特許第6186568号(P6186568)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6186568電気化学デバイス電極材料用一次元ナノ構造体、エレクトロスピニング法による製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186568
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】電気化学デバイス電極材料用一次元ナノ構造体、エレクトロスピニング法による製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20170821BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170821BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20170821BHJP
   H01G 11/46 20130101ALN20170821BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 A
   C01B25/45 Z
   !H01G11/46
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-174456(P2013-174456)
(22)【出願日】2013年8月26日
(65)【公開番号】特開2015-43283(P2015-43283A)
(43)【公開日】2015年3月5日
【審査請求日】2016年3月28日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度 経済産業省 日米等エネルギー環境技術研究・標準化協力事業(日米クリーン・エネルギー技術協力)「蓄電デバイス用ナノ電極材料の開発と電子状態解析」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】梶山 智司
(72)【発明者】
【氏名】大久保 将史
(72)【発明者】
【氏名】細野 英司
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−003928(JP,A)
【文献】 特表2000−509193(JP,A)
【文献】 特表2012−528464(JP,A)
【文献】 特開2010−162685(JP,A)
【文献】 Quanqi Chen etal.,Li3V2(PO4)3/C nanofibers composite as a high performance cathode material for lithium-ion battery,Journal of Power Sources,2013年 7月15日,Vol.234,197-200
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−4/62
C01B 25/45
H01G 11/46
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性のNASICON型Na3-xLixM2(PO4)3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。0<x≦3)を80〜100wt%含有し、直径又は幅が10〜1000nmである一次元ナノ構造体の製造方法であって、ナトリウム源、V、Ti、Feから選択される少なくとも1種の金属源、リン源、ポリマー、及び、溶媒からなる原料溶液を調製する工程、調製された原料溶液を用いてエレクトロスピニング法により前駆体の一次元ナノ体を得る工程、該前駆体一次元ナノ体を熱処理して一次元ナノ構造体とする工程、を含む製造方法により、結晶性のNASICON型Na3M2(PO4)3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。)を主要成分として含有し、直径又は幅が10〜1000nmである一次元ナノ構造体を製造し、製造された一次元ナノ構造体のNASICON型Na3M2(PO4)3について、さらに、Liでイオン交換処理を行う工程を含む一次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項2】
前記結晶性のNASICON型Na3M2(PO4)3を主要成分として含有する一次元ナノ構造体がカーボンを含有するものである請求項記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウムイオン二次電池、ナトリウムイオンキャパシタ等の電気化学デバイス用の電極材料として用いたときに高出力特性が期待できる一次元ナノ構造体、該一次元ナノ構造体からなる電気化学デバイス用電極材料、エレクトロスピニング法による該一次元ナノ構造体の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題が盛んに取り上げられ、持続的発展可能な社会を実現するために、クリーンエネルギーデバイスの開発が活発に行われている。その中で、電気自動車やプラグインハイブリッド自動車用等をはじめとした各種蓄電池(二次電池)開発の研究が注目されている。
