特許第6186210号(P6186210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ハイテクノロジーズの特許一覧

特許6186210ステージ装置およびそれを用いた荷電粒子線装置
<>
  • 特許6186210-ステージ装置およびそれを用いた荷電粒子線装置 図000002
  • 特許6186210-ステージ装置およびそれを用いた荷電粒子線装置 図000003
  • 特許6186210-ステージ装置およびそれを用いた荷電粒子線装置 図000004
  • 特許6186210-ステージ装置およびそれを用いた荷電粒子線装置 図000005
  • 特許6186210-ステージ装置およびそれを用いた荷電粒子線装置 図000006
  • 特許6186210-ステージ装置およびそれを用いた荷電粒子線装置 図000007
  • 特許6186210-ステージ装置およびそれを用いた荷電粒子線装置 図000008
  • 特許6186210-ステージ装置およびそれを用いた荷電粒子線装置 図000009
  • 特許6186210-ステージ装置およびそれを用いた荷電粒子線装置 図000010
  • 特許6186210-ステージ装置およびそれを用いた荷電粒子線装置 図000011
  • 特許6186210-ステージ装置およびそれを用いた荷電粒子線装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186210
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】ステージ装置およびそれを用いた荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20170814BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20170814BHJP
   H02K 41/02 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   H01J37/20 D
   H01J37/28 B
   H02K41/02 C
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-174073(P2013-174073)
(22)【出願日】2013年8月26日
(65)【公開番号】特開2015-43260(P2015-43260A)
(43)【公開日】2015年3月5日
【審査請求日】2016年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】西岡 明
(72)【発明者】
【氏名】水落 真樹
(72)【発明者】
【氏名】中川 周一
(72)【発明者】
【氏名】辻 浩志
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−190431(JP,A)
【文献】 特開2010−041888(JP,A)
【文献】 特開2004−088981(JP,A)
【文献】 特開2004−064916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 15/00−15/08、
G01N 23/00−23/227、
H01J 37/00−37/295、
H01L 21/66、
H02K 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が載置されるテーブルと、当該テーブルを所定の方向に駆動する駆動源を備えたステージ装置において、
前記テーブルと前記駆動源との間に設けられる第1の接続部材と、前記テーブルと前記駆動源との間であって、前記第1の接続部材より前記駆動源側に設けられる第2の接続部材と、当該第2の接続部材或いは当該第2の接続部材に支持される被支持部材に支持されるスライドユニットと、当該スライドユニットを前記所定の方向に案内するレールを備え、前記第1の接続部材は前記第2の接続部材に対して相対的に熱伝導率が低い部材が用いられることを特徴とするステージ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記駆動源は、コイルと永久磁石を有するリニアモータであって、前記コイルは、前記テーブルに伴って移動することを特徴とするステージ装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記ステージ装置は、上下2段の2軸方向に移動できるステージからなり、下段側のステージは、ステージのベースに固定したレール上を移動し、上段側のステージは、下段側ステージのテーブルに固定した