特許第6186124号(P6186124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186124
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】搬送アーム、搬送装置および搬送方法
(51)【国際特許分類】
   B65G 49/07 20060101AFI20170814BHJP
   H01L 21/677 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   B65G49/07 G
   H01L21/68 B
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-273989(P2012-273989)
(22)【出願日】2012年12月14日
(65)【公開番号】特開2014-118250(P2014-118250A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】稲尾 吉浩
(72)【発明者】
【氏名】小針 倫
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰彦
【審査官】 福島 和幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−023174(JP,A)
【文献】 特開2011−187566(JP,A)
【文献】 実開平01−132365(JP,U)
【文献】 特開2011−253918(JP,A)
【文献】 特開平06−345262(JP,A)
【文献】 特開2006−024683(JP,A)
【文献】 特開2000−243814(JP,A)
【文献】 特開2001−284436(JP,A)
【文献】 特開2008−21824(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/005027(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 49/07
H01L 21/67−21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持して搬送する搬送アームであって、
上記基板を真空吸着して保持する保持部を備え、
上記保持部は、排気口と、当該排気口を囲むようにして形成された吸着部材とを有し、
上記吸着部材は、スクィーズパッキンであり、
上記スクィーズパッキンは、少なくともその表面がフッ素樹脂で形成されているOリングであり、耐熱温度が300℃以上であり、硬度が80以下であり、粘着力が10N以下であり、摩擦係数が0.01〜1.0であり、
上記保持部の吸着力は、排気装置による吸引開始から6秒以内に80kPa以上となるように設定されていることを特徴とする搬送アーム。
【請求項2】
上記保持部を少なくとも三つ備えていることを特徴とする請求項1に記載の搬送アーム。
【請求項3】
上記吸着部材は、搬送アーム本体にその一部が埋め込まれた状態で設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の搬送アーム。
【請求項4】
上記保持部を三つ備え、これら三つの保持部は、当該三つの保持部を通る円の中心に対して互いに隣接する二つの保持部がなす角度が互いに異なるように、搬送アーム上に配置されていることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の搬送アーム。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の搬送アームと、当該搬送アームを駆動する駆動部とを備えることを特徴とする搬送装置。
【請求項6】
請求項1から4の何れか一項に記載の搬送アームを用いて基板を保持し、搬送する搬送工程を備えることを特徴とする搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を保持して搬送する搬送アーム、搬送装置および搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板を保持して搬送する搬送アームとして、例えば、特許文献1には、アーム本体における基板が支持される側に、保持した基板との接触を避けるための凹部が設けられた搬送アームが記載されている。具体的には、特許文献1に記載の搬送アームのアーム本体は、その先端部に、基板の中央部分を真空吸着して保持する吸着部を備えている。また、特許文献2には、ハンド本体の下面側に形成された吸着孔によって基板を吸着保持する搬送機構が記載されている。さらに、特許文献3には、少なくとも三本の保持部が平行に配置され、各保持部に少なくとも二つの吸着部が長手方向に沿って位置調整可能に設けられた基板搬送装置が記載されている。そして、通常、搬送アームにおける吸着部は、アルミニウム、ステンレス、セラミックス等の剛性を有する材質、或いは、ゴム等の材質で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−324169号公報(2007年12月13日公開)
