(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の第13族金属窒化物結晶(以下、単に第13族窒化物結晶と称する)について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。
なお、本願において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本願におけるミラー指数は、指数が負である場合に当該指数の前にマイナス記号をつけて表記している。また、本明細書において<・・・・>との表記は方向の集合表現、[・・・・]との表記は方向の個別表現を表す。それに対して{・・・・}との表記は面の集合表現、(・・・・)との表記は面の個別表現を表す。
【0013】
本明細書において「オフ角」とは、ある面の指数面からのずれを表す角度である。
本明細書において「主面」とは、結晶に存在する表面のうち最も広い面を意味し、種結晶の「主面」は通常結晶成長が行われるべき面となる。また、「側面」とは、主面に交差する面を意味し、板状結晶の場合には、通常、主面に隣り合う面として存在する。側面は、主面に垂直に交差していることが好ましいが、それに限定されない。
本明細書において、「C面」とは、六方晶構造(ウルツ鉱型結晶構造)における{0001}面であり、c軸に直交する面である。かかる面は極性面であり、第13族金属窒化物半導体結晶では「+C面」は第13族金属面(窒化ガリウムの場合はガリウム面)であり、「−C面」は窒素面である。
【0014】
また、本明細書において、「M面」とは{1−100}面と等価な面であり、具体的には(1−100)面、(01−10)面、(−1010)面、(−1100)面、(0−110)面、或いは(10−10)面であり、m軸に直交する面である。かかる面は非極性面であり、通常は劈開面である。また、本明細書において、「A面」とは{2−1−10}面と等価な面であり、具体的には(2−1−10)面、(−12−10)面、(−1−120)面、(−2110)面、(1−210)面、或いは(11−20)面であり、a軸に直交する面である。かかる面は非極性面である。
本明細書において「c軸」「m軸」「a軸」とは、それぞれC面、M面、A面に垂直な軸を意味する。
【0015】
また、本明細書において「半極性面」とは、例えば、第13族金属窒化物結晶が六方晶であってその主面が(hklm)で表される場合、h、k、lのうち少なくとも2つが0でなく、且つmが0でない面をいう。また、半極性面は、C面、すなわち{0001}面に対して傾いた面で、表面に第13族金属元素と窒素元素の両方あるいは片方のみが存在する場合で、かつその存在比が1:1でない面を意味する。h、k、l、mはそれぞれ独立に−5〜5のいずれかの整数であることが好ましく、−3〜3のいずれかの整数であることがより好ましく、低指数面であることが好ましい。具体的には、例えば{20−21}面、{20−2−1}面、{30−31}面、{30−3−1}面、{10−11}面、{10−1−1}面、{10−12}面、{10−1−2}面、{11−22}面、{11−2−2}面、{11−21}面、{11−2−1}面など低指数面が挙げられる。
【0016】
また、本明細書においてC面、M面、A面や特定の指数面を称する場合には、±0.01°以内の精度で計測される各結晶軸から10°以内のオフ角を有する範囲内の面を含む。好ましくはオフ角が5°以内であり、より好ましくは3°以内である。
【0017】
<本発明の第13族金属窒化物結晶>
本発明の第13族窒化物結晶は、M面を主面とする板状の結晶である。主面の形状は特
に限定されず、円形、長方形、正方形、六角形、十二角形、楕円形などが挙げられる。互いに平行な2つの主面を有し、いずれの主面もM面である。なお、前述のとおり主面は{10−10}から10°以内のオフ角を有していてもよく、好ましくはオフ角が7°以内であり、より好ましくは5°以内である。
【0018】
本発明の第13族窒化物結晶が
図3のような直方体である場合は、その側面にA面およびC面を有するが、本発明の本発明の第13族窒化物結晶はこれに限定されるものではない。たとえば、主面の形状が円形であって、円板状の第13族窒化物結晶である場合には、側面はA面、C面およびM面に垂直に交差する種々の半極性面を連続的に含むことになるが、後述する「A面の結晶面」および「C面の結晶面」は、結晶形状の表面には表れていなくても結晶中に含まれる面となる。本発明は、従来着目されていなかった、主面(M面)に対して垂直に交差するA面および/またはC面の結晶面の反りに着目したことによって初めて、主面上に結晶品質が良好な結晶膜を成長させることが可能であり、厚膜成長を実施した場合であってもクラックの発生を抑制し得るという課題を解決するに至った。
【0019】
以下、
図3のような直方体である場合を一例として、本発明の実施形態を説明するが、本発明の第13族窒化物結晶はこれに限定されない。
本発明の第13族窒化物結晶は、A面および/またはC面の結晶面の曲率半径が10m以上である。好ましくは12m以上であって、より好ましくは20m以上、さらに好ましくは25m以上である。前記下限値以上とすることで、本発明の第13族窒化物結晶の主面上に形成した結晶膜の結晶品質を良好なものとし、厚膜成長した際のクラックの発生を抑制できる傾向がある。なお、曲率半径は、X線ロッキングカーブ測定において、測定条件を固定し、測定点のみを変えた際に得られるω値の分布を測定することによって得ることができる、結晶学的面形状の曲率半径である。
図3のように側面が主面に対して垂直な面であって、A面およびC面を呈する場合には、側面の曲率半径を測定することができる。
【0020】
本発明の第13族窒化物結晶においては、少なくともC面の結晶面の曲率半径が10m以上であることが好ましく、より好ましくは12m以上であって、さらに好ましくは20m以上、特に好ましくは25m以上である。少なくともC面の結晶面が上記の範囲とすることで、本発明の効果を顕著に奏するため好ましい。
