特許第6185274号(P6185274)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6185274
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】磁気ディスク基板用研磨組成物キット
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/00 20120101AFI20170814BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   B24B37/00 H
   G11B5/84 A
【請求項の数】4
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-88209(P2013-88209)
(22)【出願日】2013年4月19日
(65)【公開番号】特開2014-210322(P2014-210322A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】松波 靖
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正典
(72)【発明者】
【氏名】横道 典孝
【審査官】 宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−025873(JP,A)
【文献】 特許第4981750(JP,B2)
【文献】 特開2008−103749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00−37/34
G11B 5/84
H01L 21/304
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨定盤に供給される第1研磨組成物と、該第1研磨組成物による研磨が行われた後に同一の研磨定盤に供給される第2研磨組成物と、を有する磁気ディスク基板用研磨組成物キットであって、
前記第1研磨組成物は、第一の砥粒としてのアルミナ砥粒(A1)と、研磨時に該アルミナ砥粒(A1)の電荷とは逆の電荷を示す第二の砥粒(A2)と、第一の酸(B1)と、を含み、
前記第2研磨組成物は、第三の砥粒(A3)と、第二の酸(B2)と、を含み、
前記第三の砥粒(A3)は、前記アルミナ砥粒(A1)よりモース硬度が低いこと、および前記アルミナ砥粒(A1)より平均粒子径が小さいことのうち少なくとも1つを満たし、
前記第二の砥粒(A2)はシリカ砥粒であり、前記第三の砥粒(A3)はコロイダルシリカ砥粒であり、
前記アルミナ砥粒(A1)および前記第二の砥粒(A2)と、前記第二の酸(B2)とは、少なくとも一時的に前記研磨定盤上において共存するものであり、
前記第一の酸(B1)と前記第二の酸(B2)は、いずれも以下の特性:
該酸をpH調整剤として用いて行うゼータ電位測定において、前記アルミナ砥粒(A1)と前記第二の砥粒(A2)の電位がpH2〜4の範囲にて逆の電荷を示すこと;を満たす、磁気ディスク基板用研磨組成物キット。
【請求項2】
前記第一の酸(B1)と前記第二の酸(B2)は、いずれも有機酸である、請求項に記載の研磨組成物キット。
【請求項3】
磁気ディスク基板の製造方法であって、
第1研磨組成物を研磨定盤に供給して被研磨物を研磨する第1研磨工程と、
前記第1研磨組成物の供給後に、第2研磨組成物を前記研磨定盤に供給して前記被研磨物を研磨する第2研磨工程と、を包含し、
ここで、
前記第1研磨組成物は、アルミナ砥粒(A1)と、研磨時に該アルミナ砥粒(A1)の電荷とは逆の電荷を示す第二の砥粒(A2)と、第一の酸(B1)と、を含み、
前記第2研磨組成物は、第三の砥粒(A3)と、第二の酸(B2)と、を含み、
前記第三の砥粒(A3)は、前記アルミナ砥粒(A1)よりモース硬度が低いこと、および前記アルミナ砥粒(A1)より平均粒子径が小さいことのうち少なくとも1つを満たし、
前記第二の砥粒(A2)はシリカ砥粒であり、前記第三の砥粒(A3)はコロイダルシリカ砥粒であり、
前記アルミナ砥粒(A1)および前記第二の砥粒(A2)と、前記第二の酸(B2)とは、少なくとも一時的に前記研磨定盤上において共存するものであり、
前記第一の酸(B1)と前記第二の酸(B2)は、いずれも以下の特性:
該酸をpH調整剤として用いて行うゼータ電位測定において、前記アルミナ砥粒(A1)と前記第二の砥粒(A2)の電位がpH2〜4の範囲にて逆の電荷を示すこと;
を満たす、磁気ディスク基板の製造方法。
【請求項4】
第一の砥粒としてのアルミナ砥粒(A1)と、研磨時に該アルミナ砥粒(A1)の電荷とは逆の電荷を示す第二の砥粒としてのシリカ砥粒(A2)と、第一の酸(B1)と、を含む第1研磨組成物が研磨定盤に供給された後に、同一の研磨定盤に供給される磁気ディスク基板用研磨組成物であって、
第三の砥粒(A3)と、第二の酸(B2)と、を含み、
前記第三の砥粒(A3)は、前記アルミナ砥粒(A1)よりモース硬度が低いこと、および前記アルミナ砥粒(A1)より平均粒子径が小さいことのうち少なくとも1つを満たし、
前記第三の砥粒(A3)はコロイダルシリカ砥粒であり、
前記第二の酸(B2)は、以下の特性:
該酸をpH調整剤として用いて行うゼータ電位測定において、前記アルミナ砥粒(A1)と前記第二の砥粒(A2)の電位がpH2〜4の範囲にて逆の電荷を示すこと;
を満たす、磁気ディスク基板用研磨組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク基板用研磨組成物キットに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク基板には、高容量化のため高品質な表面が要求されている。かかる要求に効率的に応えることを目的として、磁気ディスク基板の製造においては高精度の研磨工程が必須である。この研磨工程は一般に少なくとも2つの研磨工程を含む。すなわち、研磨効率(例えば研磨レート)を重視した研磨(一次研磨)工程、および最終製品の表面精度に仕上げるために行う最終研磨工程である。例えば、ニッケルリンめっきが施されたディスク基板(Ni−P基板)に対して、少なくとも一次研磨と最終研磨とを行うことにより、高精度の表面が効率よく実現され得る。近年、さらなる高容量化を実現するため、最終研磨の前に行われる一次研磨についても、最終研磨による研磨精度に影響するような欠陥等が極力排除されていることが要求されつつある。
【0003】
このような状況下、上記一次研磨において、例えば、研磨効率に優れるアルミナ砥粒と、該アルミナ砥粒とは異種の砥粒(例えばシリカ砥粒)とを含むハイブリッドタイプの研磨組成物を用いる技術が提案されている。このようなハイブリッドタイプの研磨組成物を用いることによって、アルミナ砥粒の寄与による高い研磨効率を享受しつつ、該アルミナ砥粒に起因するスクラッチ、ピット(窪み)等の表面欠陥や、アルミナ砥粒の一部が基板に突き刺さって残留する事象が抑制され得る。アルミナ砥粒に起因する表面欠陥やアルミナ砥粒の残留は、最終製品の表面精度に影響し得るため、これらの欠陥等を抑制するハイブリッドタイプの研磨組成物は、最終製品の表面精度向上に寄与し得る一次研磨用の研磨組成物として有意義な材料といえる。この種の技術に関する技術文献としては特許文献1〜3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−25873号公報
【特許文献2】特許第4981750号公報
【特許文献3】米国特許第6,896,591号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、上記の磁気ディスク基板の高容量化傾向は、研磨工程のさらなる分化をもたらしつつある。例えば、研磨効率が重視される一次研磨では、高品質化に寄与し得る表面状態を効率よく実現するため、組成の異なる複数の研磨液(研磨組成物)を異なるタイミングで供給する多液型研磨が採用されることがある。上記多液型研磨は、典型的には、同一の研磨定盤上において、初期に研磨効率を重視した研磨組成物を供給して研磨を行い、後期に表面精度向上を重視した研磨組成物を供給して研磨を行うというものである。上述の特許文献1には、上記多液型研磨の初期にハイブリッドタイプの研磨組成物を適用することが記載されている。
【0006】
本発明は、ハイブリッドタイプの研磨組成物を用いる多液型研磨技術の改良に関するものであり、その目的は、最終研磨後における磁気ディスク基板表面の高品質化に寄与し得る磁気ディスク基板用研磨組成物キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この明細書によると、研磨定盤に供給される第1研磨組成物と、該第1研磨組成物による研磨が行われた後に同一の研磨定盤に供給される第2研磨組成物と、を有する磁気ディスク基板用研磨組成物キットが提供される。前記第1研磨組成物は、アルミナ砥粒(A1)と、研磨時に該アルミナ砥粒(A1)の電荷とは逆の電荷を示す砥粒(A2)と、酸(B1)と、を含む。また、前記第2研磨組成物は、砥粒(A3)と、酸(B2)と、を含む。また、前記砥粒(A3)は、前記アルミナ砥粒(A1)よりモース硬度が低いこと、および前記アルミナ砥粒(A1)より平均粒子径が小さいことのうち少なくとも1つを満たす。さらに、前記アルミナ砥粒(A1)および前記砥粒(A2)と、前記酸(B2)とは、少なくとも一時的に前記研磨定盤上において共存するものである。そして、前記酸(B1)と前記酸(B2)は、いずれも以下の特性:該酸をpH調整剤として用いて行うゼータ電位測定において、前記アルミナ砥粒(A1)と前記砥粒(A2)の電位がpH2〜4の範囲にて逆の電荷を示すこと;を満たす。
