(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
【0030】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る枚葉式の乾燥装置の概略構成を示す断面図である。本実施の形態の乾燥装置100は、被処理体として、例えば有機ELディスプレイ用のガラス基板(以下、単に「基板」と記す)Sに対して、その表面に塗布された有機材料膜中の溶媒を除去して乾燥させる乾燥処理に用いられる。
【0031】
本実施の形態の乾燥装置100は、真空引き可能な処理容器1と、処理容器1内で基板Sを支持する基板支持部としての載置台3と、処理容器1内で有機材料膜から揮発した溶媒を吸着する可撓性の溶媒吸着シート200を、載置台3に対して離間させた状態で配置するシート支持部5と、制御部6とを備えている。
【0032】
<処理容器>
処理容器1は、真空引き可能な耐圧容器である。処理容器1は、金属材料によって形成されている。処理容器1を形成する材料としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス等が用いられる。処理容器1は、底壁11、角筒状の4つの側壁13及び天井部15を備えている。
【0033】
側壁13には、装置内に基板Sを搬入、搬出するための搬入出口13aが設けられている。搬入出口13aは、処理容器1の外部との間で基板Sの搬入出を行うためものである。搬入出口13aには、ゲートバルブGVが設けられている。ゲートバルブGVは、搬入出口13aを開閉する機能を有し、閉状態で処理容器1を気密にシールすると共に、開状態で処理容器1と外部との間で基板Sの移送を可能にする。
【0034】
底壁11には、複数の排気口11aが設けられている。排気口11aは、排気管17を介して外部の排気装置19に接続されている。この排気装置19を駆動させることによって、処理容器1内を所定の真空度、例えば0.1Pa程度の圧力まで減圧排気できるように構成されている。
【0035】
<載置台>
処理容器1の内部には、基板Sを支持する基板支持部としての載置台3が配備されている。載置台3は、底壁11に支柱3aを介して固定されている。載置台3は、図示を省略するが、基板Sを昇降変位させるための機構、例えばリフトピンなどを有しており、基板Sを受け渡す受け渡し位置と、載置台3上に載置して乾燥処理を行う処理位置との間で基板Sの高さ位置を調整することができる。
【0036】
<シート支持部>
本実施の形態の乾燥装置100において、シート支持部5は、処理容器1内で有機材料膜から揮発した溶媒を吸着する可撓性の溶媒吸着シート200を支持する。シート支持部5は、載置台3及びそこに支持された基板Sに対して、溶媒吸着シート200を離間させた状態で配置する。本実施の形態において、シート支持部5は、未使用の溶媒吸着シート200を巻回した状態で保持する第1のロール保持部51Aと、処理容器1内の雰囲気に曝した溶媒吸着シート200を巻取って保持する第2のロール保持部51Bと、を備えている。
【0037】
第1のロール保持部51Aは、処理容器1の天井部15に固定された支柱53Aと、支柱53Aの先端に回動可能に支持された芯部材55Aを備えている。第2のロール保持部51Bは、処理容器1の天井部15に固定された支柱53Bと、支柱53Bの先端に回動可能に支持された芯部材55Bを備えている。第1のロール保持部51A及び第2のロール保持部51Bは、長尺かつロール状の溶媒吸着シート200を処理容器1の天井部15から吊り下げるようにして支持する。芯部材55Aは、未使用の溶媒吸着シート200を巻回しており、芯部材55Bは、使用済みの溶媒吸着シート200を巻取る。
【0038】
シート支持部5は、芯部材55A及び芯部材55Bを回転させることによって、溶媒吸着シート200を、
図1中の白矢印で示す方向へ(つまり、第1のロール保持部51A側から第2のロール保持部51B側へ向けて)、所定の速度で連続的に、又は所定の長さで間欠的に、移動させる。このようにして、シート支持部5は、溶媒吸着シート200を基板Sの上方へ送り出し、かつ回収することができる。
【0039】
ところで、基板Sの面内において、中央部分は有機材料膜の乾燥が遅くなる傾向があり、エッジ部分は有機材料膜の乾燥が早くなる傾向がある。そこで、本実施の形態の乾燥装置100では、シート支持部5によって、溶媒吸着シート200を撓ませた状態で支持することができる。溶媒吸着シート200を撓ませることによって、相対的に、基板Sの中央部分との距離が小さく、基板Sのエッジ部分との距離が大きくなる。溶媒吸着シート200との距離が短い基板Sの中央部分では、溶媒吸着シート200への吸着によって有機材料膜からの溶媒の揮発が促され、乾燥速度を向上させることができる。溶媒吸着シート200を撓ませる方法としては、例えば、溶媒吸着シート200の可撓性を利用し、第1のロール保持部51Aと第2のロール保持部51Bとの間隔を調節して溶媒吸着シート200に加わるテンションを下げる方法を挙げることができる。
【0040】
<溶媒吸着シート>
ここで、
図2を参照しながら、溶媒吸着シート200の構成例について説明する。
図2は、溶媒吸着シート200の好ましい態様における断面構造を示している。溶媒吸着シート200は、可撓性を有しており、フィルム状のベース樹脂層201と、このベース樹脂層201の上に形成された溶媒吸収層202とを備えている。溶媒吸着シート200は、乾燥装置100の処理容器1内で載置台3及び基板Sに対して離間した状態で配置され、基板Sの表面に塗布された有機材料膜から揮発した溶媒を吸着する。溶媒吸着シート200を用いて処理容器1内の溶媒を吸着することによって、雰囲気中の溶媒濃度を低下させ、有機材料膜からの溶媒の揮発を促すとともに、処理容器1の内壁への溶媒の付着量を低減できる。
