(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187778
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】半導体用洗浄液及びそれを用いた洗浄方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20170821BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
H01L21/304 647B
H01L21/304 647Z
H01L21/30 564Z
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-525789(P2014-525789)
(86)(22)【出願日】2013年7月8日
(86)【国際出願番号】JP2013068644
(87)【国際公開番号】WO2014013902
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2016年6月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-160884(P2012-160884)
(32)【優先日】2012年7月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々 卓
(72)【発明者】
【氏名】志垣 修平
【審査官】
▲高▼須 甲斐
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−216843(JP,A)
【文献】
特開2007−123775(JP,A)
【文献】
特開平07−064284(JP,A)
【文献】
特開2010−056208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸と、水と、親水性有機溶剤とを含む、半導体製造のリソグラフィー工程で用いられる半導体製造装置内のリソグラフィー用薬液の通液部分を洗浄するための洗浄液であって、
上記洗浄液中の各成分の濃度が、洗浄液の総量に基づいて
無機酸 :0.0001質量%乃至1質量%
水 :0.0006質量%乃至60質量%
親水性有機溶剤:20質量%乃至99.999質量%
である洗浄液。
【請求項2】
上記通液部分が、半導体製造装置内配管又はろ過用フィルターである請求項1に記載の洗浄液。
【請求項3】
上記無機酸が、硫酸、塩酸又は硝酸である請求項1又は請求項2に記載の洗浄液。
【請求項4】
上記親水性有機溶剤が、グリコール系溶剤又はラクトン系溶剤である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の洗浄液。
【請求項5】
上記親水性有機溶剤が、1−メトキシ−2−プロパノール又は1−エトキシ−2−プロパノールである請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の洗浄液。
【請求項6】
更に界面活性剤を含む、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の洗浄液。
【請求項7】
更に金属捕捉剤(キレート化合物)を含む、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の洗浄液。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の洗浄液を、リソグラフィー工程で用いられる半導体製造装置内のリソグラフィー用薬液の通液部分に通液して行う洗浄方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の洗浄液にて洗浄されたリソグラフィー工程用半導体製造装置を用いて形成された、半導体素子の製造に用いられるレジストパターンを用いて半導体基板を加工する工程を含む半導体素子の製造方法。
【請求項10】
無機酸と、水と、親水性有機溶剤とを含む、半導体製造のリソグラフィー工程で用いられる半導体製造装置内のリソグラフィー用薬液の通液部分を洗浄するための洗浄液であって、
該無機酸が硫酸であり、かつ
上記洗浄液中の各成分の濃度が、洗浄液の総量に基づいて
硫酸 :0.0001質量%乃至60質量%
