特許第6189740号(P6189740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189740
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】銀粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/30 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   B22F9/30 Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-263595(P2013-263595)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-4123(P2015-4123A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年6月17日
(31)【優先権主張番号】特願2013-109524(P2013-109524)
(32)【優先日】2013年5月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】久保 仁志
(72)【発明者】
【氏名】牧田 勇一
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 優輔
(72)【発明者】
【氏名】松田 英和
(72)【発明者】
【氏名】中村 紀章
(72)【発明者】
【氏名】谷内 淳一
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−214695(JP,A)
【文献】 特開2012−018957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解性を有する銀化合物と少なくとも1種のアミンとを混合して前駆体である銀−アミン錯体を製造し、前記前駆体を含む反応系を加熱することで銀粒子を製造する方法であって、
前記アミンは、いずれも炭素数の総和が4〜10であるアミンであり、
前記加熱前、反応系の水分含有量は、前記銀化合物100重量部に対して30〜100重量部である銀粒子の製造方法。
【請求項2】
熱分解性を有する銀化合物は、シュウ酸銀、硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀、酸化銀、亜硝酸銀、安息香酸銀、シアン酸銀、クエン酸銀、乳酸銀のいずれか1種である請求項1記載の銀粒子の製造方法。
【請求項3】
アミン中の炭化水素基は、鎖式飽和炭化水素からなる請求項1又は請求項2記載の銀粒子の製造方法。
【請求項4】
アミンは、銀化合物中の銀イオンに対してモル比で1.6倍以上添加する請求項1〜請求項3のいずれかに記載の銀粒子の製造方法。
【請求項5】
反応系の加熱温度は、銀−アミン錯体の分解温度以上とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の銀粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粒子の製造方法に関する。詳しくは、十数nm〜百数十nmの範囲内の粒径の銀粒子を製造するにあたって、大きさを制御しつつ、粒径の揃った銀粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀(Ag)は、貴金属の一種として、古くから装飾品としての利用が知られている金属であるが、優れた導電性、光反射率を有すると共に、触媒作用や抗菌作用等の特異な特性も有することから、電極・配線材料、反射膜材料、触媒、抗菌材等の各種の工業的用途への利用が期待される金属である。これらの各種用途への銀の利用形態として、銀粒子を適宜の溶媒に分散・懸濁させたものがある。例えば、半導体デバイス等の電子部品に実装される配線板の電極・配線形成や接着材・接合材、導電性接着材・導電性接合材、熱伝導材において、銀粒子をペースト化し、この金属ペーストを塗布・焼成することで所望の電極・配線・接合部・パターンを形成することができる。
【0003】
銀粒子の製造方法として一般に知られているのは液相還元法である。液相還元法による銀粒子の製造方法では、溶媒に前駆体となる銀化合物を溶解し、ここに還元剤を添加することで銀を析出させる。このとき、析出する銀粒子が凝集して粗大化するのを抑制するため、保護剤と称される化合物を添加するのが通例である。保護剤は、還元析出した銀粒子に結合し、銀粒子が相互に接触するのを抑制するため、銀粒子の凝集防止となる。
【0004】
