特許第6186569号(P6186569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6186569疑似太陽光照射装置及び該装置用蛍光体粉末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186569
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】疑似太陽光照射装置及び該装置用蛍光体粉末
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20170821BHJP
【FI】
   H01L33/50
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-193089(P2013-193089)
(22)【出願日】2013年9月18日
(65)【公開番号】特開2015-60921(P2015-60921A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】中島 智彦
(72)【発明者】
【氏名】篠田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】土屋 哲男
【審査官】 吉野 三寛
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/152081(WO,A1)
【文献】 特開2001−352101(JP,A)
【文献】 特開2010−031103(JP,A)
【文献】 特開2007−246873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
300〜400nmの範囲に最大強度を持つ紫外励起光の光源と、該紫外励起光の光路上に配置された蛍光体粉末とを具備し、該蛍光体粉末から発生する蛍光と透過励起光を350から750nm迄の50nm毎の範囲でスペクトル積分したときに得られる値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%の範囲内で近似することを特徴とする疑似太陽光照射装置であって、前記蛍光体粉末が、(a)0.45〜0.54重量%のCsVO3、(b)7.89〜8.72重量%のZn328、(c)0.55〜0.64重量%のBa2.91MgSi28:Eu0.04Mn0.05、(d)1.33〜1.47重量%のBa1.83Sr0.5Ca0.5MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(e)0.75〜0.84重量%のSr2.83MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(f)1.14〜1.26重量%のCa2.83MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(g)11.21〜12.39重量%のBa0.985Mg1.8Si27:Eu0.015Mn0.2、(h)1.24〜1.37重量%のBa0.95Al2Si28:Eu0.05、(i)1.90〜2.10重量%のSr0.95Al2Si28:Eu0.05、(j)68.50〜75.71重量%LiGaO2:Fe0.01からなるものである疑似太陽光照射装置
【請求項2】
前記紫外励起光の光源が紫外LEDである請求項1に記載の疑似太陽光照射装置。
【請求項3】
(a)〜(j)の各成分の配合量が、(a)0.45〜0.54重量%、(b)8.13〜8.47重量%、(c)0.55〜0.64重量%、(d)1.35〜1.44重量%、(e)0.75〜0.84重量%、(f)1.15〜1.24重量%、(g)11.56〜12.04重量%、(h)1.25〜1.34重量%、(i)1.95〜2.04重量%、(j)70.66〜73.54重量%である、請求項1又は2に記載の疑似太陽光照射装置。
【請求項4】
該蛍光体粉末から発生する蛍光と透過励起光を350から750nm迄の50nm毎の範囲でスペクトル積分したときに得られる値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±25%の範囲内で近似する請求項1〜のいずれか1項に記載の疑似太陽光照射装置。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の疑似太陽光照射装置に近赤外及び赤外発光を有するLEDを組み合わせ、400から900nm迄の100nm毎の範囲でスペクトル積分した値、及び900nmから1100nm迄の範囲でスペクトル積分した値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%の範囲内で近似することを特徴とする広帯域疑似太陽光照射装置。
