特許第6187655号(P6187655)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6187655非水電解液二次電池用正極活物質及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187655
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用正極活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20170821BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20170821BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20170821BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170821BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M10/0566
   H01M10/052
   C01G53/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-162545(P2016-162545)
(22)【出願日】2016年8月23日
(65)【公開番号】特開2017-45725(P2017-45725A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2016年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-165382(P2015-165382)
(32)【優先日】2015年8月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】大石 憲吾
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−228292(JP,A)
【文献】 特開2012−054135(JP,A)
【文献】 特開2006−073482(JP,A)
【文献】 特開2008−027581(JP,A)
【文献】 特表2015−536558(JP,A)
【文献】 特開2012−142155(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/089702(WO,A1)
【文献】 特開2012−023015(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/140260(WO,A1)
【文献】 特開2005−123179(JP,A)
【文献】 特開2003−123748(JP,A)
【文献】 特開2005−276502(JP,A)
【文献】 特開2013−249225(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0248396(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
C01G 53/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
Li(Ni1−xCo1−yMnαβγ
(式中、t、x、y、α、β及びγは、0≦x≦1、0.00≦y≦0.50、(1−x)・(1−y)≧y、0.000≦α≦0.020、0.000≦β≦0.030、0.000≦γ≦0.030及び1+3α+3β+2γ≦t≦1.30を満たし、0.002≦α、0.006≦β及び0.004≦γの少なくとも一つを満たす)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子を主成分とし、
前記二次粒子は、細孔径が0.01μm以上0.15μm以下である細孔容積Vp(1)が、0.035cm/g≦Vp(1)であり、細孔径が0.01μm以上10μm以下である細孔容積Vp(2)が、Vp(2)≦0.450cm/gである細孔分布を示す、非水電解液二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記一般式において、0.35≦(1−x)・(1−y)≦0.60である、請求項1に記載の非水電解液二次電池用正極活物質。
【請求項3】
一般式
Li(Ni1−xCo1−yMnαβγ
(式中、t、x、y、α、β及びγは、0≦x≦1、0.00≦y≦0.50、(1−x)・(1−y)≧y、0.000≦α≦0.020、0.000≦β≦0.030、0.000≦γ≦0.030及び1+3α+3β+2γ≦t≦1.30を満たし、0.002≦α、0.006≦β及び0.004≦γの少なくとも一つを満たす)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子を主成分とする非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法であって、
リチウムと、ニッケル及びコバルトから選択される少なくとも一種と、ホウ素、リン及び硫黄から選択される少なくとも一種とを含む第一の原料スラリーを得る工程と、
前記第一の原料スラリーを粉砕し、第二の原料スラリーを得る工程と、
前記第二の原料スラリーを噴霧乾燥し、乾燥物を得る工程と、
前記乾燥物と、水酸化リチウム及び炭酸リチウムから選択される少なくとも一種とを混合し、主成分の目的組成に応じた原料混合物を得る工程と、