水 :0.0006質量%乃至60質量%
親水性有機溶剤:20質量%乃至99.999質量%
である洗浄液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子製造のリソグラフィー工程で用いられる半導体用洗浄液、特に半導体製造装置内のリソグラフィー用薬液通液部分(半導体製造装置内配管又はろ過用フィルター)を洗浄するための洗浄液、及びそれを用いた洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体素子の製造において、レジストを用いたリソグラフィーによる加工が行われている。この加工はシリコンウエハ等の半導体基板上にレジスト膜を形成し、その上に半導体デバイスのパターンが描かれたマスクパターンを介して紫外線等の活性光線を照射し、現像し、レジストパターンを得る。この得られたレジストパターンを保護膜として基板をエッチング処理することにより、基板表面に前記パターンに対応する凹凸を形成する加工法である。
近年の半導体素子の微細化に伴い、使用される活性光線もKrFエキシマレーザー(248nm)からArFエキシマレーザー(193nm)、EUV光(13.5nm)へと短波長化されている。これに伴い活性光線の半導体基板からの反射を初め様々な影響によりレジストパターン形成が適切に出来ない問題が生じている。
現在では上記のような不具合を解消するため、半導体基板とレジストとの間に、反射防止膜や平坦化膜等の有機物質よりなる下層膜、即ち有機下層膜を形成して行う方法が主流となっている。この場合、レジストパターンを保護膜としてレジストで保護されていない部分の有機下層膜をエッチングにより除去し、その後、半導体基板の加工が行なわれる。有機下層膜、半導体基板の加工のためのエッチングは一般にドライエッチングにより行なわれる。
また、半導体基板とフォトレジストとの間の下層膜として、ハードマスクとして知られる無機物質からなる膜を使用することが行なわれている。この場合、フォトレジスト(有機物質)とハードマスク(下層膜:無機物質)では、その構成成分に大きな違いが有るため、それらのドライエッチングによって除去される速度は、ドライエッチングに使用されるガス種に大きく依存するため、このエッチング速度の比が異なる性質を利用して半導体基板の加工が行なわれる。この半導体基板の加工は一般にドライエッチングにより行われる。
またハードマスクの下層に塗布法もしくはCVD法等の方法にて有機下層膜を形成し、ハードマスクと有機下層膜のドライエッチング速度のガス種依存性を利用した多層レジストプロセスも検討されている。
【0003】
さらに現在においては、半導体製造のコストダウンのため、ArFエキシマレーザーを用いた加工法を延命するために、露光光とレジストの間に所定膜厚の水又は専用の高屈折率液体等の液体媒体を挟み、屈折率の違いを利用してArF光をさらに微細にしてパターン形成をさせるArF液浸リソグラフィー法も検討されている。この液浸リソグラフィー法は、従来は空気や窒素等の不活性ガスであった露光光路空間を、これら空間(気体)の屈折率よりも大きくかつ、レジスト膜の屈折率よりも小さい屈折率(n)をもつ液体媒体で置換する方法であり、同じ露光波長の光源を用いても、より短波長の露光光を用いた場合や高NAレンズを用いた場合と同様に、高解像性が達成されるとともに、焦点深度幅の低下も生じないなどの利点を有する。このような液浸リソグラフィーを用いれば、現存の露光装置に実装されているレンズを用いて、低コストでより高解像性に優れ且つ焦点深度にも優れるレジストパターンの形成が実現できる。
ArF液浸リソグラフィーにおいては、レジスト露光時に水等の液体をレジスト上に直接接する状態で行う。このためレジストからの異物溶出による欠陥を防ぐために、レジスト上に液浸プロセス用レジスト上部保護膜(トップコート)が使用される場合もある。
現在半導体素子製造の量産において適用されている微細リソグラフィー工程、特にArFエキシマレーザーを用いた液浸リソグラフィーにおいては、レジストパターンの微細化のため及び露光時に液体媒体が直接接触するという特殊な工程を経るため、従来検出されていなかった微小欠陥や、更にはリソグラフィー用薬液(A)(レジスト、有機系レジスト下層膜、ハードマスク、トップコート、現像液等)中に含まれる泡が原因の欠陥(ウオーターマーク)が観察されている。
【0004】
