(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
1990年から2005年の間に30億ドルの予算を投じたヒトゲノム計画では、解読に必要な技術や方法を遺産として残した。そうした技術はその後もさらに改良が進み、今日では、実質的に1000ドルで実用に耐えられる精度でのゲノム解読が可能になってきている。
【0003】
次世代シーケンスの計測の中心となるのは、多数の微小反応場を固定したフローチップである。フローチップ上に固定された微小反応場上にて化学反応を行い、そこから発せられる蛍光信号を解析することにより、核酸の塩基配列の解析が可能となる。フローチップは多数の微小反応場を固定したスライドガラスの消耗品であり、試薬の注入口と排出口を持つ流路を備える。この注入口と排出口を通じて、塩基伸長反応に必要となる酵素、異なる複数の蛍光色素で修飾されたヌクレオチド、伸長をブロックする保護基を分解する試薬、及び、イメージング時にフローチップ流路などを満たすイメージングバッファなどの10−40種類の試薬がフローチップに送られる。また、ここで説明する微小反応場の代表的な例として1μmのビーズを挙げることができる。
【0004】
試薬を送液した後に、フローチップ内流路にある試薬の種類に応じて、フローチップ内の試薬の温度制御が必要な場合がある。これは化学反応を正確かつ効率良く進行させるために必要であり、一般にヒートブロックと呼ばれるアルミの板にフローチップを密着させ、10−80℃の範囲で温調する。送液と温調動作を段階的に進め、微小反応場上のDNAに1塩基分の蛍光ヌクレオチドを取り込ませることができる。次に光学計測を行う。一般にフローチップの片側は温調を行うヒートブロックに密着しているため、フローチップの別の側に対物レンズを配置する。対物レンズを介してフローチップ基板上の微小反応場に励起光が照射されると、蛍光を発する。この蛍光をCMOSカメラなどの2次元センサに捉えることにより、フローチップ基板上に多数固定された微小反応場の蛍光情報を画像として得ることができる。
【0005】
次に必要となるのがフローチップの計測視野を、固定された対物レンズの光軸に対して移動させることである。より具体的には、フローチップが固定されているヒートブロックをXYステージに固定し、XYステージを一定距離駆動させることにより、隣接したパネルを光軸上に逐次位置合わせする。従って、フローチップ周辺部は、試薬送液、温度制御、光学検出、及びステージ駆動の制御を行うがための部品および動作が局所的に集中・密集する箇所である。このため、それぞれの部品が機械的に衝突・干渉せず、円滑に駆動することが必要となる。
【0006】
一方、次世代シーケンサの診断への応用が急速に進んでいる。診断分野における次世代シーケンサ技術の展開における重要な課題の一つとして、診断コストの低減化がある。このような状況の中、消耗品であるフローチップのコストを低減することが診断コスト低減への鍵となる。より具体的にはフローチップの小型化が課題となっている。
【0007】
上記課題に対して、特許文献1は、フローチップ内で流路を迂回させることで、流路系の注入口と排出口を近接させる構成を開示している。この構成によれば、フローチップ上の流路接続部品の位置を2箇所から1箇所に集約することができる。これにより、対物レンズと流路接続部の干渉箇所数を低減し、フローチップの小型化を実現している。具体的には、フローチップの大きさは75mm×25mmであったが、これを30mm×15mmのサイズまで小型化している。さらに、特許文献1には、フローチップの操作性を考慮して、フローチップを保持するフローチップカートリッジについても記載されている。
【0008】
一方、1回の画像で計測できるフローチップの領域を1パネルと呼ぶ。フローチップ1枚の大きさは30mm×15mmであるのに対して、非特許文献1に示されるように、計測するパネル数は14パネルである。1パネルの大きさは大きく見積もっても最大0.75mm×0.75mmであるため、光学計測に用いる領域は10.5mm×0.75mmとなる。すなわち、フローチップの高々2%の領域しか実際の光学計測には使用されていない。従って、さらなるフローチップ小型化の余地は依然として大きい。また、特許文献1において、流路を迂回させることができるのはパネルを12×1の数に限定したためである。つまり、1列方向にのみパネルを配置し、X方向のみにステージ駆動を限定することにより、フローチップ内で流路を迂回させている。XYの2方向にフローチップを駆動させる構成に適用する場合、迂回する流路を形成する構成では、流路壁のためにフローチップを大きくすることができない。また、迂回する流路を形成する構成では、製造方法が煩雑になるため、コストが上昇する。従って、特許文献1の流路迂回方式が有効であるのは、パネル数を10程度に限定した場合のみであり、スループットが限定され、かつ適用できるアプリケーションもスループットが低いものに限定される。
【0009】