【0008】
アルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)とを含むハイブリッドタイプの研磨組成物は、研磨時に上記2種の砥粒が静電引力により引き合い、砥粒(A2)がアルミナ砥粒(A1)の表面近傍に存在することにより、アルミナ砥粒(A1)に起因する表面欠陥やアルミナ砥粒(A1)の残留を抑制していると考えられる。しかし、上記ハイブリッドタイプの研磨組成物を多液型研磨用の初期の研磨組成物として適用した場合、アルミナ砥粒(A1)に起因する表面欠陥やアルミナ砥粒(A1)の残留を充分に抑制できない虞があることが本発明者らの検討によって明らかになった。すなわち、上記ハイブリッドタイプの第1研磨組成物を研磨定盤に供給した後に、第2研磨組成物を同一の研磨定盤に供給する多液型研磨では、第1研磨組成物のアルミナ砥粒(A1)および砥粒(A2)と、第2研磨組成物に含まれる酸とが一時的に共存した状態となり得る。そのため、第2研磨組成物の酸の種類によっては、アルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)との静電引力の低下を招き、砥粒(A2)がアルミナ砥粒(A1)から離れてアルミナ砥粒(A1)が露わになり得る。被研磨物表面においてアルミナ砥粒(A1)がこのような状態になると、アルミナ砥粒(A1)に起因する表面欠陥やアルミナ砥粒(A1)の残留が生じる虞がある。
【0009】
そこで本発明では、第1研磨組成物の酸としてハイブリッドタイプに好適な酸(B1)を適用するだけでなく、第2研磨組成物についても、ハイブリッドタイプの第1研磨組成物を意識した組成を採用する。具体的には、第2研磨組成物は、砥粒(A3)と酸(B2)とを含む。ここで酸(B2)は、砥粒(A3)との関係において良好な研磨性能(例えば研磨効率)を実現し得る酸であることは勿論のこと、所定のpH条件下において、アルミナ砥粒(A1)の電位と砥粒(A2)の電位とが逆の電荷を示すように作用する酸である。このような酸(B2)を第2研磨組成物の酸として選択して用いることにより、第2研磨組成物の供給後においても、砥粒(A2)がアルミナ砥粒(A1)の表面近傍に存在する状態を保持し得ると考えられる。その結果、第1研磨組成物に含まれるアルミナ砥粒(A1)に起因する表面欠陥や該アルミナ砥粒(A1)の残留を充分に抑制することができる。したがって、本発明によると、ハイブリッドタイプの研磨組成物を用いる多液型研磨において、アルミナ砥粒(A1)による高い研磨効率を享受しつつ、最終研磨後における磁気ディスク基板表面の高品質化が実現され得る。
【0010】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記砥粒(A2)はシリカ砥粒であり、前記砥粒(A3)はコロイダルシリカ砥粒である。このようなアルミナ/シリカハイブリッドタイプの第1研磨組成物によると、アルミナ砥粒(A1)による高い研磨効率を実現しつつ、シリカ砥粒(A2)の存在によってアルミナ砥粒(A1)に起因する表面欠陥や該アルミナ砥粒(A1)の残留を好適に抑制することができる。また、第2研磨組成物の砥粒(A3)としてコロイダルシリカ砥粒を採用することにより、より表面精度の高い基板を次の研磨工程に供することができる。
【0011】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記酸(B1)と前記酸(B2)は、いずれも有機酸である。所定のpH条件下においてアルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)の電位が逆の電荷を示すように作用する酸は、有機酸のなかから好ましく選択され得る。また、有機酸は研磨組成物中で塩を形成しにくい傾向がある点でも好ましい。
【0012】
また、この明細書によると、磁気ディスク基板の製造方法が提供される。その製造方法は、第1研磨組成物を研磨定盤に供給して被研磨物を研磨する第1研磨工程と、前記第1研磨組成物の供給後に、第2研磨組成物を前記研磨定盤に供給して前記被研磨物を研磨する第2研磨工程と、を包含する。ここで、前記第1研磨組成物は、アルミナ砥粒(A1)と、研磨時に該アルミナ砥粒(A1)の電荷とは逆の電荷を示す砥粒(A2)と、酸(B1)と、を含む。また、前記第2研磨組成物は、砥粒(A3)と、酸(B2)と、を含む。また、前記砥粒(A3)は、前記アルミナ砥粒(A1)よりモース硬度が低いこと、および前記アルミナ砥粒(A1)より平均粒子径が小さいことのうち少なくとも1つを満たす。さらに、前記アルミナ砥粒(A1)および前記砥粒(A2)と、前記酸(B2)とは、少なくとも一時的に前記研磨定盤上において共存するものである。そして、前記酸(B1)と前記酸(B2)は、いずれも以下の特性:該酸をpH調整剤として用いて行うゼータ電位測定において、前記アルミナ砥粒(A1)と前記砥粒(A2)の電位がpH2〜4の範囲にて逆の電荷を示すこと;を満たす。かかる製造方法によると、ハイブリッドタイプの研磨組成物を用いる多液型研磨において、アルミナ砥粒による高い研磨効率を享受しつつ、より高品質な表面を有する磁気ディスク基板が製造され得る。
【0013】
また、この明細書によると、アルミナ砥粒(A1)と、研磨時に該アルミナ砥粒(A1)の電荷とは逆の電荷を示す砥粒(A2)と、酸(B1)と、を含む第1研磨組成物が研磨定盤に供給された後に、同一の研磨定盤に供給される磁気ディスク基板用研磨組成物が提供される。この磁気ディスク基板用研磨組成物は、砥粒(A3)と、酸(B2)と、を含む。また、前記砥粒(A3)は、前記アルミナ砥粒(A1)よりモース硬度が低いこと、および前記アルミナ砥粒(A1)より平均粒子径が小さいことのうち少なくとも1つを満たす。そして、前記酸(B2)は、以下の特性:該酸をpH調整剤として用いて行うゼータ電位測定において、前記アルミナ砥粒(A1)と前記砥粒(A2)の電位がpH2〜4の範囲にて逆の電荷を示すこと;を満たす。かかる構成によると、ハイブリッドタイプの研磨組成物を用いる多液型研磨において、アルミナ砥粒による高い研磨レートを享受しつつ、最終研磨後における磁気ディスク基板表面の高品質化が実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】酒石酸をpH調整剤として用いた場合のアルミナ砥粒およびシリカ砥粒のゼータ電位変化を示すグラフである。
図2】クエン酸をpH調整剤として用いた場合のアルミナ砥粒およびシリカ砥粒のゼータ電位変化を示すグラフである。
図3】マレイン酸をpH調整剤として用いた場合のアルミナ砥粒およびシリカ砥粒のゼータ電位変化を示すグラフである。
図4】トルエンスルホン酸をpH調整剤として用いた場合のアルミナ砥粒およびシリカ砥粒のゼータ電位変化を示すグラフである。
図5】グリコール酸をpH調整剤として用いた場合のアルミナ砥粒およびシリカ砥粒のゼータ電位変化を示すグラフである。
図6】マロン酸をpH調整剤として用いた場合のアルミナ砥粒およびシリカ砥粒のゼータ電位変化を示すグラフである。
図7】リンゴ酸をpH調整剤として用いた場合のアルミナ砥粒およびシリカ砥粒のゼータ電位変化を示すグラフである。
図8】シュウ酸をpH調整剤として用いた場合のアルミナ砥粒およびシリカ砥粒のゼータ電位変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
ここに開示される技術の好ましい一態様に係る研磨組成物キットは、磁気ディスク基板用(好ましくは一次研磨用)の研磨組成物キットであり、複数(典型的には2または3以上)の研磨組成物を備えるキットである。この研磨組成物キットは、少なくとも、同一の研磨定盤に供給され得る第1研磨組成物と第2研磨組成物とを備える。以下、第1研磨組成物、第2研磨組成物の順で説明する。
【0017】
≪第1研磨組成物≫
ここに開示される技術の好ましい一態様に係る第1研磨組成物は、後述する第2研磨組成物より先に研磨定盤に供給されるものであり、アルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)と酸(B1)とを含む。また、必要に応じてその他の成分を含み得る。
【0018】
<アルミナ砥粒(A1)>
アルミナ砥粒(A1)は、第1研磨組成物による研磨において、高い研磨効率(例えば研磨レート)を実現する役割を担う砥粒成分である。アルミナ砥粒(A1)は、アルミナから構成されているものであればよく、その限りにおいて特に限定されない。
【0019】
アルミナ砥粒(A1)を構成するアルミナは、結晶性、非晶性のいずれであってもよい。具体例としては、αアルミナや、中間アルミナ、アモルファスアルミナが挙げられる。中間アルミナとしては、γアルミナ、δアルミナ、ηアルミナ、θアルミナ、κアルミナ、χアルミナ等が例示される。また、製法による分類に基づき、ヒュームドアルミナと称されるアルミナも、アルミナ砥粒(A1)を構成するアルミナとして好ましく使用され得る。これらは1種を単独で、または2種以上を混合して用いることができる。なかでも、研磨レートに優れるαアルミナを含むことが好ましい。
【0020】
アルミナ砥粒(A1)として、アルミナの2種以上の混合物を用いる場合には、研磨レートの観点から、20質量%以上(例えば50質量%以上、典型的には70質量%以上)がαアルミナによって占められていることが好ましい。また、平滑な表面を得る観点から、αアルミナの比率は90質量%以下(例えば80質量%以下、典型的には70質量%以下)であることが好ましい。
【0021】
