(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第一の態様の車両用窓ガラス>
本態様の車両用窓ガラスは、ガラス板と、銀粉末およびガラスフリットを含む銀ペーストを焼成して前記ガラス板の表面に形成された、少なくとも線条部および該線条部に接続された端子接続部を有する導電体層と、無鉛はんだ合金によって前記端子接続部にはんだ付けされた接続端子と、を有する車両用窓ガラスであって、前記導電体層の比抵抗が、2.5〜6.5μΩcmであり、前記線条部の線幅が、0.35mm以下であり、前記無鉛はんだ合金が、実質的にスズおよび銀からなり、かつスズの含有量が95質量%以上であり、前記車両用窓ガラスを−30℃で30分間保持し、3分間で80℃に昇温し、80℃で30分間保持し、3分間で−30℃に降温するサイクルを1サイクルとして繰り返す冷熱サイクル試験において、500サイクル経過後もガラス板に割れを生じない車両用窓ガラスである。
【0015】
図1に、本態様の車両用窓ガラスの一例として、自動車の後部窓ガラスの一例を示す。
図1は、本例の後部窓ガラス1を車両取り付け時の車外側から見た正面図である。後部窓ガラス1はガラス板10を備え、ガラス板10の車内側表面には、額縁状の黒色セラミック部(図示略)が周縁部に形成され、さらに、所定のパターンを有する導電体層が形成されている。導電体層としては、防曇用のデフォッガのパターンを有するもの(デフォッガ20)およびアンテナのパターンを有するもの(アンテナ30)が形成されている。
【0016】
デフォッガ20は、後部窓ガラス1の水平方向に延びる複数のヒータ線22と、後部窓ガラス1の上下方向に延びる2本のバスバ24とを有する。バスバ24は、後部窓ガラス1の水平方向の両端の黒色セラミック部(図示略)の表面に形成されている。ヒータ線22は2本のバスバ24間に形成されており、各ヒータ線22の両端が2本のバスバ24それぞれに接続している。
バスバ24上(車内側)には金属製の接続端子(図示略)が無鉛はんだ合金によってはんだ付けされている。接続端子は外部の電源(図示略)と接続されており、バスバ24の、接続端子が接続された位置(端子接続部)24aが給電点となってヒータ線22への給電が行われる。
【0017】
アンテナ30は、アンテナ線(線条部)32およびアンテナ線32に接続された端子接続部34を有する。図の態様の後部窓ガラス1においてアンテナ30は、上部のデフォッガ20の形成されていない余白領域に配置されている。アンテナ30はそれぞれ、受信する電波の波長に応じてパターンおよび長さの異なる複数種類のアンテナ線32が形成され、各アンテナ線32の末端に端子接続部34が形成されている。
端子接続部34上(車内側)には、金属製の接続端子(図示略)が無鉛はんだ合金によってはんだ付けされており、該接続端子を介してアンテナ30と外部のアンテナ回路とが接続される。
【0018】
図2に記載の態様において、デフォッガ20のバスバ24(端子接続部24a)と接続端子とのはんだ付け部分周辺における後部窓ガラス1の拡大断面図を示す。
図2上で上側が車両取り付け時の車内側である。
ガラス板10の表面には黒色セラミック部12が形成されており、黒色セラミック部12の表面には、バスバ24が形成されている。バスバ24の表面には、接続端子40が接続されている。
接続端子40は、両端に2つの接合面42を有する脚部44と、脚部44から上方に屈曲した配線接続部46とを有する。配線接続部46には、外部のワイヤ(図示略)の先端のコネクタ(図示略)が接続される。接続端子40の2つの接合面42が無鉛はんだ合金50によってバスバ24表面にはんだ付けされている。
アンテナ30の端子接続部34と接続端子(図示略)とのはんだ付け部分の構造も、
図2に示すデフォッガ20のバスバ24と接続端子40とのはんだ付け部分と同様の構造となる。
【0019】
(ガラス板10)
ガラス板10としては、車両の窓に設置される公知のガラス板を用いればよい。
ガラス板10の形状は、自動車用の後部窓ガラスの場合、通常、曲げ加工によって湾曲した略台形である。