前記原料混合物を焼成し、焼結体を得る工程と
を含み、
前記第一の原料スラリーにおけるリチウムの、ニッケル、コバルト及びマンガンの合計に対するモル比をLi/Me(1)とした場合、0.01<{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)<0.70である、製造方法。
【請求項4】
前記第二の原料スラリーにおいて、体積基準の粒度分布における10%積算値D10が、D10≦0.07μmである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記焼結体を得る工程における焼成温度が650℃以上940℃以下である、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記焼結体を得る工程における焼成温度までの昇温速度が3.0℃/min以上である、請求項3乃至5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記一般式において、0.35≦(1−x)・(1−y)≦0.60である、請求項3乃至6のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池用正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、携帯電話、ノートパソコン等の電源として広く用いられつつある。非水電解液二次電池は、環境問題への対応から、電気自動車等の動力用電池としても注目されている。
【0003】
非水電解液二次電池の正極活物質にはリチウムコバルト複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられている。リチウム遷移金属複合酸化物は一般的に粒子の形態で用いられるので、粒子の形態を制御する技術がいくつか存在する。そのような技術の中に、噴霧乾燥を利用する技術が存在する。
【0004】
特許文献1には、リチウム化合物及び遷移金属化合物を含むスラリーを調整し、得られたスラリーを噴霧乾燥して前駆体とし、得られた前駆体とリチウム化合物とを混合し、得られた混合物を焼成してリチウム遷移金属複合酸化物を得る例が記載されている。
【0005】
特許文献2には、遷移金属化合物と、ホウ素化合物又はリン化合物とを含むスラリーを調整し、得られたスラリーを噴霧乾燥し、得られた乾燥物を仮焼した後、得られた仮焼物及びリチウム化合物を混合し、得られた混合物を焼成してリチウム遷移金属複合酸化物を得る例が記載されている。
【0006】
特許文献3には、硫黄化合物及び遷移金属化合物を含むスラリーを調製し、得られたスラリーを噴霧乾燥し、得られた乾燥物とリチウム化合物を混合し、得られた混合物を焼成してリチウム遷移金属複合酸化物を得る例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−276502号公報
【特許文献2】特開2001−076724号公報
【特許文献3】特開2006−172753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電気自動車等の電源として用いられる二次電池には、大電流で長時間放電可能な特性が求められる。大電流による放電は、正極活物質に用いられるリチウム遷移金属複合酸化物粒子の比表面積を高くすることで可能である。しかし、比表面積の高いリチウム遷移金属複合酸化物粒子を正極活物質として用いた正極は体積エネルギー密度が低下する傾向にある。このことは、放電可能な時間が低下することを意味する。
【0009】
一方、正極を圧縮して正極の密度を高めると、体積エネルギー密度が向上し得る。しかし、比表面積の高いリチウム遷移金属複合酸化物粒子を用いた正極を圧縮した場合、正極から正極活物質が剥離する傾向にある。
【0010】
また、大電流による放電を行うと、二次電池の放電容量は低下する傾向にある。このことも放電可能な時間を低下させる原因となっていた。
【0011】
本発明はこれらの事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、大電流で長時間放電可能な非水電解液二次電池を実現可能な非水電解液二次電池用正極活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一つの実施形態は、一般式Li(Ni1−xCo1−yMnαβγ(式中、t、x、y、α、β及びγは、0≦x≦1、0.00≦y≦0.50、(1−x)・(1−y)≧y、0.000≦α≦0.020、0.000≦β≦0.030、0.000≦γ≦0.030及び1+3α+3β+2γ≦t≦1.30を満たし、0.002≦α、0.006≦β及び0.004≦γの少なくとも一つを満たす)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子を主成分とし、前記二次粒子は、細孔径が0.01μm以上0.15μm以下である細孔容積Vp(1)が、0.035cm/g≦Vp(1)であり、細孔径が0.01μm以上10μm以下である細孔容積Vp(2)が、Vp(2)≦0.450cm/gである細孔分布を示す、非水電解液二次電池用正極活物質である。ここでいう主成分とは、正極活物質の85重量%以上を占める成分を意味する。
【0013】
