特許第6189571号(P6189571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6189571研磨用組成物およびこれを用いた研磨方法、ならびにこれらを用いた研磨済研磨対象物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6189571
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】研磨用組成物およびこれを用いた研磨方法、ならびにこれらを用いた研磨済研磨対象物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20170821BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20170821BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20170821BHJP
【FI】
   C09K3/14 550Z
   C09K3/14 550D
   H01L21/304 622D
   B24B37/00 H
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-513821(P2017-513821)
(86)(22)【出願日】2016年9月8日
(86)【国際出願番号】JP2016076530
【審査請求日】2017年3月10日
(31)【優先権主張番号】特願2015-201340(P2015-201340)
(32)【優先日】2015年10月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】篠田 敏男
(72)【発明者】
【氏名】梅田 剛宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章太
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−159166(JP,A)
【文献】 特開2010−153865(JP,A)
【文献】 特開2009−094430(JP,A)
【文献】 特開2010−226141(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/162265(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、
過酸化水素と、
水と、
を含有し、
前記砥粒の平均二次粒子径が20nm以上150nm以下であり、
前記過酸化水素のモル濃度M(mmol/Kg)と前記砥粒の総表面積とが、下記式1および下記式2の関係を満たし、かつ、
pHが10以上14以下である、シリコン材料の研磨に用いられる研磨用組成物;
【化1】
(ここで、Sは、研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の総表面積(m)を表し、Log(S)は、Sの自然対数を表す)。
【請求項2】
さらに塩基性化合物を含有する、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記砥粒がコロイダルシリカである、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記砥粒の平均二次粒子径が20nm以上100nm以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
pHが10以上12以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
研磨対象物を、請求項1〜のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて研磨する、研磨方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、または請求項に記載の研磨方法を用いて、研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨済研磨対象物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物およびこれを用いた研磨方法、ならびにこれらを用いた研磨済研磨対象物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン半導体に代表される半導体素子は、高性能化、小型化等の市場ニーズに対応して微細化、高集積化が進んでいる。これに伴い微細な配線パターンを作製するための高度な平坦化技術が必須となり、半導体の製造工程において、ウェハ表面をアルミナやシリカの微粒子を含む研磨用組成物である研磨スラリー(以下、CMPスラリーと略記する。)を用いて研磨するCMP工程が導入されている。
【0003】
また近年では、例えば、高集積化技術の一つとしてシリコンなどの半導体基板を貫通している細いビアを作成し、銅やタングステン等の導電体を充填し電極を作製する技術(TSV)の開発が進んでいる。かかる電極を作製する際にもCMP工程が用いられ、半導体基板の薄膜化、平坦化が行われる。
【0004】
かような用途に使用する研磨用組成物は、研磨速度向上、研磨済研磨対象物の平坦性向上、フィルタの目詰まり防止、研磨用組成物のライフタイムの向上または環境負荷の抑制等、種々の観点から優れた研磨特性を実現すべく、検討がなされている。
【0005】
たとえば特開平5−154760号公報には、コロイダルシリカゾルまたはシリカゲルと、所定量のピペラジンとを含むシリコンウェハ用の研磨用組成物によって、高い研磨速度を実現し、優れた研磨面を得ることができることが開示されている。
【0006】
また、たとえば国際公開第2008/004320号(米国特許出願公開第2009/311947号明細書に相当)には、グアニジン類であるアルカリ性化合物および水からなる、またはこれら金属酸化物をさらに加えてなる、シリコンウェハ用の研磨用組成物によって、優れた平滑性を得ることができることが開示されている
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、特開平5−154760号公報および国際公開第2008/004320号などの従来の研磨用組成物は、研磨速度が十分とはいえず、さらなる研磨速度の向上を実現しうる研磨用組成物が求められていた。
【0008】
そこで本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、研磨用組成物において、さらなる研磨速度の向上を実現しうる手段を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、かような研磨用組成物を用いた研磨方法の提供、およびかような研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨済研磨対象物の製造方法の提供も目的とする。
【0010】
本発明は、砥粒と、過酸化水素と、水と、を含有し、前記砥粒の平均二次粒子径が20nm以上150nm以下であり、前記過酸化水素のモル濃度M(mmol/Kg)と前記砥粒の総表面積とが、下記式1および下記式2の関係を満たし、かつ、pHが10以上14以下である、研磨用組成物に関するものである。
【0011】
【数1】
【0012】
(ここで、Sは、研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の総表面積(m)を表し、Log(S)は、Sの自然対数を表す)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定する。