【請求項6】
照射する光を350から750nm迄の50nm毎の範囲でスペクトル積分したときに得られる値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%の範囲内で近似する疑似太陽光照射装置に用いる蛍光体粉末であって、前記蛍光体粉末が、(a)0.45〜0.54重量%のCsVO3、(b)7.89〜8.72重量%のZn328、(c)0.55〜0.64重量%のBa2.91MgSi28:Eu0.04Mn0.05、(d)1.33〜1.47重量%のBa1.83Sr0.5Ca0.5MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(e)0.75〜0.84重量%のSr2.83MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(f)1.14〜1.26重量%のCa2.83MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(g)11.21〜12.39重量%のBa0.985Mg1.8Si27:Eu0.015Mn0.2、(h)1.24〜1.37重量%のBa0.95Al2Si28:Eu0.05、(i)1.90〜2.10重量%のSr0.95Al2Si28:Eu0.05、(j)68.50〜75.71重量%LiGaO2:Fe0.01からなるものである蛍光体粉末
【請求項7】
(a)〜(j)の各成分の配合量が、(a)0.45〜0.54重量%、(b)8.13〜8.47重量%、(c)0.55〜0.64重量%、(d)1.35〜1.44重量%、(e)0.75〜0.84重量%、(f)1.15〜1.24重量%、(g)11.56〜12.04重量%、(h)1.25〜1.34重量%、(i)1.95〜2.04重量%、(j)70.66〜73.54重量%である、請求項6に記載の蛍光体粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広帯域発光に好適な紫外・近紫外域の光を励起光として発光する複数種類の粉末を混合して太陽光スペクトルに近似した発光スペクトルを得る手法に関するものであり、より具体的には、紫外励起光源と蛍光体粉末を具備する疑似太陽光照射装置及び該装置用の蛍光体粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池や光触媒の研究開発が極めて盛んに行われている。そこで、開発にあたって作製した試料の特性を測定するために、基準となる疑似太陽光源の需要が高まっている(非特許文献1参照)。疑似太陽光は国際規格で決定されたAM(エアマス)1.5Gで規定されたスペクトル(非特許文献1参照)を再現したものが利用され、キセノンランプやハロゲンランプにエアマスフィルターを用いる疑似太陽光装置がよく知られている(特許文献1参照)。疑似太陽光源の国内規格ではアモルファスSi太陽電池に対応するJIS C 8933(対応波長範囲350〜750nm)及び多結晶Si太陽電池に対応するJIS C 8912(対応波長範囲400〜1100nm)が挙げられ、例えばスペクトル合致度はJIS C 8933では50nm毎の波長範囲内の発光エネルギー積分値がAM1.5Gで規定された太陽光スペクトルと±40%の範囲内であればクラスB、±25%の範囲内であればクラスAと規定される。基準となる太陽光スペクトルはJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルが用いられる。
【0003】
しかしながら、キセノンランプやハロゲンランプの光源寿命は一般的に500時間から2000時間程度と短く、消費電力も大きいことから経済性に解決すべき問題を抱えている。そこで最近になってLED光源を用いた疑似太陽光装置が利用されるようになり、長寿命で消費電力の小さな光源として注目されている(特許文献2参照)。
【0004】
ただし現在用いられているLED疑似太陽光照射装置は半値幅数十nmの発光スペクトルを持つ数十種類を超えるLEDを多数個並べる方式を採用しており、スペクトルや光強度のムラをなくすにはLEDの配列法に精密な制御が必要で配列個数も非常に多数となる問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−48704号公報
【特許文献2】特開2012−221838号公報
【特許文献3】特開平11−31845号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】IEC60904−9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、紫外光源を励起光源とし複数種類の蛍光体粉末を励起して得られる発光スペクトルが350nmから900nmの範囲で太陽光スペクトルに近似し、小型かつ長寿命、省消費電力が可能な疑似太陽光装置を提供することを課題とする。
