【実施例】
【0035】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。なお、実施例、比較例1、2に用いたウェーハ200は、シリコン単結晶インゴットから固定砥粒方式ワイヤーソー装置を用いて同一条件でスライスした直径300mmのウェーハ200を用いた。
【0036】
<実施例>
本発明の実施例を
図3に示す。
図3を基に実施例の加工工程を説明する。スライス後のウェーハ200(
図3(a))をラッピングによってウェーハ200の両面を同時に研削し、うねり202を軽減した(
図3(b))。うねり202が軽減されたウェーハ200の第二面205にUV硬化性樹脂321を塗布し、厚み35μmの硬化させた樹脂の面を基準面225とした(
図3(c))。樹脂の面を基準面225として吸引保持したウェーハ200の第一面204をうねり202がなくなるまで(破線331の面まで)平面研削した(
図3(d))。次に、樹脂を引き剥がし(
図3(e))、平面研削したウェーハ200の第一面204を基準面251として吸引保持したウェーハ200の第二面205を破線351の面まで平面研削した(
図3(f))。全工程を終了し、ウェーハの両面ともに高平坦化されたウェーハ200が得られた。このウェーハ200を実施例のウェーハ200とした(
図3(g))。
【0037】
<比較例1>
比較例1を
図4に示す。図面を基に比較例1の加工工程を説明する。スライス後のウェーハ200(
図4(a))の第二面205にUV硬化性樹脂321を塗布し、厚み70μmの硬化させた樹脂の面を基準面225とした(
図4(b))。樹脂の面を基準面225として吸引保持したウェーハ200の第一面204を破線421の面まで平面研削した(
図4(c))。樹脂を引き剥がし(
図4(d))、ウェーハ200の第一面204を基準面251として吸引保持したウェーハ200の第二面205を破線451の面まで平面研削した(
図4(e))。この状態のウェーハ200を比較例1のウェーハ200とした(
図4(f))。
【0038】
<比較例2>
比較例2は、実施例の
図3(b)で示したラッピング後のウェーハ200を比較例2のウェーハ200とした。
【0039】
<評価試験1>
実施例と比較例1、2で得られた各ウェーハ200の表面形状が、その後に行われる鏡面研磨処理後のウェーハ表面におけるナノトポグラフィーにどのような影響を与えるのかを調査した。具体的には、まず、実施例と比較例1、2で得られた各ウェーハ200それぞれに対して、共通の鏡面研磨処理として、両面研磨装置を用いて各ウェーハの表裏面に同一条件の粗研磨処理を施した後、片面研磨装置を用いて各ウェーハ表面に同一条件の仕上げ研磨処理を施して、各ウェーハ200の表面が鏡面研磨されたウェーハを作成した。
図5は、鏡面研磨された各ウェーハ表面を光学干渉式の平坦度測定装置(KLA Tencor社:Wafersight2)を用いて各ウェーハ表面の高さ分布(高低差)を測定したナノトポグラフィーマップであり、鏡面研磨処理後の各ウェーハの測定結果をフィルタリング処理して長波長成分を除去した後、ナノトポグラフィーの測定結果を濃淡色で図示化したものである。
図5(d)は、
図5(a)〜(c)に示されるナノトポグラフィーの高低差を表す図であって、濃い色になるほど高度が低く、一番濃い部分は中心高度から−20nmになり、薄い色になるほど高度は高く、一番薄い部分は中心高度から+20nmになっている。最低高度から最高高度までの高低差は40nmとなる。なお、ナノトポグラフィーの測定は、ウェーハの外縁の任意の3点を固定して測定した。従って、ナノトポグラフィーマップは、ウェーハを非吸着状態で表面の高低差を表している。
【0040】
実施例の結果を
図5(a)に示す。ほぼ均一した濃さであり、全面高低差が少ないことがわかる。この理由は、ウェーハ200の第一面204を研削しウェーハ200の第一面204が高平坦面となった後に樹脂を剥がしてもラッピングにより、波長領域100mm以下の、特に50mm以下のうねり202を軽減しているためにウェーハ200の第一面204は高平坦面を維持していて、ウェーハ200の第一面204を基準面251として吸着し、ウェーハ200の第二面205を平面研削してもウェーハ200の第一面204を吸着する際にウェーハ200には弾性変形がかからないためにウェーハ200の第一面204の吸着解放後のウェーハ200の第二面205にはうねり202が発生しないと考えることができる。
【0041】
比較例1の結果を
図5(b)に示す。
図5(b)の中央部分は、若干平坦化されているもののうねり202が残っている。この理由は、