本発明の第13族窒化物結晶と従来の第13族窒化物結晶との違いを
図3に示す概念図を用いて説明する。
図3(a)の斜視図に示す第13族窒化物結晶101は、主面102がM面であり、1つの側面103がC面、もう1つの側面104がA面の板状結晶である。
図3(b)は第13族窒化物結晶101をm軸方向に観察した際の平面図(上面図)であり、それに対して
図3(c)は正面図、
図3(d)は右側面図となっている。側面103においてm軸(
図3(d)における108)が図面上側と下側とで向いている方向が同じになっており、同様に側面104においてもm軸(
図3(c)における107)が図面左側と右側とで向いている方向が同じになっており、主面102におけるM面の結晶面の反りは皆無となっている。
一方で、主面102においてa軸(
図3(b)における105)が図面上側と下側とで向いている方向が異なっており、このことから側面103におけるC面の結晶面はa軸方向に平行な方向に反っているといえる。また、主面102においてc軸(
図3(b)における106)は図面右側と左側とで向いている方向が同じになっており、このことから側面104におけるA面の結晶面のc軸方向に平行な方向の反りは皆無となっている。この場合、C面の結晶面には反りがあり、A面の結晶面には反りがない状態となっており、C面の結晶面の曲率半径よりもA面の結晶面の曲率半径の方が大きくなると言える。
【0021】
従来の結晶では、たとえば、
図3(b)における105のばらつきが大きく、C面の結晶面はa軸方向に平行な方向に大きく反っていたため、C面の結晶面の曲率半径が10m
未満となっていた。このようにC面の結晶面が大きく反っている結晶を基板として用いて、その主面(M面)に結晶膜を成長させた場合には、成長結晶に歪みや転位が生じて結晶品質が不十分とあり、厚膜成長させた場合には成長結晶にクラックが発生してしまうことが本発明者らの検討によって新たに見出された。これは、A面やC面の結晶面に所定量の反りが存在する場合には、そのチルト方向の結晶軸のばらつきがM面から見た際のツイストモザイクとなるため、主面(M面)上に成長させた結晶の結晶性を悪化させ、特に厚膜成長させた場合にはクラック発生の一因となっていると考えられる。このことから、A面やC面の結晶面の反りを所定量以下に抑え、主面であるM面でなく側面に位置するA面および/またはC面の結晶面の曲率半径を10m以上とすることで、主面上に成長させた結晶膜の品質を顕著に改善することができると考えられる。これは、本発明の第13族窒化物結晶のA面および/またはC面の反りを低減してチルト方向の結晶軸のばらつきを減らすことでM面のツイストモザイクを抑制し、主面上に成長させた結晶の結晶性の悪化を抑制できたからであると考えられる。
【0022】
C面の結晶面の曲率半径のうち、C面におけるa軸方向に平行な方向の曲率半径は10m以上であることが好ましく、20m以上であることがより好ましく、25m以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることで、反りによるクラックの発生を抑制できる傾向がある。
また、C面の結晶面の曲率半径のうち、C面におけるm軸方向に平行な方向の曲率半径が10m以上であることが好ましく、20m以上であることがより好ましく、25m以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることで、反りによるクラックの発生を抑制できる傾向がある。
さらに、A面の結晶面の曲率半径のうち、A面におけるc軸方向に平行な方向の曲率半径が10m以上であることが好ましく、15m以上であることがより好ましく、20m以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることで、反りによるクラックの発生を抑制できる傾向がある。
また、A面の結晶面の曲率半径のうち、A面におけるm軸方向に平行な方向の曲率半径10m以上であることが好ましく、15m以上であることがより好ましく、20m以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることで、反りによるクラックの発生を抑制できる傾向がある。
【0023】
本発明の第13族窒化物結晶のM面の結晶面の曲率半径は、10m以上であることが好ましく、15m以上であることがより好ましく、20m以上であることがさらに好ましい。主面の反りを低減することによって、主面上に成長させた結晶膜の品質をさらに高めることができる。
また、本発明の第13族窒化物結晶の主面が四角形である場合には、その1辺の長さは5mm以上であることが好ましく、7mm以上であることがより好ましく、10mm以上であることがより好ましく、12mm以上であることがさらに好ましい。また、主面が円形である場合には、直径が5mm以上であることが好ましく、7mm以上であることがより好ましく、10mm以上であることがより好ましく、12mm以上であることがさらに好ましい。上記範囲とすることで、本発明の効果をさらに顕著に奏することができるため好ましい。
【0024】
本発明の第13族窒化物結晶の主面の最大径は10mm以上であることが好ましく、15mm以上であることがより好ましく、20mm以上であることがさらに好ましく、通常、150mm以下である。前記下限値以上とすることで、大口径の第13族金属窒化物基板が得られる。なお、主面の最大径とは、主面の形状が円形の場合にはその直径を、円形以外の形状の場合には主面における最大長さを意味する。
また、本発明の第13族窒化物結晶の厚みは100μm以上であることが好ましく、300μm以上であることがより好ましく、1mm以上であることがさらに好ましい。前記
下限値以上とすることで、複数の第13族窒化物基板を効率よく得ることができる。
