【実施例】
【0052】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0053】
実施例および比較例で用いた材料は次の通りである。
【0054】
・塩素化ポリエチレン(121℃でのムーニー粘度(ML1+4):55、融解熱量:1.0J/g未満):杭州科利化工株式会社製「CM352L」
・ハイドロタルサイト:協和化学工業株式会社製「マグセラー1」
・エポキシ化大豆油:日本油脂株式会社製「ニューサイザー510R」
・ポリエチレンワックス(PEワックス、分子量:2800):三井化学株式会社製「ハイワックスNL−200」
・過酸化物(ジクミルパーオキサイド):日本油脂株式会社製「DCP」
・シラン化合物(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン):信越化学工業株式会社製「KBM−503」
・シラン化合物(3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン):信越化学工業株式会社製「KBE−503」
・可塑剤(ナフテン系プロセスオイル):出光興産株式会社製「NP−24」
・硫黄系酸化防止剤(4,4´−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)):大内新興化学工業株式会社製「ノクラック300R」
・アミン系酸化防止剤(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合物):大内新興化学工業株式会社製「ノクラック224」
・難燃剤(三酸化アンチモン):住友金属鉱山株式会社製「三酸化アンチモン」
・カーボン(FEFカーボンブラック):旭カーボン株式会社製「旭カーボン60G」
・滑剤(エチレンビスオレイン酸アミド):日本化成株式会社製「スリパックス−O」
・シラノール縮合触媒(ジオクチル錫ジネオデカノエート):日東化成株式会社製「ネオスタンU−830」
【0055】
(1)塩素化ポリエチレン組成物の調製
(実施例1)
本実施例では、過酸化物の添加工程、グラフト工程および充填剤の添加工程を順に行って、シラングラフト塩素化ポリエチレンを含有する塩素化ポリエチレン組成物を調製した。
【0056】
[過酸化物の添加工程]
まず、8インチロール機を用いて、粉末状の塩素化ポリエチレン100質量部に対して、安定剤としてのハイドロタルサイトを6質量部と、安定剤としてのエポキシ化大豆油を2質量部と、滑剤としてのポリエチレンワックスを3質量部と、を添加して混練し、コンパウンドAを調製した。このコンパウンドAに、過酸化物としてのジクミルパーオキサイドを、塩素化ポリエチレン100質量部に対して0.1質量部となるように添加して混練した。その後、混練して得られた混合物からなるシートを5mm角の形状にペレタイズし、ペレットを得た。そして、このペレット同士の粘着を防止するため、ペレットにタルクをまぶした。なお、過酸化物を混練するとき、過酸化物を塩素化ポリエチレン中に十分に分散させるとともに過酸化物が熱分解しないような条件で行った。具体的には、ロールの表面温度を100℃とし、過酸化物を添加してから5分間混練した。
【0057】
[グラフト工程]
続いて、
図3に示す単軸押出機100を用いて、添加工程で得られたペレットにシラン化合物を含浸させ、グラフト工程を行った。具体的には、添加工程で得られたペレットに、シラン化合物としての3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを、塩素化ポリエチレン100質量部に対して3.35質量部となるように含浸させた。シラン化合物を含浸させたペレットを、単軸押出機100のホッパー101からシリンダ103a内に投入し、スクリュ102の回転によりシリンダ103aからシリンダ103bに送出した。このとき、ペレットをシリンダ103a,103bで加熱して軟化混練することにより、塩素化ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させた。これにより、シラングラフト塩素化ポリエチレンを形成した。その後、シラングラフト塩素化ポリエチレンを押出機100のヘッド部104に送出し、ダイス105からシラングラフト塩素化ポリエチレンのストランド20(長さ150cm)を押し出した。そして、ストランド20を水槽106に導入して水冷し、エアワイパ107で水切りした。その後、ペレタイザ108でストランド20をペレタイズし、シラングラフト塩素化ポリエチレンを含有するペレット21を得た。
なお、グラフト工程では、40mm単軸の単軸押出機100を用いた。また、スクリュ直径Dとスクリュ長さLとの比率L/Dを25とした。また、シリンダ103aの温度を80℃、シリンダ103bの温度を200℃、ヘッド部104の温度を200℃とした。また、スクリュ102の回転数を20rpm、スクリュ102をフルフライト形状とした。また、ダイス105として、穴径直径5mm、穴数3つのダイスを用いた。
【0058】
[充填剤の添加工程]
続いて、グラフト工程で得られたペレット21に、各種充填剤を添加し、8インチロール機を用いて混練した。具体的には、塩素化ポリエチレン100質量部に対して、可塑剤としてのナフテン系プロセスオイルが10質量部、硫黄系酸化防止剤が0.08質量部、アミン系酸化防止剤が1.5質量部、難燃剤としての三酸化アンチモンが3質量部、カーボンブラックとしてのFEFカーボンブラックが40質量部、滑剤としてのエチレンビスオレイン酸アミドが1質量部、となるように各種添加剤を添加した。混練後、混練物からなるシートを5mm角の形状にペレタイズし、コンパウンドBのペレットを得た。なお、混練の際、ロールの表面温度を100℃とし、全ての充填剤を添加してから5分間混練した。
