【実施例1】
【0023】
図1(A)は、第1の実施例における荷電粒子線装置に用いるステージ装置の構成を示した図である。
図1(B)は、(A)と同じステージ装置をカットモデルにして内部の構造が分かり易いように示したものであり、(A)と(B)は全く同じものを示している。
図1に例示するようなステージ装置は、荷電粒子線装置の真空チャンバ内に配置され、図示しない制御装置によって、制御される。真空チャンバ上には電子源、集束レンズ、走査偏向器、対物レンズ、及び検出器等を備えたビームカラムが配置され、ステージ装置によって位置決めされた試料の所望の個所に、ビームを照射することによって、測定、検査、観察、加工等の処理を実行する。
【0024】
図2は、
図1のステージ装置の断面図を示しており、
図1の左下から右上の方向に向かって断面を見た図であり、鎖線100の位置で断面位置を変えている。鎖線100の右側は、熱バイパス用スライドユニット16aを横切る断面位置にしており、鎖線100の左側は四隅の移動用のスライドユニット13横切る断面位置にしている。
図3も、
図1のステージ装置の断面図であるが、
図1の左上から右下の方向に向かって断面を見た図である。
【0025】
以下、
図1から
図3を利用して第1の実施例を説明する。ウェハなどの荷電粒子線が照射される試料は上段側テーブル1に属する部品(図示していない)によって保持される。このテーブル1をXYの2軸方向に移動可能にするため、上段側テーブル1と下段側テーブル2が存在し、それぞれに付随する機構がX軸とY軸の移動を担う。テーブル1には四隅に移動用のスライドユニット13が接続されており、それぞれのスライドユニットはレール11、11aに接触して移動することで、レール方向のみの移動を可能にし、その方向以外には動かないように位置を拘束する。レール11、11aは下段側テーブル2に固定され、下段側テーブル2には四隅に移動用のスライドユニット14が接続されており、それらのスライドユニット14はレール12に接触して移動する。レール12はベース19(図示していない)に固定されている。
【0026】
下段側テーブル2はコイル5と磁石6からなるリニアモータによって駆動され、磁石6をベースに固定し、この固定された磁石6に対してコイル5が相対的な移動を行うことで、ベースに対して下段側テーブル2が相対的に移動する。
上段側テーブル1はコイル3と磁石4からなるリニアモータによって駆動され、磁石4を下段側テーブル2に固定し、この磁石4に対してコイル3が相対的に移動することで、下段側テーブル2に対して上段側テーブル1が相対的に移動する。上段側テーブルの移動と下段側テーブルの移動を組み合わせることで、XYの2軸の任意の座標に試料を移動させることを可能にする。
【0027】
上記の基本的なリニアモータを用いたXYステージでは、リニアモータのコイルの発熱がテーブルに伝わり、結果として、試料の熱変形を招くことになるため、第1の実施例の中では、2つの熱対策手段を講じている。第1の手段は、
図2に示すように、コイル3とテーブル1を接続する上で、間に部品8と7を介在させている。部品8はコイル3が発した熱をバイパスして伝わる先を作り出す部品であり、コイル3に接触することで、コイル3の発熱を受け、熱バイパス用のスライドユニット16aに接触することで、バイパス経路へと熱を流すことを可能にしている。コイル3とテーブル1は一体となって移動する構造であることを確保するため、接続用部品7がテーブル1と熱バイパス部品8の両方に接続する。この際、接続用部品7を通じてテーブル1へ伝わる熱を低減するため、接続用部品7に用いる材質は、熱バイパス部品8の材質より熱伝導率が低いものを選択する。一例として、接続用部品7に樹脂を用い、熱バイパス部品8にアルミを用いることが出来る。これらの部品は図示していないボルトなどを利用して接続すればよい。
【0028】
樹脂は金属に比べて熱伝導率が低いことから、接続用部品7に樹脂を用いることは利点がある他、密度も樹脂は金属に比べて小さいことから、リニアモータの駆動対象となる部品の質量を低減することに役立ち、それによってリニアモータの負荷が下がり、コイル3の発熱を低減する効果も得られる。この他に、接続用部品7にセラミクス系の材質を用いることで、伝熱量の低減を図ることも有効である。
【0029】
熱バイパス経路を作り出すことで、テーブル1に伝わる熱量が減った分の熱量は、熱バイパス部品8からスライドユニット16aに伝わり、これと接触しているレール11aに伝わり、さらに下段側テーブル2に伝わり、そこからスライドユニット14に伝わり、これと接触しているレール12に伝わり、これを固定しているベースへと伝わっていくことで放熱される。すなわち、コイル3で発生した熱量がテーブル1に伝わらずに、固体接触している部品を通じて最終的にベースへと伝熱する経路を作りだすことで、テーブル1への伝熱量が減り、テーブル1の温度上昇を抑制することが可能となる。このため、熱バイパス用のスライドユニット16aは、移動用のスライドユニット13と共通のレール11aに接触しているものの、テーブル1には接触していないことで、テーブル1への伝熱量を減らすことに役立っている。
