(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
(1)シラノール縮合触媒
本発明のシラノール縮合触媒は、
下記式(1):
【0016】
(式中、nは2以上の整数を示す。)
で表されるリン酸化合物又はその塩を含有してなることに特徴を有するものである。
【0017】
上記のとおり、本発明において、シラノール縮合触媒として用いられる式(1)で表されるリン酸化合物は、酸素原子を共有して結合した四面体PO
4(リン酸)構造単位からなるものである。該リン酸化合物は直鎖構造又は環状構造の何れであっても良い。また、リン酸化合物の塩としては、ナトリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩等の金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらの中で、アルミニウム塩、カルシウム塩が好ましく、アンモニウム塩がより好ましい。
【0018】
また、塩としては、上記一般式(1)で表されるリン酸化合物の有機アルカリ塩であってもよい。用い得る有機アルカリとしては、例えば、アミン類、トリアジン類、水酸化第4級アンモニウム等が挙げられる。
【0019】
さらに具体的には、アミン類としては、例えば、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、トリメタノールアミン、エチレンジアミン、N,N,N',N'−テトラメチルジアミノメタン、N,N'−ジメチルエチレンジアミン、N,N'−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1、7−ジアミノへプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9ージアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、ピペラジン、trans−2,5−ジメチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン等が挙げられる。
【0020】
トリアジン類としては、例えば、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、アクリルグアナミン、2,4−ジアミノ−6−ノニル−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ハイドロキシ−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4,6−ジハイドロキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−エトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−プロポキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−イソプロポキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メルカプト−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4,6−ジメルカプト−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0021】
水酸化第4級アンモニウムとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、トリエチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0022】
さらに、本発明におけるシラノール縮合触媒は、式(1)で表されるリン酸化合物から選ばれる単一の化合物であっても、nの数(重合度)や塩の種類が異なる化合物の混合物であってもよい。
【0023】
式(1)においてnの数(重合度)は2以上であれば特に制限はなく、入手可能なものであれば如何なる重合度をもつものであってもよい。ここで、式(1)で表される化合物において、nが2のものを「二リン酸」、nが2を超える重合体やそれらの混合物を「ポリリン酸」と通常呼称されている。一般的に市販されているポリリン酸はn=1の化合物(リン酸)とn=2以上の重合体との混合物であり、本発明のシラノール縮合触媒には、本発明の効果を損なわない範囲でn=1の化合物が含まれていても良い。
【0024】
nの数(重合度)、すなわち、リン酸化合物の分子量は、通常粘度と相関する。式(1)で表されるリン酸化合物の粘度は、通常100cp以上、好ましくは500cp以上、より好ましくは1000cp以上、さらに好ましくは5000cp以上であり、また、通常200000cp以下、好ましくは180000cp以下、より好ましくは150000cp以下、さらに好ましくは100000cp以下である。粘度が低すぎると温水に溶出しやすくなり、また粘度が高すぎるとハンドリングが悪化する傾向がある。なお、上記粘度は、E型粘度計を用いて25℃で測定した値である。
