(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記組成式におけるCoの20原子%以下が、Ni、V、Cr、Mn、Al、Si、Ga、Nb、Ta、およびWからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素Aで置換されている、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の永久磁石。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の永久磁石について説明する。この実施形態の永久磁石は、
組成式:R(Fe
pM
qCu
rC
tCo
1−p−q−r−t)
z …(1)
(式中、Rは希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素、MはTi、ZrおよびHfからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素、pは0.27≦p≦0.45を満足する数(原子比)、qは0.01≦q≦0.05を満足する数(原子比)、rは0.01≦r≦0.1を満足する数(原子比)、tは0.002≦t≦0.03を満足する数(原子比)、zは6≦z≦9を満足する数(原子比)である)
で表される組成と、Th
2Zn
17型結晶相を含む主相、および30原子%以上のM元素濃度を有するM元素の副相を備える金属組織とを具備する。
【0009】
組成式(1)において、R元素としてはイットリウム(Y)を含む希土類元素から選ばれる少なくとも1つの元素が使用される。R元素は、いずれも永久磁石に大きな磁気異方性をもたらし、高い保磁力を付与する元素である。R元素としては、サマリウム(Sm)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、およびプラセオジム(Pr)から選ばれる少なくとも1つを用いることが好ましく、特にSmを使用することが望ましい。R元素の50原子%以上がSmであることによって、永久磁石の性能、とりわけ保磁力を高めることができる。さらに、R元素の70原子%以上がSmであることが望ましい。
【0010】
R元素は、R元素とそれ以外の元素(Fe、Co、M、Cu、C)との原子比が1:6〜1:9の範囲(zの値として6〜9の範囲)となるように含有される。R元素とそれ以外の元素との原子比zが9を超えると、多量のα−Fe相が析出して十分な保磁力が得られない。原子比zが6未満であると、飽和磁化の低下が著しくなる。原子比zは6.5以上が好ましく、より好ましくは7以上である。さらに、原子比zは8.5以下が好ましく、より好ましくは8以下である。
【0011】
鉄(Fe)は、主として永久磁石の磁化を担う元素である。Feを多量に含有させることによって、永久磁石の飽和磁化を高めることができる。ただし、Feの含有量が過剰になりすぎると、α−Fe相の析出等により保磁力が低下する。Feの含有量は、R元素以外の元素(Fe、Co、Cu、M、C)の総量を1とした場合の原子比として、0.27≦p≦0.45の範囲である。Feの含有量は0.29≦p≦0.43がより好ましく、さらに好ましくは0.30≦p≦0.40である。
【0012】
M元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、およびハフニウム(Hf)から選ばれる少なくとも1つの元素が用いられる。M元素を含有させることによって、高いFe濃度の組成で大きな保磁力を発現させることができる。M元素の含有量は、R元素以外の元素(Fe、Co、Cu、M、C)の総量を1とした場合の原子比として、0.01≦q≦0.05の範囲である。q値が0.05を超えると磁化の低下が著しい。q値が0.01未満であるとFe濃度を高める効果が小さい。M元素の含有量は0.012≦q≦0.03がより好ましく、さらに好ましくは0.015≦q≦0.025である。
【0013】
M元素はTi、Zr、Hfのいずれであってもよいが、少なくともZrを含むことが好ましい。特に、M元素の50原子%以上がZrであることによって、永久磁石の保磁力を高める効果をさらに向上させることができる。M元素の中でHfはとりわけ高価であるため、Hfを使用する場合においても、その使用量は少なくすることが好ましい。Hfの含有量はM元素の20原子%未満であることが好ましい。
【0014】
銅(Cu)は、永久磁石に高い保磁力を発現させるための元素である。Cuの含有量は、R元素以外の元素(Fe、Co、Cu、M、C)の総量を1とした場合の原子比として、0.01≦r≦0.1の範囲である。r値が0.1を超えると磁化の低下が著しい。r値が0.01未満であると高い保磁力を得ることが困難となる。Cuの含有量は0.02≦r≦0.1がより好ましく、さらに好ましくは0.03≦r≦0.08である。
【0015】
コバルト(Co)は、永久磁石の磁化を担うと共に、高い保磁力を発現させるために必要な元素である。Coを多く含有するとキュリー温度が高くなり、永久磁石の熱安定性も向上する。Coの含有量が少ないとこれらの効果が小さくなる。ただし、永久磁石に過剰にCoを含有させると相対的にFeの含有量が減るため、磁化の低下を招くおそれがある。Coの含有量はp、q、r、tで規定される範囲(1−p−q−r−t)とする。