【0014】
以下、本発明の研磨用組成物につき、詳細を説明する。
【0015】
〔研磨用組成物〕
本発明の一形態は、砥粒と、過酸化水素と、水と、を含有し、前記砥粒の平均二次粒子径が20nm以上150nm以下であり、前記過酸化水素のモル濃度M(mmol/Kg)と前記砥粒の総表面積とが、下記式1および下記式2の関係を満たし、かつ、pHが10以上14以下である、研磨用組成物に関するものである。
【0016】
【数2】
【0017】
(ここで、Sは、研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の総表面積(m)を表し、Log(S)は、Sの自然対数を表す)。
【0018】
かような構成を有する本発明の一形態に係る研磨用組成物によれば、研磨速度を向上することができる。
【0019】
従来技術である特開平5−154760号公報や国際公開第2008/004320号に記載の研磨用組成物は、ピペラジンやグアジニン類等の強塩基を使用していることから、その研磨速度は塩基性に起因する研磨対象物に対する溶解力、すなわちエッチング力に依存していた。
【0020】
そこで本発明者らは、エッチング力以外の観点にも着目し、さらなる研磨速度の向上を実現しうる条件を見出すことを目的として、研磨速度に影響を与える可能性があると考えられる種々の要素について検討を行った。
【0021】
その結果、本発明者らは、驚くべきことに、従来は研磨速度を低下させると考えられてきた過酸化水素を含有する研磨用組成物において、所定の平均二次粒子径を有する砥粒を所定量含有させ、かつpHが10以上14以下とした際に、研磨速度が顕著に向上する場合があることを確認した。そして、本発明者らは、さらなる検討の結果、過酸化水素の添加量と、研磨用組成物中に存在する砥粒の総表面積とが上記式1および上記式2で表される関係を満たす場合に研磨速度が顕著に向上することを見出すことで、本発明を完成させた。
【0022】
本発明者らは、本願の一形態に係る発明により研磨速度が向上することのメカニズムを以下のように推測している。ここでは、当該メカニズムは、研磨対象物がシリコン材料(Si)である場合を例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0023】
研磨対象物への酸化剤の添加は、一般的には、研磨対象物の表面を酸化させ、研磨対象物の研磨用組成物に対する溶解性が低下することから、研磨速度を低下させる。
【0024】
しかしながら、酸化剤として過酸化水素を使用し、かつpHを10以上14以下とすることで、過酸化水素は、研磨用組成物中で解離して、HおよびHOを生成する。このとき、研磨対象物であるシリコン材料表面および表面近くのSiに対してHOが求核剤として作用して、過酸化水素とシリコン材料との酸化反応過程において、Si−OHで表される構造を有する反応中間体を形成する。かような反応中間体が存在する状態のシリコン材料の表面は、Si原子同士がSi−Si結合により強固に結合された状態よりも脆い。したがって、上記反応中間体が存在する状態のシリコン材料の表面は砥粒との物理的な接触で生じる応力によって容易に破壊されることとなり、その結果、研磨速度が向上することとなる。
【0025】
ここで、上記式1は、研磨速度の向上効果を有する過酸化水素のモル濃度Mの上限を、研磨用組成物中の砥粒の総表面積Sの関数として表している。すなわち、上記式1は、砥粒の総表面積Sの値によって、研磨速度の向上効果が発現される過酸化水素のモル濃度Mの上限が決定されることを表している。この理由は以下のように考えられる。前述のように、研磨用組成物中に過酸化水素が存在することで、反応中間体が形成され、研磨速度は向上する。しかしながら、研磨用組成物中に過酸化水素を過剰に添加した場合、生成される反応中間体の量に対して砥粒の接触頻度が相対的に少なくなる。このとき、反応中間体の状態で砥粒と接触しなかった部分は、反応が完了して酸化されることとなり、シリコン材料の反応が完了して酸化された酸化部分は、塩基性である研磨用組成物によるエッチング性も低下することから、その結果、研磨速度が向上しないか、または研磨速度が低下することとなる。ここで、単位時間、単位面積あたりの砥粒のシリコン材料表面との接触頻度は、研磨用組成物中に存在する砥粒の表面積と相関することから、砥粒の総表面積Sの値によって、シリコン材料表面において砥粒と接触できる反応中間体の量が決定されることとなる。また、反応中間体の量は過酸化水素のモル濃度Mと相関する。このことから、過酸化水素のモル濃度Mの上限が上記式1の左辺の値より小さくなるよう決定される。
【0026】
また、上記式1は、過酸化水素のモル濃度Mの上限を砥粒の総表面積Sの対数関数で表現している。ここで、式1は、砥粒の総表面積Sの増加に従い、研磨速度の向上効果が発現される過酸化水素のモル濃度Mの上限も増加すること、および砥粒の総表面積Sの増加に従い、過酸化水素のモル濃度Mの上限の増加度合い(砥粒の総表面積Sの単位増加量当りの過酸化水素のモル濃度Mの上限の増加量の変化率)が減少することを表している。ここで、砥粒の総表面積Sの増加に従い、研磨速度の向上効果が発現される過酸化水素のモル濃度Mの上限が増加する理由は、上記で説明したように、砥粒の総表面積の増加に従って、シリコン材料表面において砥粒と接触できる反応中間体の量が増加すると考えられるからである。また、砥粒の総表面積Sの増加に従い、過酸化水素のモル濃度Mの上限の増加の度合いが減少する理由は、砥粒の平均二次粒子径を減少させると砥粒の総表面積Sが増加するが、このとき砥粒と研磨対象物との接触時に砥粒が有するエネルギーが低くなり、研磨対象物の表面を機械的に破壊する能力が低下すると考えられるからである。
【0027】
さらに、上記式1および上記式2は、研磨用組成物中の砥粒の総表面積Sが一定以上でなければ、過酸化水素の添加による研磨速度の向上効果が得られないことを表している。この理由は以下のように考えられる。前述のように、単位時間、単位面積あたりの砥粒のシリコン材料表面との接触頻度は、研磨用組成物中に存在する砥粒の総表面積と相関する。これより、砥粒の総表面積Sが小さいときは、シリコン材料表面において砥粒と接触できる反応中間体の量も少なくなる。このとき、研磨速度の向上が有意に確認される衝突頻度で衝突が生じず、反応中間体による研磨速度の向上効果がほとんど得られないか、または過酸化水素による酸化の影響の方が強く表れることで、研磨速度が向上しないか、または研磨速度が低下することとなる。
【0028】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本願の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0029】
(pH)
本発明に係る研磨用組成物のpHは10以上14以下である。研磨用組成物のpHは、研磨用組成物中における過酸化水素の解離量および研磨用組成物の有するエッチング力に関係する。
【0030】
pHが10未満であると、過酸化水素が研磨用組成物中で解離することが困難となり、また研磨用組成物のエッチング力も低下するため、研磨速度の向上効果を得られない。研磨速度の向上効果をより高め、かつより高い研磨速度を得るとの観点から、pHが11以上であることが好ましい。かかる理由は、研磨用組成物中で解離する過酸化水素の量がより増加し、また研磨用組成物のエッチング力をより高めることができると考えられるからである。また、pHが13以下であることが好ましい。かかる理由は、pHが13以下であると、研磨用組成物中で解離する過酸化水素の量をより増加することができると考えられるからである。同様の観点から、pHが12以下であることがより好ましい。本発明に係る好ましい形態の一例としては、たとえば、pHが10以上12以下である研磨用組成物等が挙げられる。