本発明の他の一つの実施形態は、一般式Li(Ni1−xCo1−yMnαβγ(式中、t、x、y、α、β及びγは、0≦x≦1、0.00≦y≦0.50、(1−x)・(1−y)≧y、0.000≦α≦0.020、0.000≦β≦0.030、0.000≦γ≦0.030及び1+3α+3β+2γ≦t≦1.30を満たし、0.002≦α、0.006≦β及び0.004≦γの少なくとも一つを満たす)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子を主成分とする非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法であって、リチウムと、ニッケル及びコバルトから選択される少なくとも一種と、ホウ素、リン及び硫黄から選択される少なくとも一種とを含む第一の原料スラリーを得る工程と、前記第一の原料スラリーを粉砕し、第二の原料スラリーを得る工程と、前記第二の原料スラリーを噴霧乾燥し、乾燥物を得る工程と、前記乾燥物と、水酸化リチウム及び炭酸リチウムから選択される少なくとも一種とを混合し、主成分の目的組成に応じた原料混合物を得る工程と、前記原料混合物を焼成し、焼結体を得る工程とを含み、前記第一の原料スラリーにおけるリチウムの、ニッケル、コバルト及びマンガンの合計に対するモル比をLi/Me(1)した場合、0.01<{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)<0.70である、製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大電流で長時間放電可能な非水電解液二次電池を実現可能な非水電解液二次電池用正極活物質を得ることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る非水電解液二次電池用正極活物質及びその製造方法について説明する。但し本開示は以下の説明によって限定されるものではない。以下、非水電解液二次電池用正極活物質を単に正極活物質と呼ぶ。
【0016】
[組成]
正極活物質の主成分を構成するリチウム遷移金属複合酸化物の組成は、一般式Li(Ni1−xCo1−yMnαβγ(式中、t、x、y、α、β及びγは、0≦x≦1、0.00≦y≦0.50、(1−x)・(1−y)≧y、0.000≦α≦0.020、0.000≦β≦0.030、0.000≦γ≦0.030及び1+3α+3β+2γ≦t≦1.30を満たし、0.002≦α、0.006≦β及び0.004≦γの少なくとも一つを満たす)で表される。なお、y=0の場合、リチウム遷移金属複合酸化物の組成は、一般式LiNi1−xCoαβγ(式中、t、x、α、β及びγは、0≦x≦1、0.000≦α≦0.020、0.000≦β≦0.030、0.000≦γ≦0.030及び1+3α+3β+2γ≦t≦1.30を満たし、0.002≦α、0.006≦β及び0.004≦γの少なくとも一つを満たす)で表すことができる。
【0017】
xは0≦x≦1の任意の値を取り得るが、xの範囲が0≦x≦0.5であると、低コストと高い充放電容量を両立できるため好ましい。より好ましいxの範囲は0≦x≦0.3である。
【0018】
yは大きすぎると不純物相が生成しやすくなるため、0.00≦y≦0.50とする。yの範囲が0.05≦y≦0.40であると、充放電容量と安全性と低コストが両立できるため好ましい。より好ましいyの範囲は0.10≦y≦0.30である。
【0019】
リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属について、マンガンの量がニッケルの量より多いと不純物相が生成しやすくなるため、x及びyの関係は、(1−x)・(1−y)≧yとする。x及びyが、この関係を満たしつつ0.35≦(1−x)・(1−y)≦0.60を満たしていると、充放電容量と低コストが両立できるため好ましい。
【0020】
α、β及びγについて、0.000≦α≦0.020、0.000≦β≦0.030、0.000≦γ≦0.030を満たし、さらに0.002≦α、0.006≦β及び0.004≦γの少なくとも一つを満たす。α、β及びγがこれらの関係を満たさない場合、Vp(1)及びVp(2)の少なくとも一方が所定の範囲から外れる。Vp(1)及びVp(2)を所定の範囲に制御するにはさらに満たすべき条件が存在するが、それについては後述する。
【0021】
tは小さすぎると不純物相が生成しやすくなり、大きすぎるとリチウムを含有した不純物相が生成しやすくなり、正極ペーストがゲル化し得る。そのため、tは適宜調整する必要がある。tの下限は、リチウム遷移金属複合酸化物中のホウ素、リン及び硫黄の影響を考慮し、1+3α+3β+2γとする。上限は、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属とリチウムとの比のみが重要となるので、1.30とする。好ましいtの範囲は1.02≦t≦1.25である。
【0022】
[細孔分布]
主成分は二次粒子を形成し、前記二次粒子は0.035cm/g≦Vp(1)及びVp(2)≦0.450cm/gである細孔分布を示す。0.035cm/g≦Vp(1)とすることで大電流で放電した際の放電容量の低下が抑制される。また、Vp(2)≦0.450cm/gとすることで極板密度の高い正極を作製することが容易になる。
【0023】
細孔分布は、横軸に細孔直径を対数軸としてとり、縦軸にlog微分細孔容積を線形軸としてとったlog微分細孔容積分布で判断する。特定範囲の細孔直径における細孔容積は、log微分細孔容積を特定範囲の細孔直径において積分した値である。
【0024】
上記の細孔分布を示す非水電解液二次電池用正極活物質は、以下に説明する他の一つの実施形態によって効率よく得ることができる。
【0025】