また、フローチップの長手方向に30mmの大きさを必要とするのは、以下の理由からである。温調のためにフローチップの片面にヒートブロックを設置し、フローチップの他方の面において試薬の送液と光学検出を行う必要がある。したがって、フローチップの流路接続部と対物レンズの機械的な干渉を回避するため、フローチップのサイズを一定以上の大きさにする必要がある。したがって、従来ではフローチップの小型化が困難であった。
【0010】
また、次世代シーケンス開発において重要視される指標はスループットである。スループットとは1ランあたりに出力できる総塩基数であり、これを増加させるために技術開発が進んでいる。従来、フローチップ基板上には反応場がランダムばらまかれ、固定されていた。しかしながら、上記のランダム固定の構成では、(1)反応場同士が一定の確率で近接してしまうため、分解能以上に近接した反応場の解析が困難になる、(2)輝点間の距離がランダムであるため、輝点間のクロストークの影響が輝点毎に異なり、検出精度のばらつきが大きいなど、いくつかの課題がある。これらの課題を克服すべく、近年注目されているのが反応場を格子状に基板に配置することができる技術である。
【0011】
非特許文献2では、半導体リソグラフィー技術を用いてシリコン基板上にアミノシラン膜を格子状に配置する技術が記載されている。また、非特許文献3では、単分子シーケンサにおける、基板上に格子状にサンプルを配置する方法について記載されている。本技術は光リソグラフィーによってガラス基板上にナノ開口と呼ばれる穴を形成する。このナノ開口は半導体リソグラフィー技術により規則正しく基板上に形成される。ナノ開口の直径は波長よりも短いため、ナノ開口に固定された蛍光単分子を励起するための励起光は直接ナノ開口を通過することができない。しかし、光の染み出しにより、ナノ開口近傍の微小領域のみを照明することができる。この効果により、溶液に浮遊する蛍光色素を励起することを回避し、検出したいごく微小な領域にのみ励起光を照射することができる。これにより、単分子リアルタイムシーケンスを達成することが可能となる。なお、単分子リアルタイムシーケンスにおいては、シーケンス反応時に視野を固定して、反応を連続的に2次元カメラで100Hzのフレームレートで高速に撮像する。このため反応中の試薬の置換は必要とならない。
【0012】
上述したフローチップ上に反応場を規則的に配置する技術は、スループットの増大に大きく寄与するが、同時に基板の製造に要するコストが増大する。従来のランダム固定に用いる基板がリソグラフィー工程を必要としないのに対して、反応場を基板上に規則的に配置するためにはリソグラフィー工程が必要となるからである。これは消耗品であるフローチップのコストの増大を不可避とする。従って、ここでも対物レンズと流路接続部の干渉を回避し、フローチップを小さくすることによりコストの増大を回避する必要がある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例について説明する。なお、添付図面は本発明の原理に則った具体的な実施例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。以下の実施例は、分析装置に関し、より具体的には、DNAあるいはRNAなどの核酸の塩基配列を解読するための核酸配列解析装置に関するものである。
【0021】
図10は、従来のフローチップの構成を示す図である。従来のフローチップ1000は、カバーガラス1001、スペーサ1004、及び、基板1006の3つの部材を張り合わせて作製される。カバーガラス1001は、流路の注入口1002及び排出口1003を有する。スペーサ1004は、PDMSなどの素材より製造されることが一般的である。スペーサ1004の厚さは30―100μmであり、より詳細には50μmであることが望ましい。また、スペーサ1004は、上記3つの部材を貼り合わせたときに流路を形成するための打ち抜き穴1005を有する。スペーサ1004をカバーガラス1001及び基板1006で挟みこむことにより、流路が形成される。また、基板1006の表面には化学修飾が施されており、DNA断片を効率的に結合することができる。基板1006の代表的な表面修飾の方法として、ポリリジン、アミノシランあるいはエポキシコーティングを挙げることができる。いずれの方法も電気的に負の電荷を持つDNA分子に対して正の電荷を持つことを特徴としている。
【0022】
これに対して、
図1は、本実施例における基板背面に流路穴を有するフローチップの構成を示す図である。本実施例のフローチップ100は、光学的に透明な特性(光透過性)を有するカバーガラス101、スペーサ102、及び、基板103の3つの部材を張り合わせて作製される。スペーサ102は、流路を形成するための打ち抜き穴104を有する。また、本発明の特徴として、基板103が、流路の注入口105及び排出口106を有する。その他の構成は、上述した従来のフローチップと同様である。
【0023】
フローチップ100の基板103は、シリコン基板であり、基板103には、半導体光リソグラフィー工程を経てDNAを選択的に吸着できる吸着サイトが形成されている。すなわち、基板103は、半導体光リソグラフィー工程により、格子状かつ規則的に一定間隔で反応部位を有する。吸着サイトには、具体的にはDNAを選択的に結合できるアミノシラン、ポリリジン、あるいはエポキシが結合している。あるいは、吸着サイトには、DNAを選択的に結合できる表面処理が施されている。
