特許第6187579号(P6187579)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187579
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】半導体ウェーハの加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20170821BHJP
   B24B 7/17 20060101ALI20170821BHJP
   B24B 7/04 20060101ALI20170821BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20170821BHJP
   B24B 37/04 20120101ALI20170821BHJP
【FI】
   H01L21/304 631
   H01L21/304 611W
   H01L21/304 621A
   B24B7/17 Z
   B24B7/04 A
   B24B27/06 H
   B24B37/04
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-501387(P2015-501387)
(86)(22)【出願日】2014年2月4日
(86)【国際出願番号】JP2014052540
(87)【国際公開番号】WO2014129304
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2015年2月18日
(31)【優先権主張番号】特願2013-29719(P2013-29719)
(32)【優先日】2013年2月19日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】田中 利幸
(72)【発明者】
【氏名】橋本 靖行
(72)【発明者】
【氏名】橋井 友裕
【審査官】 儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−249652(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/018961(WO,A1)
【文献】 特開2009−272557(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/105255(WO,A1)
【文献】 特開平10−256203(JP,A)
【文献】 特開2011−103379(JP,A)
【文献】 特開2011−151099(JP,A)
【文献】 特開2009−148866(JP,A)
【文献】 特開2007−221030(JP,A)
【文献】 特開2006−269761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 7/04
B24B 7/17
B24B 27/06
B24B 37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体単結晶インゴットをワイヤーソー装置を用いてスライスして薄円板状の直径300mmのウェーハを得るスライス工程と、
前記スライス工程後の前記ウェーハの両面を同時に平坦化加工して前記ウェーハの表面高さを周波数解析した場合に、10〜100mmの波長域におけるうねりの振幅を0.6μm以下の範囲にする両面平坦化加工工程と、
前記両面平坦化加工工程後の前記ウェーハの一方の面全体に硬化性材料を塗布して平坦な塗布層を形成する塗布層形成工程と、
前記平坦化したウェーハの一方の面が研削装置のテーブルの基準面に当接するように前記ウェーハを前記テーブルに載置し続いて前記研削装置により前記ウェーハの他方の面を平面研削する第1の平面研削工程と、
前記第1の平面研削工程後の前記塗布層を前記ウェーハの一方の面から除去する塗布層除去工程と、
前記塗布層が除去された前記ウェーハの他方の面が前記研削装置のテーブルの基準面に当接するように前記ウェーハを前記テーブルに載置し続いて前記研削装置により前記ウェーハの一方の面を平面研削する第2の平面研削工程とを含み、
前記ワイヤーソー装置が固定砥粒ワイヤーを用いたスライス方式であることを特徴とする半導体ウェーハの加工方法。
【請求項2】
前記両面平坦化加工工程が両面ラッピング処理或いは両頭研削処理であることを特徴とする請求項1記載の半導体ウェーハの加工方法。
【請求項3】