ガラス板10としては、ソーダライムガラス等の公知のガラス組成のものが挙げられ、鉄分が多い熱線吸収ガラス(ブルーガラスまたはグリーンガラス)が好ましい。
ガラス板10としては、安全性を高めるために強化ガラス板を用いてもよい。強化ガラス板としては、風冷強化法や化学強化法により得られる強化ガラス板を用いることができる。また、ガラス板10は、2枚のガラス板を樹脂フィルムによって貼り合わせた合わせガラスであってもよい。
また、ガラス板10は、額縁状の黒色セラミック部が周縁部に形成されたものであってもよい。黒色セラミック部は、黒色セラミックペーストをガラス板10の周縁部の表面に印刷し、焼成することによって形成されるものである。
【0020】
(導電体層)
導電体層(デフォッガ20、アンテナ30)は、銀ペーストをガラス板10の表面に所定のパターンに印刷し、焼成して形成されるものである。
導電体層の線条部(ヒータ線22、アンテナ線32)とそれ以外の部分(バスバ24、端子接続部34)は、生産性、コストの点から、1回の印刷とその後の焼成によって同時に形成された、同じ銀ペーストの焼成物からなるものが好ましい。
銀ペーストについて詳しくは、後で説明する。また、銀ペーストを用いた導電体層の形成方法について詳しくは、後の第四の態様の車両用窓ガラスの製造方法で説明する。
【0021】
導電体層の比抵抗は、2.5〜6.5μΩcmであり、2.8〜6.1μΩcmがより好ましく、2.8〜3.8μΩcmがさらに好ましい。導電体層の比抵抗が6.5μΩcm以下であれば、下記の理由1から、接続端子のはんだ付け部分のガラス板10にクラックが入りにくくなる。導電体層の比抵抗が2.5μΩcm以上であれば、線条部(ヒータ線22、アンテナ線32)に必要とされる電気抵抗(Ω)を得るために、必要以上に線条部の断面積(線幅、厚さ)を小さくする必要がなくなる。
理由1:導電体層の比抵抗を低くおさえることは、導電体層中の銀粉末を密にし、空隙を小さくすることで達成することができる。導電体層に空隙が少なければ、接続端子のはんだ付けの際に、ガラス板10と熱膨張率の異なる無鉛はんだ合金が溶融して端子接続部24a、34に浸透しにくくなり、端子接続部24a、34を介しガラス板10へ伝えられる熱膨張率の差に起因する応力が抑えられる。その結果、ガラス板10に生じる残留応力も抑えられ、ガラス板10の割れが生じにくくなる。
【0022】
導電体層の比抵抗は、銀ペースト中の銀粉末の含有量、銀粉末の平均粒子径、銀粉末の含有量や平均粒子径が異なる複数種類の銀ペーストのブレンド、銀ペーストへの抵抗調整剤の添加、銀ペーストの焼成条件等を適宜選択することによって調整できる。
導電体層の比抵抗は、線条部における200mmの長さの電気抵抗(Ω)を測定し、下式(1)から求める。
比抵抗(μΩcm)={電気抵抗(Ω)×線条部の断面積(m
2)×10
8}/{線条部の長さ(すなわち0.2m)} ・・・(1)。
【0023】
導電体層の線条部(ヒータ線22、アンテナ線32)の線幅は、0.35mm以下であり、0.15〜0.35mmが好ましく、0.25〜0.35mmがより好ましい。線条部の線幅が0.35mm以下であれば、下記の理由2から、端子接続部24a、34と接続端子とのはんだ付け部分のガラス板10に割れが生じにくくなる。また、線条部の線幅が0.15mm以上、特に、0.25mm以上の場合には、印刷で形成しやすく、また、必要以上に線条部の電気抵抗(Ω)が大きくならないので好ましい。
理由2:線条部の電気抵抗(Ω)は、線条部の断面積に反比例する。後述する理由3から導電体層(線条部を含む)の厚さは、少なくも所望の厚さ以上に厚くすることが望ましいため、線条部に必要とされる電気抵抗(Ω)を得るためには、線条部の線幅を狭くしなければならないことが多い。また、線条部の線幅を狭くすることにより線条部の断面積が小さくなるので銀粉末が密に接触しやすくなり、導電体層全体(バスバ24、端子接続部34を含む)の比抵抗(μΩcm)を充分に下げることが可能となる。その結果、上述した理由1からガラス板10に生じる残留応力も抑えられ、ガラス板10に割れが生じにくくなる。
【0024】
