【課題を解決するための手段】
【0008】
近年、白色LEDが携帯電話や様々な表示装置に用いられると同時に省エネルギーなどの観点から蛍光灯の代わりの室内照明装置としても注目されている。白色LEDは近紫外や青色LEDを励起光源とし、種々の波長に発光強度を持つ蛍光体を組み合わせて白色光を生み出している。具体的には青色LEDを励起光に黄色や、緑色、赤色蛍光体を発光させて白色光を得るものが知られている(特許文献3等参照)。このような白色光LEDは、視覚上の白色光を提供するものの、色抜けや特定波長のみに強い発光を示すなどの問題点があり、上述のAM1.5全天日射基準の疑似太陽光とはかけ離れたもので、そのような白色LEDは、疑似太陽光照射装置として使用出来るものではなかった。
【0009】
紫外LEDと蛍光体とを組み合わせてAM1.5全天日射基準の疑似太陽光を実現するには、非常に多数の蛍光体材料を使用する必要があると考えられてきており、しかも、多数の蛍光体の選定と配合量の調整に膨大な試行錯誤を必要とすることが想定されていた。その上、蛍光体の特定波長の外部量子効率及びスペクトル形状のデータベースはほとんど整備されてきていない。また、蛍光体の特定波長の外部量子効率及びスペクトル形状のデータベースが仮に存在していたとしても、複数種の蛍光体を混在させた場合の多段励起(それぞれの蛍光体の発光による別の蛍光体の光の再吸収と再発光)などの問題により実際のスペクトルを計算により導き出すことは大変困難であることが想定されていた。そのため、紫外LEDと蛍光体とを組み合わせたAM1.5全天日射基準の疑似太陽光照射装置は、これまで全く実現されてこなかったし、ほとんど実現不可能のように考えられてきていた。
【0010】
本発明者は、他の研究者等が見向きもせず、あまり注目されてこなかったバナジウム酸化物蛍光体が、太陽光のスペクトル範囲に比較的近いブロードなスペクトルを示すことを独自に見出した。そして、1、2種類程度の少数種類の励起光源と、バナジウム酸化物蛍光体との組み合わせを基本として、さらに、複数種類の蛍光体粉末とを組み合わせれば、AM1.5全天日射基準の疑似太陽光を得るための複数種類の蛍光体の選定や配合量の調整が比較的容易となるのではないかとの着想に基づいて数多くの試験研究を行い次のような知見を得た。
〔1〕太陽光のスペクトル範囲に比較的近いブロードなスペクトルを示すバナジウム酸化物蛍光体の蛍光スペクトルを基本とすれば、それ以外のスペクトル抜けを比較的少数種類の他の蛍光体の蛍光スペクトルで補うことが出来る。
〔2〕バナジウム酸化物蛍光体のスペクトルを補うには、次の(1)、(2)の2種類の蛍光体を併用することが有効である。特に、Eu
2+やMn
2+を含むケイ酸塩蛍光体やアルミノケイ酸塩蛍光体は、一つの蛍光体でスペクトル半値幅100nmを超える蛍光を得ることが出来るため、効果的にバナジウム酸化物蛍光体のスペクトルを補うことが出来る。
(1)Eu
2+及びMn
2+の少なくとも一方が添加されたケイ酸塩蛍光体並びに/又はEu
2+及びMn
2+の少なくとも一方が添加されたアルミノケイ酸塩蛍光体
(2)Fe
2+添加ガリウム酸塩蛍光体及び/又はFe
2+添加アルミン酸塩蛍光体
〔3〕バナジウム酸化物蛍光体として、特に、CsVO
3とZn
3V
2O
8を採用した場合には、その2種類だけで400〜900nmに広がったスペクトルを示すので、疑似太陽光スペクトルの基本となるスペクトルとして非常に望ましい。
〔4〕さらに、近赤外・赤外LEDとの組み合わせによって、より長波長領域(〜1100nm)についてもスペクトル近似度を高めることが出来る。
【0011】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、この出願によれば、以下の発明が提供される。
<1>300〜400nmの範囲に最大強度を持つ紫外励起光の光源と、該紫外励起光の光路上に配置された蛍光体粉末とを具備し、該蛍光体粉末から発生する蛍光と透過励起光を350から750nm迄の50nm毎の範囲でスペクトル積分したときに得られる値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%の範囲内で近似することを特徴とする疑似太陽光照射装置。
