特許第6184906号(P6184906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6184906
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】多結晶シリコン塊の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/037 20060101AFI20170814BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C01B33/037
   C30B29/06 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-126854(P2014-126854)
(22)【出願日】2014年6月20日
(65)【公開番号】特開2016-5993(P2016-5993A)
(43)【公開日】2016年1月14日
【審査請求日】2016年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100117444
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 健一
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 秀一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 淳一
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−013432(JP,A)
【文献】 特表2010−536570(JP,A)
【文献】 特開2011−071275(JP,A)
【文献】 特開平11−168076(JP,A)
【文献】 特開2009−062204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C01B 33/02−33/039
B08B 3/00−3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶シリコン塊を樹脂容器に収容した状態で、薬液によるエッチング工程、純水リンス工程、ガスブロー乾燥工程をこの順で進行させる多結晶シリコン塊の洗浄方法であって、
前記樹脂容器の4枚の側板と底板には、開口率が28%以上で50%以下となるように複数の穴が形成されており、
前記エッチング工程の薬液温度TE、前記リンス工程の純水温度TR、前記乾燥工程の乾燥器内への供給ブローガスのガス温度TDは、何れも、それら各工程の進行に伴い低下することはなく、
前記エッチング工程の最低薬液温度(TEmin)および最高薬液温度(TEmax)、前記リンス工程の最低純水温度(TRmin)および最高純水温度(TRmax)、前記乾燥工程の乾燥器内への供給ブローガスの最低ガス温度(TDmin)および最高ガス温度(TDmax)は、TEmax≦TRmin≦TRmax≦TDminの関係を満足し、さらに、
前記乾燥工程の乾燥器内への供給ブローガスの最高ガス温度(TDmax)を85℃以下とし、乾燥器内のガス流速を0.5m/秒以上とする、
ことを特徴とする多結晶シリコン塊の洗浄方法。
【請求項2】
前記多結晶シリコン塊を収容する樹脂容器は下記の何れかの材質からなる、請求項1に記載の多結晶シリコン塊の洗浄方法。
ポリエチレン若しくはその共重合体、ポリプロピレン若しくはその共重合体、ポリプロピレン若しくはその共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)
【請求項3】
前記樹脂容器内に収容される多結晶シリコン塊の重量をWとし見掛体積をVとしたときに、W/Vで定義される見掛比重を1.2kg/リットル以上とする、請求項1または2に記載の多結晶シリコン塊の洗浄方法。
【請求項4】
前記樹脂容器内に収容する個々の多結晶シリコン塊を球近似した場合に、その直径(球相当径:DS)の最大値(DSmax)と最低値(DSmin)の比(DSmax/DSmin)が6以下となるように多結晶シリコン塊を選択する、請求項1〜の何れか1項に記載の多結晶シリコン塊の洗浄方法。
【請求項5】
前記乾燥工程の総工程時間を、前記樹脂容器に収容した多結晶シリコン塊の重量単位当たりに換算して、0.77分/kg以下とする、請求項1〜の何れか1項に記載の多結晶シリコン塊の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコン塊の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン結晶のエッチングには、一般に、フッ酸(HF)と硝酸(HNO3)の酸混合液やこれに過酸化水素(H22)を加えた酸混合液が用いられる。これらの酸混合液(エッチャント)の混合比は、洗浄対象であるシリコン結晶の表面に付着している汚染物の種類や濃度等に応じて適宜設定されるが、最も一般的に使用されている混合組成は、体積比がHNO3(70wt%):HF(50wt%)=9:1のフッ硝酸液である。