他の一つの実施形態に係る正極活物質の製造方法は、リチウムと、ニッケル及びコバルトから選択される少なくとも一種と、ホウ素、リン及び硫黄から選択される少なくとも一種とを含む第一の原料スラリーを得る工程と、前記第一の原料スラリーを粉砕し、第二の原料スラリーを得る工程と、前記第二の原料スラリーを噴霧乾燥し、乾燥物を得る工程と、前記乾燥物と、水酸化リチウム及び炭酸リチウムから選択される少なくとも一種とを混合し、主成分の目的組成に応じた原料混合物を得る工程と、前記原料混合物を焼成し、焼結体を得る工程とを含む。以下、各工程について説明する。
【0026】
[第一の原料スラリーを得る工程]
リチウム、ニッケル及びコバルトから選択される少なくとも一種と、ホウ素、リン及び硫黄から選択される少なくとも一種とを含む第一の原料スラリーを得る。なお、主成分の目的組成にマンガンが含まれる場合(y>0の場合)、第一の原料スラリーにはマンガンも含まれる。前記第一の原料スラリーに含まれるリチウムの、ニッケル、コバルト及びマンガンの合計に対するモル比をLi/Me(1)とした場合、0.01<{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)<0.70とする。{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)≦0.01以下であると、Vp(1)が0.035cm/g未満になる。また、0.70≦{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)であると、Vp(2)が0.450cm/gを超える。また、主成分の目的組成にマンガンが含まれない場合(y=0の場合)、第一の原料スラリーにはマンガンは含まれず、前記第一の原料スラリーに含まれるリチウムの、ニッケル、コバルトの合計に対するモル比をLi/Me(1)とした場合、0.01<{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)<0.70とする。{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)≦0.01以下であると、Vp(1)が0.035cm/g未満になる。また、0.70≦{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)であると、Vp(2)が0.450cm/gを超える。
【0027】
第一の原料スラリーに含まれるリチウムは、常温で比較的安定であり、且つ高温で酸化物になる形態が選択し得る。例えば酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム等が選択し得る。以下第一の原料スラリーに含まれるリチウムを総称してLi原(1)とする。
【0028】
第一の原料スラリーに含まれるニッケルは、常温で比較的安定であり、且つ高温で酸化物になる形態が選択し得る。例えば金属ニッケル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸ニッケル、オキシ水酸化ニッケル、炭酸ニッケル等が選択し得る。
【0029】
第一の原料スラリーに含まれるコバルトは、常温で比較的安定であり、且つ高温で酸化物になる形態が選択し得る。例えば金属コバルト、酸化コバルト、水酸化コバルト、硝酸コバルト、オキシ水酸化コバルト、炭酸コバルト等が選択し得る。
【0030】
第一の原料スラリーに含まれるマンガンは、常温で比較的安定であり、且つ高温で酸化物になる形態が選択し得る。例えば金属マンガン、酸化マンガン、水酸化マンガン、硝酸マンガン、オキシ水酸化マンガン、炭酸マンガン等が選択し得る。
【0031】
第一の原料スラリーに含まれるニッケル、コバルト及びマンガンについては、複合化合物の形態をとっていても良い。例えばニッケルコバルト複合酸化物、ニッケルコバルトマンガン複合炭酸塩、コバルトマンガン複合水酸化物等の形態がとり得る。
【0032】
第一の原料スラリーに含まれるホウ素は、常温で比較的安定であり、且つ高温で酸化物になる形態が選択し得る。例えばホウ素、酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸アンモニウム等が選択し得る。さらに、主成分の他の元素との複合化合物の形態をとっていても良い。例えばホウ酸リチウム等の形態がとり得る。ホウ酸リチウムはLi源(1)でもある。
【0033】
第一の原料スラリーに含まれるリンは、常温で比較的安定であり、且つ高温で酸化物になる形態が選択し得る。例えばリン酸アンモニウム、リン酸二水素一アンモニウム等が選択し得る。さらに、主成分の他の元素との複合化合物の形態をとっていても良い。例えばリン酸リチウム、リン酸ニッケル、ニッケルマンガン複合リン酸塩等の形態がとり得る。リン酸リチウムはLi源(1)でもある。リン酸ニッケルはニッケル源でもある。ニッケルマンガン複合リン酸塩はニッケル源でもあり、マンガン源でもある。
【0034】
第一の原料スラリーに含まれる硫黄は、常温で安定であり、且つ高温で酸化物になる形態が選択し得る。例えば硫酸アンモニウム、硫黄等が選択し得る。さらに、主成分の他の元素との複合化合物の形態をとっていても良い。例えば硫酸リチウム、硫化リチウム、硫酸コバルト、ニッケルコバルトマンガン複合硫酸塩、硫化ニッケル等の形態がとり得る。硫酸リチウム及び硫化リチウムはLi源(1)でもある。硫酸コバルトはコバルト源でもある。ニッケルコバルトマンガン複合硫酸塩はニッケル源でもあり、コバルト源でもあり、マンガン源でもある。硫化ニッケルはニッケル源でもある。
【0035】
[第二の原料スラリーを得る工程]
