(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(A)と、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(B)と、重合性二重結合を有し、かつメチルメタクリレート単位を75質量%以上有する重合体(C)と、ワックス(D)とを含有し、
前記単量体(A)として、フラン環、ヒドロフラン環、ピラン環及びヒドロピラン環からなる群より選ばれるヘテロ環を有する(メタ)アクリレート(a1)と、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a2)と、メチルメタクリレート(a3)とを含有することを特徴とする湿潤基材被覆用アクリル系樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(アクリル系樹脂組成物)
本発明のアクリル系樹脂組成物は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)とワックス(D)とを含有する
【0011】
アクリル系樹脂組成物の粘度は、特に限定されないが、300mPa・s以下が好ましく、5〜100mPa・sがより好ましい。アクリル系樹脂組成物の粘度が低いほど、作業性を高められる。また、粘度が低いほど、湿潤状態の基材に対する接着性が高まり、さらに基材への浸透性も高まることから、基材へのアンカー効果が高まって熱が加わった場合の耐久性が高くなる。
なお、アクリル系樹脂組成物の粘度は、23℃においてJIS−Z8803規定のブルックフィールド型粘度計BM型で計測される溶液粘度である。
【0012】
アクリル系樹脂組成物は、23℃におけるガラス板(JIS R3202:2011、「フロート板ガラス及び磨き板ガラス」に記載のフロート板ガラス)との接触角が、好ましくは35°未満、より好ましくは20°未満である。上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物の基材への浸透性がより良好となるためである。
なお、フロート板ガラスとの接触角は、後述する単量体(a1)〜(a3)の種類や含有量を調整することで、調節される。
【0013】
アクリル系樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)は、70℃以上が好ましく、70〜120℃がより好ましい。上記下限値以上であれば、アクリル系樹脂組成物の硬化物の熱に対する耐久性を高められる。上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物の硬化物が硬くなりすぎず、温度変化によって基材の動きが経時的に発生した場合でも塗膜の劣化を抑制できる。
アクリル系樹脂組成物の硬化物のTgは、アクリル系樹脂組成物を重合硬化して厚さ1mmの注型板を作製し、この注型板について粘弾性測定(JIS−K7244−2:1998、「プラスチック−動的機械特性の試験方法−第2部:ねじり振り子法」記載のA法)したときのTgである。
なお、硬化物のTgは、後述する単量体(a1)〜(a3)、単量体(B)及び重合体(C)の種類や含有量を調整することで、調節される。
【0014】
アクリル系樹脂組成物の引火点は、21℃以上が好ましい。上記下限値以上であれば、取り扱いが容易なためである。
引火点は、後述する単量体(a1)〜(a3)、単量体(B)の種類や含有量を調整することで、調節される。
【0015】
<単量体(A)>
単量体(A)は、分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する単量体である。アクリル系樹脂組成物は、単量体(A)として、フラン環、ヒドロフラン環、ピラン環及びヒドロピラン環からなる群より選ばれるヘテロ環を有する(メタ)アクリレート(a1)(以下、単量体(a1)ということがある)と、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a2)(以下、単量体(a2)ということがある)と、メチルメタクリレート(a3)(以下、単量体(a3)ということがある)とを少なくとも含有する。
【0016】
≪単量体(a1)≫
単量体(a1)は、分子中に(メタ)アクリロイル基を1個のみ有し、フラン環、ヒドロフラン環、ピラン環及びヒドロピラン環からなる群より選ばれるヘテロ環を有する(メタ)アクリレートである。
単量体(a1)は、アクリル系樹脂組成物の粘度、塗膜の機械的強度等の特性、引火点温度、Tgを調整する成分である。
【0017】
フラン環を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばフリル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ヒドロフラン環を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばテトラヒドロフリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ピラン環を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばピラニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ヒドロピラン環を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばジヒドロピラニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロピラニル(メタ)アクリレート、ジメチルジヒドロピラニル(メタ)アクリレート、ジメチルテトラヒドロピラニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの単量体(a1)の中でも、分子量130〜300のものが好ましく、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジメチルジヒドロピラニルメタクリレート、ジメチルテトラヒドロピラニルメタクリレートがより好ましい。
これらの単量体(a1)は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0018】
アクリル系樹脂組成物中の単量体(a1)の含有量は、単量体(a1)の種類等を勘案して決定され、例えば、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量%に対し、10〜60質量%が好ましく、15〜60質量%がより好ましい。上記下限値以上であれば、アクリル系樹脂組成物の表面硬化性、塗膜の強度が向上し、アクリル系樹脂組成物の引火点を上げることができる。上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物を重合硬化した硬化物のTgを高められる。
【0019】
≪単量体(a2)≫
単量体(a2)は、1個の(メタ)アクリロイル基と、1個以上のヒドロキシアルキル基とを有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートである。
単量体(a2)は、基材に対する接着性を付与する成分である。
【0020】
単量体(a2)としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘプチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシノニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシウンデシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、分子量130〜300のものが好ましく、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
これらの単量体(a2)は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0021】
アクリル系樹脂組成物中の単量体(a2)の含有量は、単量体(a2)の種類等を勘案して決定され、例えば、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量%に対し、2〜40質量%が好ましい。上記下限値以上であれば、塗膜に十分な接着性を付与できる。加えて、基材に対する親和性をも付与できるので、湿潤状態の基材中の水分との親和性が向上する。従って、乾燥基材はもちろんのこと、湿潤状態の基材に対しても接着性に優れた塗膜を形成できる。特に、複雑な表面状態の基材や、表面に亀裂を有する基材であっても、アクリル系樹脂組成物が基材に浸透しやすくなるので、基材と塗膜との接着性が向上する。さらに、アクリル系樹脂組成物の表面硬化性、塗膜の強度が向上し、アクリル系樹脂組成物の引火点を上げることができる。上記上限値以下であれば、塗膜の耐水性が良好となる。
【0022】
≪単量体(a3)≫
単量体(a3)は、メチルメタクリレートである。
アクリル系樹脂組成物中の単量体(a3)の含有量は、単量体(a2)の種類等を勘案して決定され、例えば、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量%に対し、5〜25質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。上記下限値以上であれば、アクリル系樹脂組成物の表面硬化性、塗膜の強度を高められる。上記上限値以下であれば、樹脂組成物の引火点を高められる。