ここに開示される技術では、アルミナ砥粒(A1)として、モース硬度が7以上のアルミナから構成されたアルミナ砥粒を好ましく用いることができる。なお、アルミナ砥粒(A1)が2種以上の材料から構成されている場合、アルミナ砥粒(A1)の硬度は、各材料につきモース硬度と質量比の積を求め、これを合計することにより求めればよい。
【0022】
アルミナ砥粒(A1)の平均一次粒子径は、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは15nm以上である。平均一次粒子径の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。また、より平滑性の高い表面を得るという観点から、上記平均一次粒子径は、好ましくは900nm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは300nm以下である。なお、ここに開示される技術において、砥粒の平均一次粒子径は、特記しない限り、BET法により測定される比表面積(m/g)から、D=2720/S(nm)の式により算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置(商品名「Flow Sorb II 2300」)を用いて行うことができる。
【0023】
アルミナ砥粒(A1)の平均二次粒子径は、典型的には80nm以上であり、研磨レート等の観点から、好ましくは150nm以上、より好ましくは300nm以上である。上記の平均二次粒子径を有するアルミナ砥粒(A1)によると、より高い研磨レートが実現され得る。また、上記アルミナ砥粒(A1)の平均二次粒子径は、例えば1μm以下とすることが適当である。より平滑性の高い表面を得るという観点から、上記平均二次粒子径は、好ましくは800nm以下、より好ましくは500nm以下である。なお、ここに開示される技術において、砥粒の平均二次粒子径は、特記しない限り、レーザー回析散乱法に基づき測定される。測定は、堀場製作所製のレーザー回析/散乱式粒度分布測定装置(商品名「LA950」)を用いて行うことができる。
【0024】
<砥粒(A2)>
砥粒(A2)は、第1研磨組成物の砥粒として、アルミナ砥粒(A1)とともに用いられる砥粒であり、第1研磨組成物による研磨時にアルミナ砥粒(A1)の電荷とは逆の電荷を示す。ここで「研磨時に」とは、例えば、第1研磨組成物(典型的には、第1研磨組成物を含む研磨液)による研磨開始時から研磨終了時までを指す。また、アルミナ砥粒(A1)の電荷とは、典型的には研磨液中におけるアルミナ砥粒(A1)表面の電荷を指し、砥粒(A2)の電荷も同様に、研磨液中における砥粒(A2)表面の電荷を指すものとする。
【0025】
砥粒(A2)が研磨時にアルミナ砥粒(A1)の電荷と逆の電荷を示すか否かは、典型的には、研磨時における研磨液のpHによって決定され得る。換言すれば、第1研磨組成物を含む研磨液が供給された研磨定盤上のpHによって決定され得る。砥粒の電荷は、砥粒が含まれる研磨液のpHによって変化し得るためである。第1研磨組成物を含む研磨液の研磨時におけるpHは、研磨促進のために該研磨液中に酸(B1)が含まれていること、研磨中は酸が消費される等によりpHが上昇すること等により、通常はpH7未満(例えばpH0.5〜6、典型的には1〜5)であって、pH2〜4を中心とする範囲で変動する。したがって、研磨時にアルミナ砥粒(A1)の電荷とは逆の電荷を示す砥粒(A2)とは、上記pH条件下において、アルミナ砥粒(A1)の電荷とは逆の電荷を示す砥粒(A2)と換言することができる。典型的には、アルミナ砥粒(A1)が上記pH条件下において正の電荷を示す場合、砥粒(A2)は、上記pH条件下において負の電荷を示すものであり得る。なお、砥粒の電荷に関してpH以外の研磨条件(例えば研磨液濃度や研磨荷重等)は無視してよい。
【0026】
上記のように、砥粒(A2)は研磨時にアルミナ砥粒(A1)の電荷とは逆の電荷を示すため、研磨のあいだアルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)とは静電引力により引き合い、砥粒(A2)がアルミナ砥粒(A1)の表面近傍に存在していると考えられる。具体的には、アルミナ砥粒(A1)の表面を覆うように砥粒(A2)がアルミナ砥粒(A1)に凝集(または会合)した状態になっていると考えられる。これにより、アルミナ砥粒(A1)による高い研磨レートを享受しながら、アルミナ砥粒(A1)表面に存在する砥粒(A2)が、アルミナ砥粒(A1)の一部が基板に突き刺さって残留する事象を抑制するように作用する。その結果、アルミナ砥粒(A1)の基板への残留や、該残留アルミナ砥粒に起因するスクラッチやピットの発生が防止または抑制される。
【0027】
上記のような砥粒(A2)の役割を考慮すると、砥粒(A2)は、アルミナ砥粒(A1)よりモース硬度が低いことが好ましい。これにより、表面欠陥を好適に抑制することができる。砥粒(A2)のモース硬度は、アルミナ砥粒(A1)のモース硬度より0.5以上(例えば1以上、典型的には1.5〜5)低いことが好ましい。砥粒(A2)のモース硬度は、例えば8以下(例えば4〜8程度、典型的には5〜7)程度とすることが適当である。なお、砥粒(A2)が2種以上の材料から構成されている場合、砥粒(A2)の硬度は、各材料につきモース硬度と質量比の積を求め、これを合計することにより求めればよい。
【0028】
砥粒(A2)の平均一次粒子径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上、さらに好ましくは20nm以上である。平均一次粒子径の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。また、より平滑性の高い表面を得るという観点から、上記平均一次粒子径は、好ましくは900nm以下(例えば500nm以下、典型的には300nm以下)であり、より好ましくは150nm以下、さらに好ましくは100nm以下、特に好ましくは80nm以下である。
【0029】
また、砥粒(A2)はアルミナ砥粒(A1)より平均二次粒子径(平均粒子径)が小さいことが好ましい。これにより、アルミナ砥粒(A1)による高い研磨レートを享受しつつ、より平滑性の高い表面を得ることができる。砥粒(A2)の平均二次粒子径は、アルミナ砥粒(A1)の平均二次粒子径の0.9倍以下(例えば0.5倍以下、典型的には0.05〜0.3倍)程度であることが好ましい。
【0030】
砥粒(A2)の平均二次粒子径は、典型的には15nm以上であり、研磨レート等の観点から、好ましくは30nm以上(例えば50nm以上、典型的には70nm以上)である。また、上記砥粒(A2)の平均二次粒子径は、例えば1μm以下であり得る。より平滑性の高い表面を得るという観点から、上記平均二次粒子径は、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。平均二次粒子径が上記の範囲内であって、かつアルミナ砥粒(A1)の平均二次粒子径より小さい平均二次粒子径を有する砥粒(A2)を使用することが特に好ましい。
【0031】
ここに開示される砥粒(A2)としては、コロイダルシリカ砥粒、ヒュームドシリカ砥粒、沈降性シリカ砥粒等のシリカ砥粒が挙げられる。また、砥粒(A2)はシリカ以外の材質からなる砥粒(以下、非シリカ砥粒ともいう。)であってもよい。非シリカ砥粒の具体例としては、チタニア砥粒、ジルコニア砥粒、セリア砥粒等の金属酸化物砥粒や、ポリアクリル酸等の樹脂砥粒が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を混合して用いることができる。なかでも、シリカ砥粒が好ましく、そのなかでも、コロイダルシリカ砥粒、ヒュームドシリカ砥粒が特に好ましい。
【0032】
アルミナ砥粒(A1)の含有量と砥粒(A2)の含有量との比(質量基準)は特に限定されない。アルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)とを併用することによる効果をよりよく発揮させる観点から、アルミナ砥粒(A1)の含有量と砥粒(A2)との質量比(A1:A2)は95:5〜5:95であることが適当であり、80:20〜10:90であることが好ましく、70:30〜20:80であることがより好ましい。砥粒(A2)の含有量を多くすると、アルミナ砥粒(A1)に起因する表面欠陥、アルミナ砥粒(A1)の残留が好適に抑制され得る。また、アルミナ砥粒(A1)の含有量を多くすると研磨レートが向上する。
【0033】
ここに開示される第1研磨組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、アルミナ砥粒(A1)および砥粒(A2)以外の従来公知のその他の砥粒を含有してもよい。その他の砥粒の含有量は、第1研磨組成物に含まれる砥粒の全質量のうち、例えば30質量%以下とすることが適当であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。ここに開示される技術は、第1研磨組成物に含まれる砥粒が、アルミナ砥粒(A1)および砥粒(A2)のみからなる態様で好ましく実施され得る。
【0034】
<酸(B1)>