【0031】
pHの制御方法は、特に制限されないが、たとえば、後述する砥粒、任意に使用されうる塩基性化合物、および任意に使用されうる他の成分(たとえば、酸性化合物等)の選択または添加量の調整等が挙げられる。これらの中でも、塩基性化合物の種類の選択または添加量の調整が好ましい。研磨用組成物のpHの値は、pHメータにより確認することができる。なお、詳細な測定方法は実施例に記載する。
【0032】
(砥粒)
本発明の研磨用組成物は、砥粒を必須に含む。砥粒は、研磨対象物の表面を機械的に研磨する働きをする。
【0033】
本発明に係る砥粒は、平均二次粒子径が20nm以上150nm以下である。平均二次粒子径が20nm未満であると、研磨速度の向上効果が得られない。かかる理由は、砥粒の平均二次粒子径が小さい場合は、砥粒と研磨対象物との接触時に砥粒が有するエネルギーが低いため、研磨対象物の表面を機械的に破壊することが困難となると考えられるからである。一方、平均二次粒子径が150nm超であると、研磨速度の向上効果が得られない。かかる理由は、研磨用組成物中の砥粒の総表面積を一定以上とすることが困難となるとともに、砥粒と研磨対象物とが接触しない部分の面積が大きくなるからであると考えられるからである。研磨速度の向上効果をより高め、かつより高い研磨速度を得るとの観点から、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。本発明に係る好ましい形態の一例としては、たとえば、砥粒の平均二次粒子径が20nm以上100nm以下である研磨用組成物が挙げられる。
【0034】
砥粒の平均二次粒子径は、動的光散乱法による体積平均粒子径の測定結果を平均二次粒子径とすることができる。なお、詳細な測定方法は実施例に記載する。
【0035】
また、砥粒の平均一次粒子径は、特に制限されないが、たとえば下限は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。また、砥粒の平均一次粒子径の上限は、80nm以下であることが好ましく、60nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、前記平均二次粒子径を有する二次粒子をより容易に形成することができる。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0036】
また、研磨用組成物における砥粒の添加量は、研磨速度の向上効果をより高め、かつより高い研磨速度を得るとの観点から、研磨用組成物の総質量に対して、1.5質量%以上であることが好ましい。かかる理由は、砥粒の総表面積を一定以上とすることが容易となり、研磨対象物の表面における砥粒と反応中間体との接触頻度がより高くなることで、過酸化水素による研磨速度の向上効果がより高くなると考えられるからである。また、研磨用組成物中に存在する砥粒自体の数が多いことから、単位時間、単位面積あたりの砥粒と研磨対象物の表面との接触頻度がより高くなり、研磨速度の向上効果がより高くなると考えられるからである。同様の観点から、研磨用組成物における砥粒の添加量は、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が特に好ましく、25質量%以上が最も好ましい。一方、研磨用組成物における砥粒の添加量は、研磨速度の向上効果をより高め、かつより高い研磨速度を得るとの観点、およびコストをより抑制するとの観点から、研磨用組成物の総質量に対して、50質量%以下であることが好ましい。かかる理由は、研磨用組成物中における砥粒の添加量が50質量%以下であると、研磨用組成物の流動性が向上し、単位時間、単位面積あたりの砥粒と研磨対象物の表面との接触頻度が増加するからであると考えられるからである。また、研磨用組成物中に存在する砥粒の中で、および研磨処理中に研磨対象物の表面と接触しない成分が減少するからであると考えられるからである。同様の観点から、研磨用組成物中における砥粒の添加量は、40質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましく、30質量%以下であることが特に好ましい。
【0037】
研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の総表面積S(m)は、上記式1および上記式2を満たしうる研磨用組成物1Kgに対する過酸化水素のモル濃度M(mmol/Kg)の範囲が、正の実数として存在することができる値であれば、特に制限されない。ここで、研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の総表面積Sは、研磨速度の向上効果をより高め、かつより高い研磨速度を得るとの観点から、1900m以上であることが好ましい。かかる理由は、研磨対象物の表面における砥粒と反応中間体との接触頻度がより高くなることで、過酸化水素による研磨速度の向上効果がより高くなると考えられるからである。同様の観点から、研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の総表面積は、6400m以上であることがより好ましく、10000m以上であることがさらに好ましく、12000m以上であることがよりさらに好ましく、25000m以上であることが特に好ましく、32000m以上であることが最も好ましい。また、研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の総表面積Sは、研磨速度の向上効果をより高め、かつより高い研磨速度を得るとの観点から、65000m以下であることが好ましい。かかる理由は、前述のように、砥粒の総表面積Sを一定の値以下とすることで、平均二次粒子径の減少に起因する砥粒の機械的な研磨能力の低下を防ぐことができると考えられるからである。また、砥粒と研磨対象物とが接触しない部分の面積を減少させることができると考えられるからである。同様の観点から、研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の総表面積Sは、52000m以下であることがより好ましく、46000m以下であることがさらに好ましい。
【0038】
本願明細書において、研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の総表面積Sは、砥粒の平均二次粒子径および添加量、ならびに砥粒の比重より算出するものとする。なお、詳細な測定方法は実施例に記載する。
【0039】
砥粒の種類は、特に制限されず、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子等を用いることができる。無機粒子の具体例としては、たとえば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、たとえば、ラテックス粒子、ポリスチレン粒子、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子等が挙げられる。砥粒は、単独でもまたはこれらの複合物でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0040】
砥粒としては、シリカ粒子を用いることが好ましい。シリカ粒子としては、特に制限されないが、たとえば、コロイダルシリカまたはヒュームドシリカを用いることがより好ましい。これらの中でも、研磨工程における研磨対象物の表面に発生するスクラッチをより低減するとの観点から、コロイダルシリカを用いることがさらに好ましい。
【0041】
