【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウムイオン電池においては、高出力化のためにナノ電極材料やナノ活物質を合成し、これを電池に用いることで高出力型特性を示す報告が多数ある(例えば、非特許文献1参照)。ナトリウムイオン電池においても同様にナノ材料を用いた高出力型電極材料や活物質の作製が望まれている。
【0007】
二次電池電極材料の特性の向上には、微粒化だけでなく、材料の結晶性の向上にも関係しているが、一般にナノ粒子材料を高い温度での熱処理を行うと、結晶性は向上するが、大きく粒成長もしてしまうため、出力特性の向上に却って不利となる可能性もある。
【0008】
そのような問題を解決するため、本発明者らは、水熱法を用いて単結晶LiMn
2O
4ナノワイヤーを合成し、リチウムイオン二次電池用活物質として大きな容量と安定したサイクル特性を示すことを明らかにした(特許文献4参照)。
【0009】
しかしながら、水熱法で単結晶LiMn
2O
4ナノワイヤーを大量に簡易に合成するには、そのためのプロセスを開発する必要があるという問題点が存在している。また、水熱法では、合成できる電極材料や活物質の種類に制約があり、NASICON(Na Super Ionic Conductor)型などの電極材料や活物質については、水熱法を用いてナノワイヤー(一次元ナノ構造体)を作製するのは不可能であると考えられる。
【0010】
さらに、高出力型特性のための高い導電性を付与するためには、水熱法で合成された活物質を導電助剤とボールミルで混合することが必要であるが、そのようなボールミルによる混合は、活物質材料の結晶性を低下させると考えられる上に、均一な混合を実現するための簡易なプロセスとは言えず、製造工程の簡略化の点で望ましくない。
【0011】
したがって、本発明は、一次元ナノ構造体の材料としては公知でない材料製の一次元ナノ構造体であって、ナトリウムイオン二次電池やナトリウムイオンキャパシタ等の電気化学デバイスの電極材料として用いたときに高出力特性が期待できる一次元ナノ構造体を提供することを第1の課題とする。
また、本発明は、第1の課題に加え、導電性向上のためのカーボンを含有する一次元ナノ構造体を提供することを第2の課題とする。
また、本発明は、一次元ナノ構造体の材料としては公知でない材料製の一次元ナノ構造体の製造方法であって、ナトリウムイオン二次電池やナトリウムイオンキャパシタ等の電気化学デバイスの電極材料として用いたときに高出力特性が期待できる一次元ナノ構造体の簡易な製造方法を提供することを第3の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記特許文献4に関連した試験・研究過程において、水熱法により各種の活物質を合成することを検討したが、合成できる活物質の種類に制約があること、導電助剤の混合プロセスに問題点があること等を知見した。
そこで、本発明者らは、水熱法以外の一次元ナノ構造体の製造法について、種々検討した。そのような検討の中で、本発明者らは、エレクトロスピニング法を利用し、種々の活物質を製造することを着想した。
【0013】
エレクトロスピニング法は、ゾル−ゲル溶液やMOD(Metal Organic Decomposition;金属有機化合物分解法)溶液に高分子を溶かし、電圧を印加することによってファイバー状の前駆体を得る手法であり、前駆体ファイバーを焼成することでファイバー状の無機材料を得ることができるとされている。
【0014】
エレクトロスピニング法を利用した電気化学デバイス用材料の製造例としては、エレクトロスピニング法により製造された合成樹脂製連続長繊維の表面を電解メッキして導電性不織布からなる集電体とするもの(特許文献5参照)、エレクトロスピニング法により得られた芳香族ポリアミド極細繊維をセパレータとして用いるもの(特許文献6参照)等が知られている。
また、エレクトロスピニング法を利用した活物質や電極材料の製造については、エレクトロスピニング法により得られたピッチ繊維を熱処理して炭素繊維負極材料とするもの(特許文献7参照)、エレクトロスピニング法により得られた繊維状硫黄に導電性ポリマーとなるモノマーを吸着させた後、該モノマーを重合させて繊維状硫黄と導電性ポリマーからなる電極材料とするもの(特許文献8参照)等のように、種々の活物質の合成例はあるが、NASICONは報告されていない。
【0015】
本発明者らは、このようなエレクトロスピニング法を利用して電気化学デバイス用の活物質化合物を製造することを検討し、その検討過程において、エレクトロスピニング法により活物質化合物の前駆体である一次元ナノ体(連続長ファイバー状等のナノファイバー状物)を形成するには、活物質化合物を構成する各種元素の化合物等を均一に溶解した原料溶液が必要であること、一次元ナノ体の熱処理により求められる電極材料や活物質の一次元ナノ構造体(連続長ファイバー状構造体等のナノファイバー状構造体)を得るには、電極材料や活物質の種類に応じて前記各種元素の化合物を適切に選択する必要があること等の問題点が存在することが明らかとなった。そのような問題点の解決を模索する過程で、リチウムイオン二次電池電極材料用の高結晶性のaLi
2MnO
3-(1-a)Li(Ni
x,Co
y,Mn
z)O
2系ナノ構造電極材料については、本発明者らはその製造を行うことができた(特許文献9参照)。
【0016】
本発明者は、ナトリウムイオン二次電池等の電極材料用一次元ナノ構造体をエレクトロスピニング法により製造することを課題とし、さらに数多くの活物質について、それぞれ数多くの原料を試行し、エレクトロスピニング法に用いる原料混合物液として、均一な原料溶液を得ることができるか否か、均一な原料溶液が得られた場合に、該原料溶液からエレクトロスピニング法により形成されるファイバー状体(一次元ナノ体)を熱処理した場合、ナトリウムイオン二次電池等の活物質として利用できる化合物になるか否か、等を試験・研究する過程において、次の(ア)〜(ウ)などのような知見を得た。
(ア)Na
3M
2(PO
4)
3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。)については、その原料として特定の化合物等の組み合わせを選択することにより、その原料混合物を均一な溶液とすることができ、エレクトロスピニング法によりファイバー状(一次元ナノ体)に形成することができ、該一次元ナノ体を不活性雰囲気又は還元正雰囲気で500〜900℃の温度で熱処理すると、NASICON型の結晶構造とすることができる。