【0016】
Coの一部は、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、およびタングステン(W)から選ばれる少なくとも1つの元素Aで置換してもよい。これらの置換元素は磁石特性、例えば保磁力の向上に寄与する。ただし、元素AによるCoの過剰な置換は磁化の低下を招くおそれがあるため、元素Aによる置換量はCoの20原子%以下の範囲であることが好ましい。
【0017】
実施形態の永久磁石は、微量の炭素(C)を含有する。Sm−Co系磁石中に微量の炭素を存在させることによって、永久磁石の機械的強度が向上する。炭素の含有量は、R元素以外の元素(Fe、Co、Cu、M、C)の総量を1とした場合の原子比として、0.002≦t≦0.03の範囲である。t値が0.03を超えると炭化物の析出量が過多になり、磁化の低下が著しくなると共に、主相中のM元素量が減少して保磁力が発現しにくくなる。t値が0.002未満であると炭化物の析出量が少なくなりすぎて、十分な機械的強度を得ることが困難になる。炭素の含有量は0.003≦t≦0.02がより好ましく、さらに好ましくは0.004≦t≦0.01である。なお、実施形態の永久磁石は、酸化物等の不可避的不純物を含有することを許容する。
【0018】
実施形態の永久磁石は、式(1)で表される組成を有する焼結体からなる焼結磁石であることが好ましい。Sm−Co系焼結磁石は、Th
2Zn
17型結晶相(2−17相)を含む領域を主相として有している。永久磁石の主相とは、全構成相のうち体積比が最大の相を意味する。主相の体積比は70%以上であることが好ましく、さらに好ましくは90%以上である。
図1に実施形態のSm−Co系磁石の走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)像の一例を示す。Sm−Co系磁石は、
図1に示すように、Sm
2Co
17相の結晶粒からなる主相以外に、結晶粒界を形成する粒界相、M元素の副相(主にM元素の炭化物を含む相)、Sm等のR元素の酸化物相、Sm
2Co
7相のような低融点相等を副相として含んでいる。
【0019】
永久磁石の組成は、ICP(高周波誘導結合プラズマ:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法、SEM−EDX(走査電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法:SEM−Energy Dispersive X−ray Spectroscop)、TEM−EDX(透過電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法:Transmission Electron Microscope−EDX)等により測定することができる。各相の体積比率は、電子顕微鏡や光学顕微鏡による観察とX線回折等とを併用して総合的に判断されるが、永久磁石の断面を撮影した電子顕微鏡写真の面積分析法により求めることができる。永久磁石の断面は、試料の最大面積を有する表面の実質的に中央部の断面を用いるものとする。
【0020】
実施形態の永久磁石において、主相は磁石特性を担う相であり、高温相であるTbCu
7型結晶相(1−7相)を前駆体とし、これに時効処理を施して形成したナノスケールの相分離組織を有している。相分離組織は、Th
2Zn
17型結晶相(2−17相)からなるセル相と、CaCu
5型結晶相(1−5相)等からなるセル壁相と、プレートレット相とから構成されている。相分離後の金属組織は、セル構造と呼ばれる二次構造を有している。セル壁相の磁壁エネルギーはセル相に比べて大きいため、この磁壁エネルギーの差が磁壁移動の障壁となる。Sm−Co系磁石では、磁壁エネルギーの大きいセル壁相がピンニングサイトとして働くことで、磁壁ピニング型の保磁力が発現するものと考えられる。
【0021】
セル壁相は、セル相の境界に板状に存在する相であり、相の幅は数nm〜10nm程度である。セル相とセル壁相との磁壁エネルギーの差は、主にCuの濃度差により生じているものと考えられる。セル壁相のCu濃度がセル相内のCu濃度より高ければ、保磁力が発現するものと考えられる。実施形態の永久磁石において、セル壁相のCu濃度はセル相に対して2倍以上高いことが好ましい。具体例を挙げると、セル相のCu濃度が3原子%程度の試料において、セル壁相のCu濃度は20原子%程度である。
【0022】
プレートレット相は、複数の結晶粒を横断するように存在する板状の相であり、セル相のc軸方向に対して垂直に存在する。このため、1つのドメイン内ではプレートレット相同士は平行に観察される。プレートレット相のM元素濃度は、セル相に対して数倍高いことが好ましい。具体例を挙げると、セル相のZr濃度が1.5原子%程度の試料において、プレートレット相のZr濃度は4.5原子%程度である。プレートレット相は、相分離組織を形成する際の原子の拡散パスの役割を担っていると考えられる。プレートレット相が形成されることで相分離が進行する。プレートレット相はM元素に富むため、主相のM元素濃度を制御することが、Sm−Co系磁石の保磁力を発現させる上で重要となる。