酸(B1)は、研磨促進剤として機能する成分であり、アルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)との関係において良好な研磨性能(例えば研磨レート)を実現し得る酸であることは勿論のこと、以下の特性:酸(B1)をpH調整剤として用いて行うゼータ電位測定において、アルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)の電位がpH2〜4(好ましくは1.5〜4(例えば1〜4)、より好ましくは2以上5未満(例えば1.5以上5未満、典型的には1以上5未満)、さらに好ましくは1.5〜6(例えば1〜6)、あるいは2以上7未満(例えば2以上7以下))の範囲にて逆の電荷を示すこと;を満たす。換言すれば、酸(B1)は、酸(B1)をpH調整剤として用いてアルミナ砥粒(A1)に対してゼータ電位測定を行い、かつ酸(B1)をpH調整剤として用いて砥粒(A2)に対してゼータ電位測定を行ったときに、pH2〜4(好ましくは1.5〜4(例えば1〜4)、より好ましくは2以上5未満(例えば1.5以上5未満、典型的には1以上5未満)、さらに好ましくは1.5〜6(例えば1〜6)、あるいは2以上7未満(例えば2以上7以下))の範囲において、アルミナ砥粒(A1)の電位と砥粒(A2)の電位とが逆の電荷を示すことを満たす酸である。上記の特性を満たす酸(B1)は、研磨時に(典型的には研磨時における研磨液のpH条件下において)アルミナ砥粒(A1)の電位と砥粒(A2)の電位とが逆の電荷を示すように作用する酸であり得る。そのような酸(B1)を第1研磨組成物に含ませることにより、アルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)とが静電引力により引き合い、砥粒(A2)がアルミナ砥粒(A1)の表面近傍に存在する状態を好適に実現する結果、アルミナ砥粒の一部が基板に突き刺さって残留する事象を好適に抑制していると考えられる。なお、この明細書においてゼータ電位測定は、日本ルフト社製のゼータ電位測定装置(商品名「DT−1200」)を用いて行うことができる。
【0035】
酸(B1)は、無機酸(鉱酸)、有機酸のいずれであってもよい。無機酸としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸等が挙げられる。有機酸としては、炭素原子数が1〜10程度のカルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を混合して用いることができる。また、有機酸は、後述する酸(B2)で例示するものと同様のものの1種または2種以上を好ましく使用することができる。なかでも、酸(B2)と同種のものを用いることが好ましい。なお、酸(B1)は、上記酸との塩の形態で用いられるものであってもよい。酸の塩としては特に制限はなく、例えば適当な金属やアンモニウム等との塩が挙げられる。
【0036】
酸(B1)は有機酸を含むことが好ましい。所定のpH条件下においてアルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)の電位が逆の電荷を示すように作用する酸は、有機酸のなかから好ましく選択され得る。また、有機酸は研磨組成物中で塩を形成しにくい傾向がある点でも好ましい。酸(B1)に占める有機酸の比率は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。ここに開示される技術は、第1研磨組成物に含まれる酸(B1)が、有機酸のみからなる態様で好ましく実施され得る。
【0037】
上記有機酸のpK1は凡そ7未満であり得る。研磨レートの観点から、上記有機酸のpK1は、好ましくは5未満、より好ましくは4未満である。
【0038】
上記有機酸はカルボン酸であってもよい。その場合、上記カルボン酸1分子当たりのカルボキシル基の数は特に限定されないが、研磨効率の観点から2または3以上(例えば3,4または5)であることが好ましい。上記カルボン酸はまた、1または2以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸であってもよい。
【0039】
また、第1研磨組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸(B1)以外の酸(無機酸、有機酸)および/またはその塩を含んでよい。酸(B1)以外の酸および/またはその塩の含有量は、第1研磨組成物に含まれる酸および/またはその塩の全質量のうち、例えば10質量%以下とすることが適当であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0040】
<水系溶媒>
ここに開示される第1研磨組成物に含まれる水系溶媒としては、後述する第2研磨組成物における水系溶媒と同様のものを好ましく用いることができる。第1研磨組成物(典型的にはスラリー状の組成物)の固形分含量についても第2研磨組成物の固形分含量と同様の範囲から好ましく選択される。
【0041】
<その他の成分>
ここに開示される第1研磨組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、研磨促進剤、キレート剤、増粘剤、分散剤、pH調整剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤等の、磁気ディスク基板用の研磨組成物(典型的には、Ni−P基板の一次研磨に用いられる研磨組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。そのような添加剤としては、後述する第2研磨組成物において例示したものを用いることができる。
【0042】
<研磨液>
ここに開示される第1研磨組成物は、典型的には第1研磨組成物を含む研磨液(第1研磨液)の形態で被研磨物(磁気ディスク基板)に供給されて、該被研磨物の研磨に用いられる。上記研磨液は、第1研磨組成物に0〜10倍の体積の前記水系溶媒を加えて希釈して調製されたものであり得る。
【0043】
研磨液における砥粒の含有量(アルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)を含む複数種類の砥粒の合計含有量)は、典型的には5g/L以上であり、10g/L以上であることが好ましく、20g/L以上であることがより好ましい。砥粒の含有量の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。また、研磨後の基板の表面平滑性や研磨の安定性の観点から、通常、上記含有量は250g/L以下が適当であり、好ましくは200g/L以下、より好ましくは150g/L以下、さらに好ましくは100g/L以下である。
【0044】
酸(B1)(例えば有機酸)の含有量(複数の酸を含む態様では、それらの合計含有量)は、例えば0.1g/L以上とすることができる。上記含有量は、研磨レート等の観点から、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1g/L以上、さらに好ましくは5g/L以上である。また、研磨組成物の経済性等の観点から、上記含有量は100g/L以下が適当であり、好ましくは80g/L以下、例えば60g/L以下である。
【0045】
研磨促進剤としての酸化剤を含む態様では、研磨液中における該酸化剤の含有量(複数の酸化剤を含む場合には、それらの合計含有量)を、例えば0.1g/L以上とすることができる。上記含有量は、研磨レート等の観点から、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1g/L以上である。また、研磨組成物の経済性の観点から、酸化剤の含有量は100g/L以下が適当であり、好ましくは75g/L以下、より好ましくは60g/L以下である。酸化剤として過酸化水素を用いる場合、その含有量は通常、H濃度として0.1〜50g/L程度が適当であり、1〜30g/Lが好ましい。
【0046】
任意成分として含まれ得る水溶性高分子等の含有量や濃度、上記研磨液のpHとしては、後述する第2研磨組成物で説明している範囲を好ましく適用することができるので、ここでは特に説明しない。なお、第1研磨組成物を含む研磨液のpHは、研磨レート等の観点から、第2研磨組成物を含む研磨液のpHより低いことが好ましい。ここに開示される技術における第1研磨組成物を含む研磨液は、第2研磨組成物よりpHが0.5以上(好ましくは1以上、より好ましくは2以上)低い態様で好ましく実施され得る。
【0047】
ここに開示される磁気ディスク基板用研磨組成物キットを構成する第1研磨組成物は、例えば上記のような研磨液(あるいは後述する濃縮液)として容器に収容された状態であり得る。あるいは、第1研磨組成物が例えば二剤型等の多剤型である場合には、第1研磨組成物は2以上の容器に分けて収容されたものであってもよい。
【0048】
≪第2研磨組成物≫
ここに開示される技術の好ましい一態様に係る第2研磨組成物は、アルミナ砥粒(A1)を含む第1研磨組成物を研磨定盤に供給した後、同一の研磨定盤に供給される研磨組成物である。第2研磨組成物は、砥粒(A3)と酸(B2)とを含む。また、必要に応じてその他の成分を含み得る。
【0049】
<砥粒(A3)>
第2研磨組成物による研磨は、第1研磨組成物による研磨よりも表面精度向上を重視した研磨であるため、砥粒(A3)としては、アルミナ砥粒(A1)よりモース硬度が低いこと、およびアルミナ砥粒(A1)より平均粒子径が小さいこと、のうち少なくとも1つ(好ましくは両方)を満たすものが用いられる。このような砥粒(A3)を用いることによって、より表面精度の高い基板を次の研磨工程(例えば最終研磨工程)に供することができる。
【0050】
砥粒(A3)のモース硬度は、アルミナ砥粒(A1)のモース硬度より0.5以上(例えば1以上、典型的には2〜6)低いことが好ましい。典型的には、砥粒(A3)のモース硬度は8以下(例えば4〜8程度、典型的には5〜7)程度であり得る。なお、砥粒(A3)が2種以上の材料から構成されている場合、砥粒(A3)の硬度は、各材料につきモース硬度と質量比の積を求め、これを合計することにより求めればよい。