半導体製造のリソグラフィー工程で用いられる半導体製造装置は、リソグラフィー用薬液(A)を半導体基板に塗布するためのコーター(塗布装置)、ディベロッパー(現像装置)等があり、これらの装置へのリソグラフィー用薬液(A)の供給は、外部環境(クリーンルーム雰囲気)からは密閉されたリソグラフィー用薬液(A)供給系から供給される。通常密封状態で納品されてきたリソグラフィー用薬液(A)をクリーンルーム内にて開封し、不純物等が入らないように装置へのリソグラフィー用薬液(A)供給ラインに接続する。この供給ラインに接続されたリソグラフィー用薬液(A)は、コーター内の半導体基板上(ウエハ)へのリソグラフィー用薬液(A)供給まで外部環境(クリーンルーム雰囲気)と接触することは無い。通常半導体基板塗布に至る工程までに、リソグラフィー用薬液(A)が通液する配管中に、リソグラフィー用薬液(A)ろ過用フィルターが複数設置されており、半導体基板へ供給されるリソグラフィー用薬液(A)はこれらのフィルターを通過し、不純物(金属及びパーティクル(微小粒子))を取り除いた後に半導体基板上に塗布されるようになっている。従って、通常リソグラフィー用薬液(A)ろ過用フィルターを通過したリソグラフィー用薬液(A)には不純物が存在しないはずであるが、実際には上記のように注意して扱うにも係らず、塗布後の半導体基板上に、塗布されたリソグラフィー用薬液(A)由来と推定される欠陥、特に金属不純物の存在が見られる。そして、これら金属不純物が半導体基板表面に直接存在することによって、半導体基板エッチング時に該金属がマスクとなり発生するエッチング後ディフェクト(コーンディフェクト)が発生する場合や、これら金属不純物が含まれることにより生じる泡が原因となる欠陥(ウオーターマーク)が発生することが有る。半導体素子製造上、これらの欠陥による、半導体素子の良品収率の低下が大きな問題となっており、一刻も早い解決が望まれている。
【0005】
上述の欠陥について本発明者らは種々の検討を行った結果、金属不純物はリソグラフィー用薬液(A)自体に元々存在するのではなく、リソグラフィー用薬液(A)ろ過用フィルターから溶出することがその原因の1つであることが分かってきた。この金属不純物は、その原因の1つとしてフィルターの基材樹脂製造時に使用される金属含有触媒が残存していることが考えられる。リソグラフィー用薬液(A)ろ過用フィルターに用いられるフィルター基材(樹脂)としては、PTFE(4フッ化ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などのフッ素系樹脂、PE(ポリエチレン)、UPE(超高分子量ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PSF(ポリスルフォン)、PES(ポリエーテルスルホン)、ナイロン等がある。
これらの樹脂合成にあたり通常用いられる金属含有触媒としては、Ziegler−Natta触媒と呼ばれる塩化チタンと有機アルミニウム化合物又は塩化マグネシウムからなる金属触媒、Phillips触媒に代表される酸化クロム等のクロム化合物からなる金属触媒等があり、これらの触媒に由来する金属が上記金属不純物の原因の1つと考えられている。
また、最近のリソグラフィー用薬液(A)ろ過用フィルターの口径(穴の大きさ)は30ナノメートル乃至2ナノメートル程度まで超微細化されている。
【0006】
上記の半導体基板上に存在する欠陥の問題を解消するため、半導体製造装置内のリソグラフィー用薬液(A)通液部分の金属不純物等を効率的に除去し洗浄することが出来る洗浄液の開発が求められている。
現在のところ、半導体製造工程用の洗浄液としては、(1)汎用洗浄液、(2)半導体基板用洗浄液、(3)洗浄液ろ過用フィルター用洗浄液、等がある。
(1)の例としては、ケトン系有機溶剤、ラクトン系有機溶剤、及びアルコキシベンゼン及び芳香族アルコールの中から選ばれる少なくとも1 種の有機溶剤を含有することを特徴とするリソグラフィー用洗浄液(特許文献1)、グリコール系有機溶剤、ラクトン系有機溶剤、及びアルコキシベンゼン及び芳香族アルコールの中から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤を含有するリソグラフィー用洗浄液(特許文献2)の出願があるが、これらの出願の洗浄液は、基材上に塗膜を形成した後の基板裏面部または端縁部の不要な薬液の除去や塗膜全体を除去する工程、さらには塗膜材料を塗布する前の基材を洗浄など、複数の洗浄工程に汎用性が高いことを特徴としている。