【0059】
また、コンパウンドBのペレットとは別に、シラノール縮合触媒を含むシラノール縮合触媒マスターバッチを調製した。具体的には、コンパウンドA111質量部に対して、シラノール縮合触媒としてのジオクチル錫ジネオデカノエートを1質量部添加し、8インチロール機を用いて混練した。このとき、ロールの表面温度を100℃とし、シラノール縮合触媒を添加してから3分間混練した。その後、混練物からなるシートを5mm角の形状にペレタイズし、シラノール縮合触媒マスターバッチを調製した。
【0060】
最後に、コンパウンドBのペレットにシラノール縮合触媒マスターバッチを、コンパウンドBの塩素化ポリエチレン100質量部に対して2.5質量部となるように添加し、ドライブレンドすることによって、実施例1の塩素化ポリエチレン組成物を調製した。
【0061】
実施例1の調製条件を以下の表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
(実施例2)
実施例2では、表1に示すように、シラン化合物の種類を3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランに変更し、その添加量を塩素化ポリエチレン100質量部に対して3.92質量部とした以外は、実施例1と同様に塩素化ポリエチレン組成物を調製した。
【0064】
(実施例3,4)
実施例3,4では、表1に示すように、過酸化物の添加量を増加させて、シラン化合物と過酸化物から発生するラジカルとの比率(x/2αy)を変更した以外は、実施例1と同様に塩素化ポリエチレン組成物を調製した。実施例3では、過酸化物の添加量を0.5質量部とし、比率を3.7とした。実施例4では、過酸化物の添加量を1.0質量部とし、比率を1.8とした。
【0065】
(比較例1)
比較例1では、表1に示すように、コンパウンドAのペレットに過酸化物とシラン化合物とを同時に含浸させた以外は、実施例1と同様に塩素化ポリエチレン組成物を調製した。
【0066】
(比較例2〜4)
比較例2〜4では、表1に示すように、過酸化物の含有量を変更した以外は、実施例1と同様に、塩素化ポリエチレン組成物を調製した。過酸化物の含有量を、比較例2では0.02質量部、比較例3では0.08質量部、比較例4では1.5質量部とした。
【0067】
(2)ケーブルの作製
次に、
図4に示す単軸押出機100により、調製した塩素化ポリエチレン組成物を押し出すことでケーブル1を作製した。具体的には、単軸押出機100のダイス105に、導体10として断面積が8mm
2の銅導体を挿通させて、その外周にエチレンプロピレンゴム(EPゴム)を押し出して厚さ1.0mmの絶縁層11を形成すると共に、絶縁層11の外周に上述の塩素化ポリエチレン組成物を押し出して厚さ1.7mmのシース12を形成することで、ケーブル1を作製した。その後、ケーブル1を、60℃の飽和水蒸気の雰囲気であるステンレス製密閉容器中に24時間保管し、シース12を架橋させた。
なお、ケーブル1の作製では、20mm単軸の単軸押出機100を用いた。また、スクリュ直径Dとスクリュ長さLとの比率L/Dを15とした。また、シリンダ103aの温度を120℃、シリンダ103bの温度を150℃、クロスヘッド部110の温度を150℃、ネック109の温度を150℃、ダイス105の温度を150℃とした。また、スクリュ102の回転数を15rpm、スクリュ102の形状をフルフライト形状とした。
【0068】
(3)評価方法
塩素化ポリエチレン組成物についてグラフト工程後のゲル分率および架橋処理後のゲル分率を評価した。また、ケーブル1について外観を評価した。以下、具体的に説明する。
【0069】
(ゲル分率)
本実施例では、グラフト工程後のゲル分率を評価するため、試料として、シラングラフト塩素化ポリエチレンのストランド20を用いた。このストランド20から試料0.5gを採取し、この試料を40メッシュの真鍮製金網に入れた。続いて、試料を110℃のオイルバス中でキシレンにより抽出処理した。抽出処理後、残存した試料をキシレンから取り出して80℃で4時間真空乾燥した。そして、残存した試料の乾燥後の質量を秤量し、キシレン抽出前の試料の質量aとキシレン抽出後の残存した試料の質量bとから、下記式により試料のゲル分率Rを算出した。
R(%)=b/a×100
【0070】
また、架橋処理後のゲル分率を評価するため、ケーブル1のシース12から試料0.5gを採取し、上記と同様にゲル分率を算出した。本実施例では、架橋処理後のゲル分率が60%以上である場合を合格(○)とし、ゲル分率が60%未満である場合を不合格(×)とした。
【0071】
(外観)
外観の評価は、ケーブル1のシース12の外観を目視、手触りにより評価し、十分に平滑である場合を合格(○)とし、シース12にざらつきやツブ(局所的な突起)などにより外観が不良である場合を不合格(×)とした。
【0072】
(総合評価)
本実施例では、ゲル分率および外観の両方の評価で合格した場合を合格(○)とし、いずれか1つでも不合格となった場合を不合格(×)とした。
【0073】
(4)評価結果
実施例1では、表1に示すように、グラフト工程後のストランドのゲル分率が2%であり、グラフト工程において意図しない架橋反応が過度に進行していないことが確認された。また、実施例1のシース12では、架橋させた後のゲル分率が67%と高く、十分な架橋度を有することが確認された。また、シース12の外観は、平滑であり、良好であることが確認された。なお、実施例1では、ビニルシランと比較して揮発性が少なく、刺激臭の少ないメタクリルシランを用いたため、塩素化ポリエチレン組成物を調製する際に、作業環境性が低下するといった問題は確認されなかった。