【0024】
この構成によれば、フローチップの小型化が可能となる。本実施例のフローチップ100の具体的なサイズについては後述する。なお、
図1では、スペーサ102を用いて流路を形成する例を示したが、この構成に限定されない。例えば、カバーガラス及び基板の2つの部材を張り合わせてフローチップを構成してもよい。この場合、カバーガラス及び基板の一方に溝を形成することにより流路が形成される。
【0025】
図2A〜
図2Dは、本実施例のフローチップ用のカートリッジの構成を示す図であり、フローチップカートリッジ201を裏方向より見た図である。フローチップカートリッジ201は、小型化したフローチップ100のハンドリング性を向上させるために、フローチップ100を保持するものである。なお、この例において、フローチップ100の大きさは横50mm×縦10mm×厚さ0.9mmである。
【0026】
図2Aに示すように、フローチップカートリッジ201は、平面視で略長方形の形状であり、チップ保持部202と、カートリッジ固定部203とを備える。チップ保持部202は、開口部204を有する。開口部204により、フローチップ100のカバーガラス101側を光学検出系に露出させ、かつ、フローチップ100の基板103を、以下で説明する温調部に接触させることができる。フローチップカートリッジ201の長手方向の端部には、フローチップ100用の挿入口205が設けられている。
図2Bに示すように、開口部204の位置に対して、挿入口205からフローチップ100が挿入される。
【0027】
図2Cに示すように、開口部204の長辺側には、接触部207、208が設けられている。フローチップカートリッジ201に対してフローチップ100をさらに奥方向にスライドさせると、接触部207、208がフローチップ100に接触する。例えば、接触部207、208の接触長さ(開口部204側への突き出し長さ)は1mmであり、これにより、フローチップ100を開口部204の位置で保持することができる。
【0028】
フローチップカートリッジ201の挿入口205の位置には、爪部206が設けられている。
図2Dに示すように、フローチップカートリッジ201に対してフローチップ100が最後まで押し込まれると、爪部206がフローチップ100の端部を押さえ付ける。これにより、フローチップ100が固定される。フローチップカートリッジ201の大きさは65mm×30mmであるため、作業者のフローチップ100の取り扱いが容易になる。なお、カートリッジ固定部203には、第1の穴209及び第2の穴210が設けられている。ここで、第1の穴209が長穴であり、第2の穴210が丸穴である。第1の穴209及び第2の穴210は、後述するヒートブロックの固定ピンに挿入されるものであり、フローチップカートリッジ201の正確な位置出しを行うために使用される。
【0029】
次に、基板背面に流路穴を持つフローチップと対物レンズとの位置関係について説明する。まず、従来の構成について説明する。
図11Aは、従来のフローチップに対する対物レンズの位置関係を示す図であり、
図11Bは、従来のフローチップをカバーガラス側から見た図である。
【0030】
フローチップ1000のカバーガラス1001は、試薬用の注入口1002及び排出口1003を有する。フローチップ1000内には、流路が形成されている。注入口1002及び排出口1003には、それぞれ、チューブ1101、1102が接続されている。フローチップ1000のシリコンの基板1006には、半導体リソグラフィー工程を経て、DNAが選択的に固定できるように表面処理が施されている。基板1006において、DNAの増幅産物であるDNB1008を選択的かつ格子状に600nmピッチで配置することができる。DNB1008はターゲットDNAをローリングサークル増幅法で増幅したもので、直径300nmの球状な形状を持つ。
【0031】
また、図示してはいないが、フローチップ1000はヒートブロック上に配置され、10−80℃の範囲で温度調節される。さらに、フローチップ1000のカバーガラス1001の注入口1002には、チューブ1101を介して試薬が送液され、その後、試薬は、排出口1003からチューブ1102を介して排出される。また、図示してはいないが、フローチップ1000を保持するヒートブロックは、XYステージ上に固定されている。このため、対物レンズ1103に対してフローチップ1000およびチューブ1101、1102が相対的に移動する。しかしながら、チューブ1101、1102と対物レンズ1103は、XYステージの駆動に伴って機械的に干渉する可能性がある。このため、XYステージが駆動できる範囲はこれらが干渉しない範囲に限定される。より具体的には、
図11Bに示すように、フローチップ1000において実際に蛍光計測が可能な領域は、斜線で示される領域1021に限定される。このため、フローチップ1000の領域1021の外側の領域においては、DNBサンプルは固定されるものの、対物レンズ1103とチューブ1101、1102との干渉のため、蛍光計測を行うことができない。従って、従来の構成では、フローチップ1000のDNB固定領域を有効に利用できない。