【0051】
また、砥粒(A3)の平均二次粒子径は、アルミナ砥粒(A1)の平均二次粒子径の0.9倍以下(例えば0.5倍以下、典型的には0.05〜0.3倍)程度であることが好ましい。このように小径の砥粒を用いることにより、次の研磨工程(例えば最終研磨工程)に供するに相応しい表面精度を実現することができる。
【0052】
砥粒(A3)の平均一次粒子径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上、さらに好ましくは20nm以上である。平均一次粒子径の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。また、より平滑性の高い表面を得るという観点から、上記平均一次粒子径は、好ましくは150nm以下(例えば100nm以下、典型的には80nm以下)である。
【0053】
砥粒(A3)の平均二次粒子径は、典型的には15nm以上であり、研磨レート等の観点から、好ましくは30nm以上(例えば50nm以上、典型的には70nm以上)である。また、上記砥粒(A3)の平均二次粒子径は、例えば800nm以下であり得る。より平滑性の高い表面を得るという観点から、上記平均二次粒子径は、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは150nm以下である。
【0054】
ここに開示される砥粒(A3)としては、コロイダルシリカ砥粒、ヒュームドシリカ砥粒、沈降性シリカ砥粒等のシリカ砥粒が挙げられる。また、砥粒(A3)は非シリカ砥粒であってもよい。非シリカ砥粒の具体例としては、砥粒(A2)として例示したものが挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を混合して用いることができる。なかでも、シリカ砥粒が好ましく、そのなかでも、コロイダルシリカ砥粒、ヒュームドシリカ砥粒がより好ましく、コロイダルシリカ砥粒がさらに好ましい。
【0055】
ここに開示される第2研磨組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、砥粒(A3)以外の従来公知のその他の砥粒を含有してもよい。その他の砥粒の含有量は、第2研磨組成物に含まれる砥粒の全質量のうち、例えば30質量%以下とすることが適当であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。ここに開示される技術は、第2研磨組成物に含まれる砥粒が、砥粒(A3)のみからなる態様で好ましく実施され得る。
【0056】
<酸(B2)>
酸(B2)は、研磨促進剤として機能する成分であり、砥粒(A3)との関係において良好な研磨性能(例えば研磨効率)を実現し得る酸であることは勿論のこと、以下の特性:酸(B2)をpH調整剤として用いて行うゼータ電位測定において、前記アルミナ砥粒(A1)と前記砥粒(A2)の電位がpH2〜4(好ましくは1.5〜4(例えば1〜4)、より好ましくは2以上5未満(例えば1.5以上5未満、典型的には1以上5未満)、さらに好ましくは1.5〜6(例えば1〜6)、あるいは2以上7未満(例えば2以上7以下))の範囲にて逆の電荷を示すこと;を満たすことを特徴とする。換言すれば、酸(B2)は、酸(B2)をpH調整剤として用いてアルミナ砥粒(A1)に対してゼータ電位測定を行い、かつ酸(B2)をpH調整剤として用いて砥粒(A2)に対してゼータ電位測定を行ったときに、pH2〜4(好ましくは1.5〜4(例えば1〜4)、より好ましくは2以上5未満(例えば1.5以上5未満、典型的には1以上5未満)、さらに好ましくは1.5〜6(例えば1〜6)、あるいは2以上7未満(例えば2以上7以下))の範囲において、アルミナ砥粒(A1)の電位と砥粒(A2)の電位が逆の電荷を示すことを満たす酸であることを特徴とする。また、第2研磨組成物の酸(B2)は、第1研磨組成物のアルミナ砥粒(A1)および砥粒(A2)と、少なくとも一時的に研磨定盤上において共存し得る。
【0057】
酸(B2)が上記の特性を満たすことと、酸(B2)が第1研磨組成物の砥粒と共存し得ることの技術的意味について説明する。一次研磨と最終研磨を行うような多段研磨において、例えば一次研磨として多液型研磨(例えば、Ni−P基板の多液型一次研磨)を採用する構成では、多液型とすることで、特に後期に供給される研磨液による研磨により、良好な表面精度を実現し得る。しかし、アルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)とを含むハイブリッドタイプの第1研磨組成物を初期の研磨液に採用した場合、初期の研磨液と後期の研磨液とが研磨定盤上で共存することにより、アルミナ砥粒(A1)に起因する表面欠陥やアルミナ砥粒(A1)の残留が発生する虞があることが判明した。生産効率上、洗浄工程を介する等しても初期の研磨液と後期の研磨液との接触を完全に排除し難いという事情や、磁気ディスク基板の高容量化傾向が従来は問題にされてこなかったレベルでのアルミナ砥粒の残留抑制を要求しているという状況もある。このような状況の下、第1研磨組成物の作用を考慮して第2研磨組成物の組成を設計することが検討された結果、上記の特性を満たす酸(B2)を第2研磨組成物の酸として選択して用いることにより、第2研磨組成物の供給後においても、アルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)とが静電引力により引き合い、砥粒(A2)がアルミナ砥粒(A1)の表面近傍に存在した状態(例えば、アルミナ砥粒(A1)の表面を覆うように砥粒(A2)がアルミナ砥粒(A1)に凝集した状態)を保持し得ることが見出された。要するに、第2研磨組成物の酸として酸(B2)を採用することによって、ハイブリッドタイプの研磨組成物を用いる多液型研磨において、第1研磨組成物に含まれるアルミナ砥粒(A1)に起因する表面欠陥や該アルミナ砥粒(A1)の残留を充分に抑制することが実現されたのである。
【0058】
第1研磨組成物を用いての研磨開始後は、酸が消費される等により研磨液のpHは上昇傾向にある。また、上記研磨後に洗浄液を投入した場合、研磨定盤上のpHは上昇する傾向がある。このことから、第2研磨組成物が該研磨定盤に供給されるときの研磨定盤上のpHは凡そ1〜4(より具体的にはpH2〜4を中心とする範囲)であると考えられる。このようなpH条件下においても、上記特性を満たす酸(B2)は、アルミナ砥粒(A1)の電位と砥粒(A2)の電位とが逆の電荷を示す状態を保持し得る。その結果、第2研磨組成物の供給後(例えば、第1研磨組成物による研磨後でもあり得る。)において、第1研磨組成物に含まれるアルミナ砥粒(A1)に起因する表面欠陥やアルミナ砥粒(A1)の残留が好適に抑制され得る。
【0059】
酸(B2)は、無機酸(鉱酸)、有機酸のいずれであってもよい。無機酸としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸等が挙げられる。有機酸としては、炭素原子数が1〜10程度のカルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を混合して用いることができる。なお、酸(B2)は、上記酸との塩の形態で用いられるものであってもよい。酸の塩としては特に制限はなく、例えば適当な金属やアンモニウム等との塩が挙げられる。
【0060】
酸(B2)は有機酸を含むことが好ましい。所定のpH条件下においてアルミナ砥粒(A1)の電位と砥粒(A2)の電位とが逆の電荷を示すように作用する酸は、有機酸のなかから好ましく選択され得る。また、有機酸は研磨組成物中で塩を形成しにくい傾向がある点でも好ましい。酸(B2)に占める有機酸の比率は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。ここに開示される技術は、第2研磨組成物に含まれる酸(B2)が有機酸のみからなる態様で好ましく実施され得る。
【0061】
上記有機酸のpK1は凡そ7未満であり得る。研磨レートの観点から、上記有機酸のpK1は、好ましくは5未満、より好ましくは4未満である。
【0062】
上記有機酸の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、イタコン酸、マロン酸、イミノ二酢酸、グルコン酸、乳酸、プロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、酪酸、ヒドロキシ酪酸(2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸)、マンデル酸、酒石酸、クロトン酸、ニコチン酸、酢酸、グルコン酸、グルタル酸、アジピン酸、ギ酸等の1価または2価以上のカルボン酸;メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、フィチン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸等の有機ホスホン酸;メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸;等が挙げられる。このような酸は、例えば後述の酸化剤と合わせて用いられることにより、研磨促進剤として効果的に作用し得る。なかでも、リンゴ酸、3−ヒドロキシプロパン酸、ヒドロキシ酪酸、酒石酸、グリコール酸、マロン酸、マレイン酸、トルエンスルホン酸が好ましく、グリコール酸、マレイン酸、酒石酸が特に好ましい。
【0063】
