特許第6187368号(P6187368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6187368シラングラフト塩素化ポリエチレンの製造方法、絶縁電線の製造方法及びケーブルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187368
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】シラングラフト塩素化ポリエチレンの製造方法、絶縁電線の製造方法及びケーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 255/02 20060101AFI20170821BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20170821BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20170821BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C08F255/02
   H01B3/44 B
   H01B3/44 D
   H01B3/44 L
   H01B7/02 F
   H01B7/18 H
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-78079(P2014-78079)
(22)【出願日】2014年4月4日
(65)【公開番号】特開2015-199795(P2015-199795A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2016年7月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(72)【発明者】
【氏名】芦原 新吾
(72)【発明者】
【氏名】青山 貴
(72)【発明者】
【氏名】矢崎 浩貴
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−101509(JP,A)
【文献】 特開平09−302043(JP,A)
【文献】 国際公開第01/009237(WO,A1)
【文献】 米国特許第03802913(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 255/02
H01B 3/44
H01B 7/02
H01B 7/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化ポリエチレンに過酸化物を添加する添加工程と、
前記塩素化ポリエチレンに、HC=C(CH)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物を添加することで、前記塩素化ポリエチレンに前記シラン化合物をグラフト共重合させるグラフト工程と、を有し、
前記グラフト工程では、前記シラン化合物のモル数をx、前記過酸化物のモル数をy、前記過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下となるように前記シラン化合物を添加しており、
前記添加工程を行った後に前記グラフト工程を行う、シラングラフト塩素化ポリエチレンの製造方法。
【請求項2】
導体の外周に絶縁層を形成する絶縁電線の製造方法において、
塩素化ポリエチレンに過酸化物を添加する添加工程と、
前記塩素化ポリエチレンに、HC=C(CH)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物を添加することで、前記塩素化ポリエチレンに前記シラン化合物をグラフト共重合させるグラフト工程と、を有し、
前記グラフト工程では、前記シラン化合物のモル数をx、前記過酸化物のモル数をy、前記過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下となるように前記シラン化合物を添加しており、
前記添加工程を行った後に前記グラフト工程を行うことで得られるシラングラフト塩素化ポリエチレンを含む塩素化ポリエチレン組成物を導体の外周に被覆することで絶縁層を形成する被覆工程と、を有する、絶縁電線の製造方法。
【請求項3】
導体の外周に絶縁層を形成し、該絶縁層の外周に外被層を形成するケーブルの製造方法において、
塩素化ポリエチレンに過酸化物を添加する添加工程と、
前記塩素化ポリエチレンに、HC=C(CH)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物を添加することで、前記塩素化ポリエチレンに前記シラン化合物をグラフト共重合させるグラフト工程と、を有し、
前記グラフト工程では、前記シラン化合物のモル数をx、前記過酸化物のモル数をy、前記過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下となるように前記シラン化合物を添加しており、
前記添加工程を行った後に前記グラフト工程を行うことで得られるシラングラフト塩素化ポリエチレンを含む塩素化ポリエチレン組成物を前記絶縁層の外周に被覆することで外被層を形成する被覆工程と、を有する、ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラングラフト塩素化ポリエチレンおよびその製造方法、並びに絶縁電線およびケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
塩素化ポリエチレンは、原料であるポリエチレンを水性懸濁法などの方法によって塩素を作用させることにより得られる熱可塑性エラストマーの一種である。塩素化ポリエチレンは、可撓性、耐候性、耐油性、耐薬品性、難燃性、耐熱性、耐摩耗性などの幅広い特性を有しており、ケーブルの外被層など(以下、シースともいう)を形成する材料として広く用いられている。
【0003】
一般に、塩素化ポリエチレンでシースを形成する場合、塩素化ポリエチレンを押し出した後、塩素化ポリエチレンを架橋させることが知られている。架橋方法としては、シラン化合物(シランカップリング剤)を用いるシラン架橋が広く行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