前記塗布層形成工程における前記ウェーハ表面に塗布する塗布層の厚みが10〜40μmであることを特徴とする請求項1記載の半導体ウェーハの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハの加工方法、特に、半導体ウェーハの表面を平坦化する加工方法に関するものである。なお、本国際出願は、2013年2月19日に出願した日本国特許出願第029719号(特願2013−029719)に基づく優先権を主張するものであり、特願2013−029719の全内容を本国際出願に援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウェーハは、微細なパターンを写真製版により作成するために、ウェーハの表面の平坦化が求められていた。特に「ナノトポグラフィー」と呼ばれる表面うねりは、波長λ=0.2〜20mmの成分をもち、PV値(Peak to Valley値)が0.1〜0.2μm以下のうねりであり、最近、このナノトポグラフィーを低減することで半導体ウェーハの平坦度を向上させるための技術が提案されている。このようなウェーハの平坦化加工方法として、インゴットからスライスされたウェーハの一の面をチャックテーブルの水平保持面上に吸引保持し、ウェーハの二の面を研削した後、ウェーハの二の面を前記水平保持面上に吸引保持し、ウェーハの一の面を研削する一次研削工程と、一次研削工程に続いてウェーハの二の面全面を樹脂で覆う樹脂塗布工程と、この樹脂塗布工程に続いてウェーハの二の面を基準面として、前記水平保持面上に吸引保持し、ウェーハの一の面を研削し、樹脂を取り除いた後にウェーハの一の面を基準面としてウェーハの二の面を研削する工程とを含む加工方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−249652号公報(請求項1、段落[0008]、[0028]、図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示された一次研削工程では、スライス時の歪み成分を除去するためにウェーハを保持面上に吸引保持することにより、スライス工程で生じた大きなうねりを強制的に矯正した平坦な基準面を作りこんだ状態で非吸着面側のウェーハ表面の研削が行われる。このため、ウェーハが弾性変形した状態で研削が行われ、研削後、吸引保持を解放すると、研削処理が施されていない吸着面側のウェーハ表面のうねりが吸着保持前の状態に戻ってしまい、このうねりが研削によって平坦化された非吸着面側のウェーハ表面に転写されてしまい、結果的にうねりの大半がウェーハ表面に残留することになる。
これまで、ウェーハ表面にうねりが残留していても、その後、樹脂塗布工程でウェーハ表面に塗布した樹脂により平坦な基準面が造り込まれた状態でうねりを除去するように研削処理が行われるため、樹脂塗布工程前のウェーハの表面状態については問題視されていなかった。ところが、本発明者らの実験によれば、特許文献1で記載されるような樹脂塗布処理と研削処理を組み合わせた処理(樹脂貼り研削)を行っても、樹脂塗布工程前のウェーハ表面のうねりが大きい場合には、鏡面研磨処理後のウェーハ表面のナノトポグラフィー品質は十分ではないことを知見した。
【0005】
また、スライス工程において、ワイヤソーにより単結晶インゴットをスライスする場合、一般的には、往復走行中のワイヤー列に遊離砥粒を含むスラリー(加工液)を供給しながら半導体インゴットが多数枚の半導体ウェーハに切断加工されるが、外周面に砥粒が固定された固定砥粒ワイヤーを使用すれば、遊離砥粒を使用する場合に比べて、単結晶インゴットを高速で切断することが可能となる。しかしながら、固定砥粒ワイヤーを用いた場合、加工ダメージが大きく、切断後のウェーハ表面に発生するうねりも非常に大きくなるため、よりナノトポグラフィーが悪化する問題があることを知見した。
【0006】
本発明の目的は、一次研削工程でうねりの軽減されたウェーハを二次研削工程で平面研削することで、ナノトポグラフィー特性に優れる(値が小さい)半導体ウェーハを製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、軟質材をコーティングして平面研削する前のウェーハの表面状態(うねりの大きさ)によって、最終的に得られる半導体ウェーハのナノトポグラフィー品質が大きく変化することを知見し、本発明を完成させたものである。具体的には、スライス直後にラッピングや両頭研削などの基準面を持たない両面同時平坦化加工を行い、あらかじめ特定の波長域(10〜100mm)におけるうねり成分を緩和した後に軟質材コーティングして平面研削することで、スライスうねりパターンを除去してウェーハのナノトポグラフィーの品質レベルを改善することにある。
【0008】