【0003】
シリコン結晶を酸混合液でエッチングした後は純水洗浄(リンス)を行い、エッチングで用いた薬液の成分がppb〜pptレベルとなるまで洗い流し、その後に乾燥が行われる。
【0004】
シーメンス法で育成された多結晶シリコンを破砕してナゲット状の結晶シリコン塊とする場合にも、基本的な洗浄工程は上記と同様であり、清浄化のための種々の手法が提案されてきている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【0005】
多結晶シリコン塊の洗浄に際しては、多結晶シリコン塊を樹脂製の容器に収容した状態で、薬液によるエッチング工程、純水リンス工程、ガスブロー乾燥工程をこの順で進行させることとなるが、最終的な乾燥が不十分だと、保存中に多結晶シリコン塊の表面にシミが生じる原因となり、品質を低下させてしまう。
【0006】
一方、乾燥工程の時間を長くするとシミの発生は抑制されるが、その分だけ洗浄プロセスの時間が長くなって作業効率が低下するだけではなく、多結晶シリコン塊を収容している容器への熱負荷が大きくなって劣化が加速され、その表面の滑度が低下して「ざらざら」な状態に至る。
【0007】
表面が「ざらざら」な状態の容器を用いて多結晶シリコン塊を洗浄すると、純水リンス工程の自動化の妨げとなる。これは、純水リンス工程では、純水の電気伝導度をモニタリングしてリンス進捗度を自動的に判断しているところ、薬液の成分が「ざらざら」状態の表面に強く吸着してしまう結果、除去効率が大きく低下し、上記電気伝導度の値を極端に低下させてしまうことによる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−68554号公報
【特許文献2】特開2012−211073号公報
【特許文献3】特開2012−224541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、シリコン結晶の洗浄技術の分野において、洗浄対象を収容する容器の劣化防止と洗浄プロセスの短縮化を同時に実現する技術が望まれる。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、樹脂製容器への熱負荷を軽減してその劣化を防止するとともに、洗浄プロセスの短縮化も可能とする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するために、本発明に係る多結晶シリコン塊の洗浄方法は、多結晶シリコン塊を容器に収容した状態で、薬液によるエッチング工程、純水リンス工程、ガスブロー乾燥工程をこの順で進行させる多結晶シリコン塊の洗浄方法であって、前記エッチング工程の薬液温度TE、前記リンス工程の純水温度TR、前記乾燥工程の乾燥器内への供給ブローガスのガス温度TDは、何れも、それら各工程の進行に伴い低下することはなく、前記エッチング工程の最低薬液温度(TEmin)および最高薬液温度(TEmax)、前記リンス工程の最低純水温度(TRmin)および最高純水温度(TRmax)、前記乾燥工程の乾燥器内への供給ブローガスの最低ガス温度(TDmin)および最高ガス温度(TDmax)は、TEmax≦TRmin≦TRmax≦TDminの関係を満足する、ことを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記多結晶シリコン塊を収容する容器は下記の何れかの材質からなる。ポリエチレン若しくはその共重合体、ポリプロピレン若しくはその共重合体、ポリプロピレン若しくはその共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)。
【0013】
好ましくは、前記容器の4枚の側板と底板には、開口率が28%以上で50%以下となるように複数の穴が形成されている。
【0014】
また、好ましくは、前記容器内に収容される多結晶シリコン塊の重量をWとし見掛体積をVとしたときに、W/Vで定義される見掛比重を1.2kg/リットル以上とする。
【0015】
また、好ましくは、前記容器内に収容する個々の多結晶シリコン塊を球近似した場合に、その直径(球相当径:DS)の最大値(DSmax)と最低値(DSmin)の比(DSmax/DSmin)が6以下となるように多結晶シリコン塊を選択する。
【0016】
また、好ましくは、前記乾燥工程の乾燥器内への供給ブローガスの最高ガス温度(TDmax)を85℃以下とし、乾燥器内のガス流速を0.5m/秒以上とする。