レール上を移動することを特徴とするステージ装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記下段側のステージは、テーブルに接続されるスライドユニットに接する2本のレールと、その2本のレールの間に配置するリニアモータと、前記2本のレールとは別にベースに固定したレールとを設け、その3本目のレールに前記下段側のステージに接触しないスライドユニットを接触させることを特徴とするステージ装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記上段側のステージは、2本のレールを備え、その2本のレールの外側にリニアモータを配置することを特徴とするステージ装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記第1の接続部材が、樹脂材料であることを特徴とするステージ装置。
【請求項7】
荷電粒子源と、当該荷電粒子源から放出されるビームが照射される試料を移動する試料ステージと、当該試料ステージが設置される真空チャンバを備えた荷電粒子線装置において、
前記試料ステージは、前記試料が載置されるテーブルと、当該テーブルを所定の方向に駆動する駆動源と、前記テーブルと前記駆動源との間に設けられる第1の接続部材と、前記テーブルと前記駆動源との間であって、前記第1の接続部材より前記駆動源側に設けられる第2の接続部材と、当該第2の接続部材或いは当該第2の接続部材に支持される被支持部材に支持されるスライドユニットと、当該スライドユニットを前記所定の方向に案内するレールを備え、前記第1の接続部材は前記第2の接続部材に対して相対的に熱伝導率が低い部材が用いられることを特徴とする荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージ装置及びそれを用いた荷電粒子線装置に係り、特にステージを駆動することによって生ずる発熱の影響を抑制するのに好適なステージ装置及び荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体素子の微細化に伴い、製造装置のみならず、検査や評価装置にもそれに対応した高精度化が要求されている。通常、半導体ウェハ上に形成したパターンの形状寸法が正しいか否かを評価するために、測長機能を備えた走査型電子顕微鏡(以下、測長SEMと称す)が用いられている。測長SEMでは、ウェハ上に電子線を照射し、得られた二次電子信号を画像処理し、その明暗の変化からパターンのエッジを判別して寸法を導き出している。
【0003】
一方で、特許文献1にはリニアモータを用いた移動装置が開示されている。特許文献1では、リニアモータのコイルが発した熱が作業用保持部材に伝わるのを低減するため、作業用保持部材に連結する部品の取付箇所に、ボルトを通す円筒状のスペーサを設け、作業用保持部材と連結部品の間に空間を設けたり、作業用保持部材に連結する部品に凸凹形状の突起を設け、接触面積を減らしたり、作業用保持部材に接する箇所に熱伝導率の小さい断熱シートを介在させる手法などが述べられている。
【0004】
更に、特許文献2には、荷電粒子描画装置における熱対策として、相対的に移動するステージどうしの間に、銅テープやグラファイトシートなどを利用した伝熱促進部材を接続させることで、冷却の促進を図る手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−169529号公報
【特許文献2】特開2002−353116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
測長SEMのような高倍率観察が可能な荷電粒子線装置には、高精度な位置決めが可能なステージ装置を搭載する必要がある。特に半導体素子の微細化に対応するための位置決め精度が求められる。このような高精度位置決めを実現するための1つの手段としてリニアモータをステージ装置の駆動機構に用いることが考えられる。リニアモータは、回転式のモータとボールネジを用いる直動機構に比べ、介在する部品が少ないことで、高速で高精度な位置決めを可能とする機構である。一方で、リニアモータの基本要素である、コイルと磁石は、熱を発生する。より具体的には、コイルに電流を流すことで、コイルの電気抵抗によるジュール発熱が生じる。
【0007】
この発熱によって、ウェハ全体の温度が上昇すると、ウェハが熱膨張する可能性がある。熱膨張によって、ウェハ全体が伸びていき、測長SEM等による測定の際に、測定対象パターンがSEMの視野(Field Of View:FOV)から外れてしまう可能性がある。このため、測長SEM等の荷電粒子線装置に搭載されるステージ装置には、試料への熱伝達の抑制効果が求められる。収束イオンビームを用いた加工および観察装置や、電子線描画装置の他の荷電粒子線装置でも、同様に試料への熱伝達を抑制する試料ステージを適用することが望ましい。
【0008】