(2)の例としては、(I)有機酸、(II)界面活性剤、(III)無機酸を含有する洗浄液(特許文献3)、〔I〕カルボキシル基を少なくとも1個有する有機酸又は/及び〔II〕錯化剤と、〔III〕(1)1価アルコール類、(2)アルコキシアルコール類、(3)グリコール類、(4)グリコールエーテル類、(5)ケトン類及び(6)ニトリル類からなる群より選ばれる有機溶剤とを含んでなる基板用洗浄剤(特許文献4)、フッ素化合物とグリコールエーテル系有機溶剤を含有する半導体装置製造用洗浄剤(特許文献5)、カルボン酸と水溶性有機溶剤とからなる半導体回路用洗浄剤(特許文献6)等の出願があるが、これらは半導体基板洗浄を目的とした洗浄液である。
(3)の例としては、半導体基板洗浄工程で使用される洗浄液ろ過用フィルターの清浄化方法として酸系の薬液を用いてフィルターに化学的に吸着した金属イオンを脱離させる方法の出願(特許文献7)があり、その洗浄液として1w%フッ化水素溶液、1w%塩酸溶液等が挙げられている。この特許文献7のフィルター使用部分は、本発明の目的であるリソグラフィー用薬液(A)通液部分ではなく、基板洗浄用洗浄液通液部分のフィルターに関するものであるため本発明とは異なる。
以上、いずれの文献における洗浄液も本発明の目的であるリソグラフィー用薬液(A)通液部分の金属不純物除去等を目的に開発されたものではなく、その効果は不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−227645号公報
【特許文献2】特開2007−256710号公報
【特許文献3】特開2009−105299号公報
【特許文献4】国際公開WO2005/040324号パンフレット
【特許文献5】特開2003−171692号公報
【特許文献6】特開平10−256210号公報
【特許文献7】特開平7−31810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、半導体素子製造工程において、レジストパターン形成後又は半導体基板加工後に生じる半導体基板上に生じる金属不純物等による欠陥を未然に防ぐため、リソグラフィー工程において、レジスト、有機系レジスト下層膜、ハードマスク、トップコート、現像液等のリソグラフィー用薬液(A)の半導体製造装置内への通液前にリソグラフィー工程用半導体製造装置の通液部分(半導体製造装置内リソグラフィー用薬液(A)配管又はリソグラフィー用薬液(A)ろ過用フィルター)に存在する金属不純物等の除去を効果的に行うための洗浄液を提供することである。本発明の洗浄液によるリソグラフィー用薬液(A)通液部分の洗浄により、該部分の金属不純物を除去して上記欠陥を減らすことができ、半導体素子の良品収率向上ひいては半導体製造工程の素子作成のコストダウンが期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、発明者らが鋭意検討した結果、特定の洗浄液、具体的には無機酸と、水と、親水性有機溶剤を混合させた洗浄液が、効果的に上記通液部分に存在する金属不純物を除去することが出来ることを見出し本発明に至った。
本発明は第1観点として、無機酸と、水と、親水性有機溶剤とを含む、半導体製造のリソグラフィー工程で用いられる半導体製造装置内のリソグラフィー用薬液の通液部分を洗浄するための洗浄液、
第2観点として、上記洗浄液中の各成分の濃度が、洗浄液の総量に基づいて
無機酸 :0.0001質量%乃至60質量%
水 :0.0006質量%乃至60質量%
親水性有機溶剤:20質量%乃至99.999質量%
である第1観点に記載の洗浄液、
第3観点として、上記通液部分が、半導体製造装置内配管又はろ過用フィルターである第1観点又は第2観点に記載の洗浄液、
第4観点として、上記無機酸が、硫酸、塩酸又は硝酸である第1観点乃至第3観点のいずれか1項に記載の洗浄液、
第5観点として、上記親水性有機溶剤が、グリコール系溶剤又はラクトン系溶剤である第1観点乃至第4観点のいずれか1項に記載の洗浄液、
第6観点として、上記親水性有機溶剤が、1−メトキシ−2−プロパノール又は1−エトキシ−2−プロパノールである第1観点乃至第5観点のいずれか1項に記載の洗浄液、
第7観点として、更に界面活性剤を含む、第1観点乃至第6観点のいずれか1項に記載の洗浄液、