本発明の第13族窒化物結晶は、GaNの他に、AlN、InN、またはこれらの混晶などを挙げることができる。混晶としては、AlGaN、InGaN、AlInN、AlInGaNなどを挙げることができる。好ましいのはGaNおよびGaを含む混晶であり、より好ましいのはGaNである。
【0025】
<第13族金属窒化物結晶の製造方法>
本発明の第13族金属窒化物結晶の製造方法は、液相エピタキシー法(LPE法)、フラックス法、アモノサーマル法(本明細書において、アモノサーマル法を液相成長法に分類して取り扱うものとする。)等の液相成長法で成長させることが好ましい。
A面および/またはC面の結晶面の曲率半径を10m以上とするためには、例えば、種結晶の歪みや転位を引き継がないように、主面となるM面が広がるように成長させる成長方法を挙げることができる。M面を広げるように成長させる具体的な成長方法としては、(i)M面とは異なる結晶面を主面とする種結晶の該主面から、M面を広げるように成長させる方法や、(ii)上記(i)で得られた結晶の主面上に、さらにM面を成長主面として厚膜成長をさせる方法が挙げられる。より具体的には、方法(i)としては、
図4のように主面の一部をマスクで被覆したシードの露出部分から、主面と交差する軸方向に結晶成長させて、シードの主面とは異なる結晶面を広げるように結晶成長させる方法;主面の一部に板状部材の側面を密着させたシードから、主面と交差する軸方向に結晶成長させて、シードの主面とは異なる結晶面を広げるように結晶成長させる方法、などが挙げられる。例えば、
図4(a)のように、−C面を主面とする種結晶201を用いて、その主面上に長手方向がm軸方向に平行なライン状の成長阻害部材202を複数形成することで、成長阻害部材で挟まれた部分に長手方向がm軸方向に平行なライン状の開口部203を設ける。次に、開口部203を成長面として第13族金属窒化物結晶を液相成長法によって結晶成長させることで、
図4(b)のように開口部203上にM面を主面とする板状結晶204を形成することができる。
【0026】
このような方法を用いて得られた板状結晶は、成長阻害部材で被覆されていない開口部から板状結晶を結晶成長させることで成長初期に横方向成長を促すことができ、結晶欠陥が低減されるものと考えられる。さらに、板状結晶が得られる程度に厚膜成長を行うことで、成長結晶が種結晶に打ち勝ち、反りの伝播が抑制されるものと考えられる。また、成長方法として気相成長法に比較して過酷な成長条件となる液相成長法を用いていることに起因して、種結晶の主面に形成した成長阻害部材を成長中にその主面上に強固に固定することが困難となり、成長途中で成長層に発生した応力等によって簡単に剥離する場合がある。つまり、成長途中で生じた応力を成長阻害部材の剥離によって緩和することで、成長層に留まる内部応力を低減することができ、その結果、応力に起因して発生するクラックが抑制され、さらには、加工処理等によって荷重がかかった場合でも割れの発生が抑制されていると考えられる。
また、方法(ii)としては、上述の方法(i)で得られた板状結晶をシードとして、M面を成長主面とする厚膜成長を実施することができる。上記の通り、方法(i)で得られた板状結晶は、種結晶からの転位や反り、成長中に発生する応力を引き継がないことから、これをシードとして厚膜成長を行った場合にも、転位や反り、成長中に発生する応力の低減された結晶を得ることができる。なお、ここでいう「成長主面」とはシードの主面と同一面であり、結晶成長中に最も広い面積を有する成長面を形成する面を指す。
【0027】
(成長工程)
本発明の第13族金属窒化物結晶の製造方法に係る成長工程は、液相成長法であることが好ましく、中でも品質が良好な結晶が得られる傾向があることから、アモノサーマル法を好ましく採用することができる。
【0028】
以下、本発明に係る結晶成長の方法として、アモノサーマル法によってGaN結晶を作製する場合の結晶成長装置の構成及び成長条件の具体例を挙げて説明するが、以下の態様に限定されるものではない。
【0029】
(アモノサーマル法による結晶成長)
アモノサーマル法とは、超臨界状態及び/または亜臨界状態にある窒素含有溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の材料を製造する方法である。以下に本発明における結晶成長方法に用いることのできる、鉱化剤、溶媒、原料について具体的に説明する。
【0030】
(鉱化剤)
本発明において、アモノサーマル法によって第13族金属窒化物結晶を成長させるに際しては、鉱化剤を用いることが好ましい。アンモニアなどの窒素を含有する溶媒に対する結晶原料の溶解度が高くないために、溶解度を向上させるためにハロゲンやアルカリ金属系の鉱化剤が用いられるが、その種類は特に限定されない。
【0031】
ハロゲン元素を含む鉱化剤の例としては、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素、アンモニウムヘキサハロシリケート、及びヒドロカルビルアンモニウムフルオリドや、ハロゲン化テトラメチルアンモニウム、ハロゲン化テトラエチルアンモニウム、ハロゲン化ベンジルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化ジプロピルアンモニウム、及びハロゲン化イソプロピルアンモニウムなどのアルキルアンモニウム塩、フッ化アルキルナトリウムのようなハロゲン化アルキル金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化金属等が例示される。このうち、好ましくはハロゲン化アルカリ、アルカリ土類金属のハロゲン化物、金属のハロゲン化物、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素であり、さらに好ましくはハロゲン化アルカリ、ハロゲン化アンモニウム、第13族金属のハロゲン化物、ハロゲン化水素であり、特に好ましくはハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化水素である。