【0003】
現状、二次電池としてLiイオン電池が広く用いられているが、車載用をはじめとしたLiイオン電池については、その高性能化、高出力化がより一層求められている。
また、Li資源の希少性、偏在等に基づくLi原料コストの高騰等の問題から、ポストLiイオン電池の開発も望まれており、ユビキタス元素であるNaを用いたNaイオン電池は、低コスト二次電池として期待されている(特許文献1〜3等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−89391号公報
【特許文献2】特開2013−54987号公報
【特許文献3】特開2012−54208号公報
【特許文献4】特開2008−285372号公報
【特許文献5】特開2012−109224号公報
【特許文献6】特開2012−11754号公報
【特許文献7】特開2012−22933号公報
【特許文献8】特開2011−222389号公報
【特許文献9】特願2012−073836号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nano active materials for lithium-ion batteries, Y. G. Wang et al., NANOSCALE 2, 1294-1305, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウムイオン電池においては、高出力化のためにナノ電極材料やナノ活物質を合成し、これを電池に用いることで高出力型特性を示す報告が多数ある(例えば、非特許文献1参照)。ナトリウムイオン電池においても同様にナノ材料を用いた高出力型電極材料や活物質の作製が望まれている。
【0007】
二次電池電極材料の特性の向上には、微粒化だけでなく、材料の結晶性の向上にも関係しているが、一般にナノ粒子材料を高い温度での熱処理を行うと、結晶性は向上するが、大きく粒成長もしてしまうため、出力特性の向上に却って不利となる可能性もある。
【0008】
そのような問題を解決するため、本発明者らは、水熱法を用いて単結晶LiMn2O4ナノワイヤーを合成し、リチウムイオン二次電池用活物質として大きな容量と安定したサイクル特性を示すことを明らかにした(特許文献4参照)。
【0009】
しかしながら、水熱法で単結晶LiMn2O4ナノワイヤーを大量に簡易に合成するには、そのためのプロセスを開発する必要があるという問題点が存在している。また、水熱法では、合成できる電極材料や活物質の種類に制約があり、NASICON(Na Super Ionic Conductor)型などの電極材料や活物質については、水熱法を用いてナノワイヤー(一次元ナノ構造体)を作製するのは不可能であると考えられる。
【0010】
さらに、高出力型特性のための高い導電性を付与するためには、水熱法で合成された活物質を導電助剤とボールミルで混合することが必要であるが、そのようなボールミルによる混合は、活物質材料の結晶性を低下させると考えられる上に、均一な混合を実現するための簡易なプロセスとは言えず、製造工程の簡略化の点で望ましくない。
【0011】
したがって、本発明は、一次元ナノ構造体の材料としては公知でない材料製の一次元ナノ構造体であって、ナトリウムイオン二次電池やナトリウムイオンキャパシタ等の電気化学デバイスの電極材料として用いたときに高出力特性が期待できる一次元ナノ構造体を提供することを第1の課題とする。
また、本発明は、第1の課題に加え、導電性向上のためのカーボンを含有する一次元ナノ構造体を提供することを第2の課題とする。
また、本発明は、一次元ナノ構造体の材料としては公知でない材料製の一次元ナノ構造体の製造方法であって、ナトリウムイオン二次電池やナトリウムイオンキャパシタ等の電気化学デバイスの電極材料として用いたときに高出力特性が期待できる一次元ナノ構造体の簡易な製造方法を提供することを第3の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記特許文献4に関連した試験・研究過程において、水熱法により各種の活物質を合成することを検討したが、合成できる活物質の種類に制約があること、導電助剤の混合プロセスに問題点があること等を知見した。
そこで、本発明者らは、水熱法以外の一次元ナノ構造体の製造法について、種々検討した。そのような検討の中で、本発明者らは、エレクトロスピニング法を利用し、種々の活物質を製造することを着想した。
【0013】