【0032】
図3Aは、本実施例のフローチップに対する対物レンズの位置関係を示す図であり、
図3Bは、本実施例のフローチップをカバーガラス側から見た図である。上述したように、フローチップ100の下面にある基板103が、流路の注入口105及び排出口106を有する。そして、注入口105及び排出口106には、それぞれ、チューブ301、302が接続されている。また、対物レンズ303は、フローチップ100のカバーガラス101の上方に配置されている。従って、従来の構成(
図11A)で生じるような対物レンズとチューブとの機械的な干渉は発生しない。
図3Bに示すように、本実施例のフローチップ100では、実際に蛍光計測が可能な領域は、斜線で示される領域321となる。従って、従来と同じ大きさのフローチップを使用しても、計測可能な領域が拡大し、スループットを増大することができるという効果をもたらす。これはまた、実質的にフローチップのコストを低減することにもなる。
【0033】
図3Cは、本実施例の別の例のフローチップに対する対物レンズの位置関係を示す図であり、
図3Dは、本実施例の別の例のフローチップをカバーガラス側から見た図である。
図3C及び
図3Dの例では、フローチップ100がさらに小型化されている。上述したように、フローチップ100の下面にある基板103が、流路の注入口105及び排出口106を有する。そして、注入口105及び排出口106には、それぞれ、チューブ301、302が接続されている。また、対物レンズ303は、フローチップ100のカバーガラス101の上方に配置されている。これにより、チューブ301、302と対物レンズ303との機械的な干渉を回避することができる。従って、蛍光計測が可能である領域331の大きさを、
図11Bの領域1021と同一面積にしながら、フローチップ100の大きさを従来のフローチップ1000(
図11B)より小さくすることができる。これにより、フローチップ100を小型化することによりコストを低減することが可能となる。
【0034】
ここで、
図11A及び
図11Bにおいて、DNB1008が固定されている領域1021の面積を40mm×5mmとする。つまり、
図11Bにおいて長さ1022が40mmであり、長さ1023が5mmである。
図11A及び
図11Bでは、対物レンズ1103とチューブ1101、1102との干渉を回避するために、フローチップ1000を大きくする必要がある。チューブ1101、1102の接続部分のために必要となる長さ1024は、21mmである。従って、フローチップ1000のX方向の大きさは、40mm+21mm×2=82mmとなる。また、Y方向はチューブの接続を考慮する必要はないため、長さ1025は5mmであり、長さ1026は2.5mmである。したがって、フローチップ1000のY方向の長さは、5mm+2.5mm×2=10mmとなる。
【0035】
図3C及び
図3Dにおいて、DNB304が固定されている領域の長さ332が40mmであるのに対して、長さ333は5mmとなる。従って、フローチップのY方向の長さは、40mm+5mm×2=50mmとなる。従って、流路接続部(チューブ301、302)と対物レンズ303との干渉を回避することにより、フローチップ100の大きさを50mm/82mm≒60%の大きさまで小型化することができる。これはフローチップ100のコストを60%まで低減できるという効果をもたらす。
【0036】
次に、基板背面に流路穴を持つフローチップ100を固定するヒートブロックの詳細形状について説明する。
図4Aは、フローチップ100を固定する温調部の構成を示す図である。
【0037】
図4Aのフローチップカートリッジ201には、バーコードラベルが貼り付けられ、これにより、フローチップ100の実験上の管理、在庫管理及び使用可能期間などの管理を行うことができる。なお、バーコードラベルはRFIDなどの電子タグとしてもよい。
【0038】
フローチップ100を保持したフローチップカートリッジ201は、温調部401に固定される。温調部401は、フローチップカートリッジ201を固定し、かつ、フローチップ100の流路内の試薬の温度制御を行う役目を果たす。温調部401は、ヒートブロック402と、ペルチェ素子403と、ヒートシンク404とを少なくとも備える。フローチップカートリッジ201は、ヒートブロック402に固定される。ヒートブロック402の下には、ペルチェ素子403が配置されている。
【0039】
温度センサ405、406は、ヒートブロック402内に挿入されており、ヒートブロック402の温度をモニタする。温度センサ405、406を所定の温度をPID制御することでヒートブロック402の温度を所定の温度にすることができる。これらの構成により、10−80℃の範囲の所定の温度にフローチップ100内に送液された試薬を温調することができる。
【0040】