また、本発明は、350nmから900nmの範囲だけでなく、より長波長領域(〜1100nm)についてもスペクトル近似度を高めた広帯域疑似太陽光照射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
近年、白色LEDが携帯電話や様々な表示装置に用いられると同時に省エネルギーなどの観点から蛍光灯の代わりの室内照明装置としても注目されている。白色LEDは近紫外や青色LEDを励起光源とし、種々の波長に発光強度を持つ蛍光体を組み合わせて白色光を生み出している。具体的には青色LEDを励起光に黄色や、緑色、赤色蛍光体を発光させて白色光を得るものが知られている(特許文献3等参照)。このような白色光LEDは、視覚上の白色光を提供するものの、色抜けや特定波長のみに強い発光を示すなどの問題点があり、上述のAM1.5全天日射基準の疑似太陽光とはかけ離れたもので、そのような白色LEDは、疑似太陽光照射装置として使用出来るものではなかった。
【0009】
紫外LEDと蛍光体とを組み合わせてAM1.5全天日射基準の疑似太陽光を実現するには、非常に多数の蛍光体材料を使用する必要があると考えられてきており、しかも、多数の蛍光体の選定と配合量の調整に膨大な試行錯誤を必要とすることが想定されていた。その上、蛍光体の特定波長の外部量子効率及びスペクトル形状のデータベースはほとんど整備されてきていない。また、蛍光体の特定波長の外部量子効率及びスペクトル形状のデータベースが仮に存在していたとしても、複数種の蛍光体を混在させた場合の多段励起(それぞれの蛍光体の発光による別の蛍光体の光の再吸収と再発光)などの問題により実際のスペクトルを計算により導き出すことは大変困難であることが想定されていた。そのため、紫外LEDと蛍光体とを組み合わせたAM1.5全天日射基準の疑似太陽光照射装置は、これまで全く実現されてこなかったし、ほとんど実現不可能のように考えられてきていた。
【0010】
本発明者は、他の研究者等が見向きもせず、あまり注目されてこなかったバナジウム酸化物蛍光体が、太陽光のスペクトル範囲に比較的近いブロードなスペクトルを示すことを独自に見出した。そして、1、2種類程度の少数種類の励起光源と、バナジウム酸化物蛍光体との組み合わせを基本として、さらに、複数種類の蛍光体粉末とを組み合わせれば、AM1.5全天日射基準の疑似太陽光を得るための複数種類の蛍光体の選定や配合量の調整が比較的容易となるのではないかとの着想に基づいて数多くの試験研究を行い次のような知見を得た。
〔1〕太陽光のスペクトル範囲に比較的近いブロードなスペクトルを示すバナジウム酸化物蛍光体の蛍光スペクトルを基本とすれば、それ以外のスペクトル抜けを比較的少数種類の他の蛍光体の蛍光スペクトルで補うことが出来る。
〔2〕バナジウム酸化物蛍光体のスペクトルを補うには、次の(1)、(2)の2種類の蛍光体を併用することが有効である。特に、Eu2+やMn2+を含むケイ酸塩蛍光体やアルミノケイ酸塩蛍光体は、一つの蛍光体でスペクトル半値幅100nmを超える蛍光を得ることが出来るため、効果的にバナジウム酸化物蛍光体のスペクトルを補うことが出来る。
(1)Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたケイ酸塩蛍光体並びに/又はEu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたアルミノケイ酸塩蛍光体
(2)Fe2+添加ガリウム酸塩蛍光体及び/又はFe2+添加アルミン酸塩蛍光体
〔3〕バナジウム酸化物蛍光体として、特に、CsVO3とZn328を採用した場合には、その2種類だけで400〜900nmに広がったスペクトルを示すので、疑似太陽光スペクトルの基本となるスペクトルとして非常に望ましい。
〔4〕さらに、近赤外・赤外LEDとの組み合わせによって、より長波長領域(〜1100nm)についてもスペクトル近似度を高めることが出来る。
【0011】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、この出願によれば、以下の発明が提供される。
<1>300〜400nmの範囲に最大強度を持つ紫外励起光の光源と、該紫外励起光の光路上に配置された蛍光体粉末とを具備し、該蛍光体粉末から発生する蛍光と透過励起光を350から750nm迄の50nm毎の範囲でスペクトル積分したときに得られる値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%の範囲内で近似することを特徴とする疑似太陽光照射装置。
<2>前記紫外励起光の光源が紫外LEDである<1>に記載の疑似太陽光照射装置。
<3>前記蛍光体粉末が次の(1)〜(3)の成分からなるものである<1>又は<2>に記載の疑似太陽光照射装置。