シラン架橋では、まず、塩素化ポリエチレンにシラン化合物と過酸化物とを含有させて、過酸化物の存在下で塩素化ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させ、シラングラフト塩素化ポリエチレンを形成する。次に、シラングラフト塩素化ポリエチレンを水と接触させて架橋させることでシラン架橋塩素化ポリエチレンを形成する。
【0005】
シラン化合物としては、例えばビニルトリメトキシシランやビニルトリエトキシシラン等のビニル基を有するシラン化合物(以下、ビニルシランともいう)が広く用いられている。しかしながら、ビニルシランは、揮発性が高く特有の刺激臭を有することから、取り扱いにくいといった問題がある。そこで、ビニルシランに代わるシラン化合物として、メタクリル基、アクリル基またはスチリル基を有するシラン化合物が検討されている。このうち、コスト面等で実用性が高いことから、メタクリル基を有するシラン化合物(以下、メタクリルシランともいう)が着目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許昭50−35540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、メタクリルシランはビニルシランと比較して塩素化ポリエチレンにグラフト共重合させにくい。そのため、メタクリルシランがグラフト共重合されたシラングラフト塩素化ポリエチレンは、架橋度が低くなるといった問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みて成されたものであり、架橋させたときに高い架橋度が得られる、メタクリル基を有するシラン化合物がグラフト共重合されたシラングラフト塩素化ポリエチレン、それを用いた絶縁電線およびケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、
C=C(CH)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物が過酸化物により塩素化ポリエチレンにグラフト共重合されており、前記シラン化合物のモル数をx、前記過酸化物のモル数をy、前記過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下であり、架橋させた後のゲル分率が60%以上である、シラングラフト塩素化ポリエチレンが提供される。
【0010】
本発明の他の態様によれば、
塩素化ポリエチレンに過酸化物を添加する添加工程と、前記塩素化ポリエチレンに、HC=C(CH)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物を添加することで、前記塩素化ポリエチレンに前記シラン化合物をグラフト共重合させるグラフト工程と、を有し、前記グラフト工程では、前記シラン化合物のモル数をx、前記過酸化物のモル数をy、前記過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下となるように前記シラン化合物を添加しており、前記添加工程を行った後に前記グラフト工程を行う、シラングラフト塩素化ポリエチレンの製造方法が提供される。
【0011】
本発明のさらに他の態様によれば、
導体と、前記導体の外周を囲うように設けられ、HC=C(CH)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物が過酸化物により塩素化ポリエチレンにグラフト共重合されており、前記シラン化合物のモル数をx、前記過酸化物のモル数をy、前記過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下であるシラングラフト塩素化ポリエチレンで形成され、ゲル分率が60%以上である絶縁層と、を備える絶縁電線が提供される。
【0012】
本発明のさらに他の態様によれば、
導体と、前記導体の外周を囲うように設けられる絶縁層と、前記絶縁層の外周を囲うように設けられ、HC=C(CH)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物が過酸化物により塩素化ポリエチレンにグラフト共重合されており、前記シラン化合物のモル数をx、前記過酸化物のモル数をy、前記過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下であるシラングラフト塩素化ポリエチレンで形成され、ゲル分率が60%以上である外被層と、を備えるケーブルが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、架橋させたときに高い架橋度が得られる、メタクリル基を有するシラン化合物がグラフト共重合されたシラングラフト塩素化ポリエチレン、それを用いた絶縁電線およびケーブルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るケーブルの断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る絶縁電線の断面図である。
図3】実施例における押出機を用いたグラフト工程を示す模式図である。
図4】実施例におけるケーブルの作製を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、上記課題について検討したところ、メタクリルシランがビニルシランと比較して塩素化ポリエチレンにグラフト共重合されにくいこと、つまりメタクリルシランの塩素化ポリエチレンへのグラフト化率が低くなることは、メタクリルシランがグラフト共重合の際に生じるラジカルと反応しやすいためであることが分かった。この点につき、以下、具体的に説明する。
【0016】