<2>前記紫外励起光の光源が紫外LEDである<1>に記載の疑似太陽光照射装置。
<3>前記蛍光体粉末が次の(1)〜(3)の成分からなるものである<1>又は<2>に記載の疑似太陽光照射装置。
(1)バナジウム酸化物蛍光体
(2)Eu
2+及びMn
2+の少なくとも一方が添加されたケイ酸塩蛍光体、並びに、Eu
2+及びMn
2+の少なくとも一方が添加されたアルミノケイ酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも一つ
(3)Fe
2+添加ガリウム酸塩蛍光体及び/又はFe
2+添加アルミン酸塩蛍光体
<4> 前記蛍光体粉末が、次の(ア)〜(ウ)の成分からなるものである<1>〜<3>のいずれか1項に記載の疑似太陽光照射装置。
(ア)CsVO
3及びZn
3V
2O
8の少なくとも一つ
(イ)Eu
2+及びMn
2+の少なくとも一方が添加されたAe
3MgSi
2O
8(AeはCa、Sr、Baのうち少なくとも一つから選ばれ、Eu、Mnの添加量に相当する欠損を含んでいても良い)、Eu
2+及びMn
2+の少なくとも一方が添加されたAeMg
2Si
2O
7(AeはCa、Sr、Baのうち少なくとも一つから選ばれ、Eu、Mnの添加量に相当する欠損を含んでいても良い)、並びに、Eu
2+及びMn
2+の少なくとも一方が添加されたAeAl
2Si
2O
8(AeはCa、Sr、Baのうち少なくとも一つから選ばれ、Eu、Mnの添加量に相当する欠損を含んでいても良い)から選ばれる少なくとも一つ
(ウ)Fe
2+添加LiMO
2(MはGa及びAlの少なくとも一つから選ばれる)
<5>該蛍光体粉末から発生する蛍光と透過励起光を350から750nm迄の50nm毎の範囲でスペクトル積分したときに得られる値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±25%の範囲内で近似する<1>〜<4>のいずれか1項に記載の疑似太陽光照射装置。
<6><1>〜<5>のいずれか1項に記載の疑似太陽光照射装置に近赤外及び赤外発光を有するLEDを組み合わせ、400から900nm迄の100nm毎の範囲でスペクトル積分した値、及び900nmから1100nm迄の範囲でスペクトル積分した値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%の範囲内で近似することを特徴とする広帯域疑似太陽光照射装置。
<7>照射する光を350から750nm迄の50nm毎の範囲でスペクトル積分したときに得られる値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%の範囲内で近似する疑似太陽光照射装置に用いる蛍光体粉末であって、次の(1)〜(3)の成分からなるものである蛍光体粉末。
(1)バナジウム酸化物蛍光体
(2)Eu
2+及びMn
2+の少なくとも一方が添加されたケイ酸塩蛍光体、並びに、Eu
2+及びMn
2+の少なくとも一方が添加されたアルミノケイ酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも一つ
(3)Fe
2+添加ガリウム酸塩蛍光体及び/又はFe
2+添加アルミン酸塩蛍光体
【0012】
本発明は、次のような態様を含むことが出来る。
<8>前記蛍光体粉末が、(a)CsVO
3、(b)Zn
3V
2O
8、(c)Ba
2.91MgSi
2O
8:Eu
0.04Mn
0.05、(d)Ba
1.83Sr
0.5Ca
0.5MgSi
2O
8:Eu
0.02Mn
0.15、(e)Sr
2.83MgSi
2O
8:Eu
0.02Mn
0.15、(f)Ca
2.83MgSi
2O
8:Eu
0.02Mn
0.15、(g)Ba
0.985Mg
1.8Si
2O
7:Eu
0.015Mn
0.2、(h)Ba
0.95Al
2Si
2O
8:Eu
0.05、(i)Sr
0.95Al
2Si
2O
8:Eu
0.05、(j)LiGaO
2:Fe
0.01からなるものである、<1>〜<5>のいずれか1項に記載の疑似太陽光照射装置。