エレクトロスピニング法は、ゾル−ゲル溶液やMOD(Metal Organic Decomposition;金属有機化合物分解法)溶液に高分子を溶かし、電圧を印加することによってファイバー状の前駆体を得る手法であり、前駆体ファイバーを焼成することでファイバー状の無機材料を得ることができるとされている。
【0014】
エレクトロスピニング法を利用した電気化学デバイス用材料の製造例としては、エレクトロスピニング法により製造された合成樹脂製連続長繊維の表面を電解メッキして導電性不織布からなる集電体とするもの(特許文献5参照)、エレクトロスピニング法により得られた芳香族ポリアミド極細繊維をセパレータとして用いるもの(特許文献6参照)等が知られている。
また、エレクトロスピニング法を利用した活物質や電極材料の製造については、エレクトロスピニング法により得られたピッチ繊維を熱処理して炭素繊維負極材料とするもの(特許文献7参照)、エレクトロスピニング法により得られた繊維状硫黄に導電性ポリマーとなるモノマーを吸着させた後、該モノマーを重合させて繊維状硫黄と導電性ポリマーからなる電極材料とするもの(特許文献8参照)等のように、種々の活物質の合成例はあるが、NASICONは報告されていない。
【0015】
本発明者らは、このようなエレクトロスピニング法を利用して電気化学デバイス用の活物質化合物を製造することを検討し、その検討過程において、エレクトロスピニング法により活物質化合物の前駆体である一次元ナノ体(連続長ファイバー状等のナノファイバー状物)を形成するには、活物質化合物を構成する各種元素の化合物等を均一に溶解した原料溶液が必要であること、一次元ナノ体の熱処理により求められる電極材料や活物質の一次元ナノ構造体(連続長ファイバー状構造体等のナノファイバー状構造体)を得るには、電極材料や活物質の種類に応じて前記各種元素の化合物を適切に選択する必要があること等の問題点が存在することが明らかとなった。そのような問題点の解決を模索する過程で、リチウムイオン二次電池電極材料用の高結晶性のaLi2MnO3-(1-a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2系ナノ構造電極材料については、本発明者らはその製造を行うことができた(特許文献9参照)。
【0016】
本発明者は、ナトリウムイオン二次電池等の電極材料用一次元ナノ構造体をエレクトロスピニング法により製造することを課題とし、さらに数多くの活物質について、それぞれ数多くの原料を試行し、エレクトロスピニング法に用いる原料混合物液として、均一な原料溶液を得ることができるか否か、均一な原料溶液が得られた場合に、該原料溶液からエレクトロスピニング法により形成されるファイバー状体(一次元ナノ体)を熱処理した場合、ナトリウムイオン二次電池等の活物質として利用できる化合物になるか否か、等を試験・研究する過程において、次の(ア)〜(ウ)などのような知見を得た。
(ア)Na3M2(PO4)3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。)については、その原料として特定の化合物等の組み合わせを選択することにより、その原料混合物を均一な溶液とすることができ、エレクトロスピニング法によりファイバー状(一次元ナノ体)に形成することができ、該一次元ナノ体を不活性雰囲気又は還元正雰囲気で500〜900℃の温度で熱処理すると、NASICON型の結晶構造とすることができる。
(イ)結晶性のNASICON型Na3M2(PO4)3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。)を主要成分として含有する一次元ナノ構造体は、ナトリウムイオン二次電池等の電極材料として用いたときに高出力特性を示す。
(ウ)NASICON型の結晶性Na3M2(PO4)3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。)は、Liでイオン交換することにより、結晶性のNASICON型Na3-xLixM2(PO4)3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。0<x≦3)とすることができる。
【0017】
本発明は、上述のような知見に基づくものであり、次のような発明が提供される。
(1)結晶性のNASICON型Na3-xLixM2(PO4)3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。0≦x≦3)を主要成分として含有し、直径又は幅が10〜1000nmである一次元ナノ構造体。
(2)カーボンを含有するものである(1)に記載の一次元ナノ構造体。
(3)(1)又は(2)に記載の一次元ナノ構造体からなる電気化学デバイス用電極材料。
(4)(3)に記載の電極材料を含む電気化学デバイス。
