特許第6186838号(P6186838)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186838
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】水性表面処理剤及びそれを用いた物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20170821BHJP
   C09D 123/02 20060101ALI20170821BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170821BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C09D175/04
   C09D123/02
   C09D7/12
   C09D5/02
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-91246(P2013-91246)
(22)【出願日】2013年4月24日
(65)【公開番号】特開2014-214199(P2014-214199A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 盛緒
(72)【発明者】
【氏名】坂井 美代
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−056913(JP,A)
【文献】 特開2007−169397(JP,A)
【文献】 特開2009−013226(JP,A)
【文献】 特開2006−176615(JP,A)
【文献】 特開2015−067674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ポリウレタン(A)、酸変性非塩素化ポリオレフィン(B)、マット剤(C)及び架橋剤(D)を含有する水性表面処理剤であって、前記水性ポリウレタン(A)と酸変性非塩素化ポリオレフィン(B)との質量比率[(A)/(B)]が、55/45〜98/2の範囲であり、さらに、溶融範囲が140〜180℃のポリオレフィンワックス(E)(酸変性したものを除く。)を含有することを特徴とする水性表面処理剤。
【請求項2】
前記水性ポリウレタン(A)が、ポリカーボネート系水性ポリウレタンである請求項1記載の水性表面処理剤。
【請求項3】
前記酸変性非塩素化ポリオレフィン(B)が、不飽和カルボン酸又はその酸無水物で変性された非塩素化ポリオレフィンである請求項1又は2記載の水性表面処理剤。
【請求項4】
前記架橋剤(D)が、カルボジイミド又はポリイソシアネートである請求項1〜3のいずれか1項記載の水性表面処理剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の水性表面処理剤の塗膜を有することを特徴とする物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種物品の表面をマット(艶消し)調とし、より高級感のある意匠性を付与することのできる水性表面処理剤及びそれを用いた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
各種物品は、意匠性の向上、高級感の付与を目的として、その表面に塗料が塗装されることが多い。例えば、家電製品の筐体、パソコン、携帯電話、スマートフォン等の電子機器の筐体、自動車内外装材などのプラスチック成形品の表面を艶消し処理して、高級感のある意匠性を付与するために、表面処理剤が用いられている。この表面処理剤として、従来は溶剤系のものが多かったが、揮発性有機化合物(以下、「VOC」と略記する。)を発生して環境負荷が大きいことから、VOCの排出量の削減が求められ、表面処理剤の水性化が進められている。
【0003】
しかしながら、表面処理剤を水性化した水性表面処理剤は、プラスチック成形品への密着性が低く、特にプラスチック成形品がポリオレフィン製の場合、この密着性の低さが顕著となる問題があった。
【0004】