得られた第一の原料スラリーを粉砕し、第二の原料スラリーを得る。第二の原料スラリーにおいて、体積基準の粒度分布における10%積算値D10が、D10≦0.07μmであると、Vp(1)及びVp(2)を所定の範囲内に制御し易くなるので好ましい。粉砕方法はビーズミル、ボールミル、ピンミル等公知の方法を適宜適用すれば良い。
【0036】
[乾燥物を得る工程]
得られた第二の原料スラリーを噴霧乾燥し、乾燥物を得る。噴霧乾燥の条件、装置等は、公知の手法から目的に応じて適宜選択すれば良い。通常、第二の原料スラリーを導入するためのノズルを一つ以上、気流用のノズルを一つ以上用意し、噴霧装置の乾燥室内に第二の原料スラリーを分散させ、第二の原料スラリーから液相を素早く除去することで、目的の乾燥物が得られる。各ノズルの流量、各ノズル間の流量比は、第二の原料スラリーをどの程度分散させるか等によって適宜設定すれば良い。乾燥室の温度は原料スラリーの内容、液相の除去速度等に応じて適宜設定すれば良い。
【0037】
[原料混合物を得る工程]
得られた乾燥物と、水酸化リチウム及び炭酸リチウムから選択される少なくとも一種とを混合し、主成分の目的組成に応じた原料混合物を得る。以下、原料混合物に含まれるリチウム化合物を総称してLi源(2)とし、得られた乾燥物中の複合酸化物に対する原料混合物に含まれるリチウム化合物の比をLi/Me(2)とする。
【0038】
[焼結体を得る工程]
得られた原料混合物を焼成し、焼結体を得る。本工程における焼成温度が高すぎると二次粒子内部における焼結が進み、Vp(1)が小さくなる傾向がある。また、本工程における焼成温度が低すぎると二次粒子全体の焼結が十分に進まず、Vp(2)大きくなる傾向がある。焼成温度が650℃以上940℃以下であると、所定のVp(1)及びVp(2)を得やすいので好ましい。より好ましい焼成温度の範囲は700℃以上900℃以下である。
【0039】
本工程における焼成温度までの昇温速度は、大きければ大きいほどVp(2)を小さくし易い。好ましい昇温速度の範囲は3.0℃/min以上である。
【0040】
[後処理]
得られた焼結体は、目的に応じて適宜解砕、粉砕、分級、乾式篩等の後処理を施しても良い。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
共沈法によって組成式(Ni0.48Co0.26Mn0.26で表される複合酸化物を得た。得られた複合酸化物と、得られた複合酸化物0.5molに対して0.065molの炭酸リチウム、0.010molのオルトホウ酸、0.019molのリン酸リチウム及び0.001molの硫酸リチウムとを純水に分散し、固形分の濃度が20%である第一の原料スラリーを得た。第一の原料スラリーにおいて、Li/Me(1)=0.19、{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)=0.10である。
【0042】
得られた第一の原料スラリーをボールミルによって粉砕し、D10=0.03μmである第二の原料スラリーを得た。
【0043】
得られた第二の原料スラリーを18mL/min、空気を20L/minの流量で三流体スプレーノズルに導入し、乾燥温度240℃で噴霧乾燥を行い、乾燥物を得た。
【0044】
得られた乾燥物と、得られた乾燥物中の複合酸化物0.5molに対して0.506molの炭酸リチウムとを混合し、原料混合物を得た。
【0045】
得られた原料混合物を昇温速度3.3℃/minで800℃まで昇温し、焼成温度800℃で5時間焼成し、組成式Li1.20Ni0.48Co0.26Mn0.260.0100.0190.001で表される焼結体を得た。
【0046】
得られた焼結体を200メッシュの乾式篩に通し、目的の正極活物質を得た。
【0047】
[実施例2]
焼成温度を840℃とする以外実施例1と同様に行い、目的の正極活物質を得た。
【0048】
[実施例3]
共沈法によって組成式(Ni0.48Co0.26Mn0.26で表される複合酸化物を得た。得られた複合酸化物と、得られた複合酸化物0.5molに対して0.056molの炭酸リチウム、0.004molのオルトホウ酸及び0.001molの硫酸リチウムとを純水に分散し、固形分の濃度が20%である第一の原料スラリーを得た。第一の原料スラリーにおいて、Li/Me(1)=0.11、{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)=0.10である。
【0049】
得られた第一の原料スラリーをボールミルによって粉砕し、D10=0.03μmである第二の原料スラリーを得た。
【0050】
得られた第二の原料スラリーを18mL/min、空気を20L/minの流量で三流体スプレーノズルに導入し、乾燥温度240℃で噴霧乾燥を行い、乾燥物を得た。
【0051】
得られた乾燥物と、得られた乾燥物中の複合酸化物0.5molに対して0.543molの炭酸リチウムとを混合し、原料混合物を得た。
【0052】
得られた原料混合物を昇温速度3.3℃/minで850℃まで昇温し、焼成温度850℃で5時間焼成し、組成式Li1.20Ni0.48Co0.26Mn0.260.0040.001で表される焼結体を得た。
【0053】
得られた焼結体を200メッシュの乾式篩に通し、目的の正極活物質を得た。
[実施例4]
共沈法によって組成式(Ni0.48Co0.26Mn0.26で表される複合酸化物を得た。得られた複合酸化物と、得られた複合酸化物0.5molに対して0.050molの炭酸リチウム、0.010molのリン酸リチウム及び0.001molの硫酸リチウムとを純水に分散し、固形分の濃度が20%である第一の原料スラリーを得た。第一の原料スラリーにおいて、Li/Me(1)=0.13、{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)=0.10である。