【0032】
また、ハロゲン元素を含む鉱化剤とともに、ハロゲン元素を含まない鉱化剤を用いることも可能であり、例えばNaNH
2やKNH
2やLiNH
2などのアルカリ金属アミドと組み合わせて用いることもできる。ハロゲン化アンモニウムなどのハロゲン元素含有鉱化剤とアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤とを組み合わせて用いる場合は、ハロゲン元素含有鉱化剤の使用量を多くすることが好ましい。具体的には、ハロゲン元素含有鉱化剤100質量部に対して、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を50〜0.01質量部とすることが好ましく、20〜0.1質量部とすることがより好ましく、5〜0.2質量部とすることがさらに好ましい。アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を添加することによって、c軸方向の結晶成長速度に対するm軸の結晶成長速度の比(m軸/c軸)を一段と大きくすることも可能である。
【0033】
また、成長させる周期表第13族金属窒化物半導体結晶に不純物が混入するのを防ぐために、必要に応じて鉱化剤は精製、乾燥してから使用することが好ましい。鉱化剤の純度は、通常は95%以上、好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.99%以上である。
鉱化剤に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000wtppm以下であることが好ましく、10wtppm以下であることがより好ましく、1.0wtppm以下であることがさらに好ましい。
【0034】
なお、結晶成長を行う際には、反応容器にハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化リン、ハロゲン化シリコン、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化ビスマスなどを存在させておいてもよい
。
鉱化剤に含まれるハロゲン元素の溶媒に対するモル濃度は0.1mol%以上とすることが好ましく、0.3mol%以上とすることがより好ましく、0.5mol%以上とすることがさらに好ましい。また、鉱化剤に含まれるハロゲン元素の溶媒に対するモル濃度は30mol%以下とすることが好ましく、20mol%以下とすることがより好ましく、10mol%以下とすることがさらに好ましい。濃度が低すぎる場合、溶解度が低下し成長速度が低下する傾向がある。一方濃度が濃すぎる場合、溶解度が高くなりすぎて自発核発生が増加したり、過飽和度が大きくなりすぎるため制御が困難になるなどの傾向がある。
【0035】
(溶媒)
アモノサーマル法に用いられる溶媒には、窒素を含有する溶媒(窒素含有溶媒)を用いる。窒素を含有する溶媒としては、成長させる第13族金属窒化物結晶の安定性を損なうことのない溶媒が挙げられる。溶媒としては、例えば、アンモニア、ヒドラジン、尿素、アミン類(例えば、メチルアミンのような第1級アミン、ジメチルアミンのような第二級アミン、トリメチルアミンのような第三級アミン、エチレンジアミンのようなジアミン)、メラミン等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0036】
溶媒に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000wtppm以下であることが好ましく、10wtppm以下であることがより好ましく、0.1wtppm以下であることがさらに好ましい。アンモニアを溶媒として用いる場合、その純度は通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.999%以上であり、特に好ましくは99.9999%以上である。
【0037】
(原料)
成長工程においては、種結晶上に成長結晶として成長させようとしている第13族窒化物結晶を構成する元素を含む原料を用いることが好ましい。例えば、第13族金属の窒化物結晶を成長させようとする場合は、第13族金属を含む原料を用いる。好ましくは第13族金属窒化物結晶の多結晶原料及び/又は第13族金属であり、より好ましくは窒化ガリウム及び/又は金属ガリウムである。多結晶原料は、完全な窒化物である必要はなく、条件によっては第13族元素がメタルの状態(ゼロ価)である金属成分を含有してもよい。例えば、成長させる第13族金属窒化物結晶が窒化ガリウムである場合には、窒化ガリウムと金属ガリウムの混合物が挙げられる。本発明で得られる第13族金属窒化物結晶の種類としては、GaN、InN、AlN、InGaN、AlGaN、AlInGaNなどを挙げることができる。好ましいのはGaN、AlN、AlGaN、AlInGaNであり、より好ましいのはGaNである。よって、第13族金属窒化物半導体結晶原料としては、前述の結晶の多結晶原料および/またはこれらのメタルを組合せて用いることができる。
【0038】
多結晶原料の製造方法は、特に制限されない。例えば、アンモニアガスを流通させた反応容器内で、金属又はその酸化物もしくは水酸化物をアンモニアと反応させることにより生成した窒化物多結晶を用いることができる。また、より反応性の高い金属化合物原料として、ハロゲン化物、アミド化合物、イミド化合物などの共有結合性M−N結合を有する化合物などを用いることができる。さらに、Gaなどの金属を高温高圧で窒素と反応させて作製した窒化物多結晶を用いることもできる。
【0039】
(製造装置)
本発明の第13族金属窒化物結晶の製造方法に用いることのできる結晶製造装置の具体
例を
図1および