一方、特許文献1に示されているような、熱を伝えたくない対象に対し、熱抵抗が増す構成を介入させることで伝わる熱量を低減する手法は、大気中のように、発生した熱が周囲の空気に逃げることが出来るような系においては有効であるが、荷電粒子線装置のように、ステージ装置そのものが、高真空雰囲気中に置かれ、空気への伝熱による放熱が期待できない装置では有効ではない。すなわち、真空中では、たとえ熱抵抗を増やしても、そのことで発生した熱が他に逃げてくれることはなく、熱抵抗が増すと、その分、熱源側の温度が上昇し、エネルギーの保存則に従って、発生した熱は結局、接触している部品に伝わることになる。そのため、荷電粒子線を用いる装置では、真空中という状況での熱対策が求められる。
【0009】
更に、特許文献2に開示されているようなシート状の部材で移動するステージどうしを接続することで、伝熱促進を図る場合、シート状の部材は、ステージが相対的に移動するストローク以上の長さが必要となる。
【0010】
シート状の部材の熱伝導によって熱を伝える場合、シート状部材の長さに比例して熱抵抗が発生し、かつ、シート状部材の断面積に反比例して熱抵抗が発生する。すなわち、シート状部材が伝えることが出来る熱量は、以下の式で表わされる。
Q=λ・A・ΔT/L
Q:輸送熱量[W]、λ:シート状部材の熱伝導率[W/(m・K)]、A:シート状部材の断面積[m2]、ΔT:シート状部材の両端の温度差[K]、L:シート状部材の長さ[m]
【0011】
よって、シート状部材の両端には下記の式で表わされる温度差が生じる。
ΔT=Q・L/(λ・A)
【0012】
シート状部材の長さは上述の通り、ステージの相対的な移動ストローク以上の長さが必要であり、シート状部材の断面積は、シート状部材の柔軟性が保たれる程度に小さくしなければならない制約があるため、このような方式で冷却の促進を図っても、熱源側に一定量の温度上昇が生じることは免れ得ない。すなわち、この手法を用いても、リニアモータのコイルが用いられる側には一定の温度上昇が生じることになる。
【0013】
以下に、駆動機構にて生ずる熱の試料への伝達を効果的に抑制することを目的とするステージ装置およびそれを用いた荷電粒子線装置について説明する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための一態様として以下に、試料が載置されるテーブルと、当該テーブルを所定の方向に駆動する駆動源を備えたステージ装置であって、前記テーブルと前記駆動源との間に設けられる第1の接続部材と、前記テーブルと前記駆動源との間であって、前記第1の部材より前記駆動源側に設けられる第2の接続部材と、当該第2の接続部材或いは当該第2の接続部材に支持される被支持部材に支持されるスライドユニットと、当該スライドユニットを前記所定の方向に案内するレールを備え、前記第1の接続部材は前記第2の接続部材に対して相対的に熱伝導率が低い部材が用いられるステージ装置、及び当該ステージ装置を備えた荷電粒子線装置を提案する。
【発明の効果】
【0015】
上記構成によれば、駆動機構にて生ずる熱の試料への伝達を効果的に抑制することができ、結果として高精度な位置決めを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】荷電粒子線装置に用いるステージ装置の構成図(実施例1)。
図2】荷電粒子線装置に用いるステージ装置の上段側テーブルの熱対策構造を示す断面図(実施例1)。
図3】荷電粒子線装置に用いるステージ装置の下段側テーブルの熱対策構造を示す断面図(実施例1)。
図4】ステージ装置に用いるスライドユニットの簡易的な断面図。
図5】荷電粒子線装置に用いるステージ装置の構成図(実施例2)。
図6】荷電粒子線装置に用いるステージ装置の構成図(実施例3)。
図7】荷電粒子線装置に用いるステージ装置の構成図(実施例4)。
図8】荷電粒子線装置に用いるステージ装置の構成図(実施例5)。
図9】荷電粒子線装置に用いるステージ装置の上段側テーブルの熱対策構造を示す断面図(実施例5)。
図10】荷電粒子線装置に用いるステージ装置の構成図(実施例6)。
図11】荷電粒子線装置に用いるステージ装置の下段側テーブルの熱対策構造を示す断面図(実施例6)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、主に荷電粒子線装置に用いられるステージ機構の具体的構成について説明する。荷電粒子線を用いる装置では、試料を真空中に置いた上で、高精度に位置を移動させる必要があり、リニアモータによる駆動機構を用いるステージ装置で試料を移動させる際に、リニアモータのコイルによる発熱が原因となって試料の局所的な位置が変化することがないよう、コイルの発熱が伝わって温度変化することによる試料の熱変形を防止することが望ましい。
【0018】
リニアモータのコイルによる発熱を、ウェハを搭載保持する試料ステージに伝えなくするための手法としては、試料ステージと共に移動する側を磁石にし、試料ステージとは別の側にコイルを固定することも考えられる。この場合、コイルの発熱が伝わることは防止できるが、試料ステージと共に磁石が動くことになるため、磁場の変化が大きく、ノイズが発生しやすくなることで、高精度化が困難になる。