また、ペルチェ素子403より生成された熱を排出するため、ヒートシンク404が、ペルチェ素子403の下方に配置されている。ヒートシンク404に対して、図示しないファンを用いて送風することで、ヒートシンク404から排熱を行う。これにより、ペルチェ素子403で発生した熱を速やかに排出し、ペルチェ素子403の表裏の温度差ΔTを小さくすることができる。これはペルチェ素子403が有する熱移動効率を向上させる効果があり、結果として高速なランプレートを実現することができる。なお、
図4Aに示すように、ペルチェ素子403とヒートシンク404との間には、ヒートブロック402、ペルチェ素子403、及びヒートシンク404を固定するための複数の部材が介在していてもよい。
【0041】
図4Bは、ヒートブロックの構成を示す図である。基板103に試薬の注入口105及び排出口106を持つフローチップ100を固定するヒートブロックについて説明する。ヒートブロック402は、フローチップ100に対応する位置に、フローチップ100の基板103を設置し、かつ基板103に密着する設置部421を備える。ヒートブロック402の設置部421の両端には、切り欠き部411、412が形成されている。切り欠き部411、412は、それぞれ、基板103の注入口105及び排出口106に対応する位置に設けられている。従って、チューブ301、302を、切り欠き部411、412の下方向から挿入し、フローチップ100の基板103の注入口105及び排出口106に接続することが可能になる。これにより、フローチップ100の上面側にある対物レンズ303とチューブ301、302とが機械的に干渉することはない。従って、先述したようにフローチップ100の大きさを小型化し、消耗品であるフローチップ100のコストを低減することが可能となる。また、ヒートブロック402と接触したフローチップ100の基板103の面では温調が±0.5℃の精度で行われ、化学反応を正確に進行させることができる。
【0042】
また、本実施例のヒートブロック402には、フローチップカートリッジ201の第1の穴209及び第2の穴210の位置に、固定ピン423、424が設けられている。固定ピン423、424は、ヒートブロック402に圧入などの方法により取付けられたものである。これにより、フローチップカートリッジ201をヒートブロック402に固定する際に、固定ピン423、424によってフローチップカートリッジ201の位置合わせが容易になる。なお、本実施例では、フローチップ100を保持するフローチップカートリッジ201を温調部401に固定する構成を示したが、この例に限定されない。例えば、試薬の種類によっては温調部が必要ない場合もある。したがって、このような場合、温調部401に代えて、フローチップカートリッジ201を固定するための固定部材を設けてもよい。この固定部材は、上述と同様に、固定ピンなどを有してもよい。
【0043】
次に、基板103に試薬の注入口105及び排出口106を持つフローチップ100のヒートブロックへの固定方法について説明する。
図5Aは、フローチップカートリッジ201を温調部へ固定する構成を示した断面図である。フローチップ100はフローチップカートリッジ201に保持された状態で、ヒートブロック402と接触している。フローチップカートリッジ201が、フローチップ100を保持するために必要となる長さは1mmであり、フローチップカートリッジ201の接触部207、208(
図2C参照)は、フローチップ100の外周から1mm分の縁領域を保持する。フローチップ100の下面であるシリコンの基板103には、DNAの増幅産物であるDNBが格子状に規則的に配置されている。
【0044】
ヒートブロック402の直下にはペルチェ素子403が設置されており、さらに、ペルチェ素子403の下方にヒートシンク404が設置されている。
図5Aの例では、ヒートブロック402の切り欠き部(
図4Bの411、412)の位置には、樹脂部材501、502が配置されている。樹脂部材501、502には、それぞれ、流路が設けられており、樹脂部材501、502の流路は、それぞれ、基板103の注入口105及び排出口106に接続されている。樹脂部材501、502の流路には、それぞれ、チューブ301、302が接続されている。
【0045】
フローチップカートリッジ201は、フローチップクランプ503、504によって下方向に加圧されており、フローチップ100はヒートブロック402に対して密着した状態となっている。これにより、フローチップ100がヒートブロック402に密着し、温調部401によって良好な温度制御を行うことが可能となる。
図5Aが断面図であるため、フローチップクランプ503、504は2個しか描かれてないが、後述で説明するように、フローチップカートリッジ201の4隅を下方に押し付けるために、4本存在してもよい。フローチップクランプ503、504は、フローチップ100を保持するフローチップカートリッジ201を加圧することにより、間接的にフローチップ100をヒートブロック402に対して密着させることができる。
【0046】
図5Bは、フローチップカートリッジ201を温調部へ固定する別の構成を示した断面図である。この例では、フローチップクランプ505、506が、フローチップ100の4隅を直接押さえ付け、フローチップ100をヒートブロック402に密着させることができる。この例では、