一般に、シラン化合物のグラフト共重合はラジカルによって進行する。具体的には、まず、塩素化ポリエチレンにシラン化合物と過酸化物とを含有させて加熱し、過酸化物を熱分解させることでラジカル(例えばオキシラジカル)を生成させる。オキシラジカルは、塩素化ポリエチレン中の水素を引き抜くことで、塩素化ポリエチレンのラジカルを生成する。そして、塩素化ポリエチレンのラジカルとシラン化合物の有する不飽和結合(例えばビニル基やメタクリル基)とが反応することによって、シラン化合物が塩素化ポリエチレンにグラフト共重合されることになる。このように、シラン化合物のグラフト共重合は、過酸化物から生成するオキシラジカルによって反応し始める。
【0017】
しかしながら、上述のグラフト共重合では、本来、塩素化ポリエチレンと反応するオキシラジカルが、シラン化合物と反応することがある。つまり、オキシラジカルがシラン化合物との反応により消費されることがある。そのため、オキシラジカルと塩素化ポリエチレンとの反応が阻害されて、塩素化ポリエチレンのラジカルが生成されにくくなる。その結果、シラン化合物が塩素化ポリエチレンに対して十分にグラフト共重合されず、シラン化合物のグラフト化率が低くなってしまう。特に、シラン化合物の中でも、メタクリルシランは、ビニルシラン等と比較してオキシラジカルとの反応性が高くオキシラジカルと反応しやすいため、グラフト化率がより低くなってしまう。このようにシラン化合物のグラフト化率が低くなると、シラングラフト塩素化ポリエチレンを架橋させたときに、架橋度が低くなってしまう。
【0018】
この問題を解決する方法について本発明者らが検討したところ、メタクリルシランを過酸化物と同時に添加するのではなく、過酸化物を塩素化ポリエチレンに添加した後、メタクリルシランを添加するとよいことが見出された。従来では、過酸化物およびシラン化合物を塩素化ポリエチレンに添加するとき、例えば過酸化物およびシラン化合物を溶解させた溶液を添加することで、これらを同時に添加していた。しかしながら、メタクリルシランの場合、過酸化物と同時に添加すると、これらを塩素化ポリエチレン中に分散させている最中に過酸化物から生成するラジカルとメタクリルシランとが反応することで、過酸化物が消費され、結果的にメタクリルシランのグラフト共重合が阻害されてしまう。これに対して、過酸化物を添加した後にメタクリルシランを添加する場合、過酸化物を予め塩素化ポリエチレン中に分散させておくことができるので、メタクリルシランを分散させるときに過酸化物の消費を抑制できる。その結果、塩素化ポリエチレンにメタクリルシランを良好にグラフト共重合させることができる。本発明は、これらの知見に基づいて成されたものである。
【0019】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0020】
(1)シラングラフト塩素化ポリエチレン
本実施形態のシラングラフト塩素化ポリエチレンは、メタクリル基を有するシラン化合物(メタクリルシラン)が過酸化物により塩素化ポリエチレンにグラフト共重合されたものである。シラングラフト塩素化ポリエチレンは、分子鎖中にシラン化合物に由来するシラン基を有しており、水との反応により架橋されるような構造を有している。以下、各成分について具体的に説明する。
【0021】
塩素化ポリエチレンは、例えば、線状ポリエチレン(低密度ポリエチレンや高密度ポリエチレンなど)を水に懸濁分散させた水性懸濁液に塩素ガスを吹き込むことにより得られる。塩素化ポリエチレンの塩素化度は、シラン化合物のグラフト化率を向上させる、つまり架橋させたときの架橋度を向上させる観点から、25%以上45%以下とするとよく、30%以上40%以下とするとよりよい。
【0022】
シラン化合物は、HC=C(CH)−CO−で示されるメタクリル基を有している。メタクリル基は、塩素化ポリエチレンのラジカルと反応する不飽和結合の置換基である。シラン化合物は、メタクリル基が塩素化ポリエチレンのラジカルと反応することで、塩素化ポリエチレンにグラフト共重合されている。
【0023】
また、シラン化合物は、加水分解性のシラン基を有している。シラングラフト塩素化ポリエチレンの化学構造中には、シラン化合物が塩素化ポリエチレンにグラフト共重合されることで、シラン基が導入されることになる。シラン基は、シラングラフト塩素化ポリエチレンを水と反応させて架橋させる際に、加水分解することでシラノール基となる。シラノール基は、脱水縮合(シラノール縮合)することによって、架橋構造を形成する。シラン基としては、例えば、ハロゲン、アルコキシ基、アシルオキシ基、フェノキシ基などの加水分解可能な構造を有するものが挙げられる。これらの加水分解可能な構造を有するシラン基として、例えばハロシリル基、アルコキシシリル基、アシロキシシリル基、フェノキシシリル基などが挙げられる。
【0024】
具体的には、シラン化合物としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等のメタクリルシランを用いることができる。
【0025】
過酸化物は、塩素化ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させるためのものである。過酸化物としては、塩素化ポリエチレンから水素を引き抜く水素引き抜き能が高く、また塩素化ポリエチレンが劣化しにくい(脱塩化水素しにくい)温度で熱分解してオキシラジカルを生成できる有機過酸化物を用いることができる。塩素化ポリエチレンの劣化開始温度が200℃程度であることから、過酸化物としては、1分間半減期温度が120℃以上200℃以下である有機過酸化物を用いることが好ましい。グラフト反応に要する時間を短縮する観点からは、1分間半減期温度が150℃以上200℃以下である有機過酸化物を用いるとよりよい。なお、1分間半減期温度とは、過酸化物の半減期が1分間となる温度のことである。
【0026】
具体的には、過酸化物としては、ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)ペルオキシド(ジクミルパーオキサイド)、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5ジメチル2,5ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネートなどを用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、1分間半減期温度が約175℃であるビス(1−メチル−1−フェニルエチル)ペルオキシド(いわゆるジクミルパーオキサイド)を用いるとよい。