【0041】
ベース樹脂層201は、樹脂材料によって構成されている。ベース樹脂層201を構成する樹脂材料としては、溶媒吸収層202を支持するとともに、溶媒吸着シート200に可撓性を付与できるものであれば特に制限はない。また、ベース樹脂層201は、有機材料膜中に含まれる溶媒との親和性が低く、溶媒を浸透させにくい性質を有するものが好ましい。ベース樹脂層201の好ましい材質として、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PI(ポリイミド)などを挙げることができる。
【0042】
溶媒吸収層202は、有機材料膜から揮発した溶媒に対する吸着性を有する充填材203を、溶媒浸透性樹脂204によって固定した構造を有している。充填材203としては、有機溶媒に対する吸着性を有するものであれば特に制限はない。充填材203の好ましい材質して、例えば多孔質シリカ、多孔質アルミナなどの多孔質セラミックスのほか、ゼオライト、カルボキシメチルセルロース、活性炭などを挙げることができる。これらの中でも、比表面積の大きなものが好ましく、多孔質シリカの微粒子を用いることが最も好ましい。充填材203を形成する微粒子は、球形でもよいが、
図2に示したように、非球形でランダムな形状を有するものが好ましい。
【0043】
充填材203を構成する微粒子の物性について、多孔質シリカを例に挙げて説明する。まず、多孔質シリカの平均粒子径は、溶媒吸収層202の厚みに応じて、例えば50nm以上500μm以下の範囲内から選択することができる。ここで、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により計測されるものとし、多孔質シリカが非球形である場合の粒子径は、長径に基づいて算出される。また、多孔質シリカの空隙率は、溶媒分子の吸着性を高める観点から、例えば40%以上80%以下の範囲内、好ましくは50%以上70%以下の範囲内、最も好ましくは、55%以上65%以下の範囲内とすることができる。
【0044】
溶媒浸透性樹脂204は、充填材203を埋包した状態で保持する。溶媒浸透性樹脂204は、充填材203を安定して保持する機能を有するとともに、有機材料膜から揮発した溶媒に対して親和性を有し、溶媒を浸透させ得るものであれば特に制限はない。溶媒浸透性樹脂204の好ましい材質として、例えばPVA(ポリビニルアルコール)、ポリビニルピロリドン、水性高分子イソシアネートなどの樹脂材料を用いることができる。これらの中でも、充填材203を保持する機能に優れ、溶媒の浸透性も高いPVA(ポリビニルアルコール)が最も好ましい。
【0045】
溶媒吸収層202における充填材203の充填量は、溶媒分子の吸着性を高めながら、充填材203の担持性を確保して充填材203に起因するパーティクルの発生を抑制する観点から、例えば溶媒吸収層202全体の50重量%以上とすることが好ましく、50重量%以上90重量%以下の範囲内がより好ましい。
【0046】
溶媒吸着シート200は、ベース樹脂層201上に、充填材203と溶媒浸透性樹脂204の混合物を塗布し、均一な厚みになるように展延することによって形成できる。溶媒吸着シート200の厚みは、可撓性を損なわない限り特に制限はないが、例えば0.1mm以上5mm以下の範囲内が好ましい。また、ベース樹脂層201と溶媒吸収層202の厚みの比率は、溶媒吸着シート200全体の可撓性や、充填材203の保持安定性を考慮して適宜決定することができる。
【0047】
溶媒吸着シート200の特に好ましい態様として、例えば、ベース樹脂層201としてPET(ポリエチレンテレフタレート)製のフィルムを、充填材203として空隙率60%前後の多孔質シリカを、溶媒浸透性樹脂204としてPVA(ポリビニルアルコール)を、それぞれ用いたものを挙げることができる。
【0048】
溶媒吸着シート200は、溶媒吸収層202が基板Sに対向するように配置することが好ましい。溶媒吸着シート200では、溶媒吸収層202の表面202a(ベース樹脂層201が形成されていない側)から溶媒浸透性樹脂204に溶媒が浸透していき、埋包された充填材203に吸着されることによって、溶媒を捕集する。
図2では、例示として、溶媒を吸着した状態の充填材203を黒塗りで示している。溶媒は、一旦、充填材203に吸着されると、周囲に溶媒浸透性樹脂204が存在するため、常温では、溶媒吸着シート200から外部へ漏れ出すことが抑制される。このように、溶媒浸透性樹脂204は、パーティクルの発生原因とならないように吸着材203を安定的に担持する機能と、溶媒吸収層202の表面202a側から溶媒を速やかに浸透させて充填材203へ導く機能と、充填材203に吸着された溶媒が外部へ再拡散することを抑制するバリア機能と、を有している。従って、溶媒吸着シート200を処理容器1内に配備することによって、処理容器1内の溶媒濃度をほぼ不可逆的に低減することが可能になり、基板S上の有機材料膜からの溶媒の揮発を促進できる。なお、溶媒吸収層202は、ベース樹脂層201の両側に、それぞれベース樹脂設けてもよい。
【0049】
溶媒吸着シート200は、短冊状もしくは長尺に形成できる。溶媒吸着シート200の幅及び長さは、基板Sの幅及び長さ以上とすることが好ましい。
図3は、溶媒吸着シート200を長尺に形成する場合の好ましい態様における要部を示す平面図である。
図3では、参考のため、基板Sの大きさを溶媒吸着シート200に投影して破線で示している。溶媒吸着シート200を長尺に形成することによって、
図1に示すように、ロール・トウ・ロール方式で基板Sに対向する位置に供給し、かつ回収することが可能となる。すなわち、溶媒吸着シート200を長尺に形成し、