【0054】
得られた第一の原料スラリーをボールミルによって粉砕し、D10=0.03μmである第二の原料スラリーを得た。
【0055】
得られた第二の原料スラリーを18mL/min、空気を20L/minの流量で三流体スプレーノズルに導入し、乾燥温度240℃で噴霧乾燥を行い、乾燥物を得た。
【0056】
得られた乾燥物と、得られた乾燥物中の複合酸化物0.5molに対して0.534molの炭酸リチウムとを混合し、原料混合物を得た。
【0057】
得られた原料混合物を昇温速度3.3℃/minで840℃まで昇温し、焼成温度840℃で5時間焼成し、組成式Li1.20Ni0.48Co0.26Mn0.260.0100.001で表される焼結体を得た。
【0058】
得られた焼結体を200メッシュの乾式篩に通し、目的の正極活物質を得た。
【0059】
[実施例5]
共沈法によって組成式(Ni0.48Co0.26Mn0.26で表される複合酸化物を得た。得られた複合酸化物と、得られた複合酸化物0.5molに対して0.156molの炭酸リチウム、0.004molのオルトホウ酸、0.019molのリン酸リチウム及び0.001molの硫酸リチウムとを純水に分散し、固形分の濃度が20%である第一の原料スラリーを得た。第一の原料スラリーにおいて、Li/Me(1)=0.37、{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)=0.30である。
【0060】
得られた第一の原料スラリーをボールミルによって粉砕し、D10=0.03μmである第二の原料スラリーを得た。
【0061】
得られた第二の原料スラリーを18mL/min、空気を20L/minの流量で三流体スプレーノズルに導入し、乾燥温度240℃で噴霧乾燥を行い、乾燥物を得た。
【0062】
得られた乾燥物と、得られた乾燥物中の複合酸化物0.5molに対して0.415molの炭酸リチウムとを混合し、原料混合物を得た。
【0063】
得られた原料混合物を昇温速度3.3℃/minで800℃まで昇温し、焼成温度800℃で5時間焼成し、組成式Li1.20Ni0.48Co0.26Mn0.260.0040.0190.001で表される焼結体を得た。
【0064】
得られた焼結体を200メッシュの乾式篩に通し、目的の正極活物質を得た。
【0065】
[実施例6]
共沈法によって組成式(Ni0.48Co0.26Mn0.26で表される複合酸化物を得た。得られた複合酸化物と、得られた複合酸化物0.5molに対して0.050molの炭酸リチウム、及び0.010molの硫酸リチウムとを純水に分散し、固形分の濃度が20%である第一の原料スラリーを得た。第一の原料スラリーにおいて、Li/Me(1)=0.12、{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)=0.10である。
【0066】
得られた第一の原料スラリーをボールミルによって粉砕し、D10=0.03μmである第二の原料スラリーを得た。
【0067】
得られた第二の原料スラリーを18mL/min、空気を20L/minの流量で三流体スプレーノズルに導入し、乾燥温度240℃で噴霧乾燥を行い、乾燥物を得た。
【0068】
得られた乾燥物と、得られた乾燥物中の複合酸化物0.5molに対して0.540molの炭酸リチウムとを混合し、原料混合物を得た。
【0069】
得られた原料混合物を昇温速度3.3℃/minで800℃まで昇温し、焼成温度800℃で5時間焼成し、組成式Li1.20Ni0.48Co0.26Mn0.260.010で表される焼結体を得た。
【0070】
得られた焼結体を200メッシュの乾式篩に通し、目的の正極活物質を得た。
【0071】
[実施例7]
共沈法によって組成式(Ni0.48Co0.26Mn0.26で表される複合酸化物を得た。得られた複合酸化物と、得られた複合酸化物0.5molに対して0.050molの炭酸リチウム及び0.006molのオルトホウ酸とを純水に分散し、固形分の濃度が20%である第一の原料スラリーを得た。第一の原料スラリーにおいて、Li/Me(1)=0.12、{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)=0.10である。
【0072】
得られた第一の原料スラリーをボールミルによって粉砕し、D10=0.03μmである第二の原料スラリーを得た。
【0073】
得られた第二の原料スラリーを18mL/min、空気を20L/minの流量で三流体スプレーノズルに導入し、乾燥温度240℃で噴霧乾燥を行い、乾燥物を得た。
【0074】
得られた乾燥物と、得られた乾燥物中の複合酸化物0.5molに対して0.541molの炭酸リチウムとを混合し、原料混合物を得た。
【0075】
得られた原料混合物を昇温速度3.3℃/minで835℃まで昇温し、焼成温度835℃で5時間焼成し、組成式Li1.20Ni0.48Co0.26Mn0.260.006で表される焼結体を得た。
【0076】
得られた焼結体を200メッシュの乾式篩に通し、目的の正極活物質を得た。
【0077】
[実施例8]
共沈法によって組成式(Ni0.48Co0.26Mn0.26で表される複合酸化物を得た。得られた複合酸化物と、得られた複合酸化物0.5molに対して0.050molの炭酸リチウム及び0.026molのリン酸リチウムとを純水に分散し、固形分の濃度が20%である第一の原料スラリーを得た。第一の原料スラリーにおいて、Li/Me(1)=0.18、{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)=0.10である。