【0019】
そこで本実施例では、例えば真空中に配置した対象物(試料)に荷電粒子線を照射し、その対象物をステージに固定し、ステージを移動させることで荷電粒子を照射する対象物の位置を変更する装置において、そのステージ装置の構成は、対象物を保持するテーブルにスライドユニットを固定し、そのスライドユニットがレールに接しながら(案内されながら)移動する構造をとり、かつ、そのテーブルにはリニアモータのコイルのような発熱体(駆動源)が接続する構造である場合に、発熱体とテーブルを接続する箇所において、その発熱体とテーブルの間に少なくとも2つの部品を介在させ、その部品のうち発熱体に接触する方の部品には熱伝導率が相対的に高い材質(第2の接続部材)を用い、テーブルに接触する方の部品(第1の接続部材)には熱伝導率が相対的に低い材質を用い、かつ、その発熱体に接触する部品は、前記テーブルとは接触していないスライドユニットに接触させ、そのスライドユニットは、レールに接しながら移動する構造とする。
【0020】
なお、上記2つの部品は、それぞれ直接テーブルや発熱体に接している必要はなく、例えば2つの部品に支持される被支持部材を介して、当該2つの部材とテーブル及び発熱体を接続するようにしても良い。但し、被支持部材であってもテーブル側に設けられる被支持部材は、熱伝導率が低い部材、発熱体側に設けられる被支持部材は、熱伝導率が高い部材を用いる。
【0021】
上記構成によれば、リニアモータのコイルのような発熱体が発した熱は、それに接触する相対的に熱伝導率が高い材質に流れ込んだ上で、その先のスライドユニットに熱が流れ、そのスライドユニットはレールに接していることで、発熱体の熱はレールに流れ、レールに流れた熱は、レールを固定している物質へと流れていくことになり、結果として、発熱体が部品を介在して接続しているテーブルの方には伝わる熱が低減される。これにより、荷電粒子線を照射する対象物を保持するテーブルの温度上昇が抑制され、対象物の熱変形を防止することが可能となり、高精度な計測および加工が可能となる。
【0022】
以下、図面を用いて実施例を説明する。
【実施例1】
【0023】
図1(A)は、第1の実施例における荷電粒子線装置に用いるステージ装置の構成を示した図である。図1(B)は、(A)と同じステージ装置をカットモデルにして内部の構造が分かり易いように示したものであり、(A)と(B)は全く同じものを示している。図1に例示するようなステージ装置は、荷電粒子線装置の真空チャンバ内に配置され、図示しない制御装置によって、制御される。真空チャンバ上には電子源、集束レンズ、走査偏向器、対物レンズ、及び検出器等を備えたビームカラムが配置され、ステージ装置によって位置決めされた試料の所望の個所に、ビームを照射することによって、測定、検査、観察、加工等の処理を実行する。
【0024】
図2は、図1のステージ装置の断面図を示しており、図1の左下から右上の方向に向かって断面を見た図であり、鎖線100の位置で断面位置を変えている。鎖線100の右側は、熱バイパス用スライドユニット16aを横切る断面位置にしており、鎖線100の左側は四隅の移動用のスライドユニット13横切る断面位置にしている。図3も、図1のステージ装置の断面図であるが、図1の左上から右下の方向に向かって断面を見た図である。
【0025】
以下、図1から図3を利用して第1の実施例を説明する。ウェハなどの荷電粒子線が照射される試料は上段側テーブル1に属する部品(図示していない)によって保持される。このテーブル1をXYの2軸方向に移動可能にするため、上段側テーブル1と下段側テーブル2が存在し、それぞれに付随する機構がX軸とY軸の移動を担う。テーブル1には四隅に移動用のスライドユニット13が接続されており、それぞれのスライドユニットはレール11、11aに接触して移動することで、レール方向のみの移動を可能にし、その方向以外には動かないように位置を拘束する。レール11、11aは下段側テーブル2に固定され、下段側テーブル2には四隅に移動用のスライドユニット14が接続されており、それらのスライドユニット14はレール12に接触して移動する。レール12はベース19(図示していない)に固定されている。
【0026】
下段側テーブル2はコイル5と磁石6からなるリニアモータによって駆動され、磁石6をベースに固定し、この固定された磁石6に対してコイル5が相対的な移動を行うことで、ベースに対して下段側テーブル2が相対的に移動する。
上段側テーブル1はコイル3と磁石4からなるリニアモータによって駆動され、磁石4を下段側テーブル2に固定し、この磁石4に対してコイル3が相対的に移動することで、下段側テーブル2に対して上段側テーブル1が相対的に移動する。上段側テーブルの移動と下段側テーブルの移動を組み合わせることで、XYの2軸の任意の座標に試料を移動させることを可能にする。
【0027】