(5)結晶性のNASICON型Na3M2(PO4)3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。)を主要成分として含有し、直径又は幅が10〜1000nmである一次元ナノ構造体の製造方法であって、ナトリウム源、V、Ti、Feから選択される少なくとも1種の金属源、リン源、ポリマー、及び、溶媒からなる原料溶液を調製する工程、調製された原料溶液を用いてエレクトロスピニング法により前駆体の一次元ナノ体を得る工程、該前駆体一次元ナノ体を熱処理して一次元ナノ構造体とする工程、を含む一次元ナノ構造体の製造方法。
(6)一次元ナノ構造体がカーボンを含有するものである(5)に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
(7)結晶性のNASICON型Na3-xLixM2(PO4)3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。0<x≦3)を主要成分として含有し、直径又は幅が10〜1000nmである一次元ナノ構造体の製造方法であって、(5)又は(6)に記載の製造方法により製造された一次元ナノ構造体のNASICON型Na3M2(PO4)3について、さらに、Liでイオン交換処理を行う工程を含む一次元ナノ構造体の製造方法。
【0018】
本発明は、次のような態様を含むことができる。
(8)NASICON型Na3-xLixM2(PO4)3は、XRD(X-ray Diffraction)ピーク半値幅が0.2°以下のピークを持つものである(1)又は(2)に記載の一次元ナノ構造体。
(9)Na3-xLixM2(PO4)3の含有量が85〜100wt%である(1)、(2)、(8)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体。
(10)カーボン含有量が0.01〜15wt%である(2)に記載の一次元ナノ構造体。
(11)(8)〜(10)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体からなる電気化学デバイス用電極材料。
(12)(1)、(2)、(8)〜(10)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体を主要成分として含有する電気化学デバイス用電極。
(13)(11)に記載の電極材料を主要成分として含有する電気化学デバイス用電極。
(14)(12)又は(13)に記載の電極を具備する電気化学デバイス。
(15)ナトリウムイオン二次電池、ナトリウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタのいずれかである(4)又は(14)に記載の電気化学デバイス。
(16)前記電極材料を正極に用い、電解液が非水系である(4)、(14)、(15)のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
(17)前記電極材料を負極に用い、電解液が水系である(4)、(14)、(15)のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【0019】
(18)前記ナトリウム源が、ナトリウムアルコキシド、ナトリウム水酸化物、ナトリウム塩から選択される1種又は2種以上である(5)〜(7)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
(19)前記金属源が、金属アルコキシド、金属塩から選択される1種又は2種以上である(5)〜(7)、(18)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
(20)前記原料溶液における前記金属源の金属濃度が0.01〜0.5Mである(5)〜(7)、(18)、(19)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
(21)前記リン源が、リン酸、リン酸塩から選択される1種又は2種以上である(5)〜(7)、(18)〜(20)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
(22)前記ポリマーが、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリルから選択される1種又は2種以上である(5)〜(7)、(18)〜(21)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
(23)前記溶媒が、水、アルコール類から選択される1種又は2種以上である(5)〜(7)、(18)〜(22)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一次元ナノ構造体は、ナトリウムイオン二次電池、ナトリウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等の電気化学デバイスの電極材料として用いたときに高出力特性が期待できる。