【0023】
≪その他の単量体≫
アクリル系樹脂組成物は、単量体(A)として、単量体(a1)〜(a3)以外に、(メタ)アクリロイル基を1個のみ有する単量体(以下、単量体(a4)ということがある)を、塗膜の強度等の機械的特性、引火点温度、Tgを損なわない範囲で含有してもよい。
単量体(a4)としては、種々の分子量のものが利用できるが、分子量が130〜300のものが好ましい。
【0024】
分子量が130〜300である単量体(a4)としては、例えば、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート等の炭素数4〜15のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート;コハク酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、マレイン酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、フタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル等のカルボン酸含有(メタ)アクリレート;2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、3−メタクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、ジブチル2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、ジオクチル2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、ジフェニル2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルポリエチレングリコールアシッドフォスフェート等のリン酸エステル系単量体;エチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、エチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、2−エトキシレーテッド2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート等のオリゴエチレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート;グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有メタクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(エチレングリコールの繰り返し数が4以下)、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(ポリプロピレングリコールの繰り返し数が2以下)等の水酸基末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロエチル(メタ)アクリレート等のフッ素原子含有(メタ)アクリレート;ジメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のジ又はトリアルキルシクロヘキシル基含有(メタ)アクリレート;ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤;ジメチルフェニル(メタ)アクリレート、トリメチルフェニル(メタ)アクリレート等のジ又はトリアルキルフェニル基含有(メタ)アクリレート;ベンジルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)クリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0025】
分子量が130未満である単量体(a4)としては、例えばメチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、(メタ)アクリル酸、アリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
分子量が300を超える単量体(a4)としては、例えばステアリル(メタ)アクリレート、セチルメタクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、オクタフルオロペンチルメタクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(エチレングリコールの繰り返し数が5以上)、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(ポリプロピレングリコールの繰り返し数が3以上)等の水酸基末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート(エチレングリコールの繰り返し数が5以上)等のポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
分子量の上限は特に制限されないが、1,000以下が好ましい。
【0027】
アクリル系樹脂組成物中の単量体(a4)の含有量は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量%に対し、0〜30質量%が好ましく、0〜25質量%がより好ましい。上記上限値以下であれば、重合体(C)との相溶性を損なうことがない。
【0028】
アクリル系樹脂中の単量体(A)の含有量は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量%に対し、55〜87質量%が好ましく、65〜85質量%がより好ましい。上記下限値以上であれば、アクリル系樹脂組成物の粘度が高くなりすぎず、作業性が良好となる。上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物の粘度が低くなりすぎず、基材に対して適度な厚みで塗工できる。
【0029】
<単量体(B)>
単量体(B)は、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能単量体である。
単量体(B)は、塗膜の機械的強度、耐摩耗性、耐薬品性等を向上させる。
【0030】
単量体(B)としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロプレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物等のフェノールアルキレンオキサイド付加物(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能単量体が挙げられる。
単量体(B)としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物が好ましい。
これらの単量体(B)は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0031】
アクリル系樹脂組成物中の単量体(B)の含有量は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量%に対し、0.5〜15質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましい。上記下限値以上であれば、塗膜の機械的強度、耐摩耗性、耐久性等をより高められる。上記上限値以下であれば、硬化するまでの時間が短くなりすぎず、作業性が良好となる。
加えて、アクリル系樹脂組成物中の単量体(B)の含有量は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量%中、下記(1)式を満たす範囲内であることが好ましい。下記(1)式を満たせば、機械的強度と柔軟性のバランスにより優れた塗膜を形成できる。
【0032】
0.25<単量体(B)の含有量/T<7.5 ・・・(1)
(1)式中、「単量体(B)の含有量」は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量%に対する単量体(B)の含有量(質量%)である。「T」は、単量体(B)中の炭素数(ただし、(メタ)アクリロイル基の炭素を除く)の合計である。
【0033】
<重合体(C)>
重合体(C)は、重合性二重結合を有し、かつメチルメタクリレート単位を75質量%以上有する重合体である。重合体(C)は、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基等のラジカル重合反応に関与する重合性二重結合を有するもので、アクリル系樹脂組成物に硬化性を付与し、アクリル系樹脂組成物の硬化塗膜に機械的強度を付与する成分である。
重合体(C)としては、メチルメタクリレート単位を有するものが好ましい。メチルメタクリレート単位以外には、例えば炭素数2個以上のアルキル基を有する単位、アルキル(メタ)アクリレート単位、その他単官能アクリル系単量体、多官能アクリル系単量体、(メタ)アクリル酸等を含むことができる。
重合体(C)中のメチルメタクリレート単位の含有量は、75質量%以上であり、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。重合体(C)中のメチルメタクリレート単位の含有量は、99質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましい。上記下限値以上であれば、湿熱耐久性を高められる。上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物を硬化させたときの熱に対する耐久性を高められる。
