特許第6189750号(P6189750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6189750全芳香族ポリエステル、ポリエステル樹脂組成物、及びポリエステル成形品
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  • 特許6189750-全芳香族ポリエステル、ポリエステル樹脂組成物、及びポリエステル成形品 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189750
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】全芳香族ポリエステル、ポリエステル樹脂組成物、及びポリエステル成形品
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/60 20060101AFI20170821BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20170821BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20170821BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C08G63/60
   C08K3/00
   C08K5/00
   C08L67/00
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-537452(P2013-537452)
(86)(22)【出願日】2012年8月17日
(86)【国際出願番号】JP2012070927
(87)【国際公開番号】WO2013051346
(87)【国際公開日】20130411
【審査請求日】2015年7月30日
【審判番号】不服2016-11270(P2016-11270/J1)
【審判請求日】2016年7月27日
(31)【優先権主張番号】特願2011-221091(P2011-221091)
(32)【優先日】2011年10月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】依藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】横田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】大竹 峰生
【合議体】
【審判長】 原田 隆興
【審判官】 佐久 敬
【審判官】 藤原 浩子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−62630(JP,A)
【文献】 特開2010−174114(JP,A)
【文献】 特開昭62−231018(JP,A)
【文献】 特開2005−501150(JP,A)
【文献】 特開平1−261417(JP,A)
【文献】 特開2009−221406(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/091466(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-63/91
C08L 67/00-67/03
C08K 3/00-5/59
C08J 5/00-5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須の構成成分として下記一般式(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)で表される構成単位から構成され、全構成単位に対して、
(I)の構成単位が40〜70モル%、
(II)の構成単位が7〜14モル%、
(III)の構成単位が11.7〜26.5モル%、
(IV)の構成単位が0〜10モル%、
(V)の構成単位が8〜26.5モル%、
前記(II)の構成単位と前記(IV)の構成単位との合計が12〜17モル%であることを特徴とする溶融時に光学的異方性を示す全芳香族ポリエステル。
【化1】
【請求項2】
前記(IV)の構成単位が1〜8モル%含まれる請求項1に記載の全芳香族ポリエステル。
【請求項3】
全芳香族ポリエステルの融点より10〜40℃高い温度で、剪断速度1000sec−1における溶融粘度が1×10Pa・s以下である請求項1又は2記載の全芳香族ポリエステル。
【請求項4】