【0025】
本発明のシラノール縮合触媒における式(1)で表されるリン酸化合物又はその塩の含有量に特に制限はなく、後述する使用条件となり得る含有量、また後述する使用条件においてシラノール縮合触媒としての機能を発現し得る含有量であればよい。
【0026】
前記のとおり、従来シラノール縮合触媒として主に使用されている有機スズ化合物は環境ホルモンの問題による安全性の懸念がある。また、非スズ縮合触媒として提案されている有機スルホン酸およびその加水分解前駆体(例えば特許文献1参照)は着色および臭気の問題がある。これに対して、本発明のシラノール縮合触媒は、触媒性能に優れるとともに、環境ホルモンの問題がなく、着色や臭気の問題もなく、温水への溶出が少なく、ハンドリングも容易という優れた特性をもつものである。
【0027】
(2)シラノール縮合触媒含有ポリオレフィン
本発明のシラノール縮合触媒含有ポリオレフィンは、上記シラノール縮合触媒およびポリオレフィンを含有することに特徴を有するものである。このシラノール縮合触媒含有ポリオレフィンは、後述するシラン架橋ポリオレフィンを調製する際に、シラノール縮合触媒のマスターバッチとして用いられるものである。
【0028】
シラノール縮合触媒含有ポリオレフィンは、シラノール縮合触媒とポリオレフィンとを混練し造粒することにより得ることができる。シラノール縮合触媒含有ポリオレフィンは、通常グラニュール又はペレットの形の粒状物とするが、好ましい形はペレットである。
【0029】
用い得るポリオレフィンとしては、例えば、エチレン単独重合体(ポリエチレン)、主成分のエチレンとエチレン以外のα−オレフィンやビニルエステル(例えば酢酸ビニル等)又は不飽和カルボン酸エステル(例えばエチルアクリレート等)との共重合体、プロピレン単独重合体、主成分のプロピレンとプロピレン以外のα−オレフィン(エチレンを含む)との共重合体等が挙げられる。これらの中でポリエチレン、エチレンとエチレン以外のα−オレフィンの共重合体が特に好ましい。
これらは単独で用いても、2種以上を任意の組合せで併用してもよい。
【0030】
シラノール縮合触媒は、上記した式(1)で表されるリン酸化合物又はその塩よりなる群から選ばれる化合物を単独で用いても、2種以上を任意の組合せで併用してもよい。また、必要に応じて、他のシラノール縮合触媒を併用してもよい。
【0031】
シラノール縮合触媒の含有量は、ポリオレフィンに対して、下限が通常1000質量ppm以上、好ましくは2000質量ppm以上、より好ましくは3000質量ppm以上であり、上限が通常40000質量ppm以下、好ましくは30000質量ppm以下、より好ましくは20000質量ppm以下である。含有量が少なすぎると架橋反応が十分進まず、また多すぎると外観が悪化する傾向がある。なお、ここでいう「シラノール縮合触媒の含有量」は、式(1)で表されるリン酸化合物又はその塩の含有量である。
【0032】
シラノール縮合触媒含有ポリオレフィンには、必要に応じて、混和可能な熱可塑性樹脂、酸化防止剤(安定剤)、滑剤、充填剤、着色剤、発泡剤、その他の補助資材を添加することができる。これらの添加剤は、それ自体既知の通常用いられるものであればよく、後述するものと同様のものが用いられる。
【0033】
(3)シラン架橋ポリオレフィン
本発明のシラン架橋ポリオレフィンは、シラン変性ポリオレフィンに上記シラノール縮合触媒又はシラノール縮合触媒含有ポリオレフィンを含有させてなることに特徴を有するものである。ここで、シラン架橋ポリオレフィンには成型物も含まれる。また、シラン変性ポリオレフィンには、シラノール縮合触媒を、ポリオレフィンのシラン変性(グラフト化反応)と同時に行って調製されるものも含まれる。すなわち、本発明のシラン架橋ポリオレフィンは、その製法や成型状態にかかわらず、本発明のシラノール縮合触媒を含有するシラン架橋ポリオレフィンの全てを含むものである。さらに、本発明のシラン架橋ポリオレフィンには、酸化防止剤等の添加剤を含有するものも包含される。以下、さらに詳細に説明する。
【0034】
(a)シラン変性ポリオレフィン
本発明で用いるシラン変性ポリオレフィンにおけるポリオレフィンとしては、例えば、エチレン単独重合体(ポリエチレン)、主成分のエチレンとエチレン以外のα−オレフィンやビニルエステル(例えば酢酸ビニル等)又は不飽和カルボン酸エステル(例えばエチルアクリレート等)との共重合体、プロピレン単独重合体、主成分のプロピレンとプロピレン以外のα−オレフィン(エチレンを含む)との共重合体等が挙げられる。これらの中でポリエチレン、エチレンとエチレン以外のα−オレフィンの共重合体が特に好ましい。これらは単独で用いても、2種以上を任意の組合せで併用してもよい。