導電体層の厚さは、5〜20μmが好ましく、5〜15μmがより好ましく、5〜10μmがさらに好ましく、6〜10μmがよりさらに好ましく、6〜8μmが特に好ましい。導電体層の厚さが5μm以上であれば、下記の理由3から、端子接続部と接続端子とのはんだ付け部分のガラス板10に割れが生じにくくなる。導電体層の厚さが20μm以下であれば、印刷で形成しやすい。
理由3:導電体層が厚いほど、つまり端子接続部24a、34が厚いほど、接続端子のはんだ付けの際に、溶融した無鉛はんだ合金が端子接続部24a、34を通って黒色セラミック部、さらにはガラス板10まで到達しにくくなり、端子接続部24a、34を介しガラス板10へ伝えられる熱膨張率の差に起因する応力が抑えられる。その結果、ガラス板10に生じる残留応力も抑えられ、ガラス板10に割れが生じにくくなる。
【0025】
(銀ペースト)
銀ペーストは、銀粉末およびガラスフリット、さらに、必要に応じてビヒクルおよび添加剤を含むものである。
【0026】
銀粉末は、銀または銀合金の粒子である。
銀粉末の含有量は、銀ペースト(100質量%)のうち、65〜85質量%が好ましく、75〜85質量%がより好ましく、80〜85質量%がさらに好ましい。銀粉末の含有量が該範囲内であれば、導電体層の比抵抗を上述の範囲に調整しやすい。
銀粉末の平均粒子径は、0.1〜10μmが好ましく、0.1〜7μmがより好ましい。銀粉末の平均粒子径が該範囲内であれば、導電体層の比抵抗を上述の範囲に調整しやすい。銀粉末の平均粒子径は、レーザー散乱式の粒度分布計で測定した平均粒子径(D50)を指す。
【0027】
ガラスフリットとしては、Bi
2O
3−B
2O
3−SiO
2系ガラスフリット、B
2O
3−SiO
2系ガラスフリット等が挙げられる。
ガラスフリットの含有量は、銀ペースト(100質量%)のうち、2〜10質量%が好ましく、3〜8質量%がより好ましい。ガラスフリットの含有量が2質量%以上であれば導電体層が焼結しやすくなり、10質量%以下であれば導電体層の比抵抗を上述の範囲に調整しやすい。
【0028】
ビヒクルとしては、エチルセルロース樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂等のバインダー樹脂をα−テルピネオール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等の溶剤に溶解した樹脂溶液等が挙げられる。
ビヒクルの含有量は、銀ペースト(100質量%)のうち、10〜30質量%が好ましく、15〜25質量%がより好ましい。
【0029】
添加剤としては、抵抗調整剤(Ni、Al、Sn、Pt、Pd等)、着色剤(V、Mn、Fe、Co、Mo及び それらの化合物等)等が挙げられる。
添加剤の含有量は、銀ペースト(100質量%)のうち、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0030】
(無鉛はんだ合金)
本態様に用いられる無鉛はんだ合金は、実質的にスズおよび銀からなる。
「実質的に」とは、製造上不可避の不純物を含んでもよいことを意味する。
スズの含有量は、無鉛はんだ合金(100質量%)のうち、95質量%以上であり、95〜98.5質量%が好ましく、96〜98質量%がより好ましい。スズの含有量が95質量%以上(銀の含有量が5%以下)であれば、下記の理由4から、端子接続部と接続端子とのはんだ付け部分のガラス板10に割れが生じにくくなる。
理由4:スズの含有量が95質量%以上であれば、無鉛はんだ合金の融点が比較的低く抑えられる。無鉛はんだ合金の融点が低ければ、はんだ付け温度を低く抑えることができ、ガラス板10の温度上昇が抑えられる。その結果、ガラス板10に生じる残留応力も抑えられ、ガラス板に割れが生じにくくなる。
【0031】
無鉛はんだ合金は、スズ以外の金属として銀を含む。無鉛はんだ合金が銀を含むことで、下記の理由5から、端子接続部と接続端子とのはんだ付け部分の外観意匠の完成度の低下が抑えられる。