【0034】
重合体(C)の製造方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
第1段階の反応として、メチルメタクリレート(c1)及び他のアクリル系単量体(c2)の1種類以上と、エステル結合やウレタン結合等の結合を形成する反応に関与する第1の官能基を有する単量体とを共重合させて、該第1の官能基を有する第1の共重合体(C’)を得る。次いで第2段階の反応として、前記第1の官能基と反応して結合を生成する第2の官能基及び重合性二重結合を有する第2の単量体と、前記第1の共重合体(C’)とを反応させることにより、重合性二重結合を有する重合体(C)を得る。
前記第1の官能基と第2の官能基の組み合わせとしては、カルボキシル基とグリシジル基、ヒドロキシル基とイソシアネート基等が好ましい。
単量体(c2)としては、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;イソボロニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート;上記の炭素数2個以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単位、及びシクロアルキル(メタ)アクリレート単位のいずれにも含まれないアクリル系単位としてグリシジル(メタ)アクリレート、又は(メタ)アクリル酸が好ましい。これらは、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
重合体(C)を構成する単量体として、メチルメタクリレート単位を重合体(C)中に75質量%以上有し、炭素数2〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート及び/又はイソボルニル(メタ)アクリレートと、グリシジル(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリル酸とを用いることが好ましく、メチルメタクリレートと、グリシジル(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリル酸とを用いることがより好ましい。
炭素数2〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートは、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレートが好ましく、n−ブチルメタクリレートが特に好ましい。
【0035】
第1の共重合体(C’)のTgは80〜155℃が好ましく、80〜110℃がより好ましい。Tgが155℃以下であれば、重合体(C)を合成する際、第1段階の反応で得られた第1の共重合体(C’)の溶解性が良好となる。Tgが80℃以上であれば、熱が加わった場合の耐久性を高められる。なお、第1の共重合体(C’)のTgは、示差走査熱量計(以下「DSC」と略す)により求められる値である。
【0036】
重合体(C)の製造における重合方法としては、例えば、以下の方法が好ましい。
第1段階の反応においてメチルメタクリレート(c1)及び他のアクリル系単量体(c2)の1種以上と、(メタ)アクリル酸とを懸濁重合してカルボキシル基を有する第1の共重合体(C’)を得る。第2段階の反応において、得られた共重合体(C’)を別のメチルメタクリレート(c1)に加えて溶液とし、該溶液中で共重合体(C’)にグリシジル(メタ)アクリレートをエステル化反応により付加させて重合性二重結合を有する重合体(C)を得る。
この場合、第1段階の反応において懸濁重合する際の重合温度は70〜98℃が好ましく、重合時間は2〜5時間程度が好ましい。第2段階の反応における反応温度は90〜95℃が好ましく、反応時間は1〜4時間程度が好ましい。
【0037】
第1段階の反応に用いる単量体の好ましい組成比は、メチルメタクリレート(c1)が90〜99.5質量%、他のアクリル系単量体(c2)が0〜9質量%、(メタ)アクリル酸が0.5〜7質量%であることが好ましく、中でも(メタ)アクリル酸1〜4質量%であることがより好ましい。
【0038】
第1段階の反応において懸濁重合を行う場合、その懸濁液は水性懸濁液が好ましい。該水性懸濁液には分散剤を添加することが好ましい。分散剤は、特に限定されず、例えば、リン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、澱粉末シリカ等の水難溶性無機化合物;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、セルロース誘導体等のノニオン系高分子化合物;ポリ(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸メチル共重合物のアルカリ金属塩等のアニオン系高分子化合物等が挙げられる。分散剤の使用量は懸濁液中、0.005〜5質量%が好ましく、0.01〜1質量%がより好ましい。
また、前記懸濁重合時の懸濁液に、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マンガン等の電解質を含有させることが好ましい。電解質を含有させることにより、分散安定性を向上させることができる。電解質の使用量は適宜設定すればよく特に限定されるものではない。
【0039】
前記懸濁重合においては、重合開始剤を用いる。重合開始剤は、特に限定されず、例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエード、クメンヒドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。重合開始剤の添加量や添加方法は適宜設定すればよく特に限定されるものではない。
前記懸濁重合において連鎖移動剤を用いることが好ましい。連鎖移動剤を用いると、単官能アクリル系単量体の重合反応を容易に制御できる。
連鎖移動剤としてチオール化合物が好適に用いられる。チオール化合物は特に限定されず、例えば、t−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;チオフェノールチオナフトール等の芳香族メルカプタン:チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル等のチオグリコール酸アルキル等が挙げられる。連鎖移動剤の添加量や添加方法は適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0040】
第1段階の反応で得られる第1の共重合体(C’)の重量平均分子量は、10,000〜150,000が好ましく、15,000〜80,000がより好ましい。上記下限値以上であると硬化物の強度が十分に高くなりやすい。上記上限値以下であるとアクリル系樹脂組成物を取り扱うときの作業性が良好となる。
なお、本明細書における重量平均分子量は、樹脂を溶剤(テトラヒドロフラン)に溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、「GPC」と記す。)により測定した分子量をポリスチレン換算したものである。
【0041】
第2段階の反応においては、前記第1段階の共重合体(C’)100質量部を別のメチルメタクリレート(c1)100〜200質量部に加え、第1段階の反応に用いた(メタ)アクリル酸の1モルに対して、グリシジル(メタ)アクリレートを0.9〜1.2モル反応させることが好ましく、1.0〜1.1モル反応させることがより好ましい。
【0042】
第2段階の反応において、第1の官能基と第2の官能基との反応を進行させるためにエステル化触媒を用いることができる。エステル化触媒としては、例えば、トリエチルアミン等のアミン類;テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロミド等の4級アンモニウム塩類;トリフェニルホスフィン等のリン化合物を挙げることができる。これらは1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。エステル化触媒の添加量は適宜設定すればよく特に限定されるものではない。
第2段階の反応においては重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤を添加すると第2段階の反応をより安定に行うことができる。重合禁止剤としては、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−t−ブチル4−メチルフェノール等が挙げられる。これらの重合禁止剤は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。重合禁止剤の添加量は適宜設定すればよく特に限定されるものではない。
【0043】
第2段階の反応で得られる重合体(C)が重合性二重結合を有すること、即ち第1の共重合体に含まれるカルボキシル基が第2段階の反応によってグリシジル(メタ)アクリレートのグリシジル基と反応したことは、重合性二重結合を有する重合体(C)の酸価が第1段階の反応で用いられた(メタ)アクリル酸から見積もられる値より少なくなっていることで確認できる。この酸価(単位:mgKOH/g)は1以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