【特許文献2】特開2005−123642号公報(2005年5月12日公開)
【特許文献2】特開2002−299416号公報(2002年10月11日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の搬送アームは、保持した基板との接触を避けるための凹部が設けられているものの、具体的には、例えば基板検査装置に搬送される常温の基板を保持することを想定した構成となっている。つまり、特許文献1に記載の搬送アームにおける吸着部は、常温で反りが小さい基板を保持することを想定した構成となっている。また、特許文献2に記載の搬送機構や特許文献3に記載の基板搬送装置においても、常温の基板を保持して搬送することを想定した構成となっている。それゆえ、特許文献1〜3に記載の搬送アーム等においては、例えば熱処理後の基板、即ち、加熱された状態の基板を保持して搬送することは想定されておらず、従って、加熱された状態でかつ反りを有する基板を保持して搬送することや、保持した当該基板を搬送アーム等から安定して(搬送アーム等に付着することなく)脱離することに関しては、技術的な考慮が全くなされていない。また、通常、搬送アームにおける吸着部にゴム(パット)が用いられている場合には、粘着力や摩擦係数が大きいので脱離性が不良であり、加熱された状態の基板を吸着すると付着してしまう。
【0005】
ところが、例えば、研削するウエハにサポートプレートを貼り合わせることによって当該ウエハの強度を保持し、クラックの発生およびウエハの反りを防止するウエハハンドリングシステムにおいては、ウエハとサポートプレートとを貼り合わせてなる積層体を高温(100℃〜300℃)で加熱処理する熱処理工程が存在する。このため、熱処理後の基板、即ち、加熱された状態の基板を保持して搬送する搬送アーム、特に、加熱された状態でかつ加熱による反りを有する基板を保持して搬送する搬送アームが求められている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、反りを有する基板や加熱された状態の基板、特に、加熱された状態でかつ反りを有する基板を保持して、或る工程から次の工程に安定して搬送すると共に、保持した当該基板を安定して脱離することが可能な搬送アーム、搬送装置および搬送方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係る搬送アームは、基板を保持して搬送する搬送アームであって、上記基板を真空吸着して保持する保持部を備え、上記保持部は、排気口と、当該排気口を囲むようにして形成された吸着部材とを有し、上記吸着部材は、スクィーズパッキン(squeeze packing)であることを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る搬送装置は、上記搬送アームと、当該搬送アームを駆動する駆動部とを備えることを特徴としている。さらに、本発明に係る搬送方法は、上記搬送アームを用いて基板を保持し、搬送する搬送工程を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る搬送アームによれば、吸着部材がスクィーズパッキンであるので、基板を真空吸着したときに当該基板とスクィーズパッキンとが密着する一方、真空吸着を解除したときにスクィーズパッキンから基板が脱離し易くなる。それゆえ、本発明に係る搬送アーム、搬送装置および搬送方法によれば、反りを有する基板や加熱された状態の基板、特に、加熱された状態でかつ反りを有する基板であっても、或る工程から次の工程に安定して保持して搬送することができると共に、保持した当該基板を安定して脱離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る搬送アームの概略の構成を示す平面図である。
図2】上記搬送アームにおけるスクィーズパッキンの配置の一例を示す平面図である。
図3】スクィーズパッキンがOリングである場合の基板の真空吸着を説明する側面図である。
図4】スクィーズパッキンが角リングである場合の基板の真空吸着を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る搬送アームは、基板を保持して搬送する搬送アームであって、上記基板を真空吸着して保持する保持部を備え、上記保持部は、排気口と、当該排気口を囲むようにして形成された吸着部材とを有し、上記吸着部材は、スクィーズパッキンである構成である。
【0012】
また、本発明に係る搬送装置は、上記搬送アームと、当該搬送アームを駆動する駆動部とを備える構成である。さらに、本発明に係る搬送方法は、上記搬送アームを用いて基板を保持し、搬送する搬送工程を備える構成である。