【0023】
Sm−Co系磁石の構成相のうち、粒界相は主相としての結晶粒の周囲に存在する相であって、焼結時に形成される、主相よりも融点の低い相である。粒界相は、主にSm
2Co
7相やSmCo
5相等により構成される。Sm
2Co
7相等の低融点相は、
図1に示すように、結晶粒界から大きく成長することにより形成される。低融点相が金属組織の一部を形成する場合がある。低融点相は、主相よりCu濃度やM元素濃度が高い傾向にある。低融点相は、主相とほぼ同一の元素で構成されるものの、主相よりCuやM元素の濃度が高く、さらに非磁性相である。このため、低融点相が多量に形成されると、主相のCu濃度やM元素濃度の低下を招き、Sm−Co系磁石の保磁力や角型性が低下する。
【0024】
M元素の副相は、主相の結晶粒内や結晶粒界に析出した相であり、主相中の主にM元素(特にZr)が炭素と反応して析出することにより形成される。M元素の副相は、ZrC等のM元素の炭化物を含む。M元素の副相(以下、M炭化物を含む相とも記す。)は、0.5〜5μm程度の直径を有する粒状に析出する。M炭化物を含む相は、ほぼM元素と炭素とから構成され、M元素濃度が30原子%以上である。M炭化物を含む相は、低融点相と同様に非磁性相であるため、これが析出することで磁化の減少を招くと考えられる。さらに、M炭化物を含む相の周辺では、主相中のM元素濃度の低下が起こるため、プレートレット相が形成されにくくなる。このため、主相内の元素の拡散パスが減少し、セル構造が形成されにくくなると共に、セル相とセル壁相のCu濃度差がつきにくくなることが予想される。従って、Sm−Co系磁石の保磁力と角型性の低下を招くと考えられる。M炭化物を含む相が析出すると、その体積以上の領域で磁石特性の低下が起きていると考えられる。ただし、炭素や炭化物相は永久磁石の機械的強度を向上させる成分であるため、炭素や炭化物相を完全に除くことは好ましくない。
【0025】
前述したように、Sm−Co系磁石の磁化を高めるためには、Coの一部をFeで置換すると共に、Fe濃度を高めることが有効である。実施形態のSm−Co系磁石においては、Fe含有量をR元素以外の元素(Fe、Co、Cu、M、C)の総量に対して27〜45原子%の範囲(0.27≦p≦0.45)としている。しかし、Fe濃度が高い組成領域では、Sm−Co系磁石の保磁力が発現しにくくなる傾向にある。保磁力の低下はSm−Co系磁石の(BH)
maxや耐熱性を低下させる要因となる。このような保磁力の低下原因について鋭意検討した結果、Fe濃度が高い組成領域ではM炭化物を含む相が析出しやすくなることを見出した。非磁性のM炭化物を含む相が磁石特性を低下させるだけでなく、その周辺の主相中においても保磁力を発現させるための金属組織、すなわちセル構造を有する相分離組織が形成されにくくなることを見出した。
【0026】
M炭化物を含む相の析出形態について詳細に検討した結果、M炭化物を含む相を空間的に均一に析出させずに、偏析もしくは粗大化させて析出させることによって、保磁力が発現しにくい領域を実質的に減少させることができることを見出した。M炭化物を含む相の析出量が同じであっても、微細な状態で分散して存在されるよりも、偏析もしくは粗大化して存在させる方が、M炭化物を含む相(析出粒)の表面積が小さくなり、主相と接する面積が減少する。すなわち、M炭化物を含む相が主相中のM元素濃度に影響を与える領域を狭めることができる。これによって、高Fe濃度を有するSm−Co系磁石に1400kA/m以上の保磁力を発現させることが可能になる。
【0027】
実施形態のSm−Co系磁石においては、粒状に析出するM炭化物を含む相(析出粒)の面積S(析出面積)に対する周囲長Lの比(以下、L/S比と記す。)を1以上10以下の範囲としている。M炭化物を含む相の周囲長Lは、M炭化物を含む相が主相と接する領域の大きさを示す。M炭化物を含む相の面積Sは、M炭化物を含む相の析出量を示す。析出面積Sに対する周囲長Lの比(L/S比)が10以下であるということは、M炭化物を含む相の析出量に対して、M炭化物を含む相が主相と接する領域が小さいことを意味している。従って、主相中のセル構造を有する相分離組織の比率が増大し、Sm−Co系磁石の保磁力が向上する。L/S比は10以下が好ましく、より好ましは8以下である。ただし、L/S比が1未満であると析出物の量が少なくなりすぎて、磁石の強度が低下する。L/S比は1以上が好ましく、より好ましくは2以上である。
【0028】
さらに、M炭化物を含む相(析出粒)は、Sm−Co系磁石の金属組織の単位面積(50μm×50μm)あたりに2個以上存在していることが好ましい。M炭化物を含む相の単位面積あたりの析出数が2個未満であると、磁石の機械的強度を高める効果を十分に得ることができないと共に、上記したL/S比を満足させることができないおそれがある。ただし、M炭化物を含む相の単位面積あたりの析出数が多くなりすぎると、主相の面積が相対的に減少することで、Sm−Co系磁石の保磁力等の特性が低下する。M炭化物を含む相の単位面積あたりの析出数は40個以下であることが好ましい。
【0029】