本明細書における酸価の値は、重合体(C)をトルエンに溶解し、フェノールフタレインを指示薬として、0.1NのKOHエタノール溶液を用いて滴定して求めた値である。
【0044】
アクリル系樹脂組成物中の重合体(C)の含有量は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量%に対して、1〜15質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。上記下限値以上であると良好な硬化性が得られやすく、上記上限値以下であるとアクリル系樹脂組成物の粘度を低くできる。
加えて、アクリル系樹脂組成物中の重合体(C)の含有量は、下記(2)式の関係を満足する範囲が好ましい。
【0045】
150,000≦[第1段階の反応で得られる第1の共重合体(C’)のMw]×[重合性二重結合を有する重合体(C)の質量%]≦750,000 ・・・(2)
【0046】
重合体(C)が、重合性二重結合を有する重合体(C1)、(C2)・・・の混合物である場合は、下記(3)式を用いる。
【0047】
150,000≦{[第1段階の反応で得られる第1の共重合体(C’1)のMw]×[重合性二重結合を有する重合体(C1)の質量%]}+{[第1段階の反応で得られる第1の共重合体(C’2)のMw]×[重合性二重結合を有する重合体(C2)の質量%]}+・・・・≦750,000 ・・・(3)
【0048】
上記(2)式又は(3)式で150,000以上とすることで、より良好な硬化性を得られ、750,000以下とすることでアクリル系樹脂組成物の粘度を低くし、作業性を高められる。アクリル系樹脂組成物の粘度が高くなりすぎると、湿潤状態の基材における接着性が低下しやすく、基材への浸透性が低下するため、基材へのアンカー効果が低下して、熱が加わった場合の耐久性が低下しやすい。
【0049】
<ワックス(D)>
ワックス(D)は、空気遮断作用を利用した表面硬化性向上等の作用を奏する。
ワックス(D)としては、固形ワックス類が挙げられる。固形ワックス類としては、パラフィン類、ポリエチレン類、ステアリン酸等の高級脂肪酸類等が挙げられる。これらの中でも、パラフィン類が好ましい。
【0050】
ワックス(D)の融点は、40〜80℃が好ましい。上記下限値以上であれば、アクリル系樹脂組成物を硬化させた際に、十分な空気遮断作用が得られ、表面硬化性が良好となる。上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物を調製する際、単量体(A)、(B)へのワックス(D)の溶解性が良好となる。
ワックス(D)としては、融点の異なる2種以上を併用することが好ましい。融点の異なる2種以上のワックス(D)を併用すると、アクリル系樹脂組成物を硬化させる際に基材温度が変わっても、十分な空気遮断作用が得られ、表面硬化性が良好となる。併用する際には、融点の差が5℃〜20℃のものを併用することが好ましい。
【0051】
ワックス(D)としては、表面硬化性を向上させる点で、有機溶剤に分散したワックス(D)を使用しても良い。この際、分散状態のワックス(D)の粒子径は0.1〜50μmが好ましい。ワックス(D)が有機溶剤に分散状態にあり、分散状態のワックス(D)の粒子径が0.1μm〜50μmに微粒子化されていることにより、空気遮断作用を効果的に発現できる。分散状態のワックス(D)は、市販されており、該ワックスをそのまま添加してもよい。この場合、本発明のアクリル系樹脂組成物は有機溶剤を含有することになる。
分散状態のワックス(D)は、有機溶剤を全く含有せずに、単量体(A)、(B)にワックス(D)が分散しているものであってもよい。
【0052】
アクリル系樹脂組成物中のワックス(D)の含有量は、空気硬化性と塗膜の物性とのバランス等の点から、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量部に対して、0.05〜3質量部が好ましく、0.05〜2質量部がより好ましい。上記下限値以上であれば、アクリル系樹脂組成物を塗装硬化させた際に十分な空気遮断作用が得られ、表面硬化性が良好となる。上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物の貯蔵安定性、アクリル系樹脂組成物を塗装硬化させた際の耐汚染性が良好となる。
【0053】
<有機過酸化物(E)>
アクリル系樹脂組成物は、任意成分として有機過酸化物(E)を含有してもよい。有機過酸化物(E)は重合開始剤の役割を果たす。
有機過酸化物(E)としては、例えばメチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド;1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール;1,1,3,3,−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート;t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル等が挙げられる。
有機過酸化物(E)としては、ジベンゾイルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドが好ましい。
有機過酸化物(E)は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0054】
アクリル系樹脂組成物中の有機過酸化物(E)の含有量は、有機過酸化物(E)を除いた該樹脂組成物100質量部に対して、0.25〜5質量部が好ましく、0.25〜4質量部がより好ましい。上記下限値以上であれば、硬化性が良好となる傾向にある。上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物の塗工作業性、得られる塗膜の各種物性がより高まる傾向にある。
アクリル系樹脂組成物中の有機過酸化物(E)の含有量は、アクリル系樹脂組成物の可使時間が5〜90分となるように適宜調整することが好ましい。このように有機過酸化物(E)の含有量を調整し添加することで、添加後すみやかに重合反応が開始され、アクリル系樹脂組成物の硬化が進行する。
【0055】
<分解促進剤(F)>
アクリル系樹脂組成物は、任意成分として分解促進剤(F)を含有してもよい。分解促進剤(F)は、有機過酸化物(E)の分解を促進させ、硬化反応を促す役割を果たす。
分解促進剤(F)としては、多価金属石鹸(f1)及び3級アミン(f2)から選ばれる1種以上が好ましく、多価金属石鹸(f1)及び3級アミン(f2)を併用するのがより好ましい。
分解促進剤(F)として、多価金属石鹸(f1)及び3級アミン(f2)を併用することで、アクリル系樹脂組成物の硬化時間を短縮して硬化性を高められる。従って、乾燥基材はもちろんのこと、湿潤状態の基材に対しても硬化性に優れた塗膜を形成できる。
【0056】
≪多価金属石鹸(f1)≫
多価金属石鹸(f1)としては、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、アセトアセチル酸コバルト、ナフテン酸マンガン、オクチル酸ニッケル等が挙げられる。
多価金属石鹸(f1)としては、適度な可使時間及び良好な硬化性を得ることができる等の観点から、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルトが好ましい。
多価金属石鹸(f1)は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0057】
アクリル系樹脂組成物中の多価金属石鹸(f1)の含有量は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量部に対して、0.01質量部超であり、0.03質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましい。上記下限値以上であれば、良好な硬化性を得られる。
ただし、多価金属石鹸(f1)の含有量が多すぎると、多価金属石鹸(f1)を分散溶解している溶剤量が多くなって、硬化性が低下したり、硬化塗膜の強度が低下したりするおそれがある。従って、多価金属石鹸(f1)の含有量の上限値は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量部に対して、1.0質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましく、0.4質量部以下がさらに好ましい。
なお、本発明において、「多価金属石鹸(f1)の含有量」とは、多価金属石鹸(f1)に由来する金属の含有量のこと、即ち金属換算値である。
【0058】
≪3級アミン(f2)≫
3級アミン(f2)としては、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アニリン、ジエタノールアニリン等のN,N−置換アニリン;p−トルイジン、m−トルイジン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン、N−エチル−m−トルイジン等のN,N−置換−p−トルイジン;4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、4−[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]ベンズアルデヒド、4−(N−メチル−N−ヒドロキシエチルアミノ)ベンズアルデヒド等の4−(N,N−置換アミノ)ベンズアルデヒド;トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン等の脂肪族アミン;ピリジン、フェニルモルホリン、ピペリジン等の環状アミン等が挙げられる。