【0013】
〔基板〕
先ず、本発明に係る搬送アームによって保持されて搬送される基板について、以下に説明する。
【0014】
本発明において保持されて搬送される対象となる基板は、特に限定されるものではないが、ウエハハンドリングシステムにおいて取り扱われる基板が好適である。即ち、サポートプレートに支持された(貼り付けられた)状態で、薄化、搬送、実装等のプロセスに供される基板が好適である。当該基板は、ウエハ基板(シリコンウエハ)に限定されず、例えば、サポートプレートによる支持が必要なセラミックス基板、薄いフィルム基板、フレキシブル基板等の任意の基板であってもよい。
【0015】
上記基板は、ウエハハンドリングシステムにおいては、基板と、例えば熱可塑性樹脂を含む接着層と、上記基板を支持するサポートプレート(支持体)とがこの順に積層されて形成された積層体として取り扱われる。当該積層体は、基板およびサポートプレートの何れか一方に接着剤が塗布されることによって、基板と、接着層と、サポートプレートとがこの順に積層されることによって形成されている。
【0016】
上記サポートプレートは、基板を支持する支持体であり、接着層を介して基板に貼り付けられる。そのため、サポートプレートは、基板の薄化、搬送、実装等のプロセス時に、基板の破損または変形を防ぐために必要な強度を有していればよく、より軽量であることが望ましい。以上の観点から、サポートプレートは、ガラス、シリコン、アクリル系樹脂、ポリイミド等で構成されていることがより好ましい。
【0017】
上記接着層を構成する接着剤は、例えば、加熱することによって熱流動性が向上する熱可塑性樹脂を接着材料として含んでいればよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、マレイミド系樹脂、炭化水素系樹脂、エラストマー等が挙げられる。接着層の形成方法、即ち、基板またはサポートプレートに接着剤を塗布する塗布方法、或いは、基材に接着剤を塗布して接着テープを形成する形成方法は、特に限定されるものではない。また、接着層の厚さは、貼り付けの対象となる基板およびサポートプレートの種類、基板表面の段差、貼り付け後の基板に施される処理等に応じて適宜設定すればよい。
【0018】
また、基板とサポートプレートとの間には、貼り付けを妨げない限り、接着層以外の他の層がさらに形成されていてもよい。例えば、サポートプレートと接着層との間に、光を照射することによって変質する分離層が形成されていてもよい。分離層が形成されていることにより、基板の薄化、搬送、実装等のプロセス後に光を照射することで、基板とサポートプレートとを容易に分離することができる。
【0019】
尚、積層体を形成する形成方法および形成装置、つまり、接着層の形成方法や接着層形成装置、並びに、基板およびサポートプレートの重ね合わせ方法や重ね合わせ装置は、特に限定されるものではなく、種々の方法や装置を採用することができる。例えば、接着層の形成方法として、接着剤が塗布されてなる接着テープを基板およびサポートプレートの何れか一方に貼着することにより、接着層を形成することもできる。本発明においては、基板は、搬送アームによって保持されて搬送される時点で、積層体となっていればよい。
【0020】
通常、基板は、サポートプレートに貼り付けられる前に、或る程度、既に反っており(厳密に平板ではない)、サポートプレートに貼り付けられた状態で熱処理工程に供されると、サポートプレートとの熱膨張係数の違いにより、さらに大きく反る(例えば、直径300mmの基板で最大1000μm程度、直径200mmの基板で最大700μm程度)。つまり、基板を含む積層体は、熱処理後においては、加熱された状態でかつ反りを有することになる。従って、本発明に係る搬送アームによって保持されて搬送される基板は、反りを有する基板や加熱された状態の基板、特に、加熱された状態でかつ反りを有する基板である。尚、本発明に係る搬送アームによって保持されて搬送される「基板」には、上述した「積層体」も包含される。
【0021】
〔搬送アーム〕
次に、本発明に係る搬送アームについて、図1〜4を参照しながら以下に説明する。
【0022】
本発明に係る搬送アームは、基板の裏面(デバイスが形成されない面、積層体である場合はサポートプレート側の面)を保持するようになっている。搬送アームは、基板を上側から保持してもよく、下側から保持してもよいが、下側から保持するほうが望ましい。
【0023】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る搬送アーム1は、基板(図示しない)を真空吸着して保持する保持部2を備えている。上記保持部2は、排気口3と、当該排気口3を囲むようにして形成された吸着部材4とを有している。上記吸着部材4は、スクィーズパッキンである。
【0024】