図3中、白矢印で示す方向に連続的又は間欠的に移動させることによって、1枚の溶媒吸着シート200を、基板Sを入れ替えに応じて部位を変えながら、複数の基板Sに対して適用できる。使用済みの溶媒吸着シート200は、例えば熱処理によって溶媒を除去して再利用を図ることも可能であるが、そのまま廃棄してもよい。
【0050】
図3では、溶媒吸着シート200に、所定の間隔で溶媒保持部としてのギャザー205を設けた態様を示している。ギャザー205は、例えば溶媒吸着シート200を強制的に折り曲げて形成したシワである。ギャザー205は、例えばロール・トウ・ロール方式で溶媒吸着シート200を使用する場合に、巻き取り側(
図1における第2のロール保持部51Bの芯部材55B)において、吸着された溶媒が液漏れしないように、溶媒保持力を高める機能を有している。なお、溶媒保持部として、ギャザー205に代えて、溶媒保持能力の高い繊維材料などを所定の間隔で溶媒吸着シート200に装着したり、部分的に溶媒吸収層202の厚みを大きくしたりしてもよい。
【0051】
<圧力制御機構>
本実施の形態の乾燥装置100は、さらに排気装置19を備えている。なお、排気装置19は、乾燥装置100の一構成部分でもよいし、乾燥装置100とは別の外部の装置でもよい。排気装置19は、例えば、ターボ分子ポンプやドライポンプ等の真空ポンプを有している。乾燥装置100は、更に、排気口11aと排気装置19とを接続する排気管17と、排気管17の途中に設けられたAPC(Adaptive Pressure Control)バルブ23と、を備えている。排気装置19の真空ポンプを作動させるとともに、APCバルブ23の開度を調節することにより、処理容器1の内部空間を所定の真空度に減圧排気することができる。なお、APCバルブ23は、1つのマスタバルブと複数のスレーブバルブにより構成され、各スレーブバルブは、マスタバルブに連動して作動する。
【0052】
また、本実施の形態の乾燥装置100は、さらに処理容器1内の圧力を監視するための圧力計25を備えている。圧力計25は、処理容器1内の計測圧力を電気信号として上記マスタバルブのAPCバルブ23に送信する。
【0053】
本実施の形態では、排気装置19、排気管17、APCバルブ23及び圧力計25によって処理容器1内を減圧排気するとともに所定圧力に調節する圧力制御機構を構成している。
【0054】
<ガス供給機構>
本実施の形態の乾燥装置100は、処理容器1内へガスを供給するガス供給装置27を備えている。なお、ガス供給装置27は、乾燥装置100の一構成部分でもよいし、乾燥装置100とは別の外部の装置でもよい。処理容器1の天井部15には、ガス導入部15aが設けられている。ガス導入部15aには、ガス供給装置27が接続されている。ガス導入部15aは天井部15以外の位置、例えば側壁13などに設けてもよい。ガス供給装置27は、ガス導入部15aへガスを供給するガス供給源29と、ガス供給源29とガス導入部15aとを接続し、ガス導入部15aへガスを供給する一本又は複数本の配管31(1本のみ図示)を備えている。ガス導入部15aには、図示しないノズルやシャワーヘッドが設けられていてもよい。また、ガス供給装置27は、配管31の途中に、ガス流量を制御するマスフローコントローラ(MFC)33と、複数の開閉バルブ35(2つのみ図示)を備えている。ガス導入部15aから処理容器1内に導入されるガスの流量等は、マスフローコントローラ33および開閉バルブ35によって制御される。ガス供給源29から供給するガスとしては、例えば、酸素ガス、オゾンガスなどの酸化性ガス、アルゴンガスなどのプラズマ形成用の不活性ガス、窒素ガス、ドライエアなどの置換用ガスを用いることが好ましい。
【0055】
<制御部>
図1に示したように、乾燥装置100の各構成部は、制御部6に接続されて制御される構成となっている。制御部6は、CPUを備えたコントローラ61と、ユーザーインターフェース62と記憶部63とを備えている。コントローラ61は、コンピュータ機能を有しており、乾燥装置100において、各構成部を統括して制御する。ユーザーインターフェース62は、工程管理者が乾燥装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、乾燥装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等から構成される。記憶部63には、乾燥装置100で実行される各種処理をコントローラ61の制御にて実現するための制御プログラム(ソフトウエア)や処理条件データ等が記録されたレシピが保存されている。ユーザーインターフェース62および記憶部63は、コントローラ61に接続されている。
【0056】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース62からの指示等にて任意のレシピを記憶部63から呼び出してコントローラ61に実行させることで、コントローラ61の制御下で、乾燥装置100での所望の処理が行われる。前記制御プログラムや処理条件データ等のレシピは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体、例えばCD−ROM、ハードディスク、フレキシブルディスク、フラッシュメモリなどに格納された状態のものを利用できる。あるいは、他の装置から、例えば専用回線を介して随時伝送させてオンラインで利用したりすることも可能である。
【0057】
次に、
図4〜
図9を参照しながら、第1の実施の形態の変形例について説明する。上記のとおり、基板Sの面内において、中央部分では有機材料膜の乾燥が遅くなる傾向があり、エッジ部分では有機材料膜の乾燥が早くなる傾向がある。以下に示す第1〜第3の変形例では、溶媒吸着シート200を用いて基板Sの面内で、より均一に乾燥が進むように工夫をしている。