【0027】
シラン化合物および過酸化物は、シラン化合物のモル数をx、過酸化物のモル数をy、過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合(ペルオキシド結合、−O−O−結合)の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下であるとよく、3以上9以下であるとよりよい。x/2αyは、塩素化ポリエチレンに配合するシラン化合物のモル数と、過酸化物から生成するラジカル(オキシラジカル)のモル数との比率を示す。x/2αyが1.5未満となると、シラン化合物に対してラジカルが不足する傾向があるため、塩素化ポリエチレンにシラン化合物を十分にグラフト共重合できないおそれがある。一方、x/2αyが20.0を超えると、シラン化合物に対してラジカルが過剰となる傾向があるため、シラン化合物をグラフト共重合させるときに、意図しない架橋反応が生じてしまうおそれがある。したがって、x/2αyを1.5以上20以下とすると、塩素化ポリエチレンにシラン化合物を十分にグラフト共重合させると共に、グラフト共重合させるときの架橋反応を抑制することができる。
【0028】
シラン化合物および過酸化物は、x/2αyが1.5以上20.0以下となるような含有量であれば特に限定されない。例えば、塩素化ポリエチレン100質量部に対して、シラン化合物の含有量は1.0質量部以上10質量部以下であるとよい。過酸化物の含有量は0.03質量部以上3.0質量部以下であるとよい。このとき、シラン化合物のモル数xが4.0×10−3〜4.0×10−2の範囲内あるとよく、過酸化物から生成するラジカル(オキシラジカル)のモル数2αyが2.2×10−4〜2.2×10−2の範囲内であるとよい。
【0029】
シラングラフト塩素化ポリエチレンには、効率的に架橋させる観点から、架橋反応を促進させるシラノール縮合触媒が含有されているとよい。シラノール縮合触媒としては、例えば、マグネシウムやカルシウム等のII族元素、コバルトや鉄等のVIII族元素、錫、亜鉛およびチタン等の金属元素、これらの元素を含む金属化合物を用いることができる。また、オクチル酸やアジピン酸の金属塩、アミン系化合物、酸などを用いることができる。具体的には、ジオクチル錫ジネオデカノエート、ジブチル錫ジラウリレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクタエート、酢酸第一錫、カブリル酸第一錫、ナフテン酸鉛、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸コバルトなどの金属塩、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジンなどのアミン系化合物、硫酸や塩酸などの無機酸、トルエンスルホン酸や酢酸、ステアリン酸、マレイン酸などの有機酸を用いることができる。
【0030】
また、シラングラフト塩素化ポリエチレンには、可塑剤、酸化防止剤(老化防止剤を含む)、カーボンブラック等の充填剤、難燃剤、滑剤、銅害変色防止剤、架橋助剤、安定剤などのその他の添加剤が含有されていてもよい。
【0031】
(2)シラン架橋塩素化ポリエチレン
シラン架橋塩素化ポリエチレンは、上述のシラングラフト塩素化ポリエチレンが水との反応により架橋されたものである。シラン架橋塩素化ポリエチレンは、例えば架橋度の指標であるゲル分率が60%以上である。ゲル分率が60%未満であると、シラン架橋塩素化ポリエチレンの架橋度が低くなるので、例えばケーブルが備える外被層(シース)では引張強さ等の機械的特性が得られなくなる。シースなどの機械的特性を向上させる観点からは、ゲル分率の上限値は特に限定されない。ゲル分率が高くなり、架橋度が高くなるほど、シラン架橋塩素化ポリエチレンには多くの架橋構造が形成されるので、シースなどの機械的特性は向上する傾向を示すものが多い。
【0032】
ゲル分率は、以下のように求められる。まず、シラン架橋塩素化ポリエチレンで形成された試料をキシレン中に浸漬し、キシレンを加熱して沸騰させる。その後、キシレンに溶解せずに残存した試料(熱キシレンで抽出した後の試料)を取り出して乾燥させ、熱キシレンで抽出した後の試料の質量を計測する。そして、熱キシレンで抽出する前の試料の質量に対する熱キシレンで抽出した後の試料の質量の比率を算出することにより、シラン架橋塩素化ポリエチレンのゲル分率を求める。熱キシレンで抽出する前の試料の質量をa、熱キシレンで抽出した後の試料の質量をbとすると、ゲル分率Rは下記式で示される。
R(%)=(b/a)×100
【0033】
(3)シラングラフト塩素化ポリエチレンの製造方法
次に、上述したシラングラフト塩素化ポリエチレンの製造方法について説明する。
【0034】
(添加工程)
まず、塩素化ポリエチレンに過酸化物として例えばジクミルパーオキサイドを添加し、加熱混練する。混練により、塩素化ポリエチレン中に過酸化物を分散させる。このとき、塩素化ポリエチレン100質量部に対して過酸化物を0.03質量部以上3.0質量部以下、好ましくは0.1質量部以上1.2質量部以下添加する。なお、混練する際の温度は、塩素化ポリエチレンの劣化温度以下とするとよい。
【0035】
(グラフト工程)
続いて、過酸化物を分散させた塩素化ポリエチレンに、メタクリル基を有するメタクリルシランを添加し、加熱混練する。混練により塩素化ポリエチレン中にメタクリルシランを分散させる。グラフト工程では、シラン化合物のモル数をx、過酸化物のモル数をy、過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下となるようにメタクリルシランを添加するとよい。例えば、塩素化ポリエチレン100質量部に対してメタクリルシランを1.0質量部以上10質量部以下添加するとよい。
【0036】