上述したようなM炭化物を含む相を実現することによって、高Fe濃度を有するSm−Co系磁石において、大きな保磁力を発現させることが可能になる。すなわち、高Fe濃度に基づいて高い磁化を付与したSm−Co系磁石において、保磁力を発現させるための相分離組織の比率を増大させることができる。従って、高い磁化を維持しつつ保磁力を向上させたSm−Co系磁石を提供することができる。さらに、そのような磁化と保磁力とに基づいて、Sm−Co系磁石の(BH)
maxの値を向上させることができる。これらよって、高性能なSm−Co系磁石を提供することが可能となる。
【0030】
M炭化物を含む相のL/S比および析出数は、以下のようにして求める。試料のSEM像についてEDXにより構成相の組成分析を行う。SEM像内でM元素濃度が30原子%以上の連続した領域を、M炭化物を含む相と認定する。次に、観察されるM炭化物を含む相を、それが入る最小半径の円(M炭化物を含む相とその他の相との界面が円周に接する円)で近似する。この円の半径(r
i)[単位:μm]からM炭化物を含む相の周囲長L(2πr
i)と面積S(π(r
i)
2)を算出する。SEM像内に観察される全てのM炭化物を含む相の周囲長L(2πr
i)と面積S(π(r
i)
2)とを求め、周囲長Lの合計L
total(Σ2πr
i)と面積Sの合計S
total(Σπ(r
i)
2)との比(L
total/S
total)をL/S比として求める。さらに、M炭化物を含む相の析出数を求める。
【0031】
SEM−EDX観察は、以下のようにして行う。試料の最大の面積を有する面における最長の辺の中央部において、辺に垂直(曲線の場合は中央部の接線と垂直)に切断した断面の表面部と内部とで測定を行う。測定箇所は、上記断面において各辺の1/2の位置を始点として辺に対し垂直に内側に向けて端部まで引いた基準線1と、各角部の中央を始点として角部の内角の角度の1/2の位置で内側に向けて端部まで引いた基準線2とを設け、これら基準線1、2の始点から基準線の長さの1%の位置を表面部、40%の位置を内部と定義する。なお、角部が面取り等で曲率を有する場合には、隣り合う辺を延長した交点を辺の端部(角部の中央)とする。この場合、測定箇所は交点からではなく、基準線と接した部分からの位置とする。
【0032】
測定箇所を以上のようにすることによって、例えば断面が四角形の場合、基準線は基準線1および基準線2でそれぞれ4本の合計8本となり、測定箇所は表面部および内部でそれぞれ8箇所となる。この実施形態においては、表面部および内部でそれぞれ8箇所全てが上記したL/S比の範囲内であることが好ましいが、少なくとも表面部および内部でそれぞれ4箇所以上が上記した範囲内となればよい。この場合、1本の基準線での表面部および内部の関係を規定するものではない。このように規定される観察面を研磨して平滑にした後、倍率2500倍でSEM観察を行う。SEMによる観察領域(単位面積)は50μm×50μmとする。加速電圧は20kVとすることが好ましい。各測定箇所でL
total/S
total比を測定し、それら測定値のうちの最大値と最小値を除いた値の平均値を求め、この平均値をL/S比とする。さらに、各測定箇所の単位面積(50μm×50μm)あたりに存在するM炭化物を含む相の析出数を測定し、それら測定値のうちの最大値と最小値を除いた値の平均値を求め、この平均値を析出数とする。
【0033】
図2は実施形態のSm−Co系磁石の磁化曲線の一例を従来のSm−Co系磁石と比較して示す図である。
図2に示す実施形態のSm−Co系磁石と比較例のSm−Co系磁石とは、それぞれ同一組成を有し、かつ二相分離組織を有する主相と粒界相とM炭化物を含む相と酸化物相とを備えている。ただし、実施形態のSm−Co系磁石は、M炭化物を含む相のL/S比が10以下であるのに対し、比較例のSm−Co系磁石はL/S比が10を超えている。
図2から明らかなように、実施形態のSm−Co系磁石は高い磁化を維持したまま、優れた保磁力と角型性を有していることが分かる。
【0034】
M炭化物を含む相の析出形態は、原料組成(原料中に含有される炭素量およびM元素量等)、焼結処理や溶体化処理における熱処理条件により変化する。M炭化物を含む相を偏析させる、もしくは粗大に析出させるためには、以下に示す条件を選択することが好ましい。原料組成に関しては、M元素濃度が高い粉末とM元素濃度が低い粉末とを作製し、これら両者を混ぜ合わせて所望の組成を得ることが好ましい。M元素濃度が高い粉末が優先的に炭素と反応するため、M炭化物を含む相が偏析もしくは粗大に析出しやすくなる。熱処理条件に関しては、焼結速度を速くしてM元素と炭素との反応を速めることが有効である。さらに、焼結時間や溶体化時間を長時間化し、主相の結晶粒径を粗大化させることによって、M炭化物を含む相を粒界に析出しやすくさせることが有効である。これらの具体的な条件については、後に詳述する。
【0035】
実施形態の永久磁石は、例えば以下のようにして作製される。まず、所定量の元素を含む合金粉末を作製する。合金粉末は、アーク溶解法や高周波溶解法による溶湯を鋳造して得られた合金インゴットを粉砕して調製する。合金粉末は、組成が異なる複数の粉末を混ぜ合わせて所望の組成とすることができる。特に、M元素濃度が異なる粉末を混ぜ合わせることによって、所望の組成を有する合金粉末を調製することが好ましい。例えば、所望の組成におけるM元素濃度が2.3質量%の場合、M元素濃度が2.0質量%の合金粉末とM元素濃度が3.0質量%の合金粉末とを混ぜ合わせる等が考えられる。