【0058】
[第1の変形例]
図4は、第1の変形例の乾燥装置100の要部を示す図面である。
図5は、本変形例において、処理容器1内部を天井部15側から見た状態を示している。
【0059】
本変形例の乾燥装置100では、シート支持部5に支持された溶媒吸着シート200を基板S側へ向けて押圧する押圧部材として、コロ70を備えている。コロ70は、天井部15に固定された、上下方向に伸縮可能なアーム71によって、回転可能に支持されている。そして、アーム71を延伸させてコロ70を溶媒吸着シート200の上面へ押し付けることによって、溶媒吸着シート200の中央部分を基板S側へ近接させることができる。すなわち、コロ70を用いることによって、相対的に、基板Sの中央部分との距離が小さく、基板Sのエッジ部分との距離が大きくなるように、溶媒吸着シート200を撓ませた状態を作り出すことができる。
図5では、溶媒吸着シート200の撓みを破線の矢印で示している。溶媒吸着シート200との距離が相対的に小さな基板Sの中央部分では、エッジ部に比べて、有機材料膜から揮散した溶媒を吸着しやすくなる。このように、基板Sの中央部分に溶媒吸着シート200を近接させることによって、基板Sの中央部分の有機材料膜からの溶媒の揮発をエッジ部に比べて促し、基板Sの面内で均一な乾燥を実現できる。
【0060】
本変形例における他の構成は、
図1の乾燥装置100と同じであるため、同じ構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
[第2の変形例]
図6は、第2の変形例の乾燥装置100の要部を示す図面である。
図7は、本変形例において、処理容器1内部を天井部15側から見た状態を示している。本変形例の乾燥装置100では、溶媒吸着シート200と基板Sとの間に、溶媒吸着シート200への溶媒の吸着量を調節する吸着量調節板としてのプレート73を備えている。プレート73は、第1のロール保持部51Aの支柱53A及び第2のロール保持部51Bの支柱53Bから、それぞれ斜め下方に向けて設置されたアーム57A及び57Bによって支持されている。また、プレート73は、載置台3に載置された基板Sの上面に対して略平行に、かつ離間した状態で配置されている。本変形例において、プレート73は、例えば基板Sの中央部分に対応する位置に貫通した開口73aを有している。プレート73の開口73aによって、溶媒吸着シート200と基板Sが直接向き合う基板Sの中央部分では、有機材料膜から揮散した溶媒を効率良く溶媒吸着シート200に吸着させることができる。一方、基板Sのエッジ部では、溶媒吸着シート200と基板Sとの間に介在するプレート73が邪魔板の役割を果たし、溶媒吸着シート200への溶媒の吸着が抑制される。その結果、基板Sの中央部分の有機材料膜からの溶媒の揮発をエッジ部に比べて促し、基板Sの面内で均一な乾燥を実現できる。
【0062】
本変形例における他の構成は、
図1の乾燥装置100と同じであるため、同じ構成には同一の符号を付して説明を省略する。なお、吸着量調節板としては、中央部に開口73aを有するプレート73に限らず、例えば格子状、網目状などの形状において、基板Sの中央部分に対応する部位の開口率が大きくなるように、開口率を変化させるようにしてもよい。
【0063】
[第3の変形例]
図8は、第3の変形例の乾燥装置100の要部を示す図面である。
図9は、本変形例において、処理容器1内部を天井部15側から見た状態を示している。本変形例の乾燥装置100では、シート支持部5に支持された溶媒吸着シート200に向けて気化した溶媒を噴霧する溶媒噴霧部75を備えている。溶媒噴霧部75は、溶媒を噴霧するノズル部77と、溶媒貯留部79と、ノズル部77から溶媒貯留部79までを接続する配管81とを備えている。なお、配管81には、図示しないバルブや気化器などを備えていてもよい。
【0064】
溶媒噴霧部75は、第1のロール保持部51Aから第2のロール保持部51Bへ向けて供給される溶媒吸着シート200において、基板Sとの対向部位よりも供給方向の上流側に溶媒を噴霧できる位置に設けられている。本変形例では、溶媒噴霧部75は、溶媒吸着シート200の幅方向の両端付近に一つずつ配置されており、長尺な溶媒吸着シート200のエッジ部分へ向けて溶媒を噴霧する。
【0065】
溶媒噴霧部75は、例えば、基板Sの有機材料膜から揮発する溶媒と同種もしくは異種の溶媒を噴霧する。上記のとおり、基板Sのエッジ部分は、中央部分に比べて溶媒の揮発が早く、有機材料膜の乾燥が早く進行する傾向がある。本変形例では、基板Sのエッジ部分に対応する溶媒吸着シート200のエッジ部分に予め溶媒を噴霧しておくことによって、基板Sのエッジ部分の有機材料膜からの溶媒の吸着が抑制される。その結果、基板Sのエッジ部分の有機材料膜からの溶媒の揮散自体が抑制され、基板Sの面内での乾燥速度の相違が縮小され、均一な乾燥状態を実現できる。
【0066】