本発明の一次元ナノ構造体は、均一に混合されたカーボンを含有することができ、その場合には、導電性が向上するので、さらに高い高出力特性が期待できる。
また、本発明のエレクトロスピニング法を含む一次元ナノ構造体の製造方法によれば、電気化学デバイスの電極材料に用いたときに前述のような高出力特性が期待できるNASICON型Na3-xLixM2(PO4)3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上である。0≦x≦3)を主要成分として含有する一次元ナノ構造体を容易に製造することができる。
本発明のエレクトロスピニング法を含む一次元ナノ構造体の製造方法によれば、カーボンが均一に混合され、さらに高出力特性が期待できる一次元ナノ構造体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例の製造方法により、エレクトロスピニング後、コレクターから剥離して得られた前駆体ファイバー(一次元ナノ体)のSEM像を示す図面。
図2】前駆体ファイバー(一次元ナノ体)の熱処理後のサンプル(実施例の一次元ナノ構造体)のXRDを示す図面。
図3】前駆体ファイバー(一次元ナノ体)の熱処理後のサンプル(実施例の一次元ナノ構造体)のラマンスペクトルを示す図面。
図4】前駆体ファイバー(一次元ナノ体)を熱処理した後のNASICON型Na3V2(PO4)3を主要成分として含有する実施例の一次元ナノ構造体のSEM像を示す図面。
図5】NASICON型Na3V2(PO4)3を主要成分として含有する実施例の一次元ナノ構造体を電極材料として用いたナトリウムイオン二次電池のサイクル特性と充放電曲線を示す図面。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一次元ナノ構造体は、結晶性のNASICON型Na3-xLixM2(PO4)3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。0≦x≦3)を主要成分として含有し、直径又は幅が10nmから1000nm(好ましくは20〜800nm、より好ましくは30〜600nm)のものである。
該一次元ナノ構造体の断面形状は、通常は円形であるが、円形に限定されず、楕円形、多角形、その他の異形等であっても良い。
該一次元ナノ構造体は、後述のようにエレクトロスピニング法によって好適に製造できる。
【0023】
該一次元ナノ構造体は、その主要成分として(通常、80〜100wt%程度、好ましくは85〜99wt%程度)NASICON型Na3-xLixM2(PO4)3を含有する。他の成分としては、限定するものではないが、導電剤乃至導電助剤としてのカーボン等を含有することができる。また、NASICON型Na3-xLixM2(PO4)3の活物質機能を大きく阻害しない範囲で、他の活物質や各種添加剤を含有することもできる。
カーボンの含有量は、限定するものではないが、0.1〜20wt%程度、好ましくは10〜20wt%程度、さらに好ましくは11〜14wt%程度とすることができる。なお、該一次元ナノ構造体を負極電極材料として用いた場合、該一次元ナノ構造体に含まれるカーボンは、0V(vs.Li/Li+)付近でLiの貯蔵特性も示す。
【0024】
本発明の一次元ナノ構造体の製造方法は、限定されないが、好適には、次のようなプロセスによって簡易に製造することができる。
(1)ナトリウム源、V、Ti、Feから選択される少なくとも1種の金属源、リン源、ポリマー、及び、溶媒からなる原料溶液を調製する工程。
(2)調製された原料溶液を用いてエレクトロスピニング法により前駆体の一次元ナノ体(前駆体ファイバー)を得る工程。
(3)該前駆体一次元ナノ体を熱処理して結晶性のNASICON型Na3M2(PO4)3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。)を主要成分として含有する一次元ナノ構造体とする工程。
【0025】
さらに、次の(4)の工程を付加することもできる。
(4)上記(3)で製造された一次元ナノ構造体のNASICON型Na3M2(PO4)3について、さらに、Liでイオン交換処理を行い、NASICON型Na3-xLixM2(PO4)3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。0<x≦3)とする工程。
【0026】
上記ナトリウム源としては、限定するものではないが、ナトリウムアルコキシド、ナトリウム水酸化物、酢酸塩、硝酸塩等のナトリウム塩など、水、アルコール溶液等の溶媒に溶けやすいものが望ましい。必要に応じて、酸・塩基の調整や安定剤を添加することでより安定な溶液の調整ができる。
【0027】
前記金属源の金属としては、NASICON型結晶構造を構成する元素として知られるV、Fe、Tiを用いることができる。
該金属源としては、限定するものではないが、金属アルコキシド、酢酸塩、硝酸塩、塩化物などの金属塩など、水、アルコール溶液等の溶媒に溶けやすいものが望ましい。特にバナジウム源としては、メタバナジン酸アンモニウム、バナジウム塩化物などが挙げられる。