使用しうるコロイダルシリカの種類は特に限定されないが、例えば、表面修飾したコロイダルシリカの使用も可能である。コロイダルシリカの表面修飾(担持コロイダルシリカ)は、例えば、アルミニウム、チタンまたはジルコニウムなどの金属、あるいはそれらの酸化物をコロイダルシリカと混合してシリカ粒子の表面にドープさせることにより行うことができる。また、コロイダルシリカの表面修飾は、シリカ粒子の表面に有機酸の官能基を化学的に結合させること、すなわち有機酸の固定化によって行うこともできる。
【0042】
(過酸化水素)
本発明の研磨用組成物は、過酸化水素を必須に含む。過酸化水素は、所定のpH範囲を有する研磨用組成物中に含まれることで、研磨用組成物の研磨速度を向上させる。
【0043】
かかる理由は以下のように推測している。過酸化水素は、研磨用組成物中で解離してHおよびHOを生成し、研磨対象物と反応して反応中間体を形成する。そして、反応中間体が存在する状態の研磨対象物の表面は、研磨対象物そのものの状態よりも脆いことから、砥粒との接触による物理的な接触による応力によって容易に破壊されることとなり、研磨速度が向上する。
【0044】
なお、種々の酸化剤の中でも、過酸化水素が研磨速度の顕著な向上効果を示すことのこの理由は、詳細には不明であるが、本発明者らは、過酸化水素が所定のpH範囲とすることで解離してHOを発生することに関係すると考えている。より詳細には、過酸化水素の解離のし易さ、対イオンの種類およびこれらの化合物が研磨用組成物や研磨対象物へと与える影響などが関係すると考えている。
【0045】
研磨用組成物1Kgに対する過酸化水素のモル濃度M(mmol/Kg)は、前記研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の総表面積S(m)との関係において、上記式1および上記式2を満たしうる範囲が存在することができる値であれば、特に制限されない。ここで、研磨用組成物1Kgに対する過酸化水素のモル濃度Mは、研磨速度の向上効果をより高め、かつより高い研磨速度を得るとの観点から、25mmol/Kg以上であることが好ましい。かかる理由は、研磨用組成物1Kgに対する過酸化水素のモル濃度Mが25mmol/Kg以上であると、反応中間体をより多く形成することで、研磨対象物表面の脆く、砥粒により機械的に容易に破壊されうる部分がより増加すると考えられるからである。同様の観点から、研磨用組成物1Kgに対する過酸化水素のモル濃度Mは、45mmol/Kg以上であることがより好ましく、50mmol/Kg以上であることがさらに好ましく、90mmol/Kg以上であることがよりさらに好ましく、100mmol/Kg以上であることが特に好ましく、140mmol/Kg以上であることが最も好ましい。一方、好ましい範囲の上限値についても、同様の観点から、300mmol/Kg以下であることが好ましい。かかる理由は、以下のように推察されるからである。まず、過酸化水素のモル濃度が過度に高い濃度ではないことから、反応中間体の状態で砥粒と接触せずに反応が完了する酸化部分の形成がより抑制され、酸化部分の増加によるエッチング性の低下もより低減されうる。そして、その結果、研磨速度の向上効果がより高まり、かつより高い研磨速度が実現されうる。同様の観点から、研磨用組成物1Kgに対する過酸化水素のモル濃度Mは、250mmol/Kg以下であることがより好ましく、200mmol/Kg以下であることがさらに好ましく、160mmol/Kg以下であることが特に好ましく、150mmol/Kg以下であることが最も好ましい。
【0046】
(水)
本発明の研磨用組成物は、水を必須に含む。水は、研磨用組成物の各成分を溶解させる溶媒または分散させる分散媒としての働きを有する。
【0047】
研磨対象物の汚染や他の成分の作用を阻害するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。不純物をできる限り含有しない水としては、たとえば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、たとえば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、たとえば、イオン交換水、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0048】
(他の成分)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、必要に応じて、砥粒、過酸化水素および水以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、たとえば、塩基性化合物、酸性化合物、水溶性高分子、過酸化水素以外の酸化剤、還元剤、界面活性剤、防カビ剤およびキレート剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
以下では、塩基性化合物、酸性化合物、水溶性高分子、過酸化水素以外の酸化剤、還元剤、界面活性剤、防カビ剤について説明する。
【0050】
(塩基性化合物)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、塩基性化合物をさらに含むことが好ましい。塩基性化合物は、研磨対象物の面をエッチングにより化学的に研磨する働き、および砥粒の分散安定性を向上させる働きを有する。また、塩基性化合物は、pH調整剤として用いることができる。
【0051】
塩基性化合物の具体例としては、第2族元素またはアルカリ金属の水酸化物または塩、第四級アンモニウム化合物、アンモニア、アミンなどが挙げられる。ここで、第2族元素としては、特に制限されないが、アルカリ土類金属を好ましく用いることができる。
【0052】
第2族元素またはアルカリ金属の水酸化物または塩において、第2族元素としては、カルシウム、アルカリ金属としては、カリウム、ナトリウムなどが挙げられる。塩としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩などが挙げられる。第2族元素またはアルカリ金属の水酸化物または塩としては、より具体的には、たとえば、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、および炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0053】
第四級アンモニウム化合物としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムなどの水酸化物または、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの塩などが挙げられる。具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウムなどの水酸化テトラアルキルアンモニウム、炭酸テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウムなどの水酸化テトラアルキルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0054】
アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン、グアニジンなどが挙げられる。
【0055】
ここで、塩基性化合物は、その期待される機能に応じて好ましい化合物を選択することができる。研磨速度向上の観点では、塩基性化合物は、水酸化テトラメチルアンモニウムなどの水酸化第四級アンモニウム化合物、炭酸塩または炭酸水素塩を含むことが好ましい。また、研磨用組成物に緩衝作用を付与し、pHの安定を図るとの観点では、塩基性化合物は、水酸化第四級アンモニウム化合物と、炭酸塩または炭酸水素塩との混合物が好ましい。そして、研磨後の研磨対象物に付着して残らないという観点では、たとえば水酸化第四級アンモニウム、アミン、アンモニア等が好ましい。