有機材料膜を形成するためのインクは、溶質と溶媒からなり、乾燥処理の対象となる成分は主に溶媒である。溶媒に含まれる有機化合物としては、高沸点のものが多く、例えば、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(1,3-dimethyl-2-imidazolidinone、沸点220℃、融点8℃)、4−tert-ブチルアニソール(4-tert-Butylanisole、沸点222℃、融点18℃)、Trans−アネトール(Trans-Anethole、沸点235℃、融点20℃)、1,2−ジメトキシベンゼン(1,2-Dimethoxybenzene、沸点206.7℃、融点22.5℃)、2−メトキシビフェニル(2-Methoxybiphenyl、沸点274℃、融点28℃)、フェニルエーテル(Phenyl Ether、沸点258.3℃、融点28℃)、2−エトキシナフタレン(2-Ethoxynaphthalene、沸点282℃、融点35℃)、ベンジルフェニルエーテル(Benzyl Phenyl Ether、沸点288℃、融点39℃)、2,6−ジメトキシトルエン(2,6-Dimethoxytoluene、沸点222℃、融点39℃)、2−プロポキシナフタレン(2-Propoxynaphthalene、沸点305℃、融点40℃)、1,2,3−トリメトキシベンゼン(1,2,3-Trimethoxybenzene、沸点235℃、融点45℃)、シクロヘキシルベンゼン(cyclohexylbenzene、沸点237.5℃、融点5℃)、ドデシルベンゼン(dodecylbenzene、沸点288℃、融点-7℃)、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン(1,2,3,4-tetramethylbenzene、沸点203℃、融点76℃)等を挙げることができる。これらの高沸点有機化合物は、2種以上が組み合わされてインク中に配合されている場合もある。溶媒噴霧部75から噴霧する溶媒は、有機材料膜中に含まれる高沸点有機化合物と同種のものを含む溶媒が好ましいが、有機材料膜中に含まれる高沸点有機化合物とは異なる種類のものを含む溶媒であってもよい。
【0067】
本変形例における他の構成は、
図1の乾燥装置100と同じであるため、同じ構成には同一の符号を付して説明を省略する。なお、本変形例において、ノズル部77の配置は、溶媒吸着シート200の幅方向に2つに限らず、1つでもよいし、3つ以上でもよい。また、ノズル部77を溶媒吸着シート200の幅方向の中央付近に設けることもできる。
【0068】
[乾燥処理の手順]
以上のように構成された乾燥装置100を用いる乾燥処理の手順について説明する。まず、前段階として、外部のインクジェット印刷装置(図示省略)で基板S上に有機材料膜を所定のパターンで印刷する。次に、ゲートバルブGVを開放し、有機材料膜が印刷された基板Sを外部の搬送装置(図示省略)によって乾燥装置100の載置台3へ受け渡す。
【0069】
次に、乾燥装置100のゲートバルブGVを閉じ、排気装置19を作動させて処理容器1内を減圧排気する。そして、圧力計25によって処理容器1内の圧力をモニタしながら、APCバルブ23の開度をコントロールして所定の真空度まで減圧する。このようにして、基板S上に形成された有機材料膜中に含まれる溶媒を除去する乾燥処理を実施することができる。乾燥処理の間は、シート支持部5によって、溶媒吸着シート200を基板Sと離間させた状態で配置する。溶媒吸着シート200は、その溶媒吸収層202が基板Sの上面(有機材料膜形成面)に対向するよう配置される。溶媒吸着シート200によって、基板Sの有機材料膜から揮散した溶媒を速やかに吸着し、雰囲気中の溶媒濃度を低下させて有機材料膜からの溶媒の揮発を促すことができる。また、処理容器1の内壁への溶媒の付着も抑制できる。さらに、溶媒吸着シート200を第1から第3の変形例(
図4〜
図9参照)に示す態様で適用することによって、基板Sの面内で、より均一な乾燥処理を行うことができる。
【0070】
所定時間が経過したら、排気装置19を停止し、処理容器1内を所定圧力まで昇圧した後、乾燥装置100のゲートバルブGVを開放し、外部の搬送装置(図示省略)によって基板Sを処理容器1から搬出する。以上の手順によって、1枚の基板Sに対する乾燥処理が終了する。
【0071】
乾燥処理が終了し、基板Sが搬出された処理容器1内には、基板S上の有機材料膜から揮発した溶媒が残留している。特に、処理容器1の内壁面には、溶媒が付着している。このように溶媒が付着した状態では、次以降の基板Sの乾燥処理を行う際に、処理容器1内のコンディションを一定に維持することが困難になる。そこで、乾燥処理が終了した基板Sを搬出した後、さらに、溶媒吸着シート200を使用して処理容器1内に残留した溶媒を吸着することもできる。
【0072】
以上のように、本実施の形態の乾燥装置100は、シート支持部5を備えており、そこに溶媒吸着シート200を配備することによって、基板Sの乾燥処理を速やかに行うことができる。従って、乾燥装置100では、一枚の基板Sに対する乾燥処理だけでなく、複数の基板Sを交換しながら乾燥処理する際にも、スループットを大幅に向上させることができる。また、複数枚の基板Sを順次入れ替えて処理する際に、処理容器1内を同じコンディションに整えて、安定した乾燥処理を行うことも可能になり、例えば有機ELディスプレイなどの製品の信頼性も向上させることができる。
【0073】
[有機EL素子の製造プロセスへの適用例]
有機EL素子の製造は、陽極と陰極との間に、EL層として、複数の有機機能膜を形成する。本実施の形態の乾燥装置100は、どのような積層構造の有機EL素子の製造にも適用できる。ここでは、EL層として、陽極側から陰極側へ向けて、正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層を有する有機EL素子を製造する場合を例に挙げて、乾燥装置100による具体的な処理を説明する。
【0074】
図10に、有機EL素子の製造工程の概略を示した。本例において、有機EL素子は、STEP1〜STEP8の工程によって製造される。STEP1では、基板S上に、例えば蒸着法などによって所定のパターンで陽極(画素電極)を形成する。次にSTEP2では、陽極の間に、絶縁物による隔壁(バンク)をフォトリソグラフィー法で形成する。隔壁を形成するための絶縁材料としては、例えば感光性ポリイミド樹脂などの高分子材料を用いることができる。
【0075】