第8観点として、更に金属捕捉剤(キレート化合物)を含む、第1観点乃至請第7観点のいずれか1項に記載の洗浄液、
第9観点として、第1観点乃至第8観点のいずれか1項に記載の洗浄液を、リソグラフィー工程で用いられる半導体製造装置内のリソグラフィー用薬液の通液部分に通液して行う洗浄方法、
第10観点として、第1観点乃至第8観点のいずれか1項に記載の洗浄液にて洗浄されたリソグラフィー工程用半導体製造装置を用いて形成された半導体素子、
第11観点として、第1観点乃至第8観点のいずれか1項に記載の洗浄液にて洗浄されたリソグラフィー工程用半導体製造装置を用いて形成された、半導体素子の製造に用いられるレジストパターンを用いて半導体基板を加工する工程を含む半導体素子の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、半導体素子製造のリソグラフィー工程における、リソグラフィー工程用半導体製造装置の通液部分(半導体製造装置内リソグラフィー用薬液(A)配管又はリソグラフィー用薬液(A)ろ過用フィルター)の洗浄を効果的に行うための洗浄液とその洗浄方法を提供出来る。
本発明の洗浄液(C)は、親水性有機溶剤(B)(グリコール系有機溶剤又はラクトン系有機溶剤の単体もしくは2つ以上の混合液が望ましい)と、無機酸水溶液、さらに必要に応じて水を添加したものの混合物である。ここで、効果的に金属不純物を取り除くために、洗浄液(C)中の酸性成分量として、洗浄液(C)の総量に基づいて0.0001質量%乃至60質量%の無機酸成分を含むことが望ましい。
本発明の洗浄液(C)は、金属不純物除去を主な目的として、リソグラフィー工程にて用いられるコーター(塗布装置)、ディベロッパー(現像装置)等の半導体製造装置内に存在するリソグラフィー用薬液(A)が通過する、各種配管及び微細ろ過用フィルターに、リソグラフィー用薬液(A)を繋ぐ前に行う前処理に又はリソグラフィー用薬液(A)交換(繋ぎ変え)の場合に使用できる。すなわち、上記配管、リソグラフィー用薬液(A)ろ過用フィルター単体又はそれらが複合化した配管に上記洗浄液(C)を通液して洗浄し、その後親水性有機溶剤(B)を用いて、上記洗浄液中の酸性成分がすべて取り除かれるまで通液により洗浄を行うことで、配管及びフィルター中に存在する金属不純物を取り除くことができる。この結果、リソグラフィー工程における金属不純物由来の欠陥を少なくすることが出来る。
具体的には、本発明の洗浄液(C)により上記金属不純物を取り除くことが出来れば、疎水性である金属不純物によるリソグラフィー用薬液(A)内の溶解している物質の相溶性、不相溶性のバランスの不均衡により発生する泡を抑えることができるため、リソグラフィー工程後、作成されたレジストパターンに存在する欠陥又は、ドライエッチング後、泡が原因の欠陥(ウオーターマーク)を無くすことができる。さらには、金属不純物が半導体基板表面に直接存在することによる、半導体基板エッチング時に該金属がマスクとなり発生するエッチング後ディフェクト(コーンディフェクト)を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、無機酸と、水と、親水性有機溶剤(B)とを混合して製造される、半導体製造のリソグラフィー工程で用いられる半導体製造装置内の、レジスト、有機系レジスト下層膜、ハードマスク、トップコート、現像液等のリソグラフィー用薬液(A)の通液部分を洗浄するための洗浄液(C)である。
洗浄液(C)の調製方法としては、無機酸水溶液に親水性有機溶剤(B)、さらに必要に応じて水を追加することが挙げられる。さらに必要に応じて界面活性剤、金属捕捉剤(キレート化合物)を添加してもよい。
洗浄液(C)の具体的な調製方法を示すと、容器内部を水等で十分に洗浄した金属分が付着していないポリエチレン製容器に、親水性有機溶剤、無機酸水溶液、更には必要に応じて水をさらに追加し、室温にて振とう攪拌器又はマグネチックスターラー等にて0.5乃至10時間混合(攪拌)させ調製する。大量(数kg〜数トン)に調製する場合は、内部(接液部分)を水等で十分に洗浄した、所定容量のポリエチレン製等の樹脂製薬液混合槽やフッ素樹脂ライニング等を施した所定容量のステンレス製混合槽等に、上記と同様に洗浄液(C)の成分を導入した後、攪拌翼等にて混合し調製できる。また、無機酸成分濃度等を精密に調製するため、予め計算上より多めの濃度にて初期調製を行い、中和滴定等の方法にて無機酸濃度を正確に算出した後、最終調製用の有機溶剤(あるいは水)を加えて混合(攪拌)することで、最終目的の濃度の洗浄液を調製する方法もある。洗浄液(C)調製後、洗浄液中の微小不純物(パーティクル)を除去するために、例えばポリエチレン製の精密フィルター(口径:0.05μm等)にてろ過してもよい。