【0056】
本発明の一形態に係る研磨用組成物においては、これらの中でも、第2族元素またはアルカリ金属の水酸化物または塩であることがより好ましく、アルカリ金属の水酸化物または塩であることがさらに好ましく、アルカリ金属の炭酸塩または炭酸水素塩であることがよりさらに好ましく、アルカリ金属の炭酸塩であることが特に好ましい。ここで、アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化カリウムまたは水酸化カリウムが好ましく、水酸化カリウムがより好ましい。また、アルカリ金属の炭酸塩としては、炭酸カリウムまたは炭酸ナトリウムであることが好ましく、炭酸カリウムであることがより好ましい。すなわち、本発明の一形態に係る研磨用組成物においては、塩基性化合物は、炭酸カリウムが最も好ましい。
【0057】
これらの塩基性化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は、研磨用組成物の総質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましい。かかる理由は、エッチング力をより向上させることができるからである。また、過酸化水素の解離をより促進させることができると考えられるからである。同様の観点から、研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量が0.03質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。一方、研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましい。かかる理由は、過酸化水素の解離量をより適切な範囲へと調整することがより容易とすることができると考えられるからである。同様の観点から、研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量が5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0059】
(酸性化合物)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、酸性化合物をさらに含んでいてもよい。酸性化合物は、pH調整剤として用いることができる。
【0060】
酸性化合物としては、特に制限されず、公知の酸が挙げられる。前記酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2−メチル酪酸、n−ヘキサン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2−フランカルボン酸、2,5−フランジカルボン酸、3−フランカルボン酸、2−テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、フェノキシ酢酸等の有機酸が挙げられる。これらのうち、pH調整剤としては、硫酸、硝酸、リン酸、グリコール酸、コハク酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、イタコン酸であることが好ましい。これらの酸性化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
酸性化合物の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜設定されうる。
【0062】
(水溶性高分子)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、水溶性高分子をさらに含んでいてもよい。水溶性高分子は、研磨される面の濡れ性を高める働きを有する。水溶性高分子は、1種であっても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
水溶性高分子としては、分子中に、カチオン基、アニオン基およびノニオン基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有するものを使用することができる。具体的な水溶性高分子としては、分子中に水酸基、カルボキシル基、アシルオキシ基、スルホ基、第四級アンモニウム構造、複素環構造、ビニル構造、ポリオキシアルキレン構造などを含むものが挙げられる。凝集物の低減や洗浄性向上などの観点から、ノニオン性の水溶性高分子が好ましい。好適例として、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー(含窒素水溶性高分子)、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、デンプン誘導体などが例示される。より好ましくは、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種である。さらに好ましくは、窒素原子を含有するポリマーおよびセルロース誘導体である。
【0064】
水溶性高分子の重量平均分子量は、研磨用組成物の分散安定性およびシリコン材料の洗浄性の観点から、ポリエチレンオキサイド換算で2,000,000以下であることが好ましく、1,000,000以下であることがより好ましく、500,000以下であることがさらに好ましく、300,000以下であることが特に好ましい。また、研磨用組成物中の水溶性高分子の重量平均分子量は10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましく、30,000以上であることがさらに好ましい。
【0065】
これらの水溶性高分子は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
なお、研磨用組成物中の水溶性高分子の含有量は、研磨面の濡れ性を向上させる観点から、研磨用組成物の総質量に対して、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることがより好ましく、0.005質量%以上であることがさらに好ましい。一方、研磨速度を向上させる観点から、研磨用組成物の総質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.02質量%以下であることがさらに好ましい。
【0067】
(過酸化水素以外の酸化剤)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、過酸化水素以外の酸化剤をさらに含んでいてもよい。過酸化水素以外の酸化剤は、これを添加することによって研磨効率が向上するような特定の研磨対象物を研磨する際に、研磨効率をより向上させる働きを有する。
【0068】
過酸化水素以外の酸化剤の具体例としては、過酢酸、過炭酸塩、過酸化尿素、過塩素酸;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、一過硫酸カリウム、オキソン(2KHSO、KHSO、KSO)等の過酸化物との複塩などの過硫酸塩;次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、次亜臭素酸塩、亜臭素酸塩、臭素酸塩、過臭素酸塩、次亜ヨウ素酸塩、亜ヨウ素酸塩、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩等のハロゲン系酸化剤;硝酸セリウムアンモニウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸カリウム等の幅広い酸化数を取りうる金属元素の化合物などが挙げられる。これらの過酸化水素以外の酸化剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