【0036】
合金粉末の他の調製方法としては、メカニカルアロイング法、メカニカルグラインディング法、ガスアトマイズ法、還元拡散法等が挙げられる。これらの方法で調製した合金粉末を用いてもよい。ストリップキャスト法を用いることによって、合金粉末の均一性の向上を図ることができる。このようにして得られた合金粉末または粉砕前の合金に対して、必要に応じて熱処理を施して均質化してもよい。フレークやインゴットの粉砕は、ジェットミルやボールミル等を用いて実施される。粉砕は合金粉末の酸化を防止するために、不活性ガス雰囲気中や有機溶媒中で行うことが好ましい。
【0037】
次に、電磁石等の中に設置した金型内に合金粉末を充填し、磁場を印加しながら加圧成形することによって、結晶軸を配向させた圧粉体を作製する。成型方式としては、乾式で行なう方法と湿式で行なう方法とがある。乾式で成型する場合には、粉末の流動性の向上と酸化防止のために、潤滑剤を微量添加することが望ましい。潤滑剤としては、シリコーンオイルや鉱物油等が挙げられる。このような圧粉体を1100〜1300℃の温度で1〜15時間焼結して緻密な焼結体を得る。
【0038】
焼結温度が1100℃未満であると、焼結体の密度が不十分となる。焼結温度が1300℃を超えると、Sm等の希土類元素が蒸発して良好な磁気特性が得られない。焼結温度は1150〜1250℃の範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは1180〜1230℃の範囲である。焼結時間が1時間未満の場合、焼結体の密度が不均一になるおそれがある。焼結時間が15時間を超えると、Sm等の希土類元素が蒸発して良好な磁気特性が得られない。焼結時間は1〜10時間の範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは1〜7時間の範囲である。圧粉体の焼結は酸化を防止するために、真空中やアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0039】
焼結時の昇温速度は5〜25℃/分の範囲であることが好ましい。焼結時の昇温速度を5℃/分以上とすることによって、M元素と炭素との反応が速まり、M炭化物を含む相が偏析もしくは粗大に析出しやすくなる。焼結時の昇温速度が25℃/分を超えると、焼結体の緻密性が損なわれるおそれがある。焼結時の昇温速度は10℃/分以上であることがより好ましく、さらに好ましくは13℃/分以上である。また、焼結時の昇温速度は23℃/分以下であることがより好ましく、さらに好ましくは20℃/分以下である。
【0040】
次に、得られた焼結体に対して、溶体化処理および時効処理を施して結晶組織を制御する。溶体化処理は相分離組織の前駆体である1−7相を得るために、1110〜1200℃の範囲の温度で1〜24時間保持することにより実施することが好ましい。溶体化処理温度が1110℃未満または1200℃を超えると、溶体化処理後の試料中の1−7相の割合が小さくなり、良好な磁気特性が得られない。また、1−7相内の各元素の濃度分布を十分に均一化できないおそれがある。溶体化処理温度は1120〜1190℃の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは1130℃〜1180℃の範囲である。
【0041】
溶体化処理時間が1時間未満の場合には、主相の結晶粒が十分に成長しないおそれが有る。また、構成相が不均一になりやすく、さらに1−7相内の各元素の濃度分布を十分に均一化できないおそれがある。溶体化処理時間が24時間を超えると、焼結体中のSm等の希土類元素が蒸発する等して、良好な磁気特性が得られないおそれがある。溶体化処理時間は1〜24時間の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは2〜20時間の範囲である。溶体化処理は酸化防止のために、真空中やアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0042】
時効処理は、溶体化処理後の焼結体を700〜900℃の温度で10〜100時間保持した後、−0.1〜−5℃/分の冷却速度で20〜600℃の温度まで徐冷し、引き続いて室温まで冷却することにより実施することが好ましい。このような条件下で時効処理を実施することによって、相分離組織を有するSm−Co系磁石を再現性よく得ることができる。時効処理は酸化防止のために、真空中やアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0043】
時効処理温度が700℃未満または900℃を超える場合には、均質なセル相とセル壁相との混合組織を得ることができず、永久磁石の磁気特性が低下するおそれがある。時効処理温度は750〜880℃であることがより好ましく、さらに好ましくは780〜850℃である。時効処理時間が10時間未満の場合には、1−7相からセル壁相の析出が十分に完了しないおそれがある。時効処理時間が100時間を超える場合には、セル壁相の厚さが厚くなってセル相の体積分率が低下し、また結晶粒が粗大化することで、良好な磁石特性が得られないおそれがある。時効処理時間は10〜90時間であることがより好ましく、さらに好ましくは20〜80時間である。