図5Aの構成に比べて、より確実にフローチップ100をヒートブロック402に押し付けることができるため、流路からの液漏れリスクを低減し、かつ温調性能をより確実に行うという利点がある。
図5A及び
図5Bの構成ともにフローチップ100の片面に対物レンズ303、もう片面に流路接続部を配置することにより、両者の機械的干渉を回避することができるという効果をもたらす。さらに、フローチップ100を小型化し、フローチップ100のコストを低減するという効果をもたらす。なお、フローチップ100あるいはフローチップカートリッジ201の長手方向の両端部を2個のフローチップクランプで押さえ付ける構成にしてもよい。従って、フローチップ100あるいはフローチップカートリッジ201を押さえ付けるために、少なくとも2つのフローチップクランプが設けられていればよい。
【0047】
次に、フローチップカバーを用いたフローチップの固定方法について説明する。
図6A〜
図6Cは、本実施例のフローチップカバーの構成を示す図である。フローチップクランプカバー601は、回転軸602を介して、フローチップカートリッジ201が設置される構造603に取付けられている。フローチップクランプカバー601は、開口部604を有し、開口部604の4隅には、フローチップクランプ605、606、607、608が設けられている。フローチップクランプ605、606、607、608は、開口部604の外周から内側に突出するように形成されており、先細形状となっている。
【0048】
ヒートブロック402の切欠き部には、流路が形成された樹脂部材501、502が配置されている。基板103に注入口105及び排出口106を有するフローチップ100をヒートブロック402に設置することにより、流路が形成される。樹脂部材501、502の注入口及び排出口には、O−リングが配置され、上部よりフローチップ100を加圧することにより液漏れが発生しない流路を形成することが可能となる。また、上述したように、ヒートブロック402には固定ピン423、424が設けられている。
図6Bに示すように、フローチップカートリッジ201の第1の穴209及び第2の穴210を固定ピン423、424に挿入することにより、フローチップカートリッジ201をヒートブロック402に固定する。この構成により、フローチップ100の設置方向を間違えることなく、フローチップ100を精度よくヒートブロック402上に設置することが可能となる。
【0049】
図6Cに示すように、フローチップカートリッジ201をヒートブロック402に設置した後、フローチップクランプカバー601を回転軸602を介して回転させる。フローチップクランプカバー601の回転が完了すると、フローチップクランプ605、606、607、608がフローチップカートリッジ201の4隅を押さえ付けた状態となる。また、フローチップクランプカバー601が開口部604を有するため、開口部604を介してフローチップ100の上部の対物レンズ303からフローチップ100の基板103上の微小反応場に励起光を照射することができる。
【0050】
図7は、本実施例のフローチップカバーを用いたフローチップの別の固定構造を説明する図である。
図7の例では、フローチップクランプカバー601のフローチップクランプ605、606、607、608が、フローチップ100の4隅を加圧することによりフローチップ100を保持している。フローチップ100の大きさは、50mm×10mmである。これにより、フローチップ100がヒートブロック402に密着することになり、良好な温度調節および漏れのない流路部を形成することが可能となる。
【0051】
図8は、
図7のA−A線断面図である。焦点があった状態で対物レンズはフローチップ100上面のカバーガラス101に0.6mmの距離で近接する。また、
図8の801は、図示しないXYステージがフローチップ100上の蛍光検出領域35mm×4mmの位置出しを行った場合における、対物レンズの相対的な駆動可能領域を示す。また、ヒートブロック402の切欠き部には樹脂部材501、502が配置されており、その中に流路が形成されている。ここで採用する樹脂は、断熱効果が高く、かつ流路を形成するために加工性が高いPEEKを用いるのが理想的である。
【0052】
図8において、フローチップ100は、フローチップクランプ605、606、607、608により下方に加圧され、ヒートブロック402に密着している。ペルチェ素子403はヒートブロック402を介してフローチップ100の温調を行う。PEEKより形成される樹脂部材501、502には流路が形成されており、樹脂部材501、502の流路には、それぞれ、チューブ301、302が接続されている。フローチップ100と樹脂部材501、502の流路との間には、O−リングが配置されており、フローチップクランプ605、606、607、608による加圧時には、O−リングが変形して流路を密閉することで流路からの液体漏れを防止する。
【0053】