搬送アーム1は、基板を保持するために必要な強度を有していればよく、より軽量であることが望ましい。以上の観点から、搬送アーム1は、剛性を有するアルミニウム、ステンレス、セラミックス等で形成されていることが好ましく、セラミックスで形成されていることがより好ましい。搬送アーム1は、概略の外観が厚さの薄い矩形の板状に形成されており、基板を保持する先端側、即ち、保持部2を備えている側が、例えば二股に形成されている。これにより、搬送アーム1は、基板を保持して搬送し易くなっており、かつ軽量化が図られている。搬送アーム1の末端側、即ち、保持部2を備えていない側は、当該搬送アーム1を駆動する駆動部(図示しない)に連結されるようになっている。尚、搬送アーム1の外観の形状は、基板を保持して搬送することに支障の無い形状であればよい。
【0025】
搬送アーム1が備える保持部2の個数は、少なくとも一つあればよいが、基板を安定して保持することができるように、少なくとも三つあることがより好ましい。つまり、搬送アーム1は、図1に示すように、保持部2を少なくとも三つ備えていることがより好ましい。
【0026】
そして、搬送アーム1が保持部2を三つ備えている場合において、これら三つの保持部2は、当該三つの保持部2を通る円の中心に対して互いに隣接する二つの保持部2がなす角度が等角度(120°)になるように搬送アーム1上に配置されていてもよく、或いは、図1に示すように、当該三つの保持部2を通る円(図1中、一点鎖線で示す円)の中心Oに対して互いに隣接する二つの保持部2がなす角度が互いに異なるように(全て等角度にならないように)、搬送アーム1上に配置されていてもよい。具体的には、例えば、図1においては、二股に形成された搬送アーム1の先端部に位置する二つの保持部2がなす角度は、二股の根元に形成された三つ目の保持部2と先端部に位置する保持部2とがなす角度よりも広くなっている。これにより、搬送アーム1は、他の装置の動作に影響を与えることなく、基板を保持し易くなっている。尚、搬送アーム1におけるこれら三つの保持部2の好適な配置については後述する。
【0027】
保持部2は、基板を真空吸着するために当該基板と搬送アーム1との間の気体(空気)を吸引する排気口3と、当該排気口3を囲むようにして形成された吸着部材4とを有している。上記排気口3は、搬送アーム1の内部に末端側に向かって形成された排気管5を通じて排気装置(図示しない)に接続されており、排気口3から吸引された気体は、排気装置を介して外部に排気される。従って、保持部2は、基板を保持するときには排気口3から気体を排気して基板を真空吸着し、基板の保持を解除するときには排気口3からの気体の排気を停止するようになっている。尚、排気口3の開口の形状は、円形であることが好ましいものの、特に限定されない。
【0028】
本発明における「吸着」とは、基板を安定して保持して搬送することができる程度の強さで当該基板を吸着している状態を指す。従って、本発明における「吸着」で必要とされる吸着力は、基板が損傷しない程度の力であり、80kPa以上が好適であり、95kPa程度が最適である。また、上記吸着力に達するまでの時間は、搬送の効率性を考慮して、排気装置による吸引開始から6秒以内が好ましく、2秒以内がより好ましく、1秒以内が特に好ましい。従って、排気口3の開口の面積(排気口3を複数備える場合は合計の面積)や排気装置の能力は、基板に加わる吸着力や搬送の効率性等を考慮して、適宜設定すればよい。
【0029】
上記吸着部材4は、スクィーズパッキンであり、より好ましくは、Oリングまたは多孔質のフッ素樹脂からなる角リングである。上記Oリングは、さらに好ましくは、少なくともその表面がフッ素樹脂で形成(或いはコーティング)されているOリングであり、さらに好ましくは、全体がフッ素樹脂(例えば、パーフロロエラストマー)で形成されているOリングである。吸着部材4であるスクィーズパッキンは、搬送アーム1本体に形成された溝にその一部が埋め込まれた(嵌め込まれた)状態で設けられており、排気口3から気体が排気されることにより、基板表面に密着するようになっている。
【0030】
本発明において「スクィーズパッキン」とは、環状のパッキンであって、つぶししろを与えて使用する成形パッキンを指す。また、本発明において「Oリング」とは、断面が円形のリング状のスクィーズパッキンを指す。本発明において「角リング」とは、断面が角形のリング状のスクィーズパッキンを指す。
【0031】
スクィーズパッキンの耐熱温度は、200℃以上であることがより好ましく、220℃以上であることがさらに好ましく、300℃以上であることが特に好ましい。また、スクィーズパッキンは、変形するように、硬度が80以下であることがより好ましい。さらに、スクィーズパッキンは、基板を搬送アーム1からより安定して(搬送アーム1に付着することなく)脱離することができるように、粘着力が40N以下であることがより好ましく、10N以下であることがさらに好ましい。硬度および粘着力が上記値であれば、吸着性を維持しつつ、脱離性が良好なスクィーズパッキンとすることができるので、より好適である。即ち、基板を真空吸着したときにスクィーズパッキンがつぶれて当該基板とスクィーズパッキンとが密着する一方、真空吸着を解除したときにスクィーズパッキンから基板が脱離し易くなる。また、スクィーズパッキンは、摩擦係数が低い材質(例えば、摩擦係数が0.01〜1.0、より好ましくは0.1〜0.5)であることがより好ましい。