上記有機酸はカルボン酸であってもよい。その場合、上記カルボン酸1分子当たりのカルボキシル基の数は特に限定されないが、研磨効率の観点から2または3以上(例えば3,4または5)であることが好ましい。上記カルボン酸はまた、1または2以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸であってもよい。
【0064】
酸(B2)が望ましい理由を明らかにする必要はないが、例えば以下のことが考えられる。すなわち、アルミナ砥粒(A1)の表面には通常、水酸基(−OH)が存在しており、この水酸基は、例えば研磨時と同程度の低pH条件下では、プロトン化(−O)して正の電荷を帯びていると考えられる。一方、このようなpH条件下では砥粒(A2)の表面は負の電荷を帯びていると考えられる。これによって、アルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)とは良好に凝集しているものと考えらえる。しかし、アルミナ砥粒(A1)の表面は、pHが上昇すると、脱プロトン化(−OH)して電位は0に近づいていく。このような現象は、研磨定盤上に第2研磨組成物を供給した後や、第1研磨組成物を用いた研磨の終了後に洗浄液を供給した場合に起こっていると考えられ得る。上記の特性を満たす酸(B2)は、pHが上昇した研磨液中において、アルミナ砥粒(A1)の脱プロトン化を抑制するように作用していることが考えられる。なお、上記の説明は後述の実験結果等からの一考察であって、本発明は上記の説明によって限定的に解釈されるものではない。
【0065】
また、第2研磨組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸(B2)以外の酸(無機酸、有機酸)および/またはその塩を含んでよい。酸(B2)以外の酸および/またはその塩は、該酸をpH調整剤として用いて行うゼータ電位測定において、アルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)の電位がpH2〜4(好ましくは1.5〜4(例えば1〜4)、より好ましくは2以上5未満(例えば1.5以上5未満、典型的には1以上5未満)、さらに好ましくは1.5〜6(例えば1〜6)、あるいは2以上7未満(例えば2以上7以下))の範囲にて逆の電荷を示すことを満たさない酸として定義される。酸(B2)以外の酸および/またはその塩の含有量は、第2研磨組成物に含まれる酸および/またはその塩の全質量のうち、例えば10質量%以下とすることが適当であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。ここに開示される技術は、第2研磨組成物に含まれる酸および/またはその塩が酸(B2)のみからなる態様で好ましく実施され得る。
【0066】
<水系溶媒>
ここに開示される第2研磨組成物は、典型的には、砥粒や酸の他に水系溶媒を含有する。ここで水系溶媒とは、水と、水を主成分とする混合溶媒とを包含する概念である。水を主成分とする混合溶媒とは、典型的には、水の含有量が50体積%を超える混合溶媒を指す。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、蒸留水、純水等を用いることができる。上記混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール等)を用いることができる。通常は、水系溶媒の80体積%以上(より好ましくは90体積%以上、さらに好ましくは95体積%以上)が水である水系溶媒の使用が好ましい。特に好ましい例として、実質的に水からなる水系溶媒(例えば、99.5〜100体積%が水である水系溶媒)が挙げられる。ここに開示される第1研磨組成物(典型的にはスラリー状の組成物)は、例えば、その固形分含量(non−volatile content;NV)が5g/L〜500g/Lである形態で好ましく実施され得る。上記NVが10g/L〜350g/Lである形態がより好ましい。
【0067】
<その他の成分>
ここに開示される第2研磨組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、研磨促進剤、キレート剤、増粘剤、分散剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤等の、磁気ディスク基板用の研磨組成物(典型的には、Ni−P基板の一次研磨に用いられる研磨組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0068】
研磨促進剤の例としては、上述の酸の他に酸化剤が挙げられる。酸化剤の例としては、過酸化物、硝酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩等が挙げられるが、これらに限定されない。このような酸化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。酸化剤の具体例としては、過酸化水素、硝酸、硝酸鉄、硝酸アルミニウム、ペルオキソ二硫酸、過ヨウ素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、等が挙げられる。好ましい酸化剤として、過酸化水素、硝酸鉄、ペルオキソ二硫酸および硝酸が例示される。
【0069】
キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸およびα−メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましく、なかでも好ましいものとしてエチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0070】
ここに開示される研磨組成物は、水溶性高分子をさらに含有してもよい。水溶性高分子をさらに含有させることにより、研磨組成物による研磨後の磁気ディスク基板の表面粗さがより一層低減され得る。水溶性高分子としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;その他、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。
【0071】
<研磨液>
ここに開示される第2研磨組成物は、典型的には第2研磨組成物を含む研磨液(第2研磨液)の形態で被研磨物(磁気ディスク基板)に供給されて、該被研磨物の研磨に用いられる。上記研磨液は、第2研磨組成物に0〜10倍の体積の前記水系溶媒を加えて希釈して調製されたものであり得る。
【0072】
研磨液における砥粒の含有量(複数種類の砥粒を含む場合には、それらの合計含有量)は、典型的には5g/L以上であり、10g/L以上であることが好ましく、20g/L以上であることがより好ましい。砥粒の含有量の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。また、研磨後の基板の表面平滑性や研磨の安定性の観点から、通常、上記含有量としては250g/L以下が適当であり、好ましくは200g/L以下、より好ましくは150g/L以下、さらに好ましくは100g/L以下である。
【0073】
酸(B2)(例えば有機酸)の含有量(複数の酸を含む態様では、それらの合計含有量)は、例えば0.1g/L以上とすることができる。上記含有量は、研磨レート等の観点から、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1g/L以上、さらに好ましくは5g/L以上である。また、研磨組成物の経済性等の観点から、上記含有量は100g/L以下が適当であり、好ましくは80g/L以下、例えば60g/L以下である。
【0074】
研磨促進剤としての酸化剤を含む態様では、研磨液中における該酸化剤の含有量(複数の酸化剤を含む場合には、それらの合計含有量)を、例えば0.1g/L以上とすることができる。上記含有量は、研磨レート等の観点から、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1g/L以上である。また、研磨組成物の経済性の観点から、酸化剤の含有量は100g/L以下が適当であり、好ましくは75g/L以下、より好ましくは60g/L以下である。好ましい含有量の範囲は、使用する酸化剤の種類によっても異なり得る。例えば、酸化剤として硝酸鉄(III)9水和物を用いる場合、その含有量は通常、20〜100g/L程度が適当であり、30〜75g/Lが好ましい。また、酸化剤として過酸化水素を用いる場合、その含有量は通常、H濃度として0.1〜50g/L程度が適当であり、1〜30g/Lが好ましい。
【0075】
上記研磨液のpHとしては、研磨レートや表面平滑性等の観点から、0.5以上(例えば1以上、典型的には2以上)が好ましく、8以下(典型的には7未満、好ましくは4以下、より好ましくは3以下)が好ましい。研磨液において上記pHが実現されるように、必要に応じて有機酸、無機酸等のpH調整剤を含有させることができる。上記pHは、例えば、ニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨液(特に、一次研磨用の研磨液)に好ましく適用され得る。
【0076】
水溶性高分子を含む態様では、研磨液中における該水溶性高分子の含有量(複数の水溶性高分子を含む態様では、それらの合計含有量)を、例えば0.01g/L以上とすることが適当である。上記含有量は、研磨後の磁気ディスク基板の表面平滑性等の観点から、好ましくは0.05g/L以上、より好ましくは0.08g/L以上、さらに好ましくは0.1g/L以上である。また、研磨レート等の観点から、上記含有量は10g/L以下とすることが適当であり、好ましくは5g/L以下、例えば1g/L以下である。