【0059】
3級アミン(f2)としては、芳香族3級アミンが好ましい。芳香族3級アミンとしては、少なくとも1個の芳香族残基が窒素原子に直接結合しているものが好ましい。該芳香族3級アミンとしては、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N−(2−ヒドロキシエチル)N−メチル−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン;N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン又はN,N−ジ(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジンのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物等やN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アニリン、ジエタノールアニリン等が挙げられる。また、p(パラ)体に限定されず、o(オルト)体、m(メタ)体でもよい。
【0060】
芳香族3級アミンとしては、アクリル系樹脂組成物の反応性、硬化性の点から、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジンが好ましい。
3級アミン(f2)は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0061】
アクリル系樹脂組成物中の3級アミン(f2)の含有量は、硬化性とポットライフ(作業性)とのバランス等の点から、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量部に対して、0.05〜10質量部が好ましく、0.2〜8質量部がより好ましく、0.2〜5質量部が特に好ましい。上記下限値以上であれば、アクリル系樹脂組成物の表面硬化性が良好となる。上記上限値以下であれば、低温雰囲気下で作業したときに適切な可使時間となる。
【0062】
<その他の任意成分>
本発明のアクリル系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した成分以外の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、可塑剤、シランカップリング剤、重合禁止剤、重合性二重結合を有しない樹脂、イソシアネートプレポリマー、エポキシ樹脂、オリゴマー、消泡剤等が挙げられる。
【0063】
≪可塑剤≫
可塑剤は、塗膜の柔軟化及び硬化時の収縮の低減目的で配合されるものである。
可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジイソデシルフタレート等のフタル酸エステル類、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、オクチルアジペート等のアジピン酸エステル類、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のセバシン酸エステル類、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート、オクチルアゼレート等のアゼラインエステル類等の2塩基性脂肪酸エステル類;塩素化パラフィン等のパラフィン類が挙げられる。
可塑剤は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
アクリル系樹脂組成物中の可塑剤の含有量は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量部に対して、10質量部以下が好ましい。上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物の硬化収縮が抑制されるとともに塗膜のTgが下がり過ぎることもない。
【0064】
≪シランカップリング剤≫
シランカップリング剤は、基材に対する接着性の安定化、接着強度の耐久性を付与する役割を果たす。
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン及びγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン以外のβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グルシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
アクリル系樹脂組成物中のシランカップリング剤の含有量は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、硬化性、コストの点から、5質量部以下がより好ましい。シランカップリング剤の含有量が上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物の基材への接着性の安定化を保持しつつ、表面硬化性が良好となる。
【0065】
≪重合禁止剤≫
重合禁止剤は、アクリル系樹脂組成物の貯蔵安定性の向上、重合反応の調整の目的で配合されるものである。
重合禁止剤としては、例えばヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2−6−ジーt−ブチル4ーメチルフェノール等が挙げられる。
アクリル系樹脂組成物中の重合禁止剤の含有量は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量部に対して、0.001〜0.2質量部が好ましく、0.002〜0.18質量部がより好ましい。
【0066】
≪重合性二重結合を有しない樹脂≫
重合性二重結合を有しない樹脂としては、Tgが20〜155℃のものが好ましく、20〜105℃のものがより好ましい。
Tgが上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物を製造する際、単量体(A)、(B)への溶解性が良好となる。
なお、重合性二重結合を有しない樹脂のTgは、DSCの測定により求めた値である。
【0067】
また、重合性二重結合を有しない樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10,000〜150,000が好ましく、10,000〜80,000がより好ましい。上記下限値以上であれば、アクリル系樹脂組成物の塗膜強度をより向上させることができる。上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物を調製する際、単量体(A)、(B)への溶解性が良好となる。
重合性二重結合を有しない樹脂のMwは、樹脂を溶剤(テトラヒドロフラン)に溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、「GPC」と記す。)により測定した分子量をポリスチレン換算したものである。
【0068】
このような重合性二重結合を有しない樹脂としては、例えばアルキル(メタ)アクリレートの単独重合体又は共重合体、セルロースアセテートブチレート樹脂、ジアリルフタレート樹脂、飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。
重合性二重結合を有しない樹脂としては、アルキル(メタ)アクリレートの単独重合体又は共重合体、セルロースアセテートブチレート樹脂が好ましい。
重合性二重結合を有しない樹脂は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0069】
アルキル(メタ)アクリレートの単独重合体又は共重合体を構成する単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2−ジシクロペンテノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0070】
重合性二重結合を有しない樹脂の含有量は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量部に対して、0〜5質量%が好ましい。上記上限値以下であれば、物性を損なうことなくアクリル系樹脂組成物の粘度を調整できる。
【0071】
≪イソシアネートプレポリマー≫
イソシアネートプレポリマーは、反応性が高く、空気中の水分やアクリル系樹脂組成物中の単量体成分と反応しやすい。従って、アクリル系樹脂組成物がイソシアネートプレポリマーを含有すれば、硬化時間をより短縮できる。
【0072】
イソシアネートプレポリマーとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジシクロへキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等をプレポリマー化したポリイソシアヌレート等が挙げられる。
【0073】
イソシアネートプレポリマーの含有量は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量部に対して、0〜30質量部が好ましい。上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物の可使時間を十分に確保しつつ、硬化時間をより短縮でき、作業性が良好となる。
【0074】
≪エポキシ樹脂≫
エポキシ樹脂は、無機基材との接着性を向上させる成分である。従って、アクリル系樹脂組成物がエポキシ樹脂を含有すれば、コンクリートやアスファルト舗装に使用されている砕石等への接着を良好にできる。