図2に示す。本発明で用いる結晶製造装置は反応容器を含む。
図1は、本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。
図1に示される結晶製造装置では、オートクレーブ(耐圧性容器)1の内部がライニングされており、ライニング3内側を反応容器として結晶成長が行われる。オートクレーブ1中は原料を溶解するための原料溶解領域9と結晶を成長させるための結晶成長領域6とから構成されている。その他の部材の設置は、後述する
図2の結晶製造装置と同様にすることができる。
【0040】
図2は、本発明で用いることができる別の結晶製造装置の模式図である。
図2に示される結晶製造装置において、結晶成長は、オートクレーブ1(耐圧性容器)中に反応容器として装填されるカプセル(内筒)20中で行われる。カプセル20は、原料を溶解するための原料充填領域9と結晶を成長させるための結晶成長領域6から構成されている。原料充填領域9には原料8とともに溶媒や鉱化剤を入れることができる。結晶成長領域6には種結晶7をワイヤー4で吊すなどして設置することができる。原料充填領域9と結晶成長領域6の間には、2つの領域を区画バッフル板5が設置されている。
【0041】
(結晶成長)
本発明の第13族金属窒化物結晶の製造方法に係る結晶成長方法の一例について説明する。
本発明の第13族金属窒化物結晶の製造方法に係る結晶成長を実施する際には、まず、反応容器内に、種結晶、窒素を含有する溶媒、原料、及び鉱化剤を入れて封止する。
【0042】
原料等の材料を導入する前又は導入した後に反応容器内を脱気しても良い。また、原料等の材料の導入時には、窒素ガスなどの不活性ガスを流通させても良い。通常は、反応容器内への種結晶の設置は、原料及び鉱化剤を充填する際に同時又は充填後に行う。種結晶の設置後には、必要に応じて加熱脱気をしても良い。脱気時の真空度は1×10
−2Pa以下が好ましく、5×10
−3Pa以下がさらに好ましく、1×10
−3Pa以下が特に好ましい。
【0043】
図2に示す製造装置を用いる場合は、反応容器であるカプセル20内に種結晶7、窒素を含有する溶媒、原料、及び鉱化剤を入れて封止した後に、カプセル20をオートクレーブ(耐圧性容器)1内に装填し、好ましくは耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第2溶媒を充填して耐圧性容器を密閉する。
その後、全体を加熱して反応容器内を超臨界状態及び/又は亜臨界状態とする。超臨界状態では一般的には、物質の粘度が低くなり、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を意味する。例えば、原料充填領域では、超臨界状態として原料を溶解し、結晶成長領域では亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用した結晶成長も可能である。
【0044】
超臨界状態にする場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持される。溶媒としてアンモニアを用いた場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、反応容器の容積に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において「超臨界状態」とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積の反応容器内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)及びP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
【0045】
超臨界条件では、第13族金属窒化物結晶の十分な成長速度が得られるが、本発明においては、第13族金属窒化物結晶の成長速度は一定速度以上であることが好ましい。種結晶の主面に垂直な方向の成長速度は50μm/day以上が好ましく、100μm/da
y以上がより好ましく、200μm/day以上がさらに好ましい。
【0046】
反応時間は、特に鉱化剤の反応性及び熱力学的パラメーター、すなわち温度及び圧力の数値に依存する。このため、これらの条件をコントロールすることにより、第13族金属窒化物結晶の成長速度を速くすることが好ましい。第13族金属窒化物結晶の成長速度を一定速度以上とすることにより、より大面積の主面を有する板状結晶が得られる傾向がある。
【0047】
第13族金属窒化物結晶の成長中、反応容器内の圧力は結晶性および生産性の観点から、30MPa以上にすることが好ましく、60MPa以上にすることがより好ましく、100MPa以上にすることがさらに好ましい。また、反応容器内の圧力は安全性の観点から、700MPa以下にすることが好ましく、500MPa以下にすることがより好ましく、350MPa以下にすることがさらに好ましく、300MPa以下にすることが特に好ましい。圧力は、温度及び反応容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、反応容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、反応容器内の温度の不均一性、及び自由容積の存在によって多少異なる。
【0048】
反応容器内の温度範囲は、結晶性および生産性の観点から、下限値が320℃以上であることが好ましく、370℃以上であることがより好ましく、450℃以上であることがさらに好ましい。上限値は、安全性の観点から、700℃以下であることが好ましく、650℃以下であることがより好ましく、630℃以下であることがさらに好ましい。本発明の第13族窒化物結晶の製造方法では、反応容器内における原料充填領域の温度が、結晶成長領域の温度よりも高いことが好ましい。温度差(|ΔT|)は、結晶性および生産性の観点から、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、80℃以下が特に好ましい。反応容器内の最適な温度や圧力は、結晶成長の際に用いる鉱化剤や添加剤の種類や使用量等によって、適宜決定することができる。