原料溶液における前記金属の濃度は、限定するものではないが、好ましくは0.01〜0.5M、より好ましくは0.05〜0.4M、さらに好ましくは0.1〜0.3Mである。
【0028】
前記リン源としては、限定するものではないが、リン酸や、リン酸二水素アンモニウム、リン酸トリエチルなどのリン酸塩などが望ましい。
前記ポリマーとしては、限定するものではないが長鎖型高分子が望ましく、例えば、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリル等が挙げられる。前記原料溶液におけるポリマーの添加量は、限定するものではないが、40〜80g/l、好ましくは50〜70g/lとすることができる。
【0029】
前記溶媒としては、限定するものではないが、水や、メタノール、エタノール等のアルコール類が挙げられる。
前記原料溶液における前記ナトリウム源とリン源の添加量は、金属源の前述のような金属濃度に対しNa3V2(PO4)3の化学量論比となるように溶媒中に混合する。
前記原料溶液は、溶液の均一性や粘度の調整などのために、各種の添加剤を含有することができる。そのような添加剤としては、酢酸、塩酸、硝酸等の各種酸類や、各種塩基類が挙げられる。ナトリウム源、金属源、リン源、及び、ポリマーが溶媒中に均一に溶解してなる透明な溶液がエレクトロスピニングに適した原料溶液である。
【0030】
エレクトロスピニングの電圧としては、5kVから39kV(好ましくは10〜30kV)の電圧にてのナノワイヤーの作製が望ましい。
【0031】
スピニングで形成された前駆体ファイバー(一次元ナノ体)は、アルミホイル等のコレクターで収集される。コレクターで収集された前駆体ファイバーは、真空乾燥等の適宜の乾燥手段乃至溶媒除去手段により溶媒が除去され、コレクターから除去後又はコレクターと共に、500〜900℃(好ましくは600〜880℃、より好ましくは700〜870℃、さらに好ましくは750〜850℃)で不活性雰囲気又は還元雰囲気での熱処理によって結晶性のNASICON型Na3M2(PO4)3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。)となる。
熱処理温度が高いと、一般的に、結晶性が高くなる一方で、粒成長してしまう懸念があるが、本発明の一次元ナノ構造体の場合、その懸念があまりない。そのため、熱処理温度を比較的高くすることができ、XRDピーク半値幅が0.5°以下(好ましくは0.3°以下、より好ましくは0.2°以下)のピークで示されるような高い結晶性とすることができる。
【0032】
不活性雰囲気での熱処理により、ポリマーやその他有機物の一部をカーボン化することもできる。その場合、カーボンが一次元ナノ構造体中に均一に混合されているので、電極材料とした場合、その導電性が向上し、さらに高出力特性が期待できるようになる。
【0033】
上記(3)の工程で製造された一次元ナノ構造体のNASICON型Na3M2(PO4)3についての上記(4)の工程におけるLiでのイオン交換処理は、例えば、US5,910,382に記載されたような公知の方法により容易に実施することができる。
【0034】
製造された一次元ナノ構造体は、フッ素系樹脂等のバインダー、集電体、必要により、カーボン粉等の導電剤や導電助剤などと共に電気化学デバイス用の電極に形成することができる。
エレクトロスピニング法で用いたコレクターが集電体として利用できる場合には、バインダーは必ずしも必要ではなく、一次元ナノ構造体が付着したコレクターの加圧、成形等により電極に形成することもできる。
【0035】
形成された電極は、対極の材料によって、正極、負極のいずれにも使用できるが、対極としてカーボン材料やナトリウムやリチウムの金属や合金、LiTi2(PO4)3、NaTi2(PO4)3等を用いる場合には、正極として使用する。
また、対極としてNa3-xLixM2(PO4)3よりも電位が高いNa3M2(PO4)2F3(式中MはTi、V、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。)、Na5-xLixM2(PO4)3等を用いる場合には、負極として使用する。
【0036】
電解液としては、水系、非水系のどちらでも採用できるが、水の電気分解を防止して高い起電力を得るためには、非水系のものが採用される。
非水系電解液を構成する有機溶媒としては、非水電解液二次電池用の公知のものをいずれも使用することができる。そのような有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類などを挙げることができ、これらの一種又は二種以上を使用する。非水系電解液は、難燃剤等の各種添加剤を含有することもできる。
【0037】
水系電解液における電解質塩としては、限定するものではないが、NaPF6、NaNO3、NaOH、NaCl、Na2SO4、Na2S等が挙げられる。