【0012】
洗浄液(C)中の成分の無機酸は、洗浄液を酸性にすることで、洗浄対象である半導体製造装置内のリソグラフィー用薬液(A)用配管、リソグラフィー用薬液(A)ろ過用フィルターに付着している金属不純物をイオン化し、洗浄液中に溶出しやすくするために用いられる。無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸等が挙げられるが、金属不純物の除去に効果が高いのは硫酸、塩酸又は硝酸である。硫酸、塩酸又は硝酸は特に、リソグラフィー用薬液(A)ろ過用フィルターに付着したマグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、鉄、クロム等を溶出させる効果が高い。
本発明の洗浄液(C)中に含まれる無機酸の割合は洗浄液(C)の総量に基づいて0.0001質量%乃至60質量%又は、0.001質量%乃至40質量%、より好ましくは0.001質量%乃至1質量%である。無機酸の割合が0%であると、薬液通液部分(配管や部材)洗浄時の金属溶出機能が無く、60質量%以上であると、薬液通液部分(配管や部材)の腐食が起こる。また無機酸の種類(例えば硫酸)によっては溶液粘度が高くなり、洗浄工程において、洗浄液自体の配管内の循環に支障をきたす。
【0013】
本発明の洗浄液(C)中に含まれる水の割合は洗浄液(C)の総量に基づいて0.0006質量%乃至60質量%又は、0.006質量%乃至40質量%、より好ましくは0.0006質量%乃至10質量%である。金属不純物をイオン化するためには最低限0.0006質量%以上水が混合されていることが必要である。又、水の割合が60質量%以上になると、洗浄液(C)で洗浄後、半導体製造装置内の薬液通液部分を親水性有機溶剤(B)で置換する際に置換性が悪くなる。あるいは配管内に水分が残留する可能性が高くなり、半導体製造のための微細リソグラフィー工程に用いられるリソグラフィー用薬液(A)の性能が発揮されない場合がある。
【0014】
本発明の洗浄液(C)中に含まれる親水性有機溶剤(B)の割合は、洗浄液(C)の総量に基づいて20質量%乃至99.999質量%、より好ましくは90質量%乃至99.999質量%である。
親水性有機溶剤(B)は、水と自由な割合で混和する有機溶剤であり、混和した後もその混合状態が安定し、相分離することが無いことが必要である。親水性有機溶剤(B)は、上記洗浄液(C)の大部分を占める媒体として用いられるが、同時に、リソグラフィー用薬液(A)ろ過用フィルター製造時に使用され製品となった後にも残存している金属含有触媒を溶解させるので、ろ過用フィルターに含まれる金属不純物を除去することが出来る。
本発明の洗浄液(C)で洗浄後、配管内にある該洗浄液(C)を無機酸を含まない親水性有機溶剤(B)のみで置換をすることが必要であるが、通常の半導体素子の製造工程においては、該親水性有機溶剤(B)の通液後直ぐにリソグラフィー用薬液(A)が通液される。これは半導体素子製造ラインのスループット向上のためである。従って、配管内を乾燥させる工程は通常存在しないため、本発明の洗浄液(C)の親水性有機溶剤(B)としてはリソグラフィー用薬液(A)の汎用溶剤として用いられるグリコール系有機溶剤又はラクトン系有機溶剤が望ましい。
【0015】
グリコール系有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等がある。
ラクトン系有機溶剤としてはγ−ブチロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−ラウロラクトン、δ−バレロラクトン、ヘキサノラクトン等がある。
これらの中でも特に1−メトキシ−2−プロパノール(プロピレングリコールモノメチルエーテル)又は1−エトキシ−2−プロパノール(プロピレングリコールモノエチルエーテル)が本発明の洗浄液(C)の親水性有機溶剤(B)として望ましい。
【0016】