(イ)結晶性のNASICON型Na
3M
2(PO
4)
3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。)を主要成分として含有する一次元ナノ構造体は、ナトリウムイオン二次電池等の電極材料として用いたときに高出力特性を示す。
(ウ)NASICON型の結晶性Na
3M
2(PO
4)
3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。)は、Liでイオン交換することにより、結晶性のNASICON型Na
3-xLi
xM
2(PO
4)
3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。0<x≦3)とすることができる。
【0017】
本発明は、上述のような知見に基づくものであり、次のような発明が提供される。
(1)結晶性のNASICON型Na
3-xLi
xM
2(PO
4)
3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。0≦x≦3)を主要成分として含有し、直径又は幅が10〜1000nmである一次元ナノ構造体。
(2)カーボンを含有するものである(1)に記載の一次元ナノ構造体。
(3)(1)又は(2)に記載の一次元ナノ構造体からなる電気化学デバイス用電極材料。
(4)(3)に記載の電極材料を含む電気化学デバイス。
(5)結晶性のNASICON型Na
3M
2(PO
4)
3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。)を主要成分として含有し、直径又は幅が10〜1000nmである一次元ナノ構造体の製造方法であって、ナトリウム源、V、Ti、Feから選択される少なくとも1種の金属源、リン源、ポリマー、及び、溶媒からなる原料溶液を調製する工程、調製された原料溶液を用いてエレクトロスピニング法により前駆体の一次元ナノ体を得る工程、該前駆体一次元ナノ体を熱処理して一次元ナノ構造体とする工程、を含む一次元ナノ構造体の製造方法。
(6)一次元ナノ構造体がカーボンを含有するものである(5)に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
(7)結晶性のNASICON型Na
3-xLi
xM
2(PO
4)
3(式中Mは、V、Ti、Feから選択される1種又は2種以上の金属元素である。0<x≦3)を主要成分として含有し、直径又は幅が10〜1000nmである一次元ナノ構造体の製造方法であって、(5)又は(6)に記載の製造方法により製造された一次元ナノ構造体のNASICON型Na
3M
2(PO
4)
3について、さらに、Liでイオン交換処理を行う工程を含む一次元ナノ構造体の製造方法。
【0018】
本発明は、次のような態様を含むことができる。
(8)NASICON型Na
3-xLi
xM
2(PO
4)
3は、XRD(X-ray Diffraction)ピーク半値幅が0.2°以下のピークを持つものである(1)又は(2)に記載の一次元ナノ構造体。
(9)Na
3-xLi
xM
2(PO
4)
3の含有量が85〜100wt%である(1)、(2)、(8)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体。
(10)カーボン含有量が0.01〜15wt%である(2)に記載の一次元ナノ構造体。
(11)(8)〜(10)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体からなる電気化学デバイス用電極材料。
(12)(1)、(2)、(8)〜(10)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体を主要成分として含有する電気化学デバイス用電極。
(13)(11)に記載の電極材料を主要成分として含有する電気化学デバイス用電極。
(14)(12)又は(13)に記載の電極を具備する電気化学デバイス。
(15)ナトリウムイオン二次電池、ナトリウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタのいずれかである(4)又は(14)に記載の電気化学デバイス。
(16)前記電極材料を正極に用い、電解液が非水系である(4)、(14)、(15)のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
(17)前記電極材料を負極に用い、電解液が水系である(4)、(14)、(15)のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【0019】
(18)前記ナトリウム源が、ナトリウムアルコキシド、ナトリウム水酸化物、ナトリウム塩から選択される1種又は2種以上である(5)〜(7)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
(19)前記金属源が、金属アルコキシド、金属塩から選択される1種又は2種以上である(5)〜(7)、(18)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
(20)前記原料溶液における前記金属源の金属濃度が0.01〜0.5Mである(5)〜(7)、(18)、(19)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
(21)前記リン源が、リン酸、リン酸塩から選択される1種又は2種以上である(5)〜(7)、(18)〜(20)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
(22)前記ポリマーが、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリルから選択される1種又は2種以上である(5)〜(7)、(18)〜(21)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
(23)前記溶媒が、水、アルコール類から選択される1種又は2種以上である(5)〜(7)、(18)〜(22)のいずれか1項に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。