上述したように、対物レンズの駆動可能領域801は、XYステージ駆動時にフローチップ100に対して対物レンズが相対的に移動する範囲を模式的に示したものである。フローチップ100の周辺部について説明すると、フローチップ100の上面にフローチップクランプ605、606、607、608があり、フローチップ100の下面にヒートブロック402及び流路接続部(チューブ301、302との接続部)がある。
図8に示されるように、フローチップ100周辺には、フローチップの固定構造、温調部、送液構造、光学計測系、フローチップの駆動構造の部品が密集しており、これらの部品の密集を考慮した上でフローチップ100の小型化及びスループットの向上が課題となる。本実施・BR>痰ノよれば、このような密集した部品の構造において、従来よりもフローチップ100を小型化し、コストを低減することができる。また、本実施例のフローチップによれば、計測可能な領域が拡大し、スループットを増大することができるという効果ももたらす。
【0054】
図9は、本実施例のフローチップを用いたシーケンス方法を説明する図である。まず、フローチップカートリッジ201をフローチップクランプ909で加圧することにより、フローチップ100がヒートブロック402上に固定される。ヒートブロック402の下面にはペルチェ素子403が配置されており、フローチップ100の温度調節が行われる。温度制御範囲は10−80℃である。温度制御は、フローセルで酵素反応による塩基伸長、伸長の足場となるプライマの解離などに必要となる。ヒートブロック402の内部には温度センサとして測温抵抗体(図示せず)が配置され、温度制御のフィードバックに使用される。ヒートシンク404は、ペルチェ素子403に密着し、ペルチェ素子403の駆動に伴って発生した熱を放熱する。ヒートシンク404からの放熱は、ヒートシンク404に対してファン(図示せず)を用いて空気を送風することにより達成される。
【0055】
フローチップ100及びフローチップ100を保持する構造(フローチップカートリッジ201など)は、XYステージ(駆動機構)910に保持されている。XYステージ910により、フローチップ100を対物レンズ930に対して水平(XY方向)に移動することができる。対物レンズ930は、Zステージ919に固定されており、フローチップ100に固定された微小反応場にフォーカスを合わせるために上下に移動することができる。対物レンズ930は通常エアーギャップであるが、フローチップ100と対物レンズ930との間に純水を満たす方式を採用することも可能である。
【0056】
酵素、4種類の蛍光試薬、バッファ、ヌクレオチド、洗浄液などの試薬は試薬カートリッジ902に設置される。試薬カートリッジ902は試薬ラック901に設置され、4℃に冷却される。ペルチェ素子905はヒートブロック904を冷却し、ファン906は試薬ラック901庫内の空気をヒートブロック904に送風する。冷却された空気は試薬ラック901庫内を循環し、間接的に試薬903を4℃に冷却する。
【0057】
次に、試薬カートリッジ902に保持された試薬をフローチップ100の注入口105へ送り、排出口106から排出させるための流体送液手段について説明する。流体送液手段は、少なくとも1つのシリンジと、複数の弁とを備える。試薬カートリッジ902に保持された試薬は、切り替えバルブ907により、流路を切り替えることができる。これにより、任意の試薬を流路に導入することができる。流路が形成された後、試薬は流路908を経て、微小反応場を保持するフローチップ100に送液される。吸引は、下流の流路911に配置されたシリンジ914の駆動により行う。流路911には2個の2方弁912、913が設置されている。試薬の吸引を行うときは、2方弁912を開状態にし、かつ2方弁913を閉状態にした状態で、シリンジ914を駆動させる。また、試薬を廃液タンク941に送液する場合は、2方弁912を閉状態にし、かつ2方弁913を開状態にした状態で、シリンジ914を駆動させる。この動作により、複数の試薬の送液を1つのシリンジ914で行うことが可能となる。
【0058】
廃液となった試薬は廃液タンク941に送られる。廃液タンク941がない場合は、装置庫内に廃液がこぼれ、電気感電、装置の錆び、異臭の発生といった問題が発生する。これを回避するためには廃液タンク941を必ず装置内に配置することが必要であり、このために廃液タンク941の有無を監視するマイクロフォトセンサ942を設置する。また、廃液が漏れた場合のために廃液タンク941の下に液受けトレイ943が設置される。
【0059】
DNA鎖の伸長反応は、それぞれ異なる蛍光色素でラベルされた4種類のヌクレオチドおよびポリメラーゼをフローチップで反応させることで行う。各ヌクレオチドは、それぞれ、FAM−dCTP、 Cy3−dATP、 Texas Red −dGTP、 Cy5−dTsTPである。各ヌクレオチドの濃度は200nMである。また、反応液は伸張反応が効率よく行なわれるように塩濃度、マグネシウム濃度およびpHが最適化されている。反応溶液中にはポリメラーゼが含まれており、DNA断片に相補的な蛍光ヌクレオチドが1塩基だけ取り込まれる。2塩基目の伸長が発生しないのは、1塩基目の蛍光色素に2塩基目の色素の伸長を阻害する物質が結合しているからである。1塩基が取り込まれた後、浮遊する蛍光ヌクレオチドを洗浄により除去した後、蛍光計測を行う。なお、以降の最小ユニットの反応を行うために、蛍光計測後、解離溶液により塩基から蛍光色素を切断する工程および伸長阻害物質を切断する工程が必須である。この工程により、次の塩基伸長反応の逐次的継続が可能となる。再び蛍光ヌクレオチドをフローセル内に送液し、反応を繰り返すことにより、逐次的なシーケンスが可能となる。本実施例で採用している反応方式はシーケンス・バイ・シーケンス(SBS:Sequence By Synthesis)と呼ばれる。