【0075】
エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ポリサルファイド変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
エポキシ樹脂としては、無機基材との接着性及び硬化性の観点から、ポリサルファイド変性エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0076】
エポキシ樹脂の含有量は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量部に対して、0〜20質量部が好ましく、0〜10質量部がより好ましい。上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物の可使時間を十分に確保しつつ、硬化時間を短縮でき、作業性が良好となる。
【0077】
≪オリゴマー≫
オリゴマーは、表面硬化性の向上目的で配合されるものである。
オリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、水酸基含有(メタ)アクリレート及び1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート、並びに水酸基含有(メタ)アクリレート、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート及び1分子中に2個以上の水酸基を有するポリオールを公知の方法で反応させて得られるものである。
ポリエステル(メタ)アクリレートは、フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、アジピン酸等の多塩基酸又はその無水物と、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール化合物と、(メタ)アクリル酸付加物又はグリシジル(メタ)アクリレートと、多塩基酸無水物とからなるものである。
オリゴマーの含有量は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量部に対して、0〜20質量部が好ましく、0〜10質量部がより好ましい。上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物の可使時間を十分に確保しつつ、硬化時間を短縮でき、作業性が良好となる。
【0078】
≪消泡剤≫
消泡剤としては、公知の消泡剤が挙げられる。例えば、特殊アクリル系重合物を溶剤に溶解させたアクリル系消泡剤、特殊ビニル系重合物を溶剤に溶解させたビニル系消泡剤等が挙げられ、楠本化成社製ディスパロンシリーズ(製品名:OX−880EF、OX−881、OX−883、OX−77EF、OX−710、OX−8040、1922、1927、1950、P−410EF、P−420、P−425、PD−7、1970、230、230HF、LF−1980、LF−1982、LF−1983、LF−1984、LF−1985等。)等やビックケミー・ジャパン社製BYK−052、BYK−1752等を用いることができる。
消泡剤の含有量は、単量体(A)と単量体(B)と重合体(C)との合計100質量部に対して、0〜3質量部が好ましく、0〜2質量部がより好ましい。上記上限値以下であれば、アクリル系樹脂組成物を撹拌混合した際に混入した気泡を効果的に取り除くことが出来、気泡の混入しない塗膜を得られる。
【0079】
≪その他≫
アクリル系樹脂組成物は、必要に応じて、ベンゾトリアゾール誘導体等の紫外線吸収剤、ヒンダートアミン系光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、アエロジル等のチクソトロピック性付与剤、炭酸カルシウム等の耐湿顔料、酸化クロム、ベンガラ等の無機顔料、フタロシアニンブルー等の有機顔料を含有してもよい。
【0080】
(アクリル系樹脂組成物の製造方法)
アクリル系樹脂組成物の製造方法としては、上述した各成分を混合する方法が挙げられる。
なお、分解促進剤(F)のうち、3級アミン(f2)は、アクリル系樹脂組成物を硬化させる直前に添加してもよく、予めアクリル系樹脂組成物に添加しておいてもよい。多価金属石鹸(f1)は、アクリル系樹脂組成物を硬化させる直前に添加するのが好ましい。多価金属石鹸(f1)を予めアクリル系樹脂組成物に添加しておくと、アクリル系樹脂組成物の安定性が低下して、経時的にアクリル系樹脂組成物の粘度が高まったり、アクリル系樹脂組成物がゲル化したりすることがある。
また、重合開始剤は、アクリル系樹脂組成物を硬化させる直前に添加するのが好ましい。
【0081】
アクリル系樹脂組成物がイソシアネートプレポリマーを含有する場合、イソシアネートプレポリマーはアクリル系樹脂組成物を硬化させる直前に添加するのが好ましい。イソシアネートプレポリマーは、上述したように反応性が高いため、空気中の水分やアクリル系樹脂組成物中の単量体成分と反応しやすい。このため、予めアクリル系樹脂組成物に添加しておくと、アクリル系樹脂組成物の製造時や貯蔵時に粘度が上昇したり、硬化したりする等の原因となりやすい。
【0082】
(被覆物)
本発明の被覆物は、基材の表面に、本発明のアクリル系樹脂組成物の硬化物からなる塗膜が形成されたものである。
【0083】
被覆物における基材としては、例えば、セメントコンクリート、アスファルトコンクリート、モルタルコンクリート、レジンコンクリート、透水コンクリート、ALC(軽量発泡コンクリート)板、PC(プレキャストコンクリート)板等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上が組み合わされて、基材とされる。コンクリートは、鉄筋を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
これらの基材は、例えば、建築物の床やプラットホーム、道路、橋、高架橋等の床版等に用いられるものである。建築物の床やプラットホーム及び床版防水構造体においては、既に塗膜を形成した建築物の床材や舗装層を形成した既設の基材や、既設舗装層や既設防水層を剥がした後の構造体を、下塗り層を塗装する前の基材として用いても特に問題は無い。
基材の形状は特に制限されず、例えば、平面、曲面、傾斜面等、どのような形状であってもよい。
【0084】
塗膜の厚みは、特に限定されず、例えば、被覆物に求める機能に応じて決定される。
塗膜の形成方法としては、本発明のアクリル系樹脂組成物を基材に塗工し、これを硬化する方法が挙げられる。
塗工方法としては、ローラー、金ゴテ、刷毛、自在ボウキ、塗装機(スプレー塗装機等)等を用いる公知の塗工方法が挙げられる。2液エアレス塗装機を用いる場合には、主剤側、硬化剤側の2液に分け、主剤側には硬化促進剤を添加し、硬化剤側に有機過酸化物を添加する方法が望ましい。
【0085】
また、塗工時の温度は−30〜60℃が好ましく、特に−10〜40℃が好ましい。施工性の点から可使時間は5〜90分が好ましく、5〜60分間がより好ましい。硬化時間は10〜120分が好ましく、10〜90分がさらに好ましい。可使時間及び硬化時間は、有機過酸化物及び硬化促進剤の量を調整することにより調節される。
【0086】
被覆物は、基材の表面に本発明のアクリル樹脂組成物の硬化物である塗膜が形成されていればよい。例えば、本発明のアクリル系樹脂組成物の硬化物である塗膜が下塗り層として形成され、この下塗り層に中塗り層と上塗り層とがこの順に積層されてもよい。なお、被覆物は、基材の表面に、下塗り層のみが形成されていてもよいし、下塗り層と上塗り層とのみが形成されていてもよいし、下塗り層を含み4層以上の層が積層されていてもよい。
【0087】
中塗り層は、特に限定されず、本発明のアクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層でもよいし、本発明のアクリル系樹脂組成物以外の硬化物からなる層でもよい。
本発明のアクリル系樹脂組成物以外の材質としては、溶剤系樹脂及びエマルション系樹脂、並びにエポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びメタクリル樹脂等の施工後に硬化させる合成樹脂系塗料;樹脂、ゴム、アスファルト等の固体状のものを熱溶融し液状化してから塗工するもの;石油アスファルトやアスファルト乳剤、各種液状合成樹脂等の液体状のもの等が挙げられる。
中塗り層の形成方法は、中塗り層を構成する材質の種類に応じて適宜決定される。
【0088】
上塗り層は、中塗り層と同様である。加えて、上塗り層は、意匠性や外観の点から、フィルムやシートで形成されたトップコート層又は保護層でもよい。
【0089】
下塗り層と中塗り層との接着性、又は中塗り層と上塗り層との接着性を強固にするために、各層間に接着層を設けてもよい。接着層に用いられる接着剤は特に制限されず、例えば、液状、粉状、粒状、シート・フィルム状のいずれでもよい。接着剤としては、アクリル系樹脂組成物の下塗り層とこれに積層される層との接着性を向上させるものであればよく、特に制限されない。接着剤としては、樹脂、ゴム、アスファルト等の固体状のもの、石油アスファルトやアスファルト乳剤、各種液状合成樹脂等の液体状のもの等が挙げられる。
接着層の形成方法としては、接着剤が液状の場合、その液状材料をハケ、ローラー、スプレー等で下塗り層上に塗布すればよい。接着剤が粉状又は粒状の場合には、接着剤を下塗り層の表面に均一に散布してもよいし、アクリル系樹脂組成物を塗工した後、硬化前に散布してもよい。接着剤が固体状の場合は、それを加熱溶融し液状化してから、塗工してもよい。