本発明の第1の観点は、半導体単結晶インゴットをワイヤーソー装置を用いてスライスして薄円板状の直径300mmのウェーハを得るスライス工程と、スライス工程後のウェーハの両面を同時に平坦化加工して前記ウェーハの表面高さを周波数解析した場合に、10〜100mmの波長域におけるうねりの振幅を0.6μm以下の範囲にする両面平坦化加工工程と、両面平坦化加工工程後のウェーハの一方の面全体に硬化性材料を塗布して平坦な塗布層を形成する塗布層形成工程と、平坦化したウェーハの一方の面が研削装置のテーブルの基準面に当接するようにウェーハをテーブルに載置し続いて研削装置によりウェーハの他方の面を平面研削する第1の平面研削工程と、第1の平面研削工程後の塗布層をウェーハの一方の面から除去する塗布層除去工程と、塗布層が除去されたウェーハの他方の面が研削装置のテーブルの基準面に当接するようにウェーハをテーブルに載置し続いて研削装置によりウェーハの一方の面を平面研削する第2の平面研削工程と設け、ワイヤーソー装置が固定砥粒ワイヤーを用いたスライス方式であることにある。
【0010】
本発明の第の観点は、第1の観点に基づく発明であって、両面平坦化加工工程に両面ラッピング処理或いは両頭研削処理を採用したことにある。
【0011】
本発明の第の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記塗布層形成工程における前記ウェーハ表面に塗布する塗布層の厚みを10〜40μmとすることである。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる半導体ウェーハの加工方法によれば、固定砥粒ワイヤーを用いたスライス方式でスライスした後の直径300mmのウェーハの両面を同時に平坦化加工して前記ウェーハの表面高さを周波数解析した場合に、10〜100mmの波長域におけるうねりの振幅を0.6μm以下の範囲にすることで、ナノトポグラフィー品質に影響を与える波長領域のうねりを可及的に低減することができ、ナノトポグラフィー品質に優れる半導体ウェーハの提供を行うことができる。
【0017】
特に、固定砥粒方式のワイヤーソー装置を用いて切断されたうねりの大きなウェーハを用いる場合であっても、うねりを可及的に低減することができ、ナノトポグラフィー品質に優れる半導体ウェーハの提供を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るウェーハ加工方法の概略工程を説明するための図である。
図2】本発明の実施形態に係るスライス後のウェーハから平面研削後のウェーハまでの間の、ウェーハの状態と各工程で使用される装置の一例を示す模式図である。
図3】本発明の実施例に係る各工程でのウェーハの状態を示す模式図である。
図4】比較例1に係る各工程でのウェーハの状態を示す模式図である。
図5】実施例及び比較例1、2の鏡面研磨後のナノトポグラフィーである。
図6】実施例及び比較例1、2の鏡面研磨後のナノトポグラフィーを示した図である。
図7】実施例及び比較例1、2の鏡面研磨前の周波数解析結果を示した図である。
図8】実施例及び比較例1、2の鏡面研磨後の周波数解析結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
本発明は、図1(a)〜(f)に示すように、半導体単結晶インゴットをワイヤーソー装置を用いてスライスして薄円板状のウェーハを得るスライス工程と、スライス工程後のウェーハの両面を同時に平坦化加工する両面平坦化加工工程と、両面平坦化加工工程後のウェーハの一方の面全体に硬化性材料を塗布して平坦な塗布層を形成する塗布層形成工程と、平坦化したウェーハの一方の面が研削装置のテーブルの基準面に当接するようにウェーハをテーブルに載置し続いて研削装置によりウェーハの他方の面を平面研削する第1の平面研削工程と、平面研削工程後の塗布層をウェーハの一方の面から除去する塗布層除去工程と、塗布層が除去されたウェーハの他方の面が研削装置のテーブルの基準面に当接するようにウェーハをテーブルに載置し続いて研削装置によりウェーハの一方の面を平面研削する第2の平面研削工程により半導体ウェーハを加工する半導体ウェーハの表面を平坦化する加工方法の改良である。なお、半導体ウェーハの外縁上を面取りする工程は特に示していないが、面取りする工程は図1(a)の後から、(f)の後までの間どこの工程の間で行ってもよい。
【0021】
本発明の特徴ある構成は、図1(a)〜(c)に示すように、塗布層形成工程前に、スライス工程後のウェーハの両表面を同時に平坦化加工する両面平坦化加工工程を設けたことにある。塗布層形成工程前に、基準面を持たない両面同時平坦化加工を施すことにより、ウェーハ両表面の凸部分が同時に除去され、100mm以下の波長域のうねり成分が可及的に軽減される。これにより、ウェーハ表面のナノトポグラフィー特性を向上させるこ
