホキシド(DMSO)−d
6に溶解し、500MHzの
1H−NMR(日本電子株式会社製:「GX−500」)を用いて80℃で測定した。
【0075】
図1に、実施例1で得られた変性EVAcの
1H−NMRスペクトルを示す。当該スペクトル中の各ピークは、以下のように帰属される。
・0.6〜1.0ppm:末端部位エチレン単位のメチレンプロトン(4H)
・1.0〜1.85ppm:中間部位エチレン単位のメチレンプロトン(4H)、MPDAc由来の構造単位の主鎖部位メチレンプロトン(2H)、酢酸ビニル単位のメチレンプロトン(2H)
・1.85−2.1ppm:MPDAc由来の構造単位のメチルプロトン(6H)と酢酸ビニル単位のメチルプロトン(3H)
・3.7−4.1ppm:MPDAc由来の構造単位の側鎖部位メチレンプロトン(4H)
・4.4−5.3ppm:酢酸ビニル単位のメチンプロトン(1H)
【0076】
上記帰属にしたがい、0.6〜1.0ppmの積分値をx、1.0〜1.85ppmの積分値をy、3.7〜4.1ppmの積分値をz、4.4〜5.3ppmの積分値をwとした場合、エチレン単位の含有量(a:モル%)、ビニルエステル単位の含有量(b:モル%)及びMPDAc由来の構造単位の含有量(c:モル%)は、それぞれ以下の式にしたがって算出される。
a=(2x+2y−z−4w)/(2x+2y+z+4w)×100
b=8w/(2x+2y+z+4w)×100
c=2z/(2x+2y+z+4w)×100
上記方法により算出した結果、エチレン単位の含有量(a)は32.0モル%、ビニルエステル単位の含有量(b)は64.1モル%、MPDAc由来の構造単位の含有量(c)は3.9モル%であった。変性EVAcにおけるa、b及びcの値は、ケン化処理後の変性EVOHにおけるa、b及びcの値と同じである。
【0077】
(6)変性EVOHのケン化度
ケン化後の変性EVOHについても同様に
1H−NMR測定を行った。上記(2)で得られた変性EVOHの粗乾燥物を、内部標準物質としてテトラメチルシラン、添加剤としてテトラフルオロ酢酸(TFA)を含むジメチルスルホキシド(DMSO)−d
6に溶解し、500MHzの
1H−NMR(日本電子株式会社製:「GX−500」)を用いて80℃で測定した。
図2に、実施例1で得られた変性EVOHの
1H−NMRスペクトルを示す。1.85〜2.1ppmのピーク強度が大幅に減少していることから、酢酸ビニルに含まれるエステル基に加え、MPDAc由来の構造単位に含まれるエステル基もケン化されて水酸基になっていることは明らかである。ケン化度は酢酸ビニル単位のメチルプロトン(1.85〜2.1ppm)と、ビニルアルコール単位のメチンプロトン(3.15〜4.15ppm)のピーク強度比より算出した。変性EVOHのケン化度は99.9モル%以上であった。
【0078】
(7)変性EVOHの融点
上記(4)で得られた変性EVOH組成物ペレットについて、JIS K7121に準じて、30℃から215℃まで10℃/分の速度にて昇温した後100℃/分で−35℃まで急冷して再度−35℃から195℃まで10℃/分の昇温速度にて測定を実施した(セイコー電子工業株式会社製示差走査熱量計(DSC)「RDC220/SSC5200H」)。温度の校正にはインジウムと鉛を用いた。2ndランのチャートから前記JISにしたがって融解ピーク温度(Tpm)を求め、これを変性EVOHの融点とした。融点は151℃であった。
【0079】
(8)変性EVOH組成物中のナトリウム塩含有量とリン酸化合物含有量
上記(4)で得られた変性EVOH組成物ペレット0.5gをテフロン(登録商標)製圧力容器に入れ、ここに濃硝酸5mLを加えて室温で30分間分解させた。30分後蓋をし、湿式分解装置(株式会社アクタック製:「MWS−2」)により150℃で10分間、次いで180℃で5分間加熱することで分解を行い、その後室温まで冷却した。この処理液を50mLのメスフラスコ(TPX製)に移し純水でメスアップした。この溶液について、ICP発光分光分析装置(パーキンエルマー社製「OPTIMA4300DV」)により含有金属の分析を行い、ナトリウム元素及びリン元素の含有量を求めた。ナトリウム塩含有量は、ナトリウム元素換算値で150ppmであり、リン酸化合物含有量は、リン酸根換算値で10ppmであった。
【0080】