融点が300〜390℃である請求項1〜3の何れか1項記載の全芳香族ポリエステル。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項記載の全芳香族ポリエステル100質量部に対して、無機充填剤又は有機充填剤を120質量部以下配合してなるポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか1項記載の全芳香族ポリエステル100質量部に対して、無機充填剤又は有機充填剤を20〜80質量部配合してなるポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜4の何れか1項記載の全芳香族ポリエステル、又は請求項5又は6記載のポリエステル樹脂組成物を成形してなるポリエステル成形品。
【請求項8】
前記ポリエステル成形品が、コネクター、CPUソケット、リレースイッチ部品、ボビン、アクチュエータ、ノイズ低減フィルターケース又はOA機器の加熱定着ロールである請求項7に記載のポリエステル成形品。
【請求項9】
前記ポリエステル成形品が、ポリエステル繊維である請求項7に記載のポリエステル成形品。
【請求項10】
前記ポリエステル成形品が、ポリエステルフィルムである請求項7に記載のポリエステル成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全芳香族ポリエステル、ポリエステル樹脂組成物、及びポリエステル成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリエステルとして現在市販されているものは4−ヒドロキシ安息香酸が主成分である。しかし、4−ヒドロキシ安息香酸のホモポリマーは、融点が分解点よりも高くなってしまうため、種々の成分を共重合することにより低融点化する必要がある。
【0003】
例えば、共重合成分として、1,4−フェニレンジカルボン酸、1,4−ジヒドロキシベンゼン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等を用いた全芳香族ポリエステルが知られている。しかし、この全芳香族ポリエステルの融点は、350℃以上であり、汎用の装置にて溶融加工を行うには高すぎる。
【0004】
また、このような全芳香族ポリエステルの融点を、汎用の溶融加工機器で加工できる温度まで下げるために、種々の方法が試みられている。しかし、低融点化がある程度実現される一方で高温(融点下近傍)での機械的強度に代表される、全芳香族ポリエステルの耐熱性を保てないという問題がある。
【0005】
これらの問題を解決するために、特許文献1〜2では、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、ジオール成分、ジカルボン酸成分を組み合わせた共重合ポリエステルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−62630号公報
【特許文献2】特開昭63−275628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜2で提案されている共重合ポリエステルは靱性が低く、成形時に成形品に割れが発生するという問題点がある。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決し、耐熱性及び靱性に優れた全芳香族ポリエステルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、全芳香族ポリエステルが、下記一般式(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)で表される構成単位からなり、全構成単位に対して、(I)の構成単位が40〜70モル%、(II)の構成単位が7〜14モル%、(III)の構成単位が8〜26.5モル%、(IV)の構成単位が0〜10モル%、(V)の構成単位が8〜26.5モル%、上記(II)の構成単位と上記(IV)の構成単位との合計が12〜17モル%であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的に、本発明は、以下のものを提供する。
【0010】
(1) 必須の構成成分として下記一般式(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)で表される構成単位から構成され、全構成単位に対して、(I)の構成単位が40〜70モル%、(II)の構成単位が7〜14モル%、(III)の構成単位が8〜26.5モル%、(IV)の構成単位が0〜10モル%、(V)の構成単位が8〜26.5モル%、前記(II)の構成単位と前記(IV)の構成単位との合計が12〜17モル%であることを特徴とする溶融時に光学的異方性を示す全芳香族ポリエステル。