させることができ、塗布層形成工程におけるウェーハ表面に塗布する塗布層の厚みも軽減することができる。
【0022】
本発明の実施の形態を図2を参照して詳しく説明する。図2(a)にスライス直後のウェーハ200の状態を示す。スライスには、図示しない公知のマルチワイヤーソー装置が用いられ、インゴットから一度に複数枚のウェーハ200を製造することができる。マルチワイヤーソー装置は、ワイヤーをガイドする溝が複数設けられたガイドローラとワイヤーを回転させるためのローラにまたがり、極細鋼線のワイヤーが複数巻き付けてある。ローラを高速回転させて、ガイドローラとローラーの間に露出した複数のワイヤーに被切断物を押しあてて被切断物を複数枚に切断する装置である。ワイヤーソー装置には、切断するための砥粒の使い方によって固定砥粒方式と遊離砥粒方式とがある。固定砥粒方式は、ダイヤモンド砥粒などを蒸着などにより付着させた鋼線をワイヤーに使用する。遊離砥粒方式は、ワイヤーに砥粒と油剤を混ぜたスラリーをかけながら使用する。固定砥粒方式は、砥粒を固着させたワイヤー自体が被切断物を切断するため、切断時間が短く生産性にすぐれる。また、スラリーを使用しないために切断後の切り屑の混じったスラリーを廃棄する必要がないため、環境にも優しく経済的である。本発明には、どちらの方式を使用しても可能であるが、環境面、経済面で有利な固定砥粒方式が望ましい。なお、固定砥粒ワイヤーソーを用いた場合、ウェーハ表面に与える加工ダメージが大きく、切断後のウェーハ表面に発生するうねりも大きくなるため、よりナノトポグラフィーが悪化する問題があるが、本発明の加工方法を用いることにより、ナノトポグラフィー特性に優れる(値が小さい)半導体ウェーハを製造することができる。
【0023】
図2(a)に固定砥粒ワイヤーソーで切断したスライス直後のウェーハ200の状態を示す。スライスしたウェーハ200には、ワイヤーソー切断加工により加工歪(加工ダメージ層)201、周期的に波打つような凹凸のうねり202、反り203が発生している。便宜上、ウェーハ200の反り203の凸面側である、図2(a)の上面を第一面204、ウェーハ200の反り203の凹面側である、図2(a)の下面を第二面205とする。
【0024】
図2(b)は、両面平坦化加工のラッピングに使用するラッピング装置210の一例を示した図である。加工キャリア211にセットされたウェーハ200は、ラッピング装置210の2つの定盤に挟まれ、上定盤212と下定盤213の間に砥粒を含んだスラリー214を供給し上下定盤で加圧しながら上定盤212の上部及び下定盤213の下部に設置されたスピンドル215、216をそれぞれ逆方向に回転することで、スラリー214に含まれた砥粒により第一面204および第二面205が同時に平坦化加工される。
【0025】
ラッピング後、ウェーハ200は定盤から外され、加工キャリア211から外される。
【0026】
ラッピング工程(両面平坦化工程)を経たウェーハ200は、その後、平面研削工程(第1の平面研削および第2の平面研削)によりウェーハ200の両面は再度平坦化されるため、ラッピング工程におけるウェーハ200に対する加工量(取り代量)は、スライス工程で発生したウェーハ200の加工歪201を全て除去するまでの平坦化加工を施す必要はなく、後述する実施例から明らかなように、ラッピング後のウェーハ200の表面高さを周波数解析した場合に、100mm以下の波長域におけるうねりの振幅が1.0μm以下となるようにラッピング処理を施せばよい。
【0027】
なお、両面同時平坦化加工は上述したラッピング処理に限定されない。特に図示していないが、ウェーハ200を加工キャリア211に装着し、そのウェーハ200の上下に設置された平面研削する砥石でウェーハ200の両表面を同時に研削する公知の両頭研削処理、ラッピング装置210の上下の定盤に固定砥粒を含ませたパッドを装着し、スラリー214を用い、又は用いずに固定砥粒によりウェーハ200の両表面を同時に研削する公知の固定砥粒ラッピング処理を用いてもよい。
【0028】
図2(c)に塗布層形成工程に使用する保持・押圧装置220の一例を示す。まず、保持・押圧装置220の高平坦化された平板222上に塗布層となる硬化性材料221を滴下する。一方、ウェーハ200は、ウェーハ200の第一面204を保持手段223の押圧台224に吸引保持され、押圧台224を下方に移動させてウェーハ200の第二面205を硬化性材料221に押圧する。その後、押圧台224の圧力を解除して、ウェーハ200に残留している反り203やうねり202に弾性変形を与えていない状態で、ウェーハ200の第二面205に硬化性材料221を硬化させる。この工程により、平板222と接触する硬化性材料221の面は高平坦化された面となり、ウェーハ200の第一面205を研削するときの基準面225とすることができる。