実施例において、繊維の紡糸工程通過性、強度、染色性、接着性、風合いの評価を以下の方法により測定した。
【0081】
(1)紡糸工程通過性
100kg紡糸した際の毛羽断糸の発生状況で評価した。
○:毛羽、断糸の発生がなく良好。
△:断糸はなく、毛羽の発生が僅かに認められる。
×:断糸が発生。
【0082】
(2)繊維強度
JIS L1013に準拠して測定した。
【0083】
(3)染色性
下記の条件で染色した布帛の発色性(鮮明性、光沢性)を、10人のパネラーにより官能評価を行った。その結果、「非常に優れる」を2点、「優れる」を1点、「劣る」を0点とし、総合点で3段階に分けて行った。
○:合計点が15点以上。
△:合計点が6〜14点。
×:合計点が6点以下。
【0084】
染色条件:
染料 Sumifix Supra Brilliant Red 3BF 150%gran(住友化学工業(株)製)3%owf
硫酸ナトリウム(関東化学(株)製) 50g/リットル
炭酸ナトリウム(関東化学(株)製) 20g/リットル
浴比 1:30
温度 60℃
時間 60分
【0085】
ソーピング条件:
アミラジン(明成化学工業(株)製) 1g/リットル
浴比 1:50
温度 60℃
時間 20分
【0086】
(4)吸湿率
温度20℃、湿度90%の条件下で飽和状態に達したときのサンプルの重量を吸湿時の重量として、以下の式より求めた。
吸湿率(%)=〔(吸湿時のサンプル重量−絶乾時のサンプル重量)/絶乾時のサンプル重量〕×100
【0087】
(5)着用感
平織物よりシャツを作成し、着心地を官能評価した。
○:発汗時に蒸れず、爽涼な着心地。
△:発汗時に僅かに蒸れを感じるが、すぐに回復する。
×:発汗時に酷い蒸れを感じ、なかなか回復しない。
【0088】
[変性EVOHからなる繊維の製造]
実施例1
合成例1で得られた変性EVOHを用い、押出機を使用して200℃で溶融し、紡糸パックに導き、孔径0.25mm、ホール数24のノズルから紡糸金口温度280℃で吐出させ、1000m/分の速度で巻き取った。このときの孔の形状は真円形であった。得られた紡糸原糸をホットローラー温度80℃、ホットプレート温度100℃で3倍(HDmaxの0.7倍に相当)にローラープレート延伸し、83デシテックス/24フィラメントのマルチフィラメント糸を得た。
【0089】
ついで得られたマルチフィラメントを経糸及び緯糸として使用し、1/1の平織物を製造した。この生機平織物を、通常の液流染色機を使用して、上述の染色条件にて染色を施した。その後、常法により乾燥仕上げセットを行った。マルチフィラメント糸の紡糸工程通過性及び強度、並びに該マルチフィラメント糸から得られた平織物の染色性、吸湿率及び着用感の評価を行った結果をまとめて表1に示した。
【0090】
実施例2
合成例1の(1)において、エチレン圧力を4.1MPaにし、MPDAcの代わりに2−メチレン−1,3−プロパンジオールを1.5kg添加した以外は、同様の方法で重合を行った。5時間後にVAcの重合率が28%となったところで冷却し重合を停止した。こうして得られた変性EVOHを用いて、引き続き、実施例1と同様にしてマルチフィラメント糸及びそれからなる平織物を得た。実施例1と同様に各種の評価を行い、結果を表1に示した。
【0091】
実施例3
合成例1の(1)において、開始剤の量を8.4gにし、MPDAcの仕込量を0.5kgにした以外は、同様の方法で重合を行った。6時間後にVAcの重合率が52%となったところで冷却し重合を停止した。引き続き、実施例1と同様にし、マルチフィラメント糸及びそれからなる平織物を得た。実施例1と同様に各種の評価を行い、結果を表1に示した。
【0092】
実施例4
合成例1の(1)において、MeOHの量を1.1kgにし、エチレン圧力を3.8MPaにし、MPDAcの仕込量を2.0kgにし、重合開始から5時間後に開始剤を16.8g追加添加した以外は、同様の方法で重合を行った。10時間後にVAcの重合率が9%となったところで冷却し重合を停止した。こうして得られた変性EVOHを用いて、引き続き、実施例1と同様にしてマルチフィラメント糸及びそれからなる平織物を得た。実施例1と同様に各種の評価を行い、結果を表1に示した。
【0093】
実施例5