上記の基本的なリニアモータを用いたXYステージでは、リニアモータのコイルの発熱がテーブルに伝わり、結果として、試料の熱変形を招くことになるため、第1の実施例の中では、2つの熱対策手段を講じている。第1の手段は、図2に示すように、コイル3とテーブル1を接続する上で、間に部品8と7を介在させている。部品8はコイル3が発した熱をバイパスして伝わる先を作り出す部品であり、コイル3に接触することで、コイル3の発熱を受け、熱バイパス用のスライドユニット16aに接触することで、バイパス経路へと熱を流すことを可能にしている。コイル3とテーブル1は一体となって移動する構造であることを確保するため、接続用部品7がテーブル1と熱バイパス部品8の両方に接続する。この際、接続用部品7を通じてテーブル1へ伝わる熱を低減するため、接続用部品7に用いる材質は、熱バイパス部品8の材質より熱伝導率が低いものを選択する。一例として、接続用部品7に樹脂を用い、熱バイパス部品8にアルミを用いることが出来る。これらの部品は図示していないボルトなどを利用して接続すればよい。
【0028】
樹脂は金属に比べて熱伝導率が低いことから、接続用部品7に樹脂を用いることは利点がある他、密度も樹脂は金属に比べて小さいことから、リニアモータの駆動対象となる部品の質量を低減することに役立ち、それによってリニアモータの負荷が下がり、コイル3の発熱を低減する効果も得られる。この他に、接続用部品7にセラミクス系の材質を用いることで、伝熱量の低減を図ることも有効である。
【0029】
熱バイパス経路を作り出すことで、テーブル1に伝わる熱量が減った分の熱量は、熱バイパス部品8からスライドユニット16aに伝わり、これと接触しているレール11aに伝わり、さらに下段側テーブル2に伝わり、そこからスライドユニット14に伝わり、これと接触しているレール12に伝わり、これを固定しているベースへと伝わっていくことで放熱される。すなわち、コイル3で発生した熱量がテーブル1に伝わらずに、固体接触している部品を通じて最終的にベースへと伝熱する経路を作りだすことで、テーブル1への伝熱量が減り、テーブル1の温度上昇を抑制することが可能となる。このため、熱バイパス用のスライドユニット16aは、移動用のスライドユニット13と共通のレール11aに接触しているものの、テーブル1には接触していないことで、テーブル1への伝熱量を減らすことに役立っている。
【0030】
第1の実施例の中の第2の熱対策手段は、図3に示すように、コイル5とテーブル2を接続する上で、間に熱バイパス部品9とテーブル接続用部品10を介在させている。第1の熱対策手段と同様に、熱バイパス部品9はコイル5に接触することで、コイル5の発熱を受け、熱バイパス用のスライドユニット16bに接触することで、バイパス経路へと熱を流すことを可能にしている。コイル5とテーブル2は一体となって移動する構造であることを確保するため、接続用部品10がテーブル2と熱バイパス部品9の両方に接続する。接続用部品10に用いる材質は、熱バイパス部品9の材質より熱伝導率が低いものを選択することで、テーブル2に伝わる熱量を低減する。接続用部品10に樹脂を用い、熱バイパス部品9にアルミを用いてもよい。また、これらの部品は図示していないボルトなどを利用して接続すればよい。
【0031】
第1の熱対策手段の場合は、熱バイパス用のスライドユニットが接触するレールは、移動用のスライドユニットが接触するレールと共通のものであったが、第2の熱対策手段の方は熱バイパス専用のレール12aに接触している点が異なる。但し、2つの熱対策手段のいずれもが、熱源(駆動源)であるコイル、スライドユニットの支持部材である熱バイパス部材(第2の接続部材)、テーブル接続部材(第1の接続部材、テーブル)の順で、各構成要素が接続されている。
【0032】
この違いは、リアモータの配置をテーブルに対して中央に配置しているか、端の方に配置しているかの違いによっている。上段側テーブル1を駆動するためのリニアモータの磁石4は、下段側テーブル2に固定されるため、テーブル2の移動とともに移動する。これにより磁場の変動が発生するため、荷電粒子線への影響を減らすため、試料に近いテーブルの中央よりも、試料から遠いテーブルの端に磁石を配置することで、磁場の変動による影響を低減している。リニアモータをテーブル1の中心から遠ざけることで、リニアモータとレールとの距離は近付き、熱バイパス経路を形成するにあたって、レール11aが、移動用スライドユニットのためのレールの機能と、熱バイパスの機能を兼ねさせることが可能となり、低コストでの熱対策構造を実現している。
【0033】
下段側テーブル2を駆動するためのリニアモータの磁石6はベースに固定されて移動することがないため、磁場を変動させることがないことから、リニアモータをテーブルの中央に配置し、リニアモータの推進力を、駆動対象の重心に近い所で伝えることで、重心と駆動力の作用線がずれることによって発生するモーメントを減らしている。モーメントを減らす手段としては、この他にリニアモータを2本用い、2本のレール12の外側にそれぞれのリニアモータを取り付ける手段もある。しかし、リニアモータを中央に配置すれば、1本のリニアモータで済むことからコスト低減が図られる。