<9>(a)〜(j)の各成分の配合量が、(a)0.45〜0.54重量%、(b)7.89〜8.72重量%、(c)0.55〜0.64重量%、(d)1.33〜1.47重量%、(e)0.75〜0.84重量%、(f)1.14〜1.26重量%、(g)11.21〜12.39重量%、(h)1.24〜1.37重量%、(i)1.90〜2.10重量%、(j)68.50〜75.71重量%である、<8>に記載の疑似太陽光照射装置。
<10>(a)〜(j)の各成分の配合量が、(a)0.45〜0.54重量%、(b)8.13〜8.47重量%、(c)0.55〜0.64重量%、(d)1.35〜1.44重量%、(e)0.75〜0.84重量%、(f)1.15〜1.24重量%、(g)11.56〜12.04重量%、(h)1.25〜1.34重量%、(i)1.95〜2.04重量%、(j)70.66〜73.54重量%である、<8>又は<9>に記載の疑似太陽光照射装置。
<11><8>〜<10>のいずれか1項に記載の疑似太陽光照射装置に近赤外及び赤外発光を有するLEDを組み合わせ、400から900nm迄の100nm毎の範囲でスペクトル積分した値、及び900nmから1100nm迄の範囲でスペクトル積分した値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%の範囲内で近似することを特徴とする広帯域疑似太陽光照射装置。
<12>400から900nm迄の100nm毎の範囲でスペクトル積分した値、及び900nmから1100nm迄の範囲でスペクトル積分した値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±25%の範囲内で近似することを特徴とする<6>又は<11>に記載の広帯域疑似太陽光照射装置。
<13>次の(ア)〜(ウ)の成分からなるものである<7>に記載の蛍光体粉末。
(ア)CsVO
3及びZn
3V
2O
8の少なくとも一つ
(イ)Eu
2+及びMn
2+の少なくとも一方が添加されたAe
3MgSi
2O
8(AeはCa、Sr、Baのうち少なくとも一つから選ばれ、Eu、Mnの添加量に相当する欠損を含んでいても良い)、Eu
2+及びMn
2+の少なくとも一方が添加されたAeMg
2Si
2O
7(AeはCa、Sr、Baのうち少なくとも一つから選ばれ、Eu、Mnの添加量に相当する欠損を含んでいても良い)、並びに、Eu
2+及びMn
2+の少なくとも一方が添加されたAeAl
2Si
2O
8(AeはCa、Sr、Baのうち少なくとも一つから選ばれ、Eu、Mnの添加量に相当する欠損を含んでいても良い)から選ばれる少なくとも一つ
(ウ)Fe
2+添加LiMO
2(MはGa及びAlの少なくとも一つから選ばれる)
<14>(a)CsVO
3、(b)Zn
3V
2O
8、(c)Ba
2.91MgSi
2O
8:Eu
0.04Mn
0.05、(d)Ba
1.83Sr
0.5Ca
0.5MgSi
2O
8:Eu
0.02Mn
0.15、(e)Sr
2.83MgSi
2O
8:Eu
0.02Mn
0.15、(f)Ca
2.83MgSi
2O
8:Eu
0.02Mn
0.15、(g)Ba
0.985Mg
1.8Si
2O
7:Eu
0.015Mn
0.2、(h)Ba
0.95Al
2Si
2O
8:Eu
0.05、(i)Sr
0.95Al
2Si
2O
8:Eu
0.05、(j)LiGaO
2:Fe
0.01からなるものである、<7>又は<13>に記載の蛍光体粉末。
<15>(a)〜(j)の各成分の配合量が、(a)0.45〜0.54重量%、(b)7.89〜8.72重量%、(c)0.55〜0.64重量%、(d)1.33〜1.47重量%、(e)0.75〜0.84重量%、(f)1.14〜1.26重量%、(g)11.21〜12.39重量%、(h)1.24〜1.37重量%、(i)1.90〜2.10重量%、(j)68.50〜75.71重量%である、<14>に記載の蛍光体粉末。
<16>(a)〜(j)の各成分の配合量が、(a)0.45〜0.54重量%、(b)8.13〜8.47重量%、(c)0.55〜0.64重量%、(d)1.35〜1.44重量%、(e)0.75〜0.84重量%、(f)1.15〜1.24重量%、(g)11.56〜12.04重量%、(h)1.25〜1.34重量%、(i)1.95〜2.04重量%、(j)70.66〜73.54重量%である、<14>又は<15>に記載の蛍光体粉末。