理由5:銀を含まないスズ系の無鉛はんだ合金を用いると、無鉛はんだ合金中のスズと導電体層中の銀成分との相溶性により、導電性層の端子接続部へのはんだ合金のへの浸透(銀くわれ)が起きやすくなり、端子接続部の変色や端子接続部の厚さが局所的に薄くなることなどによる当該部分の変色が発生し、車両用窓ガラスとしての外観意匠の完成度が低下する。一方、実質的にスズおよび銀からなる無鉛はんだ合金を用いると、無鉛はんだ合金中のスズはすでに銀との化合物を形成しているため、導電体層(端子接続部)の銀が無鉛はんだ合金中のスズに浸透しにくくなり、当該部分の変色およびそれに伴う外観意匠の完成度の低下が抑えられる。
【0032】
銀の含有量は、無鉛はんだ合金(100質量%)のうち、1.5〜5質量%が好ましく、2〜4質量%がより好ましい。銀の含有量が1.5質量%以上であれば、無鉛はんだ合金中のスズが導電体層(端子接続部)にさらに浸透しにくくなる。また、接合強度が充分に高くなる。銀の含有量が5質量%以下であれば、無鉛はんだ合金のコストを低く抑えることができる。また、無鉛はんだ合金の融点の上昇を抑えることができる。
【0033】
以上説明した後部窓ガラス1にあっては、銀ペーストを焼成してガラス板10の表面に形成された導電体層の比抵抗を2.5〜6.5μΩcmとし、導電体層の線条部の線幅を0.35mm以下とし、導電体層と接続端子とをはんだ付けするための無鉛はんだ合金として、実質的にスズおよび銀からなり、かつスズの含有量が95質量%以上である無鉛はんだ合金を用いているため、上述した理由から、スズ−銀系の無鉛はんだ合金を用いているにも関わらず、導電体層の端子接続部と接続端子とのはんだ付け部分のガラス板に割れが生じにくい。
たとえば後部窓ガラス1においては、−30℃で30分間保持し、3分間で80℃に昇温し、80℃で30分間保持し、3分間で−30℃に降温するサイクルを1サイクルとして繰り返す冷熱サイクル試験において、500サイクル経過後もガラス板10に割れを生じない。
このような特性の後部窓ガラス1は、たとえば、後述する態様に記載の車両用窓ガラスの製造方法によって製造できる。
【0034】
なお、本発明の一態様としての車両用窓ガラスは、ガラス板と;銀粉末およびガラスフリットを含む銀ペーストを焼成してガラス板の表面に形成され、所定の比抵抗を有し、少なくとも線条部および該線条部に接続された端子接続部を有する導電体層と;所定の組成の無鉛はんだ合金によって端子接続部にはんだ付けされた接続端子とを有する車両用窓ガラスであればよく、図示例の自動車の後部窓ガラス1に限定はされない。たとえば、導電体層として、デフォッガ、アンテナのいずれか一方のみが設けられた車両用窓ガラスであってもよい。また、導電体層は、MSW(Melting Snow Window)におけるデアイサ(氷雪融解用ヒータ)であってもよい。
【0035】
<第二の態様の車両用窓ガラス>
本態様の車両用窓ガラスは、ガラス板と、銀粉末およびガラスフリットを含む銀ペーストを焼成して前記ガラス板の表面に形成された、少なくとも線条部および該線条部に接続された端子接続部を有する導電体層と、無鉛はんだ合金によって前記端子接続部にはんだ付けされた接続端子と、を有する車両用窓ガラスであって、前記導電体層の比抵抗が、2.5〜6.5μΩcmであり、前記線条部の線幅が、0.35mm以下であり、前記無鉛はんだ合金が、実質的にスズおよび銀からなり、かつスズの含有量が95質量%以上であり、前記ガラス板を50℃以上、前記無鉛はんだ合金が溶融し始める温度以下の温度に予熱した後に前記はんだ付けを行うことにより得られるものである。
本態様の車両用窓ガラスの構成は、前記第一の態様における「前記車両用窓ガラスを−30℃で30分間保持し、3分間で80℃に昇温し、80℃で30分間保持し、3分間で−30℃に降温するサイクルを1サイクルとして繰り返す冷熱サイクル試験において、500サイクル経過後もガラス板に割れを生じない」ことの代わりに、「前記ガラス板を50℃以上、前記無鉛はんだ合金が溶融し始める温度以下の温度に予熱した後に前記はんだ付けを行うことにより得られる」ことを必須の要件とする以外は、前記第一の態様と同様である。
本態様の車両用窓ガラスは、後述する態様の車両用窓ガラスの製造方法によって製造できる。
【0036】
<第三の態様の車両用窓ガラス>