【0044】
時効処理後の冷却速度が遅すぎると、永久磁石の生産性が低下し、コストが増大するおそれがある。時効処理後の冷却速度が速すぎると、均質なセル相とセル壁相との混合組織を得ることができず、永久磁石の磁気特性が低下するおそれがある。時効処理後の冷却速度は−0.3〜−4℃/分の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは−0.5〜−3℃/分の範囲である。
【0045】
上記した時効処理に先立って、時効処理温度より低温で予備時効処理を行ってもよい。予備時効処理は、500〜900℃の温度で0.5〜10時間保持した後、−0.1〜−5℃/分の冷却速度で20〜450℃の温度まで徐冷することにより実施することが好ましい。予備時効処理を行なうことで、永久磁石の角型性を向上させることができる。
【0046】
実施形態の永久磁石は、各種モータや発電機に使用することができる。また、可変磁束モータや可変磁束発電機の固定磁石や可変磁石として使用することも可能である。実施形態の永久磁石を用いることによって、各種のモータや発電機が構成される。実施形態の永久磁石を可変磁束モータに適用する場合、可変磁束モータの構成やドライブシステムには、特開2008−29148号公報や特開2008−43172号公報に開示されている技術を適用することができる。
【0047】
次に、実施形態のモータと発電機について、図面を参照して説明する。
図3は実施形態による永久磁石モータを示している。
図3に示す永久磁石モータ11において、ステータ(固定子)12内にはロータ(回転子)13が配置されている。ロータ13の鉄心14中には、実施形態の永久磁石15が配置されている。実施形態の永久磁石の特性等に基づいて、永久磁石モータ11の高効率化、小型化、低コスト化等を図ることができる。
【0048】
図4は実施形態による可変磁束モータを示している。
図4に示す可変磁束モータ21において、ステータ(固定子)22内にはロータ(回転子)23が配置されている。ロータ23の鉄心24中には、実施形態の永久磁石が固定磁石25および可変磁石26として配置されている。実施形態の永久磁石は固定磁石25に好適である。可変磁石26は、磁束密度(磁束量)を可変することが可能とされている。可変磁石26はその磁化方向がQ軸方向と直交するため、Q軸電流の影響を受けず、D軸電流により磁化することができる。ロータ23には磁化巻線(図示せず)が設けられている。この磁化巻線に磁化回路から電流を流すことによって、その磁界が直接に可変磁石26に作用する構造となっている。
【0049】
実施形態の永久磁石によれば、前述した製造方法の各種条件を変更することによって、例えば保磁力が500kA/mを超える固定磁石25と保磁力が500kA/m以下の可変磁石26とを得ることができる。なお、
図4に示す可変磁束モータ21においては、固定磁石25および可変磁石26のいずれにも実施形態の永久磁石を用いることが可能であるが、いずれか一方の磁石に実施形態の永久磁石を用いてもよい。可変磁束モータ21は、大きなトルクを小さい装置サイズで出力可能であるため、モータの高出力・小型化が求められるハイブリッド車や電気自動車等のモータに好適である。
【0050】
図5は実施形態による発電機を示している。
図5に示す発電機31は、実施形態の永久磁石を用いたステータ(固定子)32を備えている。ステータ(固定子)32の内側に配置されたロータ(回転子)33は、発電機31の一端に設けられたタービン34とシャフト35を介して接続されている。タービン34は、例えば外部から供給される流体により回転する。なお、流体により回転するタービン34に代えて、自動車の回生エネルギー等の動的な回転を伝達することによって、シャフト35を回転させることも可能である。ステータ32とロータ33には、各種公知の構成を採用することができる。
【0051】
シャフト35は、ロータ33に対してタービン34とは反対側に配置された整流子(図示せず)と接触しており、ロータ33の回転により発生した起電力が発電機31の出力として相分離母線および主変圧器(図示せず)を介して、系統電圧に昇圧されて送電される。発電機31は、通常の発電機および可変磁束発電機のいずれであってもよい。なお、ロータ33にはタービン34からの静電気や発電に伴う軸電流による帯電が発生する。このため、発電機31はロータ33の帯電を放電させるためのブラシ36を備えている。
【実施例】
【0052】
次に、実施例およびその評価結果について述べる。
【0053】
(実施例1)
各原料を「Sm(Fe
0.31Zr
0.15Cu
0.05Co
bal.C
0.01)
7.5」の組成となるように秤量した後、Arガス雰囲気中で高周波溶解して合金インゴット1を作製した。同様にして、「Sm(Fe
0.31Zr
0.027Cu
0.05Co
bal.C
0.01)