【0029】
ウェーハ200に硬化性材料221を塗布する方法は、ウェーハ200の第二面205を上面として第二面205上に硬化性材料221を滴下させウェーハ200を回転し硬化性材料221を第二面205全面に広げるスピンコート法又は第二面205にスクリーン膜を設置し、スクリーン膜の上に硬化性材料221を載せ、スキージで押し込むスクリーン印刷による方法、更にはエレクトリックスプレーデポジション法により第二面205全面にスプレーする方法等によって塗布した後に高平坦化された平板222上に塗布面を接触、押圧する方法の他、上記方法に限らず、硬化性材料221によってウェーハ200の一面を高平坦化する方法が適用できる。硬化性材料221は、熱硬化性樹脂、熱可逆性樹脂、感光性樹脂などの軟質材料が、加工後の剥離のしやすさの点で好ましい。特に、感光性樹脂は熱によるストレスが加わらないという点でも好適である。本実施例では、硬化性材料221として、UV硬化による樹脂を使用した。また、他の具体的な硬化性材料221の材質として、合成ゴムや接着剤(ワックス等)などが挙げられる。
【0030】
ウェーハ200に塗布する硬化性材料221の厚みは、ウェーハ200表面の凸部分が大きい(100mm以下の波長域のうねり成分が大きい)ほど、ウェーハ200に塗布する硬化性材料221の厚みを増大させなければならず、一般的に50〜150μmの範囲に設定することが知られているが、硬化性材料221は高価であり、硬化性材料221の使用量が多くなるため製造コストの上昇を招く問題がある。
【0031】
本発明では、塗布層形成工程前に基準面を持たない両面同時平坦化加工を施しているため、ウェーハ200両表面の凸部分が同時に除去され、100mm以下の波長域のうねり成分が軽減される。その結果、ウェーハ200に塗布する硬化性材料221の厚みを低減することができ、本発明にあっては硬化性材料221の厚みを10〜40μmの範囲に設定することが可能となる。なお、硬化性材料221の厚みが10μm未満では、ウェーハ200表面の凸部分の影響を受け、ナノトポグラフィー品質が悪化してしまう。
【0032】
図2(d)に第1の平面研削工程に使用する平面研削装置230の一例を示す。まず、塗布層平坦化工程で作成された硬化性材料221による基準面225を平面研削装置230の真空チャックテーブル231の高平坦化された基準面232に設置し吸引保持する。次いで、設置されたウェーハ200の上面には、砥石233を一面に設置した定盤234が設置される。次に、砥石233とウェーハ200の第一面204は接触され、定盤234の上部のスピンドル235と真空チャックテーブル231の下部に設置されたスピンドル236が回転し砥石233とウェーハ200の第一面204の接触点が回転接触することでウェーハ200の第一面204を研削し、第一面204を高平坦化する。
【0033】
図2(e)に塗布層除去工程を示す。第1の平面研削工程でウェーハ200の第一面204が高平坦化されたウェーハ200の第二面205に塗布された硬化性材料221をウェーハ200から引き剥がす。塗布層である硬化性材料221の除去は溶剤を用いて化学的に除去するようにしてもよい。
【0034】
図2(f)に第2の平面研削工程の一例を示す。平面研削する装置は第1の平面研削工程で使用した平面研削装置230と同じ装置である。第1の平面研削工程で高平坦化されたウェーハ200の第一面204を基準面251として、真空チャックテーブル231の高平坦化された基準面232に設置し吸引保持する。ウェーハ200の第二面205を第1の平面研削工程と同様に高平坦化されるまで研削する。図2(g)に示す如く、ウェーハ200の両面とも高平坦化される。
【実施例】
【0035】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。なお、実施例、比較例1、2に用いたウェーハ200は、シリコン単結晶インゴットから固定砥粒方式ワイヤーソー装置を用いて同一条件でスライスした直径300mmのウェーハ200を用いた。
【0036】
<実施例>