(1)バナジウム酸化物蛍光体
(2)Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたケイ酸塩蛍光体、並びに、Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたアルミノケイ酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも一つ
(3)Fe2+添加ガリウム酸塩蛍光体及び/又はFe2+添加アルミン酸塩蛍光体
<4> 前記蛍光体粉末が、次の(ア)〜(ウ)の成分からなるものである<1>〜<3>のいずれか1項に記載の疑似太陽光照射装置。
(ア)CsVO3及びZn328の少なくとも一つ
(イ)Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたAe3MgSi28(AeはCa、Sr、Baのうち少なくとも一つから選ばれ、Eu、Mnの添加量に相当する欠損を含んでいても良い)、Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたAeMg2Si27(AeはCa、Sr、Baのうち少なくとも一つから選ばれ、Eu、Mnの添加量に相当する欠損を含んでいても良い)、並びに、Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたAeAl2Si28(AeはCa、Sr、Baのうち少なくとも一つから選ばれ、Eu、Mnの添加量に相当する欠損を含んでいても良い)から選ばれる少なくとも一つ
(ウ)Fe2+添加LiMO2(MはGa及びAlの少なくとも一つから選ばれる)
<5>該蛍光体粉末から発生する蛍光と透過励起光を350から750nm迄の50nm毎の範囲でスペクトル積分したときに得られる値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±25%の範囲内で近似する<1>〜<4>のいずれか1項に記載の疑似太陽光照射装置。
<6><1>〜<5>のいずれか1項に記載の疑似太陽光照射装置に近赤外及び赤外発光を有するLEDを組み合わせ、400から900nm迄の100nm毎の範囲でスペクトル積分した値、及び900nmから1100nm迄の範囲でスペクトル積分した値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%の範囲内で近似することを特徴とする広帯域疑似太陽光照射装置。
<7>照射する光を350から750nm迄の50nm毎の範囲でスペクトル積分したときに得られる値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%の範囲内で近似する疑似太陽光照射装置に用いる蛍光体粉末であって、次の(1)〜(3)の成分からなるものである蛍光体粉末。
(1)バナジウム酸化物蛍光体
(2)Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたケイ酸塩蛍光体、並びに、Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたアルミノケイ酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも一つ
(3)Fe2+添加ガリウム酸塩蛍光体及び/又はFe2+添加アルミン酸塩蛍光体
【0012】
本発明は、次のような態様を含むことが出来る。
<8>前記蛍光体粉末が、(a)CsVO3、(b)Zn328、(c)Ba2.91MgSi28:Eu0.04Mn0.05、(d)Ba1.83Sr0.5Ca0.5MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(e)Sr2.83MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(f)Ca2.83MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(g)Ba0.985Mg1.8Si27:Eu0.015Mn0.2、(h)Ba0.95Al2Si28:Eu0.05、(i)Sr0.95Al2Si28:Eu0.05、(j)LiGaO2:Fe0.01からなるものである、<1>〜<5>のいずれか1項に記載の疑似太陽光照射装置。
<9>(a)〜(j)の各成分の配合量が、(a)0.45〜0.54重量%、(b)7.89〜8.72重量%、(c)0.55〜0.64重量%、(d)1.33〜1.47重量%、(e)0.75〜0.84重量%、(f)1.14〜1.26重量%、(g)11.21〜12.39重量%、(h)1.24〜1.37重量%、(i)1.90〜2.10重量%、(j)68.50〜75.71重量%である、<8>に記載の疑似太陽光照射装置。