非水系電解液における電解質塩としては、限定するものではないが、NaClO4、NaPF6、Sodium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide(NaTFSI)、LiClO4、LiPF6、LiBF4、CH3SO3Li、LiCl、LiBr、Lithium Bis(Trifluoromethanesulfonyl)Imide(LiTFSI)等を挙げることができる。
非水系電解液における電解質塩の添加量は、非水系電解液の導電率が充分に高くて内部抵抗を低く保つことができ、低温で塩が析出して不具合を生じることがないように設定される。通常は、0.3〜3.0mol/l、より好ましくは、0.5〜2.0mol/lである。
【0038】
本発明の電気化学デバイスとしては、限定するものではないが、ナトリウムイオン二次電池、ナトリウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等が挙げられる。
ナトリウムやリチウムの二次電池は、正極、負極、電解液の外、セパレータ、電池ケース等を具備することができる。
電池の形状としては、円筒形、角形、コイン型、ボタン型、ペーパー型などを含め何ら限定されず、様々な形状を採用することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、各種材料変更、設定調整等を適宜行うことができる。
【0040】
(実施例1)
<結晶性NASICON型Na3V2(PO4)3を主要成分として含む一次元ナノ構造体の製造>
水酸化ナトリウム(0.225M)、メタバナジン酸アンモニウム(0.15M)、リン酸二水素アンモニウム(0.225M)、クエン酸(0.12M)、ポリアクリル酸(60g/l)をイオン交換水(10ml)に入れ、90℃にて1時間エージングし、室温で撹拌することでエレクトロスピニング法用の原料溶液を得た。
得られた原料溶液を用いて、カトーテック株式会社製ナノファイバーエレクトロスピニングユニットにより18kVの電圧を印加し、アルミホイルコレクターに一次元ナノ構造体の前駆体ファイバー(一次元ナノ体)を収集した。110℃において1時間、真空乾燥を行った後、前駆体ファイバーをアルミホイルコレクターから剥がした。剥がした前駆体ファイバーのSEM(Scanning Electron Microscopy)像を図1に示す。これらの剥がした前駆体ファイバー(一次元ナノ体)を電気炉を用いてアルゴン雰囲気下にて800℃、10時間の熱処理を行うことでNASICON型一次元ナノ構造体を得た。図2に得られた一次元ナノ構造体のXRDパターンを示す。NASICON型Na3V2(PO4)3に起因するパターンを示している。シャープなパターン(XRDピーク半値幅が約0.15°程度)が得られたことから高い結晶性を有していることが分かる。ラマン測定(図3)からは、カーボン由来のG-band、D-bandが確認され、XRDとラマン測定からNASICON型Na3V2(PO4)3とカーボンの複合材料が得られたことが分かる(カーボンの含有量約10wt%程度、残部がNASICON型Na3V2(PO4)3)。
得られた材料は、SEM像(図4)から分かるように一次元ナノ構造体であり、一次元ナノ構造体の直径は数十nmから数100nm程度であることが分かった。
【0041】
(実施例2)
<前記一次元ナノ構造体を電極材料とする充放電試験>
実施例1で得られた一次元ナノ構造体(85wt%)と導電助剤であるアセチレンブラック(10wt%)および結着剤のポリテトラフルオロエチレン(5wt%)を混合し、ペースト化を行った。このペーストをSUS304メッシュ集電体にプレスし、これを電極とした。参照極および対極に金属Naを用いて1MのNaClO4をプロピレンカーボネートの溶媒に溶解した有機電解液を用い、不活性ガスであるアルゴンを充填したグローブボックス内で3電極式ビーカーセルを作製した。電流密度0.05、0.1、0.2、0.5、1Cレートで充放電特性を評価した。図5に充放電曲線を示した。図5から明らかなように、比較的良好な高出力特性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の結晶性のNASICON型Na3-xLixM2(PO4)3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。0≦x≦3)を主要成分として含有する一次元ナノ構造体は、ナトリウムイオン二次電池、ナトリウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等の電気化学デバイスの電極材料として用いたときに大容量、高出力特性が期待できるので、各種のモバイル機器、定置型電源、自動車用電池等の様々な用途で利用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5