実施例1の(1)において、MeOH量を1.1kgにし、開始剤の量を16.8gにし、エチレン圧力を6.0MPaにし、MPDAcの仕込量を1.1kgにした以外は、同様の方法で重合を行った。4時間後にVAcの重合率が22%となったところで冷却し重合を停止した。こうして得られた変性EVOHを用いて、引き続き、実施例1と同様にしてマルチフィラメント糸及びそれからなる平織物を得た。実施例1と同様にマルチフィラメント糸の紡糸工程通過性、強度及び接着性、並びに平織物の染色性、吸湿率及び着用感の評価を行い、結果を表1にまとめて示した。
【0094】
比較例1
合成例1の(1)において、MeOH量を6.3kgにし、開始剤の量を4.2gにし、エチレン圧力を3.7MPaにし、MPDAcを仕込まなかった以外は、同様の方法で重合を行い、未変性のEVAcを得た。4時間後にVAcの重合率が44%となったところで冷却し重合を停止した。こうして得られた未変性EVOHを用いて、引き続き、実施例1と同様にしてマルチフィラメント糸及びそれからなる平織物を得た。また、実施例1と同様に各種の評価を行い、結果を表1に示した。
【0095】
比較例2
合成例1の(1)において、MeOH量を4.2kgにし、開始剤の量を4.2gにし、エチレン圧力を5.3MPaにし、MPDAcを添加しなかった以外は、同様の方法で重合を行い、未変性のEVAcを得た。3時間後にVAcの重合率が29.3%となったところで冷却し重合を停止した。こうして得られた未変性EVOHを用いて、引き続き、実施例1と同様にしてマルチフィラメント糸及びそれからなる平織物を得た。また、実施例1と同様に各種の評価を行い、結果を表1に示した。
【0096】
比較例3
重合溶媒としてMeOHを使用し、重合開始剤としてAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を使用して、60℃、加圧下でエチレン、酢酸ビニルと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(以下、AMPSと略す)をラジカル重合させて、AMPS含量0.2モル%、エチレン含量44モル%のAMPS/エチレン/酢酸ビニル共重合体を製造した。次に、このAMPS/エチレン/酢酸ビニル共重合体を苛性ソーダ含有MeOH液中でケン化処理し、続いて酢酸を少量添加した純水の大過剰量を使用して洗浄を繰り返した後、さらに大過剰の純水で洗浄を繰り返した。その後、脱水機により共重合体から水を分離した後、100℃以下の温度で真空乾燥により充分乾燥した。得られたAMPS/エチレン/ビニルアルコール系共重合体(変性Et/VA系共重合体)のケン化度は99.5モル%、メルトインデックス(190℃、2160g荷重下)は2g/10min.であった。こうして得られた、本発明の変性EVOHとは異なる構造単位を有する変性Et/VA系共重合体を用いて、引き続き、実施例1と同様にしてマルチフィラメント糸及びそれからなる平織物を得た。また、実施例1と同様に各種の評価を行い、結果を表1に示した。
【0097】
比較例4
実施例1と同様にして変性EVAcを合成し、EVAcのMeOH溶液を得た。引き続き、水酸化ナトリウムのMeOH溶液用いて、ケン化度が90モル%未満となるように、ケン化処理した。こうして得られた変性EVOHのケン化度は、87.0モル%であった。得られた変性EVOHを用いて、引き続き、実施例1と同様にしてマルチフィラメント糸の紡糸を行った。しかし、紡糸中にゲル化物が生じ、紡糸パックのフィルター詰まりを起こして紡糸不可能であった。
【0098】
表1に示すように、変性EVOHからなる実施例1〜5に記載のマルチフィラメント糸は、良好な紡糸工程通過性を示す。これは、変性EVOHが優れた延伸性を有していることに起因している。また、変性EVOHは構造単位(I)が導入されることにより染料吸着性が増すため、実施例1〜5で得られた平織物の染色性は優れたものであった。更に、本発明の変性EVOHは構造単位(I)が導入されることにより吸湿性が増すため、衣類の着用感においても良好な着心地を有している。一方、未変性EVOHや本発明の変性EVOHとは異なる構造単位を有する、あるいはケン化度の低い変性EVOHを用いた比較例は紡糸工程通過性や繊維強度、平織物とした際の染色性、吸湿性及び衣類の着用感において劣るものであった。
【0099】
【表1】