塩素化ポリエチレンにメタクリルシランを添加することで、過酸化物の存在下で塩素化ポリエチレンにメタクリルシランをグラフト共重合させ、シラングラフト塩素化ポリエチレンを形成する。本実施形態では、過酸化物を塩素化ポリエチレンに予め添加して分散させることで、メタクリルシランを塩素化ポリエチレンに分散させる際に、過酸化物から生成するオキシラジカルとメタクリルシランとの反応を抑制することができる。つまり、過酸化物から生成するオキシラジカルを塩素化ポリエチレンと効率よく反応させて、塩素化ポリエチレンのラジカルを効率よく生成させることができる。これにより、オキシラジカルとの反応性の高いメタクリルシランを用いる場合であっても、塩素化ポリエチレンに好適にグラフト共重合させることができる。
【0037】
なお、上述の添加工程およびグラフト工程では、例えばロール機、押出機、ニーダ、ミキサ、オートクレーブなどの混練反応装置を用いて混練するとよい。また、混練条件やグラフト反応条件(温度、時間など)は特に限定されない。
【0038】
(4)ケーブルの構成および製造方法
次に、本発明の一実施形態に係るケーブル1について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るケーブル1の断面図である。
【0039】
図1に示すように、本実施形態のケーブル1は、導体10を備えている。導体10としては、低酸素銅や無酸素銅等からなる銅線、銅合金線、アルミニウムや銀等からなる金属線、又は金属線を撚り合わせた撚り線を用いることができる。導体10の外径は、ケーブル1の用途に応じて適宜変更することができる。
【0040】
導体10の外周を被覆するように、絶縁層11が設けられている。絶縁層11は、従来公知の樹脂組成物、例えばエチレンプロピレンゴムを含む樹脂組成物で形成されている。絶縁層11の厚さは、ケーブル1の用途に応じて適宜変更することができる。
【0041】
絶縁層11の外周を被覆するように、外被層12(シース12)が設けられている。シース12は、シラングラフト塩素化ポリエチレンが架橋されたシラン架橋塩素化ポリエチレンで形成されている。シース12は、ゲル分率が60%以上であるシラン架橋塩素化ポリエチレンで形成されており、高い架橋度を有している。
【0042】
ケーブル1は、例えば以下のように製造される。まず、導体10として、例えば銅線を準備する。そして、例えば、押出機により、導体10の外周を被覆するように、エチレンプロピレンゴムを含む樹脂組成物を押し出して、所定厚さの絶縁層11を形成する。続いて、絶縁層11の外周を被覆するように、上述したシラングラフト塩素化ポリエチレンを所定の厚さで押し出してシース12を形成する。その後、シース12を形成するシラングラフト塩素化ポリエチレンを水と反応させて、シラン架橋塩素化ポリエチレンを形成することで、シース12を架橋させる。具体的には、シース12を形成するシラングラフト塩素化ポリエチレンでは、水との反応により、化学構造中のシラン基が加水分解してシラノール基となる。そして、シラノール基が脱水縮合して結合することでシラングラフト塩素化ポリエチレンの分子鎖が架橋されて、シラン架橋塩素化ポリエチレンが形成される。これにより、シース12が架橋されて、本実施形態のケーブル1を得る。なお、シラングラフト塩素化ポリエチレンを架橋させる場合、例えば、60℃の飽和水蒸気の雰囲気で行うとよい。
【0043】
<本発明の実施形態に係る効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0044】
(a)本実施形態によれば、過酸化物の添加工程を行った後、グラフト工程を行っている。つまり、塩素化ポリエチレンに過酸化物を添加し、その後メタクリルシランを添加することで、シラン化合物を塩素化ポリエチレンにグラフト共重合させ、シラングラフト塩素化ポリエチレンを形成している。メタクリルシランを塩素化ポリエチレンに分散させてグラフト共重合させる際に、過酸化物を塩素化ポリエチレンに予め添加して分散させているため、過酸化物から生成するオキシラジカルとメタクリルシランとの反応を抑制することができる。つまり、オキシラジカルを塩素化ポリエチレンと反応させて、塩素化ポリエチレンのラジカルを効率よく生成させることができる。これにより、メタクリルシランを塩素化ポリエチレンに好適にグラフト共重合させることができ、シラングラフト塩素化ポリエチレンにおけるメタクリルシランのグラフト化率を向上させることができる。したがって、シラングラフト塩素化ポリエチレンを架橋させたときに、ゲル分率が60%以上であり、高い架橋度を有するシラン架橋塩素化ポリエチレンを得ることができる。
【0045】
これに対して、従来のように、塩素化ポリエチレンに過酸化物と同時にメタクリルシランを添加すると、これらを塩素化ポリエチレンに分散させる際に、過酸化物から生成するオキシラジカルとメタクリルシランとが反応することで過酸化物が消費されてしまう。そのため、塩素化ポリエチレンにメタクリルシランを効率的にグラフト共重合させることができない。この結果、メタクリルシランのグラフト化率が低減することとなり、シラングラフト塩素化ポリエチレンを架橋させたときのゲル分率が60%未満となってしまう。
【0046】
(b)本実施形態によれば、メタクリルシランを塩素化ポリエチレンに分散させてグラフト共重合させる際に、過酸化物を塩素化ポリエチレンに予め添加して分散させている。そのため、分散させた過酸化物から塩素化ポリエチレン中に均一にラジカルを発生させることができる。そして、メタクリルシランを塩素化ポリエチレンに均一に分散させることによって、塩素化ポリエチレンの化学構造中にメタクリルシランを均一にグラフト共重合させて、シラン基を均一に導入することができる。これにより、塩素化ポリエチレンを均一に架橋させることができるので、シラン架橋塩素化ポリエチレンの架橋度のばらつき(局所的な架橋)を低減して、伸びなどの機械的特性を向上させることができる。また、塩素化ポリエチレンが局所的に過度に架橋されて生じるツブなどによる外観不良を低減することができる。
【0047】
(c)本実施形態によれば、シラン化合物のモル数をx、過酸化物のモル数をy、過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下である。x/2αyが1.5以上であると、メタクリルシランに対してラジカルを不足なく十分に供給させることで、塩素化ポリエチレンにメタクリルシランを効率的にグラフト共重合させることができる。x/2αyが20.0以下であると、メタクリルシランに対してラジカルを過剰とならないように供給させることで、メタクリルシランをグラフト共重合させる際に、塩素化ポリエチレンが架橋反応してしまうことを抑制することができる。したがって、x/2αyを1.5以上20以下とすると、塩素化ポリエチレンにシラン化合物を十分にグラフト共重合させると共に、グラフト共重合させるときの架橋反応を抑制することができる。