【0017】
さらに、好ましくは、前記乾燥工程の総工程時間を、前記容器に収容した多結晶シリコン塊の重量単位当たりに換算して、0.77分/kg以下とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、エッチング工程の薬液温度をTE、リンス工程の純水温度をTR、乾燥工程の乾燥器内への供給ブローガスのガス温度をTDとすると、これらの温度は何れも、それら各工程の進行に伴い低下することはないように設定する。つまり、洗浄工程は一貫して、温度が徐々に高くなるように設定される。本発明によれば、乾燥工程における容器への熱負荷が軽減されるとともに、乾燥時間の短縮化が図られる。その結果、容器の劣化防止と洗浄プロセスの短縮化が同時に実現される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る多結晶シリコン塊の洗浄方法のプロセスフローを概念的に説明するための図である。
図2】容器の底板に設けられる丸型穴の様子を概念的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
シーメンス法等で育成された多結晶シリコン棒を破砕して得られる多結晶シリコン塊(ナゲット)を半導体製造用の原料として供給する際、ユーザからの要望にもよるが、一般に、20mm〜120mm程度の径のものとされる。多結晶シリコン塊の製造工程では、上記の径範囲のものを最終選別して製品化することとなるが、破砕の過程では上記範囲を下回る小サイズの多結晶シリコン塊も生じてしまう。
【0021】
破砕後の多結晶シリコン塊は当然に洗浄されることとなるが、洗浄容器には上記範囲よりも小さいサイズの多結晶シリコン塊も収容されてしまう。1バッチ当たりの処理量を高めるため、容器内にはなるべく多くの多結晶シリコン塊が収容されることとなるが、小サイズの多結晶シリコン塊は比表面積が大きい等の理由もあり、洗浄後の乾燥に長時間を要する。
【0022】
乾燥時間を短縮するためには乾燥時の温度を高めることが効果的ではあるが、その場合には容器の熱負荷が高まり、寿命が短くなるという難点がある。
【0023】
そこで、本発明者らは、薬液によるエッチング工程、純水によるリンス工程、および、ガスブローによる乾燥工程をこの順で進行させる多結晶シリコン塊の洗浄方法において、エッチング工程の薬液温度、リンス工程の純水温度、乾燥工程の乾燥器内への供給ブローガスのガス温度が、徐々に高くなるように設定することとし、急激な温度変化をなくすることにより、乾燥工程の短縮化を図り、同時に、多結晶シリコン塊を収容する容器の樹脂への負荷も軽減させることとした。
【0024】
図1は、本発明に係る多結晶シリコン塊の洗浄方法のプロセスフローを概念的に説明するための図である。先ず、多結晶シリコン棒を破砕して多結晶シリコン塊(ナゲット)とし(S101)、これらは樹脂製の容器に収容され(S102)、続く洗浄工程(S103〜S105)に流される。
【0025】
エッチング工程(S103)の薬液温度をTE、リンス工程(S104)の純水温度をTR、乾燥工程(S105)の乾燥器内への供給ブローガスのガス温度をTDとすると、これらの温度は何れも、それら各工程の進行に伴い低下することはないように設定する。つまり、洗浄工程は一貫して、温度が徐々に高くなるように設定される。
【0026】
上記のエッチング工程(S103)、リンス工程(S104)、乾燥工程(S105)は単段のものである必要はないが、2段以上のサブ工程からなるものであっても、後段のサブ工程における温度は前段のサブ工程における温度よりも高く設定する。なお、乾燥工程(S105)には、ガスブローの工程に続き乾燥器内で多結晶シリコン塊を乾燥させる工程が設けられる態様もあり得るが、本明細書では、この一連の乾燥工程を纏めてガスブロー乾燥工程と呼ぶ。
【0027】
そして、エッチング工程(S103)の最低薬液温度(TEmin)および最高薬液温度(TEmax)、リンス工程(S104)の最低純水温度(TRmin)および最高純水温度(TRmax)、乾燥工程(S105)の乾燥器内への供給ブローガスの最低ガス温度(TDmin)および最高ガス温度(TDmax)を、TEmax≦TRmin≦TRmax≦TDminの関係を満足するように条件を設定する。
【0028】
つまり、本発明に係る多結晶シリコン塊の洗浄方法は、多結晶シリコン塊を容器に収容した状態で、薬液によるエッチング工程、純水リンス工程、ガスブロー乾燥工程をこの順で進行させる多結晶シリコン塊の洗浄方法であって、前記エッチング工程の薬液温度TE、前記リンス工程の純水温度TR、前記乾燥工程の乾燥器内への供給ブローガスのガス温度TDは、何れも、それら各工程の進行に伴い低下することはなく、前記エッチング工程の最低薬液温度(TEmin)および最高薬液温度(TEmax)、前記リンス工程の最低純水温度(TRmin)および最高純水温度(TRmax)、前記乾燥工程の乾燥器内への供給ブローガスの最低ガス温度(TDmin)および最高ガス温度(TDmax)は、TEmax≦TRmin≦TRmax≦TDminの関係を満足するように条件を設定する。