<10>(a)〜(j)の各成分の配合量が、(a)0.45〜0.54重量%、(b)8.13〜8.47重量%、(c)0.55〜0.64重量%、(d)1.35〜1.44重量%、(e)0.75〜0.84重量%、(f)1.15〜1.24重量%、(g)11.56〜12.04重量%、(h)1.25〜1.34重量%、(i)1.95〜2.04重量%、(j)70.66〜73.54重量%である、<8>又は<9>に記載の疑似太陽光照射装置。
<11><8>〜<10>のいずれか1項に記載の疑似太陽光照射装置に近赤外及び赤外発光を有するLEDを組み合わせ、400から900nm迄の100nm毎の範囲でスペクトル積分した値、及び900nmから1100nm迄の範囲でスペクトル積分した値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%の範囲内で近似することを特徴とする広帯域疑似太陽光照射装置。
<12>400から900nm迄の100nm毎の範囲でスペクトル積分した値、及び900nmから1100nm迄の範囲でスペクトル積分した値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±25%の範囲内で近似することを特徴とする<6>又は<11>に記載の広帯域疑似太陽光照射装置。
<13>次の(ア)〜(ウ)の成分からなるものである<7>に記載の蛍光体粉末。
(ア)CsVO3及びZn328の少なくとも一つ
(イ)Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたAe3MgSi28(AeはCa、Sr、Baのうち少なくとも一つから選ばれ、Eu、Mnの添加量に相当する欠損を含んでいても良い)、Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたAeMg2Si27(AeはCa、Sr、Baのうち少なくとも一つから選ばれ、Eu、Mnの添加量に相当する欠損を含んでいても良い)、並びに、Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたAeAl2Si28(AeはCa、Sr、Baのうち少なくとも一つから選ばれ、Eu、Mnの添加量に相当する欠損を含んでいても良い)から選ばれる少なくとも一つ
(ウ)Fe2+添加LiMO2(MはGa及びAlの少なくとも一つから選ばれる)
<14>(a)CsVO3、(b)Zn328、(c)Ba2.91MgSi28:Eu0.04Mn0.05、(d)Ba1.83Sr0.5Ca0.5MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(e)Sr2.83MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(f)Ca2.83MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(g)Ba0.985Mg1.8Si27:Eu0.015Mn0.2、(h)Ba0.95Al2Si28:Eu0.05、(i)Sr0.95Al2Si28:Eu0.05、(j)LiGaO2:Fe0.01からなるものである、<7>又は<13>に記載の蛍光体粉末。
<15>(a)〜(j)の各成分の配合量が、(a)0.45〜0.54重量%、(b)7.89〜8.72重量%、(c)0.55〜0.64重量%、(d)1.33〜1.47重量%、(e)0.75〜0.84重量%、(f)1.14〜1.26重量%、(g)11.21〜12.39重量%、(h)1.24〜1.37重量%、(i)1.90〜2.10重量%、(j)68.50〜75.71重量%である、<14>に記載の蛍光体粉末。
<16>(a)〜(j)の各成分の配合量が、(a)0.45〜0.54重量%、(b)8.13〜8.47重量%、(c)0.55〜0.64重量%、(d)1.35〜1.44重量%、(e)0.75〜0.84重量%、(f)1.15〜1.24重量%、(g)11.56〜12.04重量%、(h)1.25〜1.34重量%、(i)1.95〜2.04重量%、(j)70.66〜73.54重量%である、<14>又は<15>に記載の蛍光体粉末。
【発明の効果】
【0013】
本発明の疑似太陽光照射装置は、紫外励起光源と蛍光体粉末を具備し、キセノンランプやハロゲンランプを具備しないので、該装置を小型かつ長寿命のものとすることが出来るし、また、350から750nm迄の50nm毎の範囲でスペクトル積分したときに得られる値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%の範囲内で近似する疑似太陽光を省消費電力で照射することが出来る。
【0014】