7.5」の組成を有する合金インゴット2を作製した。各合金インゴットを粗粉砕し、さらにジェットミルで微粉砕することによって、それぞれ平均粒子径が4μmの合金粉末1および合金粉末2を調製した。これら合金粉末1と合金粉末2とを表1に示す組成となるように秤量し、さらに回転撹拌機に入れて混合した。得られた混合粉末を1.5Tの磁界中にて2tのプレス圧でプレス成型して圧粉体を作製した。
【0054】
次に、混合粉末の圧粉体を焼成炉のチャンバ内に配置し、Arガス雰囲気中にて10℃/分の昇温速度で1200℃まで昇温し、その温度で3時間保持して焼結を行い、引き続いて1170℃で10時間保持して溶体化処理を行った。溶体化処理後の焼結体をArガス雰囲気中にて830℃で20時間保持した後、−0.7℃/分の冷却速度で300℃まで徐冷し、さらに室温まで炉冷することによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。得られた焼結磁石を後述する特性評価に供した。
【0055】
(実施例2)
各原料を表1に示す組成となるように秤量した後、Arガス雰囲気中で高周波溶解して合金インゴットを作製した。合金インゴットを粗粉砕し、さらにジェットミルで微粉砕することによって、平均粒子径が4μmの合金粉末を調製した。合金粉末を1.5Tの磁界中にて2tのプレス圧でプレス成型して圧粉体を作製した。次に、圧粉体を焼成炉のチャンバ内に配置し、Arガス雰囲気中にて20℃/分の昇温速度で1200℃まで昇温し、その温度で5時間保持して焼結を行い、引き続いて1170℃で20時間保持して溶体化処理を行った。溶体化処理後の焼結体をArガス雰囲気中にて830℃で20時間保持した後、−0.7℃/分の冷却速度で300℃まで徐冷し、さらに室温まで炉冷することによって、目的とする焼結磁石を得た。得られた焼結磁石を後述する特性評価に供した。
【0056】
(実施例3〜6)
表1に示す組成を適用する以外は、実施例2と同様にして焼結磁石を作製した。得られた焼結磁石を後述する特性評価に供した。
【0057】
(実施例7)
各原料を表1に示す組成となるように秤量した後、Arガス雰囲気中で高周波溶解して合金インゴットを作製した。合金インゴットをArガス雰囲気中にて1170℃で1時間熱処理した後に粗粉砕し、さらにボールミルで微粉砕することによって、平均粒子径が3μmの合金粉末を調製した。合金粉末を1.5Tの磁界中にて1tのプレス圧でプレス成型して圧粉体を作製した。次に、圧粉体を焼成炉のチャンバ内に配置し、Arガス雰囲気中にて13℃/分の昇温速度で1190℃まで昇温し、その温度で3時間保持して焼結を行い、引き続いて1150℃で15時間保持して溶体化処理を行った。溶体化処理後の焼結体をArガス雰囲気中にて800℃で30時間保持した後、−1.0℃/分の冷却速度で300℃まで徐冷し、さらに室温まで炉冷することによって、目的とする焼結磁石を得た。得られた焼結磁石を後述する特性評価に供した。
【0058】
(実施例8)
各原料を「(Sm
0.8Nd
0.2)(Fe
0.32Zr
0.014Cu
0.05Co
bal.C
0.015)
7.5」の組成となるように秤量した後、Arガス雰囲気中で高周波溶解して合金インゴット1を作製した。同様にして、「(Sm
0.8Nd
0.2)(Fe
0.32Zr
0.025Cu
0.05Co
bal.C
0.015)
7.5」の組成を有する合金インゴット2を作製した。各合金インゴットをArガス雰囲気中にて1170℃で1時間熱処理した後に粗粉砕し、さらにボールミルで微粉砕することによって、それぞれ平均粒子径が3μmの合金粉末1および合金粉末2を調製した。これら合金粉末1と合金粉末2とを表1に示す組成となるように秤量し、さらに回転撹拌機に入れて混合した。得られた混合粉末を1.5Tの磁界中にて1tのプレス圧でプレス成型して圧粉体を作製した。
【0059】
次に、混合粉末の圧粉体を焼成炉のチャンバ内に配置し、Arガス雰囲気中にて13℃/分の昇温速度で1190℃まで昇温し、その温度で3時間保持して焼結を行い、引き続いて1150℃で15時間保持して溶体化処理を行った。溶体化処理後の焼結体をArガス雰囲気中にて800℃で30時間保持した後、−1.0℃/分の冷却速度で300℃まで徐冷し、さらに室温まで炉冷することによって、目的とする焼結磁石を得た。得られた焼結磁石を後述する特性評価に供した。
【0060】
(実施例9)
各原料を「Sm(Fe
0.32(Zr
0.9Ti
0.1)
0.015Cu
0.06Co
bal.C
0.02)
7.3」の組成となるように秤量した後、Arガス雰囲気中で高周波溶解して合金インゴット1を作製した。合金インゴット1を石英製のノズルに装填し、高周波誘導加熱で溶融した後、溶湯を周速0.6m/秒で回転する冷却ロールに傾注し、連続的に凝固させて合金薄帯を作製した。合金薄帯を粗粉砕し、さらにジェットミルで微粉砕することにより平均粒子径が4μmの合金粉末1を調製した。同様にして、「Sm(Fe
0.32(Zr
0.9Ti
0.1)
0.022Cu
0.06Co
bal.C
0.02)
7.3」の組成を有し、平均粒子径が4μmの合金粉末2を調製した。これら合金粉末1と合金粉末2とを表1に示す組成となるように秤量し、さらに回転撹拌機に入れて混合した。得られた混合粉末を1.5Tの磁界中にて1tのプレス圧でプレス成型して圧粉体を作製した。