【0011】
(2) 前記(IV)の構成単位が1〜8モル%含まれる(1)に記載の全芳香族ポリエステル。
【0012】
(3) 全芳香族ポリエステルの融点より10〜40℃高い温度で、剪断速度1000sec−1における溶融粘度が1×10Pa・s以下である(1)又は(2)に記載の全芳香族ポリエステル。
【0013】
(4) 融点が300〜390℃である請求項(1)〜(3)の何れかに記載の全芳香族ポリエステル。
【0014】
(5) (1)〜(4)の何れかに記載の全芳香族ポリエステル100質量部に対して、無機充填剤又は有機充填剤を120質量部以下配合してなるポリエステル樹脂組成物。
【0015】
(6) (1)〜(4)の何れかに記載の全芳香族ポリエステル100質量部に対して、無機充填剤又は有機充填剤を20〜80質量部配合してなるポリエステル樹脂組成物。
【0016】
(7) (1)〜(2)の何れかに記載の全芳香族ポリエステル、又は(3)に記載のポリエステル樹脂組成物を成形してなるポリエステル成形品。
【0017】
(8) 前記ポリエステル成形品が、コネクター、CPUソケット、リレースイッチ部品、ボビン、アクチュエータ、ノイズ低減フィルターケース又はOA機器の加熱定着ロールである(7)に記載のポリエステル成形品。
【0018】
(9) 前記ポリエステル成形品が、ポリエステル繊維である(7)に記載のポリエステル成形品。
【0019】
(10) 前記ポリエステル成形品が、ポリエステルフィルムである(7)に記載のポリエステル成形品。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、特定の構成単位よりなり溶融時に光学的異方性を示す、本発明の全芳香族ポリエステル、及び当該全芳香族ポリエステルを含むポリエステル樹脂組成物は、溶融時の流動性が良好であり、成形品としたときの耐熱性、靭性に優れている。
【0021】
また、本発明の全芳香族ポリエステル又はポリエステル樹脂組成物は、成形加工温度があまり高くないために、特殊な構造を持った成形機を用いずとも射出成形や押出成形、圧縮成形が可能である。
【0022】
本発明の全芳香族ポリエステル又はポリエステル樹脂組成物は、上記の通り、成形性に優れ、且つ様々な成形機を用いて成形可能である結果、種々の立体成形品、繊維、フィルム等に容易に加工できる。このため、本発明の全芳香族ポリエステル又はポリエステル樹脂組成物の好適な用途である、コネクター、CPUソケット、リレースイッチ部品、ボビン、アクチュエータ、ノイズ低減フィルターケース又はOA機器の加熱定着ロール等の成形品も容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例9及び10、比較例9及び10で製造した成形品を示す模式図であり、(a)はその平面図、(b)はその寸法を示す図である。なお、図中の数値の単位はmmである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0025】
<全芳香族ポリエステル>
本発明の全芳香族ポリエステルは、下記一般式(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)で表される構成単位から構成される。
【化1】
【0026】
一般式(I)で表される構成単位は、4−ヒドロキシ安息香酸(HBA)である。本発明の全芳香族ポリエステルには、全構成単位に対してHBAを40〜70モル%含む。HBAの含有量が40モル%未満、又は70モル%を超えると、全芳香族ポリエステルの融点が著しく高くなり、場合によっては製造時に全芳香族ポリエステルがリアクター内で固化し、所望の分子量のポリマーを製造することができなくなるため好ましくない。
【0027】
一般式(II)で表される構成単位は、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(HNA)である。本発明の全芳香族ポリエステルには、全構成単位に対してHNAを7〜14モル%含む。HNAの含有量が7モル%未満では、全芳香族ポリエステルの製造途中で、オリゴマーの融点が著しく高くなり、場合によっては製造時に全芳香族ポリエステルがリアクター内で固化し、所望の分子量のポリマーを製造することができなくなるため好ましくない。また、HNAの含有量が14モル%を超えると、本発明の全芳香族ポリエステルの耐熱性が低くなるため好ましくない。
【0028】
一般式(III)で表される構成単位は、1,4−フェニレンジカルボン酸(TA)である。本発明の全芳香族ポリエステルには、全構成単位に対してTAを8〜26.5モル%含む。TAの含有量が8モル%未満、又は26.5モル%を超えると、全芳香族ポリエステルの融点が著しく高くなり、場合によっては製造時に全芳香族ポリエステルがリアクター内で固化し、所望の分子量のポリマーを製造することができなくなるため好ましくない。