本態様の車両用窓ガラスは、ガラス板と、銀粉末およびガラスフリットを含む銀ペーストを焼成して前記ガラス板の表面に形成された、少なくとも線条部および該線条部に接続された端子接続部を有する導電体層と、無鉛はんだ合金によって前記端子接続部にはんだ付けされた接続端子と、を有する車両用窓ガラスであって、前記導電体層の比抵抗が、2.5〜6.5μΩcmであり、前記線条部の線幅が、0.35mm以下であり、前記無鉛はんだ合金が、実質的にスズおよび銀と、さらに銅、インジウム、ビスマスおよび亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなり、かつスズの含有量が95質量%以上であり、前記車両用窓ガラスを−30℃で30分間保持し、3分間で80℃に昇温し、80℃で30分間保持し、3分間で−30℃に降温するサイクルを1サイクルとして繰り返す冷熱サイクル試験において、500サイクル経過後もガラス板に割れを生じないものである。
本態様の車両用窓ガラスの構成は、前記第一の態様における無鉛はんだ合金を、「実質的にスズおよび銀と、さらに銅、インジウム、ビスマスおよび亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなり、かつスズの含有量が95質量%以上である無鉛はんだ合金」に変更した以外は、前記第一の態様と同様である。
【0037】
本態様に用いられる無鉛はんだ合金において、スズの含有量は、無鉛はんだ合金(100質量%)のうち、95質量%以上であり、95〜98.5質量%が好ましく、96〜98質量%がより好ましい。スズの含有量が95質量%以上(銀および他の金属の含有量が5%以下)であれば、上記の理由4から、端子接続部と接続端子とのはんだ付け部分のガラス板10に割れが生じにくくなる。
銀の含有量は、無鉛はんだ合金(100質量%)のうち、1.5〜5質量%が好ましく、2〜4質量%がより好ましい。銀の含有量が1.5質量%以上であれば、無鉛はんだ合金中のスズが導電体層(端子接続部)にさらに浸透しにくくなる。また、接合強度が充分に高くなる。銀の含有量が1.5質量%以下であれば、無鉛はんだ合金のコストを低く抑えることができる。また、無鉛はんだ合金の融点の上昇を抑えることができる。
銅、インジウム、ビスマスおよび亜鉛からなる群から選らばれる少なくとも1種の金属の含有量は、無鉛はんだ合金(100質量%)のうち、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
【0038】
本態様の車両用窓ガラスは、後述する態様の車両用窓ガラスの製造方法において、無鉛はんだ合金として実質的にスズおよび銀と、さらに銅、インジウム、ビスマスおよび亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなり、かつスズの含有量が95質量%以上であるものを用い、また、前記ガラス板を、210℃以上、前記無鉛はんだ合金が溶融し始める温度以下の温度に予熱した後に前記はんだ付けを行うことによって製造できる。
【0039】
<車両用窓ガラスの製造方法>
本態様の車両用窓ガラスの製造方法は、車両用窓ガラスの製造方法であって、ガラス板の表面に、銀粉末およびガラスフリットを含む銀ペーストを印刷する工程と、前記銀ペーストを焼成して、少なくとも線幅が0.35mm以下である線条部および該線条部に接続された端子接続部を有し、比抵抗が、2.5〜6.5μΩcmである導電体層を形成する工程と、実質的にスズおよび銀からなり、かつスズの含有量が95質量%以上である無鉛はんだ合金を少なくとも接続端子に付着させる工程と、前記導電体層が表面に形成された前記ガラス板を50℃以上、前記無鉛はんだ合金が溶融し始める温度以下の温度に予熱する工程と、前記無鉛はんだ合金によって前記端子接続部に前記接続端子を接続する工程と、を備える。
【0040】
本態様の製造方法に用いられるガラス板、銀ペーストおよび無鉛はんだ合金は前記第一の態様で説明したものと同様である。
端子接続部と接続端子とを接続する前にあらかじめ無鉛はんだ合金を付着させるのは、接続端子のみであってもよく、接続端子および端子接続部の両方であってもよい。