【0032】
具体的には、図3に示すように、吸着部材4であるスクィーズパッキンがOリングである場合には、比較的反りが小さい基板7を保持することができる(図3(a))だけでなく、比較的反りが大きい基板7であっても(図3(b))、当該基板7を真空吸着したときにOリングがつぶれることにより、基板7とOリングとが密着し、比較的反りが大きい基板7を保持することができる(図3(c))。同様に、図4に示すように、吸着部材4であるスクィーズパッキンが角リングである場合にも、比較的反りが小さい基板7を保持することができるだけでなく、比較的反りが大きい基板7であっても(図4(a))、当該基板7を真空吸着したときに角リングがつぶれることにより、基板7と角リングとが密着し、比較的反りが大きい基板7を保持することができる(図4(b))。
【0033】
本発明における「硬度」は、JIS K 6253に準拠したタイプAのデュロメータ(一般ゴム用)を用いて測定される値を指す。また、本発明における「粘着力」は、一対のアルミニウム板の間に吸着部材を25%圧縮した状態で挟み込み、200℃で22時間加熱した後、引張り速度100mm/分で引っ張る試験方法によって測定される剥離強度(N)を指す。
【0034】
スクィーズパッキンがOリングである場合には、当該Oリングとして、例えば、カルレッツ(商品名)シリーズ(デュポン社製)のようなフッ素ゴムや、市販のゴムOリングにフッ素樹脂コーティングを施したものを使用することができる。また、スクィーズパッキンが角リングである場合には、当該角リングとして、少なくともその表面が多孔質の材料、より好ましくは多孔質のフッ素樹脂で形成されている角リングが好適であり、具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレンを延伸加工してなる多孔質のフィルム、或いは、ポリウレタンポリマーを当該フィルムで被覆してなる複合材料を使用することができ、例えば、ゴアテックス(商品名;WLゴア&アソシエイツ株式会社製)等を挙げることができる。尚、角リングにおける上記多孔質の度合いは、基板を安定して保持して搬送することができればよく、特に規定されるものではないが、所定の硬度を得ることができる多孔質の度合いであることが好ましい。
【0035】
吸着部材4であるスクィーズパッキンの直径は、基板を安定して保持して搬送することができる範囲において適宜設定すればよいが、内径2mm〜15mm程度が好ましく、内径7mm〜14mm程度がより好ましい。また、基板の反り量が比較的多い場合には、スクィーズパッキンの直径は、より小さい方が好ましい。スクィーズパッキンの搬送アーム1本体からの高さは、基板が搬送アーム1に接触しない高さであればよい。
【0036】
次に、搬送アーム1が保持部2を三つ備えている場合において、搬送アーム1におけるこれら三つの保持部2の、配置の一例を図2に示す。これら三つの保持部2は、基板の反り量等に応じた適切な配置とすればよいが、図2に示すように、例えば直径200mmの基板(図2中、内側の円)に対しては、ピッチ円直径(P.C.D.:Pitch Circle Diameter)が例えば92mm、127mm(図示しない)または144mmとなるように配置することが好適であり、例えば直径300mmの基板(図2中、外側の円)に対しては、ピッチ円直径が上記直径に加えて例えば200mmまたは230mmとなるように配置することが好適である。また、上記各配置においては、二股に形成された搬送アームの先端部に位置する二つの保持部2aがなす角度が、二股の根元に形成された三つ目の保持部2bと上記保持部2aとがなす角度よりも広くなっていてもよく、或いは、これら三つの保持部2a・2a・2bがなす角度が、互いに等角度(120°)になっていてもよい。そして、基板の反り量が比較的多い場合には、ピッチ円直径は、より小さい方が好ましい。尚、搬送アーム1が保持部2を三つ備えている場合におけるこれら三つの保持部2の配置は、図2に示す一例に限定されるものではなく、搬送アーム1の構成上や使用上、支障の無い範囲において、適宜設定することが可能である。
【0037】
〔搬送装置、搬送方法〕
本発明に係る搬送装置は、本発明に係る搬送アームと、当該搬送アームを駆動する駆動部とを備えている。具体的には、搬送装置においては、上記搬送アームの末端側、即ち、保持部を備えていない側が上記駆動部に連結されており、当該駆動部による駆動によって、搬送アームが、保持した基板を或る工程から次の工程に搬送するようになっている。駆動部の具体的な構成は、特に限定されるものではなく、基板の搬送に用いられている公知の駆動装置を適宜採用することができる。搬送装置は、ウエハハンドリングシステムにおける各工程間での基板を搬送するために用いられ、特に、熱処理工程後の基板を搬送するために好適に用いられる。従って、搬送装置の動作、即ち、駆動部の駆動による搬送アームの保持動作や搬送動作は、ウエハハンドリングシステム全体を制御する制御部によって制御されている。