【0029】
このような洗浄プロセスにおいて、例えば、リンス工程(S104)が第1〜3の3段でなされる場合、乾燥工程(S105)の直前に実行される3段目のリンス工程における超純水の温度を80℃に設定し、そのリンス排出液を2段目のリンス工程で再使用し、そのリンス排出液を1段目のリンス工程で再使用する方式を採用すれば、リンス液である超純水の温度は徐々に低下していくため、好都合である。
【0030】
このようなリンス液の再利用によれば、1段目のリンス槽の純水温度は例えば40℃程度となり、2段目、3段目と徐々に純水温度は高くなるため、樹脂材料から成る容器への熱負荷は緩和される。
【0031】
容器への熱負荷が大きいと、樹脂が劣化し、容器の表面は次第にざらざらな状態に至り、その状態で使用を継続すると、劣化によりポリマーの重合結合が切断されて樹脂が部分的に剥離し製品中に混入してしまい品質問題を引き起こすが、本発明によれば、熱負荷の軽減により、かかる問題が生じ難い。
【0032】
このような洗浄に用いる容器は、例えば、以下のような樹脂から成る。
【0033】
ポリエチレン若しくはその共重合体、ポリプロピレン若しくはその共重合体、ポリプロピレン若しくはその共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)。
【0034】
リンス工程の後には、空気や不活性ガスを噴射して多結晶シリコン塊に付着した水分を吹き飛ばすガスブローによる乾燥がなされるが、その際のガス温度は、上述の3段目のリンス工程における超純水の温度である80℃よりも高く設定し、例えば85℃とする。なお、ガス温度を高める手法には、熱交換器を用いる方法以外にも種々の方法があるが、圧縮空気を供給するだけで高温空気と低温空気が同時に得られるエアーヒーター方式が効率的である。
【0035】
熱負荷の更なる軽減のためには、乾燥工程において、ブローガスが個々の多結晶シリコン塊に効果的に供給され、かつ、多結晶シリコン塊から除去された残留リンス成分が容器内から速やかに排出されるような流路を確保しておくことが効果的である。
【0036】
そこで、本発明者らが検討したところによれば、容器の4枚の側板と底板に、開口率が28%以上で50%以下となるように複数の穴を形成することが効果的である。開口率が低ければ十分な流路が確保できない一方、開口率が高すぎると収容した多結晶シリコン塊のうちの比較的小径のものが洗浄工程中に脱落してしまう。
【0037】
図2は、容器の底板に設けられる丸型穴の様子を概念的に説明するための図で、このような丸型穴は、多結晶シリコン塊の表面近傍の純水の流れ(線速度)を速めるように作用するとともに、乾燥工程においてブローガスが個々の多結晶シリコン塊に効果的に供給され且つ多結晶シリコン塊から除去された残留リンス成分が容器内から速やかに排出されるような流路を確保する。このような穴部は、容器の4つの横板にも同様に形成される。
【0038】
本発明者らの検討によれば、開口率は上記範囲とし、さらに、個々の穴径を12〜15mmとするとよい。
【0039】
このような容器内に概ね20mm径の多結晶シリコン塊を見掛比重(嵩密度)1.2kg/リットルで収容して乾燥実験を行ったところ、ブローガス温度85℃で気流速度0.5m/秒の条件下において、5分以内に乾燥が完了していることを確認した。ここで、上記見掛比重(嵩密度)は、容器内に収容される多結晶シリコン塊の重量をWとし見掛体積をVとしたときに、W/Vで定義される。
【0040】
なお、多結晶シリコン塊のサイズ分布が狭い場合には充填率が上がり、多結晶シリコン塊のサイズ分布が広い場合には充填率が下がる。本発明者らの検討によれば、洗浄工程全体の短縮化と生産性の両立のためには、充填率を見掛比重で表した場合に1.2kg/リットル以上とすることが好ましい。
【0041】
また、充填率を上げるためには、容器内に収容する個々の多結晶シリコン塊は、これを球近似した場合に、その直径(球相当径:DS)の最大値(DSmax)と最低値(DSmin)の比(DSmax/DSmin)が6以下となるように多結晶シリコン塊を選択することが好ましい。
【0042】
乾燥工程における容器への熱負荷を軽減するとともに乾燥時間を短縮化するためには、乾燥工程の乾燥器内への供給ブローガスは、最高ガス温度(TDmax)を85℃以下とし、乾燥器内のガス流速を0.5m/秒以上とすることが好ましい。
【0043】