本発明の広帯域疑似太陽光照射装置は、前記疑似太陽光照射装置に近赤外及び赤外発光を有するLEDを組み合わせるだけであるので、該装置を小型かつ長寿命のものとすることが出来るし、また、400から900nm迄の100nm毎の範囲でスペクトル積分した値、及び900nmから1100nm迄の範囲でスペクトル積分した値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%の範囲内で近似する広帯域疑似太陽光を省消費電力で照射することが出来る。
【0015】
本発明の蛍光体粉末は、小数種類(好ましくは1種類)の紫外励起光源と組み合わせることにより、小型かつ長寿命の疑似太陽光照射装置を構成することが出来るし、また、350から750nm迄の50nm毎の範囲でスペクトル積分したときに得られる値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%の範囲内で近似する疑似太陽光を省消費電力で照射することが出来る。さらに、近赤外及び赤外発光を有するLEDを組み合わせることにより、400から900nm迄の100nm毎の範囲でスペクトル積分した値、及び900nmから1100nm迄の範囲でスペクトル積分した値がJIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%の範囲内で近似する広帯域疑似太陽光を省消費電力で照射することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1で利用した蛍光体粉末及び混合粉末の蛍光スペクトルと太陽光スペクトル(AM1.5G)の比較を示した図面。
図2】実施例1で利用した蛍光体粉末の内部量子効率(Internal QE)と疑似太陽光スペクトルを得るために混合した重量比(Amount)を示す図面。
図3】実施例2で測定したLED疑似太陽光源とキセノンランプ疑似太陽光源で照射した光(1SUN)によるSiフォトダイオードの電流電圧曲線を示す図面。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の疑似太陽光照射装置は、300〜400nmの範囲に最大強度を持つ紫外励起光の光源と、該紫外励起光の光路上に配置された蛍光体粉末とを具備し、従来装置のようなキセノンランプやハロゲンランプを具備しないので、小型かつ長寿命、省消費電力が可能なものである。
300〜400nm(好ましくは350〜370nm)の範囲に最大強度を持つ紫外励起光の光源としては、好ましくは少数種類(例えば、1〜3種類、より好ましくは1、2種類、さらに好ましくは1種類)の紫外LEDを採用することが出来る。そのような光源の数は何ら限定されず、被照射対象の面積や構造等に応じて、適宜の数に設定することが出来る。
【0018】
本発明の疑似太陽光照射装置に用いる蛍光体粉末は、好ましくは、次の(1)〜(3)の成分からなるものとすることが出来る。
(1)バナジウム酸化物蛍光体
(2)Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたケイ酸塩蛍光体、並びに、Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたアルミノケイ酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも一つ
(3)Fe2+添加ガリウム酸塩蛍光体及び/又はFe2+添加アルミン酸塩蛍光体
【0019】
また、本発明の疑似太陽光照射装置に用いる蛍光体粉末は、好ましくは、次の(ア)〜(ウ)の成分からなるものとすることが出来る。
(ア)CsVO3及びZn328の少なくとも一つ
(イ)Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたAe3MgSi28(AeはCa、Sr、Baのうち少なくとも一つから選ばれ、Eu、Mnの添加量に相当する欠損を含んでいても良い)、Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたAeMg2Si27(AeはCa、Sr、Baのうち少なくとも一つから選ばれ、Eu、Mnの添加量に相当する欠損を含んでいても良い)、並びに、Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたAeAl2Si28(AeはCa、Sr、Baのうち少なくとも一つから選ばれ、Eu、Mnの添加量に相当する欠損を含んでいても良い)から選ばれる少なくとも一つ
(ウ)Fe2+添加LiMO(MはGa及びAlの少なくとも一つから選ばれる)
【0020】
これらの各蛍光体は、内部量子効率、外部量子効率、スペクトル形状等が考慮され、バナジウム酸化物蛍光体の蛍光スペクトルを基本として、そのスペクトル抜けを補うように、上記(2)〜(3)、(イ)〜(ウ)の蛍光体の種類、混合比が調整される。