【0041】
本発明の態様の一例である車両用窓ガラスは、具体的には、下記の工程(a)〜(e)を有する方法によって製造されることが好ましい。
(a)黒色セラミックペーストをガラス板の周縁部の表面に印刷し、乾燥して額縁状の黒色セラミックペースト塗膜を形成する工程。
(b)銀ペーストをガラス板の表面および/または前記黒色セラミックペースト塗膜の表面に所定のパターン(線条部および端子接続部を含むパターン)に印刷し、乾燥して銀ペースト塗膜を形成する工程。
(c)銀ペースト塗膜および黒色セラミックペースト塗膜を焼成して、線条部および端子接続部を有する導電体層と、黒色セラミック部とを同時に形成する工程。
(d)導電体層が表面に形成されたガラス板を50℃以上、前記無鉛はんだ合金が溶融し始める温度以下の温度に予熱する工程。
(e)あらかじめ無鉛はんだ合金を付着させた接続端子を、予熱されたガラス板の表面の端子接続部にはんだ付けする工程。
【0042】
(工程(a))
工程(a)における印刷方法としては、スクリーン印刷法、グラビア印刷法等が挙げられ、黒色セラミックペーストを大面積のガラス板や湾曲したガラス板の表面に所望の厚さで容易に印刷できる点から、スクリーン印刷法が好ましい。
工程(a)における乾燥温度は、通常、100〜150℃である。
工程(a)における乾燥時間は、通常、5〜20分である。
【0043】
(工程(b))
工程(b)における印刷方法としては、スクリーン印刷法、グラビア印刷法等が挙げられ、銀ペーストを大面積のガラス板や湾曲したガラス板の表面に所望の厚さで容易に印刷できる点から、スクリーン印刷法が好ましい。
工程(b)における乾燥温度は、通常、100〜150℃である。
工程(b)における乾燥時間は、通常、5〜20分である。
【0044】
(工程(c))
工程(c)における焼成温度は、通常、600〜700℃である。
工程(c)における焼成時間は、通常、2〜5分である。
焼成後に、ガラス板を600℃以上の温度から400℃以下の温度まで急冷することによって、ガラス板に強化ガラス処理を施してもよい。
【0045】
(工程(d))
工程(d)における予熱温度は、50℃以上、前記無鉛はんだ合金が溶融し始める温度以下の温度であり、75〜210℃が好ましく、100〜210℃がより好ましく、100〜150℃がさらに好ましく、100〜130℃がよりさらに好ましい。予熱温度が50℃以上であれば、ガラス板の残留応力の発生を小さくすることができ、予熱温度が75℃以上であれば、接続端子のはんだ付けの際のガラス板の温度変化がより小さくなるため、ガラス板に生じる残留応力がさらに抑えられ、ガラス板にクラックが入りにくくなる。予熱温度が、無鉛はんだ合金が溶融し始める温度を超えてしまうと、予めはんだ合金を付着させた接続端子のガラス板への固定が困難になる。210℃以下であれば、無鉛はんだ合金の溶融し始める温度よりも充分に低い温度となるため、予めはんだ合金を付着させた接続端子のガラス板への固定が容易である。
本態様および前記第一、第二の態様に用いられる無鉛はんだ合金(実質的にスズおよび銀からなり、かつスズの含有量が95質量%以上である無鉛はんだ合金)の場合、溶融し始める温度は該合金の固相線温度であり、220〜230℃の範囲内である。
前記第三の態様に用いられる無鉛はんだ合金(実質的にスズおよび銀と、さらに銅、インジウム、ビスマスおよび亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなり、かつスズの含有量が95質量%以上である無鉛はんだ合金)の場合、明確な固相線温度は定義しづらいが、溶融し始める温度は220〜230℃の範囲内である。
予熱方法としては、ドライヤから熱風を吹きつける方法、バンドヒーターによる加熱方法、赤外線のランプヒーターで加熱する方法等が挙げられる。
【0046】
(工程(e))
工程(e)においては、ガラス板の温度が上述の予熱温度を維持するように、予熱を行いながらはんだ付けを行う。
はんだ付けの温度(はんだごてのこて先温度)は、通常、270〜330℃である。