【0049】
反応容器内の温度範囲、圧力範囲を達成するための反応容器への溶媒の注入割合、すなわち充填率は、反応容器の自由容積、すなわち、反応容器に結晶原料、及び種結晶を用いる場合には、種結晶とそれを設置する構造物の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積、またバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20〜95%、好ましくは30〜80%、さらに好ましくは40〜70%とする。反応容器として
図2のようなカプセル20を用いる場合には、溶媒の超臨界状態においてカプセル20内外で圧力がバランスするように、溶媒量を適宜調整することが好ましい。
【0050】
反応容器内での第13族金属窒化物結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて反応容器を加熱昇温することにより、反応容器内のアンモニア等の溶媒を亜臨界状態又は超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度に付いては特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
【0051】
なお、上述したの「反応温度」は、反応容器の外面に接するように設けられた熱電対、及び/又は外表面から一定の深さの穴に差し込まれた熱電対によって測定され、反応容器の内部温度へ換算して推定することができる。これら熱電対で測定された温度の平均値をもって平均温度とする。通常は、原料充填領域の温度と結晶成長領域の温度の平均値を平均温度とする。
【0052】
所定の温度に達した後の反応時間については、第13族金属窒化物結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類、製造する結晶の大きさや量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。具体的には4日以上であることが好ましく、7日以上であることがより好ましく、15日以上であることがさらに好ましく、また、通常180日以下である。また、製造する結晶の厚みについては特に限定されないが、30μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、1000μm以上であることがさらに好ましく、通常、8000μm以下である。なお、結晶の厚みとは、種結晶の主面上に成長した結晶における、該主面に垂直な方向の厚みを意味する。
【0053】
反応中、反応温度は一定にしても良いし、徐々に昇温又は降温させることもできる。所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、反応温度を降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に反応容器を設置したまま放冷してもかまわないし、反応容器を電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。
【0054】
反応容器外面の温度、あるいは推定される反応容器内部の温度が所定温度以下になった後、反応容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常、−80℃〜200℃、好ましくは−33℃〜100℃である。ここで、反応容器に付属したバルブの配管接続口に配管接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けても良い。さらに必要に応じて、真空状態にするなどして反応容器内のアンモニア溶媒を十分に除去した後、乾燥し、反応容器の蓋等を開けて生成した第13族金属窒化物結晶及び未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。
【0055】
なお、上述の結晶成長を実施した後に、再度反応容器内に窒素を含有する溶媒、原料及び鉱化剤を入れて封止して、種結晶の主面に対して垂直な方向に複数回繰り返し結晶成長させても良い。この場合、種結晶と成長結晶とが一体となった結晶体を、種結晶として用いても良い。
また、成長工程において得た成長結晶から取り出した結晶を種結晶として用いて、その主面上に結晶成長させる再成長工程を実施してもよい。この場合、成長条件については成長工程について例示した条件を好ましく採用することができる。
【0056】
なお、本発明の第13族金属窒化物結晶の製造方法にしたがって窒化ガリウムを製造する場合、前記以外の材料、製造条件、製造装置、工程の詳細については特開2009−263229号公報を好ましく参照することができる。該公開公報の開示全体を本明細書に引用して援用する。
【0057】
<第13族金属窒化物基板>
上記の成長工程の後に、成長結晶を種結晶と分離する分離工程やスライス工程、表面研磨工程等の公知の処理工程を実施してもよい。スライス工程としては、具体的にはワイヤースライス、内周刃スライス等が挙げられ、表面研磨工程としては、例えばダイヤモンド砥粒等の砥粒を用いて表面を研磨する操作、CMP(chemical mechanical polishing)、機械研磨後RIEでダメージ層エッチングする操作が挙げられる。これらの工程を経て、本発明の第13族窒化物結晶からなる第13族窒化物基板を得ることができる。
本発明の第13族金属窒化物基板の物性については特に限定されないが、好ましい物性を以下に説明する。
【0058】
(キャリア濃度)