配管内接液部分への親和性を高めるために、本発明の洗浄液(C)に必要に応じて界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフエノールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフエノールエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等のノニオン系界面活性剤、エフトツプEF301、EF303、EF352((株)トーケムプロダクツ製)、メガフアツクF171、F173(大日本インキ(株)製)、フロラードFC430、FC431(住友スリーエム(株)製)、アサヒガードAG710、サーフロンSー382、SC101、SC102、SC103、SC104、SC105、SC106(旭硝子(株)製)、フタージェントシリーズ((株)ネオス製)等のフッ素系界面活性剤、オルガノシロキサンポリマーKP341(信越化学工業(株)製)等を挙げることができる。これらの界面活性剤の配合量は、本発明の洗浄液(C)の総量100質量%当たり通常1.0質量%以下、好ましくは0.1質量%以下である。これらの界面活性剤は単独で添加してもよいし、また2種以上の組合せで添加することもできる。
【0017】
金属不純物の捕捉性を向上させるために、金属捕捉剤(キレート化合物)を添加してもよい。具体例としては、鎖状配位型キレート剤としてエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン又はペンタエチレンエキサミン等のエチレンジアミン類、2,2‘−ビピリジン又は4,4’−ビピリジン等のビピリジン類、エチレンジアミン四酢酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸又はテレフタル酸等のジカルボン酸化合物類、フェナントロリン等がある。
環状配位型キレート剤として、ポルフィリン類、フタロシアニン、コロール、クロリン、12−クラウン−4、 15−クラウン−5、18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6又はジアザ−18−クラウン−6等のクラウンエーテル類等がある。これらの金属捕捉剤(キレート化合物)の配合量は、本発明の洗浄液(C)の総量100質量%当たり通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。これらの金属捕捉剤(キレート化合物)は単独で添加してもよいし、また2種以上の組合せで添加することもできる。
【0018】
以上の組成で構成される本発明の洗浄液(C)を、上記リソグラフィー用薬液(A)の半導体製造装置内への通液前に、リソグラフィー用薬液(A)用配管内へ通液することで、半導体基板上欠陥の不純物となる金属不純物を取り除くことができる。洗浄液(C)の通液は1回、もしくは複数回の循環工程にて行われる。その後、配管内にある洗浄液(C)を、該洗浄液(C)から無機酸水溶液を除いた親水性有機溶剤(B)のみで置換し、無機酸成分を配管内から取り除いた後に、リソグラフィー用薬液(A)の通液が行われる。
【0019】
その後、特定の条件にて半導体基板にスピンコート、焼成、露光、現像処理を行い、所望のレジストパターンが形成される。
さらにこれらのレジストパターンをマスクとして、下地基板をエッチング法により加工し、所望の半導体基板のパターンが得られる。エッチング法はドライエッチング法が好ましく用いられる。これらのパターンに、さらに配線、絶縁膜等の形成を繰り返し行い、所望の半導体素子が形成される。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
(洗浄液の調製)
(合成例1)
金属不純物等を水洗により十分に取り除いた4Lポリエチレン製容器(アイセロ化学株式会社製)に精製1−エトキシ−2−プロパノール(プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGEE))(東京化成工業株式会社製)3600g、98質量%硫酸水溶液(日産化学工業株式会社製)0.4gと水399.6gを加え封をし、室温にて十分に振とう攪拌させて、0.01質量%硫酸含有洗浄液を得た(有機溶剤濃度:90.0質量%、水濃度:9.99質量%)。
(合成例2)