【0034】
ただし、四隅の移動用のスライドユニット14が利用するレール12とは距離が生じるので、熱バイパス専用のレール12aを設けている。これにより熱バイパス部品9が熱輸送を行う距離は短くて済み、これによって伝熱抵抗が下がり、熱バイパス経路に流れる熱量が増え、テーブル2に伝わる熱を減らすことが可能になる。テーブル2に伝わる熱量が減ることは、テーブル2の温度上昇を低減し、テーブル2に接触しているレール11、11a、さらにこれに接触しているスライドユニット13、およびテーブル1の温度上昇を低減することで、試料の温度上昇を低減することに役立つ。
【0035】
本実施例では、コイル5の発熱を逃がすにあたって、専用のレール12aに熱を伝える構成を示したが、コスト低減のために、移動用スライドユニット14と共通のレール12に熱を逃がす構造にすることも可能である。
【0036】
本実施例では、ベース以下の部品を図示していないが、ベースとなる部品が容器となって、ステージ装置を真空の環境にしている。この真空容器の外側に熱が逃げる構造になっていれば、ステージ装置の発熱をベースに伝えることで、放熱が可能になる。ベースから先の放熱手段としては、ベース部品の内部に冷却水を直接循環させる方法や、真空容器の外側に冷却水を循環させている部品を接触させる方法や、放熱フィンを設ける空冷などの手段がある。
【0037】
また、本実施例に用いる熱バイパス用スライドユニットの簡易的な断面図を図4に示す。スライドユニット16aの上側の面と熱バイパス部品8を接触させた上で、図示していないボルト等で固定することで、熱バイパス部品8からスライドユニット16aに熱が伝わる。また、レール11aの下側の面とテーブル2を接触させた上で、図示していないボルト等で固定することで、レール11aからテーブル2に熱が伝わる。スライドユニット16aとレール11aの間に熱を伝えるためには、固体どうしを接触させ、固体の熱伝導を用いることが有効であるが、移動の際の摩擦力が大きくなると、リニアモータの負荷が増え、コイルの発熱量が増えてしまうことから、摩擦力は小さくなるようにした方がよい。このため、スライドユニット16aの内部では図示していない構造により転動体15が循環できるようにし、その転動体15がレールとスライドユニットの両方に転がりながら固体接触することで固体の熱伝導で熱が伝わるようにする。
【0038】
また、転がり接触にすることで、すべり接触に比べて摩擦力を低減している。転動体15には、球状のボールを用いる方法と、円筒状のころを用いる方法がある。ボールを用いる場合は、摩擦力が小さくなるという利点を持ち、ころを用いる場合は、接触面積が増加することで、伝熱性能が向上するという利点を持つ。また、転動体15がスライドユニット16aの内部を循環することの抵抗を低減するため、潤滑油を用いることも有効であり、これにより伝熱性能が向上する利点もある。
【0039】
このステージ装置は高度の真空環境で用いるものであるため、転動体の潤滑のために用いる潤滑油は不揮発性(=飽和蒸気圧が低い)のものを選択する。転動体15に接触するレール11aの接触面は、図4のように斜め45度にすることで、図の縦方向と横方向の位置ずれを同時に防止すると同時に、縦方向にかかる重力を斜面で受けることで、面圧を増やし、接触面積を増大させることで、伝熱性能を向上させることが出来る。
【0040】
また、転動体15に関連する部品の設計において、重量がかかっていない状態でも転動体15にある程度の弾性変形が生じる寸法に設計すると、接触面積の増加による伝熱性能を向上を図ることが可能になる。すなわち、完全な球体と平面の接触では点接触にしかならず、完全な円筒と平面の接触でも線接触にしかならないことから、弾性変形が生じない設計では、表面粗さを考慮しても接触面積は非常に少ない。
【0041】
これに対し、弾性変形が生じる設計にすると、転動体にボールを用いる場合でも、ころを用いる場合でも、格段に接触面積を増やすことが可能になる。また、移動用のスライドユニットにおいては、テーブルの位置精度向上のため、スライドユニットが弾性変形しないよう、ヤング率が高い材質を選択することが好ましいが、熱バイパス用のスライドユニットにおいては、位置精度を担う訳ではないので、ヤング率を考慮することなく、熱伝導率が高い材質を選択することも有効である。また、熱バイパス用のスライドユニットにおいては、図4の奥行き方向の寸法を移動用のスライドユニットより長くすることで、伝熱性能を向上させることも出来る。
【実施例2】
【0042】
図5に、第2の実施例における荷電粒子線装置に用いるステージ装置の構成を示す。第1の実施例と同じ機能の部品には同じ符号を付けることで説明を省略する。図5は、図1(B)と同じようにカットモデルで表示したものであるが、隠れ線の表示はなくしている。