【0029】
一般式(IV)で表される構成単位は、1,3−フェニレンジカルボン酸(IA)である。本発明の全芳香族ポリエステルには、全構成単位に対してIAを0〜10モル%含む。IAの含有量が10モル%を超えると、全芳香族ポリエステルの耐熱性が低くなるため好ましくない。
【0030】
一般式(V)で表される構成単位は、1,4−ベンゼンジオール(HQ)である。本発明の全芳香族ポリエステルには、全構成単位に対してHQを8〜26.5モル%含む。HQの含有量が8モル%未満、又は26.5モル%を超えると、場合によっては全芳香族ポリエステルの融点が著しく高くなり、製造時に全芳香族ポリエステルがリアクター内で固化し、所望の分子量のポリマーを製造することができなくなるため好ましくない。
【0031】
本発明の全芳香族ポリエステルにおいては、全構成単位に対する、(II)の構成単位と(IV)の構成単位との合計含有量が12〜17モル%である。上記合計含有量が12モル%未満の場合には、本発明の全芳香族ポリエステル又はポリエステル樹脂組成物を、成形してなるポリエステル成形品の靱性が低くなるため好ましくない。また、上記合計含有量が17モル%を超えると、全芳香族ポリエステルの耐熱性が低くなるため好ましくない。
【0032】
以上の通り、本発明の全芳香族ポリエステルは、特定の構成単位である(I)〜(V)のそれぞれを、全構成単位に対して特定の量含有し、さらに、(II)の構成単位と(IV)の構成単位との合計含有量が特定の範囲に調整されているため、耐熱性を有するとともに、本発明の全芳香族ポリエステルを成形してなるポリエステル成形品の靱性も高まる。
【0033】
上記の靱性を表す指標として、全芳香族ポリエステルの結晶化熱量が挙げられる。この結晶化熱量が、2.7J/g以上となると上記靱性が低くなる傾向にあり好ましくない。上記結晶化熱量の好ましい値は、2.5J/g以下であり、より好ましくは2.2J/g以下である。この結晶化熱量は、示差熱量測定により求めることができる。なお、後述する本発明のポリエステル樹脂組成物の場合には、ポリエステル樹脂組成物の結晶化熱量を考慮する。ポリエステル樹脂組成物の場合も好ましい範囲は同様である。
【0034】
また、本発明の全芳香族ポリエステルは成形性に優れる。全芳香族ポリエステルの成形性は、全芳香族ポリエステルの溶融時の流動性で表すことができる。具体的には、融点より10〜40℃高い温度で、剪断速度1000sec−1における溶融粘度が1×10Pa・s以下であることが好ましい。さらに好ましくは5Pa・s以上で1×10Pa・s以下である。これらの溶融粘度は、後述する液晶性を具備することで概ね実現される。なお、後述する本発明のポリエステル樹脂組成物の場合には、ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度を考慮する。ポリエステル樹脂組成物の場合も好ましい範囲は同様である。
【0035】
なお、本発明の全芳香族ポリエステルには、上記(I)〜(V)で表される構成単位以外の構成単位を、本発明の効果を害さない範囲で含んでもよい。また、微量であれば芳香族性を有さない構成単位を含んでもよい。
【0036】
次いで、本発明の全芳香族ポリエステルの製造方法について説明する。本発明の全芳香族ポリエステルは、直接重合法やエステル交換法等を用いて重合される。重合に際しては、溶融重合法、溶液重合法、スラリー重合法、固相重合法等が用いられる。
【0037】
本発明では、重合に際し、重合モノマーに対するアシル化剤や、酸塩化物誘導体として末端を活性化したモノマーを使用できる。アシル化剤としては、無水酢酸等の酸無水物等が挙げられる。
【0038】
これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものとしては、ジアルキル錫酸化物、ジアリール錫酸化物、二酸化チタン、アルコキシチタン珪酸塩類、チタンアルコラート類、カルボン酸のアルカリ及びアルカリ土類金属塩類、BFの如きルイス酸塩等が挙げられる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全質量に基づいて約0.001〜1質量%、特に約0.003〜0.2質量%が好ましい。
【0039】
また、溶液重合又はスラリー重合を行う場合、溶媒としては流動パラフィン、高耐熱性合成油、不活性鉱物油等が用いられる。
【0040】