【0078】
得られた第一の原料スラリーをボールミルによって粉砕し、D10=0.03μmである第二の原料スラリーを得た。
【0079】
得られた第二の原料スラリーを18mL/min、空気を20L/minの流量で三流体スプレーノズルに導入し、乾燥温度240℃で噴霧乾燥を行い、乾燥物を得た。
【0080】
得られた乾燥物と、得られた乾燥物中の複合酸化物0.5molに対して0.511molの炭酸リチウムとを混合し、原料混合物を得た。
【0081】
得られた原料混合物を昇温速度3.3℃/minで860℃まで昇温し、焼成温度860℃で5時間焼成し、組成式Li1.20Ni0.48Co0.26Mn0.260.026で表される焼結体を得た。
【0082】
得られた焼結体を200メッシュの乾式篩に通し、目的の正極活物質を得た。
【0083】
[比較例1]
共沈法によって組成式(Ni0.48Co0.26Mn0.26で表される複合酸化物を得た。得られた複合酸化物と、得られた複合酸化物0.5molに対して0.365molの炭酸リチウム、0.010molのオルトホウ酸、0.019molのリン酸リチウム及び0.010molの硫酸リチウムとを純水に分散し、固形分の濃度が20%である第一の原料スラリーを得た。第一の原料スラリーにおいて、Li/Me(1)=0.81、{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)=0.70である。
【0084】
得られた第一の原料スラリーをボールミルによって粉砕し、D10=0.03μmである第二の原料スラリーを得た。
【0085】
得られた第二の原料スラリーを18mL/min、空気を20L/minの流量で三流体スプレーノズルに導入し、乾燥温度240℃で噴霧乾燥を行い、乾燥物を得た。
【0086】
得られた乾燥物と、得られた乾燥物中の複合酸化物0.5molに対して0.197molの炭酸リチウムとを混合し、原料混合物を得た。
【0087】
得られた原料混合物を昇温速度3.3℃/minで850℃まで昇温し、焼成温度850℃で5時間焼成し、組成式Li1.20Ni0.48Co0.26Mn0.260.0100.0190.010で表される焼結体を得た。
【0088】
得られた焼結体を200メッシュの乾式篩に通し、目的の正極活物質を得た。
【0089】
[比較例2]
共沈法によって組成式(Ni0.48Co0.26Mn0.26で表される複合酸化物を得た。得られた複合酸化物と、得られた複合酸化物0.5molに対して0.020molの炭酸リチウム、0.010molのオルトホウ酸、0.019molのリン酸リチウム及び0.01molの硫酸リチウムとを純水に分散し、固形分の濃度が20%である第一の原料スラリーを得た。第一の原料スラリーにおいて、Li/Me(1)=0.12、{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)=0.01である。
【0090】
得られた第一の原料スラリーをボールミルによって粉砕し、D10=0.03μmである第二の原料スラリーを得た。
【0091】
得られた第二の原料スラリーを18mL/min、空気を20L/minの流量で三流体スプレーノズルに導入し、乾燥温度240℃で噴霧乾燥を行い、乾燥物を得た。
【0092】
得られた乾燥物と、得られた乾燥物中の複合酸化物0.5molに対して0.542molの炭酸リチウムとを混合し、原料混合物を得た。
【0093】
得られた原料混合物を昇温速度3.3℃/minで840℃まで昇温し、焼成温度840℃で5時間焼成し、組成式Li1.20Ni0.48Co0.26Mn0.260.0100.0190.010で表される焼結体を得た。
【0094】
得られた焼結体を200メッシュの乾式篩に通し、目的の正極活物質を得た。
【0095】
[比較例3]
共沈法によって組成式(Ni0.48Co0.26Mn0.26で表される複合酸化物を得た。得られた複合酸化物と、得られた複合酸化物0.5molに対して0.052molの炭酸リチウム、0.001molのオルトホウ酸及び0.001molの硫酸リチウムとを純水に分散し、固形分の濃度が20%である第一の原料スラリーを得た。第一の原料スラリーにおいて、Li/Me(1)=0.11、{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)=0.10である。
【0096】
得られた第一の原料スラリーをボールミルによって粉砕し、D10=0.03μmである第二の原料スラリーを得た。
【0097】
得られた第二の原料スラリーを18mL/min、空気を20L/minの流量で三流体スプレーノズルに導入し、乾燥温度240℃で噴霧乾燥を行い、乾燥物を得た。
【0098】
得られた乾燥物と、得られた乾燥物中の複合酸化物0.5molに対して0.548molの炭酸リチウムとを混合し、原料混合物を得た。
【0099】
得られた原料混合物を昇温速度3.3℃/minで880℃まで昇温し、焼成温度880℃で5時間焼成し、組成式Li1.20Ni0.48Co0.26Mn0.260.0010.001で表される焼結体を得た。
【0100】
得られた焼結体を200メッシュの乾式篩に通し、目的の正極活物質を得た。
【0101】
[比較例4]