後述の実施例では、蛍光体粉末として(a)CsVO3、(b)Zn328、(c)Ba2.91MgSi28:Eu0.04Mn0.05、(d)Ba1.83Sr0.5Ca0.5MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(e)Sr2.83MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(f)Ca2.83MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(g)Ba0.985Mg1.8Si27:Eu0.015Mn0.2、(h)Ba0.95Al2Si28:Eu0.05、(i)Sr0.95Al2Si28:Eu0.05、(j)LiGaO2:Fe0.01を採用したが、(イ)Eu2+及びMn2+の両方が添加されたケイ酸塩蛍光体とEu2+及びMn2+の一方が添加されたケイ酸塩蛍光体とEu2+が添加されたアルミノケイ酸塩蛍光体とMn2+が添加されたアルミノケイ酸塩蛍光体、(ウ)Fe2+添加ガリウム酸塩蛍光体とFe2+添加アルミン酸塩蛍光体は、それぞれ相互間が同様の発光特性を有することを本発明者は知見している。
【0021】
調整された蛍光体粉末(蛍光体混合粉末)は、紫外励起光が照射される光路上への配置が容易となるように、光透過性の樹脂(例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂等)やガラス等に混入し、内部に蛍光体粉末が分散した光透過性板状物の形態とすることが出来る。
【0022】
LEDを光源とする場合、LEDの発熱によってスペクトル形状が変化しないようLEDに直接封止せず、蛍光体層とLEDの間にわずかな空間を設けることが望ましい。また、蛍光体層の温度が一定又は所定範囲内となるように、温度調整装置や冷却装置を付設することも出来る。このようにして作製するLED疑似太陽光源は小型かつ省エネルギー性の高い、従来のランプ方式を採用した疑似太陽光源の代替装置とすることが出来る。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本願発明を更に詳細に説明する。本発明の内容はこの実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例1
固相反応法を用いて蛍光体(a)CsVO3、(b)Zn328、(c)Ba2.91MgSi28:Eu0.04Mn0.05、(d)Ba1.83Sr0.5Ca0.5MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(e)Sr2.83MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(f)Ca2.83MgSi28:Eu0.02Mn0.15、(g)Ba0.985Mg1.8Si27:Eu0.015Mn0.2、(h)Ba0.95Al2Si28:Eu0.05、(i)Sr0.95Al2Si28:Eu0.05、(j)LiGaO2:Fe0.01を合成した。
上記(a)〜(j)の各蛍光体をシリコーン樹脂に30重量%の量で混練して得られた蛍光体含有樹脂を石英ガラス上にマウントしたのち(厚み1mm)、100℃10分、150℃1時間で乾燥固化させた(得られた蛍光体材料をLa〜Ljとする)。
波長365nmの紫外線パワーLED(日亜製NC4U133Aの1種類、1個のLED)上にLa〜Ljのいずれか1つを設置し、LEDに700mAの電流を流したところ、それぞれ図1のa〜jで示される発光スペクトルが得られた。また、(a)〜(j)の各蛍光体の内部量子効率(Internal QE)を図2に示す。このような図から、バナジウム酸化物蛍光体(a、b)がAM1.5Gの太陽光スペクトル範囲に比較的近いブロードなスペクトルを示すこと、(イ)Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたケイ酸塩蛍光体、並びに、Eu2+及びMn2+の少なくとも一方が添加されたアルミノケイ酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも一つ、(ロ)Fe2+添加ガリウム酸塩蛍光体及び/又はFe2+添加アルミン酸塩蛍光体の2種類の蛍光体を併用することで、太陽光スペクトル(図1のAM1.5G)に対するバナジウム酸化物蛍光体のスペクトルのスペクトル抜けを補うことが可能であることが理解出来る。なお、この実施例1におけるアルミノケイ酸塩蛍光体(h、i)では、Mn2+が添加されていないため、600〜750nmの波長範囲に蛍光を示していないが、Mn2+を添加すれば、ケイ酸塩蛍光体と同様に、600〜750nmの波長範囲に蛍光を示すことを本発明者は知見している。
【0025】