【0077】
ここに開示される磁気ディスク基板用研磨組成物キットを構成する第2研磨組成物は、例えば上記のような研磨液(あるいは後述する濃縮液)として容器に収容された状態であり得る。あるいは、第2研磨組成物が例えば二剤型等の多剤型である場合には、第2研磨組成物は2以上の容器に分けて収容されたものであってもよい。
【0078】
<濃縮液>
ここに開示される研磨組成物(第1研磨組成物および第2研磨組成物を包含する意味で用いられる。)は、被研磨物に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば1.5倍〜50倍程度とすることができる。濃縮液の貯蔵安定性等の観点から、通常は、2倍〜20倍(典型的には2倍〜10倍)程度の濃縮倍率が適当である。
【0079】
このように濃縮液の形態にある研磨組成物は、所望のタイミングで希釈して研磨液を調製し、その研磨液を被研磨物に供給する態様で好適に使用することができる。上記希釈は、典型的には、上記濃縮液に前述の水系溶媒を加えて混合することにより行うことができる。また、上記水系溶媒が混合溶媒である場合、該水系溶媒の構成成分のうち一部の成分のみを加えてもよく、それらの構成成分を上記水系溶媒とは異なる量比で含む混合溶媒を加えて希釈してもよい。
【0080】
上記濃縮液のNVは、例えば500g/L以下とすることができる。研磨組成物の貯蔵安定性(例えば、砥粒の分散安定性)等の観点から、濃縮液のNVは450g/L以下とすることが適当であり、好ましくは350g/L以下である。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、濃縮液のNVは、10g/Lより高いことが適当であり、好ましくは30g/L超、より好ましくは50g/L超、例えば100g/L超である。
【0081】
上記濃縮液における砥粒の含有量は、例えば500g/L未満とすることができる。研磨組成物の貯蔵安定性等の観点から、上記含有量は、450g/L未満が適当であり、好ましくは350g/L未満である。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、砥粒の含有量は、例えば10g/L以上とすることができ、好ましくは20g/L以上、より好ましくは30g/L以上(例えば50g/L以上)である。
【0082】
ここに開示される研磨組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、酸化剤の分解を防ぐ等の観点から、該研磨組成物の構成成分(典型的には、水系溶媒以外の成分)のうち一部の成分を含むA液と、残りの成分を含むB液とが混合されて被研磨物の研磨に用いられるように構成されていてもよい。
【0083】
≪用途≫
ここに開示される磁気ディスク基板用研磨組成物キットは、例えば、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有するディスク基板(Ni−P基板)の研磨に好ましく適用され得る。上記基材ディスクは、例えば、アルミニウム合金製、ガラス製、ガラス状カーボン製等であり得る。このような基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層以外の金属層または金属化合物層を備えたディスク基板であってもよい。ここに開示される磁気ディスク基板用研磨組成物キットは、アルミニウム合金製の基材ディスク上にニッケルリンめっき層を有するNi−P基板の一次研磨に特に好ましく適用され得る。
【0084】
また、ここに開示される磁気ディスク基板用研磨組成物キットは、Ni−P基板の一次研磨を複数の研磨液を用いて行う多液型一次研磨用の磁気ディスク基板用研磨組成物キットとして特に好適である。ここで一次研磨とは、最終製品の表面精度に仕上げるために行われる最終研磨(仕上げ研磨)より前に行われる、研磨効率(例えば研磨レート)を重視した研磨を指す。このような一次研磨と最終研磨とを含む研磨は、多段研磨(例えば2段研磨)と称されることがあり、該多段研磨では、一次研磨や最終研磨はそれぞれ一段の研磨に相当するものとして定義される。また、上記「一段」は、例えば同一の研磨定盤上で行われる研磨に対応する語として定義され得る。また、同一の研磨定盤上だけでなく同一の研磨パッドを用いる研磨に対応する語として定義されてもよい。さらに、この明細書において多液型研磨とは、組成(例えば砥粒の種類や含有量)の異なる複数の研磨液(研磨組成物であり得る。)を異なるタイミングで被研磨物に供給して行う研磨として定義される。したがって、多液型一次研磨とは、最終製品の表面精度に仕上げるために行う最終研磨工程の前に行われる研磨において、2種以上の研磨液を異なるタイミングで同一の研磨定盤に供給して行う研磨として理解される。
【0085】
Ni−P基板の多液型研磨(好適には多液型一次研磨)の典型例としては、一段2液型研磨や一段3液型研磨が挙げられる。上記一段2液型研磨(好適には2液型一次研磨)に適用される磁気ディスク基板用研磨組成物キットは、典型的には、ここに開示される第1研磨組成物と第2研磨組成物とを研磨組成物として備えるものであり得る。上記第1研磨組成物を含む研磨液と第2研磨組成物を含む研磨液は、上記2液型研磨の2液(すなわち2種の研磨液)に対応するものとして取り扱われ得る。一段3液型研磨(好適には3液型一次研磨)に適用される磁気ディスク基板用研磨組成物キットは、例えば、ここに開示される第1研磨組成物と第2研磨組成物に加えて、第1研磨組成物の供給前または第2研磨組成物の供給後に同一の研磨定盤に供給され得る第3研磨組成物を研磨組成物としてさらに備えるものであり得る。第3研磨組成物の組成等については当業者の技術常識に基づき、目的とする研磨効率と表面精度を実現するために適宜設計、使用すればよく、本発明を特徴付けるものではないので、ここでは特に説明しない。
【0086】
また、ここに開示される研磨組成物キットは、例えば、Schmitt Measurement System Inc.製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS−3000WRC」により測定される表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))が100Å〜300Å程度の磁気ディスク基板を研磨(典型的には一次研磨)して10Å以下の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))に調整する用途に好適である。かかる用途では、ここに開示される技術を適用することが特に有意義である。
【0087】
≪磁気ディスク基板の製造方法≫
次に、ここに開示される磁気ディスク基板の製造方法の好適な一態様について説明する。この製造方法は、少なくとも、第1研磨組成物を研磨定盤に供給して被研磨物を研磨する第1研磨工程と;第2研磨組成物を同一の研磨定盤に供給して被研磨物をさらに研磨する第2研磨工程と;を包含する。ここに開示される製造方法は、その他にも、第1研磨組成物を含む研磨液(第1研磨液)を用意すること、第2研磨組成物を含む研磨液(第2研磨液)を用意することを包含し得る。これらの研磨液は、典型的にはスラリー状の研磨液(研磨スラリーと称されることもある。)であり、例えば、研磨組成物に濃度調整(例えば希釈)やpH調整等の操作を加えて研磨液として調製され得る。あるいは、研磨組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。
【0088】
ここに開示される製造方法では、まず第1研磨組成物を研磨定盤に供給して被研磨物を研磨する(第1研磨工程)。この工程では、第1研磨組成物を、典型的には第1研磨組成物を含む第1研磨液の形態で研磨定盤に供給し、常法により研磨を行う。例えば、一般的な研磨装置に被研磨物をセットし、上記研磨定盤上かつ上記被研磨物の表面(被研磨面)に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、研磨定盤に取り付けられた研磨パッドを被研磨物の表面に押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。研磨装置は、従来公知の研磨装置や市販の研磨装置、それらを一部改変したものを適宜採用すればよい。研磨パッドについても従来公知のものを適宜採用すればよい。Ni−P基板の一次研磨用研磨パッドの好適例としては、発泡ポリウレタンパッドが挙げられる。第1研磨組成物の構成については上述のとおりであるので、ここでは説明は繰り返さない。
【0089】
次いで、第2研磨組成物を同一の研磨定盤に供給して被研磨物をさらに研磨する(第2研磨工程)。第2研磨組成物は、典型的には第2研磨組成物を含む第2研磨液の形態であり得る。第2研磨組成物の構成は上述のとおりであるので、ここでは説明は繰り返さない。研磨方法は、第1研磨工程と同様、常法により行えばよい。生産効率の観点からは、第1研磨工程と第2研磨工程とは連続して行うことが好ましい。また、第1研磨工程と第2研磨工程とは時間的に一部重複してもよい。あるいは、アルミナ砥粒(A1)の残留を抑制する観点からは、第1研磨工程が終了した後(第1研磨工程の後)、第2研磨工程を開始することが好ましい。また、ここに開示される技術では、第1研磨工程と第2研磨工程の間に、例えば砥粒を含有しない洗浄液を用いた洗浄工程が介在していてもよい。いずれの場合であっても、第1研磨組成物のアルミナ砥粒(A1)および砥粒(A2)と、第2研磨組成物の酸(B2)とは、少なくとも一時的に上記研磨定盤上において共存し得る。
【0090】