液相還元法による銀粒子の製造方法は、溶媒中の銀化合物濃度や還元剤の種類及び添加量の調整、更に、保護剤の適切な選択により、効率的に銀粒子を製造することができる。しかし、液相還元法により製造される銀粒子は、通常数μm以上と大きい傾向があり、また、溶媒中の反応物質の濃度勾配により、粒径分布がバラつく傾向がある。
【0005】
そこで、液相還元法に替わる銀粒子の製造方法として、銀錯体の熱分解法が報告されている(特許文献1)。この方法は、基本としてシュウ酸銀(Ag)等の熱分解性を有する銀化合物の特性を利用する。かかる銀化合物と、保護剤になる有機化合物とで錯体を形成し、これを前駆体として加熱し、銀粒子を得る方法である。上記特許文献1では、保護剤としてアミンをシュウ酸銀に添加し、銀−アミン錯体を形成させて、これを所定温度に加熱し、熱分解により銀粒子を製造している。この熱分解法によれば、数nm〜十数nmの極めて微小な銀微粒子を製造でき、また、比較的粒径の揃った銀微粒子を製造可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−265543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、銀粒子の利用分野は広がる傾向にあり、そのため十nm以下の微小な粒径を有する銀微粒子だけでなく、用途によっては中程度以上の大きさ(例えば、数十nm程度)の銀粒子が求められる。この要求に応えるには、使用目的に応じて得られる銀粒子の大きさを制御できる製造方法が必要となる。しかし、上記した従来の銀粒子の製造方法は、粒径制御の観点からは不十分であった。液相還元法では、数μm程度の大きい銀粒子しか製造できず、他方、熱分解法は、数nm〜十数nmの微小な銀粒子向きの製造方法であった。
【0008】
そして、銀粒子の今後の利用範囲拡大のためには、用途ごとに異なる多様な平均粒径に対応可能なことに加え、製造される銀粒子の粒径に関しても、バラつきの少ないことが要求される。この点、熱分解法による銀粒子は、ある程度粒径の揃ったものとなるが、上記のように、製造に適した粒径は銀化合物の種類に依存した微小な大きさであった。このため、熱分解法で、粒径の大きめの銀粒子(例えば、粒径数十nm以上)を製造した場合、粒径の揃ったものとするのは困難であった。例えば、銀化合物としてシュウ酸銀アミン錯体を用いると、粒径十数nm前後の大きさに関しては、比較的粒径の揃った銀粒子が得られるものの、もっと大きな数十nm等の銀粒子を製造すると、粒径分布にバラつきが生じやすい。
【0009】
そこで、本発明は、銀粒子の製造方法について、粒径の揃ったものとしつつ、大きさを十数nm〜百数十nmの範囲内で制御できる銀粒子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決する方法として、まず、熱分解法による銀粒子製造方法を基礎に検討を行うこととした。上記の通り、熱分解法では、比較的粒径の揃った銀粒子の製造が可能であり、液相還元法よりも粒径調整が容易と考えたからである。
【0011】
ここで、本発明者等は、熱分解法による銀粒子の生成機構について、閉鎖溶液系での単分散微粒子の析出機構である、一般的なラメール則を参照し、次のように考察した。尚、ここでは、ヘキシルアミンが配位したシュウ酸銀錯体を熱分解し、銀粒子を製造した場合を例にとる。一定の加熱速度でヘキシルアミン配位−シュウ酸銀錯体を加熱すると、80〜90℃、すなわち錯体の分解温度(約110℃)より、やや低い温度で銀の「核生成」が開始する。そして、加熱を継続し、分解温度近傍(90℃〜110℃)まで上昇させる際、生成した核の表面で錯体の分解が進行し、「核成長」する。そして、この分解温度までの加熱による核生成・成長により銀粒子が生成する。
【0012】
このような銀粒子の生成機構を考慮するとき、生成する銀粒子の粒径は、加熱速度により変化するものと考えられる。つまり、加熱速度を早くすることで粒径の小さな銀粒子が生成し、加熱速度が遅い場合には粒径の大きな銀粒子が生成するものと考えられる。しかし、加熱速度を調整したとき、全体的に上記のような傾向は見られるが、粒径分布のバラつきのない、均一な銀粒子を得ることは容易でない。本発明者等は、かかる粒径のバラつきの発生要因の一つとして、加熱工程における反応系内の温度差を考慮し、銀−アミン錯体の加熱を均一に進行させる本発明に想到した。
【0013】
即ち本発明は、熱分解性を有する銀化合物とアミンとを混合して前駆体である銀−アミン錯体を製造し、前記前駆体を含む反応系を加熱することで銀粒子を製造する方法であって、前記加熱前、反応系の水分含有量は、前記銀化合物100重量部に対して30〜100重量部である銀粒子の製造方法に関する。
【0014】
かかる本発明は、熱分解法による銀粒子製造方法を基礎としつつ、銀−アミン錯体の加熱段階において、反応系中に所定範囲の水分を存在させるものである。反応系中の水分は、錯体を分解させる加熱工程において、加熱を均一に進行させるべく、いわゆる緩衝剤として作用する。すなわち、水を積極的に介在させて、反応系内の熱の緩衝剤として作用させることで、加熱時の反応系内における温度差が緩和し、銀粒子の核生成や核成長が均一に進行しやすくなる。