【0043】
上段側テーブル1に伝わる熱をより減らすために、熱バイパス用のスライドユニット16cを2個用いることで、スライドユニットからレールへと熱を伝える際の熱抵抗を補い、熱バイパス経路の伝熱量を増大させている。また、リニアモータのコイル3は、移動方向に長さを持つものであるため、熱バイパス部品8bで熱で伝えるにあたって長手方向の距離に応じた熱抵抗が生じるが、熱バイパス用のスライドユニットを複数にすることで、熱バイパス部品8bで熱を伝えるための距離が縮まり、伝熱性能の向上を図ることが出来る。本実施例では、熱バイパス用スライドユニット16cを2個用いているが、3個以上に増やすことも可能である。
【0044】
同様に、下段側テーブル2に伝わる熱をより減らすために、熱バイパス部品9bに接続する熱バイパス用スライドユニット16dを3個にすることで、スライドユニットからレールへと熱を伝える際の熱抵抗を補っている。下段側のリニアモータは、下段側テーブルと上段側テーブルの両方の質量を移動させる必要があるため、下段側のリニアモータの方が、一般的に上段側に比べて負荷が高い。このため、コイルの発熱も上段側のコイル3に比べると、下段側のコイル5の方が発熱が大きいことから、熱バイパス経路の設計においては、下段側を強化することがより効果的であり、下段側の熱バイパス用スライドユニットの数をより多くすることは、費用対効果の点で効率的である。また、スライドユニットの数を増やすことは、摩擦力を若干増やすことになり、その分、コイルの発熱がやや増えることになる。上段側の熱バイパスでは、バイパス経路を増強して、テーブル1に直接伝わる熱を減らしても、バイパス経路を通じてテーブル2に伝えた熱が、レール11、11aと、移動用のスライドユニット13を通じてテーブル1に伝わる経路が存在するので、定量的な効果を十分に評価して設計するのがよい。一方、下段側の熱バイパス経路では、伝熱能力増強の効果が発熱量の増加を上回ってさえいれば、熱バイパス用スライドユニット16dの数を増やすことで、テーブル2に伝わる熱量を減らすことが出来る。
【実施例3】
【0045】
図6に、第3の実施例における荷電粒子線装置に用いるステージ装置の構成を示す。前述と同様に、第1の実施例と同じ機能の部品には同じ符号を付けることで説明を省略する。図6図5と同様に、カットモデルで表示したものである。
【0046】
第3の実施例が、第1の実施例に対して異なる点は、上段側のリニアモータの発熱を、熱バイパス経路を用いて逃がすにあたって、逃がす先を専用のレール11cにしている点である。実施例1では、テーブル2の片側にコイル3が発した熱を伝えることになり、テーブル2にわずかながら偏った温度分布を生じさせる。このことに対処にするための構造が第3の実施例であり、テーブル2の中央にレール11cを配置し、そのレールに接続する熱バイパス用スライドユニット16eに熱バイパス部品8cを接続することで、コイル3で発生した熱をテーブル2の中央に伝えている。これによりテーブル2は左右対称な温度分布となり、左右で温度が異なることによるテーブル2の熱変形を防止することが出来る。また、斜視図では分かりづらいが、熱バイパス部品8cはスライドユニット16eと接続用部品7、コイル3とのみ接触しており、テーブル1には接触していない。このことで、テーブル1に熱が伝わることを防止している。
【実施例4】
【0047】
図7に、第4の実施例における荷電粒子線装置に用いるステージ装置の構成を示す。図7もカットモデルで表示しており、見る角度を図5、6とは少し変えているが、基本的な構成は変わっていない。
【0048】
第4の実施例が、第1の実施例に対して異なる点は、上段側のリニアモータの発熱を熱バイパス経路を用いて逃がす際、逃がす先をレール11dの2本にしている点である。このため、第4の実施例では、熱バイパス用スライドユニット16fを2個用い、熱バイパス部品8dはそれぞれに接触している。第3の実施例と同様、熱バイパス部品8dはテーブル1とは接触させないことで、テーブル1に熱が伝わることを防止している。また、第3の実施例が対処した課題と同様に、2本のレール11dに熱を伝えることで、テーブル2の温度分布が左右対称になることを図っている。また、熱バイパス用スライドユニット16fに熱を伝えるにあたっては、コイル3に近い方がより多くの熱が伝わり易いため、部品8dとコイル3に近い側のスライドユニットとの接触面積は少し減らすなどして、左右で均等な熱量が伝わるように調整した設計にしてもよい。
【実施例5】
【0049】
図8図9に、第5の実施例における荷電粒子線装置に用いるステージ装置の構成を示す。図8は、図5、6と同様にカットモデルで示したものであり、図9図2と同様の表示方法で断面図を示したものである。図9の鎖線100より右側はスライドユニット16gと、スライドユニット16hの両方を横切る断面を示しており、鎖線100の左側は、スライドユニット13を横切る断面を示している。
【0050】