次に、STEP3では、STEP1で形成された陽極の上に、正孔注入層を形成する。まず、インクジェット印刷法によって、各隔壁によって区画された陽極の上に、正孔注入層の材料となる有機材料を印刷する。次に、このように印刷された有機材料膜に対し、乾燥装置100を用い、溶媒除去のための減圧乾燥処理を行う。次に、乾燥処理後の基板Sをベーク装置に移送し、大気中でのベーク処理を行うことにより、正孔注入層を形成する。
【0076】
次に、STEP4では、STEP3で形成された正孔注入層の上に、正孔輸送層を形成する。まず、インクジェット印刷法によって、正孔注入層の上に、正孔輸送層の材料となる有機材料を印刷する。このように印刷された有機材料膜に対し、乾燥装置100を用い、溶媒除去のための減圧乾燥処理を行う。次に、乾燥処理後の基板Sをベーク装置に移送し、大気中でのベーク処理を行うことにより、正孔輸送層を形成する。
【0077】
次に、STEP5では、STEP4で形成された正孔輸送層の上に、発光層を形成する。まず、インクジェット印刷法によって、正孔輸送層の上に、発光層の材料となる有機材料を印刷する。このように印刷された有機材料膜に対し、乾燥装置100を用い、溶媒除去のための減圧乾燥処理を行う。次に、乾燥処理後の基板Sをベーク装置に移送し、大気中でのベーク処理を行うことにより、発光層を形成する。なお、発光層が複数層からなる場合、上記処理が繰り返される。
【0078】
次に、発光層の上に、例えば蒸着法によって、電子輸送層(STEP6)、電子注入層(STEP7)及び陰極(STEP8)を順次形成することによって、有機EL素子が得られる。また、インクジェット印刷法によって電子輸送層(STEP6)、電子注入層(STEP7)を形成することもできる。
【0079】
このような有機EL素子の製造プロセスにおいて、乾燥装置100は、STEP3(正孔注入層形成)、STEP4(正孔輸送層形成)、STEP5(発光層形成)、STEP6(電子輸送層形成)、及びSTEP7(電子注入層形成)に好ましく適用できる。すなわち、インクジェット印刷法によって、各層の前段階である有機材料膜を印刷した後、乾燥装置100を使用して有機材料膜に対する減圧乾燥処理を行うことができる。ここで、乾燥装置100はシート支持部5を備えており、有機材料膜から揮発した溶媒を吸着する溶媒吸着シート200を処理容器1に配置して乾燥処理を行うことができるので、乾燥処理の効率が高まるとともに、基板Sの面内での有機材料膜の乾燥状態を均一化することができる。さらに、溶媒吸着シート200を利用することによって、基板Sの乾燥処理によって処理容器1内に付着した溶媒の除去(リフレッシュ処理)も短時間で確実に行うことができる。従って、乾燥装置100では、一枚の基板Sを処理する場合だけでなく、複数の基板Sを繰り返し処理する場合に、スループットを大幅に向上させることができる。また、乾燥処理の確実性が高くなり、例えば有機ELディスプレイなどの製品の信頼性も向上させることができる。
【0080】
以上のように、乾燥装置100を用いることによって、有機EL素子の製造プロセスにおいて、EL層を形成するために必要な乾燥工程を高スループットで効率良く行うことができる。
【0081】
[第2の実施の形態]
次に、
図11から
図13を参照しながら、本発明の第2の実施の形態の乾燥装置について説明する。
図11は、第2の実施の形態に係る乾燥装置101の概略構成を示す断面図である。第1の実施の形態の乾燥装置100との主な相違点として、本実施の形態の乾燥装置101では、基板Sを搬送可能に保持する基板ホルダ90を使用するとともに、この基板ホルダ90に可撓性の溶媒吸着シート200を装着できるように構成している。以下、第1の実施の形態の乾燥装置100との相違点を中心に説明し、本実施の形態の乾燥装置101において、第1の実施の形態と同じ構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0082】
本実施の形態の乾燥装置101は、真空引き可能な処理容器1と、処理容器1内で基板ホルダを支持するホルダ支持部としての載置台3Aと、制御部6とを備えている。載置台3Aは、一つ又は複数の基板ホルダ90を載置できるように構成されている。
図11では4つの基板ホルダ90が積層された状態で載置されている。基板ホルダ90は、基板Sの表面に塗布された有機材料膜中の溶媒を除去して乾燥させる乾燥処理に用いられる。
【0083】
図12は、本実施の形態で使用される基板ホルダ90の側面図であり、
図13は同正面図である。
図12及び
図13では、基板Sを保持するとともに、溶媒吸着シート200を支持した状態の基板ホルダ90を示している。
【0084】
基板ホルダ90は、基板Sを保持する基板保持部材91と、溶媒吸着シート200を支持するシート支持部材93と、を備えている。シート支持部材93は、溶媒吸着シート200を基板保持部材91に保持された基板Sに対向するように支持する。
【0085】
基板保持部材91は、板状の基部91aと、この基部91aから所定間隔で立ち上がる複数の支持部91bとを備えている。支持部91bは、基板Sの幅方向の両端付近を支持できるように、基部91aの幅方向の左右両端に設けられている。基部91aの上面の高さは、支持部91bの高さに比べて低く、段差91cが形成されている。この段差91cを利用して、左右の支持部91bの間に、図示しない搬送装置のピックを挿入し、基板Sを支持部91bに載置し、あるいは支持部91bに載置された基板Sを取り出すことができる。また、基部91aの底には、凹部91a1が形成されている。凹部91a1は、後述するシート支持部材93の柱状部93aに対応して設けられている。
【0086】