研磨用組成物中の過酸化水素以外の酸化剤の含有量は、酸化剤を添加すると研磨効率が向上するような研磨対象物を研磨する際に、研磨効率をより向上させるとの観点から、研磨用組成物の総質量に対して、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましい。一方、研磨用組成物中の過酸化水素以外の酸化剤の含有量の上限は、材料コストのさらなる抑制、廃液処理のさらなる負荷軽減、および酸化剤による研磨対象物表面の過剰な酸化の抑制との観点から、研磨用組成物の総質量に対して、30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0070】
(還元剤)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、還元剤をさらに含んでいてもよい。還元剤は、任意の金属の酸化を抑制することで、その金属の腐食を抑制する働き、または研磨効率を制御する働きを有する。
【0071】
還元剤としては、研磨用組成物に使用されている従来公知のものを含有させることができる。有機物としては、例えば、ヒドラジン、ギ酸、シュウ酸、ホルムアルデヒド水溶液、アスコルビン酸、グルコース等の還元糖類等が挙げられる。無機物としては、例えば、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、複数の安定な価数をとる金属とその化合物等が挙げられる。これらの還元剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
研磨用組成物中の還元剤の含有量の下限は、砥粒濃度を上げることなく研磨効率をより向上させるとの観点から、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましい。一方、材料コストのさらなる抑制、廃液処理のさらなる負荷軽減、および酸化剤による研磨対象物表面の過剰な酸化の抑制との観点から、研磨用組成物の総質量に対して、30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0073】
(キレート剤)
本発明の一形態に係る研磨用組成物にはキレート剤をさらに含んでいてもよい。キレート剤は、研磨用組成物中に元々含まれている金属不純物や研磨中に研磨対象物や研磨装置から生じる、あるいは外部から混入する金属不純物を捕捉して錯体を作ることで、研磨対象物への金属不純物の残留を抑制する働きを有する。キレート剤は、特に、研磨対象物が半導体の場合、金属不純物の残留を抑制することで半導体の金属汚染を防止し、半導体の品質低下を抑制する。
【0074】
キレート剤としては、たとえば、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤等が挙げられる。キレート剤の中でも、有機ホスホン酸系キレートが好ましく、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)がより好ましい。これらのキレート剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
研磨用組成物中のキレート剤の含有量は、研磨対象物に残留する金属不純物を抑制する効果をより高めるとの観点から、研磨用組成物の総質量に対して、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.0005質量%以上であることがより好ましく、0.005質量%以上であることがさらに好ましい。一方、研磨用組成物中のキレート剤の含有量は、研磨用組成物の保存安定性をより高めるとの観点から、0.5質量%未満であることが好ましく、0.3質量%未満であることがより好ましく、0.1質量%未満であることがさらに好ましく、0.05質量%未満であることが特に好ましい。
【0076】
(界面活性剤)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、界面活性剤をさらに含んでいてもよい。界面活性剤は、研磨後の研磨面に親水性を付与することにより研磨後の洗浄効率を良くし、汚れの付着等を防ぐ働きを有する。また、界面活性剤は、洗浄性を良くするだけでなく、適切な界面活性剤を選択することで、ディッシング等の段差性能を向上させる働きを有する。
【0077】
界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、および非イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。これらの界面活性剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
研磨用組成物中の界面活性剤の含有量は、研磨後の洗浄効率をより向上させ、適切な界面活性剤を選択することで、ディッシング等の段差性能をより向上するとの観点から、0.001g/L以上であることが好ましく、0.005g/L以上であることがより好ましい。
【0079】
(防腐剤・防カビ剤)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、防腐剤・防カビ剤をさらに含んでいてもよい。
【0080】
防腐剤・防カビ剤としては、例えば、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。これら防腐剤・防カビ剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0081】
[研磨対象物]
本発明の一形態に係る研磨用組成物を用いて研磨する研磨対象物は、特に制限されないが、ケイ素系材料であることが好ましい。ケイ素系材料としては、たとえば、シリコン材料、酸化ケイ素材料、窒化珪素材料、および酸窒化ケイ素材料等が挙げられる。ここで、酸化ケイ素材料は、TEOS(テトラエトキシシラン)等の硬化物であってもよい。
【0082】
これらの中でも、本発明の一形態に係る研磨用組成物の効果がより顕著に得られることから、シリコン材料であることが好ましい。すなわち、本発明の一形態に係る研磨用組成物が、シリコン材料の研磨に用いられることが好ましい。シリコン材料は、シリコン単結晶、アモルファスシリコンおよびポリシリコンからなる群より選択される少なくとも一種の材料を含むことが好ましい。シリコン材料としては、本発明の効果をより顕著に得ることができるとの観点から、シリコン単結晶またはポリシリコンであることがより好ましく、シリコン単結晶であることがさらに好ましい。
【0083】
また、研磨対象物は、特に制限されないが、半導体基板であることが好ましい。
【0084】
〔研磨用組成物の製造方法〕
本発明の他の一形態としては、
砥粒の平均二次粒子径が20nm以上150nm以下であり、
過酸化水素のモル濃度M(mmol/Kg)と砥粒の総表面積とが、下記式1および下記式2の関係を満たし、
かつ、pHが10以上14以下となるよう、
砥粒と、過酸化水素と、水とを混合する、研磨用組成物の製造方法をも提供する;
【0085】
【数3】
【0086】
(ここで、Sは、研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の総表面積(m)を表し、Log(S)は、Sの自然対数を表す)。
【0087】