本発明の実施例を図3に示す。図3を基に実施例の加工工程を説明する。スライス後のウェーハ200(図3(a))をラッピングによってウェーハ200の両面を同時に研削し、うねり202を軽減した(図3(b))。うねり202が軽減されたウェーハ200の第二面205にUV硬化性樹脂321を塗布し、厚み35μmの硬化させた樹脂の面を基準面225とした(図3(c))。樹脂の面を基準面225として吸引保持したウェーハ200の第一面204をうねり202がなくなるまで(破線331の面まで)平面研削した(図3(d))。次に、樹脂を引き剥がし(図3(e))、平面研削したウェーハ200の第一面204を基準面251として吸引保持したウェーハ200の第二面205を破線351の面まで平面研削した(図3(f))。全工程を終了し、ウェーハの両面ともに高平坦化されたウェーハ200が得られた。このウェーハ200を実施例のウェーハ200とした(図3(g))。
【0037】
<比較例1>
比較例1を図4に示す。図面を基に比較例1の加工工程を説明する。スライス後のウェーハ200(図4(a))の第二面205にUV硬化性樹脂321を塗布し、厚み70μmの硬化させた樹脂の面を基準面225とした(図4(b))。樹脂の面を基準面225として吸引保持したウェーハ200の第一面204を破線421の面まで平面研削した(図4(c))。樹脂を引き剥がし(図4(d))、ウェーハ200の第一面204を基準面251として吸引保持したウェーハ200の第二面205を破線451の面まで平面研削した(図4(e))。この状態のウェーハ200を比較例1のウェーハ200とした(図4(f))。
【0038】
<比較例2>
比較例2は、実施例の図3(b)で示したラッピング後のウェーハ200を比較例2のウェーハ200とした。
【0039】
<評価試験1>
実施例と比較例1、2で得られた各ウェーハ200の表面形状が、その後に行われる鏡面研磨処理後のウェーハ表面におけるナノトポグラフィーにどのような影響を与えるのかを調査した。具体的には、まず、実施例と比較例1、2で得られた各ウェーハ200それぞれに対して、共通の鏡面研磨処理として、両面研磨装置を用いて各ウェーハの表裏面に同一条件の粗研磨処理を施した後、片面研磨装置を用いて各ウェーハ表面に同一条件の仕上げ研磨処理を施して、各ウェーハ200の表面が鏡面研磨されたウェーハを作成した。図5は、鏡面研磨された各ウェーハ表面を光学干渉式の平坦度測定装置(KLA Tencor社:Wafersight2)を用いて各ウェーハ表面の高さ分布(高低差)を測定したナノトポグラフィーマップであり、鏡面研磨処理後の各ウェーハの測定結果をフィルタリング処理して長波長成分を除去した後、ナノトポグラフィーの測定結果を濃淡色で図示化したものである。図5(d)は、図5(a)〜(c)に示されるナノトポグラフィーの高低差を表す図であって、濃い色になるほど高度が低く、一番濃い部分は中心高度から−20nmになり、薄い色になるほど高度は高く、一番薄い部分は中心高度から+20nmになっている。最低高度から最高高度までの高低差は40nmとなる。なお、ナノトポグラフィーの測定は、ウェーハの外縁の任意の3点を固定して測定した。従って、ナノトポグラフィーマップは、ウェーハを非吸着状態で表面の高低差を表している。
【0040】
実施例の結果を図5(a)に示す。ほぼ均一した濃さであり、全面高低差が少ないことがわかる。この理由は、ウェーハ200の第一面204を研削しウェーハ200の第一面204が高平坦面となった後に樹脂を剥がしてもラッピングにより、波長領域100mm以下の、特に50mm以下のうねり202を軽減しているためにウェーハ200の第一面204は高平坦面を維持していて、ウェーハ200の第一面204を基準面251として吸着し、ウェーハ200の第二面205を平面研削してもウェーハ200の第一面204を吸着する際にウェーハ200には弾性変形がかからないためにウェーハ200の第一面204の吸着解放後のウェーハ200の第二面205にはうねり202が発生しないと考えることができる。
【0041】
比較例1の結果を図5(b)に示す。図5(b)の中央部分は、若干平坦化されているもののうねり202が残っている。この理由は、図4(c)でウェーハ200の第一面204を平面研削した直後にはウェーハ200の第一面204は高平坦化されるものの、第一面204にかかっていたうねり202による応力がなくなり樹脂を剥がした後にウェーハ200の第二面205に残っているうねり202による応力との釣り合いが崩れるため第一面204が変形したと考えられる。そしてウェーハ200の第一面204を基準面251として吸着するとウェーハ200には吸着により弾性変形が加わりその後第二面205を平面研削し高平坦化した面になっても、ウェーハ200を吸着から解放するとウェーハ200の第一面204は吸着による弾性変形が解放されてウェーハ200の第二面205にうねり202が顕れると考えることができる。
【0042】
比較例2の結果を図5(c)に示す。全体にうねり202が残っている。