【0030】
第1の実施例の中の第2の熱対策手段は、
図3に示すように、コイル5とテーブル2を接続する上で、間に熱バイパス部品9とテーブル接続用部品10を介在させている。第1の熱対策手段と同様に、熱バイパス部品9はコイル5に接触することで、コイル5の発熱を受け、熱バイパス用のスライドユニット16bに接触することで、バイパス経路へと熱を流すことを可能にしている。コイル5とテーブル2は一体となって移動する構造であることを確保するため、接続用部品10がテーブル2と熱バイパス部品9の両方に接続する。接続用部品10に用いる材質は、熱バイパス部品9の材質より熱伝導率が低いものを選択することで、テーブル2に伝わる熱量を低減する。接続用部品10に樹脂を用い、熱バイパス部品9にアルミを用いてもよい。また、これらの部品は図示していないボルトなどを利用して接続すればよい。
【0031】
第1の熱対策手段の場合は、熱バイパス用のスライドユニットが接触するレールは、移動用のスライドユニットが接触するレールと共通のものであったが、第2の熱対策手段の方は熱バイパス専用のレール12aに接触している点が異なる。但し、2つの熱対策手段のいずれもが、熱源(駆動源)であるコイル、スライドユニットの支持部材である熱バイパス部材(第2の接続部材)、テーブル接続部材(第1の接続部材、テーブル)の順で、各構成要素が接続されている。
【0032】
この違いは、リアモータの配置をテーブルに対して中央に配置しているか、端の方に配置しているかの違いによっている。上段側テーブル1を駆動するためのリニアモータの磁石4は、下段側テーブル2に固定されるため、テーブル2の移動とともに移動する。これにより磁場の変動が発生するため、荷電粒子線への影響を減らすため、試料に近いテーブルの中央よりも、試料から遠いテーブルの端に磁石を配置することで、磁場の変動による影響を低減している。リニアモータをテーブル1の中心から遠ざけることで、リニアモータとレールとの距離は近付き、熱バイパス経路を形成するにあたって、レール11aが、移動用スライドユニットのためのレールの機能と、熱バイパスの機能を兼ねさせることが可能となり、低コストでの熱対策構造を実現している。
【0033】
下段側テーブル2を駆動するためのリニアモータの磁石6はベースに固定されて移動することがないため、磁場を変動させることがないことから、リニアモータをテーブルの中央に配置し、リニアモータの推進力を、駆動対象の重心に近い所で伝えることで、重心と駆動力の作用線がずれることによって発生するモーメントを減らしている。モーメントを減らす手段としては、この他にリニアモータを2本用い、2本のレール12の外側にそれぞれのリニアモータを取り付ける手段もある。しかし、リニアモータを中央に配置すれば、1本のリニアモータで済むことからコスト低減が図られる。
【0034】
ただし、四隅の移動用のスライドユニット14が利用するレール12とは距離が生じるので、熱バイパス専用のレール12aを設けている。これにより熱バイパス部品9が熱輸送を行う距離は短くて済み、これによって伝熱抵抗が下がり、熱バイパス経路に流れる熱量が増え、テーブル2に伝わる熱を減らすことが可能になる。テーブル2に伝わる熱量が減ることは、テーブル2の温度上昇を低減し、テーブル2に接触しているレール11、11a、さらにこれに接触しているスライドユニット13、およびテーブル1の温度上昇を低減することで、試料の温度上昇を低減することに役立つ。
【0035】
本実施例では、コイル5の発熱を逃がすにあたって、専用のレール12aに熱を伝える構成を示したが、コスト低減のために、移動用スライドユニット14と共通のレール12に熱を逃がす構造にすることも可能である。
【0036】
本実施例では、ベース以下の部品を図示していないが、ベースとなる部品が容器となって、ステージ装置を真空の環境にしている。この真空容器の外側に熱が逃げる構造になっていれば、ステージ装置の発熱をベースに伝えることで、放熱が可能になる。ベースから先の放熱手段としては、ベース部品の内部に冷却水を直接循環させる方法や、真空容器の外側に冷却水を循環させている部品を接触させる方法や、放熱フィンを設ける空冷などの手段がある。
【0037】
また、本実施例に用いる熱バイパス用スライドユニットの簡易的な断面図を