研磨用組成物は、研磨用組成物を構成する各成分、および必要に応じて他の成分を、混合することにより製造することができる。ここで、研磨用組成物の製造方法は、特に制限されないが、たとえば、研磨装置へ適用する前に、各成分を混合する方法、研磨パッドに研磨用組成物を供給するスラリーライン中で各成分を混合する方法、および研磨パッド上で各成分を混合する方法等が挙げられる。これらのなかでも、研磨装置へ適用する前に、各成分を混合する方法を用いることが好ましい。
【0088】
各成分の混合の際は、攪拌混合を行うことが好ましい。また、各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、0℃以上60℃以下であることが好ましく、10℃以上40℃以下であることがより好ましい。各成分を混合する際には、溶解速度を上げるために加熱してもよい。混合時間は特に制限されないが、1秒以上180分以下であることが好ましい。
【0089】
なお、製造される研磨用組成物の詳細は、本発明の一形態に係る研磨用組成物の説明で述べたものと同様である。
【0090】
〔研磨方法〕
本発明のその他の一形態としては、研磨対象物を、本発明の一形態に係る研磨用組成物、または本発明の他の一形態に係る製造方法によって製造された研磨用組成物を用いて研磨する、研磨方法が提供される。
【0091】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を用いることができる。研磨装置としては、具体的には、たとえば、EPO113D(株式会社荏原製作所製)等を用いることができる。
【0092】
前記研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨用組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。研磨パッドとしては、具体的には、たとえば、IC1000(ニッタ・ハース株式会社製)等を用いることができる。
【0093】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm以上500rpm以下が好ましく、研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、300hPa以上400hPa以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の一形態に係る研磨用組成物で覆われていることが好ましく、たとえば10ml/min以上1000ml/min以下であることが好ましい。また、研磨温度は特に制限されないが、たとえば0℃以上60℃以下であることが好ましい。そして研磨時間も特に制限されないが、たとえば1秒以上180分以下であることが好ましい。研磨は、片面研磨であっても両面研磨のいずれであってもよい。また、研磨後に洗浄・乾燥を行うことが好ましい。
【0094】
ここで、研磨対象物の詳細は、上記の説明で述べたものと同様である。
【0095】
〔研磨済研磨対象物の製造方法〕
本発明のさらなる他の一形態としては、本発明の一形態に係る研磨用組成物を用いて、または本発明の一形態に係る研磨方法を用いて、研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨済研磨対象物の製造方法が提供される。研磨済研磨対象物の製造方法は、研磨工程の後に、研磨対象物を洗浄・乾燥する工程を有することが好ましい。
【0096】
なお、研磨対象物の詳細は、上記の説明で述べたものと同様である。
【実施例】
【0097】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0098】
(1)研磨用組成物の調製
[実施例1〜13および比較例1〜12]
・コロイダルシリカ(砥粒)
・過酸化水素
から表2に示されるような組成となるように選択し、さらに炭酸カリウムを研磨用組成物の総質量に対して3質量%となるように加え、これらを純水中で混合することによって、pHが11である実施例1〜13および比較例1〜12の研磨用組成物を調製した(混合温度:約25℃、混合時間:約10分)。
【0099】
[実施例14および15ならびに比較例13〜18]
・コロイダルシリカ(砥粒)
・過酸化水素
から表3に示されるような組成となるように選択し、さらに研磨用組成物のpHが表3に記載の値となる量の水酸化カリウム(KOH)を加え、これらを純水中で混合することによって、実施例14および15ならびに比較例13〜18の研磨用組成物を調製した(混合温度:約25℃、混合時間:約10分)。
【0100】
[比較例19]
・コロイダルシリカ(砥粒)
・APS(過硫酸アンモニウム)
から表4に示されるような組成となるように選択し、さらに炭酸カリウムを研磨用組成物の総質量に対して3質量%となるよう加え、これらを純水中で混合することによって、pHが11である比較例19の研磨用組成物を調製した(混合温度:約25℃、混合時間:約10分)。
【0101】
各研磨用組成物の特徴を表2〜4にまとめる。
【0102】
(研磨用組成物のpHの測定)
研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメータ(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA(登録商標))により確認した。
【0103】
(砥粒の平均二次粒子径の測定)
なお、砥粒の平均二次粒子径は、動的光散乱式 粒子径・粒度分布測定装置(日機装株式会社製 型番:UPA UT−151)を用いて測定した。まず、砥粒を純水中へ分散させ、ローディングインデックス(レーザーの散乱強度)が0.01である分散液を調製した。次いで、この分散液を用いて、UTモードでの体積平均粒子径Mvの値(D50の値)を測定し、得られた値を平均二次粒子径とした。これらの結果を表1に示す。
【0104】
ここで、表1〜4中において、砥粒A、B、CおよびEは、それぞれ平均二次粒子径のみが異なるコロイダルシリカを表す。
【0105】
【表1】
【0106】
(研磨用組成物中の砥粒の総表面積の算出)
ここで、研磨用組成物中の砥粒の総表面積は、以下のように求めた。
【0107】
1.砥粒の二次粒子が球形であると仮定し、前記測定から求めた砥粒の平均二次粒子径R(nm)より、下記式に従い砥粒の二次粒子の半径r(m)を算出した。
【0108】
【数4】
【0109】
2.砥粒の二次粒子の半径r(m)、および砥粒の比重ρ(Kg/m)を用いて、下記式に従い砥粒の二次粒子1個当たりの質量M(Kg)を算出した。ここで、砥粒の比重ρはコロイダルシリカの比重である2.3×10(Kg/m)を用いた。
【0110】
【数5】
【0111】
3.研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の二次粒子の数である砥粒個数N(個)を、下記式に従い算出した。
【0112】
【数6】
【0113】
4.砥粒の二次粒子の半径r(m)、および砥粒個数N(個)を用いて、下記式に従い研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の二次粒子の総表面積S(m)を算出した。
【0114】
【数7】
【0115】
これらの結果を表2〜4に示す。
【0116】
(2)研磨
上記で得られた各研磨用組成物を用い、半導体基板として用いられうる8インチシリコン単結晶基板を以下の研磨条件で研磨した。
【0117】
<研磨条件>
片面研磨機:EPO113D(株式会社荏原製作所製)
研磨パッド:硬質ポリウレタンパッド(IC1000(ニッタ・ハース株式会社製))
圧力:380hPa
プラテン(定盤)回転数:90rpm
ヘッド(キャリア)回転数:87rpm