第13族金属窒化物基板のキャリア濃度は、GaN結晶の場合、通常1.0×10
17
cm
−3以上、好ましくは5.0×10
17cm
−3以上であり、通常1×10
19cm
−3以下、好ましくは8.0×10
18cm
−3以下である。
【0059】
(X線回折ピークのロッキングカーブの半値幅)
第13族金属窒化物基板のX線回折の(100)回折ピークのロッキングカーブの半値幅は、通常50arcsec以下、好ましくは40arcsec以下、より好ましくは30arcsec以下、さらに好ましくは25arcsec以下、最も好ましくは20arcsec以下である。
【0060】
また、第13族金属窒化物基板のX線回折の(102)回折ピークのロッキングカーブの半値幅は、通常50arcsec以下、好ましくは40arcsec以下、より好ましくは30arcsec以下、さらに好ましくは25arcsec以下、最も好ましくは20arcsec以下である。
【0061】
(曲率半径)
第13族金属窒化物基板の主面の曲率半径は、通常10m以上、好ましくは12m以上、より好ましくは15m以上であり、さらに好ましくは20m以上である。さらに、第13族金属窒化物基板は、本発明の第13族窒化物結晶の好ましい物性として例示した前述の物性を有していることが好ましい。
【0062】
(積層欠陥密度)
第13族金属窒化物基板の積層欠陥密度は、通常100cm
−1以下、好ましくは50cm
−1以下、より好ましく20cm
−1以下である。
なお、積層欠陥密度は、カソードルミネッセンス法(SEM−CL法)によって測定できるほか、低温PL測定によって見積もることができる。
【0063】
<デバイス>
本発明の第13族金属窒化物結晶は、デバイス、即ち発光素子や電子デバイス、パワーデバイスなどを形成するための下地基板として好適に用いられる。本発明の第13族金属窒化物結晶や基板が用いられる発光素子としては、発光ダイオード、レーザーダイオード、それらと蛍光体を組み合わせた発光素子などを挙げることができる。また、本発明の第13族金属窒化物結晶や基板が用いられる電子デバイスとしては、高周波素子、高耐圧高出力素子などを挙げることができる。高周波素子の例としては、トランジスター(HEMT、HBT)があり、高耐圧高出力素子の例としては、サイリスター(SCR、GTO)、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、ショットキーバリアダイオード(SBD)がある。
【実施例】
【0064】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0065】
(実施例1)
[種結晶(i)の準備]
本実施例では、まず、
図2に示すような反応装置を用いて下地基板を得るための結晶成長を行った。結晶成長には、ニッケル基合金製のオートクレーブ1を耐圧性容器として用い、Pt−Ir製カプセル20を反応容器として用いた。
【0066】
原料8として多結晶GaN粒子をカプセル下部領域(原料溶解領域9)内に設置し鉱化
剤として高純度のNH
4Fをカプセル内に投入した。さらに下部の原料溶解領域9と上部の結晶成長領域6の間には白金製のバッフル板5を設置した。種結晶7として、HVPE法で得られたC面基板を、白金製のワイヤーとシード支持枠を用いて吊るし、カプセル上部の結晶成長領域6に設置した。種結晶7の主面(−C面)表面はM面に平行に伸びる細長い開口部を有するマスクが形成され、細長い開口部から、主面(−C面)表面のCMP仕上げされた領域を一部露出させた。次いで、以下に示す手順で、細長い開口部から−c軸方向(横方向)へ成長させることによりM面が広がるように結晶成長させた。
カプセル20の上部にPt製のキャップを溶接により接続したのち、カプセル下部を液体窒素で冷却し、バルブを開け外気に触れることなく鉱化剤としてHIを充填した。次いで、カプセルをNH
3ガスラインに接続し、外気に触れることなくNH
3を充填した後、再びバルブを閉じた。その後、キャップ上部のチューブを封じ切った。なお、カプセル20中に導入されたF濃度はNH
3に対して0.5mol%、I濃度は1.5mol%であった。
【0067】
次に、カプセル20をオートクレーブに挿入し、オートクレーブを密封した。その後、バルブを開けて真空脱気し、真空状態を維持しながらオートクレーブ1をドライアイスメタノール溶媒によって冷却して外気に触れることなくNH
3をオートクレーブ1に充填した後、再びバルブ10を閉じた。
【0068】
オートクレーブ1を複数に分割されたヒーターで構成された電気炉内に収納した。オートクレーブ1内部の平均温度が600℃、内部の温度差(|ΔT|)が20℃になるようにオートクレーブ1外面温度で制御しながら昇温し、設定温度に達した後、その温度にて16日間保持した。オートクレーブ1内の圧力は215MPaであった。
その後、オートクレーブ1を冷却しながら、オートクレーブ1に付属したバルブ10を開放し、オートクレーブ1内のNH
3を取り除いた。
【0069】
オートクレーブ1の蓋を開け、カプセル20を取り出し、更に内部の結晶を取り出した。種結晶上には−c軸方向に延びる板状に窒化ガリウム結晶が成長しており、c軸方向への成長厚みは5mmであった。
成長した結晶を種結晶として、上記と同様の手法により−c軸方向への成長厚みが15mm以上になるまで繰り返し成長した。
【0070】
上記窒化ガリウム結晶より、c軸に沿ってM面を主面とする窒化ガリウムウエハを複数切り出し、種結晶(i)を得た。このウエハを主面であるM面の表裏と4側面をエッチングしてダメージを除去し、更にM面の表裏をミラー研磨した。得られた両面研磨結晶のX線回折測定を行い、結晶系は六方晶系で立方晶GaNは含まれていないことを確認した。
【0071】
[本発明の第13族窒化物結晶の製造]