【0035】
シラン変性ポリオレフィンは、例えば、上記ポリオレフィンに、加水分解可能な有機基を有するオレフィン性不飽和シラン化合物を、ラジカル発生剤の存在下に、例えば押出機等の成型加工機中において共重合させることによって得られる。この反応において、不飽和シラン化合物は、ベースとなるポリオレフィン相互の架橋点となるようにポリオレフィンにグラフト化される。また、得られたシラン変性ポリオレフィンを、「シラン化合物をグラフトさせたポリオレフィン」ということがある。
【0036】
ここで、加水分解可能な有機基を有するオレフィン性不飽和シラン化合物とは、下記式(2):
RSiR’
nY
3−n (2)
(式中、Rは1価のオレフィン性不飽和炭化水素基を示し、Yは加水分解し得る有機基示し、R’は脂肪族不飽和炭化水素以外の1価の炭化水素基あるいはYと同じものを示し、nは0、1又は2を示す。)
で表されるシラン化合物をいう。
【0037】
式(2)において、Rはビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基等が好ましく、R’はメチル基、エチル基、プロピル基、デシル基、フェニル基等が好ましく、Yはメトキシ基、エトキシ基、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオノキシ基、アルキルないしアリールアミノ基が好ましい。
【0038】
また、好ましいシラン化合物としては、例えば、下記式(3)
CH
2=CHSi(OA)
3 (3)
(式中、Aは炭素数1〜8の1価の炭化水素基を示す。)
で表される化合物が挙げられる。
【0039】
さらに具体的には、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、CH
2=C(CH
3)COOC
3H
6Si(OA)
3(但し、Aは上記と同義である。)で表される化合物、例えばγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらの中で、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。
これらは単独で用いても、2種以上を任意の組合せで併用してもよい。
【0040】
これら化合物の添加量は、シラン変性ポリオレフィンの全質量を基準にして、下限が通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上であり、上限が通常15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下である。添加量が少なすぎると十分なグラフト化が困難となる傾向があり、また多すぎると成形不良となる傾向があるとともに経済的でなくなる。この添加量は、シラン変性ポリオレフィンにおけるシラン化合物に由来する単位と同じ意味をもつものである。
【0041】
使用されるラジカル発生剤としては、重合開始作用の強い種々の有機過酸化物及びパーエステル、例えば、ジクミルパーオキサイド、α,α′−ビス(t−ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等が挙げられる。これらの中で、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドが好ましい。これらラジカル発生剤は、単独で用いても、2種以上を任意の組合せで併用してもよい。
【0042】
ラジカル発生剤の使用量は、シラン変性ポリオレフィンの全質量を基準にして、下限が通常0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上であり、上限が通常0.5質量%以下、好ましくは0.4質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。使用量が少なすぎると十分なグラフト化反応が困難となる傾向があり、また多すぎると押出加工性が低下するとともに成形表面が悪くなる傾向がある。
【0043】
また、シラン変性ポリオレフィンとしては、前記シラン化合物と、例えばエチレンとの通常のランダム共重合体であって、低密度ポリエチレンにおける通常の高圧重合条件下にラジカル共重合させることにより得られる共重合体であってもよい。このラジカル共重合の場合、酢酸ビニルやアクリル酸、メタクリル酸及びそれらのエステル等をさらに共重合してもよい。これら共重合体中のシラン化合物に由来する単位の含量は、前記と同様である。
【0044】
上記シラン変性ポリオレフィンの中で、シラン化合物をグラフトさせたポリオレフィンが好ましい。また、本発明で用いられるシラン変性ポリオレフィンは、シラン化合物に由来する単位の含量が適当であれば二種以上のシラン変性ポリオレフィンをブレンドしたもの、又は、シラン変性ポリオレフィンとポリオレフィンとをブレンドしたものも用いられる。