シート支持部材93は、基板保持部材91の複数の支持部91bからそれぞれ立ち上がる柱状部93aと、これらの柱状部93aから水平方向に延びた支持板93bとを備えている。支持板93bは、溶媒吸着シート200の幅方向の両端付近を支持できるように、基板保持部材91の幅方向の左右両側に対をなして設けられている。支持板93bは、溶媒吸着シート200を固定するために、例えばフック、クリップ、粘着材などの固定手段を備えていてもよい。シート支持部材93は、基板保持部材91に保持された基板Sに対して所定の間隔を開けて、溶媒吸着シート200を支持する。本実施の形態で使用される溶媒吸着シート200は、短冊状であり、その溶媒吸収層202の表面202aが基板Sの上面(有機材料膜形成面)に対して向き合うようにシート支持部材93に支持される。このとき、溶媒吸着シート200は可撓性を有するため、例えば
図13に示したように、支持板93bに支持された左右両端付近に比べ、中央部が低くなるように撓ませた状態で配備することができる。
【0087】
基板ホルダ90は、
図11に示しように、複数段に重ねて積層することができる。基板ホルダ90を複数段に積層する場合は、下段の基板ホルダ90におけるシート支持部材93の柱状部93aの先端を、上段の基板ホルダ90における基部91aの底に形成された凹部91a1に嵌め込んで位置決めする。このように位置決めした状態で基板ホルダ90を多段に積層することによって、基板ホルダ90どうしの位置ずれや落下を防止することができる。
【0088】
基板ホルダ90は、基板Sを保持した状態で、処理容器1内へ搬入され、又は、処理容器1外へ搬出されるものである。基板ホルダ90の搬入、搬出は、複数の基板ホルダ90を多段に重ねた状態で行うことができる。
【0089】
[乾燥処理の手順]
以上のように構成された乾燥装置101を用いる乾燥処理の手順について説明する。まず、前段階として、外部のインクジェット印刷装置(図示省略)で基板S上に有機材料膜を所定のパターンで印刷する。次に、基板ホルダ90の基板保持部材91によって有機材料膜が印刷された基板Sを保持した後、短冊状の溶媒吸着シート200をシート支持部材93に装着する。このように基板Sを保持し、かつ、溶媒吸着シート200を装着した基板ホルダ90を多段に重ねる。そして、ゲートバルブGVを開放し、多段に重ねた基板ホルダ90を外部の搬送装置(図示省略)によって乾燥装置101の載置台3Aへ受け渡す。
【0090】
次に、乾燥装置101のゲートバルブGVを閉じ、排気装置19を作動させて処理容器1内を減圧排気する。そして、圧力計25によって処理容器1内の圧力をモニタしながら、APCバルブ23の開度をコントロールして所定の真空度まで減圧する。このようにして、基板S上に形成された有機材料膜中に含まれる溶媒を除去する乾燥処理を実施することができる。乾燥処理の間は、各基板ホルダ90において、溶媒吸着シート200の溶媒吸収層202が基板Sの上面(有機材料膜形成面)に対向するよう配置される。溶媒吸着シート200によって、各基板Sの有機材料膜から揮散した溶媒を速やかに吸着し、雰囲気中の溶媒濃度を低下させて有機材料膜からの溶媒の揮発を促すことができる。また、処理容器1の内壁への溶媒の付着も抑制できる。
【0091】
所定時間が経過したら、排気装置19を停止し、処理容器1内を所定圧力まで昇圧した後、乾燥装置101のゲートバルブGVを開放し、外部の搬送装置(図示省略)によって多段に重ねた基板ホルダ90を処理容器1から搬出する。以上の手順によって、複数枚の基板Sに対する乾燥処理が終了する。
【0092】
以上のように、本実施の形態の乾燥装置101は、基板S枚に溶媒吸着シート200を装着した基板ホルダ90を利用することによって、複数枚の基板Sに対し同時に乾燥処理を行うことができる。従って、乾燥装置101では、複数の基板Sを乾燥処理する際のスループットを大幅に向上させることができる。また、複数枚の基板Sに対して、安定した乾燥処理を行うことが可能になり、例えば有機ELディスプレイなどの製品の信頼性も向上させることができる。
【0093】
本実施の形態における他の構成及び効果は、第1の実施の形態と同様である。また、乾燥装置101は、第1の実施の形態と同様に、有機EL素子の製造プロセスへの適用が可能である。なお、本実施の形態の乾燥装置101は、基板ホルダ90を複数段積層して一括処理する場合に限らず、例えば、1つの基板ホルダ90のみを処理容器1内に搬入して乾燥処理を行ってもよい。また、基板ホルダ90は、
図11〜
図13に例示した構成に限るものではなく、同等の機能を有するものであれば種々の変形が可能である。
【0094】
[第3の実施の形態]
次に、
図14を参照しながら、本発明の第3の実施の形態の乾燥装置について説明する。
図14は、第3の実施の形態に係る乾燥装置102の概略構成を示す断面図である。第1の実施の形態の乾燥装置100との主な相違点として、本実施の形態の乾燥装置102では、基板Sを水平方向に載置する載置台3に代えて、基板Sを鉛直方向に支持する基板支持部3Bを有するとともに、基板支持部3Bによって支持された縦置きの基板Sに対して平行に溶媒吸着シート200を装着できるように、シート支持部5を配置している。以下、第1の実施の形態の乾燥装置100との相違点を中心に説明し、本実施の形態の乾燥装置102において、第1の実施の形態と同じ構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0095】
本実施の形態の乾燥装置102は、真空引き可能な処理容器1と、処理容器1内で基板Sを支持する基板支持部3Bと、処理容器1内で有機材料膜から揮発した溶媒を吸着する可撓性の溶媒吸着シート200を、基板支持部3Bに対して離間させた状態で配置するシート支持部5と、制御部6とを備えている。
【0096】
<処理容器>