【0060】
フローチップ100のカバーガラス101側には、光学検出系が配置される。以下の実施例では、光学検出系が、落射蛍光顕微鏡であり、LEDと、光学フィルタと、2次元カメラとを備える構成として説明する。2つのLED916、917は蛍光色素を励起するための光源である。LED916および917の中央波長は、それぞれ、490nm、595nmである。LED916は、FAM−dCTP、 Cy3−dATPの励起光の照射に用い、LED917は、Texas Red −dGTP、 Cy5−dTsTPの励起光の照射に用いる。ダイクロイックミラー951は、LED916、917からの光を同一光軸上に揃える。更に、ダイクロイックミラー952により励起光は対物レンズ930の瞳面に入射させられる。励起光は対物レンズ930を介してフローチップ100内の微小反応場内に取り込まれた蛍光色素に照射され、蛍光色素は蛍光を発する。等方的に発光した蛍光の一部分は対物レンズ930に回収される。
【0061】
対物レンズ930を経た光は平行光となり、ダイクロイックミラー953まで直進し、分割される。ダイクロイックミラー953は4色の蛍光波長領域について緩やかな反射特性を持つ。このため、CMOSカメラ922、924の受光面では、フローチップ100上の反応場から発光した輝点の蛍光強度比をそれぞれ算出することができる。2つのCMOSカメラ922、924の結像面上での比をとることによって、この発光点が4色のいずれに帰属するかを判定することが可能となる。なおダイクロイックミラー953で分割された平行光は、それぞれ、エミッションフィルタ920、925を経た後に、チューブレンズ921、923で集光され、CMOSカメラ922、924の受光面に結像する。
【0062】
上述した構成で試薬をフローチップ100内に送液し、温調により微小反応場上で1塩基ずつ蛍光ヌクレオチドをポリメラーゼにより取り込ませ、伸長反応を行う。取り込まれた蛍光色素の検出を画像として捉え、これを隣接したパネルに対して行うことで大量の塩基配列情報を取得することができる。その後、蛍光色素を切断試薬で切断し、洗浄液でフローチップ100内を洗浄した後、再度、蛍光ヌクレオチドおよびポリメラーゼを含んだ試薬をフローチップ100内に送液する。これらの動作を必要な塩基長分行うことでDNAの塩基配列解析を取得することが可能となる。
【0063】
また、本装置では、フローチップ100内で反応試薬を流路前方向および後方向にシリンジ914を駆動することにより自在に送液することができる。このとき、切り替えバルブ907により流路は空気を満たした試薬チューブに接続されている。つまり、フローチップ100内で試薬を流路内で前後に揺することができる。これにより、フローチップ100内の基板面に固定されたDNBと試薬分子の衝突反応頻度を上昇させることが可能となり、反応効率を向上させることが可能となる。従って、反応時間を短縮することができる。さらに、本装置ではサンプルであるDNBを直接装置内でフローチップ100に送液し、固定することもできる。これにより、従来前処理として装置外部で行っていたDNBのフローチップへの固定処理も短縮することができる。
【0064】
なお、上記ではSBSの反応方式について説明したが、別の反応方式を採用してもよい。例えば、送液される試薬が、複数の蛍光色素で修飾されたオリゴマーと、オリゴマーをDNA塩基に付加するリガーゼと、洗浄試薬と、画像取得用試薬と、保護基解離試薬を含み、反応方式が、シーケンス・バイ・ライゲーション(SBL)であってもよい。
【0065】
以上で説明した本発明の実施例によれば、フローチップ100に対して対物レンズ303を配置した面と反対側のフローチップ100の面(基板103)において、フローチップ100の試薬の注入口105及び排出口106が設けられている。また、フローチップ100の温調を行うヒートブロック402の形状を最適化し、フローチップ100を温調する面の方向から試薬の注入及び排出が可能なようなヒートブロック形状に最適化されている。これにより、対物レンズ303とフローチップ100の流路接続部との間における機械的干渉を回避できる。結果として、フローチップ100を小型化し、コスト低減を図ることができる。
【0066】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることもできる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることもできる。また、各実施例の構成の一部について、他の構成を追加・削除・置換することもできる。