【0048】
(d)本実施形態によれば、揮発性が高く、刺激臭を有するビニルシランの代わりにメタクリルシランを用いることで、作業環境性を向上させることができると共に、グラフト工程を安定して行うことができる。また、メタクリルシランはビニルシランと比較して沸点・引火点が高いため、グラフト工程などの製造工程において火災の発生を抑制することができる。
【0049】
(e)本実施形態によれば、ケーブルのシースは、シラングラフト塩素化ポリエチレンが架橋されて、ゲル分率が60%以上であるシラン架橋塩素化ポリエチレンで形成されている。そのため、ケーブルは高い機械的強度を有している。
【0050】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0051】
上述の実施形態では、シラングラフト塩素化ポリエチレンをケーブル1の外被層12(シース12)に用いる場合について説明したが、これに限定されない。シラングラフト塩素化ポリエチレンを、例えば、図2に示すような絶縁電線2の絶縁層11に用いることもできる。この場合、上述の実施形態でシース12を形成するときと同様に、導体10の外周にシラングラフト塩素化ポリエチレンを押し出して絶縁層11を形成し、絶縁層11を水と接触させてシラン架橋させるとよい。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0053】
実施例および比較例で用いた材料は次の通りである。
【0054】
・塩素化ポリエチレン(121℃でのムーニー粘度(ML1+4):55、融解熱量:1.0J/g未満):杭州科利化工株式会社製「CM352L」
・ハイドロタルサイト:協和化学工業株式会社製「マグセラー1」
・エポキシ化大豆油:日本油脂株式会社製「ニューサイザー510R」
・ポリエチレンワックス(PEワックス、分子量:2800):三井化学株式会社製「ハイワックスNL−200」
・過酸化物(ジクミルパーオキサイド):日本油脂株式会社製「DCP」
・シラン化合物(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン):信越化学工業株式会社製「KBM−503」
・シラン化合物(3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン):信越化学工業株式会社製「KBE−503」
・可塑剤(ナフテン系プロセスオイル):出光興産株式会社製「NP−24」
・硫黄系酸化防止剤(4,4´−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)):大内新興化学工業株式会社製「ノクラック300R」
・アミン系酸化防止剤(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合物):大内新興化学工業株式会社製「ノクラック224」
・難燃剤(三酸化アンチモン):住友金属鉱山株式会社製「三酸化アンチモン」
・カーボン(FEFカーボンブラック):旭カーボン株式会社製「旭カーボン60G」
・滑剤(エチレンビスオレイン酸アミド):日本化成株式会社製「スリパックス−O」
・シラノール縮合触媒(ジオクチル錫ジネオデカノエート):日東化成株式会社製「ネオスタンU−830」
【0055】
(1)塩素化ポリエチレン組成物の調製
(実施例1)
本実施例では、過酸化物の添加工程、グラフト工程および充填剤の添加工程を順に行って、シラングラフト塩素化ポリエチレンを含有する塩素化ポリエチレン組成物を調製した。
【0056】
[過酸化物の添加工程]
まず、8インチロール機を用いて、粉末状の塩素化ポリエチレン100質量部に対して、安定剤としてのハイドロタルサイトを6質量部と、安定剤としてのエポキシ化大豆油を2質量部と、滑剤としてのポリエチレンワックスを3質量部と、を添加して混練し、コンパウンドAを調製した。このコンパウンドAに、過酸化物としてのジクミルパーオキサイドを、塩素化ポリエチレン100質量部に対して0.1質量部となるように添加して混練した。その後、混練して得られた混合物からなるシートを5mm角の形状にペレタイズし、ペレットを得た。そして、このペレット同士の粘着を防止するため、ペレットにタルクをまぶした。なお、過酸化物を混練するとき、過酸化物を塩素化ポリエチレン中に十分に分散させるとともに過酸化物が熱分解しないような条件で行った。具体的には、ロールの表面温度を100℃とし、過酸化物を添加してから5分間混練した。
【0057】
[グラフト工程]
続いて、図3に示す単軸押出機100を用いて、添加工程で得られたペレットにシラン化合物を含浸させ、グラフト工程を行った。具体的には、添加工程で得られたペレットに、シラン化合物としての3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを、塩素化ポリエチレン100質量部に対して3.35質量部となるように含浸させた。シラン化合物を含浸させたペレットを、単軸押出機100のホッパー101からシリンダ103a内に投入し、スクリュ102の回転によりシリンダ103aからシリンダ103bに送出した。このとき、ペレットをシリンダ103a,103bで加熱して軟化混練することにより、塩素化ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させた。これにより、シラングラフト塩素化ポリエチレンを形成した。その後、シラングラフト塩素化ポリエチレンを押出機100のヘッド部104に送出し、ダイス105からシラングラフト塩素化ポリエチレンのストランド20(長さ150cm)を押し出した。そして、ストランド20を水槽106に導入して水冷し、エアワイパ107で水切りした。その後、ペレタイザ108でストランド20をペレタイズし、シラングラフト塩素化ポリエチレンを含有するペレット21を得た。