第5の実施例では、上段側の熱バイパス経路を形成するにあたって、下段側テーブル2への伝熱を減らし、直接ベースの方に熱が伝わるような構造にしている。すなわち、コイル3で発生した熱は熱バイパス部品8eに伝え、熱バイパス用スライドユニット16gを介して熱バイパス専用のレール11eに伝える。レール11eは、下段側テーブルと同列ではあるがテーブル2とは断熱することを図った熱バイパス部品17に接触している。熱バイパス部品17はテーブル2と一体となって移動するが、間に挟む接続用部品18の材質に低熱伝導率のものを用いることで、テーブル2へ熱が伝わることを防止する。熱バイパス部品17はカットモデルでは表示できないが、テーブル2と同じ長さがあり、その下に熱バイパス用スライドユニットを接続しており、図8の手前側のスライドユニット16iと、奥側のスライドユニット16i、および中央のスライドユニット16hに接続している。スライドユニット16iは、移動用のスライドユニット14と共通のレール12bと接触しており、スライドユニット16hは、下段側の熱バイパス用スライドユニット16bと共通のレール12cに接触している。レール12bと12cはそれぞれベースに固定されていることから、コイル3が発した熱を逃がすにあたって、下段側テーブル2に伝えずベースに伝える経路を形成している。これにより、テーブル2の温度上昇が抑えられ、その上にあるテーブル1の温度上昇も抑えられることになる。
【実施例6】
【0051】
図10図11に、第6の実施例における荷電粒子線装置に用いるステージ装置の構成を示す。図10は、図1(A)と同様の表示方法で全体斜視図を示したものであり、図11図9と同様の表示方法で断面図で示したものである。図11の鎖線100より右側はスライドユニット16jを横切る断面を示しており、鎖線100の左側は、スライドユニット13を横切る断面を示している。
【0052】
実施例1〜5では、全てムービングコイル式のリニアモータを用いていたが、実施例6では上段側テーブルと下段側テーブルの両方にムービングマグネット式のリニアモータを用いている。なお、本実施例においては、上段側と下段側で、ムービングコイル式のリニアモータとムービングマグネット式のリニアモータを使い分けることも可能である。
【0053】
上段側テーブル1を駆動するにあたってムービングマグネット式リニアモータを用いる場合、磁石21を上段側テーブル1に固定し、コイル20を下段側テーブル2に固定する。また、下段側テーブルにもムービングマグネット式リニアモータを用いる場合、磁石23を下段側テーブル2に固定し、コイル22をベースに固定する。このことにより、コイル22はテーブルに接続されることがないため、コイル22の発熱による温度上昇の問題は解決される。しかし、コイル20は、下段側テーブルに接続されるため、熱対策が必要になる。このため、コイル20を下段側テーブル2に接続するにあたって、部品17bと部品18bを間に挟み、部品17bは熱バイパス用スライドユニット16jに接続し、レール12dを介してベースに熱を伝える構成にしている。また、接続用部品18bの材質に、熱伝導率が低い材料を用いることで、テーブル2に熱が伝わることを抑えている。テーブル2に伝わる熱が減れば、その上にあるテーブル1の温度上昇を抑えることが可能になる。
【0054】
本実施例では、上段側テーブルを駆動するためのリニアモータをテーブル1の端に取り付けることで、コイル20がテーブル2と一体で移動する構造ながら、熱的には絶縁することを可能にしている。
【0055】
なお、本実施例では、下段側のリニアモータを2本のレール12dの間に配置したが、磁石が移動することによる磁場の変化の影響を小さくするため、リニアモータを2本用い、2本のレール12dの外側にそれぞれ配置することも可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 上段側テーブル
2 下段側テーブル
3 上段側テーブル駆動用リニアモータのコイル
4 上段側テーブル駆動用リニアモータの磁石
5 下段側テーブル駆動用リニアモータのコイル
6 下段側テーブル駆動用リニアモータの磁石
7 上段側テーブル接続用部品
8 上段側テーブル用熱バイパス部品
9 下段側テーブル用熱バイパス部品
10 下段側テーブル接続用部品
11 上段側テーブル用レール
12 下段側テーブル用レール
13 上段側テーブル用スライドユニット
14 下段側テーブル用スライドユニット
15 スライドユニット内転動体
16 熱バイパス用スライドユニット
17 下段側テーブルと同列の熱バイパス部品
18 下段側テーブルと熱バイパス部品との接続用部品
19 ベース
20 上段側テーブル駆動用リニアモータのコイル
21 上段側テーブル駆動用リニアモータの磁石
22 下段側テーブル駆動用リニアモータのコイル
23 下段側テーブル駆動用リニアモータの磁石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11