反応条件としては、例えば、反応温度200〜380℃、最終到達圧力0.1〜760Torr(即ち、13〜101,080Pa)である。特に溶融反応では、例えば、反応温度260〜380℃、好ましくは300〜360℃、最終到達圧力1〜100Torr(即ち、133〜13,300Pa)、好ましくは1〜50Torr(即ち、133〜6,670Pa)である。
【0041】
反応は、全原料モノマー、アシル化剤及び触媒を同一反応容器に仕込んで反応を開始させることもできるし(一段方式)、原料モノマー(I)、(II)及び(V)のヒドロキシル基をアシル化剤によりアシル化させた後、(III)及び(IV)のカルボキシル基と反応させることもできる(二段方式)。
【0042】
溶融重合は、反応系内が所定温度に達した後、減圧を開始して所定の減圧度にしてから行う。撹拌機のトルクが所定値に達した後、不活性ガスを導入し、減圧状態から常圧を経て、所定の加圧状態にして反応系から全芳香族ポリエステルを排出する。
【0043】
上記重合方法により製造された全芳香族ポリエステルは、さらに常圧又は減圧、不活性ガス中で加熱する固相重合により分子量の増加を図ることができる。固相重合反応の好ましい条件は、反応温度230〜350℃、好ましくは260〜330℃、最終到達圧力10〜760Torr(即ち、1,330〜101,080Pa)である。
【0044】
次いで、全芳香族ポリエステルの性質について説明する。本発明の全芳香族ポリエステルは、溶融時に光学的異方性を示す。溶融時に光学的異方性を示すことは、本発明の全芳香族ポリエステルが液晶性ポリマーであることを意味する。
【0045】
本発明において、全芳香族ポリエステルが液晶性ポリマーであることは、全芳香族ポリエステルが熱安定性と易加工性を併せ持つ上で不可欠な要素である。上記構成単位(I)〜(V)から構成される全芳香族ポリエステルは、構成成分及びポリマー中のシーケンス分布によっては、異方性溶融相を形成しないものも存在するが、本発明のポリマーは溶融時に光学的異方性を示す全芳香族ポリエステルに限られる。
【0046】
溶融異方性の性質は直交偏光子を利用した慣用の偏光検査方法により確認することができる。より具体的には溶融異方性の確認は、オリンパス社製偏光顕微鏡を使用しリンカム社製ホットステージにのせた試料を溶融し、窒素雰囲気下で150倍の倍率で観察することにより実施できる。液晶性ポリマーは光学的に異方性であり、直交偏光子間に挿入したとき光を透過させる。試料が光学的に異方性であると、例えば溶融静止液状態であっても偏光は透過する。
【0047】
ネマチックな液晶性ポリマーは融点以上で著しく粘性低下を生じるので、一般的に融点又はそれ以上の温度で液晶性を示すことが加工性の指標となる。融点(液晶性発現温度)は、でき得る限り高い方が耐熱性の観点からは好ましいが、ポリマーの溶融加工時の熱劣化や成形機の加熱能力等を考慮すると、300〜390℃であることが好ましい目安となる。なお、より好ましくは、380℃以下である。
【0048】
<ポリエステル樹脂組成物>
上記の本発明の全芳香族ポリエステルには、使用目的に応じて各種の繊維状、粉粒状、板状の無機及び有機の充填剤を配合することができる。
【0049】
本発明のポリエステル樹脂組成物に配合される、無機充填剤としては、繊維状、粒状、板状のものがある。
【0050】
繊維状無機充填剤としてはガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、ウォラストナイトの如き珪酸塩の繊維、硫酸マグネシウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。特に代表的な繊維状充填剤はガラス繊維である。
【0051】
また、粉粒状無機充填剤としてはカーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、クレー、硅藻土、ウォラストナイトの如き硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。
【0052】
また、板状無機充填剤としてはマイカ、ガラスフレーク、タルク、各種の金属箔等が挙げられる。
【0053】
有機充填剤の例を示せば芳香族ポリエステル繊維、液晶性ポリマー繊維、芳香族ポリアミド、ポリイミド繊維等の耐熱性高強度合成繊維等である。
【0054】
これらの無機及び有機充填剤は一種又は二種以上併用することができる。繊維状無機充填剤と粒状又は板状無機充填剤との併用は、機械的強度と寸法精度、電気的性質等を兼備する上で好ましい組み合わせである。特に好ましくは、繊維状充填剤としてガラス繊維、板状充填剤としてマイカ及びタルクであり、その配合量は、全芳香族ポリエステル100質量部に対して120質量部以下、好ましくは20〜80質量部である。なお、ガラス繊維の繊維長は、200μm以上であることが好ましい。このようなガラス繊維をマイカ又はタルクと組み合わせることで、ポリエステル樹脂組成物は、熱変形温度、機械的物性等の向上が特に顕著である。