基材がポリオレフィン製のプラスチック成形品であっても、密着性を向上する手法として、まず、プライマーとして、分子内にカルボキシル基及び/又は水酸基を有する水系ポリウレタン系樹脂と、分子内にカルボキシル基を有する非塩素系の水系ポリオレフィン系樹脂及び艶消剤とよりなる配合物に、前記樹脂中の官能基と反応可能な架橋剤を配合して得た一次コーティング剤をポリオレフィン基材上に塗布した後、仕上げとして、分子内にカルボキシル基及び/又は水酸基を有する水系ポリウレタン系樹脂と艶消剤よりなる配合物に、前記樹脂中の官能基と反応可能な架橋剤を配合して得た二次コーティング剤を前記一次コーティング剤の塗膜上に塗布する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。しかしながら、この方法では、プライマー、仕上げ剤と2回の塗布が必要である問題があった。また、フィルム又はシート状のポリオレフィン基材に、この方法で形成した塗膜は、延伸等の成形加工を行った際に塗膜表面に割れを生じるという問題があった。
【0005】
そこで、ポリオレフィン等の難密着性基材に対しても高い密着性を有し、延伸等の成形加工をしても、割れを生じずマット感の変化が少ない塗膜が、1回の塗工で得られる水性表面処理剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−176615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、各種物品の表面をマット調とし、より高級感のある意匠性を付与することのできるとともに、ポリオレフィン等の難密着性基材に対しても高い密着性を有し、延伸等の成形加工をしても、割れを生じずマット感の変化が少ない塗膜が、1回の塗工で得られる水性表面処理剤及びそれを用いた物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、水性ポリウレタンと、酸変性非塩素化ポリオレフィンとを特定の比率で併用した水性表面処理剤は、各種物品の表面をマット調とし、より高級感のある意匠性を付与することのできるとともに、ポリオレフィン等の難密着性基材に対しても高い密着性を有し、延伸等の成形加工をしても、割れを生じずマット感の変化が少ない塗膜が、1回の塗工で得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、水性ポリウレタン(A)、酸変性非塩素化ポリオレフィン(B)、マット剤(C)及び架橋剤(D)を含有する水性表面処理剤であって、前記水性ポリウレタン(A)と酸変性非塩素化ポリオレフィン(B)との質量比率[(A)/(B)]が、55/45〜98/2の範囲であることを特徴とする水性表面処理剤及びそれを用いた物品に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水性表面処理剤は、各種物品の表面をマット調とし、より高級感のある意匠性を付与することのできるとともに、ポリオレフィン等の難密着性基材に対しても高い密着性を有し、延伸等の成形加工をしても、割れを生じずマット感の変化が少ない塗膜が、1回の塗工で得られることから、各種物品の表面に処理剤として用いることができる。特に、プラスチック成形品に好適に用いることができ、プラスチック成形品の中でも熱可塑性オレフィン(Thermo Plastic Olefin;以下、「TPO」と略記する。)の成形品であるTPOレザーやTPOシートにより好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水性表面処理剤は、水性ポリウレタン(A)、酸変性非塩素化ポリオレフィン(B)、マット剤(C)及び架橋剤(D)を含有する水性表面処理剤であって、前記水性ポリウレタン(A)と酸変性非塩素化ポリオレフィン(B)との質量比率[(A)/(B)]が、55/45〜98/2の範囲であるものである。
【0012】
前記水性ポリウレタン(A)は、水性媒体中に溶解又は分散するポリウレタンであればよく、中でもカルボキシル基及び/又は水酸基を有するポリウレタンが好ましい。この水性ポリウレタン(A)のうち、水酸基を有するポリウレタンの製造方法としては、例えば、過剰量のポリオール及び/又はグリコールとポリイソシアネートとを反応させて末端に水酸基を有するポリウレタンを得る方法、イソシアネート基末端のウレタンプレポリマーに2−アミノエタノール、2−アミノエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアミノアルコール、アミノフェノール等を反応させて水酸基を有するポリウレタンを得る方法等が挙げられる。一方、カルボキシル基を有するポリウレタンの製造方法としては、例えば、カルボキシル基を有する化合物を原料としてウレタン化反応の際に使用する方法が挙げられる。
【0013】