【0045】
(b)シラノール縮合触媒の含有量
シラン架橋ポリオレフィン中のシラノール縮合触媒の含有量は、ポリオレフィンに対して、下限が通常50質量ppm以上、好ましくは100質量ppm以上、より好ましくは200質量ppm以上であり、上限が通常2000質量ppm以下、好ましくは1500質量ppm以下、より好ましくは1000質量ppm以下である。含有量が少なすぎると架橋反応が十分進まず、また多すぎると外観が悪化する傾向がある。なお、ここでいう「シラノール縮合触媒の含有量」は、式(1)で表されるリン酸化合物又はその塩の含有量である。
【0046】
シラノール縮合触媒は、ドライブレンドにより含有させても、マスターバッチとして含有させてもよく、その添加方法に特に制限はない。また、必要に応じて、前記式(1)で表されるリン酸化合物又はその塩以外のシラノール縮合触媒を併用してもよい。
【0047】
(c)添加剤
本発明のシラン架橋ポリオレフィンには、必要に応じて、混和可能な熱可塑性樹脂、酸化防止剤、滑材、充填剤、着色剤、発泡剤、その他の補助資材を含有させることができる。これらの添加剤は、それ自体既知の通常用いられるものであればよい。
【0048】
これらの中で、特に耐熱劣化特性向上のために酸化防止剤を含有させることが好ましい。用い得る酸化防止剤としては、例えば、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ビス[2−メチル−4−{3−n−アルキル(C
12あるいはC
14)チオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル]スルフィド、4,4′−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、テトラキス(メチレンドデシルチオジプロピオネート)メタン等が挙げられる。
これら酸化防止剤は、単独で用いても、2種以上を任意の組合せで併用してもよい。
【0049】
酸化防止剤の含有量は、シラン架橋ポリオレフィンに対し、下限が通常10質量ppm以上、好ましくは50質量ppm以上、より好ましくは100質量ppm以上であり、上限が通常20000質量ppm以下、好ましくは15000質量ppm以下、より好ましくは13000質量ppm以下である。添加量が少なすぎると耐熱劣化特性向上が十分ではなく、また多すぎると成形物の表面に析出して外観が悪化することがある。
【0050】
酸化防止剤等の添加剤は、ポリオレフィンに対してドライブレンドの形で行ってもよく、あるいはこれらの酸化防止剤をポリオレフィンに高濃度に混入したマスターバッチを添加するようにしてもよい。また、シラン化合物に溶解させて、シラン化合物の添加とともに押出機等の成型加工機中のポリオレフィンに混入することも可能である。
【0051】
(d)シラン架橋ポリオレフィンの調製
シラン架橋ポリオレフィンは、シラン変性ポリオレフィンにシラノール縮合触媒、必要に応じて添加剤を含有することにより調製することができる。
【0052】
シラン変性ポリオレフィン中にシラノール縮合触媒を含有させる方法としては、具体的には、有機溶剤等にシラノール縮合触媒を溶解又は分散させておき、これをシラン変性ポリオレフィンに含浸又は接触させる方法が挙げられる。この場合の有機溶剤は特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、アセトン等が挙げられる。
【0053】
シラン変性ポリオレフィン中にシラノール縮合触媒を含有させる他の方法としては、シラン変性ポリオレフィンとシラノール縮合触媒とを溶融混練する方法や、予めシラン変性ポリオレフィンとは異なる樹脂中にシラノール縮合触媒を含有させておき、当該樹脂とシラン変性ポリオレフィンとを溶融混練する方法などが挙げられる。ここで溶融混練する際の装置及び条件は特に限定されないが、前記のグラフト変性を溶融混練によって行う際に用いることができる装置及び条件を同様に適用することができる。
【0054】
また、本発明において、シラン架橋ポリオレフィンの調製は、シラン化合物とラジカル発生剤、さらにシラノール縮合触媒、必要に応じて酸化防止剤等の添加剤とともに、押出機等の成型加工機中のポリオレフィンに投入してポリオレフィンのシラン変性(グラフト化反応)と同時に、シラン架橋性ポリオレフィンを調製し、引き続き用途に応じた成型物とすることもできる。
【0055】
(e)成型物
シラン架橋ポリオレフィンは、通常、用途に応じて成型した後、水分により架橋させて、成型物として実用に供されるものである。成型は、前記のとおり、押出機等の適当な成型加工機を用いて行えばよい。
【0056】