【0055】
これらの充填剤の使用にあたっては必要ならば収束剤又は表面処理剤を使用することができる。
【0056】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、上述の通り、必須成分として、本発明の全芳香族ポリエステル、無機又は有機充填剤を含むが、本発明の効果を害さない範囲であれば、その他の成分が含まれていてもよい。ここで、その他の成分とは、どのような成分であってもよく、例えば、その他の樹脂、酸化防止剤、安定剤、顔料、結晶核剤等の添加剤を挙げることができる。
【0057】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、従来公知の方法で、ポリエステル樹脂組成物を調製することができる。
【0058】
<ポリエステル成形品>
本発明のポリエステル成形品は、本発明の全芳香族ポリエステル又はポリエステル樹脂組成物を成形してなる。成形方法としては、特に限定されず一般的な成形方法を採用することができる。一般的な成形方法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、回転成形、ガスインジェクション成形等の方法を例示することができる。
【0059】
本発明の全芳香族ポリエステル等を成形してなるポリエステル成形品は、耐熱性、靱性に優れる。また、本発明のポリエステル樹脂組成物を成形してなるポリエステル成形品は、耐熱性、靱性に優れるとともに、無機又は有機充填剤を含むため、機械的強度等がさらに改善される。
【0060】
また、本発明の全芳香族ポリエステル、ポリエステル樹脂組成物は、成形性に優れるため、容易に所望の形状のポリエステル成形品が得られる。
【0061】
以上のような性質を有する本発明のポリエステル成形品の好ましい用途としては、コネクター、CPUソケット、リレースイッチ部品、ボビン、アクチュエータ、ノイズ低減フィルターケース又はOA機器の加熱定着ロール等が挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0063】
<実施例1>
撹拌機、還流カラム、モノマー投入口、窒素導入口、減圧/流出ラインを備えた重合容器に、以下の原料モノマー、金属触媒、アシル化剤を仕込み、窒素置換を開始した。
(I)4−ヒドロキシ安息香酸136g(41モル%)(HBA)
(II)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸41g(9モル%)(HNA)
(III)テレフタル酸71g(17.7モル%)(TA)
(IV)イソフタル酸30g(7.5モル%)(IA)
(V)1,4−ベンゼンジオール66g(24.8モル%)(HQ)
酢酸カリウム触媒15mg
無水酢酸252g
原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、さらに360℃まで5.5時間かけて昇温し、そこから20分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧にして、酢酸、過剰の無水酢酸、その他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出した。
【0064】
<評価>
実施例1の全芳香族ポリエステルについて、融点、結晶化温度、結晶化熱量、溶融粘度、軟化温度の評価を以下の方法で行った。評価結果を表1に示した。
【0065】
[融点]
Perkin Elmer社製DSCにて、ポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、(Tm1+40)℃の温度で2分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度、20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピークの温度を測定した。
【0066】
[結晶化温度]
Perkin Elmer社製DSCにて、ポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、(Tm1+40)℃の温度で2分間保持した後、20℃/分の降温条件で測定した際に観測される発熱ピーク温度を測定した。
【0067】
[結晶化熱量]
Perkin Elmer社製DSCにて、ポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、(Tm1+40)℃の温度で2分間保持した後、20℃/分の降温条件で測定した際に観測される発熱ピーク温度のピークより求められる発熱ピークの熱量を測定した。