【0015】
反応系の水分含有量は、銀化合物100重量部に対して30〜100重量部の範囲内であることが必要である。水分含有量の好適範囲は30〜95重量部であり、さらに好適な範囲は30〜80重量部である。水分量が少ない(30重量部未満)と、得られる銀粒子の粒径は微小なものに限られ、狙った粒径の銀粒子を製造できない。一方、水分量が多い(100重量部を超える)と、銀粒子の粒径がバラつく傾向となる。
【0016】
この反応系の水分含有量とは、加熱工程の直前段階における水分量であり、それまでに反応系に添加された水の量を考慮する必要がある。後述するように、銀化合物は予め水を添加した湿潤状態で使用する場合があるが、この予め添加した水の量も、水分量に含められる。このため、銀化合物や均一化剤に予め添加された量だけで、水分含有量の規定範囲内となる場合、別途反応系の水分量を調節することなく、そのまま加熱することができる。一方、予め添加された量が、水分含有量の下限値(30重量部)より少なければ、別途単独で水を添加する等、水分量の調整が必要となる。水を添加するタイミングは、加熱工程の前であればよく、銀−アミン錯体の形成前、あるいは錯体形成後の、いずれの段階で添加してもよい。
【0017】
以上説明した本発明の製造方法において、銀粒子の前駆体である銀−アミン錯体は熱分解性を有するものとする。原料としては、熱分解性を有する銀化合物が用いられ、シュウ酸銀、硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀、酸化銀、亜硝酸銀、安息香酸銀、シアン酸銀、クエン酸銀、乳酸銀等を適用できる。
【0018】
上記銀化合物のうち、特に好ましいのは、シュウ酸銀(Ag)又は炭酸銀(AgCO)である。シュウ酸銀や炭酸銀は、還元剤を要することなく比較的低温で分解して銀粒子を生成することができる。また、分解により生じる二酸化炭素はガスとして放出されることから、溶液中に不純物を残留させることも無い。尚、シュウ酸銀については、爆発性を有する粉末状の固体であることから、水又は有機溶媒(アルコール、アルカン、アルケン、アルキン、ケトン、エーテル、エステル、カルボン酸、脂肪酸、芳香族、アミン、アミド、ニトリル等)を分散溶媒として混合し、湿潤状態にしたものを利用するのが好ましい。湿潤状態とすることで爆発性が著しく低下し、取り扱い性が容易となる。このとき、シュウ酸銀100重量部に対して、10〜200重量部の分散溶媒を混合したものが好ましい。但し、上記のとおり、本発明は反応系の水分量を厳密に規定しているため、水の混合は、規定量を超えない範囲にする必要がある。
【0019】
そして、銀化合物と反応させるアミンは、炭化水素基の炭素数の総和が4〜10であることが好ましく、4〜8が特に好ましい。このように、炭化水素基の炭素数の総和について好ましい範囲を規定するのは、銀化合物に配位するアミンによって、形成する銀−アミン錯体の安定性、分解温度が変化し、生成する銀粒子の粒径を変化させるからである。炭素数の総和が4未満のアミンを適用すると、得られる銀粒子は粒径数十nm〜数μmで、粒子径分布のバラツキが大きくなりやすい。炭素数の総和が10を超えるアミンを適用すると、合成時に銀−アミン錯体が熱分解し難く、銀粒子以外の未反応物が多く残存しやすい。
【0020】
また、アミン中のアミノ基の数としては、アミノ基が1つである(モノ)アミンや、アミノ基を2つ有するジアミンを適用できる。アミノ基に結合する炭化水素基の数は1つであるアミン、すなわち1級アミン(RNH)が好ましい。アミノ基を2つ有するジアミンでは、少なくとも1以上のアミノ基が1級アミンのものが好ましい。3級アミンは、銀化合物との錯体を形成しにくい傾向がある。アミノ基に結合する炭化水素基は、環状構造を含まない直鎖構造や分枝構造である鎖式炭化水素が好ましく、不飽和炭化水素を含まない飽和炭化水素が特に好ましい。
【0021】
本発明で好ましいアミンの具体例としては、以下のものが挙げられる。
【表1】
【0022】
上記の通り、アミンの種類(炭化水素基の炭素数総和)によって銀−アミン錯体の分解温度は相違することから、本発明においては、アミンの種類の選定によって銀粒子の粒径を制御することができる。本発明における構成に従い、例えば、ヘキシルアミンを適用する場合、粒径50〜190nmの銀粒子の製造が可能である。また、オクチルアミンを適用する場合、ヘキシルアミンを適用する場合よりも微細な銀粒子を形成することができ、粒径15〜50nmの銀粒子の製造が可能である。また、本発明で銀化合物と反応させるアミンは2種以上を適用することができる。2種以上のアミンを適用することで、それぞれのアミンに対して中間的な安定性の錯体が形成され、それに応じた粒径の銀粒子を製造できる。例えば、ヘキシルアミンとオクチルアミンを同量使用した場合、両者の製造可能な粒径範囲に対して中間的な粒径の銀粒子を製造できる。