共沈法によって組成式(Ni0.48Co0.26Mn0.26で表される複合酸化物を得た。得られた複合酸化物と、得られた複合酸化物0.5molに対して0.050molの炭酸リチウム、0.004molのリン酸リチウム及び0.001molの硫酸リチウムとを純水に分散し、固形分の濃度が20%である第一の原料スラリーを得た。第一の原料スラリーにおいて、Li/Me(1)=0.11、{Li/Me(1)}−(3α+3β+2γ)=0.10である。
【0102】
得られた第一の原料スラリーをボールミルによって粉砕し、D10=0.03μmである第二の原料スラリーを得た。
【0103】
得られた第二の原料スラリーを18mL/min、空気を20L/minの流量で三流体スプレーノズルに導入し、乾燥温度240℃で噴霧乾燥を行い、乾燥物を得た。
【0104】
得られた乾燥物と、得られた乾燥物中の複合酸化物0.5molに対して0.543molの炭酸リチウムとを混合し、原料混合物を得た。
【0105】
得られた原料混合物を昇温速度3.3℃/minで890℃まで昇温し、焼成温度890℃で5時間焼成し、組成式Li1.20Ni0.48Co0.26Mn0.260.0040.001で表される焼結体を得た。
【0106】
得られた焼結体を200メッシュの乾式篩に通し、目的の正極活物質を得た。
【0107】
<細孔分布の評価>
実施例1〜8及び比較例1〜4の正極活物質について、水銀圧入法によってLog微分細孔容積分布を測定した。測定したLog微分細孔容積分布を用い、細孔径が0.01μmから0.15μmの範囲の積分値からVp(1)を、細孔径が0.01μmから10μmの範囲の積分値からVp(2)を算出した。
【0108】
<極板剥離評価>
実施例1〜8及び比較例1〜4の正極活物質を用い、以下の要領で正極板を作製し、極板剥離評価を行った。
【0109】
[正極の作製]
正極活物質90質量部、炭素粉末5質量部及びポリフッ化ビニリデン5質量部をN−メチルピロリドンに分散、溶解し、混練して正極ペーストを得た。得られた正極ペーストをアルミニウム箔に、塗布密度が約8mg/cmとなるよう塗布し、乾燥させた。乾燥後、塗布済みのアルミニウム箔を所定の圧力で圧延し、所定の大きさに裁断し、正極板を得た。
【0110】
[剥離の有無確認]
得られた正極板にメンディングテープを貼り、密着させ、空気を抜いた後、一定の力でテープを剥がし、正極板から正極活物質が剥離するかどうかを確認した。
【0111】
<負荷効率評価>
極板剥離のなかった正極板を用い、以下の要領で評価用電池を作製し、負荷効率評価を行った。
【0112】
[負極の作製]
人造黒鉛97.5質量部、カルボキシメチルセルロース1.5質量部、及びスチレンブタジエンゴム1.0質量部を水に分散させて負極ペーストを得た。得られた負極ペーストを銅箔に所定量塗布し、乾燥させた。乾燥後、塗布済みの銅箔を所定の圧力で圧延し、所定の大きさに裁断し、負極板を得た。
【0113】
[非水電解液の作製]
エチレンカーボネイトとメチルエチルカーボネイトを体積比率3:7で混合し、混合溶媒を得た。得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウムをその濃度が、1mol/Lになるように溶解させて、非水電解液を得た。
【0114】
[評価用電池の組み立て]
正極板のアルミニウム箔と、負極板の銅箔とに、それぞれリード電極を取り付けたのち120℃で真空乾燥を行った。真空乾燥後、正極板と負極板の間に多孔性ポリエチレンからなるセパレータを配し、袋状のラミネートパックにそれらを収納した。収納後60℃で真空乾燥を行った。真空乾燥後、ラミネートパック内に非水電解液を注入、封止し、評価用の非水電解液二次電池を得た。
【0115】
[充放電容量測定]
充電電圧4.3V、充電電流密度0.25A/cmで定電流定電圧充電を行った。充電後、放電電圧2.75V、放電電流密度0.25A/cmで定電流放電を行い、0.25A/cmにおける放電容量を測定した。
【0116】
次に、放電電流密度が6.25A/cmである以外同様にして定電流定電圧充電と定電流放電を行い、放電電流密度6.25A/cmにおける放電容量を測定した。
【0117】
放電電流密度6.25A/cmにおける放電容量を放電電流密度0.25A/cmにおける放電容量で除し、負荷効率を求めた。負荷効率が高いことは負荷特性が良いことを意味する。
【0118】
実施例1〜8及び比較例1〜4の製造条件を表1及び2に、各種特性を表3に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
表1〜表3より、以下のことが分かる。
【0123】
比較例1、3及び4の正極活物質を用いた正極板は、Vp(2)が0.450cm/gを超えているため、極板剥離が起こっている。つまり、比較例1、3及び4の正極活物質を用いて極板密度の高い正極板を得ることができない。
【0124】
比較例2の正極活物質を用いた正極板は、極板剥離が起こっていない。しかし、Vp(1)が0.035cm/g未満であるため、比較例2の正極活物質を用いた非水電解液二次電池は、実施例1〜8の正極活物質を用いた非水電解液二次電池に比べて負荷効率が低い。
【0125】
また、実施例1〜8と、比較例1〜4との対比から、Vp(1)及びVp(2)を所定の範囲内に制御するには、第一の原料スラリーにおけるリチウムと、ホウ素、リン及び硫黄からなる群より選択される少なくとも一種との関係を所定の範囲内に制御することが必要であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本開示の正極活物質を用いると、高い体積エネルギー密度と高い負荷効率とを両立した非水電解液二次電池を得ることが可能である。こうして得られる非水電解液二次電池は、電気自動車等の、大電流で長時間放電する必要がある機器の電源として好適に利用可能である。