金属不純物等を水洗により十分に取り除いた250mLポリエチレン製容器(アイセロ化学株式会社製)に精製PGEE(東京化成工業株式会社製)20.0g、98質量%硫酸水溶液(日産化学工業株式会社製)40.8gと水39.2gを加え封をし、室温にて十分に振とう攪拌させて40質量%硫酸含有洗浄液を得た(有機溶剤濃度:20.0質量%、水濃度:40.0質量%)。
(合成例3)
金属不純物等を水洗により十分に取り除いた250mLポリエチレン製容器(アイセロ化学株式会社製)に、合成例1で作成した0.01質量%硫酸含有洗浄液10gと90gの精製PGEE(東京化成工業株式会社製)を加えて0.001質量%硫酸含有洗浄液を得た(有機溶剤濃度:99.0質量%、水濃度:0.999質量%)。
(合成例4)
金属不純物等を水洗により十分に取り除いた250mLポリエチレン製容器(アイセロ化学株式会社製)に、精製PGEE(東京化成工業株式会社製)99.99gと36.46質量%塩酸水溶液(関東化学株式会社製)0.01gとを加え封をし、室温にて十分に振とう攪拌させて0.003646質量%塩酸含有洗浄液を得た(有機溶剤濃度:99.99質量%、水濃度:0.006354質量%)。
(合成例5)
金属不純物等を水洗により十分に取り除いた250mLポリエチレン製容器(アイセロ化学株式会社製)に、精製PGEE(東京化成工業株式会社製)99.9gと36.46質量%塩酸水溶液(関東化学株式会社製)0.1gとを加え封をし、室温にて十分に振とう攪拌させて0.03646質量%塩酸含有洗浄液を得た(有機溶剤濃度:99.9質量%、水濃度:0.06354質量%)。
(合成例6)
金属不純物等を水洗により十分に取り除いた250 mLポリエチレン製容器(アイセロ化学株式会社製)に、精製PGEE(東京化成工業株式会社製)99.616gと36.46質量%塩酸水溶液(関東化学株式会社製)0.384gとを加え封をし、室温にて十分に振とう攪拌させて0.14質量%塩酸含有洗浄液を得た(有機溶剤濃度:99.616質量%、水濃度:0.244質量%)。
(合成例7)
金属不純物等を水洗により十分に取り除いた250 mLポリエチレン製容器(アイセロ化学株式会社製)に、精製1−メトキシ−2−プロパノール(プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME))(東京化成工業株式会社製)99.973gと36.46質量%塩酸水溶液(関東化学株式会社製)0.027gとを加え封をし、室温にて十分に振とう攪拌させて0.01質量%塩酸含有洗浄液を得た(有機溶剤濃度:99.973質量%、水濃度:0.017質量%)。
【0021】
<実施例1>
(洗浄液循環による薬液通液部分からの金属不純物溶出試験)
半導体製造装置内配管に用いられるフッ素樹脂(PTFE)製薬液配管 (内径/外径;4mm/6mm、全長約2m)、薬液濾過用フィルター(市販品)及び循環用ポンプで構成された循環ろ過装置にて、溶剤(PGEE)又は合成例1の洗浄液にて9回(約36L相当分)循環させ、循環後の洗浄液を精製PGEE(東京化成工業株式会社製)にて10倍に希釈し、ICP−MS(Agilent7500、アジレント・テクノロジー株式会社製)にて金属含有量を分析した。分析結果を表1に示す。
[表1]
<実施例2>
(半導体用薬液通液部分使用部材からの金属不純物溶出試験)
半導体製造装置内配管内に存在する薬液接液部材用樹脂(市販品、ポリエチレン製、不純物としてMg、K、Al、Ca、Feを含む)約0.3gをセラミックハサミにて6片切り出し、その樹脂片各々を合成例2乃至合成例6にて合成した洗浄液及び水入り250mLポリエチレンボトルに入れて、室温にて1週間静置して浸漬し、その後その浸漬液を、精製PGEE(東京化成工業株式会社製)にて10倍に希釈しICP−MS(Agilent7500、アジレント・テクノロジー株式会社製)にて金属含有量を分析した。結果を表2に示す。
[表2]
【産業上の利用可能性】
【0022】
無機酸と、水と、親水性有機溶剤とを混合して製造される、半導体製造のリソグラフィー工程で用いられる半導体製造装置内のリソグラフィー用薬液の通液部分を洗浄するための洗浄液である。この洗浄液を洗浄装置内の通液部分(半導体製造装置内薬液配管又は薬液ろ過用フィルター)に通液させることで、半導体素子作成時のリソグラフィー工程にて欠陥の原因となる金属不純物を除去することができ、半導体素子の良品率が向上しコスト削減が期待される。