【0023】
銀化合物とアミンとの混合比率は、銀化合物の銀イオン(Ag)のモル数(molAg+)に対するアミノ基のモル数(molNH2)の比(molNH2/molAg+)を、1.6以上とするのが好ましい。アミンが不足すると、未反応の銀化合物が残留するおそれがあり、十分な銀粒子が製造できず、また、銀粒子の粒径分布にバラつきが生じる。一方、アミン添加量の上限は、特に限定の必要がないものの、得られる銀粒子の純度を考慮すると、6以下が好ましい。
【0024】
本発明における反応系は、銀−アミン錯体と、適正範囲の水分で構成されていれば良く、他の添加物がなくとも粒径の揃った銀粒子を製造可能である。但し、錯体の更なる安定化を図った添加剤の添加を排除するものではない。本発明で適用可能な添加剤としては、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸等が挙げられる。これらの添加剤は、銀イオン(Ag)のモル数(molAg+)に対する添加剤のモル数(mol添加剤)の比(mol添加剤/molAg+)で、0.01〜0.1とするのが好ましい。
【化1】
【0025】
反応系は、水分含有量が適切な範囲にあると確認した後、加熱して銀粒子を析出させる。加熱温度は、銀−アミン錯体の分解温度以上とするのが好ましい。上述の通り、銀−アミン錯体の分解温度は、銀化合物に配位するアミンの種類によって相違する。上記で示した、本発明に好適なアミンを適用する場合、分解温度は90〜130℃となる。
【0026】
この反応系の加熱工程において、加熱速度は析出する銀粒子の粒径に影響を及ぼす。即ち、本発明では、銀−アミン錯体を形成するアミン(銀化合物と反応させるアミン)の種類と、加熱工程の加熱速度、という2系統の手段で銀粒子の粒径を調製できる。この2つの手段により、平均粒径10〜200nmの範囲で、狙った粒径の銀粒子を製造できる。粒径10〜100nmでは、特に粒径の揃った銀粒子を得やすく、粒径15〜50nmでは、さらに粒径が揃いやすい。尚、加熱工程における加熱速度は、上記の分解温度まで、2〜50℃/minの範囲で調整することが好ましい。また、5℃/min以上が温度制御しやすい。
【0027】
上記加熱工程を経て銀粒子が析出する。この反応系に対しては、適宜に洗浄、固液分離を経て銀粒子を取り出すことができる。場合により、銀粒子同士の固着が見られることがあるが、これは容易に解砕・分離可能である。また、回収した銀粒子は、適宜の溶媒に分散させたインク、ペースト、スラリー状態、又は乾燥させた粉末状態で保管、利用可能である。
【発明の効果】
【0028】
以上説明した本発明の製造方法によれば、銀粒子の大きさを容易に制御することができる。また、得られる銀粒子は、粒径の揃った均一なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本実施形態における銀粒子製造工程を説明する図。
図2】第1実施形態の試験No.1〜4の銀粒子のSEM写真。
図3】第1実施形態の試験No.5、6の銀粒子のSEM写真。
図4】第1実施形態の試験No.7〜11の銀粒子のSEM写真。
図5】第1実施形態の試験No.14の銀粒子のSEM写真。
図6】第1実施形態の試験No.15、16の銀粒子のSEM写真。
図7】第1実施形態の試験No.17〜21の銀粒子のSEM写真。
図8】第1実施形態の試験No.6、10、11の銀粒子の粒径分布図。
図9】第2実施形態の試験No.22の銀粒子のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態では、図1の工程に沿って各種条件を変更しつつ銀粒子を製造し、その性状を評価した。
【0031】
本実施形態では、熱分解性の銀化合物としてシュウ酸銀(Ag)1.5g(銀イオン(Ag)9.9mmol)又は炭酸銀(AgCO)1.38g(銀イオン(Ag+)10mmol)を使用した。シュウ酸銀については、乾燥品のまま使用する場合と、水0.3g(シュウ酸銀100重量部に対して20重量部)を加えて湿潤状態にしたものを用意した。この銀化合物に、下記表に示したアミンを加え、銀−アミン錯体を製造した。銀化合物とアミンとの混合は室温で行い、白色のクリーム状になるまで混練した。添加剤としてオレイン酸を使用する場合は、上記で製造した銀−アミン錯体に添加した。
【0032】
以上で製造した反応系には、必要に応じ水を添加し、水分量を所定範囲内とした。具体的には、反応系の水分量を20重量部とする場合、原料が湿潤シュウ酸銀(水20重量部)であれば、別途水を添加することなく下記の加熱を行った。同原料を用いて反応系の水分量を47重量部とする場合は、水を添加し水分量を調整した。