前記水性ポリウレタン(A)の原料として用いるポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール、ポリブタジエン系等のポリオレフィンポリオールなどが挙げられる。これらの中でも、耐久性が優れていることから、ポリカーボネートポリオールが好ましい。また、カルボキシル基を有するポリウレタンの原料として用いるカルボキシル基を有する化合物としては、例えば、2,2’−ジメチロールプロピオン酸、2,2’−ジメチロールブタン酸、2,2’−ジメチロール酪酸、2,2’−ジメチロール吉草酸等が挙げられる。これらの中でも、2,2’−ジメチロールプロピオン酸が好ましい。
【0014】
上記の製造方法により得られる前記水性ポリウレタン(A)の中でも、ポリカーボネートポリオールを原料として用いたポリカーボネート系水性ポリウレタンは、塗膜強度が高いことから好ましい。また、前記水性ポリウレタン(A)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0015】
前記酸変性非塩素化ポリオレフィン(B)は、ポリオレフィンを塩素化せずに酸変性したものである。前記ポリオレフィンは、オレフィン化合物を重合したものであり、前記オレフィン化合物としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン等のものを用いることができる。また、これらのオレフィン化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもでき、前記ポリオレフィン(B)は、ホモポリマーであってもコポリマーであっても構わない。
【0016】
前記ポリオレフィン(B)の原料となるポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン−プロピレン共重合体、天然ゴム、合成イソプロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。また、前記ポリオレフィン(B)がコポリマーである場合には、ランダムコポリマーであってもブロックコポリマーであっても構わない。
【0017】
また、前記ポリオレフィン(B)は、上記で例示したポリオレフィンを酸変性したものであるが、その酸変性は、不飽和カルボン酸又はその無水物を用いて、ポリオレフィンと反応させる方法が好ましい。前記不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、アコニット酸、クロトン酸等のものが挙げられ、これらの無水物も挙げられる。また、不飽和カルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。これらの不飽和カルボン酸の中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸又は無水マレイン酸を用いることが好ましい。
【0018】
ポリオレフィンの酸変性は、例えば、有機溶剤に溶解したポリオレフィンと、不飽和カルボン酸とを混合し、ポリオレフィンの軟化温度又は融点以上の温度で加熱して反応させることにより行うことができる。
【0019】
上記の水性ポリウレタン(A)と酸変性非塩素化ポリオレフィン(B)との質量比率[(A)/(B)]は、55/45〜98/2の範囲である。この範囲であれば、マット感が低下しない成形加工性と基材との高い密着性の両立が図れるが、水性ポリウレタン(A)の比率が55質量%未満であると、延伸等の成形加工により塗膜表面に割れを生じる問題があり、水性ポリウレタン(A)の比率が98質量%を超えると、ポリオレフィン等の難密着性基材との密着性が不十分となる問題がある。さらに、より高い水準で成形性と密着性を向上するためには、前記質量比率[(A)/(B)]が、60/40〜98/2の範囲が好ましく、70/30〜97/3の範囲がより好ましい。
【0020】
前記マット剤(C)としては、例えば、シリカ粒子、有機ビーズ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、タルク、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、カオリン、雲母、アスベスト、マイカ、ケイ酸カルシウム、アルミナシリケイト等が挙げられる。
【0021】
前記シリカ粒子としては、乾式シリカ、湿式シリカ等が挙げられる。これらの中でも、散乱効果が高く光沢値の調整範囲が広くなることから、乾式シリカが好ましい。また、組成物中に分散しやすくなることから、有機化合物で表面修飾した乾式シリカがより好ましい。これらシリカ粒子の平均粒子径としては、2〜14μmの範囲が好ましく、3〜12μmの範囲がより好ましい。
【0022】