【0061】
次に、混合粉末の圧粉体を焼成炉のチャンバ内に配置し、Arガス雰囲気中にて13℃/分の昇温速度で1200℃まで昇温し、その温度で1時間保持して焼結を行い、引き続いて1170℃で10時間保持して溶体化処理を行った。溶体化処理後の焼結体に第1の時効処理として750℃×2時間の条件で熱処理を施した後、−1.5℃/分の冷却速度で200℃まで徐冷した。引き続いて、第2の時効処理として850℃×10時間の条件で熱処理を施した後、−1.0℃/分の冷却速度で600℃まで徐冷し、さらに室温まで炉冷することによって、目的とする焼結磁石を得た。得られた焼結磁石を後述する特性評価に供した。
【0062】
(実施例10)
各原料を表1に示す組成となるように秤量した後、Arガス雰囲気中で高周波溶解して合金インゴットを作製した。合金インゴット1を石英製のノズルに装填し、高周波誘導加熱で溶融した後、溶湯を周速0.6m/秒で回転する冷却ロールに傾注し、連続的に凝固させて合金薄帯を作製した。合金薄帯を粗粉砕し、さらにジェットミルで微粉砕することにより平均粒子径が4μmの合金粉末を調製した。得られた合金粉末を1.5Tの磁界中にて1tのプレス圧でプレス成型して圧粉体を作製した。
【0063】
次に、混合粉末の圧粉体を焼成炉のチャンバ内に配置し、Arガス雰囲気中にて13℃/分の昇温速度で1200℃まで昇温し、その温度で1時間保持して焼結を行い、引き続いて1170℃で10時間保持して溶体化処理を行った。溶体化処理後の焼結体に第1の時効処理として750℃×2時間の条件で熱処理を施した後、−1.5℃/分の冷却速度で200℃まで徐冷した。引き続いて、第2の時効処理として850℃×10時間の条件で熱処理を施した後、−1.0℃/分の冷却速度で600℃まで徐冷し、さらに室温まで炉冷することによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。得られた焼結磁石を後述する特性評価に供した。
【0064】
(比較例1)
実施例1の磁石と同一組成となるように各原料を秤量した後、Arガス雰囲気中で高周波溶解して合金インゴットを作製した。合金インゴットを粗粉砕し、さらにジェットミルで微粉砕することによって、平均粒子径が4μmの合金粉末を調製した。このような単一合金粉末を用いて、実施例1と同様にして圧粉体を作製した。次に、圧粉体を焼成炉のチャンバ内に配置し、Arガス雰囲気中にて1℃/分の昇温速度で1200℃まで昇温し、その温度で1時間保持して焼結を行い、引き続いて1170℃で0.5時間保持して溶体化処理を行った。溶体化処理後の焼結体をArガス雰囲気中にて830℃で20時間保持した後、−0.7℃/分の冷却速度で300℃まで徐冷し、さらに室温まで炉冷することで、目的とする焼結磁石を得た。得られた焼結磁石を後述する特性評価に供した。
【0065】
(比較例2)
実施例2の同一組成の合金粉末を用いて、実施例2と同様にして圧粉体を作製した。次に、圧粉体を焼成炉のチャンバ内に配置し、Arガス雰囲気中にて1℃/分で1200℃まで昇温し、その温度で15時間保持して焼結を行い、引き続いて1170℃で5時間保持して溶体化処理を行った。溶体化処理後の焼結体をArガス雰囲気中にて830℃で20時間保持した後、−0.7℃/分の冷却速度で300℃まで徐冷し、さらに室温まで炉冷することによって、目的とする焼結磁石を得た。得られた焼結磁石を後述する特性評価に供した。
【0066】
(比較例3)
表1に示す組成を適用する以外は、実施例2と同様にして焼結磁石を作製した。比較例3の焼結磁石は、炭素含有量が実施例に比べて多いものである。
【0067】
【表1】
【0068】
上述した実施例1〜10および比較例1〜3の焼結磁石の金属組織をSEMで観察したところ、いずれの金属組織も主相と粒界相とα相と酸化物相とを有していることが確認された。前述した方法にしたがって、焼結磁石(焼結体)中のM炭化物を含む相のL/S比を求めた。さらに、単位面積あたりのM炭化物を含む相の析出数を測定した。それらの結果を表2に示す。次に、各焼結磁石の磁気特性をBHトレーサで評価し、残留磁化と保磁力を測定した。それらの結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2から明らかなように、実施例1〜10の焼結磁石はいずれも高い残留磁化を維持した上で、1400kA/m以上の保磁力を有していることが確認された。これに対して、比較例1〜3の焼結磁石は、L/S比が大きく、M炭化物(Zr炭化物等)を含む相が結晶粒内に微細に分散析出しているため、十分な保磁力が得られていない。さらに、比較例3の焼結磁石は、炭素含有量が多すぎるため、M炭化物(Zr炭化物等)を含む相が過剰に析出し、このために残留磁化が低下すると共に、十分な保磁力が得られていない。実施例および比較例の磁石は、全て二相分離組織を備え、かつ上記のM炭化物を含む相を有していた。なお、炭素含有量が実施形態の規定範囲未満であると、炭化物の析出量が少なくなりすぎて、十分な機械的強度を得ることが困難となり、実用に耐えない。
【0071】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。