架橋方法は特に限定されないが、例えば、成型物を恒温水槽に浸漬する方法、蒸気中に放置(浸漬)する方法、加湿下で放置する方法が好ましい。温度は、下限が通常10℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上であり、上限が通常130℃以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下である。湿度は、下限が通常30%RH以上、好ましくは40%RH以上、より好ましくは50%RH以上であり、下限が通常100%RH以下である。
【0057】
本発明におけるシラン架橋ポリオレフィンのゲル分率は、通常30質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。シラン架橋ポリオレフィンのゲル分率が前記範囲であることにより、良好な耐熱性を得ることができる。シラン架橋ポリオレフィンのゲル分率の上限は特に限定されず、完全架橋(ゲル分率100質量%)であってもよい。なお、上記ゲル分率の値は水分による架橋後のものである。本発明のシラン架橋ポリオレフィンにはゲル分率が30%未満のものも包含される。
ここで、ゲル分率は、ソックスレー抽出器を用いて沸騰キシレンにて10時間抽出を行ったときの不溶物を抽出前の質量に対する百分率として表したものである。
【0058】
本発明のシラン架橋ポリオレフィンは、電線・ケーブル被覆材、パイプ、ホース、チューブ、各種容器、シーリング材、フィルム、シート等の成型物として、特に好適に用いることができる。
これら用途の成型物は、上記のとおりそれ自体既知の方法で製造できるが、次の(i)、(ii)の方法が好ましい。
(i)シラノール縮合触媒を高濃度に含むマスターバッチを調合し、これを、シラン変性ポリオレフィンとともに押出機に供給して押出成型する(2ショット法)。
(ii)シラノール縮合触媒とラジカル発生剤を含む添加剤を押出機内のポリオレフィンに供給し、これによりシラン化合物のポリオレフィンへのグラフト反応と押出成型とを1つの押出機で同時に行う(1ショット法)。
【0059】
なお、ポリオレフィンへのシラノール縮合触媒の作用のさせ方としては、上記のようにポリオレフィン中にシラノール触媒を練り込む方法以外に、成型されたポリオレフィンの表面から浸透させることもできる。
上記のとおり成型した後に水分により架橋させることにより所望の用途に適した成型物とすることができる。
【実施例】
【0060】
以下に実験例(実施例、比較例、参考例)を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、下記の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と下記実施例の値又は実施例同士の値との組合せで規定される範囲であってもよい。
【0061】
[実施例1〜5、比較例1、参考例1]
ポリオレフィン樹脂(LD400、日本ポリエチレン社製)、シラノール縮合触媒(リン酸、ニリン酸、ポリリン酸;キシダ化学社製、リン酸塩−1(式(1)に含まれるリン酸化合物の塩を主成分として含有;アデカスタブFP−2100J);アデカ社製、ジ−n−オクチルスズジラウリン酸塩)、酸化防止剤−1(RA1010、BASF社製)、酸化防止剤−2(MD1024、BASF社製)、酸化防止剤―3(スミライザーWXRC、住友化学社製)、滑剤−1(バイトンフリーフローSCPL100、デュポン社製)を表1に示す割合で、内容量1.0Lの加圧ニーダーへ挿入し、加圧ニーダーの設定温度120℃で混練し、せん断発熱による自己発熱で樹脂温度が150℃になった時点で混練を終了した。得られた混合物をロールによりシート化した後、ペレターザーでペレット化してシラノール縮合触媒マスターバッチを作成した。
【0062】
シラン変性ポリオレフィン(リンクロンXCF800N、三菱化学社製)100質量部に対し、得られたシラノール縮合触媒マスターバッチを5質量部混合したものを20mmφ押出機で温度210℃にて押出し、厚み1mmの押出しシートを作成した。得られた押出しシートを80℃温水または95℃スチームに所定時間浸漬することにより架橋処理を行い、シラン架橋ポリオレフィンを得た。得られたシラン架橋ポリオレフィンの押出しシートを用いてゲル分率の測定を行った。これらの結果を表2に示す。
【0063】
なお、表1中の粘度はE型粘度計を用いて25℃で測定した値である。表2中のゲル分率は、シラン架橋ポリオレフィンのシート(厚さ1mm)を144℃の沸騰キシレン中で10時間ソックスレー抽出を行い、次いで、溶解しなかった樹脂を乾燥後に質量を測定し、ソックスレー抽出前のサンプル質量に対する割合(%)として算出した値である。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
表2のゲル分率の値から明らかなとおり、実施例1〜5のいずれも比較例1に比べ良好なゲル分率を示しており、水に対し低溶出性であることが認められる。これは既知の酸性シラノール縮合触媒および有機スズ化合物に代わり得る低溶出性且つ環境ホルモン問題のない優れたシラノール縮合触媒であり、その有用性は大である。