前記シリカ粒子の使用量としては、所望のマット調の意匠が得られる光沢値が達成できることから、前記水性ポリウレタン(A)、酸変性非塩素化ポリオレフィン(B)の合計樹脂分100質量部に対して、0.1〜40質量部の範囲が好ましく、3〜30質量部の範囲がより好ましい。
【0023】
前記有機ビーズとしては、例えば、アクリルビーズ、ウレタンビーズ、シリコンビーズ、オレフィンビーズ等が挙げられる。
【0024】
上記のマット剤(C)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0025】
前記架橋剤(D)としては、オキサゾリン、カルボジイミド、ポリイソシアネート、ブロックイソシアネート、エポキシ、ポリシロキサン、アジリジン、アルキル化メラミン等の尿素樹脂系架橋剤、ヒドラジド系架橋剤などが挙げられる。これらの中でも、架橋性能と安全性の面から、カルボジイミド、ポリイソシアネートが好ましい。また、これらの架橋剤(D)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。前記架橋剤(D)の使用量としては、塗膜強度の観点から、前記水性ポリウレタン(A)、酸変性非塩素化ポリオレフィン(B)の合計樹脂分100質量部に対して、0.5〜30質量部の範囲が好ましく、1〜25質量部の範囲がより好ましい。
【0026】
本発明の水性表面処理剤には、上記の水性ポリウレタン(A)、酸変性非塩素化ポリオレフィン(B)、マット剤(C)及び架橋剤(D)以外に、ポリオレフィンワックス(E)を配合することができる。
【0027】
前記ポリオレフィンワックス(E)の中でも、塗膜にアルコール等の溶剤が接触してもその痕(溶剤痕)が残りにくく、耐溶剤性が向上することから、その溶融範囲が140〜180℃であるものが好ましく、145〜175℃であるものがより好ましく、150〜170℃であるものがさらに好ましい。このようなポリオレフィンワックス(E)としては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等が挙げられる。これらのポリオレフィンワックス(E)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。なお、本発明において、ポリオレフィンワックス(E)として、2種以上のものを併用した場合、その溶融範囲は、混合物での溶融範囲とする。また、溶融範囲は、JIS試験方法K0064−1992に準拠して測定したものである。
【0028】
上記のポリオレフィンワックス(E)の中でも、ポリプロピレンワックスを主成分としたものが、溶剤痕を低減できることから好ましい。また、前記ポリオレフィンワックス(E)の使用量としては、溶剤痕の低減効果と塗膜強度を高めることができるから、前記水性ポリウレタン(A)、酸変性非塩素化ポリオレフィン(B)の合計樹脂分100質量部に対して、0.1〜20質量部の範囲が好ましく、3〜15質量部の範囲がより好ましい。
【0029】
本発明の水性表面処理剤には、上記の成分(A)〜(E)以外に、各種界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、粘弾性調整剤、湿潤剤、分散剤、防腐剤、膜形成剤、可塑剤、浸透剤、香料、殺菌剤、殺ダニ剤、防かび剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料(例えば、チタン白、ベンガラ、フタロシアニン、カーボンブラック、パーマネントイエロー等)等の添加剤を配合しても構わない。
【0030】
本発明の物品は、本発明の水性表面処理剤の塗膜を有するものである。また、物品としては、例えば、家電製品(冷蔵庫、洗濯機、エアコン、テレビ等)の筐体、電子機器(パソコン、携帯電話、スマートフォン等)の筐体、楽器(ピアノ、エレクトーン、電子楽器等)の材料;自動車又は鉄道車両の内装材(インスツルメントパネル、ドアトリム、ヘッドライニング、トノーカバー等)、建材又は家具材(壁紙、合板用化粧シート、鋼板用化粧シート、椅子貼り用レザー等)、包装材料(ラッピングフィルム等)などのプラスチック成形品;木質材料(合板、集成材、単層積層材等);セラミック材料(内装タイル、煉瓦等);が挙げられる。スポーツ(スキー、アーチェリー、ゴルフ、テニス等)用具材料;履物材料(靴の甲材、底、芯材、ヒール、トップリフト、中敷等);金属材料(鉄、銅、亜鉛、アルミニウム等)などが挙げられる。これらの物品の中でも、本発明の水性表面処理剤は、プラスチック成形品に好適に用いることができ、そのプラスチック成形品の中でも、TPOレザー、TPOシートに用いることが好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0032】