【0090】
本発明の被覆物の被膜は、基材のコンクリート層やアスファルト層に含まれている水分等に起因するフクレ発生を防止することができるので、ピンホールが生じ難く、耐久性に優れる。
【0091】
以上説明した通り、本発明のアクリル系樹脂組成物は、単量体(A)、単量体(B)、重合体(C)及びワックス(D)を含有するため、乾燥基材はもちろんのこと、湿潤状態の基材に対して接着性に優れた塗膜を形成できる。特に、複雑な表面状態の基材や、表面に亀裂を有する基材であっても、アクリル系樹脂組成物が基材に浸透しやすくなるので、基材と塗膜との接着性が高まる。
従来の被膜剤は、湿潤状態の基材に対しての接着性が不十分なものであった。特に、基材に塗工された後に加熱されると、塗膜が軟化するので、基材に対するアンカー効果が低下して、接着性が低下するという問題があった。
本発明のアクリル系樹脂組成物によれば、基材が湿潤状態であっても、基材に対して優れた接着性を有し、耐久性に優れる。
このため、本発明のアクリル系樹脂組成物は、塗工前に湿潤状態の基材を乾燥する必要がなく、作業工程数を簡略化できる。
加えて、本発明のアクリル系樹脂組成物は、引火点が高いため、取り扱いが容易である。
【0092】
本発明のアクリル系樹脂組成物は、コンクリートやアスファルト等の床面、壁面、道路の舗装面等の被覆剤として好適である。
【実施例】
【0093】
以下、本発明について実施例を示して説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
以降の説明において、特に断りがない限り、「部」は質量部を表し、ケン化度と湿度以外の「%」は、「質量%」を表す。
【0094】
(合成例1:重合性二重結合を有する重合体(C)を含む組成物S−1の調製)
攪拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置内に、脱イオン水135部及び分散剤としてポリビニルアルコール(ケン化度80%、重合度1,700)0.4部を投入し、これを攪拌し、ポリビニルアルコールを溶解した。攪拌を停止し、メタクリル酸(以下、「MAA」と略す。)4部、メチルメタクリレート(以下、「MMA」と略す。)96部、重合開始剤として2,2’−アゾビス2−メチルブチロニトリル(以下、「AMBN」と略す。)0.2部、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン(以下、「n−DM」と略す。)0.8部、電解質として炭酸ナトリウム0.1部を加え、再度攪拌した。75℃に昇温して2.5時間反応させ、次いで98℃に昇温して1.5時間保持して第1段階の反応を終了させた。40℃に冷却後、得られた水性懸濁液を目開き45μmのポリアミド製濾過布で濾過した。濾過物を脱イオン水で洗浄し、脱水後、40℃で16時間乾燥して、粒状ビニル系重合体(第1の共重合体(C’))を得た。得られた粒状ビニル系重合体のTgは100℃、重量平均分子量は40,000であった。なお、粒状ビニル系重合体のTgはDSCによって測定した。
【0095】
次いで、攪拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置内に、グリシジルメタクリレート(以下、「GMA」と略す。)6.6部、エステル化触媒としてテトラブチルアンモニウムブロミド1.5部、重合禁止剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(以下、「BHT」と略す。)0.1部、テトラヒドロフルフリルメタクリレート(以下、「THFMA」と略す。)108.16部及びMMA54部を投入した。これらを攪拌しながら上記の粒状ビニル系重合体(第1の共重合体(C’))100部を徐々に投入し、全量投入後、90℃に昇温して2時間保持して第2段階の反応を行い、酸価0.3mgKOH/gの重合性二重結合を有する重合体(C)とTHFMAとMMAとを含む組成物S−1(以下、「S−1」と略す。)を得た。第1段階の反応に用いたMAAの1モルに対して、第2段階の反応で使用したGMAは1.0モルであった。
得られたS−1及び重合体(C)の組成は次の通りであった。
S−1:重合体(C)/THFMA/MMA=106.6/108.16/54(部)=40/40/20(%)。
重合体(C)=MMA/MAA/GMA=96/4/6.6(部)=90/3.8/6.2(%)。
【0096】
(合成例2:重合性二重結合を有する重合体を含む組成物S−2の調製)
合成例1の第1段階の反応において、MMAの添加量を96部から60部へ変更し、n−ブチルメタクリレート(以下、「n−BMA」と略す。)36部を添加した以外は合成例1と同様にして、Tg71℃、重量平均分子量40,000の粒状ビニル系重合体(第1の共重合体(C’))を得た。
得られた粒状ビニル系重合体を用いて、第2段階の反応を行い、酸価0.3mgKOH/gの重合性二重結合を有する重合体とTHFMA及びMMAを含む組成物S−2(以下、「S−2」と略す。)を得た。
得られたS−2及び重合体の組成は次の通りであった。
S−2:重合体/THFMA/MMA=106.6/108.16/54(部)=40/40/20(%)。
重合体=MMA/n−BMA/MAA/GMA=60/36/4/6.6(部)=56/34/3.8/6.2(%)。
【0097】
(合成例3:重合性二重結合を有する重合体(C)を含む組成物S−3の調製)
合成例1と同様にして、Tg100℃、重量平均分子量40,000の粒状ビニル系重合体(第1の共重合体(C’))を得た。
得られた粒状ビニル系重合体を用いて、第2段階の反応を行う際に、MMAの添加量を54部から0部へ変更し、THFMAの使用量を162.16部に変更した以外は合成例1と同様にして第2段階の反応を行い、酸価0.3mgKOH/gの重合性二重結合を有する重合体(C)とTHFMAを含む組成物S−3(以下、「S−3」と略す。)を得た。
得られたS−3及び重合体(C)の組成は次の通りであった。
S−3:重合体(C)/THFMA=106.6/162.16(部)=40/60(%)。
重合体(C)=MMA/MAA/GMA=96/4/6.6(部)=90/3.8/6.2(%)。
【0098】
(合成例4:重合性二重結合を有する重合体(C)を含む組成物S−4の調製)
合成例1と同様にして、Tg100℃、重量平均分子量40,000の粒状ビニル系重合体(第1の共重合体(C’))を得た。
得られた粒状ビニル系重合体を用いて、第2段階の反応を行う際に、MMAの添加量を54部から162.16部へ変更し、THFMAの使用量を0部に変更した以外は合成例1と同様にして第2段階の反応を行い、酸価0.3mgKOH/gの重合性二重結合を有する重合体(C)とMMAを含む組成物S−4(以下、「S−4」と略す。)を得た。
得られたS−4及び重合体(C)の組成は次の通りであった。
S−3:重合体(C)/MMA=106.6/162.16(部)=40/60(%)。
重合体(C)=MMA/MAA/GMA=96/4/6.6(部)=90/3.8/6.2(%)。
【0099】
(合成例5:組成物P−1の合成)
合成例1の第1段階の反応において得られたTg100℃、重量平均分子量40,000の粒状ビニル系重合体(第1の共重合体(C’))を組成物P−1(以下、「P−1」と略す。)として用いた。
得られたP−1の組成は次の通りであった。
P−1:第1の共重合体(C’)=100(部)。
第1の共重合体(C’)=MMA/MAA=96/4(部)=96/4(%)。
【0100】
(実施例1〜13、比較例1〜8)
表1〜3の配合に従い、攪拌機、温度計、冷却管付きの1Lフラスコに、組成物S−1〜S−4又は組成物P−1、単量体(A)、単量体(B)、ワックス(D)、分解促進剤(F)、消泡剤(ディスパロン230(商品名、楠本化成社製))、重合禁止剤(BHT)、紫外線吸収剤(JF−77(商品名、城北化学工業社製))及び揺変剤(BYK−410(商品名、ビックケミー・ジャパン社製))を投入した。その後、70℃で2時間加熱し、室温に冷却して、表4〜6に示す樹脂組成のアクリル系樹脂組成物を得た。
なお、表中に配合量の記載がない成分は、配合されなかったものとする。
得られたアクリル系樹脂組成物(以下、測定用組成物Iということがある)について、粘度、接触角、引火点を評価し、その結果を表4〜6に示す。
100部の測定用組成物Iに対して、分解促進剤であるナフテン酸コバルト6%溶液(商品名:ナフテックスコバルト6%(T)、コバルト含有量6%、日本化学産業社製)1部、有機過酸化物(E)であるナイパーNS(商品名、日油社製、ジベンゾイルパーオキサイド40%品)3部、硬化速度調整剤XD−7021(商品名:アクリシラップXD−7021、菱晃社製)3部を添加し、混合して有機過酸化物入りアクリル系樹脂組成物(以下、測定用組成物IIということがある)を得た。得られた測定用組成物IIについて、硬化時間、塗工作業性、湿潤塗工作業性を評価した。加えて、硬化させた測定用組成物IIについて、Tg、湿熱耐久性、温冷繰り返し試験を評価し、その結果を表4〜6に示す。
【0101】
表中の略号は、以下の通りである。
・THFMA:テトラヒドロフルフリルメタクリレート(三菱レイヨン社製、商品名:アクリエステルTHF)。
・2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート(三菱レイヨン社製、商品名:アクリエステルHO)。
・4−HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート(大阪有機化学社製、商品名:4−HBA)。
・MMA:メチルメタクリレート(三菱レイヨン社製、商品名:アクリエステルM)、