そこで、上記(a)〜(j)の各蛍光体について、内部量子効率(Internal QE)等をも考慮し、図2の混合量(Amount)に示されるように、順に0.5、8.3、0.6、1.4、0.8、1.2、11.8、1.3、2.0、72.1重量%の混合比で混合し、混合蛍光体粉末(Mixed powder)をシリコーン樹脂に30重量%の量で混練した。得られる蛍光体含有樹脂を石英ガラス上にマウントしたのち(厚み1mm)、100℃10分、150℃1時間で乾燥固化させた(得られた蛍光体材料をL1とする)。
波長365nmの紫外線パワーLED(日亜製NC4U133Aの1種類、1個のLED)上にL1を設置して、LED疑似太陽光源(疑似太陽光照射装置)とした。LEDに700mAの電流を流したところ、図1のMixed powderで示されるように、LED直上で基準太陽光AM1.5Gスペクトルに近似したスペクトルが得られ(JIS C 8933で規定されるクラスAに合致)、LED1灯でも100mW/cm2を超える照度が得られた。各、波長域におけるスペクトル合致度(相違%)は次の通りであった。350〜400nm:−24.7%、400〜450nm:+3.1%、450nm〜500nm:+5.1%、500〜550nm:+6.1%、550〜600nm:+4.1%、600〜650nm:+4.9%、650〜700nm:+3.1%、700〜750nm:+7.3%。
【0026】
実施例2
実施例1で作製したLED疑似太陽光源(LED solar simulator)、及び、従来のキセノンランプ光源をもちいた疑似太陽光装置(Xe lamp solar simulator)から発せられる1SUN(100mW/cm2)の光でアモルファスシリコン太陽電池に見立てたSiフォトダイオード(感度350〜750nm)の電流電圧特性を測定した。その結果を図3に示す。図3から明らかなように、実施例1のLED疑似太陽光源(疑似太陽光照射装置)は、従来のキセノンランプを用いた疑似太陽光源(100mW/cm2、ABET−10500)で測定した値と同等の結果が得られた。このように本発明の実施例の疑似太陽光照射装置で得られる疑似太陽光は、基準太陽光としての役割を十分に果たすことができる。
【0027】
比較例1
実施例1に示した蛍光体のうちバナジウム酸化物蛍光体CsVO3、Zn328をSrAl24:Euで置き換え、実施例1と同じ方法でガラス上にマウントしたサンプルでは基準太陽光AM1.5Gに近似したスペクトルは得られなかった。
【0028】
比較例2
実施例1に示した蛍光体のうち赤色蛍光成分であるBa2.91MgSi28:Eu0.04Mn0.05をCaTiO3:Prで代替し、実施例1と同じ方法でガラス上にマウントしたサンプルでは基準太陽光AM1.5Gに近似したスペクトルは得られなかった。
【0029】
比較例3
実施例1に示した蛍光体のうち赤色蛍光成分であるBa2.91MgSi28:Eu0.04Mn0.05、Ba0.985Mg1.8Si27:Eu0.015Mn0.2をリン酸赤色蛍光体(Ca0.95Mn0.059(Y0.85Ce0.15)(PO47で代替し、実施例1と同じ方法でガラス上にマウントしたサンプルでは基準太陽光AM1.5Gに近似したスペクトルは得られなかった。
【0030】
比較例4
実施例1に示した蛍光体のうち紫色蛍光成分であるBa0.95Al2Si28:Eu0.05をナノ粒子ZnOで代替し、実施例1と同じ方法でガラス上にマウントしたサンプルでは基準太陽光AM1.5Gに近似したスペクトルは得られなかった。
【0031】
比較例5
実施例1に示した蛍光体のうち近赤外蛍光成分であるLiGaO2:Fe0.01をLa3Ga5GeO14:Crで代替し、実施例1と同じ方法でガラス上にマウントしたサンプルでは基準太陽光AM1.5Gに近似したスペクトルは得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の蛍光体粉末を用いれば、小型で省エネルギー性の高い紫外線LEDを励起光源として、350〜750nmの範囲や400〜900nm等の範囲において、JIS C 8931に規定されたAM1.5全天日射基準太陽光スペクトルで得られる値と±40%(好ましくは±25%)の範囲内で近似する疑似太陽光を照射する疑似太陽光照射装置や広帯域疑似太陽光照射装置を構成することが出来る。
本発明の疑似太陽光照射装置や広帯域疑似太陽光照射装置は、小型省スペースで長寿命であり、また、低電力駆動のためエネルギー消費量を抑制することも出来るので、太陽電池や光触媒などの研究開発用の基準光源などとして有効に利用可能である。
また、本発明の疑似太陽光照射装置や広帯域疑似太陽光照射装置は、AM1.5全天日射基準太陽光スペクトルに高近似する疑似太陽光を照射することも可能なので、太陽光下の色再現等の検証実験装置、透過光の波長依存性などを簡便に測定する装置、分光装置等の光学機器などのような技術分野にも、幅広い利用が期待される。
図1
図2
図3