(実施例1)
水性ポリウレタン(DIC株式会社製「ハイドラン WLS−210」、ポリカーボネート系水性ポリウレタン、不揮発分:35質量%)37質量部(水性ポリウレタンの樹脂として12.95質量部)、酸変性非塩素化ポリオレフィン(星光PMC株式会社製「VE−1217」、不揮発分:31.4質量%)10.3質量部(酸変性非塩素化ポリオレフィンの樹脂として3.23質量部)、架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライト E−04」、カルボジイミド系架橋剤)2.6質量部、マット剤(エボニックデグサ社製「ACEMATT 3300」、乾式法で製造され表面を有機処理されたシリカ粒子、平均粒子径:9.5μm)2.2質量部、ポリプロピレンワックス(Micro Powders社製「MICROMATTE 1213UVW」;溶融範囲150〜156℃)1質量部、ノニオン系界面活性剤(第一工業製薬株式会社製「ノイゲン EA−157」)0.1質量部、フッ素系界面活性剤(DIC株式会社製「メガファック F−444」)0.1質量部、粘弾性調整剤(サンノプコ株式会社製「SNシックナー 612NC」)0.7質量部及びイオン交換水46質量部を均一に混合して、水性表面処理剤(1)を得た。
【0033】
[評価用サンプルの作製]
上記で得られた水性表面処理剤(1)をバーコーターNo.14を用いてTPOシート(厚さ0.4mm)上に塗工した後、120℃で1分間乾燥して評価用サンプルを得た。
【0034】
[真空成形品の作製]
上記で得られた評価用サンプルを真空成形機(成光産業株式会社製「真空成形機 フォーミング300X」)を用いて、面積比で150%と250%になるように真空成形を行い、真空成形品を得た。
【0035】
[光沢値の測定]
上記で得られた評価用サンプルの水性表面処理剤の塗膜表面について、真空成形前及び面積比で250%の真空成形品の60°光沢値を、それぞれ光沢計(コニカミノルタオプティクス株式会社製「GM−268Plus」)を用いて測定した。また、真空成形前後の水性表面処理剤の塗膜表面の60°光沢値の変化率を下記式(1)により算出した。
【0036】
【数1】
【0037】
[成形加工性の評価]
上記で得られた面積比で250%の真空成形品の水性表面処理剤塗膜表面を目視で観察し、下記の基準にしたがって成形加工性を評価した。
○:塗膜表面に割れ無し。
×:塗膜表面に割れ有り。
【0038】
[剥離強度の測定]
上記で得られた面積比で150%の真空成形品の水性表面処理剤塗膜面にホットメルトテープ(奥田産業株式会社製「ポリコテープ6000番」)を熱プレス機(坂田機工株式会社製サーミックプリント専用プレス機)を用いて、180℃、16kPaで1分間熱圧着し、15mm幅の試験片を得た。ホットメルトテープとTPOシートの剥離強度測定は環境湿度50%環境温度23℃下で株式会社エイ・アンド・デイ製「テンシロン万能試験機RTCシリーズ」を用いて、引っ張り速度100mm/分で剥離強度を測定した。
【0039】
[密着性の評価]
上記で測定した剥離強度の測定値から、下記の基準にしたがって密着性を評価した。
○:剥離強度が10N/15mm以上である。
×:剥離強度が10N/15mm未満である。
【0040】
(実施例2)
実施例1で用いた酸変性非塩素化ポリオレフィンを、酸変性非塩素化ポリオレフィン(日本製紙株式会社製「アウローレン AE−301」、不揮発分:30質量%)10.8質量部(酸変性非塩素化ポリオレフィンの樹脂として3.24質量部)に、イオン交換水の配合量を45.5質量部に変更した以外は実施例1と同様に行い、水性表面処理剤(2)を得た。
【0041】
(実施例3)
実施例1で用いた酸変性非塩素化ポリオレフィンを、酸変性非塩素化ポリオレフィン(ユニチカ株式会社製「アローベース SD−1010」、不揮発分:20.5質量%)15.9質量部(酸変性非塩素化ポリオレフィンの樹脂として3.26質量部)に、イオン交換水の配合量を40.4質量部に変更した以外は実施例1と同様に行い、水性表面処理剤(3)を得た。
【0042】
(実施例4)
実施例1で用いた酸変性非塩素化ポリオレフィンを、酸変性非塩素化ポリオレフィン(ユニチカ株式会社製「アローベース SE−1200」、不揮発分:20.2質量%)15.9質量部(酸変性非塩素化ポリオレフィンの樹脂として3.21質量部)に、イオン交換水の配合量を40.4質量部に変更した以外は実施例1と同様に行い、水性表面処理剤(4)を得た。
【0043】
(実施例5)