【0074】
実施例2では、表1に示すように、メタクリルシランの種類を変更しても、実施例1と同様に、ゲル分率および外観の評価が良好であることが確認された。
【0075】
実施例3,4では、表1に示すように、過酸化物の添加量を増加させて比率(x/2αy)を小さくするほど、架橋させた後のゲル分率を向上できることが確認された。なお、実施例3,4では、比率(x/2αy)を小さくしてラジカルの比率を多くしたため、グラフト工程後のゲル分率が実施例1と比較して高くなることが確認された。
【0076】
比較例1では、メタクリルシランを過酸化物と同時に添加したため、架橋させた後のゲル分率が58%となったことが確認された。これは、メタクリルシランを過酸化物と同時に添加したため、過酸化物から発生したラジカルがメタクリルシランによって消費されてしまい、メタクリルシランを効率的にグラフト共重合できなかったためと考えられる。
【0077】
比較例2,3では、メタクリルシランに対して過酸化物の添加量が少なすぎるため、架橋させた後のゲル分率がそれぞれ30%、34%であり、十分な架橋度を得られないことが確認された。なお、比較例2,3では、過酸化物の添加量が少ないため、グラフト工程後のゲル分率が0%であり、グラフト工程において意図しない架橋反応が進行していないことが確認された。
【0078】
比較例4では、メタクリルシランに対して過酸化物の添加量が多すぎるため、グラフト工程時において架橋反応が進行してしまい、グラフト工程後のゲル分率が71%と高いことが確認された。また、グラフト工程後のゲル分率が71%と高いため、シラングラフト塩素化ポリエチレンを押し出してストランドを形成した際に、吐出量が不安定となり、ストランドの切断が頻発することが確認された。また、この塩素化ポリエチレン組成物で形成されたシースの表面には、ざらつきと、局所的な過度な架橋反応によって生じたと考えられるツブ(突起)とが確認された。なお、比較例4では、架橋させた後のゲル分率が89%であり、高い架橋度であることが確認された。
【0079】
なお、本実施例では、H
2C=C(CH
3)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物を用いる場合について説明したが、H
2C=CH−CO−で示されるアクリル基を有するシラン化合物であっても、同様の効果を得られるものと考えられる。
【0080】
<本発明の好ましい態様>
以下に、本発明の好ましい態様について付記する。
【0081】
[付記1]
本発明の一態様によれば、
H
2C=C(CH
3)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物が過酸化物により塩素化ポリエチレンにグラフト共重合されており、
前記シラン化合物のモル数をx、前記過酸化物のモル数をy、前記過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下であり、
架橋させた後のゲル分率が60%以上である、シラングラフト塩素化ポリエチレンが提供される。
【0082】
[付記2]
付記1のシラングラフト塩素化ポリエチレンにおいて、好ましくは、
前記シラン化合物が、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたは3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランである。
【0083】
[付記3]
本発明の他の態様によれば、
塩素化ポリエチレンに過酸化物を添加する添加工程と、
前記塩素化ポリエチレンに、H
2C=C(CH
3)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物を添加することで、前記塩素化ポリエチレンに前記シラン化合物をグラフト共重合させるグラフト工程と、を有し、
前記グラフト工程では、前記シラン化合物のモル数をx、前記過酸化物のモル数をy、前記過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下となるように前記シラン化合物を添加しており、
前記添加工程を行った後に前記グラフト工程を行う、シラングラフト塩素化ポリエチレンの製造方法が提供される。
【0084】
[付記4]
本発明の他の態様によれば、
導体と、
前記導体の外周を囲うように設けられ、H
2C=C(CH
3)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物が過酸化物により塩素化ポリエチレンにグラフト共重合されており、前記シラン化合物のモル数をx、前記過酸化物のモル数をy、前記過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下であるシラングラフト塩素化ポリエチレンで形成され、ゲル分率が60%以上である絶縁層と、を備える絶縁電線が提供される。
【0085】
[付記5]
本発明の他の態様によれば、
導体と、
前記導体の外周を囲うように設けられる絶縁層と、
前記絶縁層の外周を囲うように設けられ、H
2C=C(CH
3)−CO−で示されるメタクリル基を有するシラン化合物が過酸化物により塩素化ポリエチレンにグラフト共重合されており、前記シラン化合物のモル数をx、前記過酸化物のモル数をy、前記過酸化物に含まれる酸素と酸素との結合の数をαとしたとき、x/2αyが1.5以上20.0以下であるシラングラフト塩素化ポリエチレンで形成され、ゲル分率が60%以上である外被層と、を備えるケーブルが提供される。