なお、グラフト工程では、40mm単軸の単軸押出機100を用いた。また、スクリュ直径Dとスクリュ長さLとの比率L/Dを25とした。また、シリンダ103aの温度を80℃、シリンダ103bの温度を200℃、ヘッド部104の温度を200℃とした。また、スクリュ102の回転数を20rpm、スクリュ102をフルフライト形状とした。また、ダイス105として、穴径直径5mm、穴数3つのダイスを用いた。
【0058】
[充填剤の添加工程]
続いて、グラフト工程で得られたペレット21に、各種充填剤を添加し、8インチロール機を用いて混練した。具体的には、塩素化ポリエチレン100質量部に対して、可塑剤としてのナフテン系プロセスオイルが10質量部、硫黄系酸化防止剤が0.08質量部、アミン系酸化防止剤が1.5質量部、難燃剤としての三酸化アンチモンが3質量部、カーボンブラックとしてのFEFカーボンブラックが40質量部、滑剤としてのエチレンビスオレイン酸アミドが1質量部、となるように各種添加剤を添加した。混練後、混練物からなるシートを5mm角の形状にペレタイズし、コンパウンドBのペレットを得た。なお、混練の際、ロールの表面温度を100℃とし、全ての充填剤を添加してから5分間混練した。
【0059】
また、コンパウンドBのペレットとは別に、シラノール縮合触媒を含むシラノール縮合触媒マスターバッチを調製した。具体的には、コンパウンドA111質量部に対して、シラノール縮合触媒としてのジオクチル錫ジネオデカノエートを1質量部添加し、8インチロール機を用いて混練した。このとき、ロールの表面温度を100℃とし、シラノール縮合触媒を添加してから3分間混練した。その後、混練物からなるシートを5mm角の形状にペレタイズし、シラノール縮合触媒マスターバッチを調製した。
【0060】
最後に、コンパウンドBのペレットにシラノール縮合触媒マスターバッチを、コンパウンドBの塩素化ポリエチレン100質量部に対して2.5質量部となるように添加し、ドライブレンドすることによって、実施例1の塩素化ポリエチレン組成物を調製した。
【0061】
実施例1の調製条件を以下の表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
(実施例2)
実施例2では、表1に示すように、シラン化合物の種類を3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランに変更し、その添加量を塩素化ポリエチレン100質量部に対して3.92質量部とした以外は、実施例1と同様に塩素化ポリエチレン組成物を調製した。
【0064】
(実施例3,4)
実施例3,4では、表1に示すように、過酸化物の添加量を増加させて、シラン化合物と過酸化物から発生するラジカルとの比率(x/2αy)を変更した以外は、実施例1と同様に塩素化ポリエチレン組成物を調製した。実施例3では、過酸化物の添加量を0.5質量部とし、比率を3.7とした。実施例4では、過酸化物の添加量を1.0質量部とし、比率を1.8とした。
【0065】
(比較例1)
比較例1では、表1に示すように、コンパウンドAのペレットに過酸化物とシラン化合物とを同時に含浸させた以外は、実施例1と同様に塩素化ポリエチレン組成物を調製した。
【0066】
(比較例2〜4)
比較例2〜4では、表1に示すように、過酸化物の含有量を変更した以外は、実施例1と同様に、塩素化ポリエチレン組成物を調製した。過酸化物の含有量を、比較例2では0.02質量部、比較例3では0.08質量部、比較例4では1.5質量部とした。
【0067】
(2)ケーブルの作製
次に、図4に示す単軸押出機100により、調製した塩素化ポリエチレン組成物を押し出すことでケーブル1を作製した。具体的には、単軸押出機100のダイス105に、導体10として断面積が8mmの銅導体を挿通させて、その外周にエチレンプロピレンゴム(EPゴム)を押し出して厚さ1.0mmの絶縁層11を形成すると共に、絶縁層11の外周に上述の塩素化ポリエチレン組成物を押し出して厚さ1.7mmのシース12を形成することで、ケーブル1を作製した。その後、ケーブル1を、60℃の飽和水蒸気の雰囲気であるステンレス製密閉容器中に24時間保管し、シース12を架橋させた。
なお、ケーブル1の作製では、20mm単軸の単軸押出機100を用いた。また、スクリュ直径Dとスクリュ長さLとの比率L/Dを15とした。また、シリンダ103aの温度を120℃、シリンダ103bの温度を150℃、クロスヘッド部110の温度を150℃、ネック109の温度を150℃、ダイス105の温度を150℃とした。また、スクリュ102の回転数を15rpm、スクリュ102の形状をフルフライト形状とした。
【0068】
(3)評価方法
塩素化ポリエチレン組成物についてグラフト工程後のゲル分率および架橋処理後のゲル分率を評価した。また、ケーブル1について外観を評価した。以下、具体的に説明する。
【0069】
(ゲル分率)
本実施例では、グラフト工程後のゲル分率を評価するため、試料として、シラングラフト塩素化ポリエチレンのストランド20を用いた。このストランド20から試料0.5gを採取し、この試料を40メッシュの真鍮製金網に入れた。続いて、試料を110℃のオイルバス中でキシレンにより抽出処理した。抽出処理後、残存した試料をキシレンから取り出して80℃で4時間真空乾燥した。そして、残存した試料の乾燥後の質量を秤量し、キシレン抽出前の試料の質量aとキシレン抽出後の残存した試料の質量bとから、下記式により試料のゲル分率Rを算出した。
R(%)=b/a×100
【0070】
また、架橋処理後のゲル分率を評価するため、ケーブル1のシース12から試料0.5gを採取し、上記と同様にゲル分率を算出した。本実施例では、架橋処理後のゲル分率が60%以上である場合を合格(○)とし、ゲル分率が60%未満である場合を不合格(×)とした。
【0071】
(外観)
外観の評価は、ケーブル1のシース12の外観を目視、手触りにより評価し、十分に平滑である場合を合格(○)とし、シース12にざらつきやツブ(局所的な突起)などにより外観が不良である場合を不合格(×)とした。
【0072】
(総合評価)
本実施例では、ゲル分率および外観の両方の評価で合格した場合を合格(○)とし、いずれか1つでも不合格となった場合を不合格(×)とした。
【0073】
(4)評価結果