【0068】
[溶融粘度]
融点よりも10〜20℃高い温度で、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いて東洋精機製キャピログラフで測定し、剪断速度1000sec−1での溶融粘度を算出した。
【0069】
[軟化温度]
調製したポリエステルから、ホットプレスで厚さ1mmの円盤を成形し、この成形品に12.7MPaの一定荷重をかけながらホットプレート上で20℃/分で昇温し、荷重のかかった直径1mmの針が成形品厚みの5%に到達した時の温度を軟化温度とした。
【0070】
<実施例2〜6、8、比較例1〜8、参考例1
原料モノマーの種類、仕込み比率(モル%)を表1、2に示す通りとした以外は、実施例1と同様にしてポリマーを得た。また、実施例1と同様の評価を行った。評価結果についても表1、2に示した。また、比較例1、2及び4については、製造時にポリマーがリアクター内で固化し、所望の分子量のポリマーを製造することができなかった(表中では、NGと標記)。
【表1】
【表2】
【0071】
<実施例9〜10、比較例9〜10>
実施例9は、実施例6の全芳香族ポリエステルと、ガラス繊維:日本電気硝子(株)製ECS03T−786H、繊維径10μm、長さ3mmのチョプドストランドと、マイカ:(株)山口雲母工業製AB−25S、平均粒径25μmとを、表3に示す配合(全芳香族ポリエステル100質量部に対する含有量を記載)で使用し、二軸押出機(日本製鋼所製TEX 30α)により配合混練し、ペレット形状の全芳香族ポリエステル組成物を得た。この全芳香族ポリエステル組成物を140℃で3時間乾燥後、射出成形機を用いて図1に示す成形品を下記の成形条件で射出成形したところ、成形性は良好で、成形品の割れは発生せず良好な靭性特性を示した。結果を表3に示す。なお、図1に示す評価用射出成形品は、外周が直径:23.6mmで内部に31個のφ3.2mmの孔が開いており、孔間距離の最小肉厚が0.16mmである。ゲートは図1の矢印部される(3点ゲート)。成形品割れ観察は実体顕微鏡を使用し、倍率5倍で孔周りの割れ発生状況を観察し、成形品に割れが発生していた場合は“×”、発生していなかった場合は“○”と判断した。なお、図1(b)は実施例で使用した評価用射出成形品の寸法を表す。図1(b)は寸法を説明するための図であるため孔が1個のみ記載されているが、実際にはφ22.2mmの面に31個の孔が形成されている。
(成形条件)
成形機;住友重機械工業SE30DUZ
シリンダー温度;(ノズル)350℃−355℃−340℃−330℃(実施例9)
金型温度;140℃
射出速度;50mm/min
保圧力;100MPa
保圧時間;2sec
冷却時間;10sec
スクリュー回転数;120rpm
スクリュー背圧;1.2MPa
【0072】
実施例10は、実施例5の全芳香族ポリエステルを使用し、実施例9と同様にガラス繊維とマイカとを、表3に示す配合で使用し、二軸押出機(日本製鋼所製TEX 30α)により配合混練し、ペレット形状の全芳香族ポリエステル組成物を得た。この全芳香族ポリエステル組成物を140℃で3時間乾燥後、射出成形機を用いて実施例9と同様に成形品を射出成形したところ、成形性は良好で、成形品の割れは発生せず、良好な靭性特性を示した。結果を表3に示す。なお、成形条件の中でシリンダー温度の条件のみ、360℃−365℃−350℃−340℃に変更した。
【0073】
比較例9は、比較例6の全芳香族ポリエステルを用い、実施例9と同様にガラス繊維とマイカとを、表3に示す配合で使用し、二軸押出機(日本製鋼所製TEX 30α)により配合混練し、ペレット形状の全芳香族ポリエステル組成物を得た後、実施例9と同様に成形品を射出成形し靭性(成形品の割れ)を評価した。これら結果を表3に示す。なお成形条件の中で、シリンダー温度の条件のみ、390℃−395℃−380℃−370℃に変更した。
【0074】
比較例10は、比較例8の全芳香族ポリエステルを用い、実施例9と同様にガラス繊維とマイカとを、表3に示す配合で使用し、二軸押出機(日本製鋼所製TEX 30α)により配合混練し、ペレット形状の全芳香族ポリエステル組成物を得た後、実施例9と同様に成形品を射出成形し靭性(成形品の割れ)を評価した。これら結果を表3に示す。なお、なお、成形条件の中でシリンダー温度の条件のみ、380℃−385℃−370℃−360℃に変更した。
【0075】
実施例9〜10、比較例9〜10についても、実施例1等と同様に、融点、結晶化温度、結晶化熱量、溶融粘度、軟化温度の評価を行った。評価結果は表3に示した。
【0076】
【表3】
図1