研磨用組成物の流量:200ml/min
研磨時間:1min
研磨用組成物の保持温度(研磨温度):25℃
(3)研磨速度の測定
1.ウェーハ測定用電子天秤TFT−300(株式会社島津製作所製)を用いて、研磨前後の研磨対象物(シリコン単結晶基板)の質量を測定して、これらの差分から、研磨前後の研磨対象物の質量変化量ΔMSi(Kg)を算出した。
【0118】
2.研磨前後の研磨対象物の質量変化量ΔMSi(Kg)をシリコンの比重2.33×10(Kg/m)で除することで、研磨前後の研磨対象物の体積変化量ΔVSi(m)を算出した。
【0119】
3.研磨前後の研磨対象物の体積変化量ΔVSi(m)を研磨対象物の研磨面の面積SSi(m)で除することで、研磨前後の研磨対象物の厚み変化量ΔdSi(m)を算出した。
【0120】
4.研磨前後の研磨対象物の厚み変化量ΔdSi(m)を研磨時間t(min)で除し、さらに単位を(Å/min)へと換算した。この値を研磨速度vSi(Å/min)とした。
【0121】
これらの結果を表2〜4に示す。
【0122】
なお、表中における「式1における右辺の値」とは、下記式1の右辺の計算結果を表す。
【0123】
【数8】
【0124】
(ここで、Sは、研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の総表面積(m)を表し、Log(S)は、Sの自然対数を表す)。
【0125】
(4)酸化剤なしの系に対する研磨速度比の算出
上記(3)で測定した各研磨用組成物を用いた際の研磨速度について、過酸化水素または過硫酸アンモニウム(APS)を含む各研磨用組成物の、過酸化水素またはAPSを含まない以外はこれらと同様に製造した研磨用組成物に対する研磨速度比(%)を算出した。
【0126】
より詳細には、研磨速度比は、比較例2に対しては比較例1、比較例4に対しては比較例3、実施例1〜3ならびに比較例6および比較例19に対しては比較例5、実施例4および比較例8に対しては比較例7、実施例5〜8および比較例10に対しては比較例9、実施例9〜13および比較例12に対しては比較例11、比較例14に対しては比較例13、比較例16に対しては比較例15、実施例14に対しては比較例17、そして実施例15に対して比較例18を、それぞれ過酸化水素または過硫酸アンモニウムを含まない研磨用組成物として選択し、これらの研磨速度を100%とした際の研磨速度比(%)を算出した。
【0127】
なお、研磨速度比が101%以上である場合に、研磨速度向上効果が有意に確認できるものとする。結果は表2〜4に示す。
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
【表4】
【0131】
上記の結果から、実施例の研磨用組成物は、比較例の研磨用組成物と比較して、優れた研磨速度の向上効果が得られることが確認された。ここで、比較例5、比較例19および実施例1の比較から、酸化剤を含有し、かつ酸化剤が過酸化水素である系で本発明の効果が得られることが確認できる。
【0132】
ここで、比較例7、比較例8および実施例4は、砥粒の添加量が2質量%であり、過酸化水素濃度が0mmol/Kg以上50mmol/Kg以下の範囲でそれぞれ異なる研磨用組成物である。また、比較例9、比較例10および実施例5〜8は、砥粒の添加量が20質量%であり、過酸化水素濃度が0mmol/Kg以上275mmol/Kg以下の範囲でそれぞれ異なる研磨用組成物である。そして、比較例11、比較例12および実施例9〜13は、砥粒の添加量が30質量%であり、過酸化水素濃度が0mmol/Kg以上350mmol/Kg以下の範囲でそれぞれ異なる研磨用組成物である。ここで、砥粒の添加量が同じである研磨用組成物の比較において、最も高い研磨速度、および最も優れた研磨速度の向上効果(研磨速度比)を示したものは、砥粒の添加量が2質量%のときは過酸化水素濃度が25mmol/Kgの研磨用組成物(実施例4)であり、砥粒の添加量が20質量%のときは過酸化水素濃度が100mmol/Kgの研磨用組成物(実施例6)であり、砥粒の添加量が30質量%のときは過酸化水素濃度が150mmol/Kgの研磨用組成物(実施例10)であった。そして、実施例4、実施例6および実施例10の比較から、砥粒の添加量が20質量%および30質量%であるときは、より優れた研磨速度の向上効果が得られることが確認された。また、砥粒の添加量が20質量%または30質量%であるときは、より優れた研磨速度が得られ、30質量であるときはさらに優れた研磨速度が得られることが確認された。
【0133】
また、比較例5、比較例6および実施例1〜3は、砥粒の添加量が24質量%、砥粒の平均二次粒子径が80.1nmであり、過酸化水素濃度が0mmol/Kg以上180mmol/Kg以下の範囲でそれぞれ異なる研磨用組成物である。また、比較例9、比較例10および実施例5〜8は、砥粒の添加量が20質量%、砥粒の平均二次粒子径が20.5nmであり、過酸化水素濃度が0mmol/Kg以上275mmol/Kg以下の範囲でそれぞれ異なる研磨用組成物である。そして、比較例11、比較例12および実施例9〜13は、砥粒の平均添加量が30質量%、砥粒の平均二次粒子径が20.5nmであり、過酸化水素濃度が0mmol/Kg以上350mmol/Kg以下の範囲でそれぞれ異なる研磨用組成物である。ここで、砥粒の添加量が20質量%以上30質量%以下であり、平均二次粒子径が同じである研磨用組成物の比較において、高い研磨速度、および優れた研磨速度の向上効果(研磨速度比)を示したものは、砥粒の平均二次粒子径が80.1nmの系においては過酸化水素濃度が90mmol/Kgの研磨用組成物(実施例2)であり、砥粒の平均二次粒子径が20.5nmの研磨用組成物においては過酸化水素が100mmol/Kgの研磨用組成物(実施例6)および過酸化水素が150mmol/Kgの研磨用組成物(実施例10)であった。そして、実施例2、実施例6および実施例10の比較から、砥粒の平均二次粒子径が20.5nmであるときは、より優れた研磨速度の向上効果が得られることが確認された。
【0134】
さらに、比較例14および16ならびに実施例14および実施例15は、pHが7以上11以下の範囲でそれぞれ異なる研磨用組成物である。これらの比較から、本発明の効果は、pHが10以上の系において得られることが確認された。さらに、実施例14と実施例15との比較から、pHが10の系のよりもpHが11の系の方が、より優れた研磨速度の向上効果が得られ、かつより高い研磨速度が得られることが確認された。
【0135】
また、実施例6および実施例15は、使用する塩基性化合物がそれぞれ異なる研磨用組成物である。これらの比較から、塩基性組成物として炭酸カリウムを使用した系のほうが、KOHを使用した系よりも、より優れた研磨速度の向上効果が得られ、かつより高い研磨速度が得られることが確認された。
【0136】
本出願は、2015年10月9日に出願された日本特許出願番号2015−201340号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として組み入れられている。
【要約】
【課題】本発明は、研磨用組成物において、さらなる研磨速度の向上を実現しうる手段を提供する。
【解決手段】砥粒と、過酸化水素と、水と、を含有し、前記砥粒の平均二次粒子径が20nm以上150nm以下であり、前記過酸化水素のモル濃度M(mmol/Kg)と前記砥粒の総表面積とが、下記式1および下記式2の関係を満たし、かつ、pHが10以上14以下である、研磨用組成物;
(ここで、Sは、研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の総表面積(m)を表し、Log(S)は、Sの自然対数を表す)。
【選択図】なし