実施例4で用いた架橋剤を、イオン交換水1.0質量部に予め混合乳化した架橋剤(DIC株式会社製「LCC WL FIXER UX−10」、水乳化性ポリイソシアネート系架橋剤)0.6質量部に変更し、イオン交換水の配合量を41.4質量部に変更した以外は実施例1と同様に行い、水性表面処理剤(5)を得た。
【0044】
(実施例6)
実施例1で用いた水性ポリウレタンの配合量を43.9質量部(水性ポリウレタンの樹脂として15.37質量部)に変更し、酸変性非塩素化ポリオレフィンを、酸変性非塩素化ポリオレフィン(ユニチカ株式会社製「アローベース SE−1200」、不揮発分:20.2質量%)4質量部(酸変性非塩素化ポリオレフィンの樹脂として0.81質量部)に変更し、イオン交換水の配合量を45.4質量部に変更した以外は実施例1と同様に行い、水性表面処理剤(6)を得た。
【0045】
(実施例7)
実施例1で用いた水性ポリウレタンの配合量を27.7質量部(水性ポリウレタンの樹脂として9.7質量部)に変更し、酸変性非塩素化ポリオレフィンを、酸変性非塩素化ポリオレフィン(ユニチカ株式会社製「アローベース SE−1200」、不揮発分:20.2質量%)32質量部(酸変性非塩素化ポリオレフィンの樹脂として6.46質量部)に変更し、イオン交換水の配合量を33.6質量部に変更した以外は実施例1と同様に行い、水性表面処理剤(7)を得た。
【0046】
(比較例1)
水性ポリウレタン(DIC株式会社製「ハイドラン WLS−210」、ポリカーボネート系水性ポリウレタン、不揮発分:35質量%)46.1質量部(水性ポリウレタンとして21.3質量部)、架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライト E−04」、カルボジイミド系架橋剤)2.6質量部、マット剤(エボニックデグサ社製「ACEMATT 3300」、乾式法で製造され表面を有機処理されたシリカ粒子、平均粒子径:9.5μm)2.2質量部、ポリプロピレンワックス(Micro Powders社製「MICROMATTE 1213UVW」;溶融範囲150〜156℃)1質量部、ノニオン系界面活性剤(第一工業製薬株式会社製「ノイゲン EA−157」)0.1質量部、フッ素系界面活性剤(DIC株式会社製「メガファック F−444」)0.1質量部、粘弾性調整剤(サンノプコ株式会社製「SNシックナー 612NC」)0.7質量部及びイオン交換水47.2質量部を均一に混合して、水性表面処理剤(R1)を得た。
【0047】
(比較例2)
実施例7で用いた水性ポリウレタンの配合量を18.5質量部(水性ポリウレタンの樹脂として6.48質量部)に変更し、酸変性非塩素化ポリオレフィンの配合量を48.1質量部(酸変性非塩素化ポリオレフィンの樹脂として9.71質量部)に変更し、イオン交換水の配合量を26.7質量部に変更した以外は実施例7と同様に行い、水性表面処理剤(R2)を得た。
【0048】
上記の実施例2〜7及び比較例1〜2で得られた水性表面処理剤(2)〜(7)及び(R1)〜(R2)について、実施例1と同様に60°光沢値の測定、成形性の評価、剥離強度の測定及び密着性の評価を行った。
【0049】
上記の実施例1〜7及び比較例1〜2で得られた水性表面処理剤(1)〜(7)及び(R1)〜(R2)の配合組成、60°光沢値、成形加工性、剥離強度、密着性の測定及び評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示した結果から、本発明の水性表面処理剤である実施例1〜7の水性表面処理剤(1)〜(7)は、60°光沢値の変化率が絶対値で62%以下と光沢値の変化が少ないことが分かった。また、延伸成形加工を行っても塗膜表面に割れを生じず成型加工性が良好であることが分かった。さらに、剥離強度が13.4N/15mm以上と高く、TPOシートに対して十分に高い密着性を有することが分かった。
【0052】
一方、比較例1は、酸変性非塩素化ポリオレフィン(B)を配合しなかった例である。この比較例1では、真空成型前後の60°光沢値の変化率も116%と変化が大きい問題があることが分かった。また、剥離強度が1.6N/15mmとTPOシートに対する密着性が非常に低く問題があることも分かった。
【0053】
比較例2は、水性ポリウレタン(A)と酸変性非塩素化ポリオレフィン(B)との質量比率[(A)/(B)]が、55/45〜98/2の範囲外である(A)/(B)=40/60とした例である。この比較例2では、真空成型前後の60°光沢値の変化率が−72%と変化が大きい問題があることが分かった。また、TPOシートに対する密着性は良好であったが、延伸成形加工によって塗膜表面に割れを生じる問題があることも分かった。