図4(c)でウェーハ200の第一面204を平面研削した直後にはウェーハ200の第一面204は高平坦化されるものの、第一面204にかかっていたうねり202による応力がなくなり樹脂を剥がした後にウェーハ200の第二面205に残っているうねり202による応力との釣り合いが崩れるため第一面204が変形したと考えられる。そしてウェーハ200の第一面204を基準面251として吸着するとウェーハ200には吸着により弾性変形が加わりその後第二面205を平面研削し高平坦化した面になっても、ウェーハ200を吸着から解放するとウェーハ200の第一面204は吸着による弾性変形が解放されてウェーハ200の第二面205にうねり202が顕れると考えることができる。
【0042】
比較例2の結果を
図5(c)に示す。全体にうねり202が残っている。
【0043】
<評価試験2>
評価試験1と同様に、各ウェーハ200の表面形状が鏡面研磨処理後のウェーハ表面のナノトポグラフィーにどのような影響を与えるのかを調査した。本試験では、実施例、比較例1、2と同条件のウェーハ200をそれぞれ複数枚製造し、その複数のウェーハ200それぞれについて、評価試験1と同条件の鏡面研磨処理(両面研磨装置を用いた粗研磨処理+片面研磨装置を用いた仕上げ研磨処理)を施して、各ウェーハ200の表面が鏡面研磨されたウェーハを作成した。
図6は、鏡面研磨された各ウェーハ表面を光学干渉式の平坦度測定装置(KLA Tencor社:Wafersight2)を用いて各ウェーハ表面のナノトポグラフィーを測定し、個々のグラフに表したものである。具体的には、鏡面研磨された各ウェーハ表面に対して直径2mmの円形領域で区切られたサイト毎に最大PV値を算出し、各サイト毎で算出された最大PV値のうち最も大きなPV値を代表値としてプロットしたものである。
図6から明らかなように、実施例では高低差が5.4〜7.2nm、比較例1では9.0〜10.7nm、比較例2では9.8〜13.0nmの範囲となった。実施例のウェーハは表面全体のナノトポグラフィーが8nm以下の高平坦な面を得ることができた。
【0044】
<評価試験3>
次に、鏡面研磨処理を施す前の各ウェーハ200の表面高さを周波数解析し、うねり成分の波長の振幅を調査した。その結果を
図7に示す。
図7は、
図3(a)で示すスライス後のウェーハ(A)、
図4(f)で示すスライス後に樹脂貼り研削した(比較例1)ウェーハ(B)、
図3(b)で示すラッピング後(比較例2)のウェーハ(C)及び、
図3(g)で示すラッピング後に樹脂貼り研削した(実施例)ウェーハ(D)
それぞれについて、静電容量方式の形状測定装置(株式会社コベルコ科研:SBW)を用いてウェーハ表面高さの周波数解析を行った結果を示している。解析方法は、ウェーハ表面高さ測定データに短波長周期成分10mm未満、長波長周期成分100mm超の波長帯域をカットオフしてバンドパスフィルタリング処理し、10mm〜100mmの波長領域におけるうねり成分の波長の振幅を求めた。
図7から明らかなように、スライス後のウェーハ(A)では最大1.7μmの振幅が観察され、1μmを超える振幅発生領域が観察されたのに対して、ラッピング処理した(比較例2)のウェーハ(C)では、最大でも
0.6μmであり、100mm以下の波長領域全てにおいて1μm以下の振幅であり、ラッピング処理により振幅を大幅に低減できることが分かる。また、スライス後に樹脂貼り研削した(比較例1)ウェーハ(B)よりも、ラッピング後に樹脂貼り研削した(実施例)ウェーハ(D)の方がより振幅が低減されることが分かる。
【0045】
<評価試験4>
次に、各ウェーハ200それぞれについて、評価試験1で行った鏡面研磨処理と同様の鏡面研磨処理を施した後、鏡面研磨された各ウェーハ200の表面高さを周波数解析し、うねり成分の波長の振幅を調査した。その結果を
図8に示す。
図8は、
図4(f)で示すスライス後に樹脂貼り研削した(比較例1)ウェーハ(B)、
図3(b)で示すラッピング後(比較例2)のウェーハ(C)及び、
図3(g)で示すラッピング後に樹脂貼り研削した(実施例)ウェーハ(D)
それぞれについて、光学干渉式の形状測定装置(KLA Tencor社:Wafersight2)を用いて鏡面研磨後のウェーハ表面高さの周波数解析を行った結果を示している。解析方法は、ウェーハ表面高さ測定データにカットオフ値20mmのガウシアンフィルタ処理により、うねりの長波長周期成分をカットし、フィルタリングしたウェーハ表面高さに対しフーリエ変換し、100mm以下の波長領域におけるうねり成分の波長の振幅を求めたものである。
図8から明らかなように、ラッピング後に樹脂貼り研削した(実施例)ウェーハ(D)を用いた場合は、鏡面研磨処理後のウェーハ表面の周波数解析の結果において、10〜100mmの波長領域のうねりの振幅は0.4nm以下と極めて良好であったのに対して、スライス後に樹脂貼り研削した(比較例1)ウェーハ(B)を用いた場合は最大で1.7nm、ラッピング処理した(比較例2)のウェーハ(C)を用いた場合は最大で2nmの振幅が観察された。