なお、乾燥工程の総工程時間は、容器に収容した多結晶シリコン塊の重量単位当たりに換算して、0.77分/kg以下とすることが好ましい。
【0044】
以下に、本発明の実施の態様例を説明する。
【0045】
容積16リットルのPP製の容器に、球相当径が20mmのシリコンナゲットのみを充填した。この時の充填重量は13kg、見掛けの体積は10.8リットルであり、見掛比重は1.2kg/リットルであった。
【0046】
用いた容器の開口率は28%であり、4つの側板のそれぞれには12mm径の穴が156ケ、底面は12mm径の穴が63ケ設けられている。なお、容器の上面は全面開口されている。
【0047】
薬液によるエッチングは、体積比でHNO3(70wt%):HF(50wt%)=9:1の薬液により行った。薬液温度は、エッチング反応による温度上昇をチラーにて冷却することで、20〜30℃の範囲に制御した。
【0048】
薬液によるエッチング終了後に、4段から成るリンスを行った。1段目のリンス層の温度は約40℃とし、2段目のリンス槽の温度は約50℃とし、3段目のリンス槽の温度は約60℃とし、最終リンス槽の温度は80℃(±1℃)とし、リンス層内の温度を徐々に高めた。
【0049】
なお、各リンス槽のタクト時間は3分とし、各槽のリンス水の流量は20リットル/分とした。
【0050】
最終リンス槽(4段目のリンス層)から容器を引き上げ、乾燥器に入れる直前に、高圧空気によるスプレー噴射を行い、ナゲットと容器の表面に付着した水を吹き飛ばした。
【0051】
このガスブロー時の噴射空気量は、スプレーの出口にて4リットル/秒であり、同型のスプレーの8式を並列に並べて使用した。スプレーの直前に、エアーヒーター(東浜工業株式会社製の高温空気発生器TOHINエアーヒーターAC−70W)により空気温度を高め、噴射口の温度を、最終リンス層の温度と同じ80℃とした。
【0052】
上記ガスブローの工程に続き、乾燥器内で多結晶シリコン塊を乾燥させた。つまり、ガスブロー乾燥工程は、前段のガスブロー工程と後段の乾燥器内乾燥工程とから成る。
【0053】
この時の乾燥器は通風型乾燥器であり、器内温度は85℃(±1℃)に設定し、供給ブローガスの気流速度0.5m/秒で通風させる条件で5分間の乾燥を行った。
【0054】
上記ガスブロー乾燥工程完了後の容器内のナゲットには、水分は認められず、乾きむらもなかった。
【実施例】
【0055】
容器内へ収容する多結晶シリコン塊の充填率(見掛比重)、多結晶シリコン塊の球形度(球相当径比)、容器の樹脂材質および開口率、4段リンスの初段(1段目)リンス槽および最終段(4段目)リンス槽の温度、ガスブロー乾燥工程を前段のガスブロー工程と後段の乾燥器内乾燥工程の2段工程とした場合の前段乾燥工程の噴射ブローガス温度および後段乾燥工程の器内温度と供給ブローガス流速と乾燥時間、をパラメータとして、8つの実施例および4つの比較例を実施し、乾燥状態および容器の繰返し使用回数(寿命)を調べた。
【0056】
その結果を、表1および表2に纏めた。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
比較例1および比較例2は、容器の開口率が15%と低いために乾燥が十分でない。
【0060】
比較例3のものは、乾燥器内後段乾燥工程における器内への供給ブローガス流速が0.3m/sと低めであるために乾燥が十分でない。
【0061】
比較例4のものは、容器の開口率が15%と低いために乾燥が十分でないことに加え、乾燥器内後段乾燥工程における器内温度が105℃と高いことに加え乾燥時間が30分と長いことによる容器への熱負荷の影響で、繰返し使用回数が380回と顕著に低くなっている。
【0062】
これらの結果に対し、実施例1〜8のものは何れも、良好な乾燥状態が得られており、容器の繰返し使用回数も1000回を超えており、容器の長寿命化が図られている。
【0063】
実施例1〜8で用いた容器は何れも、4枚の側板と底板には、開口率が28%以上で50%以下となるように複数の穴が形成されている。
【0064】
また、容器内に収容した多結晶シリコン塊の見掛比重は何れも、1.2kg/リットル以上であり、容器内に収容した個々の多結晶シリコン塊は、これを球近似した場合に、その直径(球相当径:DS)の最大値(DSmax)と最低値(DSmin)の比(球相当径比)が6以下である。
【0065】
さらに、乾燥工程における乾燥器内への供給ブローガスの最高ガス温度(TDmax)は85℃以下であり、乾燥器内のガス流速は0.5m/秒以上である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明によれば、乾燥工程における容器への熱負荷が軽減されるとともに、乾燥時間の短縮化が図られる。その結果、容器の劣化防止と洗浄プロセスの短縮化が同時に実現される。
図1
図2