【0033】
そして、反応系を室温から加熱して銀−アミン錯体を分解し銀粒子を析出させた。このときの加熱温度は錯体の分解温度として110℃を想定し、これを到達温度とした。また、加熱速度は、10℃/minとした。
【0034】
この加熱工程では、分解温度近傍から二酸化炭素の発生が確認された。二酸化炭素の発生がとまるまで加熱を継続し、銀粒子が懸濁した液体を得た。銀粒子の析出後、反応液にメタノールを添加して洗浄し、これを遠心分離した。この洗浄と遠心分離は2回行った。
【0035】
回収した銀粒子について、その粒径(平均粒径)と粒径分布を検討した。この評価では、まず、銀粒子についてSEM観察、写真撮影を行い、画像中の銀粒子の粒径を測定(約100〜200個)し、平均値を算出した。更に、粒径分布の相対的なバラつきの指標として、下記式より変動係数(CV)を求め、変動係数が30%以下を「合格:○」、30%超40%以下を「不合格:△」、40%超を「不良:×」とした。図8に粒径分布図を示す。
変動係数(%)=(標準偏差/平均粒径)×100
【0036】
本実施形態で製造した銀粒子の評価結果をその製造条件と共に表2に示す。図8に粒径分布図を示したサンプルについては、標準偏差、変動係数の計算値も示す(表3)。
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
表2の内容について説明する。まず、本発明は、銀−アミン錯体の熱分解により銀粒子を製造する熱分解法を基礎とするものであるが、反応系に所定量の水の共存を必須とする。反応系の水の含有量についての結果を見ると(試験No.1〜4、7〜11)、水含有量30重量部未満(試験No.7、8)では、銀粒子の大きさが銀−アミン錯体の種類に依存する微小なもの(平均粒径10nm未満)に限られ、十数nm〜百数十nm程度で狙った粒径の銀粒子を得るという、本発明の目的を達成することができない。これに対し、含水量が適切なもの(試験No.1、2、6、9)は粒径の揃った銀粒子を製造でき、本発明の有効性が確認できる。一方、水が必要であることは上記の通りであるが、その上限も存在していることが確認できる(試験No.3、4、10、11)。水分量は、銀粒子の粒径を粗大にすることに加えて粒径のバラつきの要因ともなる。
【0040】
銀−アミン錯体生成のためのアミンとしては、アルキル基の炭素数の総和が4〜10であるアミンを用いて、粒径の揃った銀粒子を製造できることが確認できた。アミンとして、n−ヘキシルアミンとn−オクチルアミンの混合アミンを用いた場合(試験No.6、12〜14)、n−ヘキシルアミンの混合割合が高いほど、粒径の大きな銀粒子が製造される(試験No.6、14)。混合アミンを用いると、中間的な粒径の銀粒子を製造できる。この実施形態では、分解温度までの加熱速度が共通であることから、アミンの選択による粒径調整が可能であることが確認できる。また、銀−アミン錯体生成のためのアミンの混合量(試験No.5、6)は、銀イオンのモル数に対するアミノ基のモル数の比1.6以上において、粒径の揃った銀粒子が得られている(試験No.6)。
【0041】
尚、添加剤であるオレイン酸の要否については(試験No.6、15、16)、オレイン酸のような添加剤の添加は必須ではないことが確認できる。オレイン酸は、好適な粒度分布を維持する上で有効であると考えられるが、その添加がなくとも好適な銀粒子を製造することができる。
【0042】
第2実施形態:上記の通り、銀−アミン錯体生成のためのアミンによって、銀粒子の粒径が変化するが、本発明では粒径調整の手段として、反応系の加熱速度からも対応可能である。そこで、次に、上記の試験No.6について加熱速度を変更して銀粒子を製造した。第1実施形態では加熱速度を10℃/minとしたが、ここでは加熱速度を2℃/minとした(試験No.22)。ここで製造された銀粒子についての評価結果を表4に示す。
【0043】
【表4】
【0044】
表4から、加熱速度の変更によっても、粒径の調整が可能であることがわかる。加熱速度を遅くすることで、銀粒子の粒径は大きくなる傾向がある。このように、本発明では製造目的の銀粒子の粒径に対して、アミンの選定と加熱速度の調整の異なるアプローチから調整が可能である。尚、このようにして加熱速度を調整しても良好な粒度分布が崩れることはない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したように、本発明によれば、粒径を制御しつつ、均一な銀粒子を製造することができる。本発明は、電極・配線材料、接着材・接合材、導電性接着材・導電性接合材、熱伝導材、反射膜材料、触媒、抗菌材等の各種用途へ使用される銀粒子について、効率的に高品質なものを製造することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9