【0047】
(作用効果)
以上説明した本態様の車両用窓ガラスの製造方法にあっては、銀ペーストを焼成してガラス板の表面に形成された導電体層の比抵抗を2.5〜6.5μΩcmとし、導電体層の線条部の線幅を0.35mm以下とし、導電体層と接続端子とをはんだ付けするための無鉛はんだ合金として、実質的にスズおよび銀からなり、かつスズの含有量が95質量%以上である無鉛はんだ合金を用い、導電体層が表面に形成されたガラス板を50℃以上、前記無鉛はんだ合金が溶融し始める温度以下の温度に予熱した状態ではんだ付けを行っているため、スズ−銀系の無鉛はんだ合金を用いているにも関わらず、銀ペーストを焼成してガラス板の表面に形成された導電体層の端子接続部と接続端子とのはんだ付け部分のガラス板に割れが生じにくい(たとえば前記冷熱サイクル試験において、500サイクル経過後もガラス板に割れを生じない)車両用窓ガラスを製造できる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明の態様をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。なお、以下において例1〜5、13〜16および19は実施例、他は比較例である。
【0049】
(比抵抗)
銀ペーストをガラス板の表面に印刷し、700℃で4分間焼成し、300℃以下まで急冷強化して線幅が1.0mmの線条部を有する導電体層を形成した後、線条部の200mmの電気抵抗および線条部の断面積を25℃±2℃で測定し、下式(1)から導電体層の比抵抗を求めた。
比抵抗(μΩcm)={電気抵抗(Ω)×線条部の断面積(m
2)×10
8}/{線条部の長さ(すなわち0.2m)} ・・・(1)。
電気抵抗は、抵抗測定装置(日置電機社製、マルチメーター)を用いて測定した。断面積は、接触式膜厚測定計(東京精密社製、Surfcom)を用いて測定した。電気抵抗および断面積については、サンプルごとに3箇所について測定し、平均値を求めた。
【0050】
(冷熱サイクル試験)
サンプルを−30℃で30分間保持し、3分間で80℃に昇温し、80℃で30分間保持し、3分間で−30℃に降温する温度サイクルを1サイクルとして500サイクル繰り返す冷熱サイクル試験を実施し、500サイクル経過後のガラス板の表面の状態(割れの有無)を目視で確認した。
冷熱サイクル試験を3つのサンプルについて行い、下記の基準にて判定した。
○:3つとも割れなし。
△:1〜2つに割れあり。
×:3つとも割れあり。
【0051】
(接合強度)
冷熱サイクル試験を実施した後に、3つのサンプルともにガラス板に割れがなかった場合については、接合強度を測定した。
具体的には、
図2に示す接合状態にて、接続端子40の配線接続部46を、100mm/分の速度で50Nの応力まで上方に引っ張り、接続端子40が剥離するかを確認し、接続端子40が剥離しなかったサンプルを、接合強度が50N以上とした。下記の基準にて評価した。
○:3つとも接合強度が50N以上。
△:1〜2つの接合強度が50N以上。
×:3つとも接合強度が50N未満。
【0052】
〔例1〕
図2に示す接合状態のサンプルを、下記の工程(a)〜(e)を経て作製した。
【0053】
(工程(a))
ガラス板10として、100mm×100mm×厚さ3.5mmのガラス板(ソーダライムガラス)を用意した。
黒色セラミックペーストをガラス板10の表面にスクリーン印刷し、120℃で15分間乾燥して黒色セラミックペースト塗膜を形成した。
【0054】
(工程(b))
銀粉末およびガラスフリットを含み、銀粉末の含有量が80質量%である銀ペースト(焼成後の比抵抗:2.8μΩcm)を黒色セラミックペースト塗膜の表面にスクリーン印刷し、120℃で10分間乾燥して銀ペースト塗膜を形成した。
【0055】
(工程(c))
銀ペースト塗膜および黒色セラミックペースト塗膜を700℃で4分間焼成した。焼成後、ガラス板10を300℃以下まで急冷して強化ガラス板とした。その後、ガラス板10の温度が常温に下がるまで放置して、ガラス板10の表面に、黒色セラミック部12と導電体層20(厚さ:7μm)とを同時に形成した。