上記の方法で得られた種結晶(i)は、M面を主面とするc軸方向に15mm×a軸方向に40mm、厚み300μmの板状結晶であった。該種結晶(i)の主面(M面)上に窒化ガリウムを成長させた。この種結晶(i)は、主としてM面を成長面としてホモ成長させるため主面(M面)全面をCMP仕上げしたものを用いた。結晶成長は、前述の[種結晶(i)の準備]における結晶成長と同様にしてアモノサーマル法にて20日間行った。
【0072】
取り出した結晶を観察したところ、M面を主面とする窒化ガリウム結晶が成長しており、そのサイズはc軸17.5mm×a軸43mm×m軸5.3mm程度であった。
得られた窒化ガリウム結晶からM面を主面とする板状結晶を複数切り出し、主面であるM面の表裏と4側面をエッチングしてダメージを除去し、更にM面の表裏をミラー研磨して、本発明のGaN結晶を得た。得られたGaN結晶のX線回折測定を行い、結晶系は六
方晶系で立方晶GaNは含まれていないことを確認した。
【0073】
得られたGaN結晶のM面におけるa軸方向に平行な方向の曲率半径を測定したところ26.4mであり、C面におけるa軸方向に平行な方向の曲率半径は27.5m、m軸方向に平行な方向の曲率半径は171.9mであった。
【0074】
[GaN結晶の主面上にGaN膜を成長させる成長工程]
このようにして作製したGaN結晶から、M面を主面とするc軸方向に15mm×a軸方向に40mm、厚み300μmのウエハを切り出し、種結晶(ii)として、その主面(M面)上に窒化ガリウムを成長させた。この種結晶(ii)は、主としてM面を成長面としてホモ成長させるため主面(M面)全面をCMP仕上げしたものを用いた。結晶成長は、前述の[種結晶(i)の準備]における結晶成長と同様にしてアモノサーマル法にて16.8日間行った。
【0075】
取り出した結晶を観察したところ、種結晶(ii)上にM面を主面とする窒化ガリウム結晶膜が成長していた。結晶は薄い黄色に着色しており、クラックやボイドなどの可視的な欠陥は見られなかった。そのサイズはc軸16mm×a軸42mm×m軸3.7mm程度であった。
得られた結晶膜のX線ロッキングカーブを測定したところ、(100)回折で23.8秒、(102)回折で22.3秒であり、結晶性が良いことが示された。
【0076】
(実施例2)
実施例1の[種結晶(i)の準備]及び [本発明の第13族窒化物結晶の製造]と同様の条件で作製したM面を主面とするGaN結晶から、c軸方向に15mm×a軸方向に40mm、厚み300μmのウエハを切り出し、本発明のGaN結晶とした。
該ウエハのM面のa軸方向に平行な方向の曲率半径は11.4m、A面におけるc軸方向に平行な方向の曲率半径は29.3mであった。
【0077】
[GaN結晶の主面上にGaN膜を成長させる成長工程]
このようにして作製したウエハを種結晶(ii)として使用し、育成日数を31.1日とした以外は実施例1と同様の手順で結晶成長を行った。
取り出した結晶を観察したところ、種結晶(ii)上にM面を主面とする窒化ガリウム結晶膜が成長していた。結晶は薄い黄色に着色しており、クラックやボイドなどの可視的な欠陥は見られなかった。そのサイズはc軸17mm×a軸45mm×m軸5.63mm程度であった。
得られた結晶膜のX線ロッキングカーブを測定したところ、(100)回折で21.0秒、(102)回折で22.3秒であり、結晶性が良いことが示された。
【0078】
(実施例3)
実施例1の[種結晶(i)の準備]と同様の条件でGaN結晶を作製し、M面を主面とするc軸方向に15mm×a軸方向に30mm、厚み700μmの板状の本発明のGaN結晶を得た。該GaN結晶の表面を研磨およびエッチングし、C面のa軸方向に平行な方向の曲率半径を測定したところ56.0mであった。
【0079】
[GaN結晶の主面上にGaN膜を成長させる成長工程]
このようにして作製したGaN結晶を、種結晶(ii)として使用し、育成日数を15.6日とした以外は実施例1と同様の手順で結晶成長を行った。
取り出した結晶を観察したところ、種結晶(ii)上にM面を主面とする窒化ガリウム結晶膜が成長していた。結晶は薄い黄色に着色しており、クラックやボイドなどの可視的な欠陥は見られなかった。そのサイズはc軸16mm×a軸32mm×m軸4.5mm程
度であった。
得られた結晶膜のX線ロッキングカーブを測定したところ、(100)回折で23.0秒、(102)回折で24.0秒であり、結晶性が良いことが示された。
【0080】
(比較例1)
[GaN結晶の主面上にGaN膜を成長させる成長工程]
種結晶(ii)として、HVPE法にて結晶成長させて得られた、M面を主面とする六方晶系GaN単結晶を用いた。該GaN単結晶は、テンプレート基板上にC軸方向へ厚膜成長させて得られたC面を主面とするバルク結晶から、M面を主面とする板状結晶を切り出して得られたものであり、その表面がCMP仕上げされている。M面のa軸方向に平行な方向の曲率半径は9.4m、C面のa軸に平行な方向の曲率半径は5.26mであった。これを種結晶(ii)として用い、育成日数を11.1日とした以外は実施例1と同様の手順にて結晶成長を行った。
【0081】
取り出した結晶を観察したところ、種結晶(ii)上にM面を主面とする窒化ガリウム結晶膜が成長していた。結晶は薄い黄色に着色しており、c軸方向に平行なクラックが多数見られた。そのサイズはc軸10mm×a軸15mm×m軸3.24mm程度であった。
結晶のX線ロッキングカーブを測定したところ、(100)回折で39.5秒、(102)回折で32.3秒であった。
実施例1、実施例2、実施例3及び比較例1のGaN結晶の特性とその主面上の成長条件と成長結果を表1に整理する。
【0082】
【表1】
【0083】
表1から明らかなように、M面を主面とするGaN結晶で、C面の曲率半径が10m未満のGaN結晶を用いて、その主面上に結晶成長を行ったところ、結晶中に多数のクラックが観察された(比較例1)が、C面またはA面の曲率半径が10m以上のGaN結晶を使用して、主面上に厚膜の結晶成長を行うことで、成長結晶中のクラック発生が抑制された(実施例1〜3)。