実施例1では、表1に示すように、グラフト工程後のストランドのゲル分率が2%であり、グラフト工程において意図しない架橋反応が過度に進行していないことが確認された。また、実施例1のシース12では、架橋させた後のゲル分率が67%と高く、十分な架橋度を有することが確認された。また、シース12の外観は、平滑であり、良好であることが確認された。なお、実施例1では、ビニルシランと比較して揮発性が少なく、刺激臭の少ないメタクリルシランを用いたため、塩素化ポリエチレン組成物を調製する際に、作業環境性が低下するといった問題は確認されなかった。
【0074】
実施例2では、表1に示すように、メタクリルシランの種類を変更しても、実施例1と同様に、ゲル分率および外観の評価が良好であることが確認された。
【0075】
実施例3,4では、表1に示すように、過酸化物の添加量を増加させて比率(x/2αy)を小さくするほど、架橋させた後のゲル分率を向上できることが確認された。なお、実施例3,4では、比率(x/2αy)を小さくしてラジカルの比率を多くしたため、グラフト工程後のゲル分率が実施例1と比較して高くなることが確認された。
【0076】
比較例1では、メタクリルシランを過酸化物と同時に添加したため、架橋させた後のゲル分率が58%となったことが確認された。これは、メタクリルシランを過酸化物と同時に添加したため、過酸化物から発生したラジカルがメタクリルシランによって消費されてしまい、メタクリルシランを効率的にグラフト共重合できなかったためと考えられる。
【0077】
比較例2,3では、メタクリルシランに対して過酸化物の添加量が少なすぎるため、架橋させた後のゲル分率がそれぞれ30%、34%であり、十分な架橋度を得られないことが確認された。なお、比較例2,3では、過酸化物の添加量が少ないため、グラフト工程後のゲル分率が0%であり、グラフト工程において意図しない架橋反応が進行していないことが確認された。
【0078】
比較例4では、メタクリルシランに対して過酸化物の添加量が多すぎるため、グラフト工程時において架橋反応が進行してしまい、グラフト工程後のゲル分率が71%と高いことが確認された。また、グラフト工程後のゲル分率が71%と高いため、シラングラフト塩素化ポリエチレンを押し出してストランドを形成した際に、吐出量が不安定となり、ストランドの切断が頻発することが確認された。また、この塩素化ポリエチレン組成物で形成されたシースの表面には、ざらつきと、局所的な過度な架橋反応によって生じたと考えられるツブ(突起)とが確認された。なお、比較例4では、架橋させた後のゲル分率が89%であり、高い架橋度であることが確認された。
【0079】
なお、本実施例では、HC=C(CH)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物を用いる場合について説明したが、HC=CH−CO−で示されるアクリル基を有するシラン化合物であっても、同様の効果を得られるものと考えられる。
【0080】
<本発明の好ましい態様>
以下に、本発明の好ましい態様について付記する。
【0081】
[付記1]
本発明の一態様によれば、
C=C(CH)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物が過酸化物により塩素化ポリエチレンにグラフト共重合されており、
前記シラン化合物のモル数をx、前記過酸化物のモル数をy、前記過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下であり、
架橋させた後のゲル分率が60%以上である、シラングラフト塩素化ポリエチレンが提供される。
【0082】
[付記2]
付記1のシラングラフト塩素化ポリエチレンにおいて、好ましくは、
前記シラン化合物が、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたは3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランである。
【0083】
[付記3]
本発明の他の態様によれば、
塩素化ポリエチレンに過酸化物を添加する添加工程と、
前記塩素化ポリエチレンに、HC=C(CH)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物を添加することで、前記塩素化ポリエチレンに前記シラン化合物をグラフト共重合させるグラフト工程と、を有し、
前記グラフト工程では、前記シラン化合物のモル数をx、前記過酸化物のモル数をy、前記過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下となるように前記シラン化合物を添加しており、
前記添加工程を行った後に前記グラフト工程を行う、シラングラフト塩素化ポリエチレンの製造方法が提供される。
【0084】
[付記4]
本発明の他の態様によれば、
導体と、
前記導体の外周を囲うように設けられ、HC=C(CH)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物が過酸化物により塩素化ポリエチレンにグラフト共重合されており、前記シラン化合物のモル数をx、前記過酸化物のモル数をy、前記過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下であるシラングラフト塩素化ポリエチレンで形成され、ゲル分率が60%以上である絶縁層と、を備える絶縁電線が提供される。
【0085】
[付記5]
本発明の他の態様によれば、
導体と、
前記導体の外周を囲うように設けられる絶縁層と、
前記絶縁層の外周を囲うように設けられ、HC=C(CH)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物が過酸化物により塩素化ポリエチレンにグラフト共重合されており、前記シラン化合物のモル数をx、前記過酸化物のモル数をy、前記過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下であるシラングラフト塩素化ポリエチレンで形成され、ゲル分率が60%以上である外被層と、を備えるケーブルが提供される。
【符号の説明】
【0086】
1 ケーブル
2 絶縁電線
10 導体
11 絶縁層
12 外被層(シース)
図1
図2
図3
図4