【0056】
(工程(d))
表面にスズめっきが施された銅製の接続端子40を用意した。2つの接合面42の面積は等しく、2つの接合面42の面積の合計は56mm
2である。
また、スズの含有量が98質量%であり、銀の含有量が2質量%であるスズ−銀系の無鉛はんだ合金50を用意した。
接続端子40の1つあたり0.3〜0.6gの無鉛はんだ合金50をあらかじめ接続端子40の2つの接合面42に付着させた。
【0057】
無鉛はんだ合金50にフラックスを塗布した後、無鉛はんだ合金50付きの接続端子40を、ガラス板10の導電体層20の表面にピンセットで固定した。
導電体層20の端子取り付け部から10mm離れた場所に配置した熱電対の温度が予熱温度である210℃となるように、ガラス板10からの距離が調整されたドライヤから400℃の熱風を、ガラス板10の導電体層20側の表面に吹きかけた。
【0058】
(工程(e))
ガラス板10の表面温度が予熱温度である210℃を維持するように、ドライヤから400℃の熱風を吹きかけながら、接続端子40を導電体層20(バスバ24)に押し付け、はんだごて(こて先温度:約270℃)を接続端子40に押し当て、はんだ付けを行った。室温にて24時間放置し、サンプルを得た。サンプルについて上述の評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
〔例2〜6〕
予熱温度を表1に示す温度に変更する、または予熱を行わない以外は、例1と同様にしてサンプルを得た。サンプルについて上述の評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
〔例7〜12〕
銀ペーストを、銀粉末の含有量が70質量%である銀ペースト(焼成後の比抵抗:9.1μΩcm)に変更した以外は、例1〜6と同様にしてサンプルを得た。サンプルについて上述の評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
〔例13〜18〕
導電体層20の比抵抗を変更した以外は例4と同様にしてサンプルを得た。サンプルについて上述の評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
以上の結果に示すように、比抵抗が2.8〜6.1μΩcmとなるように導電体層を形成し、ガラスを常温より高い温度に予熱してはんだ付けを行った例1〜5及び例13〜16において、導電体層中の銀粉末を密にし、空隙を小さくして導電体層の比抵抗を低くおさえること、従来に比べて融点の低い無鉛はんだ合金を用いること及び端子接続部24a、34を介しガラス板10へ伝えられる熱膨張率の差に起因して生じる残留応力を抑えることにより、冷熱サイクル試験後の接続端子の接合強度においてもガラス板10の割れが生じなかった。また、接合強度においても良好な結果が得られ、高温や低温にさらされた場合にも良好な接合強度を維持し、ガラス板の割れが防止でき、外観意匠の完成度の高い車両用窓ガラスを得た。
【0064】
〔例19〜26〕
無鉛はんだ合金を、スズの含有量が96.5質量%であり、銀の含有量が3質量%であり、銅の含有量が0.5質量%であるスズ−銀−銅系の無鉛はんだ合金に変更した以外は、例1、2、4、6、7、8、10及び12と同様にしてサンプルを得た。サンプルについて上述の評価を行った。結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
以上の結果に示すように、比抵抗が2.8μΩcmとなるように導電体層を形成し、ガラスを210℃に予熱してはんだ付けを行った例19において、冷熱サイクル試験後の接続端子の接合強度において良好な結果が得られ、高温や低温にさらされた場合にも良好な接合強度を維持し、ガラス板の割れが防止でき、外観意匠の完成度の高い車両用窓ガラスを得た。
【0067】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2011年1月14日付けで出願された日本特許出願(特願2011−005866)に基づいており、その全体が引用により援用される。