【0043】
<評価試験2>
評価試験1と同様に、各ウェーハ200の表面形状が鏡面研磨処理後のウェーハ表面のナノトポグラフィーにどのような影響を与えるのかを調査した。本試験では、実施例、比較例1、2と同条件のウェーハ200をそれぞれ複数枚製造し、その複数のウェーハ200それぞれについて、評価試験1と同条件の鏡面研磨処理(両面研磨装置を用いた粗研磨処理+片面研磨装置を用いた仕上げ研磨処理)を施して、各ウェーハ200の表面が鏡面研磨されたウェーハを作成した。図6は、鏡面研磨された各ウェーハ表面を光学干渉式の平坦度測定装置(KLA Tencor社:Wafersight2)を用いて各ウェーハ表面のナノトポグラフィーを測定し、個々のグラフに表したものである。具体的には、鏡面研磨された各ウェーハ表面に対して直径2mmの円形領域で区切られたサイト毎に最大PV値を算出し、各サイト毎で算出された最大PV値のうち最も大きなPV値を代表値としてプロットしたものである。
図6から明らかなように、実施例では高低差が5.4〜7.2nm、比較例1では9.0〜10.7nm、比較例2では9.8〜13.0nmの範囲となった。実施例のウェーハは表面全体のナノトポグラフィーが8nm以下の高平坦な面を得ることができた。
【0044】
<評価試験3>
次に、鏡面研磨処理を施す前の各ウェーハ200の表面高さを周波数解析し、うねり成分の波長の振幅を調査した。その結果を図7に示す。
図7は、
図3(a)で示すスライス後のウェーハ(A)、
図4(f)で示すスライス後に樹脂貼り研削した(比較例1)ウェーハ(B)、
図3(b)で示すラッピング後(比較例2)のウェーハ(C)及び、
図3(g)で示すラッピング後に樹脂貼り研削した(実施例)ウェーハ(D)
それぞれについて、静電容量方式の形状測定装置(株式会社コベルコ科研:SBW)を用いてウェーハ表面高さの周波数解析を行った結果を示している。解析方法は、ウェーハ表面高さ測定データに短波長周期成分10mm未満、長波長周期成分100mm超の波長帯域をカットオフしてバンドパスフィルタリング処理し、10mm〜100mmの波長領域におけるうねり成分の波長の振幅を求めた。
図7から明らかなように、スライス後のウェーハ(A)では最大1.7μmの振幅が観察され、1μmを超える振幅発生領域が観察されたのに対して、ラッピング処理した(比較例2)のウェーハ(C)では、最大でも0.6μmであり、100mm以下の波長領域全てにおいて1μm以下の振幅であり、ラッピング処理により振幅を大幅に低減できることが分かる。また、スライス後に樹脂貼り研削した(比較例1)ウェーハ(B)よりも、ラッピング後に樹脂貼り研削した(実施例)ウェーハ(D)の方がより振幅が低減されることが分かる。
【0045】
<評価試験4>
次に、各ウェーハ200それぞれについて、評価試験1で行った鏡面研磨処理と同様の鏡面研磨処理を施した後、鏡面研磨された各ウェーハ200の表面高さを周波数解析し、うねり成分の波長の振幅を調査した。その結果を図8に示す。
図8は、
図4(f)で示すスライス後に樹脂貼り研削した(比較例1)ウェーハ(B)、
図3(b)で示すラッピング後(比較例2)のウェーハ(C)及び、
図3(g)で示すラッピング後に樹脂貼り研削した(実施例)ウェーハ(D)
それぞれについて、光学干渉式の形状測定装置(KLA Tencor社:Wafersight2)を用いて鏡面研磨後のウェーハ表面高さの周波数解析を行った結果を示している。解析方法は、ウェーハ表面高さ測定データにカットオフ値20mmのガウシアンフィルタ処理により、うねりの長波長周期成分をカットし、フィルタリングしたウェーハ表面高さに対しフーリエ変換し、100mm以下の波長領域におけるうねり成分の波長の振幅を求めたものである。
図8から明らかなように、ラッピング後に樹脂貼り研削した(実施例)ウェーハ(D)を用いた場合は、鏡面研磨処理後のウェーハ表面の周波数解析の結果において、10〜100mmの波長領域のうねりの振幅は0.4nm以下と極めて良好であったのに対して、スライス後に樹脂貼り研削した(比較例1)ウェーハ(B)を用いた場合は最大で1.7nm、ラッピング処理した(比較例2)のウェーハ(C)を用いた場合は最大で2nmの振幅が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の半導体ウェーハの加工方法は、シリコンや、ガリウム等のインゴットをスライスしたウェーハの表面を平坦化する工程に利用できる。
【符号の説明】
【0047】
200 ウェーハ
221 硬化性材料
232 基準面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8