【0038】
また、本発明に係る搬送方法は、本発明に係る搬送アームを用いて基板を保持し、搬送する搬送工程を備えている。具体的には、搬送方法は、基板に対する搬送アームの位置合わせを行う位置決め工程、基板を真空吸着する吸着工程、基板を保持して搬送する搬送工程、搬送後の所定の位置で基板の脱離を行う脱離工程等を備えている。従って、上記搬送方法は、ウエハハンドリングシステムにおける各工程間での基板の搬送に採用され、特に、熱処理工程後の基板の搬送に好適に採用される。
【0039】
以上のように、本発明に係る搬送アームによれば、吸着部材がスクィーズパッキンであるので、基板を真空吸着したときにスクィーズパッキンがつぶれて当該基板とスクィーズパッキンとが密着する一方、真空吸着を解除したときにスクィーズパッキンから基板が脱離し易くなる。それゆえ、本発明に係る搬送アーム、搬送装置および搬送方法によれば、反りを有する基板や加熱された状態の基板、特に、加熱された状態でかつ反りを有する基板であっても、或る工程から次の工程に安定して保持して搬送することができると共に、保持した当該基板を安定して脱離することができる。
【0040】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0041】
本実施例においては、搬送アームが基板を下側から保持する構成とした。
【0042】
〔基板〕
搬送アームの保持動作を評価するための基板として、下記基板を用意した。
・反り量が29μmである直径300mmのSi基板(シリコンウエハ;以下、「基板a」と記す)
・中心部が盛り上がるように反った、反り量が511μmである直径300mmのSi−PI基板(ポリイミドに支持されたシリコンウエハ;以下、「基板b」と記す)
・全体がカールするように反った、反り量が1276μmである直径300mmのMT基板(Si基板に接着層を介してサポートプレートが貼り合わされた接合体(積層体);以下、「基板c」と記す)
そして、上記基板cについては、その中心部が搬送アーム側に位置するように(「∪」形状になるように)配置した状態(以下、「正置」と記す)と、その反った周辺部が搬送アーム側に位置するように(「∩」形状になるように)配置した状態(以下、「逆置」と記す)との二つの状態、および、その反った周辺部が搬送アームの中心軸(先端側と末端側とを結ぶ軸)上に位置するように配置した状態(以下、「0°」と記す)と、その反った周辺部が搬送アームの中心軸と直交する位置に配置した状態(以下、「90°」と記す)と、両配置の中間の位置であり、その反った周辺部が搬送アームの中心軸と45°で交わる位置に配置した状態(以下、「45°」と記す)との三つの状態の組み合わせ(計、六つの状態)について、搬送アームの保持動作を評価した。また、上記基板bについては、その中心部が搬送アーム側に位置するように(「∪」形状になるように)配置した状態について、搬送アームの保持動作を評価した。
【0043】
〔評価結果〕
搬送アームの保持動作の評価は、下記基準に基づいて行った。
・「A」…吸着力が90kPa以上
・「B」…吸着力が80kPa以上、90kPa未満
・「C」…吸着できない、或いは、吸着力が80kPa未満
本発明における搬送アームは、「B」以上の評価であれば、実使用に好適である。
【0044】
〔実施例1〕
ピッチ円直径が92mmとなるように三つの保持部が等間隔(120°間隔)に配置された搬送アームを作成して、その保持動作を評価した。搬送アーム本体の材質はアルミニウムとした。排気口の開口は直径5mmとし、吸着部材(スクィーズパッキン)としてフッ素樹脂でコーティングされた直径10mmのOリングを用いた。基板の温度は23℃とした。評価に用いた基板、およびその評価結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
〔比較例1〕
吸着部材を有していない以外は、実施例1と同様にして搬送アームを作成して、その保持動作を評価した。評価に用いた基板、およびその評価結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
上記表1,2の結果から明らかなように、本発明に係る搬送アームによれば、大きい反りを有する基板(基板c)であっても、安定して保持することができることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る搬送アーム、搬送装置および搬送方法は、例えば、微細化された半導体装置の製造工程において広範に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 搬送アーム
2 保持部
3 排気口
4 吸着部材(スクィーズパッキン、Oリング、角リング)
5 排気管
図1
図2
図3
図4