処理容器1は、真空引き可能な耐圧容器である。処理容器1は、金属材料によって形成されている。処理容器1を形成する材料としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス等が用いられる。処理容器1は、底壁11、角筒状の4つの側壁13及び天井部15を備えている。
【0097】
天井部15には、装置内に基板Sを搬入、搬出するための搬入出口15bが設けられている。搬入出口15bは、処理容器1の外部との間で基板Sの搬入出を行うためものである。搬入出口15bには、ゲートバルブGVが設けられている。ゲートバルブGVは、搬入出口15bを開閉する機能を有し、閉状態で処理容器1を気密にシールすると共に、開状態で処理容器1と外部との間で基板Sの移送を可能にする。
【0098】
側壁13には、複数の排気口13cが設けられている。排気口13cは、排気管17を介して外部の排気装置19に接続されている。この排気装置19を駆動させることによって、処理容器1内を所定の真空度、例えば0.1Pa程度の圧力まで減圧排気できるように構成されている。また、排気口13cが形成された側壁13と対向する他の側壁13には、ガス導入部13bが設けられている。ガス導入部13bには、ガス供給装置27が接続されている。
【0099】
<基板支持部>
処理容器1の内部には、基板Sを支持する基板支持部3Bが配備されている。基板支持部3Bは、側壁13に支柱3aを介して固定されている。基板支持部3Bは、基板Sを鉛直方向に縦置きの状態で保持するためのクランプ4を備えている。クランプ4によって、基板Sを基板支持部3Bに安定して保持できる。
【0100】
<シート支持部>
本実施の形態の乾燥装置102において、シート支持部5は、処理容器1内で有機材料膜から揮発した溶媒を吸着する可撓性の溶媒吸着シート200を支持する。本実施の形態において、シート支持部5は、未使用の溶媒吸着シート200を巻回した第1のロール保持部51Aと、処理容器1内の雰囲気に曝した溶媒吸着シート200を巻取る第2のロール保持部51Bと、を備えている。第1のロール保持部51A及び第2のロール保持部51Bは、基板支持部3Bによって支持された縦置きの基板Sに対して平行に溶媒吸着シート200を装着できるように、側壁13に固定されている。
【0101】
本実施の形態の乾燥装置102では、基板Sを縦置き可能な基板支持部3Bと、基板Sに対して平行に溶媒吸着シート200を装着できるシート支持部5とを備えていることによって、万一、基板Sの有機材料膜形成面と対向して配置される溶媒吸着シート200から溶媒やパーティクルが落下しても、基板Sへの付着が防止される。従って、基板Sへのパーティクル汚染の心配がない乾燥処理を行うことが可能になり、例えば有機ELディスプレイなどの製品の信頼性も向上させることができる。
【0102】
本実施の形態における他の構成及び効果は、第1の実施の形態と同様である。また、乾燥装置102には、第1の実施の形態と同様に、第1から第3の変形例(
図4〜
図9参照)を適用できる。また、乾燥装置102は、第1の実施の形態と同様に、有機EL素子の製造プロセスへの適用が可能である。
【0103】
[試験例]
次に、溶媒吸着シート200による効果を確認した試験結果について説明する。シート支持部5を有しない点以外は、
図1の乾燥装置100と同様の構成の乾燥装置において、処理容器1内に短冊状の溶媒吸着シート200を2枚横に並べて配備し、基板S上の有機材料膜の乾燥処理を行った。2枚の溶媒吸着シート200の合計面積は、基板Sの面積よりも大きくなるようにした。
【0104】
溶媒吸着シート200は、天井部15の内壁面に張り付けるか、あるいは、支持具を用いて載置台3に載置された基板Sと平行になるように配備した。この試験では、載置台3の基板載置面と溶媒吸着シート200との距離(ギャップ)を、25mm(実施例1)又は5mm(実施例2)に設定した。なお、比較例として、溶媒吸着シート200を配備しない場合についても同様の条件で乾燥処理を実施した。比較例における載置台3の基板載置面から天井部15までの距離は25mmとした。
【0105】
乾燥処理は、異なる種類の溶媒を含有するインクA、インクB、インクCをそれぞれ基板S上に塗布したものをサンプルとし、インク毎に乾燥処理が完了するまでに時間を、基板Sの中央部とエッジ部で測定した。その結果を
図15に示した。
図15より、溶媒吸着シート200を配備することによって、実施例1、2ともに、比較例に比べて、乾燥完了までの時間が短縮されたことがわかる。例えば、インクAでは、比較例に比べ、実施例1の乾燥処理時間が、基板Sのエッジ部で約25%、中央部で約35%も短縮されていた。また、インクBでは、比較例に比べ、実施例2の乾燥処理時間が、基板Sのエッジ部で約13%、中央部で約35%も短縮されていた。さらに、インクCでは、比較例に比べ、実施例1の乾燥処理時間が、基板Sのエッジ部で約17%、中央部で約40%も短縮されていた。
【0106】
また、溶媒吸着シート200を配備することによって、基板Sの中央部とエッジ部における乾燥時間の差異が大幅に縮小された。
【0107】
以上の結果から、溶媒吸着シート200を処理容器1内に配備して乾燥処理を行うことによって、基板S上の有機材料膜の乾燥時間を短縮できるとともに、基板Sの面内での乾燥速度を均一化できることが確認された。
【0108】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。例えば、有機EL素子の製造工程は、
図10に例示したものに限らない。例えば、EL層が陽極側から陰極側へ向けて、[正孔輸送層/発光層/電子輸送層]や、[正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層]などの順に積層された構造を有している有機EL素子の製造においても、同様に本発明の乾燥装置100,101,102を適用できる。