上述のような第1研磨工程と第2研磨工程を経て被研磨物の研磨は完了し得る。また、上記の研磨工程は、磁気ディスク基板(例えば、Ni−P基板)の製造プロセスの一部であり得る。例えば、ここに開示される製造方法は、被研磨物の一次研磨に好ましく使用され得る。したがって、この明細書によると、上記磁気ディスク基板用研磨組成物キットを用いた一次研磨工程を含む磁気ディスク基板の製造方法が提供される。この磁気ディスク基板製造方法は、上記一次研磨工程の後に最終研磨工程を含み得る。最終研磨工程は、従来と同様の方法を採用して実施すればよい。例えば、一次研磨用と比べて、より表面精度向上を重視した組成の研磨液を採用する、研磨液供給速度、定盤回転数、研磨荷重、研磨時間等の研磨条件の変更や、研磨パッド等の部材の変更等の手法を適宜採用して行えばよい。
【0091】
また、ここに開示される磁気ディスク基板の製造方法は、Ni−P基板の研磨を複数の研磨液を用いて行う多液型研磨用の磁気ディスク基板用研磨組成物キットを用いて好適に実施され得る。Ni−P基板の一次研磨を複数の研磨液を用いて行う多液型一次研磨用の磁気ディスク基板用研磨組成物キットを用いて特に好適に実施され得る。ここに開示される製造方法は、生産効率の観点から許容される範囲内で、目的とする最終製品の表面精度を実現するため、上記第1研磨工程、第2研磨工程の前後に、第1および第2研磨組成物とは異なる研磨組成物を同一の研磨定盤に供給して被研磨物を研磨する追加の研磨工程をさらに含んでもよい。
【0092】
ここに開示される磁気ディスク基板用研磨組成物キットまたは該キットを適用した研磨によると、ハイブリッドタイプの研磨組成物を用いる多液型研磨において、アルミナ砥粒による高い研磨効率を実現しつつ、アルミナ砥粒に起因する表面欠陥やアルミナ砥粒の残留を充分に抑制することができる。そのため、例えば、上記磁気ディスク基板用研磨組成物キットを適用したNi−P基板等の磁気ディスク基板の一次研磨によると、アルミナ砥粒に起因する欠陥やアルミナの残留等の発生を充分に抑制し、あるいは未然に防ぐことができる。その結果、一次研磨後の表面状態が改善され、最終研磨後においてより高品質な表面が実現され得る。
【0093】
次に、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をこれらの実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0094】
<例1>
[第1研磨液の調製]
αアルミナとフュームドアルミナとを質量比75:25で混合した平均二次粒子径約0.3μmのアルミナ砥粒(A1)と、砥粒(A2)としてのシリカ砥粒(平均一次粒子径35nm)とを約60:40の質量比で含み、アルミナ砥粒とシリカ砥粒との合計濃度が29.0g/Lであり、酸(B1)としての酒石酸および31質量%過酸化水素水をそれぞれ18g/Lおよび38g/Lの濃度で含む第1研磨液を調製した。
【0095】
[第2研磨液の調製]
砥粒(A3)としてのコロイダルシリカ砥粒(平均二次粒子径35nm)と、酸(B2)としての酒石酸と、31質量%過酸化水素水と、脱イオン水とを混合して、コロイダルシリカ砥粒の濃度が62.0g/Lであり、酒石酸の濃度が18g/Lであり、31質量%過酸化水素水の濃度が38g/Lである第2研磨液を調製した。
【0096】
[ディスクの研磨]
被研磨基板としては、表面に無電解ニッケルリンめっき層を備えたハードディスク用アルミニウム基板を使用した。上記被研磨基板(以下「Ni−P基板」ともいう。)の直径は3.5インチ(約95mm)、厚さは1.75mmであり、表面粗さRa(Schmitt Measurement System Inc.製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS−3000WRC」により測定したニッケルリンめっき層の算術平均粗さ)は130Åであった。この被研磨基板を研磨装置(スピードファム社製の両面研磨機、型式「DSM 9B−5P−IV」)にセットして、第1研磨液を研磨定盤に供給して研磨を行った(第1研磨工程)。研磨パッドとしては、FILWEL社製のポリウレタンパッド(商品名「CR200」)を用いた。第1研磨液の供給を停止して研磨(第1研磨工程)を終了した後、第2研磨液を同一の研磨定盤に供給して被研磨基板に対して研磨を行った(第2研磨工程)。第1研磨工程および第2研磨工程の研磨条件を以下に示す。
【0097】
(第1研磨工程の研磨条件)
研磨荷重:120g/cm
上定盤回転数:12rpm
下定盤回転数:32rpm
研磨液の供給レート:100mL/分
研磨量:各基板の両面の合計で約1.8μmの厚さ
(第2研磨工程の研磨条件)
研磨荷重:120g/cm
上定盤回転数:12rpm
下定盤回転数:32rpm
研磨液の供給レート:100mL/分
研磨量:各基板の両面の合計で約0.2μmの厚さ
【0098】
<例2>
第2研磨液の酸(B2)を酒石酸からクエン酸に変更した他は例1と同様にして例2に係る第2研磨液を調製した。この第2研磨液を用いた他は例1と同様にしてディスクの研磨を行った。
【0099】
[欠陥検査]
例1,2に係る研磨後のNi−P基板につき、洗浄を行った後、市販の2次研磨用コロイダルシリカスラリー(平均粒子径18nm、砥粒濃度6質量%、pH2.5のスラリーを使用)、および軟質ウレタンパッド(フジボウ社製「FK−1N」)を用いて研磨を行い、2次研磨による片面研磨量が0.1μm程度となる研磨加工を行った。同基板を洗浄後、欠陥検査装置であるKLA−Tencor社製OSA−6100を用い欠陥数について比較評価を行った。同評価を基板10面以上について行い、その平均値に基づき下記の基準で評価した。評価結果を表1に示す。
なお、同評価で検出される欠陥は、1次研磨で残留したアルミナ砥粒の残留物と、残留したアルミナ砥粒により発生した傷とを代用的に検出できると考えられる。
(評価)
○:1面当たりの平均欠陥数が10,000個未満(アルミナ起因の残留物、欠陥が少ない。)
×:1面当たりの平均欠陥数が10,000個以上(アルミナ起因の残留物、欠陥が多い。)
【0100】
【表1】
【0101】
表1に示されるように、第1研磨液(第1研磨組成物)の酸(B1)および第2研磨液(第2研磨組成物)の酸(B2)として酒石酸を用いた例1では、第2研磨液の酸としてクエン酸を用いた例2と比べてアルミナ砥粒の残留物や欠陥が少なかった。研磨レート等の観点から実用的とされていたクエン酸が、アルミナ砥粒の残留という点において、ハイブリッドタイプの第1研磨組成物を用いる多液型研磨の第2研磨組成物の酸としては酒石酸に劣ることが示された。また、特に表記しないが、例1に係る研磨は、Ni−P基板の一次研磨として良好な研磨レート、表面粗度、安定性を実現するものであった。
【0102】
上記の結果から、第2研磨組成物に含まれる酸の種類によって砥粒間の静電引力が変化し、これがアルミナ砥粒の残留物や欠陥の違いをもたらしたと考えられた。そこで、検証実験として、酒石酸またはクエン酸をpH調整剤として用いて各砥粒についてのゼータ電位の測定を下記の方法で行った。
【0103】
<ゼータ電位測定>
例1に係る第1研磨液で用いたアルミナ砥粒(A1)について、酒石酸をpH調整剤として用いてpH2〜7を含む範囲におけるゼータ(ζ)電位を測定した。測定は、イオン交換水(脱イオン水)中に300ppmの濃度となるようにアルミナ砥粒を分散させた分散液について、日本ルフト社製のゼータ電位測定装置(商品名「DT−1200」)を用いて行った。アルミナ砥粒をシリカ砥粒(砥粒(A2))に変更した他は上記と同様にしてpH2〜7を含む範囲におけるζ電位の測定を行った。また、pH調整剤をクエン酸に変更した他は上記と同様にしてアルミナ砥粒とシリカ砥粒のそれぞれについてゼータ電位を測定した。さらに、pH調整剤をマレイン酸、トルエンスルホン酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、シュウ酸に変更した他は上記と同様にしてアルミナ砥粒とシリカ砥粒のそれぞれについてゼータ電位を測定した。各酸をpH調整剤として用いた場合のアルミナ砥粒とシリカ砥粒のゼータ電位の変化を図1〜8にそれぞれ示す。図中、ζ電位の単位はmVである。
【0104】
図1,2に示されるように、酒石酸は、該酸をpH調整剤として用いて行うゼータ電位測定において、アルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)の電位がpH2〜4(具体的にはpH2〜5)の範囲にて逆の電荷を示すことを満たす酸であった。一方、クエン酸は上記の特性を満たすものではなかった。この結果から、特性:酸(B2)をpH調整剤として用いて行うゼータ電位測定において、アルミナ砥粒(A1)と砥粒(A2)の電位がpH2〜4の範囲にて逆の電荷を示すこと;を満たす酸(B2)は、第2研磨組成物の酸として選択して用いられることで、より高品質な表面の実現に寄与したと考えられる。したがって、図3〜8に示すように、上記特性を満たすマレイン酸、トルエンスルホン酸、グリコール酸、マロン酸およびリンゴ酸は、酒石酸と同様に、第2研磨組成物の酸として選択して用いられることで、より高品質な表面を実現し得ることが期待される。一方、上記特性を満たさないシュウ酸は、クエン酸と同様に、上記高品質な表面を実現できないと考えられる。
【0105】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。ここに開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれ得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8