図4に示す。スライドユニット16aの上側の面と熱バイパス部品8を接触させた上で、図示していないボルト等で固定することで、熱バイパス部品8からスライドユニット16aに熱が伝わる。また、レール11aの下側の面とテーブル2を接触させた上で、図示していないボルト等で固定することで、レール11aからテーブル2に熱が伝わる。スライドユニット16aとレール11aの間に熱を伝えるためには、固体どうしを接触させ、固体の熱伝導を用いることが有効であるが、移動の際の摩擦力が大きくなると、リニアモータの負荷が増え、コイルの発熱量が増えてしまうことから、摩擦力は小さくなるようにした方がよい。このため、スライドユニット16aの内部では図示していない構造により転動体15が循環できるようにし、その転動体15がレールとスライドユニットの両方に転がりながら固体接触することで固体の熱伝導で熱が伝わるようにする。
【0038】
また、転がり接触にすることで、すべり接触に比べて摩擦力を低減している。転動体15には、球状のボールを用いる方法と、円筒状のころを用いる方法がある。ボールを用いる場合は、摩擦力が小さくなるという利点を持ち、ころを用いる場合は、接触面積が増加することで、伝熱性能が向上するという利点を持つ。また、転動体15がスライドユニット16aの内部を循環することの抵抗を低減するため、潤滑油を用いることも有効であり、これにより伝熱性能が向上する利点もある。
【0039】
このステージ装置は高度の真空環境で用いるものであるため、転動体の潤滑のために用いる潤滑油は不揮発性(=飽和蒸気圧が低い)のものを選択する。転動体15に接触するレール11aの接触面は、
図4のように斜め45度にすることで、図の縦方向と横方向の位置ずれを同時に防止すると同時に、縦方向にかかる重力を斜面で受けることで、面圧を増やし、接触面積を増大させることで、伝熱性能を向上させることが出来る。
【0040】
また、転動体15に関連する部品の設計において、重量がかかっていない状態でも転動体15にある程度の弾性変形が生じる寸法に設計すると、接触面積の増加による伝熱性能を向上を図ることが可能になる。すなわち、完全な球体と平面の接触では点接触にしかならず、完全な円筒と平面の接触でも線接触にしかならないことから、弾性変形が生じない設計では、表面粗さを考慮しても接触面積は非常に少ない。
【0041】
これに対し、弾性変形が生じる設計にすると、転動体にボールを用いる場合でも、ころを用いる場合でも、格段に接触面積を増やすことが可能になる。また、移動用のスライドユニットにおいては、テーブルの位置精度向上のため、スライドユニットが弾性変形しないよう、ヤング率が高い材質を選択することが好ましいが、熱バイパス用のスライドユニットにおいては、位置精度を担う訳ではないので、ヤング率を考慮することなく、熱伝導率が高い材質を選択することも有効である。また、熱バイパス用のスライドユニットにおいては、
図4の奥行き方向の寸法を移動用のスライドユニットより長くすることで、伝熱性能を向上させることも出来る。
【実施例6】
【0051】
図10、
図11に、第6の実施例における荷電粒子線装置に用いるステージ装置の構成を示す。
図10は、
図1(A)と同様の表示方法で全体斜視図を示したものであり、
図11は
図9と同様の表示方法で断面図で示したものである。
図11の鎖線100より右側はスライドユニット16jを横切る断面を示しており、鎖線100の左側は、スライドユニット13を横切る断面を示している。
【0052】
実施例1〜5では、全てムービングコイル式のリニアモータを用いていたが、実施例6では上段側テーブルと下段側テーブルの両方にムービングマグネット式のリニアモータを用いている。なお、本実施例においては、上段側と下段側で、ムービングコイル式のリニアモータとムービングマグネット式のリニアモータを使い分けることも可能である。
【0053】
上段側テーブル1を駆動するにあたってムービングマグネット式リニアモータを用いる場合、磁石21を上段側テーブル1に固定し、コイル20を下段側テーブル2に固定する。また、下段側テーブルにもムービングマグネット式リニアモータを用いる場合、磁石23を下段側テーブル2に固定し、コイル22をベースに固定する。このことにより、コイル22はテーブルに接続されることがないため、コイル22の発熱による温度上昇の問題は解決される。しかし、コイル20は、下段側テーブルに接続されるため、熱対策が必要になる。このため、コイル20を下段側テーブル2に接続するにあたって、部品17bと部品18bを間に挟み、部品17bは熱バイパス用スライドユニット16jに接続し、レール12dを介してベースに熱を伝える構成にしている。また、接続用部品18bの材質に、熱伝導率が低い材料を用いることで、テーブル2に熱が伝わることを抑えている。テーブル2に伝わる熱が減れば、その上にあるテーブル1の温度上昇を抑えることが可能になる。
【0054】
本実施例では、上段側テーブルを駆動するためのリニアモータをテーブル1の端に取り付けることで、コイル20がテーブル2と一体で移動する構造ながら、熱的には絶縁することを可能にしている。
【0055】
なお、本実施例では、下段側のリニアモータを2本のレール12dの間に配置したが、磁石が移動することによる磁場の変化の影響を小さくするため、リニアモータを2本用い、2本のレール12dの外側にそれぞれ配置することも可能である。