・KBM−503:γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名:KBM−503)。
・FA−512M:ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(日立化成工業社製、商品名ファンクリルFA−512M)。
・CHMA:シクロヘキシルメタクリレート(三菱レイヨン社製、商品名:アクリエステルCH)。
・SLMA:アルキル基の炭素数12〜13のアルキルメタクリレート(三菱レイヨン社製、商品名:アクリエステルSL)。
・BPE−4:ビスフェノール型ジアクリレート(第一工業製薬社製、商品名;ニューフロンティアBPE4)。
・EDMA:エチレングリコールジメタクリレート(三菱レイヨン社製、商品名:アクリエステルED)。
・P−115:パラフィンワックス(日本精蝋社製)。
・P−130:パラフィンワックス(日本精蝋社製)。
・P−150:パラフィンワックス(日本精蝋社製)。
・DMPT:N,N−ジメチル−p−トルイジン。
・PTEO:N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン。
・重合禁止剤:BHT(2,6−ジ−t−ブチル4−メチルフェノール)。
・消泡剤:ディスパロン230(商品名、楠本化成社製)。
・揺変剤:BYK−410(商品名、ビックケミー・ジャパン社製)。
・紫外線吸収剤:JF−77(商品名、城北化学工業社製)。
【0102】
(評価方法)
<粘度>
B型粘度計(BM型、トキメック社製)を用いて、測定用組成物Iの23℃における粘度(60rpmの時の粘度)を測定した。
【0103】
<接触角>
温度23℃、相対湿度50%の環境可変室(3m×7m×高さ3m)内に、測定用組成物Iを4時間放置して、環境可変室の温度に慣らした。この測定用組成物Iと、ガラス板(JIS−R3202:2011 「フロート板ガラス及び磨き板ガラス」)に記載のフロート板ガラス)とを用い、前記環境可変室内で、協和界面科学社製の自動接触角計DM−500を用いて、ガラス板と測定用組成物Iの接触角を測定した。接触角の測定は「液適法」にて評価した。
得られた接触角を下記評価基準に従って分類した。
【0104】
≪評価基準≫
◎:接触角20度未満。
○:接触角20度以上35度未満。
×:接触角35度以上。
【0105】
<Tg>
測定用組成物IIを雰囲気温度23℃で重合硬化して厚さ1mmの注型板を作製した。この注型板の粘弾性測定(JIS−K7244−2:1998 「プラスチック−動的機械特性の試験方法−第2部:ねじり振り子法」記載のA法)により測定した。
【0106】
<引火点>
測定用組成物Iの引火点をJIS K2265−2:2007 「引火点の求め方−第2部:迅速平衡密閉法」により測定した。
【0107】
<硬化時間>
有機過酸化物(E)を添加した直後の測定用組成物IIを直径10mm、長さ120mmの試験管に、底部から70mmの高さにまで入れた。
熱電対を測定用組成物IIの深さ方向中央部に入れた。この試験管を23℃の水中に静置して測定用組成物Iを硬化させつつ、前記熱電対により発熱温度を経時的に測定した。有機過酸化物(E)の添加時から、最高発熱温度になった時点までの時間を求め、この時間を硬化時間とした。
【0108】
<塗工作業性>
基材であるコンクリート板(30cm×30cm×6cm)の表面に、各例の測定用組成物IIを0.4kg/m
2となるように塗工した時の作業性、表面硬化性、接着性について、下記評価基準に基づいて評価した。なお、評価結果は、5枚の基材について試験をした結果の平均である。
【0109】
≪作業性の評価基準≫
良好(○):配合物を刷毛で十分に均すことができ、均一に塗布できた。
不良(×):配合物を刷毛で均す際に、粘度が高く均し難い及び/又は均一な表面を得るのに非常に長い時間を要した。
【0110】
≪表面硬化性の評価基準≫
得られた塗膜の表面の硬化性を指触にて確認し、下記評価基準に基づき評価した。
○:経過時間1時間未満でタックなし。
△:経過時間1〜2時間でタックなし。
×:2時間経過してもタックあり。
【0111】
≪接着性の評価基準≫
<塗工作業性>で評価した基材5枚について、測定用組成物IIを塗工し、硬化した24時間後に、日本塗り床工業会試験方法の塗り床の付着強さ試験方法(NNK−005:2006)に従って評価を行った。なお、評価の異なる領域が混在した場合には、その領域の面積比を併記した。例えば、「80%KH、20SH」は、5枚の基材の評価結果として、KHの領域が80%、SHの領域が20%であったことを意味する。
KH(良好):基材凝集破壊。
SH(不良):基材と下塗り層の層間剥離。
JH(不良):下塗り層の凝集破壊。
【0112】
<湿潤塗工作業性>
予め、基材となるコンクリート板(30cm×30cm×厚さ6cm)を水中に48時間以上浸漬した。コンクリート板を水から取り出し、直ちにコンクリート板の表面をウエスで拭いた。コンクリート板の水分率を水分計(Kett社製、商品名:HI−500)で測定し、水分率が6%以上になっていることを確認した。
水分率を確認した後、直ちに、前述の<塗工作業性>と同様にして、作業性、表面硬化性、接着性について評価した。
【0113】
<温冷繰り返し試験>
温冷繰り返し試験は、JIS−A6909 建築用仕上塗材に従って評価した。
ただし、以下の通り積層したものをサンプルとして用いた。
モルタル板(7cm×7cm×厚み2cm:JIS−A6909 建築用仕上塗材の7.2試験用基材)の表面に、各例の測定用組成物IIを0.4kg/m
2となるように、刷毛で塗工して、下塗り層を形成した。
中塗り用樹脂であるアクリシラップXD−3026(商品名、菱晃社製)100部に対して、着色剤であるアクリシラップMRT−40(商品名、菱晃社製)5部を加えて撹拌、混合した。次いで、アクリルシラップXD−3026の100部に対して、重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド50%顆粒品(化薬アクゾ社製、商品名:パーカドックスCH−50L)2部を加え、さらに撹拌、混合した。これに骨材(菱晃社製、商品名:KM−17A)400部を加え、撹拌して中塗り剤を調製した。調製後、直ちに中塗り剤を10kg/m
2となるように、下塗り層の表面に塗工して、中塗り層を形成した。
上塗り層として、上塗り用樹脂であるアクリシラップXD−511(商品名、菱晃社製)100部に対して、10部のアクリシラップMRT−40を加え、撹拌、混合した。アクリシラップXD−511の100部に対して、3部のパーカドックスCH−50Lを加え、撹拌、混合して上塗り剤を調製した。調製後、直ちに上塗り剤を0.3kg/m
2となるように刷毛で塗工した。上塗り剤が硬化する前に、5号珪砂を0.5kg/m
2となるように均一に上塗り剤の表面に散布した。次いで上塗り剤を0.4kg/m
2となるように刷毛で塗工して上塗り層を形成した。側面4面にボンドクイックメンダー(エポキシ樹脂、コニシ社製)を2.0kg/m
2となるように塗工した。
こうして、基材の表面に、下塗り層と中塗り層と上塗り層とがこの順で積層された被膜を備える被覆物を得た。
【0114】
3個の被覆物を23±2℃の水中に18時間浸漬した後、直ちに−20±2℃の恒温器中で3時間冷却し、次いで50±3℃の別の恒温器中で3時間加温した。この24時間を1サイクルとする操作を10回繰り返した後、試験室(23℃)に24時間静置した。その後、被膜のひび割れ、はがれ及び膨れの有無を目視で調べ、下記評価基準に従って評価した。
【0115】
≪評価基準≫
良好(○):塗膜にひび割れ、はがれ及び膨れが見られない。
不良(×):塗膜にひび割れ、はがれ及び膨れが見られる。
【0116】
<湿熱耐久性>
コンクリート板(30cm×30cm×6cm)の表面に、各例の測定用組成物IIを0.4kg/m
2となるように塗工して、被覆物を得た。この被覆物について、JHS−433−2「膨れ負荷方法」に記載の負荷試験方法に従って耐フクレ性を評価して、その結果を湿熱耐久性とした。
負荷試験方法は、以下の手順で行われた。
測定用組成物を硬化した後、24時間室温で養生して、被覆物を得た。被覆物を23±2℃の水に24時間浸漬した。被覆物を水中から取り出し、これを温度60±2℃、湿度80±5%の恒温恒湿槽で24時間静置した後、目視で塗膜を観察した。観察結果を下記評価基準に従って評価した。塗膜が硬くてもろいと、フクレが発生しやすい。
【0117】
≪評価基準≫
良好(○):塗膜にフクレが発生せず。
不良(×):塗膜にフクレが発生した。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
【表5】
【0123】
【表6】
【0124】
表4〜6に示す通り、本発明を適用した実施例1〜13は、硬化時間が塗装作業に好適な範囲であり、塗工作業性、湿潤塗工作業性、温冷繰り返し試験、湿熱耐久性が良好であった。
一方、ワックス(D)を含まない比較例1は、硬化しなかった。このため、比較例1については、接着性、温冷繰り返し試験、温熱耐久性について、評価をしなかった。
重合体(C)中のメチルメタクリレート単位が75質量%未満である比較例2、重合物(C)に代えて重合性二重結合を含まない重合体からなる組成物P−1を配合した比較例3、単量体(a3)を欠いた比較例4、単量体(B)を欠いた比較例7、及び単量体(a2)を欠き、重合性二重結合を含む重合体(C)の配合量の多い比較例8は、湿熱耐久性が「×」であった。
単量体(a2)を欠いた比較例5は、湿潤塗工作業性における接着性が「SH」であり、単量体(a1)を欠いた比較例6は、引火点が13℃であった。
これらの結果から本発明を適用することで、湿潤状態の基材に対しても接着性に優れ、かつ耐久性に優れる塗膜を形成できることが判った。